【文献】
PROCOPIO, A. et al.,Lipophilic Hydroxytyrosol Esters: Fatty Acid Conjugates for Potential Topical Administration,Journal of Natural Products,2011年,74(11),pp. 2377-2381,ISSN: 0163-3864
【文献】
IMAI, Shin-ichiro,A possibility of nutriceuticals as an anti-aging intervention: Activation of sirtuins by promoting mammalian NAD biosynthesis,Pharmacological Research,2010年,62(1),pp. 42-47,ISSN: 1043-6618
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一般式(1)の化合物の塩が、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ハロゲンイオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン、シュウ酸イオン、フマル酸イオン、炭素数3〜20の飽和または不飽和脂肪酸のアニオン、カルニチンおよびその誘導体のアニオン、ヒドロキシクエン酸およびその誘導体のアニオン、アスコルビン酸のアニオン、並びにアスコルビルリン酸およびその誘導体のアニオンからなる群より選ばれる1種以上のアニオンと共に形成された塩である、請求項1に記載のニコチンアミドモノヌクレオチド誘導体またはその塩。
一般式(1)の化合物の塩が、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アンモニウムイオン、カルニチンおよびその誘導体のカチオンからなる群より選ばれる1種以上のカチオンと共に形成された塩である、請求項1に記載のニコチンアミドモノヌクレオチド誘導体またはその塩。
ニコチンアミドモノヌクレオチドを、pKaが2.0以下の強酸性液体を20質量%以上含む溶媒中で、直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和または不飽和の炭化水素基がカルボニル炭素に結合している炭素数6〜16のアシル基を有するカルボン酸、前記カルボン酸のハロゲン化物、前記カルボン酸の無水物から選ばれる1種以上のアシル化剤を用いてアシル化反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のニコチンアミドモノヌクレオチド誘導体またはその塩の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)誘導体またはその塩、およびその製造方法、皮膚外用剤、化粧料、食品添加剤について詳細に説明する。本発明は、以下に示す例のみに限定されるものではなく、請求項に記載の範囲内において様々な応用が可能である。
【0021】
「1.NMN誘導体またはその塩」
(NMN誘導体)
本実施形態のNMN誘導体は、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」と略記することがある。)である。
【0023】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子または炭素数3〜30のアシル基であり、前記アシル基のカルボニル炭素に結合している炭化水素基は、直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和または不飽和の炭化水素基であり、R
1およびR
2の少なくとも一方は、前記アシル基である。)
【0024】
本実施形態のNMN誘導体は、一般式(1)で表されるように分子内に酸と塩基が存在している分子内塩である。
【0025】
一般式(1)中のR
1およびR
2の少なくとも一方は、前記アシル基である。すなわち、R
1およびR
2の両方が前記アシル基であるもの、R
1が前記アシル基であってR
2が水素原子であるもの、R
1が水素原子であってR
2が前記アシル基であるものが相当する。また、R
1およびR
2の両方が前記アシル基である場合、R
1とR
2は同じアシル基であってもよいし、異なるアシル基であってもよい。
【0026】
一般式(1)中のR
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子または炭素数3〜30のアシル基である。前記アシル基のカルボニル炭素に結合している炭化水素基(ヒドロカルビル基)は、炭素数2〜29の飽和または不飽和の炭化水素基である。飽和または不飽和の炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれでもよい。
【0027】
前記飽和炭化水素基(アルキル基)として、具体的には、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基等の、炭素数が2〜29の直鎖状のアルキル基や、例えば、ヘキシルデシル基等の、前記直鎖状のアルキル基と同じ炭素数で分岐鎖状のアルキル基が例示できる。
【0028】
前記不飽和炭化水素基としては、前記飽和炭化水素基として例示したアルキル基に含まれる炭素原子間の単結合(C−C)のうち1個以上が、不飽和結合(二重結合(C=C)または三重結合(C≡C))とされてなる基が例示できる。
前記不飽和炭化水素基において、不飽和結合の数は1個のみでもよいし、2個以上でもよい。不飽和結合の数が2個以上である場合、全ての不飽和結合が二重結合または三重結合であってもよいし、不飽和炭化水素基中に二重結合と三重結合とが混在していてもよい。前記不飽和炭化水素基において、不飽和結合の位置は特に限定されない。
【0029】
前記不飽和炭化水素基は、不飽和結合の数が1〜3個であることが好ましく、1または2個であることがより好ましい。また、前記不飽和炭化水素基は、不飽和結合として二重結合のみを有するものが好ましい。
【0030】
前記不飽和炭化水素基としては、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基等の、炭素数が2〜29の直鎖状のアルケニル基や、これら直鎖状のアルケニル基と同じ炭素数で分岐鎖状のアルケニル基が好ましい。
【0031】
前記アシル基のカルボニル炭素に結合している前記炭化水素基は、原料の入手しやすさ及び製造コストの観点から、アルキル基またはアルケニル基であることが好ましい。
また、前記アシル基のカルボニル炭素に結合している前記炭化水素基は、原料の入手しやすさ及び製造コストの観点から、直鎖状であることが好ましい。
【0032】
R
1およびR
2における前記アシル基の炭素数は、3〜30であり、4〜24であることが好ましく、5〜20であることがより好ましく、6〜16であることが特に好ましい。すなわち、前記アシル基のカルボニル炭素に結合している炭化水素基の炭素数は、2〜29であり、3〜23であることが好ましく、4〜19であることがより好ましく、5〜15であることが特に好ましい。
アシル基の炭素数が3以上(炭化水素基の炭素数が2以上)であると、脂溶性が十分に得られるため、高い体内吸収性が得られる。また、アシル基の炭素数が30以下(炭化水素基の炭素数が29以下)であると、十分な水溶性が得られる。
【0033】
(NMN誘導体の塩)
本実施形態のNMN誘導体の塩(化合物(1)の塩)は、化合物(1)に由来するアニオン(またはカチオン)と、化合物(1)以外の化合物に由来するカチオン(またはアニオン)とで形成されている化合物である。
化合物(1)の塩としては、化合物(1)と、酸または塩基とが反応して形成された塩が挙げられる。このような塩は、化合物(1)がカチオンとなってアニオンと共に形成された塩であってもよいし、化合物(1)がアニオンとなってカチオンと共に形成された塩であってもよい。
【0034】
化合物(1)でカチオン部となり得る部位としては、ピリジン環の窒素原子と、「−NH
2」で表されるアミノ基の窒素原子に水素イオン(H
+)が配位したもの(−NH
3+)とが例示できる。
一方、化合物(1)でアニオン部となり得る部位としては、リン酸基が例示できる。
【0035】
また、一分子の化合物(1)の塩を構成するカチオンおよびアニオンは、いずれも1個のみでもよいし、2個以上でもよい。カチオンおよびアニオンが2個以上である場合、これらカチオンまたはアニオンは、すべて同じであってもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみ同じであってもよい。
化合物(1)の塩は、分子全体として電気的に中性、すなわち、一分子の化合物(1)の塩に含まれるカチオンの価数の合計値とアニオンの価数の合計値とが、同じであることが好ましい。
【0036】
化合物(1)がカチオンになったものと共に、化合物(1)の塩を形成するアニオンは、無機アニオンであってもよいし、有機アニオンであってもよい。また、無機アニオンおよび有機アニオンの価数は、特に限定されず、例えば、1価でもよいし2価以上でもよい。
好ましい無機アニオンとしては、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ハロゲンイオン等が例示できる。前記ハロゲンイオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等が例示できる。
【0037】
好ましい有機アニオンとしては、カルボン酸のアニオン、カルニチンおよびその誘導体のアニオン、ヒドロキシクエン酸およびその誘導体のアニオン、アスコルビン酸のアニオン、アスコルビルリン酸およびその誘導体のアニオン等が例示できる。
前記カルボン酸のアニオンは、モノカルボン酸(1価カルボン酸)のアニオンでもよいし、ジカルボン酸、トリカルボン酸等の多価カルボン酸のアニオンでもよい。
【0038】
前記カルボン酸のアニオンとしては、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロパン酸(プロピオン酸)イオン、ブタン酸(酪酸)イオン、ペンタン酸(吉草酸)イオン、ヘキサン酸(カプロン酸)イオン、ヘプタン酸(エナント酸)イオン、オクタン酸(カプリル酸)イオン、ノナン酸(ペラルゴン酸)イオン、デカン酸(カプリン酸)イオン、ドデカン酸(ラウリン酸)イオン、テトラデカン酸(ミリスチン酸)イオン、ペンタデカン酸イオン、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)イオン、ヘプタデカン酸イオン、オクタデカン酸(ステアリン酸)イオン、エイコサン酸(アラキジン酸)イオン、cis−9−オクタデセン酸(オレイン酸)イオン、cis,cis−9,12−オクタデカジエン酸(リノール酸)イオン、cis,cis,cis−9,12,15−オクタデカトリエン酸(α−リノレン酸)イオン、all−cis−6,9,12−オクタデカトリエン酸(γ−リノレン酸)イオン、(5Z,8Z,11Z,14Z)−イコサ−5,8,11,14−テトラエン酸(アラキドン酸)イオン等の飽和または不飽和の脂肪酸のアニオン、シュウ酸イオン、マロン酸イオン、コハク酸イオン、グルタル酸イオン、アジピン酸イオン、フマル酸イオン、マレイン酸イオン等の飽和または不飽和ジカルボン酸のアニオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン、ヒドロキシクエン酸イオン等のヒドロキシ酸のアニオン等が例示できる。
【0039】
なお、本明細書において「脂肪酸」とは、特に断りのない限り、モノカルボン酸のうち、鎖状構造を有するものを意味する。
上述の飽和または不飽和の脂肪酸のアニオンは、炭素数が2〜25であることが好ましく、3〜20であることがより好ましい。また、不飽和の脂肪酸のアニオンは、不飽和結合を1〜4個有するものが好ましい。
【0040】
上述の飽和または不飽和ジカルボン酸のアニオンは、炭素数が2〜6であることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。また、炭素数2以上の不飽和ジカルボン酸のアニオンは、不飽和結合を1個有するものが好ましい。
【0041】
上記の化合物(1)がカチオンになったものと共に、化合物(1)の塩を形成するアニオンの中でも特に、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ハロゲンイオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン、シュウ酸イオン、フマル酸イオン、炭素数3〜20の飽和または不飽和の脂肪酸のアニオン、カルニチンおよびその誘導体のアニオン、ヒドロキシクエン酸およびその誘導体のアニオン、アスコルビン酸のアニオン、並びにアスコルビルリン酸およびその誘導体のアニオンからなる群より選ばれる1種以上のアニオンであることが好ましい。
【0042】
化合物(1)がアニオンになったものと共に、化合物(1)の塩を形成するカチオンは、無機カチオンであってもよいし、有機カチオンであってもよい。また、無機カチオンおよび有機カチオンの価数は、特に限定されず、例えば、1価でもよいし2価以上でもよい。
【0043】
好ましい無機カチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、銅イオン(Cu
+、Cu
2+)、鉄イオン(Fe
2+、Fe
3+)、マンガンイオン、ニッケルイオン、スズイオン(Sn
2+、Sn
4+)、アンモニウムイオン等が例示できる。
好ましい有機カチオンとしては、カルニチン、およびカルニチン誘導体のカチオン等が例示できる。
【0044】
上記の化合物(1)がアニオンになったものと共に、化合物(1)の塩を形成するカチオンの中でも特に、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アンモニウムイオン、カルニチン、およびカルニチン誘導体のカチオンからなる群より選ばれる1種以上のカチオンであることが好ましい。
【0045】
本実施形態の化合物(1)および化合物(1)の塩は単独で存在していてもよいし、化合物(1)と化合物(1)の塩とが混在した状態で存在していてもよい。
また、化合物(1)には、その分子中に不斉原子が存在するなど、複数の立体異性体が存在する。すなわち、本実施形態の化合物(1)およびその塩(以下、これら化合物を包括して「化合物(1)等」と略記することがある。)には、これらすべての立体異性体が包含される。具体的には、化合物(1)等は、立体異性体であるα体のみ、またはβ体のみであってもよいし、α体とβ体の混合物であってもよい。
【0046】
本実施形態の化合物(1)等は、一般式(1)中のR
1およびR
2の少なくとも一方が、炭素数3以上のアシル基であることにより、適度な脂溶性を有している。このため、化合物(1)等は、NMN、従来のNMN誘導体およびこれらの塩よりも、皮膚親和性および皮膚浸透性に優れ、体内吸収性(経皮吸収性)が高い。しかも、本実施形態の化合物(1)等は、体内に吸収された後、体内での生体酵素反応により容易に分解されて、抗老化作用の期待されるNMNとなる。したがって、例えば、化合物(1)等を含む皮膚外用剤、化粧料は、NMN、従来のNMN誘導体およびこれらの塩を含む場合と比較して、皮膚組織にまで到達するNMNの量が顕著に多いものとなる。
【0047】
また、化合物(1)等は、十分な脂溶性を有するにもかかわらず、一般式(1)中のR
1およびR
2の少なくとも一方が、炭素数30以下のアシル基であることにより、例えば、皮膚外用剤、化粧料、食品添加剤の材料として利用する場合に十分な水溶性を有している。このため、化合物(1)等は、取り扱い性に優れ、皮膚外用剤、化粧料、食品添加剤への配合が容易であり、水系,乳化系,固体,粉末,錠剤といった様々な剤型の皮膚外用剤、化粧料、食品添加剤に利用できる。よって、化合物(1)等は、皮膚外用剤、化粧料、食品添加剤の材料として有用である。
【0048】
「2.NMN誘導体またはその塩の製造方法」
本実施形態の化合物(1)等の製造方法では、NMNを、pKaが2.0以下の強酸性液体を20質量%以上含む溶媒中で、アシル化剤を用いてアシル化反応させる。
本実施形態において、原料として用いるNMNは、立体異性体であるα体のみ、またはβ体のみであってもよいし、α体とβ体の混合物であってもよい。
【0049】
本実施形態では、溶媒として、pKaが2.0以下の強酸性液体を20質量%以上含むものを用いる。強酸性液体としては、25℃において液体である溶媒を用いる。硫酸等の多価の酸においては、複数のpKa値を持ちうる。溶媒が複数のpKa値を持つ場合、本発明では最も低いpKa値を採用する。
【0050】
ここでpKaについて詳しく説明する。
酸解離定数pKaとは、酸の解離度を示すパラメーターである。酸の電離定数をKaとすると、pKa=−log
10Kaで定義される。pKaの値が小さいほど、酸として強いことを意味する。pKaは、電位滴定法、紫外可視分光法、核磁気共鳴分光法などを用いて通常25℃の水中で測定される。
【0051】
しかし、塩酸や硫酸などの非常に強い酸のpKaは、水中では溶媒による水平化効果のために正確に測定できない。水平化効果とは、オキソニウムイオン(H
3O
+、pKa=−1.7)よりも強い酸を水中で測定しようとしても、酸は水と完全に反応して、オキソニウムイオンとしての酸の強さを反映してしまうため、見かけ上、酸の強弱がなくなる現象である。したがって、非常に強い酸の強弱を比較するためには、水よりもプロトン供与能の高い酢酸、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどの有機溶媒中で測定したpKa値を比較するか、ハメットの酸度関数の値を比較する必要がある。塩酸や硫酸などの水中でのpKa値が文献等で示されていることがあるが、これらは有機溶媒中で測定した結果に基づいて、水中での値に換算した推算値である。
【0052】
本実施形態におけるpKaが2.0以下の強酸性液体とは、水中でのpKaが2.0以下の液体のことである。本実施形態において、pKaが2.0以下の液体に該当するのは、水中でのpKaの実測値が2.0以下であったもの、酸性が強すぎて水中では測定できないもの、有機溶媒中での測定結果から換算した水中でのpKaが2.0以下であるものである。
【0053】
本実施形態では、強酸性液体のpKaが2.0以下であるので、溶媒中にNMNを十分に溶解させることができる。その結果、NMNを効率よくアシル化反応でき、高い収率で化合物(1)等が得られる。強酸性液体のpKaは、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.0以下である。
【0054】
pKaが2.0以下の強酸性液体として、具体的には、トリフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ヘプタフルオロ酪酸、パーフルオロペンタン酸、パーフルオロヘキサン酸、硫酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が例示できる。これらの中でコストの観点から、トリフルオロ酢酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸を用いることが好ましい。
【0055】
前記強酸性液体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上の強酸性液体を組み合わせて用いてもよい。2種以上を併用する場合には、その組み合わせおよび比率は、目的に応じて適宜選択できる。
【0056】
本実施形態では、溶媒として、強酸性液体と、その他の有機溶媒とを混合したものを用いてもよい。強酸性液体と混合する有機溶媒は、NMNと反応せず、酸で分解しないものであれば、特に限定されない。これら有機溶媒として、具体的には、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、トルエン、ベンゼン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等が例示できる。
【0057】
溶媒中の強酸性液体の比率は、20質量%〜100質量%である。溶媒中の強酸性液体の含有量が20質量%以上であると、溶媒中にNMNを十分に溶解させることができるので、NMNを効率よくアシル化反応でき、高い収率で化合物(1)等が得られる。NMNの溶解性の観点から溶媒中の強酸性液体の含有量は、50質量%〜100質量%が好ましく、さらに好ましくは80質量%〜100質量%である。溶媒中の強酸性液体の含有量が100質量%であるとは、強酸性液体自体を溶媒として用いることを意味する。
原料であるNMNの使用量に対する溶媒の使用量は特に限定されず、NMNの溶媒に対する溶解性や、反応液の撹拌性等を考慮して、適宜選択すればよい。
【0058】
本実施形態では、アシル化剤として、直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和または不飽和の炭化水素基がカルボニル炭素に結合している炭素数3〜30のアシル基を有するカルボン酸、前記カルボン酸のハロゲン化物、前記カルボン酸の無水物を用いる。アシル化剤として、前記カルボン酸のハロゲン化物を用いる場合、塩化物または臭化物を用いることが好ましい。
【0059】
アシル化剤としては、上記の中でも特に、高い収率が得られるため、パルミトイルクロリド(CH
3(CH
2)
14COCl)、ラウロイルクロリド(CH
3(CH
2)
10COCl)、オクタノイルクロリド(CH
3(CH
2)
6COCl)、ヘキサノイルクロリド(CH
3(CH
2)
4COCl)などのカルボン酸塩化物(酸クロリド)を用いることが好ましい。
これらのアシル化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。アシル化剤として、2種以上を併用する場合には、その組み合わせおよび比率は、目的に応じて適宜選択できる。
【0060】
原料であるNMNの使用量に対するアシル化剤の使用量は、目的とする生成物の種類(アシル化剤の種類)、溶媒の種類などに応じて適宜調節することが好ましい。NMNの糖骨格(フラノース環)に存在する2つの水酸基は、3´位と2´位とに配置されている。本実施形態の方法を用いてNMNをアシル化すると、糖骨格の3´位の水酸基がアシル化された化合物と、2´位の水酸基がアシル化された化合物と、3´位および2´位の水酸基がアシル化された化合物とが生成する。本実施形態では、NMNの使用量に対するアシル化剤の使用量を調節することで、以下に示すように、これらの生成比率を変化させることができる。
【0061】
NMNの糖骨格の2´位の水酸基と3´位の水酸基とでは、アシル化反応の反応性が異なっている。3´位の水酸基は、2´位の水酸基よりも、アシル化反応の反応性が高い。このため、NMNに対するアシル化剤の使用量が少ないと、糖骨格の3´位の水酸基のみがアシル化された生成物(化合物(1)において、R
1がアシル基であり、R
2が水素原子であるもの)が生成しやすくなる。また、NMNに対するアシル化剤の使用量が多いと、糖骨格の3´位だけでなく2´位の水酸基もアシル化された生成物(化合物(1)において、R
1およびR
2がアシル基であるもの)が生成しやすくなる。また、NMNに対するアシル化剤の使用量に関わらず、糖骨格の2´位の水酸基のみがアシル化された生成物(化合物(1)において、R
1が水素原子であり、R
2がアシル基であるもの)が最も多く生成されることはない。
【0062】
具体的には、例えばアシル化剤として、酸クロリドを用い、溶媒としてトリフルオロ酢酸を用いる場合、酸クロリドをNMNに対して0.5〜2倍モル量用いると、糖骨格の3´位の水酸基のみがアシル化された生成物が最も多く生成する。また、酸クロリドをNMNに対して2.5倍モル量以上用いると、糖骨格の2´位および3´位の水酸基が両方ともアシル化された生成物が最も多く生成する。
【0063】
また、糖骨格の2´位と3´位の水酸基の反応性の違いを利用することで、化合物(1)等におけるR
1とR
2に異なる種類のアシル基を導入することも可能である。すなわち、最初に、NMNに対して少ない使用量のアシル化剤で糖骨格3´位の水酸基をアシル化する。その後、異なる種類のアシル化剤を加えて、糖骨格のアシル化されていない水酸基をアシル化する。このことにより、R
1とR
2に異なる種類のアシル基が導入された化合物(1)等が生成する。この場合、最初に使用するアシル化剤の使用量は、アシル反応の進行度をモニタリングしながら適宜調節することが好ましい。
【0064】
アシル化反応の反応温度については、特に限定されないが、−20℃〜50℃であることが好ましく、さらに好ましくは0℃〜30℃である。NMNは、加熱により分解しやすい化合物であるため、アシル化反応の反応温度を50℃以下とすることが好ましい。反応温度が低すぎると、アシル化反応の進行が遅くなり、反応時間が長くなるため、−20℃以上とすることが好ましい。
また、アシル化反応の反応時間は、特に限定されないが、0.5〜24時間であることが好ましく、0.5〜12時間であることがより好ましい。
【0065】
アシル化反応により生成した化合物(1)等は、アシル化反応の終了後、必要に応じて公知の手法によって後処理を行い、目的物である化合物(1)等を公知の手法によって取り出すことができる。
アシル化反応の終了後の後処理としては、アシル化反応の終了後に得られた反応液に対して、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理をいずれか単独で、または2種以上組み合わせて行うことができる。また、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、後処理後の生成物から目的物である化合物(1)等を取り出すことができる。
【0066】
取り出した化合物(1)等は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、または2種以上組み合わせて1回以上行うことで、精製してもよい。
【0067】
また、アシル化反応により生成した化合物(1)等は、アシル化反応の終了後、得られた反応液に対して必要に応じて後処理を行った後、取り出すことなく、目的とする用途に引き続き用いてもよい。
なお、上述の製造方法により取り出した目的物は、全部が、化合物(1)の分子内に酸と塩基が存在している分子内塩である場合もあるし、一部または全部が、化合物(1)の分子内に酸および塩基が存在していないものである場合もある。また、上述の製造方法により取り出した目的物の一部または全部が、化合物(1)に由来するアニオン(またはカチオン)と、化合物(1)以外の化合物に由来するカチオン(またはアニオン)とで形成されている化合物(1)の塩である場合もある。
【0068】
また、化合物(1)の塩は、以下に示す方法により製造してもよい。すなわち、上述のアシル化反応により生成した化合物(1)等を過剰量の酸または塩基で処理して、化合物(1)等と、酸または塩基とを反応させる。得られた化合物(1)の塩は、上述した化合物(1)等と同じ方法で取り出すことができる。
【0069】
また、化合物(1)の塩は、上述の製造方法により生成した化合物(1)等を取り出した後、取り出した化合物(1)等を過剰量の酸または塩基で処理して、化合物(1)等と、酸または塩基とを反応させることにより製造してもよい。この場合も、得られた化合物(1)の塩は、化合物(1)等の場合と同じ方法で取り出すことができる。
【0070】
本実施形態において得られた化合物(1)およびその塩は、例えば、核磁気共鳴分光法(NMR)、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)、紫外・可視分光法(UV−VIS吸収スペクトル)等、公知の手法で構造を確認できる。
【0071】
本実施形態の化合物(1)等の製造方法では、NMNを、pKaが2.0以下の強酸性液体を20質量%以上含む溶媒中で、直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和または不飽和の炭化水素基がカルボニル炭素に結合している炭素数3〜30のアシル基を有するカルボン酸、前記カルボン酸のハロゲン化物、前記カルボン酸の無水物から選ばれる1種以上のアシル化剤を用いてアシル化反応させる。このため、体内で容易にNMNに分解されるものであり、十分な脂溶性と、皮膚外用剤、化粧料、食品添加剤の材料として利用する場合に十分な水溶性とを有する本実施形態の化合物(1)等を製造できる。
【0072】
一般的に、アルコールのアシル化反応を行う場合には、アルコールをジクロロメタン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒に溶解させて、トリエチルアミン、ピリジン、N−メチルモルホリン、4−ジメチルアミノピリジン等の塩基存在下で、カルボン酸塩化物またはカルボン酸無水物と反応させている。
本実施形態において原料として用いるNMNは、一般的な有機溶媒には溶解しない。このため、NMNは、アルコールのアシル化反応を行う場合の一般的な条件では、ほとんどアシル化反応しない。また、NMNを有機溶媒に溶解させるために加熱すると、NMNが分解してしまう。
【0073】
これに対して、本実施形態の製造方法では、溶媒として、pKaが2.0以下の強酸性液体を20質量%以上含むものを用いる。したがって、NMNを分解させることなく、NMNを溶媒中に溶解させて、効率よくNMNをアシル化反応させることができる。
【0074】
「3.皮膚外用剤、化粧料」
本実施形態の皮膚外用剤は、上述した実施形態の化合物(1)またはその塩を含有する。また、本実施形態の化粧料は、本実施形態の皮膚外用剤を含有する。本実施形態の皮膚外用剤は、化粧料として用いることもできる。
【0075】
前記皮膚外用剤および化粧料の種類としては、シャンプー、オイルシャンプー、クリームシャンプー、コンディショニングシャンプー、ふけ用シャンプー、ヘアカラー用シャンプー、リンス一体型シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアパック、ヘアフォーム、ヘアムース、ヘアスプレー、ヘアミスト、ヘアワックス、ヘアジェル、ウォーターグリース、セットローション、カラーローション、ヘアトニック、ヘアリキッド、ポマード、チック、ヘアクリーム、ヘアブロー、枝毛コート、ヘアオイル、パーマネントウェーブ用剤、ストレートパーマ剤、酸化染毛剤、ヘアブリーチ、ヘアカラープレトリートメント、ヘアカラーアフタートリートメント、パーマプレトリートメント、パーマアフタートリートメント、ヘアマニキュア、育毛剤等の毛髪用化粧料;洗顔料、クレンジングフォーム、洗粉、洗顔パウダー、クレンジングクリーム、クレンジングミルク、クレンジングローション、クレンジングジェル、クレンジングオイル、クレンジングマスク、化粧水、柔軟化粧水、収れん化粧水、洗浄用化粧水、多層式化粧水、乳液、エモリエントローション、モイスチャーローション、ミルキィーローション、ナリシングローション、ナリシングミルク、スキンモイスチャー、モイスチャーエマルション、マッサージローション、クレンジングローション、プロテクトエマルション、サンプロテクト、サンプロテクター、UVケアミルク、サンスクリーン、メーキャップローション、角質スムーザー、エルボーローション、ハンドローション、ボディローション、クリーム、エモリエントクリーム、栄養クリーム、ナリシングクリーム、バニシングクリーム、モイスチャークリーム、ナイトクリーム、マッサージクリーム、クレンジングクリーム、メーキャップクリーム、ベースクリーム、プレメーキャップクリーム、サンスクリーンクリーム、サンタンクリーム、除毛クリーム、デオドラントクリーム、シェービングクリーム、角質軟化クリーム、ジェル、クレンジングジェル、モイスチャージェル、石鹸、化粧石鹸、透明石鹸、薬用石鹸、液状石鹸、ひげそり石鹸、合成化粧石鹸、パック、マスク、ピールオフパック、粉末パック、ウォッシングパック、オイルパック、クレンジングマスク、エッセンス、保湿エッセンス、美白エッセンス、紫外線防止エッセンス、リポソーム美容液、リポソーム化粧水等の基礎化粧料;白粉・打粉類、ファンデーション類、化粧下地、口紅類、リップグロス、頬紅類、アイライナー、マスカラ、アイシャドー、眉墨、アイブロー、ネイルエナメル、エナメルリムーバー、ネイルトリートメント等のメーキャップ化粧料;香水、パフューム、パルファム、オードパルファム、オードトワレ、オーデコロン、練香水、芳香パウダー、香水石鹸、ボディローション、バスオイル等の芳香化粧料;ボディシャンプー、ボディ洗浄料、ボディーパウダー、デオドラントローション、デオドラントパウダー、デオドラントスプレー、デオドラントスティック、防臭化粧料、脱色剤、脱毛・除毛剤、浴用剤、虫よけスプレー、インセクトリペラー等のボディ化粧料;軟膏剤、貼付剤、ローション剤、リニメント剤、液状塗布剤等が例示できる。
【0076】
前記皮膚外用剤および化粧料の剤型としては、水中油(O/W)型、油中水(W/O)型、W/O/W型、O/W/O型等の乳化型;乳化高分子型;油性;固形;液状;練状;スティック状;揮発性油型;粉状;ゼリー状;ジェル状;ペースト状;クリーム状;シート状;フィルム状;ミスト状;スプレー型;多層状;泡状;フレーク状等が例示できる。
【0077】
前記皮膚外用剤および化粧料は、必須成分として化合物(1)およびその塩からなる群より選ばれる1種以上を含有していればよい。したがって、前記皮膚外用剤および化粧料は、化合物(1)を含有し、化合物(1)の塩を含有していないものでもよいし、化合物(1)の塩を含有し、化合物(1)を含有していないものでもよいし、化合物(1)および化合物(1)の塩を共に含有するものでもよい。
【0078】
前記皮膚外用剤および化粧料の含有する化合物(1)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。2種以上である場合、その組み合わせおよび比率は、目的に応じて適宜選択できる。同様に、前記皮膚外用剤および化粧料の含有する化合物(1)の塩は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。2種以上である場合、その組み合わせおよび比率は、目的に応じて適宜選択できる。
【0079】
前記皮膚外用剤および化粧料は、化合物(1)またはその塩の他に、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、皮膚外用剤または化粧料に通常用いられる成分などの他の成分を、一般的な濃度、例えば、皮膚外用剤または化粧料の全体量に対して100質量ppm〜90質量%含有していてもよい。
【0080】
皮膚外用剤または化粧料に通常用いられる成分としては、例えば、既存の原料規格書または公定書に記載された原料、皮膚外用剤として薬学的に許容される担体、添加剤等の成分が挙げられる。
既存の原料規格書または公定書に記載された原料としては、第十四改正日本薬局方(財団法人日本公定書協会編集、株式会社じほう発行、2001年4月)、化粧品原料基準第二版注解(日本公定書協会編、薬事日報社発行、1984年)、化粧品原料基準外成分規格(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社発行、1993年)、化粧品原料基準外成分規格追補(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社発行、1993年)、化粧品種別許可基準(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社発行、1993年)、International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook 2002 Ninth Edition Vol.1〜4,by CTFA、化粧品原料辞典(日光ケミカルズ発行、平成3年)等に記載されたものが例示できる。
【0081】
皮膚外用剤として薬学的に許容される成分としては、水、特開2012−236800号公報の段落0018〜0050に記載されている、炭化水素類、天然油脂類、脂肪酸類、高級アルコール類、アルキルグリセリルエーテル類、エステル類、シリコーン油類、多価アルコール類、一価の低級アルコール類、糖類、高分子類、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、天然系界面活性剤、紫外線吸収剤、粉体類、色材類、アミノ酸類、ペプチド類、ビタミン類、ビタミン様作用因子類、防腐剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、保湿剤、抗炎症剤、pH調整剤、塩類、有機酸類、美白剤、精油類、テルペン類、香料、等が例示できる。
【0082】
これらの他の成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、その組み合わせおよび比率は、目的に応じて適宜選択できる。
【0083】
本実施形態の皮膚外用剤および化粧料は、前記化合物(1)およびその塩の総含有量(必須成分の含有量)が、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.05〜12質量%であることがより好ましく、0.1〜10質量%であることが特に好ましい。化合物(1)およびその塩の総含有量が前記下限値以上であると、化合物(1)およびその塩による抗老化作用が得られやすくなり、皮膚外用剤または化粧料としてより優れた効能が得られる。また、化合物(1)およびその塩の総含有量が前記上限値以下であると、これらの成分の過剰使用を抑制できる。
【0084】
本実施形態の皮膚外用剤の投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、通常、成人1人1日あたり、有効成分の投与量(化合物(1)およびその塩の総投与量)が0.4〜400mg/人となる量であることが好ましい。
前記皮膚外用剤は、所定量を1日に1回または複数回に分けて投与される。
本実施形態の皮膚外用剤は、高い体内吸収性を有する化合物(1)およびその塩を含むため、有効成分の投与量(化合物(1)およびその塩の総投与量)を、有効成分としてNMNを用いた場合と比較して低減できる。
【0085】
また、本実施形態の化粧料の使用量は、対象者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、通常、成人1人1日あたり、有効成分の使用量(化合物(1)およびその塩の総使用量)が0.4〜400mg/人となる量であることが好ましい。
前記化粧料は、所定量を1日に1回または複数回に分けて使用される。
本実施形態の化粧料は、高い体内吸収性を有する化合物(1)およびその塩を含むため、有効成分の使用量(化合物(1)およびその塩の総使用量)を、有効成分としてNMNを用いた場合と比較して低減できる。
【0086】
前記皮膚外用剤および化粧料は、化合物(1)またはその塩、および必要に応じて他の成分を配合し、製剤化することで製造できる。
前記皮膚外用剤および化粧料は、化合物(1)またはその塩を配合すること以外は、公知の皮膚外用剤および化粧料と同様の方法で製造できる。
【0087】
本実施形態の皮膚外用剤および化粧料は、体内で容易にNMNに分解されるものであり、皮膚親和性および皮膚浸透性に優れ、高い体内吸収性を有する化合物(1)等を含有する。したがって、本実施形態の皮膚外用剤および化粧料は、高い抗老化作用が期待できる。特に、本実施形態の皮膚外用剤は、皮脂制御剤、肌のターンオーバーの正常化剤、抗炎症剤、抗アクネ剤、抗肌荒れ剤、白髪抑制剤、養毛外用剤、アンチエイジング剤等として有用である。また、本実施形態の皮膚外用剤および化粧料は、十分な脂溶性および水溶性を有する化合物(1)等を含むため、用途に応じて、水系,乳化系,固体,粉末,錠剤といった様々な剤型にすることができる。
【0088】
「4.食品添加剤」
本実施形態の食品添加剤は、上述した実施形態の化合物(1)またはその塩を含有する。本実施形態の食品添加剤は、上述した実施形態の皮膚外用剤および化粧料と同様に、必須成分として化合物(1)およびその塩からなる群より選ばれる1種以上を含有していればよい。したがって、前記食品添加剤は、化合物(1)を含有し、化合物(1)の塩を含有していないものでもよいし、化合物(1)の塩を含有し、化合物(1)を含有していないものでもよいし、化合物(1)および化合物(1)の塩を共に含有するものでもよい。
【0089】
前記食品添加剤の含有する化合物(1)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。2種以上である場合、その組み合わせおよび比率は、目的に応じて適宜選択できる。同様に、前記食品添加剤の含有する化合物(1)の塩は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。2種以上である場合、その組み合わせおよび比率は、目的に応じて適宜選択できる。
【0090】
前記食品添加剤は、化合物(1)またはその塩の他に、必要に応じて、当該分野で公知の任意成分を含有していてもよい。任意成分は特に限定されず、目的に応じて適宜選択できる。任意成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、その組み合わせおよび比率は、目的に応じて適宜選択できる。前記食品添加剤中の任意成分の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜調節すればよい。
【0091】
前記食品添加剤の化合物(1)およびその塩の総含有量(必須成分の含有量)は、特に限定されず、目的に応じて適宜調節すればよいが、通常は0.001〜0.1質量%であることが好ましい。
本実施形態の食品添加剤の使用量は、目的によって異なり、一概には決定できないが、通常、成人1人1日あたり、有効成分の摂取量(化合物(1)およびその塩の総摂取量)が10〜1000mg/人となる量であることが好ましい。
前記食品添加剤は、化合物(1)またはその塩を配合すること以外は、公知の食品添加剤と同様の方法で製造できる。
【0092】
本実施形態の食品添加剤は、体内で容易にNMNに分解されるものであり、高い体内吸収性を有する化合物(1)等を含有する。したがって、本実施形態の食品添加剤は、高い抗老化作用が期待できる。また、本実施形態の食品添加剤は、十分な脂溶性および水溶性を有する化合物(1)等を含むため、公知の食品添加剤と同様に、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の様々な剤型にすることができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0094】
以下に示す実施例
、参考例および比較例では、原料として以下に示す試薬を用いた。
β−ニコチンアミドモノヌクレオチド(β−NMN):Sigma−Aldrich Co.LLC.
トリフルオロ酢酸(TFA):東京化成工業株式会社
硫酸:純正化学株式会社
パルミトイルクロリド(PaCl(CH
3(CH
2)
14COCl)):東京化成工業株式会社
ラウロイルクロリド(LauCl(CH
3(CH
2)
10COCl)):東京化成工業株式会社
オクタノイルクロリド(OctCl(CH
3(CH
2)
6COCl)):東京化成工業株式会社
ヘキサノイルクロリド(HexCl(CH
3(CH
2)
4COCl)):東京化成工業株式会社
パルミチン酸(PaOH(CH
3(CH
2)
14COOH)):東京化成工業株式会社
無水酢酸:東京化成工業株式会社
ピリジン(脱水):和光純薬工業株式会社
ヘキサン:和光純薬工業株式会社
アセトニトリル:和光純薬工業株式会社
N,N−ジメチルホルムアミド(脱水)(DMF):和光純薬株式会社
【0095】
また、以下の各実施例
、参考例および比較例、合成例において、目的物であるNMN誘導体およびパルミチン酸の定量を下記のHPLC(高速液体クロマトグラフ)分析条件1で分析し、原料(β−NMN)の定量を下記のHPLC分析条件2で分析した。
【0096】
[HPLC分析条件1]
カラム:昭和電工社製「Shodex(登録商標) Silica 5C8 4E(4.6mmI.D.×250mm)」×2本
溶離液:H
3PO
4,KH
2PO
4水溶液(H
3PO
4濃度:15mmol/L、KH
2PO
4濃度:15mmol/L)/アセトニトリル= 30/70(体積比)
流速:1.2mL/min
カラム温度:40℃
検出器:UV(210nm)およびRI(示差屈折)
サンプル注入量:20μL
【0097】
[HPLC分析条件2]
カラム:昭和電工社製「Shodex(登録商標) RSpak(商標)DM−614(6.0mmI.D.×150mm)」×4本
溶離液:0.02% H
3PO
4水溶液
流速:0.8mL/min
カラム温度:40℃
検出器:UV(210nm)およびRI(示差屈折)
サンプル注入量:20μL
【0098】
また、以下の各実施例
、参考例および比較例、合成例において、生成物の構造同定は、NMR測定により行った。NMR測定は、測定対象の試料約15mgを各種重溶媒に溶解させて得られたサンプルを、Bruker Biospin社製「AvanceIII−400」を用いて測定した。
【0099】
<化合物の製造>
[
参考例1]
TFA溶媒中での3´−パルミトイル−β―NMNの合成
【0100】
【化3】
【0101】
上記一般式(3)で表されるβ−ニコチンアミドモノヌクレオチド(β−NMN、0.133g、0.40mmol)を、強酸性液体であるトリフルオロ酢酸(TFA、5.4mL、pKa=−0.25)に加えて完全に溶解させ、室温(23℃)でアシル化剤としてパルミトイルクロリド(PaCl、0.110g、0.40mmol)を加えて1時間撹拌した。その後、パルミトイルクロリド(PaCl、0.110g、0.40mmol)を追添して、さらに3.5時間撹拌し、合計で4.5時間アシル化反応させた。
【0102】
アシル化反応の終了後に得られた反応液を一部サンプリングし、HPLC分析条件1で生成物を定量し、HPLC分析条件2で原料を定量し、転化率と上記一般式(3−1)〜(3−3)で表される化合物それぞれの収率を求めた。その結果を表1に示す。
【0103】
アシル化反応の終了後に得られた反応液に対して、後処理として濃縮乾固し(TFAの除去)、ヘキサン20mLおよびアセトニトリル20mLを加えて撹拌後、溶け残った白色固体をろ過で回収し(パルミチン酸および残存TFAの除去)、回収した白色固体に水10mLを加えて撹拌後、同様に溶け残った白色固体をろ過で回収した(NMNの除去)。回収した白色固体(生成物)を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲルおよびイオン交換樹脂)を組み合わせて精製することで、主成分として、目的物である上記一般式(3−1)で表される3´−パルミトイル−β−ニコチンアミドモノヌクレオチド(3´−Palmitoyl−β―NMN)を白色固体として得た(0.061g、単離収率27%)。
【0104】
表1に、
参考例1で使用したアシル化剤、アシル化剤とNMNとのモル比(アシル化剤/NMN)、溶媒、主成分の単離収率を示す。
目的物の構造は、各種NMR測定(
1H−NMR、
13C−NMR、
13C DEPT135、
1H−
1H−COSY)を行うことで確認した。また、糖骨格の1´位プロトンのケミカルシフトから、エピマー化していないことを確認し、β−NMN構造を保持していることが分かった。
得られた3´−Palmitoyl−β―NMNの
1H−NMRおよび
13C−NMRデータを以下に示す。
【0105】
1H−NMR(400MHz,THF−d
8/D
2O=5/1):δ(ppm)=9.50(s,1H),9.29(d,J=8.0Hz,1H),9.02(d,J=8.0Hz,1H),8.37(dd,J=8.0 and 8.0Hz,1H),6.11(d,J=4.0Hz,1H),5.43(d,J=4.0Hz,1H),4.78(dd,J=4.0 and 4.0Hz,1H),4.59(m,1H),4.06−4.31(m,2H),2.44(m,2H),1.61(m,2H),1.25(m,24H),0.85(t,J=4.0Hz,3H)
【0106】
13C−NMR(100MHz,THF−d
8/D
2O=5/1):δ(ppm)=173.8, 165.5, 147.3, 143.6, 140.6, 135.5, 129.8, 101.2, 87.7, 77.5, 75.7, 65.4, 34.6, 32.8, 30.1−30.6, 23.5, 14.5
【0107】
[実施例2]
TFA溶媒中での2´,3´−ジパルミトイル−β―NMNの合成
【0108】
【化4】
【0109】
上記一般式(3)で表されるβ−ニコチンアミドモノヌクレオチド(β−NMN、0.135g、0.40mmol)を、強酸性液体であるトリフルオロ酢酸(TFA、5.3mL、pKa=−0.25)に加えて完全に溶解させ、室温(23℃)でアシル化剤としてパルミトイルクロリド(PaCl、0.224g、0.81mmol)を加えて1時間撹拌した。その後、パルミトイルクロリド(PaCl、0.220g、0.80mmol)を追添して、さらに3.5時間撹拌し、合計で4.5時間アシル化反応させた。
【0110】
アシル化反応の終了後に得られた反応液を一部サンプリングし、
参考例1と同様にして、転化率と上記一般式(3−1)〜(3−3)で表される化合物それぞれの収率を求めた。その結果を表1に示す。
【0111】
アシル化反応の終了後に得られた反応液に対して、後処理として濃縮乾固し(TFAの除去)、ヘキサン20mLを加えて、アセトニトリル(30mL)を用いて15回洗浄し(パルミチン酸の消失をHPLC分析条件1で定量して確認)、ヘキサン層を濃縮することで白色固体を得た。得られた白色固体を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲルおよびイオン交換樹脂)を組み合わせて精製することで、主成分として、目的物である上記一般式(3−3)で表される2´,3´−ジパルミトイル−β−ニコチンアミドモノヌクレオチド(2´,3´−Dipalmitoyl−β―NMN)を白色固体として得た(0.151g、単離収率46%)。
【0112】
表1に、実施例2で使用したアシル化剤、アシル化剤とNMNとのモル比(アシル化剤/NMN)、溶媒、主成分の単離収率を示す。
目的物の構造は、各種NMR測定(
1H−NMR、
13C−NMR、
13C DEPT135、
1H−
1H−COSY)を行うことで確認した。また、糖骨格の1´位プロトンのケミカルシフトから、エピマー化していないことを確認し、β−NMN構造を保持していることが分かった。
得られた2´,3´−Dipalmitoyl−β―NMNの
1H−NMRおよび
13C−NMRデータを以下に示す。
【0113】
1H−NMR(400MHz,THF−d
8,50℃):δ(ppm)=9.61(s,1H),9.38(d,J=8.0Hz,1H),9.15(d,J=8.0Hz,1H),8.42(dd,J=8.0 and 8.0Hz,1H),6.57(d,J=4.0Hz,1H),5.64(dd,J=4.0 and 4.0Hz,1H),5.54(d,J=4.0Hz,1H),4.62(m,1H),4.15−4.37(m,2H),2.38(m,4H),1.60(m,4H),1.30(m,48H),0.89(t,J=4.0Hz,6H)
【0114】
13C−NMR(100MHz,THF−d
8,50℃):δ(ppm)=174.6, 166.3, 148.1, 144.4, 141.4, 136.3, 130.6, 99.3, 88.5, 77.7, 71.5, 65.6, 34.6, 33.0, 30.3−30.9, 23.7, 14.7
【0115】
【表1】
【0116】
表1に示すように、アシル化剤であるパルミトイルクロリドをNMNに対して2倍モル量用いた
参考例1では、3´−パルミトイル−β−NMNが主生成物として得られた。
また、パルミトイルクロリドをNMNに対して4倍モル量用いた実施例2では、2´,3´−ジパルミトイル−β−NMNが主生成物として得られた。
表1に示すように、アシル化剤であるパルミトイルクロリドの使用量を調整することで、糖骨格の3´位の水酸基がアシル化された化合物(3´−アシル化体)と、2´位の水酸基がアシル化された化合物(2´−アシル化体)と、3´位および2´位の水酸基がアシル化された化合物(2´,3´−ジアシル化体)との生成比率を変化させることができた。
【0117】
[
参考例3][
参考例5][
参考例7]
表1に示すアシル化剤を用いたこと以外は、
参考例1と同様にしてアシル化反応を行い、
参考例1と同様にして、転化率と生成物の収率を求めた。その結果を表1に示す。
また、アシル化反応の終了後に得られた反応液に対して、
参考例1と同様にして後処理を行い、後処理後の生成物を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲルおよびイオン交換樹脂)を組み合わせて精製することで、目的物である表1に示す主成分を白色固体として得た。
【0118】
表1に、
参考例3、5、7で使用したアシル化剤、アシル化剤とNMNとのモル比(アシル化剤/NMN)、溶媒、主成分の単離収率を示す。
参考例3、5、7の目的物の構造は、
参考例1と同様にして確認した。
1H−NMRおよび
13C−NMRデータを以下に示す。
【0119】
(
参考例3)3´−ラウロイル−β―NMN
1H−NMR(400MHz,THF−d
8/D
2O=5/1):δ(ppm)=9.50(s,1H),9.29(d,J=8.0Hz,1H),9.03(d,J=8.0Hz,1H),8.38(dd,J=8.0 and 8.0Hz,1H),6.11(d,J=4.0Hz,1H),5.43(d,J=4.0Hz,1H),4.78(dd,J=4.0 and 4.0Hz,1H),4.59(m,1H),4.04−4.32(m,2H),2.44(m,2H),1.61(m,2H),1.27(m,16H),0.85(t,J=4.0Hz,3H)
【0120】
13C−NMR(100MHz,THF−d
8/D
2O=5/1):δ(ppm)=173.8, 165.5, 147.3, 143.6, 140.6, 135.5, 129.8, 101.2, 87.8, 77.5, 75.7, 65.4, 34.6, 32.8, 30.0−30.6, 23.6, 14.5
【0121】
(
参考例5)3´−オクタノイル−β―NMN
1H−NMR(400MHz,THF−d
8/D
2O=5/1):δ(ppm)=9.50(s,1H),9.29(d,J=8.0Hz,1H),9.01(d,J=8.0Hz,1H),8.38(dd,J=8.0 and 8.0Hz,1H),6.11(d,J=4.0Hz,1H),5.43(d,J=4.0Hz,1H),4.78(dd,J=4.0 and 4.0Hz,1H),4.59(m,1H),4.06−4.33(m,2H),2.42(m,2H),1.62(m,2H),1.27(m,8H),0.86(t,J=4.0Hz,3H)
【0122】
13C−NMR(100MHz,THF−d
8/D
2O=5/1):δ(ppm)=173.8, 165.5, 147.3, 143.5, 140.6, 135.5, 129.8, 101.2, 87.7, 77.5, 75.7, 65.4, 34.5, 32.8, 30.2−30.6, 23.6, 14.6
【0123】
(
参考例7)3´−ヘキサノイル−β―NMN
1H−NMR(400MHz,THF−d
8/D
2O=5/1):δ(ppm)=9.50(s,1H),9.29(d,J=8.0Hz,1H),9.02(d,J=8.0Hz,1H),8.38(dd,J=8.0 and 8.0Hz,1H),6.11(d,J=4.0Hz,1H),5.43(d,J=4.0Hz,1H),4.78(dd,J=4.0 and 4.0Hz,1H),4.59(m,1H),4.06−4.30(m,2H),2.44(m,2H),1.63(m,2H),1.27(m,4H),0.86(t,J=4.0Hz,3H)
【0124】
13C−NMR(100MHz,THF−d
8/D
2O=5/1):δ(ppm)=173.8, 165.7, 147.3, 143.6, 140.6, 135.5, 129.8, 101.2, 87.7, 77.5, 75.7, 65.4, 34.6, 32.9, 30.3−30.5, 23.5, 14.6
【0125】
[実施例4][実施例6][実施例8]
表1に示すアシル化剤を用いたこと以外は、実施例2と同様にしてアシル化反応を行い、実施例2と同様にして、転化率と生成物の収率を求めた。その結果を表1に示す。
また、アシル化反応の終了後に得られた反応液に対して、実施例2と同様にして後処理を行い、後処理後の生成物を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲルおよびイオン交換樹脂)を組み合わせて精製することで、目的物である表1に示す主成分を白色固体として得た。
【0126】
表1に、実施例4、6、8で使用したアシル化剤、アシル化剤とNMNとのモル比(アシル化剤/NMN)、溶媒、主成分の単離収率を示す。
実施例4、6、8の目的物の構造は、
参考例1と同様にして確認した。
1H−NMRおよび
13C−NMRデータを以下に示す。
【0127】
(実施例4)2´,3´−ジラウロイル−β―NMN
1H−NMR(400MHz,THF−d
8,50℃):δ(ppm)=9.61(s,1H),9.38(d,J=8.0Hz,1H),9.15(d,J=8.0Hz,1H),8.42(dd,J=8.0 and 8.0Hz,1H),6.57(d,J=4.0Hz,1H),5.64(dd,J=4.0 and 4.0Hz,1H),5.54(d,J=4.0Hz,1H),4.62(m,1H),4.15−4.37(m,2H),2.38(m,4H),1.61(m,4H),1.32(m,32H),0.88(t,J=4.0Hz,6H)
【0128】
13C−NMR(100MHz,THF−d
8,50℃):δ(ppm)=174.6, 166.3, 148.1, 144.4, 141.4, 136.3, 130.6, 99.3, 88.5, 77.7, 71.5, 65.6, 34.6, 33.0, 30.2−30.9, 23.8, 14.9
【0129】
(実施例6)2´,3´−ジオクタノイル−β―NMN
1H−NMR(400MHz,THF−d
8,50℃):δ(ppm)=9.61(s,1H),9.38(d,J=8.0Hz,1H),9.15(d,J=8.0Hz,1H),8.42(dd,J=8.0 and 8.0Hz,1H),6.57(d,J=4.0Hz,1H),5.64(dd,J=4.0 and 4.0Hz,1H),5.54(d,J=4.0Hz,1H),4.62(m,1H),4.15−4.37(m,2H),2.39(m,4H),1.61(m,4H),1.31(m,16H),0.90(t,J=4.0Hz,6H)
【0130】
13C−NMR(100MHz,THF−d
8,50℃):δ(ppm)=174.6, 166.3, 148.1, 144.4, 141.4, 136.3, 130.6, 99.3, 88.5, 77.7, 71.5, 65.6, 34.6, 33.0, 30.5−30.9, 23.9, 14.8
【0131】
(実施例8)2´,3´−ジヘキサノイル−β―NMN
1H−NMR(400MHz,THF−d
8,50℃):δ(ppm)=9.61(s,1H),9.38(d,J=8.0Hz,1H),9.15(d,J=8.0Hz,1H),8.42(dd,J=8.0 and 8.0Hz,1H),6.57(d,J=4.0Hz,1H),5.64(dd,J=4.0 and 4.0Hz,1H),5.54(d,J=4.0Hz,1H),4.62(m,1H),4.15−4.37(m,2H),2.39(m,4H),1.62(m,4H),1.32(m,8H),0.88(t,J=4.0Hz,6H)
【0132】
13C−NMR(100MHz,THF−d
8,50℃):δ(ppm)=174.6, 166.3, 148.1, 144.4, 141.4, 136.3, 130.6, 99.3, 88.5, 77.7, 71.5, 65.6, 34.6, 33.0, 30.3−30.7, 23.6, 14.6
【0133】
表1に示すように、アシル化剤としてカルボン酸塩化物を用いた場合、アシル化剤をNMNに対して2倍モル量用いた
参考例3、5、7では、NMNの3´−アシル化体が主生成物(主成分)として得られた。
また、カルボン酸塩化物をNMNに対して4倍モル量用いた実施例4、6、8では、NMNの2´,3´−ジアシル化体が主生成物として得られた。
表1に示すように、アシル化剤であるカルボン酸塩化物の使用量を調整することで、3´−アシル化体と、2´−アシル化体と、2´,3´−ジアシル化体との生成比率を変化させることができた。
【0134】
[実施例9]
硫酸溶媒中での3´−パルミトイル−β―NMNの合成
β−ニコチンアミドモノヌクレオチド(β−NMN、0.133g、0.40mmol)を、強酸性液体である濃硫酸(H
2SO
4、8.0mL、pKaは酸性が強すぎて水中では測定できない)に加えて完全に溶解させ、40℃でアシル化剤としてパルミチン酸(PaOH、0.410g、1.60mmol)を加えて12時間撹拌し、アシル化反応させた。
【0135】
アシル化反応の終了後に得られた反応液を一部サンプリングし、HPLC分析条件1で生成物を定量し、HPLC分析条件2で原料を定量し、転化率と生成物の収率を求めた。その結果を表1に示す。
表1に、実施例9で使用したアシル化剤、アシル化剤とNMNとのモル比(アシル化剤/NMN)、溶媒を示す。
また、実施例9の生成物の構造を、
1H−NMRおよび
13C−NMR測定を行うことにより確認した。その結果、3´−パルミトイル−β―NMNが主成分であった。
【0136】
表1に示すように、強酸性液体として硫酸を用い、アシル化剤としてパルミチン酸を用いて、表1に示すアシル化剤とNMNとのモル比で、NMNをアシル化反応させることで、3´−パルミトイル−β―NMNが主生成物として得られた。
【0137】
[比較例1]
DMF溶媒中でのパルミトイル化反応
β−ニコチンアミドモノヌクレオチド(β−NMN、0.050g、0.15mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF、3.0mL)に懸濁させて、ピリジン(0.144g、1.83mmol)を加えて、すぐに60℃でパルミトイルクロリド(PaCl、0.085g、0.31mmol)を加えて3時間撹拌した。その後、パルミトイルクロリド(PaCl、0.165g、0.60mmol)を追添して、さらに3時間撹拌し、合計で6時間反応させた。
【0138】
反応の終了後に得られた反応液を一部サンプリングし、HPLC分析条件1で生成物を定量し、HPLC分析条件2で原料を定量し、転化率と生成物の収率を求めた。その結果を表1に示す。
また、反応の終了後に得られた反応液を過剰量の水に滴下し、析出してきた白色固体をろ過で除去した(パルミチン酸の除去)。ろ液を濃縮し、真空乾燥して残った褐色固体を回収した。
【0139】
生成物の構造を、
1H−NMRおよび
13C−NMR測定を行うことにより確認した。その結果、NMNの分解物であるニコチン酸アミドが主成分であった。
表1に示すように、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを用いた場合、NMNのアシル化体は得られなかった。
【0140】
[合成例1]
無水酢酸による2´,3´−ジアセチル−β―NMNの合成
アシル化剤である無水酢酸(8.68g、85.0mmol)とピリジン(7.84g、99.1mmol)との混合液を0℃に冷却し、ここにβ−ニコチンアミドモノヌクレオチド(β−NMN、0.254g、0.76mmol)を溶解させた水溶液(0.8mL)を加えた。HPLCで反応をモニタリングしながら、0℃で3時間撹拌した。
【0141】
反応後、溶媒を濃縮し、水10mLを加えて再び濃縮する操作を繰り返して残留する無水酢酸とピリジンを除去した。得られた残渣をメタノール(2.0mL)に溶解後、氷冷したジエチルエーテル(40mL)に滴下し、析出してきた固体をろ過で回収した。回収した固体を再びジエチルエーテルに懸濁させて洗浄後、真空乾燥することで、主成分として、目的物である2´,3´−ジアセチル−β−ニコチンアミドモノヌクレオチド(2´,3´−Diacetyl−β―NMN)を単離収率65%で得た。
1H−NMRおよび
13C−NMRを測定することで、生成物の構造同定を行った。
【0142】
<皮膚浸透性試験>
被験物質である
参考例1、3、5、7、実施例2、4、6、8および合成例1で得た化合物と、比較例2としてのβ−ニコチンアミドモノヌクレオチドとを、それぞれダルベッコPBS(−)溶液に溶解させて、得られた溶液のpHを水酸化ナトリウム水溶液および/または塩酸を用いて7.4に調整した後、濃度0.2質量%の試料溶液とした。
【0143】
PBS溶液(1mL)を入れた6ウェルプレートに、三次元培養ヒト皮膚モデル(クラボウ社製「EPI−606X」)(面積3.8cm
2)を、その下部が浸るようにセットした。そして、37℃、二酸化炭素濃度5%の条件でインキュベーター中において30分間静置した。次いで、皮膚モデルの下部ウェル内のPBS溶液をHBSS(−)溶液(ハンクス溶液)(1mL)に置換し(以下、これを「レシーバー液」と称する)、上記で得られた試料溶液(700μL)を皮膚モデル上に投与した。そして、37℃、二酸化炭素濃度5%の条件でインキュベーター中において24時間静置した。
【0144】
24時間静置後、ピペットを用いて皮膚モデル上の試料溶液を除去した後、皮膚モデルをウェルから取り出し、PBS(−)溶液で洗浄した。次いで、皮膚モデルの切片を切り出し、2mLチューブに入れた。このチューブにメタノール(1mL)とステンレスビーズ(TOMY社製、直径5.5mm)を加え、MULTI BEADS SHOCKER(安井器械社製)を用いて、2000rpm、10秒、10回の条件で前記切片を破砕した。
破砕後、得られた溶液を2mLエッペンチューブに移し、12000rpmで5分間遠心して、上清をフィルター(孔径0.22μm)でろ過し、皮膚モデル抽出液を得た。
【0145】
次いで、皮膚モデル抽出液およびレシーバー液中の被験物質を、各被験物質ごとに上述のHPLC分析条件1により定量した。皮膚モデル抽出液中の被験物質の定量値より、各ウェル内で皮膚モデルの吸収した被験物質の全量を算出した。また、レシーバー液中の被験物質の定量値を、皮膚モデルを透過した被験物質量とした。そして、皮膚モデルの吸収した被験物質の全量と、皮膚モデルを透過した被験物質量との合計値A(μg)を算出した。
そして、下記式(i)により、皮膚モデルに投与した被験物質について、それぞれ皮膚モデルへの浸透率(%)を算出した。さらに、各被験物質毎に3回ずつ上記の皮膚浸透性試験を行い、それぞれ浸透率(%)を算出した。結果を表2に示す。また、表2に、
参考例1、3、5、7、実施例2、4、6、8および合成例1で得た化合物の主成分を示す。なお、表2に示す浸透率の欄における(±)の前の数値は、3回の結果の平均値であり、(±)の後の数値は、3回の結果のバラつき範囲である。
浸透率(%)=(A/1400(皮膚モデルに投与した被験物質量(μg)))×100 ・・・・(i)
【0146】
【表2】
【0147】
表2に示すように、
参考例1、3、5、7、実施例2、4、6、8で得た化合物であるアシル化されたβ−NMN誘導体は、アシル化されていない比較例2のβ−NMNと比較して、浸透率が高かった。
特に、
参考例1、3、5、7、実施例2、4、6、8のうち、NMNの糖骨格に配置されたアシル基の炭素数が多い
参考例1および実施例2(炭素数16)、
参考例3および実施例4(炭素数12)では、浸透率が高かった。
【0148】
これに対し、合成例1で得た化合物であるアシル化されたβ−NMN誘導体は、NMNの糖骨格の3´位および2´位に配置されたアシル基の炭素数が少ない(炭素数2)ため、アシル化されていない比較例2のβ−NMNと同等の浸透率であった。
このように、本発明に係る化合物は、β−NMN誘導体の中でも、浸透率が顕著に高く、皮膚外用剤の有効成分として極めて優れていることが示された。
【0149】
<水溶解性試験>
被験物質として、
参考例1、3、5、7、実施例2、4、6、8および合成例1で得た化合物と、比較例2としてのβ−ニコチンアミドモノヌクレオチドを用い、以下に示す手順で、各被験物質の水への溶解性を調べた。
100mLのガラスバイアルに、各被験物質を1g、0.1g、0.01gずつ量り取った。そこに精製水100mL加え、よく撹拌したのち静置し、16時間後に溶液の様子を、以下に示す基準により目視判定した。その結果を表3に示す。また、表3に、
参考例1、3、5、7、実施例2、4、6、8および合成例1で得た化合物の主成分を示す。
【0150】
「基準」
○:澄明
△:濁りあり,沈殿なし
×:沈殿あり
【0151】
【表3】
【0152】
表3に示すように、
参考例1、3、5、7、実施例2、4、6、8で得た化合物であるアシル化されたβ−NMN誘導体は、0.01g/100mLである場合の評価が全て「○」となり、十分な水溶性を有していることが確認できた。
特に、
参考例1、3、5、7、実施例2、4、6、8のうち、NMNの糖骨格の配置されたアシル基の炭素数が少ない
参考例3および実施例4(炭素数12)、
参考例5および実施例6(炭素数8)、
参考例7および実施例8(炭素数6)では、1g/100mL、0.1g/100mL、0.01g/100mLの全ての評価が「○」であり、水溶性が高かった。
【0153】
[実施例10]
2´,3´−ジパルミトイル−β−NMN塩酸塩の調製
実施例2で作製した2´,3´−ジパルミトイル−β−ニコチンアミドモノヌクレオチドを減圧処理し、水分を充分に除去した。水分を除去後の2´,3´−ジパルミトイル−β−ニコチンアミドモノヌクレオチド(0.050g、0.062mmol)に対して、窒素雰囲気下で3mLの塩化水素(4mol/L、1,4−ジオキサン溶液(東京化成工業株式会社))を加えて溶解させて、10分間撹拌した。撹拌後、減圧濃縮を行い、余剰の塩化水素(4mol/L、1,4−ジオキサン溶液)を留去した。留去後の残渣を真空乾燥することで目的物である2´,3´−ジパルミトイル−β―NMN塩酸塩を白色固体として得た(0.052g、0.062mmol)。
【0154】
得られた2´,3´−ジパルミトイル−β―NMN塩酸塩中の塩化物イオン濃度をイオンクロマトグラフ法により下記の条件で定量した。その結果、NMN誘導体がカチオンになったものと、塩化水素に由来するアニオン(Cl
−)とが、ほぼ1:1のモル数で塩を形成していることを確認した。
【0155】
(イオンクロマトグラフ分析条件)
カラム:Dionex Ion Pack AS12A(商品名:ダイオネクス社製)
溶離液:2.7mM炭酸ナトリウム水溶液/0.3mM炭酸水素ナトリウム水溶液
流速:1.2mL/min
カラム温度:40℃
検出器:電気伝導度
【0156】
[実施例11]
2´,3´−ジパルミトイル−β−NMNナトリウム塩の調製
実施例2で作製した2´,3´−ジパルミトイル−β−ニコチンアミドモノヌクレオチドを減圧処理し、水分を充分に除去した。水分を除去後の2´,3´−ジパルミトイル−β−ニコチンアミドモノヌクレオチド(0.050g、0.062mmol)に対して、メタノール3mLを加えた後、室温で撹拌しながら0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液(0.062mmol、6.2mL、純正化学株式会社)を加えて、10分間撹拌した。その後、室温で濃縮乾固させることで、目的物である2´,3´−ジパルミトイル−β―NMNナトリウム塩を白色固体として得た(0.052g、0.062mmol)。
【0157】
得られた2´,3´−ジパルミトイル−β―NMNナトリウム塩中のナトリウムイオン濃度を、イオンクロマトグラフ法により下記の条件で定量した。その結果、NMN誘導体がアニオンになったものと、水酸化ナトリウムに由来するカチオン(Na
+)とが、ほぼ1:1のモル数で塩を形成していることを確認した。
【0158】
(イオンクロマトグラフ分析条件)
カラム:Dionex Ion Pack CS12A(商品名:ダイオネクス社製)
溶離液:20mMメタンスルホン酸水溶液
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:電気伝導度
【0159】
実施例11で得た2´,3´−ジパルミトイル−β―NMNナトリウム塩を被験物質として用い、
参考例1と同様にして、皮膚浸透性試験と水溶解性試験とを行った。皮膚浸透性試験の結果を表2に示す。また、水溶解性試験の結果を表3に示す。
【0160】
表2に示すように、実施例11で得た化合物(アシル化されたβ−NMN誘導体の塩)は、アシル化されていない比較例2のβ−NMNと比較して、浸透率が高かった。また、表3に示すように、実施例11で得た化合物は、0.01g/100mLである場合の評価が「○」であり、十分な水溶性を有していることが確認できた。