(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803885
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】フロントサブフレーム構造
(51)【国際特許分類】
B62D 21/00 20060101AFI20201214BHJP
B60G 21/055 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
B62D21/00 A
B60G21/055
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-183015(P2018-183015)
(22)【出願日】2018年9月27日
(65)【公開番号】特開2020-50213(P2020-50213A)
(43)【公開日】2020年4月2日
【審査請求日】2019年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 誠二
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 悌己
(72)【発明者】
【氏名】輿石 武彦
(72)【発明者】
【氏名】渡部 知央
【審査官】
諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−137243(JP,A)
【文献】
特開2014−104898(JP,A)
【文献】
特開平08−142910(JP,A)
【文献】
特開2017−047863(JP,A)
【文献】
特開2003−182628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/00
B60G 21/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びる左右一対の縦メンバと、前記左右一対の縦メンバの間で車幅方向に延びるクロスメンバとを有するフロントサブフレーム構造であって、
前記各縦メンバに設けられ、スタビライザが取り付けられるスタビ取付部と、
車両衝突時に、前記各縦メンバの下方へ向けた折れ変形を促進する変形促進部と、
を備え、
前記クロスメンバには、ステアリングギヤボックスを介してステアリングが取り付けられており、
前記変形促進部は、前記ステアリングが取り付けられる前記クロスメンバと前記スタビ取付部との間に設けられていることを特徴とするフロントサブフレーム構造。
【請求項2】
請求項1記載のフロントサブフレーム構造において、
前記変形促進部は、前記各縦メンバに設けられた段差部であることを特徴とするフロントサブフレーム構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のフロントサブフレーム構造において、
前記スタビ取付部は、前記各縦メンバから上方に向かって突出して前記スタビライザを保持するスタビホルダを有することを特徴とするフロントサブフレーム構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のフロントサブフレーム構造において、
前記クロスメンバは、ステアリングギヤボックスが取り付けられるギヤボックス取付部を備え、
前記スタビ取付部は、前記ギヤボックス取付部に対して車幅方向にオフセットした位置に配置されていることを特徴とするフロントサブフレーム構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のフロントサブフレーム構造において、
前記ステアリングが取り付けられる前記クロスメンバの車両後方側に、左右一対の縦メンバ同士をたすき掛け状に掛け渡す一対のブレースが配置されていることを特徴とするフロントサブフレーム構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前方に配置されるフロントサブフレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、前面衝突時にフロントサイドフレームの変形モードをコントロールすることで、フロントサブフレームを車体フロアの下方に脱落させる構造が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された構造では、車両衝突時にフロントサブフレームが車両後方に変位し、フロントサブフレームを車体に固定するボルト等が抜け落ちてフロントサブフレームを車体下方へ脱落させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5460684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両衝突時において、衝突荷重がフロントサブフレームに伝達されて、フロントサブフレームが車体から脱落するまでの間に車体側に対して衝突荷重が入力される場合がある。例えば、車体フロアに対してバッテリが搭載された電気自動車の場合、車体側に対して入力された衝突荷重は、車体フロアに搭載されたバッテリに伝達され、バッテリの損傷につながるおそれがある。
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、車両衝突時、フロントサブフレームから車体側へ衝突荷重が伝達されることを抑制することが可能なフロントサブフレーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明は、車両前後方向に延びる左右一対の縦メンバと、前記左右一対の縦メンバの間で車幅方向に延びるクロスメンバとを有するフロントサブフレーム構造であって、前記各縦メンバに設けられ、スタビライザが取り付けられるスタビ取付部と、車両衝突時に、前記各縦メンバの下方へ向けた折れ変形を促進する変形促進部と、を備え、前記変形促進部は、前記クロスメンバと前記スタビ取付部との間に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、車両衝突時、フロントサブフレームから車体側へ衝突荷重が伝達されることを抑制することが可能なフロントサブフレーム構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るフロントサブフレームが組み込まれた車両前部を斜め上方からみた斜視図である。
【
図2】
図1に示すフロントサブフレームの平面図である。
【
図3】スタビ取付部に対してスタビライザが取り付けられると共に、ギヤボックス取付部に対してステアリングギヤボックスが取り付けられた状態を示す平面図である。
【
図4】
図3に示す状態を底面側からみた底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るフロントサブフレームが組み込まれた車両前部を斜め上方からみた斜視図、
図2は、
図1に示すフロントサブフレームの平面図である。なお、各図中において、「前後」は、車両前後方向、「左右」は、車幅方向(左右方向)、「上下」は、車両上下方向(鉛直上下方向)を、それぞれ示している。
【0011】
車両の前方には、本発明の実施形態に係るフロントサブフレーム10が配置されている。このフロントサブフレーム10は、車両前後方向に沿って延びる左右一対のフロントサイドフレーム12、12(
図4参照)の下方側に取り付けられている。また、フロントサブフレーム10は、図示しない前輪用懸架装置を支持すると共に、図示しないマウント機構を介してパワーユニット(モータやエンジン等の駆動源)を支持している。
【0012】
図1及び
図2に示されるように、フロントサブフレーム10は、左右一対の縦メンバ16、16と、クロスメンバ18と、一対のブレース20、20とを備えて構成されている。
【0013】
左右一対の縦メンバ16、16は、概ね車両前後方向に沿って延びている。各縦メンバ16の車両前方端部16aは、上方に向かって延びる連結フレーム22(後記する
図4、
図5参照)を介してフロントサイドフレーム12に連結されている。各縦メンバ16の車両後方端部16bは、フロントパネル14(
図4参照)の車両前方端部14aに連結されている。
【0014】
左右一対の縦メンバ16、16とクロスメンバ18とによって、フロントサブフレーム10は、平面視して略H字状を呈している。また、各縦メンバ16の車両前方端部16aは、各縦メンバ16の車両後方端部16bよりも車幅方向外側に位置する前開き状態に設けられている。
【0015】
図3は、スタビ取付部に対してスタビライザが取り付けられると共に、ギヤボックス取付部に対してステアリングギヤボックスが取り付けられた状態を示す平面図、
図4は、
図3に示す状態を底面側からみた底面図、
図5は、
図4のV−V線に沿った縦断面図である。
【0016】
図3に示されるように、各縦メンバ16には、スタビライザ24が取り付けられるスタビ取付部26が設けられている。スタビ取付部26は、各縦メンバ16の車両前方側の上面において、連結フレーム22とクロスメンバ18との間に設けられている(
図5参照)。スタビ取付部26は、各縦メンバ16の上面から上方に向かって突出してスタビライザ24の中間部を保持するスタビホルダ28を有する。
【0017】
図5に示されるように、スタビホルダ28は、台座部27と、保持部29と、締結固定部31とを有する。台座部27は、縦メンバ16の上面に固定される略平板状の板体で形成されている。保持部29は、台座27上に載置され、2つの半割要素が合わされてスタビライザ24の外周面を囲繞して保持するように形成されている。締結固定部31は、車両前後方向に離間して配置された一組のボルト挿通孔を有し、このボルト挿通孔に挿通されるボルト及びナットを介して、保持部29及び台座27を縦メンバ16に締結固定している。
【0018】
図3に示されるように、スタビライザ24は、例えば、中空のパイプ材からなり、直線状延在部24aと、屈曲部24bと、後方延出部24cとを有する。直線状延在部24aは、車幅方向に沿って略直線状に延在している。屈曲部24bは、直線状延在部24aの車幅方向外側端部から車両後方に向かって屈曲している。後方延出部24cは、屈曲部24bから車幅方向外側で車両後方に向かって延出している。なお、スタビライザ24の端部は、左右一対のサスペンションアーム33に固定されている(
図3参照)。
【0019】
スタビホルダ28は、スタビライザ24の直線状延在部24aの左右外側端部で屈曲部24bの手前側の部位を保持している(
図3参照)。
【0020】
また、
図1及び
図2に示されるように、各縦メンバ16には、衝突荷重が入力されたときに縦メンバ16の中間部から下折れ変形を発生させる変形促進部30が設けられている。この変形促進部30は、各縦メンバ16の車両前後方向に沿った中間部で、クロスメンバ18とスタビ取付部26との間に設けられている。
【0021】
図1に示されるように、本実施形態において、変形促進部30は、各縦メンバ16の上面に設けられた段差部32で構成されている。段差部32は、平面視して縦メンバ16の軸線と直交する方向(車幅方向)に沿って延在している。
【0022】
クロスメンバ18は、左右一対の縦メンバ16、16の中央部の間で車幅方向に沿って延びている。また、クロスメンバ18は、ステアリングギヤボックス34が取り付けられる左右一対のギヤボックス取付部36を有する(
図1、
図2参照)。各ギヤボックス取付部36は、平面視してクロスメンバ18の車両前方端部側に配置されたボルト締結孔を有し、ステアリングギヤボックス34の取付フランジがボルト及びナットを介してクロスメンバ18のギヤボックス取付部36に固定される(
図3参照)。スタビ取付部26は、ギヤボックス取付部36に対して車幅方向外側にオフセットした位置に配置されている。
【0023】
図4に示されるように、一対のブレース20、20は、クロスメンバ18よりも車両後方に配置され、左右一対の縦メンバ16、16同士をたすき掛け状に掛け渡すように連結されている。各ブレース20の車両前方端部は、ボルトBを介してクロスメンバ18の車両後方部位に締結固定されている。また、各ブレース20の車両後方端部は、ボルトBを介して縦メンバ16の車幅方向内側に連結固定されている(
図4参照)。
【0024】
本実施形態に係るフロントサブフレーム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0025】
本実施形態では、車両衝突時に、各縦メンバ16の下方へ向けた折れ変形を促進する変形促進部30を設けている。この変形促進部30は、各縦メンバ16の車両前後方向に沿った中間部で、クロスメンバ18とスタビ取付部26との間に設けられている。
【0026】
これにより、本実施形態では、それぞれ剛性・強度が高いスタビ取付部26とクロスメンバ18との間に変形促進部30を配置することで、各縦メンバ16の下折れ変形の変形促進作用に加えて、さらに、各縦メンバ16の車両前後方向の部位との強度差によっても変形が促進される。この結果、本実施形態では、縦メンバ16を変形促進部30で確実に折ることができる。本実施形態では、変形促進部30において衝突荷重を確実に吸収することで、フロントサブフレーム10から車体側へ衝突荷重が伝達されることを抑制することができる。
【0027】
また、本実施形態では、変形促進部30が、各縦メンバ16の上面に設けられた段差部32で構成されている。これにより、本実施形態では、それぞれ剛性・強度が高いスタビ取付部26及びクロスメンバ18の間に段差部32を設けることで、段差部32の車両前後方向の部位との強度差によって縦メンバ16の下折れ変形を促進することができる。さらに加えて、本実施形態では、段差部32へ応力が集中することによって下折れ変形をより一層促進することができ、縦メンバ16を段差部32で確実に折ることができる。
【0028】
さらに、本実施形態では、スタビ取付部26が、各縦メンバ16から上方に向かって突出してスタビライザ24の中間部を保持するスタビホルダ28を有している。本実施形態では、縦メンバ16が変形促進部30(段差部32)により一定角度で下方に折れると、スタビホルダ28が折れた縦メンバ16に当接する。これにより、本実施形態では、スタビホルダ28を介して、縦メンバ16に対して車両後方、且つ、下方へ向けて荷重を伝達することで、フロントサブフレーム10を車体側から確実に脱落させることができる。
【0029】
さらにまた、本実施形態では、スタビ取付部26が、ギヤボックス取付部36に対して車幅方向外側にオフセットした位置に配置されている。本実施形態では、スタビ取付部26とギヤボックス取付部36とが車幅方向にオフセットして配置されることで、縦メンバ16の下折れ変形の途中において、スタビ取付部26とギヤボックス取付部36とが互いに干渉(接触)することを防止している。これにより、スタビ取付部26とギヤボックス取付部36とが互いに接触しないため、縦メンバ16の変形の妨げとなることを回避することができる。この結果、本実施形態では、フロントサブフレーム10の変形モードのコントロールを確実に遂行することができると共に、所望の衝突ストロークを確保することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 フロントサブフレーム
16 縦メンバ
18 クロスメンバ
24 スタビライザ
26 スタビ取付部
28 スタビホルダ
30 変形促進部
32 段差部
34 ステアリングギヤボックス
36 ギヤボックス取付部