特許第6803589号(P6803589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803589
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】抗腫瘍剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/635 20060101AFI20201214BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20201214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20201214BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   A61K31/635
   A61K47/60
   A61P35/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-560416(P2017-560416)
(86)(22)【出願日】2017年1月5日
(86)【国際出願番号】JP2017000184
(87)【国際公開番号】WO2017119462
(87)【国際公開日】20170713
【審査請求日】2019年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-1128(P2016-1128)
(32)【優先日】2016年1月6日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「固形がん幹細胞を標的とした革新的治療法の開発に関する研究」委託研究開発産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム、COI拠点「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐谷 秀行
(72)【発明者】
【氏名】永野 修
(72)【発明者】
【氏名】土橋 賢司
(72)【発明者】
【氏名】推名 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】西山 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】武元 宏泰
(72)【発明者】
【氏名】野本 貴大
(72)【発明者】
【氏名】松井 誠
(72)【発明者】
【氏名】友田 敬士郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 直生
(72)【発明者】
【氏名】西森 司
【審査官】 新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−144498(JP,A)
【文献】 特表2015−500334(JP,A)
【文献】 PENDRI et al.,PEG Modified Anticancer Drugs: Synthesis and Biological Activity,Journal of Bioactive and Compatible Polymers,1996年 4月,Vol.11,p.122-134, ISSN 0883-9115,Abstract, Table 1, Figure 1, Figure 2
【文献】 LI et al.,Current drug research on PEGylation with small molecular agents,Progress in Polymer Science,2012年 8月11日,Vol.38,p.421-444, ISSN 0079-6700,Abstract, p.422,右欄第26行-p.423,右欄第21行, Table 2, p.442,左欄第9-14行
【文献】 International Research Journal of Pharmacy,2012年,Vol.3, No.8,pp.187-190
【文献】 International Research Journal of Pharmacy,2013年,Vol.3, No.5,pp.221-227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 47/00−47/69
A61P 35/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性スルファサラジンを有効成分として含有する抗腫瘍剤であって、
前記水溶性スルファサラジンが下記式で表されるPEG修飾スルファサラジンである、抗腫瘍剤。
【化1】
(式中、nの平均値は4以上1136以下である。)
【請求項2】
スルファサラジンを修飾しているPEGの平均分子量が500以上6000以下である、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
スルファサラジンを修飾しているPEGの平均分子量が4000以上6000以下である、請求項1または2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
注射剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍剤に関する。
【背景技術】
【0002】
CD44vは多くの上皮系腫瘍で発現が観察されるが、癌細胞の中でも、特に酸化ストレス抵抗性が高いことが知られる癌幹細胞と呼ばれる細胞集団で高発現している。
【0003】
CD44vは、細胞表面分子であるシスチントランスポーターxCTの安定性を高めるため、CD44vが高く発現することでxCT発現が上昇し、その結果、細胞内へのシスチンの取り込みが促進される。取り込まれたシスチンは、細胞内の強力な抗酸化物質であるグルタチオンの産生に用いられ、細胞内のグルタチオン量が上昇する。その結果、癌細胞は高い酸化ストレス対応能を有し、治療抵抗性が高くなるとされている(特開2012−144498)。
【0004】
ところで、潰瘍性大腸炎や関節リウマチの治療に使用されている薬剤に、スルファサラジン(別名:サラゾスルファピリジン、サラゾピリン、サリチルアゾスルファピリジン)がある。スルファサラジンは、スルファピリジンと5−アミノサリチル酸(5−ASA)の酸性アゾ化合物であり、経口投与すると、腸内で腸内細菌によりスルファピリジンと5−アミノサリチル酸(5−ASA)に分解される。前記疾患に対しては、特に5−ASAが主な有効成分とされている。
【0005】
しかし近年、分解される前の未変化体のスルファサラジンにxCT阻害作用があり、抗腫瘍剤として有効であることが明らかになった(Leukemia vol.15, pp.1633-1640, 2001)。つまり、スルファサラジンを癌細胞に添加すると、xCTによる細胞内へのシスチンの取り込みが抑制され、グルタチオン産生量が低下し、その結果、癌細胞の酸化ストレス抵抗性が下がり、抗がん剤への感受性が上昇するのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、腫瘍に有効なのは未変化体のスルファサラジンであるため、従来の経口剤のままでは、抗腫瘍効果が減弱することが考えられる。よって、局所注射剤などの注射剤としての開発が期待されるが、スルファサラジンは、水酸化ナトリウム水溶液やエタノールに溶解するものの、水に対してはほとんど溶解しない。
【0007】
そこで、本発明は、水溶性スルファサラジンを有効成分として含有する抗腫瘍剤を提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様は、水溶性スルファサラジンを有効成分として含有する抗腫瘍剤であって、前記水溶性スルファサラジンが下記式で表されるPEG修飾スルファサラジンである、抗腫瘍剤である。
【0009】
【化1】
(式中、nの平均値は4以上1136以下である。)
スルファサラジンを修飾しているPEGの平均分子量が500以上6000以下であってもよく、1600以上6000以下であってもよく、4000以上6000以下であってもよい。また、前記抗腫瘍剤は注射剤であってもよい。
【0010】
==関連文献とのクロスリファレンス==
本出願は、2016年1月6日付で出願した日本国特許出願2016−001128に基づく優先権を主張するものであり、当該基礎出願を引用することにより、本明細書に含めるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例において得られた、スルファサラジンの抗腫瘍効果を示すグラフである。*はp<0.05を示す。
図2】実施例で用いたPEG化スルファサラジンの構造式である。上式をA型、下式をB型と呼ぶ。
図3】本発明の一実施例において製造したA型PEG化スルファサラジン及びB型PEG化スルファサラジンの、NMRによる解析結果を示すグラフである。
図4】本発明の一実施例において得られた、A型PEG化スルファサラジンのグルタミン酸排出抑制効果を示すグラフである。*はp<0.05を示す。
図5】本発明の一実施例において得られた、A型PEG化スルファサラジンの細胞内活性酸素レベル増強効果を示すグラフである。*はp<0.05を示す。
図6】本発明の一実施例において、A型PEG化スルファサラジンの細胞毒性の濃度依存性を示すグラフである。
図7】本発明の一実施例において用いられた、腫瘍形成マウスに対するスルファサラジンの投薬スケジュールである。
図8】本発明の一実施例における、A型PEG化スルファサラジン(PEG500、PEG1000、PEG2000、またはPEG5000でPEG化したもの)の投薬開始日からの腫瘍形成マウスの体重平均値の推移を表すグラフである。
図9】本発明の一実施例における、A型PEG化スルファサラジン(PEG500、PEG1000、PEG2000、またはPEG5000でPEG化したもの)の投薬開始日からの腫瘍形成マウスの腫瘍体積平均値の推移を表すグラフである。*はp<0.05を、**はp<0.001を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0013】
==PEG修飾スルファサラジン==
本発明の水溶性スルファサラジンを有効成分として含有する抗腫瘍剤は、下記式で表されるPEG修飾スルファサラジンである。
【0014】
【化1】
(式中、nの平均値は4以上1136以下であることが好ましく、20以上227以下であることがより好ましく、80以上136以下であることがさらに好ましい。)
スルファサラジンを修飾しているPEGの平均分子量は特に限定されないが、下限は、200であることが好ましく、500であることがより好ましく、1000であることがさらに好ましく、1600であることがさらに好ましく、1800であることがさらに好ましく、4000以上であることがさらに好ましく、4500以上であることがさらに好ましい。上限は、50000であることが好ましく、20000であることがより好ましく、10000であることがさらに好ましく、6000であることがさらに好ましく、5500であることがさらに好ましい。
【0015】
PEG修飾スルファサラジンの製造は、<製造例1>及び<製造例2>に記載のように、PEG分子末端とスルファサラジンとの化学反応によって行われるが、具体的な方法は特に限定されず、周知技術によって行うことができる。製造方法の概要は、例えば、A型PEG化スルファサラジンについてはPEG末端のアミノ基とスルファサラジン内カルボン酸との縮合反応にて行い、B型PEG化スルファサラジンについてはPEG末端のヨウ素基とスルファサラジン内水酸基との求核置換反応によって行われる。
【0016】
==抗腫瘍剤==
水溶性スルファサラジンを有効成分として含有する抗腫瘍剤の剤形は、特に限定されず、種々の剤形が考えられるが、非経口剤であることが好ましく、例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤などの注射剤;経皮投与または貼付剤、軟膏またはローション;口腔内投与のための舌下剤、口腔貼付剤;ならびに経鼻投与のためのエアゾール剤;坐剤とすることができるが、これらには限定されない。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。また本発明に係る薬剤は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
【0017】
中でも注射剤が好ましく、それによって、腫瘍近傍または腫瘍内に注射することのできる局所注射剤がさらに好ましい。腫瘍近傍とは、腫瘍塊の外表面から、約5cm以内であることが好ましく、約3cm以内であることがより好ましく、約1cm以内であることがさらに好ましく、約0.5cm以内であることがさらに好ましい。注射剤を調製する場合は、有効成分にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などを添加し、周知技術により皮下、筋肉内及び静脈内用注射剤を製造することができる。この場合のpH調節剤及び緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどを挙げることができる。安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸、チオ乳酸などを挙げることができる。局所麻酔剤としては塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどを挙げることができる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが例示できる。
【0018】
薬剤に含有される有効成分の量は、該有効成分の用量範囲や投薬の回数などにより適宜決定できる。そして投与する用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無など)、および担当医師の判断などに応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1回〜数回に分けて投与することができる。
【実施例】
【0019】
(1)スルファサラジンの抗腫瘍効果
CD44v依存的に増殖するヒト大腸がん細胞HCT116を用い、KSNヌードマウスに皮下投与し、腫瘍を形成させた。10匹のマウスに細胞を移植し、5匹は、250mg/kgのスルファサラジン、5匹は100μlの生理食塩水を毎日一回腹腔内注射した。移植14日後と28日後に腫瘍径を計測し、腫瘍径に基づき重量を計算し、各群で比較した。
【0020】
図1に示すように、スルファサラジンを投与した群では、対照群に比べて腫瘍増殖が有意に遅かった。このように、スルファサラジンは、腫瘍増殖抑制効果を有する。
【0021】
(2)PEG修飾スルファサラジンの合成
本実施例では、図2の上図に示すA型PEG化スルファサラジンおよび下図に示すB型PEG化スルファサラジンを合成した。
【0022】
<製造例1>A型PEG化スルファサラジンの製造
500mgのα-Methoxy-ω-amino-poly(ethylene glycol)(平均分子量:5000 Da)[日本油脂(株)、SUNBRIGHT PA (商品名)、CAS登録番号:116164-53-5]を20mLのテトラヒドロフランに溶解し、300mgのDMT−MM(4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium Chloride) [CAS登録番号:3945-69-5]、400mgのスルファサラジンと混合した後に50℃で24時間撹拌した。得られた溶液中のテトラヒドロフランを減圧留去し、10mLの0.01M塩酸にて再度懸濁した。懸濁溶液を20000×g、4℃で60分遠心処理し、上澄みを飽和塩化アンモニウム水と塩化メチレンとを用いて分液処理し、塩化メチレン層を抽出した後に溶媒を減圧留去した。得られた固形物を純水に溶解した後にPD−10カラムにて精製し、凍結乾燥することで目的物(A型PEG化スルファサラジン)として黄色粉末を得た(収量:450mg)。図3AにNMRの測定結果を示す。
【0023】
<製造例2>B型PEG化スルファサラジンの製造
300mgのα-Iodoacetamidopropyl-ω-methoxy-poly(ethylene glycol)を5mLのDMFに溶解し、さらに炭酸セシウム100mgを懸濁させた。63mgのスルファサラジンをさらに加えて、50℃にて一晩撹拌した。反応溶液をメタノールにて透析精製し、溶媒を減圧留去した後に10mLの0.01M塩酸にて再度懸濁した。懸濁溶液を20000xg、4℃で60分遠心処理し、上澄みをPD−10カラムにて精製し、凍結乾燥することで目的物(B型PEG化スルファサラジン)として黄色粉末を得た(収量:270mg)。図3BにNMRの測定結果を示す。
【0024】
(3)グルタミン酸排出量の測定
スルファサラジンはxCT阻害作用が有り、癌細胞に添加すると、xCTによる細胞内へのシスチンの取り込みを抑制するが、xCTはシスチンの取り込みと共役してグルタミン酸の排出を行うため、グルタミン酸の排出量抑制を調べることによって、xCT阻害活性を調べることができる。そこで、本実施例では、PEG化スルファサラジンのxCT阻害活性をグルタミン酸排出量を測定することによって調べた。
【0025】
DMEM(ナカライテスク、08459−64;なお、グルタミン酸、10%FBS、抗生剤非含有)を用いて、6ウェルプレートに頭頸部扁平上皮癌細胞株であるOSC19細胞株を200,000個/ウェルで播種した。12時間後、細胞がプレート底面に張り付いたあとに、DMEMで2度洗い、スルファサラジン、PEG化スルファサラジン(A型PEG化スルファサラジン:PEG2000またはPEG5000でPEG化したもの、及びB型PEG化スルファサラジン:PEG5000でPEG化したもの)を、400μM(スルファサラジン換算)含有する2mlのグルタミン酸無添加培地に置換した。8時間後に、Glutamate assay kit (Abcam社製)を用い、培地中に含有されるグルタミン酸量を吸光度で測定した。なお、薬剤無添加培地そのものの吸光度測定値をバックグラウンドとして、薬剤添加培地または薬剤無添加培地で培養した後の各培地の測定値より減算し、グルタミン酸量の測定値とした。そして、薬剤無添加の値を1として、各々の値を比で求め、グラフ化した(図4)。
【0026】
図4のグラフから明らかなように、A型PEG化スルファサラジンは、PEG2000またはPEG5000でPEG化したものが共に、薬剤無添加と比べ、有意にグルタミン酸排出を抑制した。また、B型PEG化スルファサラジンと比べても、有意にグルタミン酸排出を抑制した。
【0027】
このように、A型PEG化スルファサラジンは、スルファサラジンより若干弱いものの、xCT阻害活性を有する。しかし、B型PEG化スルファサラジンは、xCT阻害活性を有しない。
【0028】
(4)細胞内活性酸素測定
スルファサラジンはxCT阻害作用が有り、癌細胞に添加すると、xCTによる細胞内へのシスチンの取り込みを抑制する。シスチンは細胞内で還元型グルタチオンに変換される。還元型グルタチオンは、細胞内の活性酸素量の増加を抑制する作用があるため、xCTを阻害すると、細胞内の活性酸素量が上昇する。従って、細胞内の活性酸素量を調べることによって、xCT阻害活性を調べることができる。そこで、本実施例では、PEG化スルファサラジンのxCT阻害活性を細胞内の活性酸素量を測定することによって調べた。
【0029】
(3)と同じ培地を用いて96ウェルプレートにOSC19細胞株を4000個/ウェルで播種した。翌日、スルファサラジン、A型PEG化スルファサラジンを、400μM(スルファサラジン換算)で添加した。24時間後、細胞内活性酸素レベルとしてCM−H2DCFDA(H2DCFDAのクロロメチル誘導体)の蛍光強度をプレートリーダーで測定した。CM−H2DCFDAは、細胞内において過酸化水素、ヒドロキシラジカル、ペルオキシナイトライトなどと反応することで、H2DCFが速やかに酸化されてDCFが生成し、蛍光を発するため、蛍光強度が細胞内活性酸素レベルの指標となる。また、細胞数をHochest33342の蛍光強度で測定した。Hochest33342は核を染色するため、その蛍光強度は細胞数と比例する。そして、各ウェルの1細胞あたりの細胞内活性酸素レベルを、CM−H2DCFDA/Hochest33342の比として算出した。薬剤無添加の細胞内活性酸素レベルを1として、薬剤添加群の細胞内活性酸素レベルの相対値を算出し、グラフ化した(図5)。
【0030】
図5のグラフから明らかなように、A型PEG化スルファサラジンは、PEG2000またはPEG5000でPEG化したものが共に、薬剤無添加と比べ、有意に細胞内活性酸素レベルを増強した。また、B型PEG化スルファサラジンと比べても、有意に細胞内活性酸素レベルを増強した。
【0031】
このように、A型PEG化スルファサラジンは、スルファサラジンより若干弱いものの、細胞内活性酸素レベルを増強する。しかし、B型PEG化スルファサラジンは、細胞内活性酸素レベルを増強しない。
【0032】
(5)細胞生存アッセイ
本実施例では、A型PEG化スルファサラジン(PEG2000またはPEG5000でPEG化したもの)を用い、濃度による細胞毒性をスルファサラジンと比較した。
【0033】
(3)と同じ培地を用いて、96ウェルプレートにT98G細胞株を3000個/ウェルで播種した。翌日、スルファサラジン、A型PEG化スルファサラジンを、スルファサラジン濃度換算で0〜1250μMで添加した。その2日後に、細胞の生存率を、CellTiter-Glo (Promega社製)を用いて測定した。無添加(0μM)の生存率を100%として、各濃度での生存率を求め、グラフ化した(図6)。
【0034】
図6のグラフから明らかなように、400μMまでは、いずれも細胞生存率が上昇した。そして、スルファサラジンとA型PEG化スルファサラジン(PEG2000でPEG化したもの)は、ほぼ同じ濃度依存性を示したが、A型PEG化スルファサラジン(PEG5000でPEG化したもの)は、400μM以降も、スルファサラジンとA型PEG化スルファサラジン(PEG2000でPEG化したもの)より細胞生存率が高かった。
【0035】
このように、A型PEG化スルファサラジン(PEG5000でPEG化したもの)では、細胞生存率が上昇するが、A型PEG化スルファサラジン(PEG2000でPEG化したもの)でも、スルファサラジンと同等の細胞生存率を有する。
【0036】
(6)スルファサラジン、PEG化スルファサラジンの溶解性試験
粉末状の10mgのスルファサラジンと25mgのA型PEG化スルファサラジン(PEG5000でPEG化したもの)を100μLの純水および生理食塩水に溶解させた。この際、室温において、スルファサラジンの不溶分が水溶液中に残存していることが確認されたため、スルファサラジンが飽和しているものと考えられた。A型PEG化スルファサラジンに関しては完全に溶解し、不溶分は存在しなかった。得られた水溶液を室温にて8000rpmで30分遠心処理し、上澄みの50μLをとった。上澄みに対して1μLの5N―NaOH水溶液を添加し、得られた水溶液におけるUV吸収(238nm)を測定することで、水溶液中のスルファサラジン濃度(純水および生理食塩水への溶解度)を算出した。
【0037】
表1に示すように、スルファサラジンの室温での水および生理食塩水中への飽和溶解度は、それぞれ0.050mg/mLおよび0.037mg/mLであったのに対し、A型PEG化スルファサラジンとすることで、それぞれ少なくとも20.5mg/mLおよび19.1mg/mLのスルファサラジンが室温で可溶となった。
【0038】
【表1】
【0039】
(7)A型PEG化スルファサラジン(PEG500、PEG1000、PEG2000、またはPEG5000でPEG化したもの)の抗腫瘍活性評価
本実施例では、スルファサラジンをPEG化するために用いるPEGの平均分子量の、抗腫瘍活性に対する影響を評価した。
【0040】
1×106個のOSC19細胞を含む細胞懸濁液を4週齢の雌マウス(balb/c nu/nu)の背部に皮下移植し、腫瘍を形成させた。移植から6日後、腫瘍体積が約60mm3になった時点で、細胞を移植した25匹のマウスを5匹ずつ5群に分け、各群それぞれA型PEG化スルファサラジン(PEG500、PEG1000、PEG2000、またはPEG5000でPEG化したもの)、又は生理食塩水を投薬した。まず、A型PEG500−スルファサラジン(スルファサラジンをPEG500でPEG化したもの)11.3mg、A型PEG1k−スルファサラジン(スルファサラジンをPEG1000でPEG化したもの)17.6mg、A型PEG2k−スルファサラジン(スルファサラジンをPEG2000でPEG化したもの)30.1mg、A型PEG5k−スルファサラジン(スルファサラジンをPEG5000でPEG化したもの)67.8mgをそれぞれ生理食塩水に溶解させることで、31.5mM(スルファサラジン換算)の注射剤を調整した。調整した薬剤の一回投与用量を400μl(スルファサラジン換算で250mg/ml)とし、図7の投薬スケジュールに従い、各群2日に1回、調整したA型PEG化スルファサラジン注射剤または生理食塩水を静脈注射した。なお、投薬回数は計7回(投薬開始日を0日とし、投薬開始0、2、4、6、8、10、12日後)とした。投薬開始0、3、6、9、12、15日後に、腫瘍形成マウスの体重と、体外から観察した腫瘍の長径、短径を計測し、測定した腫瘍径に基づき腫瘍体積を算出した。図8図9に、投薬開始日からの各群の体重平均値の推移(図8)と各群の腫瘍体積平均値の推移(図9)をグラフ化した。
【0041】
図8に示すように、すべての群で有意な体重の変化が観察されなかったことから、投与したA型PEG化スルファサラジンに毒性がないことが確認された。そして、図9に示すように、投薬開始から15日後において、A型PEG化スルファサラジンを投与したすべての群で、生理食塩水を投与した群と比べて有意に高い抗腫瘍活性を確認することができた。
【0042】
このように、スルファサラジンをPEG化するために用いるPEGの平均分子量に関わらず、PEG修飾スルファサラジンは抗腫瘍活性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によって、水溶性スルファサラジンを有効成分として含有する抗腫瘍剤を提供することができるようになった。
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