【実施例】
【0041】
実施例1.<セラノスティクス用のバブル製剤の作成>
DSPC、DSPG及びDSPE-PEG
2000-OMeを22:68:10のモル比のアニオニック脂質溶液を、懸濁液を生成するように撹拌しながらパーフルオロプロパンガス(ガス流量は12ml/分)に接触させた。その後、ホモジナイザー(15000 rpm, 5分)を用いてガスを乳化することにより、バブル懸濁液を作製した。
【0042】
続いてアニオニック脂質溶液におけるDSPC、DSPG及びDSPE-PEG
2000-OMeのモル比を下記のように変更した以外は、上記と同じようにバブル懸濁液を作製した。
【0043】
DSPC:DSPG:DSPE-PEG
2000-OMe=30:60:10
DSPC:DSPG:DSPE-PEG
2000-OMe=36:54:10
DSPC:DSPG:DSPE-PEG
2000-OMe=45:45:10
DSPC:DSPG:DSPE-PEG
2000-OMe=54:36:10
DSPC:DSPG:DSPE-PEG
2000-OMe=60:30:10
また比較例としてアニオニック脂質溶液におけるDSPC、DSPG及びDSPE-PEG
2000-OMeのモル比を下記のように変更した以外は、上記と同じようにバブル懸濁液を作製した。
【0044】
DSPC:DSPG:DSPE-PEG
2000-OMe=0:90:10
DSPC:DSPG:DSPE-PEG
2000-OMe=90:0:10
このようにして被膜成分割合を種々変更させて複数のバブル製剤を作製した。
図2は、被膜成分割合を種々変更した場合におけるナノバブルの持続性を示す図である。バブルには血管内及び腫瘍内での滞留性及び安定性が必要であるが、
図2に示されるように、比較例にかかるバブル製剤と比べて、本発明にかかるバブル製剤は時間が経過しても滞留性が極めて良好であった。
【0045】
実施例2.<担がんマウスでの持続的造影>
次に、担がんマウスでの診断用超音波で持続的なオシレーションの可能性を観察し、血流イメージングを撮影した。
【0046】
ナノバブルは、DSPC、DSPG及びDSPE-PEG
2000-OMeを22:68:10のモル比にて形成されたアニオニック脂質溶液を、懸濁液を生成するように撹拌しながらパーフルオロプロパンガスに接触させ、その後、ホモジナイザー(15000 rpm, 5分)を用いて有機相を水性相に乳化することにより作製した。次に、パーフルオロブタンガスを使用する以外は上記と同様にしてバブル製剤を作製した。
【0047】
ナノバブルが腫瘍部位に到達されているかを、診断用超音波装置を用いて超音波イメージングを行った。診断用超音波装置はGE Healthcare社のLOGIQ E9を使用した。
【0048】
図3は、ソナゾイド(比較例)、パーフルオロプロパンガス封入バブル製剤、及び、パーフルオロブタンガス封入バブル製剤において、時間経過の場合の超音波イメージング画像を示す図である。
図3に示されるように、本実施例においては比較例と比べて腫瘍部位から強いエコーシグナルが観察され、本バブル製剤の安定な到達性が確認できた。また本実施例においては時間経過しても強いエコーシグナルが観察できた。
【0049】
図4は、ソナゾイド(比較例)、及び、パーフルオロプロパンガス封入バブル製剤において、腫瘍部位を拡大した場合における超音波イメージング画像を示す図である。
図4に示されるように、本実施例においては比較例と比べて腫瘍部位から強いエコーシグナルが観察された。
【0050】
実施例3.<超音波遺伝子導入>
次にパーフルオロプロパンガス封入バブル製剤(TB)と低強度超音波照射併用による遺伝子導入システムの機能評価を行った。In vivo 実験では、本実施例にかかるパーフルオロプロパンガス封入バブル製剤(50nmol)と、レポーター遺伝子(Luciferase)をコードしたpDNAとともにマウスに尾静脈投与し(100μg)、ただちに経皮的に肝臓の部分をソニトロン プローブ(12nm)を使用して治療用超音波照射(US)(1MHz, 50% duty, 1W/cm
2, 60sec.)した。
図5はルシフェラーゼ活性の上昇を示す図である。in vivo発光イメージングでは、イソフルラン麻酔下のマウスに対してルシフェリン基質(15 mg/mL, 200μL)を投与後、IVISイメージングシステムを用いて、発光を検出、定量化した。
図6はin vivo発光イメージングの結果を示す図である。
図5及び
図6に示されるように、治療用超音波を照射した肝臓からのみルシフェラーゼの発現が観察された。
【0051】
In vitro実験では、Colon26培養細胞液中に本実施例にかかるパーフルオロプロパンガス封入バブル製剤(5nmol/sample)と、レポーター遺伝子(Luciferase)をコードしたpDNA(5μg/sample)をともに添加し、治療用超音波照射(2MHz, 50% duty, 2W/cm
2, 60sec.)した。
図7が示すように、パーフルオロプロパンガス封入バブル製剤と治療用超音波照射でのみ、顕著な遺伝子発現が観察された。
【0052】
これにより、本実施例にかかるパーフルオロプロパンガス封入バブル製剤(TB)と低強度治療用超音波照射によるデリバリーシステムは、癌の遺伝子・核酸治療においての有用性を期待できるものであることが判明した。
【0053】
実施例4.<シェイキングによるバブル製剤の作成>
実施例1ではホモジナイザーを用いてガスを乳化することにより、バブル懸濁液を作製した。実施例4ではシェイキングによるバブル懸濁液の作製を示す。
【0054】
DSPC:DSPG:DSPE-PEG
2000-OMe=30:60:10(モル比)のリポソーム(脂質濃度:0.5mM)1mLをバイアルに入れ、バイアル内のヘッドスペースをパーフルオロプロパンガスで置換し、氷冷した。その後、バイアルシェーカーで45秒間振とうし、再度氷冷した。大きな気泡を除去する目的で、バイアルを逆さに15分間ほど静置し、
図8に示されるように、気泡懸濁液の下部を回収した。
【0055】
実施例5.<ホモジナイザーにより調製したペプチド修飾バブルの標的細胞への結合性評価>
ペプチド修飾脂質としてcyclic RGD(cRGD)で修飾したDSPE-PEG
3400を用意した。なお、cRGDはがん組織の新生血管内皮細胞の表面上に過剰発現しているα
Vβ
3インテグリンに特異的に結合するペプチド配列であり、バブル表面に修飾することで、標的細胞に選択的に結合するターゲティング型バブルを調製できる。そしてDSPC:DSPG:DSPE-PEG
2000-OMe: cRGD修飾DSPE-PEG
3400=30:60:5:5(モル比)のアニオニック脂質溶液を、懸濁液を生成するように撹拌しながらパーフルオロプロパンガス(ガス流量は12ml/分)に接触させた。その後、ホモジナイザー(15000 rpm, 5分)を用いてガスを乳化することによりバブル懸濁液を作製してcRGD修飾バブルを用意した。cRGD修飾は5モル%修飾とした。
【0056】
標的細胞としてヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いた。このHUVECはcRGDが結合する細胞である。
【0057】
一方、HUVECに結合しないコントロールペプチドとしてcyclic RAD(cRAD)を用いた。cRAD修飾バブルは、cRGD修飾バブルと同様にして作成し、5モル%修飾とした。
【0058】
HUVEC細胞に、cRGD又はcRAD修飾バブル(DiIラベル)を添加し、37℃で10分間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、フローサイトメーターにてバブルの細胞への結合を評価した。
図9に示されるように、ホモジナイザーにより調製したcRGD 5モル%修飾バブルは、cRAD 5モル%修飾バブルと比較してHUVEC細胞への優れた結合性を示した。
【0059】
実施例6.<シェイキングにより調製したペプチド修飾バブルの標的細胞への結合性評価>
実施例5ではホモジナイザーを用いて作製したペプチド修飾バブルのHUVEC細胞への結合性を示した。実施例6ではシェイキングで作製したペプチド修飾バブルのHUVEC細胞への結合性を示す。
【0060】
実施例5と同様に、ペプチド修飾脂質としてcyclic RGD(cRGD)で修飾したDSPE-PEG
3400を用意した。そしてDSPC:DSPG:DSPE-PEG
2000-OMe: cRGD修飾DSPE-PEG
3400=30:60:5:5又は30:60:0:10(モル比)のリポソーム(脂質濃度:0.5mM)1mLをバイアルに入れ、バイアル内のヘッドスペースをパーフルオロプロパンガスで置換し、氷冷した。その後、バイアルシェーカーで45秒間振とうし、再度氷冷した。大きな気泡を除去する目的で、バイアルを逆さに15分間ほど静置し、気泡懸濁液の下部を回収してcRGD修飾バブルを用意した。cRGD修飾は5モル%修飾の修飾バブルと、10モル%修飾の修飾バブルとを用意した。
【0061】
実施例5と同様に、コントロールペプチドとしてcyclic RAD(cRAD)を用いた。cRAD修飾バブルは、cRGD修飾バブルと同様にシェイキングにより作成し、5モル%修飾の修飾バブルと、10モル%修飾の修飾バブルとを用意した。
【0062】
次に、HUVEC細胞に、cRGD又はcRAD修飾バブル(DiOラベル)を添加し、37℃で30分間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、フローサイトメーターにてバブルの細胞への結合を評価した。
図10に示されるように、シェイキングにより調製したcRGD 5モル%修飾バブルは、cRAD 5モル%修飾バブルと比較してHUVEC細胞への優れた結合性を示した。また、
図11に示されるように、シェイキングにより調製したcRGD 10モル%修飾バブルも、cRAD 10モル%修飾バブルと比較してHUVEC細胞への優れた結合性を示した。
【0063】
実施例7.<抗腫瘍効果の評価>
DSPC:DSPG:DSPE-PEG
2000-OMe=30:60:10(モル比)のアニオニック脂質溶液を、懸濁液を生成するように撹拌しながらパーフルオロプロパンガス(ガス流量は12ml/分)に接触させた。その後、ホモジナイザー(15000 rpm, 5分)を用いてガスを乳化することによりバブル懸濁液を作製した。そしてこのバブル懸濁液を凍結乾燥させて凍結乾燥粉末体を得た。この凍結乾燥粉末体に2mLの超純水(2mL MilliQ)を添加して懸濁させた。
【0064】
次に、マウスメラノーマ細胞(B16BL6細胞)1×10
6 cells/50μL/匹をC57BL/6jマウス後背部皮下に移植し、担がん7日後、5μmフィルターを通したバブル25μLを腫瘍内投与し、その直後に腫瘍に向けて経皮的に超音波を照射した。
【0065】
超音波照射条件は、下記であった。
装置:sonitron2000(ネッパジーン株式会社)
Freqency:1MHz
Intensity:4W/cm
2
Duty:50%
Time:120sec
Burst Rate:2Hz
腫瘍体積は、(腫瘍の長径×腫瘍の短径×腫瘍の短径)×0.5(mm
3)なる計算式により算出し、腫瘍径を指標に抗腫瘍効果を評価した。
図12に示されるように本実施例にかかるバブルの優れた抗腫瘍効果が判明した。