特許第6803658号(P6803658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803658
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】食品用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/20 20160101AFI20201214BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20201214BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20201214BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20201214BHJP
   A21D 13/06 20170101ALI20201214BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20201214BHJP
   A21D 2/10 20060101ALI20201214BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   A23L33/20
   A23L33/21
   A23L33/17
   A21D13/00
   A21D13/06
   A21D13/80
   A21D2/10
   A21D2/26
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-180304(P2015-180304)
(22)【出願日】2015年9月14日
(65)【公開番号】特開2017-55662(P2017-55662A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227489
【氏名又は名称】日東富士製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】玉井千恵子
(72)【発明者】
【氏名】川合英誉
(72)【発明者】
【氏名】小堀奈美
(72)【発明者】
【氏名】西健未
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5710057(JP,B2)
【文献】 特開平05−316927(JP,A)
【文献】 特開2006−340653(JP,A)
【文献】 特開2015−065839(JP,A)
【文献】 特開2013−000094(JP,A)
【文献】 特開2014−140364(JP,A)
【文献】 特開2013−226087(JP,A)
【文献】 特開2013−215163(JP,A)
【文献】 特開2000−300159(JP,A)
【文献】 特開2005−102597(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0118301(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0374000(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00−35/00
A21D 2/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッター生地を調製し、該バッター生地を焼成、油ちょう又は蒸すことにより、食品を製造するための食品用組成物(イースト発酵食品用組成物を除く)において、低糖質食品原料と、麦麹粉末、米麹粉末、玄米麹粉末、黒米麹粉末、蕎麦麹粉末から選ばれた1種の麹粉末とを含有することを特徴とする食品用組成物。
【請求項2】
乾燥物換算にて、前記低糖質食品原料を20質量%以上含有する請求項1記載の食品用組成物。
【請求項3】
乾燥物換算にて、前記低糖質食品原料を20質量%以上、前記麹粉末を0.01〜10質量%含有する請求項1又は2記載の食品用組成物。
【請求項4】
前記低糖質食品原料が、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、大豆粉、豆乳粉末、おから、フスマ、セルロース、ポリデキストロース、小麦食物繊維、大豆食物繊維、難消化性グルカン、寒天、こんにゃく粉、アーモンドプードル、ナッツ粉末、小麦蛋白、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、卵蛋白から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1つに記載の食品用組成物。
【請求項5】
前記低糖質食品原料が、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、フスマ、セルロース、ポリデキストロース、小麦食物繊維、大豆食物繊維、難消化性グルカンから選ばれた少なくとも1種の難消化性素材と、大豆粉、豆乳粉末、おから、小麦蛋白、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白から選ばれた少なくとも1種の植物蛋白素材とを含有する請求項4記載の食品用組成物。
【請求項6】
乾燥物換算にて、更に、小麦粉を5〜50質量%含有する請求項1〜のいずれか1つに記載の食品用組成物。
【請求項7】
たこ焼き、お好み焼き、鯛焼き、ホットケーキ、ドーナツ、マフィン、カップケーキ、パウンドケーキ、スポンジケーキ、シュー、蒸しパンから選ばれた1種からなる食品を製造するために用いられる請求項1〜のいずれか1つに記載の食品用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低糖質食品原料を含有する食品用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一般的な健康志向を反映して、あるいは糖尿病患者などの糖質制限が課せられる人々のために、難消化性澱粉、難消化性デキストリンなどの低糖質食品原料を含有する食品の需要が高まっている。
【0003】
しかしながら、難消化性澱粉、難消化性デキストリンなどの低糖質食品原料を多量に配合すると、食感がボソボソとして、口溶けや風味が悪く、美味しい食品にならないという問題があった。
【0004】
このような課題を解決するため、下記特許文献1には、食物繊維として難消化性デキストリンを含み、蛋白質系原料としてホエイパウダー又はホエイ蛋白を含有することを特徴とする低糖質焼菓子用組成物が開示されている。
【0005】
一方、通常の食品の食感を改善する技術として、下記特許文献2には、焼菓子に麹を添加することにより、焼菓子のサクサクした食感や口溶け感を向上することが記載されている。
【0006】
また、下記特許文献3には、酒粕を自己消化及び/又は蛋白分解酵素を用いて処理して加熱して得られる品質改良剤を使用することで、小麦粉加工食品の食感が改良されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−65839号公報
【特許文献2】特開2002−125577号公報
【特許文献3】特開2011−120575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1では、蛋白質系原料としてホエイパウダー又はホエイ蛋白を含有させることにより、食物繊維として難消化性デキストリンを含ませた際の食感を改善できることが記載されているが、その効果は充分なものとは言えなかった。
【0009】
一方、特許文献2には、焼菓子に麹を添加することにより、サクサクした食感や口溶け感が向上することが記載されているが、難消化性澱粉、難消化性デキストリンなどの低糖質食品原料を原料とした場合の効果については何ら記載されていない。
【0010】
また、下記特許文献3では、酒粕を自己消化及び/又は蛋白分解酵素を用いて処理して得られる品質改良剤を使用しているが、難消化性澱粉、難消化性デキストリンなどの低糖質食品原料を原料とした場合の効果については何ら記載されていない。
【0011】
したがって、本発明の目的は、低糖質食品原料を使用した食品の食感や風味をより効果的に改善できるようにした食品用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、バッター生地を調製し、該バッター生地を焼成、油ちょう又は蒸すことにより、食品を製造するための食品用組成物において、低糖質食品原料と、麹とを含有することを特徴とする食品用組成物を提供するものである。
【0013】
本発明の食品用組成物においては、乾燥物換算にて、前記低糖質食品原料を20質量%以上含有することが好ましい。
【0014】
また、乾燥物換算にて、前記低糖質食品原料を20質量%以上、前記麹を0.01〜10質量%含有する。
【0015】
また、前記低糖質食品原料が、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、大豆粉、豆乳粉末、おから、フスマ、セルロース、ポリデキストロース、小麦食物繊維、大豆食物繊維、難消化性グルカン、寒天、こんにゃく粉、アーモンドプードル、ナッツ粉末、小麦蛋白、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、卵蛋白などから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
更に、前記低糖質食品原料が、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、フスマ、セルロース、ポリデキストロース、小麦食物繊維、大豆食物繊維、難消化性グルカンなどから選ばれた少なくとも1種の難消化性素材と、大豆粉、豆乳粉末、おから、小麦蛋白、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白などから選ばれた少なくとも1種の植物蛋白素材とを含有することが好ましい。
【0017】
前記麹が、麦麹、米麹、黒米麹、玄米麹、蕎麦麹、酒麹、豆麹、蘇鉄麹などから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
更に、乾燥物換算にて、更に、小麦粉を5〜50質量%含有することが好ましい。
【0019】
更にまた、本発明の食品用組成物は、たこ焼き、お好み焼き、鯛焼き、ホットケーキ、ドーナツ、マフィン、カップケーキ、パウンドケーキ、スポンジケーキ、シュー、蒸しパンなどから選ばれた1種からなる食品を製造するために用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低糖質食品原料と麹とを含有することにより、低糖質の食品を得ることができると共に、麹によって、口溶け感の向上、繊維感のマスキング効果が得られるので、低糖質でありながら、食感、食味に優れた食品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の食品用組成物は、低糖質食品原料と、麹とを含有することを特徴とする。
【0022】
本発明の対象とする食品は、バッター生地を焼成、油ちょう又は蒸すことにより製造される食品である。具体的には、例えば、お好み焼き、たこ焼き、鯛焼き、ホットケーキ、ドーナツ、マフィン、カップケーキ、パウンドケーキ、スポンジケーキ、シュー、蒸しパンなどから選ばれた1種が挙げられる。
【0023】
本発明において、低糖質食品原料とは、糖質が50質量%以下の食品原料をいう。ここでいう糖質とは、食物繊維を除いた炭水化物をいう。食物繊維の定量法としては、プロスキー法(No.985.29, Total Dietary Fiber in Foods, "Official Method of Analysis", AOAC, 15th ed., 1990, P.1105-1106)、酵素HPLC法(AOAC2001.03)、などが知られ、上記範囲を満たす食品原料であるかどうかは、それらの方法を用いて判断できる。
【0024】
上記低糖質食品原料としては、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、大豆粉、豆乳粉末、おから、フスマ、セルロース、ポリデキストロース、小麦食物繊維、大豆食物繊維、難消化性グルカン、寒天、こんにゃく粉、アーモンドプードル、ナッツ粉末、小麦蛋白、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、卵蛋白などを好ましく例示することができる。
【0025】
難消化性澱粉は、消化吸収を受けにくい食用の澱粉をいう。詳細には、上記したプロスキー法による食物繊維の含量が50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、更により好ましくは70質量%以上である食用の澱粉をいう。
【0026】
難消化性澱粉は、澱粉質原料を物理的、酵素的及び/又は化学的に処理すること等により得ることができる。例えば、特開平4−130102号公報及び特開平10−313804号公報に記載された方法に従い、澱粉質原料、好ましくは高アミロース澱粉質原料を湿熱処理する方法が挙げられる。より具体的には、減圧ラインと加圧蒸気ラインとの両方を付設し、内圧、外圧共に耐圧性の密閉できる容器を用い、この容器内に上記澱粉を入れ、減圧した後、蒸気を導入して加圧加熱し、又はこの操作を繰り返して、澱粉を所定時間加熱した後、冷却することにより湿熱処理する方法である。また、例えば、特開平8−56690号公報に記載された方法に従い、澱粉質原料に脱分枝化酵素を作用させる方法が挙げられる。より具体的には、ゼラチン化デンプンの水性スラリーを、プルラナーゼ、イソアミラーゼ等の脱分枝酵素により脱分枝し、そして得られる生成物を老化させる方法である。
【0027】
また、難消化性デキストリンとしては、例えば特公平3−47832号公報や、特公平4−43624号公報や、特公平8−2270号公報などに示される、焙焼デキストリンを水に溶解し、これにα−アミラーゼを作用させる方法で製造されたものなどが好ましく採用できる。
【0028】
難消化性澱粉及び難消化性デキストリンの原料となる澱粉質原料としては、食用として利用可能なものであればよく、特に制限はない。例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉、サゴ澱粉、片栗澱粉、葛澱粉、蕨澱粉、サゴ澱粉などが挙げられる。また、ウルチ種、ワキシー種、ハイアミロース種のように、育種学的手法もしくは遺伝子工学的手法において改良されたものを用いてもよい。更に、各種加工澱粉を用いてもよい。酸処理、アルカリ処理、酸化処理、エステル化処理、エーテル化処理、リン酸化処理、架橋処理といった化学的処理、加熱処理、α化処理、湿熱処理、ボールミル処理、微粉砕処理といった物理的処理、酵素処理といった加工処理や、それらの2種以上の処理を施した澱粉を使用してもよい。
【0029】
難消化性澱粉及び難消化性デキストリンとしては、市販品を使用することもでき、例えば、「ファイバージムRW」(商品名、松谷化学工業株式会社製)、「アミロジェルHB−450」(商品名、三和澱粉工業株式会社製)、「日食ロードスター」(商品名、日本食品化工株式会社製)、「パインファイバー」(商品名、松谷化学工業株式会社製)等を使用することができる。
【0030】
大豆粉は、食用として利用可能なものであればよく、特に制限はない。大豆を粉砕して乾燥して得られた大豆粉であってもよく、もしくは大豆を乾燥後に乾燥して粉砕して得られた大豆粉であってもよい。大豆の全部を用いて得られた大豆粉であってもよく、もしくは外皮等の一部を除いて得られた大豆粉であってもよい。また、全脂大豆粉、脱脂大豆粉のいずれも用いることができる。大豆粉は焙煎したものを用いてもよい。
【0031】
豆乳粉末は、豆乳を乾燥粉末化したものであり、各社から市販されている。豆乳粉末は、全脂豆乳粉末でも脱脂豆乳粉末でもよい。
【0032】
おからは、豆腐を製造する過程で、大豆から豆乳を絞った後に残ったものである。おからは、生でも乾燥されたものでもよいが、保存性等を考慮すると、乾燥おからが好ましく使用される。
【0033】
フスマは、穀類の外皮の粉砕物をいう。例えば、小麦のフスマ、大麦のフスマ、米糠などが挙げられる。また、穀類の外皮としては、大豆やトウモロコシの外皮なども挙げられる。フスマは焙煎したものを用いてもよい。
【0034】
低糖質食品原料としては、上記に例示した難消化性澱粉、難消化性デキストリン、大豆粉、豆乳粉末、おから及びフスマ以外にも、セルロース、ポリデキストロース、小麦食物繊維、大豆食物繊維、難消化性グルカン、寒天、こんにゃく粉、アーモンドプードル、ナッツ粉末、小麦蛋白、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、卵蛋白なども好ましく例示することができる。
【0035】
本発明においては、低糖質食品原料として、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、フスマ、セルロース、ポリデキストロース、小麦食物繊維、大豆食物繊維、難消化性グルカンなどから選ばれた少なくとも1種の難消化性澱粉素材と、大豆粉、豆乳粉末、おから、小麦蛋白、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白などから選ばれた少なくとも1種の植物蛋白素材とを含有することが好ましい。このように、難消化性澱粉素材と、植物蛋白素材とを併用することにより、糖質を制限しながら食品の骨格を保ち、外観が良好になるという効果が得られる。
【0036】
本発明の食品用組成物中の低糖質食品原料の含有量は、乾燥物換算にて、20質量%以上であることが好ましく、40〜90質量%であることがより好ましい。低糖質食品原料が、20質量%未満では、充分な糖質制限効果が得られず、90質量%を超えると、外観、食味食感ともに当該食品としての特徴を伴わなくなる傾向がある。
【0037】
本発明において、麹とは、麦、米、蕎麦、大豆、その他の穀物を原料として、麹菌を培養して得られるものをいう。具体的には、麦麹、米麹、黒米麹、玄米麹、蕎麦麹、酒麹、豆麹、蘇鉄麹などから選ばれた少なくとも1種が好ましく使用される。麹には、通常、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ等の酵素が含まれている。
【0038】
麹としては、特に麦麹が好ましく用いられる。麦麹としては、本出願人による特開2000−300159号公報に記載された方法により、剥皮した麦粒を含む原料に麹菌を培養して得られた麦麹を、乾燥、粉砕したものが好ましく使用される。
【0039】
この方法について、更に詳しく説明すると、まず、小麦、大麦等の麦粒(好ましくは小麦粒)を、剥皮装置を用いて剥皮する。このときの剥皮の度合い(剥皮された皮の質量/麦粒の初期質量)は、3〜30質量%であることが好ましい。剥皮の度合いが3質量%未満では麹菌の繁殖が一定ではなく、均一な麦麹を製造することが難しくなる。また、30質量%以上剥皮する場合は、経済的でない。なお、残存する繊維分は、麹菌が産生するヘミセルラーゼによって分解され、フスマ由来のざらつきがなくなる。
【0040】
剥皮した麦粒は、水で数回洗い、そのまま水に浸漬して、水分含量40%前後になるように調節する。この水分は、後の工程で蒸麦したときに、麦中の澱粉を適度にα化させるために必要である。水に浸漬した後、水切りをして蒸麦し、更に雑菌をなくすためにオートクレーブ処理する。オートクレーブ処理は、完全に滅菌することを目的としたものではなく、雑菌の量を通常より減らすことで麹菌を生えやすくすることを目的とする。
【0041】
上記作業の後、原料の温度を35℃付近まで下げて麹菌を接種する。原料に麹菌が行き渡るようによく混ぜて、恒温槽に入れてそのまま一晩培養(約14時間)した後、全体をかき混ぜて原料の一粒一粒をできるだけ離して混ぜる作業(切り返し)を行う。この作業の後、再び恒温槽の中で8時間程度培養し、2回目のかき混ぜ作業(切り返し)を行う。この後、更に18時間程度培養して、麦麹を得る。
【0042】
こうして得られた麦麹は、例えば凍結乾燥、通風乾燥、スプレードライ等の方法で乾燥させ、更に粉砕する。粉砕は、小麦粉程度の大きさ、好ましくは5〜200メッシュの大きさとなるまで行うことが好ましい。この時点ではまだ麹菌は生きており、ここに水分が加われば繁殖してくるので、熱による殺菌工程を行って麦麹粉末とする。殺菌工程は、例えば90℃で30〜60分間加熱することにより行うことができる。
【0043】
本発明の食品用組成物中の麹の含有量は、乾燥物換算にて、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜1質量%であることがより好ましい。麹の含有量が0.01質量%未満では、食感、食味の改善効果が弱まる傾向があり、10質量%を超えると、生地調整後の作業性の悪化や、焼成品の内部が不均一で食感が好ましくなくなる、麹の風味が食品の食味に影響する傾向がある。
【0044】
本発明の食品用組成物は、低糖質食品原料と麹の他に、小麦粉を含有してもよい。糖質制限効果が損なわれない程度に小麦粉を含有することにより、当該食品本来の自然な食味食感に近づく効果が得られる。小麦粉としては、特に限定されないが、強力粉が好ましく使用される。
【0045】
本発明の食品用組成物において、小麦粉を含有させる場合、食品組成物中の小麦粉の含有量は、特に限定されないが、食品の食感風味を向上させる観点から言えば、乾燥物換算にて5〜50質量%であることが好ましく、食品の食感風味を良好に維持しつつ糖質低減効果を高める観点から言えば、乾燥物換算にて5〜30質量%であることがより好ましい。小麦粉の含有量が5質量%未満では、低糖質食品素材由来の食味傾向が強くなり、食品の保形性もより悪くなる。小麦粉の含有量が50質量%を超えると、糖質制限効果が弱まる傾向がある。
【0046】
本発明の食品用組成物は、上記の他に、澱粉類、乳化剤、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳、グアガムやキサンタンガム等の増粘多糖類、大豆油、菜種油、オリーブ油、パーム油などの植物油脂ならびにヘット、ラードなどの動物油脂およびこれらの油脂を使用したショートニング、粉末油脂などの加工油脂等の油脂類や、糖類、山芋粉、食物繊維、膨脹剤、調味料、塩、砂糖、調味料、着色料、ビタミン類、ミネラル類を適宜添加してもよい。
【0047】
本発明の食品組成物は、上記原料を配合したミックス粉として調製されたものが好ましい。ミックス粉とした場合には、水、牛乳、玉子等の水分を、ミックス粉100質量部に対して、10〜400質量部混合することにより生地を得ることができる。
【0048】
上記加水量は、目的とする食品によっても異なり、たこ焼きの場合には、ミックス粉100質量部に対して、200〜400質量部が好ましく、ドーナツの場合には、ミックス粉100質量部に対して、10〜100質量部が好ましい。なお上記に限定されない。
【0049】
上記バッター生地には、各種の具材を添加することができる。例えば、たこ焼きの場合には、ぶつ切りのタコ、青ネギ、紅ショウガ等を加えればよく、お好み焼きの場合には、キャベツ、紅しょうが、天かす、桜エビ、豚肉、イカ、エビ等を添加することができる。
【0050】
こうして得られたバッター生地は、目的とする食品に応じた方法で、焼成、油ちょう又は蒸すことにより、目的とする食品を得ることができる。例えば、お好み焼きの場合には、上記バッター生地を鉄板上で焼くことにより得られ、たこ焼きの場合には、上記バッター生地をたこ焼き用の焼き型に流し込んで、ひっくり返しながら焼くことによって得られ、鯛焼きの場合には、上記バッター生地を鯛焼き用の焼き型に流し込んで、餡等のフィリングを加え、下型と上型とで挟み焼きすることによって得ることができる。また、ホットケーキの場合には、上記バッター生地を、油をひいた鉄板等に流し込んで焼成することにより得ることができる。更に、ドーナツの場合には、上記バッター生地を所定形状に成形して油ちょうすればよく、また蒸しパンの場合には、上記バッター生地を蒸し型に入れて蒸し器で蒸すことにより得ることができる。
【0051】
こうして得られた食品は、低糖質食品原料を含有することにより、糖質制限効果が得られると共に、麹によって、口溶け、食感が良好に維持され、風味も良好なものとなる。麹原料には麹菌の合成したアミラーゼ、プロテアーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼといった各種酵素が含まれており、これらがたこ焼き生地中のでん粉質、繊維質や蛋白質、またそれらの複合体に作用することでとろみや口溶けの向上効果が得られ、低糖質食品素材由来のぼそつきや繊維感、後味の悪さをマスキングすると考えられる。お好み焼きや鯛焼き、ホットケーキにおいても、麹原料の酵素の働きで食感がしっとりして口当たりが良くなり、低糖質食品素材による食味食感の悪化を改善したものと示唆される。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<試験例1(たこ焼きにおける難消化性澱粉の影響)>
下記表1に示すように、低糖質原料(難消化性澱粉及び豆乳粉末)の含有量の異なる試料1,2,3,4の配合からなるたこ焼き用ミックス粉を調製した。難消化性澱粉としては、松谷化学工業株式会社製の「ファイバージムRW」(商品名)を用いた。
【0054】
上記各ミックス粉100gに対して、水300ml、全卵50gを加えて混ぜ、生地を作成した。この生地を200℃のたこ焼き焼成機で適宜反転しながら約10分間焼成して、それぞれのミックス粉からなるたこ焼きを製造した。
【0055】
【表1】
【0056】
これらのたこ焼きについて、外観・ボリューム、食感・とろみ・口溶け、食味・後味を評価した。外観は保形性やボリューム感の優れたものを高得点とし、食感はとろみがあり口溶けが良いものを高得点、逆にべったりして口溶けが悪い、あるいは口当たりが悪いものを低得点とした。食味はまろやかで出汁風味原料の香りが立つものを高得点とした。
【0057】
評価は、試料1を3として、それと比較して、大変良いものを5、よいものを4、変わらないものを3、悪いものを2、大変悪いものを1とし、7名のパネラーの平均点で表示した。この結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2の結果から、難消化性澱粉の配合割合が多いほど、素材由来のぼそつきや後味の悪さが顕著になった。
【0060】
<試験例2(たこ焼きにおける麹の添加効果)>
下記表3に示すように、難消化性澱粉及び豆乳粉末(試験例1と同じ)を含有し、麦麹粉末の含有量の異なる比較例1,実施例1,実施例2,実施例3の配合からなるたこ焼き用ミックス粉を調製した。麦麹粉末としては、日東富士製粉株式会社製の麦麹原末を用いた。上記各ミックス粉を用いて、試験例1と同様にして、たこ焼きを製造した。
【0061】
【表3】
【0062】
これらのたこ焼きについて、外観・ボリューム、食感・とろみ・口溶け、食味・後味を、試験例1と同様な方法により、7名のパネラーによって評価した。
【0063】
評価は、比較例1を3として、それと比較して、大変良いものを5、よいものを4、変わらないものを3、悪いものを2、大変悪いものを1とし、全パネラーの平均点で表示した。この結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示すように、麦麹粉末を添加することにより、無添加の比較例1よりも、食感のとろみが増して口当たりが良く、難消化性澱粉由来のぼそつきや後味の悪さが軽減された。
【0066】
<試験例3(お好み焼き)>
下記表5に示す配合で、難消化性デキストリンを使用し、お好み焼き用のミックス粉を調整した。麦麹原末、難消化性澱粉は試験例1、2と同様のものを用い、難消化性デキストリンは松谷化学工業株式会社製の「ファイバーソル2」(商品名)を用いた。
【0067】
上記ミックス粉100gに対して、水140mlを加えて混ぜ、お好み焼きの生地を作成した。この生地にキャベツ280g、全卵50gを加えて混ぜた。200℃の鉄板で適宜反転しながら約10分間焼成して、お好み焼きを製造した。
【0068】
【表5】
【0069】
これらのお好み焼きについて、外観・ボリューム、食感・口当たり、食味・後味を評価した。外観は保形性やボリューム感の優れたものを高得点とし、食感はふんわりとして口溶けが良いものを高得点、逆にぼそぼそして口溶けが悪いものを低得点とした。食味はまろやかで出汁風味原料の香りが立つものを高得点とした。
【0070】
評価は、比較例2を3として、それと比較して、大変良いものを5、よいものを4、変わらないものを3、悪いものを2、大変悪いものを1とし、7名のパネラーの平均点で表示した。この結果を表6に示す。
【0071】
【表6】
【0072】
表6に示すように、麦麹粉末を加えた実施例4は、麦麹粉末を加えない比較例2に比べて、難消化性澱粉由来のぼそつきや後味の悪さが軽減され、口当たりがよく、食味も良好になった。
【0073】
<試験例4(鯛焼き)>
下記表7に示す配合で、鯛焼き用のミックス粉を調製した。麦麹粉末、難消化性澱粉としては、試験例1、2と同様なものを用いた。
【0074】
上記ミックス粉100gに対して、水115ml、全卵50gを加えて混ぜ、鯛焼きの生地を作成した。この生地を180℃の鯛焼き焼成機に流し込み、餡を挟んで適宜反転しながら約10分間焼成して、鯛焼きを製造した。
【0075】
【表7】
【0076】
これらの鯛焼きについて、外観・ボリューム、食感・しっとり感、食味・後味を評価した。外観は保形性やボリューム感の優れたものを高得点とし、食感はふんわり、しっとりとして口溶けが良いものを高得点、逆にぼそぼそして口溶けが悪いものを低得点とした。食味はまろやかな甘さが感じられるものを高得点とした。
【0077】
評価は、比較例3を3として、それと比較して、大変良いものを5、よいものを4、変わらないものを3、悪いものを2、大変悪いものを1とし、7名のパネラーの平均点で表示した。この結果を表8に示す。
【0078】
【表8】
【0079】
表8に示すように、麦麹粉末を加えた実施例5は、麦麹粉末を加えない比較例3に比べて、食感の粉っぽさがなくなり、口当たりがよく、難消化性澱粉由来のぼそつきや後味の悪さが軽減された。
【0080】
<試験例5(ホットケーキ)>
下記表9に示す配合で、ホットケーキ用のミックス粉を調製した。ふすま粉末としては日東富士製粉株式会社製の「パウダーブラン」(商品名)を用い、麦麹粉末としては、試験例1、2と同様なものを用いた。
【0081】
上記ミックス粉100gに対して、牛乳100ml、全卵50gを加えて混ぜ、ホットケーキの生地を作成した。この生地を160℃の鉄板で適宜反転しながら約6分半焼成して、ホットケーキを製造した。
【0082】
【表9】
【0083】
これらのホットケーキについて、外観・ボリューム、食感・しっとり感、食味・後味を評価した。外観は保形性やボリューム感の優れたものを高得点とし、食感はふんわり、しっとりとして口溶けが良いものを高得点、逆にぼそぼそして口溶けが悪いものを低得点とした。食味はまろやかな甘さが感じられるものを高得点とした。
【0084】
評価は、比較例4を3として、それと比較して、大変良いものを5、よいものを4、変わらないものを3、悪いものを2、大変悪いものを1とし、7名のパネラーの平均点で表示した。この結果を表10に示す。
【0085】
【表10】
【0086】
表10に示すように、麦麹粉末を加えた実施例6は、麦麹粉末を加えない比較例4に比べて、食感の粉っぽさが軽減され、口当たりがよく、しっとりとした食感になり、ふすま粉末由来のぼそつきや後味の悪さが軽減された。
【0087】
<試験例6(ドーナツ)>
下記表11に示す配合で、ドーナツ用のミックス粉を調製した。麦麹粉末、難消化性澱粉としては、試験例1、2と同様なものを用いた。
【0088】
上記ミックス粉100gに対して、牛乳15ml、全卵50gを加えて混ぜ、ドーナツの生地を作成した。この生地を7〜10mm程度の厚さに伸ばし、ドーナツ形状に型抜きをした。得られた成形物を175℃の油で約3分間油ちょうして、ドーナツを製造した。
【0089】
【表11】
【0090】
これらのドーナツについて、外観・ボリューム、食感・しっとり感、食味・後味を評価した。外観は保形性やボリューム感の優れたものを高得点とし、食感はふんわり、しっとりとして口溶けが良いものを高得点、逆にぼそぼそして口溶けが悪いものを低得点とした。食味はまろやかな甘さが感じられるものを高得点とした。
【0091】
評価は、比較例5を3として、それと比較して、大変良いものを5、よいものを4、変わらないものを3、悪いものを2、大変悪いものを1とし、7名のパネラーの平均点で表示した。この結果を表12に示す。
【0092】
【表12】
【0093】
表12に示すように、麦麹粉末を加えた実施例7は、麦麹粉末を加えない比較例5に比べて、食感の粉っぽさが軽減され、口当たりがよく、しっとりとした食感になり、難消化性澱粉由来のぼそつきや後味の悪さが軽減された。
【0094】
<試験例7(蒸しパン)>
下記表13に示す配合で、蒸しパン用のミックス粉を調製した。麦麹粉末、難消化性澱粉としては、試験例1、2と同様なものを用いた。
【0095】
上記ミックス粉100gに対して、水100mlを加えて混ぜ、蒸しパンの生地を作成した。この生地60gをアルミカップに入れ、蒸し器で約12分間蒸して、蒸しパンを製造した。
【0096】
【表13】
【0097】
これらの蒸しパンについて、外観・ボリューム、食感・しっとり感、食味・後味を評価した。外観は保形性やボリューム感の優れたものを高得点とし、食感はふんわり、しっとりとして口溶けが良いものを高得点、逆にぼそぼそして口溶けが悪いものを低得点とした。食味はまろやかな甘さが感じられるものを高得点とした。
【0098】
評価は、比較例6を3として、それと比較して、大変良いものを5、よいものを4、変わらないものを3、悪いものを2、大変悪いものを1とし、7名のパネラーの平均点で表示した。この結果を表14に示す。
【0099】
【表14】
【0100】
表14に示すように、麦麹粉末を加えた実施例8は、麦麹粉末を加えない比較例6に比べて、食感の粉っぽさが軽減され、口当たりがよく、しっとりとした食感になり、難消化性澱粉由来のぼそつきや後味の悪さが軽減された。
【0101】
<試験例8(各種麹原料を用いた試験)>
下記表15に示す配合で、麹粉末の種類を変えた各種のたこ焼き用ミックス粉を調製した。これらのミックス粉を用いて、試験例1と同様にして、たこ焼きを製造した。
【0102】
【表15】
【0103】
これらのたこ焼きについて、外観・ボリューム、食感・とろみ・口溶け、食味・後味を、試験例1と同様な方法により、7名のパネラーによって評価した。
【0104】
評価は、比較例1を3として、それと比較して、大変良いものを5、よいものを4、変わらないものを3、悪いものを2、大変悪いものを1とし、全パネラーの平均点で表示した。この結果を表16に示す。
【0105】
【表16】
【0106】
表16に示すように、麹粉末を加えた実施例9〜15は、麹粉末を加えない比較例1よりも、食感のとろみが増して口当たりが良く、難消化性澱粉由来のぼそつきや後味の悪さが軽減された。
【0107】
また、米麹粉末を加えた実施例11は米の風味が加わることで難消化性澱粉由来の後味のマスキング効果が高く、酒麹粉末を使用した実施例15についても特有の酒の香りによりマスキング効果が高いものの好みが分かれる結果となった。