特許第6804033号(P6804033)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6804033加硫ブラダーの製造方法および原料ゴム板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804033
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】加硫ブラダーの製造方法および原料ゴム板
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20201214BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20201214BHJP
   B29K 21/00 20060101ALN20201214BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20201214BHJP
【FI】
   B29C33/02
   B29C35/02
   B29K21:00
   B29L30:00
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-139316(P2016-139316)
(22)【出願日】2016年7月14日
(65)【公開番号】特開2018-8441(P2018-8441A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年5月23日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】大場 健二
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−121549(JP,A)
【文献】 特開平04−267117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 35/00−35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス加硫装置を用いてタイヤ加硫成形用の加硫ブラダーを製造する加硫ブラダーの製造方法であって、
前記プレス加硫装置の金型に、上金型、下金型、および前記上金型と下金型の間に配置され、上下に移動可能なコアを有する金型を用い、
予め所定の長さに裁断されて両端に合わせ面となる面が形成された原料ゴム板を、円環状に湾曲させて両端同士を合わせ面として突き合わせた状態で、開状態とされた前記金型の前記下金型上にセットする原料ゴム板セット工程と、
前記金型を閉状態にして、セットされた前記原料ゴム板を前記上金型、下金型およびコアで押しつぶし、前記上金型と下金型およびコアとで形成されるキャビティ内へ原料ゴムを流入させる原料ゴム流入工程と、
前記キャビティ内に流入した原料ゴムを加熱加硫して加硫ブラダーとする加硫工程と、金型を開状態にして前記加硫ブラダーを取り出す取り出し工程とを有しており、
前記原料ゴム板が、前記合わせ面を25〜65°の角度で傾斜させた原料ゴム板であり、
原料ゴム板セット工程前に、予め20〜80℃の温度で1時間以上原料ゴム板を加熱する予熱工程を有していることを特徴とする加硫ブラダーの製造方法。
【請求項2】
前記原料ゴム板が、前記合わせ面を45°の角度で傾斜させた原料ゴム板であることを特徴とする請求項1に記載の加硫ブラダーの製造方法。
【請求項3】
前記予熱工程における加熱時間が、8時間以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の加硫ブラダーの製造方法。
【請求項4】
前記取り出し工程が、前記コアと前記加硫ブラダーとの間にエアーを流入させることにより前記コアから前記加硫ブラダーを分離して取り出す工程であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の加硫ブラダーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの製造に用いられる加硫ブラダーの製造方法および前記加硫ブラダーの製造方法に使用される原料ゴム板に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの加硫成形に際しては、金型を閉状態にしてから、生タイヤの内腔部に配置された加硫ブラダー内に飽和水蒸気などの加圧加熱媒体を供給して加硫ブラダーを膨らませて、金型内に配置された生タイヤを金型に押圧することにより、生タイヤを加圧、加熱している。
【0003】
この加硫ブラダーは、例えば図4に示すような断面形状を有しており、加硫ブラダーBは原料ゴム板(スラブ)をプレス加硫することにより製造されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
図5および図6は加硫ブラダーのプレス加硫方法を説明する断面図であり、図5および図6のプレス加硫装置1を用いてプレス加硫が行われる。プレス加硫装置1は、上金型2、下金型3、および上金型2と下金型3との間に設けられて上下に移動可能なコア(中子)4を備えている。上金型2、下金型3、コア4には、それぞれ中空11が形成されており、それぞれの中空11に供給される蒸気により所定の温度に加熱されている。
【0005】
プレス加硫工程では、図5に示すように、まず、上金型2およびコア4を上昇させて金型を開状態にする。次に、予め所定の長さに裁断した原料ゴム板Gを下金型3の縁に沿って湾曲させながら両端同士を合わせて円環状にセットする。次に、上金型2およびコア4を下降させて金型を閉状態にし、下降してきた上金型2およびコア4で原料ゴム板Gを押しつぶすことにより、上金型2、下金型3、コア4によって形成されるキャビティ5内に原料ゴムを流入させる。その後、所定の温度で所定の時間加熱することによって加硫成形して加硫ブラダーの加硫を完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−56172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来技術の場合、製造された加硫ブラダーに割れが多発して、歩留まりが低いという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、製造後の加硫ブラダーの割れの発生が抑制され、加硫ブラダーを高い歩留まりで製造することができる加硫ブラダーの製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、
プレス加硫装置を用いてタイヤ加硫成形用の加硫ブラダーを製造する加硫ブラダーの製造方法であって、
前記プレス加硫装置の金型に、上金型、下金型、および前記上金型と下金型の間に配置され、上下に移動可能なコアを有する金型を用い、
予め所定の長さに裁断されて両端に合わせ面となる面が形成された原料ゴム板を、円環状に湾曲させて両端同士を合わせ面として突き合わせた状態で、開状態とされた前記金型の前記下金型上にセットする原料ゴム板セット工程と、
前記金型を閉状態にして、セットされた前記原料ゴム板を前記上金型、下金型およびコアで押しつぶし、前記上金型と下金型およびコアとで形成されるキャビティ内へ原料ゴムを流入させる原料ゴム流入工程と、
前記キャビティ内に流入した原料ゴムを加熱加硫して加硫ブラダーとする加硫工程と、金型を開状態にして前記加硫ブラダーを取り出す取り出し工程とを有しており、
前記原料ゴム板が、前記合わせ面を25〜65°の角度で傾斜させた原料ゴム板であり、
原料ゴム板セット工程前に、予め20〜80℃の温度で1時間以上原料ゴム板を加熱する予熱工程を有していることを特徴とする加硫ブラダーの製造方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、
前記原料ゴム板が、前記合わせ面を45°の角度で傾斜させた原料ゴム板であることを特徴とする請求項1に記載の加硫ブラダーの製造方法である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、
前記予熱工程における加熱時間が、8時間以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の加硫ブラダーの製造方法である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、
前記取り出し工程が、前記コアと前記加硫ブラダーとの間にエアーを流入させることにより前記コアから前記加硫ブラダーを分離して取り出す工程であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の加硫ブラダーの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、製造後の加硫ブラダーの割れの発生が抑制され、加硫ブラダーを高い歩留まりで製造することができる加硫ブラダーの製造技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態で用いる原料ゴム板の形状を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の他の実施の形態で用いる原料ゴム板の形状を模式的に示す斜視図である。
図3】従来の原料ゴム板の形状を模式的に示す斜視図である。
図4】加硫ブラダーの形状の一例を示す断面図である。
図5】加硫ブラダーのプレス加硫方法を説明する断面図である。
図6】加硫ブラダーのプレス加硫方法を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.発明に至った経緯
本発明者は、上記した従来技術の場合、何故、製造された加硫ブラダーに割れが多発して、歩留まりが低いかについて鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、加硫ブラダーに割れが発生するのは、原料ゴム板を押圧した最初の時点で、突き合せた合わせ面同士の圧着が不足しており、圧着が不足した原料ゴムが圧着が不足したままキャビティ内に流入したためであることが分かった。そして、加硫ブラダーの割れの発生を防止するためには、原料ゴム板を押圧した最初の時点で合わせ面同士を十分に圧着することが必要であり、そのためには圧着面、即ち合わせ面の面積を大きくすることが有効であると考えた。
【0017】
このような考えに立ち、原料ゴム板を所定の長さに裁断する際に長手方向に対して斜めにカットすることにより合わせ面の面積を大きくすることを試みたところ、製造後の加硫ブラダーの割れの発生が抑制できることが分った。
【0018】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、原料ゴム板に25〜65°の角度で合わせ面を傾斜させた原料ゴム板を用いることを特徴とする。
【0019】
2.原料ゴム板の合わせ面について
本発明の加硫ブラダーの製造方法は、基本的に従来の加硫ブラダーの製造方法と同じである。以下では、本発明で特徴的な原料ゴム板の合わせ面について説明する。
【0020】
図1図2は本発明の一実施の形態および他の実施の形態で用いる原料ゴム板の形状を模式的に示す斜視図であり、図3は従来の原料ゴム板の形状を模式的に示す斜視図である。図1図3のそれぞれにおいて(a)はプレス加硫装置に配置する前の状態の原料ゴム板を示し、(b)はプレス加硫装置に配置した状態の原料ゴム板を示している。なお、θは合わせ面fの原料ゴム板Gの底面(図1)および側面(図2)に対する角度であり、Jは突き合わせ部である。
【0021】
図3に示すように従来の原料ゴム板Gの場合、合わせ面fは長手方向に対して垂直である。これに対して本実施の形態では、長尺の原料ゴム板を角度θが25〜65°、より好ましくは35〜55°、特に好ましくは45°となるように裁断して合わせ面fを傾斜させている。
【0022】
角度θが90°に近い程合わせ面fの面積が小さくなり、突き合わせ部Jを十分に圧着することができない。一方、90°との差が大きい程合わせ面fの面積が大きくなるが、先端部の厚みが薄いために、保管時や予熱時、合わせ面が変形し易くなる。これに対して、角度θを前記した数値に設定した場合、合わせ面fの面積を十分に大きくすることができると共に、合わせ面の変形を防止することができる。
【0023】
合わせ面fの傾斜の方向は、特に限定されず、例えば図1に示すように原料ゴム板Gの厚み方向、即ち、上面から下面に向かって傾斜させてもよく、図2に示すように原料ゴム板Gの幅方向、即ち、一方の側面から他方の側面に向かって傾斜させてもよいが、図1に示すように厚み方向に傾斜させる方が好ましい。即ち、合わせ面を厚み方向に傾斜させた場合、突き合わせ部Jが金型の閉じる方向に正対することになるため、金型を閉状態とする際、上金型2と下金型3とによる上下方向の押圧力が突き合わせ部Jに正面から加わる。この結果、大きな面積の突き合わせ部Jでより確実に圧着することができる。
【0024】
3.原料ゴム板の予熱
原料ゴム板Gは、金型にセットする前に圧着に適した温度に予熱することが好ましい。具体的には原料ゴム板を20〜80℃の温度で1〜8時間加熱する。これにより、原料ゴム板Gを柔らかくすることができるため、より確実に突き合わせ部Jを圧着することができる。
【0025】
20℃を下回る温度で加熱した場合、原料ゴムが十分柔らかくならない恐れがあり、80℃を超える温度で加熱した場合、予熱中に加硫が開始する恐れがある。また、加熱時間が1時間を下回る場合、原料ゴムの温度が十分上昇しない恐れがあり、加熱時間が8時間を上回る場合、原料ゴムが柔らかくなりすぎる恐れがある。
【0026】
4.加硫ブラダーの製造
次に、本実施の形態に係る加硫ブラダーの製造方法を工程順に説明する。
【0027】
(1)プレス加硫前の準備
プレス加硫の実施に際しては、従来と同様に、図5図6に示すように、金型を閉状態にして予め上金型2、下金型3、コア4のそれぞれの中空11に蒸気を供給し、それぞれを加硫に適した所定の温度、所定の温度範囲内の所定の温度に加熱する。なお、本実施の形態においては、従来とは異なり、これと並行して原料ゴム板Gを予熱しておく。
【0028】
(2)原料ゴム板セット工程
合わせ面が所定の角度で傾斜した本発明の原料ゴム板を予め準備しておく。
【0029】
次に、金型を開状態にする。下金型3の外周縁部は略垂直に立設された外周壁で縁どられており、外周壁の内側に沿って原料ゴムをセットする円環状の原料ゴムセット部が設けられている。予熱した原料ゴム板Gを原料ゴムセット部にセットする。具体的には、原料ゴム板Gを原料ゴムセット部に沿って湾曲させながら原料ゴムセット部に載置し、両端の合わせ面f同士を突き合わせる(図1図2参照)。なお、原料ゴム板Gの合わせ面は厚み方向に傾斜させる方が好ましい。
【0030】
(3)原料ゴム流入工程
次に、上金型2、コア4を下降させて金型を閉状態にする。この過程で原料ゴム板Gを押しつぶし、上金型2、下金型3、コア4で形成されているキャビティ5内に原料ゴムを流入させる。
【0031】
このとき、本実施の形態では、合わせ面が所定の角度で傾斜した原料ゴム板Gを用いることにより合わせ面の面積が十分に確保されているため、上金型2とコア4が原料ゴム板Gを押圧した最初の時点で、原料ゴム板Gの合わせ面を十分に圧着させることができるため、従来のように合わせ面の圧着が不足した原料ゴムがキャビティ5内に流入して、製造後の加硫ブラダーに割れが発生することがない。
【0032】
(4)加硫工程
そして、本実施の形態に係る加硫ブラダーの製造方法でも、従来と同様に、金型を閉状態にした状態を所定時間保ってプレス加硫を行うことにより、キャビティ5内に流入した原料ゴムを加熱加硫する。
【0033】
(5)取り出し工程
次に、金型を開状態にして加硫ブラダーを取り出す。具体的には、コア4の下端側中央内側に、下方に向けてエアーを吹き出すエアーバルブを設けておき、金型を開状態にするのと並行してエアーバルブからエアーを吹き出させて加硫ブラダー内に流入させることにより、エアー圧で加硫ブラダーを風船のように膨らませ、加硫ブラダーをコア4から取り出す。
【0034】
本実施の形態に係る加硫ブラダーの製造方法は、以上の工程により加硫ブラダーを製造する。
【0035】
これにより、製造後の加硫ブラダーの割れの発生が抑制され、加硫ブラダーを高い歩留まりで製造することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
【0037】
本実施例では、従来法を用いた比較例と、上記実施の形態に記載した方法を用いた実施例とに基づいて、それぞれ加硫ブラダーを製造し、製造後の加硫ブラダーに発生した割れの個数および発生率を調べた。
【0038】
1.実験方法
(1)加硫ブラダーの製造
a.比較例
図3に示したカット面fが原料ゴム板Gの長手方向に対して垂直であり、かつ、予熱していない原料ゴム板Gを用いてテスト用の加硫ブラダーを50個製造した。
【0039】
b.実施例
図1に示す厚み方向に45°に傾斜させた合わせ面fを形成させて原料ゴム板Gを、予め、45℃で4時間加熱して用いたこと以外は比較例と同じ方法でテスト用の加硫ブラダーを29個製造した。
【0040】
2.加硫ブラダーの評価
(1)評価方法
比較例および実施例で製造されたテスト用の加硫ブラダーの各々を、所定本数(450本)のタイヤの加硫成形に使用した。そして、所定本数のタイヤの加硫成形が完了する前に加硫ブラダーの割れが生じた場合には、その加硫ブラダーを割れ数(個)にカウントし、各例における割れ発生率(%)を求めた。
【0041】
(2)評価結果
評価結果をまとめて表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1より、比較例では割れ発生率が60%近い非常に高い値であったの対して、実施例では3%と大幅に低減されており、本発明に従えば、比較例と比較してはるかに高い歩留りで加硫ブラダーを製造でき、しかも、製造後の加硫ブラダーの寿命を長くすることができることが分かった。
【0044】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 プレス加硫装置
2 上金型
3 下金型
4 コア
5 キャビティ
11 中空
B 加硫ブラダー
G 原料ゴム板
J 突き合わせ部
f 合わせ面
θ 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6