(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804296
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】軽質(メタ)アクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20201214BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20201214BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20201214BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/54 Z
!C07B61/00 300
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-527415(P2016-527415)
(86)(22)【出願日】2014年10月21日
(65)【公表番号】特表2016-539104(P2016-539104A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】FR2014052667
(87)【国際公開番号】WO2015063388
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2017年9月6日
【審判番号】不服2019-6254(P2019-6254/J1)
【審判請求日】2019年5月14日
(31)【優先権主張番号】1450994
(32)【優先日】2014年2月10日
(33)【優先権主張国】FR
(31)【優先権主張番号】1360541
(32)【優先日】2013年10月29日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トレチャク,セルジュ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥニ,ステファーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥレ,リオネル
(72)【発明者】
【氏名】モレリエール,アンヌ
【合議体】
【審判長】
村上 騎見高
【審判官】
関 美祝
【審判官】
井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭54−106412(JP,A)
【文献】
特開2002−338520(JP,A)
【文献】
特開平8−225486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性触媒の存在下で、対応するアルコールによる(メタ)アクリル酸のエステル化によってメチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートを合成する方法であって、エステル化反応は、1.05から4の間の酸/アルコールのモル比で、60℃から90℃の間の反応温度および大気圧から5バールの範囲の圧力で、30分から1時間の間の反応を受ける流れの滞留時間で、反応器内で行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
エステル化反応は、1.05から3の間の酸/アルコールのモル比で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸/アルコールのモル比が1.5から3の間であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
圧力が大気圧から3バールの範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
酸がアクリル酸であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
アルコールがエタノールであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応器が固定床反応器または撹拌反応器であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
反応器に供給する流れを脱水する少なくとも1つの工程を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
脱水工程は、新しいアルコール供給流、未反応のアルコールのためのリサイクル流、または未反応の酸のためのリサイクル流の少なくとも1つに適用されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
脱水工程は、膜分離によって、蒸留によって、または圧力スイング吸着によって実行されることを特徴とする請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
酸性触媒の存在下で、対応するアルコールによる(メタ)アクリル酸のエステル化によってメチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートを合成する方法であって、以下の工程:
a) 反応器に(メタ)アクリル酸、酸性触媒およびアルコールを供給し、請求項1から7のいずれか一項に記載のように反応器内でエステル化反応させる工程;
b) 反応器出口でメチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートの流れを引き出す工程;
c) メチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートの流れを蒸留して、頂部で重質副生成物および未反応(メタ)アクリル酸が激減した(メタ)アクリレートの流れを、底部で重質副生成物、未反応(メタ)アクリル酸ならびに微量のアルコールおよび軽質生成物を含む流れを、分離する工程;
d) 工程c)で得られた底部流れを、反応器にリサイクルされる未反応(メタ)アクリル酸ならびに微量のアルコールおよび軽質生成物を含む流れと、工程d)に戻される回収可能な価値を有する生成物の流れを放出する熱分解に供される重質副生成物の流れとに分離する工程;
e) 工程c)で得られた頂部流れを、水性流れで液体−液体抽出し、メチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートの精製された有機相と水相とに分離し、水相は蒸留され、一方で反応器にリサイクルされるアルコールが豊富な画分と、他方で液体−液体抽出工程における水性流れとして使用される水が豊富な画分とを回収される工程;
f) 場合により、工程a)からのアルコール供給物、工程d)で得られた未反応(メタ)アクリル酸を含む流れ、または工程e)で得られたアルコールが豊富な蒸留画分の少なくとも1つを脱水する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
追加の有機化合物を除去するために、メチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートの精製された有機相を蒸留する1つ以上の工程も含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
脱水工程は、膜分離によって、蒸留によって、または圧力スイング吸着によって実行されることを特徴とする請求項11または12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽質(メタ)アクリル酸エステルの製造に関し、本発明の主題は、より具体的には、酸がアルコールに対して過剰である反応条件下でのメタノールまたはエタノールによる(メタ)アクリル酸の直接エステル化によるメチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートの連続生産の改良である。
【背景技術】
【0002】
例えば、硫酸またはイオン交換樹脂により触媒作用が及ぼされる、対応するアルコールによる(メタ)アクリル酸の直接エステル化により、(メタ)アクリル酸エステル、特にメチルアクリレートまたはメタクリレートおよびエチルアクリレートまたはメタクリレートを製造することは既知の実務である。例えば、文献US3776947号;US3914290号;US4664229号またはUS4435594号に記載された方法を挙げることができ、そこではアルコールが(メタ)アクリル酸に対して過剰に使用されている。
【0003】
エステル化反応は水を生成し、一般に不純物、特に重質化合物、即ち、求められているエステルの沸点よりも高い高沸点を有する化合物を生成する副反応を伴う。
【0004】
このような方法では、環境および経済的な理由のために、未反応試薬(主にアルコールおよび酸)を反応にリサイクルするだけでなく、高純度の最終製品を求めつつ、この方法の間に生成された重質生成物から価値を回収することも不可欠である。
【0005】
この目的のために、蒸留および/または抽出または沈殿操作によって反応混合物に一連の処理が一般に行われるが、該一連の処理は実施するのに比較的複雑で、エネルギーの面でコスト高でもあり、原料の消失を表し得る回収可能な価値を有さない最終残留物を生成するという欠点を有する。
【0006】
軽質(メタ)アクリル酸エステルの製造中に生じる問題、特に重質副生成物の形成をこれから詳述するが、便宜上、エタノールによるアクリル酸のエステル化によって得られるエチルアクリレートの例に基づいて説明する。しかし、問題点および本発明によって提案される解決策は、エステル化反応で一方でメタクリル酸を、または他方でメタノールを使用した場合に同じである。
【0007】
エチルアクリレートの製造中に重質副生成物の形成をもたらす副反応に関して、これらは本質的に未反応アクリル酸のオリゴマー、即ち、アクリル酸ダイマー(3−アクリルオキシプロピオン酸、n=1)およびより少ない程度でアクリル酸トリマー(3−(3−アクリルオキシプロピルオキシ)プロピオン酸、n=2)だけでなく、特に既に形成されたエチルアクリレートおよび未反応エタノールの間の、エチルエトキシプロピオネートをもたらすマイケル付加反応(マイケル付加物)の形成である。
【0008】
エチルエトキシプロピオネート(EEP)は「重質の」副生成物である。何故ならばその沸点(168℃、大気圧)は、エチルアクリレートの沸点(100℃、大気圧)よりもかなり高いからであり、それは反応が進むにつれてアクリル酸オリゴマーと同時に工程中で濃縮される。その沸点はアクリル酸の沸点(144℃、大気圧)に近いので、またEEPは未反応アクリル酸のためのリサイクリングループ中で濃縮され、このリサイクリングループのパージを必要とし、そのためアクリル酸のかなりの部分が、オリゴマーの形で存在するアクリル酸を再生するためにパージされた流れの熱分解を実行しない限り、パージ中に失われるが、この熱分解はEEPにいかなる影響も有さない。また、EEPは重質副生成物の中では最も軽いので、反応媒体中のその存在によりエチルアクリレートの最終精製が妨げられるであろう。
【0009】
文献US2005/0107629号に記載されたエチルアクリレートの合成方法において、反応器のパージを実行するために、パージされた流れを、アクリル酸、エチルアクリレートおよびエタノールを含有する蒸留物(反応にリサイクルされる)および残渣(エステル化触媒の回収ユニットに供される)を分離する蒸留ユニットに送ることが提案された。この方法により、反応器内での重質副生成物の蓄積を回避し、パージされた流れ中に存在する、直接回収可能な価値を有する化合物をリサイクルすることが可能になるが、それはパージされた流れ中にオリゴマーおよび/またはエチルエトキシプロピオネートの形で存在するアクリル酸の重大な損失を表す。
【0010】
文献US6025520号では、減圧で、アルコール/酸のモル比が1未満、好ましくは0.3から1未満で、強酸性イオン交換樹脂により触媒作用が及ぼされる、(メタ)アクリル酸と1から3個の炭素原子を含むアルコールとのエステル化反応を行うことが提案されている。これらの条件により、エステル化反応の収率および選択率を改善し、(アルコールがメタノールである場合)メチルメトキシプロピオネートのような重質副生成物(その存在は求められているエステルの精製ラインにとって問題である)の形成を大幅に減少させることが可能になる。
【0011】
しかしながら、この方法によってもたらされた進歩にもかかわらず、この反応条件を実行するにはまだ多くの欠点がある。即ち、一方で、この方法は、反応装置内での減圧下で作業する必要があり、そのため反応混合物が不均一系触媒の条件下で2相(気体/液体)または3相にもなってしまうため、特別な反応器技術が必要になる。他方で、反応流れの流量および触媒の体積の間の比として定義される反応を受ける流れの1時間当たりの空間速度(HSV)が0.1h
−1から1h
−1未満の範囲であり、これは等しいエステル生産に対し使用される触媒の量が10倍変化し得ることを意味するか、または1時間を超える、場合により10時間もの長さにもなる反応器内での滞留時間に相当する。この方法を説明する実施例、および大気圧下で行った比較例は、反応器内の3時間の滞留時間に相当する0.33h
−1のHSVで行われた。
【0012】
文献GB2016461号は、過剰の酸によるアルコールのエステル化反応によってエステルを製造する方法を記載する。この方法は、イソ酪酸およびメタクリル酸を用いて示されている。メチルメタクリレートは、特に約3という酸の化学量論的過剰に対応する11重量%のメタノールおよび88.8重量%のメタクリル酸を含有する流れを用いて、反応器内での20分という滞留時間で合成される。精製されたメチルメタクリレートは、2つの蒸留塔を用いる二段階の精製工程の後に分離される。
【0013】
従って、従来技術の軽質(メタ)アクリレートの合成方法の欠点を克服する現実の必要性、特に、簡易な方法の構成において、エチルアクリレートの合成の場合にエチルエトキシプロピオネートの形成(方法の物質収支(原料の損失)および所望の生成物(精製方法の複雑さ)の純度に有害である)を最小限にする現実の必要性が依然として残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第3776947号明細書
【特許文献2】米国特許第3914290号明細書
【特許文献3】米国特許第4664229号明細書
【特許文献4】米国特許第4435594号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0107629号明細書
【特許文献6】米国特許第6025520号明細書
【特許文献7】英国特許出願公開第2016461号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
驚くべきことに、本発明者らは、大気圧で、酸がアルコールに対し過剰である条件下でエステル化反応を行うことにより、従来の固定床反応器技術におけるエチルエトキシプロピオネートの形成を大幅に減少させることが可能であることを発見した。これらの条件では、液相に保持された反応流の性質および必要な滞留時間が変化しないので、過剰のアルコールを用いて行われた反応に既に使用されている固定床反応器を使用することが可能である。
【0016】
また、本発明者らは、反応器に導入される水(場合によりアルコール供給物、またはエステル化反応により生成される水の画分と共に未反応の酸および/または未反応のアルコールを含む流れのリサイクルから生じる)の量を最小限にすることによって付加物の形成をさらに大幅に減少させることができることを発見した。
【0017】
従って、本発明の目的の1つは、エチルアクリレート、より一般的にはメチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートの合成方法を提供することであり、その方法はエステル化反応の間にエチルエトキシプロピオネートの形成を最小限にし、この方法は物質収支の改善、所望のエステルの精製ラインの簡素化およびエネルギーバランスの最適化をもたらす。
【0018】
エステル化反応はより高い生産性をもたらすより高い1時間当たりの空間速度で大気圧で実施されるので、本発明の方法は、US6025520号に記載された方法に関し特に有利である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の主題は、酸性触媒の存在下で、対応するアルコールによる(メタ)アクリル酸のエステル化によってメチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートを合成する方法であって、エステル化反応は、1.05から4の間の酸/アルコールのモル比で、大気圧から5バールの範囲の圧力で、30分から1時間の間の反応を受ける流れの滞留時間で、反応器内で行われることを特徴とする方法である。
【0020】
用語「間」は、本発明の意味で限界値を含むことが意図される。
【0021】
「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸またはメタクリル酸を意味する。好ましくは、反応の酸はアクリル酸である。
【0022】
好ましくは、アルコールはエタノールである。
【0023】
反応温度は、一般に60℃から90℃の間である。
【0024】
本発明の方法は、好ましくはイオン交換樹脂のタイプの固体触媒を用いた固定床反応器技術で、または好ましくは硫酸タイプもしくは有機スルホン酸タイプの液体触媒を用いた撹拌反応器内で有利に実施される。
【0025】
反応流れに対する1時間当たりの空間速度は1h
−1から2h
−1の間である。
【0026】
一実施形態によれば、本発明による方法は、任意の公知の技術によって流れを脱水する工程を含み、反応器入口での水分量を減少させることが可能になり、結果的に付加物の形成を減少させる。
【0027】
この実施形態によれば、この方法は、反応器へ供給する流れを脱水する少なくとも1つの工程を含む。
【0028】
この脱水工程は、新しいアルコール供給流、未反応アルコールのためのリサイクル流、または未反応の酸のためのリサイクル流の少なくとも1つに適用することができる。
【0029】
一実施形態によれば、本発明による方法は以下の工程を含む:
a) 反応器に(メタ)アクリル酸、酸性触媒およびアルコールを供給し、上記で定義されたように反応器内でエステル化反応させる工程;
b) 反応器出口でメチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートの流れを引き出す工程;
c) メチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートの流れを蒸留して、頂部で重質副生成物および未反応(メタ)アクリル酸が激減した(メタ)アクリレートの流れを、底部で重質副生成物、未反応(メタ)アクリル酸ならびに微量のアルコールおよび軽質生成物を含む流れを分離することを可能にする工程;
d) 工程c)で得られた底部の流れを、反応器にリサイクルされる未反応(メタ)アクリル酸ならびに微量のアルコールおよび軽質生成物を含む流れと、工程d)に戻される回収可能な価値を有する生成物の流れを放出する熱分解に供される重質副生成物の流れとに分離する工程;
e) 工程c)で得られた頂部の流れを、水性の流れで液体−液体抽出し、メチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートの精製された有機相と水相とに分離することを可能とし、水相は蒸留され、一方で反応器にリサイクルされるアルコールが豊富な画分と、他方で液体−液体抽出工程における水性流れとして使用される水が豊富な画分とが回収される工程。
【0030】
本発明に係る方法は、追加の有機化合物を除去するために、メチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートの精製された有機相を蒸留する1つ以上の工程も含むことができる。
【0031】
本発明による方法は、工程a)からのアルコール供給物、工程d)で得られた未反応(メタ)アクリル酸を含む流れ、または工程e)で得られたアルコールが豊富な蒸留画分の少なくとも1つを脱水する工程f)を含むこともできる。
【0032】
本発明により従来技術の欠点を克服することが可能になる。それは、より具体的には、メチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートの合成方法における回収可能な価値を有さない副生成物の存在に関連する問題を制限する手段を提供し、回収可能な価値を有する生成物は、未反応試薬または所望のエステル(貴製品)であるか、または貴製品を放出することができるアクリル酸オリゴマーなどのような重質副生成物である。
【0033】
これは、操作条件の選択、特に1.05から4の間、好ましくは1.05から3の間の酸/アルコールのモル比で、大気圧から5バールの範囲の圧力下でエステル化反応を行うことにより達成される。
【0034】
また、エステル化反応器に入る水の量を最小限に抑えることにより、重質副生成物、特に合成中に形成される付加物の量の減少がさらに向上する。
【0035】
これは、本発明者らが、これらの条件下で、回収可能な価値を有さない副生成物が少量でしか生じず、それにより工程全体に対し以下の利点、即ち、重質生成物またはアクリル酸よりも高い沸点を有する生成物(特に、アクリル酸オリゴマー)からのはるかに簡単な価値回収、蒸留塔の数が減ることをはじめとする、形成されたエステルに対する最終精製ラインの簡素化、およびリサイクルされるアルコールの量がより少ないための低いエネルギー消費をもたらすことを発見したからである。
【0036】
従って、本発明により、高純度のメチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートを生産するために簡略化された設備を利用すること、および工程の物質収支を最適化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】エチルアクリレートの合成に特に適用される本発明による方法を実施するための設備を概略的に示す。
【
図2】本発明による方法で得られたエタノールのリサイクルのためのエネルギー利得を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明を、以下の説明においてより詳細に非限定的に記載する。
【0039】
本発明によれば、酸/アルコールのモル比は、エステル化反応器に供給する流れ(純粋な生成物の流れおよびリサイクルした流れ)の全てにおける酸およびアルコールの含有量を指す。
【0040】
好ましい一実施形態によれば、反応器中の酸、(メタ)アクリル酸/アルコールのモル比は1.05から3の間、好ましくは1.5から3の間であり、または2から2.5の間である。
【0041】
好ましい一実施形態によれば、圧力は大気圧から3バールの間で選択される。
【0042】
エステル化反応は、酸性触媒、例えば、不均一系触媒の場合には酸性陽イオン交換樹脂の存在下で行われ、または均一系触媒の場合の触媒として、例えば、硫酸、または有機スルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、パラ−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸、もしくはこれらの混合物を使用することができる。
【0043】
反応は、粗製反応混合物に対し、500から5000ppmの量で反応器に導入される1つ以上の重合禁止剤の存在下で行われる。使用できる重合禁止剤としては、例えば、フェノチアジン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ジ−tert−ブチル−パラ−クレゾール(BHT)、パラ−フェニレンジアミン、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ)、ジ−tert−ブチルカテコール、またはOH−TEMPOのようなTEMPO誘導体の単独、または任意の比率でのこれらの混合物が挙げられる。重合禁止剤を補足的に添加することは、一般に、その後の精製処理で行われる。
【0044】
一般に、水は様々な形でかなりの量で反応器に導入される。
【0045】
一方、試薬として使用される工業用アルコールの品質は、一般に、5から10重量%のオーダーの量で水を含む。
【0046】
他方、所望の生成物および水を含む反応媒体のための精製ラインから来る未反応アルコールおよび/または酸を含む流れは、一般に反応にリサイクルされる。その結果、アルコールリサイクルの流れは、10から60重量%の水を含む場合があり、酸リサイクルの流れは、2から20%の水含む場合がある。
【0047】
本発明の好ましい一実施形態によれば、これらの流れの1つ以上に脱水システムを設置することにより、反応器入口での水の量を制限することができる。
【0048】
脱水システムは、当業者に公知の、多かれ少なかれ複雑な媒体から水を分離することができる任意のシステムとすることができる。
【0049】
一例として、膜分離ユニット、より具体的には、パーベーパレーションまたは蒸気透過による脱水ユニットが挙げられる。この実施形態によれば、膜分離による脱水ユニットは、無機膜、好ましくはゼオライト膜、より好ましくはゼオライトT膜、または高分子膜、好ましくはポリビニルアルコールに基づく親水性膜を含むことができる。
【0050】
あるいは、アルコールの脱水に知られているような圧力スイング吸着(PSA)システムを使用することができる。
【0051】
他のやり方では、単純な蒸留により水の大部分を除去することができる。
【0052】
同じ工程のなかで異なる脱水システムを使用できることが理解される。
【0053】
この実施形態によれば、約85%も反応器に導入される水を減少させることができ、それは脱水ユニットの不存在下で反応器入口での水含有率を5から10重量%の代わりにおよそ0.8から1.5重量%までは減少させる。この減少は、合成中に付加物の形成に有益な影響を有するために重要である。
【0054】
図1を参照すると、本発明に従ってエチルアクリレートを製造するための設備は反応器Rを含む。反応器Rは、アクリル酸1を供給するパイプおよびエタノール2を供給するパイプによって供給される。反応器は、好ましくは、酸性陽イオン交換樹脂タイプの触媒を含む。均一系触媒の場合には、反応器は触媒を供給するパイプ(図示せず)によっても供給される。
【0055】
反応器の出口では、反応混合物3は、底部で、未反応アクリル酸、微量の軽質生成物(アクリル酸の沸点より低い沸点)および以下では付加物と呼ばれる、アクリル酸より高い沸点を有する生成物(アクリル酸のオリゴマーおよびマイケル付加物)を本質的に含む流れ5と、頂部で形成されたエチルアクリレートおよびアクリル酸よりも軽質の生成物(未反応エタノール、酢酸エチルおよび酢酸などのような副生成物)を含む流れ6を分離する蒸留塔Cに送られる。
【0056】
蒸留塔Cからの底部の流れ5は、残留アクリル酸およびより軽質の生成物を含む流れ4を分離する蒸留塔C1に送られ、この流れ4は反応器Rにリサイクルされる。本質的に重質生成物(付加物)からなる流れ7は蒸留塔C1から分離されて、熱分解装置CTで熱分解に供される。
【0057】
蒸留塔CまたはC1として、ランダムもしくは秩序充填タイプ、デュアルフロートレイタイプ、降水管タイプを有する孔あきトレイまたはバルブトレイタイプの内部を含む塔を使用することができる。また、蒸留塔C1の代わりに膜蒸発器を設置することもできる。
【0058】
熱分解により、重質生成物画分から潜在的に回収可能な貴製品(出発化合物または最終生成物)をリサイクルすることが可能になる。熱分解は、場合により硫酸またはスルホン酸などのような酸性触媒の存在下で、例えば、120℃から220までの範囲であり得る温度で行われる。熱分解の効果は、付加物中に存在する出発化合物、本質的にアクリル酸を放出することであるが、それはエチルエトキシプロピオネートにほとんど影響を与えず、このため、エチルエトキシプロピオネートは熱分解装置の出口において、蒸留塔C1にリサイクルされるアクリル酸の流れ9中に部分的に存在したままであり、エチルエトキシプロピオネートの残りは回収可能な価値を有さない他の重質生成物を有する流れ8中に存在し、流れ8は焼却される。
【0059】
蒸留塔Cの頂部からの流れ6は、一方では、蒸留塔C2での蒸留(エタノールが激減した水性流れ14は場合により液体−液体抽出相にリサイクルされる)に続いて反応にリサイクルされる(流れ13)エタノールを含有する水相10、他方で、有機相11を生成するための液体−液体抽出部(デカンターまたは接触器)に送られる。
【0060】
液体−液体抽出部は、撹拌もしくは充填カラムタイプの液体−液体抽出塔、ミキサー−デカンターバッテリー、または直列の1つ以上のデカンターからなってもよい。
【0061】
有機相11は、精製エチルアクリレート12を与えるために1つ以上の補足的な蒸留工程に供することができる。しかし、本発明の方法により、所望のエステルを精留するこの最終スキームを簡素化することが可能になり、ひいては特にエチルエトキシプロピオネートの残留含有率の点で所望の仕様をより容易に達成することが可能である。
【0062】
上述したように、反応器に導入される水の量を減らすことを目的とする脱水ユニット(図示せず)は、新しいアルコールを供給するためのライン2上、アルコールをリサイクルするライン12上、または酸をリサイクルするライン4上に設置することができる。
【0063】
以下の実施例は本発明を例示し、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0064】
[実施例1]
エチルアクリレートの合成試験を、直径2.5cm、高さ55cm、容積270mlの反応器を用いて実施した。反応器には、330mlのK1431樹脂(LANXESS)を充填する。反応器に入れる前に、前記樹脂(330ml)を反応混合物中に適当な状態に置いて、反応混合物中に存在する試薬によってその構造中の水を置換することにより、容積の低下がもたらされた。
【0065】
ポンプを介して、試薬を反応器の頂部に導入する。試薬を反応温度まで予熱してもよい。反応器の底部には、水が供給されるカレンダーにより反応混合物を冷却する凝縮器がある。圧力は、凝縮器の出口に配置された調整弁の作用によって調整される。
【0066】
反応混合物を、1000ppmのヒドロキノンで安定化させ、攪拌する。リサイクル操作から得られた流れを考慮して、反応器には、重量%で、1.5%の水、65%から75%のアクリル酸(AA)、20%から28%のエタノール(EtOH)、2.5%から4%のエチルアクリレート(EA)、ならびに酢酸エチル(45ppm)、酢酸およびヒドロキノンのような不純物1000ppmの量を含む合成混合物を供給した。
【0067】
AA/EtOHのモル比を、1.5から2.5に変化させるように、合成混合物の組成を再調整する。
【0068】
供給流量は、滞留時間(適当な状態に置く前の供給流量/樹脂の体積)が45分から60分の間で変化するように変化する。反応が75℃でまたは85℃で実行されるように反応器を加熱し、供給混合物を予熱し、圧力を2バールに固定する。
【0069】
分析は、反応媒体から採取したサンプルからのGCおよびHPLCによって行われる。含水量はカールフィッシャー滴定によって決定され、アクリル酸の含有量は、場合により電位差測定法によって決定することができる。結果は以下のように示される:
− 試薬(AAまたはEtOH)の変換率、%=100−(残留した試薬のモル数/導入した試薬のモル数)。
− EA選択率、%=100×生成されたEAのモル数/反応した試薬のモル数。
− 生成されたEAの1トン当たりに形成された重質副生成物(付加物)のkgでの数量。
− 生成されたEAの1トン当たりの回収可能な価値を有する付加物のkgでの数量。
− 生成されたEAの1トン当たりの回収可能な価値を有さない付加物のkgでの数量。
− 生成されたEAの1トン当たりに形成されたエチルエトキシプロピオネート(EEP)のkgでの数量。
【0070】
種々の試験の結果を以下の表1から3にまとめる。
【0071】
【表1】
【0072】
エタノールの変換率は58.5%から86.6%まで変化し、エタノールに対するエチルアクリレートへの選択率は、常に97%より高い。
【0073】
【表2】
【0074】
アクリル酸の変換率は30.7%から47.2%まで変化し、化学量論的に過剰な酸性試薬の存在に関係する。アクリル酸に対するエチルアクリレートへの選択率は96.5%から98.5%の範囲である。
【0075】
【表3】
【0076】
AA/EtOHは、エステル化反応中に形成される付加物の総量に影響を与える。アクリル酸が反応流れ中に過剰にある場合には、形成される付加物の総含有量が増加する。しかし、AA/EtOHのモル比が増えると、同時に、回収可能な価値を有さない付加物、特にエチルエトキシプロピオネートの量が減少することが分かった。従って、エステル化がアクリル酸の化学量論的な大過剰で実施される場合には、回収可能な価値を有さない付加物の除去に関連する原材料の損失が低減される。
【0077】
実際、AA/EtOHのモル比0.5の増加に対し生成されたエチルアクリレートの1トン当たり、平均で、0.5kgから1kg少ない回収可能な価値を有さない付加物が生成される。この減少は、工業レベル、例えば、1年当たり100000トンのエチルアクリレートを生成することができるユニットに規模を拡大すると、このモル比の増加から直接生じる原料の50トンから100トンの利益をもたらす。
【0078】
残留EEP含有率に関し求められる仕様(一般には<50ppm)の取得を容易にすることにより、エチルエトキシプロピオネートの形成におけるこの減少は、エチルアクリレートの最終精製工程にも影響を与えることになる。
【0079】
また、
図2は、本発明の方法により得られるエネルギー利益を示す。
【0080】
未反応エタノールのリサイクルは水と共に反応媒体から未反応エタノールを引き出し、エタノール水溶液を蒸留することを必要とする。過剰な酸性試薬に基づく本発明にの方法では、未反応アルコールの量が減少し、その結果として、より少ないエネルギーの量で未反応アルコールをリサイクルすることができる。
【0081】
図2は、上述した合成条件(温度、滞留時間)の下でのAA/EtOHのモル比(MR)に応じて、100g/時間のエチルアクリレートの生産に適用された、エタノールのリサイクルに関連するエネルギー消費を表す。MRが1.5から2.5まで変化するときにエネルギー利得は、常に20%より高い。
【0082】
[実施例2]エチルエトキシプロピオネートの形成に対する酸/アルコールのモル比の効果
EEPの形成に対する過剰のアクリル酸の有益な効果を説明するために、実施例1で使用した同じ装置で比較試験を行い、ここで、K1431樹脂容積は206ml、1.3バールの圧力での反応温度は75℃、滞留時間は110分であった。
【0083】
以下の表4は、EEPの形成を減少させることについてのAA/EtOHのモル比の有益な効果を示す。EEPの形成に対し1時間より長い滞留時間の負の効果も観察される(より短い滞留時間で得られた表3からの結果と比較)。
【0084】
【表4】
【0085】
[実施例3]方法の生産性に対する水の影響
エチルアクリレート合成試験を、実施例1からの条件と同じ条件下で実施し、ここで供給物の流れは、重量%で0.5から6%の水、65%から75%のアクリル酸、20から28%のエタノール、0から3%のエチルアクリレートならびに酢酸エチル(45ppm)、酢酸およびヒドロキノンのような不純物を1000ppmの量含んでいた。
【0086】
反応器に供給するための少なくとも部分的に脱水された流れをシミュレートするために含水量を変化させた。
【0087】
これらの試験では、反応温度は75℃であり、反応器内の滞留時間は45分である。
【0088】
試験の結果を以下の表5にまとめる。
【0089】
【表5】
【0090】
これらの条件において、エステル化反応器の供給流れ中の含水率を(エステル化方法における従来の含有率を表す5.7%からリサイクル流れ中に存在する水の膜分離後に得られる0.6%まで)低下させる場合には、アルコール変換率が(61%から76%へ)上昇し、エタノールまたはアクリル酸に対するEAへの選択率が改善される。
【0091】
例えば、熱処理によって回収可能な価値を有する付加物の割合が(23%から76%へ)増加する一方で、形成された付加物の量が(生成されたEA100g当たり2.7から2.2gへ)減少することが観察された。従って、回収可能な価値を有さないエチルエトキシプロピオネートの形成が減少され、そのことはエチルアクリレートの精製ラインを容易にし、この方法の物質収支を改善する。