(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態について図面を参照して以下に説明する。実施形態のディスクブレーキ10は、車両に制動力を付与する。ディスクブレーキは、
図1に示すように、取付部材11と、一対のパッド12と、キャリパ13と、駐車ブレーキ用のワイヤ15と、駐車ブレーキ用のケーブル16とを備えている。
【0010】
取付部材11は、制動対象となる図示略の車輪と共に回転する円板状のディスク20の外径側を跨ぐように配置されて図示略の車両の非回転部に固定される。一対のパッド12は、ディスク20の両面に対向配置された状態でディスク20の軸線方向に摺動可能となるように取付部材11に支持されている。キャリパ13は、ディスク20の外径側を跨いだ状態でディスク20の軸線方向に摺動可能となるように取付部材11に支持されている。キャリパ13は、一対のパッド12をディスク20の両面に接触させて押圧することによりディスク20に摩擦抵抗を付与する。なお、以下においては、ディスク20の径方向をディスク径方向と称し、ディスク20の軸方向をディスク軸方向と称し、ディスク20の周方向(回転方向)をディスク周方向と称す。
【0011】
取付部材11は、鋳造により一体成形されて図示略の車両の非回転部に固定されるキャリア22と、板材からプレス成形により形成されてキャリア22に取り付けられる一対のパッドガイド23とを有している。キャリア22は、一対のパッド12のうち、車幅方向内側であるインナ側に配置されるパッド12のディスク周方向両側を一対のパッドガイド23を介してディスク軸方向に移動可能に支持するインナ側パッド支持部24と、車幅方向外側であるアウタ側に配置されるパッド12のディスク周方向両側を一対のパッドガイド23を介してディスク軸方向に移動可能に支持するアウタ側パッド支持部25と、ディスク周方向に離間しディスク軸方向に延在してインナ側パッド支持部24とアウタ側パッド支持部25とを連結する一対のピン支持部26とを有している。キャリア22は、一対のピン支持部26がディスク20の外周側を跨いで配置される。
【0012】
キャリア22には、そのディスク周方向の両端におけるディスク径方向外側となる一対のピン支持部26に、一対のピン穴29がディスク軸方向に沿って延びてインナ側から形成されている。一対のピン穴29内には、ディスク軸方向に摺動可能となるように、キャリパ13のディスク周方向両側に設けられた一対のスライドピン30,31がインナ側から摺動可能に挿入されている。すなわち、一方のスライドピン30が、一方のピン支持部26に形成された一方のピン穴29に、他方のスライドピン31が、他方のピン支持部26に形成された他方のピン穴29に、それぞれ挿入されている。一対のスライドピン30,31が一対のピン穴29に挿入されることにより、一対のスライドピン30,31を有するキャリパ13が、一対のピン穴29を有する取付部材11にディスク軸方向に移動可能に支持されている。一対のスライドピン30,31のキャリア22から突出する部分は伸縮可能な一対のブーツ32で被覆されている。
【0013】
キャリパ13は、ディスク周方向の両端部に一対のスライドピン30,31が取り付けられ、ディスク20を跨いだ状態で取付部材11に一対のスライドピン30,31を介して支持されるキャリパボディ34を有している。このキャリパボディ34は、シリンダ部35と、ブリッジ部36と、爪部37と、一対の腕部38と、ガイド取付部39と、ホース取付部40とを有しており、これらが鋳造によって一体に形成されている。
【0014】
キャリパ13は、そのキャリパボディ34が、ディスク20の軸方向一側であるインナ側にシリンダ部35が配置され、ディスク20の軸方向他側であるアウタ側に爪部37が配置され、爪部37とシリンダ部35とを接続するブリッジ部36がディスク20を跨いで設けられる、いわゆるフィスト型のキャリパとなっている。一対の腕部38には、上記した一対のスライドピン30,31がディスク軸方向に沿い且つ爪部37側に突出して固定されている。一対のスライドピン30,31は、インナ側から螺合される一対のボルト41で一対の腕部38に固定されている。
【0015】
図2に示すように、キャリパボディ34のシリンダ部35は、筒状のシリンダ筒部50とシリンダ筒部50の軸方向の一端を閉塞するように設けられたシリンダ底部51とを有する有底筒状をなしている。キャリパボディ34のシリンダ部35は、そのシリンダ開口部52をインナ側のパッド12に対向させている。ここで、シリンダ筒部50の内周面及び底面をボア55と呼ぶ。このボア55はシリンダ部35に形成されており、シリンダ底部51はシリンダ部35におけるボア底となっている。キャリパボディ34は、
図1に示すように、これに取り付けられた一対のスライドピン30,31が、キャリア22の一対のピン穴29に摺動可能に挿嵌されると、
図2に示すように、シリンダ部35のボア55の中心軸線がディスク20の中心軸線と平行をなす。すなわち、キャリパボディ34は、そのシリンダ部35の軸方向がディスク軸方向と一致する。
【0016】
キャリパボディ34には、シリンダ底部51に、シリンダ部35の軸方向に対し直交方向に沿って断面円形状の配置孔56が形成されている。また、シリンダ底部51には、ボア55の底面の中央位置から配置孔56までシリンダ部35の軸方向に沿って貫通する連通孔57が形成されている。
【0017】
キャリパボディ34のシリンダ筒部50のボア55の内周には、最もシリンダ底部51側に奥位置穴58が形成されており、この奥位置穴58よりもシリンダ開口部52側には、奥位置穴58よりも大径の摺動穴59が形成されている。この摺動穴59の奥位置穴58とは反対側の端部近傍には、後述するピストン72とシリンダ部35との間をシールするピストンシール60が保持されている。シリンダ筒部50の奥位置穴58の内周面には、その半径方向に凹み軸方向に延在する凹部形状の軸方向溝64が形成されている。
【0018】
キャリパ13は、円筒状の筒部70と円板状の蓋部71とを有する有蓋筒状に形成されたピストン72を有している。ピストン72は、筒部70側をシリンダ底部51側に向けた姿勢で、キャリパボディ34のシリンダ部35に形成されたボア55内に収容されることになり、具体的には、ボア55の摺動穴59に摺動可能に嵌合される。
【0019】
キャリパ13は、シリンダ部35のシリンダ開口部52側の内周部と、ピストン72の蓋部71側の外周部との間に、ピストン72とシリンダ部35のボア55との隙間を外側で覆う伸縮可能なブーツ73を有している。
【0020】
キャリパ13には、
図1に示すホース取付部40に図示略のブレーキホースが取り付けられることになる。ブレーキホースからのブレーキ液は、
図2に示すシリンダ部35とピストン72との間の室206に導入される。室206に導入されたブレーキ液の液圧によって、ボア55に摺動可能に嵌合されたピストン72をシリンダ部35の摺動穴59内で摺動させてシリンダ部35からパッド12の方向に移動させる。このピストン72の移動によって、キャリパ13は、取付部材11に対して摺動しつつ、ピストン72と爪部37とで一対のパッド12を両側から把持することによりディスク20にこれらパッド12を接触させる。言い換えれば、取付部材11に移動可能に支持された一対のパッド12が、キャリパ13によってディスク20の両面に押圧される。
【0021】
図示略のブレーキペダルへの踏み込み操作による通常制動時には、キャリパ13は、図示略のマスタシリンダからブレーキホースを介して、シリンダ部35とピストン72との間の室206にブレーキ液圧が導入される。すると、ピストン72が、導入されたブレーキ液圧で、シリンダ部35内を摺動してシリンダ部35から爪部37の方向に突出させられることにより一対のパッド12をディスク20に接触させて制動力を発生させる。他方で、キャリパ13は、キャリパボディ34に設けられたピストン72をこのようなブレーキ液圧ではなく機械的に推進することにより一対のパッド12をディスク20に押圧させて制動力を発生させる駐車ブレーキ機構81をキャリパボディ34内に有している。言い換えれば、駐車ブレーキ機構81は、ピストン72を推進するべくキャリパボディ34内に設けられている。すなわち、キャリパ13は、駐車ブレーキ機構81を内蔵するビルトインキャリパである。
【0022】
駐車ブレーキ機構81は、シリンダ部35内に収納されるカム機構82を有している。このカム機構82は、キャリパボディ34の配置孔56に嵌合される円弧状のベアリング83と、配置孔56内に配置され、このベアリング83を介して配置孔56に回転可能に支持される略円柱状の回転部材84とを有している。回転部材84には、半径方向の外周面から中心方向に向けて略V字状に凹むカム凹部85が形成されている。このカム凹部85は、最も凹んだ位置が回転部材84の中心軸線に対しオフセットしている。
【0023】
カム機構82は、カム凹部85に一端側が挿入されると共に他端側が連通孔57内に配置されるカムロッド88を有しており、このカムロッド88は、シリンダ部35の軸直交方向に沿う軸線回りに回転部材84が回転駆動されるとカム凹部85の形状によって回転部材84からの突出量を変化させる。つまり、カム凹部85は、その底部が回転部材84の中心に対してオフセットしていることにより、回転部材84が回転するとその底部の位置が連通孔57に対して進退して、底部に当接するカムロッド88の連通孔57側への突出量を変化させる。
【0024】
ここで、配置孔56内に配置される回転部材84は、
図1に示すように、キャリパボディ34のシリンダ底部51から一部外側に突出しており、回転部材84のこの突出部分にレバー部材89が連結されている。回転部材84は、レバー部材89に固定されており、レバー部材89が回転駆動されると、レバー部材89と一体に回転する。
【0025】
キャリパボディ34のシリンダ底部51には、レバー部材89の当接部210に当接してそれ以上のレバー部材89の回転を規制するストッパ部材211が固定されている。回転部材84には、レバー部材89を当接部210においてストッパ部材211に当接する方向に回転付勢するスプリング212が設けられている。スプリング212は、中間部のコイル部分に回転部材84が挿入されることで回転部材84に支持されており、一端側がレバー部材89のスプリング係止部213に係止され、他端側がストッパ部材211に係止されている。レバー部材89には、スプリング係止部213と並んで、ワイヤ15を係止するワイヤ係止部214が形成されている。
【0026】
図2に示すように、駐車ブレーキ機構81は、シリンダ部35内に収納され、カム機構82のカムロッド88で押圧されてシリンダ部35の軸方向に移動する直動伝達機構90を有している。直動伝達機構90は、プッシュロッド91と、クラッチ部材92と、これらプッシュロッド91とクラッチ部材92との位置調整を行うアジャスト部93と、カバー部材95と、プッシュロッド付勢スプリング96とを有している。直動伝達機構90は、そのカバー部材95がC字状の止め輪97によりシリンダ部35に係止されてシリンダ開口部52の方向の移動が規制されている。
【0027】
プッシュロッド91は、ディスク20側の先端部材98と、ディスク20とは反対側の基端部材99とからなっており、先端部材98は、ネジ軸部100と略円板状のフランジ部101とを有している。フランジ部101の外周部には、その半径方向外方に突出する凸部102が形成されている。この凸部102は、シリンダ筒部50の奥位置穴58の軸方向溝64に嵌合しており、これにより、先端部材98のシリンダ部35に対する回転が規制されている。クラッチ部材92は、先端部材98のネジ軸部100に螺合されるメネジ105を有している。
【0028】
駐車ブレーキ機構81は、レバー部材89を介してカム機構82が回転運動させられることにより、カムロッド88が、プッシュロッド91の基端部材99を押圧する。この押圧によって、プッシュロッド91およびクラッチ部材92が軸方向に直動移動してピストン72を押圧し、ピストン72をシリンダ部35に対しパッド12側に強制的に摺動させる。つまり、駐車ブレーキ機構81は、レバー部材89への回転入力でピストン72の移動方向に押圧力を発生させる。アジャスト部93は、一対のパッド12の摩耗に応じてプッシュロッド91の先端部材98のネジ軸部100とクラッチ部材92のメネジ105との螺合量を調整する。
【0029】
図1に示すように、キャリパ13は、キャリパボディ34のシリンダ底部51からディスク周方向に突出するガイド取付部39にボルト215で固定されるケーブルガイド部材110を有している。ケーブルガイド部材110は、ケーブル16の図示略の駐車ブレーキ入力機構へ向けての配索をガイドするもので、一端側にガイド取付部39に固定される取付ベース部111を有しており、他端側に、ワイヤ15を内包するケーブル16の末端の連結部120を係止するケーブル係止部112を有している。ケーブル係止部112は、取付ベース部111からガイド取付部39とは反対方向に立ち上がっている。ケーブル16に内包されケーブル16の末端部から延出するワイヤ15は、その末端部がレバー部材89のワイヤ係止部214に係止されている。よって、レバー部材89は、駐車ブレーキ機構81にワイヤ15からの力を伝達する。
【0030】
図示略の駐車ブレーキ入力機構(手動操作のための駐車ブレーキレバー、足踏み操作のための駐車ブレーキペダル、モータ駆動等による電動のケーブルプラー等)によって、
図1に示すケーブル16に対してワイヤ15が延出量を減らす方向に引かれるようになっている。ケーブル16に対してワイヤ15が引かれると、レバー部材89と回転部材84とが一体に回転する。すると、駐車ブレーキ機構81において、回転部材84が
図2に示すカムロッド88を介してプッシュロッド91を押圧する。このプッシュロッド91の押圧によってクラッチ部材92が軸方向に直動移動してピストン72を押圧し、ピストン72をシリンダ部35に対しパッド12側に強制的に摺動させる。その結果、ピストン72と爪部37とが一対のパッド12をディスク20に押圧して制動力を発生させる。
【0031】
図3に示すように、一対のスライドピン30,31のうちの一方のスライドピン30は、ピン本体130およびブッシュ131(弾性変形部材)の二部品で構成されている。ピン本体130は金属製の一体成形品であり、ブッシュ131は樹脂製の一体成形品となっている。
【0032】
図4にも示すように、ピン本体130の外周側には、軸方向の一端側から順に、工具が係合される六角形状の外周面141aを有する工具係合部141と、工具係合部141の最小径よりも小径の円筒状の外周面142aを有するブーツ嵌合部142と、ブーツ嵌合部142の外周面142aよりも大径の円筒状の外周面143aを有するブーツ係止部143と、ブーツ係止部143よりも小径の円筒状の外周面144aを有する中間軸部144と、中間軸部144よりも小径の円筒状の外周面145aを有する大径部145と、大径部145よりも小径の円筒状の外周面146aを有する小径部146と、小径部146よりも大径の円筒状の外周面147aを有する先端フランジ部147とを有している。
【0033】
工具係合部141、ブーツ嵌合部142、ブーツ係止部143、中間軸部144、大径部145、小径部146および先端フランジ部147のうち、大径部145が、軸方向長さが最も長く軸状となっている。
【0034】
工具係合部141、ブーツ嵌合部142、ブーツ係止部143および中間軸部144の径方向の中央には、ネジ穴151が形成されている。スライドピン30は、
図3に示すように、そのピン本体130が、工具係合部141においてキャリパボディ34の一方の腕部38に当接させられた状態で、ボルト41によって一方の腕部38に固定される。その際に、ボルト41は、一方の腕部38の図示略の貫通孔に挿入された後、
図4に示すピン本体130のネジ穴151に螺合される。腕部38から突出するように、この腕部38に取り付けられたピン本体130は、工具係合部141が突出方向の基端側に、小径部146が突出方向の先端側に形成されている。
【0035】
ピン本体130は、工具係合部141、ブーツ嵌合部142およびブーツ係止部143によって、ブーツ嵌合部142の外周面142aを溝底面とするブーツ嵌合溝152が形成されており、このブーツ嵌合溝152に、
図1に示すブーツ32の一端部が嵌合される。
【0036】
図4に示すように、ピン本体130は、大径部145、小径部146および先端フランジ部147によって、小径部146の外周面146aを溝底面とし、大径部145の小径部146側の軸直交方向に広がる端面145bおよび先端フランジ部147の小径部146側の軸直交方向に広がる端面147bを両側壁面とする環状のブッシュ保持溝153(環状溝)が形成されている。このブッシュ保持溝153の外周面は、基端側の大径部145の外周面145aよりも直径が小さい外周面146a(小径部)を有している。ピン本体130には、このブッシュ保持溝153にブッシュ131が嵌合して設けられている。大径部145および先端フランジ部147は、外周面145aの径が外周面147aの径よりも大径となっており、端面145bの外径が端面147bの外径よりも大径となっている。ピン本体130には、小径部146を含む環状溝であるブッシュ保持溝153が先端側に形成されている。
【0037】
図5に示すように、ブッシュ131は、筒状をなしており、弾性変形可能な樹脂で一体成形されている。ブッシュ131は、軸方向の中央を基準とした鏡面対称形状をなしている。ブッシュ131は、円筒状の本体部161と、本体部161の円筒面状の内周面161aから内周面161aの径方向の内方に突出する複数のドット状の凸部162とを有している。よって、ブッシュ131は、内周側に複数の凸部162を有している。
【0038】
本体部161は、その外周面161bが、円筒面状の最外周面161cと、最外周面161cの軸方向の両端縁部から軸方向外側に軸方向外側ほど小径となるように延出するテーパ面状の一対の端側外周面161dとを有している。本体部161は、その軸方向両端の一対の端面161eが、一対の端側外周面161dの最外周面161cとは反対側の端縁部と内周面161aの軸方向の各端部とを繋ぐように、軸直交方向に広がる平坦面状をなしている。
【0039】
複数の凸部162は、すべて同じ形状および同じ大きさであって、本体部161の軸方向に一列に等間隔で並べられ、このような列が本体部161の周方向に等間隔で並べられるように配置されている。言い換えれば、複数の凸部162は、本体部161の内周面161aを平面状に展開すると格子状すなわち格子の交点位置に配設されている。
【0040】
複数の凸部162は、本体部161の内周面161aから突出するほど突出方向に直交する面での断面積が小さくなる先細形状となっている。凸部162は、錐状、具体的には円錐状となっている。凸部162は、円錐状に限らず角錐状等の他の先細形状であっても良い。
【0041】
図6に示すように、本体部161の軸方向長さ、すなわちブッシュ131の軸方向長さは、ピン本体130のブッシュ保持溝153の軸方向長さとほぼ同等となっている。また、ブッシュ131のすべての凸部162の先端部は共通の円筒面を通り、この円筒面の径は、ピン本体130の小径部146の外径すなわち外周面146aの径よりも小径となっている。よって、ブッシュ131は、ブッシュ保持溝153内に配置され、ピン本体130の小径部146に複数の凸部162が締め代をもって嵌合する。その際に、小径部146の外周面146aには、複数の凸部162の先端が締め代をもって当接する。言い換えれば、ブッシュ131は、複数の凸部162がそれぞれの突出方向(本体部161の径方向)に弾性変形した状態で、ピン本体130の小径部146に当接する。このように小径部146に設けられた状態のブッシュ131は、外力が加わらなければ、小径部146に対し複数の凸部162のみが接触する。
【0042】
小径部146に嵌合された状態のブッシュ131は、両端面161eの内径が大径部145の端面145bおよび先端フランジ部147の端面147bの外径よりも小径である。よって、両端面161eが全周にわたって端面145b,147bと径方向に重なり合う。このため、ブッシュ131は、ブッシュ保持溝153内に、ブッシュ保持溝153からの外れが規制された状態で保持される。ブッシュ131は、全体が弾性変形可能であるため、ピン本体130に対しその軸方向にも弾性変形可能となっている。
【0043】
図4に示すように、ブッシュ131の本体部161には、外周側に、最外周面161cを軸方向に貫通して一対の端側外周面161dの軸方向中間位置まで延びる外周溝165が形成されている。外周溝165は、スライドピン30の移動時に生じるピン穴29のブッシュ131よりも底部側の室の容積変動に追従してブレーキ液を流通させる。
【0044】
スライドピン30は、ピン本体130の大径部145、小径部146および先端フランジ部147とピン本体130に保持されたブッシュ131とが、
図6に示す取付部材11のピン穴29に挿入される。この状態で、ブッシュ131は締め代をもってピン穴29の内周面29aに接触し、ピン本体130の大径部145および先端フランジ部147は、ピン穴29の内周面29aに対して径方向に隙間を有している。ピン本体130の大径部145と取付部材11のピン穴29とが同軸をなす状態では、ブッシュ131の本体部161が全周にわたって径方向内側に弾性変形するものの、本体部161の内周面161aは小径部146に接触することはない。
【0045】
図3に示す一対のスライドピン30,31のうちの他方のスライドピン31は、一部品で構成されており、金属製となっている。スライドピン31は、上記したピン本体130と同様の、工具係合部141、ブーツ嵌合部142、ブーツ係止部143および中間軸部144を有している。スライドピン31は、中間軸部144のブーツ係止部143とは反対側に、ピン本体130の大径部145よりも大径の主軸部171が先端まで延びている。つまり、スライドピン31には、ピン本体130に形成されている大径部145、小径部146および先端フランジ部147は形成されていない。主軸部171には、軸方向に延びる外周溝172が形成されている。外周溝172は、スライドピン31の移動時に生じるピン穴29のスライドピン31よりも底部側の室の容積変動に追従してブレーキ液を流通させる。
【0046】
スライドピン31は、主軸部171がピン穴29に摺動可能に挿入される。ここで、
図1に示すように、一対のスライドピン30,31が挿入される一対のピン穴29は、同内径すなわち内周面29aが同径となっている。スライドピン31は
図3に示す主軸部171においてスライドピン30のピン本体130よりも狭い隙間でピン穴29に摺動可能に嵌合される。ここで、一対のスライドピン30,31のうち、スライドピン30は、車両前進時のディスク回転方向の出口側に配置され、スライドピン31は、車両前進時のディスク回転方向の入口側に配置される。
【0047】
図示略のブレーキペダルの踏み込み操作で発生するブレーキ液圧による推進力および図示略の駐車ブレーキ入力機構への操作で発生する駐車ブレーキ機構81による推進力で、ピストン72がディスク20側へ移動してインナ側のパッド12をディスク20に押圧する。すると、その反力で、キャリパボディ34が、これに取り付けられた一対のスライドピン30,31を一対のピン穴29内で抜け出し方向に若干移動させながら爪部37をディスク20側に移動させて、爪部37でアウタ側のパッド12をディスク20に押圧する。その結果、ピストン72と爪部37とが一対のパッド12をディスク20に押圧して制動力を発生させる。このようにピストン72の移動時に、
図2に示すように外周面側がキャリパボディ34に、内周面側がピストン72に接触するピストンシール60は、摩擦力により内周面側がピストンシール60と一緒に移動して、弾性変形する。
【0048】
このように一対のスライドピン30,31が一対のピン穴29内で抜け出し方向に移動する際に、スライドピン30は、そのピン本体130がキャリパボディ34と一体に移動する。その際に、弾性部材からなるブッシュ131は、
図6に示すように、ピン穴29の内周面29aに接触する本体部161の外周面161b側が、内周面29aとの摩擦力でピン穴29に対し移動しないように留まろうとする。そして、ピン本体130の小径部146の外周面146aに接触する複数の凸部162が、
図7Aに示す状態から、それぞれの先端側を外周面146aとの摩擦力でピン本体130と一緒に移動させるように、
図7Bに示すように弾性変形してピン本体130の移動に追従する。つまり、制動時に、ブッシュ131は、ピン穴29に対してほぼ摺動せずに、複数の凸部162の撓みでピン穴29に対するピン本体130の抜け出し方向の移動に追従する。その際に、ブッシュ131の本体部161は、ピン本体130の先端フランジ部147の端面147bに押圧されて、端面147bに当接する端面161e側が若干弾性変形する。
【0049】
図示略のブレーキペダルの操作解除および図示略の駐車ブレーキ入力機構への操作解除で、ピストン72およびキャリパボディ34が、
図2に示すピストンシール60の弾性変形の戻り(ロールバック)で相対移動して、ピストン72および爪部37が互いに離れる。このとき、ピン穴29に対しスライドピン30のピン本体130が進入方向に移動する。その際に、弾性部材からなるブッシュ131は、ピン穴29の内周面29aに接触する本体部161の外周面161b側が、内周面29aとの摩擦力でピン穴29に対し移動しないように留まろうとする。そして、ピン本体130の小径部146の外周面146aに接触する複数の凸部162が、
図7Bに示す変形状態から、それぞれの先端側を外周面146aとの摩擦力でピン本体130と一緒に移動させるように
図7Aに示すように弾性変形から戻り、ピン本体130の移動に追従する。つまり、制動解除時に、ブッシュ131は、ピン穴29に対してほぼ摺動せずに、複数の凸部162の撓みの戻りでピン穴29に対するピン本体130の進入方向の移動に追従する。その際に、ブッシュ131の本体部161は、ピン本体130の先端フランジ部147の端面147bによる押圧も解除されて、端面147bに押圧されていた端面161e側が弾性変形から戻る。複数の凸部162の本体部161の軸方向における弾性変形量は、例えば、ディスク20の振れによるアウタ側のパッド12つまりこれに爪部37で当接するキャリパボディ34およびピン本体130の軸方向移動が容易にできる量に設定されている。
【0050】
ここで、複数の凸部162の本体部161の軸方向における弾性変形量が、制動によるピン本体130のピン穴29に対する最大移動量Dmaxおよび制動解除後に戻るピン本体130のピン穴29に対する移動量Delasticと同等になるように設定されている。
【0051】
以上のように、ブッシュ131は、制動時および制動解除時に、弾性変形および弾性変形の戻りで、ピン穴29に対するピン本体130の軸方向移動に追従するため、制動解除時にピストン72および爪部37がディスク20から離れる方向の移動の抵抗となりにくい。よって、パッド12の引き摺りによる異音の発生を抑制することができる。
【0052】
他方、パッド12の摩耗時に、ブッシュ131は、ピン穴29の内周面29aに接触する本体部161がピン本体130の先端フランジ部147の端面147bで押圧されて、外周面161bを内周面29aに対し摺動させてパッド12の摩耗に追従する。このとき、ブッシュ131は、剛性が高く接触面積が広い本体部161においてピン穴29の内周面29aを摺動するため、摩耗しにくい。また、このとき、本体部161がピン本体130の先端フランジ部147の端面147bに当接してブッシュ131のピン本体130に対する移動を規制するため、複数の凸部162のピン本体130に対する摺動を抑制できる。よって、ブッシュ131は、締め代の減少等の経時劣化を生じにくく、パッド12のラトルによる異音の発生を抑制できる。
【0053】
このように、ブッシュ131を、制動時に弾性変形する部位を内周側の弾性変形容易な複数の凸部162とし、ピン穴29の内周面29aに対し摺動する部位を外周側の剛性が高い本体部161として、分けることで、パッド12の引き摺りおよびラトルによる異音の発生を抑制する。
【0054】
特許文献1には、サブピンが挿入されるピン穴の内周側であってサブピンの基端側に対向する領域に溝を形成し、この溝に、サブピンの進入方向と脱出方向とでサブピンとピン穴との間の摺動抵抗が異なるように形成されたブッシュを配置した構成が開示されている。
【0055】
また、特許文献2には、サブピンの先端に、外周に凸部を設けたブッシュが設けられた構成が開示されている。制動時のピストンの押圧反力によりピンがピン穴に対し軸方向に移動する際に、ピン穴とピンとの間に介在するブッシュには剪断力が生じる。凸部が設けられていないブッシュを用いると、その剛性が高く弾性変形量が小さいため、ピン穴に対して摺動してしまう。剪断力が生じたときに、ブッシュが大きく弾性変形できれば、制動解除後の弾性変形の戻りも大きくなって、ピンのピン穴に対する元の位置への戻りの抵抗にはなり難いが、弾性変形量が小さくピンに対して摺動してしまうと、ピンのピン穴に対する元の位置への戻りの抵抗となりパッドの引き摺りを生じて異音を発生させてしまう可能性がある。
【0056】
特許文献2では、ブッシュの外周に設けられた凸部のバネ定数が基部に対して低くなるため、制動時は凸部が変形し、制動解除後の凸部が制動前形状に戻ることでピンが容易に軸方向に移動でき、引き摺りに起因した異音の発生を抑制可能となる。しかしながら、外周に凸部を設けたブッシュでは、パッドの摩耗追従に関して、制動を繰り返してパッドのライニングが摩耗した場合は、凸部がピン穴の内周面に対して摺動することになり、剛性の低い凸部はこの摺動により摩耗しやすい。その結果、摩耗によって締め代が減ることで、ブッシュによるピンの保持力が低下し、パッドのラトルによる異音を発生させてしまう可能性がある。
【0057】
これに対して、実施形態のディスクブレーキ10は、スライドピン30のピン本体130の先端側に形成された小径部146に、内周側に複数の凸部162を有するブッシュ131を配置している。ピン穴29とピン本体130とが相対移動して、これらの間に介在するブッシュ131に剪断力が生じたときに、内周側の複数の凸部162が大きく弾性変形できるため、制動解除後の弾性変形の戻りも大きくなって、ピン本体130のピン穴29に対する元の位置への戻りの抵抗となり難い。よって、パッド12の引き摺りを抑制でき異音の発生を抑制できる。
【0058】
また、ブッシュ131は、内周側に複数の凸部162が設けられているため、ピン穴29の内周面29aに複数の凸部162ではなく本体部161で接触することができる。よって、パッド12の摩耗追従に関して、制動を繰り返してパッド12が摩耗した場合は、本体部161がピン穴29の内周面29aに対して摺動することになり、剛性の高い本体部161はこの摺動に対し摩耗し難い。したがって、摩耗によって締め代が減ることを抑制でき、パッド12のラトルによる異音の発生を抑制することができる。
【0059】
また、凸部162は先細形状であるため、本体部161の軸方向における弾性変形量を確保することができる上、製造が容易となる。
【0060】
また、ブッシュ131は樹脂からなるため、本体部161の軸方向における弾性変形量を確保することができる上、製造が容易となる。
【0061】
なお、上記ブッシュ131にかえて、
図8および
図9に示すブッシュ131Aを用いることも可能である。このブッシュ131Aは、本体部161の内周面161aから内周面161aの径方向の内方に突出する複数の凸部162Aを有している。よって、ブッシュ131Aも、内周側に複数の凸部162Aを有している。
【0062】
複数の凸部162Aは、内周面161aに沿って環状に形成され、本体部161の軸方向に並んで配設されている。具体的に、複数の凸部162Aは、すべて同じ形状および同じ大きさであって、内周面161aと同軸の円環状をなしており、本体部161の軸方向に等間隔で並べられている。複数の凸部162Aは、本体部161の内周面161aから突出するほど本体部161の軸方向の幅が狭くなる形状、言い換えれば、先端側ほど本体部161の軸方向の厚さが薄くなる断面等脚台形状となっている。
【0063】
上記実施形態の第1の態様によれば、ディスクブレーキは、ディスク軸方向に延びるピン穴が形成されディスクの外周側を跨いで配置される一対のピン支持部を有して車両の非回転部に固定される取付部材と、ディスク周方向の両側に前記ピン穴に摺動可能に挿入される一対のスライドピンを有して前記取付部材にディスク軸方向に移動可能に支持されるキャリパと、前記取付部材に移動可能に支持され、前記キャリパによって前記ディスクの両面に押圧される一対のパッドと、を備え、前記一対のスライドピンのうちの一方のスライドピンは、先端側に環状溝を有するピン本体と、内周側に複数の凸部を有して前記環状溝に設けられる筒状の弾性変形部材と、を備える。これにより、異音の発生を抑制可能となる。
【0064】
上記実施形態の第2の態様によれば、第1の態様において、前記環状溝の外周面は、基端側よりも直径が小さい小径部を有し、該小径部には前記凸部の先端が締め代をもって当接する。
【0065】
上記実施形態の第3の態様によれば、第1または第2の態様において、前記凸部は先細形状であるため、弾性変形量を確保することができる上、製造が容易となる。
【0066】
上記実施形態の第4の態様によれば、第1乃至第3のいずれか一態様において、前記凸部は、錐状に形成され、格子状に配設される。
【0067】
上記実施形態の第5の態様によれば、第1乃至第3のいずれか一態様において、前記凸部は内周面に沿って環状に形成され、軸方向に並んで配設される。