【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、開削工事における土留め工の作業効率の改善と安全性の向上とを図ることが可能な
土留め壁構造の構築方法を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る土留め壁構造の構築方法は請求項1に記載したように、地盤内における開削予定領域とその周囲に拡がる周辺地盤との側方境界面のうち、鉛直面に対して所定の傾斜角度を有する側方境界面に沿って親杭を地表面から地盤内に挿入し、
平板状をなす鋼板を、その周縁であって互いに反対側となる2つの縁部が、前記親杭のうち、互いに隣り合う2本の親杭にそれぞれ設けられた係止部であってそれらの係止面上を前記親杭の材軸方向に沿って摺動し又は前記係止部による前記親杭の材軸直交方向への係止作用が維持される範囲内で前記係止面からの離間距離を保ちつつ前記親杭の材軸方向に沿って移動するように、地表面から前記地盤内に挿入する土留め壁構造の構築方法であって、
前記親杭の頂部近傍が地上に露出した状態で前記親杭の挿入工程を中断し、該親杭の地上露出部位に前記鋼板の挿入を案内させる形で該鋼板の挿入工程を実施し、該鋼板の挿入工程完了後、前記親杭の挿入工程を再開するものである。
【0011】
また、本発明に係る土留め壁構造の構築方法は、前記親杭を形鋼で構成するとともに、該形鋼を構成するフランジのうち、前記開削予定領域に近い掘削側フランジを前記係止部、該掘削側フランジの背面を前記係止面としたものである。
【0013】
また、本発明に係る土留め壁構造の構築方法は、前記鋼板の挿入工程に先立ち、前記摺動を案内する第1の案内手段を前記親杭の地上露出部位に設置する工程を含み、該第1の案内手段を、前記係止面に対向しかつ該係止面との間に前記鋼板の厚みに相当する間隙を形成する案内面が設けられたガイド部材で構成するとともに、前記案内面と前記係止面との間に前記鋼板が挿通された状態で前記鋼板の挿入工程を実施するものである。
【0014】
また、本発明に係る土留め壁構造の構築方法は、前記鋼板の挿入工程に先立ち、前記摺動を案内する第2の案内手段を前記鋼板の下縁近傍に設置する工程を含み、該第2の案内手段を、前記係止部に係合する係合爪で構成するとともに、該係合爪が前記係止部に係合した状態で前記鋼板の挿入工程を実施するものである。
【0015】
[土留め壁構造
(参考)]
参考発明に係る土留め壁構造においては、親杭と、平板状をなす鋼板とを地盤内に配置してあるが、該鋼板を地盤内に配置するにあたっては、その周縁であって互いに反対側となる2つの縁部が、互いに隣り合う2本の親杭にそれぞれ設けられた係止部によって該各親杭の材軸直交方向にそれぞれ係止されるように配置してある。
【0016】
このようにすると、開削予定領域に拡がる地山を掘削した後は、鋼板の背面に作用する主動土圧がその縁部を介して親杭に伝達されるとともに、該親杭の根入れ部分に作用する受動土圧が反力となって上述の主働土圧が確実に支持されることとなる。また、鋼板は従来使用していた木製の横矢板よりも強度が非常に高いことから、従来の親杭横矢板工法と同等以上の土留め機能が発揮される。
【0017】
加えて、鋼材が本来的に有する高い剛性と強度により、機械的圧力で鋼板を地表面から挿入配置する、とりわけ地表面近傍から根切り底近傍に至る長さで挿入配置することができるため、短冊状に分割された木製横矢板を一枚一枚手作業で親杭に嵌め込んでいた従来とは異なり、矢板を設置する際の作業性が格段に向上するほか、掘削前に矢板を設置することが可能であるため、従来のように掘削のための重機と矢板設置のための作業員とが根切り底で混在する事態は起こり得ず、かくして安全性についても大幅に向上する。
【0018】
また、上述したように地表面近傍から根切り底近傍に至る長さで鋼板を構成することができるため、埋め戻し後にこれを引き抜くことで鋼板を容易に撤去することが可能となり、材料自体の転用容易性とも相俟って、土木資材の有効利用も可能となる。
【0019】
さらに、
参考発明に係る土留め壁構造においては、開削予定領域の側方境界面のうち、鉛直面に対して所定の傾斜角度を有する側方境界面に沿って親杭を地盤内に配置するとともに、その親杭に沿って上述したように鋼板を地盤内に配置してある。
【0020】
このようすると、鋼板の背面に作用する主動土圧が軽減されるので、土質性状に合わせて傾斜角度を適宜設定することにより、切梁、腹起こしといった支保工を省略することが可能となり、かくして上述した矢板設置時の作業性改善との協働作用によって、土留め壁をさらに短工期に構築することが可能となる。
【0021】
鋼板は、平板状をなす鋼板である限り、その具体的構成は任意であって、複数枚で構成してもかまわないし、単一の鋼板で構成してもよい。
【0022】
また、鋼板は、矩形のものを用いる構成が典型例であって、その場合、互いに反対側となる2つの縁部は、互いに平行な2つの縁部となるとともに、親杭は、側方境界面の最大傾斜方向に沿って地盤内に配置されることになるが、側方境界面同士が例えば水平面上で互いに直交するように取り合う箇所において、該取合い箇所に逆三角形状あるいは逆台形状をなす別の側方境界面を介在させる場合には、該側方境界面に設置される土留め壁は、その側方境界面の最大傾斜方向と所定角度をなす方向に向けてかつ深さ方向に沿って離間距離が短くなるように地盤内に一対の親杭を対向配置するとともに該親杭の間に逆三角形状あるいは逆台形状をなす鋼板を配置してなる構成を採用することができる。
【0023】
鋼板を矩形に構成する場合、掘削深度が浅い等の事情により、親杭の材軸方向に沿った側をそれに直交する側よりも短くする構成や、同一長とした構成、すなわち正方形に形成した構成が排除されるものではないが、親杭の材軸方向に沿った側をそれに直交する側よりも長くする構成とすれば、掘削深度が大きい場合であっても、地表面近傍から根切り底近傍に至る形での配置が可能となる。
【0024】
特に、
参考発明の鋼板を、ダンプトラック、バックホウなどの建設車両のトラフィカビリティを改善するために用いられる縦横比が3〜4程度の敷鉄板とすれば、市場調達性に優れることから、土留め壁を構築する全体コストを縮減することも可能となる。
【0025】
親杭は、開削後に鋼板背面に作用する主動土圧に対し、隣り合う2本で鋼板の2つの縁部をそれぞれ係止可能である限り、どのような部材で構成してもかまわないが、これをH形鋼、I形鋼等の形鋼で構成するとともに、該形鋼を構成するフランジのうち、開削予定領域に近い掘削側フランジを上述の係止部とした構成が典型例となる。
【0026】
[土留め壁構造の構築方法]
本発明に係る土留め壁構造の構築方法においては、まず、地盤内における開削予定領域とその周囲に拡がる周辺地盤との側方境界面のうち、鉛直面に対して所定の傾斜角度を有する側方境界面に沿って親杭を地表面から地盤内に挿入する。
【0027】
親杭は、例えば予めオーガーで地盤に挿入孔を形成した後、該挿入孔にバイブロハンマーを用いて揺動圧入することで地盤内への挿入が可能である。
【0028】
次に、平板状をなす鋼板を親杭に沿って地表面から地盤内に挿入する。
【0029】
鋼板は親杭と同様、例えばバイブロハンマーを用いた揺動圧入で地盤内への挿入が可能であるが、挿入の際には、該鋼板の周縁であって互いに反対側となる2つの縁部が、2本の親杭にそれぞれ設けられた係止部であってそれらの係止面上を親杭の材軸方向に沿って摺動するように行う。
【0030】
なお、鋼板の縁部は、親杭に設けられた係止部の係止面上を厳密に摺動しなければならないものではなく、係止部による親杭の材軸直交方向への係止作用が維持される範囲内、例えば鋼板の厚み程度の範囲内で係止面からの離間距離を保ちつつ、親杭の材軸方向に沿って移動する形態での挿入でもかまわない。
【0031】
このように鋼板を地盤内に挿入すると、開削予定領域に拡がる地山を掘削した後は、鋼板の背面に作用する主動土圧がその縁部を介して親杭に伝達されるとともに、該親杭の根入れ部分に作用する受動土圧が反力となって上述の主動土圧が確実に支持されることとなり、かくして鋼板が矢板となって従来の親杭横矢板工法と同等以上の土留め機能が発揮される。
【0032】
また、短冊状に分割された木製横矢板を一枚一枚手作業で親杭に嵌め込んでいた従来とは異なり、矢板を設置する際の作業性が格段に向上するほか、掘削前に矢板を設置することが可能であるため、従来のように掘削のための重機と矢板設置のための作業員とが根切り底で混在する事態は起こり得ず、かくして安全性についても大幅に向上する。
【0033】
鋼板に関する説明は、土留め壁構造に係る
(参考)発明で述べたと同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0034】
親杭は、鋼板を上述したように摺動させ又は移動させる形態で地盤内に挿入可能である限り、どのような部材で構成してもかまわないが、これをH形鋼、I形鋼等の形鋼で構成するとともに、該形鋼を構成するフランジのうち、開削予定領域に近い掘削側フランジを上述の係止部とし、該掘削側フランジの背面を上述の係止面とする構成が典型例となる。
【0035】
鋼板を挿入する際、上述した摺動又は移動を
行うにあたり、親杭は、傾斜角度をもって地盤内に挿入されていて、係止部である掘削側フランジは鋼板の上方に位置するので、係止面である各掘削側フランジの背面と鋼板の2つの縁部とは、鋼板の自重により、親杭の材軸直交方向への係止作用が維持される範囲を越えて、互いに離間するおそれがある。
【0036】
したがって、本発明においては、親杭の頂部近傍が地上に露出した状態で親杭の挿入工程を中断し、該親杭の地上露出部位に鋼板の挿入を案内させる形で該鋼板の挿入工程を実施し、該鋼板の挿入工程完了後、親杭の挿入工程を再開するように
する。
このようにすれば、上述の離間を防止することができる。
【0037】
鋼板の挿入を親杭の地上露出部位にどのように案内させるかは任意であって、例えば、親杭に設けられた係止面であってその地上露出部位に鋼板を押し当てながら、地盤内に挿入するようにしてもかまわないが、以下の構成、すなわち、
(a) 鋼板の挿入工程に先立ち、上述の摺動を案内する第1の案内手段を親杭の地上露出部位に設置する工程を含み、該第1の案内手段を、係止面に対向しかつ該係止面との間に鋼板の厚みに相当する間隙を形成する案内面が設けられたガイド部材で構成するとともに、これら案内面と係止面との間に鋼板が挿通された状態で鋼板の挿入工程を実施する
(b) 鋼板の挿入工程に先立ち、上述の摺動を案内する第2の案内手段を鋼板の下縁近傍に設置する工程を含み、該第2の案内手段を、係止部に係合する係合爪で構成するとともに、該係合爪が係止部に係合した状態で鋼板の挿入工程を実施する
のいずれか一方の構成を、又は両方の構成を採用するようにすれば、鋼板の2つの縁部を、各親杭の係止面に概ね摺動させることができるとともに、挿入完了時には、鋼板の2つの縁部を各係止面でそれぞれ確実に係止させることが可能となる。