特許第6803862号(P6803862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6803862防潮扉自動制御システムおよび防潮扉自動制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803862
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】防潮扉自動制御システムおよび防潮扉自動制御方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/20 20060101AFI20201214BHJP
   G08B 25/00 20060101ALI20201214BHJP
   G08B 21/10 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   E02B7/20 104
   G08B25/00 510M
   G08B21/10
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-254(P2018-254)
(22)【出願日】2018年1月4日
(65)【公開番号】特開2019-120036(P2019-120036A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2020年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三原 雅人
(72)【発明者】
【氏名】原 直樹
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−278122(JP,A)
【文献】 特開2016−199930(JP,A)
【文献】 特開2007−332534(JP,A)
【文献】 特開平11−343617(JP,A)
【文献】 特開2016−108763(JP,A)
【文献】 特開平11−336057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20
G08B 21/10
G08B 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水門または陸閘よりなる防潮扉を、災害の発生により閉鎖する防潮扉自動制御システムであり、
緊急信号を受信して、受信した緊急信号の緊急度を判定する緊急度判定部と、
前記防潮扉の閉鎖を警告する警報出力部と、
前記防潮扉を撮影したカメラの画像から異物を検出する画像処理部と、
前記画像処理部が検出した異物の移動の有無を判定する異物判定部と、
前記防潮扉の扉を作動させる動力部を制御する信号を送信し、前記警報出力部による告知を制御する制御部と、
閉鎖中の前記防潮扉の異常または閉鎖の完了を判定する防潮扉異常判定部と、
前記緊急度判定部および前記防潮扉異常判定部の情報に基づいて、前記防潮扉の制御状態を判断し、判断した制御状態とする指示を前記制御部に行う自動制御判断部と、を備える
防潮扉自動制御システム。
【請求項2】
前記自動制御判断部は、前記異物判定部が前記防潮扉の付近に異物の存在を判定した場合に、異物と一定の距離まで前記防潮扉の扉を閉鎖する指示を前記制御部に行う
請求項1に記載の防潮扉自動制御システム。
【請求項3】
前記自動制御判断部は、異物の存在によって前記水門の扉の閉鎖が完了せず、前記防潮扉異常判定部が異常を判定した場合、一度前記水門の扉を開き、再度閉鎖することによって前記異物の排除を試みる
請求項1に記載の防潮扉自動制御システム。
【請求項4】
前記自動制御判断部は、一度前記水門の扉を開いた後の再度の閉鎖で、異物を排除できず、再び前記防潮扉異常判定部が異常を判定した場合、前記動力部による操作によって強制的に前記水門の扉を閉鎖する
請求項3に記載の防潮扉自動制御システム。
【請求項5】
前記防潮扉異常判定部は、前記陸閘の扉の全閉にかかる予定の時間を取得または算出し、その得られた予定時間以内に前記陸閘に設置した開閉センサからの全閉信号がないとき異常を判定する
請求項1に記載の防潮扉自動制御システム。
【請求項6】
前記自動制御判断部は、前記緊急度判定部が判定した緊急度が低い場合の処理によって前記水門の扉の閉鎖を実行中に、前記緊急度判定部が緊急度の高い情報を受信した場合、実行中の緊急度が低い処理を中断し、緊急度が高い処理によって前記水門の扉の閉鎖を実行する
請求項1に記載の防潮扉自動制御システム。
【請求項7】
水門または陸閘よりなる防潮扉を、災害の発生により閉鎖する防潮扉自動制御方法において、
緊急信号を受信して、受信した緊急信号の緊急度を判定する緊急度判定処理と、
前記防潮扉の閉鎖を警告する警報出力処理と、
前記防潮扉を撮影したカメラの画像から異物を検出する画像処理と、
前記画像処理により検出した異物の移動の有無を判定する異物判定処理と、
前記防潮扉の扉を作動させる動力部を制御する信号を送信し、前記警報出力処理による告知を制御する制御処理と、
閉鎖中の前記防潮扉の異常または閉鎖の完了を判定する防潮扉異常判定処理と、
前記緊急度判定処理および前記防潮扉異常判定処理で得られた情報に基づいて、前記防潮扉の制御状態を判断し、判断した制御状態とする指示を行う自動制御判断処理と、を含む
防潮扉自動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防潮扉自動制御システムおよび防潮扉自動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、津波や高潮による海水や河川の逆流を防ぐために設置された水門や陸閘などの防潮扉は、津波や高潮などの災害発生時に、管理者が閉鎖する操作を行っていた。
しかしながら、近年では災害発生時に迅速かつ確実に避難情報の告知や重要施設等の防護を行うため、防災設備の自動制御化が進んでいる。水門や陸閘などの防潮扉では、管理者がいる操作拠点との通信路が地震や悪天候により切断された場合でも、機側の自動制御により津波が到達する前に扉を閉鎖し、被害を軽減することが求められている。
【0003】
このため、防潮扉を自動制御するにあたり船舶や車、人の往来や障害物などの異物をカメラやセンサで検知し、防潮扉の制御に役立てる技術が提案されている。例えば、特許文献1には、防潮扉にカメラやセンサを設置して、防潮扉を監視するセンタで防潮扉の状態を確認した上で、防潮扉を操作する作業員に、閉鎖などの指示を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−278122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術は、センタ側で多数の防潮扉を制御できる点で優れているが、カメラやセンサによって防潮扉に異物が発見された場合、その異物の除去は、現場にいる作業員に頼っている。しかし、実際の津波接近時には、地震による通信路の破壊や管理者の不在等によって遠隔制御ができない場合や、津波の接近によって作業員が防潮扉に近づくことができないことが考えられる。このような場合には、防潮扉を閉鎖することができない状況が発生してしまう。
【0006】
本発明の目的は、異物の有無や管理者による遠隔での確認や操作に頼ることなく、機側での自動制御によって防潮扉を閉鎖することができる防潮扉自動制御システムおよび防潮扉自動制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本発明は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、水門または陸閘よりなる防潮扉を、災害の発生により閉鎖する防潮扉自動制御システムである。
この防潮扉自動制御システムは、緊急信号を受信して、受信した緊急信号の緊急度を判定する緊急度判定部と、防潮扉の閉鎖を警告する警報出力部と、防潮扉を撮影したカメラの画像から異物を検出する画像処理部と、画像処理部が検出した異物の移動の有無を判定する異物判定部と、防潮扉の扉を作動させる動力部を制御する信号を送信し、警報出力部による告知を制御する制御部と、閉鎖中の防潮扉の異常または閉鎖の完了を判定する防潮扉異常判定部と、緊急度判定部および防潮扉異常判定部の情報に基づいて、防潮扉の制御状態を判断し、判断した制御状態とする指示を制御部に行う自動制御判断部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、異物の有無や管理者による遠隔での確認や操作に頼ることなく機側での自動制御によって、防潮扉を閉鎖することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態例による防潮扉自動制御システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施の形態例による水門と陸閘の設置位置を概略的に示す構成図である。
図3】本発明の一実施の形態例による水門およびその周辺構成を概略的に示す構成図である。
図4】本発明の一実施の形態例による陸閘およびその周辺構成を概略的に示す構成図である。
図5】本発明の一実施の形態例による画像処理部での水門付近の異物の検出状態の一例を示す図である。
図6】本発明の一実施の形態例による画像処理部での陸閘付近の異物の検出状態の一例を示す図である。
図7】本発明の一実施の形態例による緊急度判定部の緊急度判定処理に用いるデータ例を示す図である。
図8】本発明の一実施の形態例による水門の自動制御処理例(その1)を示すフローチャートである。
図9】本発明の一実施の形態例による水門の自動制御処理例(その2)を示すフローチャートである。
図10】本発明の一実施の形態例による陸閘の自動制御処理例を示すフローチャートである。
図11】本発明の一実施の形態例による異物判定部での処理例を示すフローチャートである。
図12】本発明の一実施の形態例による防潮扉異常判定部での処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」と称する)を、添付図面を参照して説明する。
【0011】
[1.防潮扉自動制御システムの構成例]
図1は、本例の防潮扉自動制御システムの全体構成を示す。図1に示す防潮扉自動制御システムは、例えば図2に示す水門1と陸閘2を制御するものである。なお、本明細書で述べる防潮扉は、水門の扉と陸閘の扉の双方を含む。
【0012】
まず、図2を参照して、水門1と陸閘2の設置状況の例を説明する。図2に示す例では、津波750や高潮から市街地790、港湾施設720、並びに港湾760に停泊する船舶710を防護するため、海770に面する部分に防潮堤730が設置されている。そして、船舶710が出入りする港湾760と海770の境界に水門1が設置されている。
また、市街地790と海岸部780の境界には、人や車が出入りするための陸閘2が設置されている。
【0013】
防潮堤730は、高さが例えば6m程度であり、鉄筋コンクリート製で建設され、津波750に対して十分な強度を持つ。
防潮堤730には、閉鎖後も人の出入りができるように階段740が設置されている。
【0014】
図3は、水門1とその周辺設備の構成の一例を示す。
水門1は、例えば港の船舶710(図2)の出入り口や河川などに設置される。
例えば、水門1は、幅W11が10m、扉820の高さH11が10m、揚程H13が6mである。また、海面850と海底860は深さH12が2mである。扉820は、ステンレスなどで製造され、津波750(図2)の衝突に対して十分な強度を持つ。
水門1の扉820は、平常時には全開にされている。扉820を全閉にするためには、扉820を揚程H13と深さH12の和である8m降下させる必要がある。
【0015】
水門1の扉820の操作には、開操作、閉操作、自重閉鎖、および停止の4種類の操作がある。
開操作および閉操作は、扉820を建屋810に設置されているモータなどの水門動力部330(図1)の動力によって扉820を上下させる。
自重閉鎖は、水門1の扉820の自重によって、扉820を降下させる操作である。自重では1分当たり1m、動力では1分当たり0.3mの速さで扉820を動かすことができる。
【0016】
水門1の扉820の上部に設置された建屋810には、水門1を制御する機側制御装置100(図1)が設置されている。この機側制御装置100は、水門1の付近にある陸閘2の制御も水門1の制御と同時に行う。また、建屋810には、水門動力部330(図1)が設置されている。
水門1の付近には、カメラ220が設置され、船舶710(図2)や漂流物などの異物や扉820の開閉状態を撮影している。撮影した画像は、遠隔操作拠点400に設置された操作監視端末410(図1)によって閲覧することができる。
【0017】
水門1に設置されたスピーカ510は、扉820の閉鎖や退避を音声で警告する警報出力処理を行う。
水門1に設置されたパトランプ520は、扉820の閉鎖をする際に点灯させることで周囲に警告する警報出力処理を行う。これらのスピーカ510やパトランプ520は、扉820の閉鎖を、水門1の周囲の人に警告する警報出力部として機能する。
また、水門1には、扉820の開度を検出する計測器340(図1)が設置されている。さらに、水門1には、異物検知部210が設置されている。
【0018】
図4は、陸閘2とその周辺設備の構成の一例を示す。
陸閘2は、例えば高さH21が5.5mで開閉幅W21が6mの扉920を備える。開閉幅W21は、防潮堤端(左側)1230と防潮堤端(右側)1240の間の距離を示し、陸閘2の扉920が全開の場合は、扉920の陸閘扉先端部1260が、防潮堤端(右側)1240と同じ位置になる。
【0019】
扉920は例えばステンレス製であり、津波750の衝突に対して十分な強度を持つ。
扉920は、筐体950に内蔵された陸閘動力部310(図1)によって、開操作、閉操作、および停止をすることができる。動力による扉920の開閉は、例えば1分当たり0.5mの速さで行うことができる。
【0020】
カメラ220は水門1と同様に扉920の開閉状態や人、車の往来を撮影している。
また、スピーカ510とパトランプ520が設置され、扉920の閉鎖や退避を音声または光で警告することができる。
また、陸閘2には、扉920の開閉を検出する開閉センサ320(図1)が設置されている。さらに、図4には示さないが、陸閘2にも水門1と同様に異物検知部210(図3参照)が設置されている。
なお、本例の場合には、水門1の建屋810にある機側制御装置100が、陸閘2の制御も行うようにしたが、機側制御装置100とは別に、陸閘2側に陸閘2を制御する装置を設置してもよい。
【0021】
次に、図1を参照して、水門動力部330と陸閘動力部310を制御するための機側制御装置100の構成について説明する。
機側制御装置100は、例えばPLC(programmable logic controller)などと称される制御用コントローラであり、水門1の建屋810の中に設置されている。機側制御装置100は、陸閘動力部310や開閉センサ320などの陸閘2の設備とも接続されており、一台で複数の水門1や陸閘2を制御することができる。
この機側制御装置100は、水門1や陸閘2とは離れた場所に設置された遠隔操作拠点400と通信を行う。遠隔操作拠点400には、操作監視端末410と、記憶装置420と、マイク430とが設置され、記憶装置420が記憶した履歴や各種計測値に基づいて、操作監視端末410が水門1や陸閘2を遠隔制御する。また、遠隔操作拠点400のマイク430を使って、水門1や陸閘2に設置されたスピーカ510から警告音声を出力させることもできる。
【0022】
機側制御装置100に設置された制御部170は、水門動力部330に開操作・閉操作・自重閉鎖・停止の指示を行う信号を送信する。また、制御部170は、陸閘動力部310に、開操作・閉操作・停止の指示を行う信号を送信する。これらの指示を行う信号は、自動操作による運用がされている場合には、自動制御判断部140からの指示によって制御部170から出力される。また、遠隔操作により運用されている場合には、操作監視端末410からの指示によって制御部170から出力される。
【0023】
制御部170は、アラーム受信機10が受信した警報などの信号や、水位計20、震度計30、流向計40、開閉センサ320、および計測器340の計測結果を操作監視端末410に送信する制御処理を行う。アラーム受信機10は、例えばJ−Alert受信機と称される全国瞬時警報システムが発する災害などの警報を受信する。
カメラ220は、水門1や陸閘2付近に設置され、水門1や陸閘2付近の異物や開閉状態を撮影しており、撮影した画像を画像処理部110へ送信する。
【0024】
記憶部160は、制御部170から水位計20などの計測値や操作履歴などの情報を取得して記憶する。これにより機側制御装置100と操作監視端末410で通信できない場合であっても、計測値や操作履歴を記憶でき、遠隔操作拠点400側の記憶装置420のバックアップの役割を果たすことができる。
【0025】
また、記憶部160には、緊急度判定部130が緊急情報や緊急度の判断を行う際に参照するデータベース(図7参照)が記憶されており、この記憶部160から緊急度判定部130に判定に必要なデータが送信される。
画像処理部110は、カメラ220が撮影した画像を処理し、異物の検出を行う。また、画像処理部110は、カメラ220が撮影した画像を操作監視端末410と異物判定部120へ送信する。
【0026】
ここで、カメラ220が撮影した画像から異物を検出する例を、図5および図6を参照して説明する。
図5は、水門1に設置されたカメラ220が撮影した画像を、画像処理部110が処理する例を示す。図5に示す画像は、水門1の扉820の真下を撮影している。このとき扉820は全開状態である。なお、図5に示すマス目は、画像の1単位の画素1110を示す。
【0027】
図5に示すように、画像処理部110は、海面1160上に異物1130が存在した場合、画素1110毎の輝度値によって異物1130の検出を行い、異物検出範囲1120を設定する。
画像処理部110は、異物検出頂点1140と海面1160との差の画素1110の数をカウントすることによって、検出した異物の高さH31を計測し、計測した異物の高さH31を異物判定部120へ送信する。また、画像処理部110は、異物検出範囲1120の画素1110の数を測定し、測定した画像数、すなわち異物1130の体積(大きさ)を異物判定部120へ送信する。
【0028】
図6は、陸閘2に設置されたカメラ220が撮影した画像を、画像処理部110が処理する例を示す。図6は、陸閘2を横方向から撮影した画像である。図6に示すマス目も、図5の例と同様に、画像の1単位の画素1110を示す。
扉920が全開のとき、陸閘扉先端部1260は、防潮堤端(右側)1240と同じ位置にある。画像処理部110は、図5で説明した場合と同様に、異物1210を検知すると異物検出範囲1220を設定する。
【0029】
さらに画像処理部110は、異物検出範囲1220の扉920側の先端を異物右端1250に設定し、画素1110をカウントすることにより、陸閘扉先端部1260と異物右端1250の間の距離(以下、「異物距離」という)W41を測定して、異物判定部120へ送信する。異物距離W41は、扉920の閉鎖が進むにつれ、陸閘扉先端部1260が異物右端1250へ移動するため小さくなっていく。
【0030】
異物検知部210は、例えば赤外線センサであり、異物1130(図5)や異物1210(図6)とその高さを検出でき、異物判定部120に通知する。異物検知部210はカメラ220が設置されている場合は、カメラ220によって代用することもできる。
異物判定部120は、画像処理部110における異物の検出を受信すると、それが静止物かどうかを判断する。具体的には、異物判定部120は、画像処理部110から送られてくる異物検出範囲1120の画素1110を一定時間監視することによって、大きな画素1110の変化がなければその異物1130は移動していない静止物とみなす。そして、異物判定部120は、自動制御判断部140へ異物1130の存在と検出した異物の高さH31を通知する。
【0031】
異物判定部120は、異物検知部210からの情報によっても異物1130の判定を行う。
機側制御装置100は、自動制御を行うためのトリガーを得るためにアラーム受信機10、水位計20、震度計30および流向計40と接続されている。これらの装置は、本例の場合、水門1付近に設置されている。
アラーム受信機10は、衛星回線や地上回線(インターネットやVPN)と接続され、気象庁が発表する津波警報や高潮警報などを受信でき、それらの情報を受信すると緊急度判定部130へ緊急信号を送信する。
【0032】
水位計20は、水門1付近に設置され、水位を測定して計測値を緊急度判定部130へ送信する。
震度計30は、水門1の建屋内810に設置され、発生した地震の震度を緊急度判定部130へ送信する。
流向計40は、水門1付近に設置され、水門1の扉820の真下の水の流れを測定しており、逆流が発生した場合、緊急度判定部130に逆流の発生を送信する。
【0033】
緊急度判定部130は、アラーム受信機10、水位計20、震度計30、および流向計40から情報を受信し、水門1や陸閘2の閉鎖を行う緊急信号に該当するか否かを判断する緊急度判定処理を行う。この判断で、閉鎖に該当する場合、緊急度判定部130は、さらにその緊急度を判定して、自動制御判断部140へ送信する。
【0034】
図7は、緊急度判定部130がアラーム受信機10、水位計20、震度計30、および流向計40から受信した情報が緊急信号に該当するかを判断するデータベースの一例である。この図7の表は記憶部160に記録されており、操作監視端末410から追加や変更等を行うことができる。
図7に示すデータベースでは、情報を受信する情報源ごとに緊急信号の種類と緊急度とが登録されている。
例えば、アラーム受信機10から大津波警報または津波警報を受信すると、緊急度判定部130は自動制御判断部140へ警報の発生と緊急度「低」を送信する。
【0035】
緊急度判定部130は、常に水位計20から水位の測定値を受信しており、その測定値が平常時より1m以上高い場合、緊急信号に該当すると判定して、自動制御判断部140へ水位超過の発生と緊急度「高」を送信する。
震度計30では、震度5強以上の揺れを検出したとき、緊急信号に該当すると判定して、自動制御判断部140へ緊急度「低」を送信する。
流向計40により逆流を検出した場合には、緊急信号に該当すると判定して、自動制御判断部140へ緊急度「高」を送信する。
【0036】
なお、図7に示すそれぞれの単独の情報源からの信号で緊急信号と判断する他に、複数の情報源から信号を同時に受信した際に緊急信号と判定することもできる。例えばアラーム受信機10から大津波警報を受信し、かつ震度計30から震度5強以上の揺れを受信した場合に、緊急度が「高」の緊急信号とみなすように登録することもできる。
【0037】
開閉センサ320は、陸閘2が全閉になったときに全閉信号を防潮扉異常判定部150へ送信する。
計測器340は、例えば開度計やトルクセンサである。計測器340は、水門1の扉820の開度をパーセントで表示する。例えば扉820が全開の場合は100%、半分閉じている場合は50%である。トルクセンサは、水門動力部330の異常なトルクを検出できる。計測器340は水門1の扉820の開度と水門動力部330に異常なトルクがかかった場合に、防潮扉異常判定部150へ異常を送信する。
【0038】
防潮扉異常判定部150は、開閉センサ320と計測器340の情報を受信し、水門1の扉820と陸閘2の扉920の閉鎖時に異常がないか否かを判定する。
防潮扉異常判定部150には、陸閘2の通常の閉鎖時間が記憶されている。例えば陸閘2の開閉幅W21は6m、閉鎖速度は1分あたり0.5mであるため、全開から全閉まで12分かかると記憶されている。
【0039】
防潮扉異常判定部150は、陸閘2の扉920が閉鎖を開始し、この所定の時間内で開閉センサ320から全閉信号が受信できなければ、陸閘2の異常を判定して、自動制御判断部140へ送信する。
また、防潮扉異常判定部150は、水門1の扉820の閉鎖中に計測器340からの開度に数値が全閉前に途中で停止した場合、または水門動力部330に異常なトルクがかかったことの信号を受信すると、水門1の異常を判定して、自動制御判断部140へ送信する。
自動制御判断部140は、異物判定部120、緊急度判定部130、および防潮扉異常判定部150からの情報を基に、水門1と陸閘2の自動制御を行う処理方法を判断し、制御部170に指示する。
【0040】
遠隔操作拠点400は、機側制御装置100から数キロメートル離れた位置にあり、ケーブルで接続され、相互に通信が可能である。遠隔操作拠点400には、本システムの管理者が常駐する。遠隔操作拠点400は複数あってもよい。
操作監視端末410は、例えばコンピュータ装置で構成され、カメラ220の画像や水門1と陸閘2の付近設備の状態やセンサの計測値などを監視し、制御部170に対して水門動力部330と陸閘動力部310の遠隔操作を行う。しかし、遠隔操作拠点400と機側制御装置100との間の通信が切断された場合は、操作監視端末410からの監視や操作を行うことはできない。
記憶装置420は、例えばハードディスクであり、カメラ220が撮影した画像や操作監視端末410の操作履歴、制御部170の操作履歴、水位計20や計測器340などのセンサの計測値などを記録している。
マイク430は、水門1や陸閘2付近に設置されているスピーカ510から音声を出力できる。
【0041】
[2.防潮扉を制御する具体的な例]
以下、防潮扉自動制御システムによる防潮扉の制御例について、図8図12のフローチャートを参照して説明する。
図8および図9は、機側制御装置100が水門1の自動制御を行うフローチャートである。
図10は、機側制御装置100が陸閘2の自動制御を行うフローチャートである。
図11は、機側制御装置100が水門1や陸閘2の自動制御を行う際に、異物判定部120が行う処理を示すフローチャートである。
図12は、機側制御装置100が水門1や陸閘2の自動制御を行う際に、防潮扉異常判定部150が行う処理を示すフローチャートである。
【0042】
以下、これらのフローチャートに示す処理を、実際に災害が発生(例1)したことを想定して説明する。
例えば、9月6日9:00:00に本システムが設置されているA県の沖合いで、震度6強の地震が発生し、9:30:00に高さ4mの津波が襲来してきたことを想定する。このとき、水門1の扉820の真下に、無人の木製の漁船(異物1130)が停泊している状態であるとする。以下の説明では、例1で各処理が行われる時刻の想定例を括弧書きで示す。
【0043】
本システムの水門1は、通常時には自動制御によって運用されているため、地震発生前に機側制御装置100での自動制御の処理が開始され(ステップS101)、緊急度判定部130は、信号の受信を待機し(ステップS102)、緊急信号の受信があるか否かを判断する(ステップS103)。すなわち、緊急度判定部130は、アラーム受信機10、水位計20、震度計30、および流向計40からの緊急信号の到来を待機して、これらの緊急信号の受信があるか否かを常時判断している。
ステップS103で緊急度に関する信号の受信がない場合には(ステップS103のNO)、緊急度判定部130は、ステップS102の受信待機に戻り、緊急度に関する信号を受信するまで待機する。そして、ステップS103で緊急度に関する信号を受信したとき(ステップS103のYES)、制御部170は、ステップS104以降の閉鎖処理に移る。
【0044】
ここで、地震が発生した際に、震度計30の設置場所では震度5弱を観測したとする。このときには、閉鎖に該当する震度でないと判断され、震度計30による水門の閉鎖は行われない。一方、9:03:00に地震の発生を受けて気象庁が津波警報を発令し、緊急度判定部130はアラーム受信機10でこれを受信すると、ステップS103で緊急度判定部130が受信ありと判定し、ステップS104の閉鎖処理へ移る。(時刻9:03:00)
【0045】
ステップS104の処理では、制御部170は、スピーカ510によって水門1の扉820の緊急閉鎖と退避の呼びかけをあらかじめ録音された音声を再生し、また、パトランプ520を点灯させることによって警告する。このとき、船舶710の往来を遮るための遮断機が設置されている場合は、これを作動させるのが望ましい。
【0046】
次に、緊急度判定部130は、受信した信号の緊急度が「低」であるか否かを判断する(ステップS105)。ここで、想定している例1では、津波警報1050の緊急度1030は「低」であるため(ステップS105のYES)、ステップS106の処理へ移る。
ステップS106の処理では、制御部170は、スピーカ510による音声とパトランプ520による警告を周知するため、一定時間(例えば1分間)待機し、ステップS107の判断に移る。(時刻9:04:00)
ステップS107では、異物判定部120は、水門1に船舶710や漂流物などの異物がないか否かを判断する。例1では、既に述べたように、水門1の扉820の真下に水面から高さ2mの無人の木製の漁船(異物1130)が停泊している状態である。
【0047】
ここで、異物判定部120が行う異物判定処理について、図11のフローチャートを参照して説明する。
異物判定部120は、異物検知部210または画像処理部110から情報を取得して、異物判定処理を開始する(ステップS301)。
異物判定処理を開始すると、異物判定部120は、取得した情報から水門1または陸閘2の付記に異物を検知したか否かを判断する(ステップS302)。
ここで想定している例1では、画像処理部110から取得した画像に異物1130(図5)が写っており、画像処理部110の処理によって異物検出範囲1120が示されていた。そのため、異物判定部120は異物検出範囲1120の画素1110の数をカウントし、また、異物検出高さ1150を測定し記憶した。
【0048】
ステップS302で異物ありと判断すると(ステップS302のYES)、異物判定部は、一定時間(例えば15秒間)、カメラ220が撮影している画像を画像処理部110から取得し続け(ステップS303)、異物の中に移動中でないものがあるか否か判定する(ステップS304)。(時刻9:04:15)
想定している例1では、ステップS304の処理では、異物判定部120は、15秒間に異物1130の異物検出範囲1120と異物検出高さH31は大きく変化していないため、画像の異物1130は静止物であると判断する。
【0049】
そして、異物の中に移動中でないものがあるとき(ステップS304のYES)、異物判定部120は、操作監視端末410および自動制御判断部140に、水門1に異物1130があることを通知する(ステップS305)。異物判定部120が通知した後、ステップS108の処理(またはステップS112の処理)に移る。なお、図10のフローチャートで後述する陸閘2についての異物判定時には、異物判定部120が通知した後、ステップS208の処理(またはステップS212の処理)に移る。
また、ステップS302で異物を検知しない場合(ステップS302のNO)、並びにステップS304で移動していない異物を検知しない場合(ステップS304のNO)には、異物判定部120は、ステップS113の処理に移る。図10のフローチャートで後述する陸閘2についての異物判定時には、ステップS213の処理に移る。
【0050】
図8のフローチャートの説明に戻ると、自動制御判断部140は異物判定部120が異物1130を検知しているため、水門1の扉820の自重閉鎖を開始し(ステップS108)、異物1130まで1mの高さまで自重閉鎖する処理を実行する(ステップS109)。(時刻9:07:15)
ここで想定している例1では、異物判定部120が測定した異物1130の異物検出高さH31は2m(漁船の高さ)であるため、海面1160から3mの高さまで扉820を閉鎖させる。すなわち、水門1の揚程H13は6mであるため、3mだけ扉820を閉鎖する。
【0051】
ステップS108の処理時には、制御部170は、自動制御判断部140の指示に従って水門動力部330に扉820へ自重閉鎖の信号を送信する。水門動力部330は扉820の自重閉鎖を開始する。
【0052】
ステップS109の処理時には、自動制御判断部140は、計測器340からの情報を基に水門が3m自重閉鎖した時点で、制御部170に水門の閉鎖の停止を指示する。制御部170は水門動力部330へ停止の信号を送信する。ステップS109の処理が行われた後、制御部170はスピーカ510で一定時間(例えば30秒間)、早期に水門1から離れるように警告する(ステップS110)。(時刻9:07:45)
その後、さらに制御部170は、異物判定部120が異物ありと判定したか否か判断する(ステップS111)。ここでの異物判定部120での判定処理は、既に説明した図11のフローチャートの処理である。
【0053】
そして、ステップS111の判断で、異物ありと判断したとき(ステップS111のYES)、制御部170は、スピーカ510で水門1を強制的に閉鎖する旨を警告する(ステップS112)。(時刻9:08:30)
その後、制御部170は水門動力部330に再び自重閉鎖の信号を送信する(ステップS113)。
また、ステップS107並びにステップS111で、異物なしと判断した場合にも(ステップS107のNO並びにステップS111のNO)、ステップS113で制御部170は水門動力部330に再び自重閉鎖の信号を送信する。
【0054】
想定した例1では、水門1の扉820は再び自重閉鎖を開始するが、1m閉鎖した時点で漁船(異物1130)と接触し、その後0.2m閉鎖した後、停止してしまう。これは、漁船(異物1130)が扉820に押されて少し沈みこんだ状態である。
次に、図9のフローチャートの処理に移り、ステップS114にて、防潮扉異常判定部150が、計測器340からの開度を監視し、異常の有無を判定する。
【0055】
ここで、防潮扉異常判定部150が行う防潮扉異常判定処理について、図12のフローチャートを参照して説明する。
まず、防潮扉異常判定部150は、計測器340から開度の情報を取得する(ステップS401)。
その後、防潮扉異常判定部150は、扉820の状態として、閉鎖終了前に開度が変化しないか、閉鎖予定時刻になっても閉鎖が終了しないか、異常に大きいトルクを計測するか、のいずれか1つの異常に該当するか否かを判断する(ステップS402)。
【0056】
想定した例1では、扉820は1.2m閉鎖した時点でそれ以上閉鎖しなくなるため、取得している計測器340からの開度の数値が変化しなくなる。ステップS402で、異常であると判定されると(ステップS402のYES)、防潮扉異常判定部150はステップS403の処理に移る。(時刻9:09:12)
ステップS403では、防潮扉異常判定部150は、防潮扉の異常を判断して、その異常を自動制御判断部140に送る。
【0057】
この防潮扉異常判定部150からの異常を受信した自動制御判断部140は、水門1の異常を受けて、制御部170を通じて操作監視端末410へ水門1の異常を通知する(ステップS404)。
その後、制御部170は、ステップS119の処理に移る。なお、図10のフローチャートで後述する陸閘2についての異物判定時には、異常を通知した後、ステップS204の処理に移る。
また、ステップS402で異物を検知しない場合(ステップS402のNO)には、制御部170は、ステップS123の処理に移る。図10のフローチャートで後述する陸閘2についての異物判定時には、ステップS214の処理に移る。
【0058】
図9のフローチャートの説明に戻ると、防潮扉異常判定部150が異常ありと判断したとき(ステップS114のYES)、自動制御判断部140は水門1の異常を受け、制御部170へ水門動力部330を停止させる指示を行う(ステップS115)。この指示を受けた制御部170は水門動力部330へ停止の信号を送信する。(時刻9:13:12)
【0059】
想定した例1では、停泊している漁船(異物1130)のために扉820の閉鎖ができないため、一度扉820を開き再び閉鎖することによって、漁船(異物1130)を移動できないか試みる(ステップS116)。すなわち、自動制御判断部は、扉820を停止させた高さまで開くため、制御部170に対して水門動力部330を開操作するよう指示を出す。これにより、扉820は動力によって開き始め、自動制御判断部140は計測器340の情報から1.2m水門が開いた時点で、制御部170に水門動力部330を停止させる。
【0060】
その後、自動制御判断部140は、制御部170に対して水門動力部330へ自重閉鎖の信号を送るように指示する(ステップS117)。これにより、扉820は再び自重閉鎖を開始する。想定した例1では、再度の自重閉鎖の操作によっても、停泊している漁船が移動することはない。
【0061】
ステップS117で自重閉鎖を開始した後、防潮扉異常判定部150は、異常と判定したか否かを判断する(ステップS118)。ここで、異常と判定した場合(ステップS118のYES)、自重閉鎖によって扉820の閉鎖を完了させることはできないため、自動制御判断部140は、自重閉鎖を停止する(ステップS119)。(時刻9:14:24)
そして、自動制御判断部140は、動力による閉操作を開始する(ステップS120)。
すなわち、閉操作によって異物を破壊することよって閉鎖を完了させるか、または閉鎖が完了できなくても動力による閉鎖を限界まで行うことによって衝突してくる津波750のエネルギーを少しでも減衰させるように制御を行う。
【0062】
ステップS120で、自動制御判断部140が制御部170に対して水門動力部330へ閉操作の信号を出力するよう指示することで、扉820は動力による閉鎖を開始する。その後、既に説明した図12のフローチャートのステップS401に移り、防潮扉異常判定部150でのステップS401〜S406の処理が行われる。
想定している例1では、停泊していた漁船(異物1130)は再び扉820と接触するが、動力による閉鎖の力は強力であるため、浮力と扉820によってはさまれて破壊される。そのため扉820は海底860まで閉鎖された。(時刻9:27:00)
【0063】
したがって、ステップS402の判断では、扉820の閉鎖を妨げる異物1130は存在しないため、自動制御判断部140は計測器340から扉820が海底860まで閉鎖した情報を取得し(ステップS402のNO)、ステップS405の処理に移る。そして、ステップS405では、自動制御判断部140は、水門1が全閉したと判断する。その後、ステップS406の処理では、自動制御判断部140は、制御部170を通して操作監視端末410へ水門1の全閉を通知する。
【0064】
図9のフローチャートの説明に戻ると、ステップS122で、水門1が全閉したため、自動制御判断部140は制御部170に対して水門動力部330へ閉操作の停止を指示する。この指示により、水門1は閉鎖を停止する。
これにより、自動制御判断部140は水門1の自動制御を終了し、管理者による操作を待つ(ステップS123)。
【0065】
このような処理で扉820は全閉されることで、津波が本システムの水門1に到達したとしても、被害を防ぐことができる。想定した例1では、9:30:00に津波が水門1に到達したが、時刻9:27:00に扉820は全閉されていたため、被害は発生しなかった。
本例の場合、緊急度判定部130があるため、津波警報1050は緊急度1030が「低」であり、津波750到達までに時間の猶予が多少存在すると自動制御判断部140が判断できる。そのため異物1130の念入りな確認と警告をすることができる。
また、異物判定部120によって音声による警告に関わらず異物1130が移動しないため、人が滞在している可能性が低いと判断できる。
【0066】
防潮扉異常判定部150によって扉820の閉鎖が自重閉鎖では完了しないことが判断できるため、動力による閉操作に自動的に移ることができる。
さらに、動力よる扉820の閉操作中に水門動力部330に故障が起こる可能性があるが、防潮扉異常判定部150が異常なトルクを検知すれば通知を行うため、閉操作を継続することができる。
よって本例のシステムでは、自動制御判断部140は、管理者による遠隔操作や人による異物1130の排除に頼ることなく機側自動操作による水門1の閉鎖を完遂することができるようになる。
【0067】
次に、図10のフローチャートを参照して、機側制御装置100が陸閘2の自動制御を行う処理について説明する。
ここでは、上述した水門1の制御例(例1)と同様に、9月6日の時刻9:00:00に本システムが設置されているA県の沖合いで震度6強の地震が発生し、時刻9:30:00に高さ4mの津波750が襲来してきた場合の陸閘2の制御例(例2)で説明する。
例2では、図6に示すように、扉920の開閉幅940の防潮堤端(右側)1240から4m左側の位置に無人のトラック(異物1210)が停車している状態を想定する。
水門1と同様に陸閘2の扉920は通常全開であるため、陸閘扉先端部1260は防潮堤端(右側)1240と同じ位置にあり、自動制御による陸閘2の制御を開始する(ステップS201)。
【0068】
緊急度判定部130は、信号の受信を待機し(ステップS202)、緊急信号の受信があるか否かを判断する(ステップS203)。すなわち、緊急度判定部130は、アラーム受信機10、水位計20、震度計30、および流向計40からの緊急信号を待機して、これらの緊急信号の受信があるか否かを判断している。
ステップS203で緊急度に関する信号の受信がない場合には(ステップS203のNO)、緊急度判定部130は、ステップS202の受信待機に戻り、緊急度に関する信号を受信するまで待機する。そして、ステップS203で緊急度に関する信号を受信したとき(ステップS203のYES)、制御部170は、ステップS204以降の陸閘2の閉鎖処理に移る。(時刻9:03:00)
【0069】
ステップS204の処理では、制御部170は、スピーカ510によって陸閘2の扉920の緊急閉鎖と退避の呼びかけをあらかじめ録音された音声を再生し、また、パトランプ520を点灯させることによって警告する。このとき、陸閘2の遮断機等がある場合には、作動させる。
【0070】
次に、緊急度判定部130は、受信した信号の緊急度が「低」であるか否かを判断する(ステップS205)。ここで、想定している例2では、津波警報1050の緊急度1030は「低」であるため(ステップS105のYES)、ステップS206の処理へ移る。
ステップS206の処理では、制御部170は、スピーカ510による音声とパトランプ520による警告を周知するため、一定時間(例えば1分間)待機し、ステップS107の判断に移る。(時刻9:04:00)
ステップS207では、異物判定部120は、陸閘2に車両などの異物がないか否かを判断する。ここで想定する例2では、開閉幅W21の範囲に無人のトラック(異物1210)が停車している状態である。したがって、図11のフローチャートに示すステップS301〜ステップS305の処理では、異物判定部120が異物ありと判断される。(時刻9:04:15)
【0071】
ステップS207で異物ありと判断されると(ステップS207のYES)、制御部170は、陸閘動力部310へ閉操作の信号を送信する(ステップS208)。この閉操作の信号により、扉920は動力により1分当たり0.5mの速さで閉鎖を開始する。例2では、扉920の閉鎖が始まる際、異物1210は防潮堤端(右側)1240から4mの位置にあるため、異物距離W41(図6)は4mになる。
【0072】
陸閘2は水門1と異なり計測器340を持たないため、扉920の開度を計測することはできない。そのため、自動制御判断部140は画像処理部110が測定した異物距離1270を使用して、異物までの距離を取得し続ける。そして、異物までの距離が一定の距離(ここでは0.5m)になった時点で、自動制御判断部140は、制御部170に陸閘動力部310を停止するよう指示する(ステップS209)。(時刻9:07:15)
【0073】
次に、制御部170は、一定時間(例えば30秒間)、スピーカ510により、陸閘2付近から退去するように音声で警告する(ステップS210)。(9:11:45)
そして、異物判定部120は、異物ありか否かを判断する(ステップS211)。
ここでの例2では、異物1210は無人のトラックであるので、ステップS210の警告によっても移動することはない。そのため、ステップS211では、異物ありか否かの判断時に、異物判定部120が異物ありと判断する。(時刻9:12:00)
【0074】
異物判定部120が異物ありと判断した後(ステップS211のYES)、制御部170はスピーカ510で陸閘2を強制的に閉鎖する旨を一定時間(例えば30秒間)警告する(ステップS212)。(9:12:30)
その後、制御部170は、扉920の閉鎖を開始する(ステップS213)。そして、防潮扉異常判定部150が、既に説明した図12のフローチャートに示すステップS401以降の処理で、防潮扉の異常判定を実行する(ステップS214)。
このとき、ステップS401の処理では、防潮扉異常判定部150は開閉センサ320から情報を取得する。開閉センサ320は扉920の全閉を検知できる。
また、ステップS402の処理では、陸閘2の扉920の開度を計測できないため、防潮扉異常判定部150は扉920が全閉する予定時間と開閉センサ320の情報から、異常を判定する。
【0075】
すなわち、本例の陸閘2の全開から全閉にかかる時間は12分であり、ステップS208からステップS209の処理ではすでに7分間で扉920の閉鎖作業を行っているため、残り5分で全閉が完了する予定である。これらの時間は防潮扉異常判定部150が自動制御判断部140から取得する。
【0076】
扉920の閉鎖が進むと陸閘扉先端部1260と異物右端1250が接触し、その後、異物1210は扉920に押され防潮堤端(左側)1230と接触する。異物1210は扉920と防潮堤端(左側)1230に挟み込まれるが、陸閘動力部310の駆動力では異物1210の破壊には至らず扉920の閉鎖は中断してしまう。
防潮扉異常判定部150は予定の5分が経過しても開閉センサ320から全閉の信号が受信できないため、ステップS403の処理で陸閘2の異常を判定し、ステップS404の処理で操作監視端末410へ通知する。
【0077】
ステップS214の防潮扉異常判定処理が行われた後、陸閘動力部310は閉操作を停止する(ステップS215)。すなわち、自動制御判断部140はこれ以上の閉鎖を続けると、扉920や陸閘動力部310が破損する恐れがあるため、制御部170へ陸閘動力部310を停止するよう指示を出す。これにより陸閘動力部310は閉操作を停止する(ステップS216)。(時刻9:17:30)
【0078】
想定した例2の場合、機側自動操作によって異物1210を排除できず、扉920を全閉させることはできなかった。しかし、時刻9:30:00に津波750が陸閘2に到達した際、防潮堤端(左側)1230と途中まで閉鎖された扉920によって挟まれた異物1210が扉920と同様に壁の役割を果たすようになる。このため、津波750による浸水を完全に防ぐことはできなかったが、その速度とエネルギーを大きく減衰させ、市街地790の被害を低減させることができた。
【0079】
このように陸閘2を制御する場合にも、異物判定部120と自動制御判断部140の働きによって十分に警告を行いトラック(異物1210)に人が乗っている可能性を排除することができ、扉920を最大限閉鎖することができた。
また、防潮扉異常判定部150によって無理な閉操作を行うことなく陸閘動力部310や扉920の破損を免れることができた。
さらに、陸閘動力部310や扉920は健在であるため、操作監視端末410によって管理者が扉920の開操作を行うことができ、安全確認後に作業者が現場でトラック(異物1210)を排除すれば、その後の津波750の到来に備えることもできる。
【0080】
次に、別の災害発生時に水門1および陸閘2を制御する場合(例3)について説明する。例3の場合にも図8図12のフローチャートに基づいて処理が行われるが、フローチャート全体の説明は省略し、相違点のみを説明する。
【0081】
例3では、10月1日12:00:00に、本システムが設置されているA県の沖合いで震度6強の地震が発生し、時刻12:30:00に高さ2mの津波750の第1波が襲来し、さらに時刻12:50:00に高さ5mの津波750の第2波が襲来してきたとする。
【0082】
この例3では、地震発生によって通信経路が完全に破壊され、アラーム受信機10は津波警報などの緊急信号を受信できない。また、機側制御装置100と操作監視端末410との通信経路も壊されたため、水門1や陸閘2の遠隔操作を行うことはできない。
この例3の場合には、水門1と陸閘2に異物1130や異物1210は存在しない。
【0083】
まず水門1の動作について説明する。地震発生時には、震度計30は震度5弱を計測したため、緊急信号を発する条件にはあたらなかった。また、時刻12:05:00に気象庁は津波警報1050を発表したが、気象庁とアラーム受信機10間の通信経路が破壊されたため、緊急度判定部130は津波警報を受信できない状態である。
【0084】
ここで、時刻12:30:00に高さ2mの津波750の第1波が水門1に到達すると、流向計40は逆流の信号を緊急度判定部130に送信する。
緊急度判定部130は逆流の信号を受信し、さらに図7のデータベースから逆流の信号が緊急信号にあたるため、緊急信号を自動制御判断部140へ送信する。また、直後に緊急度判定部130は水位計20のからの水位計測値が2m上昇し、水位が平常時より1m以上高くなったため、緊急信号を自動制御判断部140へ送信する。
【0085】
自動制御判断部140はこの緊急信号の受信を受けて、ステップS104の処理で、閉鎖を警告する。続いて行われるステップS105の判断では、逆流で受信した緊急信号の緊急度が「高」であったため(ステップS105のNO)、ステップS117の処理へ移る。
【0086】
例3では、緊急信号を受信した時点で津波750が到達している。このような津波750の到来を直接示す緊急信号は緊急度を「高」とし、直ちに閉鎖を開始する。すなわち、ステップS117の処理では、扉820は自重閉鎖を開始する。
【0087】
ここで、例3では異物1130が存在しないため、扉820は問題なく閉鎖し、ステップS405で防潮扉異常判定部150は全閉を判断する。(時刻12:38:00)
その後のステップS406の処理では、操作監視端末410と通信できないため、通知は操作監視端末410に届かない。
【0088】
一方、自動制御判断部140は扉820の全閉を受信したため、制御部170へ自重閉鎖をやめるように指示を出す。
このようにして、水門1は緊急信号の受信から最短時間で扉820の閉鎖を完遂した。(時刻12:38:00)
【0089】
同様に陸閘2についても、緊急度が「高」の緊急信号によって、ステップS205の処理からステップS213の処理へ移り、扉920の閉鎖が開始される。
例3の場合、陸閘2にも異物1210が存在しないため、防潮扉異常判定部150が閉鎖の予定時間内に開閉センサ320から全閉の信号を受信する。よって、ステップS402での判断時に、全閉を判断し、ステップS214での処理で、自動制御判断部140は閉鎖を停止するよう制御部170へ指示する。
このように陸閘2についても、緊急信号の受信から最短時間で閉鎖を完遂した。(時刻12:42:00)
【0090】
例3の場合、アラーム受信機10と震度計30からの緊急信号により第1波の津波750の到達前に水門1および陸閘2を閉鎖することはできなかったが、流向計40および水位計20からの緊急信号により津波750の到達を検知し、自動閉鎖を始めることができた。
緊急度判定部130による緊急度の判定によって、水門1および陸閘2を最短時間で閉鎖することができ、時刻12:50:00に到達する高さ5mの第2波の津波750を完全に防ぐことができた。
【0091】
通常、津波750は何度も繰り返し襲来し、また、第1波よりも第2波や第3波が高い場合もあるため、例3のような閉鎖処理は、津波750による被害を防ぐために有効である。
例3の場合、機側制御装置100と操作監視端末410間の通信経路が切断されていたため、水位計20や計測器340などの計測値および制御部170の自動制御の操作履歴などは操作監視端末410へ送信されず、記憶装置420に保存されない。しかし、計測値や操作履歴は機側制御装置100の記憶部160に保存されているため、管理者は切断中に記憶装置420に保存されなかったこれらの情報を通信回復後に閲覧できるようになる。
【0092】
[3.変形例]
なお、緊急度判定部が判定した緊急度「低」の場合の処理によって扉の閉鎖を実行中に、緊急度判定部130が緊急度「高」の情報を受信した場合、実行中の緊急度「低」の処理を中断し、緊急度「高」の処理によって水門1や陸閘2の扉の閉鎖を実行してもよい。
【0093】
この実行中の緊急度「低」の処理を中断し、緊急度「高」の処理によって水門1や陸閘2の扉の閉鎖を実行する処理(例4とする)について、以下説明する。この例4の場合にも図8図12のフローチャートに基づいて処理が行われ、相違点のみを説明する。
【0094】
例4の場合には、10月5日15:00に本システムが設置されているA県の沖合いで震度6強の地震(本システムの設置位置では震度5弱)が発生し、気象庁が時刻15:15に津波警報1050を発表し、時刻15:20に高さ3mの津波750が襲来する。
この例4では、カメラ220が故障により使用できない状況であり、異物検知部210によって異物1130の検知を行う。また、例4の場合、水門1付近に高さ1mの漁具(異物1130)が浮遊している。
【0095】
水門1のアラーム受信機10は、時刻15:15にステップS103の処理にて津波警報1050を受信し、ステップS105およびステップS106の処理を終える。(時刻15:16)
ここで、例4ではカメラ220が使用できないため、異物検知部210のみでステップS107の処理を行う。異物検知部210は、高さ1mの異物1130を検出し、異物判定部120へ通知する。
ステップS108の処理では、自動制御判断部140は扉820の自重閉鎖を開始する。
その後、異物が高さ1mであるため、ステップS109の処理時に、制御部170は、扉820を4m自重閉鎖した時点で停止させる。(時刻15:20)
【0096】
ここで、通常ならば、ステップS110の処理へ移るが、ここで想定した例4では、時刻15:20に高さ3mの津波750が襲来する。これにより、水位計20および流向計40からの情報により、緊急度判定部130は緊急度「高」の緊急信号を受信したと判定する。
【0097】
このように緊急度「低」の緊急信号による処理が行われていて、かつ、それがステップS117以前の処理である場合、緊急度「高」の緊急信号を受信した時点で、自動制御判断部140は実行中の処理を中断し、ステップS117の処理へ移る。
そして、自動制御判断部140は、ステップS117の処理で扉820の自重閉鎖を開始する。
【0098】
例4での異物1130は、海面1160に浮遊していた漁具であり、閉鎖される扉820に押し出される形で排除され、扉の820の閉鎖を妨げることはなかった。そのため、ステップS401からステップS406の処理が行われ、扉820が全閉状態になる。(時刻15:24)そして、ステップS123で、扉820の全閉が完了したため水門1の自動制御が終了する。
【0099】
この例4の場合、津波警報の受信から津波750の到達までの時間の余裕がなく、津波750の到達前に水門1の閉鎖を完了できなかったが、津波750の到達後に最短時間で閉鎖を完了でき、第2波以降の津波750に備えることができた。
このように例4の場合には、津波警報の受信から津波750の到達までの時間があまりなかったが、緊急度判定部130によって途中の処理を中断し、緊急度「高」の処理(ステップS117)を割込で行うことによって、すみやかに閉鎖を行うことができる。なお、カメラ220が使用できなくても、異物検知部210によって異物1130とその高さを検出でき通常の処理を行うことができる。
【0100】
なお、本発明は上記した実施の形態例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施の形態例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0101】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1…水門、2…陸閘、10…アラーム受信機、20…水位計、30…震度計、40…流向計、100…機側制御装置、110…画像処理部、120…異物判定部、130…緊急度判定部、140…自動制御判断部、150…防潮扉異常判定部、160…記憶部、170…制御部、210…異物検知部、220…カメラ、310…陸閘動力部、320…開閉センサ、330…水門動力部、340…計測器、400…遠隔操作部、410…操作監視端末、420…記憶装置、430…マイク、510…スピーカ、520…パトランプ、710…船舶、720…港湾施設、730…防潮堤、740…階段、750…津波、760…港湾、770…海、780…海岸部、790…市街地、810…建屋、820…扉、830…幅、850…海面、860…海底、910…高さ、920…扉、940…開閉幅、950…筐体、1110…画素、1120…異物検出範囲、1130…異物、1140…異物検出頂点、1150…異物検出高さ、1210…異物、1220…異物検出範囲、1230…防潮堤端(左側)、1240…防潮堤端(右側)、1250…異物右端、1260…陸閘扉先端部、1270…異物距離、1280…地面
図1
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図12