(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803640
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】尿中ケトン体検出用試験片
(51)【国際特許分類】
G01N 33/52 20060101AFI20201214BHJP
G01N 33/64 20060101ALI20201214BHJP
G01N 33/493 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
G01N33/52 B
G01N33/64
G01N33/493 A
【請求項の数】4
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2019-29198(P2019-29198)
(22)【出願日】2019年2月21日
(65)【公開番号】特開2019-144248(P2019-144248A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2019年10月29日
(31)【優先権主張番号】特願2018-30561(P2018-30561)
(32)【優先日】2018年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 晶子
(72)【発明者】
【氏名】大畑 和夫
【審査官】
海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2002/0061563(US,A1)
【文献】
米国特許第06162647(US,A)
【文献】
特開昭60−233552(JP,A)
【文献】
特開平01−224667(JP,A)
【文献】
特開昭56−125668(JP,A)
【文献】
松木美貴ほか,尿ケトン体改良試験紙法の特異性に関する評価,医学検査,2014年 9月25日,Vol.63,No.5,PP.586-589
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロプルシドナトリウム反応を利用した尿中ケトン体検出において、チオール基を有する薬剤の服用に起因する偽陽性を抑制するために、酸化剤を含有する尿中ケトン体検出用試験片。
【請求項2】
酸化剤がヨウ素酸カリウムである、請求項1に記載の尿中ケトン体検出用試験片。
【請求項3】
ニトロプルシドナトリウム反応を利用した尿中ケトン体検出用試験片において、チオール基を有する薬剤の服用に起因する偽陽性を抑制するために、酸化剤を添加することを特徴とする、偽陽性抑制方法。
【請求項4】
酸化剤がヨウ素酸カリウムである、請求項3に記載の偽陽性抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿中のケトン体測定における非特異反応の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
尿中の各種成分の検出は、種々の疾患、特に腎疾患、尿路疾患、糖尿病の診断に用いられている。尿検体の採取は被験者への負担が少ないこともあって、尿検査は病院の受診者だけではなく、健康診断でも必ず実施される検査となっている。
【0003】
尿検体の検査に使用する尿試験紙は、尿中の各種成分を呈色反応により検出可能な試験片を、PET等の合成樹脂の支持体上に複数貼り付けた形状が一般的である。この尿試験紙を紙カップ等に採取した尿検体に浸けてから引き上げ、試験片部分の呈色を目視で確認して、各種成分の有無を定性的(陽性、または陰性)に判定する。全自動分析装置で検査する場合には、尿試験紙に尿検体を滴下して、試験片の呈色を光学的に検出し、検量線にあてはめて各種成分の濃度を算出する。
【0004】
尿試験紙で検出可能な項目としては、ブドウ糖、蛋白質、潜血、およびケトン体等が挙げられる。この他クレアチニンも測定可能であり、随時尿の蛋白質濃度から一日の尿蛋白質量を算出することも可能である。
【0005】
ケトン体は、アセトン、アセト酢酸、およびβ-ヒドロキシ酪酸の総称であり、健常人の尿では通常検出されない。しかしながら、糖尿病、甲状腺機能亢進症等では、尿中ケトン体が陽性になることが知られている。
【0006】
尿中ケトン体の検出原理は、ニトロプルシドナトリウムがアセトンやアセト酢酸と反応して、紫色に呈色することを利用している。しかしながら、ニトロプルシドナトリウムはチオール基を持つ化合物とも同様に反応して紫色を呈する。すなわち、被験者がチオール基を持つ化合物を含む薬剤を服用している場合、その薬剤が尿中に排出されてニトロプルシドナトリウムと反応し、尿中ケトン体の検査結果が偽陽性になる。
【0007】
このような尿中ケトン体が偽陽性となるチオール基を持つ薬剤としては、カプトプリル(降圧剤)やブシラミン(抗リウマチ剤)が知られている。特にブシラミンの副作用として蛋白尿があるため、ブシラミン治療患者では高頻度に尿定性検査が実施されるので、尿中ケトン体が偽陽性となるのは問題となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、尿中ケトン体測定において、チオール基を持つ薬剤に起因する偽陽性の抑制を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、以下の発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、
(1)酸化剤 を含有する尿中ケトン体検出用試験片。
(2)前記酸化剤が偽陽性を抑制するための酸化剤である、(1)に記載の尿中ケトン体検出用試験片。
(3)酸化剤がヨウ素酸カリウムである、(1)または(2)に記載の尿中ケトン体検出用試験片。
(4)尿中ケトン体検出用試験片において、酸化剤を添加することを特徴とする、偽陽性抑制方法。
(5)酸化剤がヨウ素酸カリウムである、(4)に記載の偽陽性の抑制方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の尿中ケトン体検出用試験片は、酸化剤を含有しているため、尿検査の被験者がチオール基を持つ薬剤を服用している場合でも、検査結果が偽陽性になることを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の尿中ケトン体検出用試験片は、以下に詳細に説明するように、ケトン体検出用試薬を含む試験片として作製する。さらに、その他の検出対象項目の試験片を支持体上に有して、多項目検査用尿試験紙として構成してもよく、尿中ケトン体のみを検出する単項目の試験紙としてもよい。
【0013】
本発明の尿中ケトン体検出用試験片は、ニトロプルシドナトリウムと酸化剤を含む試薬組成物を含む。本発明の尿中ケトン体検出用試験片において、酸化剤はニトロプルシドナトリウムがチオール基を持つ化合物と反応して、非特異的に呈色し、偽陽性となることを抑制することができる。酸化剤としては、特に限定されるものではないが、ヨウ素酸のアルカリ金属塩やフェリシアン化カリウムを用いることができる。これらの酸化剤のうち、ヨウ素酸カリウムが好ましい。
【0014】
本発明の尿中ケトン体検出用試験片は、ニトロプルシドナトリウムと酸化剤を含む溶液を調製し、吸収性担体に含浸させた後に乾燥させて作製する。溶液中のニトロプルシドナトリウムの濃度は、0.5%〜1.5%、とすることが好ましい。また、溶液中の酸化剤の濃度は、0.25%〜0.75%とすることが好ましい。
【0015】
試験片に坦持させる試薬組成物として、ニトロプルシドナトリウム、酸化剤に加えて可溶化剤、増感剤、湿潤剤や緩衝剤などを用いても良い。
【0016】
上記試薬組成物を含浸させる吸収性担体としては、濾紙が多用されるが、綿、不繊布、ガラス繊維等も使用可能であり、さらにゼラチン、合成樹脂等の有機ポリマーに試薬組成物 を含有させることも可能である。
【0017】
このようにして製造した尿中ケトン体検出用試験片を支持体に貼付するが、その他の検出対象項目を検出する試験片とともに支持体に貼付するようにしてもよい。支持体としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル等のプラスチック片あるいはシートからなる支持体が使用可能である。
【0018】
このようにして得られた試験紙を、尿を含む 液体試料に浸し、直ちに引き上げる。そして一定時間後の呈色を、あらかじめ作成しておいた標準の色調表と肉眼で比較することにより、試料の定性あるいは半定量試験を行う。あるいは測定装置を用いて反射率などを光学的に測定し、検量線にあてはめて濃度を求める定量試験を行うことも可能である。
【実施例】
【0019】
実施例1
(酸化剤を含む尿中ケトン体検出用試験片)
0.8%ニトロプルシドナトリウム、0.4%ヨウ素酸カリウム、グリシン緩衝液、を含む尿中ケトン体検出用溶液を調製し、ろ紙に含浸させた後に乾燥させて、尿中ケトン体検出用試験片とした。
【0020】
比較例1
(対照用尿中ケトン体検出用試験片)
ヨウ素酸カリウムを含まない他は、実施例1と同様にして、対照用尿中ケトン体検出用試験片を作製した。
【0021】
実施例2
実施例1、比較例1で作製した尿中ケトン体検出用試験片を用いて、尿検体200例を測定した。酸化剤を含む試験片では陰性、対照用試験片では陽性 となった検体が、25例あった。これら25例の検体は酵素法によるケトン体測定結果が0.0mg/dL(検出感度以下)であった。また、これら25例の検体は、すべてブシラミン服用中の関節リウマチ患者の尿であった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の尿中ケトン体検出用試験片は、酸化剤を含有しているため、チオール基を持つ化合物に起因する非特異的な反応を効果的に抑制することができる。したがって、尿検査の被験者がチオール基を持つ薬剤を服用している場合でも、尿中ケトン体の検査結果が偽陽性になることを抑制することができる。