【文献】
B. Wang et al.,International Journal of Molecular Sciences,2013年,vol.14,pp. 23614-23628
【文献】
S. Shadanbaz et al.,Materials in Medicine,2014年 1月,Vol.25 No.1,pp.173-183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態である表面調整剤、並びに、皮膜付きマグネシウム含有金属材、及びその製造方法について詳細に説明する。
【0010】
<表面調整剤>
本発明の実施形態に係る表面調整剤は、マグネシウム含有金属材に対してリン酸カルシウムを含む化成皮膜を効率よく形成させるための前処理剤である。表面調整剤は、特定の粒子径を有する第二リン酸カルシウム粒子を含有する。このような表面調整剤を用いて、リン酸イオンとカルシウムイオンを含む表面処理剤による化成処理前に、表面調整処理を行うことで、優れた密着性及び耐食性を有する上記化成皮膜を形成することができる。
本実施形態に係る表面調整剤は、本発明の効果を奏する限り、第二リン酸カルシウム粒子以外の成分を含んでいてもよいが、溶媒及び第二リン酸カルシウム粒子のみからなるものであってもよい。
【0011】
(第二リン酸カルシウム粒子)
第二リン酸カルシウムは、リン酸一水素カルシウムとも呼ばれる。第二リン酸カルシウムには、無水和物(CaHPO
4)と二水和物(CaHPO
4・2H
2O)が存在し、無水和物はモネタイト、二水和物はブルシャイトとそれぞれ呼ばれている。
本実施形態に係る表面調整剤は、モネタイト又はブルシャイトの少なくとも一方を含んでいればよく、双方を含んでいてもよい。また、双方を含む場合において、その含有比率は特に限定されるものではない。
【0012】
第二リン酸カルシウムは、結晶性第二リン酸カルシウムであってもよく、アモルファス状の第二リン酸カルシウムであってもよいが、通常結晶性第二リン酸カルシウムが用いられる。
また、第二リン酸カルシウムは市販のものを用いてもよく、リン酸原料とカルシウム原料から製造してもよい。第二リン酸カルシウムの製造方法は、例えば、リン酸水溶液に炭酸カルシウムや水酸化カルシウムなどのカルシウム原料を反応させ、pHを4〜5に調整することで得ることができる。この際、反応温度を少なくとも80℃以上とすることでモネタイトが得られ、反応温度を少なくとも60℃以下とすることでブルシャイトが得られ
る。なお、80℃未満であってもモネタイトが得られることがあり、60℃より高くてもブルシャイトが得られることがある。
【0013】
第二リン酸カルシウム粒子は、そのD
50が通常0.1μm以上であり、0.2μm以上であってもよく、0.3μm以上であってもよい。また上限は通常0.8μm以下であり、0.6μm以下であってもよく、0.5μm以下であってもよい。D
50がこの範囲内である第二リン酸カルシウム粒子を含有する表面調整剤を用いて表面調整処理を行うことにより、その後の上記化成処理を行うことによって優れた密着性及び耐食性を有する化成皮膜を形成することができる。
また、第二リン酸カルシウム粒子は、そのD
90が通常0.15μm以上であり、0.2μm以上であってもよく、0.3μm以上であってもよい。また上限は通常1.5μm以下であり、1.2μm以下であってもよく、1.0μm以下であってもよい。D
90がこの範囲内である第二リン酸カルシウム粒子を含有する表面調整剤を用いて表面調整処理を行うことにより、その後の上記化成処理を行うことにより均一性が高い皮膜を形成することができる。
【0014】
D
50及びD
90は、表面調整剤における第二リン酸カルシウム粒子の全体積を100%として粒子の累積カーブを求めた際の、50体積%及び90体積%に位置する粒子径をそれぞれ表す。表面調整剤における第二リン酸カルシウム粒子の粒度分布は、例えば、レーザー光が照射された粒子から散乱した光の強度や、その光をレンズで集めることによって焦点面上に生じた回折像を、解析することで求めることが可能である。また、得られた粒度分布から、50体積%及び90体積%に位置する粒子径を求めることができる。
【0015】
第二リン酸カルシウム粒子の径は、例えば、湿式粉砕法等の常法により調整することができる。より具体的には、水と分散剤と第二リン酸カルシウム粒子との混合物をビーズミルで粉砕することにより調整することができる。なお、混合物における第二リン酸カルシウム粒子の質量濃度は、特に制限されるものではないが、5〜50wt%であることが好ましい。
【0016】
(分散剤)
分散剤としては、例えば、単糖類若しくは多糖類又はそれらの誘導体;正りん酸、ポリりん酸若しくはその塩、又は有機ホスホン酸化合物若しくはその塩;酢酸ビニルの重合体若しくはその誘導体又は酢酸ビニルと共重合可能な単量体と酢酸ビニルとの共重合体からなる水溶性高分子化合物;式:H
2C=C(R
1)−COOR
2(式中R
1はHまたはCH
3、R
2はH、Cが1〜5のアルキル基またはCが1〜5のヒドロキシアルキル基)に示される単量体もしくはα,β不飽和カルボン酸単量体の中から選ばれる少なくとも1種以上と、該単量体と共重合可能な単量体50重量%以下とを重合して得られる重合体又は共重合体;等を挙げることができる。
【0017】
上記単糖類若しくは多糖類又はそれらの誘導体の基本構成糖類としては、例えば、フルクトース、タガトース、プシコース、スルボース、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース等を挙げることができる。
【0018】
単糖類を用いる場合は、前記基本構成糖類そのものを、多糖類を用いる場合は、前記基本構成糖類のホモ多糖もしくはヘテロ多糖を、また、それらの誘導体としては、基本構成糖類の水酸基をNO
2,CH
3,C
2H
4OH,CH
2CH(OH)CH
3,CH
2COOH等の置換基でエーテル化して得られる単糖類や、前記置換基で置換された単糖類を構造に含むホモ多糖やヘテロ多糖を使用することもできる。また、数種類の単糖類、多糖類、及びその誘導体を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
糖類の分類を行う際に、加水分解の度合いによって単糖類、小糖類、及び多糖類と分類される場合があるが、本発明では加水分解により2個以上の単糖類を生ずるものを多糖類、それ自身が、それ以上加水分解されない糖類を単糖類とした。
【0020】
本発明の用途は、生体化学反応とは無関係であるため基本構成糖類の立体配置および施光性によって効果が左右されることはなく、D−単糖、L−単糖と施光性(+,−)のいかなる組み合わせでも使用することができる。また、単糖類、多糖類、及びその誘導体の水溶性を高めるために前記単糖類、多糖類、及びその誘導体のナトリウム塩またはアンモニウム塩を使用してもよい。更に前記構造で水溶化が困難な場合は予め水と相溶性を有する有機溶剤に溶解した後に使用してもよい。
【0021】
正りん酸はオルソりん酸である。ポリりん酸としては、例えば、ピロりん酸、トリりん酸、トリメタりん酸、テトラメタりん酸、ヘキサメタりん酸もしくはそのナトリウム塩、アンモニウム塩等を使用することができる。また、有機ホスホン酸化合物としては、例えば、アミノトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸もしくはそのナトリウム塩等を使用することができる。なお、正りん酸、ポリりん酸及び有機ホスホン酸化合物の中から1種類を使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
酢酸ビニルの重合体またはその誘導体としては、例えば、酢酸ビニル重合体のケン化物であるポリビニルアルコール、更にポリビニルアルコールをアクリロニトリルでシアノエチル化したシアノエチル化ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールをホルマリンでアセタール化したホルマール化ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールを尿素でウレタン化したウレタン化ポリビニルアルコール、及びポリビニルアルコールにカルボキシル基、スルホン基、アミド基等を導入した水溶性高分子化合物を使用することができる。ここで水溶性とは、25℃の水100gに対して0.1g以上の物質が溶解する性質、あるいは、該物質と水の混合物が透明である性質を意味する(本明細書において、以下同じ)。また、本発明における酢酸ビニルと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸、クロトン酸、無水マレイン酸等を使用することができる。
【0023】
前記酢酸ビニルの重合体若しくはその誘導体又は酢酸ビニルと共重合可能な単量体と酢酸ビニルとの共重合体は、水溶性でさえあれば本発明における効果を十分に発揮することができる。従って、その重合度及び官能基の導入率に効果が左右されることはない。なお、酢酸ビニルの重合体又はその誘導体及び共重合体の中から1種類を使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
上式に示される単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、アクリル酸ヒドロキシメチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、アクリル酸ヒドロキシペンチル、メタクリル酸ヒドロキシメチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシペンチル等を使用することができる。
【0025】
またα,β不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸等を使用することができる。前記単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、酢酸ビニル、スチレン、塩化ビニル、ビニルスルホン酸等を使用することができる。また、前記単量体のうち1種類の単量体を重合して得られた重合体を使用してもよい。ま
た、前記単量体の何種類かを組み合わせて重合して得られた共重合体を使用してもよい。
【0026】
(溶媒)
溶媒としては、第二リン酸カルシウムを好適に分散できる限り特に限定されないが、通常水が用いられる。水に対し有機溶媒を加えてもよいが、その場合、溶媒全量に対する有機溶媒の含有量は通常10重量%以下であり、5重量%以下であってもよく、3重量%以下であってもよい。
有機溶媒の種類は特に限定されず、アルコール系の有機溶媒、炭化水素系の有機溶媒、ケトン系の有機溶媒、アミド系の有機溶媒などがあげられる。
【0027】
表面調整剤における第二リン酸カルシウム粒子の含有量は、固形分濃度として通常0.05g/L以上であり、0.1g/L以上であってもよい。また上限は通常20g/L以下であり、10g/L以下であってもよく、5g/L以下であってもよい。当該範囲内であれば、表面調整剤における第二リン酸カルシウム粒子の分散性が良好である。
【0028】
(その他の成分)
表面調整剤は、必要に応じて増粘剤、分散安定性向上剤、pH調整剤などを含んでいてもよい。
増粘剤は、表面調整剤における第二リン酸カルシウム粒子の分散性を確保し、第二リン酸カルシウム粒子の沈降によるケーキングを防止することができる。増粘剤の種類は特に制限されるものではなく、例えば、タンパク質類、天然ゴム類、糖類(糖誘導体を含む)、アルギン酸類、セルロース類などの天然高分子;アミン系樹脂、カルボン酸系樹脂、オレフィン系樹脂、エステル系樹脂、ウレタン系樹脂、PVA、アクリル(メタクリル)系樹脂等、又はこれらの樹脂のうち2種以上を組み合わせて共重合させた共重合体等の合成高分子;ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの各種界面活性剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤などの各種カップリング剤;などが例示される。
【0029】
表面調整剤における増粘剤の含有量は、良好な分散性を維持する観点から、通常0.1重量%以上であり、0.5重量%以上であってもよい。また上限は、通常20重量%以下であり、10重量%以下であってもよい。
【0030】
分散安定性向上剤は、表面調整剤における第二リン酸カルシウム粒子の分散安定性を向上する薬剤である。分散安定性向上剤としては、例えば、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等の縮合リン酸アルカリ塩等を挙げることができる。
【0031】
pH調整剤は、表面調整剤のpHを所定の範囲内に調整するための薬剤である。pH調整剤の種類は特に制限されるものではなく、例えば、リン酸水素二ナトリウム水和物、リン酸水素二カリウム、リン酸水素マグネシウム水和物、リン酸水素二アンモニウム等のリン酸系のアルカリ添加剤;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、塩基性炭酸マグネシウム水和物、炭酸水素アンモニウム、炭酸カルシウム等の炭酸系のアルカリ添加剤;等が例示される。
表面調整剤のpHは通常6以上、11以下に調整される。下限は7以上であってもよく、上限は10以下であってもよく、9以下であってもよい。ここで、本明細書におけるpHは、25℃の表面調整剤を市販のpHメーターにて測定した値を示す。
【0032】
<表面調整剤の製造方法>
本実施形態に係る表面調整剤は、例えば、溶媒に第二リン酸カルシウム粒子と、必要に応じて分散剤とを混合した混合物のpHをpH調整剤で所定のpHに調整し、続いて、p
H調整した混合物を湿式粉砕した後、撹拌して第二リン酸カルシウム粒子を分散させることで製造することができる。その他、溶媒に、所定粒径に予め調整された第二リン酸カルシウム粒子と、必要に応じて分散剤とを混合した混合物のpHを、pH調整剤で所定のpHに調整することで製造することができる。なお、上述においては、湿式粉砕する前に分散剤とpH調整剤を予め第二リン酸カルシウム粒子と混合しているが、いずれか一方を湿式粉砕する前に第二リン酸カルシウム粒子と混合し、湿式粉砕した後に他方を第二リン酸カルシウム粒子と混合してもよい。また、湿式粉砕した後に分散剤とpH調整剤を第二リン酸カルシウム粒子と混合してもよい。
溶媒への原料の添加の順序は特段限定されるものではなく、第二リン酸カルシウム、分散剤及びpH調整剤を一度に添加してもよく、分散剤のみ添加した溶媒に第二リン酸カルシウムを添加し、必要に応じてpH調整剤を添加してもよい。
【0033】
粒子径を調整するための湿式粉砕は、例えばビーズミルを用いて行うことができるがこれらに限定されるものではない。粉砕時間は特段限定されるものではなく、所望の粒子径になるまで行えばよい。
【0034】
<皮膜の製造方法>
本発明の別の実施形態は、皮膜付きマグネシウム含有金属材であり、該皮膜は化成皮膜である。この化成皮膜は、第二リン酸カルシウムの結晶性粒子を有する。化成皮膜を有するマグネシウム含有金属材の製造方法は、マグネシウム含有金属材の表面に上記表面調整剤を接触させる第1の接触工程と、表面処理剤を接触させたマグネシウム含有金属材に、リン酸イオン及びカルシウムイオンを含む表面処理剤を接触させる第2の接触工程とを含む。なお、第1の接触工程は、以下、表面調整処理工程という。また、第2の接触工程は、以下、化成処理工程という。
上記化成処理工程の前に表面調整処理工程を行うことで、優れた密着性及び耐食性を有する化成皮膜を、マグネシウム含有金属材の表面に形成することが可能となる。なお、表面調整処理工程前に、マグネシウム含有金属材の表面に対して、脱脂、酸洗、エッチング、スマット除去、ペーパー研磨等の前処理工程を行ってもよい。これらの前処理工程により、マグネシウム含有金属材が有する酸化膜、マグネシウム含有金属材に付着している油分や汚れ等を除去し、表面を清浄化することができる。これらの前処理工程後に、溶剤洗浄、水蒸気処理(「水熱処理」、「水酸化マグネシウム皮膜形成処理」等とも称する。)等の処理も行ってよい。これらの処理により、マグネシウム含有金属材と化成皮膜との密着性を向上し、優れた耐食性を有する皮膜付きマグネシウム含有金属材を得ることができる。なお、上記水蒸気処理方法としては、公知の方法を用いることができる。また、各種前処理工程、表面調整処理工程、化成処理工程等の後に、水洗等の洗浄、乾燥、塗装等の後処理工程を適宜行ってもよい。これらの前処理工程及び後処理工程は、公知の方法により行うことができる。
【0035】
(表面調整処理工程)
表面調整処理工程は、上記表面調整剤をマグネシウム含有金属材に接触させてその表面を処理する方法である。表面調整剤の接触方法としては、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スピンコート法、又はこれらを適宜組み合せた方法などがあげられる。
表面調整処理工程における表面処理剤、あるいはマグネシウム含有金属材の温度は、通常0℃以上であり、10℃以上であってよく、また通常40℃以下であり、30℃以下であってよい。
表面調整剤とマグネシウム含有金属材との接触時間は、通常1秒以上であり、5秒以上であってよく、10秒以上であってもよい。また、通常10分以下であり、5分以下であってよく、3分以下であってよく、1分以下であってよい。
【0036】
(化成処理工程)
化成処理工程は、表面調整剤を接触させたマグネシウム含有金属材に、表面処理剤(化成処理剤)を接触させて、その表面を化成処理する方法である。
化成処理剤は、リン酸イオンとカルシウムイオンを含むものであれば特に制限されるものではない。
リン酸イオンの供給源は、例えば、リン酸又は水溶性リン酸塩等があげられる。また、カルシウムイオンの供給源は、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウムなどがあげられる。
【0037】
化成処理剤のカルシウムイオン濃度及びリン酸イオン濃度は、マグネシウム含有金属材に、第二リン酸カルシウムの結晶性粒子を有する化成皮膜を形成できれば特段限定されない。リン酸イオン濃度は、通常500ppm以上であり、1000ppm以上であってよく、また通常20000ppm以下であり、10000ppm以下であってよい。カルシウムイオン濃度は、通常100ppm以上であり、500ppm以上であってよく、また通常10000ppm以下であり、5000ppm以下であってよい。
化成処理剤のpHは、通常2.0以上であり、3.0以上であってよく、4.0以上であってよく、また通常5.0以下であり、4.5以下であってよい。化成処理剤のpHを調整するためのpH調整剤は特に限定されず、硝酸、リン酸、硫酸などの酸成分、又は水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア水、炭酸水素アンモニウムなどのアルカリ成分を用いることができる。
【0038】
化成処理の方法は特段限定されず、例えば、スプレー処理法、浸漬処理法、電解処理法、流しかけ処理法などがあげられる。化成処理の温度は、通常10℃以上であり、40℃以上であってよく、70℃以上であってよく、また通常100℃以下であり、90℃以下であってよい。
化成処理における、マグネシウム含有金属材と表面処理剤との接触時間は、通常1分以上であり、3分以上であってよく、5分以上であってよく、また通常60分以下であり、30分以下であってよく、15分以下であってよい。
【0039】
なお、表面調整剤とマグネシウム含有金属材とを接触させた後は、化成処理工程を速やかに行うことが好ましい。
【0040】
<マグネシウム含有金属材>
上記表面調整処理及び化成処理の対象であるマグネシウム含有金属材は、マグネシウム材、マグネシウム合金材等のマグネシウムを主成分とする金属材である。マグネシウム合金材が2つの金属成分からなる場合には、マグネシウムを50重量%以上含有するものであればよく、80重量%以上含有するものが好ましい。また、マグネシウム合金材が3つ以上の金属成分からなる場合には、マグネシウムが1番多く含有するものであればよい。マグネシウム合金材の種類としては、例えば、AZ91、AM60、ZK51、ZK61、AZ31、AZ61、ZK60などがあげられる。
【0041】
<皮膜付きマグネシウム含有合金材>
本発明の別の実施形態は、マグネシウム含有金属材の表面上に、第二リン酸カルシウム粒子を含有する皮膜を有する、皮膜付きマグネシウム含有金属材である。なお、皮膜付きマグネシウム含有金属材は、第二リン酸カルシウム粒子を含有する皮膜に防錆油やシーリング剤が付着したものであってもよいし、第二リン酸カルシウム粒子を含有する皮膜上に塗膜をさらに有するものであってもよい。
皮膜に含まれる第二リン酸カルシウム粒子は、結晶性の粒子である。第二リン酸カルシウム粒子は、モネタイト又はブルシャイトであってもよいし、双方を含んでいてもよい。また、双方を含む場合は、それらの含有比率は特に限定されるものではない。
また、結晶性の第二リン酸カルシウム粒子を含有する皮膜は、均一かつ緻密な構造を有する。そのため、該皮膜は、優れた密着性及び耐食性を有する。なお、第二リン酸カルシウム粒子が結晶性粒子であることは、X線回折(XRD)により確認することができる。
【0042】
皮膜中の第二リン酸カルシウムの結晶性粒子は、平均一次粒子径が0.7μm以上であり、1μm以上であってよく、2μm以上であってよく、3μm以上であってよく、また25μm以下であり、20μm以下であってよく、15μm以下であってよく、10μm以下であってよい。平均一次粒子径が上記範囲内である結晶性第二リン酸カルシウム粒子を含む皮膜は、優れた密着性及び耐食性を有する。
また、皮膜中の第二リン酸カルシウム粒子は、粒度分布の標準偏差が5以下であり、3以下であってよく、1.5以下であってよく、1以下であってよい。標準偏差がこの範囲内である結晶性第二リン酸カルシウム粒子を含む皮膜は、より均一で緻密な構造を有する。
【0043】
平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡による観察によって求めることができる。具体的には、無作為に選択した100個の結晶性第二リン酸カルシウム粒子の最大径と最小径をそれぞれ測定し、全ての径の平均値を算出し、平均一次粒子径とする。また、粒度分布の標準偏差は、無作為に選択した100個の結晶性第二リン酸カルシウム粒子の径を測定して粒度分布を作成することにより、求めることができる。
皮膜中の第二リン酸カルシウム粒子を上記径及び標準偏差に調整する手段としては、上記表面調整処理工程及び化成処理工程を行うことがあげられる。
【0044】
マグネシウム含有金属材上に形成した皮膜の被覆率は、耐食性の観点から高いことが好ましく、通常90%以上であり、95%以上であってよい。被覆率は走査型電子顕微鏡による観察によって算出することができ、マグネシウム含有金属材の素地と皮膜で被覆された部分との面積割合を、目視又は画像解析により測定することで算出することができる。
【0045】
マグネシウム含有金属材上に形成した皮膜の量は、通常0.5g/m
2以上であり、1.0g/m
2以上であってよく、また通常10g/m
2以下であり、5g/m
2以下であってよい。皮膜量が上記範囲内である結晶性第二リン酸カルシウムを含有する皮膜を有するマグネシウム含有金属材は、良好な密着性及び耐食性を有する。
結晶性第二リン酸カルシウム粒子を含有する皮膜の量は、蛍光X線分光分析によりカルシウムの量及びリンの量を定量し、CaHPO
4に換算することで算出できる。
被覆率を高める方法、及び皮膜量を増加させる方法としては、化成処理工程前に表面調整剤による表面調整処理工程を行う方法の他、化成処理工程における処理時間を調整する方法があげられる。
【0046】
また、皮膜の膜厚については特段限定されないが、耐食性の観点から通常1μm以上であり、2μm以上であってよく、また通常15μm以下であり、10μm以下であってよい。皮膜の膜厚は、レーザ顕微鏡を用いて、皮膜の断面形状を観察することによって求めることができる。
【0047】
マグネシウム含有金属材上に形成した皮膜の表面は、均一であることが好ましいが、所定の粗さを有してもよい。例えば、皮膜表面の算術平均表面粗さ(Ra)が7μm以下であってよく、4μm以下であってよい。
【0048】
第二リン酸カルシウム粒子を含有する皮膜が多孔質皮膜である場合には、上述のように、第二リン酸カルシウム粒子を含有する皮膜に防錆油やシーリング剤を付着させることによって、皮膜の細孔を埋めることができ、より優れた耐食性を発揮することができる。
【0049】
上記塗膜は、マグネシウム含有金属材の表面上に形成された、第二リン酸カルシウム粒子を含有する皮膜上に、塗装を行うことにより形成することができる。塗装方法は、特に制限されず、公知の方法、例えば、電着塗装(例えば、カチオン電着塗装)、溶剤塗装、粉体塗装等の方法を挙げることができる。このように、第二リン酸カルシウム粒子を含有する皮膜上に塗膜を形成させることにより、優れた密着性(マグネシウム含有金属材と塗膜との、優れた密着性)を発揮することができる。
塗膜の厚さは、特に制限されるものではないが、平均で5〜30μmであり、8〜25μmであってよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
<マグネシウム合金材>
マグネシウム合金材として、ASTM(American Society for Testing and Materiarls)−AZ31の板材を用いた。なお、板材に対して、後述の表面調整処理を行う前に、
以下の前処理を施した。具体的には、板材の表面に、65℃に加温したアルカリ脱脂剤(日本パーカライジング株式会社製;ファインクリーナーMG110E)を120秒間スプレーした後、水洗した。続いて、研磨面に脱イオン水をかけながらサンドペーパーにて板材表面を物理研磨した後、脱イオン水で水洗し、熱風乾燥した。
【0051】
<表面調整剤および表面処理剤の調製>
脱イオン水55重量部にカルボキシメチルセルロース1重量部を溶解させた。その溶解物に、モネタイトまたはブルシャイト24重量部を添加した混合物を撹拌した後、ダイノーミル粉砕機(φ1mmアルカリガラスビーズ)を用いて湿式粉砕した。粉砕した混合物(固形分濃度30%の懸濁液)における固形分の粒度分布を、日機装株式会社製マイクロトラック計UPA−EX150で測定し、D
50及びD
90を求めた。その結果、D
50が0.45μm、D
90が0.9μmであった。
更に上記懸濁液に、最終濃度で250ppm及び200ppmとなるように、ピロリン酸ナトリウム及びリン酸三ナトリウムをそれぞれ添加し、実施例1〜8の表面調整剤を調製した。なお、表1に、各表面調整剤の調製に用いた第二リン酸カルシウム粒子の種類とその濃度を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
また、最終濃度で7g/L及び12g/Lとなるように、75%リン酸及び硝酸カルシウム4水和物をそれぞれ脱イオン水に溶解させた後、水酸化ナトリウムでpHを3.5に調整し、表面処理剤(化成処理剤)を調製した。
【0054】
<表面調整処理および化成処理>
研磨した板材を25℃の表面調整剤に30秒間浸漬し、表面調整処理を行った。その後、板材を化成処理剤に15分間浸漬し、化成処理を行った。続いて、板材を脱イオン水で
水洗して熱風乾燥することにより、皮膜付きマグネシウム合金材を作製した。なお、化成処理に用いた各化成処理剤の温度を表2に示す。
【0055】
<皮膜付きマグネシウム合金材の被覆率測定>
マグネシウム合金材上に形成した皮膜の表面を走査型電子顕微鏡により観察し、マグネシウム合金材に対して皮膜が占める面積割合を被覆率として求めた。結果を表2に示す。
【0056】
<皮膜結晶系の同定>
マグネシウム合金材上に形成した皮膜をX線回折法により測定し、その結晶系を同定した。結果を表2に示す。
【0057】
<皮膜量測定>
蛍光X線分光分析装置により、マグネシウム合金材上に形成した皮膜におけるリンの含有量(リン付着量)を測定し、皮膜量に換算した。皮膜量への換算は、X線回折法による結晶系の同定結果に基づいて行った。例えば、皮膜が100%ブルシャイトと同定された場合、リン付着量Pから皮膜量Wへの換算は、リンの原子量31.0とブルシャイトの分子量172.1を用いて、式:W=P×172.1/31.0により算出した。結果を表2に示す。
【0058】
<皮膜中のモネタイト結晶またはブルシャイト結晶の平均粒子径測定、及び粒子径分布の標準偏差測定>
マグネシウム合金材上に形成した皮膜の表面を走査型電子顕微鏡により観察し、無作為に選択した100個の結晶粒子サンプルの粒子径を測定し、平均粒子径とその分布の標準偏差を算出した。結果を表2に示す。なお、個々のサンプルの粒子径は、測定したサンプルの最大径と最小径の平均値とした。また、粒子径分布の標準偏差はいずれも5以下であった。
【0059】
<耐食性評価>
皮膜付きマグネシウム合金材を40℃の5%塩化ナトリウム水溶液に24時間浸漬した後、水洗及び風乾を行い、以下の判定基準に従って外観を評価した。結果を表2に示す。(判定基準)
5点:錆発生無し
4点:数点の点錆有り
3点:点錆多数または面積率20%未満で錆が発生
2点:面積率20%以上で錆が発生しているが、全面が錆に覆われていない
1点:全面が錆に覆われている
【0060】
<密着性評価>
皮膜付きマグネシウム合金材を電着塗装し、マグネシウム合金材に対する塗膜の密着性を評価した。関西ペイント社製カチオン電着塗料「GT−10LF」を用い、塗料温度28℃、電圧200Vの条件下で塗膜を形成させた。その後、水洗し、150℃で20分間焼き付けて、乾燥膜厚20μmの塗膜を有するマグネシウム合金材を得た。
塗膜を有するマグネシウム合金材を、40℃の脱イオン水に浸漬し、240時間後にペーパーカッターで碁盤目状にクロスカットを施し、セロハンテープをクロスカット部に貼り付け、テープ剥離試験を行った。なお、碁盤目状のクロスカットは、1mm間隔の平行線11本を直角に交差することにより100個のマス目とした。テープ剥離後に剥離したマス目の数を計測し、以下の判定基準に従って密着性を評価した。結果を表2に示す。
(判定基準)
5点:剥離無し
4点:マス目のエッジ部のみ剥離し、マス目全体の剥離は無かった
3点:1〜20個の剥離が生じた
2点:21〜50個の剥離が生じた
1点:51個以上の剥離が生じた
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、いずれの実施例も優れた耐食性及び密着性を有することが示された。
【0063】
<比較例1>
研磨した板材を用い、上記表面調整処理及び化成処理を行わないで、上記耐食性評価及び上記密着性評価を実施したところ、それぞれ1点の評価結果が得られた。
【0064】
なお、本発明については、具体的な実施例を参照して詳細に説明されるが、本発明の趣旨及び範囲から離れることなく、種々の変更、改変を施すことができることは当業者には明らかである。