特許第6803844号(P6803844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6803844低粘度のポリアリーレンスルフィドを形成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803844
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】低粘度のポリアリーレンスルフィドを形成する方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/0281 20160101AFI20201214BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C08G75/0281
   C08J3/12 ZCEZ
【請求項の数】18
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-543395(P2017-543395)
(86)(22)【出願日】2016年2月9日
(65)【公表番号】特表2018-505949(P2018-505949A)
(43)【公表日】2018年3月1日
(86)【国際出願番号】US2016017079
(87)【国際公開番号】WO2016133738
(87)【国際公開日】20160825
【審査請求日】2019年1月15日
(31)【優先権主張番号】62/117,988
(32)【優先日】2015年2月19日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/197,634
(32)【優先日】2015年7月28日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/206,124
(32)【優先日】2015年8月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500100822
【氏名又は名称】ティコナ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】ネッカンティ,ベンカタ・エム
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ヘンドリヒ・エイ
(72)【発明者】
【氏名】グレイソン,ジェイコブ
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−225931(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/008340(WO,A1)
【文献】 特開平03−109427(JP,A)
【文献】 特開平09−328551(JP,A)
【文献】 特開平08−283413(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/145424(WO,A1)
【文献】 特表2003−516846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00−75/32
C08J 3/00−3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄されたポリアリーレンスルフィドを製造する方法であって、当該方法は、ポリアリーレンスルフィドのスラリーを洗浄溶液と、容器内で接触させることを含み、当該容器において、ポリアリーレンスルフィドの当該スラリーが、当該スラリーの固形物が重力流によってスラリー入口から固形物出口に流れるように配置された当該スラリー入口で当該容器に入り、そして、当該洗浄溶液が、液体入口で当該容器に入り、当該固形物の重力流に対する対向流として、当該スラリー入口の上部にある液体出口へ流れ、
洗浄溶液は約30重量%〜約70重量%の水及び約30重量%〜約70重量%の非プロトン性有機溶媒を含み、当該洗浄されたポリアリーレンスルフィドは、約0.5重量%〜約2重量%のオリゴマー含量、並びにISO試験11443:2005にしたがって1200秒−1の剪断速度及び310℃の温度において測定して約2,350ポアズ以下の溶融粘度を有する、前記方法。
【請求項2】
非プロトン性有機溶媒はN−メチルピロリドンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
洗浄溶液は約8.0〜約13.5のpHレベルを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
洗浄溶液はアセトンを概して含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
洗浄溶液は約15℃〜約120℃の温度である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ポリアリーレンスルフィドの当該スラリーを、沈降カラム内において洗浄溶液と接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
洗浄されたポリアリーレンスルフィドは約1.2重量%〜約1.6重量%のオリゴマー含量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
洗浄されたポリアリーレンスルフィドは、ISO試験11443:2005にしたがって1200秒−1の剪断速度及び310℃の温度において測定して約1,000〜約2,280ポアズの溶融粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
洗浄されたポリアリーレンスルフィドは約200℃以下の結晶化温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
洗浄されたポリアリーレンスルフィドは約4.3以下の多分散指数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
洗浄されたポリアリーレンスルフィドは約30,000〜約60,000ダルトンの重量平均分子量を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
洗浄されたポリアリーレンスルフィドは約8,000〜約12,500ダルトンの数平均分子量を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
洗浄されたポリアリーレンスルフィドは線状ポリフェニレンスルフィドである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
洗浄されたポリアリーレンスルフィドを更なる洗浄溶液と接触させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
更なる洗浄溶液は水を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
洗浄溶液と接触させた後に、洗浄されたポリアリーレンスルフィドを乾燥することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ポリアリーレンスルフィドを洗浄するためのシステムであって、
ポリフェニレンスルフィドのスラリー;
約40重量%〜約60重量%の水及び約40重量%〜約60重量%のN−メチルピロリ
ドンを含む洗浄溶液;並びに
沈降カラムであって、ポリアリーレンスルフィドの当該スラリー及び当該洗浄溶液を受容し、当該カラムにおいて、ポリアリーレンスルフィドの当該スラリーが、当該スラリーの固形物が重力流によってスラリー入口から固形物出口に流れるように配置された当該スラリー入口で当該カラムに入り、そして、当該洗浄溶液が、液体入口で当該カラムに入り、当該固形物の重力流に対する対向流として、当該スラリー入口の上部にある液体出口へ流れるように構成されている沈降カラム;
を含む、前記システム。
【請求項18】
一連の複数の沈降カラムを含む、請求項17に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本出願は、2015年2月19日出願の米国仮出願62/117,988;2015年7月28日出願の62/197,634;及び2015年8月17日出願の62/206,124(これらはそれらの全部を参照として本明細書中に包含する)に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
[0002]ポリアリーレンスルフィドは、高い熱的、化学的、及び機械的ストレスに耐えることができ、広範囲の用途において有益に用いられている高性能ポリマーである。ポリアリーレンスルフィドは、一般に、有機アミド溶媒中において、アルカリ金属スルフィド又はアルカリ金属ヒドロスルフィドを用いてジハロ芳香族モノマーを重合することによって形成される。形成の後、ポリアリーレンスルフィドを洗浄して、溶媒、未反応のモノマー、及び他の不純物からポリマーを分離する。多くの従来の洗浄溶液は、ポリアリーレンスルフィドから反応溶媒及び相当量の部分重合オリゴマーを速やかに除去するために、アセチル化合物(即ちアセトン)を用いることに依拠している。残念なことに、かかるアセチル溶液で洗浄したポリアリーレンスルフィドは、一般に望ましくない残留量の悪臭化合物を含む傾向がある。更に、多くの代わりの有機溶媒は、それらが、ポリマーの溶融粘度が実質的に増加するような大きな程度までオリゴマーを可溶化する傾向がある点で問題である。したがって、現時点において、得られるポリアリーレンスルフィドの溶融粘度に対して大きな悪影響を与えない改良された洗浄技術に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0003】
[0003]本発明の一態様によれば、ポリアリーレンスルフィドを形成する方法が開示される。この方法は、ポリアリーレンスルフィドのスラリーを洗浄溶液と接触させることを含み、洗浄溶液は約30重量%〜約70重量%の水及び約30重量%〜約70重量%の非プロトン性有機溶媒を含む。ポリアリーレンスルフィドは、約0.5重量%〜約2重量%のオリゴマー含量、及びISO試験11443:2005にしたがって1200秒−1の剪断速度及び310℃の温度において測定して約2,350ポアズ以下の溶融粘度を有する。
【0004】
[0004]本発明の他の態様によれば、ポリフェニレンスルフィドのスラリー、約40重量%〜約60重量%の水及び約40重量%〜約60重量%のN−メチルピロリドンを含む洗浄溶液、並びにポリアリーレンスルフィドのスラリー及び洗浄溶液を受容するように構成されている沈降カラムを含む、ポリアリーレンスルフィドを洗浄するためのシステムが開示される。
【0005】
[0005]本発明は、以下の図面を参照してより良好に理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】[0006]図1は、本発明において用いることができる沈降カラムの一態様を示す。
図2】[0007]図2は、スラリー入口における図1の沈降カラムの中央部分の断面上面図を示す。
図3】[0008]図3は、本発明において用いることができる沈降カラムの中央部分の縦断面形状の幾つかの異なる態様を示す。
図4】[0009]図4は、本発明において用いることができる洗浄システムの一態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[00010]本議論は代表的な態様のみの記載であり、本発明のより広い形態を限定することは意図しないことが当業者によって理解される。
[00011]一般的に言えば、本発明は、注意深く制御された溶媒内容物を含む洗浄溶液を用いてポリアリーレンスルフィドを洗浄する方法に関する。より詳しくは、洗浄溶液は、通常は、約30重量%〜約70重量%、幾つかの態様においては約35重量%〜約65重量%、幾つかの態様においては約40重量%〜約60重量%の量の水(例えば脱イオン水)を含む。洗浄溶液はまた、約30重量%〜約70重量%、幾つかの態様においては約35重量%〜約65重量%、幾つかの態様においては約40重量%〜約60重量%の量の非プロトン性有機溶媒も含む。本発明者らは、このような注意深く制御された範囲内においては、ポリアリーレンスルフィドは比較的高いオリゴマー含量を維持することができ、それによって溶融粘度を最小にするのを助けることを見出した。オリゴマー含量は、例えば、約0.5重量%〜約2重量%、幾つかの態様においては約0.8重量%〜約1.8重量%、幾つかの態様においては約1.2重量%〜約1.6重量%の範囲であってよい。本ポリアリーレンスルフィドはまた、ISO試験11443:2005にしたがって1200秒−1の剪断速度及び310℃の温度において測定して約2,350ポアズ以下、幾つかの態様においては約2,300ポアズ以下、幾つかの態様においては約1,000〜約2,280ポアズの溶融粘度を有することができる。更に、本ポリアリーレンスルフィドの結晶化温度も比較的低く、例えば約200℃以下、幾つかの態様においては約195℃以下、幾つかの態様においては約140℃〜約190℃に維持することができる。
【0008】
[00012]また、本ポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は、約30,000〜約60,000ダルトン、幾つかの態様においては約35,000ダルトン〜約55,000ダルトン、幾つかの態様においては約40,000〜約50,000ダルトンであってよい。本発明者らは、驚くべきことに、低い分子量を有する一方で、多分散指数(重量平均分子量を数平均分子量で割った値)も比較的低く、したがって狭い粒径分布を有する粒子により容易に成形されるポリマーが得られることを見出した。例えば、本ポリアリーレンスルフィドの多分散指数は、約4.3以下、幾つかの態様においては約4.1以下、幾つかの態様においては約2.0〜約4.0であってよい。本ポリアリーレンスルフィドの数平均分子量は、例えば、約8,000〜約12,500ダルトン、幾つかの態様においては約9,000ダルトン〜約12,500ダルトン、幾つかの態様においては約10,000〜約12,000ダルトンであってよい。
【0009】
[00013]ここで、下記において本発明の種々の態様をより詳細に記載する。
I.ポリアリーレンスルフィド:
[00014]ポリアリーレンスルフィドは、一般に式:
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、
Ar、Ar、Ar、及びArは、独立して6〜18個の炭素原子のアリーレン単位であり;
W、X、Y、及びZは、独立して、−SO−、−S−、−SO−、−CO−、−O−、−C(O)O−、又は1〜6個の炭素原子のアルキレン若しくはアルキリデン基から選択される二価の連結基であり、連結基の少なくとも1つは−S−であり;そして、
n、m、i、j、k、l、o、及びpは、独立して、0、1、2、3、又は4であり、但しこれらの合計は2以上である)
の繰り返し単位を有する。
【0012】
[00015]アリーレン単位のAr、Ar、Ar、及びArは、選択的に置換又は非置換であってよい。有利なアリーレン単位は、フェニレン、ビフェニレン、ナフチレン、アントラセン、及びフェナントレンである。ポリアリーレンスルフィドは、通常は約30モル%より多く、約50モル%より多く、又は約70モル%より多いアリーレンスルフィド(−S−)単位を含む。一態様においては、ポリアリーレンスルフィドは、少なくとも約85モル%の、2つの芳香環に直接結合しているスルフィド連結基を含んでいてよい。1つの特定の態様においては、ポリアリーレンスルフィドは、本発明においてその成分としてフェニレンスルフィド構造:−(C−S)−(式中、nは1以上の整数である)を含むものとして定義されるポリフェニレンスルフィドである。
【0013】
[00016]ポリアリーレンスルフィドはホモポリマー又はコポリマーであってよい。例えば、ジハロ芳香族化合物の選択的な組み合わせによって、2以上の異なる単位を含むポリアリーレンスルフィドコポリマーを形成することができる。例えば、p−ジクロロベンゼンをm−ジクロロベンゼン又は4,4’−ジクロロジフェニルスルホンと組み合わせて用いる場合には、式:
【0014】
【化2】
【0015】
の構造を有するセグメント、及び式:
【0016】
【化3】
【0017】
の構造を有するセグメント、又は式:
【0018】
【化4】
【0019】
の構造を有するセグメントを含むポリアリーレンスルフィドコポリマーを形成することができる。
[00017]1種類又は複数のポリアリーレンスルフィドは、線状、半線状、分岐、又は架橋型であってよい。線状ポリアリーレンスルフィドは、通常は80モル%以上の繰り返し単位:−(Ar−S)−を含む。かかる線状ポリマーはまた、少量の分岐単位又は架橋単位を含んでいてもよいが、分岐又は架橋単位の量は通常はポリアリーレンスルフィドの全モノマー単位の約1モル%未満である。線状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、上記に記載の繰り返し単位を含むランダムコポリマー又はブロックコポリマーであってよい。また、半線状ポリアリーレンスルフィドは、3つ以上の反応性官能基を有する少量の1種類以上のモノマーをポリマー中に導入した架橋構造又は分岐構造を有していてよい。
【0020】
[00018]一般に、ポリアリーレンスルフィドを合成するために種々の技術を用いることができる。例として、ポリアリーレンスルフィドを製造するプロセスには、ヒドロスルフィドイオンを与える材料(例えばアルカリ金属硫化物)を、有機アミド溶媒中でジハロ芳香族化合物と反応させることを含めることができる。アルカリ金属硫化物は、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、又はこれらの混合物であってよい。アルカリ金属硫化物が水和物又は水性混合物である場合には、アルカリ金属硫化物を、重合反応の前に脱水操作によって処理することができる。アルカリ金属硫化物はまた、in situで生成させることもできる。更に、少量のアルカリ金属水酸化物を反応中に含ませて、アルカリ金属硫化物と共に非常に少量で存在する可能性があるアルカリ金属ポリスルフィド又はアルカリ金属チオスルフェートのような不純物を除去するか又は(例えばかかる不純物を無害の材料に変化させるために)反応させることができる。
【0021】
[00019]ジハロ芳香族化合物は、限定なしに、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、又はジハロジフェニルケトンであってよい。ジハロ芳香族化合物は、単独か又はその任意の組合せのいずれかで用いることができる。具体的な代表的ジハロ芳香族化合物としては、限定なしに、p−ジクロロベンゼン;m−ジクロロベンゼン;o−ジクロロベンゼン;2,5−ジクロロトルエン;1,4−ジブロモベンゼン;1,4−ジクロロナフタレン;1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン;4,4’−ジクロロビフェニル;3,5−ジクロロ安息香酸;4,4’−ジクロロジフェニルエーテル;4,4’−ジクロロジフェニルスルホン;4,4’−ジクロロジフェニルスルホキシド;及び4,4’−ジクロロジフェニルケトン;を挙げることができる。ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素であってよく、同じジハロ芳香族化合物中の2つのハロゲン原子は、同一か又は互いと異なっていてよい。一態様においては、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、又はこれらの2以上の化合物の混合物をジハロ芳香族化合物として用いる。当該技術において公知なように、ポリアリーレンスルフィドの末端基を形成するか、或いは重合反応及び/又はポリアリーレンスルフィドの分子量を調節するために、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物ではない)をジハロ芳香族化合物と組み合わせて用いることもできる。
【0022】
[00020]決して必須ではないが、ポリアリーレンスルフィドは、幾つかの態様においては少なくとも2つの別々の形成段階を含む多段階プロセスで形成することができる。形成プロセスの1つの段階には、有機アミド溶媒の加水分解生成物及び硫化水素アルカリ金属を含む複合体を、ジハロ芳香族モノマーと反応させてプレポリマーを形成することを含めることができる。プロセスの他の段階には、プレポリマーを更に重合して最終生成物を形成することを含めることができる。場合によっては、本方法には、有機アミド溶媒とアルカリ金属硫化物を反応させて複合体を形成する更に他の段階を含めることができる。所望の場合には、異なる段階は異なる反応器内で行うことができる。複数の段階のそれぞれに関して別々の反応器を用いることによって、全サイクル時間を、単一反応器システムにおけるように全段階の合計ではなく、最も遅い段階のものに等しくすることができるので、サイクル時間を減少させることができる。更に、別々の反応器を用いることによって、単一反応器システムにおいて同じ寸法のバッチに関して必要であろうものよりも小さい反応器を用いることができるので、資本コストを減少させることができる。更に、それぞれの反応器は、その反応器内で行われる段階の仕様を満足することしか必要ではないので、形成プロセスの全ての段階の中で最も厳しいパラメーターを満足する単一の大きな反応器はもはや必要ではなく、これにより資本コストを更に減少させることができる。
【0023】
[00021]例えば一態様においては、少なくとも2つの別々の反応器を用いる多段階プロセスを用いることができる。第1の反応器は、その間に有機アミド溶媒とアルカリ金属硫化物を反応させて、有機アミド溶媒(例えばアルカリ金属有機アミンカルボン酸塩)とアルカリ金属ヒドロスルフィドの加水分解生成物を含む複合体を形成するプロセスの第1段階のために用いることができる。ポリアリーレンスルフィドの形成において用いることができる代表的な有機アミド溶媒としては、限定なしに、N−メチル−2−ピロリドン;N−エチル−2−ピロリドン;N,N−ジメチルホルムアミド;N,N−ジメチルアセトアミド;N−メチルカプロラクタム;テトラメチル尿素;ジメチルイミダゾリジノン;ヘキサメチルリン酸トリアミド、及びこれらの混合物を挙げることができる。アルカリ金属硫化物は、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、又はこれらの混合物であってよい。アルカリ金属硫化物はまた、in situで生成させることもできる。例えば、硫化ナトリウム水和物は、第1の反応器内において、この反応器に供給することができる硫化水素ナトリウム及び水酸化ナトリウムから生成させることができる。硫化水素アルカリ金属とアルカリ金属水酸化物の組み合わせを反応器に供給してアルカリ金属硫化物を形成する場合には、硫化水素アルカリ金属に対するアルカリ金属水酸化物のモル比は約0.80〜約1.50の間であってよい。更に、少量のアルカリ金属水酸化物を第1の反応器中に含ませて、アルカリ金属硫化物と共に非常に少量で存在する可能性があるアルカリ金属ポリスルフィド又はアルカリ金属チオスルフェートのような不純物を除去するか又は(例えばかかる不純物を無害の材料に変化させるために)反応させることができる。
【0024】
[00022]第1の反応器への供給流には、硫化ナトリウム(NaS)(水和形態であってよい)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、及び水を含ませることができる。水、硫化ナトリウム、及びNMPの間の反応によって、下記の反応スキームにしたがって、ナトリウムメチルアミノブチレート(SMAB:NMPの加水分解生成物)、及び硫化水素ナトリウム(NaSH)を含む複合体(SMAB−NaSH)を形成することができる。
【0025】
【化5】
【0026】
[00023]一態様によれば、第1段階反応器内において化学量論的に過剰のアルカリ金属硫化物を用いることができるが、これは形成段階の必須要件ではない。例えば、供給流中におけるイオウに対する有機アミド溶媒のモル比は、約2〜約10、又は約3〜約5であってよく、供給流中におけるイオウ源物質に対する水のモル比は、約0.5〜約4、又は約1.5〜約3であってよい。
【0027】
[00024]複合体の形成中においては、第1の反応器内の圧力は大気圧又はその付近に保持することができる。低圧反応条件を維持するために、反応器から蒸気を取り出すことができる。蒸気の主成分としては、水及び硫化水素副生成物を挙げることができる。蒸気の硫化水素は、例えば凝縮器において分離することができる。かかる凝縮器において分離される水の一部は、反応条件を維持するために反応器に戻すことができる。水の他の部分は、第1段階において形成されるSMAB−NaSH溶液を脱水するためにプロセスから取り出すことができる。例えば、第1の反応器の生成物溶液中のNaSHに対する水のモル比(又はイオウに対する酸素の比)は、約1.5未満にすることができ、或いは約0.1〜約1の間にすることができ、これにより第2段階反応器に供給されるSMAB−NaSH複合体がほぼ無水になるようにすることができる。
【0028】
[00025]形成されたら、SMAB−NaSH複合体は、次にプロセスの第2段階においてポリアリーレンスルフィドプレポリマーを形成するために、ジハロ芳香族モノマー(例えばp−ジクロロベンゼン)及び好適な溶媒と共に第2の反応器に供給することができる。充填するアルカリ金属硫化物の有効量1モルあたりの1種類又は複数のジハロ芳香族モノマーの量は、概して1.0〜約2.0モル、幾つかの態様においては約1.05〜約2.0モル、幾つかの態様においては約1.1〜約1.7モルであってよい。所望の場合には、ジハロ芳香族モノマーは、複合体の硫化水素アルカリ金属に対するジハロ芳香族モノマーの比較的低いモル比で第2の反応器中に充填することができる。例えば、第2の反応器に充填するイオウに対するジハロ芳香族モノマーの比は、約0.8〜約1.5、幾つかの態様においては約1.0〜約1.2であってよい。複合体の硫化水素アルカリ金属に対するジハロ芳香族モノマーの比較的低い比は、縮合重合反応によって最終的な高分子量のポリマーを形成するために好都合である可能性がある。第2段階におけるイオウに対する溶媒の比も、比較的低くてよい。例えば、第2段階における有機アミド溶媒(第2の反応器に加えられる溶媒、及び第1の反応器からの複合体溶液中に残存している溶媒を含む)に対する複合体の硫化水素アルカリ金属の比は、約2〜約2.5であってよい。この比較的低い比によって第2の反応器内の反応物質の濃度を増加させることができ、これによって相対重合速度及び体積あたりのポリマー生産速度を増加させることができる。
【0029】
[00026]第2の反応器には、所望の圧力レベルを維持するために第2段階中において蒸気を取り出すための蒸気出口を含ませることができる。例えば、第2の反応器には当該技術において公知の圧力逃しバルブを含ませることができる。第2段階から取り出される蒸気は凝縮および分離して、反応器に戻すために未反応のモノマーを回収することができる。蒸気の水の一部を取り出して第2段階のほぼ無水の条件を維持することができ、水の一部は第2の反応器に戻すことができる。第2の反応器内の少量の水によって反応器の頂部において還流を形成することができ、これによって反応器内の水相と有機溶媒相との間の分離を向上させることができる。これによって、反応器から取り出される蒸気相中への有機溶媒の損失を最小にし、並びに上記で議論したように高アルカリ性の有機溶媒によって硫化水素を吸収することにより、蒸気流中への硫化水素の損失を最小にすることができる。
【0030】
[00027]第2段階重合反応は、一般に約200℃〜約280℃、又は約235℃〜約260℃の温度で行うことができる。第2段階の継続時間は、例えば約0.5〜約15時間、又は約1〜約5時間であってよい。第2段階重合反応の後は、重量平均分子量:Mによって表されるプレポリマーの平均モル質量は、約500g/モル〜約30,000g/モル、約1000g/モル〜約20,000g/モル、又は約2000g/モル〜約15,000g/モルであってよい。
【0031】
[00028]第2段階重合反応の後は、第2段階反応器から排出される生成物溶液には、プレポリマー、溶媒、及び重合反応の副生成物として形成される1種類以上の塩が含まれる可能性がある。例えば、反応に対する、第2段階反応器から排出されるプレポリマー溶液の、副生成物として形成される塩の割合(体積基準)は、約0.05〜約0.25、又は約0.1〜約0.2であってよい。反応混合物中に含まれる塩には、反応中に副生成物として形成されるもの、及び反応混合物に例えば反応促進剤として加えられる他の塩が含まれる可能性がある。塩は有機又は無機であってよく、即ち有機又は無機カチオンと有機又は無機アニオンの任意の組み合わせから構成されていてよい。これらは、反応媒体中において少なくとも部分的に不溶であってよく、液体反応混合物のものと異なる密度を有していてよい。一態様によれば、第2段階反応器から排出されるプレポリマー混合物中の塩の少なくとも一部を混合物から除去することができる。例えば、塩は、伝統的な分離プロセスにおいて用いられているスクリーン又は篩を用いることによって除去することができる。或いは又は更には、プレポリマー溶液からの塩の分離において、塩/液体抽出プロセスを用いることができる。一態様においては熱濾過プロセスを用いることができ、これにおいては、プレポリマーが溶液中であり、塩が固相中である温度において溶液を濾過することができる。一態様によれば、塩分離プロセスによって、第2の反応器から排出されるプレポリマー溶液中に含まれる塩の約95%以上を除去することができる。例えば、塩の約99%より多くをプレポリマー溶液から除去することができる。
【0032】
[00029]本プロセスの第2段階におけるプレポリマー重合反応及び濾過プロセスに続いて形成の随意的な第3段階を行うことができ、この間に第3の反応器内でプレポリマーの分子量を増加させる。第3の反応器への投入物には、溶媒、1種類以上のジハロ芳香族モノマー、及びイオウ含有モノマーに加えて、第2の反応器からのプレポリマー溶液を含めることができる。例えば、第3段階において加えるイオウ含有モノマーの量は、生成物ポリアリーレンスルフィドを形成するのに必要な全量の約10%以下であってよい。示されている態様においては、イオウ含有モノマーは硫化ナトリウムであるが、これは第3段階の必須要件ではなく、硫化水素アルカリ金属モノマーのような他のイオウ含有モノマーを代わりに用いることができる。
【0033】
[00030]第3の反応の条件はほぼ無水であってよく、イオウ含有モノマーに対する水の比は、約0.2未満、例えば0〜約0.2の間である。本プロセスの第3段階中における低い含水量によって、重合速度及びポリマー収量を増加させ、並びに、これらの条件は上記で議論したように求核芳香族置換に好都合であるので、望ましくない副反応の副生成物の形成を減少させることができる。更に、第3段階における圧力の増加は一般に水の揮発によるものであるので、この段階中における低い含水量によって、第3の反応を一定の比較的低い圧力、例えば約1500kPa未満で行うことを可能にすることができる。したがって、第3の反応器104は高圧反応器である必要はなく、これによって形成プロセスに対して実質的なコスト節約を与え、且つ高圧反応器に固有の安全性リスクを減少させることができる。
【0034】
[00031]第3の反応器内における反応条件にはまた、イオウ含有モノマーに対する溶媒に関する比較的低いモル比を含ませることができる。例えば、イオウ含有モノマーに対する溶媒の比は、約2〜約4、又は約2.5〜約3であってよい。第3段階の反応混合物は、約120℃〜約280℃、又は約200℃〜約260℃の温度に加熱することができ、かくして形成されるポリマーの溶融粘度が所望の最終レベルに上昇するまで重合を継続することができる。第2の重合の工程の経過時間は、例えば約0.5〜約20時間、又は約1〜約10時間であってよい。形成されるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は公知なように変動する可能性があるが、一態様においては約1000g/モル〜約500,000g/モル、約2,000g/モル〜約300,000g/モル、又は約3,000g/モル〜約100,000g/モルにすることができる。
【0035】
[00032]第3段階及び任意の所望の形成後処理の後に、ポリアリーレンスルフィドを、通常は所望の構造のダイを装備した押出オリフィスを通して第3の反応器から排出し、冷却し、回収することができる。通常は、ポリアリーレンスルフィドは、有孔ダイを通して排出してストランドを形成することができ、これを水浴内で巻き取り、ペレット化し、乾燥する。ポリアリーレンスルフィドはまた、ストランド、顆粒、又は粉末の形態であってもよい。
【0036】
II.洗浄技術:
[00033]ポリアリーレンスルフィドを形成する特定の方法に関係なく、それは、上記に記載したような注意深く制御された量の水及び非プロトン性有機溶媒を含む洗浄溶液と接触させる。特に好適な非プロトン性有機溶媒としては、例えばハロゲン含有溶媒(例えば、塩化メチレン、1−クロロブタン、クロロベンゼン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、及び1,1,2,2−テトラクロロエタン);エーテル溶媒(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、及び1,4−ジオキサン);ケトン溶媒(例えば、アセトン及びシクロヘキサノン);エステル溶媒(例えば酢酸エチル);ラクトン溶媒(例えばブチロラクトン);カーボネート溶媒(例えば、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネート);アミン溶媒(例えば、トリエチルアミン及びピリジン);ニトリル溶媒(例えば、アセトニトリル及びスクシノニトリル);アミド溶媒(例えば、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、及びN−メチルピロリドン);ニトロ含有溶媒(例えば、ニトロメタン及びニトロベンゼン);スルフィド溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド及びスルホラン);などが挙げられる。用いる特定の溶媒に関係なく、全溶媒系(例えば水及びN−メチルピロリドン)は、通常は洗浄溶液の約80重量%〜100重量%、幾つかの態様においては約85重量%〜100重量%、幾つかの態様においては約90重量%〜100重量%を構成する。
【0037】
[00034]勿論、安定剤、界面活性剤、pH調整剤等のような種々の他の好適な材料を洗浄溶液中において用いることもできる。例えば、塩基性のpH調整剤を用いて、洗浄溶液のpHを、通常は7より高く、幾つかの態様においては約8.0〜約13.5、幾つかの態様においては約9.0〜約13.5、幾つかの態様においては約11.0〜約13.0の所望のレベルに上昇させることを助けることができる。好適な塩基性pH調整剤としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等)、アルカリ土類金属水酸化物等、並びにこれらの組合せを挙げることができる。しかしながら、本発明の1つの有益な特徴は、種々のタイプの従来の添加剤の必要なしに良好な特性を与えることができることである。例えば、本洗浄溶液は、高い純度を有するポリアリーレンスルフィドを達成するために従来必要なアセチル化合物(例えば、アセトン及び/又は酢酸)を概して含まないようにすることができる。したがって、本洗浄溶液は、洗浄溶液の約0.1重量%以下、幾つかの態様においては約0.05重量%以下、幾つかの態様においては約0.01重量%以下の量のアセチル化合物(例えば、アセトン及び/又は酢酸)を含んでいてよい。勿論幾つかの態様においては、所望の場合により多い量のアセトンを洗浄溶液中において用いることができる。
【0038】
[00035]また、洗浄溶液の温度を制御して洗浄プロセスを促進することを助けることができる。例えば、溶液の温度は、約10℃〜約150℃、幾つかの態様においては約15℃〜約120℃、幾つかの態様においては約20℃〜約100℃、幾つかの態様においては約15℃〜約40℃であってよい。幾つかの場合においては、加熱は、混合物中の溶媒の大気圧沸点よりも高い温度で行うことができる。かかる態様においては、加熱は、通常は、1気圧より高く、幾つかの態様においては約2気圧より高く、幾つかの態様においては約3〜約10気圧のような比較的高い圧力下で行う。
【0039】
[00036]ポリアリーレンスルフィドを洗浄溶液と接触させる方法は、所望のように変化させることができる。例えば一態様においては、浴、沈降カラム等のような容器内でポリアリーレンスルフィドを洗浄溶液と接触させるシステムを用いることができる。例えば図1〜3を参照すると、ポリアリーレンスルフィド及び洗浄溶液を受容するように構成されている沈降カラム10の一態様が示されている。沈降カラム10には、液体出口20を含む上部部分12、入口24を含む中央部分14、並びに固形物出口22及び液体入口26を含む下部部分16を含めることができる。縦型の配置によって示されているが、沈降カラムは縦型配置以外で用いることができ、沈降カラムは、固形物を重力によって沈降カラムを通して入口24から出口22へ流すことができる限りにおいて、垂直方向に対して一定の角度で配することができることを理解すべきである。
【0040】
[00037]上部部分12及び下部部分16は、中央部分14のものよりも大きな断面積を有していてよい。一態様においては、沈降カラム10の複数の部分は断面が円形であってよく、この場合には、上部部分12及び下部部分16は、中央部分14の断面直径よりも大きな断面直径を有していてよい。例えば、上部部分12及び下部部分16は、中央部分の直径よりも約1.4〜約3倍大きい直径を有していてよい。例えば、上部及び下部部分は、独立して、中央部分14の直径よりも約1.4、約2、又は約2.5倍大きい直径を有していてよい。上部部分12のより大きな断面積によって出口20における固形物の溢流を阻止することができ、下部部分16のより大きな断面積によって出口22における固形物の流れの制限を阻止することができる。沈降カラム10はいかなる特定の幾何学的形態にも限定されず、沈降カラムの断面は円形に限定されないことを理解すべきである。更に、沈降カラムのそれぞれの部分の断面形状は、互いに対して変化していてよい。例えば、上部部分12、中央部分14、及び下部部分16の1つ又は2つは楕円形状の断面を有していてよく、1つ又は複数の他の部分は断面が円形であってよい。
【0041】
[00038]沈降カラム10の中央部分14に入口24を含めることができ、これを通してポリマースラリーを沈降カラム10に供給することができる。スラリーは、ポリアリーレンスルフィドを、反応溶媒(例えばN−メチルピロリドン)、塩副生成物、未反応のモノマー、又はオリゴマー等のような形成プロセスからの他の副生成物と共に含む可能性がある。図2に示すように、入口24は、中央部分14の壁25に、壁25に対して実質的に接線方向で交わる。ここで用いる「実質的に接線方向」という用語は、中央部分14の壁25の真の接線と、入口24の外壁27との間の距離によって定めることができる。入口24が完全な接線方向で中央部分の壁25と交わる場合には、この距離は0である。一般に、この距離は約5cm未満、例えば約3cm未満である。入口24が中央部分14の外壁25に対して実質的に接線方向になるように入口24を配置することによって、沈降カラム10内の流体の流動パターンが混乱するのを阻止することができる。これによって、下向きに流れる固形物と上向きに流れる液体との間の接触及び物質移動を向上させることができ、上部部分12の出口20を通って固形物が損失するのを阻止することもできる。固形物が出口20を通して損失しないことを更に確保するために、入口24を、中央部分14が上部部分12と交わる接合部23から一定の距離において中央部分14に配置することができる。例えば、入口24の中心点と接合部23との間の垂直距離は、中央部分14の全高の約5%以上にすることができる。例えば、入口24の中心点と接合部23との間の垂直距離は、中央部分14の全高の約5%〜約50%にすることができる。中央部分14の全高は、上部部分12が中央部分14と接する接合部23と、中央部分14が下部部分16と接する接合部21との間の距離である。
【0042】
[00039]入口24におけるラインによって、スラリーを重合反応装置から沈降カラム10の中央部分14へ運ぶことができる。沈降カラムの中央部分14には、中央部分14の軸長に沿った軸シャフト31及び一連の撹拌ブレード32を含む撹拌装置30を含ませることができる。撹拌装置30によって、沈降(流動床)内における液体のチャネリングを最小にすることができ、スラリー内容物と上向きに流れる溶媒との間の接触を維持し、並びに沈降カラム10を通る固形物の流れを維持することができる。撹拌ブレード32は、軸シャフト31から中央部分14の壁25に向かって伸長させることができる。一般に、撹拌ブレードは、軸シャフトから壁25までの距離の少なくとも半分伸長させることができ、一態様においては、壁25への距離のほぼ全部伸長させることができる。一態様においては、沈降カラムは、従来公知の沈降カラムにおいて用いられているような沈降プレート又はトレイを含まなくてよい。
【0043】
[00040]示されているように、軸シャフト31は、一連の撹拌ブレード32を中央部分14の長さに沿って支持することができる。一般に、少なくとも2つの撹拌ブレード32を、ブレード伸長のそれぞれの点においてバランスの取れた配置で軸シャフト31から伸長させることができる。しかしながら、これは必須要件ではなく、3つ、4つ、又はより多くの撹拌ブレードをシャフト31に沿って単一の位置において軸シャフト31から伸長させることができ、或いは単一のブレードをシャフト31上の単一の位置から伸長させることができ、撹拌ブレードは、使用中に撹拌装置30のバランスが維持されるように、シャフト31の長さに沿って下行するにつれて互いから偏位させることができる。軸シャフト31は、シャフト31に沿った複数の位置においてそれから伸長する複数の撹拌ブレード32を有していてよい。例えば、軸シャフトは、軸シャフト31に沿った約3〜約50の位置においてそれから伸長する複数の撹拌ブレードを有していてよく、それぞれの位置において2以上の撹拌ブレード32が軸シャフトから伸長する。一態様においては、軸シャフト31に沿ったブレードの分布は、セクション14の上部部分におけるブレードの数と比べて多いブレードが、底部における流動床セクション内に存在するようにすることができる。運転中においては、軸シャフト31は、通常は約0.1rpm〜約1000rpm、例えば約0.5rpm〜約200rpm、又は約1rpm〜約50rpmの速度で回転させることができる。
【0044】
[00041]示されている態様においては、ポリマースラリー流が洗浄溶液の流れのものに対して反対方向である対向流を用いる。例えば再び図1を参照すると、ポリマースラリーは、入口24を通して沈降カラム10の中央部14に供給する。他方において、洗浄溶液は、入口26を通してカラム10の下部部分16に供給する。このようにすると、ポリマースラリーをカラムを通して固形物出口22に向かって下向きに流しながら、洗浄溶液をポリマースラリーと接触させながらカラムを通して上向きに流すことができる。所望の場合には、入口26に、固形物を通る流体の流れを向上させ、固形物が入口26に侵入するのを阻止することができる分配器35を含ませることができる。下部部分16はまた、固形物含量が出口22において濃縮されるように円錐形状を有していてもよい。出口22におけるスラリーの固形物含量は、一般に約20重量%以上、又は幾つかの態様においては約22重量%以上であってよい。所望の場合には、洗浄溶液は、上記に記載したように入口26に供給する前に加熱することができる。かかる態様においては、沈降カラムに加熱部材を含ませて、洗浄プロセス中において上昇した温度を維持することができる。
【0045】
[00042]所望の場合には、床の頂部から固形物出口22へ固形物の濃度が増加する流動床を沈降カラム内に形成することもできる。沈降カラム内での固形物の滞留時間がより良好に制御されるように、流動床の高さを監視及び制御することができる。沈降カラムに関する滞留時間の改良された制御によって、沈降カラム内で行われる分離プロセスの効率を向上させることができ、これによってより低い運転コスト及び改良された分離をもたらすことができる。更に、流動床の高さ及び滞留時間を制御することによって、上部部分12の液体出口20を通る固形物の損失を阻止することを助けることができる。センサーを用いて、沈降カラム10内の流動床の高さを監視することができる。センサーのタイプは限定されず、内部センサー及び外部センサーの両方を含む、流動床の高さを監視することができる任意の好適なセンサーであってよい。例えば、センサーは、沈降カラム10内の流動床の高さを求めるために、限定なしに、光学、赤外、高周波、変位、レーダー、泡、振動、音響、熱、圧力、核、及び/又は磁気検出メカニズムを用いることができる。例として、一態様においては、レーザーの反射を検出して沈降カラム10内の材料の相対密度差を求めて、それにより流動床の頂部の位置に関する情報を制御システムへ送ることができる光学センサー40(例えばレーザー源及び検出器を含むレーザーベースのセンサー)を、沈降カラム10の中央部分14内、例えば入口24のレベルの付近に配置することができる。制御システムは、床高さを制御するために、その情報を、出口22における沈降カラムから排出される固形物の流れを制御することができるバルブ、及び/又は入口24における沈降カラム中への固形物の流れを制御することができるバルブにリレーすることができる。また公知なように、沈降カラムに至るライン及び沈降カラムからのライン内にサージタンクを含ませて、流動床の高さの制御を維持することもできる。流動床の高さを制御するための当該技術において公知の他のシステムを代わりに用いることができ、床高さを制御するために用いる方法及びシステムは特に限定されない。流動床の頂部は入口24又はその付近であってよい。沈降カラム10内における固形物の滞留時間の制御を向上させるために、プロセス中の沈降床高さの変動は、中央部分14の全高の約10%未満で変化させることができる。例えば、プロセス中の流動床の高さの変動は、中央部分14の全高の約5%未満にすることができる。
【0046】
[00043]図1においては円筒形のカラムとして示しているが、中央部分14の縦断面形状はこの態様に限定されない。例えば、図3に示すように、沈降カラムの中央部分14a、14b、14cは、14aにおいて示す円筒形の中央部分から、14b及び14cにおいて示す増加する角度まで、垂直であるか又は増加する角度でテーパー状にすることができる。テーパー状である場合には、固形物の移動を邪魔することなく沈降カラムの底部における固形物濃度を増加させるために、中央部分は底部におけるよりも頂部において幅広にすることができる。即ち、テーパーの角度が過度に大きいと、固体流は中央部分の壁において邪魔される。好ましいテーパー角度は、流速、粒径及び粒子形状のようなシステム内で運ばれる化合物の物理特性に応じて、且つカラム材料及び表面粗さに応じて、それぞれのシステムに関して変化する。
【0047】
[00044]幾つかの態様においては、ポリアリーレンスルフィドは、本発明の洗浄溶液と単一工程で接触させることができる。例えば、その中でポリアリーレンスルフィドを洗浄する単一の沈降カラムを用いることができる。しかしながら別の態様においては、複数の洗浄工程を用いることができる。かかるプロセスの複数の段階において用いる洗浄溶液は同一である必要はなく、本発明の洗浄溶液を1つの段階又は複数の段階において用いることができる。例えば一態様においては、その1以上が上記に記載したような対向流を有する複数の沈降カラムを直列で用いることができる。
【0048】
[00045]例えば図4を参照すると、3つの沈降カラム101a、101b、101cを直列で用いる洗浄プロセスの一態様が示されている。本システムには上記に記載のデザインを有する1以上の沈降カラムを含ませることができるが、これは開示するシステムの必須要件ではない。例えば、本システムに、上記に記載した沈降カラムとデザインが多少変化する沈降カラムを含ませることができ、例えば図4のシステムの沈降カラムは、中央部分と比べてより大きい断面積を有する上部及び下部部分を含まない。いずれの場合においても、システムに複数の沈降カラム101a、101b、及び101cを直列で含ませることができる。
【0049】
[00046]第1の沈降カラム101aを通る流れを開始するために、まず入口124aを通してそれにポリマースラリーを供給することができる。同様に、入口126aを通して第1の洗浄溶液302をカラム101に供給することができる。第1の洗浄溶液302は、一般に、ポリマースラリーのものに対して反対の方向でカラムを通して出口120aに達するまで上向きに流れ、ここでポリマースラリー供給流の溶液及び溶解した化合物を含む可能性がある第1の洗浄生成物402が取り出される。示されているように、固形物出口122aは、その後、第1の沈降カラム101aからの固形物を第2の沈降カラム101bのスラリー入口124bに供給することができる。第2の洗浄溶液304は、一般に、入口126bを経由してカラム101bを通して固形物のものに対して反対の方向で出口120bに達するまで上向きに流れ、ここで第2の洗浄生成物404が取り出される。必須ではないが、第2の洗浄溶液304は、出口120cを通して第3の沈降カラム101cから取り出される再循環流であってよい。最終沈降カラム101cにおいては、入口124cを通して第2の沈降カラムからの固形物を供給することができる。第3の洗浄溶液306は、一般に、入口126cを経由してカラム101cを通して固形物のものに対して反対の方向で上向きに流れ、ここで出口122cを通してカラムから排出されてポリマー生成物406が形成される。
【0050】
[00047]上記に記載したように、洗浄プロセスのそれぞれの段階において用いる洗浄溶液は、所望の場合には変化させることができる。例えば、第1の洗浄溶液302は、本発明にしたがって水及び非プロトン性有機溶媒(例えばN−メチルピロリドン)から形成することができる。第2の洗浄溶液304及び/又は第3の洗浄溶液306は、同様の溶液から、又は水のみ若しくは有機溶媒(例えばN−メチルピロリドン)のみを含む溶液から形成することができる。いずれにせよ、洗浄したら、得られるポリアリーレンスルフィドは、当該技術において公知の任意の技術にしたがって乾燥することができる。乾燥は、約80℃〜約250℃、幾つかの態様においては約100℃〜約200℃、幾つかの態様においては約120℃〜約180℃の温度で行うことができる。得られるポリアリーレンスルフィドの純度は、約95%以上、又は約98%以上のように比較的高くすることができる。
【0051】
試験方法:
[00048]分子量:PPSの試料は、まずトリフルオロ酢酸混合物中の冷HNO(50%)の混合物で酸化することによってPPSOに転化させることができる。得られるPPSOは、温ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中に1時間溶解し、次にPSS−ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)ゲルカラムを装備したGPCによって分子量に関して分析することができる。ゲルカラムには、移動相としてHFIPを用いるHFIP−ゲル保護カラム、及び屈折率(RI)検出器を取り付けることができる。
【0052】
[00049]溶融粘度:溶融粘度は走査剪断速度粘度として求めることができ、ISO試験No.11443:2005(ASTM−D3835−08と技術的に同等である)にしたがって1200秒−1の剪断速度及び約310℃の温度において、Dynisco 7001毛細管流量計を用いて測定することができる。流量計オリフィス(ダイ)は、1mmの直径、20mmの長さ、20.1のL/D比、及び180°の入口角を有していてよい。バレルの直径は9.55mm±0.005mmであってよく、ロッドの長さは233.4mmであった。測定の前に、試料を真空オーブン内で150℃において1.5時間乾燥する。
【0053】
[00050]結晶化温度:結晶化温度は、当該技術において公知なように示差走査熱量測定(DSC)によって求めることができる。DSC手順においては、TA Q2000装置上で行うDSC測定を用いて、試料を、第1の加熱サイクル中に50℃/分の速度で340℃の温度に加熱し、10℃/分の速度で50℃の温度に冷却し、次に第2の加熱サイクル中に50℃/分の速度で340℃の温度に加熱し、再び10℃/分の速度で50℃の温度に冷却する。一般に、ここでは第2の加熱サイクル中に得られる発熱曲線の最も高い位置における温度を「結晶化温度」と呼ぶ。
【0054】
[00051]オリゴマー含量:試料のオリゴマー含量は、試料を、60℃の温度及び1,500psiの圧力において100重量%のクロロホルムを含む抽出溶液と接触させることによって求めることができる。試料を抽出溶液で2回すすいだ後、抽出された溶媒を乾燥し、抽出物の重量を測定する。オリゴマー含量は、抽出物の重量を元の試料の重量で割り、100をかけることによって求められる。
【0055】
[00052]pH:樹脂のpHは、水/アセトンの混合溶媒(体積比=2/1)中で測定する。液体のpHは、まず洗浄液から固形物を濾過した後、標準pH計でpHを測定することによって測定する。
【実施例】
【0056】
[00053]PPSスラリーの11の試料をまず濾過して液体部分を除去した。得られたPPSフレークを手動で反応容器中に充填し、次に適当な溶媒洗浄液と共に所定時間撹拌した。このプロセスは、有機溶媒(例えば、アセトン、NMP、又はNMP:水混合物)による2回又は3回の最初の洗浄、次に100%水による5回、7回、又は11回の洗浄を用いることを含んでいた。試料10〜11に関しては、5%のNaOH溶液を水に加えることによって、最後の水洗浄工程におけるpHを少なくとも12.0に調節した。全洗浄時間は20分間であり、排水時間は、有機溶媒洗浄工程に関しては12分間、水洗浄工程に関しては6分間であった。排水したら、底部のドレン及びフィルターを取り外し、固形物を皿中に回収し、約15psigの真空下、105℃の温度において16時間乾燥した。オーブン内において少量の空気パージを保持して、壁上におけるNMPの凝縮を最小にした。洗浄条件を下記にまとめる。
【0057】
【表1】
【0058】
[00054]次に、得られたポリマー試料を上記記載のように試験した。結果を下記に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
[00055]本発明の特定の態様を示し且つ記載したが、本発明の精神及び範囲から逸脱す
ることなく種々の他の変更及び修正を行うことができることは当業者に明らかであろう。
したがって、本発明の範囲内の全てのかかる変更及び修正は添付の特許請求の範囲にカバ
ーされると意図される。
以下に、出願時の特許請求の範囲の記載を示す。
[請求項1]
ポリアリーレンスルフィドのスラリーを洗浄溶液と接触させることを含む、ポリアリー
レンスルフィドを形成する方法であって、洗浄溶液は約30重量%〜約70重量%の水及
び約30重量%〜約70重量%の非プロトン性有機溶媒を含み、ポリアリーレンスルフィ
ドは、約0.5重量%〜約2重量%のオリゴマー含量、並びにISO試験11443:2
005にしたがって1200秒−1の剪断速度及び310℃の温度において測定して約2
,350ポアズ以下の溶融粘度を有する、前記方法。
[請求項2]
非プロトン性有機溶媒はN−メチルピロリドンである、請求項1に記載の方法。
[請求項3]
洗浄溶液は約8.0〜約13.5のpHレベルを有する、請求項1に記載の方法。
[請求項4]
洗浄溶液はアセトンを概して含まない、請求項1に記載の方法。
[請求項5]
洗浄溶液は約15℃〜約120℃の温度である、請求項1に記載の方法。
[請求項6]
ポリアリーレンスルフィドのスラリーを、沈降カラム内において洗浄溶液と接触させる
、請求項1に記載の方法。
[請求項7]
ポリアリーレンのスラリーを洗浄溶液に対して反対方向に流す、請求項6に記載の方法

[請求項8]
洗浄溶液を、沈降カラムを通して上向きに流す、請求項7に記載の方法。
[請求項9]
ポリアリーレンスルフィドは約1.2重量%〜約1.6重量%のオリゴマー含量を有す
る、請求項1に記載の方法。
[請求項10]
ポリアリーレンスルフィドは、ISO試験11443:2005にしたがって1200
−1の剪断速度及び310℃の温度において測定して約1,000〜約2,280ポア
ズの溶融粘度を有する、請求項1に記載の方法。
[請求項11]
ポリアリーレンスルフィドは約200℃以下の結晶化温度を有する、請求項1に記載の
方法。
[請求項12]
ポリアリーレンスルフィドは約4.3以下の多分散指数を有する、請求項1に記載の方
法。
[請求項13]
ポリアリーレンスルフィドは約30,000〜約60,000ダルトンの重量平均分子
量を有する、請求項12に記載の方法。
[請求項14]
ポリアリーレンスルフィドは約8,000〜約12,500ダルトンの数平均分子量を
有する、請求項12に記載の方法。
[請求項15]
ポリアリーレンスルフィドは線状ポリフェニレンスルフィドである、請求項1に記載の
方法。
[請求項16]
ポリアリーレンスルフィドを更なる洗浄溶液と接触させることを更に含む、請求項1に
記載の方法。
[請求項17]
更なる洗浄溶液は水を含む、請求項16に記載の方法。
[請求項18]
洗浄溶液と接触させた後にポリアリーレンスルフィドを乾燥することを更に含む、請求
項1に記載の方法。
[請求項19]
ポリアリーレンスルフィドを洗浄するためのシステムであって、
ポリフェニレンスルフィドのスラリー;
約40重量%〜約60重量%の水及び約40重量%〜約60重量%のN−メチルピロリ
ドンを含む洗浄溶液;並びに
ポリアリーレンスルフィドのスラリー及び洗浄溶液を受容するように構成されている沈
降カラム;
を含む、前記システム。
[請求項20]
システムは一連の複数の沈降カラムを含む、請求項19に記載のシステム。
図1
図2
図3
図4