特許第6804301号(P6804301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6804301メタルマスク用基材の製造方法、および、蒸着用メタルマスクの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804301
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】メタルマスク用基材の製造方法、および、蒸着用メタルマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20201214BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20201214BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C23C14/04 A
   H05B33/10
   H05B33/14 A
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-563228(P2016-563228)
(86)(22)【出願日】2016年6月29日
(86)【国際出願番号】JP2016069350
(87)【国際公開番号】WO2017014016
(87)【国際公開日】20170126
【審査請求日】2018年12月3日
【審判番号】不服2019-9215(P2019-9215/J1)
【審判請求日】2019年7月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-143509(P2015-143509)
(32)【優先日】2015年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-171440(P2015-171440)
(32)【優先日】2015年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-237004(P2015-237004)
(32)【優先日】2015年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】三上 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】田村 純香
(72)【発明者】
【氏名】寺田 玲爾
(72)【発明者】
【氏名】倉田 真嗣
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 大生
(72)【発明者】
【氏名】西辻 清明
(72)【発明者】
【氏名】西 剛広
【合議体】
【審判長】 日比野 隆治
【審判官】 宮澤 尚之
【審判官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−041553(JP,A)
【文献】 特開平04−010336(JP,A)
【文献】 特開昭60−111447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/00-14/58
H01L51/50
H05B33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と、前記表面とは反対側の面である裏面とを備える金属圧延シートであって、前記表面および前記裏面の少なくとも一方が処理対象であり、10μm以上50μm以下の厚さを有した前記金属圧延シートを準備することと、
前記処理対象を酸性エッチング液によって3μm以上エッチングすることによって、0.2μm以上の表面粗さRzを有したレジスト用処理面となるように前記処理対象を粗らし、それによって、金属製のメタルマスク用シートを得ることと、を含む
メタルマスク用基材の製造方法。
【請求項2】
前記処理対象は、前記表面および前記裏面の両方である
請求項1に記載のメタルマスク用基材の製造方法。
【請求項3】
前記処理対象は、前記表面および前記裏面のいずれか一方であり、
前記製造方法は、前記処理対象とは反対側の面に樹脂製の支持層を積層することをさらに含み、
前記金属圧延シートと前記支持層とが積み重なる状態で前記処理対象がエッチングされ、それによって、前記メタルマスク用シートと前記支持層とが積層されたメタルマスク用基材を得る
請求項1に記載のメタルマスク用基材の製造方法。
【請求項4】
前記エッチングすることは、前記表面および前記裏面の一方である第1処理対象をエッチングすることと、その後に、前記表面および前記裏面の他方である第2処理対象をエッチングすることと、を含み、
前記製造方法は、前記第1処理対象をエッチングした後、前記第1処理対象のエッチングによって得られた前記レジスト用処理面に樹脂製の支持層を積層することをさらに含み、
前記金属圧延シートと前記支持層とが積み重なる状態で前記第2処理対象がエッチングされ、それによって、前記メタルマスク用シートと前記支持層とが積層されたメタルマスク用基材を得る
請求項2に記載のメタルマスク用基材の製造方法。
【請求項5】
前記金属圧延シートがインバー圧延シートであり、
前記メタルマスク用シートがインバー製である
請求項1から4のいずれか一項に記載のメタルマスク用基材の製造方法。
【請求項6】
前記レジスト用処理面は、楕円錘状を有した複数の窪みである粒子痕を有し、前記各粒子痕における長径方向が揃っている
請求項1から5のいずれか一項に記載のメタルマスク用基材の製造方法。
【請求項7】
表面と、前記表面とは反対側の面である裏面とを備える金属圧延シートであって、前記表面および前記裏面の少なくとも一方が処理対象であり、10μm以上50μm以下の厚さを有した前記金属圧延シートを準備することと、
前記処理対象を酸性エッチング液によって3μm以上エッチングすることによって、0.2μm以上の表面粗さRzを有したレジスト用処理面となるように前記処理対象を粗らし、それによって、金属製のメタルマスク用シートを得ることと、
1つの前記レジスト用処理面にレジスト層を形成することと、
前記レジスト層をパターニングすることによってレジストマスクを形成することと、
前記レジストマスクを用いて前記メタルマスク用シートをエッチングすることと、を含む
蒸着用メタルマスクの製造方法。
【請求項8】
前記処理対象は、前記表面および前記裏面のいずれか一方であり、
前記製造方法は、前記処理対象とは反対側の面に樹脂製の支持層を積層することをさらに含み、
前記金属圧延シートと前記支持層とが積み重なる状態で前記処理対象がエッチングされ、それによって、前記メタルマスク用シートと前記支持層とが積層されたメタルマスク用基材を得、
前記レジストマスクが形成された後の前記メタルマスク用基材をアルカリ溶液に曝すことによって前記メタルマスク用基材から前記支持層を化学的に除去することをさらに含む
請求項7に記載の蒸着用メタルマスクの製造方法。
【請求項9】
前記処理対象をエッチングすることは、前記表面および前記裏面の一方である第1処理対象をエッチングすることと、その後に、前記表面および前記裏面の他方である第2処理対象をエッチングすることと、を含み、
前記製造方法は、前記第1処理対象をエッチングした後、前記第1処理対象のエッチングによって得られた前記レジスト用処理面に樹脂製の支持層を積層することをさらに含み、
前記金属圧延シートと前記支持層とが積み重なる状態で前記第2処理対象がエッチングされ、それによって、前記メタルマスク用シートと前記支持層とが積層されたメタルマスク用基材を得、
前記レジストマスクが形成された後の前記メタルマスク用基材をアルカリ溶液に曝すことによって前記メタルマスク用基材から前記支持層を化学的に除去することをさらに含む
請求項7に記載の蒸着用メタルマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタルマスク用基材、および、蒸着用メタルマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸着法を用いて製造される表示デバイスの1つとして有機ELディスプレイが知られている。有機ELディスプレイが備える有機層は、蒸着工程において昇華された有機分子の堆積物である。蒸着工程にて用いられるメタルマスクの開口は、昇華された有機分子が通る通路であって、有機ELディスプレイにおける画素の形状に応じた形状を有している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−055007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、表示デバイスにおける表示品質が高まることや、表示デバイスの高精細化が進むことに伴って、上述した有機ELディスプレイ、ひいては、画素のサイズを定めるメタルマスクにおいては、メタルマスクを用いた成膜に対して高精細化が望まれている。近年では、有機ELディスプレイに対して700ppi以上の高精細化が望まれ、それゆえに、このように高精細化された有機ELディスプレイにおける有機層を形成することが可能なメタルマスクが望まれている。
【0005】
なお、メタルマスクを用いた成膜に対する高精細化は、有機ELディスプレイを含む表示デバイスの製造に限らず、各種デバイスが備える配線の形成や、各種デバイスが備える機能層などのメタルマスクを用いた蒸着においても望まれている。
【0006】
本発明は、蒸着用メタルマスクを用いた成膜を高精細化することのできるメタルマスク用基材、および、蒸着用メタルマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためのメタルマスク基材は、表面と、前記表面とは反対側の面である裏面とを備える金属シートを含み、前記表面および前記裏面の少なくとも一方がレジスト用処理面であり、前記金属シートが有する厚さが10μm以下であり、前記レジスト用処理面の表面粗さRzが0.2μm以上である。
【0010】
上記課題を解決するための蒸着用メタルマスクは、メタルマスク用基材を含み、前記メタルマスク用基材が、上記メタルマスク用基材であり、前記メタルマスク用基材に含まれる前記金属シートが、前記表面と前記裏面との間を貫通する複数の貫通孔を有する。
【0011】
上記構成によれば、メタルマスク用シートの有する厚さが10μm以下であるため、メタルマスク用シートに形成されるマスク開口の深さを10μm以下とすることが可能である。それゆえに、蒸着粒子から成膜対象を見たときに蒸着用メタルマスクの陰となる部分を少なくすること、すなわち、シャドウ効果を抑えることが可能であるため、マスク開口の形状に追従した形状を成膜対象に得ること、ひいては、蒸着用メタルマスクを用いた成膜の高精細化を図ることが可能である。そのうえ、メタルマスク用シートにマスク開口を形成することに際し、まず、レジスト用処理面にレジスト層が形成されるとき、そのレジスト層とメタルマスク用基材との密着性を粗化前よりも高めることが可能である。そして、レジスト層がメタルマスク用シートから剥がれることなどに起因した形状精度の低下を、マスク開口の形成において抑えることが可能であるから、この点においても、蒸着用メタルマスクを用いた成膜の高精細化を図ることが可能である。
【0021】
上記メタルマスク基材において、前記レジスト用処理面は、楕円錘状を有した複数の窪みである粒子痕を有し、前記各粒子痕における長径方向が揃っていてもよい。
【0022】
金属シートは通常圧延によって製造されるため、金属シートの製造過程で添加される脱酸剤の酸化物などの粒子が金属シートに混入することが少なくない。金属シートの表面に混入している粒子は、金属材の圧延方向に延ばされ、圧延方向に長径を有する楕円錘状を有する。レジスト用処理面の中でマスク開口が形成される部位にこのような粒子が残存していると、マスク開口を形成するためのエッチングが粒子によって妨げられるおそれがある。
【0023】
この点、上記構成によれば、長径方向が揃った楕円錘状の複数の粒子痕をレジスト用処理面が有する、すなわち、レジスト用処理面からは上述した粒子が既に除かれているため、マスク開口の形成時には、マスク開口の形状や寸法の精度を高めることが可能でもある。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、蒸着用メタルマスクを用いた成膜を高精細化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明のメタルマスク用基材を具体化した1つの実施形態におけるメタルマスク用基材の斜視構造を示す斜視図。
図2】蒸着用メタルマスクの製造方法においてインバー圧延シートを準備する工程を示す工程図。
図3】蒸着用メタルマスクの製造方法においてインバー圧延シートの裏面をエッチングする工程を示す工程図。
図4】蒸着用メタルマスクの製造方法においてインバー圧延シートのレジスト用処理面に支持層を形成する工程を示す工程図。
図5】蒸着用メタルマスクの製造方法においてインバー圧延シートの表面をエッチングする工程を示す工程図。
図6】インバー圧延シートにおける金属酸化物の分布を模式的に示す模式図。
図7】蒸着用メタルマスクの製造方法においてレジスト層を形成する工程を示す工程図。
図8】蒸着用メタルマスクの製造方法においてレジストマスクを形成する工程を示す工程図。
図9】蒸着用メタルマスクの製造方法においてインバーシートをエッチングする工程を示す工程図。
図10】インバーシートの表面と裏面との両方をエッチングすることによって形成された貫通孔の断面形状を示す断面図。
図11】蒸着用メタルマスクの製造方法においてレジストマスクを除去する工程を示す工程図。
図12】蒸着用メタルマスクの製造方法において支持層を化学的に除去する工程を示す工程図。
図13】フレームに貼り付けられた蒸着用メタルマスクの断面構造を示す断面図。
図14】フレームに貼り付けられた蒸着用メタルマスクの平面構造を示す平面図。
図15】試験例1のインバー圧延シートにおける表面を撮影したSEM画像。
図16】試験例2のインバーシートにおけるレジスト用処理面を撮影したSEM画像。
図17】試験例3のインバーシートにおけるレジスト用処理面を撮影したSEM画像。
図18】試験例4のインバーシートにおけるレジスト用処理面を撮影したSEM画像。
図19】第1粒子痕を撮影したSEM画像。
図20】第2粒子痕を撮影したSEM画像。
図21】変形例におけるメタルマスクとフレームとの断面構造を示す断面図。
図22】変形例におけるメタルマスクとフレームとの断面構造を示す断面図。
図23】変形例におけるインバーシートの平面構造を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1から図20を参照して、メタルマスク用基材の製造方法、蒸着用メタルマスクの製造方法、メタルマスク用基材、および、蒸着用メタルマスクを具体化した1つの実施形態を説明する。本実施形態では、蒸着用メタルマスクの一例として、有機ELデバイスが備える有機層の形成に用いられる蒸着用メタルマスクを説明する。以下では、メタルマスク用基材の構成、メタルマスク用基材の製造方法を含む蒸着用メタルマスクの製造方法、および、試験例を順番に説明する。
【0027】
[メタルマスク用基材の構成]
図1を参照してメタルマスク用基材の構成を説明する。
図1が示すように、メタルマスク用基材10は、メタルマスク用シートの一例であって、インバー製のメタルマスクシートであるインバーシート11を含み、インバーシート11は、表面11aと表面11aとは反対側の面である裏面11bとを備えている。インバーシート11において、表面11aおよび裏面11bがレジスト用処理面であって、インバーシート11をエッチングするときに、レジスト層を形成することが可能な面である。
【0028】
インバーシート11の厚さT1は、10μm以下であり、表面11aにおける表面粗さRz、および、裏面11bにおける表面粗さRzが0.2μm以下である。
【0029】
インバーシート11の有する厚さが10μm以下であるため、インバーシート11に形成されるマスク開口の深さを10μm以下とすることが可能である。それゆえに、蒸着粒子から成膜対象を見たときに蒸着用メタルマスクの陰となる部分を少なくすること、すなわち、シャドウ効果を抑えることが可能であるため、マスク開口の形状に追従した形状を成膜対象に得ること、ひいては、蒸着用メタルマスクを用いた成膜の高精細化を図ることが可能である。
【0030】
そのうえ、インバーシート11にマスク開口を形成することに際し、まず、表面11aにレジスト層が形成されるとき、レジスト層とインバーシート11との密着性を粗化前よりも高めることが可能である。そして、レジスト層がインバーシート11から剥がれることなどに起因した形状精度の低下を、マスク開口の形成において抑えることが可能であることから、この点においても、蒸着用メタルマスクを用いた成膜の高精細化を図ることが可能である。
【0031】
インバーシート11の形成材料は、36質量%のニッケルと、鉄とを含むニッケル鉄合金、すなわちインバーであり、インバー、すなわちインバーシート11の熱膨張係数は、1.2×10−6/℃程度である。
【0032】
インバーシート11の熱膨張係数と、成膜対象の一例であるガラス基板の熱膨張係数とが同じ程度である。そのため、メタルマスク用基材10を用いて製造した蒸着用メタルマスクをガラス基板に対する成膜に適用すること、すなわち、形状の精度が高められた蒸着用メタルマスクをガラス基板に対する成膜に適用することが可能である。
【0033】
インバーシート11の表面における表面粗さRzは、JIS B 0601−2001に準拠する方法によって測定された値である。表面粗さRzは、基準長さを有する輪郭曲線中での最大高さである。
【0034】
メタルマスク用基材10は、樹脂製の支持層12をさらに備え、メタルマスク用基材10は、インバーシート11と支持層12との積層体である。インバーシート11のうち、裏面11bが、支持層12に密着している。支持層12の形成材料は、例えば、ポリイミド、および、ネガ型レジストの少なくとも一方である。支持層12は、ポリイミド製の1つの層であってもよいし、ネガ型レジスト製の1つの層であってもよい。あるいは、支持層12は、ポリイミド製の層と、ネガ型レジスト製の層との積層体であってもよい。
【0035】
このうち、ポリイミドの熱膨張係数は、温度の依存性としてインバーの熱膨張係数と同じ傾向を示し、かつ、熱膨張係数の値が同じ程度である。そのため、支持層12の形成材料がポリイミドであれば、支持層12がポリイミド以外の樹脂製である構成と比べて、メタルマスク用基材10における温度の変化によって、メタルマスク用基材10、ひいては、インバーシート11に反りが生じることが抑えられる。
【0036】
[蒸着用メタルマスクの製造方法]
図2から図12を参照して蒸着用メタルマスクの製造方法を説明する。
図2が示すように、蒸着用メタルマスクの製造方法は、メタルマスク用基材10の製造方法を含み、メタルマスク用基材10の製造方法では、まず、金属圧延シートの一例であるインバー圧延シート21を準備する。インバー圧延シート21は、表面21aと表面21aとは反対側の面である裏面21bとを備え、インバー圧延シート21のうち、表面21aおよび裏面21bが、メタルマスク用基材10の製造方法における処理対象である。
【0037】
インバー圧延シート21は、インバー製の母材を圧延し、圧延された母材をアニールすることによって得られる。インバー圧延シート21の表面21aおよび裏面21bの各々における表面粗さRzは、インバー圧延シート21が圧延されることで、母材の表面および裏面における段差が小さくされる分だけ、母材の表面および裏面における表面粗さRzよりも小さい。
【0038】
インバー圧延シート21の厚さT2は、例えば、10μm以上100μm以下であり、より好ましくは10μm以上50μm以下である。
【0039】
図3が示すように、処理対象の1つであり、2つの処理対象のうち、先にエッチングされる第1処理対象の一例である裏面21bを酸性エッチング液によって3μm以上エッチングする。エッチング前のインバー圧延シート21における裏面21bと、エッチング後のインバー圧延シート21における裏面、すなわちレジスト用処理面21cとの間の差がエッチング厚さT3であり、エッチング厚さT3は3μm以上である。
【0040】
裏面21bのエッチングによって、インバー圧延シート21の厚さをエッチング前よりも小さくするとともに、レジスト用処理面21cが0.2μm以上の表面粗さRzを有するように裏面21bを粗す。
【0041】
酸性エッチング液は、インバーのエッチングが可能なエッチング液であって、かつ、インバー圧延シート21の裏面21bをエッチング前よりも粗す組成を有した溶液であればよい。酸性エッチング液は、例えば、過塩素酸第二鉄液、および、過塩素酸第二鉄液と塩化第二鉄液との混合液に対して、過塩素酸、塩酸、硫酸、蟻酸、および、酢酸のいずれかを混合した溶液である。裏面21bのエッチングは、インバー圧延シート21を酸性エッチング液に浸漬するディップ式であってもよいし、インバー圧延シート21の裏面21bに対して酸性エッチング液を吹き付けるスプレー式であってもよいし、スピナーによって回転するインバー圧延シート21に酸性エッチング液を滴下するスピン式であってもよい。
【0042】
エッチング厚さT3は少なくとも3μmであればよく、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。
【0043】
図4が示すように、インバー圧延シート21の裏面21bをエッチングした後、裏面21bのエッチングによって得られたレジスト用処理面21cに上述した樹脂製の支持層12を積層する。支持層12の厚さT4は、例えば10μm以上50μm以下である。
【0044】
支持層12の厚さは、インバー圧延シート21の厚さが10μm以下であっても、支持層12とインバー圧延シート21との積層体における強度をメタルマスク用基材10の製造過程において、積層体の脆弱性に起因した取り扱いの煩わしさを減らす程度に高める点で、10μm以上であることが好ましい。
【0045】
また、支持層12の厚さは、支持層12をアルカリ溶液によってメタルマスク用基材10から除去する際に要する時間が過剰に長くなることを抑える点で、50μm以下であることが好ましい。
【0046】
支持層12は、シート状に形成された後にレジスト用処理面21cに貼り付けられることによって、レジスト用処理面21cに積層されてもよい。あるいは、支持層12は、支持層12を形成するための塗液が、レジスト用処理面21cに塗布されることによって、レジスト用処理面21cに積層されてもよい。
【0047】
なお、上述したネガ型レジスト製の層を支持層12が含む場合には、ネガ型レジストのフィルムをレジスト用処理面21cに貼り付けた後、あるいは、ネガ型レジストをレジスト用処理面21cに塗布した後、ネガ型レジストの全体に対して紫外線を照射して、支持層12を形成する。
【0048】
図5が示すように、インバー圧延シート21と支持層12とが積み重なる状態で、第1処理対象よりも後にエッチングされる第2処理対象の一例であるインバー圧延シート21の表面21aを酸性エッチング液によって3μm以上エッチングする。エッチング前のインバー圧延シート21における表面21aと、エッチング後のインバー圧延シート21、すなわち、インバーシート11における表面11aとの間の差がエッチング厚さT5であり、エッチング厚さT5は3μm以上である。
【0049】
このように、インバー圧延シート21のエッチングは、第1処理対象の一例であるインバー圧延シート21の裏面21bをエッチングすることと、その後に、第2処理対象の一例である表面21aをエッチングすることとを含んでいる。
【0050】
表面21aのエッチングによって、図2を用いて先に説明したインバー圧延シート21が有する厚さT2を10μm以下にするとともに、表面21aが0.2μm以上の表面粗さRzを有するように表面21aを粗す。これにより、金属製のメタルマスク用シートおよび金属シートの一例であるインバーシート11であって、表面11aおよび裏面11bの各々における表面粗さRzが0.2μm以上であるインバーシート11、および、インバーシート11と支持層12とが積層されたメタルマスク用基材10を得る。
【0051】
インバー圧延シート21の表面21aおよび裏面21bの両方がエッチングされるため、表面21aから形成されたレジスト用処理面であれ、裏面21bから形成されたレジスト用処理面21cであれ、いずれのレジスト用処理面に対してもレジスト層を形成することが可能である。それゆえに、レジスト層を形成する対象の面を誤ることによってレジスト層とメタルマスク用基材10との密着性が得られにくくなることを抑えることが可能であって、ひいては、蒸着用メタルマスク51の製造に際しての歩留まりが低下することを抑えることが可能でもある。
【0052】
また、メタルマスク用基材10は、インバーシート11と支持層12との積層体である。そのため、インバーシート11の搬送や、インバーシート11に対する後処理において、インバーシート11の厚さが10μm以下であることによるインバーシート11の脆弱性に起因したインバーシート11の取り扱いにおける煩わしさを減らすことができる。
【0053】
酸性エッチング液は、裏面21bのエッチングに用いられる酸性エッチング液のいずれかであればよく、裏面21bのエッチングに用いられる酸性エッチング液と同じであることが好ましい。また、表面21aのエッチングも、ディップ式、スプレー式、および、スピン式のいずれであってもよいが、裏面21bのエッチングと同じ方式であることが好ましい。
【0054】
エッチング厚さT5は少なくとも3μmであればよく、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。エッチング厚さT5と、上述したエッチング厚さT3とは、同じ大きさであってもよいし、互いに異なる大きさであってもよい。
【0055】
なお、インバー圧延シート21の母材を形成するときには、通常、母材の形成材料中に混入した酸素を除くために、母材の形成材料に対して、例えば、粒状のアルミニウムやマグネシウムなどを脱酸剤として混ぜる。アルミニウムおよびマグネシウムは酸化され、酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムなどの金属酸化物の状態で、母材の形成材料中に含まれる。母材が形成されるとき、金属酸化物の大部分は母材から取り除かれるものの、母材の内部には一部の金属酸化物が残される。
【0056】
図6が示すように、インバー圧延シート21のうち、インバー圧延シート21の厚さ方向における中央を含む部分が中央部分Cであり、表面21aを含む部分が第1表層部分S1であり、裏面21bを含む部分が第2表層部分S2である。金属酸化物は、中央部分Cに比べて、第1表層部分S1および第2表層部分S2に多く分布している。
【0057】
金属酸化物は、インバーシート11のエッチングによって蒸着用メタルマスクを形成するとき、インバーシート11からレジストが剥がれることや、インバーシート11が過剰にエッチングされることの一因となる。
【0058】
上述したように、メタルマスク用基材10の製造方法では、インバー圧延シート21の表面21aおよび裏面21bがエッチングされるため、金属酸化物を多く含む第1表層部分S1および第2表層部分S2の少なくとも一部が除去される。それゆえに、インバー圧延シート21の表面21aおよび裏面21bがエッチングされない場合と比べて、金属酸化物によるレジストの剥がれや、インバーシート11の過剰なエッチングが抑えられ、メタルマスク用基材10に対するエッチングの精度が低くなることが抑えられる。
【0059】
図7が示すように、インバーシート11の表面11aにレジスト層22を形成する。レジスト層22は、シート状に形成された後に表面11aに貼り付けられることによって、表面11aに形成されてもよい。あるいは、レジスト層22は、レジスト層22を形成するための塗液が、表面11aに塗布されることによって、表面11aに形成されてもよい。
【0060】
レジスト層22の形成材料は、ネガ型レジストであってもよいし、ポジ型レジストであってもよい。なお、支持層12の形成材料がネガ型レジストであるときには、レジスト層22も支持層12と同じ材料で形成することが好ましい。
【0061】
図8が示すように、レジスト層22をパターニングすることによってレジストマスク23を形成する。レジストマスク23は、インバーシート11をエッチングするための複数の貫通孔23aを有している。
【0062】
レジスト層22の形成材料がネガ型レジストであるとき、レジスト層22のうち、レジストマスク23の各貫通孔23aに対応する部分以外の部分に対して紫外線を照射し、レジスト層22を露光する。そして、レジスト層22を現像液で現像することによって、複数の貫通孔23aを有したレジストマスク23を得る。
【0063】
レジスト層22の形成材料がポジ型レジストであるとき、レジスト層22のうち、レジストマスク23の各貫通孔23aに対応する部分に対して紫外線を照射し、レジスト層22を露光する。そして、レジスト層22を現像液で現像することによって、複数の貫通孔23aを有したレジストマスク23を得る。
【0064】
図9が示すように、レジストマスク23を用いてインバーシート11をエッチングする。インバーシート11のエッチングには、例えば、塩化第二鉄溶液を用いる。これにより、インバーシート11に対して、表面11aと裏面11bとの間を貫通する複数の貫通孔11c、すなわちマスク開口を形成する。インバーシート11の厚さ方向に沿う断面において、各貫通孔11cの内周面は略劣弧状を有し、各貫通孔11cにおいて、表面11aにおける開口面積が、裏面11bにおける開口面積よりも大きい。
【0065】
インバーシート11の厚さが10μm以下であるため、インバーシート11を表面11aからエッチングするのみでも、インバーシート11が有するマスク開口、言い換えれば貫通孔11cを過剰に大きくすることなく、表面11aと裏面11bとの間を貫通する貫通孔11cを形成することができる。
【0066】
図10が示すように、インバーシート31の厚さT6は、インバーシート11の厚さT1よりも大きく、すなわち、インバーシート31の厚さT6は10μmよりも大きい。この場合には、インバーシート31の表面31aにおける開口の面積を、インバーシート11の表面11aにおける開口の面積と同程度にしつつ、表面31aと裏面31bとを貫通する貫通孔を形成する上で、インバーシート31を表面31aと裏面31bとからエッチングする必要がある。
【0067】
これにより、表面31aに開口する第1孔31cと、裏面31bに開口する第2孔31dとから構成される貫通孔31eが形成される。インバーシート31の厚さと直交する方向において、第1孔31cと第2孔31dとの接続部における開口面積は、裏面31bにおける第2孔31dの開口面積よりも小さい。
【0068】
こうした貫通孔31eを有するインバーシート31が蒸着用メタルマスクとして用いられる場合には、インバーシート31の裏面31bが成膜対象に対向する状態で、インバーシート31が蒸着源と成膜対象との間に配置される。インバーシート31のうち、蒸着粒子から成膜対象を見たときに蒸着用メタルマスクの陰となる部分を接続部が形成するため、その分だけ、第2孔31dにおけるマスク開口の形状に追従した形状を成膜対象において得られにくい。そのため、第2孔31dの深さ、言い換えれば裏面31bと接続部との間の距離は小さいことが好ましい。
【0069】
これに対して、インバーシート11の貫通孔11cによれば、接続部を有しない分だけ、上述したインバーシート31に比べて、蒸着粒子から成膜対象を見たときに蒸着用メタルマスクの陰となる部分を少なくすることができる。結果として、マスク開口の形状に対してより追従した形状を成膜対象において得ることができる。
【0070】
図11が示すように、図9を用いて先に説明したレジストマスク23であって、メタルマスク用基材10上に位置するレジストマスク23を除去する。なお、レジストマスク23をメタルマスク用基材10とレジストマスク23との積層体から除去するときには、支持層12のうち、インバーシート11に接する面とは反対側の面に、支持層12を保護する保護層を形成してもよい。保護層によれば、レジストマスク23を除去するための溶液によって、支持層12が溶解することが抑えられる。
【0071】
図12が示すように、レジストマスク23を除去した後、メタルマスク用基材10をアルカリ溶液に曝すことによって、メタルマスク用基材10から支持層12を化学的に除去する。これにより、蒸着用メタルマスクシート41を得る。蒸着用メタルマスクシート41は、インバーシート11の表面11aに相当する表面41aと、インバーシート11の裏面11bに相当する裏面41bと、インバーシート11の貫通孔11cに相当する貫通孔41cとを有している。
【0072】
このとき、支持層12がメタルマスク用基材10から化学的に除去されるため、インバーシート11から支持層12を物理的に引きはがす場合と比べて、インバーシート11に外力が作用せず、インバーシート11に皺や歪みが生じることが抑えられる。
【0073】
アルカリ溶液は、支持層12を溶解することによって、支持層12をインバーシート11から剥離することができる溶液であればよく、例えば、水酸化ナトリウム水溶液である。メタルマスク用基材10をアルカリ溶液に曝すときには、メタルマスク用基材10をアルカリ溶液に浸漬してもよいし、メタルマスク用基材10の支持層12に対してアルカリ溶液を吹き付けてもよいし、スピナーによって回転するメタルマスク用基材10の支持層12に対してアルカリ溶液を滴下してもよい。
【0074】
図13が示すように、蒸着用メタルマスクシート41から、所定の長さを有した蒸着用メタルマスク51を切り出す。蒸着用メタルマスク51は、蒸着用メタルマスクシート41の表面41aに相当する表面51aと、蒸着用メタルマスクシート41の裏面41bに相当する裏面51bと、蒸着用メタルマスクシート41の貫通孔41cに相当する貫通孔51cとを有している。
【0075】
そして、有機層の蒸着を行うとき、蒸着用メタルマスク51をフレームに貼り付ける。すなわち、蒸着用メタルマスク51は、金属製のフレーム52に対して接着層53によって貼り付けられた状態で、有機層の蒸着に用いられる。蒸着用メタルマスク51において、蒸着用メタルマスク51の裏面51bの一部が、フレーム52の一部に対向し、接着層53は、蒸着用メタルマスク51とフレーム52との間に位置している。なお、蒸着用メタルマスク51は、蒸着用メタルマスク51の表面51aの一部が、フレーム52の一部に対向し、接着層53が、蒸着用メタルマスク51の表面51aとフレーム52との間に位置する状態で、接着層53によって、フレーム52に貼り付けられてもよい。
【0076】
図14が示すように、蒸着用メタルマスク51の表面51aと対向する平面視において、蒸着用メタルマスク51は矩形状を有し、フレーム52は矩形枠状を有している。表面51aと対向する平面視において、各貫通孔51cは矩形状を有している。すなわち、貫通孔51cのうち、表面51aにおける開口は、矩形状を有している。なお、貫通孔51cのうち、裏面51bにおける開口も、矩形状を有している。複数の貫通孔51cは、1つの方向に沿って等間隔で並び、かつ、1つの方向と直交する他の方向に沿って等間隔で並んでいる。蒸着用メタルマスク51は、蒸着用メタルマスク51の裏面51bが成膜対象と対向する状態で、蒸着源と成膜対象との間に配置される。
【0077】
なお、図14において、紙面の左右方向が成膜対象において画素の並ぶ方向である。図14では、左右方向において互いに隣り合う貫通孔51c間の距離が、左右方向における貫通孔51cの幅よりも小さいが、左右方向において互いに隣り合う貫通孔51c間の距離は、左右方向における貫通孔51cの幅の2倍以上であることが好ましい。
【0078】
[試験例]
図15から図20を参照して試験例を説明する。
[試験例1]
30μmの厚さを有したインバー圧延シートを準備し、試験例1のインバー圧延シートとした。
【0079】
[試験例2]
30μmの厚さを有したインバー圧延シートを準備し、インバー圧延シートの表面に対して酸性エッチング液を吹き付けることによってインバー圧延シートの表面を3μmエッチングし、レジスト用処理面を有する試験例2のインバーシートを得た。なお、酸性エッチング液として、過塩素酸第二鉄液と塩化第二鉄液との混合液に対して過塩素酸を混合した溶液を用いた。
【0080】
[試験例3]
30μmの厚さを有したインバー圧延シートを準備し、試験例2と同じ条件でインバー圧延シートの表面を4.5μmエッチングし、レジスト用処理面を有する試験例3のインバーシートを得た。
【0081】
[試験例4]
30μmの厚さを有したインバー圧延シートを準備し、試験例2と同じ条件でインバー圧延シートの表面を10μmエッチングし、レジスト用処理面を有する試験例4のインバーシートを得た。
【0082】
[走査電子顕微鏡による表面の撮影]
試験例1の表面、および、試験例2から試験例4の各々におけるレジスト用処理面を走査電子顕微鏡により撮影し、SEM画像を生成した。走査電子顕微鏡(JSM−7001F、日本電子(株)製)における倍率を10000倍に設定し、加速電圧を10.0kVに設定し、作動距離を9.7mmに設定した。
【0083】
図15が示すように、試験例1のインバー圧延シートにおける表面の平坦性が最も高いことが認められ、また、試験例1のインバー圧延シートにおける表面において、紙面の上下方向に延びるすじである圧延痕が認められた。図16および図17が示すように、試験例2のインバーシートにおけるレジスト用処理面と、試験例3のインバーシートにおけるレジスト用処理面とには、段差が形成されていることが認められた。図18が示すように、試験例4のインバーシートにおけるレジスト用処理面には、試験例2のインバーシートにおけるレジスト用処理面、および、試験例3のインバーシートにおけるレジスト用処理面よりも大きい段差が形成されていることが認められた。また、図16から図18の各インバーシートにおけるレジスト用処理面では、エッチングによって圧延痕がほぼ消失していることが認められた。
【0084】
[原子間力顕微鏡による表面粗さの測定]
試験例1のインバー圧延シートにおける表面を表面として含む試験片を作成し、かつ、試験例2から試験例4の各々におけるインバーシートのレジスト用処理面を表面として含む試験片を作成した。そして、各試験片の表面において、一辺の長さが5μmである正方形状を有した領域である走査領域における表面粗さを測定した。
【0085】
原子間力顕微鏡(AFM5400L、(株)日立ハイテクサイエンス製)を用いて、JIS B 0601−2001に準拠する方法で、各試験例の表面における表面粗さを測定した。表面粗さの測定結果は、以下の表1に示す通りであった。また、測定結果に基づき、各試験片における表面積率を、走査領域の面積に対する走査領域での表面積の比として算出した。言い換えれば、表面積率は、走査領域での表面積を走査領域の面積で除算した値である。
【0086】
なお、表1に記載の表面粗さのパラメータのうち、Rzは、基準長さを有する輪郭曲線の中で最も高い山の高さと、最も深い谷の深さとの和である最大高さであり、Raは、基準長さを有する輪郭曲線の算術平均粗さである。Rpは、基準長さを有する輪郭曲線の中で最も高い山の高さであり、Rvは、基準長さを有する輪郭曲線の中で最も深い谷の深さである。また、以下において、Rz、Ra、Rp、および、Rvの各々の単位はμmである。
【0087】
【表1】
【0088】
表1が示すように、試験例1のインバー圧延シートにおける表面では、表面粗さRzが0.17であり、表面粗さRaが0.02であり、表面粗さRpが0.08であり、表面粗さRvが0.09であることが認められた。また、試験例1のインバー圧延シートにおける表面では、表面積率が1.02であることが認められた。
【0089】
試験例2のインバーシートにおけるレジスト用処理面では、表面粗さRzが0.24であり、表面粗さRaが0.02であり、表面粗さRpが0.12であり、表面粗さRvが0.12であることが認められた。また、試験例2のインバーシートにおけるレジスト用処理面では、表面積率が1.23であることが認められた。
【0090】
試験例3のインバーシートにおけるレジスト用処理面では、表面粗さRzが0.28であり、表面粗さRaが0.03であり、表面粗さRpが0.15であり、表面粗さRvが0.13であることが認められた。また、試験例3のインバーシートにおけるレジスト用処理面では、表面積率が1.13であることが認められた。
【0091】
試験例4のインバーシートにおけるレジスト用処理面では、表面粗さRzが0.30であり、表面粗さRaが0.03であり、表面粗さRpが0.17であり、表面粗さRvが0.13であることが認められた。また、試験例4のインバーシートにおけるレジスト用処理面では、表面積率が1.22であることが認められた。
【0092】
このように、インバー圧延シートの表面を3μm以上エッチングすることによって得られたインバーシートでは、レジスト用処理面における表面粗さRzが0.2μm以上であることが認められた。また、エッチングする厚さが大きくなるほど、レジスト用処理面における表面粗さRzが大きくなることから、インバー圧延シートの表面におけるエッチングの厚さは、4.5μmが好ましく、10μmがより好ましいことが認められた。
【0093】
なお、30μmの厚さを有するインバー圧延シートを準備し、インバー圧延シートの表面および裏面の各々を、上述した条件で10μmずつエッチングすることによって、10μmの厚さを有するインバーシートが得られた。このとき、インバー圧延シートの裏面から得られたレジスト用処理面には、20μmの厚さを有するポリイミド製のシートを支持層として貼り付けた。
【0094】
こうしたインバーシートによれば、インバーシートの表面からインバーシートをエッチングするのみで、インバーシートの表面と裏面との間を貫通する貫通孔を形成することが可能であることが本願発明者によって認められている。また、こうした貫通孔において、インバーシートの表面における開口面積、および、インバーシートの裏面における開口面積の各々が所望の大きさを有することも本願発明者らによって認められている。
【0095】
また、試験例1のインバー圧延シートの表面にドライフィルムレジストを貼り付け、ドライフィルムレジストをパターニングした後、試験例1のインバー圧延シートをエッチングして、表面に複数の凹部を形成した。
【0096】
そして、試験例2から4の各々のインバーシートのレジスト用処理面にドライフィルムレジストを貼り付け、ドライフィルムレジストをパターニングした後、試験例2から4の各々のインバーシートをエッチングして、レジスト用処理面に複数の凹部を形成した。なお、試験例2から4では、ドライフィルムレジストのパターニング方法として試験例1と同じ方法を用い、また、インバーシートのエッチング条件を試験例1と同じ条件に設定した。
【0097】
試験例2から4の各々では、レジスト用処理面での開口の大きさにおけるばらつきが、試験例1での開口の大きさにおけるばらつきよりも小さいことが認められた。すなわち、試験例2から4の各々のように、表面粗さRzが0.2μm以上であれば、レジスト層とインバーシートとの密着性が高まることで、マスク開口における形状精度の低下が抑えられることが認められた。
【0098】
[試験例5]
30μmの厚さを有したインバー圧延シートを準備し、試験例5のインバー圧延シートとした。
【0099】
[試験例6]
30μmの厚さを有したインバー圧延シートを準備し、試験例2と同じ条件でインバー圧延シートの表面を3μmエッチングし、レジスト用処理面を有する試験例6のインバーシートを得た。
【0100】
[試験例7]
30μmの厚さを有したインバー圧延シートを準備し、試験例2と同じ条件でインバー圧延シートの表面を10μmエッチングし、レジスト用処理面を有する試験例7のインバーシートを得た。
【0101】
[試験例8]
30μmの厚さを有したインバー圧延シートを準備し、試験例2と同じ条件でインバー圧延シートの表面を15μmエッチングし、レジスト用処理面を有する試験例8のインバーシートを得た。
【0102】
[試験例9]
30μmの厚さを有したインバー圧延シートを準備し、試験例2と同じ条件でインバー圧延シートの表面を16μmエッチングし、レジスト用処理面を有する試験例9のインバーシートを得た。
【0103】
[粒子痕の計数]
試験例5のインバー圧延シートにおける表面の一部を表面として含む3つの試験片であって、一辺の長さが2mmである正方形状を有する試験片を作成した。また、試験例6から試験例9の各々のインバーシートにおけるレジスト用処理面の一部を表面として含む3つの試験片であって、一辺の長さが2mmである正方形状を有する試験片を作成した。
【0104】
走査電子顕微鏡(同上)を用いて各試験片の表面を観察し、各試験片が有する粒子痕を計数した。なお、粒子痕はインバー圧延シートあるいはインバーシートから金属酸化物の粒子が脱離した痕跡であり、各試験片では、第1粒子痕および第2粒子痕の少なくとも一方が認められた。粒子痕を計数した結果は、以下の表2に示す通りであった。
【0105】
図19が示すように、第1粒子痕は試験片の表面と対向する平面視において略円状の領域を区画し、半球状を有した窪みである。第1粒子痕の径は、3μm以上5μm以下であることが認められた。
【0106】
これに対して、図20が示すように、第2粒子痕は試験片の表面と対向する平面視において略楕円状の領域を区画し、楕円錘状を有した窪みである。第2粒子痕の長径は、3μm以上5μm以下であることが認められた。
【0107】
第1粒子痕と第2粒子痕とを撮影したとき、走査電子顕微鏡において、倍率を5000倍に設定し、加速電圧を10.0kVに設定し、作動距離を9.7mmに設定した。
【0108】
【表2】
【0109】
表2が示すように、試験例5では、試験片1が1個の第1粒子痕を有することが認められ、試験片2および試験片3はいずれも粒子痕を有しないことが認められた。すなわち、試験例5において、第1粒子痕の合計が1個であり、第2粒子痕の合計が0個であることが認められた。
【0110】
試験例6では、試験片1が4個の第1粒子痕と1個の第2粒子痕とを有し、試験片2が9個の第1粒子痕を有し、試験例3が8個の第1粒子痕と2個の第2粒子痕とを有することが認められた。すなわち、試験例6において、第1粒子痕の合計が21個であり、第2粒子痕の合計が3個であることが認められた。
【0111】
試験例7では、試験片1が5個の第1粒子痕と1個の第2粒子痕とを有し、試験片2が6個の第1粒子痕と1個の第2粒子痕とを有し、試験片3が5個の第1粒子痕と2個の第2粒子痕とを有することが認められた。すなわち、試験例7において、第1粒子痕の合計が16個であり、第2粒子痕の合計が4個であることが認められた。
【0112】
試験例8では、試験片1が5個の第1粒子痕を有し、試験片2が2個の第1粒子痕を有し、試験片3が6個の第1粒子痕と1個の第2粒子痕を有することが認められた。すなわち、試験例8において、第1粒子痕の合計が13個であり、第2粒子痕の合計が1個であることが認められた。
【0113】
試験例9では、試験片1が4個の第1粒子痕を有し、試験片2が5個の第1粒子痕を有し、試験片3が5個の第1粒子痕を有する一方で、試験片1から試験片3の全てが第2粒子痕を有しないことが認められた。すなわち、試験例9では、第1粒子痕の合計が14個であることが認められた。
【0114】
また、複数の第2粒子痕を有する試験例6および試験例7では、各第2粒子痕における長径方向が揃い、かつ、長径方向はインバーシートを形成するためのインバー圧延シートの圧延方向と平行であることが認められた。
【0115】
このように、インバー圧延シートの表面を16μm以上エッチングすれば、インバーシートのレジスト用処理面から第2粒子痕を除くことが可能であることが認められた。また、インバー圧延シートの表面を10μm以上エッチングすることによって、第1粒子痕の数を減らすことができることが認められ、インバー圧延シートの表面を15μm以上エッチングすることによって、第1粒子痕の数をさらに減らすことができることが認められた。
【0116】
こうした結果から、インバー圧延シートの表面を10μm以上エッチングすることによって、より好ましくは15μm以上エッチングすることによって、インバー圧延シート内の金属酸化物の粒子を減らすことが可能であると言える。そのため、メタルマスク用基材のエッチングによって形成される貫通孔の形状の精度に対して金属酸化物の脱離が影響することを抑える上では、インバー圧延シートの表面を10μm以上エッチングすること、より好ましくは15μm以上エッチングすることが有効であると言える。
【0117】
以上説明したように、メタルマスク用基材の製造方法、蒸着用メタルマスクの製造方法、メタルマスク用基材、および、蒸着用メタルマスクの1つの実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
【0118】
(1)インバーシート11の有する厚さが10μm以下であるため、インバーシート11に形成されるマスク開口の深さを10μm以下とすることが可能である。それゆえに、蒸着粒子から成膜対象を見たときに蒸着用メタルマスク51の陰となる部分を少なくすること、すなわち、シャドウ効果を抑えることが可能であるため、マスク開口の形状に追従した形状を成膜対象に得ること、ひいては、蒸着用メタルマスク51を用いた成膜の高精細化を図ることが可能である。
【0119】
そのうえ、インバーシート11にマスク開口を形成する際に、レジスト層22とインバーシート11との密着性を粗化前よりも高めることが可能である。そして、レジスト層22がインバーシート11から剥がれることなどに起因した形状精度の低下を、マスク開口の形成において抑えることが可能であるから、この点においても、蒸着用メタルマスク51を用いた成膜の高精細化を図ることが可能である。
【0120】
(2)インバー圧延シート21の表面21aから形成されたレジスト用処理面であれ、インバー圧延シート21の裏面21bから形成されたレジスト用処理面21cであれ、いずれのレジスト用処理面に対してもレジスト層22を形成することが可能である。そのため、レジスト層22を形成する対象の面を誤ることによってレジスト層22とメタルマスク用基材10との密着性が得られにくくなることを抑えることが可能であって、ひいては、蒸着用メタルマスク51の製造に際しての歩留まりが低下することを抑えることが可能でもある。
【0121】
(3)インバーシート11の搬送や、インバーシート11に対する後処理において、インバーシート11の厚さが10μm以下であることによるインバーシート11の脆弱性に起因したインバーシート11の取り扱いにおける煩わしさを減らすことができる。
【0122】
(4)インバーシート11から支持層12を物理的に引きはがす場合と比べて、インバーシート11に外力が作用しないため、インバーシート11に皺や歪みが生じることが抑えられる。
【0123】
なお、上述した実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・支持層12は、インバーシート11から物理的に剥がされてもよい。すなわち、支持層12とインバーシート11の界面において剥離が生じるように、支持層12とインバーシート11との少なくとも一方に外力が加えられてもよい。こうした構成であっても、レジスト用処理面の表面粗さRzが0.2μm以上となるように粗し、かつ、エッチング後のインバー圧延シート21における厚さが10μm以下となるようにインバー圧延シート21をエッチングすれば、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0124】
ただし、上述したように、インバーシート11の皺や歪みを抑える上では、支持層12は、アルカリ溶液によって、メタルマスク用基材10から化学的に除去することが好ましい。
【0125】
・インバー圧延シート21の表面21aと裏面21bとのエッチングにおいて、裏面21bが表面21aよりも先にエッチングされてもよいし、表面21aと裏面21bとが同時にエッチングされてもよい。表面21aと裏面21bとがエッチングされる順番に関わらず、レジスト用処理面の表面粗さRzが0.2μm以上となるように粗し、かつ、エッチング後のインバー圧延シート21における厚さが10μm以下となるようにインバー圧延シート21をエッチングすれば、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0126】
・インバー圧延シート21における処理対象は、インバー圧延シート21の表面21aのみであってもよいし、裏面21bのみであってもよい。こうした構成であっても、レジスト用処理面の表面粗さRzが0.2μm以上となるように粗し、かつ、エッチング後のインバー圧延シート21における厚さが10μm以下となるようにインバー圧延シート21をエッチングすれば、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0127】
・インバー圧延シート21において、処理対象が表面21aのみであるときには、表面21aのエッチング前に、裏面21bに支持層12を積層し、インバー圧延シート21と支持層12とが積み重なる状態で表面21aをエッチングすることが好ましい。また、処理対象が裏面21bのみであるときには、裏面21bのエッチング前に、表面21aに支持層12を形成し、インバー圧延シート21と支持層12とが積み重なる状態で裏面21bをエッチングすることが好ましい。こうした構成によっても、上述した(3)と同等の効果を得ることはできる。
【0128】
・インバー圧延シート21における処理対象のエッチングは、処理対象が表面21aおよび裏面21bのいずれか一方であれ、表面21aおよび裏面21bの両方であれ、インバー圧延シート21に対して支持層12が形成されない状態で行われてもよい。こうした構成であっても、レジスト用処理面の表面粗さRzが0.2μm以上となるように粗し、かつ、エッチング後のインバー圧延シート21における厚さが10μm以下となるようにインバー圧延シート21をエッチングすれば、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0129】
この場合には、メタルマスク用基材は、支持層12を有しない構成、すなわち、インバーシート11のみを備える構成であってもよい。あるいは、インバー圧延シート21からインバーシート11を得た後に、インバーシート11の1つの面に対して支持層12を積層することによって、インバーシート11と支持層12との積層体であるメタルマスク用基材を得てもよい。
【0130】
図21が示すように、支持層12の形成材料がポリイミドであれば、メタルマスク用基材10から支持層12を除去するとき、支持層12のうち、メタルマスク用基材10の厚さ方向において、インバーシート11が有する貫通孔11cと重なる部分のみをインバーシート11から除去してもよい。言い換えれば、メタルマスク用基材10から支持層12を除去するとき、インバーシート11の裏面11bと対向する平面視において、支持層12のうち、支持層12の縁部であって、全ての貫通孔11cよりも外側に位置する部分以外の部分のみを除去してもよい。
【0131】
こうした構成では、蒸着用メタルマスク61は、インバーシート11と、矩形枠状を有したポリイミド枠12aとから構成される。インバーシート11は、複数の貫通孔11cを有し、ポリイミド枠12aは、インバーシート11の裏面11bと対向する平面視において、矩形枠状を有し、全ての貫通孔11cを取り囲んでいる。
【0132】
蒸着用メタルマスク61が備えるポリイミド枠12aは、蒸着用メタルマスク61がフレーム52に取り付けられるとき、接着層として機能し得る。そのため、蒸着用メタルマスク61のうち、ポリイミド枠12aがフレーム52に接する状態で、蒸着用メタルマスク61がフレーム52に取り付けられる。
【0133】
図22が示すように、支持層12の形成材料がポリイミドであれば、支持層12はメタルマスク用基材10から除去されなくてもよい。こうした構成では、蒸着用メタルマスク62は、フレーム52に貼り付けられた時点において、複数の貫通孔11cを有したインバーシート11と、インバーシート11の裏面11bの全体と重なる支持層12とから構成される。
【0134】
蒸着用メタルマスク62が備える支持層12は、上述したポリイミド枠12aと同様、蒸着用メタルマスク62がフレーム52に取り付けられるとき、接着層として機能し得る。そのため、蒸着用メタルマスク62のうち、支持層12がフレーム52に接する状態で、蒸着用メタルマスク62がフレーム52に取り付けられる。
【0135】
なお、こうした蒸着用メタルマスク62では、蒸着用メタルマスク62がフレーム52に取り付けられた後に、支持層12のうち、メタルマスク用基材10の厚さ方向において、インバーシート11が有する貫通孔11cと重なる部分のみをインバーシート11から除去すればよい。言い換えれば、インバーシート11の裏面11bと対向する平面視において、支持層12のうち、支持層12の縁部であって、全ての貫通孔11cよりも外側に位置する部分以外の部分のみを除去すればよい。
【0136】
図23は、インバーシートの平面構造であって、インバー圧延シート21における処理対象のエッチングによって得られるレジスト用処理面と対向する平面視における平面構造を示している。なお、図23では、第1粒子痕および第2粒子痕とレジスト用処理面におけるそれ以外の部分との区別を明確にするために、第1粒子痕および第2粒子痕にドットを付している。
【0137】
図23が示すように、インバー圧延シート21の処理対象がエッチングされる厚さが3μm以上10μm以下であれば、インバーシート71のレジスト用処理面71aは、複数の第1粒子痕72と複数の第2粒子痕73とを有している。各第1粒子痕72は半球状を有した窪みであり、第1粒子痕72の直径である第1径D1は、3μm以上5μm以下である。
【0138】
各第2粒子痕73は楕円錘状を有した窪みであり、第2粒子痕73の長径である第2径D2は、3μm以上5μm以下であり、各第2粒子痕73における長径方向が揃っている。各第2粒子痕73における長径方向は、インバーシート71の圧延方向と平行な方向である。
【0139】
インバーシート71は通常圧延によって製造されるため、インバーシート71の製造過程で添加される脱酸剤などの酸化物から構成される粒子がインバーシート71に混入することが少なくない。インバーシート71の表面に混入している粒子の一部は、インバーシート71の圧延方向に延ばされ、圧延方向に長径を有する楕円錘状を有する。レジスト用処理面71aの中でマスク開口が形成される部位にこのような粒子が残存していると、マスク開口を形成するためのエッチングが粒子によって妨げられるおそれがある。
【0140】
この点、上述した構成によれば、以下の効果を得ることができる。
(5)レジスト用処理面71aから上述した粒子が既に取り除かれているために、レジスト用処理面71aは、長径方向が揃った楕円錘状の複数の第2粒子痕73を有する。そのため、マスク開口の形成時には、インバーシート71の中に粒子が残存している場合と比べて、マスク開口の形状や寸法の精度を高めることが可能でもある。
【0141】
・金属圧延シートの形成材料、ひいては、メタルマスクシートおよび金属シートの形成材料は、純粋な金属、あるいは、合金であれば、インバー以外の材料であってもよい。
【0142】
・蒸着用メタルマスク51の製造方法における各工程は、予め1つの蒸着用メタルマスク51に対応する大きさに切断されたインバー圧延シート片に対して行われてもよい。こうした場合には、インバー圧延シート片に相当するインバーシート片からレジストマスクと支持層とが除去されることによって蒸着用マスクが得られる。
【0143】
あるいは、メタルマスク用基材10の製造方法における各工程は、複数の蒸着用メタルマスク51に対応する大きさを有するインバー圧延シート21に対して行われる一方で、得られたメタルマスク用基材10を1つの蒸着用メタルマスク51に対応する大きさを有したメタルマスク用基材片に切断してもよい。そして、レジスト層を形成すること、レジストマスクを形成すること、インバーシートをエッチングすること、および、支持層を除去することをメタルマスク用基材片に対して行ってもよい。
【0144】
・蒸着用メタルマスク51は、表面51aと対向する平面視において、矩形状以外の形状であって、例えば、正方形状を有してもよいし、四角形状以外の多角形状などの形状を有してもよい。
【0145】
・蒸着用メタルマスク51の各貫通孔51cのうち、表面51aにおける開口、および、裏面51bにおける開口の各々は、例えば、正方形状および円形状などの矩形状以外の形状を有してもよい。
【0146】
・表面51aと対向する平面視において、上述した1つの方向が第1方向であり、第1方向と直交する方向が第2方向であるとき、複数の貫通孔51cは、以下のように並んでいてもよい。すなわち、第1方向に沿う複数の貫通孔51cが、1つの行を構成し、第1方向において、複数の貫通孔51cは、所定のピッチで形成されている。そして、各行を構成する複数の貫通孔51cにおいて、第1方向における位置が1行おきに互いに重なる。一方で、第2方向において互いに隣り合う行では、一方の行を構成する複数の貫通孔51cにおける第1方向での位置に対して、他方の行を構成する複数の貫通孔51cにおける第1方向での位置が、1/2ピッチ程度ずれている。言い換えれば、複数の貫通孔51cは千鳥状に並んでいてもよい。
【0147】
要は、蒸着用メタルマスク51において、複数の貫通孔51cは、蒸着用メタルマスク51を用いて形成される有機層の配置に対応するように並んでいればよい。なお、実施形態では、複数の貫通孔51cは、有機ELデバイスにおける格子配列に対応するように並ぶ一方で、上述した変形例における複数の貫通孔51cは、有機ELデバイスにおけるデルタ配列に対応するように並んでいる。
【0148】
・表面51aと対向する平面視において、上述した1つの方向が第1方向であり、第1方向と直交する方向が第2方向であるとき、上述した実施形態では、各貫通孔51cは、第1方向において隣り合う他の貫通孔51c、および、第2方向において隣り合う他の貫通孔51cから離れている。これに限らず、各貫通孔51cの表面51aにおける開口が、第1方向において互いに隣り合う他の貫通孔51cの表面51aにおける開口と連なっていてもよいし、第2方向において互いに隣り合う貫通孔51cの表面51aにおける開口と連なっていてもよい。あるいは、各貫通孔51cの表面51aにおける開口は、第1方向と第2方向との双方において、互いに隣り合う他の貫通孔51cの表面51aにおける開口と連なっていてもよい。こうした蒸着用メタルマスクでは、2つの貫通孔51cが連なる部分における厚さが、蒸着用メタルマスクの外縁であって、貫通孔51cが位置しない部分、すなわち、貫通孔51cを形成する工程においてエッチングされていない部分の厚さよりも薄くてもよい。
【0149】
・蒸着用メタルマスクは、有機ELデバイスの有機層を形成する際に用いられる蒸着用メタルマスクに限らず、有機ELデバイス以外の表示デバイスなどの各種デバイスが備える配線の形成や、各種デバイスが備える機能層などを形成する際に用いられる蒸着用メタルマスクであってもよい。
【符号の説明】
【0150】
10…メタルマスク用基材、11,31,71…インバーシート、11a,21a,31a,41a,51a…表面、11b,21b,31b,41b,51b…裏面、11c,23a,31e,41c,51c…貫通孔、12…支持層、12a…ポリイミド枠、21…インバー圧延シート、21c,71a…レジスト用処理面、22…レジスト層、23…レジストマスク、31c…第1孔、31d…第2孔、41…蒸着用メタルマスクシート、51,61,62…蒸着用メタルマスク、52…フレーム、53…接着層、72…第1粒子痕、73…第2粒子痕、C…中央部分、S1…第1表層部分、S2…第2表層部分。
図1
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