(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803726
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】静止誘導機器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/30 20060101AFI20201214BHJP
H01F 30/10 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
H01F27/30 160
H01F30/10 T
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-218947(P2016-218947)
(22)【出願日】2016年11月9日
(65)【公開番号】特開2018-78194(P2018-78194A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲陦▼ 裕介
【審査官】
久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】
実公昭60−022591(JP,Y2)
【文献】
実開昭53−041613(JP,U)
【文献】
実開昭61−146930(JP,U)
【文献】
実開昭62−199919(JP,U)
【文献】
実開昭61−081114(JP,U)
【文献】
実公昭57−023870(JP,Y2)
【文献】
特開昭54−153228(JP,A)
【文献】
実公昭5−4700(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/06、27/26、27/30、30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部に固定される鉄心と、
前記鉄心に装着されたコイルと、
前記コイルの軸方向端面を前記固定部又は鉄心に対し押え付けるためのコイル押え金物と、
前記コイル押え金物と前記コイルの端面との間に介在される絶縁材製のコイル押え絶縁物とを備え、
前記コイル押え金物は、前記コイル押え絶縁物の押え面に宛がわれて押えるための板状をなす押え板部を有し、
前記コイル押え絶縁物の前記押え面には、前記コイル押え金物の前記押え板部が配置収容可能な凹部が形成されており、該押え板部が凹部内に配置されていると共に、
前記凹部の深さ寸法は、前記押え板部の厚み寸法よりも大きく構成されている静止誘導機器。
【請求項2】
固定部に固定される鉄心と、
前記鉄心に装着されたコイルと、
前記コイルの軸方向端面を前記固定部又は鉄心に対し押え付けるためのコイル押え金物と、
前記コイル押え金物と前記コイルの端面との間に介在される絶縁材製のコイル押え絶縁物とを備え、
前記コイル押え金物は、前記コイル押え絶縁物の押え面に宛がわれて押えるための板状をなす押え板部を有し、
前記コイル押え絶縁物の前記押え面には、前記コイル押え金物の前記押え板部の周囲を覆う絶縁シール部材が、該押え面から連続して立ち上がるようにして、該押え板部の周囲全体を囲む枠状に設けられている静止誘導機器。
【請求項3】
前記コイル押え絶縁物の外周面には、襞部が設けられている、請求項1又は2に記載の静止誘導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、静止誘導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
静止誘導機器、例えば高電圧受配電設備用のモールド変圧器においては、鉄心にモールドコイルを装着して構成される。このとき、鉄心の上ヨーク部或いは上ヨーク部を固定するクランプに、コイル押え金物を取付け、このコイル押え金物により、厚板ブロック状をなすコイル押え絶縁物(スペーサ)を介してコイルの軸方向端面を押え付けて支持する構成が採用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭58−173223号公報
【特許文献2】実開昭56−108221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような変圧器にあっては、コイルの電圧階級や試験電圧が高くなると、コイルとコイル押え金物との間の絶縁を強化する必要がある。具体的には、コイル押え絶縁物を高さ方向に大型化して、コイルとコイル押え金物との沿面離隔距離を大きくするなどの絶縁強化が行われる。ところが、これでは、変圧器全体が高さ方向に大型化してしまう問題がある。
【0005】
そこで、コイルとコイル押え金物との間の絶縁を強化することができながらも、全体の大型化を抑えることができる静止誘導機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る静止誘導機器は、固定部に固定される鉄心と、前記鉄心に装着されたコイルと、前記コイルの軸方向端面を前記固定部又は鉄心に対し押え付けるためのコイル押え金物と、前記コイル押え金物と前記コイルの端面との間に介在される絶縁材製のコイル押え絶縁物とを備え、
前記コイル押え金物は、前記コイル押え絶縁物の押え面に宛がわれて押えるための板状をなす押え板部を有し、前記コイル押え絶縁物の
前記押え面
には、前記コイル押え金物の前記押え板部が配置収容可能な凹部が形成されており、該
押え板部が凹部内に配置されている
と共に、前記凹部の深さ寸法は、前記押え板部の厚み寸法よりも大きく構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態を示すもので、変圧器の全体構成を概略的に示す正面図
【
図2】コイル上端部のコイル押え絶縁物部分の斜視図
【
図3】コイル上端部のコイル押え絶縁物部分の縦断側面図
【
図4】第2の実施形態を示すもので、コイル押え絶縁物部分の縦断側面図
【
図5】第3の実施形態を示すもので、コイル押え絶縁物部分の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、高電圧受配電設備用のモールド変圧器に適用したいくつかの実施形態について、図面を参照しながら説明する。複数の実施形態の説明において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0009】
(1)第1の実施形態
図1から
図3を参照して、第1の実施形態について述べる。
図1は、本実施形態に係る静止誘導機器としての変圧器1の全体構成を概略的に示している。変圧器1は、鉄心2と、この鉄心2に装着されたこの場合3個のコイル3とを備えている。コイル3はモールドコイルから構成されている。前記鉄心2は、
図1で左右方向に延びる上ヨーク部4と下ヨーク部5との間に、上下方向に延びてそれらに連結される3本のレグ部6を備えて構成されている。前記コイル3は、各レグ部6に巻装されている。
【0010】
前記鉄心2は、例えば珪素鋼板を材料とした複数の金属薄板を積層して構成され、その上ヨーク部4は、例えば鋼材からなる固定部としての上部クランプ7により締め付け固定されている。また、同様に、下ヨーク部5は、固定部としての下部クランプ8により締め付け固定されている。また、下ヨーク部5及び下部クランプ8は、台座9上に固定配置されている。尚、鉄心2及び上下部のクランプ7、8並びに台座9は大地電位に接続されている。
【0011】
このとき、前記各コイル3の軸方向端面である上端面と、前記上部クランプ7との間には、上部クランプ7(上ヨーク部4)に対して該コイル3の上端面を下方に押え付けるための、金属例えば鋼材製のコイル押え金物11、及び、絶縁材例え例えばプラスチック製のコイル押え絶縁物12が設けられる。詳しく図示はしないが、これらコイル押え金物11及びコイル押え絶縁物12は、1個のコイル3の上面部に対し、3組が120度間隔のほぼ回転対称となるように設けられる。
【0012】
また、各コイル3の下端面と前記下部クランプ8との間にも、同様に、下部クランプ8(下ヨーク部5)に対してコイル3の下端面を上方に押え付ける(受け支持する)ための、コイル押え金物13及びコイル押え絶縁物14が設けられる。これらコイル押え金物13及びコイル押え絶縁物14も、1個のコイル3に対し3組が設けられ、コイル押え金物11及びコイル押え絶縁物12と上下にほぼ対称的に配置されている。
【0013】
以下、それらを代表させて、上部のコイル押え金物11及びコイル押え絶縁物12の構成について、
図2及び
図3も参照して詳述する。即ち、
図2、
図3に示すように、前記コイル押え金物11は、長方形の板状をなす押え板部11aと、その押え板部11aの上面中心部から上方に延びるボルト部15を一体的に有している。そして、前記上部クランプ7には、前記コイル押え金物11(ボルト部15)を支持するための取付金具16が溶接等により固着されている。この取付金具16は、側面L字形の折曲形状を備え、その水平方向に延出する部分には、前記ボルト部15が上下に挿通可能な挿通孔16a(
図3参照)が形成されている。
【0014】
前記コイル押え金物11は、ボルト部15を挿通孔16aに下方から挿通した状態とされ、該ボルト部15に螺合された2個のナット17、17により、取付金具16を上下から挟むようにして取付けられている。このとき、ボルト部15に対して2個のナット17、17を螺進退させて上下位置を変更することにより、取付金具16に対するコイル押え金物11の上下方向の位置(下方への押え付け力)を調整することができる。
【0015】
これに対し、前記コイル押え絶縁物12は、合成樹脂例えばポリエステル樹脂から、全体として直方体のブロック状に構成されている。このとき、コイル押え絶縁物12の上面の縦横寸法は、前記コイル押え金物11の押え板部11aよりも大きく構成されており、本実施形態では、コイル押え絶縁物12の上面部には、コイル押え金物11の押え板部11aが配置収容可能な長方形状の凹部18が形成されている。また、凹部18の深さ寸法は、押え板部11aの厚み寸法よりも大きく構成されている。更に本実施形態では、コイル押え絶縁物12は、上下2カ所に位置して、外周面(4つの側面)全体から水平方向に延出するように、薄肉のフランジ状をなす襞部19が一体的に設けられている。
【0016】
上記構成のコイル押え絶縁物12は、上から見て、長手方向を、コイル3の上面の半径方向に沿うようにしながら、120度間隔の回転対称となるように、3カ所に配置される。そして、その状態で、コイル押え金物11により、上部クランプ7に対して下方つまりコイル3の上端面に押し付けられ、コイル3を保持する。このとき、コイル押え金物11の押え板部11aが、凹部18内に配置され、凹部18の底面を下方に押し付けるようになっている。
【0017】
尚、詳しい説明は省略するが、前記コイル押え金物13及びコイル押え絶縁物14についても、上記コイル押え金物11及びコイル押え絶縁物12とほぼ同等(上下に対称的な)の構成を備えている。また、図示はしないが、上記構成の変圧器1は、絶縁油や絶縁ガスなどの絶縁冷却媒体が充填されたタンク内に収納されて使用される。
【0018】
上記構成の変圧器1にあっては、コイル押え金物11とコイル3の上端面との間に介在されるコイル押え絶縁物12が絶縁スペーサとなって、それらの間の絶縁が図られる。このとき、コイル押え絶縁物12には、凹部18が形成されており、その凹部18内に、コイル押え金物11が配置される形態とされている。これにより、凹部18の深さに相当する分だけ、コイル3とコイル押え金物11との沿面放電におけるバーリア効果を期待できるので、その分、絶縁を強化することができる。しかも、コイル押え絶縁物12全体を高さ方向に大型化することなく済ませることができる。
【0019】
従って、本実施形態の変圧器1によれば、コイル3とコイル押え金物11との間の絶縁を強化することができながらも、全体の大型化を抑えることができるという優れた効果を得ることができる。また、特に本実施形態では、コイル押え絶縁物12の外周面に襞部19を設ける構成としている。この襞部19によって、コイル3とコイル押え金物11との沿面絶縁距離をより大きくすることができ、高さ方向の大型化を招くことなく、絶縁性能をより高めることができる。
【0020】
ちなみに、本発明者は、本実施形態の変圧器1に対し雷インパルス試験、交流耐電圧試験を行った。その結果、コイル押え金物11とコイル3との間の部分放電の発生を十分に抑えられることが明らかとなった。これにより、部分放電が進展して全路破壊に至ることを防ぐことができ、ひいては、変圧器1を高耐圧化することが可能となった。
【0021】
(2)第2、第3の実施形態、その他の実施形態
図4は、第2の実施形態を示すものであり、上記第1の実施形態と異なる点は、コイル押え絶縁物21の構成にある。即ち、コイル押え絶縁物21は、絶縁材例えば合成樹脂から直方体のブロック状に構成され、その外周面には襞部22が設けられている。このコイル押え絶縁物21の上面はフラットであり、コイル押え絶縁物22の上面の寸法は、コイル押え金物11の押え板部11aよりも大きく構成されている。コイル押え金物11の押え板部11aは、コイル押え絶縁物12の上面に宛がわれて、該コイル絶縁物21を下方に押え付けるようになっている。
【0022】
そして、本実施形態では、コイル押え絶縁物21の上面には、コイル押え金物11のコイル押え絶縁物21を押えている部分である押え板部11aの周囲を覆う絶縁シール部材23が設けられている。この絶縁シール部材23は、例えば常温硬化型シリコーンゴムコンパウンドからなり、1のコイル押え絶縁物21に宛がわれた押え板部11aの周囲に必要な厚みで塗布した後、常温で硬化させることにより、コイル押え絶縁物21の上面から連続して立ち上がるようにして、押え板部11aの周囲全体を囲む矩形枠状に設けられている。尚、押え板部11aの上面側にも絶縁シール部材23を塗布しても良い。
【0023】
上記構成においては、コイル押え金物11の押え板部11aの周囲が、絶縁シール部23材により覆われているので、コイル3とコイル押え金物11との間の電界を緩和することができ、絶縁を強化することができる。コイル押え絶縁物21を高さ方向に大型化することもない。従って、この第2の実施形態によっても、コイル3とコイル押え金物11との間の絶縁を強化することができながらも、全体の大型化を抑えることができるという優れた効果を得ることができる。また、コイル押え絶縁物21の外周面に襞部22を設ける構成としたので、絶縁性能をより高めることができる。
【0024】
図5は、第3の実施形態を示すものであり、上記第1の実施形態と異なる点は、コイル押え絶縁物31の構成にある。このコイル押え絶縁物31は、絶縁材例えばポリエステル樹脂から、全体として直方体のブロック状に構成されていると共に、その上面部には、コイル押え金物11の押え板部11aが配置収容可能な長方形状の凹部32が形成されている。そそて、本実施形態では、襞部が存在せず、コイル押え絶縁物31の外周の4つの側面はフラットな形態とされている。
【0025】
このようなコイル押え絶縁物31にあっても、コイル押え金物11の押え板部11aはが配置される凹部32を備えることにより、上記各実施形態と同様に、コイル3とコイル押え金物11との間の絶縁を強化することができながらも、全体の大型化を抑えることができるという優れた効果を得ることができる。襞部を設けずに済むので、その分、コイル押え絶縁物31の構造が簡単になり、安価に製作できるものとなる。
【0026】
尚、上記した実施形態では詳しく説明しなかったが、コイル3の下部のコイル押え絶縁物(絶縁スペーサ)については、上部と同様にボルト部を有するコイル押え金物や取付金具を用いて設けるようにしても良い。或いは、コイル押え絶縁物を、コイル押え金物等を用いずに、下部クランプ上に載置状に設置し、その上面でコイルの下端面を受けるような構成としても良い。上記各実施形態では三相変圧器を例示して説明したが、これに限らず、単相変圧器であっても良い。静止誘導機器としては、変圧器に限らず、例えばリアクトルに適用することもできる。
【0027】
その他、コイル押え金物の形状や取付構造、さらには、コイル押え絶縁物の材質や形状、構造などについても、様々な変更が可能である。以上説明したいくつかの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
図面中、1は変圧器、2は鉄心、3はコイル、7は上部クランプ(固定部)、11、13はコイル押え金物、11aは押え板部、12、14、21、31はコイル押え絶縁物、18、32は凹部、19、22は襞部、23は絶縁シール部材を示す。