(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フレーム用リンク機構を介して、相対的に離接動作可能に支持される上部フレーム及び下部フレームを有すると共に、前記上部フレームを弾性的に付勢するばね機構を有するサスペンションであって、
前記ばね機構は、
前記上部フレームを前記下部フレームに離間する方向に付勢する線形特性を示す線形ばねと、
前記下部フレーム又は上部フレームに固定配置される固定磁石と、前記上部フレーム又は下部フレームに磁石用リンクを介して支持され、前記上部フレームの離接動作に伴って前記固定磁石との相対位置が変位する可動磁石を備え、前記固定磁石と前記可動磁石の相対位置に応じてばね定数が変化する非線形特性を示す磁気ばねと
の組み合わせからなり、
前記磁気ばねは、前記上部フレームの中立位置及び上限位置間の上側動作範囲における前記可動磁石の変位量よりも、前記上部フレームの中立位置及び下限位置間の下側動作範囲における前記可動磁石の変位量が小さく、前記上部フレームが相対的に下方向に変位する際に、前記上側動作範囲において作用する前記磁気ばねのばね定数に比べ、前記下側動作範囲において作用する前記磁気ばねのばね定数が小さくなる軟化ばね特性を有し、かつ、
前記磁気ばねは、前記可動磁石の前記固定磁石に対する相対変位により、
前記上側動作範囲を、前記中立位置と前記上限位置との間の中途位置を境として、前記中立位置側を第1上側動作範囲、前記上限位置側を第2上側動作範囲とし、前記線形ばねの復元力の作用方向と同方向への復元力が増加する特性を正のばね特性及び減少する特性を負のばね特性とした場合に、前記第1上側動作範囲では負のばね特性を示し、前記第2上側動作範囲では正のばね特性を示し、
前記下側動作範囲では、前記線形ばねのばね定数よりも小さいばね定数を示し、
前記線形ばねの正のばね特性と前記磁気ばねの前記各ばね特性が組み合わされた前記ばね機構の全体のばね特性として、
前記第1上側動作範囲では前記線形ばねの正のばね特性が重畳されることによりばね定数がほぼ一定である定荷重領域となり、前記第2上側動作範囲では2つの正のばね特性が重畳されてより高いばね定数である高ばね定数領域となり、前記下側動作範囲では、前記下側動作範囲全体に亘り、前記高ばね定数領域よりも低いばね定数の正のばね特性となる低ばね定数領域となる特性を有していることを特徴とするサスペンション。
前記磁気ばねは、前記上部フレームの上下変位量が所定以上の場合に、前記可動磁石が、前記磁石用リンクにより、前記固定磁石との対向範囲を超えた対向範囲外方位置まで移動可能である請求項1〜4のいずれか1に記載のサスペンション。
前記上部フレームに負荷の荷重がかかった際の平衡点が、着座者の重心位置や入力振動等に対応して変化すると共に、前記平衡点の減衰比が、前記平衡点の位置に応じて変化する構成である請求項1〜5のいずれか1に記載のサスペンション。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2のシートサスペンションは、所定の周波数及び振幅の振動に対しては、上記の磁気ばねとトーションバーを用いた構成により、両者を重畳したばね定数が略ゼロになる定荷重領域でこれらの振動を吸収し、振動や衝撃によるエネルギーは上部フレーム及び下部フレーム間に掛け渡したダンパーによって吸収する構成となっている。ところで、磁気ばねは、下部フレームに固定される固定磁石と上部フレームにリンクを介して連結され、該上部フレームの上下動に伴って固定磁石に対して相対移動する可動磁石とを備えて構成されている。振動を吸収する定荷重領域は、上記のように磁気ばねの負のばね特性を示す変位の範囲を対応させており、通常、その変位範囲の中間点を上部フレームの上下ストロークの中立位置に合わせて設定される。そして、この負のばね特性を示す範囲を超えて可動磁石が相対移動すると、正のばね特性となり、それにトーションバーの正のばね特性が重畳されるため、上部フレームの下限位置付近及び上限位置付近では、トーションバーと磁気ばねとを合わせたばね機構全体の正のばね定数が急激に高くなる。上限位置付近で正のばね定数が高いことは、着座時に体重を支えつつ平衡点に誘導でき、安定的な支持感を付与するのに役立つが、下限位置付近では、急激なばね定数の変化のために、着座者が底付き感を比較的大きく感じる場合もあった。また、上部フレームの底付きをより確実に抑制するため、ダンパーとして減衰力の高いものを用いることも、着座者の底付き感を強くする要因の一つと考えられる。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みなされたものであり、上部フレームの下限位置付近での底付き感をより抑制することができるサスペンションを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のサスペンションは、
フレーム用リンク機構を介して、相対的に離接動作可能に支持される上部フレーム及び下部フレームを有すると共に、前記上部フレームを弾性的に付勢するばね機構を有するサスペンションであって、
前記ばね機構は、
前記上部フレームを前記下部フレームに離間する方向に付勢する線形特性を示す線形ばねと、
前記下部フレーム又は上部フレームに固定配置される固定磁石と、前記上部フレーム又は下部フレームに磁石用リンクを介して支持され、前記上部フレームの離接動作に伴って前記固定磁石との相対位置が変位する可動磁石を備え、前記固定磁石と前記可動磁石の相対位置に応じてばね定数が変化する非線形特性を示す磁気ばねと
の組み合わせからなり、
前記磁気ばねは、前記上部フレームの中立位置及び上限位置間の上側動作範囲における前記可動磁石の変位量よりも、前記上部フレームの中立位置及び下限位置間の下側動作範囲における前記可動磁石の変位量が小さく、前記上部フレームが相対的に下方向に変位する際に、前記上側動作範囲において作用する前記磁気ばねのばね定数に比べ、前記下側動作範囲において作用する前記磁気ばねのばね定数が小さくなる軟化ばね特性を有することを特徴とする。
【0007】
前記磁気ばねは、前記可動磁石の前記固定磁石に対する相対変位により、
前記上側動作範囲を、前記中立位置と前記上限位置との間の中途位置を境として、前記中立位置側を第1上側動作範囲、前記上限位置側を第2上側動作範囲とし、前記線形ばねの復元力の作用方向と同方向への復元力が増加する特性を正のばね特性及び減少する特性を負のばね特性とした場合に、前記第1上側動作範囲では負のばね特性を示し、前記第2上側動作範囲では正のばね特性を示し、
前記下側動作範囲では、前記線形ばねのばね定数よりも小さいばね定数を示し、
前記線形ばねの正のばね特性と前記磁気ばねの前記各ばね特性が組み合わされた前記ばね機構の全体のばね特性として、
前記第1上側動作範囲では前記線形ばねの正のばね特性が重畳されることによりばね定数がほぼ一定である定荷重領域となり、前記第2上側動作範囲では2つの正のばね特性が重畳されてより高いばね定数である高ばね定数領域となり、前記下側動作範囲では、前記下側動作範囲全体に亘り、前記高ばね定数領域よりも低いばね定数の正のばね特性となる低ばね定数領域となる構成であることが好ましい。
【0008】
前記磁気ばねは、前記上側動作範囲における前記可動磁石の移動量に対し、前記下側動作範囲における前記可動磁石の移動量が1/2以下であることが好ましい。
【0009】
さらに、前記上部フレームの前記下部フレームに対する離接動作時のエネルギーを減衰するダンパーが設けられており、
前記ダンパーは、前記上部フレームが下限位置方向に動作する際の減衰力が、上限位置方向に動作する際の減衰力よりも低いものであることが好ましい。
前記ダンパーは、前記上部フレームに対して、前記上部フレームの上下動に伴って回転するブラケットに軸支されていることが好ましい。
【0010】
前記磁気ばねは、前記上部フレームの上下変位量が所定以上の場合に、前記可動磁石が、前記磁石用リンクにより、前記固定磁石との対向範囲を超えた対向範囲外方位置まで移動可能である構成とすることができる。
【0011】
前記上部フレームに負荷の荷重がかかった際の平衡点が、着座者の重心位置や入力振動等に対応して変化すると共に、前記平衡点の減衰比が、前記平衡点の位置に応じて変化する構成であることが好ましい。
前記上部フレームに負荷の荷重がかかった際の平衡点の初期位置を調節可能であることが好ましい。
前記下部フレームが車体側に固定され、前記上部フレームにシートが支持される乗物のシートサスペンションとして用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、磁気ばねが、上部フレームの中立位置及び上限位置間の上側動作範囲における可動磁石の変位量よりも、上部フレームの中立位置及び下限位置間の下側動作範囲における可動磁石の変位量が小さく、上部フレームが相対的に下方向に変位する際に、上側動作範囲において作用する前記磁気ばねのばね定数に比べ、下側動作範囲において作用する前記磁気ばねのばね定数が小さくなる軟化ばね特性を有する構成である。磁気ばねは、通常、負のばね特性が生じる領域が振動吸収特性の向上及び共振周波数を低減させるために使われる。そのため、従来、上側動作範囲と下側動作範囲とに跨がって均等に現れるように設定されるのが通常であるが、本発明は上側動作範囲と下側動作範囲でばね定数を変え、上側動作範囲と下側動作範囲とで減衰係数に差を設けている。すなわち、上記の軟化ばね特性により、上側動作範囲よりも磁気ばねの弾性エネルギーが小さい下側動作範囲では、線形ばねとの重畳した全体のばね特性は、上側動作範囲よりも、正方向に現れやすい。その結果、上限フレームが中立位置から下限位置方向へ変位する際には、上側動作範囲及び下側動作範囲の弾性エネルギーが等しくなるように設けられて急激に高いばね定数の正のばね特性となる従来の構造と比較して、相対的にばね定数の低い正のばね特性によって振動や衝撃が徐々に緩和されていくことになるため、下限位置付近での底付き感が軽減される。
【0013】
また、ばね機構全体のばね特性として、下側動作範囲の全ストロークに亘ってばね定数の値は低いものの正のばね特性が作用するため、ダンパーとしては、上部フレームが下限位置方向へ変位する際には、上限位置方向へ変位する際よりも減衰力が低くなるものを用いることができ、この点でも底付き感の低減に寄与できる。本発明は、フレーム用リンク機構を介して上部フレームが支持されているため、構造減衰が小さく、かつ構造系のばね定数が小さい。このような場合、振幅の大きい低周波の入力に対してはダンパーの粘性減衰がよく作用し、共振峰を低減するが、一般的に理想的な減衰比である0.2〜0.4近辺に落ち着かせるようにするためには、本発明のように、伸び側と縮み側の減衰力が異なるダンパーに、ばね機構のばね定数が徐変する構造とを組み合わせることが好ましい。この構成により、上部フレームの中立位置付近となる平衡点において振幅の小さい高周波の入力がなされた場合には、ダンパーの減衰力の小さい下方向の変位に対しては正のばね定数が作用し、ダンパーの減衰力が大きくなる上方向の変位に対しては、下方向に変位する場合よりもばね定数の低い略ゼロの特性が作用して、振動を効率よく吸収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に示した実施形態に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
図1〜
図5は、本発明の第1の実施形態に係るサスペンションである乗用車、トラック、バス、フォークリフト等の乗物用のシートサスペンション1の構造を示す。これらの図に示したように、本実施形態のシートサスペンション1は、略矩形状の上部フレーム10と下部フレーム14とを備え、前部リンク21と後部リンク22とを左右一対ずつ備えた平行リンク構造のフレーム用リンク機構20を介して連結されている。
【0016】
上部フレーム10には、乗物用シート(図示せず)が支持され、下部フレーム14は車体側(例えばフロア(図示せず))に固定される。左右一対の前部リンク21,21の各上部が、上部フレーム10の前縁部10bのやや後方に配置された上側前部フレーム11に連結され、左右一対の後部リンク22,22の各上部が、上部フレーム10の後縁部10cの前方にやや配置された上側後部フレーム12に連結されている。そして、上側前部フレーム11及び上側後部フレーム12の各端部が上部フレーム10の左右一対の側縁部10a,10aに形成した取り付け孔に挿通され、前部リンク21,21及び後部リンク22,22が上部フレーム10及び下部フレーム14の側部付近に位置するように設けられている。これにより、上部フレーム10は、下部フレーム14に対して上下動可能に、より正確には、フレーム用リンク機構20が前部リンク21,21と後部リンク22,22とを備えた平行リンク構造からなるため、前部リンク21,21及び後部リンク22,22の回転軌道に沿って、上限位置である斜め上後方と下限位置である斜め下前方との間を上下動する(
図4及び
図5参照)。
【0017】
上側前部フレーム11及び上側後部フレーム12は、本実施形態ではいずれもパイプ材から形成され、それぞれ、トーションバー41,42が挿入されている(
図3(b)及び
図4参照)。本実施形態では、このトーションバー41,42が、荷重−たわみ特性においてほぼ線形に近い変化となる線形特性を示す線形ばねであり、後述する磁気ばね50と共にばね機構30を構成する。トーションバー41,42の一端は、上側前部フレーム11及び上側後部フレーム12に対してそれぞれ相対回転しないように設けられ、トーションバー41,42は、上部フレーム10を下部フレーム14に対して相対的に離間する方向、すなわち、上方向に付勢する弾性力を発揮するように設定される。トーションバー41,42の他端は、初期位置調整部材15のプレート部材15c,15dにそれぞれ接続されている。初期位置調整部材15は、調整用ダイヤル15bを回転させると、それによって調整用シャフト15aが回転し、その回転によって、前部リンク21,21側のトーションバー41に接続されたプレート部材15cが回転し、さらに、このプレート部材15cに連結版15eを介して連結された後部リンク22,22側のトーションバー42に接続されたプレート部材15dが回転する。従って、調整用ダイヤル15bを回転操作すると、トーションバー41,42がいずれかの方向にねじられ、トーションバー41,42の初期弾性力が調整され、着座者の体重にかかわらず、上部フレーム10を所定の位置(例えば中立位置)に調整できるようになっている。また、上部フレーム10を下部フレーム14に対して相対的に離間する方向に付勢する線形ばねとしては、トーションバー41,42に限らず、コイルスプリング等を用いることも可能である。但し、上部フレーム10のストロークが短い範囲で線形性の高い正のばね定数を得るためには、本実施形態のように、前部リンク21,21及び後部リンク22,22の回転軸部に組み込むことができるトーションバー41,42を用いることが好ましい。
【0018】
磁気ばね50は、
図3及び
図4に示したように、固定マグネットユニット51と可動マグネットユニット52とを備えてなる。固定マグネットユニット51は、下部フレーム14に取り付けられる固定側支持フレーム511と、固定側支持フレーム511に支持され、上下方向に所定間隔をおいて取り付けられた一対の固定磁石512,512とを備えてなる。
【0019】
可動マグネットユニット52は、所定間隔をおいて対向配置される固定磁石512,512間の間隙513に配置される可動磁石521を備えてなる。可動磁石521の各端部は、磁石用リンク522,522の一端が軸支される。磁石用リンク522,522の他端は、上部フレーム10の後縁部10cに設けた取り付けブラケット523に軸支されている。これにより、上部フレーム10が下部フレーム14に接近する方向すなわち下方に変位した際には、磁石用リンク522,522を介して可動磁石521が、固定磁石512,512間の間隙513を前方(
図4(a)の位置から
図4(c)の位置に向かう方向)に移動し、上部フレーム10が下部フレーム14から離間する方向すなわち上方に変位した際には、磁石用リンク522,522を介して可動磁石521が、固定磁石512,512間の間隙513を後方(
図4(c)の位置から
図4(a)の位置に向かう方向)に移動する。
【0020】
磁気ばね50は、可動磁石521が固定磁石512,512の間隙513を移動することにより発揮されるばね特性が、可動磁石521と固定磁石512,512との相対位置によって変化し、荷重−たわみ特性が非線形特性を示す。より具体的には、磁気ばね50は、荷重−たわみ特性において、線形ばねであるトーションバー41,42の弾性力(復元力)の作用方向すなわち上部フレーム10を下部フレーム14に対して離間させる方向に復元力が増加する特性を正のばね特性とした場合に、所定の変位量範囲では、当該方向への復元力が減少する負のばね特性を示す。
【0021】
このような特性を示す磁気ばね50としては、例えば、対向配置される固定磁石512,512として、それぞれ厚み方向に着磁したものを2個ずつ用い、いずれも可動磁石521の移動方向に沿って異極同士が隣接するように配置する一方、可動磁石521はその着磁方向がその移動方向と同じになるように構成することにより、異極同士が隣接する2つの固定磁石512,512の境界を横切る位置付近において負のばね特性を発揮する構造とすることができる。
【0022】
この結果、磁気ばね50と上記したトーションバー41,42とを備えてなる本実施形態のばね機構30は、磁気ばね50における負のばね特性が機能する範囲においては、トーションバー41,42の正のばね特性のばね定数(正のばね定数)と磁気ばね50の負のばね特性範囲のばね定数(負のばね定数)とがほぼ同じになるように調整することで、両者を重畳したばね機構30全体として、変位量が増加しても負荷荷重が変化しない定荷重領域すなわちばね定数が略ゼロ(好ましくは、約−10N/mm〜約10N/mmの範囲)になる領域を有することになる。このばね定数が実質的に略ゼロになる領域をできるだけ有効利用するためには、上部フレーム10の中立位置において、可動マグネットユニット52の可動磁石521は、その中央位置が、異極同士が隣接する2つの固定磁石512,512の境界に略一致するようにセットされることが好ましい。
【0023】
ここで、本実施形態では、上部フレーム10の中立位置及び上限位置間を上側動作範囲Uとし、上部フレーム10の中立位置及び下限位置間を下側動作範囲Lとし、さらに、上側動作範囲U内の中途位置を境として、中立位置から該中途位置までの間を第1上側動作範囲U1とし、該中途位置から上限位置までの範囲を第2上側動作範囲U2とした場合に、第1上側動作範囲U1に対応する可動磁石521の移動範囲MU1において、トーションバー41,42の正のばね定数とほぼ同じ絶対値の負のばね定数の生じるように調整する(
図5参照)。上部フレーム10の中立位置の際に、可動マグネットユニット52の可動磁石521の中央位置が、異極同士が隣接する2つの固定磁石512,512の境界に略一致するようにセットされている場合、上部フレーム10が中立位置から下限位置方向に動作する下側動作範囲Lの中途位置に対応する可動磁石521の移動位置までは、負のばね定数が生じるが、本実施形態では、第1上側動作範囲U1に対応する移動範囲MU1において発生する負のばね定数よりも、絶対値でばね定数が小さくなるように、すなわち、可動磁石521が固定磁石512,512に対して相対的に移動することにより発生する磁力による弾性エネルギーが、上側動作範囲Uに対応する移動範囲MUよりも、下側動作範囲Lに対応する移動範囲MLの方が小さくなるように設けられている。
【0024】
そのため、本実施形態では、可動磁石521が、上部フレーム10の上側動作範囲Uに対応する移動範囲MUの移動量よりも、上部フレーム10の下側動作範囲Lに対応する移動範囲MLの移動量の方が小さくなるように、好ましくは、1/2以下になるように設けられている。例えば、上部フレーム10の上側動作範囲U及び下側動作範囲Lがともに同じ20mmである場合に、上側動作範囲Uに対応する可動磁石521の移動範囲MUの移動量が上側動作範囲Uとほぼ同じ距離(例えば約20mm)であったとしても、下側動作範囲Lに対応する可動磁石521の移動範囲MLの移動量はそれよりも短い距離(例えば、10mm以下)となるように設定する。それにより、上側動作範囲Uに対応する可動磁石521の移動範囲MUでは、可動磁石521が固定磁石512,512間の間隙513を例えば約20mm移動するため、その際に発生するばね特性が、上側動作範囲の20mmのストロークにほぼ1対1で対応して作用する。これに対し、下側動作範囲Lでは、可動磁石521がより短い距離例えば約10mm移動する間のばね特性が、下側動作範囲の20mmのストロークに配分されて作用することになる。その結果、下側動作範囲Lにおいて作用する磁気ばね10の弾性エネルギーは、上側動作範囲Mにおいて作用する磁気ばね10の弾性エネルギーよりも小さくなる。
【0025】
すなわち、
図7に示したように、磁気ばね50は、上部レーム10の下側動作範囲Lに対応する移動範囲MLでの移動によって生じるばね特性が、正負いずれであっても、そのばね定数の値(荷重−たわみ特性における傾き)は、上側動作範囲Uに対応する移動範囲MUでの負のばね特性及び正のばね特性の各ばね定数の値(荷重−たわみ特性における傾き)よりも小さくなる。従って、トーションバー41,42の正のばね定数が、磁気ばね50の負のばね定数とほぼ一致するように調整した場合、ばね機構30全体では、第1上側動作範囲U1は、ばね定数が略ゼロの定荷重領域となり、第2上側動作範囲U2では、正のばね定数同士が重畳されて、より傾き角度のきついより値の高い正のばね定数が作用する領域(高ばね定数領域)となる。従って、着座動作時や衝撃性振動によって下方向への荷重が大きくかかった場合には、第2上側動作範囲U2に対応した高い値の正のばね特性により、体重をしっかりと支持しつつ、平衡点位置に誘導できる。
【0026】
これに対し、下側動作範囲Lでは、磁気ばね50のばね定数が、上側動作範囲Uよりも小さいため、トーションバー41,42の正のばね定数を重畳したばね機構30全体としては、磁気ばね50のばね定数が負の範囲であれば、トーションバー41,42の正のばね定数の値よりも小さい正のばね定数値となる。磁気ばね50のばね定数が正の範囲であっても、そのばね定数の値が小さいため、トーションバー41,42の正のばね特性が重畳されたばね機構30全体の値も、上記第2上側動作範囲U2と比較して小さな値となる。すなわち、下側動作範囲Lでは、上部フレーム10の中立位置から下限位置までの全ストロークにおいて、ばね機構30全体として緩やかな正のばね定数が作用する領域(低ばね定数領域)となる。これにより、上部フレーム10の中立位置から下限位置までの範囲では、ばね機構30全体の緩やかな正のばね特性によって徐々に振動や衝撃を吸収するように作用し、底付き感を抑制することができる。
【0027】
上部フレーム10の上側動作範囲U及び下側動作範囲Lの最大ストロークがほぼ同じであるにも拘わらず、下側動作範囲Lに対応した可動磁石521の移動範囲MLの移動量を、上側動作範囲Uに対応した可動磁石521の移動範囲MUの移動量よりも短くするため、本実施形態では、次のような構成を採用している。まず、固定磁石512,512を、上部フレーム10の上下移動方向に直交する方向(上部フレーム10は車体のフロアに垂直な方向に上下動するため、フロアに平行な方向)に配置し、可動磁石521の通路となる固定磁石512,512間の間隙513をフロアに平行となるように、固定側支持フレーム511を介して、上部フレーム10の中立位置より下方の位置、好ましくは下部フレーム14に取り付ける。これにより、可動磁石521の移動方向が、上部フレーム10の移動方向に直交し、フロアに平行になる。可動磁石521の軸支点と上部フレーム10との軸支点を結んだ側面から見た仮想線が、上部フレーム10のフロアに対する角度で、下限位置において−10〜10度となるように設定されていることが好ましい。また、可動磁石521の軸支点と上部フレーム10との軸支点を結んだ側面から見た仮想線が、上部フレーム10のフロアに対する角度で、上限位置においては30〜60度となる範囲とするとさらに好ましい。また、固定マグネットユニット51のシートサスペンション1における前後位置を調整して、磁石用リンク522の取り付けブラケット523の軸支位置から可動磁石521の軸支位置までの長さを調整することによっても、可動磁石521の移動範囲MLの移動量及び移動範囲MUの移動量に対する下側動作範囲L及び上側動作範囲Uの最大ストロークを増減することができる。なお、可動磁石521の移動範囲MUの移動量及び移動範囲MLの移動量は、MUの移動量:MLの移動量の比で2:1〜5:1の範囲に設定されることが好ましい。
【0028】
また、本実施形態のシートサスペンション1は、振動を減衰させるためのダンパー60が設けられている。本実施形態で用いたダンパー60は、ピストンロッド61と、このピストンロッド61に取り付けられたピストンが内部を往復動作するシリンダ62とを有する伸縮式ダンパーである。ピストンロッド61の端部61aは、上部フレーム10の後方寄りに幅方向に掛け渡された上側後部フレーム12に、ブラケット61b及び軸部材61cを介して軸支され(
図1及び
図2(a),(b)参照)、シリンダ62の端部62aは、下部フレーム14の前方寄りに幅方向に掛け渡して設けた下部前方パイプ14aに、ブラケット62b及び軸部材62cを介して軸支されている(
図2(a),(b)参照)。これにより、上部フレーム10が平行リンク構造からなるフレーム用リンク機構20を介して下部フレーム14に対して円弧運動するように離接動作すると、ピストンロッド61に取り付けられたピストンがシリンダ62内を直動して往復し、所定の減衰力を発揮する。
ここで、本実施形態では、上側後部フレーム12は、上部フレーム10が相対的に上下動することに伴って、トーションバー42に対して回転するように設けられており、また、ブラケット61bは、上側後部フレーム12に、前方に突出するように設けられている。従って、上部フレーム10の上下動に伴って、ブラケット61bは上側後部フレーム12を回転中心として上下に回転運動を行う。ピストンロッド61の端部61aは、このブラケット61bに軸支されるため、特許文献1のように、上部フレーム10の側部フレーム10aに直接軸支した構造と比較して、上下に回転運動を行う分、ピストンの往復動作量を増すことができ、ダンパー60による減衰力を高めることができる。なお、このブラケット61bの上下の回転運動については、後述する第2の実施形態においてさらに詳細に説明する。
【0029】
本実施形態では、線形ばねを構成するトーションバー41,42及び磁気ばね50から構成されるばね機構30として、上部フレーム10の下側動作範囲Lでは、緩やかな正のばね特性が作用し、上側動作範囲Uのうち、第1上側動作範囲U1はばね定数略ゼロの定荷重領域となり、第2上側動作範囲U2ではばね定数が大きい正のばね特性の領域となっている。すなわち、上部フレーム10が下限位置方向(底付き方向)に変位する場合には、中立位置よりも下限位置方向に向かう段階で緩やかな正のばね特性の力を受け、下側動作範囲Lの全てのストロークを使って緩やかに緩衝されていくが、上限位置方向(天付き方向)に変位する場合には、中立位置から中途位置の第1上側動作範囲U1を過ぎて上限位置に向かうに従って、正のばね特性が作用する。従って、ダンパー60は、上限位置方向に動作する際には、強いばね特性の力を吸収して緩和するため、ダンパー60の減衰力が強く作用するものが望ましく、逆に、下限位置方向に動作する際には、ばね機構30の正のばね特性が緩やかに徐々に作用していくため、ダンパー60の減衰力もそれに見合った減衰力であればよい。
すなわち、ダンパー60としては、上部フレーム10が上限位置方向に変位する際の伸び側の減衰力が高く、下限位置方向に変位する際の縮み側の減衰力が低いものを用いることが好ましい。
【0030】
本実施形態によれば、人が着座した状態における平衡点を、上部フレーム10の中立位置(例えば、上限位置と下限位置との中間)付近に一致するように初期位置調整部材15の調整用ダイヤル15bを操作して調整する。この状態で、路面の凹凸等によって振動が入力されると、上部フレーム10は、前部リンク21,21及び後部リンク22,22からなる平行リンク構造からなるフレーム用リンク機構20により、下部フレーム14に対して、前部リンク21,21及び後部リンク22,22の各下端部を支点として、円弧運動するように上下動する。この振動による上部フレーム10の振幅が所定以下の場合(上方向への変位量で第1上側動作範囲U1内に収まる場合)には、ばね機構30全体では、第1上側動作範囲U1に対応したばね定数略ゼロの定荷重領域と下側動作範囲L内のばね定数の値が小さい低ばね定数領域によって除振される。下側動作範囲L内であっても、中立位置からの変位量が所定以下の場合には、磁気ばね50は、絶対値が小さいながらも負のばね定数の特性となっているため、トーションバー41,42の正のばね定数が重畳されても、これらを組み合わせたばね機構30全体のばね定数はトーションバー41,42のばね定数よりも小さい。そのため、大きな反力が生じることなく除振される。
【0031】
路面の大きな凹凸等によって衝撃性振動が入力された場合には、上部フレーム10が上限位置近くにまで変位する。この際には、ダンパー60の大きな減衰力が作用し、衝撃力を緩和、減衰しつつ天付きを抑制する。上部フレーム10が下限位置近くまで変位する場合には、中立位置から下限位置までばね機構30全体で緩やかな正のばね定数が作用すると共に、ダンパー60の弱めの減衰力も作用して、衝撃を下側動作範囲Lの全ストロークを使って徐々に緩和、減衰して、底付きを抑制する。従って、従来の構造と比較して、急激に減衰力が大きくなることに伴う底付き感が軽減される。なお、上部フレーム10の側縁部10aには、底付き防止用の緩衝用ゴム部材70が設けられているため、底付き時には、この緩衝用ゴム部材70の弾性が作用し、上部フレーム10に上方向への反発力を付与し、底付き感を和らげる。
また、初期位置調整部材15の調整用ダイヤル15bを操作して、着座状態での平衡点を、第1上側動作範囲U1内の中間付近にもっていくと、上部フレーム10の上下変位量が所定以下の場合には、ばね定数略ゼロの定荷重領域で、上方向への変位だけでなく下方向の変位も除振できる。
【0032】
(試験例)
第1の実施形態に係るシートサスペンション1について、静荷重特性、振動伝達特性等に関する試験を行った。
まず、本実施形態に係るシートサスペンション1において用いたトーションバー41,42と磁気ばね50を組み合わせたばね機構30の静荷重特性、トーションバー41,42の静荷重特性、磁気ばね50の静荷重特性を、
図7に示す。
図7において、横軸は、0mmが上部フレーム10の中立位置であり、正の値が、上部フレーム10の中立位置(0mm)から下限位置(+20mm)に至るまでの下側動作範囲Lの変位量を示し、負の値が、上部フレーム10が中立位置(0mm)から上限位置(−20mm)に至るまでの上側動作範囲Uの変位量を示す。
【0033】
なお、磁気ばね50の可動磁石521は、
図6に示したように、上部フレーム10の上側動作範囲Uに対応する移動範囲MUでは、最大移動量18.4mm、下側動作範囲Lに対応する移動範囲MLでは最大移動量8.9mmになっている。
【0034】
このような設定になっているため、本試験例の磁気ばね50は、
図7の荷重−たわみ特性において、上部フレーム10の変位量で、約−12mmのポイント(上側動作範囲Uの中途位置に相当)を境として傾きが正負で逆転する。従って、本試験例のシートサスペンション1は、0mmから約−12mmまでの範囲が第1上側動作範囲U1、約−12mmから−20mm(上限位置)までの範囲が第2上側動作範囲U2となる。この間のばね定数を比較すると、第1上側動作範囲U1では、トーションバー41,42は約+20N/mm、磁気ばね50は約−14N/mm、両者を合わせたばね機構30全体で約+6N/mmとなっており、ばね定数が絶対値で10N/mm以下で推移する定荷重領域となっている。第2上側動作範囲U2では、トーションバー41,42は約+23N/mm、磁気ばね50は約+14N/mm、両者を合わせたばね機構30全体で約+37N/mmとなっており、トーションバー41,42よりも高い値の正のばね定数になっている。
【0035】
一方、下側動作範囲Lでは、磁気ばね50のばね定数が−4N/mmから+1N/mmの範囲となっており、いずれも、トーションバー41,42のばね定数よりも絶対値の小さい値となっており、両者を重畳したばね機構30全体のばね定数でも、トーションバー41,42のばね定数をやや下回るかほぼ同程度の緩やかな正のばね定数となる。より厳密には、磁気ばね50のばね定数が、上部フレーム10の変位量で、約+13mmのポイントを境として傾きが正負で逆転する。0mmから+13mmの範囲では、トーションバー41,42は約+18N/mm、磁気ばね50は約−4N/mmとなっており、両者を合わせたばね機構30全体で約+14N/mmとなっている。+13mmから+20mm(下限位置)の範囲では、トーションバー41,42は約+17N/mm、磁気ばね50は約+1N/mmとなっており、両者を合わせたばね機構30全体で約+18N/mmとなっている。
ダンパー60としては、ピストンスピード0.3m/sでの減衰力が伸び側で1370N、縮み側で380Nのものを用いている。
【0036】
次に、トーションバー41,42、磁気ばね50及びダンパー60を備えたシートサスペンション1を試験例1(「トーションバー+磁気ばね+ダンパー」)とし、トーションバー41,42及び磁気ばね50はそのままで、ダンパー60を取り外した構造を試験例2(「トーションバー+磁気ばね」)とし、トーションバー41,42及びダンパー60はそのままで、磁気ばね50を取り外した構造を比較例1(「トーションバー+ダンパー」)とし、トーションバー41,42はそのままで、磁気ばね50とダンパー60を取り外した構造を比較例2(「トーションバー」)として、それぞれのシートサスペンションの上部フレームに天板を取り付け、その上に被験者を着座させて試験を行った。なお、被験者は、健常な40歳代の日本人男性1名で、体重76kg、身長167cmであった。
【0037】
試験例1、試験例2、比較例1及び比較例2の静荷重特性は
図8に示したとおりであった。なお、
図8の横軸の0mm、20mm、40mmは、それぞれ、
図7の横軸の−20mm、0mm、+20mmに相当する。また、振動試験等は、初期位置調整部材15の調整により、被験者が着座した際の静的な状態での平衡点を、上部フレーム10の中立位置である平衡点A(
図8の横軸で20mm、
図7の横軸で0mmの位置)に合わせた場合と、ばね定数が略ゼロの定荷重領域の中でも特にばね定数の値がゼロに近い
図8の横軸で15mm(
図7の横軸で−5mm)の位置である平衡点Bに合わせた場合について測定した。
また、試験例のシートサスペンション1について、
図9の平衡点A及び平衡点Bにおける減衰比を、それぞれ、下方向(上限位置(上死点)から下限位置(下死点)方向)に移動する場合、上方向(下限位置(下死点)から上限位置(上死点)方向)に移動する場合について求めた。減衰比を求める際のシートサスペンション1の減衰係数としては、ダンパー60が、下部フレーム14を水平の床面に載置したときに、床面に対して約20度の角度で取り付けられていることから、ダンパー60の上記減衰力の分力をsin20度で求め、ピップバースト波:1.5Hz、速度:0.00225m/sの値を用いて、伸び側:469Ns/m、縮み側:130Ns/mと算出した。ばね定数としては、平衡点Aでは共振周波数2.6Hzのときの動ばね定数:15104N/mの値を用い、平衡点Bでは共振周波数2.2Hzのときの動ばね定数:10845N/mの値を用いた。
その結果、減衰比は、平衡点Aでは、下方向:0.071、上方向:0.255であり、平衡点Bでは、下方向:0.085、上方向:0.235であった。
本実施形態では、下方向に移動する場合は、減衰比が小さく、ばね機構30の正のばね定数が作用して、それにより徐々に緩衝されていくが、上方向に移動する場合には、下方向よりも大きな減衰比が作用し、振動、衝撃を効率よく減衰できる構造である。しかも、上方向の減衰比は、平衡点Aで0.255、平衡点Bで0.235であり、自動車用サスペンションとして最適とされる0.25付近の値となっている。
また、上記の平衡点A,B付近のばね定数(静ばね定数)は、上記のように約6N/mm〜約14N/mmであり、上記の動ばね定数も約10N/mm〜約15N/mmと極めて低く、しかもシートサスペンション1のクーロン摩擦力も約100Nと比較的小さいことから、姿勢の変化や入力振動等によって平衡点が変位しても、高い除振性能が期待できる。また、後述するSEAT値の評価で示したように、本実施形態の構造は、入力スペクトルクラスEM6(励振中心周波数7.6、PSDの最高値0.34(m/s
2)
2/Hz)と、入力スペクトルクラスEM8(励振中心周波数3.3、PSDの最高値0.4(m/s
2)
2/Hz)という、異なる2つの規格に対して、そのいずれの基準も満たす結果が得られている。これは、シートサスペンション1のばね定数、減衰比を、上方向に変位する場合、下方向に変位する場合とで異ならせた構造とすることにより、着座者の重心位置や入力振動等に対応して変化する平衡点において、上記のように、異なる減衰比が作用することによる。
【0038】
(振動試験)
振動試験は、試験例及び比較例の各シートサスペンションを上下方向1軸加振機上にセットした上で、被験者を天板上に着座させ、振幅±1mmの正弦波対数掃引波形(0.5〜15Hz)で加振して実施した。結果を
図10に示す。なお、
図10において、試験例1A、試験例2A、比較例1A及び比較例2Aは、被験者が着座したときの平衡点を
図8の「平衡点A」に調整した場合を、試験例1B、試験例2B、比較例1B及び比較例2Bは、被験者が着座したときの平衡点を
図8の「平衡点B」に調整した場合のデータである。
まず、ダンパー60を備えておらず、磁気ばね50の有無で違いのある試験例2A,2Bと比較例2A,2Bとを比較すると、試験例2A,2Bの方が共振点における振動伝達率が遙かに低い。ダンパー60を備えているものの、磁気ばね50の有無で違いのある試験例1A,1Bと比較例1A,1Bとを比較した場合には、試験例1A,1Bの方が共振周波数が若干低いだけでなく、4Hz以降では振動伝達率が顕著に低くなっている。従って、磁気ばね50が振動伝達特性の改善に貢献していることがわかる。
【0039】
(衝撃性試験)
衝撃性振動の計測は、低周波数(1.5Hz)のピップバースト波形による大振幅(最大加速度0.28Gの波形により評価した。なお、この試験では、ダンパー60を取り外したものは被験者への負荷が大きくなるため、ダンパー60を有する試験例1A,1B及び比較例1A,1Bについて実施した。
図11(a)は、試験例1A,1Bの結果を示し、
図11(b)は、比較例1A,1Bの結果を示す。
【0040】
試験例1Aと試験例1Bとを比較すると、平衡点Bの試験例1Bの加速度が若干が高く、比較例1Aと比較例1Bとを比較した場合も、同じく平衡点Bの比較例1Bの加速度が若干高かった。なお、試験例1Aと比較例1A同士、試験例1Bと比較例1B同士とを比較したところでは、大きな差は認められなかったが、いずれにしても、上部フレーム10のストロークエンドでの衝突の発生がなく、使用したダンパー60が適正であることが示された。
【0041】
(SEAT値の評価)
JIS A 8304:2001(ISO 7096:2000)に基づいて、SEAT値(Seat Effective Amplitude Transmissibility factor)を求めた。シートサスペンションを、フォークリフトの運転席シートに用いる場合を想定して、「50,000kg以下のクローラ式トラクタドーザ」の基準である入力スペクトルクラスEM6(励振中心周波数7.6、PSDの最高値0.34(m/s
2)
2/Hz)で行った試験の結果が
図12(a)である。得られたSEAT値は、試験例1Aが0.55、試験例1Bが0.58、比較例1が0.58、比較例1Bが0.69であった。EM6のSEAT値の基準が0.7未満であるため、比較例1A,1Bも基準を満たしていたが、試験例1A,1Bの方がよい結果であった。また、「4,500kg以下のコンパクトローダ」の基準である入力スペクトルクラスEM8(励振中心周波数3.3、PSDの最高値0.4(m/s
2)
2/Hz)で行った試験の結果が
図12(b)である。得られたSEAT値は、試験例1Aが0.76、試験例1Bが0.72であり、それぞれ、比較例1の0.84、比較例1Bの0.85よりもよい結果であった。EM8のSEAT値の基準が0.8未満であるため、試験例1A,1Bは基準を満たしていた。
【0042】
また、7.6Hzという比較的高い周波数帯に卓越周波数を持つEM6では、試験例1Aの方が試験例1Bよりもよく、3.3Hzという比較的低い周波数帯に卓越周波数を持つEM8では試験例1Bの方がよい結果が得られた。
【0043】
(平衡点の変化量)
図13は、被験者が着座した際の静的な状態での平衡点と、振動している場合の動的な状態での平衡点の変化量を周波数別に示したデータである。
比較例1Aはほとんど変化が見られないが、試験例1Aは3mm前後、試験例1Bは4mm前後、静的な状態よりも動的な状態の方の平衡点が上昇している。これは、フレーム用リンク機構20の摩擦が静摩擦から動摩擦に変わることで、磁気ばねの減衰域(負のばね特性の領域)の振動吸収性が向上することによると考えられ、特に、入力加速度が大きい場合に高い効果を示す。また、平衡点Bの試験例1Bは、平衡点Aの試験例1Aと比較して、動摩擦がより小さく、比較的高い周波数帯の入力振動に除振に適している。このことから、試験例1A,1Bを含む本実施形態のシートサスペンション1は、入力振動に応じて平衡点が変わることで、幅広い入力振動に対応可能な除振機構であると言える。
【0044】
次に、
図14〜
図17に基づき、本発明の第2の実施形態に係るシートサスペンション100について説明する。なお、第1の実施形態と同一の機能を果たす部材については、同一の符号で示す。本実施形態のシートサスペンション100は、上部フレーム10の下部フレーム14に対して、平行リンク構造となっている前部リンク21,21及び後部リンク22,22を介して上下動する点で上記第1の実施形態と同様であるが、上下ストローク量を第1の実施形態よりも増加させている点で異なる(
図16参照)。磁気ばね50に用いる固定磁石512,512及び可動磁石521のサイズは上記第1の実施形態と同じであり、上部フレーム10の中立位置における可動磁石521と固定磁石512,512との相対位置も上記第1の実施形態と同様である。但し、固定磁石512を支持している固定側磁石支持フレーム511は、可動磁石521が上側動作範囲Uに対応する移動範囲MUを移動する際、固定磁石512,512の対向範囲を超えて移動できるように、可動磁石521の通路となる間隙513の長さをシートサスペンション100の後方に上記第1の実施形態よりも長くした構造となっている。
【0045】
また、
図14〜
図15に示したように、上側後部フレーム12には、前側斜め上方に突出するように補助フレーム121が設けられている。そして、この補助フレーム121に、斜め下方に突出するように、ダンパー60のピストンロッド61の端部61aが軸支されるブラケット(以下、「ピストンロッド用ブラケット」)61bを 設けている。また、本実施形態では、
図14(b)に示したように、補助フレーム121において、ピストンロッド用ブラケット61bに隣接して、可動磁石521を支持する磁石用リンク522の端部が軸支されるブラケット(以下、磁石リンク用ブラケット」)523が設けられている。上側後部フレーム12は、上記第1の実施形態と同様に、上部フレーム10の上下動に伴って回転するため、上側後部フレーム12に取り付けられた補助フレーム121がその回転に伴って、上部フレーム10の上限位置から下限位置に向かうに従って前側斜め下方に回転する。そのため、この補助フレーム121に取り付けられたピストンロッド用ブラケット61bと磁石リンク用ブラケット523も、補助フレーム121と同方向に回転する。
また、ピストンロッド用ブラケット61bと磁石リンク用ブラケット523が、上側後部フレーム12ではなく、前側斜め前方に突出している補助フレーム121に取り付けられているため、ダンパー60及び磁石用リンク522のストロークを、上記第1の実施形態よりも大きくとることができる。
【0046】
また、ダンパー60のシリンダ62の端部62aと磁気ばね50の固定磁石512,512を支持する固定側磁石支持フレーム511とを取り付けるための下部取付プレート141が下部フレーム14に固定されている。また、
図14(b),(c)に示したように、下部取付プレート141は、磁気ばね支持部141aとダンパー支持部141bとがシートサスペンション100の幅方向に隣接しているが、ダンパー支持部141bの取付面の高さは、磁気ばね支持部141aの取付面の高さよりも若干下方になっている。ダンパー支持部141bの前方側端部には、シリンダ62の端部62aを軸支するブラケット(以下、「シリンダ用ブラケット」)62bが設けられているが、このシリンダ用ブラケット62bの高さをより低めに配置することで、ダンパー60のストロークをより大きくとることができる。
【0047】
本実施形態によれば、上記のように、磁石リンク用ブラケット523が、前側斜め前方に突出している補助フレーム121に取り付けられている。従って、
図16(c)に示したように、上部フレーム10の中立位置において、可動マグネットユニット52の可動磁石521を、その中央位置が、異極同士が隣接する2つの固定磁石512,512の境界に略一致するようにセットした場合、可動磁石521は、上部フレーム10の中立位置から上限位置(この例では、中立位置から29mm上方の位置(
図16(a)))までの上側動作範囲Uに対応する後方への移動範囲MUの移動量が、最大で43mmとなる。
【0048】
一方、上部フレーム10の中立位置から下限位置(この例では、中立位置から25.6mm下方の位置(
図16(e)))までの下側動作範囲Lに対応する可動磁石521の前方への移動範囲MLの移動量は、最大で10.6mmとなる。
【0049】
また、ダンパー60も、上記のように、前側斜め前方に突出している補助フレーム121と、取付面の高さを低くしたダンパー支持部141bとの間に設けられ、かつ、補助フレーム121が前側斜め下方と後ろ側斜め上方との間で回転する構成である。従って、第1の実施形態よりも、上部フレーム10の上下ストローク量を増加させることができる。
すなわち、上記のように、本実施形態のシートサスペンション100は、中立位置から上限位置までの上側動作範囲Uのストロークが29mm、中立位置から下限位置までの下側動作範囲Lのストロークが25.6mm、上限位置から下限位置までの全ストロークが合計54.6mmであり、中立位置を基準として上下にそれぞれ20mm、上限位置から下限位置までの全ストロークが40mmの第1の実施形態よりも14.6mm長いストロークになっている。本実施形態は、第1の実施形態と磁気ばね50及びダンパ−60として同じサイズのものを使用しているものの、上記の構成により、可動磁石521の固定磁石512,512間の間隙513に沿った移動量及びピストンロッド61に支持されたピストンのシリンダ62内の移動量が大きくなっているため、上部フレーム10の上下ストローク量の増大に対応できている。
【0050】
図17は、本実施形態のシートサスペンション100の静荷重特性を示す。この図に示したように、本実施形態においても、磁気ばね50は、上側動作範囲Uの中途位置を境にばね定数が正負で切り替わり、負のばね特性の範囲でトーションバー31,41の正のばね特性が重畳されて、ばね定数略ゼロの定荷重領域が形成されている。また、上側動作範囲Uに対応する可動磁石521の移動量よりも、下側動作範囲Lに対応する可動磁石521の移動量が小さいため、上側動作範囲Uとの対比で、下側動作範囲Lでは、ばね定数が絶対値で小さくなっており、軟化ばね特性を示している。従って、下側動作範囲Lでは、ばね機構30全体として、緩やかな正のばね定数が機能し、上部フレーム10の下部フレーム14に対するストローク量が増大しても、上記第1の実施形態と同様の作用、効果を奏する。