特許第6804059号(P6804059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804059
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】薬液注入工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20201214BHJP
   E02D 3/115 20060101ALI20201214BHJP
   C09K 17/46 20060101ALI20201214BHJP
   E21D 11/00 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   E02D3/12 101
   E02D3/115
   C09K17/46 P
   E21D11/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-204315(P2016-204315)
(22)【出願日】2016年10月18日
(65)【公開番号】特開2018-65901(P2018-65901A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】笹原 茂生
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 大地
(72)【発明者】
【氏名】松山 雄司
(72)【発明者】
【氏名】西田 与志雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】西田 泰夫
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−305061(JP,A)
【文献】 特開昭58−052383(JP,A)
【文献】 特開昭57−002389(JP,A)
【文献】 特開平06−207174(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105155544(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00 −17/52
E02D 3/115− 3/12
E21D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤注入剤を地盤に注入する薬液注入工法であって、
前記地盤注入剤は、
(a)多価アルコール及び/又はオキソ酸エステル類、及び(b)ケイ酸ソーダを含み、
少なくとも、前記(a)にオキソ酸エステル類が含まれない場合は、(c)酸及び/又は塩類をさらに含
前記地盤に注入した前記地盤注入剤が固結してから、前記地盤を凍結させる薬液注入工法
【請求項2】
請求項1に記載の薬液注入工法であって、
前記多価アルコールは、グリセリン、エチレングリコール、及びトリメチロールエタンから成る群から選択される1以上である薬液注入工法
【請求項3】
請求項1又は2に記載の薬液注入工法であって、
前記オキソ酸エステル類は、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、及び3-ホスホグリセリン酸から成る群から選択される1以上である薬液注入工法
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬液注入工法であって、
前記酸は、硫酸、リン酸、及びクエン酸から成る群から選択される1以上である薬液注入工法
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬液注入工法であって、
前記塩類は、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、り
ん酸二水素カリウム、りん酸二水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、重りん酸アルミニウム、及びトリポリリン酸ナトリウムから成る群から選択される1以上である薬液注入工法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は地盤注入剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル、立坑、ビルの地下等の地下における築造において、地盤注入剤が使用される。地盤注入剤は、トンネルの切羽や土留め壁背面の地盤の安定、地下水の流入防止等を目的として使用される。従来の地盤注入剤は、ケイ酸ソーダと硬化剤とから成る。地盤注入剤は地盤に注入され、ケイ酸ソーダがゲル化することにより固結する(特許文献1参照)。注入された地盤注入剤が固結することで、地盤の強度や、地盤の止水性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−63834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地盤注入剤と、凍結工法とを併用することがある。凍結工法とは、地盤に凍結管を挿入し、この凍結管に冷媒を送り込むことにより、地盤中の地下水を凍結させる工法である。地盤注入剤と凍結工法と併用する場合、凍結工法と併用しない場合に比べて、地盤注入剤を注入した地盤の強度が低下してしまう。
【0005】
本開示の一局面は、凍結工法と併用した場合でも、地盤の強度が低下し難い地盤注入剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、(a)多価アルコール及び/又はオキソ酸エステル類、及び(b)ケイ酸ソーダを含み、少なくとも、前記(a)にオキソ酸エステル類が含まれない場合は、(c)酸及び/又は塩類をさらに含む地盤注入剤である。
【0007】
本開示の一態様である地盤注入剤を用いれば、地盤注入剤と凍結工法と併用した場合でも、地盤注入剤を注入した地盤の強度が低下し難い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の実施形態を説明する。本開示の地盤注入剤は、(a)多価アルコール及び/又はオキソ酸エステル類、及び(b)ケイ酸ソーダを含む。本開示の地盤注入剤は、多価アルコールとオキソ酸エステル類との両方を含んでいてもよいし、どちらか一方のみを含んでいてもよい。
【0009】
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、トリメチロールエタン等が挙げられる。これらの多価アルコールを含む場合、本開示の地盤注入剤は、地盤注入剤と凍結工法とを併用した場合における地盤の強度の低下を一層抑制することができる。本開示の地盤注入剤が含む多価アルコールは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0010】
オキソ酸エステル類は、分解反応により多価アルコールを生成する。また、オキソ酸エステル類は、例えば、分解反応により、(c)成分を生成する。オキソ酸エステル類としては、例えば、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、3-ホスホグリセリン酸等が挙げられる。これらのオキソ酸エステル類を含む場合、本開示の地盤注入剤は、地盤注入剤と凍結工法とを併用した場合における地盤の強度の低下を一層抑制することができる。本開示の地盤注入剤が含むオキソ酸エステル類は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0011】
本開示の地盤注入剤における(a)成分の濃度は、1〜80質量%が好ましく、5〜60質量%が一層好ましく、10〜40質量%が特に好ましい。(a)成分の濃度がこれらの範囲内である場合、地盤注入剤と凍結工法とを併用した場合における地盤の強度の低下を一層抑制することができる。なお、(a)成分の濃度とは、地盤注入剤の全質量(溶媒も含む)を100質量%としたときの(a)成分の濃度を意味する。
【0012】
ケイ酸ソーダは、メタケイ酸ソーダであってもよいし、それ以外のケイ酸ソーダであってもよい。メタケイ酸ソーダとしては、例えば、JIS規格における1種又は2種のメタケイ酸ソーダが挙げられる。1種のメタケイ酸ソーダでは、SiOの質量比が27.5〜29質量%であり、NaOの質量比が28.5〜30質量%である。2種のメタケイ酸ソーダでは、SiOの質量比が19〜22質量%であり、NaOの質量比が20〜22質量%である。1種及び2種のメタケイ酸ソーダにおいて、NaOに対するSiOのモル比は1程度である。
【0013】
本開示の地盤注入剤における(b)成分の濃度は、5〜90質量%が好ましく、10〜70質量%が一層好ましく、20〜50質量%が特に好ましい。(b)成分の濃度がこれらの範囲内である場合、地盤注入剤と凍結工法とを併用した場合における地盤の強度の低下を一層抑制することができる。なお、(b)成分の濃度とは、地盤注入剤の全質量(溶媒も含む)を100質量%としたときの(b)成分の濃度を意味する。
【0014】
本開示の地盤注入剤は、少なくとも、(a)成分にオキソ酸エステル類が含まれない場合は、(c)酸及び/又は塩類をさらに含む。(c)成分は、本開示の地盤注入剤の硬化を一層促進する。本開示の地盤注入剤は、(a)成分にオキソ酸エステル類が含まれる場合も、(c)成分を含んでいてもよい。
【0015】
本開示の地盤注入剤は、酸と塩類との両方を含んでいてもよいし、どちらか一方のみを含んでいてもよい。酸としては、例えば、硫酸、リン酸、クエン酸等が挙げられる。これらの酸を含む場合、本開示の地盤注入剤は、地盤注入剤と凍結工法とを併用した場合における地盤の強度の低下を一層抑制することができる。本開示の地盤注入剤が含む酸は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0016】
塩類としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、りん酸二水素カリウム、りん酸二水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、重りん酸アルミニウム、トリポリリン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0017】
これらの塩類を含む場合、本開示の地盤注入剤は、地盤注入剤と凍結工法とを併用した場合における地盤の強度の低下を一層抑制することができる。本開示の地盤注入剤が含む塩類は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0018】
本開示の地盤注入剤における(c)成分の濃度は、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%が一層好ましく、0.2〜5質量%が特に好ましい。(c)成分の濃度がこれらの範囲内である場合、地盤注入剤と凍結工法とを併用した場合における地盤の強度の低下を一層抑制することができる。なお、(c)成分の濃度とは、地盤注入剤の全質量(溶媒も含む)を100質量%としたときの(c)成分の濃度を意味する。
【0019】
本開示の地盤注入剤は、例えば、(a)及び(b)成分に加えて、あるいは、(a)、(b)、及び(c)成分に加えて、他の成分をさらに含んでもよい。他の成分として、例えば、水、コロイダルシリカ、水以外の溶媒等が挙げられる。
【0020】
本開示の地盤注入剤は、地盤に注入することができる。地盤注入剤を地盤に注入する方法として、例えば、公知の薬液注入工法を用いることができる。薬液注入工法は、地盤に注入管を挿入し、この注入管を通して地盤注入剤を注入する工法である。本開示の地盤注入剤を地盤に注入することで、地盤の強度や、地盤の止水性を向上させることができる。
【0021】
本開示の地盤注入剤は、例えば、凍結工法と併用することができる。例えば、本開示の地盤注入剤を地盤に注入し、注入した地盤注入剤が固結してから、凍結工法により地盤を凍結することができる。
(実施例)
1.地盤注入剤の製造
表1〜表3における原料の欄に示す各成分を混合することで、S1〜S21の地盤注入剤を製造した。原料の欄における配合量の単位はKgである。原料の欄における硫酸の配合量は、75質量%濃度の硫酸の配合量を表す。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
S1〜S21の具体的な製造方法は以下のとおりである。S1〜S15については、まず、水にエチレンカーボネイトを溶解させた水溶液を調製し、その水溶液とケイ酸ソーダとを混合・撹拌することで製造した。
【0025】
S16については、まず、水にエチレンカーボネイトとグリセリンとを溶解させた水溶液を調製し、この水溶液とケイ酸ソーダとを混合及び撹拌することで製造した。S17については、まず、水にエチレンカーボネイトと重炭酸カリウムとを溶解させた水溶液を調製し、この水溶液とケイ酸ソーダとを混合及び撹拌することで製造した。
【0026】
S18〜S19については、まず、硫酸以外の成分を含む水溶液を調製し、この水溶液と硫酸とを混合及び撹拌することで製造した。S20、S21については、まず、水とケイ酸ソーダとを混合及び撹拌して水溶液を調製し、この水溶液と硫酸とを混合及び撹拌することで製造した。
【0027】
上記表1〜表3における1号ケイ酸ソーダ、3号ケイ酸ソーダ、及び5号ケイ酸ソーダは、表4に示すものである。
【0028】
【表4】
表4における「SiO(質量%)」は、ケイ酸ソーダの全質量に対するSiOの質量の比率である。また、表4における「NaO(質量%)」は、ケイ酸ソーダの全質量に対するNaOの質量の比率である。また、表4における「NaOに対するSiOのモル比」は、ケイ酸ソーダに含まれるNaOのモル数に対する、ケイ酸ソーダに含まれるSiOのモル数の比率である。
【0029】
上記表1〜表3に、S1〜S21におけるSiO濃度と、NaO濃度とを示す。SiO濃度とは、地盤注入剤の全質量に対するSiOの質量の比率である。NaO濃度とは、地盤注入剤の全質量に対するNaOの質量の比率である。
【0030】
2.地盤注入剤の評価
(1)試料の作製
S1〜S21のそれぞれについて、以下のようにして、一軸圧縮強さの測定用試料である第1の試料、及び第2の試料を作製した。まず、直径2.5cm、高さ7cmの中空円筒形状を有する塩化ビニール製モールドに、30mlの地盤注入剤を注入した。次に、モールドへ振動を与えながら、50gの豊浦砂をモールドに投入してゆき、モールド内に豊浦砂を密に充填した。密に充填された豊浦砂のモールド内における高さは約6cmであった。
【0031】
常温で3日間静置した後、モールドから、固形の内容物を取り出した。次に、内容物の高さを5cmにトリミングした。トリミング後、常温で4日間養生したものを第1の試料とした。
【0032】
また、前記のトリミング後、内容物を常温で3日間養生してから、−20℃で1日間養生した。このとき内容物は凍結した。次に、常温で4〜5時間かけて内容物を融解し、これを第2の試料とした。
(2)一軸圧縮強さの測定
JIS A 1216に基づき、第1の試料及び第2の試料の一軸圧縮強さを測定した。なお、JIS A 1216には、試料の直径は通常3.5cm又は5.0cmと記載されているが、本実施例では、凍結及び融解の効率を考慮して第1の試料及び第2の試料の直径を2.5cmとした。一軸圧縮強さの測定結果を上記表1〜表3に示す。
【0033】
上記表1〜表3において、「一軸圧縮強さ(常温)」は、第1の試料における一軸圧縮強さの測定値を表す。また、「一軸圧縮強さ(凍結融解)」は、第2の試料における一軸圧縮強さの測定値を表す。また、「強度低下率」は、以下の式1で表される値である。
(式1) 強度低下率=((X−X)/X)×100
ここで、Xは、第1の試料における一軸圧縮強さであり、Xは、第2の試料における一軸圧縮強さである。
【0034】
S1〜S19を用いて作製した試料の場合、強度低下率の絶対値は顕著に小さかった。それに対し、S20、S21を用いて作製した試料の場合、強度低下率は負の値であり、その絶対値は顕著に大きかった。
【0035】
S1〜S19を用いて作製した試料の場合に強度低下率の絶対値が小さい理由は以下のように推測される。S1〜S19は多価アルコール、又は分解反応により多価アルコールを生成するオキソ酸エステル類を含む。S1〜S19を用いて作製した試料では、多価アルコールの水酸基部位がシリカ表面の水酸基と相互作用することにより、シリカ表面を保護する。その結果、試料が凍結しても、一軸圧縮強さが低下し難い。
【0036】
S20、S21を用いて作製した試料の場合に強度低下率の絶対値が大きい理由は以下のように推測される。第2の試料を凍結させたとき、地盤注入剤の固結体に含まれる水分が膨張してゲルを破断し、固結効果が失われる。その結果、第2の試料の強度が大きく低下する。
(他の実施形態)
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0037】
(1)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0038】
(2)上述した地盤注入剤の他、地盤注入剤を用いた施工方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。