(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803988
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】電力増幅器及び送信出力補正方法
(51)【国際特許分類】
H03G 3/12 20060101AFI20201214BHJP
H03G 3/30 20060101ALI20201214BHJP
H03G 1/04 20060101ALI20201214BHJP
G01S 7/35 20060101ALI20201214BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
H03G3/12 D
H03G3/30 E
H03G1/04
G01S7/35
G01S13/34
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-534455(P2019-534455)
(86)(22)【出願日】2018年7月26日
(86)【国際出願番号】JP2018028122
(87)【国際公開番号】WO2019026769
(87)【国際公開日】20190207
【審査請求日】2020年1月17日
(31)【優先権主張番号】特願2017-149979(P2017-149979)
(32)【優先日】2017年8月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】桑原 正道
(72)【発明者】
【氏名】内村 豪寿
【審査官】
渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−312119(JP,A)
【文献】
特開2006−304367(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/051948(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0097093(US,A1)
【文献】
特開2012−32161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03G 3/12
H03G 1/04
H03G 3/30
G01S 7/35
G01S 13/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
短波帯ドップラレーダ用の電力増幅器であって、
周波数変調連続波の入力信号を、設定された減衰値に基づいて減衰する減衰器と、
前記減衰された信号を増幅する増幅素子と、
前記増幅された信号の電力を検出すると共に、前記信号を送信出力する電力検出器と、
前記検出された電力に基づいて特定の減衰値により前記減衰器を制御する制御部とを備え、
前記減衰器は、レーダ観測開始時には減衰値として特定の値が設定され、
前記制御部は、前記入力信号の帯域に禁止帯域が含まれる場合、前記検出した電力から送信出力が停止する送信間欠区間を検出すると、前記減衰器に前記特定の値よりも大きい第1の減衰値を設定して、送信出力が低下しない程度の時間で、予め定めた第1の期間において、前記第1の減衰値に基づいて減衰動作を行い、前記第1の期間が終了すると、再び前記特定の値に基づいて減衰動作を行うよう前記減衰器を制御することを特徴とする電力増幅器。
【請求項2】
制御部は、第1の期間に続き、送信出力がほぼ安定するまでの期間である第2の期間において、電力検出器により検出された電力に応じて電力の変動を抑制する減衰値を減衰器に設定して、前記電力に応じた減衰動作を行うよう前記減衰器を制御することを特徴とする請求項1記載の電力増幅器。
【請求項3】
制御部は、第2の期間において、設定されたサンプリング間隔で検出された電力に応じた減衰値を減衰器に設定することを特徴とする請求項2記載の電力増幅器。
【請求項4】
周波数変調連続波の入力信号を増幅する電力増幅器における送信出力補正方法であって、
前記入力信号の帯域に禁止帯域が含まれる場合に、
制御部では、レーダ観測開始時に、減衰器に減衰値として特定の値を設定し、電力検出器で検出した電力から送信出力が停止する送信間欠区間を検出すると、前記減衰器に前記特定の値よりも大きい第1の減衰値を設定して、送信出力が低下しない程度の時間で、予め定めた第1の期間において、前記第1の減衰値に基づいて減衰動作を行い、前記第1の期間が終了すると、再び前記特定の値に基づいて減衰動作を行うよう前記減衰器を制御することを特徴とする送信出力補正方法。
【請求項5】
制御部では、第1の期間に続き、送信出力がほぼ安定するまでの期間である第2の期間において、電力検出器により検出された電力に応じて電力の変動を抑制する減衰値を減衰器に設定して、前記電力に応じた減衰動作を行うよう前記減衰器を制御することを特徴とする請求項4記載の送信出力補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドップラレーダ用の電力増幅器に係り、特に送信間欠区間におけるリンギングの影響を抑制し、送信出力を規定レベル内に抑えて安定した観測を実現することができる高出力の電力増幅器及び送信出力補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
〔先行技術の説明〕
ドップラレーダは、送信信号と受信信号の周波数差に基づいて、対象物までの距離や移動速度を測定するものである。
短波帯ドップラレーダには、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave;周波数変調連続波)変調された連続波を用いるものがある。
【0003】
〔FMCWレーダ装置の概略構成:
図6〕
FMCW方式のレーダ(FMCWレーダ装置)装置の概略構成について
図6を用いて説明する。
図6は、FMCWレーダ装置の概略構成図である。
図6に示すように、FMCWレーダ装置50は、信号生成部51と、送信側の電力増幅器52と、送信アンテナ53と、受信アンテナ54と、受信側の電力増幅器55と、ミキサ回路56と、出力端子57とを備えている。
【0004】
図6に示すFMCWレーダ装置では、信号生成部51で、所定のチャープ信号(掃引信号)が繰り返し生成され、電力増幅器52で、チャープ信号が所定の送信出力まで増幅され、送信アンテナ53から増幅された信号が出力される。
【0005】
そして、受信アンテナ54で、対象物によって反射された信号が受信され、受信側の電力増幅器55で増幅されてミキサ回路56に入力され、増幅された受信信号と、信号生成部51からのチャープ信号が乗算されて、対象物までの距離に応じた周波数の信号が生成され、出力端子57からレーダ出力として出力される。
【0006】
〔電源回路:
図7〕
送信信号を増幅する増幅素子及び送信部に電力を供給する電源回路の構成について
図7を用いて説明する。
図7は、電源回路の概略構成図である。
図7に示すように、電源回路は、電源部に接続するトランス部41と、ダイオード部42と、チョークコイル43と、コンデンサ44とを備えている。
電源回路は、トランス部41で電圧を変換し、ダイオード部42、チョークコイル43、コンデンサ44で整流及び平滑化を行って
図6に示した電力増幅器52の増幅素子に電力を出力する。
【0007】
〔送信出力のリンギング:
図8〕
ここで、送信信号のチャープ帯域に禁止周波数帯域が含まれている場合には、
図6に示したFMCWレーダ装置50はその区間において送信を停止するため、チャープの途中で瞬間的な送信間欠区間が生じる。
このとき、送信部(送信側の電力増幅器52)に電力を供給する電源回路のチョークコイルの揺れによって、送信出力にリンギングが発生する。
【0008】
ここで、従来の電力増幅器の出力信号におけるリンギングについて
図8を用いて説明する。
図8は、従来の電力増幅器における送信出力を示す説明図であり、(a)は送信動作のオン/オフ、(b)は送信出力波形、(c)は送信信号の周波数と送信状態を示している。
図8(a)(c)に示すように、チャープ信号の帯域に禁止周波数帯域が含まれている場合、信号生成部51の出力が当該区間においてオフとなる。
これにより、(c)に示すように、禁止周波数帯域は送信されず、間欠区間となる。
【0009】
このように送信区間中に間欠的に送信動作を停止した場合、電源回路に含まれるチョークコイル43の揺れによって、送信出力にリンギングが発生する。
そして、
図8(b)に示すように、送信再開のタイミングが揺れのピークに重なった場合には、送信出力が瞬間的に規定値をオーバーしてしまう。
【0010】
電力増幅器を用いる一般的なシステム(例えば無線機等)の場合、通常、ALC(Auto matic Level Control;自動レベル制御)機能が搭載されており、送信電力を検出器によって検出し、検出値に応じて、信号入力段に実装された減衰器(ATT:Attenuator)の減衰量を調整することで、送信出力を常に一定に保っている。
【0011】
しかし、ALCを動作させると、常に入力信号レベルに変化を与えることになるため、レーダシステムにおいては、信号解析に悪影響を及ぼす危険性がある。
そのため、レーダ観測中はALCを動作させず、ATTには固定値を設定しておくのが一般的であり、観測中に発生した送信出力の変動については、ALCで補正を行うことはできない。
【0012】
また、電源回路側で対応しようとすると、ドップラレーダの送信信号が10kWを超えるクラスの電力増幅器の場合には、大容量の安定化電源を特注しなければならず、コストが増大してしまう。
【0013】
〔関連技術〕
尚、レーダ装置や電源装置に関する従来技術としては、特開2011−127923号公報「レーダシステム」(特許文献1)、特開2006−50510号公報「情報処理装置、無線モジュール、電子制御装置、電子制御方法、電子制御プログラム及び記録媒体」(特許文献2)、特開2009−141901号公報「無線装置、無線通信システム、制御方法及び制御プログラム」(特許文献3)がある。
【0014】
特許文献1には、FMCWレーダシステムにおいて、電圧制御発振器の周波数非線形性や周波数偏差を補正することが記載されている。
特許文献2には、通信装置における消費電力を低減する情報処理装置が記載されており、通信装置はパワーアンプを備え、周期的に送信や受信を行うことが記載されている。
特許文献3には、マルチホップ環境におけるAd-Hocモードでレーダとの干渉回避を考慮したDFS機能を実現する通信装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2011−127923号公報
【特許文献2】特開2006−50510号公報
【特許文献3】特開2009−141901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、従来の電力増幅器では、チャープ信号の送信動作を中断する間欠区間においてリンギングが生じ、送信再開時に、送信出力が規定値を超えてしまい、観測が中断してしまうという問題点があった。
【0017】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、送信間欠区間におけるリンギングの影響を抑制し、送信出力を規定レベル内に抑えて、安定した観測を行うことができる電力増幅器及び送信出力補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、短波帯ドップラレーダ用の電力増幅器であって、周波数変調連続波の入力信号を、設定された減衰値に基づいて減衰する減衰器と、減衰された信号を増幅する増幅素子と、増幅された信号の電力を検出すると共に、信号を送信出力する電力検出器と、検出された電力に基づいて特定の減衰値により減衰器を制御する制御部とを備え、減衰器は、レーダ観測開始時には減衰値として特定の値が設定され、制御部は、入力信号の帯域に禁止帯域が含まれる場合、検出した電力から送信出力が停止する送信間欠区間を検出すると、減衰器に前記特定の値よりも大きい第1の減衰値を設定して、
送信出力が低下しない程度の時間で、予め定めた第1の期間において、第1の減衰値に基づいて減衰動作を行
い、第1の期間が終了すると、再び特定の値に基づいて減衰動作を行うよう減衰器を制御することを特徴としている。
【0019】
また、本発明は、上記電力増幅器において、制御部は、第1の期間に続
き、送信出力がほぼ安定するまでの期間である第2の期間において、電力検出器により検出された電力に応じて電力の変動を抑制する減衰値を減衰器に設定して、電力に応じた減衰動作を行うよう前記減衰器を制御することを特徴としている。
【0020】
また、本発明は、上記電力増幅器において、制御部は、第2の期間において、設定されたサンプリング間隔で検出された電力に応じた減衰値を減衰器に設定することを特徴としている。
【0021】
また、本発明は、周波数変調連続波の入力信号を増幅する電力増幅器における送信出力補正方法であって、入力信号の帯域に禁止帯域が含まれる場合に、制御部では、レーダ観測開始時に、減衰器に減衰値として特定の値を設定し、電力検出器で検出した電力から送信出力が停止する送信間欠区間を検出すると、減衰器に特定の値よりも大きい第1の減衰値を設定して、
送信出力が低下しない程度の時間で、予め定めた第1の期間において、第1の減衰値に基づいて減衰動作を行
い、第1の期間が終了すると、再び特定の値に基づいて減衰動作を行うよう減衰器を制御することを特徴としている。
【0022】
また、本発明は、上記送信出力補正方法において、制御部では、第1の期間に続
き、送信出力がほぼ安定するまでの期間である第2の期間において、電力検出器により検出された電力に応じて電力の変動を抑制する減衰値を減衰器に設定して、前記電力に応じた減衰動作を行うよう前記減衰器を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、短波帯ドップラレーダ用の電力増幅器であって、周波数変調連続波の入力信号を、設定された減衰値に基づいて減衰する減衰器と、減衰された信号を増幅する増幅素子と、増幅された信号の電力を検出すると共に、信号を送信出力する電力検出器と、検出された電力に基づいて特定の減衰値により減衰器を制御する制御部とを備え、減衰器は、レーダ観測開始時には減衰値として特定の値が設定され、制御部は、入力信号の帯域に禁止帯域が含まれる場合、検出した電力から送信出力が停止する送信間欠区間を検出すると、減衰器に前記特定の値よりも大きい第1の減衰値を設定して、
送信出力が低下しない程度の時間で、予め定めた第1の期間において、第1の減衰値に基づいて減衰動作を行
い、第1の期間が終了すると、再び前記特定の値に基づいて減衰動作を行うよう減衰器を制御する電力増幅器としているので、送信間欠区間後の送信再開時に電源回路のリンギングの影響によって送信出力が規定値を超えてしまうのを防ぐことができ、送信出力を安定させて、良好なレーダ観測を行わせることができる効果がある。
【0024】
また、本発明によれば、制御部は、第1の期間に続
き、送信出力がほぼ安定するまでの期間である第2の期間において、電力検出器により検出された電力に応じて電力の変動を抑制する減衰値を減衰器に設定して、電力に応じた減衰動作を行うよう減衰器を制御する上記電力増幅器としているので、送信出力を一層安定させることができる効果がある。
【0025】
また、本発明によれば、制御部は、第2の期間において、設定されたサンプリング間隔で検出された電力に応じた減衰値を減衰器に設定する上記電力増幅器としているので、サンプリング間隔を短く設定すれば、きめ細かく電力を検出して、送信電力を更に安定させることができる効果がある。
【0026】
また、本発明によれば、周波数変調連続波の入力信号を増幅する電力増幅器における送信出力補正方法であって、入力信号の帯域に禁止帯域が含まれる場合に、制御部では、レーダ観測開始時に、減衰器に減衰値として特定の値を設定し、電力検出器で検出した電力から送信出力が停止する送信間欠区間を検出すると、減衰器に特定の値よりも大きい第1の減衰値を設定して、
送信出力が低下しない程度の時間で、予め定めた第1の期間において、第1の減衰値に基づいて減衰動作を行
い、前記第1の期間が終了すると、再び前記特定の値に基づいて減衰動作を行うよう減衰器を制御する送信出力補正方法としているので、送信間欠区間後の送信再開時に電源回路のリンギングの影響によって送信出力が規定値を超えてしまうのを防ぐことができ、送信出力を安定させて、良好なレーダ観測を行わせることができる効果がある。
【0027】
また、本発明によれば、制御部では、第1の期間に続
き、送信出力がほぼ安定するまでの期間である第2の期間において、電力検出器により検出された電力に応じて電力の変動を抑制する減衰値を減衰器に設定して、電力に応じた減衰動作を行うよう減衰器を制御する上記送信出力補正方法としているので、送信出力を一層安定させることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1の電力増幅器の概略構成ブロック図である。
【
図2】第1の電力増幅器における送信出力を示す説明図である。
【
図3】第2の電力増幅器の動作を示す説明図である。
【
図5】第3の電力増幅器における減衰量の制御を示す説明図である
【
図8】従来の電力増幅器における送信出力を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
〔実施の形態の概要〕
本発明の第1の実施の形態に係る電力増幅器(第1の電力増幅器)は、送信出力の電力を検出する電力検出器と、検出された電力に基づいて減衰器を制御する制御部とを備え、制御部が、検出された電力に基づいて送信出力の停止を検知すると、リンギングによる送信出力の増大を相殺する特定の減衰値で減衰器を一定時間強制的に動作させるようにしており、送信禁止周波数でチャープ信号の送信を中断した後の、送信再開時における出力オーバーを防ぎ、送信出力を規定レベル内に抑えて、安定した観測を実現できるものである。
【0030】
また、本発明の第2の実施の形態に係る電力増幅器(第2の電力増幅器)は、制御部が、送信出力の停止を検知すると、リンギングによる送信出力の増大を相殺する特定の値で減衰器を一定時間強制的に動作させ、更にその後、特定時間に亘って、減衰器を送信出力電力に応じた減衰値で動作するALC動作を行わせるようにしており、送信再開時の出力オーバーを防ぐと共に、送信出力の落ち込みを抑え、更にその後の送信出力を安定させることができるものである。
【0031】
〔第1の実施の形態に係る電力増幅器の構成:
図1〕
第1の電力増幅器の構成について
図1を用いて説明する。
図1は、第1の電力増幅器の概略構成ブロック図である。
第1の電力増幅器は、
図6に示したようなFMCW方式の短波帯ドップラレーダの送信側で用いられる電力増幅器であり、
図1に示すように、減衰器(ATT)11と、増幅素子12と、電力検出器13と、制御部14とを備えている。
【0032】
第1の電力増幅器及び後述する第2、第3の電力増幅器は、禁止周波数帯域が含まれるチャープ信号を増幅するものであり、禁止周波数帯域においては信号生成部からの出力が停止され、この区間では送信出力はオフとなる。
【0033】
減衰器11は、入力されたチャープ信号を、制御部14から設定された減衰値に基づいて減衰する。通常、チャープ信号の送信時(レーダ観測時)には、減衰値は予め設定された固定値となっている。固定値は、請求項に記載した特定の減衰値に相当する。
【0034】
増幅素子12は、入力されたチャープ信号を増幅し、送信信号として出力する。
電力検出器13は、方向性結合器等で構成され、増幅素子12で増幅された信号を送信アンテナに出力すると共に、送信出力の電力を検出して制御部14に出力する。
【0035】
制御部14は、第1の電力増幅器の特徴部分であり、電力検出器13で検出された電力に基づいて、減衰器11の減衰量を制御する。
具体的には、第1の電力増幅器の制御部14は、レーダ観測時には、ALC機能をオフとして、減衰器11の減衰値を従来と同様の固定値に設定するが、電力検出器13からの電力に基づいて、送信出力が停止したことを検知すると、送信再開時に出力オーバーとならないよう、減衰器11に固定値よりも大きい減衰値を設定し、予め設定された特定時間が経過するまで当該減衰値に基づく減衰量で強制的に動作させる。当該減衰値は、送信電力の変動を抑制する値が設定される。
制御部14の動作については、後述する。
【0036】
〔第1の電力増幅器の動作:
図2〕
次に、第1の電力増幅器の動作について
図2を用いて説明する。
図2は、第1の電力増幅器における送信出力を示す説明図であり、(a)は送信動作のオン/オフ、(b)は送信出力波形、(c)は送信信号の周波数と送信状態を示している。
図2(a)及び(c)は、上述した
図8と同様であり、チャープ信号を生成する信号生成部からの出力が、帯域に含まれる禁止周波数の帯域でオフとなって送信出力がオフとなり、禁止周波数帯域が終わると、チャープ信号の送信が再開される。
禁止周波数帯域は、送信動作が行われない間欠区間となる。
【0037】
図2(b)に示すように、第1の電力増幅器では、レーダ観測時に、チャープ信号の送信開始(レーダ観測開始)から間欠区間に入るまでは、減衰器11には固定値が設定されているため、減衰器11は常に一定の減衰量で減衰動作を行うようになっている(固定ALCと称するものとする)。固定ALC区間では、送信出力はほぼ一定となる。
【0038】
そして、禁止周波数帯域に入って送信動作がオフになると、電力検出器13で検出される送信電力が0(ゼロ)となり、制御部14は、それに基づいて、送信動作の停止(間欠区間の開始)を検知する。
制御部14は、送信動作の停止を検知すると、減衰器11に、予め記憶している特定の減衰値(第1の減衰値)を設定し、予め記憶している特定時間(第1の時間、第1の期間)が経過するまで第1の減衰値に基づく減衰量(第1の減衰量)で入力信号を減衰するよう制御する。
【0039】
ここで、第1の減衰値は、固定ALCにおける減衰値(固定値)よりも大きい値であり、送信動作の間欠区間において電源回路のチョークコイルで発生するリンギングの影響をできるだけ相殺する値に設定される。つまり、第1の減衰値は、電源の揺れのピークが送信再開のタイミングと重なった場合にも、送信出力が規定値を超えないような値に設定されている。
第1の減衰値は、予め実験的に求められて、制御部14に記憶されるものであり、電源回路の特性や間欠区間の長さ等に応じて最適な減衰値が記憶されている。
【0040】
第1の減衰値は、リンギングの影響を完全に相殺する値が最適ではあるが、不完全であっても送信電力の変動を抑制できれば効果が得られるものであり、送信電力が若干規定値をオーバーしても、下回ってもよい。
【0041】
同様に、第1の減衰値に基づく減衰動作を行わせる第1の期間の長さも、予め実験的に求められ、制御部14に記憶されているものである。
第1の期間は、リンギングの影響を十分吸収できると共に、送信出力が極度に低下しない程度の時間に設定されるものである。
【0042】
第1の減衰値に基づいて減衰を行う動作を強制ALCと称する。
図2(b)に示すように、減衰器11は、間欠区間に入るまでは固定ALCで動作し、間欠区間に入って送信出力が停止すると、強制ALCで動作を行う。但し、強制ALC期間の内、チャープ信号が入力されない間欠区間は、送信信号は出力されず、送信間欠区間となる。
図2(b)では、減衰器11に設定される減衰値に対応して、固定ALC、強制ALCの期間を示している。
【0043】
図2(b)において破線で示すように、従来は、送信再開時にリンギングの影響で送信出力電力が規定値を超えてしまっていたが、第1の電力増幅器では、間欠区間に入ると、制御部14が、減衰器11に、固定ALCの減衰量よりも大きい第1の減衰量で、強制的に入力信号を減衰させる強制ALCの動作を第1の期間に亘って行わせることにより、送信再開時に送信出力が規定値を超えないように制御することができるものである。
これにより、送信出力オーバーによる観測中断を防ぐことができる。
【0044】
そして、第1の期間が終了すると(第1の時間が経過すると)、制御部14は、再び固定ALCの減衰値を減衰器11に設定して、固定値での減衰動作(固定ALC)を行わせる。
図2(b)に示すように、第1の期間終了直後はリンギングの影響は少し残っているものの、送信出力電力が規定値を大幅に超えたり、極端に下回ったりすることはなく、概ね安定している。
このようにして、第1の電力増幅器の動作が行われるものである。尚、第1の電力増幅器の動作は、第1の電力増幅器における送信出力補正方法に相当している。
【0045】
〔第1の電力増幅器の効果〕
第1の電力増幅器及び送信出力補正方法によれば、FMCW信号のチャープ信号を送信するドップラレーダ装置で用いられる電力増幅器であって、チャープ信号が入力されない禁止周波数帯がある場合に、増幅素子12が、減衰器11で減衰されたチャープ信号を増幅して送信信号として出力し、電力検出部13が送信出力電力を検出し、制御部14が、検出された電力に基づいて送信出力の停止(間欠区間)を検知すると、減衰器11に送信開始時に設定されている減衰値より大きい第1の減衰値を設定して、第1の時間が経過するまで第1の減衰値に基づいて減衰動作を行わせるようにしているので、電源回路によるリンギングの影響を抑制することができ、送信を再開した際に、送信出力が規定値を超えるのを防ぎ、安定した観測を行うことができる効果がある。
【0046】
〔第2の電力増幅器〕
次に、本発明の第2の実施の形態に係る電力増幅器(第2の電力増幅器)について説明する。
第2の電力増幅器では、強制ALC動作に続いて、検出された送信電力に基づく減衰量で減衰動作を行う連続ALC動作を行うものであり、送信出力電力を一層安定させるものである。
第2の電力増幅器の構成は、
図1に示した第1の電力増幅器の構成と同様であるが、制御部14における制御が一部異なっている。
【0047】
〔第2の電力増幅器の動作:
図3〕
次に、第2の電力増幅器の動作について
図3を用いて説明する。
図3は、第2の電力増幅器の動作を示す説明図であり、(a)は送信動作のオン/オフ、(b)は送信出力波形、(c)は送信信号の周波数と送信状態を示している。第2の電力増幅器の動作が、第2の電力増幅器における送信出力補正方法である。
【0048】
図3(a)及び(c)は、
図2、
図8と同様であるため、説明は省略する。
図3(b)に示すように、制御部14は、チャープ信号の送信開始から間欠区間になるまでは、第1の電力増幅器と同様に、減衰器11に固定値を設定して、固定ALC動作を行うよう制御する。
【0049】
そして、制御部14は、電力検出器13からの検出電力に基づいて、間欠区間の開始を検知すると、第1の電力増幅器と同様に、第1の減衰量で強制ALC動作を行わせる。
但し、第2の電力増幅器の特徴として、強制ALC動作を行わせる時間は、第1の電力増幅器における第1の期間より短い期間としている。
【0050】
更に、第2の電力増幅器の特徴として、第1の期間が終了すると、制御部14は、電力検出器13からの検出電力に基づいて減衰値を減衰器11に設定して、減衰動作を行わせる動作(連続ALC動作)を第2の期間に亘って行わせる。
制御部14には、予め電力に対応する減衰値が記憶されている。
連続ALC動作では、制御部14は、検出された電力に基づいて減衰値を設定する動作を連続して行う。
【0051】
上述した第1の電力増幅器では、強制ALC動作を行う第1の期間の終了が近くなると、送信出力がかなり低下してしまう。
第2の電力増幅器は、強制ALC後の電力の落ち込みを抑え、出力電力を一層安定させることができるものである。
【0052】
図3(b)に示すように、第2の電力増幅器の動作では、制御部14は、間欠区間の開始を検知すると、まず、第1の期間において、固定値よりも大きい第1の減衰量で減衰動作を行わせる強制ALC動作を行わせ、第1の期間が終了すると、それに続く第2の期間において、連続ALC動作を行わせる。第1の期間は、第1の増幅器よりも短い。
図3(b)における破線は、強制ALC動作を行わない場合の送信出力であり、点線は、連続ALCにおける電力検出のサンプリングのタイミングを示している。
【0053】
これにより、強制ALC動作の第1の期間における送信出力電力は、規定値内に収まると共に、
図2に示した第1の電力増幅器における送信電力と比べて、落ち込みが小さくなっている。
【0054】
そして、第1の期間に続く第2の期間において、検出された送信電力に応じた減衰量を設定する連続ALC動作を行わせることにより、一層規定値に近い送信出力が得られるようになっている。
【0055】
第2の期間は、送信出力がほぼ安定するまでの期間とし、必要以上に長い時間に亘って連続ALC動作を行わないようにしている。これにより、レーダ観測への影響を最低限に留めるものである。第2の期間の長さは、予め実験により最適な時間を求めて制御部14に設定する。
【0056】
第2の電力増幅器では、第1の電力増幅器に比べて、大きい減衰量で動作させる強制ALC動作の時間を短縮して、送信電力の落ち込みを少なくすると共に、強制ALCに続いて、送信電力に応じた減衰量で減衰動作を行う連続ALC動作をすることにより、間欠時のリンギングの影響を低減すると共に、送信電力を更に安定させ、安定した観測を行うことができるものである。
【0057】
〔第2の電力増幅器の応用例:
図4〕
次に、第2の電力増幅器の応用例について
図4を用いて説明する。
図4は、応用例の送信出力波形を示す説明図である。
第2の電力増幅器の応用例は、連続ALC動作におけるサンプリング間隔を狭くするものである。
具体的には、
図4に示すように、強制ALCを特定期間行った後、電力検出器13が短いサンプリング周期で送信電力を検出して制御部14に出力し、制御部14が送信電力に応じた減衰値を減衰器11に設定する。
図4の点線は、ALC用のサンプリングタイミングを示している。
【0058】
これにより、連続ALC動作における送信電力の調整をきめ細かく行うことができ、送信電力を一層安定させることができるものである。
尚、
図4では、
図3(b)に比べて固定ALC動作の時間を短くしており、これによっても送信出力の落ち込みを防いでいる。
【0059】
〔第2の電力増幅器の効果〕
第2の電力増幅器及び送信出力補正方法によれば、電力検出部13が送信出力電力を検出し、制御部14が、検出された電力に基づいて増幅素子12における増幅動作の停止(間欠区間の開始)を検知すると、減衰器11に予め設定された第1の減衰値を設定して、第2の時間が経過するまで第1の減衰量で減衰動作を行わせると共に、第2の期間に続く第2の期間において、検出された電力に基づく減衰値を減衰器11に設定して、出力電力に応じた減衰動作を行う連続ALC動作を行わせるようにしているので、電源回路によるリンギングの影響を抑制して、送信再開時に送信出力が規定値を超えるのを防ぐと共に、強制ALC動作による送信電力の落ち込みを抑えることができ、送信出力を安定させることができる効果がある。
【0060】
また、第2の電力増幅器の応用例によれば、連続ALC動作における電力検出のサンプリング間隔を短くしているので、出力信号にきめ細かく追随してALCを行うことができ、送信出力を一層安定させることができる効果がある。
【0061】
〔第3の電力増幅器:
図5〕
次に、本発明の第3の実施の形態に係る電力増幅器(第3の電力増幅器)について説明する。
第3の電力増幅器は、送信出力の検出に加えて、電源電圧を検出し、電圧レベルによって減衰器を制御するものである。
第3の電力増幅器は、送信用電源回路から増幅素子12に供給される電源電圧の電圧レベルを検出する電源電圧監視部(図示省略)を備えており、電源電圧監視部は、検出した電圧レベルを制御部14に出力する。
【0062】
ここで、電源電圧の変動に応じた減衰量の制御について
図5を用いて説明する。
図5は、第3の電力増幅器における減衰量の制御を示す説明図である。
図5に示すように、電源電圧が何らかの原因で変動した場合、制御部14はそれに応じて減衰器11の減衰量を調整する。
具体的には、電源電圧が大きくなると、送信出力が大きくなるため、減衰量を大きくするように制御し、電源電圧が小さくなると減衰量を小さくするよう制御する。
【0063】
制御部14には、電源電圧の電圧レベルに対応する減衰値が予め記憶されており、電源電圧監視部から入力された電圧レベルに基づいて、対応する減衰値を減衰器11に設定し、適切な減衰量を実現する。
これにより、例えば、間欠区間中に電源電圧の変動を検出して、減衰器に減衰値を設定することができ、送信を再開する前に減衰器11における減衰量を制御できるため、より安定した送信出力を得ることができる効果がある。
【0064】
つまり、第3の電力増幅器では、送信出力ではなく電源電圧を監視して、送信出力前に減衰量を決定できるものであり、固定値で減衰動作を行う連続ALCのまま動作を続けても送信再開時の過出力を防ぐことができる。すなわち、強制ALCが不要となる。
但し、第3の電力増幅器においては、電源電圧監視のみとすると、電源電圧以外に起因する送信出力の変動に対応できないため、送信出力監視でALCを行って出力を安定に保つようにしている。
【0065】
〔第3の電力増幅器の効果〕
第3の電力増幅器によれば、電源電圧監視部が、送信用電源回路から増幅素子12に供給される電源電圧の電圧レベルを検出し、制御部14が、当該電圧レベルに対応して予め記憶されている減衰値を減衰器11に設定して減衰動作を行わせるようにしているので、電源電圧の揺れに基づく送信出力のレベル変動を抑制することができ、送信出力レベルを安定させることができる効果がある。
【0066】
また、第3の電力増幅器によれば、第1、第2の電力増幅器の構成と組み合わせることにより、送信出力レベルを一層安定させることができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、送信間欠区間におけるリンギングの影響を抑制し、送信出力を安定させることができる電力増幅器に適している。この出願は、2017年8月2日に出願された日本出願特願2017−149979を基礎として優先権の利益を主張するものであり、その開示の全てを引用によってここに取り込む。
【符号の説明】
【0068】
11…減衰器(ATT)、 12…増幅素子、 13…電力検出器、 14…制御部、
41…トランス部、 42…ダイオード部、 43…チョークコイル、 44…コンデンサ、 50…FMCWレーダ装置、 51…信号生成部、 52…電力増幅器(送信側)、 53…送信アンテナ、 54…受信アンテナ、 55…電力増幅器(受信側)、 56…ミキサ回路、 57…出力端子