特許第6803768号(P6803768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6803768材料分析装置、材料分析方法及びX線CT装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803768
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】材料分析装置、材料分析方法及びX線CT装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/046 20180101AFI20201214BHJP
【FI】
   G01N23/046
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-32787(P2017-32787)
(22)【出願日】2017年2月24日
(65)【公開番号】特開2018-136282(P2018-136282A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】高木 寛之
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/028654(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/029702(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/132880(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
A61B 6/00−6/14
JMEDPlus(JDreamIII)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体内の元素の分布が推定された画像である元素分布推定画像を設定する推定画像設定部と、
前記元素分布推定画像に対して投影線を配置し、投影線の位置を変えながら投影データを算出し、前記算出された投影データに基づいて前記検体のCT再構成画像を模擬した画像であるCT模擬画像を生成する模擬画像生成部と、
X線CT装置によって生成される前記検体のCT再構成画像と前記CT模擬画像との差異を算出する差異算出部と、
前記差異に応じて前記元素分布推定画像を修正する推定画像修正部と、
前記推定画像修正部と前記模擬画像生成部と前記差異算出部での処理を繰り返すか否かを判定する判定部と、
前記判定部にて処理の繰り返しを停止すると判定された段階での元素分布推定画像を出力する推定画像出力部とを備えることを特徴とする材料分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の材料分析装置において、
前記推定画像修正部は、前記CT模擬画像の画素値が前記CT再構成画像の画素値よりも大きい領域では前記元素分布推定画像の画素値を低下させ、前記CT模擬画像の画素値が前記CT再構成画像の画素値よりも小さい領域では前記元素分布推定画像の画素値を増加させることを特徴とする材料分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の材料分析装置において、
前記模擬画像生成部は、前記X線CT装置が有するX線源から照射されるX線のX線スペクトルと、各元素の減弱スペクトルとを用いることを特徴とする材料分析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の材料分析装置において、
前記X線スペクトルはシミュレーションにより求められることを特徴とする材料分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の材料分析装置において、
前記推定画像設定部は、前記CT再構成画像に基づいて元素分布推定画像を設定することを特徴とする材料分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の材料分析装置において、
前記判定部は、前記差異算出部で算出された前記差異の大きさに基づいて処理を繰り返すか否かを判定することを特徴とする材料分析装置。
【請求項7】
検体内の元素の分布が推定された画像である元素分布推定画像を設定する設定ステップと、
前記元素分布推定画像に対して投影線を配置し、投影線の位置を変えながら投影データを算出し、前記算出された投影データに基づいて前記検体のCT再構成画像を模擬した画像であるCT模擬画像を生成する生成ステップと、
X線CT装置によって生成される前記検体のCT再構成画像と前記CT模擬画像との差異を算出する算出ステップと、
前記差異に応じて前記元素分布推定画像を修正する修正ステップと、
前記修正ステップと前記生成ステップと前記算出ステップでの処理を繰り返すか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにて処理の繰り返しを停止すると判定された段階での元素分布推定画像を出力する出力ステップと、を備えることを特徴とする材料分析方法。
【請求項8】
検体のCT再構成画像を生成するX線CT装置であって、
前記検体内の元素の分布が推定された画像である元素分布推定画像を設定する推定画像設定部と、
前記元素分布推定画像に対して投影線を配置し、投影線の位置を変えながら投影データを算出し、前記算出された投影データに基づいて前記CT再構成画像を模擬した画像であるCT模擬画像を生成する模擬画像生成部と、
前記CT再構成画像と前記CT模擬画像との差異を算出する差異算出部と、
前記差異に応じて前記元素分布推定画像を修正する推定画像修正部と、
前記推定画像修正部と前記模擬画像生成部と前記差異算出部での処理を繰り返すか否かを判定する判定部と、
前記判定部にて処理の繰り返しを停止すると判定された段階での元素分布推定画像を出力する推定画像出力部とを備えることを特徴とするX線CT装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT(Computed Tomography)装置によって生成されたCT再構成画像を用いた材料分析装置、材料分析方法及びX線CT装置に係り、特にエネルギー識別可能な検出器を用いることなく検体内の元素分布を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
CT再構成画像の画素値は検体内の密度値と相関することから、CT再構成画像の画素値を検体内の密度値に換算することにより、検体内の密度分布を求めて、組成を分析することができる。しかしながら検体に照射されるX線のエネルギー特性や、検体に含まれる元素の違いの影響により、CT再構成画像の画素値から換算した密度値が実際の密度値よりも過大若しくは過小となってしまい、適切な組成分析ができなくなる場合がある。
【0003】
特許文献1ではX線のエネルギー特性の影響を抑制するために、X線エネルギーを識別できる検出器を使用することによって、単色光を用いたX線CT装置に近い効果を実現し、元素分布の画像化をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−148646号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、大型の検体を撮影する場合には、大型の検体をX線が透過できるように大線量、高エネルギーのX線源を用いるので、検出器に入射する光子数が膨大になったり、検出器内での光子の相互作用が多段階になったりすることから、X線エネルギーを識別できる検出器を使用することが困難になる。
【0006】
そこで本発明は、X線エネルギーを識別できる検出器を使用せずとも、検体内の材料を分析できる材料分析装置、材料分析方法及びX線CT装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、検体内の元素の分布が推定された元素分布推定画像を用いたCT模擬画像の生成と、X線CT装置によって生成された前記検体のCT再構成画像と前記CT模擬画像との差異に応じた前記元素分布推定画像の修正と、を所定の条件が満たされるまで繰り返し、所定の条件が満たされた段階での元素分布推定画像を出力することを特徴とする。
【0008】
具体的には、本発明の材料分析装置は、検体内の元素の分布が推定された画像である元素分布推定画像を設定する推定画像設定部と、前記元素分布推定画像を用いて前記検体のCT再構成画像を模擬した画像であるCT模擬画像を生成する模擬画像生成部と、X線CT装置によって生成される前記検体のCT再構成画像と前記CT模擬画像との差異を算出する差異算出部と、前記差異に応じて前記元素分布推定画像を修正する推定画像修正部と、前記推定画像修正部と前記模擬画像生成部と前記差異算出部での処理を繰り返すか否かを判定する判定部と、前記判定部にて処理の繰り返しを停止すると判定された段階での元素分布推定画像を出力する推定画像出力部とを備えることを特徴とする材料分析装置である。
【0009】
また、本発明の材料分析方法は、検体内の元素の分布が推定された画像である元素分布推定画像を設定する設定ステップと、前記元素分布推定画像を用いて前記検体のCT再構成画像を模擬した画像であるCT模擬画像を生成する生成ステップと、X線CT装置によって生成される前記検体のCT再構成画像と前記CT模擬画像との差異を算出する算出ステップと、前記差異に応じて前記元素分布推定画像を修正する修正ステップと、前記修正ステップと前記生成ステップと前記算出ステップでの処理を繰り返すか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップにて処理の繰り返しを停止すると判定された段階での元素分布推定画像を出力する出力ステップとを備えることを特徴とする材料分析方法である。
【0010】
また、本発明のX線CT装置は、検体のCT再構成画像を生成するX線CT装置であって、前記検体内の元素の分布が推定された画像である元素分布推定画像を設定する推定画像設定部と、前記元素分布推定画像を用いて前記CT再構成画像を模擬した画像であるCT模擬画像を生成する模擬画像生成部と、前記CT再構成画像と前記CT模擬画像との差異を算出する差異算出部と、前記差異に応じて前記元素分布推定画像を修正する推定画像修正部と、前記推定画像修正部と前記模擬画像生成部と前記差異算出部での処理を繰り返すか否かを判定する判定部と、前記判定部にて処理の繰り返しを停止すると判定された段階での元素分布推定画像を出力する推定画像出力部とを備えることを特徴とするX線CT装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、X線エネルギーを識別できる検出器を使用せずとも、検体内の材料を分析できる材料分析装置、材料分析方法及びX線CT装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の材料分析装置1の全体構成図
図2】X線CT装置12の全体構成図
図3】本発明の機能ブロック図
図4】本発明の処理の流れを示す図
図5図4のS402の処理の流れを示す図
図6】元素分布推定画像600における投影線601上の各領域の長さを説明する図
図7】X線スペクトルの一例を示す図
図8】減弱スペクトルの一例を示す図
図9図4のS405の処理の流れを示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第一の実施形態]
以下、添付図面に従って本発明に係る材料分析装置及び材料分析方法の好ましい実施形態について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【0014】
図1は材料分析装置1のハードウェア構成を示す図である。材料分析装置1は、CPU(Central Processing Unit)2、主メモリ3、記憶装置4、インターフェース5、ネットワークアダプタ6がシステムバス7によって信号送受可能に接続されて構成される。材料分析装置1は、ネットワーク10を介してX線CT装置11や物理量データベース12と信号送受可能に接続される。ここで、「信号送受可能に」とは、電気的、光学的に有線、無線を問わずに、相互にあるいは一方から他方へ信号送受可能な状態を示す。
【0015】
CPU2は、各構成要素の動作を制御する装置である。CPU2は、記憶装置4に格納されるプログラムやプログラム実行に必要なデータを主メモリ3にロードして実行する。記憶装置4は、CPU2が実行するプログラムやプログラム実行に必要なデータを格納する装置であり、具体的にはハードディスク等である。各種データはLAN(Local Area Network)等のネットワーク12を介して送受信される。主メモリ3は、CPU2が実行するプログラムや演算処理の途中経過を記憶するものである。
【0016】
インターフェース5は、液晶ディスプレイ等の表示装置6及びキーボード、マウス等の入力装置9とCPU2とを接続するデバイスであり、CPU2での処理により生成された表示データを表示装置6へ出力したり、入力装置9からの操作指示をCPU2へ出力したりする。ネットワークアダプタ6は、材料分析装置1をLAN、電話回線、インターネット等のネットワーク10に接続するデバイスである。
【0017】
X線CT装置11は、検体のCT再構成画像を生成する装置である。X線CT装置11については図2を用いて後述する。物理量データベース12は、様々な物理量が記憶されるデータベースシステムである。物理量データベース12には、X線エネルギーに対する各元素の線減弱係数である減弱スペクトルや、X線CT装置11によって生成されたCT再構成画像が記憶されても良い。
【0018】
図2を用いてX線CT装置11の全体構成を説明する。X線CT装置11は、X線源20と、検出器アレイ21、測定回路22、スキャナテーブル23、画像再構成部24、画像出力部25、制御部26を備えている。
【0019】
X線源20はX線27(例えばX線ファンビーム)を放出する装置である。検出器アレイ21は検体28を透過したX線27を検出する複数のX線検出器を有する装置である。測定回路22は検出器アレイ21の各X線検出器からの出力信号を測定する回路である。スキャナテーブル23は搭載された検体28を図2中の矢印の方向に回転させる装置である。画像再構成部24は測定回路22から出力される投影データを用いてCT再構成画像を生成する。画像出力部25は画像再構成部24によって生成されたCT再構成画像を出力する。制御部26はこれらの各装置及び各部を制御する。
【0020】
スキャナテーブル23を回転させながら、検体28を透過したX線27を検出器アレイ21及び測定回路22で測定することにより、様々な角度からの投影データが取得される。取得された投影データが画像再構成部24にて逆投影処理されることにより検体28の断層画像であるCT再構成画像が生成される。生成されたCT再構成画像は画像出力部25に送信され、液晶ディスプレイ等の表示装置に表示されたり、プリンタ等で印刷されたりする。
【0021】
図3を用いて本実施形態の要部について説明する。なおこれらの要部は、専用のハードウェアで構成されても良いし、CPU2上で動作するソフトウェアで構成されても良い。以降の説明では本実施形態の要部がソフトウェアで構成された場合について説明する。
【0022】
本実施形態は、データ取得部31、推定画像設定部32、模擬画像生成部33、差異算出部34、推定画像修正部35、判定部36、推定画像出力部37を備える。また、記憶装置4には、X線スペクトルや減弱スペクトルが記憶されていても良い。X線スペクトルとは、X線エネルギーに対するX線強度の分布を示すものであり、図7に例示される。X線スペクトルは、異なる厚さの減弱体を用いた計測や、物理量データを用いたシミュレーションによって取得される。X線スペクトルをシミュレーションにより求める際には、電子線やX線ターゲット等の詳細情報が用いられ、電子線とX線ターゲットの制動輻射によるX線の反応断面積データに基づいてX線スペクトルが計算される。減弱スペクトルはX線エネルギーに対する各元素の線減弱係数であり、図8に例示される。以下、各構成部について説明する。
【0023】
データ取得部31は、CT再構成画像やX線スペクトル、減弱スペクトルといった各種データを取得する。各種データは記憶装置4から取得されても良いし、ネットワークアダプタ6を介してX線CT装置11や物理量データベース12から取得されても良い。
【0024】
推定画像設定部32は、元素分布推定画像を設定する。元素分布推定画像とは検体28内の元素の分布を推定した画像である。推定画像設定部32によって設定される元素分布推定画像は一次推定の画像であるので、全座標に対して一様な画素値が設定されても良いし、検体28のCT再構成画像の画素値に基づいて設定されても良い。CT再構成画像に基づいて元素分布推定画像を設定する場合は、CT再構成画像の画素値が検体28内の密度値と相関することに基づいて、CT再構成画像の画素値が高い領域に大きい原子番号の元素が、画素値が低い領域には小さい原子番号の元素が割り当てられる。
【0025】
模擬画像生成部33は、元素分布推定画像を用いてCT模擬画像を生成する。CT模擬画像とは検体28のCT再構成画像を模擬した画像である。CT模擬画像の生成に用いられる元素分布推定画像は、推定画像設定部32によって設定された元素分布推定画像、または後述する推定画像修正部35によって修正された元素分布推定画像である。CT模擬画像の生成過程については図5を用いて後述する。
【0026】
差異算出部34は、模擬画像生成部33によって生成されたCT模擬画像と、X線CT装置11によって生成されたCT再構成画像との差異を算出する。両者の差異を算出するに先立ち、CT模擬画像とCT再構成画像との位置合わせ処理が行われても良い。
【0027】
推定画像修正部35は、CT模擬画像とCT再構成画像との差異に基づいて元素分布推定画像を修正する。元素分布推定画像の修正過程については図9を用いて後述する。
【0028】
判定部36は、推定画像修正部36と模擬画像生成部33と差異算出部34での処理を繰り返すか否かを判定する。処理を繰り返すか否かの判定は、CT模擬画像とCT再構成画像との差異が十分に小さくなったかどうかに基づいてなされても良いし、処理の繰り返し回数が多くなり過ぎたかどうかに基づいてなされても良い。すなわち、CT模擬画像とCT再構成画像との差異が予め定められた閾値以下になった段階、または処理の繰り返し回数が予め定められた閾値を超えた段階で、判定部36は処理の繰り返しを停止することを判定する。
【0029】
推定画像出力部37は、判定部36が処理の繰り返しを停止すると判定した段階での元素分布推定画像を出力する。
【0030】
図4を用いて、以上の構成部を備える材料分析装置1が実行する処理の流れを説明する。
【0031】
(S401)
推定画像設定部32は、元素分布推定画像を設定する。元素分布推定画像は全座標に対して一様な画素値が設定されても良いし、検体28のCT再構成画像の画素値に基づいて設定されても良い。全座標に対して一様な画素値が元素分布推定画像に設定される場合は、推定画像設定部32での処理が簡略化できる。またCT再構成画像の画素値に基づいて元素分布推定画像が設定される場合は、以降の処理での繰り返し回数を低減できる。設定された元素分布推定画像は、模擬画像生成部33に送信される。
【0032】
(S402)
模擬画像生成部33は、元素分布推定画像を用いてCT模擬画像を生成する。図5を用いてCT模擬画像を生成する処理の流れを説明する。
【0033】
(S501)
模擬画像生成部33は、データ取得部31を介して記憶装置4や物理量データベース12からX線スペクトルを取得する。X線スペクトルの一例を図7に示す。図7の横軸はX線エネルギーであり、縦軸はX線強度、すなわちX線フォトン数である。
【0034】
X線スペクトルは異なる厚さの減弱体を用いた計測や、物理量データを用いたシミュレーションによって予め取得されて、記憶装置4や物理量データベース12に記憶される。計測によりX線スペクトルが取得される場合には、X線CT装置12が備えるX線源20のX線スペクトルをより正確に取得できるので、最終的に出力される元素分布推定画像の精度を向上させることができる。またシミュレーションによりX線スペクトルが取得される場合には、減弱体を用いた計測が不要となるので、減弱体の設置が困難な場面で有効である。
【0035】
(S502)
模擬画像生成部33は、元素分布推定画像に対して投影角度の初期設定を行う。設定される投影角度はX線CT装置11と一致させることが好ましい。
【0036】
(S503)
模擬画像生成部33は、元素分布推定画像に対して設定された投影角度の投影線上の各元素の長さを算出する。図6を用いて、本ステップでの処理について説明する。
【0037】
図6は、元素分布推定画像600に対して1本の投影線601が配置された様子を示す図である。元素分布推定画像600内には4つの領域、すなわち第1の領域600a、第2の領域600b、第3の領域600c、第4の領域600dが含まれており、各領域には異なる元素が割り当てられている。投影線601は第1の領域600a、第2の領域600b、第1の領域600aの順に元素分布推定画像600を横切っているので、その様子から投影線601が各領域を横切る長さが算出される。すなわち、図6の例では、第1の領域600aの長さはL1+L3、第2の領域600bの長さはL2、第3の領域600cの長さは0、第4の領域600dの長さは0とそれぞれ算出される。
【0038】
(S504)
模擬画像生成部33は、S503で算出された投影線上の各元素の長さと、X線スペクトル、減弱スペクトルを用いて順投影処理を行う。例えば、図7に示すようなX線スペクトルからあるX線エネルギーExにおけるX線強度φ(Ex)を取得し、図8に示すような減弱スペクトルから投影線が横切る領域の元素のX線エネルギーExにおける線減弱係数μ(Ex)を取得する。そしてX線強度φ(Ex)と線減弱係数μ(Ex)と投影線上の各元素の長さを用いることにより、ある投影角度のある投影線における投影データが算出される。投影データは、投影線の位置を変えながらそれぞれ算出される。
【0039】
投影データの算出には、X線源20からスキャナテーブル22までの距離や検出器アレイ21のX線検出器の数などのX線CT装置11の幾何体系や検出器アレイ21の検出効率などの応答関数が用いられ、X線CT装置11での投影データの計測を模擬させることが好ましい。また減弱スペクトルは各元素のものだけでなく、黄銅や青銅、インコネルといった各種混合物のものが用いられても良い。
【0040】
(S505)
模擬画像生成部33は、全投影角度での順投影処理が終了したか否かを判定する。終了していなければS506を介してS503へ処理を戻し、終了していればS507へ処理を進める。
【0041】
(S506)
模擬画像生成部33は、投影角度を変更した後、S503へ処理を戻す。
【0042】
(S507)
模擬画像生成部33は、様々な投影角度に対して算出された投影データを用いて逆投影処理を行い、CT模擬画像を生成する。
【0043】
図4の説明に戻る。
【0044】
(S403)
差異算出部34は、S402で生成されたCT模擬画像とX線CT装置11で生成されたCT再構成画像との差異を算出する。算出された差異は、推定画像修正部35と判定部36に送信される。
【0045】
(S404)
判定部36は、所定の条件を満たしたか否かを判定する。条件を満たしていなければS405を介してS402へ処理を戻し、満たしていればS406へ処理を進める。
【0046】
所定の条件には、例えばCT模擬画像とCT再構成画像との差異が予め定められた閾値以下であるという条件が用いられる。この場合、最終的に出力される元素分布推定画像の精度を向上させることができる。また他の条件として、処理の繰り返し回数が予め定められた閾値以上であるという条件を用いても良い。この場合、最終的な元素分布推定画像を所定の時間内に出力することができる。
【0047】
(S405)
推定画像修正部35は、S403で算出された差異に基づいて元素分布推定画像を修正する。修正された元素分布推定画像は、模擬画像生成部33に送信される。図9を用いて元素分布推定画像を修正する処理の流れを説明する。
【0048】
(S901)
推定画像修正部35は、元素分布推定画像上の座標の初期設定を行う。例えば、左端の上端の座標が処理対象に設定される。
【0049】
(S902)
推定画像修正部35は、処理対象である座標において、CT模擬画像の画素値がCT再構成画像の画素値よりも大きいか否かを判定する。CT模擬画像の画素値の方が大きければS903へ処理を進め、そうでなければS904へ処理を進める。
【0050】
(S903)
推定画像修正部35は、元素分布推定画像の画素値、すなわち元素番号を低下させる。画素値の低下の程度は、CT模擬画像の画素値とCT再構成画像の画素値との差異に応じて設定されても良い。
【0051】
(S904)
推定画像修正部35は、元素分布推定画像の画素値、すなわち元素番号を増加させる。画素値の増加の程度は、CT模擬画像の画素値とCT再構成画像の画素値との差異に応じて設定されても良い。
【0052】
(S905)
推定画像修正部35は、全座標について一連の処理が終了したか否かを判定する。終了していれば元素分布推定画像の修正は終了となり、そうでなければS906を介してS902へ処理を戻す。
【0053】
(S906)
推定画像修正部35は、元素分布推定画像上で処理対象である座標を変更し、S902へ処理を戻す。
【0054】
図4の説明に戻る。
【0055】
(S406)
推定画像出力部37は、この段階における元素分布推定画像をインターフェース5を介して表示装置8等へ出力する。
【0056】
以上説明した処理の流れにより、X線エネルギーを識別できる検出器を使用せずとも、検体内の材料を分析できる。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。例えば、図1では材料分析装置1とX線CT装置12とを分けて説明したが、X線CT装置12が材料分析装置1を備えても良い。さらに、上記実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0058】
1:医用画像処理装置、2:CPU、3:主メモリ、4:記憶装置、5:インターフェース、6:ネットワークアダプタ、
7:システムバス、8:表示装置、9:入力装置、10:ネットワーク、11:X線CT装置、12:物理量データベース、
20:X線源、21:検出器アレイ、22:測定回路、23:スキャナテーブル、24:画像再構成部、25:画像出力部、
26:制御部、 27:X線、28:検体、31:データ取得部、32:推定画像設定部、33:模擬画像生成部、
34:差異算出部、35:推定画像修正部、36:判定部、37:推定画像出力部、600:元素分布推定画像、
600a:第1の領域、600b:第2の領域、600c:第3の領域、600d:第4の領域、601:投影線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9