特許第6804034号(P6804034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804034
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】土留め壁構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/04 20060101AFI20201214BHJP
【FI】
   E02D5/04
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-139754(P2016-139754)
(22)【出願日】2016年7月14日
(65)【公開番号】特開2018-9393(P2018-9393A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年6月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人地盤工学会から発行された第56回地盤工学会北海道支部技術報告会(平成28年1月28日〜29日)のCD−ROM版技術報告集,「放水路蓋渠工事における斜め土留め工法の適用事例」(補充資料)
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】大里 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】田口 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 久典
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】照井 太一
【審査官】 彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−265907(JP,A)
【文献】 特開2005−083123(JP,A)
【文献】 特開2010−229626(JP,A)
【文献】 特開2010−229627(JP,A)
【文献】 特開2006−104782(JP,A)
【文献】 特開2006−057389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内における開削予定領域とその周囲に拡がる周辺地盤との側方境界面のうち、鉛直面に対して所定の傾斜角度を有する側方境界面に沿って親杭を地表面から地盤内に挿入し、
平板状をなす鋼板を、その周縁であって互いに反対側となる2つの縁部が、前記親杭のうち、互いに隣り合う2本の親杭にそれぞれ設けられた係止部であってそれらの係止面上を前記親杭の材軸方向に沿って摺動し又は前記係止部による前記親杭の材軸直交方向への係止作用が維持される範囲内で前記係止面からの離間距離を保ちつつ前記親杭の材軸方向に沿って移動するように、地表面から前記地盤内に挿入する土留め壁構造の構築方法であって、
前記親杭の頂部近傍が地上に露出した状態で前記親杭の挿入工程を中断し、該親杭の地上露出部位に前記鋼板の挿入を案内させる形で該鋼板の挿入工程を実施し、該鋼板の挿入工程完了後、前記親杭の挿入工程を再開することを特徴とする土留め壁構造の構築方法。
【請求項2】
前記親杭を形鋼で構成するとともに、該形鋼を構成するフランジのうち、前記開削予定領域に近い掘削側フランジを前記係止部、該掘削側フランジの背面を前記係止面とした請求項1記載の土留め壁構造の構築方法。
【請求項3】
前記鋼板の挿入工程に先立ち、前記摺動を案内する第1の案内手段を前記親杭の地上露出部位に設置する工程を含み、該第1の案内手段を、前記係止面に対向しかつ該係止面との間に前記鋼板の厚みに相当する間隙を形成する案内面が設けられたガイド部材で構成するとともに、前記案内面と前記係止面との間に前記鋼板が挿通された状態で前記鋼板の挿入工程を実施する請求項1又は請求項2記載の土留め壁構造の構築方法。
【請求項4】
前記鋼板の挿入工程に先立ち、前記摺動を案内する第2の案内手段を前記鋼板の下縁近傍に設置する工程を含み、該第2の案内手段を、前記係止部に係合する係合爪で構成するとともに、該係合爪が前記係止部に係合した状態で前記鋼板の挿入工程を実施する請求項1又は請求項2記載の土留め壁構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の親杭横矢板土留め壁を用いた工法が採用される状況に主として適用される土留め壁構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土留め工は、地盤掘削時の地山崩壊を防止することを目的としたものであって、建築構造物の基礎や開削方式でのトンネルをはじめ、地表面近傍に構造物を構築する場合には必要不可欠な工事となる。
【0003】
土留め工は、支保形式の違いによって、自立式、切梁式、グラウンドアンカー式、控え式タイロッド式などに分類されるとともに、土留め壁の違いによって、親杭横矢板土留め壁、鋼矢板、鋼管矢板、連続地中壁などに分類され、掘削の規模、地盤性状、地下水の水位等に応じて適宜選択される。
【0004】
これらのうち、親杭横矢板土留め壁を用いた土留め工(以下、親杭横矢板工法)は、H形鋼等の親杭を地盤に打ち込み、あるいは立て込んだ後、掘削工事の進捗に合わせて、隣り合う親杭の間に木製の横矢板を順次嵌め込んでいく工法であって、経済性に優れることから、地盤が良質で比較的小規模な工事では、旧来から広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−038377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の親杭横矢板工法においては、横矢板をH形鋼に嵌め込むにあたり、一般的には、掘削によって側方に露出した地山を覆うようにして、先行配置された横矢板の下方にあらたな横矢板を手作業で一枚一枚嵌め込まねばならず、横矢板の設置に多大な手間と時間を要するほか、根切り底では、バックホウ等の掘削重機と作業員とが混在するため、安全性に対しても多大な配慮を払わねばならないという問題を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、開削工事における土留め工の作業効率の改善と安全性の向上とを図ることが可能な土留め壁構造の構築方法を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る土留め壁構造の構築方法は請求項1に記載したように、地盤内における開削予定領域とその周囲に拡がる周辺地盤との側方境界面のうち、鉛直面に対して所定の傾斜角度を有する側方境界面に沿って親杭を地表面から地盤内に挿入し、
平板状をなす鋼板を、その周縁であって互いに反対側となる2つの縁部が、前記親杭のうち、互いに隣り合う2本の親杭にそれぞれ設けられた係止部であってそれらの係止面上を前記親杭の材軸方向に沿って摺動し又は前記係止部による前記親杭の材軸直交方向への係止作用が維持される範囲内で前記係止面からの離間距離を保ちつつ前記親杭の材軸方向に沿って移動するように、地表面から前記地盤内に挿入する土留め壁構造の構築方法であって、
前記親杭の頂部近傍が地上に露出した状態で前記親杭の挿入工程を中断し、該親杭の地上露出部位に前記鋼板の挿入を案内させる形で該鋼板の挿入工程を実施し、該鋼板の挿入工程完了後、前記親杭の挿入工程を再開するものである。
【0011】
また、本発明に係る土留め壁構造の構築方法は、前記親杭を形鋼で構成するとともに、該形鋼を構成するフランジのうち、前記開削予定領域に近い掘削側フランジを前記係止部、該掘削側フランジの背面を前記係止面としたものである。
【0013】
また、本発明に係る土留め壁構造の構築方法は、前記鋼板の挿入工程に先立ち、前記摺動を案内する第1の案内手段を前記親杭の地上露出部位に設置する工程を含み、該第1の案内手段を、前記係止面に対向しかつ該係止面との間に前記鋼板の厚みに相当する間隙を形成する案内面が設けられたガイド部材で構成するとともに、前記案内面と前記係止面との間に前記鋼板が挿通された状態で前記鋼板の挿入工程を実施するものである。
【0014】
また、本発明に係る土留め壁構造の構築方法は、前記鋼板の挿入工程に先立ち、前記摺動を案内する第2の案内手段を前記鋼板の下縁近傍に設置する工程を含み、該第2の案内手段を、前記係止部に係合する係合爪で構成するとともに、該係合爪が前記係止部に係合した状態で前記鋼板の挿入工程を実施するものである。
【0015】
[土留め壁構造(参考)
参考発明に係る土留め壁構造においては、親杭と、平板状をなす鋼板とを地盤内に配置してあるが、該鋼板を地盤内に配置するにあたっては、その周縁であって互いに反対側となる2つの縁部が、互いに隣り合う2本の親杭にそれぞれ設けられた係止部によって該各親杭の材軸直交方向にそれぞれ係止されるように配置してある。
【0016】
このようにすると、開削予定領域に拡がる地山を掘削した後は、鋼板の背面に作用する主動土圧がその縁部を介して親杭に伝達されるとともに、該親杭の根入れ部分に作用する受動土圧が反力となって上述の主働土圧が確実に支持されることとなる。また、鋼板は従来使用していた木製の横矢板よりも強度が非常に高いことから、従来の親杭横矢板工法と同等以上の土留め機能が発揮される。
【0017】
加えて、鋼材が本来的に有する高い剛性と強度により、機械的圧力で鋼板を地表面から挿入配置する、とりわけ地表面近傍から根切り底近傍に至る長さで挿入配置することができるため、短冊状に分割された木製横矢板を一枚一枚手作業で親杭に嵌め込んでいた従来とは異なり、矢板を設置する際の作業性が格段に向上するほか、掘削前に矢板を設置することが可能であるため、従来のように掘削のための重機と矢板設置のための作業員とが根切り底で混在する事態は起こり得ず、かくして安全性についても大幅に向上する。
【0018】
また、上述したように地表面近傍から根切り底近傍に至る長さで鋼板を構成することができるため、埋め戻し後にこれを引き抜くことで鋼板を容易に撤去することが可能となり、材料自体の転用容易性とも相俟って、土木資材の有効利用も可能となる。
【0019】
さらに、参考発明に係る土留め壁構造においては、開削予定領域の側方境界面のうち、鉛直面に対して所定の傾斜角度を有する側方境界面に沿って親杭を地盤内に配置するとともに、その親杭に沿って上述したように鋼板を地盤内に配置してある。
【0020】
このようすると、鋼板の背面に作用する主動土圧が軽減されるので、土質性状に合わせて傾斜角度を適宜設定することにより、切梁、腹起こしといった支保工を省略することが可能となり、かくして上述した矢板設置時の作業性改善との協働作用によって、土留め壁をさらに短工期に構築することが可能となる。
【0021】
鋼板は、平板状をなす鋼板である限り、その具体的構成は任意であって、複数枚で構成してもかまわないし、単一の鋼板で構成してもよい。
【0022】
また、鋼板は、矩形のものを用いる構成が典型例であって、その場合、互いに反対側となる2つの縁部は、互いに平行な2つの縁部となるとともに、親杭は、側方境界面の最大傾斜方向に沿って地盤内に配置されることになるが、側方境界面同士が例えば水平面上で互いに直交するように取り合う箇所において、該取合い箇所に逆三角形状あるいは逆台形状をなす別の側方境界面を介在させる場合には、該側方境界面に設置される土留め壁は、その側方境界面の最大傾斜方向と所定角度をなす方向に向けてかつ深さ方向に沿って離間距離が短くなるように地盤内に一対の親杭を対向配置するとともに該親杭の間に逆三角形状あるいは逆台形状をなす鋼板を配置してなる構成を採用することができる。
【0023】
鋼板を矩形に構成する場合、掘削深度が浅い等の事情により、親杭の材軸方向に沿った側をそれに直交する側よりも短くする構成や、同一長とした構成、すなわち正方形に形成した構成が排除されるものではないが、親杭の材軸方向に沿った側をそれに直交する側よりも長くする構成とすれば、掘削深度が大きい場合であっても、地表面近傍から根切り底近傍に至る形での配置が可能となる。
【0024】
特に、参考発明の鋼板を、ダンプトラック、バックホウなどの建設車両のトラフィカビリティを改善するために用いられる縦横比が3〜4程度の敷鉄板とすれば、市場調達性に優れることから、土留め壁を構築する全体コストを縮減することも可能となる。
【0025】
親杭は、開削後に鋼板背面に作用する主動土圧に対し、隣り合う2本で鋼板の2つの縁部をそれぞれ係止可能である限り、どのような部材で構成してもかまわないが、これをH形鋼、I形鋼等の形鋼で構成するとともに、該形鋼を構成するフランジのうち、開削予定領域に近い掘削側フランジを上述の係止部とした構成が典型例となる。
【0026】
[土留め壁構造の構築方法]
本発明に係る土留め壁構造の構築方法においては、まず、地盤内における開削予定領域とその周囲に拡がる周辺地盤との側方境界面のうち、鉛直面に対して所定の傾斜角度を有する側方境界面に沿って親杭を地表面から地盤内に挿入する。
【0027】
親杭は、例えば予めオーガーで地盤に挿入孔を形成した後、該挿入孔にバイブロハンマーを用いて揺動圧入することで地盤内への挿入が可能である。
【0028】
次に、平板状をなす鋼板を親杭に沿って地表面から地盤内に挿入する。
【0029】
鋼板は親杭と同様、例えばバイブロハンマーを用いた揺動圧入で地盤内への挿入が可能であるが、挿入の際には、該鋼板の周縁であって互いに反対側となる2つの縁部が、2本の親杭にそれぞれ設けられた係止部であってそれらの係止面上を親杭の材軸方向に沿って摺動するように行う。
【0030】
なお、鋼板の縁部は、親杭に設けられた係止部の係止面上を厳密に摺動しなければならないものではなく、係止部による親杭の材軸直交方向への係止作用が維持される範囲内、例えば鋼板の厚み程度の範囲内で係止面からの離間距離を保ちつつ、親杭の材軸方向に沿って移動する形態での挿入でもかまわない。
【0031】
このように鋼板を地盤内に挿入すると、開削予定領域に拡がる地山を掘削した後は、鋼板の背面に作用する主動土圧がその縁部を介して親杭に伝達されるとともに、該親杭の根入れ部分に作用する受動土圧が反力となって上述の主動土圧が確実に支持されることとなり、かくして鋼板が矢板となって従来の親杭横矢板工法と同等以上の土留め機能が発揮される。
【0032】
また、短冊状に分割された木製横矢板を一枚一枚手作業で親杭に嵌め込んでいた従来とは異なり、矢板を設置する際の作業性が格段に向上するほか、掘削前に矢板を設置することが可能であるため、従来のように掘削のための重機と矢板設置のための作業員とが根切り底で混在する事態は起こり得ず、かくして安全性についても大幅に向上する。
【0033】
鋼板に関する説明は、土留め壁構造に係る(参考)発明で述べたと同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0034】
親杭は、鋼板を上述したように摺動させ又は移動させる形態で地盤内に挿入可能である限り、どのような部材で構成してもかまわないが、これをH形鋼、I形鋼等の形鋼で構成するとともに、該形鋼を構成するフランジのうち、開削予定領域に近い掘削側フランジを上述の係止部とし、該掘削側フランジの背面を上述の係止面とする構成が典型例となる。
【0035】
鋼板を挿入する際、上述した摺動又は移動を行うにあたり、親杭は、傾斜角度をもって地盤内に挿入されていて、係止部である掘削側フランジは鋼板の上方に位置するので、係止面である各掘削側フランジの背面と鋼板の2つの縁部とは、鋼板の自重により、親杭の材軸直交方向への係止作用が維持される範囲を越えて、互いに離間するおそれがある。
【0036】
したがって、本発明においては、親杭の頂部近傍が地上に露出した状態で親杭の挿入工程を中断し、該親杭の地上露出部位に鋼板の挿入を案内させる形で該鋼板の挿入工程を実施し、該鋼板の挿入工程完了後、親杭の挿入工程を再開するようにする。
このようにすれば、上述の離間を防止することができる。
【0037】
鋼板の挿入を親杭の地上露出部位にどのように案内させるかは任意であって、例えば、親杭に設けられた係止面であってその地上露出部位に鋼板を押し当てながら、地盤内に挿入するようにしてもかまわないが、以下の構成、すなわち、
(a) 鋼板の挿入工程に先立ち、上述の摺動を案内する第1の案内手段を親杭の地上露出部位に設置する工程を含み、該第1の案内手段を、係止面に対向しかつ該係止面との間に鋼板の厚みに相当する間隙を形成する案内面が設けられたガイド部材で構成するとともに、これら案内面と係止面との間に鋼板が挿通された状態で鋼板の挿入工程を実施する
(b) 鋼板の挿入工程に先立ち、上述の摺動を案内する第2の案内手段を鋼板の下縁近傍に設置する工程を含み、該第2の案内手段を、係止部に係合する係合爪で構成するとともに、該係合爪が係止部に係合した状態で鋼板の挿入工程を実施する
のいずれか一方の構成を、又は両方の構成を採用するようにすれば、鋼板の2つの縁部を、各親杭の係止面に概ね摺動させることができるとともに、挿入完了時には、鋼板の2つの縁部を各係止面でそれぞれ確実に係止させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本実施形態に係る土留め壁構造の全体図であり、(a)は平面図、(b)はA−A線に沿う鉛直断面図。
図2】本実施形態に係る土留め壁構造の詳細図であって、(a)はB−B線方向から見た矢視図、(b)はC−C線に沿う断面図。
図3】本実施形態に係る土留め壁構造1の構築方法の手順を示した図であり、(a)は親杭7の挿入を開始した様子を、(b)は該挿入工程を中断した様子をそれぞれ示した鉛直断面図。
図4】引き続き本実施形態に係る土留め壁構造1の構築方法の手順を示した図であって、親杭7の頂部近傍にガイド部材41を設置した様子を示した側面図。
図5】引き続き本実施形態に係る土留め壁構造1の構築方法の手順を示した図であり、(a)は鋼板8の下縁近傍に係合爪51を設置した様子を示した正面図、(b)はD−D線に沿う断面図。
図6】引き続き本実施形態に係る土留め壁構造1の構築方法の手順を示した図であって、親杭7及び鋼板8の地盤2への挿入が完了した様子を示した鉛直断面図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る土留め壁構造及びその構築方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0040】
図1は、本実施形態に係る土留め壁構造を示した全体図である。同図でわかるように、本実施形態に係る土留め壁構造1は、地盤2内の開削予定領域3を開削してその開削範囲にエネルギー関連施設の放水路を構築する際の土留め工に適用されるものであって、開削予定領域3とその周囲に拡がる周辺地盤との間には、水平に延びる長方形状の境界面4が仮想的に形成されているほか、境界面4の短手縁部からそれぞれ直立する一対の側方境界面5,5と、境界面4の長手縁部からそれぞれ斜めに、本実施形態では鉛直面に対して10゜の傾斜角度で立ち上がる一対の側方境界面6,6とからなる4つの側方境界面とが仮想的に形成されており、開削予定領域3を掘削する際には、側方境界面5,5に一対の直立土留め壁が、側方境界面6,6には一対の傾斜土留め壁がそれぞれ構築される。
【0041】
ここで、本実施形態に係る土留め壁構造1は、上述した4つの側方境界面のうち、側方境界面6に沿ってかつその最大傾斜方向に沿って親杭7を地盤2内に列状に配置してあるとともに、該親杭に沿って鋼板8を地盤2内に配置してあり、これら親杭7及び鋼板8が上述した傾斜土留め壁を構成する。
【0042】
親杭7は、H形鋼で構成してある。
【0043】
鋼板8は、縦横比が3〜4程度の矩形でかつ平板状をなすもので構成するが、具体的には、ダンプトラック、バックホウなどの建設車両のトラフィカビリティを改善するために用いられる敷鉄板を転用することが可能であり、さらに具体的には、約1.5m×6mの敷鉄板を用いることができる。
【0044】
図2は、親杭7及び鋼板8の配置状況を示したものである。同図でわかるように、鋼板8は、親杭7のうち、互いに隣り合う2本の親杭7,7の各フランジであって開削予定領域3に近い掘削側フランジを係止部13,13として、該各係止部により、鋼板8の周縁であって互いに平行な2つの縁部11,11(以下、2つの平行縁部11,11)が親杭7,7の材軸直交方向にそれぞれ係止されるように配置してある。
【0045】
本実施形態に係る土留め壁構造1を構築するには、まず図3(a)に示すように、側方境界面6に沿ってかつその最大傾斜方向に沿って、親杭7を地表面から地盤2内に等間隔で列状に挿入する。
【0046】
親杭7は、例えば予めオーガーで地盤に挿入孔を形成した後、該挿入孔にバイブロハンマーを用いて揺動圧入することで、地盤2内に挿入すればよい。
【0047】
親杭7を挿入するにあたっては、例えば油圧ショベルを構成するベースマシンのアタッチメントをバイブロハンマーに交換した上、該バイブロハンマーで親杭7頂部のウェブを把持して該親杭を揺動圧入すればよいが、必要があれば、側方境界面6に沿った最大傾斜角度、本実施形態であれば10゜を維持すべく、10゜の傾斜角を有する鉄骨架台を予め製作し、その鉄骨架台の傾斜面に親杭7をあてがうようにすればよい。
【0048】
ここで、親杭7は、予定された深さまで打ち込むのではなく、同図(b)に示すように、その頂部近傍を地上露出部位31として地上に露出させ、かかる状態で挿入工程をいったん中断する。
【0049】
次に、図4に示すように、親杭7の地上露出部位31に第1の案内手段としてのガイド部材41を上下二段に設置する。
【0050】
ガイド部材41は、横置き、すなわち底版が鉛直になる姿勢で配置される鋼製ボックス43と該鋼製ボックスを親杭7の非掘削側フランジ44に固定するクランプ42とで構成してあるとともに、鋼製ボックス43の周面のうち、掘削側フランジである係止部13の側に該係止部の背面である係止面12に対向しかつ該係止面との間に鋼板8の厚みに相当する間隙を形成する案内面45を形成してあり、案内面45と係止面12との間に鋼板8を挿通することにより、鋼板8の2つの平行縁部11,11を係止部13,13の係止面12,12上に当接させるとともに、かかる状態で鋼板8を下方に押し下げることで、平行縁部11,11を係止面12,12上で概ね摺動させながら、該鋼板を地盤2内に挿入することができるようになっている。
【0051】
ガイド部材41が設置されたならば、図4の一点鎖線で示したように、ガイド部材41の案内面45と係止部13の係止面12との間に鋼板8の下縁を差し込み、この状態を保持したまま、図5に示すように、鋼板8に第2の案内手段としての係合爪51,51を設置する。
【0052】
係合爪51は、鋼板8の各縁部11との間に各親杭7の係止部13をそれぞれ挟み込む形となるように、該鋼板の掘削面側の下縁近傍であってその左右に溶接等で固定してあり、上述のように親杭7の係止部13に係合した状態で、鋼板8を下方に押し下げることにより、鋼板8の平行縁部11,11を係止面12,12上で概ね摺動させながら、該鋼板を地盤2内に挿入することができるようになっている。
【0053】
このように、鋼板8をガイド部材41の案内面45と係止面12との間に挿通させるとともに、係合爪51を親杭7の係止部13に係合させたならば、かかる状態で、鋼板8を下方に押し下げて地盤2内に挿入する。
【0054】
鋼板8の挿入工程が完了したならば、親杭7の挿入作業を再開し、地上露出部位31として地上に露出した頂部近傍を地盤2内に挿入する(図6参照)。
【0055】
このようにして親杭7及び鋼板8からなる傾斜土留め壁を構築したならば、鋼板8を矢板として開削予定領域3に拡がる地山を掘削し、掘削された範囲に構造物を構築後、該構造物周囲を埋め戻し、しかる後、鋼板8を地盤2から引き抜いて撤去する。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係る土留め壁構造1によれば、開削予定領域3に拡がる地山を掘削した後は、鋼板8の背面に作用する主動土圧がその縁部11,11を介して親杭7に伝達されるとともに、該親杭の根入れ部分に作用する受動土圧が反力となって上述の主働土圧が確実に支持されることとなる。また、鋼板8は従来使用する木製の横矢板よりも強度が非常に高いことから、従来の親杭横矢板工法と同等以上の土留め機能が発揮される。
【0057】
また、本実施形態に係る土留め壁構造1及びその構築方法によれば、機械的圧力で鋼板8を地表面から挿入配置する、とりわけ地表面近傍から根切り底近傍に至る長さで挿入配置することができるため、短冊状に分割された木製横矢板を一枚一枚手作業で親杭に嵌め込んでいた従来とは異なり、矢板を設置する際の作業性が格段に向上するほか、掘削前に鋼板8を設置することが可能であるため、従来のように掘削のための重機と矢板設置のための作業員とが根切り底で混在する事態は起こり得ず、かくして安全性についても大幅に向上する。
【0058】
また、本実施形態に係る土留め壁構造1によれば、開削予定領域3の側方境界面のうち、鉛直面に対して傾斜角度を有する側方境界面6に沿ってかつその最大傾斜方向に沿って親杭7を地盤2内に配置するとともに、該親杭に沿って上述したように鋼板8を地盤2内に配置するようにしたので、鋼板8の背面に作用する主動土圧が軽減される。
【0059】
そのため、土質性状に合わせて傾斜角度を適宜設定することにより、切梁、腹起こしといった支保工を省略することが可能となり、かくして上述した矢板設置時の作業性改善との協働作用によって、土留め壁をさらに短工期に構築することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態に係る土留め壁構造1によれば、上述したように地表面近傍から根切り底近傍に至る長さで鋼板8を構成することができるため、埋め戻し後にこれを引き抜くことで鋼板8を容易に撤去することが可能となり、材料自体の転用容易性とも相俟って、土木資材の有効利用も可能となる。
【0061】
また、本実施形態に係る土留め壁構造の構築方法によれば、鋼板8をガイド部材41の案内面45と係止面12との間に挿通させるとともに、係合爪51を親杭7の係止部13に係合させ、かかる状態で、鋼板8を下方に押し下げて地盤2内に挿入するようにしたので、鋼板8の2つの平行縁部11,11を、親杭7,7の係止面12,12に概ね摺動させることができるとともに、挿入完了時には、該2つの平行縁部11,11を各係止面12,12でそれぞれ確実に係止させることが可能となる。
【0062】
本実施形態では、本発明の鋼板を、敷鉄板からなる単一の鋼板8で構成したが、もちろん敷鉄板に限定されるものではないし、単一の鋼板で構成する必要もない。例えば、市場で流通する汎用の鋼板を順次溶接等で継ぎ足しながら地盤内に挿入する構成でもかまわない。
【0063】
また、本実施形態では、鋼板8をガイド部材41の案内面45と係止面12との間に挿通させるとともに、係合爪51を親杭7の係止部13に係合させ、かかる状態で、鋼板8を下方に押し下げて地盤2内に挿入するようにしたが、ガイド部材41又は係合爪51のいずれかのみで、鋼板8の2つの平行縁部11,11を、親杭7,7の係止面12,12に概ね摺動させることができるのであれば、これらのうち、一方を省略してもかまわないし、さらに言えば、ガイド部材41や係合爪51がなくても、鋼板8の2つの平行縁部11,11を親杭7の各係止部13,13に係止させて該鋼板を矢板として機能させることができるのであれば、ガイド部材41及び係合爪51を省略してもかまわない。
【0064】
また、本実施形態では、親杭7を側方境界面6の最大傾斜方向に沿って地盤2内に列状に配置するとともに、該親杭に沿って配置される鋼板8を矩形としたが、本発明においては、隣り合う親杭7,7の係止部13,13に鋼板8の2つの平行縁部11,11が係止されれば足りるのであって、係止部13は、フランジ幅の約半分の係り代を有するため、この係り代の範囲内であれば、親杭7の配置角度が最大傾斜方向から若干ずれてもかまわないし、鋼板8が厳密な矩形(長方形又は正方形)でなくてもかまわない。
【符号の説明】
【0065】
1 土留め壁構造
2 地盤
3 開削予定領域
6 側方境界面
7 親杭
8 鋼板
11,11 鋼板8の2つの平行縁部
12 係止面
13 係止部,掘削側フランジ
31 地上露出部位
41 ガイド部材(第1の案内手段)
45 案内面
51 係合爪(第2の案内手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6