【実施例1】
【0012】
先ず、
図1を参照し、本発明の群管理制御システムを適用したエレベータの概要を説明する。同図は、一つのビルに設置された三台のエレベータ(A号機〜C号機)を、群管理制御装置2によって制御する群管理制御システムを示している。
【0013】
ここに示すように、A号機のエレベータは、号機別制御装置3aと、乗かご4aと、釣合錘5aと、巻上機6aと、テールコード7aを備える。巻上機6aは、主ロープ8aを駆動することで、主ロープ8aで連結された乗かご4aと釣合錘5aを昇降路内でつるべ式に昇降させるものであり、号機別制御装置3aを介して入力される群管理制御装置2からの制御信号に基づき回転数を増減させ乗かご4aを昇降または停止させる。また、号機別制御装置3aからテールコード7aを介して乗かご4aに送られてくる制御信号に基づき、乗かご4aの扉の開閉、照明の点灯、行き先の指定、操作盤9a内におけるかご内表示、かご内音声等が制御される。これらの制御信号は群管理制御部22にも伝送されるため、群管理制御部22は、A号機の状況を逐次把握することができる。B号機、C号機のエレベータもA号機と同様の構成である。なお、ここでは三台のエレベータを群管理する構成を例示しているが、任意台数のエレベータを管理対象とした群管理制御システムに、後述する本発明を適用しても良いことは言うまでもない。
【0014】
地震感知装置1は、揺れを検知した際に、群管理制御装置2へ信号を送信するものであり、機械室などに設置されている。
【0015】
郡管理制御装置2には、地震検出手段21、郡管理制御手段22が備えられている。地震検出部21は、地震感知装置1から受信した信号に基づいて地震の発生と停止を検出する。群管理制御部22には、診断エリア割当部22a、診断運転制御部22b、サービス運転制御部22c、診断エリア拡大制御部22dが備えられている。各々の詳細は後述する。なお、これらの一部または全部は、必ずしも専用のハードウェアを設ける必要はなく、半導体メモリ等の主記憶装置に記憶されたプログラムやハードディスク等の補助記憶装置に記憶されたデータを、CPU等の演算装置で処理することで実現されるものであっても良い。
【0016】
診断エリア割当部22aは、エレベータの各号機に診断運転を行う階床エリア(以下、「割当診断エリア」と称する)を個別に割当てるものである。ここで設定される割当診断エリアの詳細については、
図5等を用いて後述する。
【0017】
診断運転制御部22bは、診断エリア割当部22aの割当てに従い、各号機に診断運転をさせるものである。なお、診断運転とは、各号機の乗りかごが当該階床エリアを通過できるかと、各号機の当該階床の乗り場扉が正常に開閉するかの、両方を診断する運転である。
【0018】
サービス運転制御部22cは、各号機の診断運転の結果に基づき、各号機に走行可能エリアでの運転を再開させるものである。
【0019】
診断エリア拡大制御部22dは、運転を再開した各号機に、所定の条件下で当初の割当診断エリア外での診断運転を実行させるものである。
【0020】
群管理制御部22によって制御される号機別制御装置3a、3b、3cは、それぞれ号機制御部31a、31b、31c、位置検出部32a、32b、32c、利用者有無判定部33a、33b、33c、利用区間表示部34a、34b、34cを備えている。なお、これらの一部または全部は、必ずしも専用のハードウェアを設ける必要はなく、半導体メモリ等の主記憶装置に記憶されたプログラムやハードディスク等の補助記憶装置に記憶されたデータを、CPU等の演算装置で処理することで実現されるものであっても良い。
【0021】
号機制御部31a、31b、31cは、群管理制御部22から送られてきた信号に従って、各号機の巻上機6a、6b、6c等を制御するものである。
【0022】
位置検出部32a、32b、32cは、号機毎に乗りかごが何階にいるかを検出し、群管理制御部22へデータを送信するものである。
【0023】
利用者有無判定部33a、33b、33cは、号機毎に荷重センサ10a、10b、10cや乗り場ボタン12a、12b、12cから情報を受信し、号機毎に利用者の有無を判定し、その判定結果を群管理制御部22へ送信するものである。
【0024】
利用区間表示部34a、34b、34cは、群管理制御部22からの情報を元に、当該号機の利用可能階床を、操作盤9a、9b、9cの表示器や、乗り場表示器13a、13b、13cに表示する制御を行うものである。
【0025】
以上の構成を備える本実施例の群管理制御システムでの具体的な制御の一例を、
図2〜
図4のフローチャートと、
図5〜
図9の模式図を用いて説明する。
【0026】
図2は、本実施例の処理手順を説明するためのフローチャートである。地震が発生し、地震感知装置1が動作すると(S1)、群管理制御装置2は、地震を検知した後、号機別制御装置3a、3b、3cに対し、乗りかご4a、4b、4cの最寄階への移動と、その最寄階での停止を指令する(S2)。
【0027】
乗りかご4a、4b、4cが最寄階に停止すると、診断エリア割当部22aは各号機に診断エリアの割当てを行う(S3)。このステップにおける、各号機への診断エリアの割当ては次のように行う。すなわち、最初に、エレベータの号機数を取得し(S31)、位置検出部32a、32b、32cから各号機の停止位置を取得する(S32)。その後、全階床を号機数で等分した複数の割当診断エリアを作成し(S33)、各号機の停止位置と等分された割当診断エリアの位置関係に応じて診断エリアの割当てを行う(S34)。
【0028】
例えば、
図5のように、30階建てのビルに三台のエレベータが設置されている場合、上述のステップS33では、30階を三等分し、低層階(1F〜10F)、中層階(11F〜20F)、高層階(21F〜30F)の3つの割当診断エリアに区分する。そして、乗りかごの停止位置が、A号機が10F、B号機が15F、C号機が25Fのように各割当診断エリアに分散していた場合は、A号機には10Fを含む低層階、B号機には15Fを含む中層階、C号機には25Fを含む高層階を割当診断エリアとして割り当てる(S34)。なお、
図5では、全階床を号機数で等分した例を示したが、各割当診断エリアの大きさは異なっても良く、また、
図6のように各割当診断エリアが一部重複しても良い。
【0029】
図2のステップS4では、診断運転制御部22bは、号機別制御装置3a、3b、3cに指令を出し、診断エリア割当部22aが割り当てた割当診断エリアで各号機が診断運転を実施する(S4)。そして、割当診断エリア中に走行不能エリアがあるかを診断し(S5)、ある号機の割当診断エリア中に走行不能エリアが見つかった場合、その走行不能エリアの診断は最寄の診断エリアが割り当てられた他の号機に担当させる(S6)。
【0030】
割当診断エリアの全階床に対する診断運転が終了すると(S7でYes)、サービス運転制御部22cは、診断済みエリアでの通常運転の再開を許可する(S8)。この際、利用区間表示部34a、34b、34cは、操作盤9a、9b、9cの表示器や、乗り場表示器13a、13b、13cに通常運転が再開された利用可能エリアを表示させる。
【0031】
エリア限定の通常運転の再開後、各号機の利用者有無判定部33a、33b、33cが利用者がいないことを検知すると(S10,S11)、診断エリア拡大制御部22dは診断未完の階床を拡大診断エリアに設定して診断を実行し(S12)、走行可能階床を逐次増加させる(S8)。
【0032】
ここで、
図3を用いて、ステップS10における利用者有無の判定方法の詳細を説明する。各号機の利用者有無判定部33a,33b,33cは、二つの条件でエレベータ利用者の不在を検知する。ひとつは荷重センサ10a、10b、10cの情報でかご内の負荷が無い場合(S101)、もうひとつは乗り場ボタン12a,12b,12cが所定時間以上押されなかった場合(S102)である。この両方が当てはまった場合、利用者なしと判断する(S103)。逆にどちらか一方でも当てはまらなかった場合、利用者ありとする(S104)。
【0033】
次に、
図4を用いて、ステップS12における診断エリア拡大制御の詳細を説明する。ステップS12では、最初に、基準階が決定済みであるかを判断する(S121)。基準階が未定の場合(S121でNo)、診断エリア拡大制御部22dは基準階を仮決めし、各号機の診断エリアに割当てる(S122)。ここで、基準階とは、複数の乗りかごが共通して停止する階床であり、この基準階で乗り継ぎを行えば、任意の階床から他の階床に最小限の乗り継ぎ回数で移動できるようになる。なお、通常は、基準階を1階に設定することが望ましいが、利用者が最も多い階床を基準階に設定しても良い。
【0034】
一方、すでに基準階が決定している場合は(S121でYes)、利用者不在時の停止位置を各号機の位置検出部32a、32b、32cから取得し(S123)、最寄の診断運転未実施階を検出し(S124)、その階床を各号機の診断エリアに割当てる(S125)。
【0035】
ステップS122またはステップS125で診断エリアが追加されると、各号機は新たに割当てられたエリアに対して診断運転を行う(S126)。そして、新たな診断エリアの診断運転結果に異常が無ければ(S127)、その階床をサービス運転するエリアに追加する(S8)。診断結果に異常があった場合(S127)、異常があった階と、上下どちらの方向への運転であったかを検出する(S128)。上方向であった場合、診断運転異常階より上の階床を診断運転未実施階から除外し、それ以降の階への診断エリア拡大を行わない(S1210)。同様に、下方向であった場合、診断運転異常階より下の階床を診断運転未実施階から除外し、それ以降の階への診断エリア拡大を行わない(S1211)。
図2に示すように、ステップS12の診断エリア拡大制御は、診断運転未実施階がなくなるまで繰り返し実施される(S9)。
【0036】
次に、
図7から
図9を用いて、ステップS12での処理を具体的に説明する。なお、ここでは、各号機に最初に割り当てられた割当診断エリア内の診断は完了しているものとする。
【0037】
図7は、
図4のステップS122を説明する図である。ここに示すように、基準階が未定の場合(S121でNo)、診断エリア拡大制御部22dは、特定の階床(例えば、1階)を基準階に仮決めし(S122)、各号機に診断運転を実施させる(S126)。診断結果に異常がない場合、仮決めした階床を基準階に決定するため、
図7に示すように、各号機は、当初の割当診断エリアに加えて、基準階も利用可能になる。
【0038】
その結果、例えば1階から30階へ移動したい場合、基準階の設定前は、A号機で1階から10階へ移動し、階段で10階から11階へ移動し、B号機で11階から20階へ移動し、階段で20階から21階へ移動し、C号機で21階から30階へ移動しなければならなかったのが、1階を基準階とした後は、C号機で1階から30階へ移動できるようになる。すなわち、エレベータの乗り継ぎ回数が2回から0回に、階段移動が2回から0回に減少する。
【0039】
また、5階から25階に移動したい場合も、基準階の設定前は、A号機で5階から10階へ移動し、階段で10階から11階へ移動し、B号機で11階から20階へ移動し、階段で20階から21階へ移動し、C号機で21階から25階へ移動しなければならなかったのが、1階を基準階とした後は、A号機で5階から1階に移動した後、C号機で1階から25階へ移動できるようになる。すなわち、エレベータの乗り継ぎ回数が2回から1回に、階段移動が2回から0回に減少する。
【0040】
一方、基準階が決定済みの場合は(S121でYes)、利用者が不在時のエレベータの停止位置から最寄の診断運転未実施階に向けて診断運転を行う。例えば、
図8に示す位置に各号機が停止している場合、A号機は最寄りの診断運転未実施階である11階を拡大診断エリアとして診断運転を行い、B号機は21階を拡大診断エリアとして診断運転を行い、C号機は19階を拡大診断エリアとして診断運転を行う。同様に、
図9に示す位置に各号機が停止している場合、A号機は11階を拡大診断エリアとして診断運転を行い、B号機は9階を拡大診断エリアとして診断運転を行い、C号機は2階を拡大診断エリアとして診断運転を行う。
【0041】
以上で説明した実施例1の構成によれば、各号機は当初割り当てられた割当診断エリアの診断が完了した後に、複数の号機が共通して停止する基準階を設定したので、利用者が任意の階床から他の床階に移動する際のエレベータの乗り継ぎ回数を最小限度に抑制することができる。
【実施例2】
【0042】
次に、
図10、
図11を用いて、実施例2のエレベータ制御システムを説明する。なお、実施例1との共通点は重複説明を省略する。
【0043】
実施例1の
図5では、地震検出後、各号機が夫々、低層階(1〜10階)、中層階(11〜20階)、高層階(21〜30階)に分散して停止した状態を示しており、三分割した診断エリアのうち、低層階エリアを低層階停止中のA号機に、中層階エリアを中層階停止中のB号機に、高層階エリアを高層階停止中のC号機に割り当てた。
【0044】
ところが、各号機が近接する階床に停止した場合、実施例1の割り当て方法を適用することができない。そこで、本実施例では、A号機からC号機が何れも高層階に停止した状況を例に、各号機への診断エリアの割り当て方法を説明する。
【0045】
図10は、本実施例のエレベータ制御システムで採用される診断エリアの割当方法を説明する図であり、地震検出後に、A号機が26階に停止し、B号機が22階に停止し、C号機が28階に停止した状況を示している。
【0046】
ここで、
図10では、三分割した割当診断エリアを、各号機の停止階床の上下関係と対応させて割り当てることとした。すなわち、最も低い22階に停止したB号機に低層階エリアを割り当て、その上方の26階に停止したA号機に中層階エリアを割り当て、最も高い28階に停止したC号機に高層階エリアを割り当てた。このような割り当て方法により、複数の号機が近接した階床に停止した場合であっても、停止箇所から割当診断エリアへの移動時間が最短となるような組み合わせで診断エリアを割り当てることができる。
【0047】
図11は、本実施例のエレベータ制御システムで採用される診断エリアの割当方法の別案を説明する図であり、
図10と同じく、地震検出後に、A号機が26階に停止し、B号機が22階に停止し、C号機が28階に停止した状況を示している。
【0048】
ここで、
図11では、三分割した割当診断エリアを、各号機の停止階床に拘らず、既定の号機に割り当てることとした。すなわち、低層階エリアを既定のA号機に、中層階エリアを既定のB号機に、高層階エリアを既定のC号機に割り当てた。このような割り当て方法により、複数の号機が近接した階床に停止した場合であっても、各号機への診断エリアの割り当てを即決できるため、各割当診断エリアでの診断を早期に開始することができる。
【0049】
なお、
図10、
図11では、各号機の割当診断エリアの大きさを等しくしたが、各号機の性能などを考慮し、異なる大きさとしても良い。また、
図10、
図11では、各号機の割当診断エリアを排他的に設定したが、重複して設定しても良い。さらに、
図10、
図11では、各号機の割当診断エリアを連続する階床で構成したが、分散した階床を含む構成としても良い。