特許第6803840号(P6803840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6803840抗Aggrusモノクローナル抗体、CLEC−2との結合に必要なAggrusの領域、及びAggrus−CLEC‐2結合阻害剤のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803840
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】抗Aggrusモノクローナル抗体、CLEC−2との結合に必要なAggrusの領域、及びAggrus−CLEC‐2結合阻害剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20201214BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20201214BHJP
   C12N 5/20 20060101ALI20201214BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20201214BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20201214BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20201214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20201214BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20201214BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20201214BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20201214BHJP
【FI】
   C07K16/28ZNA
   C07K16/46
   C12N5/20
   A61K39/395 N
   A61K39/395 T
   A61P7/02
   A61P29/00
   A61P35/00
   A61P35/04
   !C12P21/08
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】12
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2017-528677(P2017-528677)
(86)(22)【出願日】2016年7月11日
(86)【国際出願番号】JP2016070466
(87)【国際公開番号】WO2017010463
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2019年7月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-140998(P2015-140998)
(32)【優先日】2015年7月15日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-211883(P2015-211883)
(32)【優先日】2015年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 科学技術試験研究委託事業「次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム」「がん微小環境を標的とした革新的治療法の実現」(血小板との相互作用によるがん微小環境制御機構の解析と新規治療薬の創製)に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-03041
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-03042
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11446
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11447
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11448
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11449
(73)【特許権者】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【弁理士】
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直也
(72)【発明者】
【氏名】関口 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】高木 聡
【審査官】 宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/053381(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/128082(WO,A1)
【文献】 OKI H. et al,Monoclon. Antib. Immunodiagn. Immunother.,34(3)(2015.06),p.174-180
【文献】 OKI H. et al,Monoclon. Antib. Immunodiagn. Immunother.,34(1)(2015.02),p.44-50
【文献】 KATO Y. et al,Abstract 663: Development of a cancer-specific monoclonal antibody LpMab-2 specific for cancer-tye p,Cancer Research [online],2014年10月 1日,[retrieved on 2016.08.31],Retrieved from the Internet,DOI: 10.1158/1538-7445.AM2014-663,URL,<http://cancerres.aacrjournals.org/content/74/19_Supplement/663>
【文献】 KATO Y. et al,Cancer Sci.,99(1)(2008),p.54-61
【文献】 MATSUI K. et al,Epitope-Specific Antibodies to the 43-kD Glomerular Membrane Protein Podoplanin Cause Proteinuria an,J. Am. Soc. Nephrol.,1998年,9,p.2013-2026, ISSN: 1046-6673,要約、Fig.3
【文献】 ZIMMER G. et al,Biochem. J.,326 (1997),p.99-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00−16/46
C12N 15/09−15/90
C12N 5/20
C07K 14/00−14/825
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3(RIEDL)により表されるアミノ酸配列からなるAggrusの領域に結合し、Aggrus−CLEC−2結合阻害活性を有するモノクローナル抗体、又はその抗原結合断片からなるフラグメント。
【請求項2】
76番目のスレオニン残基から89番目のスレオニン残基を抗原として免疫することにより得られたものである請求項1に記載のモノクローナル抗体、又はその抗原結合断片からなるフラグメント。
【請求項3】
受託番号NITE BP−03041(PG4D1)、又はNITE BP−03042(PG4D2)のハイブリドーマにより産生される、請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体、又はその抗原結合断片からなるフラグメント。
【請求項4】
キメラ化又はヒト化された請求項1〜3いずれか1項記載のモノクローナル抗体、又はその抗原結合断片からなるフラグメント。
【請求項5】
受託番号NITE BP−03041、又はNITE BP−03042のハイブリドーマ。
【請求項6】
請求項1〜4いずれか1項記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片からなるフラグメントを含むAggrus−CLEC‐2結合阻害剤。
【請求項7】
さらに配列番号2(GAEDDVVTPGTSEDRYK)により表される領域に存在するエピトープを認識するモノクローナル抗体、そのキメラ化抗体、そのヒト化抗体、及び/又はその抗原結合断片からなるフラグメントを少なくとも1つ含むことを特徴とする請求項6記載のAggrus−CLEC‐2結合阻害剤。
【請求項8】
前記配列番号2の領域に存在するエピトープを認識する前記モノクローナル抗体が、受託番号FERM BP−11446(P2−0受託番号FERM BP−11447(MS−1受託番号FERM BP−11448(MS−3、及び/又は受託番号FERM BP−11449(MS−4)として寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体であることを特徴とする請求項7記載のAggrus−CLEC‐2結合阻害剤。
【請求項9】
請求項1〜4いずれか1項記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片からなるフラグメントを含む血小板凝集抑制、血栓抑制、がん進展・転移抑制、抗炎症のための医薬組成物。
【請求項10】
さらに配列番号2(GAEDDVVTPGTSEDRYK)により表される領域に存在するエピトープを認識するモノクローナル抗体、そのキメラ化抗体、そのヒト化抗体、及び/又はその抗原結合断片からなるフラグメントを少なくとも1つ含むことを特徴とする請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記配列番号2の領域に存在するエピトープを認識する前記モノクローナル抗体が、受託番号FERM BP−11446(P2−0受託番号FERM BP−11447(MS−1受託番号FERM BP−11448(MS−3、及び/又は受託番号FERM BP−11449(MS−4)として寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体であることを特徴とする請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1〜4いずれか1項記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片からなるフラグメントを含むAggrus発現を検出するための検査用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AggrusとCLEC‐2の結合に関与するAggrusの領域、及び該領域を認識する抗体に関する。また、該Aggrusの領域を含むペプチドやモノクローナル抗体を含むAggrus−CLEC‐2結合阻害剤、及びこれを含む医薬組成物に関する。さらに、該領域への結合を指標とする医薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは細胞が無秩序に増殖することを特徴とする疾患であるが、がんの致死率を規定する大きな要因は、がんが発生した原発巣での増殖というよりは、転移巣における増殖である。実際に転移がんであると診断された患者の5年生存率は20%以下と言われており、がん転移の抑制は臨床上大きな課題となっている。
【0003】
がんの血行性転移には、がん細胞依存的な血小板凝集が関与していることが古くから臨床上認められていた。本発明者のグループは、血小板凝集誘導活性を示す高転移がん細胞株を樹立し、高転移がん細胞株の細胞膜表面上に発現している血小板凝集を誘導する因子Aggrusを同定した(特許文献1、非特許文献1)。
【0004】
血小板凝集促進因子Aggrus(podoplanin、gp44、T1α等としても知られる。)は、I型膜貫通タンパク質であり、扁平上皮癌、中皮腫、カポジ肉腫、精巣腫瘍、脳腫瘍、又は膀胱癌といった様々ながんで発現が増加していることが知られている(非特許文献2〜13)。
【0005】
最近、血小板上に発現しているC型レクチン様受容体(CLEC‐2)がAggrusのカウンターパート受容体の一つであることが同定された(非特許文献14)。腫瘍細胞上で発現しているAggrusにCLEC‐2が結合すると血漿成分がなくとも血小板で血小板凝集のシグナルが活性化され、血小板凝集が誘導されることが知られている。すなわち、AggrusとCLEC‐2の結合を阻害する物質は、血小板凝集を抑制し、がんの転移を抑制すると考えられる。したがって、AggrusとCLEC‐2の結合を阻害する物質は、がんや血栓症の治療への応用が期待される。実際に本発明者らは、Aggrusに対するモノクローナル抗体や低分子化合物によって、AggrusとCLEC‐2の相互作用が阻害され、血小板凝集やがん転移が抑制されることを開示している(特許文献2、3、非特許文献15)。
【0006】
モノクローナル抗体は、細胞表面抗原に特異的に結合することができ、標的細胞に免疫学的応答を引き起こすことができる。この反応を利用して、多くのモノクローナル抗体ががん治療や免疫疾患の治療に用いられている。モノクローナル抗体は、中和、抗体依存性細胞障害活性(antibody-dependent cellular cytotoxicity; ADCC)、及び補体依存性細胞障害活性(complement-dependent cytotoxicity; CDC)の3つの代表的な作用様式を介して治療効果を示す。
【0007】
これまでに、本発明者らは、樹立したハイブリドーマが産生する抗Aggrusモノクローナル抗体、P2−0、MS−1、MS−3、MS−4はいずれもAggrus−CLEC‐2の結合を阻害する中和抗体であり、ADCC活性非依存的に血小板凝集抑制、がん転移抑制、腫瘍増殖抑制作用を示すことを明らかにしている(特許文献2)。
【0008】
これら4つの抗体のうちAggrus−CLEC‐2の結合を阻害する活性の高いP2−0とMS−1抗体は、いずれもPLAGドメイン(Platelet-Aggregation stimulating domain)領域内のアミノ酸をエピトープとして認識する抗体である。PLAGドメインとは、ヒト、マウス、ラットと種を超えて保存されているEDXXVTPGを共通配列とするアミノ酸配列である。PLAGドメインは、近接した領域にPLAG1〜PLAG3まで3回繰り返し存在するアミノ酸配列であり、ヒトAggrusの場合、アミノ酸配列の29〜54番目の領域に存在する。
【0009】
PLAGドメインは細胞外に存在し、血小板凝集活性に関わることが知られている。また、AggrusとCLEC‐2との共結晶構造解析の結果、Aggrusの47番目のグルタミン酸と48番目のアスパラギン酸に加え、52番目のスレオニンに付加されているシアル酸がCLEC‐2の107〜157番目の領域中に存在する4つのアルギニンと結合していることが示されている(非特許文献16)。本発明者らが創製したP2−0とMS−1抗体も、このAggrus−CLEC‐2結合領域と重複するAggrusのアミノ酸配列の45〜49番目の領域をエピトープとして認識している。また、MS−3、MS−4抗体はAggrus−CLEC‐2結合領域に近接するAggrusのアミノ酸配列の54〜61番目の領域をエピトープとして認識している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−350677号公報
【特許文献2】国際公開2012/128082号
【特許文献3】特開2013−71916号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kato Y. et al., 2003, J. Biol. Chem., Vol.278, p.51599-51605.
【非特許文献2】Kato, Y. et al., 2005, Tumour. Biol. Vol.26, p.195-200.
【非特許文献3】Martin-Villar, E. et al., 2005, Int. J. Cancer, Vol.113, p.899-910.
【非特許文献4】Yuan P. et al., 2006, Cancer, Vol.107, p.563-569.
【非特許文献5】Wicki, A. et al., 2006, Cancer Cell, Vol.9, p.261-272.
【非特許文献6】Kimura, N. & Kimura, I., 2005, Pathol. Int., Vol.55, p.83-86.
【非特許文献7】Fukunaga, M., 2005, Histopathology, Vol.46, p.396-402.
【非特許文献8】Kato, Y. et al., 2004, Oncogene, Vol.23, p.8552-8556.
【非特許文献9】Mishima, K. et al., 2006, Acta Neuropathol., Vol.111, p.563-568.
【非特許文献10】Mishima, K. et al., 2006, Acta Neuropathol., Vol.111, p.483-488.
【非特許文献11】Yuan, P. et al., 2006, Cancer, Vol.107, p.563-569.
【非特許文献12】Kunita, A. et al., 2007, Am. J. Pathol., Vol.170, p.1337-1347.
【非特許文献13】Takagi, S. et al., 2014, Int. J. Cancer, Vol.134, p.2605-2614.
【非特許文献14】Suzuki-Inoue, K. et al. 2007, J. Biol. Chem., Vol.282, p.25993-26001.
【非特許文献15】Fujita N.& Takagi, S., 2012, J. Biochem., Vol.152, p.407-413.
【非特許文献16】Nagae, M. et al., 2014, Structure, Vol.22, p.1711-1721.
【非特許文献17】Morrison, S.L. et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.81,p.8651-6855.
【非特許文献18】Jones, P.T. et al., 1986, Nature, Vol.321, p.522-525.
【非特許文献19】Amano, K. et al., 2008, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.105,p.3232-3237.
【非特許文献20】Takagi, S. et al., 2013, PLoS One Vol. 8, e73609.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、以下に示すように、AggrusとCLEC‐2との共結晶構造解析の結果明らかとなっていたCLEC‐2との結合に関わるAggrusの48番目のアスパラギン酸をアラニン置換したAggrus変異体でも、CLEC‐2に結合することが明らかとなった。また、Aggrusの48番目のアスパラギン酸をアラニン置換したAggrus変異体による血小板凝集に関しても、血小板凝集が開始するまでの時間の遅延が認められるものの、最終的には血小板凝集が起こることが確認された。
【0013】
さらに、本発明者らは、Aggrusに対するモノクローナル抗体や低分子化合物によって、AggrusとCLEC‐2の相互作用が阻害され、血小板凝集が抑制され、さらにがん転移が抑制されることを開示しているが(特許文献2、3)、これらモノクローナル抗体や低分子化合物は血小板凝集開始時間の遅延効果はあるが、Aggrusによる血小板凝集を完全に抑制することはできなかった。すなわち、AggrusとCLEC‐2の結合部位が既知のPLAGドメイン以外の領域にも存在する可能性が示唆される。
【0014】
本発明は、AggrusとCLEC‐2の結合に関与する新たなドメインの探索を行い、当該ドメインに結合するモノクローナル抗体を得ることを課題とする。さらに、当該ドメインに結合する化合物を探索することにより、がんの増殖と転移、血小板凝集を抑制する化合物のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下に示すAggrusの領域を認識するモノクローナル抗体、これを産生するハイブリドーマ、CLEC−2との結合に必要なAggrusの領域、Aggrus−CLEC‐2結合阻害剤、医薬組成物、検査用試薬、Aggrus−CLEC‐2結合阻害剤のスクリーニング方法に関する。
【0016】
(1)配列番号1(GIRIEDLPT)により表されるアミノ酸配列のうち少なくとも5残基の配列からなるAggrusの領域に結合するモノクローナル抗体、又はその機能的断片からなるフラグメント。
(2)受託番号NITE BP−03041(PG4D1)、又はNITE BP−03042(PG4D2)のハイブリドーマにより産生される、(1)記載のモノクローナル抗体、又はその機能的断片からなるフラグメント。
(3)キメラ化又はヒト化された(1)記載のモノクローナル抗体、又はその機能的断片からなるフラグメント。
(4)受託番号NITE BP−03041、又はNITE BP−03042のハイブリドーマ。
(5)(1)〜(3)のいずれか1項記載のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメントを含むAggrus−CLEC‐2結合阻害剤。
(6)さらに配列番号2(GAEDDVVTPGTSEDRYK)により表される領域に存在するエピトープを認識するモノクローナル抗体、そのキメラ化抗体、そのヒト化抗体、及び/又はその機能的断片からなるフラグメントを少なくとも1つ含むことを特徴とする(5)記載のAggrus−CLEC‐2結合阻害剤。
(7)前記配列番号2の領域に存在するエピトープを認識する前記モノクローナル抗体が、P2−0、MS−1、MS−3、及び/又はMS−4であることを特徴とする(6)記載のAggrus−CLEC‐2結合阻害剤。
(8)(1)〜(3)のいずれか1項記載のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメントを含む血小板凝集抑制、血栓抑制、がん進展・転移抑制、抗炎症のための医薬組成物。
(9)さらに配列番号2(GAEDDVVTPGTSEDRYK)により表される領域に存在するエピトープを認識するモノクローナル抗体、そのキメラ化抗体、そのヒト化抗体、及び/又はその機能的断片からなるフラグメントを少なくとも1つ含むことを特徴とする(8)記載の医薬組成物。
(10)前記配列番号2の領域に存在するエピトープを認識する前記モノクローナル抗体が、P2−0、MS−1、MS−3、及び/又はMS−4であることを特徴とする(9)記載の医薬組成物。
(11)(1)〜(3)のいずれか1項記載のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメントを含むAggrus発現を検出するための検査用試薬。
(12)CLEC‐2の結合に必要なPLAG4ドメインと重複するAggrusの領域であって、配列番号1(GIRIEDLPT)により表されることを特徴とする領域。
(13)(12)記載のCLEC‐2の結合に必要なPLAG4ドメインと重複するAggrusの領域であって、前記アミノ酸配列が配列番号3(RIEDL)により表されるアミノ酸配列からなることを特徴とする領域。
(14)(12)、又は(13)の領域を含むペプチドからなるAggrus−CLEC‐2結合阻害剤。
(15)(12)、又は(13)の領域を含むペプチドを有効成分とする血小板凝集抑制、血栓抑制、がん進展・転移抑制、抗炎症のための医薬組成物。
(16)CLEC‐2とAggrusの結合阻害剤のスクリーニング方法であって、配列番号1(GIRIEDLPT)により表されるアミノ酸配列のうち少なくとも5残基の配列からなるAggrusエピトープへの結合を指標とすることを特徴とする阻害剤スクリーニング方法。
(17)(16)記載のスクリーニング方法であって、配列番号3(RIEDL)により表されるアミノ酸配列への結合を指標とすることを特徴とする阻害剤スクリーニング方法。
(18)CLEC‐2とAggrusの結合阻害剤のスクリーニング方法であって、配列番号4(EDXXTS)により表されるアミノ酸配列への結合を指標とすることを特徴とする阻害剤スクリーニング方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明者らは、AggrusとCLEC‐2の結合に必要な新たなPLAGドメインを見出したことにより、当該領域に結合する新たなモノクローナル抗体を得ることができた。当該領域に結合するモノクローナル抗体はAggrusとCLEC‐2の結合を強く阻害することから、がんや血栓症の治療に有効であることが期待される。さらに、新たなPLAGドメインを標的とする抗がん剤のスクリーニングも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】Aggrus変異体を用いた中和抗体の認識部位の検証結果を示す図。
図1B】ヒトAggrusアミノ酸配列中のPLAGドメインを示す図。
図2A】CHO細胞に導入したAggrus野生型、Aggrus変異体タンパク質の発現量、及びCLEC‐2タンパク質との結合を示す図。
図2B】血小板凝集に対する48番目のアミノ酸変異D48Aの効果を示す図。
図3A】哺乳類Aggrusアミノ酸配列の相同性を示す図。
図3B】PLAGドメインのコンセンサス配列を示す図。
図4A】Aggrus変異体のタンパク質発現を示す図。
図4B】CHO細胞に導入したAggrus野生型、Aggrus変異体タンパク質の発現量、及びCLEC‐2タンパク質との結合を示す図。
図4C】血小板凝集に対する48番目のアミノ酸変異D48A、82番目のアミノ酸変異体D82A、48番目と82番目のアミノ酸の二重変異D48A/D82Aの効果を示す図。
図4D】PLAGドメイン欠失変異体を模式的に示す図。
図4E】CHO細胞に導入したAggrus欠失変異体タンパク質の発現量、及びCLEC‐2タンパク質との結合を示す図。
図5A】CHO細胞に導入したAggrus野生型、Aggrus点変異体タンパク質の発現量、及びCLEC‐2タンパク質との結合を定量的に示す図。
図5B】CHO細胞に導入したAggrus野生型、Aggrus欠失変異体タンパク質の発現量、及びCLEC‐2タンパク質との結合を定量的に示す図。
図5C】血小板凝集に対するD48A、D82A、D48A/D82Aの効果を示す図。
図6A-B】PLAG4ドメイン(EDXXTS)の81番目のグルタミン酸、82番目のアスパラギン酸、85番目のスレオニンのCLEC‐2結合への関与を示す図。
図7A】抗Aggrusモノクローナル抗体のエピトープ解析を示す図。
図7B】哺乳類細胞に発現しているAggrusに対する抗体の反応性を示す図。
図7C】Aggrus発現細胞に対する抗Aggrusモノクローナル抗体の反応性を示す図。
図8A-B】PG4D1、PG4D2抗体の認識部位を検討した図。
図8C】PG4D1抗体の反応性を検討した図。
図8D】PG4D2抗体の反応性を検討した図。
図9A-B】抗Aggrusモノクローナル抗体によるAggrus−CLEC‐2の結合阻害を示す図。
図10A】抗Aggrusモノクローナル抗体によるAggrus−CLEC‐2の結合阻害を示す図。
図10B】PLAG3とPLAG4ドメインを各々認識する抗体がAggrusに結合する際に相互に干渉しないことを示す図。
図10C】PLAG3とPLAG4ドメインを各々認識する抗体により、AggrusとCLEC‐2との結合が完全に抑制されることを示す図。
図11A】PLAG4ドメインを認識する抗Aggrusモノクローナル抗体によるAggrus−CLEC‐2の結合阻害を示す図。
図11B】PLAG4ドメインを認識する抗Aggrusモノクローナル抗体による血小板凝集の抑制を示す図。
図12A】PLAG4ドメインを認識する抗Aggrusモノクローナル抗体とPLAG3ドメインを認識する抗Aggrusモノクローナル抗体による血小板凝集の抑制を示す図。
図12B】PLAG4ドメインを認識する抗Aggrusモノクローナル抗体とPLAG3ドメインを認識する抗Aggrusモノクローナル抗体との併用による血小板凝集の抑制を示す図。
図13A-B】PLAG4ドメインを認識する抗Aggrusモノクローナル抗体による肺への血行性転移の抑制を示す図。
図14A-B】PG4D1抗体とPG4D2抗体による肺への血行性転移を抑制することを示す図。
図15】LC-SCC-015細胞の肺転移を抑制するPG4D2抗体の効果を示す図。
図16】肺扁平上皮がん細胞PC-10の腫瘍増殖に対するPG4D2抗体の抑制効果を示す図。
図17A】キメラ化PG4D2抗体のAggrusに対する結合を示す図。
図17B】キメラ化PG4D2抗体がAggrus-CLEC-2結合を抑制することを示す図。
図18A】骨肉腫切片のHE染色図。
図18B】PG4D1抗体とPG4D2抗体が、D2-40抗体よりも感度よく骨肉腫を認識することを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の抗Aggrusモノクローナル抗体、又は機能的断片とは、新たに見出されたAggrusのPLAG4ドメインと重複する領域をエピトープとして認識する抗体をいい、機能的断片とは元の抗体と実質的に同じ抗原特異性を有する抗体の断片をいうものとする。
【0020】
本発明のAggrusに対するモノクローナル抗体の好適な例としては、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NITE-NPMD(292−0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に受託番号NITE BP−03041NITE BP−03042として2019年10月31日付で寄託されたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体が挙げられる。また、これらと同等の結合特異性を備えた他の抗体も本発明の抗Aggrusモノクローナル抗体として好ましい。
【0021】
また、本発明においてモノクローナル抗体とは、得られたハイブリドーマによって産生される抗体だけではなく、遺伝子組換え技術を利用して作製されたヒト型キメラ抗体(以下、キメラ化抗体と記載することもある。)、あるいはヒト型CDR(相補性決定領域、Complementarity Determining Region)移植抗体(以下、ヒト化抗体と記載することもある。)等、ヒトに投与した場合安全性の担保されている抗体全般を含むものとする。
【0022】
ヒト型キメラ抗体とは、抗体の可変領域(以下、V領域ということもある。)がヒト以外の動物の抗体であり、定常領域(以下、C領域ということもある。)がヒト抗体である抗体をいう(非特許文献17)。ヒト型CDR移植抗体とは、ヒト以外の動物の抗体のV領域中のCDRのアミノ酸配列をヒト抗体の適切な位置に移植した抗体である(非特許文献18)。キメラ化抗体やヒト化抗体は、ヒトに投与した場合、ヒト以外の動物の抗体に比べ、副作用が少なく、その治療効果が長期間持続する。また、キメラ化抗体やヒト化抗体は遺伝子組換え技術を利用して様々な形態の分子として作製することができる。モノクローナル抗体からキメラ化抗体やヒト化抗体を作製する方法は公知の方法を用いることができる。
【0023】
抗体の機能的断片には、Fab、Fab´、F(ab´)、単鎖抗体(scFv)、ジスルフィド安定化V領域断片(dsFv)、もしくはCDRを含むペプチドなどの抗体の機能的断片が含まれる。抗体の機能的断片は、ペプシン、又はパパインなどの酵素によって消化する等公知の方法によって得ることができる。
【0024】
本発明は、別の態様において、モノクローナル抗体、又はそのフラグメントを含むAggrus−CLEC‐2結合阻害剤、血小板凝集抑制剤、抗がん剤として用いる医薬組成物を提供することができる。血小板凝集抑制剤は、例えば、脳梗塞、又は心筋梗塞のような血栓症を処置するために用いることができる。抗がん剤としては、がん転移抑制剤としてだけではなく、がんの進展、がんに起因する炎症を抑制するために用いることができる。がん、又は腫瘍は、今までにAggrus分子の発現の増加が認められているがん、すなわち扁平上皮癌、繊維肉腫、中皮腫、カポジ肉腫、精巣腫瘍、脳腫瘍、又は膀胱癌に対して好適に作用することが期待できる。
【0025】
本発明の医薬組成物の剤型の種類としては、ペプチド、抗体医薬の場合には、例えば、非経口剤である注射剤として用いるのが一般的である。また、スクリーニングにより得られた化合物等の場合には、注射剤だけではなく、経口剤、非経口剤として投与することができる。経口剤としては、例えば、錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下剤、ペースト剤等があげられる。また、非経口剤としては、注射剤の他に、坐剤、経皮剤、軟膏剤、外用液剤等を挙げることができる。しかし、ここに挙げた剤型に限ることはなく、当業者において投与経路、投与対象において適宜最適の剤型を選択することができる。また、有効成分として、本発明の抗Aggrus抗体を用いる場合には、製剤中の0.1〜99.9重量%含有することができる。
【0026】
薬剤の有効成分の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法によって適宜最適な投与量を判断することができる。経口投与の場合には、一般的には、患者に対して、1日につき0.1μg〜1000mg、好ましくは1.0μg〜100mg、より好ましくは1.0mg〜50mg投与するのが好ましい。非経口的に投与する場合には、その一回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば注射剤の形態で、一般的には、患者に対して、1日につき0.01〜30mg程度、好ましくは0.1〜20mg程度、より好ましくは0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好適である。しかしながら、最終的には、患者の年齢や体重、症状等を考慮して医師の判断により決定することができる。
【0027】
また、PLAG4ドメインを認識する抗体と、PLAG2からPLAG3にわたる領域を認識する抗体を併用して用いると、AggrusとCLEC‐2との結合をほぼ完全に阻害することが明らかとなった。したがって、これらCLEC‐2とAggrusの結合に関わる2つの領域を認識する抗体を併用することによって、より強い血小板凝集抑制、がん転移抑制効果を期待することができる。
【0028】
本発明者らは、すでに、上述のようにAggrusのPLAG2及びPLAG3を含む領域であるAggrusの45〜61番目の領域(配列番号2)をエピトープとして認識するモノクローナル抗体を得ている。具体的には、Aggrusの45〜49番目の領域を認識するP2−0、及びMS−1抗体、53〜58番目の領域を認識するMS−3抗体、53〜61番目の領域を認識するMS−4抗体である。すでに、本発明者らは、キメラ化したP2−0抗体がマウスモデルを用いた実験系でがん転移抑制作用を備えていることを開示しているが(特許文献2)、この領域を認識するモノクローナル抗体を臨床に応用する場合には、キメラ化、又はヒト化した抗体を用いればよい。これらモノクローナル抗体のうち少なくともいずれか1つと、本発明の抗体とを併用して用いることにより、より高い効果を奏することが期待できる。併用する2種の抗体をキメラ化抗体、ヒト化抗体として用いることにより、血栓症やがんの治療に適用した場合に、より強い効果を期待することができる。
【0029】
また、本発明のAggrusを認識する抗体は、がんの検査に用いることができる。Aggrusの発現が、がんの血行性転移に関与していることはすでに知られている。したがって、本発明の抗体を用いてがん組織、あるいは血中を循環するがん細胞のAggrusの発現を検出することによって、予後予測を行うことができる。がん組織、あるいはがん細胞でのAggrus発現の確認は、本発明の抗体を用いたELISA、FACS等公知の免疫測定法を用いることができる。さらに、Aggrusを発現しているがんであれば、本発明の抗体を有効性分として含む医薬による治療効果を期待することができる。
【0030】
本発明のスクリーニング方法は、AggrusとCLEC‐2との結合を阻害する物質を探索し、血小板凝集やがんの転移を抑制する化合物を提供することを課題とする。例えば、本発明のスクリーニング方法は以下のようにして行うことができる。化合物アレイや化合物ライブラリを用いて、本発明において新たに同定されたCLEC‐2との結合に関与するAggrusのアミノ酸配列と相互作用する化合物を探索する。スクリーニングに用いるCLEC‐2との結合に関与するAggrusの領域としては、本発明の抗体が認識するGIRIEDLPT(配列番号1)のうち少なくとも5残基の配列、特に、高い結合力を示す抗体が得られた領域であるRIEDL(配列番号3)を用いることが好ましい。また、PLAG4ドメインのPLAGコンセンサス配列EDXXTS(配列番号4)を用いてもよい。CLEC‐2との結合に関与するAggrusの領域は短い領域であることから、合成ペプチドを用いても、当該領域を含む組換え体を大腸菌や動物細胞などで発現させて用いてもよい。
【0031】
さらには、本発明者らが発見し報告しているように、AggrusとCLEC‐2の相互作用にはAggrusのアミノ酸45〜61のPLAG2、PLAG3ドメインにわたる領域も関与している(特許文献2、3)。したがって、この部位を欠失あるいは変異させ、本発明に関わるAggrusの新規に見出されたCLEC‐2結合領域のみでCLEC‐2と結合する組換え体を大腸菌や動物細胞などで発現させて用いてもよい。
【0032】
また、大腸菌や動物細胞などで発現させた野生型のAggrusに、P2−0、MS−1、MS−3またはMS−4抗体を反応させてこの部位をマスクし、本発明に関わるAggrusの新規に見出されたCLEC‐2結合領域のみでCLEC‐2と結合するようにしても良い。化合物に結合したペプチドや組換え体は、本発明の抗Aggrusモノクローナル抗体を用いて検出することができる。上記方法は例示であり、これに限らず公知のスクリーニング方法を適用してよいことはいうまでもない。
【0033】
また、本発明の抗体が認識する領域(エピトープ)に糖鎖を付与して合成し投与することによって、AggrusとCLEC‐2の結合を競合阻害することが期待できる。よって、抗体が認識する領域を含むペプチドに糖鎖を付与し、AggrusとCLEC‐2との結合阻害剤として用いることができる。これにより、ペプチド自体を血小板凝集の抑制剤、がん転移抑制剤として用いることも可能となる。なお、糖鎖の付与は、ヒト型の糖鎖を酵母を用いて付与する(非特許文献19)等、公知の方法を用いて行うことができる。
以下、実施例を示しながら、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0034】
報告されている中和抗体の認識部位の検証
本発明者らはすでに、CLEC‐2との結合を阻害し、血小板凝集抑制作用、及びがん転移抑制作用のある抗Aggrusモノクローナル抗体を開示している(特許文献2、非特許文献20)。これらモノクローナル抗体のエピトープは、PLAG2、PLAG3ドメインにわたる領域を認識する抗体であった。
【0035】
まず、これら中和抗体の認識部位の検証を行った。Chinese Hamster Ovary(CHO)細胞に、以下のプラスミドを導入し、ヒトAggrus、及びAggrus変異体を発現させた。ヒトAggrus遺伝子は野生型Aggrus cDNA(GenBank No. AB127958.1)を用い、ベクターはpcDNA3(ライフテクノロジーズ社製)を用いて常法によりPCRで増幅しクローニングした。
【0036】
中和抗体の認識部位の検討に用いたコンストラクトは以下のとおりである。遺伝子を組み込んでいないpcDNA3ベクターのみ(mock)、野生型ヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミド(Aggrus-WT)、45番目のグリシンをアラニンに置換したAggrus cDNAを組み込んだプラスミド(Aggrus-G45A)、48番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したAggrus cDNAを組み込んだプラスミド(Aggrus-D48A)、49番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したAggrus cDNAを組み込んだプラスミド(Aggrus-D49A)を構築しCHO細胞に導入し、タンパク質を安定的に発現させた。各プラスミドを導入したCHO細胞は以下、各々CHO/mock、CHO/Aggrus-WT、CHO/Aggrus-G45A、CHO/Aggrus-D48A、CHO/Aggrus-D49Aという。
【0037】
各細胞から細胞溶解液を調製し、D2−40、MS−1、P2−0、NZ-1の4種の抗Aggrusモノクローナル抗体を用い、ウェスタンブロット分析を行った。D2-40抗体(AbD Serotec社製)は、Aggrus中和活性の無いマウスモノクローナル抗体であり、MS−1抗体、P2−0抗体は本発明者らが創製した中和活性を有するマウスモノクローナル抗体である。また、NZ-1抗体(AngioBio社製)は、Aggrus中和活性を有するラットモノクローナル抗体である。結果を図1Aに示す。
【0038】
Aggrus中和活性の無いD2-40抗体は、導入した野生型及び1アミノ酸置換型のAggrusタンパク質をすべて認識した。すなわち、CHO/mock以外の細胞でシグナルが認められる。また、Aggrus野生型、Aggrus変異体でタンパク質発現量がほぼ揃っていることが確認された。なお、泳動した細胞溶解液中のタンパク質量が同じであることは、α-tubulinを認識する抗体を用いたウェスタンブロット分析の結果(図1A)からも明らかである。
【0039】
MS-1抗体並びにP2-0抗体は、野生型のAggrusは認識するが1アミノ酸置換型のAggrusタンパク質、Aggrus−G45A、Aggrus−D48A、Aggrus−D49Aの認識が弱く、これらアミノ酸部位が抗体認識に必須であることがわかる。特に、P2-0抗体もMS-1抗体も、48番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したD48Aは全く認識することができない。PLAGドメイン中の48番目のアスパラギン酸が、抗体による認識には重要であることが示唆された。
【0040】
また、Aggrus中和活性があるラットモノクローナル抗体NZ-1抗体も1アミノ酸置換型のAggrusタンパク質の認識が弱い。したがって、中和活性を発揮するためには、変異を導入したAggrusの45番目から49番目までの領域、すなわちPLAG2からPLAG3にかけての部位(図1B参照)が大事であることが示唆された。
【実施例2】
【0041】
CLEC‐2との相互作用ならびに血小板凝集誘導に関わるAggrusの部位の検討
(1)CLEC‐2結合におけるAggrusの48番目のアスパラギン酸の役割検討
CHO細胞に、ヒトAggrus及びその変異体cDNAを組み込んだプラスミドを導入して、48番目のアスパラギン酸の役割の検討を行った。上記で作製した野生型Aggrus発現細胞株CHO/Aggrus−WT及びその変異体発現CHO細胞株CHO/AggrusD48A、及び48番目のアスパラギン酸をグルタミン酸に置換したCHO/Aggrus-D48E、アスパラギンに置換したCHO/Aggrus-D48Nを用い、FACS法によりCLEC‐2との反応性を検討した。
【0042】
まず、遺伝子導入株、CHO/Aggrus-WT、CHO/Aggrus-D48E、CHO/Aggrus-D48N、CHO/Aggrus-D48AにおけるAggrus発現量を検討した。具体的には、これら遺伝子導入株を培養容器から回収し、PBSで洗浄した後に1.5×10 cells/mlの細胞密度に調製し、D2-40抗体を添加し、30分間氷上で反応させた。その後、細胞をPBSで洗浄し、二次抗体としてAlexa488標識された抗マウスIgG抗体(ライフテクノロジーズ社製)を添加し、氷上でさらに30分間反応させた。最後に、細胞を3回PBSで洗浄した後に、Cytomics FC500(Beckman Coulter社製)で解析を行なった(図2A左パネル、白抜きの山)。なお、コントロールは、D2-40抗体の代わりにコントロールマウス抗体(シグマ社製)を各々の細胞に反応させ、上記と同様な操作を行なった結果である(図2A左パネル、黒く塗りつぶした山)。
【0043】
CLEC‐2との反応性は、以下のようにして検討した。遺伝子導入株を同様にして1.5×10 cells/mlの細胞密度に調製したところに、(His)10タグ付き組換えCLEC‐2タンパク質(rCLEC‐2;R&D Systems社製)を添加し、30分間氷上で反応させた。PBSで洗浄した後にHisタグを認識する蛍光標識された二次抗体(QIAGEN社製)を添加し、氷上でさらに30分間反応させた。なお、(His)10タグ付き組換えCLEC‐2タンパク質は哺乳動物細胞から精製されたものであり、糖鎖により修飾されている。細胞を3回PBSで洗浄した後に、同様にCytomics FC500で解析を行なった(図2A右パネル、白抜きの山)。なお、コントロールは、(His)10タグ付き組換えCLEC‐2タンパク質の代わりにPBSのみを添加し、上記と同様な操作を行なった結果である(図2A右パネル、黒く塗りつぶした山)。
【0044】
Aggrus、及びAggrus変異体タンパク質の発現は図2A左パネルに、CLEC‐2との結合は図2A右パネルに示す。図2A左パネルの白抜きの山はD2-40抗体によって、野生型Aggrus、又はAggrus変異体を染色した結果を示す。黒く塗りつぶした山はコントロールマウス抗体による結果を示す。図2A左パネルの白抜きの山で示す頂点の位置の蛍光強度がほぼ同じであることから、Aggrusタンパク質の各遺伝子導入株における細胞膜上での発現レベルがほぼ一致していることが確認された。
【0045】
図2A右パネルは、野生型又は1アミノ酸置換型のAggrusを発現している細胞に、組換えCLEC‐2が結合するかを解析したものである。上述のように、白抜きの山は、CHO細胞表面に発現している野生型Aggrus、又はAggrus変異体に結合している組換えCLEC‐2を抗His抗体により検出した結果を示している。黒く塗りつぶした山はCLEC‐2タンパク質の代わりにPBSのみを添加したコントロールの結果を示している。
【0046】
48番目のアスパラギン酸を同じ酸性アミノ酸であるグルタミン酸に置換したD48E(CHO/Aggrus-D48E)は野生型(CHO/Aggrus-WT)とほぼ同じようにCLEC‐2が結合する。しかし、中性アミノ酸に置換したD48N(CHO/Aggrus-D48N)あるいはD48A変異体(CHO/Aggrus-D48A)に対してはCLEC‐2の結合力の減少が観察された。しかし、いずれの変異体も結合が完全に失われることはなく、ある程度CLEC‐2が結合することが明らかとなった。
【0047】
(2)Aggrusの48番目のアスパラギン酸の血小板凝集における役割検討
上述のようにCLEC‐2は、Aggrusと結合する血小板上のレセプターである。Aggrusは血小板上のCLEC‐2と結合することで血小板凝集誘導シグナルを伝達する。CLEC‐2との結合が弱くなったD48A変異体(CHO/Aggrus-D48A)は血小板凝集誘導活性が弱くなることが予想されたため、血小板凝集抑制試験で確認した。具体的には、MCM HEMA TRACER 313M(エム・シー・メディカル社製)を用いて分析を行った。該分析法は光透過率のモニタリングによるマウス洗浄血小板を用いたin vitro血小板凝集分析法である。
【0048】
図2Bに示すように、CHO/mock細胞には血小板凝集を誘導する活性は認められないが、野生型Aggrusを発現させたCHO/Aggrus-WTでは血小板と混ぜてから約6分後に凝集が開始された。一方で、CLEC‐2との結合力が弱まったCHO/Aggrus-D48Aと血小板を混和した場合、約14分後からしか凝集が認められず、血小板凝集の開始が約8分遅延する。この結果は、CLEC‐2との結合力が弱まったという図2Aの結果を支持しているとともに、CLEC‐2との結合にはこれまで同定されていたPLAG3のドメイン以外の部位が関与しており、その部位を介したCLEC‐2との結合により血小板凝集が誘導されているという可能性を示唆するものである。
【実施例3】
【0049】
CLEC‐2との結合に関わる新規PLAG4ドメインの発見
哺乳類の系統樹(図3A下パネル)から、ヒト(Homo sapiens、配列番号5)、ボノボ(Pan paniscus、配列番号6)、アカゲザル(Macaca mulatta、配列番号7)、ブタ(Sus scrofa、配列番号8)、マッコウクジラ(Physeter catodon、配列番号9)、ウシ(Bos Taurus、配列番号10)、イヌ(Canis lupus familiaris、配列番号11)、コウモリ(Myotis brandtii、配列番号12)、ラット(Rattus norvengicus、配列番号13)、マウス(Mus musculus、配列番号14)のAggrusタンパク質のアミノ酸配列の相同性を検討した。
【0050】
図3Aは、各動物のAggrusタンパク質の相同性の高い部分を並べたものである。なお、各動物のAggrusタンパク質の配列は図3A下に示すGenBank accession No.の配列による。その結果、これまでに報告のあるPLAGドメイン1〜3に類似した、哺乳類で高度に保存されているPLAG4ドメインを見出した(図3A)。図3BにPLAGドメインのコンセンサス配列(配列番号15)及びPLAG1〜PLAG4の配列(配列番号16〜19)を示す。ヒトPLAG4は、CLEC‐2との結合に関わると報告されている高度に保存されているグルタミン酸とそれに続くアスパラギン酸のED配列、さらに糖鎖付加部位であるスレオニンTが保存されていた。ただし、ED配列とTの間のアミノ酸数は、PLAG4ドメインではこれまでに同定してきた3アミノ酸ではなく2アミノ酸になっているという違いが見出された。
【実施例4】
【0051】
新規PLAG4ドメインのCLEC‐2との相互作用ならびに血小板凝集誘導能における役割の検討
(1)樹立したAggrus変異体の発現量検討
新規のPLAGドメインであると推定されたPLAG4ドメイン内にアミノ酸変異を有するPLAG4変異体をCHO細胞に遺伝子導入した。具体的には、pcDNA3ベクターにPLAG4領域内のアミノ酸である82番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミド(Aggrus-D82A)、48番目のアスパラギン酸と82番目のアスパラギン酸を共にアラニンに置換したヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミド(Aggrus-D48A/D82A)をCHO細胞に導入し、タンパク質を安定的に発現させた。各プラスミドを導入したCHO細胞は以下、CHO/Aggrus-D82A、CHO/Aggrus-D48A/D82Aという。
【0052】
CHO/mock、CHO/Aggrus−WT、CHO/Aggrus-D48A、CHO/Aggrus-D82A、CHO/Aggrus-D48A/D82A細胞株より、それぞれ細胞溶解液を調製した。各細胞溶解液を用いてD2-40抗体でウェスタンブロット分析を行なった。その結果、導入した野生型及び変異型のAggrusタンパク質の発現がCHO/mock以外の細胞で認められるとともに、その発現量がほぼ揃っていることが確認された(図4A)。
【0053】
(2)PLAG3とPLAG4のCLEC‐2との結合における役割検討
これらCHOの遺伝子安定発現株を用いて、実施例2と同様に、FACS法によりAggrus発現量の確認とCLEC‐2との反応性を検討した。図4B左パネルは、図2Aと同様に、白抜きの山がD2-40抗体を反応させて野生型Aggrus、又はAggrus変異体を染色した結果を、黒く塗りつぶした山は、D2-40抗体の代わりにコントロールマウス抗体(シグマ社製)を反応させた結果を示している。図4B(左パネル)に示すように、Aggrusタンパク質の各遺伝子導入株における細胞膜上での発現レベルがほぼ一致していることが、各パネルの白抜きの山で示す頂点の位置の蛍光強度がほぼ同じであることからも確認された。
【0054】
図4B右パネルは、実施例2と同様にしてCLEC‐2との結合をFACS法により解析したものである。白抜きの山は、CHO細胞表面に発現している野生型Aggrus、又はAggrus変異体に結合している(His)10タグ付き組換えCLEC‐2をHisタグを認識する蛍光標識された二次抗体により検出した結果を示している。なお、黒く塗りつぶした山は、(His)10タグ付き組換えCLEC‐2タンパク質の代わりにコントロールマウス抗体を添加し、上記と同様な操作を行なった結果である。
【0055】
82番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したD82A変異体(CHO/Aggrus-D82A)のCLEC‐2との結合は、48番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したD48A変異体(CHO/Aggrus-D48A)との結合以上に減弱していることが明らかとなった(図4B、右パネル)。さらに、48番目のアスパラギン酸と82番目のアスパラギン酸を共にアラニンに置換したD48A/D82A二重変異体(CHO/Aggrus-D48A/D82A)は、全くCLEC‐2と結合しないことが明らかとなった。これらの結果は、Aggrus上の新たに見出されたPLAG4ドメインが、PLAG3ドメインとともにCLEC‐2との結合に重要な役割を果たしていることを示唆しているだけでなく、PLAG4がPLAG3よりもCLEC‐2との結合において主要な役割を果たしていることを示唆している。
【0056】
(3)PLAG3とPLAG4の血小板凝集における役割検討
PLAG4ドメインがCLEC‐2との結合に重要な役割を担っていることが明らかになったことから、次にPLAG4ドメインの血小板凝集における役割を検討した。上述のように、Aggrusは血小板上のCLEC‐2と結合することで血小板凝集誘導シグナルを伝達する。PLAG4ドメイン内のアミノ酸変異が血小板凝集を抑制するか、実施例2に記載の血小板凝集抑制試験によって、Aggrus依存的な血小板凝集の誘導活性を検討した。結果を図4Cに示す。
【0057】
CHO/Aggrus-D48A、CHO/Aggrus-D82A、CHO/Aggrus-D48A/D82A変異体発現細胞を用い、実施例2と同様にして各変異体発現細胞の血小板凝集能を検討した。各変異体発現細胞の血小板凝集誘導活性は、CLEC‐2との結合力に比例し、D82A変異体はD48A変異体よりも血小板凝集誘導活性が弱く、D48A/D82A二重変異体は血小板凝集誘導活性を示さないことが明らかとなった(図4C)。よって、新規に同定したPLAG4は、Aggrus依存的な血小板凝集に主要な役割を果たしていることが明らかとなった。
【0058】
PLAG4ドメインの重要性を確認するために、PLAG1、3、4ドメインを各々欠失した変異体をCHO細胞に遺伝子導入した。具体的には、pcDNA3ベクターにPLAG1領域内の29から34番目のアミノ酸を欠失したヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミド(Aggrus-Δ29-34)、PLAG3領域内の47から52番目のアミノ酸を欠失したヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミド(Aggrus-Δ47-52)、PLAG4領域内の81から85番目のアミノ酸を欠失したヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミド(Aggrus-Δ81-85)、PLAG3領域内の47から52番目とPLAG4領域内の81から85番目のアミノ酸を両方欠失したヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミド(Aggrus-Δ47-52/Δ81-85)をCHO細胞に遺伝子導入し、タンパク質を安定的に発現させた(図4D参照)。各プラスミドを導入したCHO細胞は以下、CHO/Aggrus-Δ29-34、CHO/Aggrus-Δ47-52、CHO/Aggrus-Δ81-85、CHO/Aggrus-Δ47-52/Δ81-85という。
【0059】
CHO/Aggrus-Δ29-34、CHO/Aggrus-Δ47-52、CHO/Aggrus-Δ81-85、CHO/Aggrus-Δ47-52/Δ81-85変異体発現細胞株を用い、実施例2と同様に、FACS法によりAggrus発現量の確認とCLEC‐2との反応性を検討した(図4E)。なお本検討では、Aggrus発現量の検討にD2-40抗体ではなく、市販のFL-162抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社製)を使用した。また、二次抗体としてAlexa488標識された抗ウサギIgG抗体(ライフテクノロジーズ社製)を用いた(図4E左パネル)。なお、コントロールとしては、FL-162抗体の代わりにコントロールウサギ抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社製)を各々の細胞に反応させ、上記と同様な操作を行なった結果である。白抜きの山は、FL-162抗体を反応させてPLAGドメイン欠失Aggrus変異体を染色した結果を、黒く塗りつぶした山は、FL-162抗体の代わりにコントロールウサギ抗体を反応させた結果を示している。図4E(左パネル)に示すように、Aggrusタンパク質の各遺伝子導入株における細胞膜上での発現レベルがほぼ一致していることが、各パネルの白抜きの山で示す頂点の位置の蛍光強度がほぼ同じであることからも確認された。
【0060】
図4E右パネルは、実施例2と同様にしてCLEC‐2との結合をFACS法により解析したものである。白抜きの山は、CHO細胞表面に発現しているPLAGドメイン欠失Aggrus変異体に結合している(His)10タグ付き組換えCLEC‐2をHisタグを認識する蛍光標識された二次抗体により検出した結果を示している。なお、黒く塗りつぶした山は、(His)10タグ付き組換えCLEC‐2タンパク質の代わりにPBSを添加し、上記と同様な操作を行なった結果である。
【0061】
CLEC‐2との相互作用は、図4Bに示す点変異体のデータと同じように、PLAG4ドメイン欠失変異体(CHO/Aggrus-Δ81-85)のCLEC‐2との結合は、PLAG3ドメイン欠失変異体(CHO/Aggrus-Δ47-52)との結合以上に減弱していることが明らかとなった。さらに、PLAG3ドメインとPLAG4ドメインを共に欠失した二重変異体(CHO/Aggrus-Δ47-52/Δ81-85)は、全くCLEC‐2と結合しないことが明らかとなった。
【0062】
これらの結果は、Aggrus上の新たに見出されたPLAG4ドメインが、PLAG3ドメインとともにCLEC‐2との結合に重要な役割を果たしていることを示唆しているだけでなく、PLAG4がPLAG3よりもCLEC‐2との結合において主要な役割を果たしていることを再確認するものである。
【実施例5】
【0063】
新規PLAG4ドメインのCLEC‐2との相互作用ならびに血小板凝集誘導能における役割の定量的解析
(1)PLAG3とPLAG4のCLEC‐2との結合における役割検討
Aggrus発現量とCLEC‐2との反応性を定量的に解析した。具体的には、実施例4(図4B参照)で行ったFACS法を用いたAggrus発現量の確認とCLEC‐2との反応性の検討を3回繰り返して行い平均化した。CHO/Aggrus−WTの白抜きの山で示す頂点の位置の蛍光強度の平均値を1とした時の、Aggrus変異体タンパク質の発現量をグラフに示す。Aggrus野生型の発現量と比較した統計解析の結果、Aggrus変異体タンパク質(D48A、D82A、D48A/D82A)の発現量に有意差はつかず(nsと表記)、発現量がほぼ揃っていることが示された(図5A、左パネル)。また、CLEC‐2との反応性を示す白抜きの山で示す頂点の位置の蛍光強度の平均値を1とした時のAggrus変異体タンパク質のCLEC‐2との反応性をグラフに示した。Aggrus野生型のCLEC‐2との反応性を1とすると、Aggrus変異体タンパク質(D48A、D82A、D48A/D82A)のCLEC‐2との反応性は有意に減少(**,P<0.01;***,P<0.001)していることが示され(図5A、右パネル)、実施例4の結果が再現された。
【0064】
Aggrus欠失変異体についても、上記と同様にAggrus発現量とCLEC‐2との反応性を定量的に解析した(図5B)。実施例4(図4E参照)で行ったFACS法を用いたAggrus発現量の確認とCLEC‐2との反応性の検討を3回繰り返して行い平均化した。CHO/Aggrus−WTの白抜きの山で示す頂点の位置の蛍光強度の平均値を1とした時の、Aggrus欠失変異体タンパク質の発現量をグラフに示す。Aggrus野生型の発現量と比較した統計解析の結果、Aggrus欠失変異体タンパク質(Δ29-34、Δ47-52、Δ81-85、Δ47-52/Δ81-85 )の発現量に有意差はつかず(nsと表記)、発現量がほぼ揃っていることが示された(図5B、左パネル)。一方、CLEC‐2との反応性は欠失変異体で有意に減少していることが確認された。図4E右パネルにおいて、CLEC‐2との反応性を示す白抜きの山で示す頂点の位置の蛍光強度の平均値を1とした時の、Aggrus欠失変異体タンパク質のCLEC‐2との反応性をグラフに示す。Aggrus野生型のCLEC‐2との反応性を1とすると、Aggrus欠失変異体タンパク質(Δ29-34、Δ47-52、Δ81-85、Δ47-52/Δ81-85)のCLEC‐2との反応性は、Δ29-34の場合を除き全て有意に減少(**,P<0.01)していることが示され(図5B、右パネル)、実施例4の結果が再現された。
【0065】
(2)PLAG3とPLAG4の血小板凝集における役割検討
次に、CHO/mock、CHO/Aggrus−WT、CHO/Aggrus-D48A、CHO/Aggrus-D82A、CHO/Aggrus-D48A/D82A変異体発現細胞を用い、実施例2と同様にして各変異体発現細胞の血小板凝集能を検討した。各変異体発現細胞の血小板凝集誘導活性は、CLEC‐2との結合力に比例し、D82A変異体はD48A変異体よりも血小板凝集誘導活性が弱いという図4Cの再現性が確認された。さらに、D48A/D82A二重変異体発現細胞はCHO/mockと同様に血小板凝集誘導活性を示さないことが明らかとなった(図5C)。よって、新規に同定したPLAG4は、Aggrus依存的な血小板凝集に主要な役割を果たしていることが再確認された。
【実施例6】
【0066】
PLAG4ドメイン中のE81、D82、T85のCLEC‐2結合への関与
新規に同定したPLAG4ドメインには、PLAG3ドメインに類似したEDXXTモチーフが存在する。PLAG4ドメイン中の81番目のグルタミン酸(E)、82番目のアスパラギン酸(D)、85番目のスレオニン(T)(図6B(右パネル、下線を引いたアミノ酸))のCLEC‐2との結合への直接的な関与を解析した。pcDNA3ベクターに81番目のグルタミン酸をアラニンに置換したヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミドを導入したCHO細胞(CHO/Aggrus−E81A)、82番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミドを導入したCHO細胞(CHO/Aggrus−D82A)、85番目のスレオニンをアラニンに置換したヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミドを導入したCHO細胞(CHO/Aggrus−T85A)を用いてFACSにより解析した。なお、コントロールとして、野生型ヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミドを導入したCHO細胞(CHO/AggrusーWT)、および、PLAG3ドメイン中の47番目のグルタミン酸、48番目のアスパラギン酸、52番目のスレオニン(図6A(右パネル、下線を引いたアミノ酸))を各々アラニンに置換したヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミドを導入したCHO細胞(CHO/Aggrus−E47A、CHO/Aggrus−D48A、CHO/Aggrus−T52A)も作製し、同様に解析した。
【0067】
野生型あるいは変異型Aggrus発現CHO細胞を用いて、実施例2と同様に、FACS法によりAggrus発現量の確認とCLEC‐2との反応性を検討した。図2と同様に、白抜きの山がD2‐40抗体を反応させて野生型Aggrus、又はAggrus変異体を染色した結果を、黒く塗りつぶした山は、D2‐40抗体の代わりにコントロールマウス抗体(シグマ社製)を反応させた結果を示している。図6A(左パネル)と図6B(左パネル)に示すように、Aggrusタンパク質の各遺伝子導入株における細胞膜上での発現レベルがほぼ一致していることが、各パネルの白抜きの山で示す頂点の位置の蛍光強度がほぼ同じであることからも確認された。
【0068】
図6A(右パネル)と図6B(右パネル)は、実施例2と同様にして、各変異体のCLEC‐2との結合をFACS法により解析したものである。白抜きの山は、CHO細胞表面に発現している野生型Aggrus、又はAggrus変異体に結合している(His)10タグ付き組換えCLEC‐2をHisタグを認識する蛍光標識された二次抗体により検出した結果を示している。なお、黒く塗りつぶした山は、(His)10タグ付き組換えCLEC‐2タンパク質の代わりにコントロールマウス抗体を添加し、上記と同様な操作を行なった結果である。
【0069】
CLEC‐2との相互作用に関しては、PLAG3ドメイン中の47番目のグルタミン酸、48番目のアスパラギン酸、52番目のスレオニンを各々アラニンに置換したヒトAggrus変異体のCLEC‐2との結合は、野生型に比べ同程度に減弱していた。したがって、これら3つのアミノ酸がCLEC‐2との結合に関与していることが確認された(図6A、右パネル)。さらにその相同部位であるPLAG4ドメイン中の81番目のグルタミン酸、82番目のアスパラギン酸、85番目のスレオニンを各々アラニンに置換したヒトAggrus変異体のCLEC‐2との結合は、野生型およびPLAG3ドメイン中の47番目のグルタミン酸、48番目のアスパラギン酸、52番目のスレオニンを各々アラニンに置換したヒトAggrusに比べても同程度以上に減弱していることが明らかとなった(図6B、右パネル)。
【0070】
これらの結果は、Aggrus上に新たに見出されたPLAG4ドメイン中の81番目のグルタミン酸、82番目のアスパラギン酸、85番目のスレオニンが、PLAG3ドメイン中の47番目のグルタミン酸、48番目のアスパラギン酸、52番目のスレオニンと同様にCLEC‐2との結合に関与していることを示している。また、配列番号4で示すEDXXTS(PLAG4ドメイン)がCLEC‐2との結合に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
【実施例7】
【0071】
新規PLAG4ドメインを認識する抗ヒトAggrusモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの作製
以下のようにして、PLAG4ドメインを認識する抗ヒトAggrusモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製した。
【0072】
(1)免疫原
ヒトAggrus cDNAの76番目のスレオニン残基から89番目のスレオニン残基(配列:Thr Gly Ile Arg Ile Glu Asp Leu Pro Thr Ser Glu Ser Thr)までの部位を12回または40回繰り返したものをpGEX-6P3ベクター(GE Healthcare社製)にクローニングし、GSTタグ付きの免疫原を得た。このプラスミドで大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、発現されたGSTタグ融合組換えタンパク質をGlutathione Sepharoseにて精製した。
【0073】
(2)感作
6週齢の雌性BALB/cマウス(日本チャールズリバーより購入)に、得られた免疫原100μg/匹とTiterMax Gold(TiterMax USA社製)の混和溶液を頸部皮下投与した。追加免疫のために、隔週で免疫原100μg/匹を腹腔内に計9回投与した。また、一部の感作においては、雌性BDF−1マウス(日本クレアより購入)の尾根部に2回投与する方法で検討した。
【0074】
(3)ハイブリドーマの樹立
常法に従って、免疫したマウスより脾臓細胞または腸骨リンパ節細胞を採取し、ポリエチレングリコール4000を用いて、マウスミエローマ細胞株P3U1と融合させた。ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含むエスクローン クローニングメディュウム(エーディア株式会社製)中で培養することで、融合したハイブリドーマを増殖させ、PLAG4ドメイン領域に対する抗体を産生するPG4D1とPG4D2を含む複数個のハイブリドーマを樹立させることに成功した。腸骨リンパ節細胞からは、6G42A4と9D62D6を含む複数個のハイブリドーマを樹立させることに成功した。
【実施例8】
【0075】
新規PLAG4ドメインを認識する抗ヒトAggrusモノクローナル抗体の性状解析
(1)エピトープの探索
ヒトAggrus cDNAからシグナルペプチド部位を含むアミノ末端24アミノ酸を除去したものをpGEX-6P-3ベクターへクローニングしてGSTタグ付きの野生型Aggrusタンパク質発現ベクターを作製した。以下、発現した組換えタンパク質をΔN24-WTという。また、免疫原である76から89番目のアミノ酸に相当するコドンをQuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Agilent Technology社製)を用いて1ヶ所ずつアラニンをコードするコドンへと置換し、アラニン変異型Aggrus発現ベクターを作製した。以下、組換え変異体は、例えば76番目のアミノ酸であるスレオニン(T)をアラニン(A)に変異させたものであれば、ΔN24−T76Aのように表記する。
【0076】
BL21(DE3)大腸菌を作製したプラスミドにより形質転換して培養した。大腸菌破砕液をサンプルとして用い、ウェスタンブロット法により、組換えヒトAggrusタンパク質に対するMS-1、PG4D1、PG4D2、6G42A4、9D62D6、抗GST(alpha-GST)抗体(Abcam社製)の反応性を検討した。その結果、図7Aに示すように、MS-1抗体と抗GST抗体は変異体を含む全てのAggrusタンパク質を認識したが、PG4D1抗体とPG4D2抗体は、79番目のアルギニンから83番目のロイシンにかけての5アミノ酸を各々アラニンに置換したAggrus変異体に対しては低い反応性しか示さなかった。また、6G42A4抗体と9D62D6抗体は、77番目のグリシンから83番目のロイシンにかけての7アミノ酸を各々アラニンに置換したAggrus変異体に対して、80番目のイソロイシンをアラニンに置換したものを除き、低い反応性しか示さなかった。さらに9D62D6抗体は、84番目のプロリンをアラニンに置換すると、認識能が減弱することが明らかとなった。
【0077】
よって、図7Aの下段に示すように、作製された抗体の認識する領域は、白抜き文字で示した77番目から84番目までのペプチド部分(配列:Gly Ile Arg Ile Glu Asp Leu Pro)であり、PG4D1抗体とPG4D2抗体が認識する最小のエピトープは、79番目から83番目までのペプチド部分(配列:Arg Ile Glu Asp Leu)であり、図3Bに示したPLAGドメインにホモロジーのある新規のPLAG4ドメイン(81番目から85番目の配列(図7A中、点線で囲った配列:Glu Asp Leu Pro Thr)と一部オーバラップしていることが明らかとなった。
【0078】
(2)哺乳類細胞に発現しているAggrusへの反応性の検討
哺乳類細胞で発現しているヒトAggrusは、大腸菌に発現させたAggrusとは異なり、多数の糖鎖が付加されていることが知られている。新規に創製されたPG4D1抗体とPG4D2抗体の哺乳類細胞で発現しているヒトAggrusへの反応性を、表面プラズモン共鳴解析装置Biacore X100(GE Healthcare社製)を用いて検討した。カルボキシメチルデキストランコート処理が施されたセンサーチップCM5上にアミンカップリング法にて哺乳動物細胞から市販の精製組換えAggrusタンパク質(ヒトIgG1 Fcタグ付きのタンパク質:R&D Systems社製)を固定化し、520RU(PG4D1抗体のアッセイ用)あるいは600RU(PG4D2抗体のアッセイ用)相当の固定化量を得た。
【0079】
25度、30μL/分の流速の条件下で、HBS−EP+バッファー(GE Healthcare社製)を流路に満たして測定を行なった。具体的には、PG4D1抗体とPG4D2抗体を6.25nM、12.5nM、25nM、50nM、100nMに希釈し、Aggrusタンパク質が固定化されたセンサーチップCM5上に60秒間流して結合反応を観察し、引き続きHBS−EP+バッファーを120秒間流して解離反応を観察した。測定により得られたデータを図7Bに示す。
【0080】
創製された抗体はいずれもAggrusタンパク質を認識して結合すること(結合速度定数(k)=3×10)、また洗浄用のHBS−EP+バッファーを流しても解離反応がほとんど見られず、解離速度定数(k)は使用したBiacore X100の計測限界以下、すなわちk値は≦10−5であった。よって、PG4D1抗体とPG4D2抗体の解離定数(K)は≦3×10−10Mという値となり、非常に強い結合を示すことが明らかとなった。
【0081】
(3)Aggrus発現細胞に対する認識能
MS-1抗体は、mRNAレベルでのAggrus発現が認められるヒト膀胱扁平上皮がん細胞株UM-UC-5細胞やヒト線維肉腫細胞株HT1080細胞などをほとんど認識できない。そのため、MS-1抗体で治療対象となるがんの種類は限定的である。新たに創製したPG4D1抗体とPG4D2抗体を用い、MS-1抗体が認識できないUM-UC-5細胞、HT1080細胞表面に発現しているAggrusを認識できるか検討を行った。UM-UC-5細胞、HT1080細胞を、PG4D1抗体とPG4D2抗体を一次抗体として用い、二次抗体としてAlexa488標識された抗マウスIgG抗体を用いFACSにより解析した。その結果、PG4D1抗体、PG4D2抗体は、MS−1抗体では認識することのできなかったUM-UC-5細胞、HT1080細胞をも認識できることが確認された(図7C)。
【実施例9】
【0082】
新規PLAG4ドメインを認識する抗ヒトAggrusモノクローナル抗体の認識部位の検討と反応性
実施例8(図7A参照)では、大腸菌に発現させたヒトAggrusタンパク質に対する反応性を検討した。その結果、図7Aの下段に示すように、PG4D1抗体とPG4D2抗体の認識する領域は、白抜き文字で示した77番目から84番目までのペプチド部分(配列:Gly Ile Arg Ile Glu Asp Leu Pro)であることが示されていた。そこで、哺乳類細胞に発現させた糖鎖を含むAggrusに対する認識能とその認識部位を確認するために、CHO細胞に導入したAggrus野生型、Aggrus変異体タンパク質、Aggrus欠失変異体タンパク質の細胞溶解液をサンプルとして用い、ウェスタンブロット法により、PG4D1抗体、PG4D2抗体の反応性を検討した。
【0083】
その結果、図8Aに示すように、PG4D1抗体とPG4D2抗体は、PLAG4ドメインに相当する81番目から85番目の5アミノ酸を欠失させたAggrus変異体を認識しないことが確認された。また、図8Bに示すように、PG4D1抗体はPLAG4ドメイン中の82番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したD82A‐Aggrus変異体を認識しないのに対し、PG4D2抗体はD82A-Aggrus変異体を弱く認識することが確認された。これは図7Aで示した大腸菌に発現させたヒトAggrusタンパク質に対する反応性を調べた結果でもPG4D2抗体はD82A‐Aggrus変異体を弱く認識する事実に符合していた。なお、泳動した細胞溶解液中のタンパク質濃度が同じであることは、α‐tubulinを認識する抗体を用いたウェスタンブロット分析の結果(図8A、8B)からも明らかである。
【0084】
実施例8(図7B参照)では、非特異的な結合か否かの検討が行われていなかったため、PG4D1抗体(サブクラスはマウスIgG1)とPG4D2抗体(サブクラスはマウスIgG2a)のヒトAggrusへの反応性を表面プラズモン共鳴解析装置Biacore X100(GE Healthcare社製)を用いて検討する際に、コントロールマウスIgG1(シグマ社製)、コントロールマウスIgG2a(シグマ社製)も比較対象として加えて検討を行った(図8C、8D)。具体的には、カルボキシメチルデキストランコート処理が施されたセンサーチップCM5上にアミンカップリング法にて市販の精製組換えAggrusタンパク質(ヒトIgG1 Fcタグ付きのタンパク質:R&D Systems社製)を固定化し、562.2RU(PG4D1抗体のアッセイ用)相当の固定化量を得た。25度、30μL/分の流速の条件下で、HBS−EP+バッファー(GE Healthcare社製)を流路に満たして測定を行なった。具体的には、コントロールマウスIgG1(Control IgG1)を3.7nM、11.1nM、33.3nM、100nM、300nMに希釈し、Aggrusタンパク質が固定化されたセンサーチップCM5上に60秒間流して結合反応を観察し、引き続きHBS−EP+バッファーを1800秒間流して解離反応を観察した。引き続き、同じセンサーチップCM5を用いてPG4D1抗体を同条件で流して結合反応を観察した。測定により得られたデータを図8Cに示す。
【0085】
次に、562.6RU(PG4D2抗体のアッセイ用)相当の固定化量を得たセンサーチップCM5に対して、最初にコントロールマウスIgG2a(Control IgG2a)、引き続きPG4D2抗体を同条件で流して結合反応を観察した。測定により得られたデータを図8Dに示す。
【0086】
コントロールマウスIgG1とコントロールマウスIgG2aはともにAggrusを固定化したセンサーチップに結合しないことが確認されたのに対し、PG4D1抗体とPG4D2抗体はともに実施例8(図7B参照)と同様な強い結合が確認されたため、PG4D1抗体とPG4D2抗体のAggrus固定化センサーチップへの結合は非特異的な結合ではないことが証明された。また、本アッセイにおけるPG4D1抗体とPG4D2抗体の解離定数(K)も実施例8(図7B参照)と同じ、≦3×10-10Mという値となり、非常に強い結合を示すことが明らかとなった。
【実施例10】
【0087】
PG4D1とPG4D2抗体によるAggrusとCLEC‐2との結合阻害
(1)アルファスクリーン法による検討
非放射性のホモジニアス近接アッセイであるアルファスクリーン(登録商標)法を用いて、本発明で得られたモノクローナル抗体PG4D1、PG4D2のAggrusとCLEC‐2との結合に対する阻害効果を解析した。
【0088】
1ngの精製組換えAggrusタンパク質(ヒトIgG1 Fcタグ付きのタンパク質、R&D Systems社製)と30ngの精製組換えCLEC‐2タンパク質((His)10タグ付きのタンパク質;rCLEC‐2、R&D Systems社製)を96穴プレートに分注し、そこにコントロールマウスIgG1(シグマ社製)、コントロールマウスIgG2a(シグマ社製)、MS-1、PG4D1、PG4D2、6G42A4、9D62D6抗体を最終濃度が12.5μg/mL〜5ng/mLになるように添加した。添加後、26度で1時間反応させ、その後にAlphaLISA Universal Bufferで希釈したNickel Chelate AlphaScreen Donor BeadsとProtein A AlphaLISA Acceptor Beadsを添加し、さらに26度で1時間反応させた後に、Envision(Perkin Elmer社製)を用いて680nmの波長のレーザーで励起した。
【0089】
励起によりDonor Beadsが酸素を一重項状態に変換し、この一重項状態の酸素が近接するアクセプタービーズに含まれる蛍光物質を活性化することで、615 nmの蛍光シグナルが放出される。すなわち、Nickel Chelate AlphaScreen Donor Beadsに結合しているHisタグが付与されているCLEC‐2タンパク質と、Protein A AlphaLISA Acceptor Beadsに結合しているFcタグが付与されている組換えAggrusタンパク質が近接していれば蛍光シグナルが放出される。したがって、この蛍光シグナルを定量することで、AggrusとCLEC‐2の結合状態を定量することが可能となる。
【0090】
抗体無添加時の蛍光シグナル強度を100%とすると、図9Aに示すように、添加したPG4D1抗体、PG4D2抗体、MS-1抗体はすべて濃度依存的にAggrusとCLEC‐2の結合を阻害することが確認された。特にPG4D1抗体とPG4D2抗体はMS-1抗体よりもその阻害活性が強いことが明らかとなった。また、6G42A4、9D62D6抗体にもAggrusとCLEC‐2の結合を阻害する活性は認められたが、その効果はMS-1抗体よりも弱かった(図9B)。
【0091】
この結果は、抗体がエピトープとして認識する領域である77番目のから84番目までのペプチド部分が、CLEC-2とAggrusとの結合に重要であることを示している。また、点変異体を用いた実施例6の解析から、85番目のスレオニンがCLEC−2とAggrusとの結合に重要であることは明らかである。したがって、77番目から85番目までのアミノ酸配列(配列番号1:GIRIEDLPT)が、AggrusとCLEC−2との結合に重要な配列であると結論付けられた。
【0092】
配列番号1で表される領域は、AggrusとCLEC-2との結合に必要な領域であり、さらに、PG4D1抗体、PG4D2抗体が認識する配列番号3(RIEDL)はそのコア領域であると考えられる。したがって、配列番号1、又は配列番号3を含むペプチドを合成し投与すれば、CLEC-2とAggrusの結合を阻害し、CLEC-2とAggrusの結合を阻害できる。CLEC-2とAggrusとの結合を阻害することができれば、血小板凝集を抑制し、がんの進展、転移を抑制することができるので当該領域を有効成分とする医薬組成物となる。
【0093】
競合阻害に必要なペプチドとしては、配列番号1、又は3を含むペプチドであればよいが、ペプチドの合成や作用を考慮するとあまり大きいペプチドではない方が好ましい。具体的には、配列番号1、又は3を含み、これらペプチドより数アミノ酸〜数10アミノ酸程度長い配列のペプチドであることが好ましく、配列番号1又は3のペプチド配列そのものであることがより好ましい。
【0094】
(2)FACS法による検討
PG4D1抗体、PG4D2抗体によるAggrusとCLEC‐2の結合阻害をFACSにより解析した。CHO/Aggrus−WT細胞と、組換えCLEC‐2(rCLEC‐2)との結合を抗Aggrusモノクローナル抗体が阻害するか解析を行った。検出は組換えCLEC‐2のHisタグを認識する抗体を用いて行っている。
【0095】
具体的には、CHO/Aggrus−WT細胞を培養容器から回収し、PBSで洗浄した後に1.5×10 cells/mlの細胞密度に調製した。100μLの反応溶液に、マウスコントロールIgG(100μg/mL:w/o rCLEC‐2あるいはrCLEC‐2 aloneのサンプル)、PG4D1抗体(100μg/mL:PG4D1+rCLEC‐2サンプル)、PG4D2抗体(100μg/mL:PG4D2+rCLEC‐2サンプル)、MS-1抗体(100μg/mL:MS-1+rCLEC‐2サンプル)を添加し、30分間氷上で反応させた。次に細胞をPBSで洗浄し、その後哺乳動物細胞から精製した0.4 μg/mL(His)10タグ付き組換えCLEC‐2タンパク質(rCLEC‐2)をw/o rCLEC‐2以外のサンプルに添加し、30分間氷上で反応させた。PBSで洗浄後に、蛍光標識されたHisタグを認識する二次抗体を添加し、氷上でさらに30分間反応させた。最後に、細胞を3回PBSで洗浄した後に、Cytomics FC500で解析を行なった。その結果、図10Aに示すように、PG4D1抗体とPG4D2抗体は、MS-1抗体と同様にrCLEC‐2のAggrus発現細胞への結合を阻害するとともに、その阻害活性はMS-1抗体よりも強いためにピークが大きく左にシフトしていることが確認された。
【0096】
MS-1抗体はPLAG2からPLAG3ドメインにわたる領域を認識するのに対し(図1参照)、PG4D1抗体とPG4D2抗体はPLAG4ドメイン近傍を認識する(図7参照)。そこで、PG4D1抗体あるいはPG4D2抗体がAggrusに結合した際のMS-1抗体のAggrus認識能の変化を検討した。DyLight594標識したMS-1抗体とDyLight594標識したPG4D2抗体を作製した。具体的には、DyLight 594 Microscale Antibody Labeling Kit(ライフテクノロジーズ社製)の説明書に従って、MS-1抗体とPG4D2抗体に蛍光標識した。
【0097】
CHO/Aggrus-WT細胞株を培養容器から回収し、PBSで洗浄した後に1.5×10 cells/mlの細胞密度に調製し、DyLight594標識したMS-1抗体又はDyLight594標識したPG4D2抗体を添加し、30分間氷上で反応させた。一部のサンプルには、DyLight594標識した抗体を添加する際に、無標識のMS-1抗体又はPG4D2抗体を添加した。その後に、細胞を3回PBSで洗浄した後に、Cytomics FC500で解析を行なった。なお、黒く塗りつぶした山は、蛍光標識した抗体の代わりに無標識のコントロールマウス抗体(シグマ社製)を各々の細胞に反応させ、上記と同様な操作を行なった結果である。
【0098】
図10B(一番上のパネル)に示すように、MS-1抗体とPG4D2抗体のDyLight594標識は十分に行われているため、白抜きのピークが黒く塗りつぶした山より右にシフトしていた。DyLight594標識したMS-1抗体のCHO/Aggrus-WT細胞への反応性は、無標識のMS-1抗体を共存させるとその無標識のMS-1抗体の濃度依存的に阻害されるが(図10B左パネル、中段)、無標識のPG4D2抗体を共存させても阻害されなかった(図10B左パネル、下段)。また、DyLight594標識したPG4D2抗体のCHO/Aggrus-WT細胞への反応性は、無標識のPG4D2抗体を共存させるとその無標識のPG4D2抗体の濃度依存的に阻害されるが(図10B右パネル、下段)、無標識のMS-1抗体を共存させても阻害されなかった(図10B右パネル、中段)。よって、MS-1抗体とPG4D2抗体は各々PLAG3とPLAG4ドメインを認識し、そのことによってAggrusとCLEC‐2の結合を阻害していること、言い換えるとPLAG3とPLAG4ドメインは独立してCLEC‐2との結合に関与していることが示唆された。
【0099】
MS-1抗体とPG4D2抗体は、各々PLAG3とPLAG4ドメインを認識してCLEC‐2の結合を阻害しているのであれば、MS-1抗体とPG4D2抗体を併用することで、AggrusとCLEC‐2の結合を完全に阻害できる可能性が考えられた。そこで、その可能性を検証するために、MS-1抗体単独とMS-1抗体に加えPG4D2抗体を併用した際のAggrusとCLEC‐2の結合をFACSにより解析した。CHO/Aggrus−WT細胞と、組換えCLEC‐2(rCLEC‐2)との結合をMS-1抗体とPG4D2抗体が阻害するか解析を行った。検出は組換えCLEC‐2をHisタグを認識する抗体を用いて行っている(図10C)。
【0100】
具体的には、CHO/Aggrus−WT細胞を培養容器から回収し、PBSで洗浄した後に1.5×10 cells/mlの細胞密度に調製した。100μLの反応溶液に、マウスコントロールIgG(100μg/mL:w/o rCLEC‐2あるいはrCLEC‐2 aloneのサンプル)、PG4D2抗体(100μg/mL:PG4D2+rCLEC‐2サンプル)、PG4D2抗体とMS-1抗体(各100μg/mL:PG4D2+MS-1+rCLEC‐2サンプル)を添加し、30分間氷上で反応させた。次に細胞をPBSで洗浄し、その後哺乳動物細胞から精製した0.4 μg/mL(His)10タグ付き組換えCLEC‐2タンパク質(rCLEC‐2)をw/o rCLEC‐2以外のサンプルに添加し、30分間氷上で反応させた。PBSで洗浄後に、蛍光標識されたHisタグを認識する二次抗体を添加し、氷上でさらに30分間反応させた。最後に、細胞を3回PBSで洗浄した後に、Cytomics FC500で解析を行なった。その結果、図10Cに示すように、PG4D2抗体とMS-1抗体を併用することで、PG4D2抗体単独と比較して、rCLEC‐2の結合が強く阻害され、ピークが大きく左にシフトしていることが確認された。
【0101】
したがって、PG4D1抗体あるいはPG4D2抗体が認識するPLAG4ドメインは、PLAG3ドメインとは独立してCLEC‐2との結合に関与していること、PLAG4ドメインを認識する抗体とPLAG3ドメインを認識する抗体を併用することで、より強力なCLEC‐2結合の抑制が見られることが明らかとなった。
【実施例11】
【0102】
Aggrus変異体を用いたPG4D1とPG4D2抗体によるCLEC‐2結合の抑制と血小板凝集の抑制の解析
(1)CLEC‐2との結合の抑制
Aggrusは血小板上のCLEC‐2と結合することで血小板凝集誘導シグナルを伝達する。PG4D1抗体あるいはPG4D2抗体が認識するPLAG4ドメインがCLEC‐2との結合ならびに血小板凝集に直接的に関与していることを解析した。pcDNA3ベクターにPLAG3ドメイン内の48番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したヒトAggrus cDNAを組み込んだプラスミドを導入したCHO細胞(CHO/Aggrus−D48A)を用いて検討した。Aggrus−D48Aを発現する変異体を用いることによって、AggrusのPLAG3ドメインのCLEC‐2に対する結合の関与を考慮する必要がなく、PLAG4ドメインとCLEC‐2との結合を評価することができる。PLAG4ドメインがCLEC‐2とAggrusとの結合に直接的に関与しているかFACSにより解析した。
【0103】
CHO/Aggrus−D48A細胞を培養容器から回収し、PBSで洗浄した後に1.5×10cells/mlの細胞密度に調製した。100μLの反応溶液に、PBS(w/o rCLEC‐2あるいはAdd no antibodyのサンプル)、種々の濃度でPG4D1抗体(図11A左パネル)、PG4D2抗体(図11A右パネル)を添加し、30分間氷上で反応させた。その後に細胞をPBSで洗浄し、哺乳動物細胞から精製した(His)10タグ付き組換えCLEC‐2タンパク質(rCLEC‐2)0.4μg/mLをw/o rCLEC‐2以外のサンプルに添加し、30分間氷上で反応させた。PBSで洗浄後に、蛍光標識されたHisタグを認識する二次抗体を添加し、氷上でさらに30分間反応させた。最後に、細胞を3回PBSで洗浄した後に、Cytomics FC500で解析を行なった。図11Aに示すように、PG4D1抗体あるいはPG4D2抗体を添加することにより、rCLEC‐2のAggrus発現細胞への結合を濃度依存的に阻害するとともに、100μg/mLの濃度で添加した場合にはほぼ完全にrCLEC‐2の結合を阻害することが明らかとなった。よって、PG4D1抗体あるいはPG4D2抗体が認識するPLAG4ドメインがCLEC‐2との結合に直接的に関与していることが明らかとなった。
【0104】
(2)血小板凝集の抑制
次に、血小板凝集抑制試験でPLAG4ドメインのCLEC‐2に対する結合を確認した。具体的には、MCM HEMA TRACER 313を用いた光透過率のモニタリングによるマウス洗浄血小板を用いたin vitro血小板凝集分析を行なった。図11Bに示すように、CHO/Aggrus−D48A細胞は血小板凝集を誘導するが、50ng/mLのPG4D2抗体を添加しておくと血小板凝集が起こらなくなることが観察された(図11B)。また、ここでは示さないがPG4D1抗体を事前に添加しておいても、ほぼ同様な血小板凝集阻害効果が確認された。よって、PG4D1抗体あるいはPG4D2抗体が認識するPLAG4ドメインが血小板凝集に直接的に関与していること、さらに新たに創製された抗体はPLAG4ドメインに結合してそのドメインを覆うことで血小板凝集を阻害する中和抗体であることが明らかとなった。
【0105】
血小板凝集抑制試験で、PLAG4ドメインを認識するPG4D1抗体あるいはPG4D2抗体、PLAG3ドメインを認識するMS-1抗体の差異の検討と、PG4D2抗体とMS‐1抗体の併用効果を検討した。CHO/Aggrus−WT細胞を用い、上記と同様にin vitro血小板凝集分析を行なった。図12Aに示すように、CHO/Aggrus−WT細胞は血小板凝集を誘導するが、10μg/mLのMS-1抗体、PG4D1抗体、PG4D2抗体を添加するとコントロール抗体(Control IgG)添加時に比べて血小板凝集が開始される時間が遅くなることが観察された(図12A)。また、PG4D1抗体とPG4D2抗体の血小板凝集抑制活性はMS‐1抗体の血小板凝集抑制活性よりも強く、そのために凝集開始までの時間が遅延していることが明らかとなった。
【0106】
さらに、CHO/Aggrus−WT細胞依存的な血小板凝集は、10μg/mLのMS‐1抗体と10μg/mLのPG4D2抗体を併用すると、PG4D2抗体単独添加時に比べ、ほぼ完全に血小板凝集を阻害することが確認された(図12B)。よって、PG4D1抗体あるいはPG4D2抗体が認識するPLAG4ドメインとMS-1抗体が認識するPLAG3ドメインの両方が血小板凝集に関与していることが明らかとなった。
【実施例12】
【0107】
PG4D1とPG4D2抗体による肺への血行性転移抑制
ヒトAggrusを発現しているCHO細胞をヌードマウスの尾静脈より導入すると、約20日後に肺転移結節を形成することが知られている。また、本発明者らは、Aggrus依存的な肺転移はMS-1抗体により抑制されることをすでに開示している(特許文献2)。そこで、細胞移植1日前に、本発明の抗Aggrus抗体を投与することにより、Aggrus依存的な血行性転移を阻害するか解析した。
【0108】
6週齢の雌性BALB/c−nuヌードマウス(チャールズリバージャパンより購入)を用いて解析を行った。腫瘍細胞であるCHO/Aggrus−WT細胞移植1日前に、マウス尾静脈より、10μg/マウスの用量でコントロールマウス抗体(シグマ社製)、MS−1抗体、PG4D1抗体、又はPG4D2抗体を投与した。翌日、CHO/Aggrus−WT細胞を培養容器から回収し、PBSで洗浄した後に2.5×10cells/mlの細胞密度に調製し、100μL/マウスで尾静脈より移植した。図13に示されるように、PG4D1抗体とPG4D2抗体を腫瘍移植前日に投与することにより、MS−1抗体を腫瘍移植前日投与した場合と同様にCHO/Aggrus−WT細胞の肺転移が顕著に抑制された。したがって、PG4D1抗体とPG4D2抗体はAggrus中和活性があるだけでなく、Aggrus依存的な血行性転移を強く抑制することが示された。
【0109】
同様の検討を各抗体のサブクラスが一致しているアイソタイプマッチなコントロール抗体を用いて行った。また本検討では、5週齢の雌性BALB/c−nuヌードマウス(チャールズリバージャパンより購入)を各群8匹用いて行った。腫瘍細胞であるCHO/Aggrus−WT細胞移植1日前に、マウス尾静脈より、10μg/マウスの用量でコントロールマウスIgG1(Control IgG1、シグマ社製)、コントロールマウスIgG2a(Control IgG2a、シグマ社製)、PG4D1抗体、PG4D2抗体、MS−1抗体を投与した。翌日、CHO/Aggrus−WT細胞を培養容器から回収し、PBSで洗浄した後に2.5×10cells/mlの細胞密度に調製し、100μL/マウスで尾静脈より移植した。19日後に肺を摘出し解析した。図14Aに示すようにピクリン酸を用いた染色後の写真を撮るとともに、肺表面の転移結節数のカウントを行った(図14B)。PG4D1抗体とPG4D2抗体を腫瘍移植前日に投与することにより、MS−1抗体の場合と同様にCHO/Aggrus−WT細胞の肺転移が各アイソタイプマッチなコントロール抗体投与群と比較して、有意に抑制される(**,P<0.01)ことが確認された。
【0110】
したがって、PG4D1抗体とPG4D2抗体はAggrus依存的な血小板凝集を中和する活性があるだけでなく、Aggrus依存的な血行性転移を強く抑制することが示された。血小板凝集は、がん細胞の転移ニッチの形成(転移微小環境の形成)に関わることが報告されており、このことからPG4D1抗体とPG4D2抗体は転移に関わるニッチ形成の阻害効果があるものと考えられる。さらに血小板は原発巣における腫瘍増殖にも関わっていることが明らかとなっているため、転移がんの転移臓器内での増殖をPG4D1抗体とPG4D2抗体が抑制することで転移抑制効果を発揮していることが示唆される。
【実施例13】
【0111】
PLAG4ドメイン認識抗体PG4D2がLC-SCC-015細胞の肺転移を抑制する効果の実証
本発明者らが樹立したヒト肺扁平上皮がん細胞株LC-SCC-015を、5週齢の雄性CB-17 SCIDマウス(チャールズリバージャパンより購入)に各群3匹移植して行った。具体的には、腫瘍細胞であるLC-SCC-015細胞移植1日前に、マウス尾静脈より、30μg/マウスの用量でコントロールマウスIgG2a(Mouse IgG2a、シグマ社製)、PG4D2抗体を投与した。翌日、LC-SCC-015細胞を培養容器から回収し、PBSで洗浄した後に2.5×10cells/mlの細胞密度に調製し、100μL/マウスで尾静脈より移植した。31日後に肺を摘出し、ピクリン酸を用いた染色後に肺表面の転移結節数のカウントを行った(図15)。PG4D2抗体を腫瘍移植前日に投与すると、コントロールマウスIgG2a抗体投与群と比較しても有意に肺転移を抑制することが確認された(*, P<0.05)。
【0112】
PG4D2抗体はAggrus依存的な血小板凝集を中和する活性があるだけではなく、樹立したヒト肺扁平上皮がん細胞株LC-SCC-015の肺転移においてもAggrus依存的な血小板凝集が血行性肺転移に関与していることが確認された。PG4D2抗体はAggrus依存的な血行性転移を強く抑制することによりLC-SCC-015細胞の肺転移を抑制していることが示された。
【0113】
血小板凝集は、がん細胞の転移ニッチの形成(転移微小環境の形成)に関わることが報告されている。このことから、PG4D2抗体は転移に関わるニッチ形成の阻害効果もあるものと考えられる。さらに血小板は原発巣における腫瘍増殖にも関わっていることが明らかとなっているため、転移がんの転移臓器内での増殖をPG4D2抗体が抑制することで転移抑制効果を発揮していることも示唆される。
【実施例14】
【0114】
PLAG4ドメイン認識抗体PG4D2によるPC-10細胞の腫瘍増殖を抑制する効果の検証
ヒト肺扁平上皮がん細胞株PC-10を、5週齢の雄性NOD SCIDマウス(NOD.CB17-Prkdcscid/J;チャールズリバージャパンより購入)に各群4または5匹に移植した。PC-10細胞移植後11日後の腫瘍体積がほぼ80 mm前後となった時点で、各群の腫瘍体積の平均がほぼ均等となるようにマウスを振り分けた。その後、マウス尾静脈より、コントロールマウスIgG2a(Control IgG2a、シグマ社製)を200 μg/mouse(n=5)、PG4D2抗体を100 μg/mouse(n=4)、MS-1抗体を100 μg/mouse(n=5)、PG4D2抗体とMS-1抗体を各100 μgで合計200 μg/mouse(n=4)の用量で投与した。抗体投与開始日を0日とし、その後の3、7、10、14、17、21、24日に同量の抗体投与を行った。
【0115】
図16に示すように、PG4D2抗体あるいはMS-1抗体を投与した群は、コントロールマウス抗体投与群に比較して腫瘍増殖が抑制された。その傾向はPG4D2抗体とMS-1抗体を併用した場合も同様であった。また、併用による腫瘍抑制効果の増強がわずかに認められた。なお、PG4D2抗体を投与した群(PG4D2抗体投与群とPG4D2抗体とMS-1抗体の併用群)では、各群1匹ずつで腫瘍の完全な退縮が認められたが、これはPC-10細胞の特異性あるいはマウスの個体差によるものである可能性も考慮し、腫瘍体積の平均値などの算出には加えていない。ただ、PG4D2抗体を投与した群のみ腫瘍退縮が認められたことは、PG4D2抗体にはMS-1抗体とは異なる強い抗腫瘍効果がある可能性もある。
【0116】
ここでは、重度複合免疫不全マウスであるNOD SCIDマウスを使用して検討している。実施例12で使用したヌードマウスや実施例13で使用したSCIDマウスは、T細胞とB細胞が欠如しているマウスであるのに対し、NOD SCIDマウスはT細胞とB細胞が欠如しているだけでなく、NK活性も低下している。したがって、NOD SCIDマウスを用いた実施例14の実験で認められたAggrus中和抗体の抗腫瘍効果は、抗体のADCC活性やCDC活性に依存しているものではないと考えられる。ここで用いたPLAG3、PLAG4ドメインを認識する抗体は、Aggrusの血小板凝集誘導活性を中和することで血小板からの各種増殖因子の遊離を阻害し、その結果増殖阻害を引き起こしていることが示唆された。よって、PG4D2抗体は直接的にPC-10細胞を殺しているのではなく、間接的に増殖因子を枯渇させることで原発巣の腫瘍増殖を抑制していることが示唆された。すなわち、PLAG4ドメインを認識する抗体は、実施例12及び実施例13で示したように血行性転移を抑制するだけでなく、原発巣の腫瘍増殖も抑制することが示された。
【実施例15】
【0117】
ヒト‐マウスキメラ化PG4D2抗体によるAggrus中和活性の検討
PG4D2抗体の抗原認識部位を遺伝子クローニングし、ヒトIgG4のFc部位をコードする遺伝子と連結することでIgG4タイプのヒト‐マウスキメラ化PG4D2抗体(Ch.PG4D2-IgG4SP)を、ヒトIgG1のFc部位をコードする遺伝子と連結することでIgG1タイプのヒト‐マウスキメラ化PG4D2抗体(Ch.PG4D2-IgG1)を作製した。
【0118】
図17Aは、CHO/Aggrus-WT細胞を用い、実施例2と同様に、各抗体のAggrusへの反応性を検討した結果を示す。左パネルは、CHO/Aggrus-WT細胞とキメラ化していないマウス抗体であるPG4D2抗体を図中に示してある濃度で反応させ、PBSでの洗浄後に2次抗体としてAlexa488標識抗マウスIgG(anti-mouse IgG-Alexa488)を反応させた結果を示している。中央パネルは、CHO/Aggrus-WT細胞をIgG4タイプのヒト‐マウスキメラ化PG4D2抗体(Ch.PG4D2-IgG4SP)を図中に示してある濃度で反応させ、PBSでの洗浄後に2次抗体としてAlexa488標識抗ヒトIgG(anti-human IgG-Alexa488)を反応させた結果を示している。右パネルは、CHO/Aggrus-WT細胞をIgG1タイプのヒト‐マウスキメラ化PG4D2抗体(Ch.PG4D2-IgG1)を図中に示してある濃度で反応させ、PBSでの洗浄後に2次抗体としてAlexa488標識抗ヒトIgGを反応させた結果を示している。キメラ化したCh.PG4D2-IgG4SPとCh.PG4D2-IgG1は、ともにAggrusへ反応性を示していることが確認された。
【0119】
図17Bは、実施例10と同様に、AggrusとCLEC-2の結合阻害をFACSにより解析した結果を示す。キメラ化していないマウス抗体であるPG4D2抗体(図17B上)、IgG4タイプのヒト‐マウスキメラ化PG4D2抗体(Ch.PG4D2-IgG4SP)(図17B下左)、IgG1タイプのヒト‐マウスキメラ化PG4D2抗体(Ch.PG4D2-IgG1)(図17B下右)を用いてアッセイを行った。なお、各アッセイにおいては、種及び抗体のサブクラスが同じ抗体をコントロール抗体として用いた。具体的には。Control mouse IgG2a(シグマ社製)、Control human IgG4(シグマ社製)、Control human IgG1(シグマ社製)を用いた。
【0120】
その結果、 IgG4タイプのヒト‐マウスキメラ化PG4D2抗体(Ch.PG4D2-IgG4SP)は元のキメラ化していないマウス抗体であるPG4D2抗体とほぼ同等なAggrus中和活性を示すが、IgG1タイプのヒト‐マウスキメラ化PG4D2抗体(Ch.PG4D2-IgG1)はAggrus中和活性が少し弱かった。そのため、Ch.PG4D2-IgG1は、CLEC-2との結合阻害に元のPG4D2抗体よりも多くの抗体量を必要としたが、Ch.PG4D2-IgG1を60 μg/mLで反応させればrCLEC-2のAggrusへの結合を十分に阻害できた。
【実施例16】
【0121】
骨肉腫組織切片を用いたPG4D1抗体とPG4D2抗体を用いた免疫染色
US Biomax社より、Bone and cartilage malignant tumor tissue microarray, containing 4 cases of malignant tumor (2 each of chondrosarcoma, osteosarcoma and Ewing’s sarcoma), quadruple cores per case(製品番号T264a)を購入し、常法に従いHE染色を行った(図18A)。
【0122】
このTissue arrayには、軟骨肉腫(Chondrosarcoma)、骨肉腫(Osteosarcoma)、ユーイング肉腫(Ewing’s Sarcoma)の組織サンプルが各2症例ずつ、1症例4つの切片と、組織マーカーとして褐色細胞腫(Pheochromocytoma)が配置されており、病期等が異なる患者の腫瘍組織でのタンパク質発現を免疫染色により解析することが可能である。このスライドに載っている骨肉腫2症例において、D2−40、PG4D1、PG4D2の免疫染色法による骨肉腫認識能を検討した。
【0123】
一次抗体としてD2-40抗体(DAKO社:製品番号M3619、Anti-podoplanin mouse monoclonal antibody)、PG4D1抗体(5 mg/ml)、PG4D2抗体(5 mg/ml)を用いて免疫染色を以下の方法にて行った。具体的には、脱パラフィン後に水洗し、0.3%過酸化水素水/メタノールに室温で10分間浸し、PBSにて5分間洗浄することを3回繰り返した。その後にブロッキングワンP(ナカライテスク社製 #05999-84)に室温で15分間浸したのちにPBSにて5分間洗浄した。その後に一次抗体としてD2-40抗体を使用する場合はPBSで1/100希釈したものを4度で16時間反応させた。一次抗体としてPG4D1あるいはPG4D2抗体を使用する場合はPBSで1/1000希釈したもの(最終抗体濃度5 μg/ml)を4度で16時間反応させた。D2-40抗体は、培養上清であるためにグラム換算が困難であることから、下記に示すようにコントロール組織での染色度合いがすべての抗体で同等となるような抗体濃度を選択して染色を行っている。PBSにて5分間洗浄することを3回繰り返した後に、二次抗体としてOne-Step Polymer-HRP(BioGenex社製 #HK595-50K)に室温で15分間反応させた。PBSにて5分間洗浄することを3回繰り返した後に、DAB(商品名Super Sensitive DAB (Ready to use)、BioGenex社製 #HK542-XAK)にて5分間発色させた。水洗した後に核をマイヤーヘマトキシリン溶液(武藤化学株式会社製 #3000-2)に1分間漬けることで対比染色し、その後に水洗、脱水、透徹、封入を常法に従い行った。
【0124】
Tissue arrayであるT264aスライドには、上述のように骨肉腫2症例の腫瘍組織が載っており、図18Aに示すA3とA6の腫瘍組織は1番目の骨肉腫症例(10歳男性)であり、B1とB4の腫瘍組織は2番目の骨肉腫症例(21歳女性)に由来している。図18Bに示すように、D7に位置するコントロール腫瘍組織(Pheochromocytoma)への染色度合いがほぼ一致している染色度合いで比較すると、PG4D1抗体とPG4D2抗体を用いた免疫染色の染色度合いはD2-40抗体の染色度合いと比較してよく染まっており、PG4D1抗体とPG4D2抗体はD2-40抗体よりも骨肉腫認識能が高いことがわかる。したがって、少なくとも骨肉腫の増殖阻害薬・転移阻害薬として有用であることが示唆される。
【0125】
mRNAではAggrusの発現が確認できるにもかかわらず、抗体では検出されないことがあり、Aggrus抗体の治療への応用が限定的なものであることが懸念されていた。例えば、本発明者らは、MS-1抗体が認識できないヒト膀胱扁平上皮がん細胞株UM-UC-5細胞や、ヒト線維肉腫細胞株HT1080細胞をPG4D1抗体、PG4D2抗体が認識することを示している(図7C)。がんの種類等によって、Aggrusを認識できる場合とできない場合の機序は不明であるが、PG4D1抗体、PG4D2抗体は少なくともここで示した骨肉腫、細胞株を用いた実験系で結合が検証されている膀胱扁平上皮がん、線維肉腫、肺扁平上皮がんでは治療への適用が可能であると考えられる。
【0126】
以上示してきたように、配列番号1により表される領域に結合する抗Aggrus抗体は、AggrusとCLEC-2との結合を阻害し、血小板凝集を抑制し、がんの進展、転移を抑制する。さらに、この領域とCLEC-2との結合を指標として、CLEC-2との結合を阻害する医薬をスクリーニングすることが可能となる。
【0127】
受託番号
NITE BP−03041
NITE BP−03042
【0128】
寄託機関の名称 NPMD (独)製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)
寄託機関のあて名 日本国 〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室
寄託の日付 2015年06月25日(25.06.2015)
受託番号 NPMD NITE P−02071
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
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