特許第6803965号(P6803965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803965
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】シールリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3272 20160101AFI20201214BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   F16J15/3272
   F16J15/18 C
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-504425(P2019-504425)
(86)(22)【出願日】2018年2月19日
(86)【国際出願番号】JP2018005694
(87)【国際公開番号】WO2018163770
(87)【国際公開日】20180913
【審査請求日】2019年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2017-45683(P2017-45683)
(32)【優先日】2017年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 勝好
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−271928(JP,A)
【文献】 特開2002−122238(JP,A)
【文献】 特開平04−360723(JP,A)
【文献】 特開平08−075007(JP,A)
【文献】 特開2015−218790(JP,A)
【文献】 特開2017−026054(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/113923(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16−15/32
F16J 15/324−15/3296
F16J 15/46−15/53
F16J 1/00−1/24
F16J 7/00−10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対変位可能に組み付けられる二部材のうちの一方の部材に設けられた装着溝に装着され、樹脂材料を用いて成形されるリング体と、
前記リング体に設けられ、前記二部材のうちの他方の部材に接触する接触部と、
前記リング体をその円周上の一箇所で分離するカット部と、
前記接触部以外の前記リング体の外表面中、前記カット部の近傍部位のみに設けられた肉抜き構造と、
を備えることを特徴とするシールリング。
【請求項2】
請求項1に記載のシールリングにおいて、
前記カット部の近傍部位は、前記リング体の円周上前記カット部から10〜60度にわたる角度範囲の領域である、
ことを特徴とするシールリング。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシールリングにおいて、
記樹脂材料は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を含む
ことを特徴とするシールリング。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一に記載のシールリングにおいて、
前記リング体は、その円周方向に前記カット部を拡げた状態で成形されている、
ことを特徴とするシールリング。
【請求項5】
請求項4に記載のシールリングにおいて、
前記肉抜き構造は、前記リング体の内周面に設けられている、
ことを特徴とするシールリング。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一に記載のシールリングにおいて、
前記肉抜き構造は、前記シールリングを軸方向に貫通して軸方向両端面にそれぞれ開口している、
ことを特徴とするシールリング。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一に記載のシールリングにおいて、
前記肉抜き構造は、前記カット部の円周方向両側にそれぞれ設けられている、
ことを特徴とするシールリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールリングに関する。
【背景技術】
【0002】
AT・CVTなどに用いる回転用シールリングとしては、一般に、射出成形用材料であるPEEKを用いて成形され、円周上の一箇所を分離するカット部を設けたシールリングが使用されている。
【0003】
近年、環境問題などを背景として、自動車業界は低燃費車の開発を加速させている。その一環であるアイドルストップの需要増加に伴って、低リークのニーズが高まっている。
【0004】
射出成形によってシールリング51を成形する場合、図4(A)に示すように、カット部52をシールリング円周方向に広げた状態(シールリング51を拡径した状態)で成形し、次いで図4(B)(C)に示すように、後工程でカット部52を閉じ合わせるようにシールリング51を矯正する(縮径する)手法がある。符号61は、シールリング51を矯正するための、所定の内径を備えた円筒状の矯正治具を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−126165号公報
【特許文献2】特開2009−228742号公報
【特許文献3】特許第5088075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記手法を採用した場合、硬質樹脂よりなるシールリング51では、カット部52の近傍部位が変形しにくいため、成形後の後工程で矯正不足が発生する。矯正不足は、シールリング51の真円度を悪化させる主要因となる。
【0007】
その結果、図5に示すように、シールリング51を装着箇所に装着し、例えばハウジングなどの相手部品71と接触させたとき、シールリング51のカット部52の近傍部位と相手部品71との間に、径方向のスキマcが発生してしまう。このスキマcは、漏れの原因となる。油圧が印加されたシールリング51は変形し、スキマcを縮小するが、スキマcを完全に無くすには至らない。とりわけPEEKを用いてシールリングを成形した場合、PEEKは硬質な樹脂であるため、スキマcを完全に無くすことは困難である。
【0008】
本願の出願人は、特許文献3に掲載された発明を提案している。この発明は、シールリングの復元力を低減することを狙って、シールリングの円周上の複数箇所(公報掲載の図9では13箇所)に、径方向の厚みが薄い径方向薄肉部を設けている。径方向薄肉部は、シールリングを変形しやすくする。
【0009】
ただし特許文献3に記載されている発明の径方向薄肉部は、シールリングの全体を一様に変形しやすくするため、カット部の近傍部位のみを対象とする矯正を十分に行うものではない。
【0010】
本発明の課題は、カット部の近傍部位に生ずる形状の矯正不足を解消し、装着時にシールリングと相手部品との間に発生するスキマの大きさを低減することができるシールリングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、相対変位可能に組み付けられる二部材のうちの一方の部材に設けられた装着溝に装着され、樹脂材料を用いて成形されるリング体と、前記リング体に設けられ、前記二部材のうちの他方の部材に接触する接触部と、前記リング体をその円周上の一箇所で分離するカット部と、前記接触部以外の前記リング体の外表面中、前記カット部の近傍部位のみに設けられた肉抜き構造と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、肉抜き構造によって、カット部の近傍部位に生ずる形状の矯正不足が解消されるので、装着時にシールリングと相手部品との間に発生するスキマの大きさを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の一形態のシールリングを示す正面図。
図2】シールリングの装着状態を示す縦断側面図。
図3】シールリングの装着状態を示す説明図。
図4】背景技術として、シールリングの製造方法を示す説明図。
図5】背景技術に係るシールリングの装着状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、実施の一形態のシールリング11の正面形状を示している。図2は、シールリング11を装着箇所に装着した状態を、中心軸線0を含む切断面で切断した半裁断面を示している。図3は、シールリング11を装着箇所に装着した状態を、中心軸線方向から視た要部正面を示している。
【0015】
シールリング11は、相対変位可能に組み付けられる二部材のうちの一方の部材に設けた装着溝に装着され、二部材のうちの他方の部材に接触する接触部を有している。一方の部材は、一例として回転軸21であり、他方の部材は、一例として回転軸21を軸孔に挿通したハウジング31である。この例の場合、シールリング11は、回転軸21の外周面に設けた環状の装着溝22に装着され、ハウジング31の軸孔内周面32に接触する接触部12を有している。このときシールリング11は、軸孔内周面32の内径よりも大きな外径を有しており、ハウジング31の軸孔には縮径した状態で保持される。したがってシールリング11は、その弾性復元力によって接触部12を軸孔内周面32に押し付け、シール作用を発揮する。
【0016】
シールリング11は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)などの樹脂材料を用いて断面矩形状のリング体として成形されている。このシールリング11は、同じく断面矩形状とされた環状の装着溝22に装着された状態で、ハウジング31の軸孔内周面32に接触している。したがってシールリング11は、その円筒面状の外周面11aをハウジング31の軸孔内周面32に接触する接触部12とし、この接触部12をハウジング31の軸孔内周面32に接触させることによって、密封流体に対するシール作用を発揮する。
【0017】
シールリング11は、その軸方向一方の端面11bを装着溝22の一方の側面23に接触させるので、この端面11bを端面接触部13とする。シールリング11は、端面接触部13が装着溝22の一方の側面23に接触することによって、密封流体に対するシール作用を発揮する。
【0018】
シールリング11は、このシールリング11の円周上の一箇所で分離されたカット部14を有している。本実施の形態は、カット部14の形状・態様として、シールリング11を2段ステップ状に切断した特殊ステップカットを採用している。実施に際してはこれに限らず、シールリング11を1段ステップ状に切断した通常タイプのステップカット、シールリング11を直線状に切断したストレートカット、あるいはシールリング11を斜めに切断したバイアスカットなど、他の形状・態様のカット部を採用してもよい。
【0019】
シールリング11は、射出成形によって成形されている。その手順として本実施の形態は、カット部14をシールリング円周方向に広げた状態(シールリング11を拡径した状態)で成形し、次いで後工程にて、カット部14を閉じ合わせるようにシールリング11を矯正する(縮径する)。この際、シールリング11は硬質樹脂よりなるので、カット部14の近傍部位が変形しにくく、矯正不足になりやすい。矯正不足は、シールリング11の真円度を悪化させてしまう。
【0020】
本実施の形態では、接触部12以外のシールリング11の外表面中、カット部14の近傍部位に肉抜き構造15を設けている。肉抜き構造15は、カット部14の近傍部位におけるシールリング11の内周面11cに、窪み状又は凹部状に設けられている。したがってシールリング11の径方向幅は、肉抜き構造15を設けた円周上で、他の部分よりも小さい。カット部14の近傍部位はカット部14の円周方向両側にわたるので、肉抜き構造15は、カット部14の円周方向両側にそれぞれ1箇所ずつ設けられている。
【0021】
肉抜き構造15は、接触部12以外のシールリング11の外表面中、カット部14の近傍部位のみに設けられている。本実施の形態では、カット部14の近傍部位は、シールリング11の円周上、カット部14の中央部又は端部から10〜60度の角度θの範囲の領域である。近傍部位は、カット部14の両側をその範囲としているので、上記角度θの範囲の領域は、カット部14の中央部から両側に広がっている。したがって上記角度θの二倍の角度範囲の領域、つまりカット部14を中央位置に含む20度〜120度の角度の範囲が、近傍位置である。肉抜き構造15は、上記角度θの二倍の角度の領域内のみに設けられている。したがってカット部14の近傍部位以外の部位(上記角度θの領域外の部位)には肉抜き構造15は設けられておらず、この部位では、シールリング11の内周面11cは円筒面のままである。
【0022】
肉抜き構造15は、シールリング11を軸方向に貫通し、シールリング11の軸方向両端面11b,11dにそれぞれ開口している。したがって肉抜き構造15は、シールリング11の径方向幅を小さくし、シールリング11の剛性を低下させる。
【0023】
上記構成のシールリング11は、接触部12以外のシールリング11の外表面中、カット部14の近傍部位の内周面11cのみに肉抜き構造15を設けている。これによってカット部14の近傍部位の剛性は、他の部位の剛性よりも低減するので、カット部14の近傍部位は、径方向に変形しやすくなっている。
【0024】
したがって本実施の形態のシールリング11は、成形後の後工程でシールリング11の全体を矯正し、シールリング11の真円度を向上させることができる。このためシールリング11は、装着時にハウジング31との間に発生するスキマの大きさを低減し、あるいはスキマを無くすことができる。
【0025】
シールリング11は、肉抜き構造15の部分で剛性が低下し、油圧Pが印加された際に変形しやすくなるため、一旦発生したスキマの大きさを縮小することもできる。
【0026】
肉抜き構造15の形状、大きさや、形成数などは、シールリング11の剛性等に基づいて定められるので、本発明では特に限定されない。
【0027】
実施に際しては、各種の変形や変更が許容される。
【0028】
例えば上記実施の形態では、一方の部材を回転軸21とし、他方の部材をハウジング31とした一例を挙げ、シールリング11の外周面に接触部12を設けた構造を例示した。これに対して一方の部材と他方の部材とは、回転軸21とハウジング31とに限定されず、別の部材でもよい。またシールリング11の内周面に接触部12を設けてもよい。この場合、一方の部材を回転軸21とし、他方の部材をハウジング31とした一例に適用するならば、接触部12は回転軸21に接触する。
【0029】
本発明は、上記実施の形態や態様に限定されるものではなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
11 シールリング
11a 外周面
11b,11d 軸方向端面
11c 内周面
12 接触部
13 端面接触部
14 カット部
15 肉抜き構造
21 回転軸(一方の部材)
22 装着溝
23 側面
31 ハウジング(他方の部材)
32 軸孔内周面
図1
図2
図3
図4
図5