特許第6803905号(P6803905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6803905-アーク防護服用布帛及びアーク防護服 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803905
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】アーク防護服用布帛及びアーク防護服
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/00 20060101AFI20201214BHJP
   D01F 6/54 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   D03D15/00 E
   D01F6/54 C
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-503090(P2018-503090)
(86)(22)【出願日】2017年2月23日
(86)【国際出願番号】JP2017006888
(87)【国際公開番号】WO2017150341
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2019年12月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-42571(P2016-42571)
(32)【優先日】2016年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元洋
(72)【発明者】
【氏名】松本 良友
(72)【発明者】
【氏名】大関 達郎
(72)【発明者】
【氏名】見尾 渡
(72)【発明者】
【氏名】田中 康規
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 裕人
(72)【発明者】
【氏名】松島 智也
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−275824(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102409422(CN,A)
【文献】 特表2007−500802(JP,A)
【文献】 特表2014−525520(JP,A)
【文献】 特表2013−533394(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/171990(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/111116(WO,A1)
【文献】 特表2010−537074(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0203688(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104762711(CN,A)
【文献】 特開平08−158202(JP,A)
【文献】 中国特許第103436974(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/18
D01F 6/38
D01F 6/40
D01F 6/54
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
D03D 1/00 − 27/18
D04B 1/00 − 1/28
D04B 21/00 − 21/20
D04H 1/00 − 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の糸及び第1の糸と異なる第2の糸を含むアーク防護服用布帛であって、
第1の糸は第1のアクリル系繊維を含有し、第1のアクリル系繊維は、繊維の内部に赤外線吸収剤を繊維の全体重量に対して2.5重量%以上含んでおり、
前記アーク防護服用布帛において、赤外線吸収剤の単位面積あたりの重量は0.05oz/yd2以上であり、
前記赤外線吸収剤は、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムスズ酸化物、ニオブドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化チタン基材に担持したアンチモンドープ酸化スズ、鉄ドープ酸化チタン、炭素ドープ酸化チタン、フッ素ドープ酸化チタン、窒素ドープ酸化チタン、アルミニウムドープ酸化亜鉛、及びアンチモンドープ酸化亜鉛からなる群から選ばれる一種以上であることを特徴とするアーク防護服用布帛。
【請求項2】
前記アーク防護服用布帛は、第1の糸と第2の糸を交織した織物である請求項1に記載のアーク防護服用布帛。
【請求項3】
前記アーク防護服用布帛の第1の面における第1の糸の露出量と、前記アーク防護服用布帛の第1の面の反対側に位置する第2の面における第1の糸の露出量が異なる請求項1又は2に記載のアーク防護服用布帛。
【請求項4】
第1の糸は、第1の糸の全体重量に対して第1のアクリル系繊維を30重量%以上含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のアーク防護服用布帛。
【請求項5】
第1のアクリル系繊維は、アンチモン化合物を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のアーク防護服用布帛。
【請求項6】
第2の糸は、アクリル系繊維、及び/又は、公定水分率が8%以上の繊維を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のアーク防護服用布帛。
【請求項7】
第2の糸は、吸熱性物質及び/又は光反射性物質を含有する第2のアクリル系繊維を含み、
前記吸熱性物質は、フッ化アルミニウム、水酸化アルミニウム、第二リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、水酸化コバルト、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、及び塩化コバルトアンモニア錯体からなる群から選ばれる一種以上であり、
前記光反射性物質は、酸化チタン、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化ケイ素、及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる一種以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載のアーク防護服用布帛。
【請求項8】
前記吸熱性物質は、水酸化アルミニウムである請求項7に記載のアーク防護服用布帛。
【請求項9】
前記光反射性物質は、酸化チタンである請求項7に記載のアーク防護服用布帛。
【請求項10】
前記アーク防護服用布帛は、目付6.5oz/yd2以下において、ASTM F1959/F1959M−12(Standard Test Method for Determining the Arc Rating of Materials for Clothing)に基づいて測定したATPV値が8cal/cm2以上である請求項1〜9のいずれか1項に記載のアーク防護服用布帛。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のアーク防護服用布帛を含むことを特徴とするアーク防護服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐アーク性を有するアーク防護服用布帛及びアーク防護服関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アークフラッシュによる事故が数多く報告されており、アークフラッシュの危険性を防ぐために、電気整備士、工場労働者などの電気アークに実際に曝される危険性がある環境下で作業する作業者が着用する防護服に耐アーク性を持たせることが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、モダクリル繊維とアラミド繊維を含むアーク防護用糸や布帛を用いた防護服が記載されている。また、特許文献3には、アンチモン含有モダクリル繊維又は難燃アクリル繊維、及びアラミド繊維を含む糸や布帛をアーク防護服に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−529649号公報
【特許文献2】特表2012−528954号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0292953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び特許文献3では、モダクリル繊維やアラミド繊維の配合量を調整することで糸や布帛に耐アーク性を付与しているが、低目付の場合、耐アーク性が低いという問題があった。また、特許文献2では、アンチモンの量を減らしたモダクリル繊維をアラミド繊維と混紡品にすることで耐アーク性を付与しているが、低目付の場合、耐アーク性が低いという問題があった。
【0006】
本発明は、アクリル系繊維を用いつつ、低目付でも、高い耐アーク性を有するアーク防護服用布帛及びアーク防護服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一実施態様において、第1の糸及び第1の糸と異なる第2の糸を含むアーク防護服用布帛であって、第1の糸は第1のアクリル系繊維を含有し、第1のアクリル系繊維は、繊維の内部に赤外線吸収剤を繊維の全体重量に対して2.5重量%以上含んでおり、上記アーク防護服用布帛において、赤外線吸収剤の単位面積あたりの重量は0.05oz/yd2以上であることを特徴とするアーク防護服用布帛に関する。
【0008】
本発明の一実施形態において、上記アーク防護服用布帛は、第1の糸と第2の糸を交織した織物であることが好ましい。
【0009】
本発明の一実施形態において、上記アーク防護服用布帛の第1の面における第1の糸の露出量と、上記アーク防護服用布帛の第1の面の反対側に位置する第2の面における第1の糸の露出量は異なることが好ましい。
【0010】
本発明の一実施形態において、第1の糸は、第1の糸の全体重量に対して第1のアクリル系繊維を30重量%以上含むことが好ましい。
【0011】
本発明の一実施形態において、第1のアクリル系繊維は、アンチモン化合物を含むことが好ましい。
【0012】
本発明の一実施態様において、第2の糸は、アクリル系繊維、及び/又は、公定水分率が8%以上の繊維を含むことが好ましい。本発明の一実施態様において、第2の糸は、吸熱性物質及び/又は光反射性物質を含有する第2のアクリル系繊維を含むことが好ましい。上記吸熱性物質は、水酸化アルミニウムであってもよい。上記光反射性物質は、酸化チタンであってもよい。
【0013】
上記アーク防護服用布帛は、目付6.5oz/yd2以下において、ASTM F1959/F1959M−12(Standard Test Method for Determining the Arc Rating of Materials for Clothing)に基づいて測定したATPV値が8cal/cm2以上であることが好ましい。
【0014】
本発明は、また、上記のアーク防護服用布帛を含むことを特徴とするアーク防護服に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、アクリル系繊維を含み、低目付でも、高い耐アーク性を有するアーク防護服用布帛及びアーク防護服を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1Aは、本発明の一実施形態のアーク防護服用布帛(織物)の織組織図であり、図1Bは同表面の模式的平面図であり、図1Cは同裏面の模式的平面図である。
図2図2Aは、本発明の一実施形態のアーク防護服用布帛(織物)の織組織図であり、図2Bは同表面の模式的平面図であり、図2Cは同裏面の模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、アクリル系繊維を含み、低目付の布帛の耐アーク性を高めることについて、鋭意検討した。その結果、赤外線吸収剤を2.5重量%以上含有するアクリル系繊維で構成された布帛は赤外線を吸収することで、赤外線吸収剤を含有しないアクリル系繊維で構成された布帛に比べて、ATPV(アーク熱性能比)が高くなり、耐アーク性が向上することを見出した。しかし、布帛の目付が大きい場合、例えば7oz/yd2を超える場合は、赤外線吸収剤の配合量を増加させると、ATPV(アーク熱性能比)がより高くなるが、布帛の目付が低い場合、例えば6.5oz/yd2以下の場合は、吸収した赤外線から変換された熱が照射面の反対側の面までに伝わりやすく、赤外線吸収剤の配合量を増やしても、目付の大きい場合のようなATPV(アーク熱性能比)を更に向上させる効果を得ることが容易ではなかった。そこで、第1の糸及び第1の糸と異なる第2の糸で布帛を構成し、第1の糸として繊維の内部に赤外線吸収剤を繊維の全体重量に対して2.5重量%以上含有する第1のアクリル系繊維を含む糸を用いて、アーク防護服用布帛の単位面積あたりにおける赤外線吸収剤の重量を0.05oz/yd2以上にすることで、低目付でも、耐アーク性が高くなることを見出し、本発明に至った。
【0018】
第1の糸は、繊維の内部に赤外線吸収剤を含有する第1のアクリル系繊維を含む。赤外線吸収剤が繊維の内部に存在することにより、繊維表面に赤外線吸収剤を付着させた場合と比べると、風合いが良好であるとともに、耐洗濯性も高い。
【0019】
第1のアクリル系繊維は、繊維の全体重量に対して赤外線吸収剤を2.5重量%以上含む。これにより、アクリル系繊維が高い耐アーク性を有する。耐アーク性を向上させる観点から、第1のアクリル系繊維は、繊維の全体重量に対して赤外線吸収剤を3重量%以上含むことが好ましく、より好ましくは4重量%以上含み、さらに好ましくは5重量%以上含む。風合いの観点から、第1のアクリル系繊維は、繊維の全体重量に対して赤外線吸収剤を30重量%以下含むことが好ましく、より好ましくは28重量%以下含み、さらに好ましくは25重量%以下含む。
【0020】
上記赤外線吸収剤は、赤外線吸収効果を有するものであればよく、特に限定されない。例えば、750〜2500nmの波長領域において、吸収ピークを有することが好ましい。具体的には、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムスズ酸化物、ニオブドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化チタン基材に担持したアンチモンドープ酸化スズなどの酸化スズ系化合物、鉄ドープ酸化チタン、炭素ドープ酸化チタン、フッ素ドープ酸化チタン、窒素ドープ酸化チタンなどの酸化チタン系化合物、アルミニウムドープ酸化亜鉛、アンチモンドープ酸化亜鉛などの酸化亜鉛系化合物などが挙げられる。インジウムスズ酸化物は、インジウムドープ酸化スズとスズドープ酸化インジウムを含む。耐アーク性を向上させる観点から、上記赤外線吸収剤は、酸化スズ系化合物であることが好ましく、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムスズ酸化物、ニオブドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ及び酸化チタン基材に担持したアンチモンドープ酸化スズからなる群から選ばれる一種以上であることがより好ましく、アンチモンドープ酸化スズ及び酸化チタン基材に担持したアンチモンドープ酸化スズからなる群から選ばれる一種以上であることがさらに好ましく、酸化チタン基材に担持したアンチモンドープ酸化スズであることがさらにより好ましい。また、上記赤外線吸収剤を用いると、耐アーク性を高めるとともに、アクリル系繊維を淡色にすることができるため好ましい。上記赤外線吸収剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
上記赤外線吸収剤は、アクリル系繊維を構成するアクリル系重合体中に分散しやすい観点から、平均粒子径が2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。本発明において、赤外線吸収剤の平均粒子径は、粉体の場合は、レーザー回折法で測定することができ、水や有機溶媒に分散した分散体(分散液)の場合は、レーザー回折法又は動的光散乱法で測定することができる。
【0022】
第1のアクリル系繊維は、アンチモン化合物を含んでもよい。上記アクリル系繊維におけるアンチモン化合物の含有量は、繊維の全体重量に対して1.6〜33重量%であることが好ましく、より好ましくは3.8〜21重量%である。第1のアクリル系繊維におけるアンチモン化合物の含有量が上記範囲内であれば、紡糸工程の生産安定性に優れるとともに難燃性が良好になる。
【0023】
上記アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸、アンチモン酸ナトリウムなどのアンチモン酸の塩類、オキシ塩化アンチモンなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。紡糸工程の生産安定性の面から、上記アンチモン化合物は、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン及び五酸化アンチモンからなる群から選ばれる1つ以上の化合物であることが好ましい。
【0024】
第1の糸は、耐アーク性を向上させる観点から、第1の糸の全体重量に対して第1のアクリル系繊維を30重量%以上含むことが好ましく、35重量%以上含むことがより好ましく、40重量%以上含むことがさらに好ましい。第1の糸における第1のアクリル系繊維の含有量の上限は、特に限定されないが、難燃性付与の観点から、65重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましく、55重量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
第1の糸は、アーク防護服用布帛の耐久性を向上させる観点から、アラミド繊維を含んでもよい。第1の糸は、第1の糸の全体重量に対して、アラミド繊維を5〜40重量%含んでもよく、5〜35重量%含んでもよく、5〜30重量%含んでもよく、10〜20重量%含んでもよい。
【0026】
第1の糸は、アーク防護服用布帛の風合いを良好にし、耐久性を向上させる観点から、セルロース系繊維を含んでもよい。第1の糸は、第1の糸の全体重量に対して、セルロース系繊維を30〜65重量%含んでもよく、35〜60重量%含んでもよく、35〜50重量%含んでもよく、35〜40重量%含んでもよい。
【0027】
第1の糸は、耐アーク性、耐久性及び風合いの観点から、第1の糸の全体重量に対して、第1のアクリル系繊維を30〜65重量%、アラミド繊維を5〜40重量%及びセルロース系繊維を30〜65重量%含んでもよく、第1のアクリル系繊維を35〜65重量%、アラミド繊維を5〜40重量%及びセルロース系繊維を35〜60重量%含んでもよい。
【0028】
第1の糸は、第1のアクリル系繊維以外のアクリル系繊維を含んでもよい。第1のアクリル系繊維以外のアクリル系繊維としては、酸化アンチモンなどのアンチモン化合物を含むアクリル系繊維を用いてもよく、アンチモン化合物を含まないアクリル系繊維を用いてもよい。
【0029】
第2の糸は、第1の糸と異なる糸であればよく、特に限定されない。耐アーク性の観点から、第2の糸は、アクリル系繊維、及び/又は、公定水分率が8%以上の繊維(以下において、「高水分率繊維」とも記す。)を含むことが好ましい。第2の糸において、アクリル系繊維は第1のアクリル系繊維であってもよいが、この場合、第1の糸における第1のアクリル系繊維の含有量は、第2の糸における第1のアクリル系繊維の含有量より高い必要がある。第1の糸における第1のアクリル系繊維の含有量が、第2の糸における第1のアクリル系繊維の含有量より5重量%以上高いことが好ましく、より好ましくは10重量%以上高い。第2の糸は、第1のアクリル系繊維以外のアクリル系繊維を含んでもよい。耐アーク性を高める観点から、第2の糸は、吸熱性物質及び/又は光反射性物質を含有する第2のアクリル系繊維を含むことが好ましい。第1の糸に含まれた第1のアクリル系繊維により吸収された赤外線により生じる熱を吸熱性物質により吸収することができる。また、第1のアクリル系繊維により吸収された赤外線を光反射性物質により布帛外部に反射することができる。吸熱性物質及び/又は光反射性物質は、繊維内部に存在することが好ましい。風合いや耐洗濯性が良好になる。
【0030】
上記吸熱性物質としては、熱を吸収することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、フッ化アルミニウム、水酸化アルミニウム、第二リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、水酸化コバルト、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化コバルトアンモニア錯体などを用いることができる。水酸化アルミニウムとしては、ベーマイト、ギブサイ、ダイアスボアなどの天然鉱物を用いても良い。上記吸熱性物質は、一種で用いても良く、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0031】
上記光反射性物質は、可視光又は赤外線を反射することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、酸化チタン、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどを用いることができる。上記光反射性物質は、一種で用いても良く、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0032】
第2のアクリル系繊維は、耐アーク性及び風合いの観点から、繊維の内部に吸熱性物質及び/又は光反射性物質を繊維の全体重量に対して1〜10重量%含むことが好ましく、1〜7重量%含むことがより好ましく、1〜5重量%含むことがさらに好ましい。
【0033】
上記吸熱性物質及び光反射性物質は、アクリル系繊維を構成するアクリル系重合体中に分散しやすい観点から、平均粒子径が2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。本発明において、吸熱性物質及び/光反射性物質の平均粒子径は、粉体の場合は、レーザー回折法で測定することができ、水や有機溶媒に分散した分散体(分散液)の場合は、レーザー回折法又は動的光散乱法で測定することができる。
【0034】
第2のアクリル系繊維は、アンチモン化合物を含んでもよい。上記アクリル系繊維におけるアンチモン化合物の含有量は、繊維全体重量に対して1.6〜33重量%であることが好ましく、より好ましくは3.8〜21重量%である。第2のアクリル系繊維におけるアンチモン化合物の含有量が上記範囲内であれば、紡糸工程の生産安定性に優れるとともに難燃性が良好になる。アンチモン化合物としては、上述した第1のアクリル系繊維に含ませるものと同様のものを用いることができる。
【0035】
本発明の一実施形態において、繊維の公定水分率とは、JIS L 0105(2006)に基づくものであり、各種繊維の公定水分率については、JIS L 0105(2006)の4.1の表1の繊維の公定水分率に示されている値を用いることができる。上記高水分率繊維は、公定水分率が8%以上であることが好ましく、特に限定されないが、耐アーク性をより向上させる観点から、公定水分率が10%以上であることがより好ましく、11%以上であることがさらに好ましい。また、上記高水分率繊維の公定水分率の上限については特に限定されず、繊維を入手しやすい観点から、20%以下であってもよい。
【0036】
上記高水分率繊維は、例えば、セルロース系繊維、天然動物繊維などを用いることができる。上記セルロース系繊維としては、天然セルロース系繊維を用いてもよく、再生セルロース系繊維を用いてもよい。上記天然セルロース系繊維としては、例えば、綿(コットン)、カボック、亜麻(リネン)、苧麻(ラミー)、黄麻(ジュート)などを用いることができる。上記再生セルロース系繊維としては、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセルなどを用いることができる。また、上記天然動物繊維としては、羊毛、キヤメル、カシミヤ、モヘヤ、その他の獣毛、絹なども用いることができる。強度の観点から、上記セルロース系繊維の繊維長は、好ましくは15〜38mmであり、より好ましくは20〜38mmである。上記再生セルロース系繊維は、特に限定されないが、繊度が1〜20dtexであることが好ましく、1.2〜15dtexであることがより好ましい。上記高水分率繊維は、1種で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
第2の糸に公定水分率が8%以上の繊維を含ませることにより、第1の糸に含まれた第1のアクリル系繊維が赤外線を吸収することにより発熱することを抑制することができ、布帛の耐アーク性を向上させることができると推測される。
【0038】
第2の糸は、第2の糸の全体重量に対してアクリル系繊維を30重量%以上含んでもよく、35重量%以上含んでもよく、40重量%以上含んでもよい。また、第2の糸におけるアクリル系繊維の含有量の上限は、特に限定されず、65重量%以下であってもよく、60重量%以下であってもよく、55重量%以下であってもよい。耐アーク性を向上させる観点から、第2の糸の全体重量に対して第2のアクリル系繊維を30重量%以上含むことが好ましく、35重量%以上含むことがより好ましく、40重量%以上含むことがさらに好ましい。第2の糸における第2のアクリル系繊維の含有量の上限は、特に限定されないが、難燃性付与の観点から、65重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましく、55重量%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
第2の糸は、耐アーク性を向上させる観点から、第2の糸の全体重量に対して上記高水分率繊維を30重量%以上含んでもよく、35重量%以上含んでもよく、40重量%以上含んでもよく。また、第2の糸における上記高水分率繊維の含有量の上限は、特に限定されず、95重量%以下であってもよい。第2の糸が上記高水分率繊維を含むことにより、アーク防護服用布帛の風合いを良好にすることも、耐久性を向上させることもできる。第1の糸と第2の糸のいずれもセルロース系繊維を含む場合、第2の糸におけるセルロース系繊維の含有量が第1の糸におけるセルロース系繊維の含有量より30重量%以上高いことが好ましく、50重量%以上高いことがより好ましい。
【0040】
第2の糸は、アーク防護服用布帛の耐久性を向上させる観点から、アラミド繊維を含んでもよい。第2の糸は、第2の糸の全体重量に対して、アラミド繊維を5〜40重量%含んでもよく、5〜35重量%含んでもよく、5〜30重量%含んでもよく、10〜20重量%含んでもよい。
【0041】
第2の糸は、耐アーク性、耐久性及び風合いの観点から、第2の糸の全体重量に対して、アクリル系繊維を30〜65重量%、アラミド繊維を5〜40重量%及びセルロース系繊維を30〜65重量%含んでもよく、第1のアクリル系繊維以外のアクリル系繊維を35〜65重量%、アラミド繊維を5〜40重量%及びセルロース系繊維を35〜60重量%含んでもよい。第2の糸は、耐アーク性を高める観点から、第2の糸の全体重量に対して、第2のアクリル系繊維を30〜65重量%、アラミド繊維を5〜40重量%及びセルロース系繊維を30〜65重量%含んでもよく、第2のアクリル系繊維を35〜65重量%、アラミド繊維を5〜40重量%及びセルロース系繊維を35〜60重量%含んでもよい。
【0042】
また、第2の糸は、耐アーク性、耐久性及び風合いの観点から、第2の糸の全体重量に対して、高水分率繊維を60〜95重量%及びアラミド繊維を5〜40重量%含んでもよく、高水分率繊維を65〜90重量%及びアラミド繊維を10〜35重量%含んでもよい。
【0043】
第1のアクリル系繊維、第2のアクリル系繊維及びその他のアクリル系繊維は、アクリル系重合体の全体重量に対して、アクリロニトリルを40〜70重量%、他の成分を30〜60重量%含むアクリル系重合体で構成されていることが好ましい。上記アクリル系重合体中のアクリロニトリルの含有量が40〜70重量%であれば、アクリル系繊維の耐熱性及び難燃性が良好になる。
【0044】
上記他の成分としては、アクリロニトリルと共重合可能なものであればよく特に限定されない。例えば、ハロゲン含有ビニル系単量体、スルホン酸基含有単量体などが挙げられる。
【0045】
上記ハロゲン含有ビニル系単量体としては、例えば、ハロゲン含有ビニル、ハロゲン含有ビニリデンなどが挙げられる。ハロゲン含有ビニルとしては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニルなどが挙げられ、ハロゲン含有ビニリデンとしては、塩化ビニリデン、臭化ビニリデンなどが挙げられる。これらのハロゲン含有ビニル系単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。耐熱性及び難燃性の観点から、上記耐アーク性アクリル系繊維は、アクリル系重合体の全体重量に対して、他の成分としてハロゲン含有ビニル系単量体を30〜60重量%含むことが好ましい。
【0046】
上記スルホン酸基を含有する単量体としては、例えば、メタクリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、及びそれらの塩などが挙げられる。上記において、塩としては、例えば、p−スチレンスルホン酸ソーダなどのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらのスルホン酸基を含有する単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルホン酸基を含有する単量体は必要に応じて使用されるが、上記アクリル系重合体中のスルホン酸基を含有する単量体の含有量が3重量%以下であれば紡糸工程の生産安定性に優れる。
【0047】
上記アクリル系重合体は、40〜70重量%のアクリロニトリルと、30〜57重量%のハロゲン含有ビニル系単量体、0〜3重量%のスルホン酸基を含有する単量体を共重合した共重合体であることが好ましい。より好ましくは、上記アクリル系重合体は、45〜65重量%のアクリロニトリルと、35〜52重量%のハロゲン含有ビニル系単量体、0〜3重量%のスルホン酸基を含有する単量体を共重合した共重合体である。
【0048】
第1のアクリル系繊維及び第2のアクリル系繊維及びその他のアクリル系繊維の繊度は、特に限定されないが、布帛にする際の紡績性や加工性、布帛とした際の風合いや強度の観点から、好ましくは1〜20dtexであり、より好ましくは1.5〜15dtexである。また、上記アクリル系繊維の繊維長は、特に限定されないが、紡績性や加工性の観点から、好ましくは38〜127mmであり、より好ましくは38〜76mmである。本発明において、繊維の繊度は、JIS L 1015(2010)に基づいて測定したものである。
【0049】
第1のアクリル系繊維及び第2のアクリル系繊維及びその他のアクリル系繊維の強度は、特に限定されないが、紡績性や加工性の観点から、1.0〜4.0cN/dtexであることが好ましく、1.5〜3.0cN/dtexであることがより好ましい。また、第1のアクリル系繊維及び第2のアクリル系繊維及びその他のアクリル系繊維の伸度は、特に限定されないが、紡績性や加工性の観点から、20〜35%であることが好ましく、より好ましくは20〜25%である。本発明において、繊維の強度及び伸度は、JIS L 1015(2010)に基づいて測定したものである。
【0050】
第1のアクリル系繊維は、例えば、アクリル系重合体を溶解した紡糸原液に赤外線吸収剤などを添加する以外は、一般的なアクリル系繊維の場合と同様に紡糸原液を湿式紡糸することで製造することができる。
【0051】
第2のアクリル系繊維は、例えば、アクリル系重合体を溶解した紡糸原液に吸熱性物質及び/光反射性物質などを添加する以外は、一般的なアクリル系繊維の場合と同様に紡糸原液を湿式紡糸することで製造することができる。
【0052】
上記アラミド繊維は、パラアラミド繊維であってもよく、メタアラミド繊維であってもよい。上記アラミド繊維の繊度は、特に限定されないが、強度の観点から、好ましくは1〜20dtexであり、より好ましくは1.5〜15dtexである。また、上記アラミド繊維の繊維長は、特に限定されないが、強度の観点から、好ましくは38〜127mmであり、より好ましくは38〜76mmである。
【0053】
上記セルロース系繊維としては、特に限定されないが、耐久性の観点から、天然セルロース系繊維を用いることが好ましい。上記天然セルロース系繊維としては、例えば、綿(コットン)、カボック、亜麻(リネン)、苧麻(ラミー)、黄麻(ジュート)などを用いることができる。また、上記天然セルロース系繊維は、綿(コットン)、カボック、亜麻(リネン)、苧麻(ラミー)、黄麻(ジュート)などの天然セルロース系繊維を、N−メチロールホスホネート化合物、テトラキスヒドロキシアルキルホスホニウム塩などのリン系化合物などの難燃剤で難燃化処理された難燃化セルロース系繊維であってもよい。強度の観点から、上記天然セルロース系繊維の繊維長は、好ましくは15〜38mmであり、より好ましくは20〜38mmである。上記再生セルロース系繊維としては、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセルなどを用いることができる。強度の観点から、上記再生セルロース系繊維の繊維長は、好ましくは15〜38mmであり、より好ましくは20〜38mmである。上記再生セルロース系繊維は、特に限定されないが、繊度が1〜20dtexであることが好ましく、1.2〜15dtexであることがより好ましい。これらのセルロース系繊維は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
第1の糸は、紡績糸であってもよく、フィラメント糸であっても良い。目的に応じて適宜選択すればよい。第1の糸がセルロース系繊維を含む場合は、紡績糸として用いることができる。第1の糸は、例えば、第1のアクリル系繊維などを含む繊維混合物を公知の紡績方法で紡績する製造することができる。紡績方法として、リング紡績、空気紡績、及びエアジェット紡績などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
第2の糸は、紡績糸であってもよく、フィラメント糸であっても良い。目的に応じて適宜選択すればよい。第2の糸がセルロース系繊維を含む場合は、紡績糸として用いることができる。第2の糸は、例えば、第2のアクリル系繊維を含む繊維混合物を公知の紡績方法で紡績する製造することができる。紡績方法として、リング紡績、空気紡績、及びエアジェット紡績などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
第1の糸及び第2の糸の太さは、特に限定されないが、例えば、アーク防護服用布帛に好適という観点から、英式綿番手5〜40番であってもよく、10〜30番であってもよい。また糸種は単糸であってもよく、双糸であってもよい。
【0057】
上記アーク防護服用布帛は、第1の糸と第2の糸を交織した織物であってもよく、第1の糸と第2の糸を交編した編物であってもよい。また、第1の糸で構成された第1の層と第2の糸で構成された第2の層を含む積層布帛であってもよい。積層布帛の場合、第1の層は、織物であってもよく編物であってもよい。また、第2の層も、織物であってもよく編物であってもよい。上記織物の組織については、特に限定されず、平織、綾織、朱子織などの三原組織でもよく、ドビーやジャガーなどの特殊織機を用いた変化応用織でもよい。また、上記編物の組織も、特に限定されず、丸編、横編、経編のいずれでもよい。上記アーク防護服用布帛は、タテ糸として二種類以上の糸を用い、ヨコ糸としても二種類以上の糸を用いたグリッド生地(織物)であってもよい。グリッド生地の場合、第1の糸をヨコ糸及びタテ糸として用い、第2の糸をグリッドの糸として、ヨコ糸及びタテ糸に用いてもよい。
【0058】
上記アーク防護服用布帛は、特に限定されないが、例えば、布帛の全体重量に対して第1の糸を50〜90重量%含み、第2の糸を10〜50重量%含んでもよく、第1の糸を55〜85重量%含み、第2の糸を15〜45重量%含んでもよく、第1の糸を70〜80重量%含み、第2の糸を10〜20重量%含んでもよい。また、上記アーク防護服用布帛は、特に限定されないが、例えば、布帛の全体重量に対して第1の糸を55〜60重量%含み、第2の糸を40〜45重量%含んでも良い。
【0059】
上記アーク防護服用布帛が織物又は編物である場合、耐アーク性に優れる観点から、上記アーク防護服用布帛の第1の面における第1の糸の露出量と、上記アーク防護服用布帛の第1の面の反対側に位置する第2の面における第1の糸の露出量が異なることが好ましい。アーク防護服用布帛において、アーク防護服の着用者に近い面を裏面とし、アーク防護服の着用者に遠い面を表面とした場合、上記アーク防護服用布帛の表面における第1の糸の露出量が、上記アーク防護服用布帛の裏面における第1の糸の露出量より大きいことが好ましい。本発明において、布帛の所定の面における糸の露出量とは、例えば、所定の糸の全体本数に対する布帛の所定の面に表れている糸の本数の割合で示すことができる。
【0060】
上記アーク防護服用布帛は、耐アーク性に優れるという観点から、第1の糸と第2の糸を交織した織物であることが好ましく、生地強度もしくは耐久性という観点から綾織の織物であることがより好ましい。また、アーク防護服用布帛の第1の面における第1の糸の露出量と、上記アーク防護服用布帛の第1の面の反対側に位置する第2の面における第1の糸の露出量に差を設け、耐アーク性を高める観点から、2/1綾織り、3/1綾織り、朱子織などであることが好ましい。上記アーク防護服用布帛は、耐アーク性に優れるという観点から、第1の糸と第2の糸を交織した織物の場合、上記アーク防護服用布帛の第1の面における第1の糸の露出量と、上記アーク防護服用布帛の第1の面の反対側に位置する第2の面における第1の糸の露出量の差は10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。また、上記アーク防護服用布帛は、耐アーク性に優れるという観点から、第1の糸と第2の糸を交織した織物の場合、上記アーク防護服用布帛の第1の面における第1の糸の露出量と、上記アーク防護服用布帛の第1の面の反対側に位置する第2の面における第1の糸の露出量の差は90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。
【0061】
上記アーク防護服用布帛が織物の場合、第1の糸は、ヨコ糸であってもよく、タテ糸であってもよい。また、第2の糸も、ヨコ糸であってもよく、タテ糸であってもよい。タテ糸の打ち込み本数(密度)は、特に限定されないが、例えば、30〜140本/インチ(2.54cm)であってもよく、80〜95本/インチであってもよい。また、ヨコ糸の打ち込み本数は、特に限定されないが、例えば、20〜100本/インチであってもよく、60〜75本/インチであってもよい。
【0062】
図1Aに、2/1綾織りの組織図を示している。図1Bの2/1綾織りの織物の表面の模式的構造図及び図1Cの同裏面の模式的構造図に示されているように、織物10において、タテ糸11がヨコ糸12に対して2:1の割合で表面に多く表れており、ヨコ糸12がタテ糸11に対して2:1の割合で裏面に多く表れている。タテ糸の全体本数に対する表面に表れるタテ糸の割合(露出量)は67%であり、裏面に表れるタテ糸の割合は33%であった。
【0063】
図2Aに、3/1綾織りの組織図を示している。図2Bの3/1綾織りの織物の表面の模式的構造図及び図2Cの同裏面の模式的構造図に示されているように、織物20において、タテ糸21がヨコ糸22に対して3:1の割合で表面に多く表れており、ヨコ糸22がタテ糸21に対して3:1の割合で裏面に多く表れている。タテ糸の全体本数に対する表面に表れるタテ糸の割合は75%であり、裏面に表れるタテ糸の露出量は25%であった。
【0064】
上記アーク防護服用布帛において、単位面積あたりの赤外線吸収剤の重量は0.05oz/yd2以上である。耐アーク性に優れる観点から、0.06oz/yd2以上であることが好ましく、0.07oz/yd2以上であることがより好ましく、0.08oz/yd2以上であることがさらに好ましい。上記アーク防護服用布帛において、単位面積あたりの赤外線吸収剤の重量の上限は特に限定されないが、赤外線吸収効果の上昇限度及びコストの観点から、例えば、0.26oz/yd2以下にしてもよい。
【0065】
上記アーク防護服用布帛は、目付(単位面積(1平方ヤード)当たりの布帛の重量(オンス))が、3〜10oz/yd2であることが好ましく、4〜9oz/yd2であることがより好ましく、4〜8oz/yd2であることがさらに好ましい。目付が上記範囲であれば、軽量で作業性に優れる防護服を提供することができる。
【0066】
上記アーク防護服用布帛は、比ATPV(cal/cm2)/(oz/yd2)が1.25を超えることが好ましく、1.26以上であることがより好ましく、1.3以上であることがさらに好ましい。本発明において、比ATPV((cal/cm2)/(oz/yd2))は、ATPVを目付で除した単位目付(oz/yd2)当たりのAPTV(cal/cm2)であり、ATPV(arc thermal performance value、アーク熱性能比)は、ASTM F1959/F1959M−12(Standard Test Method for Determining the Arc Rating of Materials for Clothing)に基づいたアーク試験にて測定したものである。
【0067】
上記アーク防護服用布帛は、目付6.5oz/yd2以下において、ASTM F1959/F1959M−12(Standard Test Method for Determining the Arc Rating of Materials for Clothing)に基づいて測定したATPV値が8cal/cm2以上であることが好ましい。軽量で耐アーク性が良好な防護服を提供することができる。
【0068】
上記アーク防護服用布帛は、特に限定されないが、作業着としての生地の強さ及び快適性の観点から、厚みが0.3〜1.5mmであることが好ましく、0.4〜1.3mmであることがより好ましく、0.5〜1.1mmであることがさらに好ましい。厚みは、JIS L 1096(2010)に準じて測定するものである。
【0069】
本発明のアーク防護服は、本発明のアーク防護服用布帛を用い、公知の方法により製造することができる。上記アーク防護服は、上記アーク防護服用布帛を単層で用いて単層の防護服として用いることができるし、上記のアーク防護服用布帛を2以上の層で用いて多層防護服として用いることもできる。多層防護服の場合、全ての層に上記のアーク防護服用布帛を用いてもよく、一部の層に上記アーク防護服用布帛を用いてもよい。多層防護服の一部の層に上記アーク防護服用布帛を用いる場合、外側の層に上記アーク防護服用布帛を用いることが好ましい。
【0070】
上記アーク防護服用布帛として、第1の面における第1の糸の露出量と、第1の面の反対側に位置する第2の面における第1の糸の露出量が異なる布帛を用いる場合は、第1の糸の露出量が多い面がアーク防護服のより外側に配置されるようにすることが好ましい。
【0071】
本発明のアーク防護服は、耐アーク性に優れる上、難燃性及び作業性も良好である。さらに、洗濯を繰り返しても、その耐アーク性や難燃性が維持される。
【0072】
本発明は、また、上述した布帛をアーク防護服用布帛として使用する方法を提供する。具体的には、第1の糸と第2の糸を含む布帛をアーク防護服用に使用する方法であって、第1の糸は第1のアクリル系繊維を含有し、第1のアクリル系繊維は、繊維の内部に赤外線吸収剤を繊維の全体重量に対して2.5重量%以上含んでおり、上記布帛において、単位面積あたりの赤外線吸収剤の重量は0.05oz/yd2以上である布帛をアーク防護服用布帛として用いる使用方法を提供する。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を詳述する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下において、特に指摘がない場合、「%」及び「部」は、それぞれ、「重量%」及び「重量部」を意味する。
【0074】
<アクリル系繊維の製造例1>
アクリロニトリル51重量%、塩化ビニリデン48重量%及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなるアクリル系共重合体をジメチルホルムアミドに樹脂濃度が30重量%になるように溶解させた。得られた樹脂溶液に、樹脂重量100重量部に対して10重量部の三酸化アンチモン(Sb23、日本精鉱社製、品名「Patx−M」)と5重量部のアンチモンドープ酸化スズ(ATO、石原産業社製、品名「SN−100P」)を添加し、紡糸原液とした。上記三酸化アンチモンは、予め、ジメチルホルムアミドに対して30重量%になるように添加し、均一分散させて調製した分散液として用いた。上記三酸化アンチモンの分散液において、レーザー回折法で測定した三酸化アンチモンの粒子径は2μm以下であった。上記アンチモンドープ酸化スズは、予め、ジメチルホルムアミドに対して30重量%になるように添加し、均一分散させて調製した分散液として用いた。上記アンチモンドープ酸化スズの分散液において、レーザー回折法で測定したアンチモンドープ酸化スズの粒子径は0.01〜0.03μmであった。得られた紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数300ホールのノズルを用い、50重量%のジメチルホルムアミド水溶液中へ押し出して凝固させ、次いで水洗した後120℃で乾燥し、乾燥後に3倍に延伸してから、さらに145℃で5分間熱処理を行うことにより、アクリル系繊維を得た。得られた製造例1のアクリル系繊維は、繊度1.7dtex、強度2.5cN/dtex、伸度26%、カット長51mmであった。実施例及び比較例において、アクリル系繊維の繊度、強度及び伸度は、JIS L 1015(2010)に基づいて測定した。製造例1のアクリル系繊維は、繊維の内部にアンチモンドープ酸化スズ及び三酸化アンチモンを含み、繊維の全体重量に対するアンチモンドープ酸化スズの含有量は4.3重量%であり、繊維の全体重量に対する三酸化アンチモンの含有量は8.7重量%あった。
【0075】
(アクリル系繊維の製造例2)
得られた樹脂溶液に、樹脂重量100重量部に対して10重量部の三酸化アンチモン(Sb23、日本精鉱社製、品名「Patx−M」)と10重量部の酸化チタン(堺化学工業社製、品名「R−22L」)を添加し、紡糸原液とした以外は、製造例1と同様にして、アクリル系繊維を得た。上記酸化チタンは、予め、ジメチルホルムアミドに対して30重量%になるように添加し、均一分散させて調製した分散液として用いた。上記酸化チタンの分散液において、レーザー回折法で測定した酸化チタンの平均粒子径は0.4μmであった。得られた製造例2のアクリル系繊維は、繊度1.75dtex、強度1.66cN/dtex、伸度22.9%、カット長51mmであった。製造例2のアクリル系繊維は、繊維の内部に酸化チタン及び三酸化アンチモンを含み、繊維の全体重量に対する酸化チタンの含有量は8.3重量%であり、繊維の全体重量に対する三酸化アンチモンの含有量は8.3重量%あった。
【0076】
(アクリル系繊維の製造例3)
得られた樹脂溶液に、樹脂重量100重量部に対して10重量部の三酸化アンチモン(Sb23、日本精鉱社製、品名「Patx−M」)と5重量部の水酸化アルミニウム(住友化学社製、品名「C−301N」)を添加し、紡糸原液とした以外は、製造例1と同様にして、アクリル系繊維を得た。上記水酸化アルミニウムは、予め、ジメチルホルムアミドに対して30重量%になるように添加し、均一分散させて調製した分散液として用いた。上記水酸化アルミニウムの分散液において、レーザー回折法で測定した水酸化アルミニウムの平均粒子径は2μmであった。得られた製造例3のアクリル系繊維は、繊度1.81dtex、強度2.54cN/dtex、伸度27.5%、カット長51mmであった。製造例3のアクリル系繊維は、繊維の内部に水酸化アルミニウム及び三酸化アンチモンを含み、繊維の全体重量に対する水酸化アルミニウムの含有量は4.3重量%であり、繊維の全体重量に対する三酸化アンチモンの含有量は8.7重量%あった。
【0077】
(アクリル系繊維の製造例4)
得られた樹脂溶液に、樹脂重量100重量部に対して26重量部の三酸化アンチモン(Sb23、日本精鉱社製、品名「Patx−M」)を添加し、紡糸原液とした以外は、製造例1と同様にして、アクリル系繊維を得た。得られた製造例4のアクリル系繊維は、繊度2.2dtex、強度2.33cN/dtex、伸度22.3%、カット長51mmであった。製造例4のアクリル系繊維は、繊維の全体重量に対して三酸化アンチモンを20.6重量%含んでいた。
【0078】
(アクリル系繊維の製造例5)
得られた樹脂溶液に、樹脂重量100重量部に対して10重量部の三酸化アンチモン(Sb23、日本精鉱社製、品名「Patx−M」)を添加し、紡糸原液とした以外は、製造例1と同様にして、アクリル系繊維を得た。得られた製造例5のアクリル系繊維は、繊度1.7dtex、強度3.4cN/dtex、伸度34%、カット長51mmであった。製造例5のアクリル系繊維は、繊維の全体重量に対して三酸化アンチモンを9.1重量%含んでいた。
【0079】
(アクリル系繊維の製造例6)
アクリロニトリル49重量%、塩化ビニル50.5重量%及びp−スチレンスルホン酸ソーダ0.5重量%からなるアクリル系共重合体ジメチルホルムアミドに樹脂濃度が30重量%になるように溶解させた。得られた樹脂溶液に、樹脂重量100重量部に対して6重量部の三酸化アンチモン(Sb23、日本精鉱社製、品名「Patx−M」)を添加し、紡糸原液とした以外は、製造例1と同様にして、アクリル系繊維を得た。得られた製造例6のアクリル系繊維は、繊度1.9dtex、強度2.7cN/dtex、伸度29%、カット長51mmであった。製造例のアクリル系繊維は、繊維の全体重量に対して三酸化アンチモンを5.7重量%含んでいた。
【0080】
(アクリル系繊維の製造例7)
得られた樹脂溶液に、樹脂重量100重量部に対して10重量部の三酸化アンチモン(Sb23、日本精鉱社製、品名「Patx−M」)と3重量部のアンチモンドープ酸化スズ(ATO、石原産業社製、品名「SN−100P」)を添加し、紡糸原液とした以外は、製造例1と同様にして、アクリル系繊維を得た。得られた製造例のアクリル系繊維は、繊度1.7dtex、強度2.5cN/dtex、伸度27%、カット長51mmであった。製造例7のアクリル系繊維は、繊維の内部にアンチモンドープ酸化スズ及び三酸化アンチモンを含み、繊維の全体重量に対するアンチモンドープ酸化スズの含有量は2.6重量%であり、繊維の全体重量に対する三酸化アンチモンの含有量は8.8重量%あった。
【0081】
(アクリル系繊維の製造例8)
アクリロニトリル49重量%、塩化ビニル50.5重量%及びp−スチレンスルホン酸ソーダ0.5重量%からなるアクリル系共重合体ジメチルホルムアミドに樹脂濃度が30重量%になるように溶解させた。得られた樹脂溶液に、樹脂重量100重量部に対して10重量部の三酸化アンチモン(Sb23、日本精鉱社製、品名「Patx−M」)を添加し、紡糸原液とした以外は、製造例1と同様にして、アクリル系繊維を得た。得られた製造例のアクリル系繊維は、繊度1.7dtex、強度2.8cN/dtex、伸度29%、カット長51mmであった。製造例8のアクリル系繊維は、繊維の全体重量に対する三酸化アンチモンを9.1重量%含む。
【0082】
<紡績糸の製造例1〜製造例10>
製造例1〜8で得られたアクリル系繊維、パラアラミド繊維(Yantai Tayho Advanced Materials Co.,Ltd.製、品名「泰普龍(Taparan、登録商標)」、繊度1.67dtex、繊維長51mm、以下において、「PA」とも記す。)、セルロース系繊維(リヨセル繊維、レンチング社製の「Tencel(登録商標)」、繊度1.4dtex、繊維長38mm)、以下において、「Tencel」とも記す。)を、下記表1に示す割合で混合し、リング紡績により紡績した。製造例1−7で得られた紡績糸は、英式綿番手20番単糸の混紡糸であり、製造例8−9で得られた紡績糸は、英式綿番手38番双糸の混紡糸であり、製造例10で得られた紡績糸は、英式綿番手35番双糸の混紡糸であった。
【0083】
【表1】
【0084】
製造例1〜8で得られたアクリル系繊維、パラアラミド繊維(PA)及びセルロース系繊維(Tencel)の公定水分率(JIS L 0105の4.1の表1に記載の値)を下記表2に示した。
【0085】
【表2】
【0086】
(実施例1)
製造例5の紡績糸をタテ糸として用い、製造例1の紡績糸をヨコ糸として用いて、図1に示すような2/1綾組織の織物(厚み0.45mm)を作製した。打ち込み本数は、タテ糸は90本/1インチとし、ヨコ糸は70本/1インチとし、目付が6.5oz/yd2であった。実施例1において、ヨコ糸は第1の糸であり、タテ糸は第2の糸である。実施例1の織物において、織物の全体重量に対して第1の糸は44重量%含まれており、第2の糸は56重量%含まれている。
【0087】
(実施例2)
製造例1の紡績糸をタテ糸として用い、製造例2の紡績糸をヨコ糸として用いて、図2に示すような3/1綾組織の織物(厚み0.45mm)を作製した。打ち込み本数は、タテ糸は80本/1インチとし、ヨコ糸は60本/1インチとし、目付が5.3oz/yd2であった。実施例2において、タテ糸は第1の糸であり、ヨコ糸は第2の糸である。実施例2の織物において、織物の全体重量に対して第1の糸は57重量%含まれており、第2の糸は43重量%含まれている。
【0088】
(実施例3)
製造例1の紡績糸をタテ糸として用い、製造例3の紡績糸をヨコ糸として用いて、図2に示すような3/1綾組織の織物(厚み0.45mm)を作製した。打ち込み本数は、タテ糸は80本/1インチとし、ヨコ糸は60本/1インチとし、目付が5.1oz/yd2であった。実施例3において、タテ糸は第1の糸であり、ヨコ糸は第2の糸である。実施例3の織物において、織物の全体重量に対して第1の糸は57重量%含まれており、第2の糸は43重量%含まれている。
【0089】
(実施例4)
製造例1の紡績糸をタテ糸として用い、製造例4の紡績糸をヨコ糸として用いて、図2に示すような3/1綾組織の織物(厚み0.45mm)を作製した。打ち込み本数は、タテ糸は80本/1インチとし、ヨコ糸は60本/1インチとし、目付が5.2oz/yd2であった。実施例4において、タテ糸は第1の糸であり、ヨコ糸は第2の糸である。実施例4の織物において、織物の全体重量に対して第1の糸は57重量%含まれており、第2の糸は43重量%含まれている。
【0090】
(実施例5)
タテ糸に製造例1及び製造例6の紡績糸を、ヨコ糸に製造例1及び製造例6の紡績糸を用いて、2/1綾組織の織物(厚み0.45mm)を作製した。打ち込み本数は、タテ糸は80本/1インチとし、ヨコ糸は60本/1インチとし、目付が5.3oz/yd2であった。なお、実施例5の織物はグリッド生地であり、製造例6の紡績糸をグリッドの糸として用い、グリッドの糸密度は、タテ糸において、3本/18本であり、ヨコ糸において、3本/15本であった。すなわち、タテ糸として、製造例1の紡績糸と製造例6の紡績糸が用いられ、製造例1の紡績糸が15本、製造例6の紡績糸が3本の順番で打ち込まれており、ヨコ糸として、製造例1の紡績糸と製造例6の紡績糸が用いられ、製造例1の紡績糸が12本、製造例6の紡績糸が3本の順番で打ち込まれておいる。実施例5において、製造例1の紡績糸は第1の糸であり、製造例6の紡績糸は第2の糸であった。実施例5の織物において、織物の全体重量に対して第1の糸は82重量%含まれており、第2の糸は18重量%含まれている。
【0091】
(実施例6)
製造例8の紡績糸をタテ糸として用い、製造例10の紡績糸をヨコ糸として用いて、図1に示すような2/1綾組織の織物(厚み0.45mm)を作製した。打ち込み本数は、タテ糸は78本/1インチとし、ヨコ糸は58本/1インチとし、目付が5.7oz/yd2であった。実施例6において、タテ糸は第1の糸であり、ヨコ糸は第2の糸である。実施例6の織物において、織物の全体重量に対して第1の糸は57重量%含まれており、第2の糸は43重量%含まれている。
【0092】
(比較例1)
製造例5の紡績糸をタテ糸及びヨコ糸として用いて、2/1綾組織の織物(厚み0.45mm)を作製した。打ち込み本数は、タテ糸は90本/1インチとし、ヨコ糸は70本/1インチとし、目付が6.2oz/yd2であった。
【0093】
(比較例2)
製造例5の紡績糸をタテ糸として用い、製造例7の紡績糸をヨコ糸として用いて、図2に示すような3/1綾組織の織物(厚み0.45mm)を作製した。打ち込み本数は、タテ糸は80本/1インチとし、ヨコ糸は60本/1インチとし、目付が5.2oz/yd2であった。比較例2において、ヨコ糸は第1の糸であり、タテ糸は第2の糸に該当する。比較例2の織物において、織物の全体重量に対して第1の糸は43重量%含まれており、第2の糸は57重量%含まれている。
【0094】
(比較例3)
製造例9の紡績糸をタテ糸として用い、製造例10の紡績糸をヨコ糸として用いて、図1に示すような2/1綾組織の織物(厚み0.45mm)を作製した。打ち込み本数は、タテ糸は84本/1インチとし、ヨコ糸は63本/1インチとし、目付が6.2oz/yd2であった。
【0095】
(参考例1)
製造例1の紡績糸をタテ糸及びヨコ糸として用いて、2/1綾組織の織物(厚み0.45mm)を作製した。打ち込み本数は、タテ糸は90本/1インチとし、ヨコ糸は70本/1インチとし、目付が6.4oz/yd2であった。
【0096】
実施例1〜6、比較例1〜3及び参考例1の布帛の耐アーク性を下記のようにアーク試験にて評価し、その結果を下記表3に示した。下記表3に、布帛の表面及び裏面における第1の糸の露出量及び布帛の目付も示した。
【0097】
(アーク試験)
アーク試験は、ASTM F1959/F1959M−12(Standard Test Method for Determining the Arc Rating of Materials for Clothing)に基づいて行い、ATPV(cal/cm2)を求めた。
【0098】
(比ATPV)
布帛の目付及びアーク試験で求めたATPVに基づいて、布帛の単位目付当たりのATPV(cal/cm2)/(oz/yd2)、即ち比ATPVを算出した。
【0099】
【表3】
【0100】
上記表3のデータから分かるように、繊維の内部に赤外線吸収剤を繊維の全体重量に対して2.5重量%以上含有する第1のアクリル系繊維を含む第1の糸と、第1の糸とは異なる第2の糸を用い、布帛の単位面積あたりの赤外線吸収剤の重量を0.05oz/yd2以上にした実施例1〜6の織物は、タテ糸及びヨコ糸のいずれにも赤外線吸収剤を含有しないアクリル系繊維を含む糸を用いた比較例1の織物、ヨコ糸が赤外線吸収剤を含有するアクリル系繊維を含むが、布帛における単位面積あたりの赤外線吸収剤の重量が0.05oz/yd2未満である比較例2の織物、タテ糸及びヨコ糸のいずれにも赤外線吸収剤を含有するアクリル系繊維を含まない比較例3の織物、及びタテ糸及びヨコ糸のいずれにも赤外線吸収剤を含有する第1のアクリル系繊維を含む第1の糸を用いた参考例1の織物より、耐アーク性が高く、比ATPVが1.25(cal/cm2)/(oz/yd2)を超えていた。また、実施例の織物は、6.5oz/yd2以下の低目付でも、ATPVが8cal/cm2以上であり、耐アーク性に優れていた。
【0101】
実施例2と4の対比から、第1の糸に赤外線吸収剤を含有するアクリル系繊維を用い、第2の糸に光反射性物質を含むアクリル系繊維を用いた布帛の方が、ATPVが高くなる傾向がることが分かった。また、実施例1と6の対比から、第1の糸に赤外線吸収剤を含有するアクリル系繊維を用い、第2の糸に高水分率繊維を用いた布帛の方が、ATPVが高くなる傾向があることが分かった。また、実施例2及び実施例4のデータから、第1の糸の露出量が多い面を照射面にした方が、ATPVが高くなることが分かった。第1の糸の露出量が多い面を照射面にした方が、第1の糸における赤外線吸収剤によって吸収された赤外線から変換された熱が裏面に伝達し難いため、耐アーク性が向上したと推測される。
【符号の説明】
【0102】
10、20 織物
11、21 タテ糸
12、22 ヨコ糸
図1
図2