特許第6803691号(P6803691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803691
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】可撓性穿刺針及び硬性鏡
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/14 20060101AFI20201214BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20201214BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   A61M5/14 540
   A61M25/00 632
   A61B1/00 R
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-129577(P2016-129577)
(22)【出願日】2016年6月30日
(65)【公開番号】特開2018-400(P2018-400A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006758
【氏名又は名称】株式会社ヨコオ
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】酒井 康一
(72)【発明者】
【氏名】大岡 直樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 百万
【審査官】 村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−518117(JP,A)
【文献】 特開2007−181539(JP,A)
【文献】 特開2013−162979(JP,A)
【文献】 特開平08−308933(JP,A)
【文献】 特開2011−188913(JP,A)
【文献】 特表2008−521503(JP,A)
【文献】 特開2015−134117(JP,A)
【文献】 特開2014−200551(JP,A)
【文献】 特開平10−290837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/14
A61M 25/00
A61B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起上台を有する硬性鏡本体に装着して用いられる可撓性穿刺針であって、
針先が形成された先端及び基端を有するとともに、その管内に貫通するスリットが前記針先の近傍に形成された金属製の管状のカヌラと、
前記スリットを被覆する弾性樹脂製の管状被覆層と、を備え、
前記管状被覆層は、前記カヌラの外周面に密着して配置されているとともに、前記スリットが形成された領域の外側両端において前記カヌラの外周面に固着され、先端側の固着部及び基端側の固着部がそれぞれ形成されており、
前記スリットが、前記カヌラの長手方向に沿って螺旋状に形成された螺旋状スリットであり、
前記螺旋状スリットの間隔が、前記先端側の固着部から前記基端側の固着部にかけて、前記先端から離れるにしたがって連続的又は段階的に狭くなる、
可撓性穿刺針。
【請求項2】
前記管状被覆層が、熱収縮チューブを熱収縮させて形成される請求項1に記載の可撓性穿刺針。
【請求項3】
前記螺旋状スリットの旋回方向が、前記先端側と前記基端側で異なる請求項1又は2に記載の可撓性穿刺針。
【請求項4】
前記螺旋状スリットの間隔が、前記先端側の固着部と前記基端側の固着部の中央付近から、前記基端側の固着部に向かって連続的又は段階的に狭くなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の可撓性穿刺針。
【請求項5】
その先端近傍に起上台が配設されたシャフトを有する硬性鏡本体と、
前記シャフト内に挿入して装着される請求項1〜のいずれか一項に記載の可撓性穿刺針と、を備えた硬性鏡。
【請求項6】
膀胱鏡、腹腔鏡、内視鏡、又は気管支鏡である請求項に記載の硬性鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として医療用の穿刺針(注射針)として有用な可撓性穿刺針、及びそれを用いた硬性鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
膀胱鏡や腹腔鏡をはじめとする硬性鏡は、通常、シャフトと呼ばれる管状の挿入部を有しており、このシャフトの内部(ルーメン)には、穿刺針等の処置具が挿入及び装着される。硬性鏡を使用して患部を処置する際には、まず、尿道や脈管等の細管内にシャフトを挿入する。そして、シャフトの先端に設けた対物レンズやカメラ等の観察部により細管内を観察しながら、細管を構成する側壁に存在する患部の近傍に先端が到達するまでシャフトを挿入した後、起上台と呼ばれる操作機構を起こして針先が側壁に向かうように穿刺針の先端近傍を屈曲させる。そして、穿刺針の先端近傍を屈曲させた状態で穿刺針をシャフトの先端から押し出して、針先を患部に穿刺する。
【0003】
しかし、穿刺針は、通常、ステンレス等のある程度の剛性を有する金属製の部材であるため、起上台を起こした場合であっても、先端近傍を大きく屈曲させることは困難である。このため、穿刺すべき患部と、シャフトの先端に設けた対物レンズ等の観察部との間隔が広くならざるを得ず、正確な穿刺が困難になる場合があった。
【0004】
上記のような問題を解消することを目的とした関連技術として、例えば、PEEK樹脂等の柔軟性を有する樹脂によって形成された内視鏡用の穿刺針が提案されている(特許文献1)。また、螺旋状のスリットが形成された可撓部分を有するカテーテル用の注射針が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−181036号公報
【特許文献2】特開2015−134117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、穿刺する位置を変えて複数回穿刺する場合には、まず、起上台を倒して穿刺針の針先をシャフト内に後退させてから、シャフトの挿入深度や回転角度等を変更する。次いで、起上台を起こして穿刺針の先端近傍を屈曲させつつ、シャフトの先端から穿刺針を再度押し出して針先を患部に穿刺する。
【0007】
しかし、特許文献1及び2で提案された穿刺針等の先端近傍を繰り返し屈曲させると、歪みやうねり等の変形が穿刺針に徐々に生ずる。このため、穿刺回数の増加に伴って目的とする箇所に正確な穿刺することが徐々に困難になることがあった。また、特許文献1で提案された穿刺針を構成するPEEK樹脂等の柔軟性を有する樹脂は比較的高価な材料であることから、このような樹脂で構成された穿刺針は必ずしも汎用性が高いものであるとはいえなかった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、針先の近傍で繰り返しの屈曲が可能であり、針先以外の箇所から液漏れ等せず、目的とする患部等の限定された箇所に正確かつ容易に針先を穿刺して処理することが可能な、汎用性の高い可撓性穿刺針、及びそれを用いた硬性鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成とするによって上記課題を解決することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す可撓性穿刺針が提供される。
[1]起上台を有する硬性鏡本体に装着して用いられる可撓性穿刺針であって、針先が形成された先端及び基端を有するとともに、その管内に貫通するスリットが前記針先の近傍に形成された金属製の管状のカヌラと、前記スリットを被覆する弾性樹脂製の管状被覆層と、を備え、前記管状被覆層は、前記カヌラの外周面に密着して配置されているとともに、前記スリットが形成された領域の外側両端において前記カヌラの外周面に固着されている可撓性穿刺針。
[2]前記管状被覆層が、熱収縮チューブを熱収縮させて形成される前記[1]に記載の可撓性穿刺針。
[3]前記スリットが、前記カヌラの長手方向に沿って螺旋状に形成された螺旋状スリットである前記[1]又は[2]に記載の可撓性穿刺針。
[4]前記螺旋状スリットの間隔が、前記先端から離れるにしたがって狭くなる前記[3]に記載の可撓性穿刺針。
[5]前記螺旋状スリットの旋回方向が、前記先端側と前記基端側で異なる前記[3]又は[4]に記載の可撓性穿刺針。
【0011】
また、本発明によれば、以下に示す硬性鏡が提供される。
[6]その先端近傍に起上台が配設されたシャフトを有する硬性鏡本体と、前記シャフト内に挿入して装着される前記[1]〜[5]のいずれかに記載の可撓性穿刺針と、を備えた硬性鏡。
[7]膀胱鏡、腹腔鏡、内視鏡、又は気管支鏡である前記[6]に記載の硬性鏡。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、針先の近傍で繰り返しの屈曲が可能であり、針先以外の箇所から液漏れ等せず、目的とする患部等の限定された箇所に正確かつ容易に針先を穿刺して処理することが可能な、汎用性の高い可撓性穿刺針を提供することができる。また、本発明によれば、上記の可撓性穿刺針を用いた硬性鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の可撓性穿刺針の一実施形態を模式的に示す側面図である。
図2図1のA部拡大図である。
図3】スリットの一例を模式的に示す部分拡大図である。
図4】スリットの他の例を模式的に示す部分拡大図である。
図5】カヌラに形成された螺旋状スリットの一態様を示す模式図である。
図6】本発明の可撓性穿刺針が屈曲する状態の一例を模式的に示す部分断面図である。
図7】硬性鏡本体の一例を示す側面図である。
図8】本発明の硬性鏡を使用する際の可撓性穿刺針の動きの一例を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<可撓性穿刺針>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。図1は、本発明の可撓性穿刺針の一実施形態を模式的に示す側面図であり、図2は、図1のA部拡大図である。図1及び2に示すように、本実施形態の可撓性穿刺針10は、その内部に薬液等の流体が流動しうる中空部を有する管状のカヌラ15を備える。カヌラ15は、例えば、医療用の穿刺針の構成材料として汎用性の高いステンレス(SUS)等の金属で形成されている。
【0015】
カヌラ15の先端22には針先25が形成されており、基端24には、シリンジ等の他の処置具と接続しうる針基27が配設されている。また、カヌラ15の針先25の近傍には、カヌラ15の外周から管内に貫通するように螺旋状スリット50が形成されており、カヌラ15の可撓性を高めた可撓部分55が構成されている。そして、カヌラ15の管内に貫通した螺旋状スリット50を被覆するように、弾性樹脂製の管状被覆層60が配置されている。この管状被覆層60が配置されているため、カヌラ15の管内を流動する薬液等の流体が螺旋状スリット50を通じて外部に流出することが防止される。
【0016】
管状被覆層を構成する弾性樹脂の種類は特に限定されないが、医療用材料として許容される樹脂であることが好ましい。なかでも、管状被覆層は、熱収縮チューブを熱収縮させて形成された層であることが、製造上の観点から好ましい。熱収縮チューブとしては、例えば、ポリアミド樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性エラストマー;ポリオレフィン等の樹脂からなる、一般的に入手可能な市販の熱収縮チューブを用いることができる。なお、管状被覆層は透明であっても、着色されていてもよい。
【0017】
図6は、本発明の可撓性穿刺針が屈曲する状態の一例を模式的に示す部分断面図である。なお、説明の便宜上、図6においては管状被覆層60のみを断面で示している。図6(a)に示すように、管状被覆層60はカヌラ15の外周面に密着して配置されている。また、管状被覆層60は、スリットが形成された領域の外側両端においてカヌラ15の外周面に固着され、固着部70a,70bが形成されている。この固着部70a,70bは、例えば、UV硬化樹脂や接着剤等の固着手段によって管状被覆層60の内周面の両端がカヌラ15の外周面に、カヌラ15の全周にわたって固着されることにより形成されている。すなわち、管状被覆層60はカヌラ15の外周面に密着して配置されているが、固着部70a,70b以外の箇所はカヌラ15の外周面に固着されていない状態である。このような構成の本発明の可撓性穿刺針に応力を負荷すると、図6(b)に示すように、スリット30の間隔を拡大しながら、応力の負荷方向へと大きく屈曲させることができる。なお、管状被覆層60の固着部70a,70b以外の箇所はカヌラ15の外周面に固着されていないため、スリット30の間隔の拡大が阻害されにくく、スムーズに屈曲させることができる。
【0018】
さらに、管状被覆層60は弾性樹脂で形成されているとともに、スリットが形成された領域の外側両端においてカヌラ15の外周面に固着されているため、屈曲時には、管状被覆層60の屈曲外側に位置する部分は伸長状態となる。このため、応力負荷を解除すると、管状被覆層60の復元力により、屈曲状態から元の直線状態へとスムーズに復元させることができる。したがって、本発明の可撓性穿刺針は、屈曲だけでなく、元の直線状態への復元もスムーズであることから、繰り返し屈曲させた場合であっても歪みやうねり等の変形が生じにくい。
【0019】
また、図6(b)に示すように、屈曲時には、管状被覆層60の屈曲内側に位置する部分はカヌラ15の外周面に圧縮状態で密着しているため、スリット30により仕切られた隣接するユニット52a,52bどうしの乗り上げが抑制される。これにより、屈曲状態から元の真っ直ぐな状態へとスムーズに復元させることができるとともに、針先(先端)を目的とする患部へと押し進める力が逃げない(減少しない)ため、より容易かつ正確な穿刺が可能となる。
【0020】
スリットの態様は特に限定されないが、カヌラの外周を旋回する方向に形成された態様であることが好ましい。スリットの態様としては、例えば、図2に示すようなカヌラの長手方向に沿って螺旋状に形成された螺旋状スリット50の他、図3に示すような、カヌラを長手方向に複数のブロック(ユニット)45に分割するように形成された円環状スリット51などを挙げることができる。なかでも、螺旋状スリットが、形状加工が容易であるために好ましい。
【0021】
螺旋状スリットは、後述するように、レーザー加工等の加工方法によりカヌラの長手方向に沿って形成することができる。レーザー加工等の加工方法により螺旋状スリットを形成する場合には、図4に示すように、カヌラの先端側と基端側で旋回方向が異なるように螺旋状スリット65を形成することが好ましい。レーザー加工法の場合、通常、カヌラに回転トルクを付与し、カヌラを周方向に回転させながら螺旋状スリットを形成する。但し、回転トルクは、螺旋状スリットが絞り込まれる回転方向には伝達しやすいが、螺旋状スリットが緩む回転方向には伝達しにくい。このため、カヌラの回転方向をレーザー加工の途中で変更する(逆転させる)ことで、カヌラに対する回転トルク伝達の低下を抑制して、カヌラを正確に回転させることが可能となる。なお、レーザー加工法によれば、寸法精度等により優れた螺旋状スリットを形成することができる。
【0022】
螺旋状スリット50の間隔は、カヌラ15の先端22から離れるにしたがって狭くなることが好ましい(図2)。このように構成することで、カヌラ15の剛性を先端22から基端に向かって徐々に低下させることができる。このため、目的とする患部へと穿刺する針先25に近い箇所の剛性を適切に維持した状態でスムーズに屈曲させることができ、より正確な穿刺が可能となる。なお、螺旋状スリットの間隔は、先端から離れるにしたがって連続的に狭くなっていても、図2に示すように段階的に狭くなっていてもよい。
【0023】
図5は、カヌラに形成された螺旋状スリットの一態様を示す模式図である。図5に示すカヌラ15には螺旋状スリットが形成されている。また、螺旋状スリットの間隔は、針先25から離れるにしたがって段階的に狭くなるように形成されている。本発明の可撓性穿刺針を構成するカヌラの針先から基端までの長さ(全長L)、針先の長さT、及びスリット形成部分の長さ(可撓部分の長さF)は特に限定されず、目的に応じて適宜設計すればよい。具体例を挙げると、全長Lは、通常、280〜480mm程度であり、好ましくは330〜430mm程度である。針先の長さTは、通常、4〜20mm程度であり、好ましくは7〜16mm程度である。可撓部分の全長Fは、通常、20〜80mm程度であり、好ましくは30〜60mm程度である。また、螺旋状スリットの間隔(ピッチP1,P2)は、屈曲させようとする程度に応じて適宜設計することができる。具体例を挙げると、螺旋状スリットのピッチP1,P2は、通常、0.3〜3.0mm程度、好ましくは0.5〜1.5mm程度である。
【0024】
本発明の可撓性穿刺針は、例えば、以下に示す手順にしたがって製造することができる。まず、ステンレス製のチューブを用意し、このチューブの長手方向の一方の先端近傍に螺旋状スリット等のスリットを形成する。スリットは、例えば、レーザー加工等の加工方法により形成することができる。次いで、一方の先端を針状に加工して針先を形成し、カヌラを得る。得られたカヌラの他方の先端(基端)に、シリンジ等の他の処置具を接続するための針基を配設する。針基は、例えば、UV硬化樹脂等の各種接着剤を用いてカヌラの基端に配設することができる。その後、形成したスリットの外側両端にUV硬化樹脂等の各種接着剤を塗布する。なお、カヌラの形状を安定に保持して作業を容易にすべく、必要に応じて、カヌラの管内(中空部)に芯金を挿入することが好ましい。接着剤の塗布後、適当な長さの熱収縮チューブ内にカヌラを挿入し、熱をかけて針先(先端)側から熱収縮チューブを熱収縮させて、スリットを被覆し、かつ、カヌラの外周面に密着した管状被覆層を形成する。その後、UV光を照射する等してスリットの外側両端に塗布した接着剤を硬化させ、管状被覆層の長手方向の両端に固定部を形成し、必要に応じて用いた芯金を抜去すれば、本発明の可撓性穿刺針を得ることができる。
【0025】
<硬性鏡>
次に、上述の可撓性穿刺針を用いた本発明の硬性鏡について説明する。本発明の硬性鏡は、シャフトを有する硬性鏡本体と、シャフト内に挿入して装着される上述の可撓性穿刺針とを備える。
【0026】
図7は、硬性鏡本体の一例を示す側面図である。図7に示すように、硬性鏡本体100は、長尺棒状のシャフト105を備える。シャフト105内には、長手方向に延びる空間であるルーメンが形成されている。シャフト105内のルーメンは、上述の可撓性穿刺針が挿入及び装着される内部空間である。また、シャフト105の基部には、接眼部等を有するメインポート110と、各種処置具の挿入口であるサブポート115とを有する操作部120が接続されている。さらに、操作部120には、シャフト105の先端部125に配設された起上台の動きを制御するダイヤル130等の制御部が設けられている。可撓性穿刺針は、その針先(先端)がサブポート115より挿入され、シャフト105内に装着される。なお、シャフト105の内部は、ファイバースコープ等の部材や、他の処置具等が挿入及び装着されるよう構成されている。
【0027】
図8は、本発明の硬性鏡を使用する際の可撓性穿刺針の動きの一例を模式的に示す部分断面図である。なお、説明の便宜上、図8においてはシャフト105のみを断面で示している。図8(a)に示すように、シャフト105の先端部125には、可撓性穿刺針10の先端近傍を屈曲させる起上台150が配設されている。起上台150を起上させていない(倒している)と、可撓性穿刺針10は真直状態、又は可撓部分55においてやや屈曲した状態で、硬性鏡本体のシャフト105内に挿入及び装着されている。そして、起上台150を起上させると、起上台150の端部が可撓性穿刺針10の先端近傍に当接し、可撓部分55のうち、より針先25に近い領域Xを所望とする程度に屈曲させることができる(図8(b))。なお、針先25の位置や動きは、シャフト105の先端部125に配設された対物レンズ等の観察手段160を通じて、シャフト105の基部に設けたメインポートの接眼部で観察することができる。
【0028】
起上台150を起上させた状態で可撓性穿刺針10を押し進めると、可撓部分55のうち、より針基に近い領域Yが徐々に屈曲する(図8(c))。同時に、可撓部分55のうち、起上台150との当接箇所を通過した領域Xについては起上台150からの応力負荷が解除されるため、元の直線状態へとスムーズに復元する(図8(c))。これにより、目的とする患部へと針先25を押し進める力を逃がすことなく、より容易かつ正確に穿刺することができる。
【0029】
また、本発明の硬性鏡に用いる可撓性穿刺針10は、スリットが形成された可撓部分55を有するため、スリットが形成されていない従来の穿刺針を用いた場合と比較して、可撓部分55においてより大きく屈曲させることができる(図8(b)及び(c))。このため、本発明の硬性鏡を用いれば、目的とする患部と、シャフト105の先端部125に配設された対物レンズ等の観察手段160との間隔を狭めることが可能であり、より正確に穿刺することができる。したがって、本発明の硬性鏡は、例えば、膀胱鏡、腹腔鏡、内視鏡、及び気管支鏡として有用である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
<穿刺針の製造>
(実施例1)
ステンレス製のチューブを用意し、このチューブの長手方向の一方の先端近傍にレーザー加工により螺旋状スリットを形成した。次いで、一方の先端を針状に加工して針先25を形成し、カヌラ15を得た(図5)。得られたカヌラ15の各部分の寸法を以下に示す。
全長L:402mm
針先の長さT:12mm
可撓部分の全長F:38mm
針先側の可撓部分の長さF1:12mm
針基側の可撓部分の長さF2:26mm
針先側の螺旋状スリットのピッチP1:0.8mm
針基側の螺旋状スリットのピッチP2:0.6mm
【0032】
得られたカヌラの基端にUV硬化樹脂(接着剤)を用いて針基を配設した後、螺旋状スリットの外側両端にUV硬化樹脂(接着剤)を塗布した。熱収縮チューブ(製品名「Palladium」(PEBAX 72D)、型番「P2−060−010−CLR」、Cobalt polymers,Inc.社製、熱収縮温度150〜170℃)内にカヌラを挿入し、熱をかけて針先側から熱収縮チューブを熱収縮させて螺旋状スリットを被覆し、カヌラの外周面に密着した管状被覆層を形成した。UV光を照射して螺旋状スリットの外側両端に塗布した接着剤を硬化させて固定部を形成し、可撓性の穿刺針を得た。
【0033】
なお、熱収縮チューブとしては、例えば、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)製の熱収縮チューブ(製品名「極細FEPフッ素樹脂熱収縮チューブ」、型番「NFL013」、潤工社製、熱収縮温度150〜170℃)などを用いても同等の性能を有する可撓性の穿刺針を得ることができる。
【0034】
(実施例2)
カヌラの各部分の寸法を以下に示すようにしたこと以外は、前述の実施例1と同様にして穿刺針を得た。
全長L:402mm
針先の長さT:12mm
可撓部分の全長F:33mm
針先側の可撓部分の長さF1:12mm
針基側の可撓部分の長さF2:21mm
針先側の螺旋状スリットのピッチP1:0.8mm
針基側の螺旋状スリットのピッチP2:0.6mm
【0035】
(比較例1)
螺旋状スリットの外側両端だけでなく、螺旋状スリットを形成した領域にもUV硬化樹脂(接着剤)を塗布して、その全体がカヌラの外周面に固着した管状被覆層を形成したこと以外は、前述の実施例1と同様にして穿刺針を得た。
【0036】
(比較例2)
螺旋状スリットを形成しなかったこと、及び管状被覆層を形成しなかったこと以外は、前述の実施例1と同様にして穿刺針を得た。
【0037】
(比較例3)
螺旋状スリットを形成しなかったこと以外は、前述の実施例1と同様にして穿刺針を得た。
【0038】
<評価>
実施例1及び2で製造した各穿刺針を市販の膀胱鏡(型番「A22003A(J)70°4mm」、オリンパス社製)のサブポートから挿入し、シャフトの先端まで針先を進入させた。シャフトの先端に設けられた起上台を最大限に起上させた後、起上台を起上させた状態のまま針先を10回出し入れして、鶏ささみ肉に穿刺した。その結果、いずれの穿刺針を用いた場合にも、目的とする箇所に12mmの深さまで真っ直ぐに少ない抵抗で穿刺できることがわかった。なお、穿刺した際に水を注入しても、可撓部分から液漏れしないことを確認した。その後、膀胱鏡から抜き出した穿刺針の真直性を目視にて確認した。その結果、いずれの穿刺針についても、全体に僅かなうねりが生じていたが、スリットを形成した可撓部分にはうねりや歪みがほとんど生じていなかった。なお、穿刺針の全体に僅かなうねりが生じたのは、用いた膀胱鏡のサブポート(穿刺針を挿入する部分)が屈曲していたためであると推測される。
【0039】
一方、比較例1及び2で製造した各穿刺針を上記と同様にして膀胱鏡に装着して起上台を起上させたところ、抵抗が大きく、穿刺針を大きく屈曲させることが困難であった。また、無理に屈曲させようとしたところ、応力が集中した部分が座屈(キンク)してしまい、起上台を倒して応力負荷を解除しても、元の真っ直ぐな形状には戻りにくいことがわかった。また、比較例3で製造した穿刺針を上記と同様にして膀胱鏡に装着して起上台を起上させたが、穿刺針を大きく屈曲させることができず、目的とする箇所に穿刺することが困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の可撓性穿刺針は、例えば、膀胱鏡、腹腔鏡、内視鏡、及び気管支鏡等の硬性鏡用の穿刺針として有用である。
【符号の説明】
【0041】
10:可撓性穿刺針
15:カヌラ
22:先端
24:基端
25:針先
27:針基
30:スリット
45:ブロック(ユニット)
50,65:螺旋状スリット
51:円環状スリット
52a,52b:ユニット
60:管状被覆層
70a,70b:固着部
100:硬性鏡本体
105:シャフト
110:メインポート
115:サブポート
120:操作部
125:先端部
130:ダイヤル(制御部)
150:起上台
160:観察手段
図1
図2
図3
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図8