特許第6804291号(P6804291)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804291
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20201214BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20201214BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20201214BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C22C38/00 303U
   C21D8/12 A
   C22C38/60
   H01F1/147 175
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-256137(P2016-256137)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-133100(P2017-133100A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2017年8月24日
【審判番号】不服2019-1960(P2019-1960/J1)
【審判請求日】2019年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-13504(P2016-13504)
(32)【優先日】2016年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】大久保 智幸
(72)【発明者】
【氏名】上坂 正憲
(72)【発明者】
【氏名】中西 匡
(72)【発明者】
【氏名】尾田 善彦
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 中澤 登
【審判官】 井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−73939(JP,A)
【文献】 特開2013−192417(JP,A)
【文献】 特開2016−3371(JP,A)
【文献】 特開2015−131993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/00-25/00,27/00-28/00,30/00-30/06,35/00-45/10
C21D 8/12,9/46
H01F 1/12-1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.0050%以下、
Si:1.80%以上6.00%以下、
Mn:0.780%以上3.00%以下、
P:0.100%以下、
S:0.0050%以下、
N:0.0050%以下、
Al:0.0050%以下、
Se:0.00030%以下並びに
NiおよびCrを合計で0.10%以下
を含有し、さらに、質量%で、
Sn:0.05%以上0.50%以下および/またはSb:0.05%以上0.50%以下
を含有し、前記成分組成は、さらに、下記(1)式を満足し、残部はFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とする、無方向性電磁鋼板。

[Mn]≧0.176×[Si]-0.181 … (1)
ここで、
[Mn]は、質量%でのMnの含有量であり、
[Si]は、質量%でのSiの含有量である。
【請求項2】
前記成分組成は、さらに、
質量%で、
Ca:0.0001%以上0.03%以下、
REM:0.0001%以上0.03%以下および
Mg:0.0001%以上0.03%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記(1)式が下記(2)式であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。

[Mn]≧0.351×[Si]-0.361 … (2)
ここで、
[Mn]は、質量%でのMnの含有量であり、
[Si]は、質量%でのSiの含有量である。
【請求項4】
質量%で、
C:0.0050%以下、
Si:6.00%以下、
Mn:0.780%以上3.00%以下、
P:0.100%以下、
S:0.0050%以下、
N:0.0050%以下、
Al:0.0050%以下、
Se:0.00030%以下並びに
NiおよびCrを合計で0.10%以下
を含有し、さらに、質量%で、
Sn:0.05%以上0.50%以下および/またはSb:0.05%以上0.50%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とし、
該熱延鋼板を酸洗し、
酸洗を施した前記熱延鋼板に、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して冷延鋼板とし、
該冷延鋼板に仕上焼鈍を施した後にコーティングを施す無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記仕上焼鈍は、800〜900℃における昇温速度を20℃/s以下とすることを特徴とする、無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記成分組成は、さらに、
質量%で、
Ca:0.0001%以上0.03%以下、
REM:0.0001%以上0.03%以下および
Mg:0.0001%以上0.03%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項4に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記成分組成は、さらに、Si:1.00%以上6.00%以下であって、下記(1)式を満足することを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。

[Mn]≧0.176×[Si]-0.181 … (1)
ここで、
[Mn]は、質量%でのMnの含有量であり、
[Si]は、質量%でのSiの含有量である。
【請求項7】
前記成分組成は、さらに、Si:1.00%以上6.00%以下であって、下記(2)式を満足することを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。

[Mn]≧0.351×[Si]-0.361 … (2)
ここで、
[Mn]は、質量%でのMnの含有量であり、
[Si]は、質量%でのSiの含有量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、モータなどの鉄心材料として広く使用されている軟磁性材料の一種である。近年、電気自動車やハイブリッド自動車の実用化が進み、モータの駆動システムが発達し、モータの駆動周波数は、年々増加する傾向にある。現在では、基本周波数が数百〜数kHzが一般的となっており、高周波数域における鉄心の鉄損特性が重要視されるようになってきている。そのため、従来は、SiやAlなどの合金元素を添加することで、または板厚を低減することで高周波域での低鉄損化を図ってきた。
【0003】
しかし、上記のような合金元素を添加すると、磁束密度の低下は避けられない。また、板厚を低減するためにも、冷延圧下率を上昇させる必要がある。冷延圧下率を上昇させると、一次再結晶集合組織が、圧延安定方位である{111}方位に集積することとなり、磁束密度の低下を招く。磁束密度の低下は、モータの銅損増加を招き、モータ効率の低下につながる。そのため、高周波域での低鉄損化だけでなく、磁束密度の向上も同時に望まれている。磁束密度の優れた無方向性電磁鋼板を製造するための方法として、特許文献1には、Siが4質量%以下の鋼にCoを0.1〜5質量%添加することが記載されている。
【0004】
近年、モータのリサイクルを図る観点から、使用済みのモータコアを溶解し、鋳物としてモータ枠等に再利用しようという動きがある。特許文献1に記載の電磁鋼板は、Alが添加されているため、これを再利用すると、鋳込み時の溶鋼粘度が増大し、引け巣が生じるという問題がある。そのため、モータコアを鋳物銑としてリサイクルする場合には、Alは実質的に無添加であることが望ましい。
ここで、Alが実質的に無添加であるとは、Al量が0.005質量%以下であることを意味する。リサイクルの観点から、Al量が0.005質量%以下であれば、上述した引け巣の生成が問題とならないからである。
【0005】
低Al含有量での無方向性電磁鋼板の製造方法としては、特許文献2に記載の技術がある。特許文献2には、CaのSに対する原子比を制御し、高圧下率で冷延後、仕上焼鈍で急速加熱を適用することが記載されている。しかしながら、特許文献2に記載の方法は、冷延圧下率を高くする必要があるため、製品板の板厚が0.10〜0.20mmに制限されており、多くの需要がある板厚0.35mm等の材料にこの技術を適用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-129410号公報
【特許文献2】特開2014-173099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、実質的にAl無添加で、低鉄損であり、かつ磁束密度の優れた無方向性電磁鋼板を容易に製造する方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題の解決に向けて、集合組織改善に有効な偏析元素Sn、Sbに着目して鋭意検討を重ねた。その結果、SnもしくはSbを多く添加した鋼は、Seを低減することによって磁束密度を大幅に向上できること、および、Snの多量添加で問題となる冷間圧延性の低下を、NiとCrを低減することで抑制できることを見出し、本発明を新規に知見するに至った。
【0009】
以下、本発明を導くに至った実験について説明する。
(実験1)
発明者らは、磁束密度に優れる無方向性電磁鋼板を開発するべく、集合組織の改善に有効なSn、Sbに改めて着目し、Snによる磁束密度向上効果にSeが及ぼす影響を調査した。
【0010】
C:0.002質量%、Si:1.5質量%、Mn:0.20質量%、P:0.02質量%、S:0.002質量%、Al:0.001質量%、N:0.002質量%、およびSe:0.0005質量%を含有するSeを多量(0.0005%)に含む鋼と、C:0.002質量%、Si:2.0質量%、Mn:0.20質量%、P:0.02質量%、S:0.002質量%、Al:0.001質量%、N:0.002質量%、およびSe:0.0001質量%を含有するSeを少量(0.0001%)含む鋼の2種類をベースとし、これらにSnを0.005〜0.263質量%の範囲で添加した鋼塊を供試材とした。これらの供試材を熱間圧延して板厚2.0mmの熱延板とし、次に、600℃×1hの自己焼鈍を施した後、冷間圧延して板厚0.35mmの冷延板とした。その後、20vol%H〜80vol%N雰囲気下で1000℃×10sの仕上焼鈍を施し、鋼板の磁束密度B50を25cmエプスタイン装置で測定した。仕上焼鈍を行う際は、800℃から900℃における昇温速度を30℃/sとした。
【0011】
Sn量と磁束密度B50値との関係を図1に示す。Se量に関わらずSn量が増加するとB50が増加するという結果が得られたが、さらに、Sn量0.05%以上ではSeを少量含む鋼の方が磁束密度の向上効果が高いことがわかった。低Se量がB50の増加に影響を与える理由は現時点ではまだ明らかとなっていないが、Seが多いと、SeがSnとともに仕上焼鈍時に粒界に偏析し、Snの集合組織を改善する効果を阻害するためと推定される。
【0012】
(実験2)
次に、発明者らはSnの磁束密度向上効果に及ぼすSeの影響を調査した。
C:0.002質量%、Si:1.5質量%、Mn:0.20質量%、P:0.02質量%、S:0.002質量%、Al:0.001質量%、N:0.002質量%、およびSn:0.15質量%を含有する成分組成をベースとして、Seを0.00002〜0.00126質量%の範囲で変化させて添加した鋼塊を供試材とし、これらを板厚2.0mmまで熱間圧延して、次いで、600℃×1hの自己焼鈍を施した。その後、0.35mmの冷延板を取得し、最後に20vol%H〜80vol%N雰囲気下で1000℃×10sの仕上焼鈍を施し、鋼板の磁束密度B50を25cmエプスタイン装置で測定した。仕上焼鈍の際は800℃から900℃における昇温速度を30℃/sとした。
【0013】
Se量と磁束密度B50値との関係を図2に示す。Seの含有量が0.0003質量%以下で、磁束密度B50値が向上していることがわかる。
【0014】
(実験3)
次に、Seを低減したSn添加鋼の製造安定性を調査した。
C:0.002質量%、Si:1.5質量%、Mn:0.20質量%、P:0.02質量%、S:0.002質量%、Al:0.001質量%、N:0.002質量%、Sn:0.15質量%、およびSe:0.0001%を含有する鋼塊を供試材とした。これらの供試材を熱間圧延して板厚2.0mmの熱延板とし、次いで、600℃×1hの自己焼鈍を施した後、冷間圧延して板厚0.35mmの冷延板とし、最後に仕上焼鈍を施したところ、冷間圧延での熱延板の破断が頻発した。
【0015】
破断した熱延板の調査を行ったところ、結晶粒界にNi、CrおよびSnが偏析していること、また、NiとCrが計0.15%程度含まれていることが確認された。NiとCrを多く含むと冷間圧延性が劣化する理由は現時点ではまだ明らかとなっていないが、粒界に偏析したNiまたはCrとの相互作用により、脆化元素であるSnの粒界偏析が促進され、熱延板が著しく脆化したため、と考えられる。
【0016】
(実験4)
そこで、Sn添加鋼の冷間圧延性に与えるNiの影響を調査した。
C:0.002質量%、Si:1.5質量%、Mn:0.20質量%、P:0.02質量%、S:0.002質量%、Al:0.001質量%、N:0.002質量%、Sn:0.15質量%、およびSe:0.0001質量%を含有する成分組成をベースに、Niを0.01〜0.18質量%添加した鋼塊を供試材とし、これらを板厚2.0mmまで熱間圧延し、次いで、600℃×1hの自己焼鈍を施し、得られた熱延板の繰り返し曲げ試験を実施した。繰り返し曲げ試験は、試料温度0℃で、鋼板の板面垂直方向に曲げ半径10mmかつ角度45°の曲げを順逆方向に繰り返し行い、破断までの曲げ回数を調べる試験である。曲げ回数と冷間圧延性は良い相関があり、曲げ回数5回以上であれば圧延時の板破断が起こらないことから、ここでは5回以上曲がったものを冷間圧延性が良好であることとした。
【0017】
Ni量と繰り返し曲げ回数との関係を図3に示す。Ni量が0.1%以下で、冷間圧延性が良好となり、Ni量が0.05%以下で、破断するまでの繰り返し曲げ回数が急激に増加することが分かる。本実験では、冷間圧延性に及ぼすNiの影響を調査したが、Crでも同様の結果が確認された。
【0018】
(実験5)
次に、Snの添加が鋼の磁束密度B50に及ぼす仕上焼鈍の昇温速度の影響を調査した。
C:0.002質量%、Si:1.5質量%、Mn:0.20質量%、P:0.02質量%、S:0.002質量%、Al:0.001質量%、N:0.002質量%、Sn:0.15質量%、Se:0.0001質量%、およびNi:0.02質量%を含有する鋼塊を供試材とし、これを板厚2.0mmまで熱間圧延し、次いで、600℃×1hの自己焼鈍を施した。その後、冷間圧延を行うことにより0.35mmの冷延板を取得し、20vol%H〜80vol%N雰囲気下で1000℃×10sの仕上焼鈍を施し、鋼板の磁束密度B50を25cmエプスタイン装置で測定した。仕上焼鈍を行う際は、800℃から900℃における昇温速度を1〜51℃/sの範囲で変化させて通板した。
【0019】
昇温速度と磁束密度B50値との関係を図4に示す。昇温速度が20℃/s以下で、磁束密度B50値が増加することが分かる。仕上焼鈍を行う際に、800〜900℃の温度範囲における昇温速度を遅くすることで、Snによる磁束密度の向上効果を高めることができる理由は、現時点ではまだ明らかとなっていないが、十分に粒成長する前にSnの偏析が促されたことで、Snの集合組織改善効果がより強められたためと考えられる。
【0020】
(実験6)
次に、磁束密度B50に及ぼすSiおよびMn量の影響を調査した。
C:0.002質量%、Si:1.0〜3.5質量%、Mn:0.1〜1.7質量%、P:0.01質量%、S:0.002質量%、Al:0.001質量%、N:0.002質量%、Sn:0.04質量%または0.14質量%、Se:0.0001質量%、Cr:0.01質量%およびNi:0.01質量%を含有する鋼塊を供試材とし、これを板厚2.5mmまで熱間圧延し、次いで、500℃×1hrの自己焼鈍を施した。その後、冷間圧延を行うことにより0.30mmの冷延板を取得し、20vol%H〜80vol%N雰囲気下で980℃×10sの仕上焼鈍を施し、鋼板の磁束密度B50を25cmエプスタイン装置で測定した。仕上焼鈍を行う際は、800℃から900℃における昇温速度を15℃/sとした。
【0021】
Snを0.04質量%から0.14%質量%まで増加させたときの磁束密度B50向上量を図5に示す。[Mn]≧0.176×[Si]-0.181を満たす成分組成ではSnによる磁束密度向上効果が高くなっていた。Mnを多く含有する成分組成ではSnの粒界偏析が促進され、集合組織改善効果がより強められたためと推定される。
【0022】
上記のような磁束密度の向上効果は、Snの代わりにSbを添加しても同様に得られた。これらの結果から、実質的にAlが無添加である状態で、SnもしくはSbを多く添加した鋼は、Seを低減することにより、磁束密度が大幅に向上することが分かった。ただし、Snを多く添加すると、冷間圧延における破断が問題となるため、冷間圧延性を確保するためには、NiとCrを合計で0.10%以下にしなければならない。また、磁束密度の向上効果をより高めるためには、仕上焼鈍を行う際の800〜900℃における昇温速度を20℃/s以下とすることが望ましい。さらに、Mnを多く含有する鋼を用いると磁束密度向上効果は高くなるが、高Si鋼で高い磁束密度向上効果を得るためにはMnを比較的多く添加する必要がある。
【0023】
本発明は、上記の新規な知見に基づきなされたもので、以下のような構成を有する。
1.質量%で、
C:0.0050%以下、
Si:6.00%以下、
Mn:0.050%以上3.00%以下、
P:0.100%以下、
S:0.0050%以下、
N:0.0050%以下、
Al:0.0050%以下、
Se:0.00030%以下並びに
NiおよびCrを合計で0.10%以下
を含有し、さらに、質量%で、
Sn:0.05%以上0.50%以下および/またはSb:0.05%以上0.50%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【0024】
2.前記成分組成は、さらに、
質量%で、
Ca:0.0001%以上0.03%以下、
REM:0.0001%以上0.03%以下および
Mg:0.0001%以上0.03%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする、上記1に記載の無方向性電磁鋼板。
【0025】
3.前記成分組成は、さらに、下記(1)式を満足することを特徴とする、上記1または上記2に記載の無方向性電磁鋼板。

[Mn]≧0.176×[Si]-0.181 … (1)
ここで、
[Mn]は、質量%でのMnの含有量であり、
[Si]は、質量%でのSiの含有量である。
【0026】
4.質量%で、
C:0.0050%以下、
Si:6.00%以下、
Mn:0.050%以上3.00%以下、
P:0.100%以下、
S:0.0050%以下、
N:0.0050%以下、
Al:0.0050%以下、
Se:0.00030%以下並びに
NiおよびCrを合計で0.10%以下
を含有し、さらに、質量%で、
Sn:0.05%以上0.50%以下および/またはSb:0.05%以上0.50%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とし、
該熱延鋼板を酸洗し、
酸洗を施した前記熱延鋼板に、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して冷延鋼板とし、
該冷延鋼板に仕上焼鈍を施した後にコーティングを施す無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記仕上焼鈍では、800〜900℃における昇温速度を20℃/s以下とすることを特徴とする、無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0027】
5.前記成分組成は、さらに、
質量%で、
Ca:0.0001%以上0.03%以下、
REM:0.0001%以上0.03%以下および
Mg:0.0001%以上0.03%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする、上記4に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0028】
6.前記成分組成は、さらに、下記(1)式を満足することを特徴とする、上記4または上記5に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。

[Mn]≧0.176×[Si]-0.181 … (1)
ここで、
[Mn]は、質量%でのMnの含有量であり、
[Si]は、質量%でのSiの含有量である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、実質的にAl無添加で、低鉄損であり、かつ磁束密度の優れた無方向性電磁鋼板を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】Sn量と仕上焼鈍板の磁束密度B50との関係を表すグラフである。
図2】Se量と仕上焼鈍板の磁束密度B50との関係を表すグラフである。
図3】Ni量と繰り返し曲げ回数との関係を表すグラフである。
図4】仕上焼鈍を行う際の800〜900℃における昇温速度と仕上焼鈍板の磁束密度B50との関係を表すグラフである。
図5】Si量およびMn量と磁束密度B50との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板について説明する。まず、鋼の成分組成の限定理由について述べる。なお、本明細書において、各成分元素の含有量を表す「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0032】
C:0.0050%以下
Cは、製品板における磁気時効を引き起こすため0.0050%以下に制限する。好ましくは、0.0040%以下である。
【0033】
Si:6.00%以下
Siは、鋼の固有抵抗を高め、鉄損低減に有効な元素である。6.00%を超えて添加すると、著しく脆化して冷間圧延することが困難となるため、上限は6.00%とする。好ましくは1.00%以上5.00%以下の範囲である。さらに好ましい範囲は1.40%以4.00%以下、さらに好ましい範囲は1.80%以上3.50%以下である。
【0034】
Mn:0.050%以上3.00%以下
Mnは、鋼の固有抵抗を高め、鉄損低減に有効な元素であり、かつ熱間圧延時の赤熱脆性を防止するのに有効な元素であるため、0.050%以上含有させる必要がある。しかし、3.00%を超えると冷間圧延性が低下したり、磁束密度の低下を招いたりするため、上限は3.00%とする。好ましくは0.10%以上2.00%以下の範囲である。
本発明の磁束密度向上効果は、特に、Mnを多く含有する鋼において顕著となる。したがって、[Mn]≧0.176×[Si]-0.181を満たすことが好ましい。さらに好ましい範囲は[Mn]≧0.351×[Si]-0.361である。ここで、[Mn]は、質量%でのMnの含有量であり、[Si]は、質量%でのSiの含有量である。
【0035】
P:0.100%以下
Pは、固溶強化能に優れるため、硬さ調整、打抜加工性の改善に有効な元素である。0.100%を超えると、脆化が顕著となるため、上限は0.100%とする。好ましくは0.050%以下である。
【0036】
S:0.0050%以下
Sは、硫化物を生成して、鉄損を増加させる有害元素であるため、上限を0.0050%とする。好ましくは0.0040%以下である。
【0037】
N:0.0050%以下
Nは、窒化物を生成して、鉄損を増加させる有害元素であるため、上限を0.0050%とする。好ましくは0.0040%以下である。
【0038】
Al:0.0050%以下
Alは、リサイクルの観点から実質無添加であることが望ましい。また、集合組織を劣化させる元素であり、多量に添加すると本発明の磁束密度向上効果が失われる。特に微量に存在すると微細なAlNを形成して粒成長を阻害し、磁気特性を害するため、上限を0.0050%とする。好ましくは0.0030%以下である。
【0039】
Sn:0.05%以上0.50%以下および/またはSb:0.05%以上0.50%以下
Sn、Sbは、本発明による磁束密度を向上させる効果を得るためには、少なくともSnまたはSbを0.05%以上含有する必要がある。しかし、0.50%を超えると、脆化が顕著となるため、上限は0.50%とする。好ましくはそれぞれ0.05%以上0.20%以下である。
【0040】
Se:0.00030%以下
Seは、0.00030%を超えて含有すると、上述したSnもしくはSb添加による磁束密度を向上させる効果が得られなくなるため、上限を0.00030%とする。好ましくは0.00010%以下である。
【0041】
NiおよびCrを合計で0.10%以下
Ni、Crは、0.10%を超えて含有すると、上述したSnもしくはSb添加による磁束密度を向上させる効果が得られなくなるため、上限を0.10%とする。好ましくは0.05%以下である。
【0042】
以上、本発明の基本成分について説明した。上記成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物であるが、その他にも必要に応じて、以下の元素を適宜含有させることができる。
【0043】
Ca、REM、Mg:0.0001%以上0.03%以下
Ca、REMおよびMgは、いずれもSを固定し、硫化物の微細析出を抑制するため、鉄損低減に有効な元素である。この効果を得るためには、それぞれ0.0001%以上添加する必要がある。しかし、0.03%を超えて添加しても、上記効果は飽和する。よって、Ca、REM、Mgのうちから選ばれる1種または2種以上を添加する場合は、それぞれ0.0001%以上0.03%以下の範囲とする。
【0044】
次に、本発明に係る方向性電磁鋼板の製造条件について説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板は、その製造に用いる鋼素材として、Al、Sn、Sb、Se、CrおよびNiの含有量が上記した範囲内のものを用いる限り、公知の無方向性電磁鋼板の製造方法を用いて製造することができる。例えば、以下の方法、すなわち、転炉あるいは電気炉などの精錬プロセスで上記所定の成分組成に調整した鋼を溶製し、脱ガス設備等で二次精錬し、連続鋳造して鋼スラブとした後、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍した後、酸洗し、冷間圧延し、仕上焼鈍し、さらに歪取焼鈍する方法を採用することができる。
【0045】
上記熱間圧延の鋼板(熱延板)の板厚は、1.0〜5.0mmとすることが好ましい。1.0mm未満では熱間圧延での圧延トラブルが増加し、一方、5.0mm超えでは、冷延圧下率が高くなり過ぎ、集合組織が劣化するからである。熱延板とした後は、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。熱延板焼鈍は、本発明においては必須の工程ではないが、磁気特性の向上に有効であるため、適宜採用するのが好ましい。生産性、コスト重視する場合は、熱延板焼鈍を省略することが望ましい。
【0046】
熱延板焼鈍を施す場合には、均熱温度は900〜1200℃の範囲とするのが好ましい。900℃未満であると、熱延板焼鈍の効果が十分に得られないため、磁気特性が向上せず、一方、1200℃を超えると、コスト的に不利となる他、スケールに起因する表面疵が発生するからである。なお、熱延板焼鈍に代えて、熱間圧延後、巻き取ったコイルの自己焼鈍を活用してもよく、その場合には、コイル巻取温度を600℃以上とすることが好ましい。ただし、自己焼鈍温度を600℃以上とするとコイルの長手方向に特性が変動しやすくなるため、品質の安定化を重視する場合は600℃以下とすることが好ましい。
【0047】
熱延板もしくは熱延焼鈍板の冷間圧延は、1回または中間焼鈍を挟む2回以上とするのが好ましい。特に、最終の冷間圧延では、板温が200℃程度の温度で圧延する温間圧延とすると、磁束密度を向上する効果が高まる。よって、設備上や生産制約上、コスト的に問題がければ、温間圧延とするのが好ましい。
【0048】
なお、上記冷延板の板厚(最終板厚)は、0.1〜1.0mmの範囲とするのが好ましい。0.1mm未満では、生産性が低下し、一方、1.0mm超えでは鉄損の低減効果が小さいからである。
【0049】
上記最終板厚とした冷延板に施す仕上焼鈍は、連続焼鈍炉で、700〜1200℃の温度で、1〜300秒間均熱することが好ましい。均熱温度が700℃未満では、再結晶が十分に進行せず良好な磁気特性が得られないことに加え、連続焼鈍における板形状の矯正効果が十分に得られない。一方、1200℃を超えると、結晶粒が粗大化し、靭性が低下するからである。また、SnもしくはSbによる磁束密度の向上効果を高めるため、仕上焼鈍を行う際に、800〜900℃の昇温速度を20℃/s以下とすることが望ましい。
【0050】
上記仕上焼鈍後の鋼板は、その後、層間抵抗を高めることで鉄損を低減させるため、鋼板表面に絶縁被膜を被成することが好ましい。特に、良好な打抜き性を確保したい場合には、樹脂を含有する半有機の絶縁被膜を適用することが望ましい。
【0051】
絶縁被膜を被成した無方向性電磁鋼板は、さらに歪取焼鈍を施してから使用してもよいし、歪取焼鈍を施さずにそのまま使用してもよい。また、打抜加工を施した後に、歪取焼鈍を施してもよい。なお、上記歪取焼鈍は、750℃×2時間程度の条件で行うのが一般的である。
【0052】
(実施例)
転炉−真空脱ガス処理の精錬プロセスで、表1に示した成分組成を有するNo.1〜50の鋼を溶製し、連続鋳造法でスラブとした後、スラブを1140℃で1h加熱し、板厚2.0mmまで熱間圧延を行った。引き続き、上記熱延板に、1000℃×30秒の熱延板焼鈍、もしくは600℃×1時間の自己焼鈍を施した。その後、該鋼板を酸洗し、板厚0.35mmまで冷間圧延を行った。その後、20vol%H−80vol%N雰囲気下で1000℃×10sの仕上焼鈍を施した。その際、仕上げ焼鈍における800〜900℃の加熱を、表1に示した昇温速度の条件で行い、その後、鋼板に絶縁被膜を塗布して無方向性電磁鋼板とした。
【0053】
上記のようにして得られた熱延板もしくは熱延焼鈍板の冷間圧延性、仕上焼鈍板の鉄損W15/50および磁束密度B50を測定した。冷間圧延性は繰り返し曲げ試験(試料温度0℃で、鋼板の板面垂直方向に曲げ半径10mmかつ角度−45°から45°の曲げを繰り返し行う試験。5回以上曲がったものを冷間圧延性良好とする。)、磁気特性は30mm×280mmのエプスタイン試験片を採取して25cmエプスタイン装置で評価した。これらの結果は表1に併記した。
表1から、鋼素材の成分組成を本発明の範囲に制御することにより、板厚を薄くすることなく、また、Alを多量に添加することなく、容易に磁気特性に優れ、かつ低鉄損である無方向性電磁鋼板を得ることができることがわかる。
【0054】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5