特許第6804050号(P6804050)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧
特許6804050超電導線材の製造方法および超電導線材接合用部材
<>
  • 特許6804050-超電導線材の製造方法および超電導線材接合用部材 図000004
  • 特許6804050-超電導線材の製造方法および超電導線材接合用部材 図000005
  • 特許6804050-超電導線材の製造方法および超電導線材接合用部材 図000006
  • 特許6804050-超電導線材の製造方法および超電導線材接合用部材 図000007
  • 特許6804050-超電導線材の製造方法および超電導線材接合用部材 図000008
  • 特許6804050-超電導線材の製造方法および超電導線材接合用部材 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804050
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】超電導線材の製造方法および超電導線材接合用部材
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20201214BHJP
   H01B 12/06 20060101ALI20201214BHJP
   H01R 4/68 20060101ALI20201214BHJP
   H01F 6/06 20060101ALN20201214BHJP
【FI】
   H01B13/00 565D
   H01B12/06ZAA
   H01R4/68
   !H01F6/06 140
   !H01F6/06 150
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-214308(P2019-214308)
(22)【出願日】2019年11月27日
(62)【分割の表示】特願2016-574752(P2016-574752)の分割
【原出願日】2016年2月3日
(65)【公開番号】特開2020-57607(P2020-57607A)
(43)【公開日】2020年4月9日
【審査請求日】2019年11月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-25326(P2015-25326)
(32)【優先日】2015年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】大木 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】永石 竜起
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−279028(JP,A)
【文献】 特開2001−155566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 12/06
H01R 4/68
H01F 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導膜を有する超電導線材の端部同士を接合面として接合して長尺化された超電導線材を製造する超電導線材の製造方法であって、
前記接合面の前記酸化物超電導膜上に、酸化物超電導材料の微結晶を設ける工程と、
前記微結晶が設けられた前記接合面同士を重ね合わせて貼り合わせる貼り合わせ工程と、
重ね合わされた前記接合面を前記酸化物超電導材料の結晶成長温度で加熱して前記微結晶を固相を維持したまま成長させることにより、前記酸化物超電導材料の超電導層を接合層として形成して、前記接合面同士を接合する加熱接合工程とを備えている超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記微結晶を設ける工程が、前記接合面の前記酸化物超電導膜上に、酸化物超電導材料の微結晶を生成させる微結晶生成工程である請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記微結晶を設ける工程が、
前記酸化物超電導材料の微結晶を含む接合材を予め作製する接合材作製工程と、
予め作製された前記接合材を、前記接合面の前記酸化物超電導膜上に配置する接合材配置工程とを備えている請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記接合層を構成する酸化物超電導材料が、前記超電導線材の前記酸化物超電導膜を構成する酸化物超電導材料と同じ温度、もしくは、より低い温度で結晶が成長する酸化物超電導材料である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記接合層に、Ag、Au、Ptの何れかの粒子を含有させる請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記接合層を形成する前記酸化物超電導材料は、REBCO系の酸化物超電導材料である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項7】
酸化物超電導膜を有する2本の超電導線材の端部に位置する酸化物超電導膜同士を跨ぐように貼り付けられた状態で加熱されることにより、前記2本の超電導線材を接合して長尺化させる超電導線材接合用部材であって、
前記酸化物超電導膜に貼り付けられる接合面上に、酸化物超電導材料の微結晶が設けられている超電導線材接合用部材。
【請求項8】
請求項3に記載の超電導線材の製造方法において用いられる前記酸化物超電導材料の微結晶を含む接合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の超電導線材を順次接合して長尺化された超電導線材の製造方法および前記長尺化において使用される超電導線材接合用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
液体窒素の温度で超電導性を有する酸化物超電導材料の発見以来、ケーブル、限流器、マグネットなどの電力機器への応用を目指した超電導線材の開発が活発に行われている。
【0003】
そして、超電導機器用の超電導ケーブルや超電導コイル等の製造には、長尺の超電導線材が必要とされるため、複数の超電導線材を順次接続することにより長尺化が図られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
しかし、超電導線材の超電導膜を形成する酸化物超電導材料は、融点付近までは安定した相を持つ一方で、融点を超えると分解し易いという特性を有している。このため、複数の超電導線材を超電導膜面同士で接合しようとしても、金属の接合に一般的に用いられる加熱拡散接合のような方法を適用することができない。
【0005】
このため、従来は超電導膜の上に成膜された保護層や安定化層同士を、Agによる拡散接合やはんだを用いて接合する方法が一般的に用いられていたが、このような方法では有限の抵抗が発生して超電導状態で接続されないため、永久電流モードで使用できないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明者らは、接合面に酸化物超電導材料からなる超電導層を形成し、この接合面を介して超電導線材の超電導膜面同士を接合する接合技術を開発した(特許文献3参照)。これにより、抵抗の発生がない超電導状態で接続することができる。
【0007】
具体的には、この接合技術は、塗布熱分解法(MOD法:Metal Organic Deposition)を応用しており、超電導線材の接合面上に酸化物超電導材料を構成する金属の有機化合物を含む溶液(MOD溶液)を塗布して仮焼熱処理を行うことにより酸化物超電導材料の前駆体としての仮焼膜を形成し、この仮焼膜同士を貼り合わせた状態で本焼熱処理を行うことにより2つの超電導線材の各超電導膜の間に酸化物超電導材料の超電導層を接合層として形成させて超電導膜面同士を接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許4810268号公報
【特許文献2】特開2011−228065号公報
【特許文献3】特開2013−235699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記したMOD法を利用して超電導線材を接合する接合技術を用いた場合、接合層となる超電導層が適切に形成されないことがあったため、超電導線材を接合する工程における歩留りが良くないという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、接合層となる超電導層を安定して形成させることにより、超電導線材を接合する工程における歩留りを従来よりも向上させることができる超電導線材の製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る超電導線材の製造方法は、
酸化物超電導膜を有する超電導線材の端部同士を接合面として接合して長尺化された超電導線材を製造する超電導線材の製造方法であって、
前記接合面の前記酸化物超電導膜上に、酸化物超電導材料の微結晶を設ける工程と、
前記微結晶が設けられた前記接合面同士を重ね合わせて貼り合わせる貼り合わせ工程と、
重ね合わされた前記接合面を加熱して前記微結晶を成長させることにより、前記酸化物超電導材料の超電導層を接合層として形成して、前記接合面同士を接合する加熱接合工程とを備えている超電導線材の製造方法である。
【0012】
本発明の一態様に係る超電導線材接合用部材は、
酸化物超電導膜を有する2本の超電導線材の端部に位置する酸化物超電導膜同士を跨ぐように貼り付けられた状態で加熱されることにより、前記2本の超電導線材を接合して長尺化させる超電導線材接合用部材であって、
前記酸化物超電導膜に貼り付けられる接合面上に、酸化物超電導材料の微結晶が設けられている超電導線材接合用部材である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接合層となる超電導層を安定して形成させることにより、超電導線材を接合する工程における歩留りを従来よりも向上させることができる超電導線材の製造技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る超電導線材を模式的に示す縦断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る超電導線材の製造方法の工程を示す図である。
図3】BaCOの分解曲線を示す図である。
図4】YBCOの相図である。
図5】熱処理パターンと熱処理後の接合面のSEM画像を示す図である。
図6】熱処理生成物の2D−XRDによる回折ピークのパターンおよび強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0016】
(1)本発明の一態様に係る超電導線材の製造方法は、
酸化物超電導膜を有する超電導線材の端部同士を接合面として接合して長尺化された超電導線材を製造する超電導線材の製造方法であって、
前記接合面の前記酸化物超電導膜上に、酸化物超電導材料の微結晶を設ける工程と、
前記微結晶が設けられた前記接合面同士を重ね合わせて貼り合わせる貼り合わせ工程と、
重ね合わされた前記接合面を加熱して前記微結晶を成長させることにより、前記酸化物超電導材料の超電導層を接合層として形成して、前記接合面同士を接合する加熱接合工程とを備えている超電導線材の製造方法である。
【0017】
(2)また、上記の超電導線材の製造方法において、
前記微結晶を設ける工程は、前記接合面の前記酸化物超電導膜上に、酸化物超電導材料の微結晶を生成させる微結晶生成工程であることが好ましい。
【0018】
(3)また、上記した(2)の態様の超電導線材の製造方法において、
前記微結晶生成工程は、
前記接合面の前記酸化物超電導膜上に、前記酸化物超電導材料を構成する金属の有機化合物を含む溶液を塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜を熱処理することにより熱分解して、前記酸化物超電導材料の前駆体を仮焼膜として形成する仮焼熱処理工程と、
前記仮焼膜を、1〜100%の酸素濃度雰囲気下、前記仮焼膜の分解温度以上の温度で熱処理することにより、前記仮焼膜を分解して前記酸化物超電導材料の微結晶を生成させる仮焼膜分解工程と
を備えていることが好ましい。
【0019】
本発明者は、上記したMOD法を利用して超電導線材を接合する接合技術を用いても接合層となる酸化物超電導材料の超電導層が適切に形成されなく、超電導線材を接合する工程において歩留りが良くない原因について検討を行った結果、仮焼熱処理により形成された仮焼膜(酸化物超電導材料の前駆体)中に生成された炭素化合物を本焼熱処理により分解する際に発生するCOが原因であることが分かった。
【0020】
即ち、MOD法を用いて酸化物超電導材料の超電導層を接合層として形成する場合、一般的に、仮焼熱処理により形成された仮焼膜中にBaCOなどの炭素化合物が生成され、この炭素化合物や残留した炭素が本焼熱処理中に分解されることによりCOが発生するが、このとき、従来技術のように、仮焼膜同士を貼り合わせた閉鎖系の雰囲気で本焼熱処理を行うと、炭素化合物の分解により発生するCOが外部に抜けきれない。この結果、本焼熱処理工程における酸化物超電導材料の生成過程においてCO濃度が上昇し酸化物超電導材料の生成が妨げられ、接合面に超電導層が充分に形成されないまま、超電導膜面同士が貼り合わされることになり、抵抗が発生する。
【0021】
そこで、本発明者は、超電導膜面同士を貼り合わせる前に仮焼膜中の炭素化合物を充分に分解、除去しておけば、貼り合わせ後の本焼熱処理においてCO濃度の上昇が発生せず酸化物超電導材料を充分に生成させることができると考え、実験を行った。しかし、この場合には、仮焼膜中の炭素化合物は分解できたものの、その一方で、酸化物超電導材料の結晶が成長してしまい、接合面同士を貼り合わせることができなくなった。
【0022】
このため、本発明者は、仮焼膜の分解に伴い発生するCOを適切に外部に排出すると同時に、酸化物超電導材料の結晶成長を抑制する方法について、さらに実験と検討を重ねた。
【0023】
その結果、仮焼膜を、1〜100%の酸素濃度雰囲気下、仮焼膜の分解温度以上の温度で熱処理した場合には、仮焼膜中の炭素化合物を充分に分解しながらも発生するCOを適切に外部に排出することができるだけでなく、酸化物超電導材料の結晶成長を抑制して微結晶に留めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、この時、CO濃度雰囲気も低濃度であることが好ましい。
【0024】
そして、接合面上に酸化物超電導材料の微結晶を生成させて、接合面同士を貼り合わせることにより、本焼熱処理時、この酸化物超電導材料の微結晶が成長するため、接合面上に酸化物超電導材料の超電導層が安定して形成され、抵抗の発生がない超電導状態で接続することができる。
【0025】
なお、本実施態様において、微結晶生成工程における酸素雰囲気は、一般的な仮焼膜の熱分解における酸素濃度(100ppm:10−4)に比べて、上記したように、1〜100%というより高濃度の酸素雰囲気に設定するが、10〜100%であるとより好ましく、50〜100%であるとさらに好ましい。
【0026】
このような微結晶の生成は、上記したMOD法に限定されず、PLD法や電子ビーム蒸着法などの他の方法を適用した場合であっても同様に微結晶を生成させることができる。
【0027】
(4)また、上記した(3)の態様の超電導線材の製造方法において、
前記金属の有機化合物として、フッ素を含まない有機金属化合物を用いることが好ましい。
【0028】
酸化物超電導材料の微結晶を生成させる際に、フッ素を含む有機金属化合物を有機溶媒に溶解した溶液を用いた場合、このフッ素が接合面の超電導層を溶かしてしまい、溶液の塗膜から良好な結晶性を得ることができないため、抵抗を充分に抑制することができない。フッ素を含まない有機金属化合物を有機溶媒に溶解した溶液を用いた場合には、これらの問題が発生しないため好ましい。
【0029】
(5)また、上記した(1)の態様の超電導線材の製造方法において、
前記微結晶を設ける工程は、
前記酸化物超電導材料の微結晶を含む接合材を予め作製する接合材作製工程と、
予め作製された前記接合材を、前記接合面の前記酸化物超電導膜上に配置する接合材配置工程とを備えていることが好ましい。
【0030】
本発明者がさらに検討を重ねたところ、超電導線材同士を超電導状態で安定して接続するためには、上記したような酸化物超電導膜の表面に微結晶を生成する微結晶生成工程を行うという方法に限定されず、貼り合わせ工程を行う前に酸化物超電導膜の表面に微結晶が設けられていればよいことが分かった。そして、このように酸化物超電導膜上に微結晶を設ける他の方法として、微結晶を含む接合材を別途作製し、この接合材を酸化物超電導膜上に配置するという方法を採用した場合には、超電導線材同士を接続する作業において、微結晶生成工程を設ける必要がなくなり、作業効率の向上を図ることができ好ましいことが分かった。
【0031】
(6)また、上記した(5)の態様の超電導線材の製造方法において、
前記接合材作製工程は、
接合材生成用の基材上に、前記酸化物超電導材料を構成する金属の有機化合物を含む溶液を塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜を熱処理することにより熱分解して、前記酸化物超電導材料の前駆体を仮焼膜として形成する仮焼熱処理工程と、
前記仮焼膜を、1〜100%の酸素濃度雰囲気下、前記仮焼膜の分解温度以上の温度で熱処理することにより、前記仮焼膜を分解して前記酸化物超電導材料の微結晶を生成させる仮焼膜分解工程と、
生成された微結晶を、前記接合材生成用の基材から剥がすことにより前記接合材を作製する剥離工程とを備えていることが好ましい。
【0032】
上記した(5)の態様において用いられる接合材は、MOD法を用いて作製することが好ましい。具体的には、接合材生成用の基材上に塗膜を形成し、この仮焼熱処理工程と仮焼膜分解工程とを施すことにより微結晶を生成し、生成された微結晶を基材から剥がすことにより微結晶を含んだ接合材を作製することができる。
【0033】
(7)また、上記した(6)の態様の超電導線材の製造方法において、
前記金属の有機化合物として、フッ素を含まない有機金属化合物を用いることが好ましい。
【0034】
MOD法を用いて接合材を作製する場合には、上記した超電導線材の酸化物超電導膜上に微結晶を直接生成する態様と同様に、フッ素を含まない有機金属化合物を有機溶媒に溶解した溶液を用いることが好ましい。
【0035】
(8)上記した(1)〜(7)の態様において、
前記接合層を構成する酸化物超電導材料は、前記超電導線材の前記酸化物超電導膜を構成する酸化物超電導材料と同じ温度、もしくは、より低い温度で結晶が成長する酸化物超電導材料であることが好ましい。
【0036】
このように接合層を、酸化物超電導膜を構成する酸化物超電導材料と同じ温度、もしくは、より低い温度で結晶が成長する酸化物超電導材料で形成することにより、酸化物超電導薄膜の構造を破壊することなく接合層と酸化物超電導膜との密着性を向上させることができ、超電導線材をより適切に接合させることができる。
【0037】
(9)上記した(1)〜(8)の態様において、
前記接合層には、Ag、Au、Ptの何れかの粒子を含有させることが好ましい。
【0038】
上記した(1)〜(8)の態様に記載の酸化物超電導材料からなる接合層は、超電導線材同士を超電導状態で接合できる一方で、接合の強度を十分に確保できない場合があるという問題を有している。そこで、本態様においては、接合層にAg、Au、Ptの何れかの粒子を含有させて、これらの金属材料で接合層と酸化物超電導膜とを接合させている。これにより接合の強度を補助して接合部分が剥がれることを確実に防止することができる。このとき、接合層と前記酸化物超電導膜との界面に、上記したAg、Au、Ptの何れかの粒子を配置することがより好ましい。
【0039】
(10)上記した(1)〜(9)の態様において、
前記加熱接合工程においては、前記微結晶の一部が液相を経由して成長するように設定することが好ましい。
【0040】
(11)上記した(10)の態様において、
前記加熱接合工程においては、前記微結晶の30質量%以下が液相を経由して成長するように設定することが好ましい。
【0041】
酸化物超電導膜上に設けられた微結晶は、所定の温度で加熱処理を施すことにより固相を維持したままで成長させることができるが、微結晶の一部、好ましくは30質量%以下の微結晶が液相を一度経由するような条件の下で加熱処理を施すことにより、より短時間で微結晶を成長させて接合層を形成することができる。
【0042】
(12)上記した(1)〜(11)の態様において、
前記微結晶を設ける工程において、前記接合面の前記酸化物超電導膜上に点在するように前記微結晶を設けることが好ましい。
【0043】
(13)上記した(12)の態様において、
前記接合面の面積の10%以上の空隙が形成されるように、前記微結晶を設けることが好ましい。
【0044】
一般に酸化物超電導材料を生成すると、c軸配向の超電導材料やa軸配向の超電導材料などが生成され、これらの内のc軸配向の超電導材料に酸素を導入することにより超電導状態で電流を流すことができるようになる。しかし、接合層は、超電導線材の酸化物超電導膜に挟まれているため、接合層に含まれるc軸配向の超電導材料に酸素を十分に導入することが難しく、長時間の酸素導入処理を行う必要がある。
【0045】
本態様においては、酸化物超電導膜上に点在するように微結晶を設けることにより接合層の周囲に空隙が形成されるようにしている。これにより、接合層に酸素を導入するためのガス導入の経路が形成されるため、接合層に含まれるc軸配向の超電導材料に酸素を容易に導入することができ、酸素導入処理の時間を短縮させることができる。
【0046】
そして、酸化物超電導膜上に点在するように微結晶を設ける場合には、より効率的に酸素を導入するために、接合面の面積の10%以上の空隙が形成されるようにすることが好ましい。
【0047】
(14)上記した(1)〜(13)の態様において、
前記接合層における非c軸配向の超電導材料の占める割合は、c軸配向の超電導材料および非c軸配向の超電導材料の合計に対して10〜95体積%であることが好ましい。
【0048】
上記したように、接合層に含まれる酸化物超電導材料の内、c軸配向の超電導材料に酸素を導入することにより、超電導状態で電流を流すことができるようになる。しかし、接合層がc軸配向の超電導材料のみで構成されていると、密になりすぎて酸素の拡散経路が無くなるので酸素を導入し難くなる。このため、接合層には、c軸配向の超電導材料だけでなく、非c軸配向の超電導材料が適度な割合(10〜95体積%、好ましくは10〜90体積%)で含まれていることが好ましい。これにより、非c軸配向の結晶とc軸配向の結晶の粒間が酸素拡散経路となり、適切に酸素を導入させることができる。
【0049】
なお、本態様において、非c軸配向の超電導材料とは、a軸配向の超電導材料、超電導材料とは異なる相の化合物などのc軸配向の超電導材料以外の材料を指す。また、接合層中のc軸配向の超電導材料および非c軸配向の超電導材料の体積の割合は、X線回折によるピーク値に基づいて算出することができる。
【0050】
(15)上記した(1)〜(14)の態様において、
前記接合層と前記酸化物超電導膜との界面における前記c軸配向超電導材料の面積が、前記超電導線材の前記超電導層の断面積の10倍以上であることが好ましい。
【0051】
上記したように、接合層の内、酸素が導入されたc軸配向の超電導材料が超電導状態で電流を流すことができる部分となる。このため、接合層と酸化物超電導膜との界面におけるc軸配向の超電導材料の面積が十分でないと、接続された超電導線材の間で十分なIcを確保することができない。そして、酸化物超電導体の臨界電流密度はab面とc軸方向で異なり、c軸方向の臨界電流密度はab面に比べて1/10となる。このため、本態様においては、接合層と酸化物超電導膜との界面におけるc軸配向の超電導材料の面積を、超電導線材の超電導層の断面積の10倍以上にし、接合対象である超電導線材と同等以上のIcが接合層において確保できるようにしている。
【0052】
(16)上記した(1)〜(15)の態様において、
前記接合層を形成する前記酸化物超電導材料は、REBCO系の酸化物超電導材料であることが好ましい。
【0053】
(17)上記した(16)の態様において、
前記接合層として、イットリア安定化ジルコニアを含む接合層を形成することが好ましい。
【0054】
本態様においては、イットリア安定化ジルコニアのナノ粉末を接合層を作製する際の溶液に添加することにより、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)が含まれる接合層を形成している。このYSZは、酸化物超電導材料との反応性が低く、かつ、酸素透過性に優れているため、このようなYSZが含まれていると、c軸配向の超電導材料に適切に酸素を導入することができる。
【0055】
(18)本発明の一態様に係る超電導線材接合用部材は、
酸化物超電導膜を有する2本の超電導線材の端部に位置する酸化物超電導膜同士を跨ぐように貼り付けられた状態で加熱されることにより、前記2本の超電導線材を接合して長尺化させる超電導線材接合用部材であって、
前記酸化物超電導膜に貼り付けられる接合面上に、酸化物超電導材料の微結晶が設けられている超電導線材接合用部材である。
【0056】
(19)また、上記の(18)の態様の超電導線材接合用部材において、
前記微結晶は、
前記接合面上に、酸化物超電導材料を構成する金属の有機化合物を含む溶液を塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜を熱処理することにより熱分解して、前記酸化物超電導材料の前駆体を仮焼膜として形成する仮焼熱処理工程と、
前記仮焼膜を、1〜100%の酸素濃度雰囲気下、前記仮焼膜の分解温度以上の温度で熱処理することにより、前記仮焼膜を分解して前記酸化物超電導材料の微結晶を生成させる仮焼膜分解工程と
を経て作製されていることが好ましい。
【0057】
2本の超電導線材を接合して長尺化する方法としては、前記した超電導線材の超電導層間に接合層を形成させる方法の他に、2本の超電導線材の端部に位置する酸化物超電導膜同士を跨ぐように短尺の超電導接合用部材を貼り付けて加熱接合する方法もある。
【0058】
具体的には、上記と同様に、炭素化合物が充分に分解、除去された酸化物超電導材料の微結晶が接合面に予め生成された短尺の超電導接合用部材を用いて、2本の超電導線材の端部に位置する酸化物超電導膜同士を跨ぐように、超電導接合用部材の接合面を貼り付ける。その後、超電導接合用部材と2本の超電導線材とを加熱接合することにより、超電導接合用部材の接合面の微結晶が成長して酸化物超電導材料の超電導層が形成されて、抵抗の発生がない超電導状態で2本の超電導線材を接続して長尺化することができる。なお、このような超電導接合用部材は、MOD法により作製されることが好ましいが、MOD法以外の方法を用いて作製してもよい。
【0059】
(20)本発明の一態様に係る接合材は、
上記した(5)の態様の超電導線材の製造方法において用いられる前記酸化物超電導材料の微結晶を含む接合材である。
【0060】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明を実施形態に基づき、図面を参照して説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0061】
1.本実施形態に係る超電導線材
図1は本実施形態に係る超電導線材を模式的に示す縦断面図であり、図1に示すように、本実施形態においては、2本の超電導線材11、21の酸化物超電導膜14、24が接合層31を介して貼り合わされて、長尺化された超電導線材1が製造される。具体的には、超電導線材11の酸化物超電導膜14と、超電導線材21の酸化物超電導膜24とを対向させて重ね合わせた接合面に酸化物超電導材料の超電導層が接合層31として形成されている。なお、図1中の12、22は金属基板であり、13、23は中間層である。
【0062】
このように、酸化物超電導材料の超電導層である接合層31を介して、2本の超電導線材11、21が接合させているため、保護層や安定化層などを介して接合した場合と異なり、接合部における抵抗の発生が充分に抑制された長尺の超電導線材1を製造することができる。
【0063】
そして、本実施形態においては、接合層31における酸化物超電導材料の超電導層の形成方法が、従来のMOD法を利用する方法とは異なっている。
【0064】
2.本実施形態に係る超電導線材の製造方法
図2は本実施形態に係る超電導線材の製造方法の工程を示す図である。本実施形態においては、酸化物超電導膜上に酸化物超電導材料の微結晶を設ける工程として、酸化物超電導材料の微結晶を生成させる微結晶生成工程を有している。
【0065】
なお、ここではMOD法を例に挙げて説明する。図2に示すように、本実施形態に係る超電導線材の製造方法は、微結晶生成工程として塗膜形成工程、仮焼熱処理工程、仮焼膜分解工程を行った後、貼り合わせ工程を行う。そして、加熱接合工程としての本焼熱処理工程を経て、図1に示す接合層31に酸化物超電導材料の超電導層を形成することにより、接合層31を介して2本の超電導線材11、21の酸化物超電導膜14、24同士を接合して長尺化された超電導線材1を製造する。以下、それぞれの工程を順に説明する。
【0066】
(1)微結晶生成工程
本実施形態においては、従来の方法とは異なり、仮焼膜が形成された接合層同士を貼り合わせる工程に先立って、微結晶生成工程を設けている。そして、この微結晶生成工程においては、以下に示すように、塗膜形成工程、仮焼熱処理工程、仮焼膜分解工程を経て微結晶を生成させている。
【0067】
(a)塗膜形成工程
最初に、接合面となる2本の超電導線材11、21の長尺方向の両端部の酸化物超電導膜14、24上に、酸化物超電導材料を構成する金属の有機化合物を含む溶液を塗布した後、乾燥させて塗膜を形成する。
【0068】
このような溶液として、具体的には、MOD法における原料溶液、即ち、REBCO(RE:YやGdなどの希土類元素)系の酸化物超電導材料を構成する金属、即ち、RE、Ba、Cuの有機化合物を有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。
【0069】
具体的な塗布方法としては、例えば、ダイコート方式やインクジェット方式などを挙げることができるが、それ以外の塗布方法を採用してもよい。また、塗布に際しては、接合面となる酸化物超電導膜14、24上の全面に塗布するが、塗布厚みは適宜設定する。
【0070】
(b)仮焼熱処理工程
次に、乾燥した塗膜を熱処理することにより熱分解して、酸化物超電導材料の前駆体を仮焼膜として形成する。
【0071】
具体的には、乾燥した塗膜に対して、有機金属化合物の分解温度以上、かつ酸化物超電導材料の生成温度より低い温度で加熱処理(仮焼熱処理)する。これにより、塗膜の有機金属化合物が熱分解して、酸化物超電導材料の前駆体として、Baの炭素化合物であるBaCO、およびYなどの希土類元素酸化物、CuOから構成される膜が仮焼膜として形成される。
【0072】
このとき、具体的な加熱温度としては500℃程度が好ましく、昇温速度としては10〜20℃/分程度が好ましい。また、処理雰囲気としては、露点が15〜20℃、酸素濃度が20%以上の雰囲気が好ましい。そして、加熱処理時間は30分程度が好ましい。
【0073】
(c)仮焼膜分解工程
上記したように、酸化物超電導材料の前駆体である仮焼膜にはBaCOなどの炭素化合物が含まれており、この前駆体から酸化物超電導材料を生成させるためには、仮焼膜に含まれる炭素化合物を分解させる必要がある。
【0074】
しかし、従来の方法では、仮焼膜が形成された接合層同士を直ちに貼り合わせて、本焼熱処理を行っていたため、炭素化合物の分解が閉鎖系の雰囲気で行われることになり、分解により発生したCOを外部に充分に排出されない状態で酸化物超電導材料が生成されていた。
【0075】
このため、酸化物超電導材料の生成過程においてCO濃度が上昇して、酸化物超電導材料の生成が妨げられていた。即ち、図3に示すように、CO濃度が高い雰囲気下では、加熱温度を高く設定してもBaCOが分解し難くなる。なお、図3は、立木昌、藤田敏三編「高温超電導の科学」(裳華房、2001年発行)の387ページに示された「アルカリ土類塩の炭酸基の解離曲線」より本発明に関係するBaCOの解離曲線を抜き出して作成した図である。
【0076】
そこで、本実施形態においては、仮焼膜が形成された接合層同士の貼り合わせに先立って微結晶生成工程を設けて、貼り合わせの前に開放系の雰囲気で炭素化合物を充分に分解している。このように、貼り合わせ前にCOの排出を伴う工程を完了しておくことにより、本焼熱処理時、酸化物超電導材料の生成が妨げられず、接合層31に充分に酸化物超電導材料の超電導層を形成させることができる。
【0077】
しかしながら、このとき、酸素濃度が従来のように100ppm程度であると、酸化物超電導材料の結晶が成長し過ぎて粗大化してしまい、貼り合わせ工程および本焼熱処理工程を経ても、仮焼膜同士が接合しなくなる。
【0078】
そこで、本微結晶生成工程においては、図4の(2)の矢印で示すような一般的なBaCOの分解において設定される酸素濃度(100ppm)よりも高い酸素濃度、即ち、酸素濃度1%から、図中の(1)の矢印で示す酸素濃度100%(酸素分圧1atm)までの高酸素濃度の雰囲気下で加熱を行っている。なお、図4は、J.Am.Ceram.Soc.,89[3]914−920(2006)のFig.8に示されたYBCOの相図であり、一部加筆している。
【0079】
これにより、仮焼膜中の炭素化合物を分解すると共に、酸化物超電導材料の微結晶を充分に形成させることができる。
【0080】
なお、本微結晶生成工程における加熱温度としては、650〜800℃が好ましく、650〜700℃であるとより好ましく、加熱時間は10〜120分程度が好ましい。
【0081】
(2)貼り合わせ工程
次に、酸化物超電導材料の微結晶が生成された接合面同士を重ね合わせて押圧治具等で固定し、さらに、接合面同士を1MPa以上の圧力で押し付けることにより、貼り合わせる。
【0082】
(3)加熱接合工程
次に、接合面同士を接合する加熱接合工程として、本焼熱処理工程を行う。この本焼熱処理工程では、酸化物超電導材料の生成温度以上の温度で加熱することにより接合面同士を接合する。具体的には、図5に示すように、低酸素濃度(例えば、酸素濃度100ppm)のAr雰囲気下において、100℃/分程度の昇温速度で800℃程度まで昇温し、その後、同程度の降温速度で常温まで降温する。
【0083】
これにより、前工程において生成された酸化物超電導材料の微結晶が、貼り合わされた互いの接合層31を跨ぐ形で粗大化して成長していく。この結果、接合層31に酸化物超電導材料の超電導層が形成されて、酸化物超電導膜14と24とが接合層31を介して超電導接続された状態で接合される。
【0084】
以上のように、本実施形態に係る製造方法によれば、貼り合わせ工程の前に微結晶生成工程を行って、COの排出を伴うBaCOの分解工程を完了させると共に、酸化物超電導材料の微結晶を生成させているため、その後の本焼熱処理工程において、接合層31に酸化物超電導材料の超電導層を充分に形成させて、超電導線材同士を接合し、長尺化された超電導線材を製造することができる。
【0085】
なお、本実施形態において、接合層31を形成する原料溶液としては、酸化物超電導材料を構成する金属の有機化合物、例えば、アセチルアセトン金属錯体などのフッ素を含まない有機金属化合物をアルコールなどの有機溶媒に溶解させた溶液が好ましい。
【0086】
そして、このとき接合面に形成される超電導層における酸化物超電導材料は、酸化物超電導膜14、24の結晶構造を破壊することなく接合層を結晶化させることを考慮すると、酸化物超電導膜14、24を構成する酸化物超電導材料と同じ温度、もしくは、より低い温度で結晶が成長する酸化物超電導材料であることが好ましい。
【0087】
また、上記の実施の形態においてはMOD法を例に挙げて説明したが、塗布熱分解法としてのMOD法以外に、気相法などを採用することもできる。具体的な気相法としては、パルスレーザ蒸着(PLD:Pulsed Laser Deposition)法や電子ビーム蒸着法などの物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)法、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などの化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法などを好ましく用いることができる。
【0088】
さらに、上記の実施の形態においては、超電導線材の超電導層間に接合層を形成させて長尺化を図っているが、別途、接合面に酸化物超電導材料の微結晶が生成された短尺の超電導接合用部材を作製し、これを2本の超電導線材の端部に位置する酸化物超電導薄膜同士を跨ぐように貼り付けて加熱接合することにより、超電導線材を長尺化させてもよい。
【0089】
3.本発明の他の実施形態
(1)微結晶を設ける工程の他の形態
上記した実施形態では、酸化物超電導膜上に微結晶を設ける工程として、酸化物超電導材料の微結晶を生成させる微結晶生成工程を行っているが、本発明はこれに限定されない。例えば、酸化物超電導材料の微結晶を含む接合材を別の工程で予め作製し、この接合材を酸化物超電導膜上に配置してもよい。このような場合であっても、接合面上に酸化物超電導材料の超電導層を安定して形成することができ、抵抗の発生がない超電導状態で超電導線材同士を接続することができる。
【0090】
上記した微結晶を含む接合材は、例えば、接合材作製用の基材を別途準備して、この基材上に溶液を塗布して塗膜を形成した後、上記した実施形態と同様に、仮焼熱処理工程と仮焼膜分解工程を行って微結晶を生成させ、生成された微結晶を基材から剥がすことにより容易に作製することができる。
【0091】
また、上記した微結晶を含む接合材を作製する方法の別の実施形態としては、電子ビーム蒸着を用いた方法が挙げられる。例えば、接合材作製用の基材を別途準備して、この基材上に電子ビーム蒸着を用いて室温で原料を蒸着させた後、1〜100%の酸素雰囲気で800℃まで昇温することで微結晶を生成させることができる。そして、生成された微結晶を基材から剥がすことにより、微結晶を含む接合材を容易に作製することができる。
【0092】
(2)接合補助材の配置
上記した実施形態においては、酸化物超電導材料からなる接合層のみで超電導線材同士を接合しているが、この接合を補強するという観点から、接合層にAg、Au、Ptの何れかを含む接合補助材を配置することが好ましい。
【0093】
このような接合補助材は、例えば、MOD法を用いて酸化物超電導膜上に微結晶を直接生成する場合には、微結晶を生成する際に用いるMOD法の原料溶液にAg、Au、Ptの粒体を添加することにより容易に形成することができる。
【0094】
また、微結晶を含む接合材を別途作製する場合や、MOD法以外の方法で微結晶を生成する場合には、Ag、Au、Ptの粒子を、接合材と酸化物超電導膜との間に配置させてから加熱接合工程を行うことにより、接合層と酸化物超電導膜との界面にAg、Au、Ptの何れかを含む接合補助材を形成することができる。
【0095】
(3)加熱接合工程の条件
また、接合面同士を接合する加熱接合工程は、微結晶を一時的に溶融させて、微結晶の一部、好ましくは30質量%以下の微結晶が液相を経由してから成長するような条件に設定することが好ましい。このように液相を経由してから微結晶を成長させることにより、短時間で微結晶を成長させて接合層を形成することができる。
【0096】
液相を経由してから微結晶を成長させるには、加熱接合工程における加熱温度や加熱雰囲気を調整することが好ましい。例えば、加熱接合工程における酸素濃度を精度良く制御できる場合には、酸素濃度を数ppmに設定した状態で昇温させて微結晶を溶融させて液相にした後、酸素濃度を1000ppm程度に変化させて微結晶を一気に粗大化・配向結晶化させる。これにより、微結晶の成長を短時間で行なうことができる。なお、微結晶を溶融させる際の条件は、酸化物超電導材料の種類、組成などに応じて適宜適切な条件に設定される。
【0097】
(4)空隙の形成
また、接合層に含まれるc軸配向の超電導材料に十分な量の酸素を導入するという観点から、微結晶を設ける工程において、酸化物超電導膜上に点在するように微結晶を設けることが好ましい。
【0098】
例えば、上記した実施形態のように、MOD法を用いて酸化物超電導膜上に微結晶を直接生成する場合には、MOD法の原料溶液を酸化物超電導膜上にスプレーなどで吹き付けることにより、微結晶を点在させることができる。また、微結晶を含む接合材を別途作製する場合には、粒状の接合材を酸化物超電導膜上に点在するように設けることが好ましい。
【0099】
なお、c軸配向の超電導材料に酸素をより適切に導入するという観点から、接合面の面積の10%以上の空隙が形成されるように微結晶を設けることが好ましい。
【0100】
(5)c軸配向の超電導材料に対する非c軸配向の超電導材料の割合
また、酸素が導入されたc軸配向の超電導材料を多く含んだ接合層を形成するためには、接合層における非c軸配向の超電導材料の割合を、c軸配向の超電導材料および非c軸配向の超電導材料の合計に対して10〜95体積%にすることが好ましい。このような割合で接合層に非c軸配向の超電導材料が形成されている場合、非c軸配向の結晶とc軸配向の結晶の粒間が酸素拡散経路となるため、c軸配向の超電導材料に十分な酸素を供給して、酸素が導入されたc軸配向の超電導材料を多く形成することができる。
【0101】
(6)c軸配向の超電導材料の面積
また、酸化物超電導体の臨界電流密度はab面とc軸方向で異なり、c軸方向の臨界電流密度はab面に比べて1/10となるので、接合層と酸化物超電導膜との界面におけるc軸配向超電導材料の面積は、超電導線材の超電導層の断面積の10倍以上であることが必要である。これにより、接合層が超電導線材と同等以上の臨界電流値を得ることができる。
【0102】
(7)非c軸配向の超電導材料
酸化物超電導材料を有する接合層を生成する際に、イットリア安定化ジルコニアのナノ粉末を接合層を作製する際の溶液に添加することにより、接合層にイットリア安定化ジルコニアを含ませることができる。このイットリア安定化ジルコニアは、超電導材料との反応性が低く、かつ、酸素透過性を有しているため、c軸配向の超電導材料に適切に酸素を導入することができる。
【0103】
[実験例]
次に実験例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
【0104】
1.第1の実験
第1の実験として、下記のように、酸化物超電導膜上に酸化物超電導材料の微結晶を生成させ、超電導線材を貼り合わせた後、微結晶を成長させて接合層を形成して2本の超電導線材を接合することにより長尺化された超電導線材を作製し、接合層に酸化物超電導材料の超電導層が形成されているかを調べた。
【0105】
最初に、厚み150μmのNi/Cu/SUSからなるクラッドタイプ配向金属基板の上に厚み600nmの中間層が形成された金属基板を用意し、この金属基板上に厚み3μmのYBCO超電導膜を形成することにより、幅4mm、長さ100mmの超電導線材を作製した。
【0106】
次に、Y:Ba:Cuのモル比が1:2:3であって、Y+Ba+Cuの合計イオン濃度が1mol/Lの、Y、Ba、Cuのアセチルアセトン金属錯体を含むアルコール溶液を用意し、各超電導線材の両端部におけるYBCO超電導膜の表面に、溶液を約25μmの厚みで塗布し、大気中、150℃程度の温度で10分程度乾燥し塗膜を形成させた(塗布面積:120mm)。
【0107】
その後、塗膜が形成された超電導膜を露点が15℃〜20℃、酸素濃度が20%の雰囲気下に置き、2.5℃/分の昇温速度で500℃まで昇温することにより仮焼膜を形成した。
【0108】
次に、形成した仮焼膜に対して、図5の熱処理パターンで示すような2種類の熱処理を順に行った。具体的には、先ず、加熱雰囲気を酸素濃度100%(酸素分圧1atm)の高酸素雰囲気に設定し、100℃/分の昇温速度で800℃まで8分間昇温した後、同程度の降温速度で常温まで8分間降温させた(微結晶生成工程)。その後、加熱雰囲気を酸素濃度100ppmに切替えて、微結晶生成工程と同様の昇温、降温条件で16分間の熱処理を行った(本焼熱処理工程)。
【0109】
そして、微結晶生成工程を行った後の仮焼膜と、本焼熱処理工程を行った後の接合層に対して、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いた表面観察と、2D−XRD(X−ray Diffraction)を用いた解析とを行った。SEMにより撮影した画像を図5の左上と右下に、2D−XRDによる解析結果を図6に示す。
【0110】
図5左上のSEM画像より、微結晶生成工程後では接合層の表面に、c軸配向したYBCOとは異なる表面モフォロジーを有する層が生成されていることが分かる。一方、図5の右下のSEM画像より、本焼熱処理工程後では接合層の表面に平均粒径10μm以上の粗大化した結晶が生成されていることが分かる。
【0111】
また、2D−XRDで解析した結果、微結晶生成工程後の接合層では、図6(a)の写真で示すように、BaCOが分解されてYBCO化合物が形成されていると共に、無配向の微結晶を示すYBaCu7−x(103)のリング状のパターンが生じていることが分かる。一方、本焼熱処理工程後の接合層では、図6(b)の写真で示すように、リング状のパターンが消失し、かつYBaCu7−x(002、003、005、006)のピーク強度が増加していることが分かる。
【0112】
上記したSEMによる観察と2D−XRDによる解析の結果、微結晶生成工程により、仮焼膜中のBaCOが分解されて無配向のYBCO微結晶が生成され、本焼熱処理工程により、無配向の微結晶が粗大化して配向したYBCO結晶が生成されて、接合層に酸化物超電導材料の超電導層が形成されていることが確認できた。
【0113】
2.第2の実験
次に、上記した実施形態に係る製造方法を含む種々の方法を用いて2本の超電導線材を接合して長尺化された超電導線材を作製し、作製後の超電導線材の性能を評価した。
【0114】
(1)実験例1〜実験例6
(a)実験例1
上記した第1の実験と同様に、酸化物超電導膜上に微結晶を生成させ、生成された微結晶から接合層を形成することにより、2本の超電導線材(幅4mm、長さ100mm)を接合して長尺の超電導線材を作製した。なお、接合層を形成させる際の条件は上記した第1の実験と同じ条件とし、治具を用いて接合層同士を貼りあわせて長尺化された超電導線材を作製した。
【0115】
(b)実験例2
微結晶生成工程における加熱雰囲気を酸素濃度1%にしたことを除いて、実験例1と同じ条件で2本の超電導線材を接合し、長尺の超電導線材を作製した。
【0116】
(c)実験例3
実験例1、2のような微結晶生成工程を行なわずに、仮焼熱処理後の仮焼膜同士を貼り合わせて本焼熱処理を行うことにより2本の超電導線材を接合し、長尺の超電導線材を作製した。なお、他の条件は実験例1、2と同様に設定した。
【0117】
(d)実験例4
実験例1〜3で用いた超電導線材と同じ超電導線材をAgによる拡散接合で接合し、長尺の超電導線材を作製した。
【0118】
(e)実験例5
実験例4と同様に、超電導線材にAg保護層とCu安定化層を設け、Cu安定化層同士をはんだを用いて接合し、長尺の超電導線材を作製した。
【0119】
(f)実験例6
予め作製した超電導材料の微結晶を含む接合材を2本の超電導線材の超電導層の間に配置した後、接合面を加熱して微結晶を成長させることにより接合面同士を接合して長尺の超電導線材を作製した。なお、他の条件は実験例1と同じ条件に設定した。
【0120】
(2)評価
それぞれの実験例について、2本の超電導線材の接合部分における抵抗率(接合界面の抵抗率)と臨界電流値(I)を測定した。なお、測定は、液体窒素温度(77K)における4端子法を用いて行った。
【0121】
(3)評価結果
上記した評価の結果を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
表1より、実験例1〜実験例3、実験例6の何れにおいても、接合界面における抵抗率が0nΩであり、かつ、接合層における臨界電流値が、超電導線材の酸化物超電導膜と同様の200Aであった。このことから、実験例1〜実験例3のように、MOD法を用いて接合層として超電導層を形成した場合や実験例6のように超電導材料の微結晶を含む接合材を用いて接合した場合には、超電導線材を超電導状態で接合できることが確認できた。
【0124】
3.第3の実験
次に、上記した実験例1〜実験例3、実験例6に記載のそれぞれの方法で、長尺化された超電導線材を20本作製して、各方法における歩留まりを評価した。
【0125】
具体的には、作製後の各超電導線材のIcを第2の実験と同じ条件で測定し、測定されたIcが10Aを下回った超電導線材の本数を数え、歩留まり(%)を求めた。結果を表2に示す。
【0126】
【表2】
【0127】
表2より、実験例1では90%、実験例2では90%、実験例6では90%という高い歩留まりを得ることができた一方で、実験例3では歩留まりが50%に留まった。このことから、実験例1および実験例2のように、貼り合わせ前の仮焼膜をO濃度1〜100%という高酸素雰囲気下で加熱する微結晶生成工程を行ったり、実験例6のように、予め準備した微結晶を含む接合材を用いたりすることにより、酸化物超電導材料の超電導層を接合層として安定して形成できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、複数の超電導線材を超電導状態で安定して接合させて、長尺の超電導線材を高い歩留りで製造することを可能にするものであり、永久電流モードで使用される超電導ケーブルや超電導コイルなどの製造効率の向上などに寄与することができる。
【符号の説明】
【0129】
1 長尺化された超電導線材
11、21 超電導線材
12、22 金属基板
13、23 中間層
14、24 酸化物超電導膜
31 接合層
図1
図2
図3
図4
図5
図6