特許第6803698号(P6803698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 西川ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6803698-車両用ドアのグラスラン 図000002
  • 特許6803698-車両用ドアのグラスラン 図000003
  • 特許6803698-車両用ドアのグラスラン 図000004
  • 特許6803698-車両用ドアのグラスラン 図000005
  • 特許6803698-車両用ドアのグラスラン 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803698
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】車両用ドアのグラスラン
(51)【国際特許分類】
   B60J 10/76 20160101AFI20201214BHJP
   B60J 10/50 20160101ALI20201214BHJP
【FI】
   B60J10/76
   B60J10/50
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-158017(P2016-158017)
(22)【出願日】2016年8月10日
(65)【公開番号】特開2018-24350(P2018-24350A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生馬 佳裕
(72)【発明者】
【氏名】亀岡 泰亮
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−274187(JP,A)
【文献】 実開昭56−039315(JP,U)
【文献】 国際公開第2012/176324(WO,A1)
【文献】 特開2006−001456(JP,A)
【文献】 特開2013−107607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 10/76
B60J 10/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドア本体部の内部に達するように形成されたサッシュに取り付けられ、該サッシュとドアガラスとの間をシールする車両用ドアのグラスランにおいて、
上記グラスランは、上記サッシュに沿って上下方向に延びる辺部を有し、
上記辺部の下部は上記ドア本体部の内部に達するまで延び、
上記辺部は、上記ドアガラスよりも車室外側に位置して該ドアガラスの車室外面に接触する外側壁部と、上記ドアガラスよりも車室内側に位置して該ドアガラスの車室内面に接触する内側壁部と、上記外側壁部及び上記内側壁部を繋ぐように車室内外方向に延びる底壁部とを有し、
記底壁部には当該壁部を貫通する複数の孔が形成され
上記底壁部における上記孔よりも車室外側には、上記サッシュに接触する外側凸部が形成され、
上記底壁部における上記孔よりも車室内側には、上記サッシュに接触する内側凸部が形成されていることを特徴とする車両用ドアのグラスラン。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ドアのグラスランにおいて、
記底壁における上記ドア本体部の内部に位置する部分に上記孔が形成されていることを特徴とする車両用ドアのグラスラン。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用ドアのグラスランにおいて、
上記孔は、上記外側壁部、上記内側壁部及び上記底壁部で囲まれたグラスラン内部空間と、上記グラスランと上記サッシュとの間の間隙部とを連通させるように形成されていることを特徴とする車両用ドアのグラスラン。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1つに記載の車両用ドアのグラスランにおいて、
複数の上記孔は、上下方向に互いに間隔をあけて形成されるとともに、水平方向にも互いに間隔をあけて形成されていることを特徴とする車両用ドアのグラスラン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に設けられるドアのグラスランに関し、特に車室内に入ってくる騒音を低減する構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
自動車の側部に設けられるドアとしては、例えば、ドア本体部と、ドア本体部に設けられたサッシュと、サッシュに昇降自在に支持されるドアガラスと、サッシュ及びドアガラスの間をシールするためのグラスランとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。サッシュの下部は、ドア本体部の内部に達するまで延びていてドアガラスが下降する際に案内できるようになっている。
【0003】
グラスランは、サッシュに対して取り付けられる弾性部材からなり、車室外側に位置する外側壁部と、車室内側に位置する内側壁部と、外側壁部及び内側壁部を繋ぐように車室内外方向に延びる底壁部とを有している。グラスランの内側壁部から延びるシールリップがドアガラスの車室内面に接触し、外側壁部から延びるシールリップがドアガラスの車室外面に接触することによってシール性が確保されている。また、グラスランはサッシュの下部まで連続して形成されており、ドア本体部の内部に達している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−76504号公報
【特許文献2】特開2009−12601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ドア本体部はインナパネルとアウタパネルで構成されていて内部が空洞であることから、例えば車両走行時等においてドア本体部の内部はロードノイズ等に起因する騒音により、音圧レベルが高い部分になる。この騒音の音圧レベルが高い部分にサッシュの下部及びグラスランの下部が位置していて、しかもサッシュの下部及びグラスランの下部はドア本体部の内部で開放された構造となっているので、サッシュの下部及びグラスランの下部からドア本体部の騒音が入りやすい。また、ドアガラスが上昇位置にある状態では、サッシュ下方における内側シールリップ部と外側シールリップ部の間はガラスに対する圧接から解放された状態となり、この部分からも騒音が入りやすい。このとき、グラスランは外側壁部、内側壁部及び底壁部を有する溝状をなしているので、下部及びシールリップ部間から入った騒音がグラスランの内部を通って該グラスランの上部まで到達し、また、グラスランとサッシュとの間の閉断面部分にも下部から騒音が入り、この閉断面部分に入った騒音が気柱共鳴を起こしやすくなるとともに、上部まで到達しやすくなる。そして、グラスランの上部は乗員の耳位置付近にあるので、グラスランの内部の騒音やグラスランとサッシュとの間の騒音が耳位置で放出されて静粛性の悪化原因となる。
【0006】
このことに対して、例えばグラスランに遮音用の壁を設けて上部への音の伝達を抑制することが考えられる。しかしながら、遮音用の壁は音の進む方向(下方から上方)に対して交差する方向である車室内外方向に延びる壁としなければならず、しかも上下方向の一部にのみ設けることになるので、この壁のある部分では当該壁が車幅方向に突っ張るように作用し、グラスランの外側壁部や内側壁部とドアガラスとの摺動抵抗が部分的に増大し、ひいてはドアガラスの摺動性が悪化することが考えられる。
【0007】
また、車室内外方向に延びる壁を設けるためには、グラスランの製造時に型加工が必要になり、コスト高になるという問題もある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、グラスランの基本的な機能であるドアガラスに対する摺動性を損なうことなく、また、大幅なコスト高を伴わずに車室の静粛性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、グラスランを構成している壁部に吸音用の孔を設けるようにした。
【0010】
第1の発明は、ドア本体部の内部に達するように形成されたサッシュに取り付けられ、該サッシュとドアガラスとの間をシールする車両用ドアのグラスランにおいて、上記グラスランは、上記サッシュに沿って上下方向に延びる辺部を有し、上記辺部の下部は上記ドア本体部の内部に達するまで延び、上記辺部は、上記ドアガラスよりも車室外側に位置して該ドアガラスの車室外面に接触する外側壁部と、上記ドアガラスよりも車室内側に位置して該ドアガラスの車室内面に接触する内側壁部と、上記外側壁部及び上記内側壁部を繋ぐように車室内外方向に延びる底壁部とを有し、記底壁部には当該壁部を貫通する複数の孔が形成され、上記底壁部における上記孔よりも車室外側には、上記サッシュに接触する外側凸部が形成され、上記底壁部における上記孔よりも車室内側には、上記サッシュに接触する内側凸部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、グラスランの下部がドア本体部の内部に達しているので、ドア本体部の内部の騒音が、グラスランの外側壁部、内側壁部及び底壁部で囲まれたグラスラン内部空間や、グラスランとサッシュとの間の間隙部に入ることがある。このとき、グラスランの底部には複数の孔が形成されているので、グラスラン内部空間の騒音が各孔を通過してグラスランとサッシュとの間の間隙部に達し、また、その間隙部の騒音が各孔を通過してグラスラン内部空間に達し、このような騒音の伝達により騒音が乗員の耳位置に届くまでに減衰する。
【0012】
従って、遮音用の壁をグラスランに設けることなく騒音を減衰することが可能になるので、グラスランの基本的な機能であるドアガラスに対する摺動性を損なうことはなく、また、孔あけは低コストで可能なことからコスト高を招くこともない。
【0013】
また、孔を形成することで遮音用の壁を設ける場合に比べてグラスランが軽くなる。また、孔を有する壁部の柔軟性が高まるので、グラスランをサッシュに組み付ける際の組み付け作業性が向上する。更には、この孔の一部を、サッシュに形成した切り起し等に嵌合する事で、位置ズレを防止する事も可能である。
【0014】
また、壁部の全面積に占める孔の合計開口面積の割合である開口率や径、孔が形成される壁部の厚さ等を変更することによって吸音される周波数を容易に変えることが可能である。従って、例えば音圧レベルの高い周波数と、孔の形成によって吸音される周波数とを一致させ、狙いとする周波数の音圧レベルを低減することが可能である。また、乗員の耳に付きやすい周波数と、孔の形成によって吸音される周波数とを一致させることで、車室の静粛感が向上する。更に、複数の種類の孔を形成する事で、幅広い周波数の音圧レベルを低減する事が可能である。
【0015】
また、一般に、グラスランとドアガラスとのシール性はグラスランの外側壁部及び内側壁部によって外側シールリップ及び内側シールリップが確実に支えられている事により確保される。このことは例えば側壁部が長いグラスランにおいて顕著である。これら外側シールリップ及び内側シールリップの支柱である外側壁部及び内側壁部に孔を形成することなく、底壁部に形成することで、グラスランとドアガラスとのシール性悪化を招くことはない。また、底壁部に孔があることで、グラスランを車室内外方向に屈曲させる際に要する力が小さくなる。ガラスは一般的に上方になるにつれて車室内側に来るよう湾曲しており、サッシュもこれに追従している。上記孔によってこの湾曲に沿ってグラスランを組付ける事が容易になる。
【0016】
第2の発明は、第1の発明において、記底壁における上記ドア本体部の内部に位置する部分に上記孔が形成されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、騒音がドア本体部の内部で減衰するので、グラスランの上部に達し難くなる
【0018】
の発明は、第1または2の発明において、上記孔は、上記外側壁部、上記内側壁部及び上記底壁部で囲まれたグラスラン内部空間と、上記グラスランと上記サッシュとの間の間隙部とを連通させるように形成されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、グラスラン内部空間の騒音が孔を通過して間隙部に達した後、間隙部に達した騒音が孔を通過してグラスラン内部空間に戻り、これが繰り返されることによって騒音が効率良く減衰する。また、間隙部の騒音が孔を通過してグラスラン内部空間に達した後、グラスラン内部空間に達した騒音が孔を通過して間隙部に戻り、これが繰り返されることによっても騒音が効率良く減衰する。
【0020】
の発明は、第1からのいずれか1つの発明において、複数の上記孔は、上下方向に互いに間隔をあけて形成されるとともに、水平方向にも互いに間隔をあけて形成されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、孔の形成範囲が拡大するので、騒音が広い範囲で減衰されることになる。
【発明の効果】
【0022】
第1の発明によれば、グラスランの底部に複数の孔を形成したので、グラスランの基本的な機能であるドアガラスに対する摺動性を損なうことなく、また、大幅なコスト高を伴わずに車室の静粛性を向上させることができる。
【0023】
また、外側壁部及び内側壁部に孔を形成せずに済み、グラスランとドアガラスとのシール性悪化を回避できる。また、底壁部に孔があることで、グラスランを車室内外方向に屈曲させる際に要する力が小さくなり、グラスランをサッシュに組み付ける際の組み付け作業性を向上できる。
【0024】
第2の発明によれば、ドア本体部の内部に位置する部分に孔を形成したので、騒音をドア本体部の内部で減衰させてグラスランの上部に達し難くすることができ、これにより、車室の静粛性をより一層向上させることができる
【0025】
の発明によれば、グラスラン内部空間と、グラスランとサッシュとの間の間隙部とが孔によって連通しているので、騒音を効率良く減衰させることができ、車室の静粛性をより一層向上させることができる。
【0026】
の発明によれば、複数の孔が上下方向に互いに間隔をあけ、かつ、水平方向にも互いに間隔をあけて形成されているので、騒音を広い範囲に減衰することができ、車室の静粛性をより一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施形態に係るグラスランを備えた自動車用ドアを車室外側から見た側面図である。
図2】ドアガラスが下降位置にある場合の図1におけるIII−III線断面図である。
図3】ドアガラスが上昇位置にある場合の図2相当図である。
図4】グラスランの断面図である。
図5】グラスランの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用ドアのグラスラン10を備えた自動車用ドア1を示すものである。この自動車用ドア1は、乗用自動車(図示せず)の左側部に配設されるものであり、図1では自動車用ドア1を車室外側から見ている。図示しないが、自動車の側部には自動車用ドア1によって開閉されるドア開口部が形成されており、このドア開口部の前端部に設けられたピラーに自動車用ドア1が開閉動作可能に取り付けられている。尚、この実施形態の説明では、車両前側を単に「前」といい、車両後側を単に「後」という。
【0030】
(自動車用ドアの構成)
自動車用ドア1は、該ドア1の略下半部を構成するドア本体部2と、該ドア本体部2から上方へ突出するように配設されたサッシュ3と、サッシュ3に昇降可能に支持されるドアガラス4と、グラスラン10とを備えている。ドア本体部2は、車室外側を形成するアウタパネル2aと車室内側を形成するインナパネル(図示せず)とが組み合わされて構成されており、内部は空洞になっている。ドア本体部2の内部には、ドアガラス4を昇降動作させるためのウインドレギュレータ(図示せず)や上下方向に延びるガイドレール(図示せず)等が配設されている。ウインドレギュレータにドアガラス4の下部が連結されており、ウインドレギュレータの駆動力がドアガラス4に伝達するようになっている。また、ドアガラス4はガイドレールによって上下方向に案内される。
【0031】
サッシュ3は、ドアフレームとも呼ばれており、ドア本体部2の前部において上下方向に延びるサッシュ前辺部3Aと、ドア本体部2の後部において上下方向に延びるサッシュ後辺部3Bと、サッシュ前辺部3Aの上端部からサッシュ後辺部3Bの上端部まで前後方向に延びるサッシュ上辺部3Cとを有している。サッシュ前辺部3Aは、ドア本体部2の上縁部よりも下方まで延びていてドア本体部2の内部において上下方向中央部よりも下側に達している。また、サッシュ後辺部3Bもドア本体部2の内部に達するまで延びている。サッシュ後辺部3Bの下端部は、サッシュ前辺部3Aの下端部よりも上に位置している。サッシュ上辺部3Cは全体として後側へ行くほど上に位置するように湾曲している。
【0032】
サッシュ前壁部3A、サッシュ後辺部3B及びサッシュ上辺部3Cの断面形状は略同じであるため、図2に基づいてサッシュ後辺部3Bの断面形状について詳細に説明する。尚、図2では、ドア本体部2のアウタパネル2及びインナパネルは省略している。
【0033】
サッシュ後辺部3Bは、ドアガラス4よりも車室外側に位置する外側板部3aと、ドアガラス4よりも車室内側に位置する内側板部3bと、外側板部3a及び内側板部3bを繋ぐように車室内外方向に延びる底板部3cとを備えており、全体として前方へ開放して上下方向に延びる溝を形成している。この溝内にドアガラス4の後縁部が位置する。また、サッシュ後辺部3Bの下部は、ドア本体部2の内部において下方に開放している。
【0034】
尚、サッシュ前壁部3Aは全体として前方へ開放して上下方向に延びる溝を形成しており、この溝内にドアガラス4の前縁部が位置する。サッシュ前壁部3Aの下部は、ドア本体部2の内部において下方に開放している。また、サッシュ上辺部3Cは全体として下方へ開放して前後方向に延びる溝を形成しており、この溝内に上昇位置にあるドアガラス4の上縁部が位置する。
【0035】
外側板部3a、内側板部3b及び底板部3cは一体化されており、例えば1枚の板材をロール成形することによって得ることができ、また、複数枚のプレス成形板を接合して得ることもできる。外側板部3aの車室内面には、外側凹部3dがサッシュ3に沿って延びるように凹条に形成されている。また、内側板部3bの車室外面には、内側凸部3eがサッシュ3に沿って延びるように凸条に形成されている。外側凹部3d及び内側凸部3eは、グラスラン10に係合する係合部であり、凹部及び凸部のいずれの形状であってもよい。
【0036】
(グラスランの構成)
図5に示すように、グラスラン10は、グラスラン前辺部10Aと、グラスラン後辺部10Bと、グラスラン上辺部10Cとを有しており、これらは一体化されている。すなわち、図5において境界線L1よりも下側部分、境界線L2よりも下側部分、境界線L3と境界線L4との間の部分は、それぞれ押出成形された押出成形部である。一方、境界線L1と境界線L3との間の部分、境界線L2と境界線L4との間の部分は、開閉動作する型で成形された型成形部である。つまり、境界線L1よりも下側部分と、境界線L3と境界線L4との間の部分とが、型成形部によって接続されて一体化しており、また、境界線L2よりも下側部分と、境界線L3と境界線L4との間の部分とが、型成形部によって接続されて一体化している。
【0037】
グラスラン前辺部10Aは、サッシュ前辺部3Aの内部に嵌合した状態で該サッシュ前辺部3Aに沿って上下方向に延びる部分であり、グラスラン前辺部10Aの下部はドア本体部2の内部に達するまで延びている。また、グラスラン後辺部10Bは、サッシュ後辺部3Bの内部に嵌合した状態で該サッシュ後辺部3Bに沿って上下方向に延びる部分であり、グラスラン後辺部10Bの下部はドア本体部2の内部に達するまで延びている。さらに、グラスラン上辺部10Cは、サッシュ上辺部3Cの内部に嵌合した状態で該サッシュ上辺部3Cに沿って前後方向に延びる部分である。
【0038】
グラスラン10を構成する材料としては、例えばEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)やTPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)等のように弾性を有する材料を使用することができる。上記EPDMやTPOは、発泡材であってもよいし、ソリッド材であってもよい。
【0039】
図2に基づいてグラスラン後辺部10Bの断面形状について詳細に説明する。グラスラン後辺部10Bは、ドアガラス4よりも車室外側に位置して該ドアガラス4の車室外面に接触する外側壁部11と、ドアガラス4よりも車室内側に位置して該ドアガラス4の車室内面に接触する内側壁部12と、底壁部13とを有している。底壁部13は、外側壁部11の後端部から内側壁部12の後端部まで外側壁部11及び内側壁部12を繋ぐように車室内外方向に延びている。これにより、グラスラン後辺部10Bの内部には外側壁部11、内側壁部12及び底壁部13で囲まれたグラスラン内部空間Rが形成される。このグラスラン内部空間Rは、前方に開放されるとともに、下部がドア本体部2の内部で開放されている。
【0040】
グラスラン後辺部10Bの外側壁部11の車室外面には、該外側壁部11の基端部近傍に基端側凸部11aが形成されている。基端側凸部11aは、サッシュ後辺部3Bの外側凹部3dに嵌合するようになっている。また、外側壁部11の車室外面には、該外側壁部11の先端部近傍に先端側凸部11bが形成されている。先端側凸部11bは、サッシュ後辺部3Bの外側板部3aの先端部に嵌合するようになっている。さらに、外側壁部11の車室内面には、該外側壁部11の先端部近傍に外側リップ部(外側シールリップ)11cが後側へ延びるように形成されている。この外側リップ部11cは、ドアガラス4の車室外面に接触するようになっている。
【0041】
グラスラン後辺部10Bの内側壁部12の車室内面には、該内側壁部12の基端部近傍に基端側凸部12aが形成されている。基端側凸部12aは、サッシュ後辺部3Bの内側凸部3eに対して後側から嵌合するようになっている。また、内側壁部12の車室外面には、該内側壁部12の先端部近傍に内側リップ部(内側シールリップ)12cが後側へ延びるように形成されている。この内側リップ部12cは、ドアガラス4の車室内面に接触するようになっている。ドアガラス4は、外側リップ部11cと内側リップ部12cに摺接しながら昇降する。
【0042】
グラスラン後辺部10Bの底壁部13の後面には、車室外側及び内側にそれぞれ外側凸部13a及び内側凸部13bが形成されている。外側凸部13a及び内側凸部13bは、車室内外方向に離れており、サッシュ後辺部3Bの底板部3cに対して該底板部3cの車室外側及び内側にそれぞれ接触する。
【0043】
グラスラン後辺部10Bの底壁部13と、サッシュ後辺部3Bの底板部3cとの間には、底壁側間隙部S1が形成されている。また、グラスラン後辺部10Bの内側壁部12と、サッシュ後辺部3Bの内側板部3bとの間には、内側間隙部S2が形成されている。また、グラスラン後辺部10Bの外側壁部11と、サッシュ後辺部3Bの外側板部3aとの間には、外側間隙部S3が形成されている。さらに、グラスラン後辺部10Bの底壁部13の車室内側と、サッシュ後辺部3Bの底板部3cの車室内側との間には、内側角部間隙部S4が形成され、また、グラスラン後辺部10Bの底壁部13の車室外側と、サッシュ後辺部3Bの底板部3cの車室外側との間には、外側角部間隙部S5が形成されている。尚、この実施形態ではサッシュ後辺部3Bと、グラスラン後辺部10Bとの間に5つの間隙部S1〜S5を形成しているが、間隙部の数はこれに限られるものではなく、サッシュ後辺部3B及びグラスラン後辺部10Bの形状設定によって1つ以上の間隙部を形成することができる。
【0044】
尚、グラスラン前辺部10A及びグラスラン上辺部10Cは、図示しないが、上記グラスラン後辺部10Bと同様に、外側壁部、内側壁部及び底壁部を有している。そして、グラスラン前辺部10Aの内部には、外側壁部、内側壁部及び底壁部により、後側に開放するとともに、下部がドア本体部2の内部で開放されるグラスラン内部空間が形成される。また、グラスラン上辺部10Cの内部には、外側壁部、内側壁部及び底壁部により、下側に開放するグラスラン内部空間が形成される。
【0045】
グラスラン後辺部10Bの底壁部13には、複数の孔13cが該底壁部13を貫通するように形成されている。孔13cは、その内部に音が入ることによって音エネルギが熱エネルギに変換されて音を減衰させる吸音用の孔である。この実施形態では、孔13cが車室内外方向(水平方向)に互いに間隔をあけて2つ並び、上下方向にも互いに間隔をあけて多数並ぶように形成されているが、これに限らず、車室内外方向に1つ、又は3つ以上並び、上下方向に1つ又は2つ以上並ぶように形成することができる。尚、孔13cの形成方法は従来から周知の方法を用いることができる。
【0046】
孔13cを底壁部13にのみ形成するのが好ましい。すなわち、外側壁部11と内側壁部12は外側リップ部11cと内側リップ部12cを介してドアガラス4に接触してシール性を確保するための部分であり、これら外側シールリップ11c及び内側シールリップ12cの支柱である外側壁部11と内側壁部12に孔を形成するとシール性の悪化を招くことが考えられるが、底壁部13はドアガラス4に接触しない部分であることから該底壁部13に孔13cを形成してもシール性悪化を招くことはない。尚、外側壁部11と内側壁部12に孔を形成することも可能であり、この場合はシール性を確保できるようにリップ形状等を工夫すればよい。
【0047】
孔13cは、底壁部13のうち、ドア本体部2の内部に位置する部分、即ち、底壁部13におけるドア本体部2の上縁部よりも下側部分に形成されている。そして、孔13cは、グラスラン内部空間Rと、底壁側間隙部S1とを連通させるように形成されている。具体的には、孔13cは底壁部13の厚み方向である前後方向に所定長さ延びており、この孔13cの前端部がグラスラン内部空間Rに連通し、孔13cの後端部が底壁側間隙部S1に連通し、グラスラン内部空間Rの内部の音が孔13cを通過して底壁側間隙部S1の内部に達することができるとともに、反対に、底壁側間隙部S1の内部の音が孔13cを通過してグラスラン内部空間Rの内部に達することができるようになっている。
【0048】
孔13cの直径、開口率(底壁部13の全面積に占める孔13cの合計開口面積の割合)、底壁部13の厚み、グラスラン内部空間Rの厚み(前後方向の寸法)等を変えることによって共鳴周波数、即ち吸音周波数を変化させることができる。この実施形態では、例えば3150Hz近傍の吸音率を向上させるために、孔13cの直径を2mm、開口率を16%、底壁部13の厚みを1.5mm、グラスラン内部空間Rの厚み15mmとしている。また、例えば、1000Hz近傍の吸音率を向上させるためには、孔13cの直径を2mm、開口率を2%、底壁部13の厚みを1.5mm、グラスラン内部空間Rの厚み17mmとすればよい。また、例えば、1600Hz近傍の吸音率を向上させるためには、孔13cの直径を2mm、開口率を5%、底壁部13の厚みを1.5mm、グラスラン内部空間Rの厚み17mmとすればよい。孔13cは円形断面を有する円孔である。
【0049】
このように、吸音される周波数を容易に変えることが可能である。従って、例えば音圧レベルの高い周波数と、孔13cの形成によって吸音される周波数とを一致させ、狙いとする周波数の音圧レベルを低減することが可能である。また、乗員の耳に付きやすい周波数と、孔13cの形成によって吸音される周波数とを一致させることで、車室の静粛感が向上する。また、全ての孔13cの直径を同じにしてもよいし、変えてもよい。
【0050】
孔13cは底壁部13に対して垂直に形成してもよいし、底壁部13に対して傾斜する方向に形成してもよい。孔13cを底壁部13に対して傾斜させると、孔13cの長さを長くすることができる。また、底壁部13が発泡材で形成されている場合には、発泡材中の気泡を孔13cの内面に開口させてもよい。これにより吸音効果がより一層高まる。
【0051】
尚、上記実施形態では、底壁部13のうち、ドア本体部2の内部に位置する部分にのみ孔13cを形成しているが、これに限らず、孔13cを底壁部13の全体に形成してもよいし、底壁部13におけるドア本体部2よりも上側に位置する部分にのみ形成してもよい。
【0052】
また、図示しないが、グラスラン後辺部10Bの外側壁部11に孔を形成してもよい。この場合、グラスラン内部空間Rと外側間隙部S3とを連通させるように形成することや、グラスラン内部空間Rと外側角部間隙部S5とを連通させるように形成することもできる。外側壁部11に孔を形成する場合も底壁部13に形成する場合と同様に、外側壁部11のうち、ドア本体部2の内部に位置する部分にのみ孔を形成してもよいし、孔を外側壁部11の全体に形成してもよいし、外側壁部11におけるドア本体部2よりも上側に位置する部分にのみ形成してもよい。
【0053】
また、グラスラン後辺部10Bの内側壁部12に孔を形成してもよい。この場合、グラスラン内部空間Rと内側間隙部S2とを連通させるように形成することや、グラスラン内部空間Rと内側角部間隙部S4とを連通させるように形成することもできる。内側壁部12に孔を形成する場合も底壁部13に形成する場合と同様に、内側壁部12のうち、ドア本体部2の内部に位置する部分にのみ孔を形成してもよいし、孔を内側壁部12の全体に形成してもよいし、内側壁部12におけるドア本体部2よりも上側に位置する部分にのみ形成してもよい。
【0054】
また、グラスラン前辺部10A及びグラスラン上辺部10Cの外側壁部、内側壁部及び底壁部に同様に孔を形成してもよい。
【0055】
(実施形態の作用効果)
次に、上記のように構成されたグラスラン10の作用効果について説明する。ドア本体部2はアウタパネル2aとインナパネルで構成されていて内部が空洞であることから、例えば自動車の走行時等においてドア本体部2の内部は騒音の音圧レベルが高い部分になる。この実施形態では、グラスラン10のグラスラン後辺部10Bの下部がドア本体部2の内部に達しているので、ドア本体部2の内部の騒音が、グラスラン後辺部10Bの外側壁部11、内側壁部12及び底壁部13で囲まれたグラスラン内部空間Rや、グラスラン後辺部10Bとサッシュ後辺部3Bとの間の間隙部S1に入ることがある。
【0056】
このとき、グラスラン後辺部10Bの底壁部13には複数の孔13cが形成されているので、グラスラン内部空間Rの騒音が各孔13cを通過して間隙部S1に達し、また、その間隙部S1の騒音が各孔13cを通過してグラスラン内部空間Rに達し、このような騒音の伝達により乗員の耳位置に届くまでに騒音が減衰するので、車室の静粛性を向上させることができる。
【0057】
尚、グラスラン後辺部10Bの外側壁部11や内側壁部12に孔を形成した場合、及び、グラスラン前辺部10Aに孔を形成した場合も同様に騒音を減衰させることができるので、車室の静粛性を向上させることができる。
【0058】
従って、遮音用の壁をグラスラン10に設けることなく騒音を減衰することが可能になるので、グラスラン10の基本的な機能であるドアガラス4に対する摺動性を損なうことはない。また、孔13cを形成することが低コストで可能なことからコスト高を招くこともない。
【0059】
また、グラスラン後辺部10Bの底壁部13におけるドア本体部2の内部に位置する部分に孔13cを形成したので、騒音をドア本体部2の内部で減衰させてグラスラン10の上部に達し難くすることができる。これにより、乗員の耳位置付近での音圧レベルを低くすることができ、車室の静粛性をより一層向上させることができる。
【0060】
次に、本実施形態に係るグラスラン10による効果を試験結果に基づいて説明する。試験条件としては、まず、上記実施形態に記載のとおりに構成されたグラスラン10が取り付けられた自動車(図示せず)と、孔13cが形成されていない比較例としてのグラスラン(図示せず)が取り付けられた自動車(図示せず)とを用意する。車室内における乗員(運転者)の耳位置付近にマイク(受音器)を設置する。車室外における運転席の側方には、全方位スピーカーを設置する。設置高さは、乗員の耳の高さと同程度である。この全方位スピーカーからはピンクノイズを90dBの音圧となるように放射する。
【0061】
実施形態に係るグラスラン10と、比較例のグラスランとで、マイクによって測定された結果を比較すると、実施形態に係るグラスラン10の方が、1000Hz〜2000Hzの周波数帯で音圧レベルが低かった。比較例と比べたときの音圧レベルの低下度合いは約1dB〜1.5dB程度であり、実施形態に係るグラスラン10では音圧レベルが明確に低下して車室の静粛性が高まっていた。
【0062】
また、この実施形態では騒音低減以外の効果として、グラスラン10に孔13cを形成したことで、グラスラン10が軽くなり、その結果、車両の重量を軽減することができる。さらに、孔13cを有する底壁部13の柔軟性が高まるので、グラスラン10をサッシュ3に組み付ける際の組み付け作業性が向上する。
【0063】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明に係る車両用ドアのグラスランは、例えば自動車のドアに取り付けて使用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 自動車用ドア
2 ドア本体部
3 サッシュ
10 グラスラン
11 外側壁部
12 内側壁部
13 底壁部
13c 孔
R グラスラン内部空間
S1 間隙部
図1
図2
図3
図4
図5