(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804085
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】チロシナーゼ活性阻害剤、医薬品、化粧品および食品褐変防止剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20201214BHJP
A61K 8/66 20060101ALI20201214BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20201214BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20201214BHJP
A23L 5/41 20160101ALI20201214BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/66
A61Q19/02
C07K14/435
A23L5/41
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-22910(P2017-22910)
(22)【出願日】2017年2月10日
(65)【公開番号】特開2018-127423(P2018-127423A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2020年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(72)【発明者】
【氏名】商 怡
(72)【発明者】
【氏名】内沢 秀光
【審査官】
田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−300858(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0118286(US,A1)
【文献】
特開2009−173702(JP,A)
【文献】
特開2001−172296(JP,A)
【文献】
特開2002−069097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61K 31/33−33/44
A61K 31/00−31/327
A23L 5/40− 5/49
A23L 31/00−33/29
A23L 5/00− 5/30
A23L 29/00−29/10
C07K 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サケ鼻軟骨プロテオグリカンをタンパク質分解酵素アクチナーゼEで消化して得られる低分子化プロテオグリカンを有効成分とするチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項2】
請求項1の低分子化プロテオグリカンを0.00033重量%以上含むチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項3】
請求項1に記載の低分子化プロテオグリカンを含有する皮膚外用剤。
【請求項4】
請求項1に記載の低分子化プロテオグリカンを含有する美白化粧料。
【請求項5】
請求項1に記載の低分子化プロテオグリカンを含有する食品褐変防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チロシナーゼ活性阻害剤及びこのチロシナーゼ活性阻害剤を用いた医薬品、化粧品、食品褐変防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メラニンは、動物組織内にある色素であり、紫外線から皮膚や組織を保護することがその大きな役割である。しかしながら、皮膚での過剰なメラニンの産生はシミ、ソバカス、斑点などの原因になっている。そしてメラニン色素の生成に関わる酸化酵素の一つとしてチロシナーゼが知られている。
【0003】
チロシナーゼの活性を阻害することでメラニンの生成を抑制することができれば、美白効果につながることから、チロシナーゼ活性阻害剤は化粧品素材として広く利用されている(特許文献1及び特許文献2参照)。特許文献1及び特許文献2等に開示されているチロシナーゼ活性阻害剤やメラニン生成抑制剤は、いずれも効果、安全性、安定性、コスト等の観点において必ずしも十分であるとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−133314号公報
【特許文献2】特開2010−18530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れたチロシナーゼ活性阻害効果を有するとともに、安心感の昂揚や積極的使用に貢献できるチロシナーゼ活性阻害剤及びこのチロシナーゼ活性阻害剤を用いた医薬品、化粧品、食品褐変防止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成するために種々検討した結果、サケ鼻軟骨プロテオグリカンをタンパク質分解酵素アクチナーゼEで消化して得られた低分子化プロテオグリカンに優れたチロシナーゼ活性阻害効果があることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は下記(1)〜(5)まで掲げる態様を含むものである。
(1)サケ鼻軟骨プロテオグリカンをタンパク質分解酵素アクチナーゼEで消化して得られた低分子化プロテオグリカンを有効成分とするチロシナーゼ活性阻害剤であることを要旨とする。
(2)前記(1)に記載の低分子化プロテオグリカンを0.00033重量%以上含むチロシナーゼ活性阻害剤であることを要旨とする。
(3)前記(1)に記載の低分子化プロテオグリカンを含む皮膚外用剤であることを要旨とする。
(4)前記(1)に記載の低分子化プロテオグリカンを含む美白化粧料であることを要旨とする。
(5)前記(1)に記載の低分子化プロテオグリカンを含む食品褐変防止剤であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れたチロシナーゼ活性阻害効果を有していること、また、従来から非常に強力な活性を有することがよく知られているコウジ酸と比較しても、より強いチロシナーゼ活性阻害効果を示すことが明らかとなり、且つ天然物を原料としていることから、安心感の昂揚や積極的使用に貢献できるチロシナーゼ活性阻害剤及びこのチロシナーゼ活性阻害剤を用いた医薬品、化粧品、食品褐変防止剤が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】マッシュルーム由来チロシナーゼに対する低分子化プロテオグリカンの活性阻害効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態をより具体的に説明するが、本発明の技術的思想を具体化するための方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
本発明の実施の形態に係る原料プロテオグリカンは、魚類に存在するグリコサミノグリカンとタンパク質の共有結合物からなる分子量数十万から数百万の高分子化合物である。
【0012】
本発明の実施の形態に係る低分子化プロテオグリカンは、サケ鼻軟骨由来原料プロテオグリカンをタンパク質分解酵素であるアクチナーゼEにより消化することで製造することができる。
【0013】
前記原料プロテオグリカンは、青森県などの郷土料理としてよく知られている「氷頭なます」をヒントに工業原料として実用化されたもので、食経験のあるサケ鼻軟骨から酢酸を用いて抽出されており、安心感の昂揚や積極的使用に貢献できるものである。
【0014】
本発明の実施の形態に係る低分子化プロテオグリカンには、優れたチロシナーゼ活性阻害効果があり、医薬品、化粧品あるいは食品褐変防止剤に利用することができる。
【0015】
以下に実施例を示して本発明の実施の形態を具体的に説明するが、これは単に例示の目的で述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
(低分子化プロテオグリカンの製造)
原料プロテオグリカン(市販の鮭由来プロテオグリカン:角弘プロテオグリカン研究所社製)を、タンパク質分解酵素アクチナーゼE(科研製薬製)を用いて消化し、得られた分解生成物をセファアクリルS−500HRゲルろ過クロマトグラフィー(V
0=220mL、V
t=589mL)により精製し、溶出位置350mLから550mLまでの画分を集め(410kDaデキストランの溶出位置は407mL)、低分子化プロテオグリカンとした。この低分子化プロテオグリカンを試料としてチロシナーゼ活性阻害試験を行った。
【0017】
(低分子化プロテオグリカンを用いたチロシナーゼ活性阻害試験)
マッシュルーム由来チロシナーゼ(シグマ社製)を0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)に溶解して酵素溶液(40U/mL)とした。基質はL−DOPA(3,4−Dihydroxy−L−phenylalanine,シグマ社製)を用い、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)に溶解して2mMの基質溶液とした。各濃度の低分子化プロテオグリカン溶液を調製し、陽性対照にはコウジ酸(東京化成製)を用いた。酵素反応は、96穴マイクロプレートにて行った。マイクロプレートの各ウェルに酵素溶液50μLと阻害剤50μLを加え、充分混合攪拌した。室温で2分間プレインキュベートした後、基質であるL−DOPA溶液を50μL添加し、37℃で10分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(TriStar LB941、ベルトールドジャパン社製)を用いて、波長450nmにおける吸光度を測定した。チロシナーゼ活性阻害剤を用いない区分(チロシナーゼの活性を阻害していないもの)の吸光度をA、各阻害剤を添加した区分(チロシナーゼの活性を阻害したもの)の吸光度をBとし、チロシナーゼ阻害率を 阻害率(%)={(A−B)/A}×100 として計算した。
【0018】
低分子化プロテオグリカン及び陽性対照であるコウジ酸を用いてマッシュルーム由来チロシナーゼ活性に対する阻害効果を調べた結果を
図1に示す。低分子化プロテオグリカンは陽性対照であるコウジ酸よりも強い阻害効果を示した。低分子化プロテオグリカンは濃度3.3、9.9、33、99、330、990μg/mLにおいて、マッシュルーム由来チロシナーゼ活性をそれぞれ18.0、25.6、53.4、78.8、82.9、84.9%阻害した。一方、陽性対照であるコウジ酸は濃度20、40、60、80、100μg/mLにおいて、マッシュルーム由来チロシナーゼ活性をそれぞれ36.1、53.3、65.1、68.5、70.4%阻害した。これらの結果から、マッシュルーム由来チロシナーゼ活性に対する低分子化プロテオグリカン及びコウジ酸の50%阻害濃度IC50は、それぞれ28.5、35.3μg/mLと計算され、低分子化プロテオグリカンには、コウジ酸よりも1.24倍の強いチロシナーゼ活性阻害効果があることが分かった。なお、原料プロテオグリカンには顕著なチロシナーゼ活性阻害効果は見られなかった。
【0019】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、従来のチロシナーゼ活性阻害剤と同様に、医薬品、化粧品及び食品褐変防止剤の有効成分として利用可能である。この場合、チロシナーゼ阻害剤の添加量は、特に限定されるものではなく、皮膚外用剤や化粧料、食品褐変防止剤の種類によって異なるが、目的にあわせて適宜配合すればよい。
【0020】
本発明のチロシナーゼ活性阻害剤を皮膚外用剤として利用する場合、その形態としては、軟膏剤、クリーム剤、乳剤、ゲル剤、ローション剤、トリートメント剤、貼付剤などが挙げられる。
【0021】
また、本発明のチロシナーゼ活性阻害剤を化粧料として利用する場合、その形態としては、クリーム、乳液、ローション、化粧水、ジェル、美容液、パックなどの基礎化粧品、また、日焼け止めクリーム、日焼け止めローション、日焼け止めリップクリームなどの日焼け止め化粧料、また、メイクアップベースクリーム、パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、口紅などのメイクアップ化粧料、さらには、ハンドクリーム、レッグクリーム、ボディローション、浴用剤などのボディ用化粧料などが挙げられる。
【0022】
さらに、本発明のチロシナーゼ活性阻害剤を食品褐変防止剤として利用する場合、その対象となる食品としては、各種フルーツ、椎茸、マッシュルームなどのきのこ類、カニやエビなどの海産物などが挙げられる。その使用方法としては、本発明の阻害剤を適当な媒体で希釈し、この溶液を対象物に噴霧、浸漬させることで食品表面の褐変を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の低分子化プロテオグリカンは、優れたチロシナーゼ阻害活性を有し、しかも、青森県などの郷土料理としてよく知られている「氷頭なます」をヒントに工業原料として実用化されたプロテオグリカンから酵素分解により得られる物質であるため、安心感の昂揚や積極的使用に貢献できるものである。従って、低分子化プロテオグリカンを有効成分とするチロシナーゼ活性阻害剤は、医薬品、化粧品あるいは食品褐変防止剤の分野で広く利用することが可能である。