特許第6804300号(P6804300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6804300アルケノールの製造方法および1,3−ブタジエンの製造のためのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804300
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】アルケノールの製造方法および1,3−ブタジエンの製造のためのその使用
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/60 20060101AFI20201214BHJP
   C07C 33/03 20060101ALI20201214BHJP
   C07C 33/025 20060101ALI20201214BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20201214BHJP
   C07C 1/24 20060101ALI20201214BHJP
   B01J 21/12 20060101ALI20201214BHJP
   B01J 23/10 20060101ALI20201214BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20201214BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20201214BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20201214BHJP
   B01J 37/12 20060101ALI20201214BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20201214BHJP
【FI】
   C07C29/60
   C07C33/03
   C07C33/025
   C07C11/167
   C07C1/24
   B01J21/12 Z
   B01J23/10 Z
   B01J35/10 301J
   B01J37/00 D
   B01J37/03 Z
   B01J37/12
   !C07B61/00 300
【請求項の数】12
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-562016(P2016-562016)
(86)(22)【出願日】2015年5月15日
(65)【公表番号】特表2017-520511(P2017-520511A)
(43)【公表日】2017年7月27日
(86)【国際出願番号】IB2015053592
(87)【国際公開番号】WO2015173780
(87)【国際公開日】20151119
【審査請求日】2018年1月18日
(31)【優先権主張番号】MI2014A000897
(32)【優先日】2014年5月16日
(33)【優先権主張国】IT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508128303
【氏名又は名称】ベルサリス、ソシエタ、ペル、アチオニ
【氏名又は名称原語表記】VERSALIS S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】アルベルト セサナ
(72)【発明者】
【氏名】ステーファノ ラメロ
(72)【発明者】
【氏名】グイド スパーノ
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101759529(CN,A)
【文献】 特開2014−030376(JP,A)
【文献】 特公昭50−010563(JP,B1)
【文献】 特開平08−253435(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/052718(WO,A1)
【文献】 SATO, Satoshi et al.,Selective dehydration of diols to allylic alchols catalyzed by ceria,Catalysis Communications,2003年,Vol.4,pp.77-81
【文献】 DIEZ, V. K. et al.,GAS-PHASE CONVERSION OF 1,3-BUTANEDIOL ON SINGLE ACID-BASE AND CU-PROMOTED OXIDES,CATALYSIS TODAY,ELSEVIER,2013年 4月18日,VOL:213,PAGE(S):18 - 24,URL,http://dx.doi.org/10.1016/j.cattod.2013.02.030
【文献】 HE, Y. et al.,SELECTIVE CATALYTIC DEHYDRATION OF 1,4-BUTANEDIOL TO 3-BUTEN-1-OL OVER CEO2 WITH 以下備考,CHINESE JOURNAL OF CATALYSIS / DALIAN INSTITUTE OF CHEMICAL PHYSICS,NL,ELSEVIER,2010年,VOL:31, NR:6,PAGE(S):619 - 622,DIFFERENT MORPHOLOGY,URL,http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1872206709600759
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/60
B01J 21/12
B01J 23/10
B01J 35/10
B01J 37/00
B01J 37/03
B01J 37/12
C07C 1/24
C07C 11/167
C07C 33/025
C07C 33/03
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの酸化セリウム系触媒及び少なくとも1つの希釈剤の存在下での、1,3-ブタンジオールの脱水を含むアルケノールの製造方法であって、
前記酸化セリウム系触媒が、少なくとも1つの塩基の存在下での少なくとも1つのセリウム含有化合物の沈殿により得られる、
ここで、前記希釈剤が窒素(N2)または、水から選択され、
前記アルケノールの製造が、
前記希釈剤が窒素(N2)である場合は、0.5〜2の範囲の1,3-ブタンジオールと希釈剤とのモル比で行われ、
前記希釈剤が水である場合は、0.5〜2の範囲の1,3-ブタンジオールと希釈剤とのモル比で行われ
前記酸化セリウム系触媒が、
- 少なくとも1つのセリウム含有化合物からなる溶液を調製すること;
- 前記溶液に、少なくとも1つの塩基を、1分〜16時間で添加し、反応混合物を得ること;
- 前記反応混合物を15℃〜100℃の温度で、1分〜120時間反応させ、沈殿物を得ること;
- 沈殿物を回収し、乾燥させ、任意でか焼すること
を含む方法、又は
- 少なくとも1つの塩基からなる溶液を調製すること;
- 前記溶液に、少なくとも1つのセリウム含有化合物を、1分〜16時間で添加し、反応混合物を得ること;
- 前記反応混合物を15℃〜100℃の温度で、1分〜120時間反応させ、沈殿物を得ること;
- 沈殿物を回収し、乾燥させ、任意でか焼すること
を含む方法により得られ、
前記塩基が、水酸化アンモニウム(NH4OH)、トリメチルアミン又は水酸化テトラプロピルアンモニウムの水溶液から選択され、
前記セリウム含有化合物が、硝酸セリウム、硫酸セリウム、酢酸セリウム、塩化セリウム、硝酸セリウムアンモニウム、もしくはそれらの混合物;またはセリウム(IV)tert-ブトキシド、セリウム(IV)2-メトキシエトキシド、セリウム(IV)イソ-プロポキシド、もしくはそれらの混合物から選択される、アルケノールの製造方法。
【請求項2】
少なくとも1つのセリウム含有化合物からなる前記溶液、または少なくとも1つの塩基からなる前記溶液が水溶液であり、前記水溶液の総重量に対して、少なくとも1つのセリウム含有化合物または少なくとも1つの塩基を、5重量%〜70重量%含む、請求項1に記載のアルケノールの製造方法。
【請求項3】
前記酸化セリウム系触媒が、0.5m2/g〜250m2/gの比表面積を有する、請求項1または2に記載のアルケノールの製造方法。
【請求項4】
前記酸化セリウム系触媒が押出物の形態で使用され、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムなどの従来の結合剤を任意で含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルケノールの製造方法。
【請求項5】
1,3-ブタンジオールと水とのモル比が1である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルケノールの製造方法。
【請求項6】
アルケノールの前記製造方法が、200℃〜500℃の温度で実施される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルケノールの製造方法。
【請求項7】
アルケノールの前記製造方法が、0.05bara〜50bara(bara=絶対bar)の圧力で実施される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルケノールの製造方法。
【請求項8】
アルケノールの前記製造方法が、「重量毎時空間速度」(WHSV)、すなわち1時間で供給されるジオールの重量と酸化セリウム系触媒の重量との比率、を使用して実施され、h-1で測定される前記比率が、0.5h-1〜20h-1である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアルケノールの製造方法。
【請求項9】
前記酸化セリウム系触媒が、アルケノールの該製造方法が実施される温度、すなわち200℃〜500℃の温度で前処理される、請求項1〜8のいずれか一項に記載のアルケノールの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法で得られた2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)および/または3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール)を、少なくとも1つの触媒と、前記2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)および/または前記3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール)の脱水に適した条件下で接触させることを含む、1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項11】
前記触媒が、シリカ-アルミナ、シリカ、アルミナ、ゼオライト、またはそれらの混合物などの固体酸触媒から選択される、請求項10に記載の1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項12】
前記方法が、150℃〜500℃の温度で実施される、請求項10または11に記載の1,3-ブタジエンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケノールの製造方法に関する。
【0002】
さらにとりわけ、本発明は、少なくとも1つの酸化セリウム系触媒の存在下での少なくとも1つのジオールの脱水を含むアルケノールの製造方法であって、前記酸化セリウム系触媒が、少なくとも1つの塩基の存在下での少なくとも1つのセリウム含有化合物の沈殿により得られるアルケノールの製造方法に関する。
【0003】
好ましくは、前記ジオールはブタンジオール、より好ましくは1,3-ブタンジオール、さらにより好ましくは、生合成過程から得られるバイオ1,3-ブタンジオールであってもよい。
【0004】
前記アルケノールは、1,3-ブタジエン、特にバイオ1,3-ブタジエンの製造に有利に使用され得る。
【0005】
本発明は、上記方法で得られた少なくとも1つのアルケノールを、少なくとも1つの触媒、好ましくは酸触媒と、少なくとも1つの前記アルケノールの脱水に適した条件下で接触させることを含む、1,3-ブタジエン、特にバイオ1,3-ブタジエンの製造方法にも関する。
【0006】
特に、上記方法で得られたアルケノール、すなわち3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール、CAS番号598-32-3)、3-ブテン-1-オール(アリルカルビノール、CAS番号627-27-0)または2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)、さらにとりわけ2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)および3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール、CAS番号598-32-3)は、1,3-ブタジエン、特にバイオ1,3-ブタジエンの製造において、または、ファインケミストリー、農芸化学、薬化学または石油化学でその後使用され得る中間体の製造において有利に使用され得る。
【背景技術】
【0007】
本明細書および以下の特許請求の範囲の目的のために、用語2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)は、シスおよびトランス異性体の混合物、またはシス異性体そのもの(CAS番号4088-60-2)もしくはトランス異性体そのもの(CAS番号504-61-0)のいずれかを意味するものと解釈される。
【0008】
現在、1,3-ブタンジオール、1,3-ブタジエンおよびアルケノールの工業生産は、従来の石油化学プロセスに基づくものであることが知られている。
【0009】
実際、通常4個の炭素原子を有するジオール、および特に1,3-ブタンジオール(一般的に1,3-BDOとして表される)は、例えば非特許文献1により説明されるような複雑な石油化学プロセスにより一般的に得られる。特に、1,3-ブタンジオールは、アセトアルデヒド、ヒドロキシブチルアルデヒドおよびその後の還元により生成され、一般的に樹脂の成分として、または溶媒として使用される。
【0010】
特許文献1は、硫黄変性または硫化ニッケル触媒の存在下で、水素化に特有の温度および圧力条件で操作し、エポキシ基とエチレン性不飽和とが共役するエポキシアルケンを水素化することを含む、アリルアルコール、ホモアリルアルコール、またはそれらの混合物の調製方法を説明する。好ましくは、前記方法は、2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)および3-ブテン-1-オールの混合物の調製に有用である。
【0011】
特許文献2は、式(I):
H2R1-R2C=CR3-CR4R5-OR6 (I)
で表される2-ブテン-1-オール化合物の製造方法を説明し、式中R1、R2、R3、R4、R5およびR6基はそれぞれ独立して水素、またはOHもしくはOR基で任意に置換された脂肪族基であり、式中Rは脂肪族基、ハロゲンまたはカルボキシル基であり、さらに、R2は-CHO基を表し、またはR2およびR5は、間に位置する炭素原子と一緒になって脂環式環を形成し、そしてR6はさらに脂環式、芳香脂肪族もしくは芳香族基または-C(=O)-R7基を表し、式中R7は脂肪族、脂環式、芳香脂肪族または芳香族基であり、前記方法は、式(II):
HR1C=CR2-CHR3-CR4R5-OR6 (II)
で表される3-ブテン-1-オール化合物を異性化することを含み、式中R1、R2、R3、R4、R5およびR6基は、水素および触媒の存在下で上記と同じ意味を表し、該方法は固定床触媒上で連続的に実施され、該触媒は、二酸化ケイ素支持体上にパラジウムおよびセレンもしくはテルルまたはセレンとテルルとの混合物を含み、ならびに80m2/g〜380m2/gのBET表面積、および3nm〜300μmの孔径で0.6cm3/g〜0.95cm3/gの細孔容積を有し、細孔容積の80%〜95%が10nm〜100nmの孔径における。
【0012】
あるいは、2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)は、例えば非特許文献2に記載されるように、クロトンアルデヒドの還元により調製され得る。さらに、2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)は、例えば特許文献3(1,3-ブタジエンの合成における中間体として)または特許文献4において説明されるように、生合成方法により調製され得る。
【0013】
特許文献5は、
硫酸アルミニウム、硫酸クロム、硫酸鉄、およびそれらの混合物から選択される三価金属硫酸塩を、触媒として、有効量の1,3-ブタンジオールと混合し、1,3-ブタンジオールに懸濁した前記触媒の混合物を得ること;
前記混合物を、約70℃未満の温度から、1,3-ブタンジオールの沸点より高い約100℃まで加熱し、反応混合物から蒸発する3-ブテン-1-オールへの1,3-ブタンジオールの部分的脱水を達成すること;
ならびに前記蒸気を凝縮して3-ブテン-1-オールを単離すること
を含む、アルケノールを1,3-ブタンジオールから液相で合成する方法を説明する。
【0014】
あるいは、3-ブテン-1-オールは、例えば特許文献4で説明されるように、プロピレンおよびホルムアルデヒドから、触媒の存在下で、高温で操作して調製され得る。
【0015】
3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール)およびブタジエンは、例えば非特許文献3により説明されるように、トリウム酸化物の存在下で、2,3-ブタンジオールの脱水により得ることができる。
【0016】
あるいは、3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール)は、単独でまたは他のブテノールとの混合物として、例えば特許文献6で説明されているように、ポリオールまたはその誘導体(例えば、1,3-ブチレングリコールジアセテート)の熱分解により;または、例えば特許文献7もしくは特許文献8に記載されているように、アセチレンもしくは不飽和カルボニル化合物の還元により得ることができる。
【0017】
2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)は、例えばハライド、クロチルエステルまたはクロチルエーテルの前駆体として使用することができ、これらはその後、例えばモノマーの製造における中間体として、ファインケミストリーにおいて(例えば、ソルビン酸、トリメチルヒドロキノン、クロトン酸、3-メトキシブタノールの製造用に)、農芸化学において、または薬化学において使用され得る。
【0018】
3-ブテン-1-オール(アリルカルビノール)は、例えば原料として、薬化学において、農芸化学において、香水に、樹脂に使用され得る。例えば、薬化学において、例えば葉酸拮抗剤として使用され得るアリール置換されたアルデヒドは、パラジウムにより触媒される3-ブテン-1-オール(アリルカルビノール)のアリールハライドとのカップリング反応から得ることができる。
【0019】
3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール)は、ファインケミストリーにおいて溶媒として、例えばポリオレフィンなどのポリマー修飾における成分として(例えば、特許文献9に記載されているように)使用することができる。
【0020】
上記アルケノールは、1,3-ブタジエンの製造に使用することもできる。
【0021】
1,3-ブタジエンは、石油化学の基本的な生産物である。約1000万トンの1,3-ブタジエンが年間生産され、例えば、合成ゴム、樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)ターポリマー、ヘキサメチレンジアミン、ブタンジオール、特に1,4-ブタンジオールなどの様々な生産物の製造に優先的に使用されている。毎年製造される1,3-ブタジエンの95%超は、エチレンおよび他のオレフィンの製造のための水蒸気分解プロセスから生じる副生成物であり、抽出蒸留により分離される。「意図的な」1,3-ブタジエンの生産プロセスには、例えば、ブタンおよび/またはブテンの脱水素化が挙げられる。
【0022】
効率的で生産性が高く、生産コストが低く、そして環境影響が低減されたアルケノールおよび1,3-ブタジエンの代替製造方法を開発する実現性が、まだ強い関心を引いている。特に、例えばバイオ1,3-ブタンジオールなどの生合成過程から得られる原料を使用して、触媒脱水により、その後バイオ1,3-ブタジエンの製造に使用され得るバイオアルケノールを得ることが可能な新たな方法が、確かに関心を引く。
【0023】
前記生合成過程で使用され得る炭素源は、好ましくは、再生可能資源、バイオマス、合成ガスまたはその他のガス状炭素源である。
【0024】
合成ガスは、当該技術分野で知られている方法により、炭素含有原料(例えば、石炭、バイオマス、廃棄物、天然ガスなど)をガス化することにより得ることができる。
【0025】
前記生合成過程は、一般的に、例えば炭水化物などの炭素源を使用する能力がある微生物により行われる。炭水化物源には、例えば、糖類(グルコース、キシロース、アラビノース、フルクトースなど)、好ましくは炭水化物含むバイオマス(セルロース、ヘミセルロース、リグニンなど)、その他の再生可能なエネルギー源が挙げられる。
【0026】
酸化セリウム系触媒、ならびにジオールおよびブタンジオールのアルケノールへの脱水のためのそれらの使用は、当該技術分野で知られている。
【0027】
例えば、非特許文献4は、市販されているまたはクエン酸の脱水により得られるセリウム酸化物により触媒される、ジオールのアリルアルコール[すなわち、2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)および3-ブテン-2-オール(アリルカルビノール)]への選択的脱水を説明する。特にそれは、酸化セリウム(CeO2)により触媒され、300℃〜375℃の温度で操作する1,3-ブタンジオールのアリルアルコール(すなわちアルケノール)への選択的脱水を説明する。特に、325℃で操作して、酸化セリウム(CeO2)により触媒される1,3-ブタンジオールの脱水では、2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)および3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール)が高い選択率値(表1に示されるように、生成されるアルケノールの合計が、実際に99.7%モルよりも大きい)であるが、低い変換値(表1に示されるように、43.9%〜61%の値)で生成される。さらに、酸化セリウム(CeO2)は、375℃未満の温度を使用した場合に十分に働き、最初の5時間にわたって劣化を受けない一方、400℃に相当する温度を使用した場合、最初の5時間にわたって劣化が観察される(図2に示されるように)。375℃に相当する温度で操作したときのみ、90%を超える変換はまだ達成されず、約90%に近いアリルアルコールに対する選択が報告されている(図1および図2に示されるように)。前記結果は、多量の希釈剤、すなわち窒素(N2)の存在下で得られ:実際に、0.3に相当する1,3-ブタンジオール:窒素(N2)比が使用される。
【0028】
非特許文献5は、対応する塩化物の分解から生じる市販の希土類酸化物により触媒される、温度>2000℃、約2時間、気相中での、1,3-ブタンジオールの気相反応を説明している。1,3-ブタンジオールの前記反応中、不飽和アルコールへの脱水または副生成物の形成のいずれかが、325℃で同時に起こる。325℃に相当する温度および本明細書に記載の他の操作条件の下で使用された市販の酸化セリウム(CeO2)のみが、アルケノールへの選択率の良好な値[3-ブテン-2-オール(アリルカルビノール)で58%に相当する値、および2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)で39.1%]を、低い変換値(27.9%に相当する値)ではあるがもたらすことができ、一方で残りの触媒は低い変換率および/または選択率値を示すことは、表2に示すデータから明らかである。
【0029】
非特許文献6は、対応する塩化物の高温での分解から生じ、異なる温度(500℃〜1000℃の温度)でか焼され、そのため異なる結晶構造を有する市販の希土類酸化物により触媒される、1,3-ブタンジオールの気相脱水を説明する。特に、立方晶構造(蛍石)の酸化セリウム(CeO2)の使用は、不飽和アルコールの最も高い形成率を、全てのか焼温度でもたらす(図3に示されるように)。
【0030】
非特許文献7および非特許文献8は、異なる表面積を有する粉末状の市販のセリウム酸化物(CeO2)により触媒される、ブタンジオールの不飽和アルコールへの脱水を説明する。1,3-ブタンジオールの脱水では、触媒性能は、表面積により強く影響を受けることが判明している(図4に示されるように)。実際、3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール)および2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール、シスおよびトランス体の総体)などの不飽和アルコールの選択率は、表面積が増加するにつれて減少する。逆に、1,3-ブタンジオールの変換率は、表面積が増加するにつれて増加する。使用された操作条件の下では、高い選択率および高い変換率を同時に達成することは、温度および接触時間などのパラメータを変化させた場合でも可能ではないことは、示されたデータから明らかである(表2、表3、図5および図6に示されるように)。
【0031】
しかしながら、上記方法は、いくつかの欠点を有し得る。実際、前記方法は一般的に、例えば窒素(N2)などの多量の希釈剤の存在下で、例えば0.3に相当する1,3-ブタンジオール:窒素(N2)のモル比を使用して行われ、そのため容易には工業的に適用されず、とりわけ、目的とするアルケノールを、大流量の窒素(N2)などのガス中において回収することの難しさが原因となる。
【0032】
その上、上記方法で使用される触媒は、粉末状の市販原料であるか、または、工業用触媒の目的には容易に適用されない方法により製造される。例えば、上述したように、前記触媒は、対応する塩化物の高温での分解を含む方法から、またはクエン酸塩の熱分解を含む方法から得られ、これらは複雑および/または費用のかかる方法である。したがって、それらのいかなる工業的使用も、プロセス費用を増大させるであろう。その上、適切に前処理されたいくつかの前記触媒は、不飽和アルコールの選択率は増加させるが、変換率は減少させる:そのため、工業用途目的では、結果として資本およびプロセス費用に負の影響を与える多量の触媒を使用することが必要であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】米国特許第5,406,007号明細書
【特許文献2】米国特許第6,278,031号明細書
【特許文献3】国際公開第2013/130481号
【特許文献4】米国特許出願公開第2013/109064号明細書
【特許文献5】米国特許第4,400,562号明細書
【特許文献6】独国特許第1,150,671号明細書
【特許文献7】露国特許第396312号明細書
【特許文献8】特開昭63-222135号公報
【特許文献9】独国特許第1,908,620号明細書
【特許文献10】米国特許第6,228,799号明細書
【特許文献11】伊国特許出願第MI2013A002069号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2010/330635号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2012/0329113号明細書
【非特許文献】
【0034】
【非特許文献1】Grafje H. et al., "Butanediols, Butenediol, and Butynediol", "Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry" (2000).
【非特許文献2】"Merck Index" (1976), 9th Edition
【非特許文献3】Winfield M. E. in "The catalytic Dehydration of 2,3-butanediol to Butadiene. II. Adsorption Equilibria", "Australian Journal of Scientific Research" (1950), Vol. 3(2), pp. 290-305
【非特許文献4】Sato S. et al., in "Catalysis Communications" (2003), Vol. 4, pp. 77-81
【非特許文献5】Sato S. et al., in "Applied Catalysis A: General" (2007), Vol. 328, pp. 109-116
【非特許文献6】Gotoh H. et al., in "Applied Catalysis A: General" (2010), Vol. 377, pp. 92-98
【非特許文献7】Higarashi A. et al., in "Applied Catalysis A: General" (2006), Vol. 300, pp. 50-57
【非特許文献8】Higarashi A. et al., in "Applied Catalysis A: General" (2006), Vol. 314, pp. 134
【非特許文献9】A. R. Graham, in "American Mineralogist" (1950), Vol. 40, pp. 560-564
【非特許文献10】Ricken M. et al., in "Specific heat and phase diagram of nonstoichiometric ceria (CeO2-x)", "Journal of Solid State Chemistry" (1984), Vol. 54, Issue 1, pp. 89-99
【非特許文献11】Rohart E. et al., in "Topics in Catalysis" (2004), Vol. 30-31, Issue 1-4, pp. 417-423
【非特許文献12】Sato S. et al. in "Journal of Molecular Catalysis A: Chemical" (2006), Vol. 256, pp. 106-112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
上述したように、現在では、1,3-ブタンジオール、1,3-ブタジエンおよびアルケノールの製造は、従来の石油化学アプローチに基づいているため、生合成過程から得られる原料を用いて前記化合物を製造することが可能な新しい方法は、確かに関心を引く。特に、ジオール、より好ましくは1,3-ブタンジオール、さらに好ましくは生合成過程から得られるバイオ1,3-ブタンジオールを脱水させ、その後1,3-ブタジエン、特にバイオ1,3-ブタジエンの製造に使用され得るバイオアルケノールを得る方法を見つけることへの関心が確かに存在する。
【0036】
本出願人は、したがって、アルケノールの製造方法、特に、生合成過程から得られる原料を使用することが可能であり、上記の欠点を克服することが可能であり、特に1,3-ブタジエン、さらにとりわけバイオ1,3-ブタジエンの製造にその後使用され得る大量のアルケノール、特にバイオアルケノールを提供することが可能な方法を見つける問題を自らに課した。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本出願人は、少なくとも1つの塩基の存在下での少なくとも1つのセリウム含有化合物の沈殿により得られる酸化セリウム系触媒を、少なくとも1つのジオール、好ましくは少なくとも1つのブタンジオール、より好ましくは1,3-ブタンジオール、さらにより好ましくは、生合成過程から得られるバイオ1,3-ブタンジオールの脱水方法において使用することで、上記欠点を克服することができることを発見した。
【0038】
多くの利点は、脱水工程において、上述の触媒を使用することにより達成される。例えば、前記触媒は、変換率、選択率および生産性の値を高めることができる。さらに、前記触媒は、少量の希釈剤の存在下で使用される場合であっても、すなわち0.3より大きいジオール:希釈剤の率であっても、長い耐用年数を示す。さらに、高い値をもたらし得る広い温度範囲(たとえば、400℃以上の値)を使用する場合、前記利点は保持される。得られたアルケノールは、1,3-ブタジエン、特にバイオ1,3-ブタジエンの製造に有利に使用され得る。
【0039】
したがって、本発明は、少なくとも1つの酸化セリウム系触媒の存在下での、少なくとも1つのジオール、好ましくは少なくとも1つのブタンジオール、より好ましくは1,3-ブタンジオール、さらにより好ましくは、生合成過程から得られるバイオ1,3-ブタンジオールの脱水を含むアルケノールの製造方法であって、前記酸化セリウム系触媒が、少なくとも1つの塩基の存在下での少なくとも1つのセリウム含有化合物の沈殿により得られるアルケノールの製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書および以下の特許請求の範囲の目的のために、特に明記しない限り、数値範囲の定義は常に極値を含む。
【0041】
本明細書および以下の特許請求の範囲の目的のために、「含む」という用語は、「から実質的になる」または「からなる」という用語も包含する。
【0042】
本発明の好ましい実施形態によれば、アルケノールの前記製造方法は、少なくとも1つの希釈剤の存在下で実施されてもよい。
【0043】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記酸化セリウム系触媒は、
- 少なくとも1つのセリウム含有化合物を含む溶液を調製すること;
- 前記溶液に、少なくとも1つの塩基を、1分〜16時間、好ましくは5分〜2時間で添加し、反応混合物を得ること;
- 前記反応混合物を15℃〜100℃、好ましくは20℃〜65℃の温度で、1分〜120時間、好ましくは5分〜110時間、さらにより好ましくは2時間〜100時間反応させ、沈殿物を得ること;
- 沈殿物を回収し、乾燥させ、任意でか焼すること
を含む方法により得ることができる。
【0044】
本発明のさらなる実施形態によれば、前記酸化セリウム系触媒は、
- 少なくとも1つの塩基を含む溶液を調製すること;
- 前記溶液に、少なくとも1つのセリウム含有化合物を、1分〜16時間、好ましくは5分〜2時間で添加し、反応混合物を得ること;
- 前記反応混合物を15℃〜100℃、好ましくは25℃〜65℃の温度で、1分〜120時間、好ましくは5分〜110時間、さらにより好ましくは2時間〜100時間反応させ、沈殿物を得ること;
- 沈殿物を回収し、乾燥させ、任意でか焼すること
を含む方法により得ることができる。
【0045】
本発明の目的のために、前記塩基および/または前記セリウム含有化合物は、1つ以上の段階で添加されてもよいことに留意すべきである。例えば、少なくとも1つのセリウム含有化合物を含む溶液に、前記塩基を部分的に添加して反応混合物を得て、そこに前記塩基の残りを反応中に添加してもよい。または、少なくとも1つの塩基を含む溶液に、前記セリウム含有化合物を部分的に添加して反応混合物を得て、そこにセリウム含有化合物の残りを反応中に添加してもよい。または、前記塩基の一部を含む溶液に、前記セリウム含有化合物を添加して反応混合物を得て、そこに前記塩基の残りを反応中に添加してもよい。または、前記セリウム含有化合物の一部を含む溶液に、前記塩基を添加して反応混合物を得て、そこに前記セリウム含有化合物の残りを反応中に添加してもよい。塩基および/またはセリウム含有化合物は、当該技術分野で知られている方法を使用して、同様に、標準的な実験室技法(一例として、本発明の範囲を限定することなく、秤量、体積計量などによる)を参照することにより添加することができる。しかし、塩基および/またはセリウム含有化合物の添加は2つ以上の段階があってもよいが、これは決して重要な特徴ではなく、したがって本発明を限定するものではない。
【0046】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つのセリウム含有化合物を含む前記溶液、または少なくとも1つの塩基を含む前記溶液は水溶液であり、前記水溶液の総重量に対して、少なくとも1つのセリウム含有化合物または少なくとも1つの塩基を、5重量%〜70重量%、好ましくは10重量%〜60重量%、さらにより好ましくは15重量%〜50重量%含む。
【0047】
本発明のさらなる実施形態によれば、少なくとも1つのセリウム含有化合物を含む前記溶液、または少なくとも1つの塩基を含む前記溶液は水-アルコール溶液であり、前記水-アルコール溶液の総重量に対して、エタノール、2-メトキシエタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、またはこれらの混合物から選択される少なくとも1つのアルコールを、5重量%〜95重量%、好ましくは15重量%〜60重量%、さらにより好ましくは10重量%〜30重量%含む。
【0048】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記セリウム含有化合物は、硝酸セリウム、硫酸セリウム、酢酸セリウム、塩化セリウム、硝酸セリウムアンモニウム、もしくはそれらの混合物などの有機酸もしくは無機酸のセリウム塩などの可溶性セリウム塩;またはセリウム(IV)tert-ブトキシド、セリウム(IV)2-メトキシエトキシド、セリウム(IV)イソ-プロポキシド、もしくはそれらの混合物などのセリウムアルコキシドから選択され得る。有機酸または無機酸のセリウム塩が好ましく、硝酸セリウムが特に好ましい。この目的で、少なくとも90%、好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%の純度を有するセリウム塩を用いることが好ましい。
【0049】
本発明のさらなる実施形態によれば、少なくとも1つのセリウム含有化合物を含む前記溶液がセリウム(III)を主に含む場合、例えば過酸化水素の水溶液などの少なくとも1つの酸化剤は、前記溶液に任意に添加されてもよい。
【0050】
本発明のさらなる実施形態によれば、少なくとも1つのセリウム含有化合物を含む前記溶液がセリウム(III)を主に含む場合、回収した沈殿物は、乾燥および任意でか焼される前に、例えば過酸化水素の水溶液などの少なくとも1つの酸化剤で任意で処理されてもよい。
【0051】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記塩基は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物;例えば、ジエチルアミン、トリメチルアミンなどの第二級または第三級アミン;例えば、水酸化テトラプロピルアンモニウムなどの第四級アンモニウム塩;水酸化アンモニウム(NH4OH)、尿素から例えば選択され得る。より好ましくは、前記塩基は溶液の形態で使用され、さらにより好ましくは、水酸化アンモニウム(NH4OH)、トリエチルアミン、水酸化テトラプロピルアンモニウムの水溶液から選択される。水酸化アンモニウム(NH4OH)の水溶液が特に好ましい。
【0052】
前記反応混合物(すなわち、少なくとも1つのセリウム含有化合物および少なくとも1つの塩基を含む反応混合物)のpH値は、好ましくは7.5〜14.0、より好ましくは8.0〜12.0、さらに好ましくは8.5〜11.0である。
【0053】
得られた沈殿物は、例えば、濾過、デカンテーションなどの当該技術分野で知られている方法により回収することができる。
【0054】
得られた沈殿物を、100℃〜200℃、好ましくは105℃〜150℃の温度で、2時間〜72時間、好ましくは3時間〜18時間乾燥させ、任意でか焼することができる。
【0055】
前記か焼を、150℃〜1500℃、好ましくは200℃〜1400℃、さらにより好ましくは300℃〜1200℃の温度で、1時間〜24時間、好ましくは2時間〜10時間、さらにより好ましくは4時間〜8時間かけて実施することができる。一般的に、前記か焼を、空気中で、または不活性ガス[例えば、窒素(N2)]の存在下で、もしくは制御(酸化性または還元性)雰囲気下で実施することができる。
【0056】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記酸化セリウム系触媒は0.5m2/g〜250m2/g、好ましくは1m2/g〜100m2/g、さらにより好ましくは2m2/g〜60m2/gの比表面積を有し得る。
【0057】
本明細書および以下の特許請求の範囲の目的のために、用語「比表面積」は、Micromeritics ASAP 2010機器を使用して、ASTM規格D3663-03(2008)に従い、-196.15℃(77K)に相当する液体窒素の温度での窒素(N2)の静的吸収により決定されたBET比表面積を意味する。
【0058】
前記酸化セリウム系触媒はまた、λ=1.5416オングストロームおよび出力1.6kWでのCu-KαX線を使用した、Bragg-BrentanoジオメトリーでのPhilips X’pert θ/2θ自動粉末回折計を使用するX線回折(XRD)により特性評価される。使用される角度範囲は、0.02°(2θ)ステップおよびステップ当たり2秒に相当する収集時間で、5°〜90°(2θ)に及ぶ。さらに、酸化セリウムの存在を、ICDD(登録商標)(「国際回折データセンター(登録商標)」)により発行されたPDF-4(「粉末回折ファイル」)データベースに存在する情報を用いて検出した。
【0059】
別名セリアナイトとして知られている酸化セリウム[例えば、非特許文献9に記載されているように]は、蛍石型の立方晶系、面心構造の結晶性酸化物であり、上記PDF-4データベースに存在する参照カード、例えば、04-001-2097、04-018-4610、01-078-3280、04-008-6551に指定されているカードなどにある回折図を用いて同定することができる。前記参照カードは、同一構造、およびxが0〜0.4であるCeO2-x型の可変化学量論を有する酸化セリウムを示す。実際に、例えば非特許文献10に記載されているように、セリウム(IV)酸化物は、欠陥、酸素欠損化学量論を有し得ることが知られている。
【0060】
前記酸化セリウム系触媒は、種々の形態で使用され得る。例えば、前記酸化セリウム系触媒は、そのままで使用されてもよく、または、例えば、押出成形、球化、錠剤化、顆粒化などの当該技術分野で知られている任意の成形プロセスを用いて形成されてもよい。上記の乾燥およびか焼は、前記形成プロセスの1つの前または後に行ってもよい。
【0061】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記酸化セリウム系触媒は、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムなどの従来の結合剤を任意に含む押出物の形態で使用され得る。前記従来結合剤が存在する場合、押出成形は通常、解膠剤、例えば酢酸、硝酸、または水酸化アンモニウムの水溶液などの使用ももたらし、それは均一な混合物が得られるまで、押出成形前に触媒および結合剤と混合され得る。前記押出成形が完了すると、得られたペレットは、一般的に、上記のように実施されるか焼に供される。
【0062】
例えば、非特許文献11および特許文献10などのに当該技術分野において説明されているように、例えば、排気ガス処理におけるTWC(「三元触媒」)適用などに必要である過酷な条件下であっても高い反応性を維持するために、酸化セリウムをジルコニウム酸化物との固溶体で使用することができる。
【0063】
したがって、本発明の方法において使用される酸化セリウム系触媒はまた、酸化ジルコニウムで安定化させることができる。この場合、触媒(混合されたセリウムおよびジルコニウム酸化物)は、一般式:
(1-x)CeO2-xZrO2
を有し、式中、好ましくはx<0.5、より好ましくはx<0.2である。
【0064】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、前記ジオールは、糖類の発酵から、好ましくはバイオマス由来の糖類の発酵から得られるバイオ1,3-ブタンジオールである。
【0065】
本明細書および以下の特許請求の範囲の目的のために、用語「バイオマス」は、以下を含む植物由来の任意の有機原料を意味する:例えば、グアユール、アザミ、トウモロコシ、大豆、綿、亜麻、セイヨウアブラナ、サトウキビ、ヤシなどの農業由来生産物、前記生産物またはそれらの処理から生じる不要物、残留物または廃棄物を含む;例えば、ススキ、パニック草、ジャイアントケーンなどの、特にエネルギーの使用のために育てられた作物に由来する生産物、前記生産物またはそれらの処理から生じる不要物、残留物または廃棄物を含む;森林や造林に由来する生産物、前記生産物またはそれらの処理から生じる不要物、残留物または廃棄物を含む;人間の食物または動物の飼料用に意図された農産物からの不要物;製紙業からの残留物;例えば植物由来の都市廃棄物、紙などの、固形都市廃棄物の分別収集から生じる廃棄物。
【0066】
本発明の特に好ましい一実施形態によれば、前記ジオールは、グアユールまたはアザミ由来であって、前記グアユールおよび/もしくはアザミまたはそれらの処理から生じる不要物、残留物または廃棄物を含む糖類の発酵から得られるバイオ1,3-ブタンジオールである。
【0067】
本発明の特に好ましい一実施形態によれば、前記ジオールは、グアユールに由来する糖類の発酵から得られ、前記グアユールまたはその処理から生じる不要物、残留物または廃棄物を含むバイオ1,3-ブタンジオールである。
【0068】
植物由来のリグノセルロース系バイオマスを使用して糖類が製造される場合、前記バイオマスは物理的処理(例えば、押出成形、蒸気爆発など)ならびに/または化学的加水分解および/もしくは酵素加水分解に供され、バイオマス中に存在するセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンに由来する炭水化物、芳香族化合物およびその他の生成物の混合物を生じる。特に、得られた炭水化物は、例えばスクロース、グルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノースおよびフルクトースを含む5および6個の炭素原子を有する糖類の混合物であり、これらは発酵に使用される。バイオマス糖類の産生に関連する方法は、例えば、本出願人の名前での特許文献11などにおいて、当該技術分野で説明されている。前記発酵は通常、微生物により、特に、目的のアルコールを生産することが可能な遺伝子組み換え微生物により行われる。再生可能資源から出発する、1,3-ブタンジオール、特にバイオ1,3-ブタンジオールの合成方法に関するさらなる詳細は、例えば特許文献12、特許文献13および特許文献4において見つけることができる。
【0069】
上記のように、アルケノールの前記製造方法は、少なくとも1つの希釈剤の存在下で実施されてもよい。
【0070】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記希釈剤は、例えば窒素(N2)、アルゴン(Ar)などの不活性ガス、好ましくは窒素(N2);または、例えば水、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、ベンゼンなどの、50℃以上の沸点および40℃以下の融点を有し、好ましくは室温(25℃)および周囲圧力(1atm)で液体状態である化合物から選択することができる。窒素(N2)、水が好ましく、水が特に好ましい。
【0071】
ジオールを、生合成過程から、例えば糖類の発酵から得る場合、前記生合成過程から、または前記発酵から生じる水溶液が使用され得ることに留意すべきであり、実際に、前記水溶液を、水を除去するための費用のかかるプロセス、または任意のイベントにかける必要なしに、水を希釈剤として使用し、そのような除去を制限する。
【0072】
本発明の好ましい実施形態によれば、ジオールと希釈剤とのモル比が0.3より大きく、好ましくは0.5〜2であるように希釈剤が不活性ガスから選択された場合に、アルケノールの前記製造方法を実行することができる。
【0073】
本発明の好ましい実施形態によれば、希釈剤が、50℃以上の沸点および40℃以下の融点を有し、室温(25℃)および周囲圧力(1atm)で液体状態である化合物から、ジオールと希釈剤とのモル比が0.1〜100、好ましくは0.4〜10、より好ましくは0.5〜2であるように選択された場合に、アルケノールの前記製造方法を実施することができる。
【0074】
本発明のより特に好ましい実施形態によれば、アルケノールの前記製造方法は、1に相当するジオールと希釈剤とのモル比で実施することができる。
【0075】
本発明の好ましい実施形態によれば、アルケノールの前記製造方法は、200℃〜500℃、好ましくは250℃〜450℃、より好ましくは300℃〜430℃の温度で実施することができる。
【0076】
本発明の好ましい実施形態によれば、アルケノールの前記製造方法は、0.05bara〜50bara、好ましくは0.3bara〜3.5bara、より好ましくは0.8bara〜2.5bara(bara=絶対bar)の圧力で実施することができる。
【0077】
本発明の好ましい実施形態によれば、アルケノールの前記製造方法は、「重量毎時空間速度」(Weight Hourly Space Velocity、WHSV)、すなわち1時間で供給されるジオールの重量と酸化セリウム系触媒の重量との比率を操作して実施することができ、h-1で測定される前記比率は、0.5h-1〜20h-1、好ましくは2h-1〜15h-1、より好ましくは5h-1〜12h-1である。
【0078】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記酸化セリウム系触媒は、アルケノールの前記製造方法が実施される温度、すなわち200℃〜500℃、好ましくは250℃〜450℃、より好ましくは300℃〜430℃の温度で前処理することができる。
【0079】
本発明の目的のために、アルケノールの前記製造方法は、気相中または混合液/気相中、好ましくは気相中で、不連続的(例えば、攪拌および加熱したオートクレーブ中で)、または連続的に(例えば、1つ以上の直列の触媒反応器において)、好ましくは連続的に実施することができる。前記反応器は、固定床または流動床型、好ましくは固定床型であり得る。それらは固定床反応器である場合、酸化セリウム系触媒は、複数の床の間で細分されてもよい。前記反応器は、再循環反応器を設けることで、反応からの流出物の、または酸化セリウム系触媒の一部の再循環を引き起こすことができる。液相が存在する場合、アルケノールの製造方法は、分散液中に酸化セリウム系触媒を含む連続撹拌反応器で実施することができる。
【0080】
前述したように、上記方法により得られたアルケノール、すなわち、3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール、CAS番号598-32-3)、3-ブテン-1-オール(アリルカルビノール、CAS番号627-27-0)または2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)、さらにとりわけ、2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)および3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール、CAS番号598-32-3)は、1,3-ブタジエン、特にバイオ1,3-ブタジエンの製造において、または、ファインケミストリー、農芸化学、薬化学または石油化学でその後使用され得る中間体の製造において有利に使用され得る。
【0081】
1,3-ブタジエンの製造に使用される前に、上記の方法により得られたアルケノールは、当該技術分野で知られている方法、例えば、反応流出物(すなわち、上記方法により得られた前記アルケノールを含む混合物)の完全または部分的な蒸留により分離されてもよい。
【0082】
あるいは、前記アルケノール(すなわち、上記方法から得られた前記アルケノールを含む混合物)を直接、すなわち、1,3-ブタジエンの製造のために分離することなく使用してもよい。
【0083】
1,3-ブタジエンのアルケノールからの製造は、当該技術分野で知られている方法により実施され得る。例えば非特許文献12により説明されるように;または、特に2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)の場合、上記の特許文献3に記載されているように、例えばブタジエンを、例えばSiO2-Al2O3などの酸触媒の存在下でのアルケノールの脱水により、アルケノールから製造することができる。
【0084】
本発明はさらに、上記方法で得られた少なくとも1つのアルケノール、好ましくは2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)および/または3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール)を、少なくとも1つの触媒、好ましくは酸触媒と、少なくとも1つの前記アルケノールの脱水に適した条件下で接触させることを含む、1,3-ブタジエン、特にバイオ1,3-ブタジエンの製造方法を提供する。
【0085】
前記触媒は、好ましくは、例えばシリカ-アルミナ、シリカ、アルミナ、ゼオライト、またはそれらの混合物などの固体酸触媒から選択される。
【0086】
本発明および以下の特許請求の範囲の目的のために、用語「ゼオライト」は、その最も広い意味を持つと解釈され、すなわち、従来から知られている原料、例えば「ゼオライト様」、「ゼオタイプ」なども含む。
【0087】
好ましくは、1,3-ブタジエンの前記製造方法は、気相中または混合液/気相中、より好ましくは気相中で、さらにより好ましくは連続的に(例えば、1つ以上の直列の触媒反応器において)実施することができる。前記反応器は、固定床または流動床型であってもよく、好ましくは固定床型である。反応器が固定床型である場合、触媒は、複数の床の間で細分されてもよい。前記反応器は、再循環反応器を設けることで、反応からの流出物の、または触媒の一部の再循環を引き起こすことができる。
【0088】
好ましくは、1,3-ブタジエン、特にバイオ1,3-ブタジエンの前記製造方法は、150℃〜500℃、好ましくは250℃〜450℃の温度で実施することができる。
【実施例】
【0089】
本発明のいくつかの例示的、非限定的な実施例を、本発明およびその実施の理解を助けるために以下に提供する。
【0090】
(実施例1)
(塩基の存在下での酸化セリウム系触媒の調製)
水420g中の硝酸セリウム六水和物87g(99.9%、Acros社;製品コード218695000;CAS番号10294-41-4)の溶液を、室温(25℃)で、磁気撹拌棒を備えた1リットルビーカーで激しく攪拌することにより調製した。激しい撹拌を維持しながら、前もって市販の30%水溶液(Carlo Erba社、30% RPE-ACSアンモニア溶液;製品コード419941、CAS番号1336-21-6)を希釈することにより調製した15%水酸化アンモニウム(NH4OH)水溶液77gを、得られた溶液に、25分間かけて蠕動ポンプにより添加し、EUTECH Instruments pH1500 pHメーターに接続されたHamilton LIQ-GAS複合ガラス実験室用pH電極を使用して、pHを観察した。前記溶液の添加完了時に、9.0に相当するpHを有する懸濁液を得た。混合物の激しい撹拌を64時間続けた。その後、激しい撹拌を維持しながら、上記のように前もって調製した15%水酸化アンモニウム(NH4OH)水溶液をさらに34g、4.0に相当するpHを有する得られた懸濁液に、蠕動ポンプにより10分間かけて添加し、9.0に相当するpHを有する懸濁液を得た。懸濁液を、さらに24時間激しく撹拌し、その期間の終了時にpHを再測定すると8.9に相当することが判明し、そして沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、500mlの水で洗浄し、続いて120℃で2時間オーブンで乾燥させた。乾燥後、得られた固体を6時間1000℃でか焼した。
【0091】
か焼後に得られた固体のXRDスペクトルは、結晶性の酸化セリウム系触媒の形成を明らかにした(既に上述したPDF-4データベースに存在する参照カード04-008-6551との比較により同定される)。
【0092】
得られた酸化セリウム系触媒は、上述のように測定され、4m2/gに相当するBET比表面積を有していた。
【0093】
(実施例2)
(塩基の存在下での酸化セリウム系触媒の調製)
水4200g中の硝酸セリウム六水和物870gの溶液(99%、Aldrich社;製品コード238538; CAS番号10294-41-4)を、室温(25℃)で、磁気攪拌棒を備えたガラスビーカーで激しく攪拌することにより調製した。得られた溶液を、アンカー攪拌機を備えたガラス反応器に移し、撹拌を15分間維持した。攪拌を維持しながら、前もって市販の28%〜30%水溶液(Aldrich社、28%〜30% NH3 Basis ACS試薬、製品コード221228;CAS番号1336-21-6)を希釈することにより調製した15%水酸化アンモニウム(NH4OH)水溶液790gを、3時間かけて蠕動ポンプにより得られた溶液に添加し、Metrohm 691 pH計に接続されたMetrohmガラスpH電極(6.0248.030)により、pHを観察した。前記溶液の添加終了後には、懸濁液のpHは9.0に相当し、撹拌を同じ条件下で64時間続け、その期間の終了時には、pHは4.3に相当することが判明した。その後、撹拌を維持しながら、上記のように前もって調製した15%水酸化アンモニウム(NH4OH)水溶液をさらに90g、得られた懸濁液に蠕動ポンプにより25分間かけて添加し、9.0に相当するpHを有する懸濁液を得た。懸濁液をさらに24時間激しく撹拌し、その期間の終了時にpHを再測定すると8.8に相当することが判明し、そして沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、約10リットルの水で洗浄し、続いて120℃で2時間オーブンで乾燥させた。乾燥後、得られた固体を6時間600℃でか焼した。
【0094】
か焼後に得られた固体のXRDスペクトルは、結晶性の酸化セリウム系触媒の形成を明らかにした(既に上述したPDF-4データベースに存在する参照カード04-008-6551との比較により同定される)。
【0095】
得られた酸化セリウム系触媒は、上述のように測定され、19m2/gに相当するBET比表面積を有していた。
【0096】
(実施例3)
(塩基の存在下での酸化セリウム系触媒の調製)
市販の約30%の水酸化アンモニウム(NH4OH)水溶液200g(Aldrich社、28%〜30% NH3 Basis ACS試薬;製品コード221228;CAS番号1336-21-6)を、Teflon半月パドル撹拌機を備えた1リットルビーカーに加え、pH測定用電極[Metrohm 780 pH計に接続されたMetrohmガラスpH電極(6.0248.030)]を導入した。水200g中の硝酸セリウム六水和物200gの溶液(99%、Aldrich社;製品コード238538;CAS番号10294-41-4)を、磁気撹拌棒を備えた別の500mlビーカー中で調製した:硝酸セリウムを、室温(25℃)で激しく撹拌することにより溶解させた。得られた溶液を滴下漏斗に導入し、1リットルビーカー中に存在する上記の水酸化アンモニウム溶液に、一定に激しく撹拌しながら、6分間で滴下して分注した。得られた懸濁液のpHは10.1に相当した。混合物の激しい撹拌を3時間続け、その後、水200mlを添加し、pHを測定すると9.6に相当することが判明した。混合物の激しい撹拌をさらに1.5時間続け、その期間の終了時にさらに水200mlを添加し、pHを測定すると9.5に相当することが判明した。前記懸濁液を64時間激しく攪拌し、その期間の終了時にpHを再測定すると4.5に相当することが判明した。続いて、約30%水酸化アンモニウム(NH4OH)(Aldrich社、28%〜30% NH3 Basis ACS試薬、製品コード221228;CAS番号1336-21-6)をさらに23g加え、9.0に相当するpHが得られた:混合物の撹拌を6時間継続し、8.5に相当するpHが得られた。続いて、16gの約30%水酸化アンモニウム(NH4OH)(Aldrich社、28%〜30% NH3 Basis ACS試薬、製品コード221228;CAS番号1336-21-6)を加え、9.0に相当するpHが得られた。混合物の激しい撹拌を17時間続け、その期間の終了時にはpHは7.9に相当し、そして沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、2リットルの水で洗浄し、続いて120℃で2時間オーブンで乾燥させた。乾燥後、得られた固体を5時間600℃でか焼した。
【0097】
か焼後に得られた固体のXRDスペクトルは、結晶性の酸化セリウム系触媒の形成を明らかにした(既に上述したPDF-4データベースに存在する参照カード04-008-6551との比較により同定される)。
【0098】
得られた酸化セリウム系触媒は、上述のように測定され、49m2/gに相当するBET比表面積を有していた。
【0099】
(実施例4)
(1,3-ブタンジオールの脱水によるアルケノールの調製)
触媒活性試験を、以下に記載の実験装置および操作方法を使用して実施した。
【0100】
1,3-ブタンジオールの脱水反応を、長さ400mmおよび内径9.65mmを有するAISI 316Lスチールの固定床管状反応器で実施した。反応器内には、その軸に沿って、温度を制御するための熱電対を収容する3mmの外径を有するウェルがあった。反応器を、上記反応に選択された温度に達することが可能な電熱炉内に置いた。試験に使用する触媒を粉砕して篩にかけ、0.5mm〜1mm画分を得た。
【0101】
3gの触媒充填を、2層の不活性物質(コランダム)の間の上記反応器に設置し、触媒床を、下方フローを有する反応器(「ダウンフロー反応器」)の底部に配置された焼結スチールバッフルにより定位置に固定した。
【0102】
充填を、反応器の頂部、不活性原料で充填され、蒸発器として作用し、反応物質が触媒と接触する前に反応温度に達するのを可能にする領域の上から行った。
【0103】
液体反応物を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で使用されるタイプの定量ポンプにより供給した。ガスを、「熱質量流量計」(TMF)で供給した。反応器の下流で、得られた生成物を熱交換器で冷却し、凝縮液を一連のタイマー制御バルブを用いてガラスバイアル中に集めた。一方、生成ガスの体積を測定するために、未凝縮ガスを体積測定湿式ガスメーターに通した。ガスのごく一部を、分析用のオンラインガスクロマトグラフ(GC)に採取した。ガスのオンライン分析を、HP-Al/Sカラム(長さ50m、直径0.53mm、フィルム厚15ミクロン)を備えたAgilent HP7890ガスクロマトグラフ(GC)により実施し、使用するキャリアガスは、30cm/秒で流れるヘリウムであり、検出器は火炎検出器であった。ガス分析は、個々の既知成分の検量線での外部標準を用いて実施した。
【0104】
集めた液体を、Quadrex 007 FFAPカラム(高さ25m;直径0.32mm;フィルム厚1ミクロン)に「スプリット/スプリットレス」注入器を備えたAgilent HP6890ガスクロマトグラフ(GC)を用いてガスクロマトグラフィー分析により特性評価し、使用するキャリアガスは、50cm/秒の速度のヘリウムであり、検出器は火炎検出器であった。測定は、個々の既知成分の検量線での内部標準を用いて実施した。
【0105】
以下の表に示す触媒性能値は、以下に示す式に従って、1,3-ブタンジオール[1,3-BDO](C1,3-BDO)の変換率および種々の生成物の選択率(Si)を計算することにより表される。
【数1】
【0106】
最初の試験で実施例1に記載のように得られた触媒(例1触媒)、第2の試験で実施例2に記載のように得られた触媒(例2触媒)、および第3の試験で実施例3に記載のように得られた触媒(例3触媒)を、粉砕して篩にかけて0.5mm〜1mm画分とし、反応器に充填し、続いて300℃で、窒素(N2)の気流下でin situ前処理をした。
【0107】
次いで、30g/時間の1,3-ブタンジオール(Fluka社、純度≧99%)を、窒素(N2)と共に、1に相当する1,3-ブタンジオール:窒素(N2)比で上記反応器に供給した。
【0108】
試験を、10h-1に相当する、1,3-ブタンジオールに対する空間速度(「重量毎時空間速度」)で、大気圧(1bara)で、段階的に上昇する温度で実施した:各試料を、上記温度で6時間後に採取した。
【0109】
表1は、種々の温度での、変換率(C%)および選択率(S%)に関して、上記のように計算して得られた触媒の結果を示す。
【0110】
【表1】
【0111】
実施例1(例1触媒)、実施例2(例2触媒)および実施例3(例3触媒)に記載のように得られた触媒を使用した本発明により提供される方法が、広い温度範囲にわたって高い変換率および選択率を提供することが可能であることは、表1に示すデータから明らかである。前記触媒の表面積の増加は、温度および変換率の広い範囲にわたって選択率に悪影響を与えないこともまた明らかである。
【0112】
(実施例5)
(塩基の存在下での酸化セリウム系触媒の調製)
水420g中の硝酸セリウム六水和物87g(99%、Aldrich社、製品コード238538;CAS番号10294-41-4)の溶液を、室温(25℃)で、磁気撹拌棒を備えた1リットルビーカーで激しく攪拌することにより調製した。激しい撹拌を維持しながら、前もって市販の28%〜30%水溶液(Aldrich社、28%〜30% NH3 Basis ACS試薬;製品コード221228、CAS番号1336-21-6)を希釈することにより調製した15%水酸化アンモニウム(NH4OH)水溶液75gを、得られた溶液に、25分間かけて蠕動ポンプにより添加し、EUTECH Instruments pH1500 pHメーターに接続されたHamilton LIQ-GAS複合ガラス実験用pH電極を使用して、pHを観察した。前記溶液の添加完了時に、9.0に相当するpHを有する懸濁液を得た。混合物の激しい撹拌を64時間続けた。その後、激しい撹拌を維持しながら、上記のように前もって調製した15%水酸化アンモニウム(NH4OH)水溶液をさらに25g、4に相当するpHを有する得られた懸濁液に、蠕動ポンプにより10分間かけて添加し、9.0に相当するpHを有する懸濁液を得た。懸濁液を、さらに24時間激しく撹拌し、その期間の終了時に、pHを再測定すると8.8に相当することが判明し、そして沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、500mlの水で洗浄し、続いて120℃で2時間オーブンで乾燥させた。乾燥後、得られた固体を6時間600℃でか焼した。
【0113】
か焼後に得られた固体のXRDスペクトルは、結晶性の酸化セリウム系触媒の形成を明らかにした(既に上述したPDF-4データベースに存在する参照カード04-008-6551との比較により同定される)。
【0114】
得られた酸化セリウム系触媒は、上述のように測定され、18m2/gに相当するBET比表面積を有していた。
【0115】
(実施例6)
(アルケノールの1,3-ブタンジオールからの調製)
実施例5(例5触媒)に記載のように得た触媒(3g)を、粉砕して篩にかけて0.5mm〜1mm画分とし、反応器に充填し、実施例4に記載したように進め、続いて350℃で、窒素(N2)の気流下でin situ前処理をした。
【0116】
次いで、24.5g/時間の1,3-ブタンジオール(Fluka社、純度?99%)を、窒素(N2)と共に、1に相当する1,3-ブタンジオール:窒素(N2)比で上記反応器に供給した。
【0117】
試験を、大気圧(1bara)で、350℃の温度で実施した。
【0118】
表2は、変換率(C%)および選択率(S%)に関して、上記のように計算して得られた触媒の、種々の反応時間での結果を示す:各試料を、表2に記載した時刻より前の6時間の間に採取した。
【0119】
【表2】
【0120】
実施例5(例5触媒)に記載のように得られた触媒を使用した本発明により提供される方法が、高い変換率および選択率を提供することが可能であり、希釈剤[すなわち窒素(N2)]の低い含有量にもかかわらず、前記触媒が高温でも長時間安定であることは、表2に示すデータから明らかである。前記触媒の生産性が上昇していることもまた明らかであり(前記生産性は、試験中に、触媒1単位当たりに生産されたブテノールの総量を意味すると解釈されている)、例えば、不活性化の明らかな兆候なしに、アルケノール1kg/触媒1gを軽く超えている。
【0121】
(実施例7)
(アルケノールの1,3-ブタンジオールからの調製)
実施例5(例5触媒)に記載のように得た触媒(3g)を、粉砕して篩にかけて0.5mm〜1mm画分とし、反応器に充填し、実施例4に記載したように操作し、続いて350℃で、窒素(N2)の気流下でin situ前処理をした。
【0122】
次いで、窒素(N2)の代わりに水を希釈剤として供給したことを唯一の相違点とし、実施例6に記載した方法と全く同様の方法を用いて、触媒に寿命試験を行った。
【0123】
次いで、30.7g/時間の1,3-ブタンジオール(Fluka社、純度≧99%)を、82.5%の量の水で、1に相当する1,3-ブタンジオール:水比で上記反応器に供給した。
【0124】
試験を、大気圧(1bara)で、350℃の温度で実施した。
【0125】
表3は、変換率(C%)および選択率(S%)に関して、上記のように計算して得られた触媒の、種々の反応時間での結果を示す:各試料を、表3に記載した時刻より前の6時間の間に採取した。
【0126】
【表3】
【0127】
実施例5(例5触媒)に記載のように得られた触媒を使用した本発明により提供される方法が、高い変換率および選択率を提供することが可能であり、希釈剤[すなわちH2O]の低い含有量にもかかわらず、前記触媒が高温でも長時間安定であることは、表3に示すデータから明らかである。前記触媒が高い生産性を有することもまた明らかであり(前記生産性は、試験中に、触媒1単位当たりに生産されたブテノールの総量を意味すると解釈されている)、例えば、不活性化の明らかな兆候なしに、アルケノール1kg/触媒1gを軽く超えている。
【0128】
(実施例8)
(アルケノールの1,3-ブタンジオールからの調製)
実施例2(例2触媒)に記載のように得た触媒を、粉砕して篩にかけて0.5mm〜1mm画分とし、反応器に充填し、実施例4に記載したように操作し、続いて400℃で、窒素(N2)の気流下でin situ前処理をした。
【0129】
次いで、29.5g/時間の1,3-ブタンジオール(Fluka社、純度≧99%)を、窒素(N2)と共に、1に相当する1,3-ブタンジオール:窒素(N2)比で上記反応器に供給した。
【0130】
試験を、10h-1に相当する、1,3-ブタンジオールに対する空間速度(「重量毎時空間速度」)で、大気圧(1bara)で、400℃の温度で実施した。
【0131】
表4は、変換率(C%)および選択率(S%)に関して、上記のように計算して得られた触媒の、種々の反応時間での結果を示す:各試料を、表4に記載した時刻より前の6時間の間に採取した。
【0132】
【表4】
【0133】
実施例2(例2触媒)に記載のように得られた触媒を使用した本発明により提供される方法が、高い変換率および選択率を提供することが可能であり、希釈剤[すなわち窒素(N2)]の低い含有量にもかかわらず、前記触媒が長時間高温でも安定であることは、表4に示すデータから明らかである。
【0134】
(実施例9)
(押出酸化セリウム系触媒の調製)
水4200g中の硝酸セリウム六水和物870gの溶液(99%、Aldrich社;製品コード238538; CAS番号10294-41-4)を、室温(25℃)で、磁気攪拌棒を備えたガラスビーカーで激しく攪拌することにより調製した。得られた溶液を、アンカー攪拌機を備えたガラス反応器に移し、撹拌を15分間維持した。攪拌を維持しながら、前もって市販の28%〜30%水溶液(Aldrich社、28%〜30% NH3 Basis ACS試薬;製品コード221228;CAS番号1336-21-6)を希釈することにより調製した15%水酸化アンモニウム(NH4OH)水溶液790gを、3時間かけて蠕動ポンプにより得られた溶液に添加し、Metrohm 691 pH計に接続されたMetrohmガラスpH電極(6.0248.030)により、pHを観察した。前記溶液の添加終了後には、懸濁液のpHは9.0に相当した:混合物の撹拌を64時間続け、その期間の終了時には、pHは4.3に相当した。その後、撹拌を維持しながら、上記のように前もって調製した15%水酸化アンモニウム(NH4OH)水溶液をさらに90g、得られた懸濁液に蠕動ポンプにより25分間かけて添加し、9.0に相当するpHを有する懸濁液を得た。懸濁液をさらに24時間激しく撹拌し、その期間の終了時にpHを再測定すると8.8に相当することが判明し、そして沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、約10リットルの水で洗浄し、続いて120℃で2時間オーブンで乾燥させた。
【0135】
適当な数のバッチを得るために上述の調製を繰り返して十分な量の原料を得た後、得られた固体を乳鉢中で混合し、粉砕した:このようにして得られた1905gの粉末を、その後AMDモデルモーターを備えるErweka社製プラネタリーミキサーに入れた。
【0136】
粉末を1時間乾式混合し、その後、以下を連続的に滴下した:前もって市販の28%〜30%水溶液(Aldrich社、28%〜30% NH3 Basis ACS試薬、製品コード221228;CAS番号1336-21-6)を希釈することにより調製した25%水酸化アンモニウム(NH4OH)水溶液250gを50分かけて、および脱イオン水250mlを同様に50分かけて;ペーストが得られ、2mmの孔を有するローラを備えるHutt押出機で押出した。押出成形により得られたペレットを、空気中で2日間乾燥させた。
【0137】
続いて、134g重量のペレットの試料を120℃で2時間オーブン乾燥し、続いて6時間600℃でか焼し、酸化セリウム系触媒を得た。
【0138】
得られた酸化セリウム系触媒は、上述のように測定され、18m2/gに相当するBET比表面積を有していた。
【0139】
(実施例10)
(押出酸化セリウム系触媒でのアルケノールの1,3-ブタンジオールからの調製)
実施例9(例9触媒)に記載のように得た触媒を、粉砕して篩にかけて0.5mm〜1mm画分とし、反応器に充填し、実施例4に記載したように操作し、続いて400℃で、窒素(N2)の気流下でin situ前処理をした。
【0140】
次いで、28.8g/時間の1,3-ブタンジオール(Fluka社、純度≧99%)を、窒素(N2)と共に、1に相当する1,3-ブタンジオール:窒素(N2)比で上記反応器に供給した。
【0141】
試験を、10h-1に相当する、1,3-ブタンジオールに対する空間速度(「重量毎時空間速度」)で、大気圧(1bara)で、400℃の温度で実施した。
【0142】
表5は、変換率(C%)および選択率(S%)に関して、上記のように計算して得られた触媒の、種々の反応時間での結果を示す:各試料を、表5に記載した時刻より前の6時間の間に採取した。
【0143】
【表5】
【0144】
実施例9(例9触媒)に記載のように得られた触媒を使用した本発明により提供される方法が、高い変換率および選択率を提供することが可能であり、高温および希釈剤[すなわち窒素(N2)]の低い含有量であっても、前記触媒が安定であることは、表5に示すデータから明らかである。前記触媒は、形成作業を受けていない触媒と実質的に同様に作用することもさらに留意すべきである。
【0145】
(実施例11)
(シリカアルミナ系触媒の調製)
アルミニウムトリ-sec-ブトキシド7.6g(97%、Aldrich社;製品コード201073;CAS番号2269-22-9)を、500mlの2口フラスコに導入した。次いで、ケイ酸50g(99.9%、Aldrich社;製品コード288772;CAS番号1343-98-2)の脱イオン水250gとの溶液を、500ml三角フラスコ中で激しく攪拌することにより調製した。次いで、10分以後に適切な滴下漏斗を使用して、溶液をアルミナ前駆体を含む上記フラスコに、混合物を激しく撹拌しながら移した。添加が完了したら、溶液を1時間激しく撹拌した。1時間後、温度を90℃に調節し、溶液を前記温度に1時間維持した。得られた懸濁液を濾過し、脱イオン水5リットルで洗浄し、得られた沈殿物を120℃で12時間オーブン乾燥させた。乾燥後、得られた固体を、550℃でマッフル炉において5時間か焼した。
【0146】
WD-XRF(波長分散蛍光X線)により実施されたか焼後の固体の、ロジウムアノードを有する4kWのX線管を備えたPANalytical Axios Advanced分光計を用いた元素分析は、3.8%に相当するAl2O3含有量の固体の形成を明らかにした。
【0147】
続いて、上記のように得られた固体の一部を、指定の活性相で、アルミナ(Versal V250、UOP社)と結合させた。
【0148】
この目的で、40.4gの活性相を、24.4gのアルミナ(Versal V250、UOP社)と共に800mlビーカーに入れた。粉末を機械的に混合し、次いで、前もって市販の>99.7%水溶液(Aldrich社、>99.7%酢酸ACS試薬;製品コード320099;CAS番号64-19-7)を希釈することにより調製した4%酢酸溶液302gを添加した。得られた懸濁液を60℃に加熱し、2時間激しく攪拌しながら、前記温度に維持した。次いで懸濁液を、激しい攪拌をまだ継続した状態で、150℃まで加熱し、前記温度で12時間乾燥させ、得られた乾燥生成物を磁器蒸発皿に移し、マッフル炉中に入れ、550℃で5時間か焼した。
【0149】
(実施例12)
(1,3-ブタジエンのブテノールからの製造)
実施例11に記載したように得た触媒を、ブテノールと水との混合物の脱水試験で使用した。
【0150】
この目的で、実施例4および実施例5に記載のように得たブテノールの混合物を合わせ、混合物を得て蒸留し、表6に示す組成を有する異性体ブテノールの水溶液を得た。
【0151】
【表6】
【0152】
実施例11(例11触媒)に記載のように得た触媒を、粉砕して篩にかけて0.5mm〜1mm画分とし、反応器に充填し、実施例4に記載したように操作し、続いて300℃で、窒素(N2)の気流下でin situ前処理をした。
【0153】
次いで、表6に示される27.8g/時間の異性体ブテノール水溶液および7.4Nl/時間の窒素(N2)を、上記反応器に供給した。
【0154】
得られた触媒の結果を、変換率および選択率に関して表した。計算は、ジオールの脱水段階についての上述と同様の式を用いて行い、出発反応物として混合物中に存在するブテノールの和をとり、得られた1,3-ブタジエンのモル数を考慮して選択率を計算した。
【0155】
300℃での反応の2時間後、反応値は以下の通りであった:
- ブテノール変換率(C%):99%;
- 1,3-ブタジエンの選択率(S%):91%。
【0156】
本発明により提供される方法は、その後優れた変換率(C%)および選択率(S%)の値を有する1,3-ブタジエンの製造に使用され得るブテノールの混合物を生成することが可能であることは、上に示したデータから明らかである。
【0157】
(実施例13)
(1,3-ブタジエンのブテノールからの製造)
実施例11に記載したように得た触媒(例11触媒)を、ブテノールと水との混合物の脱水試験で使用した。
【0158】
この目的のために、実施例11(例11触媒)に記載のように得た触媒(3g)を、粉砕して篩にかけて0.5mm〜1mm画分とし、反応器に充填し、実施例4に記載したように操作し、続いて300℃で、窒素(N2)の気流下でin situ前処理をした。
【0159】
次いで、表6に示される27.8g/時間のブテノール水溶液および7.4Nl/時間の窒素(N2)を、上記反応器に供給した。
【0160】
400℃で、変換率および選択率について表され、反応の2時間、4時間、6時間後に得られた触媒の結果を、表7に示す。
【0161】
【表7】
【0162】
本発明により提供される方法は、その後優れた変換率(C%)および選択率(S%)の値を有する1,3-ブタジエンの製造に使用され得るブテノールの混合物を生成することが可能であることは、上に示したデータから明らかである。