特許第6803760号(P6803760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6803760ヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803760
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】ヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/26 20060101AFI20201214BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20201214BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20201214BHJP
   A61L 33/10 20060101ALI20201214BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   A61L27/26
   A61L27/50 300
   A61L27/58
   A61L33/10
   C08J9/28 102
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-14434(P2017-14434)
(22)【出願日】2017年1月30日
(65)【公開番号】特開2018-121744(P2018-121744A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 英隆
【審査官】 吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−212437(JP,A)
【文献】 特開平05−184662(JP,A)
【文献】 特開2011−130989(JP,A)
【文献】 特開2016−158765(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/056018(WO,A1)
【文献】 Colloids and Surfaces B: Biointerfaces (2015), 128, p.106-114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性高分子と、ヘパリンと、ポリエチレングリコールと、前記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の低い溶媒1と、前記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度が高く、かつ、前記溶媒1と相溶しない溶媒2と、前記溶媒1及び溶媒2と相溶する共溶媒3とを用いて、前記ヘパリンが均一に分散し、かつ、前記生体吸収性高分子を溶解したヘパリン−生体吸収性高分子溶液を調製する溶液調製工程と、
前記ヘパリン−生体吸収性高分子溶液を冷却してヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質体を析出させる析出工程と、
前記ヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質体を凍結乾燥してヘパリンを含有する多孔質基材を得る凍結乾燥工程を有し、
前記ポリエチレングリコールは、平均分子量が180〜640である
ことを特徴とするヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材の製造方法。
【請求項2】
共溶媒3を2種以上組み合わせて用いるものであって、前記2種以上の共溶媒3の配合比を調整することにより、得られる多孔質体の孔径を制御することを特徴とする請求項1記載のヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤を用いず、かつ、原料ヘパリンの製造ロットや品番に係わらずに安定かつ簡便にヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材を製造する方法、ヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材、及び、人工血管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の細胞工学技術の進展によって、ヒト細胞を含む数々の動物細胞の培養が可能となり、また、それらの細胞を用いてヒトの組織や器官を再構築しようとする、いわゆる再生医療の研究が急速に進んでいる。
例えば、臨床において人工血管として最も使用されているのはゴアテックス等の非吸収性高分子を用いたものであるが、非吸収性高分子を用いた人工血管は、移植後長期にわたって異物が体内に残存することから、継続的に抗凝固剤等を投与しなければならないという問題があり、小児に使用した場合には成長に伴って改めて手術する必要が生じるという問題もあった。これに対して、再生医療による血管組織の再生が試みられている。
【0003】
再生医療においては、細胞が増殖分化して三次元的な生体組織様の構造物を構築できるかがポイントであり、例えば、基材を患者の体内に移植し、周りの組織又は器官から細胞を基材中に侵入させ増殖分化させて組織又は器官を再生する方法が行われている。
再生医療用の基材として、生体吸収性高分子からなる多孔質基材が提案されている。生体吸収性高分子からなる多孔質基材を再生医療の基材として用いることにより、その空隙部分に細胞が侵入して増殖し、早期に組織が再生される。そして一定期間経過後には分解して生体に吸収されることから、再手術により取り出す必要もない。
【0004】
再生医療による血管組織の再生においては、血栓の形成防止も重要である。特に直径の小さな血管組織の再生では、しばしば血栓の形成により血管が詰まってしまい、正常な血管が再生されないばかりか、更に重篤な症状を招くおそれもある。
【0005】
血栓の形成を防止する方法として、生体吸収性高分子からなる多孔質基材中にヘパリンを含有させ、多孔質基材の分解に従いヘパリンを徐放させる方法が試みられている。
このようなヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材としては、例えば非特許文献1には、生体吸収性高分子を溶解した有機溶剤中にヘパリンナトリウム水溶液と界面活性剤を添加してミセル化させた溶液を用いてナノファイバーからなる血管用材料を製造する方法が記載されている。
しかしながら、非特許文献1に記載されたヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材は、毒性の強い界面活性剤を含有することから、血管組織の再生が妨げられるという問題があった。その他にもヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材を製造する方法が検討されているが、極めて煩雑であったり、製造過程でヘパリンが変性してしまい所期の血栓形成防止効果が得られなかったりするという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Coloids and Surfaces B:Biointerfaces,128(2015),106−114
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生体吸収性高分子からなる多孔質基材においては、組織再生の足場材としての機械的強度や生体吸収挙動、細胞の侵入性、侵入した細胞への栄養の供給等の観点から、その孔径やかさ密度等の制御が極めて重要である。このような生体吸収性高分子からなる多孔質基材として、生体吸収性高分子に対する良溶媒と貧溶媒とを混合して均一相を形成させた後、冷却することにより多孔質体を得る、相分離法が知られていた。相分離法では、良溶媒と貧溶媒との混合比により、得られる多孔質基材の孔径を調整することができる。しかしながら、相分離法で多孔質基材の孔径を調整しようとすると、得られる多孔質基材のかさ密度が大きく変動する。即ち、大孔径の多孔質基材を得ようとすると貧溶媒の比を大きくする必要があるが、相対的に良溶媒の比が小さくなることから、得られる多孔質基材のかさ密度が大きくなってしまう。逆に、小孔径の多孔質基材を得ようとすると、良溶媒の比を大きく、貧溶媒の比を小さくするため、得られる多孔質基材のかさ密度が小さくなってしまう。従って、相分離法により、同一のかさ密度で孔径の異なる多孔質基材を製造することは極めて困難であるという問題があった。また、相分離法では、良溶媒と貧溶媒とが相溶であることが要求される。貧溶媒として取り扱いが容易な水を選択した場合、良溶媒としては1,4−ジオキサン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の限られた選択肢しかない。しかしながら、これらの溶媒は生体に対する毒性が高いことから、臨床応用のためには多孔質基材から溶媒を完全に除去する工程が必須となり、極めて煩雑であるという問題もあった。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、生体吸収性高分子の良溶媒と貧溶媒に、更に該良溶媒と貧溶媒とのいずれもと相溶可能な共溶媒を組み合わせた多孔質基材の製造方法を発明した。共溶媒を組み合わせることにより、良溶媒と貧溶媒との相溶性が不要となることから、良溶媒と貧溶媒との組み合わせの選択肢が大きく広がる。また、この製造方法においては、良溶媒として1,4−ジオキサン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等以外の、毒性の低い有機溶媒を選択することもできる。更に、共溶媒を2種以上組み合わせて、該2種以上の共溶媒の配合比を調整することにより、容易に多孔質基材のかさ密度と孔径とを調整することができる。そして本発明者らは、生体吸収性高分子の貧溶媒が、ヘパリンを溶解できることに着目し、貧溶媒に予めヘパリンを溶解させることにより、界面活性剤を用いることなく、極めて簡便にヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材を製造できることを見出した。
このようなヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材の製造方法は極めて画期的なものであり、血栓形成を防止できる人工血管への道を切り開いたものである。しかしながら、このような製造方法でも、原料ヘパリンの製造ロットや品番によっては安定した製造を行えないことがある。即ち、製造工程においてヘパリン−生体吸収性高分子溶液を調製しようとしたときに、原料ヘパリンの製造ロットや品番によってはヘパリンを溶液中に充分に分散できずに分離してしまうことがあるという問題があり、更なる改良が求められていた。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、界面活性剤を用いず、かつ、原料ヘパリンの製造ロットや品番に係わらずに安定かつ簡便にヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材を製造する方法、ヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材、及び、人工血管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、生体吸収性高分子と、ヘパリンと、ポリエチレングリコールと、前記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の低い溶媒1と、前記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度が高く、かつ、前記溶媒1と相溶しない溶媒2と、前記溶媒1及び溶媒2と相溶する共溶媒3とを用いて、前記ヘパリンが均一に分散し、かつ、前記生体吸収性高分子を溶解したヘパリン−生体吸収性高分子溶液を調製する溶液調製工程と、前記ヘパリン−生体吸収性高分子溶液を冷却してヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質体を析出させる析出工程と、前記ヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質体を凍結乾燥してヘパリンを含有する多孔質基材を得る凍結乾燥工程を有するヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、ヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材の製造方法において、ヘパリンの分散剤としてポリエチレングリコールを加えることにより、原料ヘパリンの製造ロットや品番に係わらずに安定かつ簡便にヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明のヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材の製造方法(以下、単に「多孔質基材の製造方法」ともいう。)では、まず、生体吸収性高分子とヘパリンとポリエチレングリコールと溶媒1と溶媒2と共溶媒3とを用いて、ヘパリンが均一に分散し、かつ、生体吸収性高分子を溶解したヘパリン−生体吸収性高分子溶液を調製する溶液調製工程を行う。
【0013】
上記生体吸収性高分子としては、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ−ε−カプロラクトン、ラクチド−グリコール酸共重合体、グリコリド−ε−カプロラクトン共重合体、ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ−α−シアノアクリレート、ポリ−β−ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタメート、ポリ−γ−メチル−L−グルタメート、ポリ−L−アラニン、ポリグリコールセバスチン酸等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。これらの生体吸収性材料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
上記ヘパリンは、アンチトロンビンを活性化し、抗凝血作用能の賦活を通して凝固系を抑制する抗凝固薬として知られる薬剤であり、従来公知のヘパリンを用いることができる。また、抗凝固薬であるワルファリン、抗血小板薬であるアスピリン、ジピリダモール等もヘパリンと同様に用いることができる。
【0015】
上記ポリエチレングリコールは、ヘパリンの分散剤としての役割を有する。上記ヘパリンの分散性は、製造ロットや品番によってばらつきがあり、製造ロットや品番によっては安定してヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材を得られないことがある。本発明の多孔質基材の製造方法では、ポリエチレングリコールを併用することにより、ヘパリンの製造ロットや品番に係わらずに安定かつ簡便にヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材を製造することができる。また、ポリエチレングリコールは毒性が極めて低く、除去が容易である点でも、再生医療目的に好適である。
【0016】
上記ポリエチレングリコールは特に限定されないが、平均分子量の好ましい下限は180、好ましい上限は640である。平均分子量がこの範囲内のポリエチレングリコールを用いることにより、よりヘパリンの分散性を向上させ、より安定してヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材を製造することができる。上記ポリエチレングリコールの平均分子量のより好ましい上限は440である。
【0017】
上記溶媒1は、上記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の低い、いわゆる貧溶媒である。ここで相対的に溶解度の低いとは、上記溶媒2よりも上記生体吸収性高分子を溶解しにくい性質を有することを意味する。
上記溶媒1としては、上記生体吸収性高分子が合成高分子である場合には、例えば、水、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等を用いることができる。なかでも、取り扱い性に優れ、ヘパリンの溶解性に優れることから、水が好適である。
【0018】
上記溶媒2は、上記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の高い、いわゆる良溶媒である。
上記溶媒2は、上記溶媒1と相溶しないものである。ここで相溶しないとは、25℃の室温下で混合、撹拌しても相分離することを意味する。
【0019】
上記溶媒2としては、上記生体吸収性高分子が合成高分子であって、上記溶媒1として水を選択した場合には、例えば、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミノケトン、シクロヘサノン、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒を用いることができる。なかでも、比較的毒性が低いことから、メチルエチルケトン、クロロホルム、等が好適である。
【0020】
上記共溶媒3は、上記溶媒1と溶媒2とのいずれとも相溶する。このような共溶媒3を組み合わせることにより、上記溶媒1と溶媒2とが非相溶であっても相分離法による多孔質基材を製造することが可能となり、溶媒1と溶媒2との組み合わせの選択肢が飛躍的に広がる。ここで相溶するとは、25℃の室温下で混合、撹拌しても相分離しないことを意味する。
【0021】
上記共溶媒3としては、上記生体吸収性高分子が合成高分子であって、上記溶媒1として水を、上記溶媒2として有機溶媒を選択した場合には、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、テトラヒドロフラン等を用いることができる。
【0022】
上記溶媒1と溶媒2との配合比は特に限定されないが、溶媒1と溶媒2とが重量比で1:1〜1:100の範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、均一な多孔質基材を製造することができる。より好ましくは、1:10〜1:50の範囲内である。
上記溶媒1と溶媒2との合計と上記共溶媒3の配合比は特に限定されないが、溶媒1と溶媒2との合計と共溶媒3が重量比で1:0.01〜1:0.5の範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、均一な多孔質基材を製造することができる。より好ましくは、1:0.02〜1:0.3の範囲内である。
【0023】
得られる多孔質基材の孔径は、上記溶媒1と溶媒2との配合比を調整することにより制御することができる。具体的には、上記溶媒1の比率を高くすると得られる多孔質基材の孔径が大きくなり、上記溶媒2の比率を高くすると得られる多孔質基材の孔径が小さくなる。しかしながら、溶媒1と溶媒2との配合比を調整する方法では、同時にかさ密度も変動してしまい、任意の孔径とかさ密度を有する多孔質基材を製造することは困難である。
そこで本発明の多孔質基材の製造方法では、上記共溶媒3を2種以上組み合わせて用いることが好ましい(以下、共溶媒3に含まれる2種以上の溶媒を「共溶媒3−1」、「共溶媒3−2」、・・・ともいう。)。上記共溶媒3を2種以上組み合わせて、例えば、共溶媒3−1と共溶媒3−2の配合比を調整することにより、得られる多孔質基材の孔径を制御することができる。即ち、上記溶媒1と溶媒2と共溶媒3の配合比を一定としたまま、共溶媒3に含まれる共溶媒3−1と共溶媒3−2の配合比を調整することにより、得られる多孔質基材の孔径を制御することができる。これは、得られる多孔質基材のかさ密度をほぼ一定として、孔径のみを調整可能なことを意味する。このような本発明の多孔質基材の製造方法によれば、任意の孔径とかさ密度を有する多孔質基材を製造することが容易になる。
【0024】
上記生体吸収性高分子と各溶媒の組み合わせとしては特に限定されないが、例えば、上記生体吸収性高分子がラクチド−ε−カプロラクトン共重合体に対して、上記溶媒1が水、溶媒2がメチルエチルケトン、共溶媒3−1がアセトン、共溶媒3−2がエタノールである組み合わせや、上記生体吸収性高分子がポリラクチドに対して、上記溶媒1が水、溶媒2がクロロホルム、共溶媒3−1がテトラヒドロフラン、共溶媒3−2がエタノールである組み合わせや、上記生体吸収性高分子がポリラクチドに対して、上記溶媒1が水、溶媒2がクロロホルム、共溶媒3−1がアセトン、共溶媒3−2がエタノールである組み合わせ等が挙げられる。
【0025】
上記溶液調製工程においては、生体吸収性高分子とヘパリンとポリエチレングリコールと溶媒1と溶媒2と共溶媒3とを用いて、ヘパリンが均一に分散し、かつ、生体吸収性高分子を溶解したヘパリン−生体吸収性高分子溶液を調製する。
より具体的に上記ヘパリン−生体吸収性高分子溶液を調製する方法としては、例えば、まず、予めヘパリンとポリエチレングリコールを上記溶媒1に溶解しておき、これに共溶媒3を加えて混合溶液を調製する。ここで、ヘパリンが沈殿することなく安定なミセルを形成している場合には、調製直後から室温(25℃)下で24時間静置した後まで、混合溶液は二相に分離したりすることなく白色透明で安定している。次いで、該混合溶液に、生体吸収性高分子を溶解した溶媒2を加えて混合した後、加熱することによりヘパリン−生体吸収性高分子溶液を得ることができる。また、より容易にヘパリン−生体吸収性高分子溶液を調製する方法として、例えば、上記混合溶液に溶媒2を加えて加熱した後、該加熱した溶液に生体吸収性高分子を加える方法や、生体吸収性高分子をいったん溶媒2に溶解した後、加熱しながら上記混合溶液を加える方法等も挙げられる。
上記混合方法は特に限定されず、例えば、スターラチップ、撹拌棒等を用いた公知の混合方法を用いることができる。
なお、ポリエチレングリコールは、溶媒1、溶媒2又は共溶媒3のうちの可溶な溶媒のいずれか又は全てに溶解させて加えればよく、また、ポリエチレングリコールを加えるタイミングも特に限定されない。
【0026】
上記溶液調製工程において、上記生体吸収性高分子に対する上記ヘパリンの配合割合は特に限定されないが、上記生体吸収性高分子100重量部に対するヘパリンの配合量の好ましい下限は100unit、好ましい上限は10000000unitである。上記ヘパリンの配合量がこの範囲内であると、例えば本発明の製造方法により製造した多孔質基材を人工血管に用いたときに、多孔質基材の分解に従い充分なヘパリンを徐放させて血栓の形成を防止することができる。上記ヘパリンの配合量のより好ましい下限は1000unit、より好ましい上限は5000000unitである。
【0027】
上記溶液調製工程において、上記ヘパリンに対する上記ポリエチレングリコールの配合割合は特に限定されないが、上記ヘパリン10000unitに対するポリエチレングリコールの配合量の好ましい下限は0.01mg、好ましい上限は1000mgである。上記ポリエチレングリコールの配合量がこの範囲内であると、よりヘパリンの分散性を向上させ、より安定してヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材を製造することができる。上記ポリエチレングリコールの配合量のより好ましい下限は0.1mg、より好ましい上限は500mgである。
【0028】
得られたヘパリン−生体吸収性高分子溶液において、上記生体吸収性高分子は均一に溶解し、ヘパリンは均一に分散している。上記ヘパリン−生体吸収性高分子溶液中においては、ヘパリンは自己ミセル化して安定なミセルを形成しているものと考えられ、ポリエチレングリコールは該ヘパリンの自己ミセル化を促進しているものと考えられる。
【0029】
上記溶液調製工程における加熱の温度としては、上記生体吸収性高分子が均一に溶解する温度であれば特に限定されないが、上記溶媒1、溶媒2及び共溶媒3のいずれの沸点よりも低い温度であることが好ましい。沸点以上の温度にまで加熱すると、各溶媒の配合比が変動して、得られる多孔質基材の孔径、かさ密度を制御できなくなることがある。
【0030】
本発明の多孔質基材の製造方法では、次いで、得られたヘパリン−生体吸収性高分子溶液を冷却してヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質体を析出させる析出工程を行う。冷却することにより、不溶となった上記生体吸収性高分子からなる多孔質体が析出する。これは、上記生体吸収性高分子が結晶化され析出する前に、上記生体吸収性高分子が結晶化する温度以上で、液体状態の生体吸収性高分子と各溶媒とがまず熱力学的不安定性により相分離(液−液相分離)するためと考えられる。この際、ヘパリン−生体吸収性高分子溶液中に分散していたヘパリンは、ファンデルワールス力等により、析出した生体吸収性高分子からなる多孔質体の表面に均一に付着する。
【0031】
上記析出工程における冷却の温度としては、生体吸収性高分子からなる多孔質体を析出できる温度であれば特に限定されないが、4℃以下であることが好ましく、−24℃以下であることがより好ましい。
なお、得られる多孔質基材の孔径は冷却速度にも影響される。具体的には、冷却速度が早いと孔径が小さくなり、冷却速度が遅いと孔径が大きくなる傾向がある。従って、特に孔径の小さい多孔質基材を得る場合には、冷却温度を低く設定して急速に冷却することが考えられる。
【0032】
本発明の多孔質基材の製造方法では、次いで、得られたヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質体を凍結乾燥してヘパリンを含有する多孔質基材を得る凍結乾燥工程を行う。
上記凍結乾燥の条件としては特に限定されず、従来公知の条件で行うことができる。
上記凍結乾燥工程は、上記冷却工程後にそのまま行ってもよいが、溶媒として用いた各種有機溶媒やポリエチレングリコールを除去する目的で、予めポリエチレングリコールを容易に溶解するエタノール等に多孔質体を浸漬して置換してから、凍結乾燥を行ってもよい。この際、多孔質基材からヘパリンが溶出してしまわないように、ヘパリンを溶解しない溶媒を用いる。
【0033】
本発明の多孔質基材の製造方法を用いれば、毒性の高い界面活性剤を用いることなく、原料ヘパリンの製造ロットや品番に係わらずに安定して、極めて簡便にヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材を製造することができる。また、毒性の高い溶媒を用いることなく、容易にかさ密度と孔径とを調整して多孔質基材を得ることができる。
【0034】
本発明のヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材の製造方法によってなるヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材もまた、本発明の1つである。
本発明のヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材は、ヘパリンを含有するにもかかわらず、界面活性剤を含有しない。これにより、血管等の組織の再生が界面活性剤の毒性により妨げられることがない。
なお、本明細書において界面活性剤を含有しないとは、界面活性剤の含有量が0.1ppm以下であることを意味する。
【0035】
本発明のヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材は、例えば、血管、神経等の再生に用いることができ、特に血管の再生に好適に用いることができる。
なかでも、本発明の多孔質基材の製造方法により得られたチューブ状の人工血管は、極めて優れた性能を発揮することができる。
以下、本発明の多孔質基材の製造方法を用いた人工血管の製造についてより詳しく説明する。
【0036】
上記チューブ状の人工血管の製造方法は、本発明の多孔質基材の製造方法と同様に溶液調製工程→析出工程→凍結乾燥工程により行うが、溶液調製工程の後、析出工程の前にチューブ状に成形するための工程を行う。
具体的には、上記溶液調製工程で得られたヘパリン−生体吸収性高分子溶液を、棒状体の表面に塗工する塗工工程を行った後に、棒状体の表面のヘパリン−生体吸収性高分子溶液を冷却して、棒状体の周りにヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなるチューブ状の多孔質体を析出させる析出工程を行う。
【0037】
上記棒状体は、多孔質体をチューブ状に成形するための部材であり、得られた多孔質体から抜き取ったときに棒状体の直径が得られるチューブ状の人工血管の内径に略該当する。
ここで本発明者らは、上記棒状体として、特にステンレスや樹脂被覆ステンレス等の金属からなる棒状体を用いた場合には、得られたチューブ状の人工血管を移植したときに、肥厚化や石灰化の起こりにくい、極めて正常な血管が再生されることを見出した。
これは、上記棒状体の表面のヘパリン−生体吸収性高分子溶液を冷却して、棒状体の周りにヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなるチューブ状の多孔質体を析出させる析出工程を行う際に、熱伝導性の高い金属からなる棒状体に接するチューブの内側部分では急速に冷却されるため、その周りの部分(以下、「多孔質層」ともいう。)に比べて相対的に孔径の小さい層(以下、「スキン層」ともいう。)が形成されるためと考えられる。血管が再生されるためには、人工血管全体としては細胞が侵入できる充分な孔径の孔が形成されている必要がある。一方、直接血流と接する内側部分では、肥厚化や石灰化の原因となる血小板の付着を防止することが重要である。チューブ状の人工血管の内側に上記スキン層が形成されることにより、血流と接する内側部分では血小板の付着を防止でき、かつ、その他の部分では細胞が容易に侵入できるため、正常な血管が再生されるものと考えられる。
更に、棒状体の種類や冷却方法を調整することにより、内側にスキン層を有し、かつ、該スキン層の周りの多孔質層の孔径が外側にいくに従い大きくなる形態の人工血管も製造することができる。なお、逆に、外側にスキン層を有し、かつ、該スキン層の内側の多孔質層の孔径が内側にいくに従い大きくなる形態の人工血管も製造することも可能である。
【0038】
上記ヘパリン−生体吸収性高分子溶液を棒状体の表面に塗工する方法としては特に限定されず、例えば、棒状体をヘパリン−生体吸収性高分子溶液中に1回又は複数回ディップする方法や、上記棒状体の直径よりも内径の大きな筒状体の中に棒状体を配置し、棒状体と筒状体との隙間に上記ヘパリン−生体吸収性高分子溶液を流し込む方法等が挙げられる。
なお、得られるチューブ状の多孔質体は、析出工程において若干収縮することから、棒状体や筒状体の抜き取りは容易であるが、予め棒状体や筒状体の表面にコーティング等の滑り加工を施しておいてもよい。
【0039】
本発明のヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材からなる人工血管もまた、本発明の1つである。
本発明の人工血管の内径は特に限定されないが、一般的な血管の内径から、好ましい下限は0.5mm、好ましい上限は8.0mm程度である。また、上記人工血管の外径は特に限定されないが、一般的な血管の外径から、好ましい下限は1.0mm、好ましい上限は10.0mm程度である。
とりわけ内径が2.0〜5.0mm程度の抹消血管の再生にも利用可能な人工血管は、従来の方法では製造が困難であったが、本発明の多孔質基材の製造方法によれば容易に製造することができる。
【0040】
本発明の人工血管は、最外層として生体吸収性高分子からなり、繊維径0.1〜10μmの極細繊維からなる極細繊維不織布層を有することが好ましい。このような極細繊維不織布層を最外層に設けることにより、血流の圧力によって血液が漏れ出すことを防止することができ、また、移植後に外部からの圧迫に対して充分な強度を発揮して、キンキング(折れる現象)によって血管が閉塞するのを防止することができる。
【0041】
上記極細繊維不織布層を構成する生体吸収性高分子としては特に限定されず、上述の合成高分子や天然高分子等を用いることができる。
なかでも、上記極細繊維不織布層を構成する生体吸収性高分子として生体吸収性の異なる2種以上の生体吸収性高分子を組み合わせて用いることが好ましい。上記極細繊維不織布層を設けることにより人工血管の強度を向上させることができる一方、極細繊維不織布層により細胞の侵入が妨げられ、血管再生が遅延したり、石灰化の原因となったりすることがある。生体吸収性の異なる2種以上の生体吸収性高分子を組み合わせて極細繊維不織布層を構成することにより、この点を著しく改善することができる。
例えば、相対的に生体吸収性の高いポリグリコリドと、相対的に生体吸収性の低いポリラクチドとを組み合わせて極細繊維不織布層を構成する。この場合、特に強度が求められる移植直後の比較的初期においては、2種の生体吸収性高分子のいずれもが分解せずに存在することから、高い強度向上効果を発揮できる。その後、徐々に生体吸収性の高いポリグリコリドが分解され吸収されていくに従って、極細繊維不織布層に空隙が生成する。この空隙により細胞の侵入が容易となり、血管再生が促進され、石灰化を防止することができる。
【0042】
上記極細繊維不織布層の厚みの好ましい下限は10μm、好ましい上限は1000μmである。上記極細繊維不織布層の厚みがこの範囲内であると、充分な強度向上効果を発揮することができる。
【0043】
上記極細繊維不織布層を形成する方法は特に限定されないが、電界紡糸法が好適である。電界紡糸法は、ノズルとコレクタ電極の間に高電圧をかけた状態で、ノズルから生体吸収性高分子を溶解した溶液をターゲットに向けて吐出する方法である。ノズルから発射された溶液は、電気力線に沿って極細繊維状となり、ターゲット上に付着する。
【0044】
本発明の人工血管の製造方法では、上記棒状体として金属からなる導電性の棒状体を用いることにより、該棒状体をコレクタ電極とすることができる。このとき、チューブ状の人工血管が形成された棒状体を回転させ、ノズルを複数回往復させながら吐出することにより、上記チューブ状の人工血管の最外層として上記極細繊維不織布層を形成することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、界面活性剤を用いず、かつ、原料ヘパリンの製造ロットや品番に係わらずに安定かつ簡便にヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材を製造する方法、ヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材、及び、人工血管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】実施例1で得られた多孔質基材の断面の電子顕微鏡写真である。
図2】比較例1で得られた多孔質基材の断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
25℃の室温下にて、溶媒1としてヘパリン(和光純薬工業社製、試薬特級、Lot.SAE0246)を10000units/mLの濃度で、ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製「PEG300」、平均分子量260〜340)を50mg/mL溶解させた水0.3mLに、共溶媒3としてエタノール0.6mL及びアセトン0.6mLを加えて混合溶液を調製した。
得られた混合溶液を目視により観察したところ、二相に分離したりすることもなく白色透明で安定していたことから、ヘパリンが沈殿することなく安定なミセルを形成しているものと考えられた。
また、得られた混合溶液を室温(25℃)下で24時間静置した後にも目視により観察したところ、二相に分離したりすることもなく安定していることが確認された。
結果を表1に示した。
【0049】
次いで、得られた混合溶液と、溶媒2としてメチルエチルケトン2.0mLにL−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体(モル比50:50)0.25gを溶解させた溶液とを混合した後、直径3.3mmのガラス管に入れて60℃に加熱したところ、ヘパリンが均一に分散し、L−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体が溶解した溶液が得られた。
次いで、得られた溶液を冷凍庫内に入れることにより4℃又は−24℃に冷却したところ、ヘパリンを含有するL−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体からなる多孔質体が析出した。
得られた多孔質体を、50mLのエタノール槽中に4℃又は−24℃、12時間浸漬し、次いで、50mLのt−ブチルアルコールに25℃、12時間浸漬して洗浄を行った。
その後、−40℃の条件で凍結乾燥を行い、直径3.0mm、高さ15mmの円柱状の多孔質基材を得た。
図1に得られた円柱状の多孔質基材を切断し、その断面の中央付近を倍率10000倍で撮影した電子顕微鏡写真を示した。図1より、得られた多孔質基材ではL−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体からなる多孔質体の表面にヘパリンと思われる粒子が付着しているのが確認できた。
【0050】
ヘパリンとして、「和光純薬工業社製、試薬特級、Lot.SAE0247」、「和光純薬工業社製、試薬特級、Lot.SAE0248」及び「ナカライテクス社製、1G、Lot.M6H8839」を用いた以外は同様の方法により、ヘパリンとPEG300を溶解した水(溶媒1)とエタノール及びアセトン(共溶媒3)との混合溶液を得た。
得られた混合溶液を目視により観察したところ、二相に分離したりすることもなく白色透明で安定していたことから、ヘパリンが沈殿することなく安定なミセルを形成しているものと考えられた。また、得られた混合溶液を室温(25℃)下で24時間静置した後にも目視により観察したところ、二相に分離したりすることもなく安定していることが確認された。
該混合溶液を用いて更に同様の方法により多孔質基材を製造した。
結果を表1に示した。
【0051】
(実施例2)
ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製「PEG200」、平均分子量180〜220)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、ヘパリンとPEG200を溶解した水(溶媒1)とエタノール及びアセトン(共溶媒3)との混合溶液を得て、該混合溶液を用いて多孔質基材を製造した。
【0052】
得られた混合溶液を目視により観察したところ、二相に分離したりすることもなく白色透明で安定していたことから、ヘパリンが沈殿することなく安定なミセルを形成しているものと考えられた。また、得られた不均一溶液を室温(25℃)下で24時間静置した後にも目視により観察したところ、二相に分離したりすることもなく安定していることが確認された。
結果を表1に示した。
【0053】
(実施例3)
ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製「PEG400」、平均分子量360〜440)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、ヘパリンとPEG400を溶解した水(溶媒1)とエタノール及びアセトン(共溶媒3)との混合溶液を得て、該混合溶液を用いて多孔質基材を製造した。
【0054】
得られた混合溶液を目視により観察したところ、二相に分離したりすることもなく安定していたことから、ヘパリンが沈殿することなく安定なミセルを形成しているものと考えられた。また、得られた混合溶液を室温(25℃)下で24時間静置した後にも目視により観察したところ、二相に分離したりすることもなく安定していることが確認された。
結果を表1に示した。
【0055】
(比較例1)
ポリエチレングリコールを用いなかった以外は実施例1と同様の方法により、ヘパリンを溶解した水(溶媒1)とエタノール及びアセトン(共溶媒3)との混合溶液を得て、該混合溶液を用いて多孔質基材を製造した。
【0056】
得られた混合溶液を目視により観察したところ、ヘパリンとして「ナカライテクス社製、1G、Lot.M6H8839」を用いたものは、二相に分離したりすることもなく白色透明で安定しており、室温(25℃)下で24時間静置した後にも安定していることが確認された。
しかしながら、へパリンとして「和光純薬工業社製、試薬特級、Lot.SAE0247」、「和光純薬工業社製、試薬特級、Lot.SAE0248」を用いたものは、調製直後には白濁しながらも安定していたものの、室温(25℃)下で24時間静置した後には僅かに沈殿が認められた。更に、へパリンとして「和光純薬工業社製、試薬特級、Lot.SAE0246」を用いたものは、調製直後からヘパリンが沈殿して二相に分離していた。
結果を表1に示した。
【0057】
図2に得られた円柱状の多孔質基材を切断し、その断面の中央付近を倍率10000倍で撮影した電子顕微鏡写真を示した。
図2より、得られた多孔質基材ではL−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体からなる多孔質体の表面にヘパリンと思われる粒子が付着しているのは認められたものの、実施例1で得られた多孔質基材に比べてその付着量は僅かであった。
【0058】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、界面活性剤を用いず、かつ、原料ヘパリンの製造ロットや品番に係わらずに安定かつ簡便にヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材を製造する方法、ヘパリンを含有する生体吸収性高分子からなる多孔質基材、及び、人工血管を提供することができる。
図1
図2