特許第6803783号(P6803783)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803783
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】田畑転換方法および灌漑排水システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/06 20060101AFI20201214BHJP
【FI】
   A01G25/06 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-64110(P2017-64110)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-166407(P2018-166407A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100090181
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 義人
(72)【発明者】
【氏名】原田 潤
(72)【発明者】
【氏名】山口 秀美
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−102202(JP,A)
【文献】 特開平01−101803(JP,A)
【文献】 特開2002−176899(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/018909(WO,A1)
【文献】 実公昭50−017867(JP,Y1)
【文献】 特開2013−039125(JP,A)
【文献】 特開2013−005745(JP,A)
【文献】 特開2013−172653(JP,A)
【文献】 米国特許第05374138(US,A)
【文献】 中国実用新案第203575255(CN,U)
【文献】 特開2001−000003(JP,A)
【文献】 特開平09−187104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/06
E02B 11/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場を水田と畑地とに転換する田畑転換方法であって、
(a)水田として利用していた前記圃場を畑地に転換するとき、当該圃場に畝を形成すると共に、前記畝の内部に、当該畝の長手方向に延びる溝状の遮水部材と前記遮水部材の上側に配置される有孔管とを施工するステップ、および
(b)前記圃場を畑地から水田に戻すとき、前記遮水部材および前記有孔管を当該圃場から撤去するステップを含む、田畑転換方法。
【請求項2】
(c)前記圃場を畑地として利用しているときに前記畝を立て替えるとき、新しく形成した当該畝の内部に、前記遮水部材と前記有孔管とを施工し直すステップを含む、請求項1記載の田畑転換方法。
【請求項3】
(d)前記圃場の地中に暗渠を施工するステップを含む、請求項1または2記載の田畑転換方法。
【請求項4】
水田を畑地として利用するための灌漑排水システムであって、
畝の内部に埋設され、前記畝の長手方向に延びる溝状の遮水部材、および
前記遮水部材の上側であってかつ前記畝の内部に埋設され、前記畝の長手方向に延びる有孔管を備える、灌漑排水システム。
【請求項5】
前記遮水部材は、前記畝の高さ方向中央よりも上側に配置される、請求項4記載の灌漑排水システム。
【請求項6】
前記有孔管は、前記畝の幅方向中央から側方にずれた位置に配管される、請求項4または5記載の灌漑排水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は田畑転換方法および灌漑排水システムに関し、特にたとえば、水田として利用していた圃場を畑地として利用する、田畑転換方法および灌漑排水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の灌漑排水システムの一例が特許文献1に開示されている。特許文献1の技術は、地下から水を供給して土壌中の水分を作物の生育にとって適切な状態に保つ地下灌漑システムであって、圃場の地中に埋設される複数の遮水部材を備える。遮水部材は、上側開口の横管状に形成され、その底部には、長手方向に並ぶ複数の溝部が形成される。また、遮水部材の内部には、その全長に亘って均等に水を供給するための有孔管(給水部材)が挿通される。そして、灌漑時には、保水部材の内部に重力水状態の土壌層を形成し、そこから毛細管現象によって土壌に水を供給する。これによって、土壌の保水力が弱く、雨水などが直ぐに地下深くに浸透してしまう畑地であっても、適切に灌漑できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−5745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水田土壌は、一般的に粘性が高く、水はけ(透水性)が悪い場合が多い。このため、水田から転換した畑地(水田転換畑)では、土壌中に用水を適切に供給可能であることはもちろんのこと、湿害を防止するために土壌中の過剰水分を適切に排出できることが重要となる。
【0005】
特許文献1の有孔管は、雨水などの過剰水分の排出にも利用される。しかし、透水性の低い水田土壌では過剰水分が地下に浸透し難いため、特許文献1の技術のように地下に埋設した有孔管を用いて排水すると、排水効率が悪くなる。したがって、排水性能に優れる灌漑排水システムが求められる。
【0006】
また、特許文献1の技術では、地下の比較的深い位置に遮水部材および有孔管を埋設するため、大型機械による掘削が必要となり、施工コストがかかる。また、遮水部材および有孔管のやり替えに手間が掛かるため、一度施工されたものはシステムの寿命がくるまで常設されることが前提となっている。
【0007】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、田畑転換方法および灌漑排水システムを提供することである。
【0008】
この発明の他の目的は、実施または施工が容易であり、水田から転換した畑地においても灌漑排水を適切に実行できる、田畑転換方法および灌漑排水システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、圃場を水田と畑地とに転換する田畑転換方法であって、(a)水田として利用していた圃場を畑地に転換するとき、当該圃場に畝を形成すると共に、畝の内部に、当該畝の長手方向に延びる溝状の遮水部材と遮水部材の上側に配置される有孔管とを施工するステップ、および(b)圃場を畑地から水田に戻すとき、遮水部材および有孔管を当該圃場から撤去するステップを含む、田畑転換方法である。
【0010】
第1の発明では、ステップ(a)で水田として利用していた圃場を畑地に転換するとき、圃場に畝を形成すると共に、畝の内部に遮水部材と有孔管とを埋設する。遮水部材は、作物の根圏に供給する水を畝内で保持しておくための保持部材であると共に、畝内の余剰水分を受け止めて有孔管内に導くためのガイド部材でもあり、畝の長手方向に延びる溝状に形成される。また、有孔管は、灌漑用の水を畝内に供給したり、畝内から過剰水分を排出したりするための管であって、遮水部材の上側において畝内を長手方向に貫通するように設けられる。このように遮水部材および有孔管を畝内に埋設する、つまり浅埋設とすることで、掘削専用機械などを用いた掘削作業が不要となる。すなわち、遮水部材および有孔管の施工が容易となり、施工コストも低減される。
【0011】
一方、ステップ(b)で圃場を畑地から水田に戻すときには、遮水部材および有孔管を圃場から撤去する。遮水部材および有孔管の撤去は、遮水部材および有孔管が畝内に埋設されていることから可能となるものである。なお、圃場を畑地に再転換するときには、ステップ(a)に戻って、畝の内部に遮水部材および有孔管が再施工される。
【0012】
第1の発明によれば、遮水部材および有孔管を畝内に埋設するので、遮水部材および有孔管の施工および撤去を容易かつ低コストで実行できる。また、圃場に対する用排水効果の発現も早くなる。したがって、田畑転換を容易かつ低コストで実施でき、水田から転換した畑地においても灌漑排水を適切に実行できる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明に従属し、(c)圃場を畑地として利用しているときに畝を立て替えるとき、新しく形成した当該畝の内部に、遮水部材と有孔管とを施工し直すステップを含む。
【0014】
第2の発明では、栽培する作物の種類に応じて畝を立て替えるとき、畝の形状に合わせて遮水部材と有孔管とを施工し直す。このような遮水部材および有孔管のやり替えは、遮水部材および有孔管が畝内に埋設されていることから可能となるものである。
【0015】
第3の発明は、第1または第2の発明に従属し、(d)圃場の地中に暗渠を施工するステップを含む。
【0016】
第3の発明では、遮水部材および有孔管を施工する前などに、圃場の地中に暗渠管および弾丸暗渠などの暗渠を施工する。この暗渠は、稲作時および畑作時に関係なく常設されるものである。これによって、圃場の排水性能をより向上させることができる。
【0017】
第4の発明は、水田を畑地として利用するための灌漑排水システムであって、畝の内部に埋設され、畝の長手方向に延びる溝状の遮水部材、および遮水部材の上側であってかつ畝の内部に埋設され、畝の長手方向に延びる有孔管を備える、灌漑排水システムである。
【0018】
第4の発明では、灌漑排水システムは、水田を畑地として利用する際に灌漑排水を行うための配管システムであって、圃場に形成される畝内に埋設される遮水部材と有孔管とを備える。遮水部材は、作物の根圏に供給する水を畝内で保持しておくための保持部材であると共に、畝内の余剰水分を受け止めて有孔管内に導くためのガイド部材でもあり、畝の長手方向に延びる溝状に形成される。また、有孔管は、灌漑用の水を畝内に供給したり、畝内から過剰水分を排出したりするための管であって、遮水部材の上側において畝内を長手方向に貫通するように設けられる。このように遮水部材および有孔管を畝内に埋設する、つまり浅埋設とすることで、掘削専用機械などを用いた掘削作業が不要となる。
【0019】
第4の発明によれば、遮水部材および有孔管を畝内に埋設するので、遮水部材および有孔管の施工および撤去を容易かつ低コストで実行できる。また、圃場に対する用排水効果の発現も早くなる。したがって、灌漑排水システムを容易かつ低コストで施工でき、水田から転換した畑地においても灌漑排水を適切に実行できる。
【0020】
第5の発明は、第4の発明に従属し、遮水部材は、畝の高さ方向中央よりも上側に配置される。
【0021】
第5の発明によれば、遮水部材の水分保持機能およびガイド機能を適切に保持しつつ、遮水部材および有孔管の施工をより容易に行うことができる。
【0022】
第6の発明は、第4または第5の発明に従属し、有孔管は、畝の幅方向中央から側方にずれた位置に配管される。
【0023】
第6の発明によれば、作物の根が有孔管と干渉することを抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、遮水部材および有孔管を畝内に埋設するので、遮水部材および有孔管の施工および撤去を容易かつ低コストで実行できる。また、圃場に対する用排水効果の発現も早くなる。したがって、田畑転換および灌漑排水システムの施工を容易かつ低コストで実施でき、水田から転換した畑地においても灌漑排水を適切に実行できる。
【0025】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】この発明の一実施例である灌漑排水システムの配管構成を示す平面図である。
図2図1の灌漑排水システムを示す部分断面図である。
図3図1の灌漑排水システムを排水用途のみに使用するときの配管構成を示す平面図である。
図4図3の灌漑排水システムの下流側端部を示す部分断面図である。
図5】この発明の他の実施例である灌漑排水システムの配管構成を示す平面図である。
図6図5の灌漑排水システムが備える自動給水装置の一例を示す図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1および図2を参照して、この発明の一実施例である灌漑排水システム10(以下、単に「システム10」と言う。)は、水田を畑地として利用する際に灌漑および排水を行うための配管システムであって、主として葉物野菜の栽培に用いられる。
【0028】
詳細は後述するように、システム10は、圃場100に形成される複数の畝102のそれぞれに埋設される遮水部材12と有孔管14とを備え、用水を畝102内に供給したり、畝102内から不要な水(過剰水分)を排出したりする。また、このシステム10は、後述する田畑転換方法において説明するように、水田として利用していた圃場100を畑地に転換するときに施工されて、圃場100を水田に戻すときには撤去されるものである。以下、具体的に説明する。
【0029】
図1および図2に示すように、システム10は、各畝102の内部に埋設される溝状の遮水部材12と、各遮水部材12の上側において各畝102の内部に埋設される有孔管14とを備える。
【0030】
なお、圃場100に形成される畝102の数、形状および大きさ等は、圃場100の大きさや栽培する作物の種類に応じて適宜設定されるものであり、一般的な畝102であれば特に限定されるものではない。この実施例では、畝102は、断面台形状の畝であって、その上辺幅(畝肩幅)は、たとえば60−120cmであり、その下辺幅(畝裾幅)は、たとえば70−135cmである。また、畝102の高さは、たとえば15−30cmであって、その長さは、たとえば数m−数百mである。さらに、畝102間に形成される畝溝104の幅は、たとえば25−40cmである。
【0031】
遮水部材12は、作物の根圏に供給する水を畝102内で保持しておくための保持部材であると共に、畝102内の余剰水分を受け止めて有孔管14内に導くためのガイド部材でもある。遮水部材12は、ポリエチレンおよびポリ塩化ビニル等の合成樹脂またはステンレス等の金属などの遮水性を有する材質によって、上側開口の溝状に形成され、畝102の長手方向に延びるように畝102の略全長に亘って設けられる。この実施例では、遮水部材12は、ポリ塩化ビニル製の可撓性を有する長尺帯状の遮水シートによって、幅方向中央部から両側部に向かって斜め上方に延びる溝状に形成される。
【0032】
有孔管14は、ポリエチレンおよびポリ塩化ビニル等の合成樹脂または合成ゴムなどによって形成され、その管壁全体に分散して形成される複数の貫通孔を有する。有孔管14は、灌漑用の水を畝102内に供給したり、畝102内から過剰水分を排出したりするための管であって、遮水部材12の上側において、畝102を長手方向に貫通するように設けられる。この実施例では、有孔管14は、遮水部材12の上面に直接載置されるように配管される。ただし、遮水部材12から少し離れた上方位置に有孔管14を配管して、遮水部材12と有孔管14との間に土壌層が形成されるようにしてもよい。有孔管14の内径は、たとえば20−60mmである。
【0033】
なお、有孔管14の管壁に形成される貫通孔は、管壁を直線状に貫くものに限定されず、多孔質状や網目状のものでもよい。また、貫通孔の形状、大きさ、形成位置および数などは、適用する圃場100の土壌成分などに応じて適宜設定されるものであり、これらを調整変更することによって、有孔管14からの給排水量を制御することが可能である。
【0034】
上述のような遮水部材12および有孔管14の埋設位置は、畝102の土中であれば特に限定されない。つまり、遮水部材12および有孔管14は、畝溝104の底面以上の高さ位置において、畝102内に埋設されていればよい。ただし、その中でも、遮水部材12は、畝102の高さ方向中央よりも上側に配置することが好ましい。これにより、遮水部材12の水分保持機能およびガイド機能を適切に保持しつつ、遮水部材12および有孔管14の施工をより容易に行うことができるからである。また、遮水部材12の幅は、畝102の上辺幅の半分から等倍までの大きさに設定することが好ましい。
【0035】
また、有孔管14は、畝102の幅方向中央を中心として、そこから畝102の上辺幅の四半分の大きさだけ側方にずれた位置までの範囲に配管されることが好ましい。その中でも、有孔管14は、畝102の幅方向中央から側方にずれた位置に配管されることがより好ましい。これにより、作物の根が有孔管14と干渉することを抑制できるからである。
【0036】
なお、有孔管14は、遮水部材12の幅方向中央部に配置されてもよいし、遮水部材12の側部に配置されてもよい。また、栽培する作物の種類に合わせて、遮水部材12および有孔管14の埋設位置を畝102ごとに変更するようにしてもよい。
【0037】
また、図示は省略するが、有孔管14の外周面は、貫通孔への作物の根の入り込みを防止するために、透水性を有する防根シートによって覆っておくことが好ましい。防根シートは、作物の根よりは小さい(根が入り込むことはできない)が、水は無加圧で通過する微細な孔を有するシートである。
【0038】
また、各有孔管14の上流側端部は、第1配管20を介して給水タンク22に接続される。第1配管20は、給水タンク22から供給される水を有孔管14まで送る給水用の配管である。給水タンク22は、圃場100に供給するための水を貯留するタンクであり、たとえば、農業用水配管(図示せず)などと接続されて、農業用水配管から送られてくる水をその内部に貯留する。なお、給水タンク22は、水のみを供給するだけでなく、たとえば給水タンク22内の水に肥料などを混ぜて、給水タンク22から水と共に肥料などを供給するようにしてもよい。
【0039】
一方、各有孔管14の下流側端部は、第2配管24を介して給水タンク22に接続される。第2配管24は、有孔管14から排出される余剰水(排水)を給水タンク22に戻すための配管であり、この第2配管24には、ソーラー型循環ポンプなどの電動ポンプ26が設けられる。これによって、用水循環システムが構成される。ただし、システム10では、必ずしも用水を循環させる必要はなく、有孔管14から排出される余剰の用水は、排水桝などに排出するようにしてもよい。
【0040】
このようなシステム10では、灌漑時には、給水タンク22内の水が自然流下によって第1配管20を介して各有孔管14に供給される。有孔管14内に流れ込んだ水は、有孔管14に形成される貫通孔を通って畝102内の土中に供給される。有孔管14から畝102内に供給された水は、遮水部材12によって受け止められて、重力水または毛管水として遮水部材12の内部(上側)に保持される。その後、遮水部材12内の水は、毛細管現象によってその周囲に浸透していき、畝102内に毛管水状態の土壌部を形成する。この際、畝102内に遮水部材12および有孔管14が配置されていることから、畝102内に毛管水状態の土壌部が速やかに形成される。つまり、用水効果の発現が早い。また、水と共に肥料を供給する場合には、肥料が地下深くに浸透してしまう量が少なくなって畝102内に効率的に供給されるので、肥料効果が発現し易く、その即応性も高くなる。したがって、余分な肥料を使う必要が無くなり、使用する肥料の濃度ないし量を低減できる。
【0041】
一方、畝102内に供給されずに有孔管14の下流側端部まで到達した水は、余剰水として第2配管24に排出され、電動ポンプ26の動力によって給水タンク22に戻される。
【0042】
また、システム10では、降雨時などにおいて畝102内に発生した余剰水は、遮水部材12によって受け止められて、有孔管14の貫通孔から有孔管14内に導かれる。そして、畝102内から有孔管14内に排出された水は、第2配管24を介して給水タンク22に戻されて貯留される。すなわち、有孔管14の内部空間は、用水を畝102内に供給する給水路として用いられると共に、畝102内に発生した余剰水を集めて排出する排水路として用いられる。この際、畝102内に遮水部材12および有孔管14が配置されていることから、畝102内に発生した余剰水は、速やかに有孔管14内に排出される。つまり、排水効果の発現が早いので、水分過多による作物への悪影響を低減できる。また、畝溝104への水の流出が少なくなるので、足場を乾燥した状態に維持し易く、作業性が向上する。さらに、この実施例では、遮水部材12の上面は、有孔管14に向かって下り勾配となっているため、畝102内の余剰水が有孔管14内に導かれ(排出され)易い。
【0043】
さらに、システム10では、有孔管14は、畝102内を長手方向に貫通する空気通路にもなるので、畝102の土中に空気が入り易くなり、作物の生育が良くなる。
【0044】
また、図3および図4に示すように、システム10は、用水需要期が過ぎた時点で、遮水部材12および有孔管14を残し、それ以外の第1配管20および第2配管24などは撤去される。つまり、圃場100に用水を供給する必要がないときには、システム10は、排水仕様に変更されて、有孔管14の両端部は開放状態にされる。システム10を排水用途のみに使用する場合には、畝102内から有孔管14内に排出された余剰水は、有孔管14の下流側端部から、畝102の下流側端部と畦畔106との間に形成した排水溝108に排出されて、排水溝108から既設の排水桝110に流し込まれる。このように、有孔管14の両端部を開放端としておくことにより、畝102の土中に空気がより入り込み易くなり、作物の生育がより良くなる。なお、有孔管14の下流側端部同士は、排水桝110まで延びる連結管によって連結しておいてもよい。
【0045】
続いて、上述のようなシステム10を用いる田畑転換方法について説明する。システム10は、上述のように、水田として利用していた圃場100を畑地に転換するときに施工されて、圃場100を水田に戻すときには撤去される。
【0046】
この実施例の田畑転換方法では、圃場100を水田から畑地に転換するときには、圃場100に畝102を形成すると共に、その畝102の内部に遮水部材12と有孔管14とを施工する。たとえば、畝102を形成する位置に合わせて、圃場100の表面に溝状の遮水部材12を載置し、さらにその遮水部材12の上に有孔管14を載置する。その後、畝立て器を装着したトラクター等の営農機械を用いて、遮水部材12および有孔管14の両側に畝溝104を形成しつつ、その際に取り出した土を遮水部材12および有孔管14に被せるようにして積み上げることで、畝102を形成する(畝立てする)。これによって、畝102内に埋設された遮水部材12および有孔管14が施工される。このように、この実施例では遮水部材12および有孔管14を畝102内に埋設(つまり浅埋設)するので、掘削専用機械などを用いた掘削作業が不要となり、トラクター等の営農機械での施工が可能となる。すなわち、遮水部材12および有孔管14が容易となり、その施工コストが大幅に低減される。
【0047】
ただし、トラクター等の営農機械に対してロール状に巻き取った遮水部材12および有孔管14を装着する等して、畝立てしながら遮水部材12および有孔管14を施工することもできる。つまり、畝立てと遮水部材12および有孔管14の施工とを略同時に行うこともできる。
【0048】
畝102内への遮水部材12および有孔管14の施工が終わると、続いて、給水タンク22を設置すると共に、各有孔管14の上流側端部を第1配管20によって連結し、第1配管20の上流側端部を給水タンク22に接続する。また、各有孔管14の下流側端部を第2配管24によって連結し、第2配管24に電動ポンプ26を設けると共に、第2配管24の下流側端部を給水タンク22に接続する。これによって、システム10の施工が完了するので、その後、システム10を用いて灌漑排水を行いながら圃場100で畑作を行う。
【0049】
また、栽培する作物の種類に応じて畝102を立て替えるときには、既設の遮水部材12および有孔管14を撤去すると共に、新しく形成した畝102の内部に、遮水部材12および有孔管14を施工し直す。このような施工のやり換えは、遮水部材12および有孔管14が地下深くではなく、畝102内に埋設されていることから可能となるものである。また、施工のやり換えの際には、既設の遮水部材12および有孔管14を再利用すれば、無駄を無くすことができる。ただし、遮水部材12および有孔管14は必ずしも再利用される必要はない。
【0050】
さらに、圃場100に用水を供給する必要がないときには、上述のように、第1配管20および第2配管24などは撤去されて、システム10は、排水仕様に変更される。また、システム10を用水循環システムに戻す場合には、第1配管20および第2配管24などが再施工される。このような第1配管20および第2配管24などの撤去および再施工も、遮水部材12および有孔管14が畝102内に埋設されていることから可能となるものである。
【0051】
なお、システム10を施工する前に、圃場100の地中に暗渠管および弾丸暗渠などの暗渠を施工しておくこともできる。この暗渠は、畑作時および稲作時に関係なく、その寿命がくるまで常設されるものである。これによって、圃場100の排水性能をより向上させることができるので、より適切に畑作または稲作を行うことができる。
【0052】
一方、圃場100を畑地から水田に戻すときには、畝102を解体すると共に、遮水部材12および有孔管14を含むシステム10を圃場100から撤去する。また、圃場100において稲作を行った後、圃場100を畑地に再転換するときには、畝102の内部に埋設される遮水部材12および有孔管14を含むシステム10を再施工するとよい。このような遮水部材12および有孔管14の撤去および再施工も、上述と同様に、遮水部材12および有孔管14が畝102内に埋設されていることから可能となるものである。また、再施工の際には、既設の遮水部材12および有孔管14を再利用することで、無駄を無くすことができる。
【0053】
以上のように、この実施例によれば、遮水部材12および有孔管14を畝102内に埋設するので、システム10の施工および撤去を容易かつ低コストで実行できる。したがって、水田から畑地への転換、および畑地から水田への再転換も容易に実施できる。また、遮水部材12および有孔管14を畝102内に埋設することで、用排水効果の発現が早くなるので、水田から転換した畑地においても灌漑排水を適切に実行できる。
【0054】
次に、図5を参照して、この発明の他の実施例であるシステム10について説明する。この実施例では、各有孔管14の上流側端部に自動給水装置30を設ける点が、上述の実施例と異なる。その他の部分については同様であるので、上述の実施例と共通する部分については、同じ参照番号を付し、重複する説明は省略または簡略化する。
【0055】
図5に示す実施例では、各有孔管14の上流側端部に自動給水装置(水位管理装置とも言う。)30が設けられて、各遮水部材12内(有孔管14内)の水位ないし有孔管14への給水量が個別に管理される。自動給水装置30としては、公知のものを適宜利用可能であるが、たとえば、図6に示すような、本出願人らによる特願2016−63039号「給水装置」に記載のものを用いることができる。
【0056】
この実施例で用いる自動給水装置30について簡単に説明しておく。図6に示すように、自動給水装置30は、ケーシング32と、外部から供給される水をケーシング32内に放出するチューブ34と、チューブ34に連結されて、ケーシング32内の水位に応じて上下動するフロート36と、ケーシング32内から水を取り出す送水管38とを備える。そして、この実施例では、チューブ34の上流側端部が第1配管20に接続され、送水管38の下流側端部が有孔管14に接続される。このような自動給水装置30では、ケーシング32内の水位は、遮水部材12内の水位と連動する。そして、ケーシング32内の水位が所定水位になると、チューブ34の易屈曲部34aが屈曲してチューブ34が閉塞される。これにより、第1配管20からケーシング32への給水が停止され、送水管38から有孔管14への給水も停止される。したがって、ケーシング32内の水位および遮水部材12内の水位を所望水位に維持することが可能となる。
【0057】
図5に示す実施例によれば、各有孔管14に自動給水装置30が設けられるので、各遮水部材12内の水位ないし有孔管14への給水量を個別に管理することが可能となる。したがって、栽培する作物の種類、或いは作物の成長度に応じた灌漑が可能となる。また、畝102ごとに肥料の供給量も調整できるので、畝102ごとの作物の発育調整が可能となり、需要に応じた作物の出荷が可能となる。
【0058】
なお、図5に示す実施例では、各有孔管14に対して個別に自動給水装置30を設けているが、たとえば第1配管20の上流側端部に自動給水装置30を設けて、各遮水部材12内(有孔管14内)の水位を一括で制御するようにしてもよい。また、複数の有孔管14ごとに自動給水装置30を設けることもできる。
【0059】
また、上述の各実施例では、1つの畝102に対して1組の遮水部材12および有孔管14を設けるようにしたが、幅の広い畝102であれば、1つの畝102に対して複数組の遮水部材12および有孔管14を並べて設けることもできる。また、1つの遮水部材12に対して複数の有孔管14を設けることもできる。
【0060】
なお、上で挙げた寸法などの具体的数値は、いずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 …灌漑排水システム
12 …遮水部材
14 …有孔管
20 …第1配管
22 …給水タンク
24 …第2配管
26 …電動ポンプ
30 …自動給水装置
100 …圃場
102 …畝
104 …畝溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6