(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切換機構は、前記レーザを反射させるミラーと、当該ミラーをスライド移動させるスライド移動機構部と、を含み、前記スライド移動機構部による前記ミラーのスライド移動によって、前記第一レーザまたは前記第二レーザの一方を前記ミラーにより反射させて前記集光光学系に対して入射させる状態と、前記第一レーザまたは前記第二レーザの他方を前記ミラーを介さずに前記集光光学系に対して入射させる状態とに切り換える請求項1に記載のレーザ加工装置。
前記切換機構は、前記レーザを反射させるミラーと、当該ミラーを回転移動させる回転移動機構部と、を含み、前記回転移動機構部による前記ミラーの回転移動によって、前記第一レーザまたは前記第二レーザの一方を前記ミラーにより反射させて前記集光光学系に対して入射させる状態と、前記第一レーザまたは前記第二レーザの他方を前記ミラーを介さずに前記集光光学系に対して入射させる状態とに切り換える請求項1に記載のレーザ加工装置。
前記照射角度変更機構は、前記レーザを反射させるミラーと、当該ミラーを前記レーザの軸方向に沿ってスライド移動させるスライド移動機構部と、を含み、前記スライド移動機構部による前記ミラーのスライド移動によって、前記第一レーザと前記第二レーザとの前記集光光学系に対する入射位置を変更する請求項1から3のいずれか1つに記載のレーザ加工装置。
前記照射角度変更機構は、前記レーザを反射させる第一ミラーと、当該第一ミラーを回転移動させる回転移動機構部と、前記第一ミラーに対して前記レーザの軸方向で位置が異なり固定されて前記レーザを反射させる第二ミラーと、を含み、前記回転移動機構部による前記第一ミラーの回転移動によって、前記第一レーザまたは前記第二レーザの一方を前記第一ミラーにより反射させて前記集光光学系に対して入射させる状態と、前記第一レーザまたは前記第二レーザの他方を前記第一ミラーを介さずに前記第二ミラーにより反射させて前記集光光学系に対して入射させる状態とに変更する請求項1から3のいずれか1つに記載のレーザ加工装置。
前記レーザ加工ヘッドは、前記短パルスレーザを前記集光光学系に入射させる距離が、前記パルス幅がサブミリ秒以上のレーザを前記集光光学系に入射させる距離よりも短くなるように構成される請求項6に記載のレーザ加工装置。
金属層の表面に保護層が形成された積層構造の加工対象物に対してレーザにて表面側が大径に開口する大径部と奥側が小径の小径部とが連通する貫通孔を加工するレーザ加工方法であって、
前記加工対象物における前記貫通孔の加工範囲内に前記小径部よりも小径の補助貫通孔を切削する工程と、
前記補助貫通孔を拡げる態様で前記大径部を切削する工程と、
前記大径部の切削後に前記補助貫通孔を拡げる態様で前記小径部を切削する工程と、
を含むレーザ加工方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、冷却効率を高めるため、内部では円形状の断面をなしているが、表面における開口形状では間口が放射状に広がったシェイプトと呼ばれる複雑な形状の冷却孔が適用されている。しかし、金属層の表面に保護層(セラミックス等)が形成された加工対象物において、保護層の加工はドリル等の機械加工で行われ、金属層の加工は放電加工により行われることが主流であり、一貫して加工を行う技術は確立されていない。
【0006】
具体的には、冷却効率を向上させるため、冷却孔の小径化、保護層の厚膜化が望まれているが、金属層に冷却孔を加工した後に、保護層のコーティングを施工し、窪んだ箇所を狙ってドリル加工すると、冷却孔の小径化、保護層の厚膜化により、保護層の加工位置の特定が困難になる問題がある。そして、放電加工は、絶縁材料であるTBCの保護層の加工が困難であるため、一貫加工が適用できない。
【0007】
ところで、レーザ加工は、金属層の保護層も材料を問わず加工可能であって、一貫加工に有力な加工方法の1つであるが、高品質加工と高速加工を両立する加工装置および加工方法が確立されていない。シェイプト形状の孔は、表面部のシェイプト形状部と当該シェイプト形状部に繋がる円形孔とで構成され、シェイプト形状部を高精度に加工するには、精密加工に適した短パルスレーザ(100マイクロ秒以下のパルス間隔)が優れているのに対し、円形孔部の加工には、サブミリ秒もしくはミリ秒オーダーのパルスレーザ(ファイバレーザ、YAGレーザなど)が適している。このため、高速で高品質に加工するためには、シェイプト形状部を加工するレーザ加工機と円形孔部を加工する別のレーザ加工機の2台が必要であるため、装置コストが高く、段替えで加工時間が増大すると共に、加工対象物へのレーザ照射位置の変更を複数回行わなければならない問題があった。また、シェイプト形状の孔は、円形孔部の中心軸の角度とシェイプト形状部の壁面の角度がずれている構成があるため、それぞれの加工に対して加工対象物へのレーザ照射角度を変えて加工することが望ましい。例えば、加工対象物に対するレーザ照射角度を変更する場合、加工対象物またはレーザ加工ヘッドを移動させることで加工が可能であるが、角度の変更に時間を要し、加工時間が増大すると共に、加工対象物へのレーザ照射位置の変更を複数回行わなければならない問題があった。
【0008】
また、パルスレーザによる加工においては、加工対象物の材料が溶融したドロスを生じる。そして、孔が貫通するまではドロスが表面側に溢れ出ることから、加工対象物の表面にドロスが飛散してスパッタとして付着固化して品質が低下することになる。特に、TBCの保護層と金属層では入熱に対する熱膨張率が異なるため、金属層のスパッタがTBCの保護層に付着固化すると熱影響により保護層にクラックなどが生じやすく、保護層の品質に影響を及ぼすおそれがある。また、付着固化したスパッタを除去する作業を要すことから、加工時間および作業コストが増大する問題があった。
【0009】
本発明は上述した課題を解決するものであり、高品質に切削加工することのできるレーザ加工装置およびレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために、本発明の一態様に係るレーザ加工装置は、加工対象物を支持するステージを含むステージユニットと、第一レーザを出力する第一レーザ光源、前記第一レーザとはパルス幅が異なる第二レーザを出力する第二レーザ光源、および前記加工対象物を加工するレーザを照射するレーザ加工ヘッドを含むレーザ加工ユニットと、を含み、前記レーザ加工ヘッドは、レーザを集光させる集光光学系に対して前記第一レーザを入射させる状態、または前記集光光学系に対して前記第二レーザを入射させる状態に切り換える切換機構と、前記集光光学系に対して前記レーザの入射位置を変更し、前記レーザの照射角度を変更する照射角度変更機構と、を有する。
【0011】
このレーザ加工装置によれば、切換機構により照射するレーザを切り換え可能とすることで、加工対象物の大きさ、厚み、材料などに応じて、使用するレーザを切り換えることができる。これにより、1つのレーザ加工ヘッドで第一レーザおよび第二レーザによる加工ができる。このため、加工対象物の固定状態を維持したまま、加工を行うことができ、加工した部分で軸ズレが生じることを抑制できる。この結果、用途に応じた加工を高品質に高い精度かつ短時間で行うことができる。しかも、このレーザ加工装置によれば、照射角度変更機構により、集光光学系の中心軸に対してレーザをシフト(平行移動)させて入射させ、加工対象物に対して、レーザ光の照射角度を中心軸に対して傾斜させ、かつ集光位置が同一となるように照射することで、径や形状などの異なる加工に応じて使用するレーザの照射角度を変更することができる。これにより径や形状などの異なりに応じた加工を高品質に高い精度かつ短時間で行うことができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工装置では、前記切換機構は、前記レーザを反射させるミラーと、当該ミラーをスライド移動させるスライド移動機構部と、を含み、前記スライド移動機構部による前記ミラーのスライド移動によって、前記第一レーザまたは前記第二レーザの一方を前記ミラーにより反射させて前記集光光学系に対して入射させる状態と、前記第一レーザまたは前記第二レーザの他方を前記ミラーを介さずに前記集光光学系に対して入射させる状態とに切り換えることが好ましい。
【0013】
このレーザ加工装置によれば、各レーザの切り換えを実現することができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工装置では、前記切換機構は、前記レーザを反射させるミラーと、当該ミラーを回転移動させる回転移動機構部と、を含み、前記回転移動機構部による前記ミラーの回転移動によって、前記第一レーザまたは前記第二レーザの一方を前記ミラーにより反射させて前記集光光学系に対して入射させる状態と、前記第一レーザまたは前記第二レーザの他方を前記ミラーを介さずに前記集光光学系に対して入射させる状態とに切り換えることが好ましい。
【0015】
このレーザ加工装置によれば、切換機構は、回転移動機構部によりミラーを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較して各レーザの切り換えを高速化でき、より短時間で加工を行うことができる。しかも、切換機構は、回転移動機構部によりミラーを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較して回転軸でミラーの姿勢を安定して支持することができ、高品質で高精度な加工を行うことができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工装置では、前記照射角度変更機構は、前記レーザを反射させるミラーと、当該ミラーを前記レーザの軸方向に沿ってスライド移動させるスライド移動機構部と、を含み、前記スライド移動機構部による前記ミラーのスライド移動によって、前記第一レーザと前記第二レーザとの前記集光光学系に対する入射位置を変更することが好ましい。
【0017】
このレーザ加工装置によれば、レーザの照射角度の変更を実現することができる。
【0018】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工装置では、前記照射角度変更機構は、前記レーザを反射させる第一ミラーと、当該第一ミラーを回転移動させる回転移動機構部と、前記第一ミラーに対して前記レーザの軸方向で位置が異なり固定されて前記レーザを反射させる第二ミラーと、を含み、前記回転移動機構部による前記第一ミラーの回転移動によって、前記第一レーザまたは前記第二レーザの一方を前記第一ミラーにより反射させて前記集光光学系に対して入射させる状態と、前記第一レーザまたは前記第二レーザの他方を前記第一ミラーを介さずに前記第二ミラーにより反射させて前記集光光学系に対して入射させる状態とに変更することが好ましい。
【0019】
このレーザ加工装置によれば、照射角度変更機構は、回転移動機構部により第一ミラーを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較してレーザの入射位置の変更を高速化でき、高速で加工を行うことができる。しかも、照射角度変更機構は、回転移動機構部により第一ミラーを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較して回転軸で第一ミラーの姿勢を安定して支持することができ、高品質で高精度な加工を行うことができる。
【0020】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工装置は、加工対象物を支持するステージを含むステージユニットと、第一レーザを出力する第一レーザ光源、前記第一レーザとはパルス幅が異なる第二レーザを出力する第二レーザ光源、および前記加工対象物を加工するレーザを照射するレーザ加工ヘッドを含むレーザ加工ユニットと、を含み、前記レーザ加工ヘッドは、レーザを集光させる集光光学系に対して前記第一レーザを入射させる状態、または前記集光光学系に対して前記第二レーザを入射させる状態に切り換える切換機構を有し、前記切換機構は、前記レーザを反射させるミラーと、当該ミラーを回転移動させる回転移動機構部と、を含み、前記回転移動機構部による前記ミラーの回転移動によって、前記第一レーザまたは前記第二レーザの一方を前記ミラーにより反射させて前記集光光学系に対して入射させる状態と、前記第一レーザまたは前記第二レーザの他方を前記ミラーを介さずに前記集光光学系に対して入射させる状態とに切り換える。
【0021】
このレーザ加工装置によれば、切換機構により照射するレーザを切り換え可能とすることで、加工対象物の大きさ、厚み、材料などに応じて、使用するレーザを切り換えることができる。これにより、1つのレーザ加工ヘッドで第一レーザおよび第二レーザによる加工ができる。このため、加工対象物の固定状態を維持したまま、加工を行うことができ、加工した部分で軸ズレが生じることを抑制できる。この結果、用途に応じた加工を高品質に高い精度かつ短時間で行うことができる。しかも、このレーザ加工装置によれば、切換機構は、回転移動機構部によりミラーを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較して各レーザの切り換えを高速化でき、より短時間で加工を行うことができる。しかも、切換機構は、回転移動機構部によりミラーを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較して回転軸でミラーの姿勢を安定して支持することができ、高品質で高精度な加工を行うことができる。
【0022】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工装置は、加工対象物を支持するステージを含むステージユニットと、レーザを出力するレーザ光源、および前記加工対象物を加工するレーザを照射するレーザ加工ヘッドを含むレーザ加工ユニットと、を含み、前記レーザ加工ヘッドは、レーザを集光させる集光光学系に対して前記レーザの入射位置を変更し、前記レーザの照射角度を変更する照射角度変更機構を有し、前記照射角度変更機構は、前記レーザを反射させるミラーと、当該ミラーを前記レーザの軸方向に沿ってスライド移動させるスライド移動機構部と、を含み、前記スライド移動機構部による前記ミラーのスライド移動によって、前記レーザの前記集光光学系に対する入射位置を変更する。
【0023】
このレーザ加工装置によれば、照射角度変更機構により、集光光学系の中心軸に対してレーザをシフト(平行移動)させて入射させ、加工対象物に対して、レーザ光の照射角度を中心軸に対して傾斜させ、かつ集光位置が同一となるように照射することで、径や形状などの異なる加工に応じて使用するレーザの照射角度を変更することができる。これにより径や形状などの異なりに応じた加工を高品質に高い精度かつ短時間で行うことができる。
【0024】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工装置は、加工対象物を支持するステージを含むステージユニットと、レーザを出力するレーザ光源、および前記加工対象物を加工するレーザを照射するレーザ加工ヘッドを含むレーザ加工ユニットと、を含み、前記レーザ加工ヘッドは、レーザを集光させる集光光学系に対して前記レーザの入射位置を変更する照射角度変更機構を有し、前記照射角度変更機構は、前記レーザを反射させる第一ミラーと、当該第一ミラーを回転移動させる回転移動機構部と、前記第一ミラーに対して前記レーザの軸方向で位置が異なり固定されて前記レーザを反射させる第二ミラーと、を含み、前記回転移動機構部による前記第一ミラーの回転移動によって、前記レーザを前記第一ミラーにより反射させて前記集光光学系に対して入射させる状態と、前記レーザを前記第一ミラーを介さずに前記第二ミラーにより反射させて前記集光光学系に対して入射させる状態とに変更する。
【0025】
このレーザ加工装置によれば、照射角度変更機構により、集光光学系の中心軸に対してレーザをシフト(平行移動)させて入射させ、加工対象物に対して、レーザ光の照射角度を中心軸に対して傾斜させ、かつ集光位置が同一となるように照射することで、径や形状などの異なる加工に応じて使用するレーザの照射角度を変更することができる。これにより径や形状などの異なりに応じた加工を高品質に高い精度かつ短時間で行うことができる。しかも、照射角度変更機構は、回転移動機構部により第一ミラーを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較してレーザの入射位置の変更を高速化でき、高速で加工を行うことができる。しかも、照射角度変更機構は、回転移動機構部により第一ミラーを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較して回転軸で第一ミラーの姿勢を安定して支持することができ、高品質で高精度な加工を行うことができる。
【0026】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工装置では、前記レーザ光源は、第一レーザを出力する第一レーザ光源、および前記第一レーザとはパルス幅が異なる第二レーザを出力する第二レーザ光源を含み、前記照射角度変更機構は、前記集光光学系に対して前記第一レーザと前記第二レーザとの入射位置を変更することが好ましい。
【0027】
このレーザ加工装置によれば、照射角度変更機構は、パルス幅が異なるレーザの入射位置を変更するため、加工対象物の大きさ、厚み、材料などに応じて、使用するレーザを切り換えることができる。これにより、1つのレーザ加工ヘッドで第一レーザおよび第二レーザによる加工ができる。このため、加工対象物の固定状態を維持したまま、加工を行うことができ、加工した部分で軸ズレが生じることを抑制できる。この結果、用途に応じた加工を高品質に高い精度かつ短時間で行うことができる。
【0028】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工装置では、前記第一レーザ光源は、第一レーザとしてパルス幅がサブミリ秒以上のレーザを出力し、前記第二レーザ光源は、第二レーザとしてパルス幅が100マイクロ秒以下の短パルスレーザを出力することが好ましい。
【0029】
このレーザ加工装置によれば、パルス幅がサブミリ秒以上のレーザは、比較的高速で加工を行うことができ、短パルスレーザは、比較的高精度で加工を行うことができる。従って、それぞれのレーザの長所を生かして切り換えたり、入射位置を変更したりすることで、高品質に高い精度かつ短時間で加工を行うことができる。
【0030】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工装置では、前記レーザ加工ヘッドは、前記短パルスレーザを前記集光光学系に入射させる距離が、前記パルス幅がサブミリ秒以上のレーザを前記集光光学系に入射させる距離よりも短くなるように構成されることが好ましい。
【0031】
このレーザ加工装置によれば、精度が要求される加工を行う短パルスレーザのエネルギー損失を低減することができ、高精度な加工を行うことができる。
【0032】
上述の目的を達成するために、本発明の一態様に係るレーザ加工方法は、加工対象物に対してレーザにて貫通孔を加工するレーザ加工方法であって、前記加工対象物における前記貫通孔の加工範囲内に前記貫通孔よりも小径の補助貫通孔を切削する工程と、前記補助貫通孔を拡げる態様で前記貫通孔を切削する工程と、を含む。
【0033】
このレーザ加工方法によれば、加工対象物に貫通孔を形成するにあたり、当該貫通孔よりも小径の補助貫通孔を形成してから補助貫通孔を拡げる態様で貫通孔を形成する。従って、先に補助貫通孔が形成されていることで、その後に貫通孔を加工する際、加工対象物の材料が溶融したドロスが補助貫通孔を通して排出される。このため、加工対象物の表面にドロスが溢れ出して飛散する事態を防ぐことができ、ドロスがスパッタとして加工対象物の表面側に付着固化することを防止し、高品質に切削加工することができる。しかも、スパッタの付着を防ぐことで、当該スパッタを除去する作業を要さないことから、加工時間および作業コストを低減することができる。
【0034】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工方法は、金属層の表面に保護層が形成された積層構造の加工対象物に対してレーザにて表面側が大径に開口する大径部と奥側が小径の小径部とが連通する貫通孔を加工するレーザ加工方法であって、前記加工対象物における前記貫通孔の加工範囲内に前記小径部よりも小径の補助貫通孔を切削する工程と、前記補助貫通孔を拡げる態様で前記貫通孔を切削する工程と、を含む。
【0035】
このレーザ加工方法によれば、加工対象物に貫通孔を形成するにあたり、当該貫通孔よりも小径の補助貫通孔を形成してから補助貫通孔を拡げる態様で貫通孔を形成する。補助貫通孔は、貫通孔のうち最も小径の小径部の孔径よりも小径である。従って、先に補助貫通孔が形成されていることで、その後に大径部や小径部を加工する際、加工対象物の材料が溶融したドロスが補助貫通孔を通して排出される。このため、加工対象物の表面にドロスが溢れ出して飛散する事態を防ぐことができ、ドロスがスパッタとして加工対象物の表面側に付着固化することを防止し、高品質に切削加工することができる。しかも、スパッタの付着を防ぐことで、当該スパッタを除去する作業を要さないことから、加工時間および作業コストを低減することができる。
【0036】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工方法では、前記補助貫通孔を切削する工程は、パルス幅がサブミリ秒以上のレーザを照射して加工し、前記貫通孔を切削する工程は、パルス幅が100マイクロ秒以下の短パルスレーザを照射して前記大径部を加工し、その後パルス幅がサブミリ秒以上のレーザを照射して前記小径部を加工することが好ましい。
【0037】
このレーザ加工方法によれば、パルス幅がサブミリ秒以上のレーザは、比較的高速で小径部の加工を行うことができ、短パルスレーザは、比較的高精度で大径部の加工を行うことができる。従って、それぞれのレーザの長所を生かすことで、高品質に高い精度かつ短時間で加工を行うことができる。
【0038】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工方法では、前記補助貫通孔を切削する工程は、パルス幅が100マイクロ秒以下の短パルスレーザを照射した後、パルス幅がサブミリ秒以上のレーザを照射して加工し、前記貫通孔を切削する工程は、パルス幅が100マイクロ秒以下の短パルスレーザを照射して前記大径部を加工し、その後パルス幅がサブミリ秒以上のレーザを照射して前記小径部を加工することが望ましい。
【0039】
このレーザ加工方法によれば、加工対象物の表面へのスパッタ付着をごく少量にとどめることができ、スパッタを除去する作業を要さずに済む、もしくは簡易的な除去作業で十分とすることで、作業コストを低減できる。パルス幅が100マイクロ秒以下の短パルスレーザは、ピークパワーが数十kW以上と高く、ドロスの発生を抑制できる高品質加工なため、スパッタ付着量の極小化に有効である。スパッタの発生について観測したところ、特にレーザ加工の初期に発生しやすいことが分かった。そこで、前記補助貫通孔の形成において、スパッタの発生しやすい初期に、パルス幅が100マイクロ秒以下の短パルスレーザを照射して加工し、その後、パルス幅がサブミリ秒以上のレーザを照射することで、スパッタ付着量を極小化しつつ、加工時間を短縮する事が可能となった。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、高品質に切削加工することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0043】
図1は、本実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す模式図である。
図2は、レーザ加工ヘッドの概略構成を示す模式図である。
図3および
図4は、それぞれレーザ加工ヘッドの動作を説明するための説明図である。
【0044】
図1に示すように、レーザ加工装置10は、加工対象物100に対して、切断加工、穴あけ加工などの各種加工を行う装置である。なお、加工の種類は特に限定されないが、本実施形態のレーザ加工装置10は、穴あけにおける切削加工を行う。また、レーザ加工装置10は、加工対象物100の計測も行う。
【0045】
レーザ加工装置10は、フレーム12と、移動ユニット14と、ステージユニット16と、レーザ加工ヘッド60を含むレーザ加工ユニット22と、制御部24と、を有する。レーザ加工装置10は、ステージユニット16に保持される加工対象物100にレーザ加工ユニット22によりレーザを照射し、加工対象物100をレーザ加工する。ここで、本実施形態では、水平面をX軸方向と、X軸に直交するY軸方向とを含むXY平面とし、水平面に直交する方向をZ軸方向とする。また、Y軸周りに回転する方向をθY方向とする。
【0046】
フレーム12は、レーザ加工装置10の筐体であり、地面、土台などの設置面に固定されている。フレーム12は、門12aと門12aの空間に挿入された土台12bとを有する。フレーム12は、移動ユニット14の固定部が固定されている。従って、本実施形態のレーザ加工装置10は、フレーム12の門12aと土台12bとに移動ユニット14が固定され、移動ユニット14により加工対象物100と、レーザ加工ユニット22とを相対的に移動させる、いわゆる門型の加工装置である。
【0047】
移動ユニット14は、加工対象物100とレーザ加工ヘッド60とを相対移動させる。移動ユニット14は、Y軸移動機構30と、X軸移動機構34と、Z軸移動機構38と、θY回転機構39と、を有する。Y軸移動機構30は、フレーム12の土台12b上に配置され、Y軸方向に延在するレール30aと、レール30aに沿って移動するY軸移動部材30bと、を有する。Y軸移動機構30は、Y軸移動部材30bにステージユニット16が固定されている。Y軸移動機構30は、レール30aに沿って、Y軸移動部材30bを移動させることで、ステージユニット16をY軸方向に移動させる。Y軸移動機構30は、Y軸移動部材30bをY軸方向に移動させる機構として、種々の機構を用いることができる。例えば、Y軸移動部材30bにボールねじを挿入し、ボールねじをモータなどで回転させる機構や、リニアモータ機構、ベルト機構などを用いることができる。X軸移動機構34と、Z軸移動機構38も同様に種々の機構を用いることができる。
【0048】
X軸移動機構34は、フレーム12の門12a上に配置され、X軸方向に延在するレール33と、レール33に沿って移動するX軸移動部材34aと、を有する。X軸移動機構34は、X軸移動部材34aにZ軸移動機構38が固定されている。X軸移動機構34は、レール33に沿って、X軸移動部材34aを移動させることで、Z軸移動機構38をX軸方向に移動させる。Z軸移動機構38は、X軸移動部材34aに固定され、Z軸方向に延在するレール38aと、レール38aに沿って移動するZ軸移動部材38bと、を有する。Z軸移動機構38は、Z軸移動部材38bにθY回転機構39が固定されている。Z軸移動機構38は、レール38aに沿って、θY回転機構39を移動させることで、θY回転機構39をZ軸方向に移動させる。θY回転機構39は、Z軸移動部材38bに固定され、レーザ加工ヘッド60が固定されている。θY回転機構39は、Z軸移動部材38bに対して、レーザ加工ヘッド60をθY方向に回転させることで、レーザ加工ヘッド60をθY方向に回転させる。
【0049】
移動ユニット14は、Y軸移動機構30とX軸移動機構34とZ軸移動機構38とを用いて、加工対象物100とレーザ加工ヘッド60とをX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれに相対移動させる。また、移動ユニット14は、θY回転機構39を用いて、加工対象物100に対してレーザ加工ヘッド60を回転させる。これにより、レーザ加工ヘッド60から加工対象物100に対して照射されるレーザの向きを調整することができる。移動ユニット14は、レーザ加工ヘッド60をX軸周りに回転させる機構を備えていてもよい。また、レーザが照射される向きを調整する機構は、レーザ加工ヘッド60に設けてもよい。
【0050】
ステージユニット16は、Y軸移動機構30のY軸移動部材30b上に配置されている。ステージユニット16は、加工対象物100を支持するステージである。本実施形態のステージユニット16は、Y軸移動部材30bと一体化させた部材、つまり、Y軸移動部材30bをステージユニット16のステージとしたが、Y軸移動部材30b上に別の支持部材をステージとして設けてもよい。ステージユニット16は、Y軸移動機構30が加工対象物100を移動させるステージ移動機構42となる。ステージユニット16は、加工対象物100をY軸移動部材30bの所定の位置に固定する固定機構を備えている。また、ステージユニット16は、ステージ移動機構42として、さらにY軸移動部材30bに対して加工対象物100の向きを、つまり姿勢を調整する調整機構を備えていてもよい。具体的には、ステージ移動機構42として、加工対象物100を回転させる機構を備えていてもよい。
【0051】
レーザ加工ユニット22は、レーザ加工ヘッド60と、ファイバレーザ光源(第一レーザ光源)62と、短パルスレーザ光源(第二レーザ光源)64と、を有する。ファイバレーザ光源62は、光ファイバを媒質としてパルス幅がサブミリ秒以上のレーザであるファイバレーザ(第一レーザ)L1を出力する装置である。ファイバレーザ出力装置としては、例えば、ファブリペロー型ファイバレーザ出力装置やリング型ファイバレーザ出力装置を用いることができ、これらの出力装置が励起されることによりレーザが発振される。ファイバレーザ出力装置のファイバは、例えば、エルビウム(Er)、ネオジム(Nd)、イッテルビウム(Yb)などの希土類元素が添加されたシリカガラスを用いることができる。なお、本実施形態では、ファイバレーザ(第一レーザ)L1としてYAGレーザやYVO4レーザなどのマイクロ秒オーダーパルス発振もしくはそれ以下のパルス発振をするレーザも使用可能である。短パルスレーザ光源64は、レーザを短パルス、例えば、周波数20kHzで出力する。短パルスレーザ出力装置としては、レーザの発振源として例えば、チタンサファイアレーザを用いることができ、パルス幅が100ピコ秒以下のパルスを発振することができる。ここで、本実施形態において、短パルスレーザ(第二レーザ)L2は、パルス幅が100マイクロ秒以下の短パルスでレーザを出力するものである。なお、レーザ加工ユニット22は、短パルスレーザL2を、パルス幅が100ナノ秒以下の短パルスとすることが好ましく、パルス幅が1ナノ秒未満のレーザとすることがより好ましい。
【0052】
次に、レーザ加工ヘッド60について、説明する。レーザ加工ヘッド60は、
図2に示すように、ファイバレーザ光源62から出力されたファイバレーザL1と、短パルスレーザ光源64から出力された短パルスレーザL2と、が入射され、入射されたレーザL1,L2のうち一方を加工対象物100に照射することで、加工対象物100をレーザ加工する。なお、ファイバレーザ光源62から出力されたファイバレーザL1と、短パルスレーザ光源64から出力された短パルスレーザL2とは、光ファイバなどのレーザ光を導く光学部材でレーザ加工ヘッド60まで案内される。
【0053】
レーザ加工ヘッド60は、切換機構72と、レーザ走査部74と、照射角度変更機構76と、集光光学系78と、ノズル80と、を含む。
【0054】
切換機構72は、レーザ走査部74にファイバレーザ光源62から出力されたファイバレーザL1を入射させるか、短パルスレーザ光源64から出力された短パルスレーザL2を入射させるかを切り換える機構である。切換機構72は、レーザL1,L2を反射するミラー72Aと、ミラー72Aをスライド移動させるスライド移動機構部72Bと、を有する。スライド移動機構部72Bは、ミラー72Aに連結された支持棒72Baと、支持棒72Baをスライド移動させる駆動部72Bbと、を有する。切換機構72は、駆動部72Bbにより支持棒72Baを介してミラー72Aを
図2に実線で示すようにファイバレーザL1と短パルスレーザL2とが相互に交差して重なる位置と、
図2に一点鎖線で示すように短パルスレーザL2の経路から外れた位置とに配置する。
【0055】
切換機構72は、
図3に示すように、駆動部72Bbにより支持棒72Baを介してミラー72AをファイバレーザL1と短パルスレーザL2とが重なる位置に配置し、ファイバレーザL1をミラー72Aで反射し、短パルスレーザL2を遮ることで、ファイバレーザL1がレーザ走査部74に入射する状態とする。なお、
図3に示す例では、短パルスレーザ光源64で短パルスレーザL2を遮っているため、短パルスレーザL2は、ミラー72Aまで到達しない。
【0056】
また、切換機構72は、
図4に示すように、駆動部72Bbにより支持棒72Baを介してミラー72Aを短パルスレーザL2の経路から外れた位置に配置し、つまり、ミラー72AをファイバレーザL1と短パルスレーザL2とが重なる位置からミラー72Aが配置されていない状態に退避して配置し、短パルスレーザL2をそのまま通過させることで、短パルスレーザL2がレーザ走査部74に入射する状態とする。短パルスレーザL2をそのまま通過させる場合、ミラー72Aの手前にシャッタを設けてファイバレーザL1遮るようにしてもよい。なお、
図4に示す例では、ファイバレーザ光源62でファイバレーザL1を遮っているため、ファイバレーザL1は、ミラー72Aまで到達しない。
【0057】
なお、図には明示しないが、切換機構72は、上記構成以外に、例えば、ミラー72Aをレールでスライド移動可能に設け、駆動部72Bbでレールに沿ってミラー72Aをスライド移動させる構成であってもよい。また、切換機構72は、短パルスレーザL2をミラー72Aで反射させ、ファイバレーザL1をそのまま通過させることで、それぞれレーザ走査部74に入射する状態としてもよい。
【0058】
なお、図には明示しないが、レーザ加工ヘッド60は、ファイバレーザ光源62から出力されたファイバレーザL1をコリメートし、コリメートしたファイバレーザL1を切換機構72に向けて射出するコリメート光学系が設けられている。また、レーザ加工ヘッド60は、短パルスレーザ光源64から出力された短パルスレーザL2をコリメートし、コリメートした短パルスレーザL2を切換機構72に向けて射出するコリメート光学系が設けられている。
【0059】
レーザ走査部74は、切換機構72を経たファイバレーザL1や短パルスレーザL2のレーザを照射角度変更機構76に向けて走査するもので、例えば、ガルバノスキャナが用いられる。すなわち、レーザ走査部74は、切換機構72を経たファイバレーザL1や短パルスレーザL2の経路を屈折させて、当該経路を照射角度変更機構76における入射の光軸に合わせる。
【0060】
照射角度変更機構76は、ファイバレーザL1や短パルスレーザL2の集光光学系78への入射位置を変更し、レーザL1,L2の照射角度を変更するものである。照射角度変更機構76は、レーザを反射するミラー76Aと、ミラー76Aをスライド移動させるスライド移動機構部76Bと、を有する。スライド移動機構部76Bは、ミラー76Aに連結された支持棒76Baと、支持棒76Baをスライド移動させる駆動部76Bbと、を有する。照射角度変更機構76は、駆動部76Bbにより支持棒76Baを介してミラー76Aを
図2に実線で示すようにファイバレーザL1や短パルスレーザL2の光軸の延在方向に沿ってスライド移動した異なる位置に配置する。
【0061】
照射角度変更機構76は、
図3に示すように、駆動部76Bbにより支持棒76Baを介してミラー76Aを、例えばファイバレーザL1の光軸に沿って後退した位置に配置し、ファイバレーザL1をミラー76Aで反射させることで、ファイバレーザL1が集光光学系78の中心軸に対してシフト(平行移動)して入射する状態とする。なお、
図3に示す例では、短パルスレーザ光源64で短パルスレーザL2を遮っているため、短パルスレーザL2は、ミラー76Aまで到達しない。なお、照射角度変更機構76は、同経路で短パルスレーザL2を集光光学系78の中心軸に対してシフト(平行移動)して入射する状態とすることもできる。
【0062】
また、照射角度変更機構76は、
図4に示すように、駆動部76Bbにより支持棒76Baを介してミラー76Aを、例えば、短パルスレーザL2の光軸に沿って前進した位置に配置し、短パルスレーザL2をミラー76Aで反射させることで、短パルスレーザL2が集光光学系78の中心軸上に入射する状態とする。なお、
図4に示す例では、ファイバレーザ光源62でファイバレーザL1を遮っているため、ファイバレーザL1は、ミラー76Aまで到達しない。なお、照射角度変更機構76は、同経路でファイバレーザL1を集光光学系78の中心軸上に入射する状態とすることもできる。
【0063】
集光光学系78は、複数のレンズを有し(図示では1つ)、複数のレンズにより、照射角度変更機構76を通過したレーザL1,L2を集光し、所定の焦点距離、焦点深度となるレーザL1,L2を形成する。集光光学系78は、加工対象物100に所定のスポット径のレーザL1,L2を照射する。また、集光光学系78は、冷却機構を有することが好ましい。冷却機構は、例えば、上記複数のレンズを冷却するための冷却ジャケットなどである。
【0064】
ノズル80は、レーザL1,L2の進行方向の先側に向かうにつれて次第に径が縮小する中空の円錐形状である。ノズル80は、集光光学系78に装着される。ノズル80は、加工対象物100の加工点で生じるスパッタなどにより集光光学系78が汚損するのを防ぐための透過部材を有する。また、ノズル80は、アシストガス供給源(図示せず)からアシストガスが供給され、このアシストガスを加工対象物100に向けて噴射可能である。
【0065】
本実施形態において、アシストガスは、例えば、空気、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、キセノンガス、ヘリウムガス、または、これらの混合ガスを用いることができる。アシストガスとして、酸化反応熱を加工処理に利用できる酸素ガスを用いた場合、金属などの加工対象物100に対する加工速度をより向上させることができる。また、アシストガスとして、熱影響を与える熱影響層としての酸化被膜の生成を抑える窒素ガスやアルゴンガスなどを用いた場合、金属などの加工対象物100に対する加工精度をより向上させることができる。アシストガスのガス種、混合比、および、ノズル80からの噴出量(圧力)などは、加工対象物100の種類や加工モードなどの加工条件に応じて変えることができる。例えば、金属に対しては、酸素を含むガスをアシストガスとして用いることで、加工速度を向上させるとともに、酸化反応によりドロスが高温となって流動性が向上して除去されやすくなり、品質を向上させることができる。また、窒素ガスなどの不活性ガスを用いることで、金属に対しては酸化を抑制出来、酸化金属層の生成を抑制する事ができる。また、スパッタ物が生じた場合、保護層が酸化物の場合、窒素ガスをアシストガスとして金属加工を行なうと、生成されるスパッタが窒化物となるため、保護層へ付着した際の密着力を抑制することができる。
【0066】
また、レーザ加工ユニット22は、レーザを照射する位置の画像を撮影する撮影手段、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサなどを有するカメラを備えていてもよい。これにより、取得した画像に基づいてレーザの照射位置などを調整することができる。
【0067】
レーザ加工ユニット22は、ファイバレーザ光源62または短パルスレーザ光源64から出力されるレーザをレーザ加工ヘッド60から加工対象物100に照射することで、貫通孔があけられる。また、レーザ加工ユニット22は、レーザの照射位置を移動させることで、加工対象物を線で切削することができ、加工対象物を切断することもできる。
【0068】
制御部24は、移動ユニット14、ステージユニット16、レーザ加工ユニット22の各部の動作を制御する。制御部24は、移動ユニット14やステージユニット16のステージ移動機構42の動作を制御し、加工対象物100とレーザ加工ヘッド60とを相対移動させる。また、制御部24はレーザ加工ユニット22の駆動を制御し、レーザ加工を制御する。具体的には、制御部24は、加工対象物100の加工手順に基づいて、ファイバレーザL1で加工を行うか、短パルスレーザL2で加工を行うかを決定し、決定に基づいて切換機構72および照射角度変更機構76を含む各部を動作し、加工対象物100にレーザを照射する。
【0069】
図5は、切換機構の他の例を示す模式図である。
図6および
図7は、切換機構の他の例の動作を説明するための説明図である。
図8は、切換機構の他の例の変形例を示す模式図である。
【0070】
図5から
図7に示すように、他の例の切換機構82は、レーザ走査部74にファイバレーザ光源62から出力されたファイバレーザL1を入射させるか、短パルスレーザ光源64から出力された短パルスレーザL2を入射させるかを切り換える機構であり、上述した切換機構72に代えて用いられる。切換機構82は、回転盤82Aと、回転移動機構部82Bと、を有する。回転盤82Aは、回転移動機構部82Bの回転軸82Baを中心に回転可能に設けられている。また、回転盤82Aは、回転軸82Baを中心とした回転に際して回転移動する位置にミラー82Aaが設けられている。また、回転盤82Aは、回転軸82Baを中心とした回転に際して回転移動する位置に透過手段をなす石英82Abが設けられている。本実施形態においては、回転盤82Aは、回転軸82Baを中心とした1箇所にミラー82Aaが設けられ、回転軸82Baを中心としてミラー82Aaから120度の2箇所に石英82Abが設けられている。従って、回転盤82Aが回転軸82Baを中心として回転することで、ファイバレーザL1と短パルスレーザL2とが相互に交差して重なる位置において、ミラー82Aaまたは石英82Abが回転移動して配置される。回転移動機構部82Bは、回転盤82Aを回転可能に支持する回転軸82Baと、回転軸82Baを回転駆動する駆動部82Bbとを有する。
【0071】
このように構成された他の例の切換機構82は、駆動部82Bbにより回転軸82Baを介して回転盤82Aを回転させることで、ミラー82AaがファイバレーザL1と短パルスレーザL2とが相互に交差して重なる位置に配置された場合、
図6に示すように、ファイバレーザL1をミラー82Aaで反射し、短パルスレーザL2を遮ることで、ファイバレーザL1がレーザ走査部74に入射する状態とする。一方、他の例の切換機構82は、駆動部82Bbにより回転軸82Baを介して回転盤82Aを回転させることで、石英82AbがファイバレーザL1と短パルスレーザL2とが相互に交差して重なる位置に配置された場合、
図7に示すように、短パルスレーザL2を石英82Abで透過し、ファイバレーザL1を遮ることで、短パルスレーザL2がミラー82Aaを介さずにレーザ走査部74に入射する状態とする。そして、ミラー82Aaと石英82Abとの位置の切り換えは、駆動部82Bbにより回転軸82Baを120度の範囲で正逆回転させることで行うことができ、もう1つの石英82Abを予備として用いることができる。また、図には明示しないが、ミラー82Aaを2つとし石英82Abを1つとして1つのミラー82Aaを予備として用いることもできる。
【0072】
なお、回転盤82Aは、
図8に示すように、ミラー82Aaが回転軸82Baを中心とした120度ごとの3箇所に設けられ、透過手段をなす切欠82Acがミラー82Aaの中間で回転軸82Baを中心とした120度ごとの3箇所に設けられていてもよい。この構成の場合、ミラー82Aaと切欠82Acとの位置の切り換えは、駆動部82Bbにより回転軸82Baを60度の範囲で正逆回転させることで行うことができ、他の2つのミラー82Aaおよび切欠82Acを予備として用いることができる。なお、
図8に示す回転盤82Aにおいて、切欠82Acは、石英82Abであってもよい。また、
図5に示す回転盤82Aにおいて、石英82Abは、切欠82Acであってもよい。
【0073】
図9は、照射角度変更機構の他の例を示す模式図である。
図10および
図11は、照射角度変更機構の他の例の動作を説明するための説明図である。
図12は、照射角度変更機構の他の例の変形例を示す模式図である。
【0074】
図9から
図11に示すように、他の例の照射角度変更機構86は、ファイバレーザL1や短パルスレーザL2の集光光学系78への入射位置を変更する機構であり、上述した照射角度変更機構76に代えて用いられる。照射角度変更機構86は、回転盤86Aと、回転移動機構部86Bと、固定ミラー86Cと、を有する。回転盤86Aは、回転移動機構部86Bの回転軸86Baを中心に回転可能に設けられている。また、回転盤86Aは、回転軸86Baを中心とした回転に際して回転移動する位置に第一ミラーであるミラー86Aaが設けられている。また、回転盤86Aは、回転軸86Baを中心とした回転に際して回転移動する位置に透過手段をなす石英86Abが設けられている。本実施形態においては、回転盤86Aは、回転軸86Baを中心とした1箇所にミラー86Aaが設けられ、回転軸86Baを中心としてミラー86Aaから120度の2箇所に石英86Abが設けられている。従って、回転盤86Aが回転軸86Baを中心として回転することで、ファイバレーザL1や短パルスレーザL2の光軸上にミラー86Aaまたは石英86Abが回転移動して配置される。回転移動機構部86Bは、回転盤86Aを回転可能に支持する回転軸86Baと、回転軸86Baを回転駆動する駆動部86Bbとを有する。また、固定ミラー86Cは、第二ミラーをなすもので、ファイバレーザL1や短パルスレーザL2の光軸上で回転盤86Aよりも光軸に沿って後退した位置に配置されている。
【0075】
このように構成された他の例の照射角度変更機構86は、駆動部86Bbにより回転軸86Baを介して回転盤86Aを回転させることで、ミラー82AaがファイバレーザL1または短パルスレーザL2の光軸上に配置された場合、例えば、
図10に示すように、短パルスレーザL2をミラー86Aaで反射させることで、短パルスレーザL2が集光光学系78の中心軸上に入射する状態とする。一方、他の例の照射角度変更機構86は、駆動部86Bbにより回転軸86Baを介して回転盤86Aを回転させることで、石英86AbがファイバレーザL1または短パルスレーザL2の光軸上に配置された場合、例えば、
図11に示すように、ファイバレーザL1を石英82Abで透過させて固定ミラー86Cで反射させることで、ファイバレーザL1が集光光学系78の中心軸に対してシフト(平行移動)して入射する状態とする。そして、ミラー86Aaと石英86Abとの位置の切り換えは、駆動部86Bbにより回転軸86Baを120度の範囲で正逆回転させることで行うことができ、もう1つの石英86Abを予備として用いることができる。また、図には明示しないが、ミラー86Aaを2つとし石英86Abを1つとして1つのミラー86Aaを予備として用いることもできる。
【0076】
なお、回転盤86Aは、
図12に示すように、ミラー86Aaが回転軸86Baを中心とした120度ごとの3箇所に設けられ、透過手段をなす切欠86Acがミラー86Aaの中間で回転軸86Baを中心とした120度ごとの3箇所に設けられていてもよい。この構成の場合、ミラー86Aaと切欠86Acとの位置の切り換えは、駆動部86Bbにより回転軸86Baを60度の範囲で正逆回転させることで行うことができ、他の2つのミラー86Aaおよび切欠86Acを予備として用いることができる。なお、
図12に示す回転盤86Aにおいて、切欠86Acは、石英86Abであってもよい。また、
図9に示す回転盤86Aにおいて、石英86Abは、切欠86Acであってもよい。
【0077】
次に、
図13から
図17を用いて、レーザ加工装置10の動作の一例について説明する。
図13は、加工対象物の構造の一例を示す模式図である。
図14は、レーザ加工装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図15から
図17は、レーザ加工装置の動作を説明するための説明図である。
【0078】
まず、
図13を用いて、加工対象物100の構造を説明する。加工対象物100は、金属層102の表面に保護層104が積層されている。保護層104は、金属層102を熱、応力および異物の接触の少なくとも1つから保護する層である。保護層104は、耐熱性材料もしくは、耐摩耗性材料で形成することが好ましい。ここで、耐熱性材料または耐摩耗性材料としては、より具体的には、保護層104は、アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)、酸化チタン(TiO
2)、ニクシリー(NiCrAl)、コクラリー(CoCrAl)、アルミナ−チタニア(Al
2O
3−TiO
2)、クロミア(Cr
2O
3)、クロムカーバイド(Cr
3C
2−NiCr)、タングステンカーバイド(Cr3C
2−NiCr、Cr
3C
2−CoCr、Cr
3C
2−Co)を用いることが好ましい。上記材料を用いることで、耐熱性および耐摩耗性のうち少なくとも一方を高くすることができる。また、図には明示しないが、金属層102と保護層104との間には、金属層102と保護層104とを接合する接着層が形成されている。なお、金属層102に保護層104を直接形成できる場合、接着層はなくてもよい。
【0079】
加工対象物100としては、タービン翼が例示される。タービン翼の場合、耐熱鋼で形成された金属層102の表面にTBC(サーマルバリアコート)となる保護層104が溶射などにより形成されている。保護層104は、タービン翼の耐熱性の向上に寄与する膜である。また、加工対象物100の例として、タービン翼を示したが、加工対象物は、これに限定されない。加工対象物100は、金属層102に、保護層104が積層された各種部材を対象とすることができる。例えば、タービン翼と同様に、金属層102となる耐熱鋼の表面に保護層104となる溶射膜を形成する部分としては、エンジン燃焼器がある。
【0080】
図13において破線で示す部分は、レーザ加工装置10により加工対象物100に加工される貫通孔110である。貫通孔110は、主に加工対象物100の表面側である保護層104に加工される大径部110Aと、主に加工対象物100の奥側である金属層102に加工されて大径部110Aよりも小径の小径部110Bと、を含む。貫通孔110の大径部110Aをシェイプト形状部ともいい、加工対象物100の表面側から視て矩形状の孔となる。また、貫通孔110の小径部110Bは、円形状の孔である。そして、貫通孔110は、大径部110Aから小径部110Bに至り徐々に孔径および孔形状が変形している。このような貫通孔110は、加工対象物100がタービン翼の場合、当該タービン翼の金属層102および保護層104にフィルム冷却用の冷却孔として形成される。
【0081】
次に、
図14から
図17を用いて、レーザ加工装置10の動作の一例を説明する。レーザ加工装置10は、加工条件を決定する(
図14:ステップS12)。具体的には、加工対象物100の金属層102、保護層104のそれぞれ厚み、材料などに基づいて、加工時間、使用するレーザの種類(ファイバレーザL1または短パルスレーザL2)、レーザの出力、レーザの照射角度などを決定する。
【0082】
レーザ加工装置10は、加工条件を決定したら、短パルスレーザL2で加工を行う(
図14:ステップS14)。具体的には、レーザ加工装置10は、短パルスレーザ光源64から照射される短パルスレーザL2が切換機構72(82)でレーザ走査部74に入射される状態とし、かつレーザ走査部74を経た短パルスレーザL2が照射角度変更機構76(86)で集光光学系78の中心軸上に入射される状態として、短パルスレーザL2を加工対象物100に照射し、加工対象物100の切削を行う。レーザ加工装置10は、短パルスレーザL2で加工対象物100の保護層104を切削する。これにより、
図15および
図16に示すように加工対象物100の主に保護層104に大径部110Aが形成される。
【0083】
レーザ加工装置10は、短パルスレーザL2で加工を行ったら、ファイバレーザL1で加工を行う(
図14:ステップS16)。具体的には、レーザ加工装置10は、ファイバレーザ光源62から照射されるファイバレーザL1が切換機構72(82)でレーザ走査部74に入射される状態とし、かつレーザ走査部74を経たファイバレーザL1が照射角度変更機構76(86)で集光光学系78の中心軸に対してシフト(平行移動)して入射される状態として、ファイバレーザL1を加工対象物100に照射し、加工対象物100の切削を行う。レーザ加工装置10は、ファイバレーザL1で加工対象物100の金属層102を切削する。これにより、
図17に示すように加工対象物100の主に金属層102に小径部110Bが形成され、保護層104の大径部110Aおよび金属層102の小径部110Bが繋がった貫通孔110が形成される。レーザ加工装置10は、ファイバレーザL1で加工を行ったら、本処理を終了する。
【0084】
なお、レーザ加工装置10は、上記動作において、大径部110Aの全てを短パルスレーザL2で加工しているが、これに限定されない。例えば、レーザ加工装置10は、大径部110Aのうち保護層104の部分を短パルスレーザL2で加工し、他をファイバレーザL1で加工して貫通孔110を形成してもよい。この場合、短パルスレーザL2での加工は、金属層102における表面(保護層104を設けている表面)から0.001mm以上、かつ、金属層102の厚みの50%以下の深さとすることが好ましい。つまり、金属層102の表面に直交する方向において、金属層102を0.001mm以上、かつ、金属層102の厚みの50%以下で短パルスレーザL2で加工し切削することが好ましい。上記深さとすることで、その後にファイバレーザL1が金属層102に照射されて加工が行われる際に生じる保護層104への熱影響をより小さくすることができる。
【0085】
このように、レーザ加工装置10は、短パルスレーザL2で保護層104を切削することで、保護層104に生じる熱影響をより小さくすることができる。また、レーザ加工装置10は、ファイバレーザL1で金属層102を切削することで、金属層102を切削する時間を短くすることができる。これにより、レーザ加工装置10は、加工対象物100の加工時間が長くなることを抑制しつつ、保護層104の熱影響を小さくすることができ、加工対象物100の加工を高精度かつ高速で行うことができる。
【0086】
例えば、上述したガスタービンのタービン翼のように、金属層(耐熱鋼)102に保護層(TBC)104を溶射などの方法により形成する構造の場合、複合材料のため、耐熱鋼だけの場合に比べて、高品質に切削加工を行なうことが困難である。具体的には、金属層102と保護層104では、適正加工条件が異なるため、どちらか一方の加工に適正な条件を設定すると、他方の品質が低下する。また、TBCと耐熱鋼では入熱に対する熱膨張率が異なり、TBCにクラックなどの熱影響が生じやすい。TBCの表面は耐熱鋼に比べて表面粗さが大きく、ドロスが付着しやすく、とれにくく、つまり熱影響が大きくなりやすい。これに対して、レーザ加工装置10は、保護層104を短パルスレーザL2で切削することで、熱影響を小さくしつつ高品質に切削加工を行うことができる。
【0087】
また、レーザ加工装置10は、金属層102をファイバレーザL1で加工することで、金属層102の加工を短時間で行うことができる。
【0088】
以上より、本実施形態のレーザ加工装置10は、ファイバレーザ光源62と、短パルスレーザ光源64と、を設け、切換機構72(82)により照射するレーザを切り換え可能とすることで、加工対象物100の大きさ、厚み、材料などに応じて、使用するレーザを切り換えることができる。これにより、1つのレーザ加工ヘッド60でファイバレーザL1による加工と短パルスレーザL2による加工ができる。このため、加工対象物100の固定状態を維持したまま、加工を行うことができ、加工した部分で軸ズレが生じることを抑制できる。この結果、用途に応じた加工を高品質に高い精度かつ短時間で行うことができる。
【0089】
また、本実施形態のレーザ加工装置10は、照射角度変更機構76(86)により、集光光学系78の中心軸に対してレーザをシフト(平行移動)させて入射させ、加工対象物100に対して、レーザ光の照射角度を中心軸に対して傾斜させ、かつ集光位置が同一となるように照射して照射するレーザの集光光学系78への入射位置を変更することで、加工する貫通孔110において孔径および孔形状の異なる大径部110Aや小径部110Bに応じて、使用するレーザの照射角度を変更することができる。これにより孔径や孔形状に応じた加工を高品質に高い精度かつ短時間で行うことができる。
【0090】
また、本実施形態のレーザ加工装置10は、切換機構72として、レーザを反射させるミラー72Aと、当該ミラー72Aをスライド移動させるスライド移動機構部72Bと、を含み、スライド移動機構部72Bによるミラー72Aのスライド移動によって、ファイバレーザL1または短パルスレーザL2の一方をミラー72Aにより反射させて集光光学系78に対して入射させる状態と、ファイバレーザL1または短パルスレーザL2の他方をミラー72Aを介さずに集光光学系78に対して入射させる状態とに切り換える構成とすることで、各レーザL1,L2の切り換えを実現できる。
【0091】
また、本実施形態のレーザ加工装置10は、切換機構82として、レーザを反射させるミラー82Aaと、ミラー82Aaを回転移動させる回転移動機構部82Bと、を含み、回転移動機構部82Bによるミラー82Aaの回転移動によって、ファイバレーザL1または短パルスレーザL2の一方をミラー82Aaにより反射させて集光光学系78に対して入射させる状態と、ファイバレーザL1または短パルスレーザL2の他方をミラー82Aaを介さずに集光光学系78に対して入射させる状態とに切り換える構成とすることで、各レーザL1,L2の切り換えを実現できる。特に、切換機構82は、回転移動機構部82Bによりミラー82Aaを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較して各レーザL1,L2の切り換えを高速化でき、より短時間で加工を行うことができる。しかも、切換機構82は、回転移動機構部82Bによりミラー82Aaを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較して回転軸82Baでミラー82Aaの姿勢を安定して支持することができ、高品質で高精度な加工を行うことができる。
【0092】
また、本実施形態のレーザ加工装置10は、照射角度変更機構76として、レーザを反射させるミラー76Aと、ミラー76Aをレーザの軸方向に沿ってスライド移動させるスライド移動機構部76Bと、を含み、スライド移動機構部76Bによるミラー76Aのスライド移動によって、ファイバレーザL1と短パルスレーザL2との集光光学系78に対する入射位置の変更を実現することができる。そして、照射角度変更機構76によりファイバレーザL1と短パルスレーザL2との集光光学系78に対する入射位置を変更することで、各レーザL1,L2の照射角度を変更して径や形状の異なる加工を高精度かつ短時間で行うことができる。
【0093】
また、本実施形態のレーザ加工装置10は、照射角度変更機構86として、レーザを反射させるミラー86Aaと、ミラー86Aaを回転移動させる回転移動機構部86Bと、ミラー86Aaに対してレーザの軸方向で位置が異なり固定されてレーザを反射させる固定ミラー86Cと、を含み、回転移動機構部86Bによるミラー86Aaの回転移動によって、ファイバレーザL1または短パルスレーザL2の一方をミラー86Aaにより反射させて集光光学系78に対して入射させる状態と、ファイバレーザL1または短パルスレーザL2の他方をミラー86Aaを介さずに固定ミラー86Cにより反射させて集光光学系78に対して入射させる状態と、に変更する構成とすることで、ファイバレーザL1と短パルスレーザL2との集光光学系78に対する入射位置の変更を実現することができる。そして、照射角度変更機構86によりファイバレーザL1と短パルスレーザL2との集光光学系78に対する入射位置を変更することで、各レーザL1,L2の照射角度を変更して径や形状の異なる加工を高精度かつ短時間で行うことができる。特に、照射角度変更機構86は、回転移動機構部86Bによりミラー86Aaを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較して各レーザL1,L2の入射位置の変更を高速化でき、高速で加工を行うことができる。しかも、照射角度変更機構86は、回転移動機構部86Bによりミラー86Aaを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較して回転軸86Baでミラー86Aaの姿勢を安定して支持することができ、高品質で高精度な加工を行うことができる。
【0094】
また、本実施形態のレーザ加工装置10では、レーザ加工ヘッド60は、短パルスレーザL2を切換機構72(82)から集光光学系78に入射させる距離が、ファイバレーザL1を切換機構72(82)から集光光学系78に入射させる距離よりも短くなるように構成されている。具体的には、切換機構72(82)において、ファイバレーザL1はミラー72A(82Aa)により反射して集光光学系78に入射され、短パルスレーザL2はミラー72A(82Aa)を介さず集光光学系78に入射される。このように構成することで、精度が要求される加工を行う短パルスレーザL2のエネルギー損失を低減することができ、高精度な加工を行うことができる。
【0095】
なお、本実施形態のレーザ加工装置10では、切換機構82により各レーザL1,L2を切り換える構成において、照射角度変更機構76(86)を必ずしも有さなくてもよく、回転移動機構部82Bによりミラー82Aaを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較して各レーザL1,L2の切り換えを高速化でき、より短時間で加工を行うことができる。しかも、切換機構82は、回転移動機構部82Bによりミラー82Aaを回転移動させる構成のため、スライド移動に比較して回転軸82Baでミラー82Aaの姿勢を安定して支持することができ、高精度な加工を行う効果を得ることができる。
【0096】
また、本実施形態のレーザ加工装置10では、照射角度変更機構76により各レーザL1,L2の集光光学系78に対する入射位置を変更する構成において、切換機構72(82)を必ずしも有さなくてもよい。照射角度変更機構76によりファイバレーザL1と短パルスレーザL2との集光光学系78に対する入射位置を変更することで、各レーザL1,L2の照射角度を変更して径や形状の異なる加工を高精度かつ短時間で行うことができる。
【0097】
また、本実施形態のレーザ加工装置10では、照射角度変更機構86により各レーザL1,L2の集光光学系78に対する入射位置を変更する構成において、切換機構72(82)を必ずしも有さなくてもよい。照射角度変更機構86によりファイバレーザL1と短パルスレーザL2との集光光学系78に対する入射位置を変更することで、各レーザL1,L2の照射角度を変更して径や形状の異なる加工を高精度かつ短時間で行うことができる。
【0098】
また、本実施形態のレーザ加工装置10では、照射角度変更機構76(86)により各レーザL1,L2の集光光学系78に対する入射位置を変更する構成において、レーザ光源は、ファイバレーザL1を出力するファイバレーザ光源62、およびファイバレーザL1とはパルス幅が異なる短パルスレーザL2を出力する短パルスレーザ光源64を含み、集光光学系78に対してファイバレーザL1と短パルスレーザL2との入射位置を変更することで、径や形状の異なる加工を高精度かつ短時間で行う効果を顕著に得ることができる。
【0099】
次に、
図18から
図21を用い、レーザ加工装置10の動作の他の例であって、レーザ加工方法について説明する。
図18は、レーザ加工装置の動作の他の例を説明するためのフローチャートである。
図19から
図21は、レーザ加工装置の動作の他の例を説明するための説明図である。
【0100】
加工対象物100および加工する貫通孔110については上述と同様である(
図13参照)。
【0101】
レーザ加工装置10は、加工条件を決定する(
図18:ステップS22)。具体的には、加工対象物100の金属層102、保護層104のそれぞれ厚み、材料などに基づいて、加工時間、使用するレーザの種類(ファイバレーザL1または短パルスレーザL2)、レーザの出力、レーザの照射角度などを決定する。
【0102】
レーザ加工装置10は、加工条件を決定したら、ファイバレーザL1で加工を行う(
図18:ステップS24)。具体的には、レーザ加工装置10は、ファイバレーザ光源62から照射されるファイバレーザL1が切換機構72(82)でレーザ走査部74に入射される状態とし、かつレーザ走査部74を経たファイバレーザL1が照射角度変更機構76(86)で集光光学系78の中心軸に対してシフト(平行移動)して入射される状態として、ファイバレーザL1を加工対象物100に照射し、加工対象物100の切削を行う。レーザ加工装置10は、ファイバレーザL1で加工対象物100の保護層104および金属層102を切削する。ここでの加工は、
図19に示すように、大径部110Aおよび小径部110Bよりも小径の補助貫通孔120が形成される。
【0103】
レーザ加工装置10は、ファイバレーザL1で補助貫通孔120の加工を行ったら、短パルスレーザL2で加工を行う(
図18:ステップS26)。具体的には、レーザ加工装置10は、短パルスレーザ光源64から照射される短パルスレーザL2が切換機構72(82)でレーザ走査部74に入射される状態とし、かつレーザ走査部74を経た短パルスレーザL2が照射角度変更機構76(86)で集光光学系78の中心軸上に入射される状態として、短パルスレーザL2を加工対象物100に照射し、加工対象物100の切削を行う。レーザ加工装置10は、短パルスレーザL2で加工対象物100の保護層104を切削する。これにより、
図20に示すように加工対象物100の主に保護層104に大径部110Aが形成される。
【0104】
レーザ加工装置10は、短パルスレーザL2で大径部110Aの加工を行ったら、ファイバレーザL1で加工を行う(
図18:ステップS28)。具体的には、レーザ加工装置10は、ファイバレーザ光源62から照射されるファイバレーザL1が切換機構72(82)でレーザ走査部74に入射される状態とし、かつレーザ走査部74を経たファイバレーザL1が照射角度変更機構76(86)で集光光学系78の中心軸に対してシフト(平行移動)して入射される状態として、ファイバレーザL1を加工対象物100に照射し、加工対象物100の切削を行う。レーザ加工装置10は、ファイバレーザL1で加工対象物100の金属層102を切削する。これにより、
図21に示すように加工対象物100の主に金属層102に小径部110Bが形成され、保護層104の大径部110Aおよび金属層102の小径部110Bが繋がった貫通孔110が形成される。レーザ加工装置10は、ファイバレーザL1で加工を行ったら、本処理を終了する。
【0105】
このレーザ加工方法は、加工対象物100に貫通孔110を形成するにあたり、当該貫通孔110よりも小径の補助貫通孔120を形成してから補助貫通孔120を拡げる態様で貫通孔110を形成する。補助貫通孔120は、貫通孔110のうち最も小径の小径部110Bの孔径よりも小径である。従って、先に補助貫通孔120が形成されていることで、その後に大径部110Aや小径部110Bを加工する際、加工対象物100の材料が溶融したドロスが補助貫通孔120を通して奥側(レーザの入射方向の下流側)に排出される。このため、加工対象物100の表面にドロスが溢れ出して飛散する事態を防ぐことができ、ドロスがスパッタとして加工対象物100の表面側に付着固化することを防止し、高品質に切削加工することができる。しかも、スパッタの付着を防ぐことで、当該スパッタを除去する作業を要さないことから、加工時間および作業コストを低減することができる。
【0106】
なお、上記実施形態では、大径部110Aと小径部110Bとでなる貫通孔110を加工する場合に、補助貫通孔120を先に加工するレーザ加工方法について説明したが、これに限定されない。例えば、図には明示しないが、一様の内径の貫通孔を加工する際に、当該貫通孔よりも小径の補助貫通孔を先に加工することで、同様の効果を得ることができる。
【0107】
次に、
図22から
図26を用い、レーザ加工装置10の動作の他の例であって、レーザ加工方法について説明する。
図22は、レーザ加工装置の動作の他の例を説明するためのフローチャートである。
図23から
図26は、レーザ加工装置の動作の他の例を説明するための説明図である。
【0108】
加工対象物100および加工する貫通孔110については上述と同様である(
図13参照)。
【0109】
レーザ加工装置10は、加工条件を決定する(
図22:ステップS30)。具体的には、加工対象物100の金属層102、保護層104のそれぞれ厚み、材料などに基づいて、加工時間、使用するレーザの種類(ファイバレーザL1または短パルスレーザL2)、レーザの出力、レーザの照射角度などを決定する。
【0110】
レーザ加工装置10は、加工条件を決定したら、短パルスレーザL2で加工を行う(
図22:ステップS32)。具体的には、レーザ加工装置10は、短パルスレーザ光源64から照射される短パルスレーザL2が切換機構72(82)でレーザ走査部74に入射される状態とし、かつレーザ走査部74を経た短パルスレーザL2が照射角度変更機構76(86)で集光光学系78の中心軸上に入射される状態として、短パルスレーザL2を加工対象物100に照射し、加工対象物100の切削を行う。レーザ加工装置10は、短パルスレーザL2で加工対象物100の保護層104を切削する。ここでの加工は、
図23に示すように、加工対象物100の主に保護層104に大径部110Aおよび小径部110Bよりも小径の補助孔120aが形成される。
【0111】
レーザ加工装置10は、短パルスレーザL2で補助貫通孔120aの加工を行ったら、ファイバレーザL1で加工を行う(
図22:ステップS34)。具体的には、レーザ加工装置10は、ファイバレーザ光源62から照射されるファイバレーザL1が切換機構72(82)でレーザ走査部74に入射される状態とし、かつレーザ走査部74を経たファイバレーザL1が照射角度変更機構76(86)で集光光学系78の中心軸に対してシフト(平行移動)して入射される状態として、ファイバレーザL1を加工対象物100に照射し、加工対象物100の切削を行う。レーザ加工装置10は、ファイバレーザL1で加工対象物100の保護層104および金属層102を切削する。ここでの加工は、
図24に示すように、補助孔120aに続き当該補助孔120aとほぼ同径の補助貫通孔120bが形成される。
【0112】
レーザ加工装置10は、ファイバレーザL1で補助貫通孔120bの加工を行ったら、短パルスレーザL2で加工を行う(
図22:ステップS36)。具体的には、レーザ加工装置10は、短パルスレーザ光源64から照射される短パルスレーザL2が切換機構72(82)でレーザ走査部74に入射される状態とし、かつレーザ走査部74を経た短パルスレーザL2が照射角度変更機構76(86)で集光光学系78の中心軸上に入射される状態として、短パルスレーザL2を加工対象物100に照射し、加工対象物100の切削を行う。レーザ加工装置10は、短パルスレーザL2で加工対象物100の保護層104を切削する。これにより、
図25に示すように加工対象物100の主に保護層104に大径部110Aが形成される。
【0113】
レーザ加工装置10は、短パルスレーザL2で大径部110Aの加工を行ったら、ファイバレーザL1で加工を行う(
図22:ステップS38)。具体的には、レーザ加工装置10は、ファイバレーザ光源62から照射されるファイバレーザL1が切換機構72(82)でレーザ走査部74に入射される状態とし、かつレーザ走査部74を経たファイバレーザL1が照射角度変更機構76(86)で集光光学系78の中心軸に対してシフト(平行移動)して入射される状態として、ファイバレーザL1を加工対象物100に照射し、加工対象物100の切削を行う。レーザ加工装置10は、ファイバレーザL1で加工対象物100の金属層102を切削する。これにより、
図26に示すように加工対象物100の主に金属層102に小径部110Bが形成され、保護層104の大径部110Aおよび金属層102の小径部110Bが繋がった貫通孔110が形成される。レーザ加工装置10は、ファイバレーザL1で加工を行ったら、本処理を終了する。
【0114】
このレーザ加工方法は、加工対象物100に貫通孔110を形成するにあたり、当該貫通孔110よりも小径の補助孔120aを主に保護層104を形成した後、補助孔120aに続く補助貫通孔120aを主に金属層102に形成してから補助孔120aおよび補助貫通孔120bを拡げる態様で貫通孔110を形成する。補助孔120aおよび補助貫通孔120bは、貫通孔110のうち最も小径の小径部110Bの孔径よりも小径である。従って、先に補助孔120aおよび補助貫通孔120bが形成されていることで、その後に大径部110Aや小径部110Bを加工する際、加工対象物100の材料が溶融したドロスが補助貫通孔120bを通して奥側(レーザの入射方向の下流側)に排出される。このため、加工対象物100の表面にドロスが溢れ出して飛散する事態を防ぐことができ、ドロスがスパッタとして加工対象物100の表面側に付着固化することを防止し、高品質に切削加工することができる。しかも、スパッタの付着を防ぐことで、当該スパッタを除去する作業を要さないことから、加工時間および作業コストを低減することができる。
【0115】
特に、パルス幅が100マイクロ秒以下の短パルスレーザL2は、ピークパワーが数十kW以上と高く、ドロスの発生を抑制できる高品質加工なため、当該短パルスレーザL2で補助孔120aを保護層104に形成することで保護層104へのスパッタ付着量の極小化に有効である。スパッタの発生について観測したところ、特にレーザ加工の初期に発生しやすいことが分かった。そこで、補助貫通孔120bの形成においても、スパッタの発生しやすい初期に、パルス幅が100マイクロ秒以下の短パルスレーザL2を照射して補助孔120aを加工し、その後、ファイバレーザL1を照射することで、スパッタ付着量を極小化しつつ、加工時間を短縮する事が可能となった。
【0116】
なお、上記実施形態では、大径部110Aと小径部110Bとでなる貫通孔110を加工する場合に、補助孔120aおよび補助貫通孔120bを先に加工するレーザ加工方法について説明したが、これに限定されない。例えば、図には明示しないが、一様の内径の貫通孔を加工する際に、当該貫通孔よりも小径の補助孔および補助貫通孔を先に加工することで、同様の効果を得ることができる。