【文献】
R. Hayakawa et al.,Optically and electrically driven organic thin film transistors with diarylethene photochromic channel leyers,ACS Applied Materials & Interfaces,米国,American chemical society,2013年,5(9),3625-3630
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光異性化分子膜を構成する光異性化分子として、ジアリールエテンを中心骨格とし、その両端にパイ共役系の置換基が取り付けられているものを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機トランジスタの動作制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した実施形態である有機トランジスタとその動作制御方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0013】
<第一実施形態>
[有機トランジスタの動作制御装置の構成]
図1は、本発明の第一実施形態に係る有機トランジスタの動作制御装置100の構成を模式的に示す斜視図である。動作制御装置100は、光異性化分子膜をチャネル形成用の半導体膜として備えた有機トランジスタ10と、それを動作させるために用いる可視光および紫外光の照射手段(光照射系)20とを有している。
【0014】
[有機トランジスタの構成]
まず、有機トランジスタ10の構成について説明する。有機トランジスタ10は、基板11と基板の一方の主面11aに形成された絶縁膜12と、絶縁膜12上に形成された樹脂膜13と、樹脂膜13の上に形成された光異性化分子膜(半導体膜)14と、少なくとも一端が光異性化分子膜14に接するように形成された第1電極15、第2電極16とを備えている。
【0015】
基板11としては、例えば、リン(P)等の不純物を高濃度(10
18cm
−3程度)でドープした、抵抗率0.02Ω・cm程度のシリコン基板(高ドープSi基板)を用いることができる。基板11は、有機トランジスタの動作制御装置100を動作させた際に、ゲート電極として機能する。
【0016】
絶縁膜12としては、熱酸化によって形成されるSiO
2膜などを用いる。絶縁膜12の厚さは、100nm以上400nm以下であることが好ましい。絶縁膜12は、有機トランジスタの動作制御装置100を動作させた際に、ゲート絶縁膜として機能する。
【0017】
樹脂膜13は、絶縁性高分子で構成されるものであって、その材料としてPMMA(アクリル樹脂)を用いることができる。樹脂膜13は必須の構成でなないが、これが備わっていることによって、絶縁膜12上の欠陥の影響が排除され、また、有機トランジスタの動作制御装置100のn型動作(電子電流)が促進される。
【0018】
第1電極105、第2電極106の材料としては、例えばAu、Pt、Pd等の金属が用いられる。有機トランジスタの動作制御装置100を動作させた際に、第1電極105と第2電極106のうち、一方がソース電極として機能し、他方がドレイン電極として機能する。
【0019】
光異性化分子膜14を構成する光異性化分子は、光異性化反応を示す中心骨格を有し、その両端にパイ共役系の置換基が適宜取り付けられた構造を有している。光異性化分子は、紫外光を照射した場合には、半導体特有の導電性を有する閉環体となり、可視光を照射した場合には、絶縁性を有する開環体となる。つまり、光異性化分子は、可視光を照射した場合と紫外光を照射した場合とで、分子構造が可逆的に変化する性質を有している。
【0020】
光異性化分子には、開環体−閉環体変化を示すジアリールエテン系分子、cis−trans変化を示すアゾベンゼン系分子、極性−無極性変化を示すスピロピランなどがある。開環体−閉環体変化をするジアリールエテンは、パイ共役系の変化が著しいため、電子準位や電気的特性が大きく変化すること、さらには光異性化反応の繰り返し耐性が他のものと比べて極めて優れていることから、本実施形態の光異性化分子として特に好ましい。
【0021】
パイ共役系の置換基としては、例えば、ビフェニル基、フェニル基、チオフェン環およびそれらの縮合環などが挙げられる。光異性化反応に伴い、ビフェニル基、フェニル基、チオフェン環を置換基として有する光異性化分子が、実際に半導体−絶縁体転移を示した分子構造例を、それぞれ下記の化学式(1)〜(3)に示す。各化学式において、左側が開環体(絶縁体)を示し、右側が閉環体(半導体)を示している。
【0025】
本実施形態に係る光異性化分子の候補となり得る他の分子構造の例を、下記の化学式(4)〜(9)に示す。
【0032】
化学式(1)〜(9)で示されるいずれの分子構造も、ジアリールエテン中心骨格の両端にパイ共役系置換基が取り付けられた構造、もしくはそれらを連結した構造になっている。
【0033】
光異性化分子膜としては、光異性化分子だけからなる膜であってもよいし、光異性化分子以外からなる高分子半導体膜やゲート絶縁膜(母体)に、各種の光異性化分子を添加した膜であってもよい。光異性化分子は、従来用いられている有機半導体膜と絶縁膜との界面に挿入してもよい。光異性化分子は、いずれの構成であっても、光異性化反応によって電荷を捕獲したり散乱したりして、電流量の可逆的な変化を誘起することが知られており、本実施形態に係るチャネル形成技術に応用することができると考えられる。高分子半導体膜を構成する分子の構造例を、下記の化学式(10)、(11)に示し、高分子半導体膜に添加する光異性化分子の構造例を下記の化学式(12)、(13)に示す。
【0038】
なお、本実施形態に係る有機トランジスタ10は、Si基板をゲート電極としたボトムゲート・トップコンタクト型トランジスタ構造となっているが、トランジスタ動作し、かつ光照射できる構造であればよく、例えば、トップゲート・ボトムコンタクト型トランジスタ構造などであってもよい。
【0039】
[有機トランジスタの製造方法]
本実施形態に係る有機トランジスタ10は、主に次の工程1〜3を経て製造することができる。
[工程1]
熱酸化処理を行い、基板の一方の主面11aに絶縁膜(SiO
2膜など)12を形成する。
[工程2]
真空蒸着により、シャドーマスクを通して、工程1で形成した絶縁膜12上の一定領域のみに、直接または樹脂膜13を介して、開環体(絶縁体)構造を有する光異性化分子膜14を形成する。
[工程3]
電極用のシャドーマスクを通して真空蒸着法、スパッタリング法等による成膜処理を行い、工程2を経た光異性化分子膜14上に、少なくとも一端が重なるように電極用の金属膜(第1電極15、第2電極16)を形成する。
【0040】
なお、光異性化分子膜、金属電極は、材料が溶融性を有している場合には、スピンコート法、スプレー法、マイクロコンタクトプリント法などの湿式プロセスでも形成することができる。この場合、低温プロセスで形成することが可能となり、例えばポリアクリレートなどのプラスチック基板を用いることにより、本実施形態に係る技術を、フレキシブルエレクトロニクスの分野の技術として発展させることもできる。
【0041】
[照射手段の構成]
次に、照射手段20の構成について説明する。照射手段20は、可視光および紫外光を含む照射光の光源21、照射光のうち可視光または紫外光を半導体膜16のうちチャネルとする領域に導いて照射する光学系22とを備えている。
【0042】
光源21は、紫外光を出射する紫外光源21Aと、可視光を出射する可視光源21Bとを有する。紫外光源21Aと可視光源21Bとは、互いに別体であってもよいし、一体化されたものであってもよい。
図1では、2つの光源が、互いに別体である場合の例を示している。
【0043】
紫外光源21Aとしては、光異性化反応を誘起する、波長200〜350nmの紫外光を出射する光源を用いることができ、その一例として、波長325nmの紫外光を出射するHe−Cdレーザー光源を挙げることができる。可視光源21Bとしては、光異性化反応を誘起する、波長500〜650nmの可視光を出射する光源を用いることができ、その一例として、波長633nmの可視光を出射するHe−Neレーザー光源を挙げることができる。
【0044】
2つの光源が一体化されている場合としては、光源が、200〜350nm、500〜650nmを包含する波長範囲の光を出射するもの(例えばXeランプ)である場合などが挙げられる。この場合には、例えば、バンドパスフィルターを用いて、上記紫外光または可視光の波長範囲外の光を遮ることによって、光源が別体である場合と同等の照射を行うことができる。ただし、この場合には、レーザー光源を用いた場合のように照射スポット径を極小化することが困難であるため、光異性化反応を誘起させて行う光加工の分解能が劣ることになる。
【0045】
光学系22は、光源21から出射された光(照射光)のうち可視光または紫外光を、光異性化分子膜のチャネルとする領域に導いて照射することができるように、シャッター、ミラー、フィルター(ビームスプリッター)、レンズなどが適宜配置されてなる。
【0046】
図1では、光学系22が、次の手順で照射光を導くように構成されている例を示している。まず、シャッター23において、2つの光源21A、21Bから出射される光のうち一方が選択される。次に、選択された光が、ミラー24によって、有機トランジスタ10が配置されている方向に反射される。次に、反射された光のうち不要な成分が、フィルター25によって除かれる。そして、不要な成分が除かれた光が、レンズ(対物レンズ)26によって収束されて、有機トランジスタ10中の光異性化分子膜14に照射される。
【0047】
照射スポット径は、レンズ26の倍率と、レーザー光を導入する光ファイバー(不図示)のコア系とによって、2〜100μmの範囲で制御することが可能であり、ここでは1μm以上10μm以下とすることが好ましい。
【0048】
なお、光照射位置の制御は、光学系と有機トランジスタのうち一方または両方を、相対的に移動させて行う。この移動は、例えば、アクチュエータ型移動機構、ピエゾ機構などによる移動ステージを用いて行うことができる。
【0049】
アクチュエータ型移動機構は、油圧や電圧によって回転運動や並進運動といった機械的な動きを誘起する駆動装置である。例えば、油圧シリンダーや電動モータなどが挙げられる。ピエゾ機構は、物質に圧力をかけて変形させると、その物質が分極して電圧を発生する現象(圧電効果)、電圧を印加することによって物質が変形する(伸び縮みする)現象(逆電圧効果)を利用したものである。特に、逆電圧効果を利用して、電圧を印加することによって物質にわずかな伸び縮みを誘発し、微少な位置決めを行うことができる素子を、ピエゾ素子という。
【0050】
ピエゾ機構を用いた移動ステージであれば、位置精度をより向上させることができる。ただし、この場合には、可動距離が100μm程度に制限される。そこで、粗動をステッピングモーターのような機械的移動機構で行い、微動をピエゾ機構で行い、さらに精密移動をピエゾ機構など複数の移動機構の組み合わせで行うことにより、広範囲の位置制御と高分解能の加工を両立することができる。
【0051】
[有機トランジスタの動作制御方法]
上述した有機トランジスタの動作制御装置100を用いて、有機トランジスタ10の動作を制御する方法について説明する。
【0052】
まず、有機トランジスタ10に対して、ドレイン電圧およびゲート電圧を印加し、この状態で、開環体(絶縁体)構造を有する光異性化分子膜14のチャネルとする領域(チャネル領域)に、紫外光を照射する(第1ステップ)。紫外光の照射は、上述した光学系20を用いて行う。これにより、照射された部分のみが閉環体(半導体)構造に転移し、チャネル領域は導電性を有する状態(オン状態)となる。このとき、チャネル領域は、ゲート電圧でドレイン電流を変調できるトランジスタチャネルとして機能する。
【0053】
第1ステップの紫外光の照射強度、照射時間は、それぞれ、5mW/cm
2以上50mW/cm
2以下、10秒以上200秒以下とすることが好ましい。
【0054】
次に、閉環体構造を有するチャネル領域の少なくとも一部に、可視光を照射する(第2ステップ)。可視光の照射も、上述した光学系20を用いて行う。これにより、照射された部分のみが開環体構造に転移し、チャネル領域は導電性を失った状態(オフ状態)となる。このとき、ゲート電圧、ドレイン電圧を印加した状態であっても、ドレイン電流は流れない。
【0055】
第2ステップの可視光の照射強度、照射時間は、それぞれ、100mW/cm
2以上700mW/cm
2以下、60秒以上600秒以下とすることが好ましい。
【0056】
第1ステップにおいて紫外光を照射するチャネル領域は、ソース電極とドレイン電極とを連結するものであるが、その形状は、用途に応じて自由に設計することができる。例えば、1本または複数本の直線的な形状であってもよいし、途中で枝分かれした形状であってもよい。また、チャネル領域の形状は、
図2(a)〜(c)に示すように、論理回路を構成するものであってもよい。
【0057】
図2(a)は、チャネル領域が、OR回路を構成する場合の回路図(左側)および真理値表(右側)を示している。ここでは、2つのソース電極S1、S2と1つのドレイン電極Dとが、トランジスタワイヤで接続されている。ドレイン電極Dから延びるトランジスタワイヤは2本に分岐しており、分岐した2本のそれぞれに○印が付されている。この○印の位置は、スポット光(紫外光、可視光)の照射位置を示している。(○印に関しては、以下でも同様とする。)
【0058】
○印の位置は、可視光が照射されて絶縁体化し、電流パスが遮断されているため、この○印を含む経路はオフ状態となっている。ここでのOR回路は、ソース電極S1、S2のうち少なくとも一方から延びる経路において、○印の位置に紫外光を照射して、この経路がオン状態となれば、ドレイン電流が流れるように構成されている。
【0059】
図2(b)は、チャネル領域が、AND回路を構成する場合の回路図(左側)および真理値表(右側)を示している。ここでも、2つのソース電極S1、S2と1つのドレイン電極Dとが、トランジスタワイヤで接続されている。ドレイン電極Dから延びるトランジスタワイヤは2本に分岐しており、分岐点の手前およびソース電極S1側に分岐した1本に、それぞれ○印が付されている。
【0060】
○印の位置は、可視光が照射されて絶縁体化し、電流パスが遮断されているため、この○印を含む経路はオフ状態となっている。ここでのAND回路は、分岐点を境にして、ソース電極S1まで延びる経路と、ドレイン電極まで延びる経路との両方において、○印の位置に紫外光を照射して、これらの経路がオン状態となった場合のみに、ドレイン電流が流れるように構成されている。
【0061】
図2(c)は、チャネル領域が、NOT回路を構成する場合の回路図(左側)および真理値表(右側)を示している。ここでは、1つのソース電極Sと1つのドレイン電極Dとが、トランジスタワイヤで接続されている。ソース電極Sとドレイン電極Dとを結ぶ1本のトランジスタワイヤ中に、○印が付されている。
【0062】
○印の位置は、紫外光が照射されて半導体化し、電流パスが形成されているため、この○印を含む経路はオン状態となっている。ここでのNOT回路は、○印の位置に可視光を照射した場合には、オフ状態となるため、ドレイン電流が流れず、可視光を照射していない場合には、オン状態であるため、ドレイン電流が流れるように構成されている。
【0063】
有機半導体自体はキャリアを有していないため、ソース・ドレイン電極に用いる材料の仕事関数によって、トランジスタの極性を制御することができる。例えば、ソース・ドレイン電極として、光異性化分子の最高被占軌道(HOMO)に近い仕事関数を有する金などの電極を用いる場合には、p型トランジスタとして動作する。また、ソース・ドレイン電極として、光異性化分子の最低空軌道(LUMO)に近い仕事関数を有するマグネシウム、カルシウムなどの電極を用いる場合には、n型トランジスタとして動作する。
【0064】
所望の極性を有するように、電極材料を適宜選択して形成したトランジスタに、上述したチャネルの構成を適用することにより、光照射によって再構成可能なCMOS論理回路を実現することができる。
【0065】
まず、
図3(a)に示すように、複数のp型トランジスタT1、n型トランジスタT2を設置する。各トランジスタは、基板および半導体膜(光異性化分子膜)を共有しているが、電気的に分離されているものとする。
【0066】
次に、上述したように局所的な紫外光照射を行うことにより、光配線によって、各トランジスタのソース・ドレイン電極を、他のトランジスタのソース・ドレイン電極、外付けの電源回路Vdd、接地回路(GND)などに接続して論理回路を構築する。
【0067】
一例として、
図3(b)に、光配線(波線で表示)による接続を行って構築されたNAND回路を示す。このNAND回路に対し、可視光照射を行って不要な光配線を消去するなどして、再度
図3(c)に示すように、NOR回路を構築することができる。このように電極配置を変えることなく、光照射を行うことによって、消去・書き換え可能な論理回路を実現することができる。
【0068】
以上のように、本実施形態に係る有機トランジスタ10は、光異性化分子膜14を、チャネル形成用の半導体膜として備えている。光異性化分子には、紫外光が照射されたときには閉環体となり、可視光が照射されたときには開環体となる性質がある。閉環体は半導体特有の導電性を有し、開環体は絶縁性を有している。したがって、光異性化分子膜14は、紫外線の照射によって半導体とすることができ、また、可視光の照射によって絶縁体とすることができる。
【0069】
本実施形態に係る有機トランジスタでは、光異性化分子の性質を利用して、光異性化分子膜14の特定の領域のみに紫外光を照射することにより、照射された部分のみを半導体化させ、局所的にチャネルを形成することができる。チャネルの形状は、任意に設計することができ、所望の論理回路を構成する形状とすることができる。
【0070】
ゲート電圧、ドレイン電圧を印加した場合において、紫外光を照射した領域(チャネル領域)は、導通した状態となるが、その少なくとも一部に可視光を照射することにより、照射された領域が絶縁体化するため、この領域は導通していない状態となる。絶縁体化させた領域に対して、さらに紫外光を照射することにより、この領域は、再び半導体化されて導通した状態となる。このように、本実施形態に係る有機トランジスタ10によれば、紫外光、可視光を用いて、チャネル領域の導通状態を切り替えることができるため、論理回路を流れる電流を自在に制御することができ、ひいては単体で、トランジスタとして多彩な動作を実現することができる。
【0071】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態に係る、有機トランジスタおよび照射手段を有する有機トランジスタの動作制御装置の構成について説明する。本実施形態に係る有機トランジスタは、それを構成する光異性化分子膜に、予め論理回路が形成されている点で、第一実施形態に係る有機トランジスタと異なっている。その他の点においては、第一実施形態に係る有機トランジスタと同様である。
【0072】
この場合にも、論理回路を構成するチャネル領域は、その少なくとも一部に可視光を照射することにより、導電性を失った状態(オフ状態)とすることができ、また、可視光を照射した部分に紫外光を照射することにより、導電性を有する状態(オン状態)とすることができる。つまり、本実施形態に係る有機トランジスタも、第一実施形態に係る有機トランジスタと同様に、紫外光を照射するステップ(第1ステップ)と、可視光を照射するステップ(第2ステップ)とを繰り返すことによって、動作制御することができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0074】
(実施例1)
本発明の有機トランジスタの基本動作について、
図4(a)〜(c)を用いて説明する。第一実施形態に係る有機トランジスタ10に対して、次の2つのステップを交互に繰り返して行った。
(第1ステップ)
有機トランジスタに対して、ドレイン電圧−60V(一定)およびゲート電圧0〜80Vを印加し、この状態で、開環体(絶縁体)構造を有する光異性化分子膜のチャネルとする一定領域に対し、レンズを走査して波長325nmの紫外光を照射する。ここでは、紫外光の照射強度を25mW/cm
2とし、照射時間を180秒とした。
(第2ステップ)
上記電圧を印加したまま、紫外光の照射によって、閉環体構造を有するチャネル領域の少なくとも一部に対し、波長633nmの可視光を照射する。ここでは、可視光の照射強度を700mW/cm
2とし、照射時間を180秒とした。
【0075】
基板11としては、リン(P)等の不純物を高濃度(10
18cm
−3程度)でドープした、抵抗率0.02Ω・cmのシリコン基板(高ドープSi基板)を用いた。絶縁膜12としては、熱酸化によって形成されるSiO
2膜などを用いた。絶縁膜12の厚さは、300nmとした。
【0076】
光異性化分子膜14の材料としては、上記化学式(1)の分子構造を有するものを用いた。第1電極105、第2電極106の材料としては、いずれも金を用いた。
【0077】
実施例1の有機トランジスタ10で得られた電気特性について、
図4(a)〜(c)を用いて説明する。
図4(a)は、有機トランジスタ10で流れるドレイン電流のゲート電圧依存性を示すグラフである。グラフの横軸はゲート電圧[V]を示し、縦軸はドレイン電流[pA]を示している。このグラフでは、初期、1回目の紫外光照射時、2回目の紫外光照射時、3回目の紫外光照射時、・・・を、それぞれ、0、2、4、6、・・・で表示し、1回目可視光照射時、2回目の可視光照射時、3回目の可視光照射時、・・・を、それぞれ、1、3、5で表示している。後述する
図4(b)のグラフでも同様とする。
【0078】
デバイスとして使用する電圧範囲(−30V〜―60V)では、可視光を照射した場合(2、4、6)のドレイン電流は、ゲート電圧によらずにほとんど流れていないのに対し、紫外光を照射した場合(1、3、5)のドレイン電流は、ゲート電圧に比例して増加している。
【0079】
上記結果から、光異性化分子膜のうち、紫外光を照射した部分だけが閉環体に転移すること、閉環体は半導体材料として機能するため、紫外光を照射した部分が、ゲート電圧でドレイン電流を変調できるトランジスタチャネルとして機能することが分かる。また、上記結果から、同位置に可視光を走査すると開環体すなわち絶縁体に転移するため、ゲート電圧およびドレイン電圧を印加しても、ドレイン電流は流れないことが分かる。
【0080】
図4(b)は、一定のゲート電圧とドレイン電圧を印加した状態で、光照射により,ドレイン電流が変化する様子を示すグラフである。グラフの横軸は時間[min]を示し、縦軸はドレイン電流[pA]を示している。このグラフから、可視光と紫外光を交互に照射することにより、絶縁体−半導体転移が繰り返し起きており、そのスイッチング動作を確認することができる。
【0081】
図4(c)は、一定のゲート電圧とドレイン電圧を印加した状態での光スイッチング動作を示すグラフである。グラフの横軸はサイクル数(Drawing Cycle)を示し、縦軸はドレイン電流[pA]を示している。このグラフから、紫外光照射によるオン状態と可視光照射によるオフ状態とを、繰り返し可逆的にスイッチングし得ることが分かる。
【0082】
(実施例2)
チャネル数増減に伴う有機トランジスタの動作の変化について、
図5(a)、(b)を用いて説明する。有機トランジスタのサンプルとしては、実施例1の有機トランジスタと同じ構成のものを用いた。
【0083】
(ステップA)
まず、サンプルの光異性化分子膜に、チャネルが形成されていない(書き込まれていない)状態で、ドレイン電圧−60V(一定)およびゲート電圧0〜60Vを印加し、このとき流れる電流(ドレイン電流)を測定した。
【0084】
(ステップB、C、D)
次に、同じサンプルの光異性化分子膜に、波長325nmの紫外光照射によって、光異性化分子膜にチャネルが1本形成されている状態で、上記電圧を印加し、このとき流れるドレイン電流を測定した。同様にして、紫外光照射により、光異性化分子膜にチャネルが2本形成されている状態、3本形成されている状態で、それぞれ上記電圧を印加し、このとき流れるドレイン電流をそれぞれ測定した。ここでは、紫外光の照射強度を25mW/cm
2とし、掃引速度を0.2μm/sとした。
【0085】
(ステップE)
次に、同じサンプルの光異性化分子膜に、波長633nmの可視光照射によって、光異性化分子膜中のチャネル3本のうち1本を消去し、チャネルが2本残っている状態で上記電圧を印加し、このとき流れるドレイン電流を測定した。ここでは、可視光の照射強度を700mW/cm
2とし、掃引速度を0.2μm/sとした。
【0086】
(ステップF、G)
同様にして、可視光照射により、光異性化分子膜中のチャネルを1本ずつ消去し、チャネルが1本残っている状態、1本も残っていない状態で、それぞれ上記電圧を印加し、このとき流れるドレイン電流をそれぞれ測定した。
【0087】
上記ステップA〜Dの測定結果、上記ステップD〜Gの測定結果を、それぞれ
図5(a)、(b)のグラフに示す。グラフの横軸はゲート電圧[V]を示し、縦軸はドレイン電流[pA]を示している。なお、ステップA〜Gは、それぞれ、チャネル数が0本、1本、2本、3本、2本、1本、0本の場合に対応している。
【0088】
図5(a)のグラフから、デバイスとして使用する電圧範囲(−30V〜―60V)では、チャネル数の増加に伴って、ドレイン電流の総和が増加していることが分かる。また、
図5(b)のグラフから、デバイスとして使用する電圧範囲では、チャネル数の減少に伴って、ドレイン電流の総和が減少していることが分かる。
【0089】
(実施例3)
チャネルに枝分かれ構造を有する有機トランジスタの動作について、
図6を用いて説明する。有機トランジスタのサンプルとしては、実施例1の有機トランジスタと同じ構成のものを用いた。
【0090】
図6は、有機トランジスタを構成するチャネル領域の9種類の状態(a)〜(i)と、それぞれの状態において、有機トランジスタを動作させた際に、得られるドレイン電流値との対応関係を示す図である。(a)〜(i)について、以下に説明する。
【0091】
(a)は、開環体(絶縁体)のみからなる初期状態に対応しており、チャネルは形成されていない。
【0092】
(b)は、波長325nmの紫外光によって、一本のチャネルが書き込まれた状態に対応している。紫外光の照射強度を5mW/cm
2とし、掃引速度を0.2μm/sとした。
【0093】
(c)は、(b)に対して、波長325nmの紫外光によってさらにもう一本のチャネルが書き込まれた状態に対応している。これによって、枝分かれ構造が形成され、電流パスが増加した。紫外光の照射強度を10mW/cm
2とし、掃引速度を0.2μm/sとした。ここでは、照射強度を、(b)を形成する際の照射強度の約2倍としたことにより、追加されたチャネルの光異性化率が高められた。チャネルの一部の光異性化率が高められたことと、電流パスが増加したことにより、得られるドレイン電流が増加した。
【0094】
(d)は、最初に形成したチャネル上の一点に波長633nmの可視光を照射して、局所的に絶縁化させた状態に対応している。最初に形成したチャネルが絶縁化した分、ドレイン電流が減少した。可視光の照射強度を700mW/cm
2とし、掃引速度を0.2μm/sとした。可視光の照射に関しては、以下でも同様とする。
【0095】
(e)は、(d)において可視光を照射した箇所に、再度紫外光を照射した状態に対応している。紫外光の照射により、可視光の照射で減少した分のドレイン電流が回復した。紫外光の照射強度を5mW/cm
2とし、掃引速度を0.2μm/sとした。
【0096】
(f)は、(d)において可視光を照射した箇所に、再度可視光を照射した状態に対応しており、(d)と同じ状態になった。可視光の照射による効果については、再現性を確認することができた。
【0097】
(g)は、(f)に対し、(c)で形成したチャネル上の一点に波長633nmの可視光を照射して、局所的に絶縁化させた状態に対応している。この場合、導通した電流パスが全くないため、初期状態(a)の構成と同様になる。
【0098】
(h)は、(g)で可視光を照射した部分を、紫外光の照射によって、半導体化させた状態に対応している。この状態は(d)、(f)に類似しており、得られるドレイン電流も、(d)、(f)で得られるのと同じ程度に回復している。
【0099】
(i)は、(f)で可視光を照射した部分を、紫外光の照射によって、半導体化させた状態に対応している。この状態は(c)、(e)に類似しており、得られるドレイン電流も、(c)、(e)で得られるのと同じ程度に回復している。
【0100】
これらの一連のデータは、本発明の有機トランジスタが、光で電流値をON/OFFできる「光バルブ」型のトランジスタとして、動作し得るものであることを実証している。