【実施例1】
【0012】
図1は、本実施の形態例におけるドラム式洗濯乾燥機の右側面図である。
図1に示すように、ドラム式洗濯乾燥機は、外郭を構成する筐体1の略中央に、洗濯物を出し入れするための投入口1aが設けられており、この投入口1aにはドア2を開閉自在に取り付けてある。筐体1の上部にある操作パネル3は、運転を逐次制御するための制御装置4と電気的に接続されており、運転コースの設定や運転状態の表示を行う。
【0013】
筐体1の内部には、水を溜める外槽23がガススプリング50や補助ばね25を介して防振支持されており、洗濯物を収納するための洗濯兼脱水槽であるドラム21を内包する。このドラム21は、開口部21aと背面とを有する略円筒形に形成され、シャフト22aを介して回転自在に取り付けてある。このシャフト22aに、外槽23の背面に取り付けたモータ22が連結され、このモータ22によりドラム21は正転(ドラム21の正面から見て時計回り)、逆転(ドラム21の正面から見て反時計回り)方向の両方向に回転駆動される。ドラム21内周壁には、洗濯物を持ち上げるためのリフタ21bと、脱水のための貫通孔21cが複数設けられている。また、ドラム21の前端には、円筒状の流体バランサ21dが設けられている。なお、ドラム21の回転軸は、正面から背面に向けて水平または下向きに傾斜させている。
【0014】
外槽23は、前面と背面を有する略円筒に形成され、外槽23の振動を検出するための振動検出手段27を備えている。外槽23の前面にある開口部23aは、環状のパッキンであるベローズ26で筺体1の投入口1aと接続されており、ドア2を閉めることで水封される。また、筐体1の投入口1a、外槽23の開口部23a、ドラム21の開口部21aは連通しており、ドア2を開くことでドラム21内への洗濯物の出し入れが可能となっている。言い換えると、洗濯物がドラム21に入っていない状態において、投入口1aの中心とドラム21の開口部21aの中心は、ほぼ同じ高さとなっている。
【0015】
また、外槽23には、給水弁11aと洗剤容器12を経路に有する給水ホース11が接続されており、給水弁11aを開くことで、外槽23内に洗濯水の供給が可能となっている。そして、外槽23には、排水弁13aを経路に有する排水ホース13が接続されており、排水弁13aを開くことで、外槽23内の洗濯水が排水可能となっている。そして、外槽23には、外槽23内の除湿を行う乾燥ユニット14が接続されている。
【0016】
ここで
図2に、ガススプリング50の要部断面図を示す。ガススプリング50は、有底円筒状のシリンダ51内に、ピストン52が摺動可能に設けられている。ピストン52は、シリンダ51内をシリンダ上室51aとシリンダ下室51bとの2室に分け、これら2室を連通させるオリフィス53を備えると共に、ピストンロッド54の一端部が連結されている。ピストンロッド54は、ピストンロッド54の外周面に設けられた摺動面54aと、シリンダ51の開口部に装着されたロッドガイド55及びオイルシール56とによって、シリンダ51との間を摺動可能に封止している。この摺動面54aは、封止性を考慮して、シリンダ51と摺動しない部分よりも、表面粗さが小さい。なお、ピストンロッド54は、外槽23が振動した時にガススプリング50が縮みきらないように、洗濯物がドラム21に入っていない状態で、ピストンロッド54の摺動面54aの半分以上が、シリンダ51の外側に露出している。
【0017】
このようにして密封されたシリンダ51内には、油液とガスが混在して封入され、洗濯物がドラム21に入っていない状態において、ピストン52が油液中に浸漬され、オリフィス53は油液で満たされている。なお、油液は、オリフィス53を通過する際の粘性抵抗により減衰を発生させるためのものであり、ガスは変位に対する復元力を発生させるためのものである。また、封入するガスは空気でもよいが、不活性ガスである窒素やアルゴンの方が油液への溶け込みを防ぐことができる。
【0018】
また、ガススプリング50は、シリンダ51の底部に取り付け部50aを有し、弾性体であるブッシュ28を介して、外槽側取り付け台24aに接続されている。同様に、ピストンロッド54も、先端部に取り付け部50bを有し、ブッシュ28を介して、筐体側取り付け台24bに接続されている。なお、外槽側取り付け台24aは外槽23に、筐体側取り付け台24bは筐体1に固定されている。すなわち、ガススプリング50は、外槽23と筺体1との間に設けられ、ドラム21の回転軸に対して左右に一本ずつ配されている。また、外槽23とドラム21とモータ22の合計質量Mの重心は、重量物であるモータ22によって後方に位置するため、外槽23の後側にガススプリング50が配されている。これによれば、ガスダンパ50の数nが少なくても、前記合計質量Mの重心をバランスよく支持できるため、補助ばね25のばね定数を小さくすることが出来る。なお、ガスダンパ50が一本あたりに負担する荷重を小さくするために、ガスダンパ50は3本以上としても良い。
【0019】
以上のような位置関係で外槽23を支持するために、ガススプリング50に封入するガスは、シリンダ51内の油液にピストン52が浸漬される位置で、外槽23とドラム21とモータ22の各質量の和M(kg)と重力加速度g(m/s
2)との積Mg(N)を、ピストン52の作動方向に直交するピストン
52の断面積
A(m
2)と、ガススプリング50の数n(本)との積n
A(m
2)で除した値Mg/n
Aよりも、前記ガススプリング50に封入するガスの圧力P(Pa)を大きくしてある。このとき、ガススプリング50は、ピストン52がシリンダ51の油液に浸漬されており、かつ、シリンダ上室51aが少なくともガスの体積以上の容積となっている。また、このとき、外槽23が振動してもシリンダ51のシール性を保つために、摺動面54aの一部がシリンダ51の外側に露出している。
【0020】
これによれば、ピストン51には油液による粘性抵抗が作用すると共に、ピストン51とシリンダ51とが当接する前に外槽23が弾性支持されるため、振動や騒音を低減することができる。また、ピストンロッド54が伸びきった状態から縮み始めるのに必要な荷重、すなわち初期荷重も大きくなるため、投入口1aと外槽23の開口部23aとが連通した状態で、外槽23とドラム21とモータ22の合計質量Mをガススプリング50によって支持できる。さらには、シリンダ上室51a内には、ピストン52を押し込むことが出来る空間もあるため、外槽23に重量物を設ける場合や外槽23内に水を溜めた場合の沈みこみ量に対する余裕分を確保できる。なお、
シリンダ51の面積
A(m
2)は、ピストンロッド54の長手方向に平行な圧力成分が作用する面、言い換えるとピストン51の摺動方向に対して直交する面の合計である。また、外槽23に重量物を設ける場合とは、例えば、外槽23の振動を抑制するための重りを設ける場合や、乾燥ユニット14を筐体1ではなく外槽23に固定した場合などがある。
【0021】
ここで
図3は、ガススプリング50が発生させる荷重について示す模式図である。
図3より、シリンダ51内には圧力P(Pa)のガスが封入され、ピストン52の作動方向と直交する断面積がA(m
2)であるピストン52を有し、ピストンロッド54は大地Gに固定されているとする。まず、シリンダ51内にピストンロッド54が所定量押し込まれている場合の静的つり合いを考える。このとき、シリンダ51内にピストンロッド54を押し込もうとする力F(N)は、ガスの圧力P(Pa)とピストン
52の断面積
A(m
2)との積P
A(N)に等しい。したがって、ガスの圧力Pを大きくすることで、ガススプリング50の初期荷重を大きくすることが出来る。なお、シリンダ上室51aとシリンダ下室51bは、オリフィス53で連通していることから、ガスの圧力はシリンダ上室51aの容積に比例するのではなく、シリンダ51とピストン52とオリフィス53とピストンロッド54とに囲まれた有効容積に比例する。
【0022】
次に、シリンダ51内にピストンロッド54がさらに押し込まれている場合の静的つり合いを考える。このとき、ピストンロッド54の押し込み量に比例して、前記有効容積が減少し、シリンダ51内の圧力が増加する。シリンダ51内の圧力が増加すると、ピストンロッド54を押し戻そうとする力、すなわち復元力が増加する。このようなピストンロッド54の押し込み量に対する復元力の大きさは、ばね定数に相当し、ピストンロッド54の径の二乗に比例する。言い換えると、ピストンロッド54の径を細くすることで、ばね定数を小さくすることが出来る。したがって、ピストンロッド54の径の太さを維持したまま、ガスの圧力P(Pa)を大きくすることで、ガススプリング50は、ばね定数の増加を抑えながら、大きな初期荷重を発生させることが出来る。
【0023】
上記構成において、その動作を説明する。ドア2を開いてドラム21内に洗濯物を投入し、洗剤容器12内に所定量の洗剤を投入した後、運転を開始させると、まず、洗い工程を実行する。洗い工程において、給水弁11aが開き給水された水は、洗剤容器12および給水ホース11を介して、洗剤と共に外槽23内に入る。この動作を所定時間実行した後、ドラム21が正転、停止、逆転、停止を繰り返す攪拌動作を所定時間実行する。このとき、ドラム21内に収容された洗濯物は、ドラム21内周壁に設けられたリフタ21bによって回転方向に持ち上げられ、持ち上げられた高さ位置から落下する攪拌動作が繰り返されるため、洗濯物にはたたき洗いの作用が働いて洗われる。
【0024】
この動作を所定時間行った後、洗い工程を終了し、脱水工程を実行する。この脱水工程においては、まず排水弁13aが開き、外槽23内の水が排水ホース13を介して機外に排水される。次に、ドラム21を一方向(本実施例では逆転方向)に回転させて、所定回転速度(例えば、900r/min)に到達した後に所定時間回転させることで、洗濯物に含まれる水を脱水する。
【0025】
この脱水工程を所定時間行った後、給水弁11aが開き給水され、その水は洗剤容器12および給水ホース11を通り、外槽23内に注水され、すすぎ工程が実施される。このすすぎ工程においては、前述した洗い工程と同様に、正転、休止、反転、休止の動作を繰り返す攪拌動作を所定時間実行する。このとき、洗濯物がドラム21の内周壁に設けられたリフタ21bによって回転方向に持ち上げられ、持ち上げられた高さ位置から落下する攪拌動作が繰り返されるため、洗濯物に含まれる洗剤成分が希釈され、すすぎが行われる。
【0026】
その後、前述した脱水工程およびすすぎ工程を所定回数繰り返し、最終脱水工程に移行する。この最終脱水工程における脱水時間は、前述の脱水工程より長く設定してある。この最終脱水工程を行った後、乾燥工程を実行する。乾燥工程では、乾燥ユニット14で外槽23内への送風を所定時間行いながら、前述した洗い工程と同様に、正転、休止、反転、休止の動作を繰り返し、洗濯物がドラム21の内周壁に設けられたリフタ21bによって回転方向に持ち上げられ、持ち上げられた高さ位置から落下する攪拌動作が繰り返される乾燥動作を所定時間実行する。
【0027】
以上のように本実施の形態例においては、ガススプリング50は、ばね定数の増加を抑えながら、大きな初期荷重を発生させることが出来るため、運転時の振動や騒音の増加を抑えながら、洗濯容量または乾燥容量をより大きくできる効果が得られる。特に、外槽23とドラム21とモータ22の合計質量Mが大きいほど、この効果は大きくなり、少なくとも洗濯容量は6kg以上の場合、より好ましくは洗濯容量が9kg以上の場合に、より大きな効果が得られる。また、外槽23とドラム21とモータ22の合計質量Mをガススプリング50で支えることで、外槽23の姿勢を保持するための補助ばね25の数や大きさを減らせる効果も有する。
【0028】
なお、本実施の形態例においては、ドラム式洗濯乾燥機について述べたが、ドラム式洗濯機についても同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0029】
図4は、第2の実施の形態例における筐体1の内部構造を示す正面図であり、主な防振構造以外は、説明のために省略してある。外槽23は、外周面の上側に支持部23b、下側に支持部23cを備えている。支持部23bは、ガススプリング60と回転可能に接続されている。一方、支持部23cは、回転支持部29aで減衰手段29の一端と連結されている。そして、減衰手段29の他端は筐体1と回転支持部29bで連結されている。減衰手段29は、回転支持部29aと回転支持部29bで回転可能に配されている。外槽23は、ドラム21の回転軸に対して左右に一本ずつ配されたガススプリング60によって、筐体1の上部の支持部1bから懸架されている。他の構成とドラム21の回転制御は、実施例1と同じであり、同一符号を付して説明を省略する。
【0030】
ここで
図5は、ガススプリング60の要部断面図である。ガススプリング60は、有底円筒状のシリンダ61内に、ピストン62が摺動可能に設けられており、このピストン62によって、シリンダ61内がシリンダ上室61aとシリンダ下室61bとの2室に分けられている。ピストン62は、ピストンロッド64が連結され、シリンダ上室61aとシリンダ下室61bとを連通させるオリフィス63が設けられている。なお、シリンダ61内には、油液とガスが混在して封入され、ピストン62が油液中に浸漬されている。
【0031】
シリンダ61は、上端面に第一の挿入孔61cと下端面に第二の挿入孔61dとを有し、第一の挿入孔61cよりも第二の挿入孔61dの方が大きくなっている。また、シリンダ61の上端面には半球形状の受け部60bを有し、外槽23の支持部23bによって回転可能に支持される。またシリンダ61は、ピストンロッド64の外周面に設けられた摺動面64dと、ロッドガイド65a及びオイルシール66aとロッドガイド65b及びオイルシール66bとによって、ピストンロッド64との間が摺動可能に封止されている。
【0032】
ピストンロッド64は、第一の挿入孔61cと第二の挿入孔61dの大きさに合わせて小径部64aと大径部64bの段付き構造となっている。また、ピストンロッド64の小径部64a側の一端は、半球形状の受け部60aを有し、筐体1の支持部1bによって回転可能に懸架されている。一方、大径部64b側は、さらに径の大きいストッパ64cを備え、ピストンロッド64の一端が第二の挿入孔61dよりもシリンダ61の内側に入り込むのを防いでいる。
【0033】
ここで、ガススプリング60は、実施例1と同様に、シリンダ61内の油液にピストン62が浸漬される位置で、外槽23とドラム21とモータ22の各質量の和M(kg)と重力加速度g(m/s
2)との積Mg(N)を、ピストン62の作動方向に直交するピストン62の断面積A(m
2)と、ガススプリング60の数n(本)との積nA(m
2)で除した値Mg/nAよりも、前記ガススプリングに封入するガスの圧力P(Pa)を大きくしてある。このとき、ガススプリング60の摺動面64dの少なくとも一部が、シリンダ61の外側に露出している。これによれば、外槽23の自重でシリンダ61が下方に押し下げられてガススプリング61に引張力が作用したときに、シリンダ61内にピストンロッド64の大径部64bが押し込まれることで、シリンダ61内の圧力が増加し、引張力に対する復元力が発生する。
【0034】
上記構成によれば、外槽23を上方から懸架した場合においても、ガススプリング60により、ばね定数の増加を抑えながら、大きな初期荷重を発生させることが出来るため、実施例1と同様の効果を得ることが出来る。なお、減衰手段29は、摩擦ダンパ、オイルダンパ、摺動ダンパ、磁性流体を利用した電磁などでもよく、外槽23の外周面に二つ以上設けても同様の効果が得られる。また、ガススプリング60を三つ以上設けても同様の効果が得られる。
【実施例5】
【0039】
図8は、第5の実施の形態例における筐体1の内部構造を示す右側面図であり、主な防振構造以外は、説明のために省略してある。実施例1と同様に、外槽23はガススプリング50によって下方より支持されている。また、筐体1には、ガススプリング50のシリンダ51内の圧力を調整するための圧縮機80と、シリンダ51内の圧力を検出する圧力検出手段80aが設けられている。他の構成は、実施例1と同じであり、同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
ここで、圧縮機80の制御方法について、
図9を用いて説明する。
図9は、脱水回転速度に対する外槽23の振動振幅と圧縮機80の動作を示している。
図9に示す破線は、圧縮機80の圧力を小さく設定したときの振動振幅であり、一点鎖線は、圧縮機80の圧力を大きく設定したときの振動振幅である。例えば、圧縮機80の圧力を大きくすると、ガススプリング50のばね定数が増加して、共振回転速度で極大値81bを通るような振動振幅となる。一方、圧縮機80の圧力を小さくすると、ガススプリング50のばね定数が低減し、共振回転速度で極大値81aを通るような振動振幅となる。そこで、極大値81aと極大値81bとの間にあり、かつそれらよりも振動振幅が小さい点81cを通る様に、所定の脱水回転速度で、圧縮機80によってシリンダ51内の圧力を大きい状態から小さい状態へ切り替える。これによれば、極大値81a及び81bを通ることなく、実線で示す振動振幅となり、水や洗濯物の量が変化しても、低振動のまま脱水回転速度を上昇させることができる。
【0041】
以上のように本実施の形態例においては、実施例1と同様の効果が得られると共に、外槽23の共振を避けた運転が可能となるため、より一層低振動化を図ることができる。加えて、外槽23に水が入って重くなったときに、圧力検出手段80aで検出したシリンダ51内の圧力に応じて、圧縮機80によってシリンダ51内の圧力を高めることで、ガススプリング50で外槽23を支持する力を増加させることも出来るため、洗濯容量または乾燥容量の増加をより一層図ることが出来る。