特許第6804289号(P6804289)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許6804289-水硬性組成物の水和発熱抑制方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804289
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】水硬性組成物の水和発熱抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20201214BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20201214BHJP
   C04B 24/08 20060101ALI20201214BHJP
   C04B 24/18 20060101ALI20201214BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20201214BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B24/02
   C04B24/08
   C04B24/18 B
   C04B24/22 C
   C04B24/26 E
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-252426(P2016-252426)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-104234(P2018-104234A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】川上 博行
(72)【発明者】
【氏名】佐川 桂一郎
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−171997(JP,A)
【文献】 特表2005−536477(JP,A)
【文献】 特表2011−522768(JP,A)
【文献】 特開昭59−121143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00− 32/02
C04B 40/00− 40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と水硬性粉体とを含有する水硬性組成物に、下記(A)成分を、水硬性粉体100質量部に対して、(A)成分の量として、0.2質量部以上4質量部以下含有させること、(A)成分を、液状で又は(A)成分を含む液状物で用いて水硬性組成物に含有させること、
を含む水硬性組成物の水和発熱抑制方法。
(A)成分:2価以上5価以下の多価アルコールと、炭素数8以上16以下の飽和脂肪酸又は炭素数18の不飽和脂肪酸とのエステル化合物であって、前記エステル化合物のHLBが1以上9以下であるエステル化合物
【請求項2】
水硬性組成物を調製する際に、(A)成分を添加する、請求項1に記載の水硬性組成物の水和発熱抑制方法。
【請求項3】
(A)成分を有機溶媒に溶解させてから水硬性組成物に含有させる、請求項1又は2に記載の水硬性組成物の水和発熱抑制方法。
【請求項4】
下記(A)成分と、水硬性粉体と、水とを含有する水硬性組成物であって、(A)成分の含有量が、水硬性粉体100質量部に対して0.3質量部以上4質量部以下である、水硬性組成物。
(A)成分:ソルビタン及びグリセリンから選ばれる1種以上の多価アルコールと、ラウリン酸及びオレイン酸から選ばれる1種以上の脂肪酸とのエステル化合物であって、前記多価アルコールと結合する前記脂肪酸の数が1以上2以下であって、前記エステル化合物のHLBが1以上9以下であるエステル化合物
【請求項5】
さらに分散剤を含有する請求項4に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
分散剤がリグニンスルホン酸系重合体、ポリカルボン酸系重合体、ナフタレン系重合体から選ばれる1種以上である、請求項5に記載の水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物の硬化時における水和発熱抑制方法、及び水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、土木建築分野におけるコンクリート構造物の大型化が進み、長大橋梁の橋脚部やアンカー部、高層建築物の基礎、LNGタンクや原子力発電所の底盤など、コンクリートを大量に打設する、いわゆるマスコンクリートの工事が多くなっている。これらマスコクリートは、セメントの水和により発熱する一方、放熱が不十分なため、熱がコンクリート構造物の内部に蓄積され、温度は高くなり、外部との温度差によって温度応力が発生し、それに基づく温度ひび割れが発生する場合がある。
【0003】
温度ひび割れを防止する方法としては、コンクリートの温度上昇量を低く抑えること、放熱条件を良くすることが考えられる。コンクリートの温度上昇を抑制するため、セメントの水和反応を遅延させるカルボン酸塩やグルコン酸塩あるいはケイフッ化物などの超遅延剤をコンクリート混練物に添加することが行われているが、この方法では、セメントの水和時間を遅延する効果、すなわち凝結時間が伸びる効果が得られるだけで、最終的な温度上昇量や上昇速度は何も添加しないコンクリートと同等か若干小さくなるだけで効果はあまり期待できない。
【0004】
また、混合セメントを使用する場合は、主成分がスラグと普通もしくは中庸熱ポルトランドセメントからなる2成分系混合セメント、またスラグ、普通ポルトランドセメントおよびフライアッシュからなる3成分系混合セメントなどが使用されているが、セメントと混合材とを混合する設備や混合セメントをストックするための設備などが新たに必要となり、初期投資がかさむなどの問題がある。
【0005】
その他、施工方法では、コンクリート構造物にあらかじめパイプを埋め込み、その中に水を通してコンクリート構造物を冷却する方法(パイプクーリング法)や、あらかじめコンクリート材料を冷却しておく方法(プレクーリング法)がある。しかしながら、パイプクーリング法では工事が煩雑になり手間がかかるなど、作業の効率化に問題があり、コストも通常施工より高くなり、また、プレクーリングでは冷却に用いる冷却剤(たとえば液体窒素)が高価であるため、経済的でないなど、施工面での対策でも問題点がある。
【0006】
非特許文献1には、ソルビトール脂肪酸エステルをコンクリート混練物に添加することにより、コンクリートの水和による最終温度上昇に変わりわないが、発熱速度を低減する効果があることが開示されている。
また、特許文献1には、多価アルコールと高級脂肪酸のエステル化によって得られる化合物をコンクリート混練物に添加することにより、コンクリートの温度上昇と上昇速度を簡便に抑制するセメント用添加剤が開示されている。
また、特許文献2には、ポリアルキレングリコール、脂肪酸エステル誘導体、アクリル系ポリマー誘導体を配合した水溶性高分子、およびポリカルボン酸塩を含有することを特徴とする高流動コンクリート用混和剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−171997号公報
【特許文献2】特開平10−158046号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】田中敏嗣、上野雅之、下山義秀著、「セメント・コンクリート論文集(水和熱を抑制する有機物を用いたコンクリートの特性)」、セメント協会、No.52、1998、p.218−223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のセメント用添加剤を使用した場合、水和反応が大きく遅延し、凝結および強度発現時間が遅れることによって、工期が長くなるという問題点があることが判明した。
【0010】
本発明の課題は、水硬性粉体と水を接触した際の水和発熱による温度上昇を抑制し、最高温度に達する時間が遅延しない水硬性組成物の水和発熱抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水と水硬性粉体とを含有する水硬性組成物に、下記(A)成分を、水硬性粉体100質量部に対して、(A)成分の量として、0.2質量部以上4質量部以下含有させること、
(A)成分を、液状で又は(A)成分を含む液状物で用いて水硬性組成物に含有させること、
を含む水硬性組成物の水和発熱抑制方法に関する。
(A)成分:2価以上5価以下の多価アルコールと、炭素数8以上16以下の飽和脂肪酸又は炭素数18の不飽和脂肪酸とのエステル化合物であって、前記エステル化合物のHLBが1以上9以下であるエステル化合物
【0012】
また本発明は、(A)成分と、水硬性粉体と、水とを含有する水硬性組成物であって、(A)成分の含有量が、水硬性粉体100質量部に対して0.2質量部以上4質量部以下である、水硬性組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水硬性粉体と水を接触した際の水和発熱による温度上昇を抑制し、最高温度に達する時間が遅延しない水硬性組成物の水和発熱抑制方法が提供される。
本発明の水硬性組成物の水和発熱抑制方法を用いることにより、水和発熱による温度上昇が抑制されるため、水硬性組成物の温度ひび割れが低減できる。また水硬性粉体と水を接触した際の水和発熱において、最高温度に達する時間が遅延しない、即ち水和反応が遅延しないため、硬化遅延を起こさない水硬性組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例でのセメントの水和発熱による断熱温度上昇量の測定方法を示した模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明により、水硬性組成物の水和発熱による温度上昇を抑制し、最高温度に達する時間が遅延しない機構の詳細は不明であるが、以下の様に推定される。
脂肪酸エステルはセメントペーストの液相中で一部が加水分解し、脂肪酸が生成される。脂肪酸は液相中のカルシウムイオンと反応し、難溶性の脂肪酸カルシウム塩となってセメント粒子表面に析出する。また未分解の脂肪酸エステルは親油性であるため、油性の強い脂肪酸カルシウム塩の表面に配位し、セメント粒子表面に油膜が形成される。この油膜がセメント粒子と水との接触を妨げることによって、セメントの水和発熱が抑制されると考えられる。一方、セメントの水和反応は水和生成物の核生成および核成長によって開始される。本発明の特定の脂肪酸エステル及びそれから得られる加水分解物は核生成・核成長反応を阻害しないため、水和反応を遅延させることなく水和発熱を抑制できるものと推察される。
【0016】
<水硬性組成物>
本発明の水硬性組成物は、(A)成分と、水硬性粉体と、水とを含有する水硬性組成物であって、(A)成分の含有量が、水硬性粉体100質量部に対して0.2質量部以上4質量部以下である。
【0017】
(A)成分は、2価以上5価以下の多価アルコールと、炭素数8以上16以下の飽和脂肪酸又は炭素数18の不飽和脂肪酸とのエステル化合物であって、前記エステル化合物のHLBが1以上9以下であるエステル化合物である。
【0018】
2価以上5価以下の多価アルコールとしては、キシリトール(5価)、ソルビタン(4価)、ペンタエリスリトール(4価)、エリスリトール(4価)、ジグリセリン(4価)、グリセリン(3価)、イソソルビド(2価)、エチレングリコール(2価)及びジエチレングリコール(2価)から選ばれる1種以上が挙げられ、加水分解性の観点から、好ましくはソルビタン、グリセリン及びペンタエリスリトールから選ばれる1種以上であり、より好ましくはソルビタン及びグリセリンから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはグリセリンである。
また多価アルコールは、加水分解性およびセメントの反応遅延性の観点から、2価以上、好ましくは3価以上、そして、5価以下、好ましくは4価以下である。
【0019】
炭素数8以上16以下の飽和脂肪酸又は炭素数18の不飽和脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、2−エチルヘキサン酸、イソデカン酸、イソラウリン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸から選ばれる1種以上が挙げられ、セメントへの吸着性の観点から、好ましくはカプリル酸、ラウリン酸及びオレイン酸から選ばれる1種以上であり、より好ましくはラウリン酸及びオレイン酸から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはオレイン酸である。
また炭素数8以上16以下の飽和脂肪酸又は炭素数18の不飽和脂肪酸は、セメントへの吸着性の観点から、好ましくは炭素数8以上12以下の飽和脂肪酸又は炭素数18の不飽和脂肪酸であり、より好ましくは炭素数18の不飽和脂肪酸である。
【0020】
(A)成分であるエステル化合物は、2価以上5価以下の多価アルコールと結合する炭素数8以上16以下の飽和脂肪酸又は炭素数18の不飽和脂肪酸の数が、加水分解性の観点から、1以上、そして、5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。
【0021】
(A)成分であるエステル化合物は、触媒存在下常法によって得られるが、2価以上5価以下の多価アルコール1モルに対して、炭素数8以上16以下の飽和脂肪酸又は炭素数18の不飽和脂肪酸を、エステル化合物の加水分解性の観点から、好ましくは0.5モル以上、より好ましくは1モル以上、そして、好ましくは5モル以下、より好ましくは3モル以下、更に好ましくは2モル以下でエステル化反応させることによって得られる部分化エステル化合物が好ましい。
また2価以上5価以下の多価アルコールは無水物を用いることが、加水分解時に生成するアルコールのセメントに対する反応遅延性の観点から好ましい。
【0022】
(A)成分であるエステル化合物のHLBは、セメント表面での油膜形成のしやすさの観点から、1以上、好ましくは2以上、より好ましくは2.5以上、そして、9以下、好ましくは5以下である。
なお、HLBとは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)の略であって、化合物が親水性か親油性かを知る指標となるものであり、0〜20の値をとる。HLB値が小さい程、親油性が強いことを示す。本発明において、HLB値の算出はアトラス法の算出法を用いる。アトラス法の算出法は、下記式より算出される。
HLB=20×(1−S/A)
S:エステルのケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
【0023】
本発明の水硬性組成物は、作業性の観点から、更に分散剤を含有することが好ましい。
分散剤は、リグニンスルホン酸系重合体、ポリカルボン酸系重合体、ナフタレン系重合体、メラミン系重合体、及びフェノール系重合体から選ばれる1種以上の分散剤が挙げられ、分散性の観点から、好ましくはリグニンスルホン酸系重合体、ポリカルボン酸系重合体、及びナフタレン系重合体から選ばれる1種以上の分散剤であり、より好ましくはリグニンスルホン酸系重合体、及びポリカルボン酸系重合体から選ばれる1種以上の分散剤である。
【0024】
ナフタレン系重合体としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(花王株式会社製マイテイ150等)、メラミン系重合体としてはメラミンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物(例えば花王株式会社製マイテイ150−V2)、フェノール系重合体としては、フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(特開昭49−104919号公報に記載の化合物等)、リグニンスルホン酸系重合体としてはリグニンスルホン酸塩(BASF社製ポゾリスNo.70、ボレガード社製ウルトラジンNA、日本製紙ケミカル株式会社製サンエキス、バニレックス、パールレックス等)等を用いることができる。
【0025】
ポリカルボン酸系共重合体としては、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステルと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体(例えば特開平8−12397号公報に記載の化合物等)、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールとマレイン酸等のジカルボン酸との共重合体等を用いることができる。ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれるカルボン酸の意味である。
【0026】
本発明の水硬性組成物は、(A)成分の含有量が、水硬性粉体100質量部に対して、水和発熱抑制効果の観点から、0.2質量部以上、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上、そして、水和反応遅延性の観点から、4質量部以下、好ましくは3質量部以下である。含有量が0.2質量部を下回る場合、十分な水和発熱抑制効果が得られず、一方、含有量が4質量部を超える場合、水和発熱抑制効果は頭打ちとなり、セメントの水和反応への悪影響が生じる。ここで、水硬性粉体が、セメントなどの水和反応により硬化する物性を有する粉体の他、ポゾラン作用を有する粉体、潜在水硬性を有する粉体、及び石粉(炭酸カルシウム粉末)から選ばれる粉体を含む場合、本発明では、それらの量も水硬性粉体の量に算入する。また、水和反応により硬化する物性を有する粉体が、高強度混和材を含有する場合、高強度混和材の量も水硬性粉体の量に算入する。これは、水硬性粉体の質量が関係する以下の質量部や質量比などにおいても同様である。
【0027】
本発明の水硬性組成物は、分散剤の含有量が、水硬性粉体100質量部に対して、作業性の観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、そして、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。
【0028】
本発明の水硬性組成物は、エステル化合物、および加水分解で生成する脂肪酸に起因する気泡を抑制する観点から、消泡剤を含有することが好ましい。消泡剤としてはポリアルキレングリコールアルキルエーテル系消泡剤、ポリアルキレングリコールアルキルエステル系消泡剤、ポリアルキレングリコールブロックポリマー系消泡剤、シリコーン系消泡剤が挙げられ、消泡効果およびエステル化合物との相溶性の観点から、ポリアルキレングリコールアルキルエステル系消泡剤、シリコーン系消泡剤が好ましく、ポリアルキレングリコールアルキルエステル系消泡剤がより好ましい。
【0029】
本発明の水硬性組成物は、消泡剤の含有量が、水硬性粉体100質量部に対して、消泡性の観点から、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、そして、好ましくは0.2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。0.005質量部以下では十分な消泡性が得られず、また0.2質量部以上では消泡効果が十分であり、消泡剤が過剰量となる。
【0030】
水硬性粉体とは、水和反応により硬化する物性を有する粉体のことであり、セメント、石膏等が挙げられる。
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。これらの中でも、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、普通ポルトランドセメントがより好ましい。
【0031】
また、セメント等の水硬性粉体には、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームなどのポゾラン作用及び/又は潜在水硬性を有する粉体や、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が含まれていてもよい。例えば、高炉スラグセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等を用いてもよい。
【0032】
本発明の水硬性組成物は、作業性と経済性の観点から、水/水硬性粉体比〔スラリー中の水とセメントの質量比(水の質量/セメントの質量×100)、通常W/Pと略記される。〕が、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下である。
【0033】
本発明の水硬性組成物は、作業性と経済性の観点から、水/セメント比〔スラリー中の水とセメントの質量比(水の質量/セメントの質量×100)、通常W/Cと略記される。〕が、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下である。
【0034】
本発明の水硬性組成物には、さらに骨材を含有することができる。骨材として細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好ましい。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。
【0035】
骨材は、コンクリートやモルタルなどの調製に用いられる通常の範囲で用いることができる。水硬性組成物がコンクリートの場合、粗骨材の使用量は、コンクリートの性状の観点から、嵩容積50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましく、そして、100%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、80%以下が更に好ましい。また、水硬性組成物がコンクリートの場合、細骨材の使用量は、型枠等への充填性を向上する観点から、500kg/m3以上が好ましく、600kg/m3以上がより好ましく、700kg/m3以上が更に好ましく、そして、1000kg/m3以下が好ましく、900kg/m3以下がより好ましい。水硬性組成物がモルタルの場合、細骨材の使用量は、800kg/m3以上が好ましく、900kg/m3以上がより好ましく、1000kg/m3以上が更に好ましく、そして、2000kg/m3以下が好ましく、1800kg/m3以下がより好ましく、1700kg/m3以下が更に好ましい。
【0036】
本発明の水硬性組成物は、上記成分以外に更にその他の成分を含有することもできる。例えば、AE剤、遅延剤、起泡剤、増粘剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、早強剤等が挙げられる。早強剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、シアン酸塩、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩、ギ酸塩から選ばれる化合物、又はアルカノールアミン、グリセリン誘導体、ホルムアルデヒド誘導体、カテコール誘導体から選ばれる有機化合物、ポルトランドセメントの水和生成物(C−S−H、および水酸化カルシウム)のナノ粒子が挙げられる。
【0037】
本発明の水硬性組成物は、コンクリート、モルタルであってよい。本発明の水硬性組成物は、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、軽量又は重量コンクリート用、AE用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、地盤改良用、グラウト用、寒中用等の何れの分野においても有用である。
【0038】
<水硬性組成物の水和発熱抑制方法>
本発明の水硬性組成物の水和発熱抑制方法は、水と水硬性粉体とを含有する水硬性組成物に、(A)成分を、水硬性粉体100質量部に対して、(A)成分の量として、0.2質量部以上4質量部以下含有させること、
(A)成分を、液状で又は(A)成分を含む液状物で用いて水硬性組成物に含有させること、
を含む水硬性組成物の水和発熱抑制方法である。また本発明の水硬性組成物の水和発熱抑制方法を用いることにより、本発明の水硬性組成物を得ることができる。
本発明の水硬性組成物の水和発熱抑制方法は、本発明の水硬性組成物で述べた事項を適宜適用することができる。
【0039】
(A)成分は、液状で又は(A)成分を含む液状物で用いて水硬性組成物に含有させる。
(A)成分は、水硬性組成物を製造する際に、液状で又は(A)成分を含む液状物で添加するのが好ましい。
(A)成分は、セメント中での拡散のしやすさの観点から、有機溶媒に溶かしてから、水硬性組成物に含有させるのが好ましい。
有機溶媒としてはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ブタノール、オクタノール、デカノール、オレイルアルコール、イソプロパノール、イソブタノール、イソペンタノール、2−エチルヘキサノール、イソステアリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1、3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、ブチルトリグリコール、ベンジルアルコール、ジエチルエーテル、クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、クロロホルム、アセトン、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トルエン、キシレン、石油エーテル、パラフィン、植物性脂肪油等が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。有機溶媒は、引火性および(A)成分であるエステル化合物との相溶性の観点から、好ましくはプロピレングリコール、ブチルトリグリコール、パラフィン及び植物性脂肪油から選ばれる1種以上であり、より好ましくはプロピレングリコール、ブチルトリグリコールから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはブチルトリグリコールである。
【0040】
本発明の水硬性組成物の水和発熱抑制方法は、(A)成分を有機溶媒に溶かして含有させる場合、(A)成分と有機溶媒の質量比((A)/有機溶媒)が、有機溶媒と(A)成分であるエステル化合物との相溶性の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、そして、(A)成分の溶液粘度の観点から、好ましくは9以下、より好ましくは5以下となるように混合して、水硬性組成物に含有させる。
【0041】
本発明の水硬性組成物に分散剤を添加する場合、(A)成分は、あらかじめ分散剤と混合しても良い。分散剤と混合する際は、(A)成分と分散剤との相溶性の観点から、有機溶媒と一液化させることが好ましい。(A)成分と分散剤との質量比((A)成分/分散剤)は、相溶性の観点から、0.5以上が好ましく、1.0以上がより好ましい。また水硬性組成物の作業性の観点から、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、7.5以下が更に好ましい。
【0042】
本発明の水硬性組成物の水和発熱抑制方法は、(A)成分を、水硬性組成物に、水硬性粉体100質量部に対して、水和発熱抑制効果の観点から、0.2質量部以上、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上、そして、水和反応遅延性の観点から、4質量部以下、好ましくは3質量部以下含有させる。
【0043】
本発明の水硬性組成物に分散剤を添加する場合、本発明の水硬性組成物の水和発熱抑制方法は、分散剤を、水硬性組成物に、水硬性粉体100質量部に対して、作業性の観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、そして、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下含有させる。
【0044】
本発明の水硬性組成物に分散剤を添加する場合、本発明の水硬性組成物の水和発熱抑制方法は、分散剤を、水硬性組成物に、水硬性粉体100質量部に対して、作業性の観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、そして、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下含有させる。
【0045】
本発明の水硬性組成物に消泡剤を添加する場合、本発明の水硬性組成物の水和発熱抑制方法は、消泡剤を、水硬性組成物に、水硬性粉体100質量部に対して、作業性の観点から、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、そして、好ましくは0.2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下含有させる。
【0046】
本発明の水硬性組成物の水和発熱抑制方法は、水硬性組成物中での拡散のしやすさの観点から、(A)成分と有機溶剤、分散剤と水とを各々予め混合し、両者を別々に水硬性粉体へ添加し、混合することが好ましい。また、(A)成分と有機溶剤とを予め混合し、次いで分散剤と水と混合した後に、水硬性粉体へ添加し、混合してもよい。水硬性粉体と水(好ましくは分散剤と水の混合物)、水を添加した水硬性粉体と(A)成分(好ましくは(A)成分と有機溶剤との混合物)との混合は、モルタルミキサー、強制二軸ミキサー等のミキサーを用いて行うことができる。また混合時間は、好ましくは1分間以上、より好ましくは2分間以上、そして、好ましくは5分間以下、より好ましくは3分間以下である。水硬性組成物の調製にあたっては、水硬性組成物で説明した材料や薬剤及びそれらの量を用いることができる。
【0047】
本発明の水硬性組成物の水和発熱抑制方法により得られた水硬性組成物は、型枠に充填し養生し硬化させることが好ましい。型枠として、建築物の型枠、コンクリート製品用の型枠等が挙げられる。型枠への充填方法として、ミキサーから直接投入する方法、水硬性組成物をポンプで圧送して型枠に導入する方法等が挙げられる。
【0048】
本発明では、水硬性組成物の調製でセメントに水を接触させてから脱型するまでの時間は、脱型に必要な強度を得る観点と製造サイクルを向上する観点から、16時間以上72時間以下が好ましい。
【0049】
本発明の水硬性組成物の水和発熱抑制方法により得られた水硬性組成物は、水硬性組成物の水和発熱による温度上昇や温度上昇速度を抑制することにより、水硬性組成物の温度ひび割れを低減することができるため、マスコンクリート製造に好適に用いることができる。マスコンクリートはコンクリート標準示方書(2013年3月、土木学会発行)において、おおよその目安として、広がりのあるスラブについては厚さ80〜100cm以上、下端が拘束された壁では厚さ50cm以上のコンクリートと定義されており、土木構造物では、護岸壁、防波堤、ボックスカルバート、橋脚、橋梁、ダム等が挙げられ、建築構造物では、柱、梁、床板等が挙げられる。
【0050】
<水硬性組成物の製造方法>
本発明の水硬性組成物の製造方法は、水硬性粉体と水を混合して水硬性組成物を調製する際に、下記(A)成分を、液状で又は(A)成分を含む液状物で、水硬性粉体100質量部に対して、(A)成分の量として、0.2質量部以上4質量部以下添加する、水硬性組成物の製造方法である。また本発明の水硬性組成物の製造方法を用いることにより、本発明の水硬性組成物を得ることができる。
本発明水硬性組成物の製造方法は、本発明の水硬性組成物、及び水硬性組成物の水和発熱抑制方法で述べた事項を適宜適用することができる。
【実施例】
【0051】
モルタル配合を表1に、また、評価結果を表2、3に示した。表中の化合物は以下のものである。
(A)成分
・ソルビタンモノオレエート:花王(株)製、HLB4.3、4価の多価アルコールとオレイン酸とのモノエステル化合物
・ソルビタントリオレエート:花王(株)製、HLB1.8、4価の多価アルコールとオレイン酸とのトリエステル化合物
・オレイン酸モノグリセライド:花王(株)製、HLB2.8、3価の多価アルコールとオレイン酸とのモノエステル化合物
・ソルビタンモノパルミテート:花王(株)製、HLB6.7、4価の多価アルコールとパルミチン酸とのモノエステル化合物
・カプリル酸モノ・ジグリセライド:花王(株)製、カプリル酸モノグリセライドとカプリル酸ジグリセライドの混合物、HLB3.2、3価の多価アルコールとカプリル酸とのモノ又はジエステル化合物
・ペンタエリスリトールモノオレエート:花王(株)製、HLB3.2、4価の多価アルコールとオレイン酸とのモノエステル化合物
・ソルビタンモノラウレート:花王(株)製、HLB8.6、4価の多価アルコールとラウリン酸とのモノエステル化合物
・ジエチレングリコールモノオレエート:和光純薬工業(株)製試薬、HLB4.4、2価の多価アルコールとオレイン酸とのモノエステル化合物
【0052】
(A’)成分((A)成分の比較成分)
・ポリオキシエチレン(6)ソルビタンモノオレエート:花王(株)製、HLB10、オキシエチレン基の平均付加モル数が6の4価の多価アルコールとオレイン酸とのモノエステル化合物
・ソルビタンモノステアレート:花王(株)製、HLB4.7、4価の多価アルコールとステアリン酸とのモノエステル化合物
・ソルビトールモノステアレート:理研ビタミン(株)製、HLB5.3、6価の多価アルコールとステアリン酸とのモノエステル化合物
・ソルビトールモノラウレート:理研ビタミン(株)製、HLB8.0、6価の多価アルコールとラウリン酸とのモノエステル化合物
(A’)成分は本発明の(A)成分には含まれないが、便宜上、表中の(A)成分の欄に記載した。
【0053】
分散剤
・リグニンスルホン酸系重合体:BASF社製、ポゾリスNo.70
・ポリカルボン酸系重合体:花王(株)製、マイテイ21HP
【0054】
有機溶剤
・エタノール:和光純薬工業(株)製
・ブチルトリグリコール:和光純薬工業(株)製
・ベンジルアルコール:和光純薬工業(株)製
・パラフィン(マシン油):コスモ石油ルブリガンツ(株)製
・コーン油:和光純薬工業(株)製
【0055】
【表1】
【0056】
水と水硬性粉体の質量比(W/P)は50%(水硬性粉体100質量部に対して水50質量部)である。細骨材は水硬性粉体100質量部に対して338質量部である。また、用いた成分は以下のものである。
・W:練り水(分散剤を含む水道水)
・C:
(1)普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製、密度3.16g/cm)、又は
(2)高炉セメントB種(太平洋セメント(株)製、密度3.04g/cm
・S:細骨材(一般社団法人セメント協会製、セメント強さ試験用標準砂、密度2.64g/cm
【0057】
<モルタルの調製及び評価>
(1)モルタルの調製
表1に示す配合条件で、モルタルミキサー((株)ダルトン製 万能混合撹拌機 型式:5DM-03-γ)を用いて、水硬性粉体(P)、細骨材(S)を投入し空練りを10秒行い、(A)成分又は(A’)成分を添加した後に分散剤を含む練り水(W)を加えた。この際、空気連行量が2%以下になるよう消泡剤(花王(株)製、消泡剤No.21、ポリアルキレングリコールアルキルエステル系消泡剤)を添加した。そして、モルタルミキサーの低速回転(63rpm)にて120秒間混練してモルタルを調製した。なお(A)成分の添加において有機溶媒を用いた場合、(A)成分と有機溶媒を混合して液状物にしてから、セメントに添加した。
【0058】
(2)水硬性粉体の水和発熱による断熱温度上昇量及び温度上昇速度の評価
混練したモルタルを容量1Lのポリプロピレン製ディスポーサルカップに充填し、モルタル中心部へ熱電対を挿入した後に、カップを1Lのデュワー瓶内に装填し、コルク栓で密閉した。デュワー瓶はポリスチレン製発泡ビーズで充填した発泡スチロール容器(厚み140mm)内に静置し、モルタルの温度変化をデータロガーで経時測定した。この測定方法の模式図を図1に示す。
水硬性粉体の接水時の温度から最高温度到達までの温度上昇量を断熱温度上昇量とした。結果を表1、2に示した。また表1中、群(I)では比較例1−1を、群(II)では比較例2−1を、群(III)では比較例3−1を、表2では比較例4−1を基準に、各実施例、比較例の断熱温度上昇量の差を示した。断熱温度上昇量の差が大きいほど、水硬性粉体の水和発熱による温度上昇の抑制に優れていることがいえる。
更に表2では、水硬性粉体の接水時から最高温度到達までの時間を示した。また比較例4−1を基準に、各実施例、比較例の最高温度到達までの時間の差を示した。水硬性粉体の接水時から最高温度到達までの時間が長いと、セメントの水和反応が遅延することとなり、セメントの硬化遅延が生じていることを意味する。最高温度到達までの時間の差が小さいほど、セメントの硬化遅延を起こしていないため好ましい。
【0059】
【表2】
【0060】
表2中、(A)成分の質量部は、水硬性粉体100質量部に対する、(A)成分の添加量である。また分散剤の質量部は、水硬性粉体100質量部に対する、分散剤の添加量である。
【0061】
表2から、本発明の特定の脂肪酸エステルを液状で添加した実施例は、断熱温度上昇量が低下していることが確認できる。また、HLBが9を超える脂肪酸エステルや、固体の脂肪酸エステルを添加した比較例は、断熱温度上昇量が低下する効果を示さないことが確認できる。
【0062】
【表3】
【0063】
表3中、(A)成分の質量部は、水硬性粉体100質量部に対する、(A)成分の添加量である。
【0064】
表3から、本発明の実施例は、セメントの硬化反応を遅らせることなく断熱温度上昇量を低下させていることが確認できる。一方、特許文献1及び非特許文献1の既存技術を用いた比較例4−3、4−4では、セメントの硬化反応が著しく遅延してしまうことが確認できる。また既存技術である比較例4−3、4−4のソルビトール脂肪酸エステルと本発明の特定の脂肪酸エステルを添加した場合では、断熱温度上昇量の低減効果、及びセメントの硬化速度に与える影響が大きく異なることから、本発明は既存技術とは異なる作用を示すことが確認できる。

図1