特許第6804054号(P6804054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6804054
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】乗用車用空気入りラジアルタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20201214BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20201214BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20201214BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20201214BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   B60C11/00 D
   B60C1/00 A
   B60C11/03 Z
   B60C11/00 Z
   B60C11/00 B
   C08L9/00
   C08K3/36
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2020-82030(P2020-82030)
(22)【出願日】2020年5月7日
【審査請求日】2020年5月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】富崎 由佳理
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−051896(JP,A)
【文献】 特開2019−093830(JP,A)
【文献】 特開2020−006871(JP,A)
【文献】 特開2019−099062(JP,A)
【文献】 特開2019−131756(JP,A)
【文献】 特開2019−116574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00−19/12
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部間をトロイダル状に跨るラジアル配列コードのカーカスと、前記カーカスのタイヤ径方向外側に設けられたトレッドとを備える乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、
前記トレッドは、
正規リムに組み込み、内圧を正規内圧とした際のタイヤの断面幅をWt(mm)、外径をDt(mm)としたとき、1963.4≦(Dt×π/4)/Wt≦2827.4を満たしており、
トレッド踏面に、少なくとも1本の前記トレッドの周方向に延びる主溝を有すると共に、
前記トレッド踏面におけるランド/シー比が、55%超、85%未満であり、
前記トレッドを形成するゴム組成物は、周波数10Hz、初期歪2%、動歪率1%の条件下で測定された損失正接(tanδ)において、
|20℃tanδ−50℃tanδ|が、0.01以上、0.15未満であると共に、
|5℃tanδ−20℃tanδ|が、0.15超、0.70未満である
ことを特徴とする乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記|20℃tanδ−50℃tanδ|が、0.08超、0.12未満であることを特徴とする請求項1に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記|5℃tanδ−20℃tanδ|が、0.30超、0.40未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記トレッドが、3本以上の前記主溝と、一対の接地端とによって、タイヤ軸方向に4つ以上の領域に区画されており、
前記4つ以上の領域の各々の領域において、タイヤ周方向の単位長さ当たりの平均踏面面積の差異が、15%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記トレッドが、トレッドパターンのタイヤ軸方向の中央部を通る中心線を挟んでタイヤ周方向に沿って連続して延びる1対のショルダー主溝によって、センター陸部領域と両ショルダー陸部領域とに区画されており、
前記ショルダー主溝は、溝幅が4mm超、20mm未満で、かつ、溝幅中心がトレッド接地端から接地幅の25%幅位置よりも前記センター側にあり、
前記センター陸部領域は、タイヤ接地域の全陸部の40%以上の面積を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項6】
トレッドは、前記トレッド踏面を構成するキャップゴム層と、前記キャップゴム層の内側に位置するベースゴム層とから構成されており、
前記キャップゴム層の硬度が、前記ベースゴム層の硬度より高く、JIS A硬度で45超、75未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項7】
前記トレッドを形成するゴム組成物が、
ゴム成分としてジエン系ゴムを35質量%以上含有しており、
前記ゴム成分100質量部に対し、BET比表面積が140m/g超、250m/g未満のシリカを、35質量部以上含有していることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項8】
前記センター陸部領域に、陸部を横断する方向に延びる横溝および/または横サイプが設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車用空気入りラジアルタイヤ、詳しくは、低温での乗り心地および高速走行時の操縦安定性を両立させた乗用車用空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車の重量化、高速化の進展に伴い、乗用車用空気入りタイヤとして、ラジアルタイヤ(以下、単に「タイヤ」ともいう)が採用されることが多くなっている。
【0003】
このラジアルタイヤは、一般的に、一対のビード部間をトロイダル状に跨るラジアル配列コードのカーカスと、カーカスのタイヤ径方向外側に設けられたトレッドとを備えており、燃費性能や運転時における車内の快適性等を考慮して成形されている。
【0004】
このようなラジアルタイヤにおいて、タイヤが装着された乗用車における快適な乗り心地と安定した操縦性能(操縦安定性)との両立が、近年の環境問題や安全対策の面から、益々強く要求されている。
【0005】
そこで、このような要求に対応するために、トレッドを構成するゴム組成物の配合の検討(例えば、特許文献1、2)や、トレッドパターンの検討(例えば、特許文献3、4)などが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−229285号公報
【特許文献2】特開2013−107989号公報
【特許文献3】特開2014−177238号公報
【特許文献4】特開2015−147543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来技術では、乗り心地と操縦安定性との両立について、未だ十分とは言えず、特に、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性とが両立されたラジアルタイヤが望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性の双方が両立された乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題の解決について鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
請求項1に記載の発明は、
一対のビード部間をトロイダル状に跨るラジアル配列コードのカーカスと、前記カーカスのタイヤ径方向外側に設けられたトレッドとを備える乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、
前記トレッドは、
正規リムに組み込み、内圧を正規内圧とした際のタイヤの断面幅をWt(mm)、外径をDt(mm)としたとき、1963.4≦(Dt×π/4)/Wt≦2827.4を満たしており、
トレッド踏面に、少なくとも1本の前記トレッドの周方向に延びる主溝を有すると共に、
前記トレッド踏面におけるランド/シー比が、55%超、85%未満であり、
前記トレッドを形成するゴム組成物は、周波数10Hz、初期歪2%、動歪率1%の条件下で測定された損失正接(tanδ)において、
|20℃tanδ−50℃tanδ|が、0.01以上、0.15未満であると共に、
|5℃tanδ−20℃tanδ|が、0.15超、0.70未満である
ことを特徴とする乗用車用空気入りラジアルタイヤである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、
前記|20℃tanδ−50℃tanδ|が、0.08超、0.12未満であることを特徴とする請求項1に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤである。
【0012】
請求項3に記載の発明は、
前記|5℃tanδ−20℃tanδ|が、0.30超、0.40未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤである。
【0013】
請求項4に記載の発明は、
前記トレッドが、3本以上の前記主溝と、一対の接地端とによって、タイヤ軸方向に4つ以上の領域に区画されており、
前記4つ以上の領域の各々の領域において、タイヤ周方向の単位長さ当たりの平均踏面面積の差異が、15%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤである。
【0014】
請求項5に記載の発明は、
前記トレッドが、トレッドパターンのタイヤ軸方向の中央部を通る中心線を挟んでタイヤ周方向に沿って連続して延びる1対のショルダー主溝によって、センター陸部領域と両ショルダー陸部領域とに区画されており、
前記ショルダー主溝は、溝幅が4mm超、20mm未満で、かつ、溝幅中心がトレッド接地端から接地幅の25%幅位置よりも前記センター側にあり、
前記センター陸部領域は、タイヤ接地域の全陸部の40%以上の面積を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤである。
【0015】
請求項6に記載の発明は、
トレッドは、前記トレッド踏面を構成するキャップゴム層と、前記キャップゴム層の内側に位置するベースゴム層とから構成されており、
前記キャップゴム層の硬度が、前記ベースゴム層の硬度より高く、JIS A硬度で45超、75未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤである。
【0016】
請求項7に記載の発明は、
前記トレッドを形成するゴム組成物が、
ゴム成分としてジエン系ゴムを35質量%以上含有しており、
前記ゴム成分100質量部に対し、BET比表面積が140m/g超、250m/g未満のシリカを、35質量部以上含有していることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤである。
【0017】
請求項8に記載の発明は、
前記センター陸部領域に、陸部を横断する方向に延びる横溝および/または横サイプが設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性を両立させた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態に基づいて、本発明を具体的に説明する。
【0020】
[1]本発明のタイヤの特徴について
最初に、本発明に係るタイヤの特徴について説明する。
【0021】
本発明者は、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性との両立には、トレッドの形状とゴム物性とが関係しており、それぞれが一定の条件を満たしている必要があると考え、種々の実験と検討を行い、上記した課題の解決に際しては、トレッドが以下に示す形状およびゴム物性を有している必要があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
具体的には、まず、トレッドの形状については、正規リムに組み込み、内圧を正規内圧とした際のタイヤの断面幅をWt(mm)、外径をDt(mm)としたとき、1963.4≦(Dt×π/4)/Wt≦2827.4を満たしていること、そして、トレッド踏面に、少なくとも1本のトレッドの周方向に延びる主溝を有すると共に、トレッド踏面におけるランド/シー比が、55%超、85%未満となるように成形されていることが必要であることが分かった。
【0023】
次に、トレッドのゴム物性については、周波数10Hz、初期歪2%、動歪率1%の条件下で測定された損失正接(tanδ)において、|20℃tanδ−50℃tanδ|が、0.01以上、0.15未満であると共に、|5℃tanδ−20℃tanδ|が、0.15超、0.70未満であることが必要であり、このようなゴム物性が発揮できるように配合されたゴム組成物を使用する必要があることが分かった。
【0024】
このように、トレッドが適切な形状およびゴム物性を有していることにより、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性の双方が両立されたタイヤを提供することができる。
【0025】
即ち、トレッドを上記したような形状に形成することにより、タイヤの接地面積を十分に確保することができる。一方、トレッドが上記したようなゴム物性を有することにより、トレッドゴムの硬さを適切に維持して、走行時におけるトレッド形状の変化を十分に抑制することができる。本発明に係るタイヤでは、このトレッドの形状に基づく効果と、トレッドゴムのゴム物性に基づく効果とが、協働して相乗的に発揮されるため、高速走行時や低温走行時であっても、適正化されたトレッドの接地形状を十分に維持して、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性の双方を両立させることができる。
【0026】
[2]本発明の実施の形態
以下、実施の形態に基づいて、本発明を具体的に説明する。
【0027】
1.トレッドの形状
前記したように、本実施の形態のタイヤは、まず、一対のビード部間をトロイダル状に跨るラジアル配列コードのカーカスと、カーカスのタイヤ径方向外側に設けられたトレッドとを備える乗用車用空気入りラジアルタイヤである。
【0028】
そして、正規リムに組み込み、内圧を正規内圧とした際のタイヤの断面幅をWt(mm)、外径をDt(mm)としたとき、1963.4≦(Dt×π/4)/Wt≦2827.4を満たしている。
【0029】
上記記載において、「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMA(日本自動車タイヤ協会)であれば「JATMA YEAR BOOK」に記載されている適用サイズにおける標準リム、ETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)であれば「STANDARDS MANUAL」に記載されている“Measuring Rim”、TRA(The Tire and Rim Association, Inc.)であれば「YEAR BOOK」に記載されている“Design Rim”を指す。
【0030】
また、「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”を指す。
【0031】
そして、本実施の形態においては、トレッド踏面に、少なくとも1本のトレッドの周方向に延びる主溝(周方向主溝)を有している。
【0032】
上記記載において、「トレッド踏面」とは、タイヤを、正規リムに組み付け、正規内圧を適用し、正規荷重による負荷を加えた状態で転動させた際に、路面と接触するタイヤの外周面を指している。なお、「正規荷重」とは、前記したタイヤが基づいている規格を含む規格体系における各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、タイヤに負荷されることが許容される最大の質量を言い、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”とする。
【0033】
そして、「周方向主溝」とは、タイヤ幅方向の断面積が10mm以上の溝を指しており、トレッドの幅方向中央部に形成されている周方向主溝がクラウン主溝、トレッドの幅方向端部に形成されている周方向主溝がショルダー主溝と呼ばれる。
【0034】
また、本実施の形態においては、トレッド踏面におけるランド/シー比が、55%超、85%未満となるように成形されている。なお、「ランド/シー比」とは、トレッド踏面における陸面積(接地部表面積の総和)と、海面積(溝底面全体の面積)との比である。
【0035】
2.トレッドのゴム組成物
次に、本実施の形態のタイヤは、周波数10Hz、初期歪2%、動歪率1%の条件下で測定された損失正接(tanδ)において、|20℃tanδ−50℃tanδ|が、0.01以上、0.15未満であり、|5℃tanδ−20℃tanδ|が、0.15超、0.70未満となるように配合されたゴム組成物を用いてトレッドが形成されている。
【0036】
上記において、tanδは、例えば、GABO社製「イプレクサー(登録商標)」の粘弾性測定装置を用いて、周波数10Hz、初期歪2%、動歪率1%の条件のもと、5℃、20℃、50℃で測定された損失正接である。
【0037】
なお、上記した|20℃tanδ−50℃tanδ|は、0.08超、0.12未満であるとより好ましく、また、|5℃tanδ−20℃tanδ|は、0.30超、0.40未満であるとより好ましい。
【0038】
以上のような形状およびゴム物性を有するトレッドが設けられたタイヤとすることにより、低温時や高速走行時に、タイヤのトレッドの接地形状を適正化でき、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性の双方を高いレベルで両立させることができる。
【0039】
3.トレッドの好ましい態様
本実施の形態において、トレッドは、以下のように形成されていると、より好ましい。
【0040】
(1)まず、トレッドは、3本以上の主溝によって、タイヤ軸方向に4つ以上の領域に区画されており、各々の領域におけるタイヤ周方向の単位長さ(10cm)当たりの平均踏面面積の差異が、15%以下であることが好ましい。これにより、トレッドの接地面をより十分に路面に接触させることができるため、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性をより高いレベルで両立させることができる。
【0041】
(2)そして、本実施の形態において、トレッドは、トレッドパターンのタイヤ軸方向のセンターを挟んでタイヤ周方向に沿って連続して延びる1対のショルダー主溝によって、センター陸部領域と両ショルダー陸部領域とに区画されており、ショルダー主溝は、溝幅が4mm超、20mm未満で、かつ、溝幅中心がトレッド接地端から接地幅の25%幅位置よりもセンター側にあり、センター陸部領域は、タイヤ接地域の全陸部の40%以上の面積を有していることが好ましい。これにより、トレッドの接地面をより十分に路面に接触させることができるため、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性をより高いレベルで両立させることができる。
【0042】
なお、ここで「接地端」とは、「トレッド接地幅」におけるタイヤ軸方向の外端を指しており、「トレッド接地幅」とは、タイヤを「正規リム」に装着して「正規内圧」を充填すると共に、そのタイヤを平板上に垂直姿勢で静止配置して、「正規荷重」に対応する負荷を加えたときの平板との接触面におけるタイヤ軸方向最大直線距離を指す。
【0043】
(3)また、本実施の形態において、トレッドは、トレッド踏面を構成するキャップゴム層と、キャップゴム層の内側に位置するベースゴム層とから構成されており、キャップゴム層の硬度が、ベースゴム層の硬度より高く、JIS A硬度で45超、75未満であることが好ましい。
【0044】
このように、トレッドをキャップゴム層およびベースゴム層の二層構造に形成させ、キャップゴム層の硬度をJIS A硬度で45超、75未満と、ベースゴム層の硬度より高くすることにより、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性をさらに高いレベルで両立させることができる。
【0045】
(4)さらに、本実施の形態においては、トレッドのセンター陸部領域に、陸部を横断する方向に延びる横溝および/または横サイプが設けられていることが好ましい。
【0046】
このような横溝および/または横サイプを設けることにより、トレッドのセンター陸部領域における耐摩耗性を維持して、タイヤの耐久性を高めることができる。
【0047】
4.トレッドゴム
前記したように、本実施の形態のタイヤにおいてトレッドゴムは、周波数10Hz、初期歪2%、動歪率1%の条件下で測定された損失正接(tanδ)において、|20℃tanδ−50℃tanδ|が、0.01以上、0.15未満であると共に、|5℃tanδ−20℃tanδ|が、0.15超、0.70未満となるように配合されたゴム組成物を用いてトレッドが形成されている。
【0048】
(1)トレッドゴム組成物
このようなゴム物性を有するゴム組成物は、以下に記載するゴム成分、およびその他の配合材料から得ることができる。特に、ゴム成分の種類と量、シリカの種類と量、カーボンブラックの種類と量、可塑剤の種類と量、および硫黄の量を調整することで、所望のゴム物性を容易に実現することができる。
【0049】
(a)ゴム成分
ゴム成分としては、ジエン系ゴムを35質量%以上含有していることが好ましい。具体的なジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のゴムが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
(イ)イソプレン系ゴム
前記ゴム組成物がイソプレン系ゴムを含む場合、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量(合計含有量)は、例えば、5質量%超、100質量%未満である。イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。
【0051】
NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
(ロ)SBR
前記ゴム組成物がSBRを含む場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、例えば、5質量%超、100質量%未満である。SBRの重量平均分子量は、例えば、10万超、200万未満である。SBRのスチレン量は、例えば、5質量%超、50質量%未満である。SBRのビニル量(1,2−結合ブタジエン単位量)は、例えば、5質量%超、70質量%未満である。なお、SBRの構造同定(スチレン量、ビニル量の測定)は、例えば、日本電子(株)製JNM−ECAシリーズの装置を用いて行うことができる。
【0053】
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等を使用できる。SBRは、非変性SBR、変性SBRのいずれであってもよい。
【0054】
変性SBRとしては、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を有するSBRであればよく、例えば、SBRの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性SBR(末端に上記官能基を有する末端変性SBR)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性SBRや、主鎖および末端に上記官能基を有する主鎖末端変性SBR(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性SBR)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性SBR等が挙げられる。
【0055】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。
【0056】
また、変性SBRとして、例えば、下記式で表される化合物(変性剤)により変性されたSBRを使用できる。
【0057】
【化1】
【0058】
なお、式中、R1、R2およびR3は、同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(−COOH)、メルカプト基(−SH)またはこれらの誘導体を表す。R4およびR5は、同一または異なって、水素原子またはアルキル基を表す。R4およびR5は結合して窒素原子と共に環構造を形成してもよい。nは整数を表す。
【0059】
上記式で表される化合物(変性剤)により変性された変性SBRとしては、溶液重合のスチレンブタジエンゴム(S−SBR)の重合末端(活性末端)を上記式で表される化合物により変性されたSBR(特開2010−111753号公報に記載の変性SBR等)を使用できる。
【0060】
R1、R2およびR3としてはアルコキシ基が好適である(好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)。R4およびR5としてはアルキル基(好ましくは炭素数1〜3のアルキル基)が好適である。nは、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4、更に好ましくは3である。また、R4およびR5が結合して窒素原子と共に環構造を形成する場合、4〜8員環であることが好ましい。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基等)も含まれる。
【0061】
上記変性剤の具体例としては、2−ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−ジメチルアミノエチルトリエトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、2−ジエチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−ジエチルアミノエチルトリエトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
また、変性SBRとしては、以下の化合物(変性剤)により変性された変性SBRも使用できる。変性剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル;ジグリシジル化ビスフェノールA等の2個以上のフェノール基を有する芳香族化合物のポリグリシジルエーテル;1,4−ジグリシジルベンゼン、1,3,5−トリグリシジルベンゼン、ポリエポキシ化液状ポリブタジエン等のポリエポキシ化合物;4,4’−ジグリシジル−ジフェニルメチルアミン、4,4’−ジグリシジル−ジベンジルメチルアミン等のエポキシ基含有3級アミン;ジグリシジルアニリン、N,N’−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル−p−フェニレンジアミン、ジグリシジルアミノメチルシクロヘキサン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等のジグリシジルアミノ化合物;ビス−(1−メチルプロピル)カルバミン酸クロリド、4−モルホリンカルボニルクロリド、1−ピロリジンカルボニルクロリド、N,N−ジメチルカルバミド酸クロリド、N,N−ジエチルカルバミド酸クロリド等のアミノ基含有酸クロリド;1,3−ビス−(グリシジルオキシプロピル)−テトラメチルジシロキサン、(3−グリシジルオキシプロピル)−ペンタメチルジシロキサン等のエポキシ基含有シラン化合物;(トリメチルシリル)[3−(トリメトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(トリエトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(トリプロポキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(トリブトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(メチルジメトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(メチルジエトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(メチルジプロポキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(メチルジブトキシシリル)プロピル]スルフィド等のスルフィド基含有シラン化合物;エチレンイミン、プロピレンイミン等のN−置換アジリジン化合物;メチルトリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン;4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−N,N−ジ−t−ブチルアミノベンゾフェノン、4−N,N−ジフェニルアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)ベンゾフェノン、N,N,N’,N’−ビス−(テトラエチルアミノ)ベンゾフェノン等のアミノ基および/または置換アミノ基を有する(チオ)ベンゾフェノン化合物;4−N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒド、4−N,N−ジフェニルアミノベンズアルデヒド、4−N,N−ジビニルアミノベンズアルデヒド等のアミノ基および/または置換アミノ基を有するベンズアルデヒド化合物;N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−フェニル−2−ピロリドン、N−t−ブチル−2−ピロリドン、N−メチル−5−メチル−2−ピロリドン等のN−置換ピロリドンN−メチル−2−ピペリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、N−フェニル−2−ピペリドン等のN−置換ピペリドン;N−メチル−ε−カプロラクタム、N−フェニル−ε−カプロラクタム、N−メチル−ω−ラウリロラクタム、N−ビニル−ω−ラウリロラクタム、N−メチル−β−プロピオラクタム、N−フェニル−β−プロピオラクタム等のN−置換ラクタム類;の他、N,N−ビス−(2,3−エポキシプロポキシ)−アニリン、4,4−メチレン−ビス−(N,N−グリシジルアニリン)、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン類、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルマレイミド、N,N−ジエチル尿素、1,3−ジメチルエチレン尿素、1,3−ジビニルエチレン尿素、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1−メチル−3−エチル−2−イミダゾリジノン、4−N,N−ジメチルアミノアセトフェン、4−N,N−ジエチルアミノアセトフェノン、1,3−ビス(ジフェニルアミノ)−2−プロパノン、1,7−ビス(メチルエチルアミノ)−4−ヘプタノン等を挙げることができる。なお、上記化合物(変性剤)による変性は公知の方法で実施可能である。
【0063】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されているSBRを使用できる。なお、SBRは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
(ハ)BR
前記ゴム組成物がBRを含む場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、例えば5質量%超、100質量%未満である。BRの重量平均分子量は、例えば、10万超、200万未満である。BRのビニル量は、例えば1質量%超、30質量%未満である。BRのシス量は、例えば1質量%超、98質量%未満である。BRのトランス量は、例えば1質量%超、60質量%未満である。
【0065】
BRとしては特に限定されず、高シス含量(シス含量が90%以上)のBR、低シス含量のBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR等を使用できる。BRは、非変性BR、変性BRのいずれでもよく、変性BRとしては、前述の官能基が導入された変性BRが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0066】
BRとしては、例えば、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0067】
(b)ゴム成分以外の配合材料
(イ)シリカ
ゴム組成物は、シリカを含むことが好ましく、具体的には、ゴム成分100質量部に対し、BET比表面積が140m/g超、250m/g未満のシリカを、35質量部以上含有していることが好ましい。シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。なお、上記したBET比表面積は、ASTM D3037−93に準じてBET法で測定されるNSAの値である。
【0068】
シリカとしては、例えば、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
【0069】
(ロ)シランカップリング剤
ゴム組成物は、シリカと共にシランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT−Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
シランカップリング剤としては、例えば、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。
【0071】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、例えば、3質量部超、25質量部未満である。
【0072】
(ハ)カーボンブラック
ゴム組成物は、カーボンブラックを含むことが好ましい。カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1質量部超、200質量部未満である。
【0073】
カーボンブラックとしては特に限定されず、SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、SRF、GPF、APF、FF、CF、SCFおよびECFのようなファーネスブラック(ファーネスカーボンブラック);アセチレンブラック(アセチレンカーボンブラック);FTおよびMTのようなサーマルブラック(サーマルカーボンブラック);EPC、MPCおよびCCのようなチャンネルブラック(チャンネルカーボンブラック);グラファイトなどをあげることができる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0074】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、例えば30m/g超、250m/g未満である。カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸収量は、例えば50ml/100g超、250ml/100g未満である。なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、ASTM D4820−93に従って測定され、DBP吸収量は、ASTM D2414−93に従って測定される。
【0075】
具体的なカーボンブラックとしては特に限定されず、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。市販品としては、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱化学(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
(ニ)ポリマー成分
ゴム組成物は、液状ポリマー、固体ポリマー等の、ゴム成分以外のポリマー成分を含んでもよい。
【0077】
液状ポリマーとは、常温(25℃)で液体状態の重合体であり、固体ポリマーとは、常温(25℃)で固体状態の重合体である。液状ポリマー、固体ポリマーとしては、ファルネセン系ポリマー、液状ジエン系重合体、スチレン系樹脂、クマロンインデン樹脂、テルペン系樹脂、p−t−ブチルフェノールアセチレン樹脂、フェノール系樹脂、C5樹脂、C9樹脂、C5C9樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0078】
ファルネセン系ポリマーとは、ファルネセンを重合することで得られる重合体であり、ファルネセンに基づく構成単位を有する。ファルネセンには、α−ファルネセン((3E,7E)−3,7,11−トリメチル−1,3,6,10−ドデカテトラエン)やβ−ファルネセン(7,11−ジメチル−3−メチレン−1,6,10−ドデカトリエン)などの異性体が存在する。
【0079】
ファルネセン系ポリマーは、ファルネセンの単独重合体(ファルネセン単独重合体)でも、ファルネセンとビニルモノマーとの共重合体(ファルネセン−ビニルモノマー共重合体)でもよい。
【0080】
ビニルモノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、tert−ブトキシスチレン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4−ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N−ジメチルアミノエチルスチレン、N,N−ジメチルアミノメチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、2−t−ブチルスチレン、3−t−ブチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン、ジフェニルエチレン、3級アミノ基含有ジフェニルエチレンなどの芳香族ビニル化合物や、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0081】
ファルネセン系ポリマーとして、液状ファルネセン系ポリマーを使用できる。液状ファルネセン系ポリマーとは、常温(25℃)で液体のファルネセン系ポリマーであり、重量平均分子量(Mw)が3000超、30万未満のものを使用できる。
【0082】
ファルネセン系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、例えば、−100℃超、−10℃未満である。なお、Tgは、JIS−K7121:1987に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定した値である。
【0083】
ファルネセン系ポリマーの溶融粘度は、例えば、0.1Pa・s超、500Pa・s未満である。なお、溶融粘度は、ブルックフィールド型粘度計(BROOKFIELD ENGINEERING LABS.INC.製)を用いて、38℃で測定した値である。
【0084】
ファルネセン−ビニルモノマー共重合体において、ファルネセンとビニルモノマーとの質量基準の共重合比(ファルネセン/ビニルモノマー)は、例えば、40/60〜90/10である。
【0085】
ファルネセン系ポリマーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1.0質量部超、50.0質量部未満である。
【0086】
ファルネセン系ポリマーとしては、例えば、(株)クラレ等の製品を使用できる。
【0087】
液状ジエン系重合体としては、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)などが挙げられる。
【0088】
液状ジエン系重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、例えば、1.0×10超、2.0×10未満である。なお、本明細書において、液状ジエン系重合体のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
【0089】
液状ポリマーの含有量(液状ファルネセン系ポリマー、液状ジエン系重合体等の合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1質量部超、100質量部未満である。
【0090】
クマロンインデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成するモノマー成分として、クマロンおよびインデンを含む樹脂である。クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0091】
クマロンインデン樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1.0質量部超、50.0質量部未満である。
【0092】
クマロンインデン樹脂の水酸基価(OH価)は、例えば、15mgKOH/g超、150mgKOH/g未満である。なお、OH価とは、樹脂1gをアセチル化するとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムの量をミリグラム数で表したものであり、電位差滴定法(JIS K 0070:1992)により測定した値である。
【0093】
クマロンインデン樹脂の軟化点は、例えば、30℃超、160℃未満である。なお、軟化点は、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0094】
スチレン系樹脂は、スチレン系単量体を構成モノマーとして用いたポリマーであり、スチレン系単量体を主成分(50質量%以上)として重合させたポリマー等が挙げられる。具体的には、スチレン系単量体(スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−フェニルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン等)をそれぞれ単独で重合した単独重合体、2種以上のスチレン系単量体を共重合した共重合体の他、スチレン系単量体およびこれと共重合し得る他の単量体のコポリマーも挙げられる。
【0095】
前記他の単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのアクリロニトリル類、アクリル類、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸類、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなどの不飽和カルボン酸エステル類、クロロプレン、ブタジエンイソプレンなどのジエン類、1−ブテン、1−ペンテンのようなオレフィン類;無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸またはその酸無水物;等が例示できる。
【0096】
テルペン系樹脂としては、ポリテルペン、テルペンフェノール、芳香族変性テルペン樹脂などが挙げられる。ポリテルペンは、テルペン化合物を重合して得られる樹脂およびそれらの水素添加物である。テルペン化合物は、(Cの組成で表される炭化水素およびその含酸素誘導体で、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールなどが挙げられる。
【0097】
ポリテルペンとしては、上述したテルペン化合物を原料とするα−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β−ピネン/リモネン樹脂などのテルペン樹脂の他、該テルペン樹脂に水素添加処理した水素添加テルペン樹脂も挙げられる。テルペンフェノールとしては、上記テルペン化合物とフェノール系化合物とを共重合した樹脂、および該樹脂に水素添加処理した樹脂が挙げられ、具体的には、上記テルペン化合物、フェノール系化合物およびホルマリンを縮合させた樹脂が挙げられる。なお、フェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂としては、テルペン樹脂を芳香族化合物で変性して得られる樹脂、および該樹脂に水素添加処理した樹脂が挙げられる。なお、芳香族化合物としては、芳香環を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、フェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール、不飽和炭化水素基含有フェノールなどのフェノール化合物;ナフトール、アルキルナフトール、アルコキシナフトール、不飽和炭化水素基含有ナフトールなどのナフトール化合物;スチレン、アルキルスチレン、アルコキシスチレン、不飽和炭化水素基含有スチレンなどのスチレン誘導体;クマロン、インデンなどが挙げられる。
【0098】
アクリル系樹脂としては特に限定されないが、例えば、無溶剤型アクリル系樹脂を使用できる。
【0099】
無溶剤型アクリル系樹脂は、副原料となる重合開始剤、連鎖移動剤、有機溶媒などを極力使用せずに、高温連続重合法(高温連続塊重合法)(米国特許第4,414,370号明細書、特開昭59−6207号公報、特公平5−58005号公報、特開平1−313522号公報、米国特許第5,010,166号明細書、東亜合成研究年報TREND2000第3号p42−45等に記載の方法)により合成された(メタ)アクリル系樹脂(重合体)が挙げられる。なお、本発明において、(メタ)アクリルは、メタクリルおよびアクリルを意味する。
【0100】
上記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸や、(メタ)アクリル酸エステル(アルキルエステル、アリールエステル、アラルキルエステルなど)、(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミド誘導体などの(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
【0101】
また、上記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分として、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸誘導体と共に、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族ビニルを使用してもよい。
【0102】
上記アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル成分のみで構成される樹脂であっても、(メタ)アクリル成分以外の成分をも構成要素とする樹脂であっても良い。また、上記アクリル系樹脂は、水酸基、カルボキシル基、シラノール基等を有していてよい。
【0103】
固体ポリマーの含有量(固体クマロンインデン樹脂等の合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1.0質量部超、100.0質量部未満である。
【0104】
液状ポリマー、固体ポリマー等のポリマー成分としては、例えば、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、JXエネルギー(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0105】
(ホ)オイル
前記ゴム組成物は、オイルを含んでもよい。オイルの含有量は、例えば、1.0質量部超、100.0質量部未満である。なお、オイルの含有量には、ゴム(油展ゴム)に含まれるオイルの量も含まれる。
【0106】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、またはその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
オイルとしては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。
【0108】
(ヘ)低温可塑剤
ゴム組成物は、低温可塑剤を含んでもよい。低温可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、トリス(2エチルヘキシル)ホスフェート(TOP)、ビス(2エチルヘキシル)セバケート(DOS)等の液状成分が挙げられる。低温可塑剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、例えば、1質量部超、60質量部未満である。
【0109】
(ト)ワックス
前記ゴム組成物は、ワックスを含むことが好ましい。ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部超、20質量部未満である。
【0110】
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックスなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0111】
なお、ワックスとしては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。
【0112】
(チ)老化防止剤
ゴム組成物は、老化防止剤を含むことが好ましい。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1質量部超、10質量部未満である。
【0113】
老化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′−ビス(α,α′−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N−イソプロピル−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン等のp−フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス−[メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0114】
なお、老化防止剤としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0115】
(リ)ステアリン酸
ゴム組成物は、ステアリン酸を含んでもよい。ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部超、10.0質量部未満である。ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、NOF社、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0116】
(ヌ)酸化亜鉛
ゴム組成物は、酸化亜鉛を含んでもよい。酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部超、10質量部未満である。酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0117】
(ル)架橋剤および加硫促進剤
ゴム組成物は、硫黄等の架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部超、10.0質量部未満である。
【0118】
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0119】
なお、硫黄としては、例えば、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0120】
硫黄以外の架橋剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200、フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)、ランクセス社製のKA9188(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)等の硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0121】
ゴム組成物は、加硫促進剤を含むことが好ましい。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.3質量部超、10.0質量部未満である。
【0122】
加硫促進剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT−N)等のチウラム系加硫促進剤;N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0123】
(ヲ)その他
ゴム組成物には、前記成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている添加剤、例えば、有機過酸化物;炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカ等の充填剤;等を更に配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部超、200質量部未満である。
【0124】
(2)トレッドゴム組成物の作製
前記ゴム組成物は、一般的な方法、例えば、ゴム成分とシリカやカーボンブラック等のフィラーとを混練するベース練り工程と、前記ベース練り工程で得られた混練物と架橋剤とを混練する仕上げ練り工程とを含む製造方法により作製される。
【0125】
混練は、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロールなどの公知の(密閉式)混練機を用いて行うことができる。
【0126】
ベース練り工程の混練温度は、例えば、50℃超、200℃未満であり、混練時間は、例えば、30秒超、30分未満である。ベース練り工程では、上記成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、オイル等の軟化剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、ワックス、加硫促進剤などを必要に応じて適宜添加、混練してもよい。
【0127】
仕上げ練り工程では、前記ベース練り工程で得られた混練物と架橋剤とが混練される。仕上げ練り工程の混練温度は、例えば、室温超、80℃未満であり、混練時間は、例えば、1分超、15分未満である。仕上げ練り工程では、上記成分以外にも、加硫促進剤、酸化亜鉛等を必要に応じて適宜添加、混練してもよい。
【0128】
5.タイヤの製造
本発明のタイヤは、前記仕上げ練り工程を経て得られた未加硫ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、未加硫ゴム組成物を、トレッドの各タイヤ部材の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材と共に、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、まず、未加硫タイヤを作製する。
【0129】
具体的には、成形ドラム上に、タイヤの気密保持性を確保するための部材としてのインナーライナー、タイヤの受ける荷重、衝撃、充填空気圧に耐える部材としてのカーカス、カーカスを強く締付けトレッドの剛性を高める部材としてのベルトなどを巻回し、両側縁部にカーカスの両端を固定すると共に、タイヤをリムに固定させるための部材としてのビード部を配置して、トロイド状に成形した後、外周の中央部にトレッド、径方向外側にカーカスを保護して屈曲に耐える部材としてのサイドウォール部を貼り合せることにより、未加硫タイヤを作製する。
【0130】
なお、本実施の形態においては、ベルトとして、タイヤ周方向に対して、55°超、75°未満の角度で傾斜して延びる傾斜ベルト層を設けることが好ましく、これにより、タイヤの耐久性を確保すると共に、トレッドの剛性を十分に維持することができる。
【0131】
その後、作製された未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。加硫工程は、公知の加硫手段を適用することで実施できる。加硫温度としては、例えば、120℃超、200℃未満であり、加硫時間は、例えば、5分超、15分未満である。
【実施例】
【0132】
以下、実施例により、本発明についてさらに具体的に説明する。
【0133】
[1]実験1
まず、ランド/シー比、トレッドゴムの物性が異なるタイヤを製造し、製造したタイヤを乗用車に装着して走行実験を行い、低温での乗り心地および高速走行時の操縦安定性を評価した。
【0134】
1.トレッド用ゴム組成物の製造
最初に、トレッド用ゴム組成物の製造を行った。
【0135】
(1)配合材料
まず、以下に示す各配合材料を準備した。
【0136】
(a)ゴム成分
(イ)NR:TSR20
(ロ−1)SBR1:旭化成(株)製のT3830(S−SBR、油展品)
(ロ−2)SBR2:JSR(株)製のSBR1723(E−SBR)
(ロ−3)SBR3:日本ゼオン(株)製のNipol NS522(油展品)
(ロ−4)SBR4:Dow Chemical社製のSLR6430
(S−SBR、油展品)
(ロ−5)SBR5:Synthos社製のSYNTION 3041(油展品)
(ロ−6)SBR6:次段落に記載の方法に従って作製された変性SBR
(スチレン量:25質量%、ビニル結合量:60質量%、Mw:40万)
(ロ−7)SBR7:旭化成(株)製のT4850
(ハ−1)BR1:宇部興産(株)製のBR150
(ハ−2)BR2:宇部興産(株)製のBR360
(ハ−3)BR3:宇部興産(株)製のBR730
【0137】
上記SBR6は、以下に示す手順に従って作製した。まず、窒素置換されたオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、スチレン、および1,3−ブタジエンを仕込んだ。反応器の内容物の温度を20℃に調整した後、n−ブチルリチウムを添加して重合を開始した。断熱条件で重合し、最高温度は85℃に達した。重合転化率が99%に達した時点で1,3−ブタジエンを追加し、さらに5分重合させた後、N,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランを変性剤として加えて反応を行った。重合反応終了後、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥してSBR6を得た。
【0138】
(b)ゴム成分以外の配合材料
(イ−1)シリカ1:ローディア社製のZEOSIL 1115MP
(BET比表面積:115m/g)
(イ−2)シリカ2:デグッサ社製のウルトラシルVN3
(BET比表面積:167m/g)
(ロ−1)シランカップリング剤1:デグサ社製のSi266
(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
(ロ−2)シランカップリング剤2:Momentive社製のNXT
(3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン)
(ハ)カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイヤブラックN220
(ニ)オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
(ホ)レジン:ヤスハラケミカル(株)製のYSポリスターU130
(テルペンフェノール樹脂)
(ヘ)ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
(ト)老化防止剤:大内新興化学(株)製のノクラック6C
(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
(チ)ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
(リ)酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
(ヌ)架橋剤および加硫促進剤
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS/CZ
(N−tert−ブチル−2−べンゾチアゾリルスルフェンアミド/
N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDPG
(1,3−ジフェニルグアニジン)
【0139】
(2)ゴム組成物の製造
表1に示す配合内容に従い、バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りして、混練物を得た。なお、各配合量は、質量部である。
【0140】
【表1】
【0141】
2.タイヤの製造
次に、得られたトレッド用ゴム組成物に、硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を、表2および表3に示す各ランド/シー比となるようにトレッドを成形し、他のタイヤ部材と共に貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で10分間プレス加硫して、試験用タイヤ(サイズ:175/80R16 91S、断面幅Wt:175mm、外径Dt:689mm、(Dt×π/4)/Wt=2130.5)を製造した。なお、周方向主溝の本数は4本とした。
【0142】
3.性能評価試験
(1)トレッドの物性
各試験用タイヤから切り出した各配合のトレッドゴム(加硫後)について、GABO社製「イプレクサー(登録商標)」を用いて、周波数10Hz、初期歪2%、動歪率1%の条件で、5℃、20℃、50℃における損失正接(tanδ)を測定した。結果を表1に併せて示す。
【0143】
(2)低温での乗り心地評価試験
各試験用タイヤを車輌(国産のFF車、排気量2000cc)の全輪に装着して、5℃の環境下で、ドライアスファルト路面のテストコースを速度40km/hで2時間(80km)走行し、そのときの乗り心地を、ドライバーにより官能評価した。評価は、ドライバー10人による5段階評価(1点から5点まで、点数が高い方が良好)の合計値を算出し、下式によりに指数化し評価した。数値が大きい程、低温での乗り心地が優れていることを示している。
低温乗り心地
=[(試験用タイヤの評価合計値)/(比較例1の評価合計値)]×100
【0144】
(3)高速走行時の操縦安定性評価試験
各試験用タイヤを車輌(国産のFF車、排気量2000cc)の全輪に装着して、ドライアスファルト路面のテストコースを速度80km/hで周回し、そのときの周回タイムを計測して評価した。評価は、別途用意した基準タイヤの周回タイムとの差に基づいて、下式によりに指数化し評価した。数値が大きい程、ハンドリング特性が良好で、操縦安定性が優れていることを示している。
操縦安定性=[(試験用タイヤの周回タイム−基準タイヤの周回タイム)/
(比較例1の周回タイム−基準タイヤの周回タイム)]×100
【0145】
(4)評価結果
低温での乗り心地評価試験および高速走行時の操縦安定性評価試験の結果を、表2および表3に示す。そして、両者の指数の総和に基づいて、総合評価とする。
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
表2および表3より、ランド/シー比が55%超、85%未満であり、トレッドゴム組成物において、|20℃tanδ−50℃tanδ|が0.01以上、0.15未満、|5℃tanδ−20℃tanδ|が、0.15超、0.70未満である場合、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性のいずれもが指数100を超えており、総合評価の結果、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性の双方が両立されたタイヤを提供できることが分かる。そして、|20℃tanδ−50℃tanδ|が0.08超、0.12未満、|5℃tanδ−20℃tanδ|が、0.30超、0.40未満である場合、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性の双方がより両立されたタイヤを提供できることが分かる。
【0149】
[2]実験2
1.実験方法
周方向主溝の本数を2本、3本、4本とし、それぞれについて、周方向主溝によって区画される領域のタイヤ周方向の単位長さ当たりの接地面積の平均値(平均踏面面積)の差を表4に示す値に変化させたこと以外は、実験1と同様にして、タイヤを製造し、同様に、評価した。なお、トレッドゴムには配合2のゴム組成物を使用し、ランド/シー比は80%に固定した。
【0150】
2.評価結果
評価の結果を表4に示す。なお、実験1では、比較例1のタイヤにおける結果を基準として評価したが、本実験では、実施例9のタイヤにおける結果を基準(評価値:100)として評価している。
【0151】
【表4】
【0152】
表4より、周方向主溝の本数が3本以上で、平均踏面面積の差が15%以下の場合、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性の双方をより高く両立できることが分かる。
【0153】
[3]実験3
1.実験方法
次に、周方向主溝を2本のセンター主溝と2本のショルダー主溝の4本とし、ショルダー主溝の溝幅、溝幅中心の位置(トレッド接地端からの距離の接地幅に対する比率)、およびセンター陸部領域のタイヤ接地域の全陸部に占める面積比率を、表5に示すように変化させてタイヤを製造し、同様に評価した。なお、トレッドゴムには配合5を使用した。
【0154】
2.評価結果
評価の結果を表5に示す。なお、実験1では、比較例1のタイヤにおける結果を基準として評価したが、本実験では、実施例18のタイヤにおける結果を基準(評価値:100)として評価している。
【0155】
【表5】
【0156】
表5より、ショルダー主溝の溝幅が4mm超、20mm未満で、かつ、溝幅中心がトレッド接地端から接地幅の25%幅位置よりもセンター側にあり、センター陸部領域の面積比率が40%以上の場合、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性の双方をより高く両立できることが分かる。
【0157】
[4]実験4
1.実験方法
次に、表6に示すように、トレッド部が、配合の異なるキャップゴム層とベースゴム層の2層構造からなるタイヤを製造し、同様に評価した。なお、周方向主溝の本数を4本とし、ランド/シー比を80%とした。
【0158】
2.評価結果
評価の結果を表6に示す。なお、表6には、キャップゴム層およびベースゴム層において測定したJIS A硬度を併せて示す。なお、実験1では、比較例1のタイヤにおける結果を基準として評価したが、本実験では、実施例28のタイヤにおける結果を基準(評価値:100)として評価している。
【0159】
【表6】
【0160】
表6より、トレッド踏面をキャップゴム層とベースゴム層とで構成し、キャップゴム層の硬度が、ベースゴム層の硬度より高く、JIS A硬度で45超、75未満である場合、低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性の双方をより高く両立できることが分かる。
【0161】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【要約】
【課題】低温での乗り心地と高速走行時の操縦安定性を両立させた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】カーカスとトレッドとを備え、トレッドは、正規リムに組み込み、内圧を正規内圧とした際のタイヤの断面幅をWt(mm)、外径をDt(mm)としたとき、1963.4≦(Dt×π/4)/Wt≦2827.4を満たしており、トレッド踏面に少なくとも1本のトレッドの周方向に延びる主溝を有すると共に、トレッド踏面におけるランド/シー比が55%超、85%未満であり、トレッドを形成するゴム組成物は、周波数10Hz、初期歪2%、動歪率1%の条件下で測定された損失正接(tanδ)において、|20℃tanδ−50℃tanδ|が0.01以上、0.15未満であると共に、|5℃tanδ−20℃tanδ|が、0.15超、0.70未満である乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【選択図】なし