(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イオン液体除去工程において、前記固化体中に含まれるイオン液体の含有量が、延伸後の固化体全体に対して、1重量%以下となるように、前記イオン液体の除去を行う請求項3に記載の高分子物質成形体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、乾式での成形が可能であり、これにより製造により発生する廃液の量を低減でき、かつ、配向性および強伸度が高く、タスネスに優れた高分子物質成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、高分子物質成形体を製造する際に、高分子物質、イオン液体、および溶媒を含む混合溶液を用いることで、これを気相中に押し出し、気相中において、溶媒を気化させることにより得られる、高分子物質およびイオン液体を含む固化体が、柔軟性および伸度に優れること、さらには、このような高分子物質およびイオン液体を含む固化体を延伸することにより、配向性および強伸度が高く、タスネスに優れた高分子物質成形体を得られること、を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の事項に関する。
[1]高分子物質、イオン液体、および溶媒を含む混合溶液を吐出口から、気相中に押し出す押出工程と、
気相中に押し出した前記混合溶液に含まれる溶媒を、気相中において、気化させることにより、高分子物質およびイオン液体を含む固化体を得る固化工程と、
気相中において、前記固化体を加熱延伸する加熱延伸工程とを備える、高分子物質成形体の製造方法。
【0009】
[2]前記加熱延伸工程による延伸後の前記固化体に含まれるイオン液体を除去するイオン液体除去工程をさらに備える、[1]に記載の高分子物質成形体の製造方法。
[3]前記イオン液体除去工程において、前記固化体中に含まれるイオン液体の含有量が、延伸後の固化体全体に対して、1重量%以下となるように、前記イオン液体の除去を行う[2]に記載の高分子物質成形体の製造方法。
[4]前記イオン液体除去工程における前記イオン液体の除去を、延伸後の前記固化体を、イオン液体の良溶媒中に浸漬させることにより行う[2]または[3]に記載の高分子物質成形体の製造方法。
[5]前記高分子物質として、2種類以上の高分子物質を用いる[1]〜[4]のいずれかに記載の高分子物質成形体の製造方法。
【0010】
[6]前記溶媒として、沸点が300℃以下であり、かつ、前記高分子物質および前記イオン液体を1重量%以上溶解可能なものを用いる[1]〜[5]のいずれかに記載の高分子物質成形体の製造方法。
[7]前記高分子物質が、タンパク質である[1]〜[6]のいずれかに記載の高分子物質成形体の製造方法。
[8]前記タンパク質が、構造タンパク質である[7]に記載の高分子物質成形体の製造方法。
[9]前記タンパク質が、フィブロインである[7]または[8]に記載の高分子物質成形体の製造方法。
[10]前記タンパク質が、シルクフィブロインである[7]〜[9]のいずれかに記載の高分子物質成形体の製造方法。
【0011】
[11]前記イオン液体は、融点が100℃未満、加熱重量減少率が10質量%である温度が200℃以上である[1]〜[10]のいずれかに記載の高分子物質成形体の製造方法。
[12]前記イオン液体が、イミダゾリウム構造含有カチオンを含有する[1]〜[11]のいずれかに記載の高分子物質成形体の製造方法。
[13]前記イミダゾリウム構造含有カチオンが、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、である[12]に記載の高分子物質成形体の製造方法。
[14]前記イオン液体が、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリドである請求項[13]に記載の高分子物質成形体の製造方法。
[15]前記溶媒が、ヘキサフルオロイソプロパノールである[1]〜[14]のいずれかに記載の高分子物質成形体の製造方法。
【0012】
[16]前記加熱延伸工程における延伸倍率が3倍以上である[1]〜[15]のいずれかに記載の高分子物質成形体の製造方法。
[17]前記押出工程において、前記混合溶液を前記吐出口から連続的に、気相中に押し出し、
前記固化工程において、連続的に押し出した前記混合溶液に含まれる溶媒を、気相中において、気化させることにより、前記固化体を連続的に得て、
前記加熱延伸工程において、連続的に得られた前記固化体を延伸することで、繊維状の高分子物質成形体を得る、[1]〜[16]のいずれかに記載の高分子物質成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、乾式での成形が可能であり、これにより製造により発生する廃液の量を低減でき、かつ、配向性および強伸度が高く、タスネスに優れた高分子物質成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の高分子物質成形体の製造方法は、
高分子物質、イオン液体、および溶媒を含む混合溶液を吐出口から、気相中に押し出す押出工程と、
気相中に押し出した前記混合溶液に含まれる溶媒を、気相中において、気化させることにより、高分子物質およびイオン液体を含む固化体を得る固化工程と、
気相中において、前記固化体を加熱延伸する加熱延伸工程とを備える。
【0016】
本発明で用いる高分子物質としては、高分子状の物質であればよく、特に限定されないが、タンパク質、多糖類、合成高分子などが挙げられる。なお、これら高分子物質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
タンパク質としては、たとえば、分子量5000ダルトン以上の組換えタンパク質、融合タンパク質、組換えタンパク質、構造タンパク質、機能タンパク質、およびこれらのタンパク質に由来する人造構造タンパク質などが挙げられる。これらのなかでも、構造タンパク質、機能タンパク質、および構造タンパク質、機能タンパク質に由来する人造構造タンパク質が好ましく、構造タンパク質がより好ましい。機能タンパク質とは、生理活性を有するタンパク質であり、ウシ血清アルブミン、免疫グロブリンなどが挙げられ、ウシ血清アルブミンが好ましい。また、構造タンパク質とは、生体内で構造および形態等を形成または保持するタンパク質であり、構造タンパク質としては、たとえば、フィブロイン、ケラチン、コラーゲン、エラスチンおよびレシリン等を挙げられ、これらのなかでも、配向性および強伸度によりより優れた成形体が得られるという観点より、フィブロインが好ましい。
【0018】
フィブロインとしては、たとえば、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン、ホーネットシルクフィブロインなどが挙げられ、これらは組み合わせて用いてもよい。たとえば、絹フィブロインとクモ糸フィブロインとを併用する場合、絹フィブロインの割合は、たとえば、クモ糸フィブロイン100質量部に対して、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0019】
絹フィブロインとしては、セリシン除去絹フィブロイン、セリシン未除去絹フィブロイン、またはこれらの組み合わせであってもよい。セリシン除去絹フィブロインは、絹フィブロインを覆うセリシン、およびその他の脂肪分などを除去して精製したものである。このようにして精製した絹フィブロインは、好ましくは、凍結乾燥粉末として用いられる。セリシン未除去絹フィブロインは、セリシンなどが除去されていない未精製の絹フィブロインである。
【0020】
クモ糸フィブロインは、天然クモ糸タンパク質、および天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチド(人造クモ糸タンパク質)からなる群より選ばれるクモ糸ポリペプチドを含有していてもよい。
【0021】
なお、天然クモ糸タンパク質に由来するものとは、天然クモ糸タンパク質が有するアミノ酸の反復配列と同様あるいは類似のアミノ酸配列を有するものであって、例えば組換えクモ糸タンパク質や天然クモ糸タンパク質の変異体、類似体または誘導体などが挙げられる。なお、クモ糸タンパク質は、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質やそれに由来するクモ糸タンパク質であることが好ましい。大吐糸管しおり糸タンパク質としては、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する大瓶状腺スピドロインMaSp1やMaSp2、二ワオニグモ(Araneus diadematus)に由来するADF3やADF4などが挙げられる。
【0022】
クモ糸タンパク質は、クモの小瓶状腺で産生される小吐糸管しおり糸タンパクやそれに由来するクモ糸タンパク質であってもよい。前記小吐糸管しおり糸タンパク質としては、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する小瓶状腺スピドロインMiSp1やMiSp2が挙げられる。
【0023】
その他にも、クモ糸タンパク質は、クモの鞭毛状腺(flagelliform gland)で産生される横糸タンパク質やそれに由来するクモ糸タンパク質であってもよい。前記横糸タンパク質としては、たとえば、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する鞭毛状絹タンパク質(flagelliform silk protein)などが挙げられる。
【0024】
また、多糖類としては、特に限定されないが、たとえば、セルロース、ヘミセルロース、グリコーゲン、デンプン、キチン、キトサン、アガロース、カラギーナンなどが挙げられる。
【0025】
合成高分子としては、重縮合反応で得られる合成高分子、連鎖重合で得られる合成高分子、およびその他の合成高分子のいずれであってもよく、特に限定されないが、たとえば、スチレン系高分子、アクリル系高分子、メタクリル系高分子、カルボン酸ビニルエステル系高分子、ポリ−N−ビニル化合物系高分子、ポリオレフィン系高分子、ポリジエン系高分子、ポリエステル系高分子、シリコーン系高分子、ポリウレタン系高分子、ポリアミド系高分子、ポリイミド系高分子、エポキシ系高分子、ポリビニルブチラール系高分子、フェノール系高分子、アミノ系高分子、オキサゾリン系高分子、およびカルボジイミド系高分子などが挙げられる。
【0026】
イオン液体としては、100℃未満で液状を呈する有機塩であればよく、特に限定されないが、たとえば、イミダゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、ピリジニウム、第4級アンモニワム、第4級ホスホニウム、スルホニウム、およびこれらの誘導体等のカチオンと、ハロゲン、トリフラート、テトラフルオロボラート、ヘキサフルオロホスフェイト等のアニオンとの塩を挙げることができる。これらのなかでも、高分子物質との相溶性の観点から、イミダゾリウムカチオンなどのイミダゾリウム構造含有カチオンを含有するイミダゾリウム塩が好ましい。
【0027】
イミダゾリウム塩としては、たとえば、1,3−ジメチルイミダゾリウム塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−メチル−3−n−オクチルイミダゾリウム塩、1−(2−ヒドロキシエチル) −3−メチルイミダゾリウム塩、1−デシル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム塩、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム塩、2,3−ジメチル−1−プロピルイミダゾリウム塩、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム塩などが挙げられ、これらのなかでも、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム塩が好ましく、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム塩がより好ましい。
【0028】
たとえば、各種カチオンを、
[Emim] 1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン
[Bmim] 1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン
[Hmim] 1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン
[Omim] 1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムイオン
[Dmim] 1−デシル−3−メチルイミダゾリウムイオン
各種アニオンを、
[Cl] 塩化物イオン
[Ac] 酢酸イオン
[DMP] ジメチルホスフェートイオン
[DEP] ジエチルホスフェートイオン
[TfO] トリフルオロメタンスルホン酸イオン
[TFSI] ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン
とした場合に、イオン液体としては、下記に示すものが例示される。
[Emim][Cl], [Bmim][Cl], [Hmim][Cl], [Omim][Cl], [Dmim][Cl]
[Emim][Ac], [Bmim][Ac], [Hmim][Ac], [Omim][Ac], [Dmim][Ac]
[Emim][DMP], [Bmim][DMP], [Hmim][DMP], [Omim][DMP], [Dmim][DMP]
[Emim][DEP], [Bmim][DEP], [Hmim][DEP], [Omim][DEP], [Dmim][DEP]
[Emim][TfO], [Bmim][TfO], [Hmim][TfO], [Omim][TfO], [Dmim][TfO]
[Emim][TFSI], [Bmim][TFSI], [Hmim][TFSI], [Omim][TFSI], [Dmim][TFSI]
これらのなかでも、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド([Hmim][Cl])が好適に用いられる。
【0029】
イオン液体としては、融点が100℃未満であり、加熱重量減少率が10質量%である温度が200℃以上であるものが好ましく、融点が60℃未満であり、加熱重量減少率が10質量%である温度が250℃以上であるものがより好ましい。加熱重量減少率は、イオン液体を50〜500℃まで準静的な速さ(5℃/min)で昇温した時の、加熱開始からの重量変化から算出される値である。また、イオン液体としては、使用する高分子物質を5重量%以上溶解するものを用いることが好ましく、7重量%以上溶解するものを用いることがより好ましい。
【0030】
溶媒としては、特に限定されないが、沸点が300℃以下であり、かつ、高分子物質およびイオン液体を1重量%以上溶解可能なものが好ましく、たとえば、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトンが好適であり、ヘキサフルオロイソプロパノールが特に好適である。
【0031】
次いで、本発明の高分子物質成形体の製造方法について、詳細に説明する。本発明においては、高分子物質成形体は、たとえば、
図1に示す、本発明の一実施形態に係る紡糸装置を用いて製造することができる。以下においては、
図1に示す紡糸装置を用いた製造方法を中心にして説明を行うが、本発明の高分子物質成形体の製造方法は、
図1に示す紡糸装置を用いた製造方法に特に限定されるものではない。
【0032】
本発明の製造方法においては、
まず、上述した高分子物質、イオン液体、および溶媒を含む混合溶液を吐出口から、気相中に押し出し(押出工程)、
次いで、気相中に押し出した前記混合溶液に含まれる溶媒を、気相中において、気化させることにより、高分子物質およびイオン液体を含む固化体を得る(固化工程)。
そして、得られた固化体を、気相中において、加熱延伸することで、高分子物質成形体を得ることができる(加熱延伸工程)。
【0033】
本発明の製造方法における押出工程、固化工程は、たとえば、
図1に示す紡糸装置を用いて行うことができる。
図1に示す紡糸装置は、貯槽10を有しており、貯槽10中に、高分子物質、イオン液体、および溶媒を含む混合溶液20が貯留される。そして、
図1に示す紡糸装置によれば、混合溶液20は、貯槽10の下端部に取り付けられたギヤポンプ30により、先端に吐出口を備えるノズル40から、気相中に、連続的に押し出される。そして、押し出された混合溶液20は、ワインダー60に向かって重力により落下しつつ、混合溶液20中に含まれる溶媒が、気相中において、蒸発することで、繊維状の固化体となり、ワインダー60により巻き取られる。なお、ワインダー60により巻き取られる固化体は、高分子物質、およびイオン液体を含有するものとなる。
【0034】
そして、ワインダー60により巻き取られた、繊維状の固化体について、加熱延伸することで、高分子物質成形体を得ることができる。延伸の方法としては、特に限定されないが、一軸延伸が好適である。
【0035】
混合溶液20の調製方法としては、特に限定されないが、高分子物質と、イオン液体と、溶媒とを混合装置にて混合する方法などが挙げられる。この際においては、混合性の観点より、まず、高分子物質と、溶媒とを混合してから、イオン液体を添加する方法が好ましい。
【0036】
混合溶液20中における、高分子物質の含有割合は、好ましくは5重量%超、30重量%以下、より好ましくは7重量%〜25重量%、さらに好ましくは10重量%〜18重量%である。
混合溶液20中における、イオン液体の含有割合は、高分子物質100重量部に対して、好ましくは0重量部超、100重量部以下であり、好ましくは1〜50重量部、さらに好ましくは12〜25重量部である。
【0037】
また、ノズル40およびその先端に設けられる吐出口としては、特に限定されず、製造する高分子物質成形体の形状や大きさに応じて適宜選択すればよく、たとえば、吐出口をマルチホール吐出口としてもよい。また、ノズル40の内径は、好ましくは0.1〜0.6mmであり、より好ましくは0.15〜0.3mmである。
【0038】
また、本実施形態においては、混合溶液20を、ノズル40から連続的に押し出す際には、気相中に押し出すとともに、気相中において溶媒を蒸発させる方法、すなわち、乾式紡糸法を採用するものである。気相としては、特に限定されず、空気中や不活性ガス中、あるいは、非酸化性雰囲気中のいずれであってもよい。また、気相中において溶媒を蒸発させる際には、必要に応じて、熱風を吹き付ける方法や、加熱する方法などを採用してもよい。本実施形態によれば、乾式紡糸法を用いるものであるため、乾湿式紡糸法や湿式紡糸法と比較して、廃液の量を低減することができ、これにより環境負荷を低減でき、しかも、製造工程を簡略化することができることから、生産効率を高めることができるものである。
【0039】
なお、ノズル40の吐出口から、ワインダー60までの距離Dは、ノズル40の吐出口から押し出された混合溶液20中に含まれる溶媒が十分に蒸発し、これにより、ワインダー60により巻き取れる程度の固化体とすることができるような長さとすればよいが、通常50cm〜5m程度である。また、本実施形態において、溶媒が蒸発した後の固化体としては、溶媒を実質的に含まないものであってもよいし、あるいは、数重量%程度であれば、溶媒が残存した状態であってもよい。
【0040】
なお、本実施形態においては、ノズル40の吐出口から押し出された混合溶液20が、重力に従って流れ落ちるような態様とすることが好ましく、このような態様とすることにより、高分子物質の流動配向が起こり、結晶配向化を促進することでき、これにより、得られる高分子物質成形体を、配向性および強伸度がより高められたものとするこができる。
【0041】
次いで、本実施形態においては、このようにして得られる固化体について、加熱延伸を行うものである。本実施形態において得られる固化体は、乾式紡糸法により得られたものであり、かつ、高分子物質およびイオン液体を含むものである。そして、このようにして乾式紡糸法により得られる固化体は、気相中において溶媒を蒸発させて得られるものであるため、高分子物質の内部に、イオン液体を可塑剤として均一に分布させることができるものである。
【0042】
そのため、本実施形態によれば、固化体を加熱延伸する際に、固化体に含まれる高分子物質を、イオン液体を可塑剤とした溶融状態とすることができ、このような溶融状態での延伸を可能とするものである。特に、本実施形態によれば、加熱延伸時においては、イオン液体の作用によって、加熱延伸に供する固化体内のミクロな構造破壊を防止しながら、高分子鎖の緩和を起こさせることができ、このような状態で延伸を行うことで、高分子鎖の分子配向を効果的に高めることができるものである。そして、その結果として、配向性および強伸度が高く、タスネスに優れた高分子物質成形体を得ることができるものである。なお、イオン液体の作用により、加熱延伸に供する固化体内のミクロな構造破壊を抑制できる理由としては、必ずしも明らかでないが、イオン液体が、高分子分子鎖間に介在することで、隣接する高分子分子鎖同士間における相互作用を適切に維持しつつ、高分子分子鎖の緩和を起こさせることができることによると考えられる。
【0043】
加熱延伸時における、加熱温度は、特に限定されないが、使用した高分子物質およびイオン液体のガラス転移温度(Tg)以上の温度とすることが好ましく、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。また、加熱温度の上限は、特に限定されないが、通常160℃以下である。また、加熱延伸時における、延伸倍率は、好ましくは3倍以上、より好ましくは3.5倍以上であり、その上限は、通常、10倍以下である。なお、加熱延伸方法としては、特に限定されないが、たとえば、ワインダー60(巻出し側)により巻き取られた繊維状の固化体に対し、加熱下において、長手方向に張力を印加しながら、別のワインダー(巻取り側)に巻き取らせることにより、繊維状の固化体を延伸することができ、この際における延伸倍率は、たとえば、下記式にしたがって、制御および算出することができる。
延伸倍率=巻取り速度÷巻出し速度
【0044】
このようにして、本実施形態によれば、繊維状の高分子物質成形体を得ることができる。本実施形態によれば、乾式での成形が可能であり、これにより製造により発生する廃液の量を低減でき、しかも、加熱下での延伸を良好に行うことができるものであるため、得られる繊維状の高分子物質成形体を、配向性および強伸度が高く、タスネスに優れたものとすることができるものである。
【0045】
なお、本実施形態においては、このようにして得られた高分子物質成形体(延伸後の固化体)に対し、必要に応じて、イオン液体を除去する処理を行ってもよい。イオン液体が残存していると、得られる高分子物質成形体(延伸後の固化体)の用途によっては、イオン液体の染み出し等が問題となる場合があるため、このような場合には、イオン液体を除去する処理を行うことが好ましい。イオン液体を除去する方法としては、特に限定されないが、高分子物質成形体(延伸後の固化体)を、イオン液体の良溶媒に浸漬させて、洗浄する方法が挙げられる。この際に用いるイオン液体の良溶媒としては、特に限定されず、使用するイオン液体の種類に応じて適宜選択すればよいが、たとえば、水、メタノール、エタノールなどの極性溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどのアルカン系有機溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンなどの非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0046】
また、イオン液体を除去する際には、高分子物質成形体(延伸後の固化体)中に残存するイオン液体の量が、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下となるように、イオン液体を除去する処理を行うことが望ましい。なお、イオン液体除去後における、残存するイオン液体の量を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、良溶媒中における浸漬時間を調整する方法や、良溶媒中に浸漬する際に、30〜100℃程度に加熱する方法などが挙げられる。その他、イオン液体の溶出を促進させるために超音波を照射する方法と浸漬中の良溶媒を攪拌する方法も挙げられる。また、イオン液体を除去する操作を行った後には、必要に応じて、乾燥することが好ましい。
【0047】
上記においては、
図1に示す紡糸装置を用い、繊維状の高分子物質成形体を製造する場合を例示して説明を行ったが、本発明は、このような態様に特に限定されるものではない。たとえば、上述した方法においては、溶媒を蒸発させることにより得られた固化体を、ワインダー60で巻き取った後、熱延伸を行う態様を例示したが、ワインダー60で巻き取らずに、そのまま、熱延伸するような態様としてもよい。また、混合溶液20をノズル40の先端に備えられた吐出口から押し出す際における、吐出口の形状も特に限定されず、糸状の成形体や、紐状の成形体、フィルム状の成形体、テープ状の成形体、中空糸状の成形体など各種形状の成形体に応じた形状とすることができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0049】
<実施例1>
(1)生糸の精練
家蚕に由来の生糸6.5gを、85℃の脱セリシン溶液(0.25w/v%マルセル石鹸、0.25w/v%炭酸ナトリウム水溶液)650mLで20分間加温することにより洗浄した。上清を捨て、同様の操作を追加で2回繰り返した(合計3回の洗浄操作)。上清を捨てた後、得られた繊維を、充分量の超純水 (80℃)でリンスし、常温(25℃)で一晩真空乾燥した。
真空乾燥した繊維4.9 gに、塩化カルシウム/水/エタノール (1/8/2, mol/mol/mol) 混合溶液32.9gを少量ずつ加え、55℃で1時間加熱、溶解させることで、シルク溶液を得た。得られたシルク溶液を室温に戻し、セルロース製透析チューブ(MWCO:14000Da)に詰めて、超純水で置換した(4日間、4℃)。そして、透析により得られた得たシルク水溶液をシルク濃度4wt%以下になるように超純水で希釈し、常法により凍結乾燥することで、精練シルクとした。
【0050】
(2)紡糸液(混合溶液)の調製
精練シルク3.0gにヘキサフルオロイソプロパノール16.25gを添加し、50℃に加熱して、混合することにより、ヘキサフルオロイソプロパノールに、精練シルクを溶解させた。そして、得られた溶液の温度を50℃に保ったまま、ここに、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド([Hmim][Cl])0.75gを添加し、混合することで、紡糸液(混合溶液)を得た。
【0051】
(3)紡糸液を用いた乾式紡糸
内径0.3 mmのディスポーザブルニードルを備えたステンレス製シリンダー (武蔵エンジニアリング社製)に、上記にて調製した紡糸液を詰め、窒素加圧することにより、紡糸液を、空気中に連続的に吐出させた。この際に、吐出口のニードルとして、予めフッ素系離型剤を塗布したものを使用し、紡糸液の吐出方向は、鉛直方向下向きとした。具体的な操作としては、まず、開始時には、窒素圧0.3 MPaにて紡糸液を吐出させ、シリンダー直下のローラーに落下した糸を巻き付け、吐出を安定させた後、圧力を0.02 MPaまで下げて、吐出操作を連続して行った。また、これに合わせてシリンダー直下のローラー巻取り速度を初期速度12.0 m/minから4.0 m/minまで落とした。なお、この操作において、ニードルから吐出させた紡糸液は、空気中において、溶媒としてのヘキサフルオロイソプロパノールが蒸発することで、液状から糸状となり、糸状となった状態にて、ローラーに連続的に巻き取られる形となった。そして、ローラーの間を5回巻きした後、ボビンを備えた巻取り機(4.2m/min)に導き、これを延伸前の原糸とした。得られた延伸前の原糸を、ボビンごと常温(25℃)で真空乾燥した(乾燥時間:5時間)。
【0052】
(4)原糸の熱延伸
巻取り機を2つ用い、一方から、上記にて得られた延伸前の原糸を巻き出すとともに、他方で延伸糸を巻き取る装置系を組み、熱延伸操作を行うことで、熱延伸糸を得た。なお、この際には、2つの巻取り機の間にホットプレートを配し、温度を120℃に調整するとともに、巻出し側の速度を0.25m/min、巻取り側の速度を0.88m/minとした。すなわち、延伸倍率を3.5倍(=0.88m/min÷0.25m/min)とした。
【0053】
<実施例2>
実施例1と同様にして、熱延伸糸を得た。そして、得られた熱延伸糸を、常温(25℃)下、充分量のメタノールに5分浸漬させた後、常温(25℃)で30分間真空乾燥し、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド([Hmim][Cl])を除去することで、熱延伸糸(メタノール洗浄有り)を得た。
【0054】
<参考例1>
実施例1と同様にして、未延伸の原糸を得た。なお、参考例1においては、熱延伸を行わなかった。
【0055】
<参考例2>
実施例1と同様にして、未延伸の原糸を得た。そして、未延伸の原糸を、常温(25℃)下、充分量のメタノールに5分浸漬させた後、常温(25℃)で30分間真空乾燥し、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド([Hmim][Cl])を除去することで、未延伸糸(メタノール洗浄有り)を得た。
【0056】
<比較例1>
実施例1と同様にして得られた精練シルクを用いる一方で、イオン液体としての1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド([Hmim][Cl])を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、紡糸液(混合溶液)を得て、同様に乾式紡糸を行うことで、原糸を得た。なお、比較例1で得られた原糸について、実施例1と同様の手法により、熱延伸を行ったところ、原糸の破断が激しく、熱延伸することができなかった。
【0057】
<引張試験>
実施例1,2で得られた熱延伸糸、参考例1,2で得られた未延伸糸を使用し、これらを、つかみ具間距離20 mmの試験片紙に接着剤で固定した。そして、インストロン製引張試験機INSTRON5943により引張速度10 mm/minで応力および伸度を測定した。このとき、温度は22〜27℃、相対湿度26〜46%の間で維持した。また、ロードセルは容量500N、つかみ具はクリップ式とした。
【0058】
引張試験の結果、得られた応力−ひずみ曲線を
図2に示す。
図2より、実施例2(熱延伸、メタノール洗浄有り)のヤング率は4.83GPa、実施例1(熱延伸、メタノール洗浄なし)のヤング率は5.12GPaと、ヤング率は近似していた。また、降伏点においては、実施例2(熱延伸、メタノール洗浄有り)は、応力108MPa、ひずみ2.2%、実施例1(熱延伸、メタノール洗浄なし)は、応力160MPa、ひずみ3.6%であった。
破断点の物性は、実施例2(熱延伸、メタノール洗浄有り)は、応力167MPa、ひずみ35%、実施例1(熱延伸、メタノール洗浄なし)は、応力170MPa、ひずみ30%とほぼ同程度であった。なお、実施例2(熱延伸、メタノール洗浄有り)、実施例1(熱延伸、メタノール洗浄なし)の引張応力は、ひずみ5〜30%の区間で単調増加しており、試験中の引っ張りに伴い配向硬化が起きたと判断できる。
【0059】
一方、参考例2(未延伸、メタノール洗浄有り)は、ヤング率は、4.41GPaと、実施例2(熱延伸、メタノール洗浄有り)、実施例1(熱延伸、メタノール洗浄なし)と同で程度であったが、破断応力62MPa、破断ひずみ1.8%と弾性域で破断するものであった。
【0060】
これらに対し、参考例1(未延伸、メタノール洗浄なし)は、引張応力は最大11MPaを超えず、破断ひずみ221%、すなわち初期の長さの2.2倍まで伸びて破断するものであり、明らかに異なる物性を示すものであった。
【0061】
参考例2(未延伸、メタノール洗浄有り)、参考例1(未延伸、メタノール洗浄なし)の結果は、イオン液体がタンパク質繊維の可塑剤として機能していることを支持するものであるといえる。すなわち、参考例1(未延伸、メタノール洗浄なし)は、可塑剤の効果が顕著に見てとれる例であり、イオン液体の存在自体は強度向上に寄与しないが、伸度向上に大きく貢献することが分かる。逆に、メタノール洗浄でイオン液体を取り除いた参考例2(未延伸、メタノール洗浄有り)では、可塑性が発揮されずに弾性域で破断している。
【0062】
さらに 実施例2(熱延伸、メタノール洗浄有り)、実施例1(熱延伸、メタノール洗浄なし)の結果は、イオン液体存在下での熱加熱延伸工程により、未延伸と比べて物性が総合的に向上することを示唆している。これについては、熱延伸の工程でタンパク質分子鎖の緩和が起こり、繊維中の構造破壊を防ぎつつ分子配向を高められたのではないかと考えた。これに伴い、メタノール洗浄によりイオン液体を除去した後でも伸度を維持できたのではと考察する。
【0063】
また、実施例2(熱延伸、メタノール洗浄有り)、実施例1(熱延伸、メタノール洗浄なし)ともに、破断ひずみが30%を超えるものであり、天然シルクの破断ひずみ(20%程度)よりも大きなものであった。
【0064】
<タフネスの算出>
実施例1,2で得られた熱延伸糸、参考例1,2で得られた未延伸糸のタフネスを、下記式に従って算出した。
【数1】
なお、上記式中、W:タフネス(MJ/m
3)、σ:引張応力:MPa、x:引張ひすみ(mm/mm)である。
実施例1(熱延伸、メタノール洗浄なし)のタフネスの値は、43.2MJ/m
3であり、実施例2(熱延伸、メタノール洗浄有り)のタフネスの値は、39.4MJ/m
3であり、参考例1(未延伸、メタノール洗浄なし)のタフネスの値は、10.2MJ/m
3であり、参考例2(未延伸、メタノール洗浄有り)のタフネスの値は、0.7MJ/m
3であった。
【0065】
<偏光顕微鏡による偏光の観察>
実施例1で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄なし)、参考例1で得られた未延伸糸(メタノール洗浄なし)を、スライドガラスに固定し、偏光子・検光子を備えたオリンパス製偏光顕微鏡Olympus CX31により接眼レンズ10倍、対物レンズ20倍(トータル200倍)の視野像で、背景を暗状態 (クロスニコル)にして、観察を行った。
図3(A)は、実施例1で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄なし)の偏光顕微鏡写真であり、
図3(B)は、参考例1で得られた未延伸糸(メタノール洗浄なし)の偏光顕微鏡写真である。いずれも、繊維部分のみ光が透過して干渉色を示していることが確認できる。このことから、乾式紡糸による未延伸糸の巻取り工程において、既にシルクフィブロインの結晶配向化が起こっているものと理解できる。なお本法の乾式紡糸では、吐出された紡糸液が重力に従い流れ落ちるため、ここでタンパク質高分子が流動配向して偏光を生じるようになったと考えられる。
【0066】
<走査型電子顕微鏡(SEM)による形態観察>
実施例1で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄なし)を炭素鋼カミソリで切断し、日本電子製走査電子顕微鏡JSM−7100Fで撮像した。
図4(A)は、実施例1で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄なし)の側面の電子顕微鏡写真であり、
図4(B)は、実施例1で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄なし)の断面の電子顕微鏡写真である。
図4(A)から繊維側面が滑らかであること、
図4(B)から繊維内部が密に詰まった均一構造であることが理解できる。
【0067】
同様に、実施例2で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄有り)を炭素鋼カミソリで切断し、日本電子製走査電子顕微鏡JSM−7100Fで撮像した。
図5(A)は、実施例2で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄有り)の側面の電子顕微鏡写真であり、
図5(B)は、実施例2で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄有り)の断面の電子顕微鏡写真である。
図5(A)、
図5(B)から、側面および断面の状態は、実施例1で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄なし)とほぼ同様であり、メタノール処理により繊維表面の形状に影響がないことが確認できる。
【0068】
<熱延伸糸に含まれるイオン液体の分析>
実施例1で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄なし)を炭素鋼カミソリで切断し、日本電子製走査電子顕微鏡JSM−7100Fに付属のEDX装置で元素分析した。
図6は、実施例1で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄なし)の断面から抽出したX線スペクトル(EDXスペクトル)である。
図6中において、縦軸はEDX検出器の強度(Counts)、横軸は特性X線のエネルギー(keV)である。このスペクトルの2.6keV付近に塩素由来のKα線が見られ、これは実施例で用いたイオン液体(1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド([Hmim][Cl]))の塩素原子に由来する特性X線であることが理解できる。なお、イオン液体は一般に難揮発性であり、乾式紡糸により紡糸液中のイオン液体がほぼ全量成形体内に残存することが明らかである。
【0069】
<熱延伸糸に含まれるイオン液体の分布>
実施例1で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄なし)を炭素鋼カミソリで切断し、日本電子製走査電子顕微鏡JSM−7100Fに付属のEDX装置により、塩素原子(Kα線:2.6keV)の元素マッピングを行った。
図7(A)は、実施例1で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄なし)の断面のEDX視野像であり、
図7(B)は、
図7(A)に示す断面における塩素シグナルに着目した元素マッピング像である。元素マッピング像より、イオン液体(1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド([Hmim][Cl]))の塩素原子が繊維内部に均一に分布していること、すなわち、イオン液体が繊維内部に均一に分布していることが理解できる。
【0070】
<メタノール洗浄によるイオン液体除去の確認>
実施例1で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄なし)と同様の方法により、実施例2で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄有り)について、日本電子製走査電子顕微鏡JSM−7100Fに付属のEDX装置により測定を行うことで、メタノール洗浄によるイオン液体除去の確認を行った。
図8は、実施例2で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄有り)の断面から抽出したX線スペクトル(EDXスペクトル)であり、
図9(A)は、実施例2で得られた熱延伸糸(メタノール洗浄有り)の断面のEDX視野像であり、
図9(B)は、
図9(A)に示す断面における塩素シグナルに着目した元素マッピング像である。
図8に示すように、2.6keV付近に塩素由来のKα線のピークは確認できず、また、
図9(A)、
図9(B)に示すように、断面の元素マッピング像においても、塩素シグナルは確認されなかった。この結果より、メタノール洗浄の工程により繊維中からイオン液体(1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド([Hmim][Cl]))がほぼ全量(0.1重量%以下)除去されたと判断できる。