(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0017】
実施の形態1.
[送電系統の概略構成]
図1は、実施の形態1による故障点標定装置が設置された送電系統の構成図である。実施の形態1では、3端子以上の多端子送電線としてA端、B端、C端、D端を有する4端子の多端子送電線102を例に挙げて説明する。
【0018】
図1を参照して、4多端子送電線102の場合、分岐点は2箇所あり、それぞれP分岐点およびQ分岐点とする。多端子送電線102は、P分岐点とQ分岐点との間の線路103_0と、A端とP分岐点との間の線路103_1と、B端とP分岐点との間の線路103_2と、C端とQ分岐点との間の線路103_3と、D端とQ分岐点との間の線路103_4とを含む。言い替えると、P分岐点は、A端と線路103_1を介して直接接続され、B端と線路103_2を介して直接接続され、Q分岐点と線路103_0を介して直接接続されている。Q分岐点は、C端と線路103_3を介して直接接続され、D端と線路103_4を介して直接接続され、P分岐点と線路103_0を介して直接接続されている。
【0019】
送電系統は、上記の多端子送電線102と、A端変電所において多端子送電線102に接続された電流変成器(CT:Current Transformer)104_1および電圧変成器(VT:Voltage Transformer)105_1と、B端変電所において多端子送電線102に接続されたCT104_2およびVT105_2とを備える。送電系統はさらに、C端変電所において多端子送電線102に接続されたCT104_3およびVT105_3と、D端変電所において多端子送電線102に接続されたCT104_4およびVT105_4とを備える。CT104_1〜104_4に囲まれた区間が多端子送電線102の保護区間となっている。
【0020】
なお、送電系統は3相回路であるため、多端子送電線102ならびに各端子の変電所に設けられたCT104およびVT105は実際には3相分ある。
図1では図解を容易にするために1相分のみを模式的に示している。
【0021】
多端子送電線102のA端の遠方には3相の背後電源101_1が設けられ、B端の遠方には3相の背後電源101_2が設けられ、C端の遠方には3相の背後電源101_3が設けられ、D端の遠方には3相の背後電源101_4が設けられている。背後電源101_1の各相の電圧振幅をEaとし、背後電源101_2の各相の電圧振幅をEbとし、背後電源101_3の各相の電圧振幅をEcとし、背後電源101_4の各相の電圧振幅をEbとする。
【0022】
さらに、送電系統は、A端からD端の変電所にそれぞれ設けられた故障点標定装置106_1,106_2,106_3,106_4と、通信装置108_1,108_2,108_3,108_4とを備える。故障点標定装置106_1,106_2,106_3,106_4は、それぞれ対応する通信装置108_1,108_2,108_3,108_4に接続されている。通信装置108_1,108_2,108_3,108_4は、2個の故障点標定装置106ごとに設けられた専用の伝送路107_1〜107_6を介して相互に接続されている。
【0023】
各故障点標定装置106は、自端のCT104から電流値をサンプリングして取り込み、自端のVT105から電圧値をサンプリングして取り込む。各故障点標定装置106は、取り込んだ電流値および電圧値をA/D(Analog to Digital)変換することによって、デジタル値の電流データおよび電圧データを生成する。各通信装置108は、自端の故障点標定装置106から電流データおよび電圧データの入力を受け、入力された電流データおよび電圧データを全ての他端の故障点標定装置106に伝送路107を介して送信する。各通信装置108は、伝送路107を介して受信した全ての他端の電流データおよび電圧データを自端の故障点標定装置106に出力する。したがって、各端子の故障点標定装置106は、全ての端子の電流データおよび電圧データを取得することになる。
【0024】
各故障点標定装置106は、取得した全ての端子の電流データおよび電圧データを用いて電流差動方式の保護リレー演算を行う。このため、各伝送路107の伝送時間を利用したサンプリング時刻の同期処理が必要である。
【0025】
たとえば、A端の故障点標定装置106_1とB端の故障点標定装置106_2とでサンプリング同期を行う方法について説明する。故障点標定装置106_1,106_2の各々は、通信装置108_1,108_2を用いて電流および電圧データを一定周期でシリアルデータとして送信することを通じて同期処理を行う。各故障点標定装置106に接続された通信装置108からの送信データには、電流および電圧データの他に、そのデータの送信タイミングを表すタイミング信号と、そのタイミング信号を送信してから相手端からのタイミング信号を受信するまでの時間差を表す信号が含まれる。故障点標定装置106_1,106_2の各々は、A端で測定した時間差TaとB端で測定した時間差Tbとが等しくなるようにどちらかの端子(例えばB端)で送信タイミングを調整することで同期を採ることができる。
【0026】
A端からB端への伝送遅延時間とB端からA端への伝送遅延時間が等しい場合には、上記の同期処理方法によって同期が採れる。しかしながら、両方向の伝送遅延時間に差がある場合には、(Ta−Tb)/2に相当する同期誤差が生じる。実際上の誤差の大きさは、汎用の通信装置で最大250μ秒から500μ秒程度であるが、電流差動リレーの動作特性を調整することによって保護動作上問題にならないようにできる。
【0027】
他の方式で保護区間の故障発生を検出する場合には上記の同期処理は必要でない。この場合、全端子で故障点標定を行う必要はなく、たとえば、A端の故障点標定装置106_1でのみ故障点標定を行う。他端の故障点標定装置106_2〜106_4は、自端の電流および電圧を検出する機能と、A/D変換後の電流データおよび電圧データをA端の故障点標定装置106_1に送信する機能とを有していれば十分である。また、A端の故障点標定装置106_1から他端の故障点標定装置106_2〜106_4に電流データおよび電圧データを送信する必要はない。
【0028】
ただし、電流差動リレー以外の方法で保護区間での故障発生を検出する場合においても、故障点標定を行うために、保護区間が故障中の際の両端での電流および電圧データは必要である。したがって、電流差動リレー演算に必要な精度でのサンプリング同期は必要ないとしても、ミリ秒オーダーでの同期は必要である。
【0029】
[故障点標定装置のハードウェア構成の一例]
図2は、
図1の各故障点標定装置106のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2の故障点標定装置106は、いわゆるデジタルリレー装置と同様の構成を有している。具体的に
図2を参照して、故障点標定装置106は、入力変換部201と、A/D変換部211と、演算処理部221と、I/O(Input and Output)部231とを備える。
【0030】
入力変換部201は、各入力チャンネルごとに補助変成器202_1,202_2,…を備える。入力変換部201は、
図1のCT104から出力された各相の電流信号および
図1のVT105から出力された各相の電圧信号が入力される入力部である。各補助変成器202は、CT104およびVT105からの電流信号および電圧信号を演算処理部221および演算処理部221での信号処理に適した電圧レベルの信号に変換する。
【0031】
A/D変換部211は、アナログフィルタ(AF:Analog Filter)212_1,212_2,…と、サンプルホールド回路(S/H:Sample Hold Circuit)213_1,213_2,…と、マルチプレクサ(MPX:Multiplexer)214と、A/D変換器215とを含む。アナログフィルタ212およびサンプルホールド回路213は、入力信号のチャンネルごとに設けられる。
【0032】
各アナログフィルタ212は、A/D変換の際の折返し誤差を除去するために設けられたローパスフィルタである。各サンプルホールド回路213は、対応のアナログフィルタ212を通過した信号を規定のサンプリング周波数でサンプリングして保持する。サンプリング周波数は、たとえば、4800Hzである。マルチプレクサ214は、サンプルホールド回路213_1,213_2,…に保持された電圧信号を順次選択する。A/D変換器215は、マルチプレクサ214によって選択された信号をデジタル値に変換する。
【0033】
演算処理部221は、CPU(Central Processing Unit)222と、RAM(Random Access Memory)223と、ROM(Read Only Memory)224と、これらを接続するバス225とを含む。CPU222は、故障点標定装置106の全体の動作を制御する。RAM223およびROM224は、CPU222の主記憶として用いられる。ROM224は、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリーを用いることにより、プログラムおよび信号処理用の設定値などを収納することができる。
【0034】
I/O部231は、自端の通信装置108と接続するためのインターフェース(I/F:Interface)回路232と、デジタル入力(D/I:Digital Input)回路234と、デジタル出力(D/O:Digital Output)回路235とを含む。デジタル入力回路234およびデジタル出力回路235は、CPU222と通信装置108以外の外部装置との間で通信を行う際のインターフェース回路である。
【0035】
[故障点標定方法について]
以下、実施の形態1による故障点標定方法の原理について説明する。
【0036】
<1.簡易等価回路による表現>
図3は、A端とP分岐点との間の故障点Fにおいてa相地絡故障が生じた場合の回路図である。故障点抵抗をRとする。故障点抵抗はアーク抵抗である。
【0037】
図3において、A端とP分岐点との間の線路103_1の亘長を‘1’とした場合、A端から故障点Fまでの距離を‘X’とし、P分岐点から故障点Fまでの距離を‘1−X’としている。本実施の形態の故障点標定方法では、多端子送電線102の各端子の電圧および電流ならびに多端子送電線102の線路定数を対称座標法によって座標変換する。
【0038】
図4は、
図3の回路図に対応する対称座標法による等価回路である。
図4に示すように、A端における正相電圧をVA1とし、B端における正相電圧をVB1とし、C端における正相電圧VC1とし、D端における正相電圧をVD1とする。A端における正相電流をIA1とし、逆相電流をIA2とし、零相電流をIA0とする。B端における正相電流をIB1とし、逆相電流をIB2とし、零相電流をIB0とする。C端における正相電流をIC1とし、逆相電流をIC2とし、零相電流をIC0とする。D端における正相電流をID1とし、逆相電流をID2とし、零相電流をID0とする。A端の背後電源101_1から出力される正相電圧をEAとし、B端の背後電源101_2から出力される正相電圧をEBとし、C端の背後電源101_3から出力される正相電圧をECとし、D端の背後電源101_4から出力される正相電圧をEDとする。
【0039】
a相地絡故障の等価回路は、
図4に示すように正相回路と逆相回路と零相回路とが故障点Fにおいて直列に接続された構成を有している。この場合、逆相回路、零相回路、および地絡点抵抗3・Rは、インピーダンスZFとして1つにまとめることができる。これにより、a相地絡故障の等価回路は、
図8に示すように正相回路のみの簡易等価回路として表すことができる。なお、b相地絡故障およびc相地絡故障の場合も同様である。
【0040】
図3および
図4では1線地絡故障の場合の簡易等価回路について説明したが、他の故障種類である2線地絡故障、2線短絡故障、3相地絡故障、3相短絡故障の場合も同様の簡易等価回路で表すことができる。以下、
図5〜
図7を参照して簡単に説明する。
【0041】
図5は、
図3の故障点Fにおいてbc相2線地絡故障が生じた場合の対称座標法による等価回路である。b相およびc相の単独の地絡点抵抗をrとし、共通の地絡点抵抗をRとする。
図5に示すように、2線地絡故障の等価回路は、正相回路の故障点Fに逆相回路と零相回路とが並列に接続された構成を有する。したがって、インピーダンスZFを用いることによって、bc相2線地絡故障の等価回路は、
図8の簡易等価回路で表すことができる。なお、ca相2線地絡故障およびab相2線地絡故障の場合も同様である。
【0042】
図6は、
図3の故障点Fにおいてbc相2線短絡故障が生じた場合の対称座標法による等価回路である。
図6に示すように、2線短絡故障の等価回路は、正相回路の故障点Fに逆相回路が並列に接続された構成を有する。したがって、インピーダンスZFを用いることによってbc相2線短絡故障の等価回路は、
図8の簡易等価回路で表すことができる。なお、ca相2線短絡故障およびab相2線短絡故障の場合も同様である。
【0043】
図7は、
図3の故障点Fにおいて3相地絡故障が生じた場合の正相回路である。なお、3相短絡故障の場合の正相回路は、
図7において地絡点抵抗rが0になる。したがって、3相短絡故障および3相地絡故障の場合も、インピーダンスZFを用いることによって
図8の簡易等価回路で表すことができる。
【0044】
<2.故障点標定方法−故障点FがA端とP分岐点との間にある場合>
図8は、
図3に対応する正相回路による簡易等価回路である。故障点FはA端とP分岐点との間にある。以下、この場合の故障点Fの標定方法について説明する。
【0045】
図8を参照して、簡易等価回路における故障点Fの電圧をVFとし、P分岐点の電圧をVPとし、Q分岐点の電圧をVQとする。A端からP分岐点までの送電線インピーダンスをZAとし、B端からP分岐点までの送電線インピーダンスをZBとし、C端からQ分岐点までの送電線インピーダンスをZCとし、D端からQ分岐点までの送電線インピーダンスをZDとする。P分岐点とQ分岐点との間の送電線インピーダンスをZPQとする。
【0046】
また、
図3で説明したように、A端とP分岐点との間の線路103_1の亘長を1とした場合、A端から故障点Fまでの距離をXとし、P分岐点から故障点Fまでの距離を1−Xとする。したがって、A端から故障点Fまでの送電線インピーダンスはX*ZAと表され、P分岐点が故障点Fまでの送電線インピーダンスは(1−X)*ZAと表される。ここで、記号「*」は乗算を表す。
【0047】
この場合、各端子の正相電圧VA1,VB1,VC1,VD1と、P分岐点の電圧VPと、Q分岐点の電圧VQと、故障点Fの電圧VFとについて、
VA1=X*ZA*IA1+VF …(1)
VB1=ZB*IB1+VP …(2)
VC1=ZC*IC1+VQ …(3)
VD1=ZD*ID1+VQ …(4)
VP=ZPQ*(IC1+ID1)+VQ …(5)
VP=(1−X)*ZA*(IB1+IC1+ID1)+VF …(6)
が成立する。
【0048】
本実施の形態では、A端、B端、C端、D端についてサンプリング同期に誤差がある場合を想定している。以下では、C端のデータにB端、D端のデータを同期させる場合を考え、C端のデータに同期させたB端、D端のデータは、プライム(’)を付けて表すことにする。一方、多端子送電線102のA端とC端との間の経路上には故障点Fが存在しているので、A端のデータはC端のデータに同期させない。この意味で(1)式のA端のデータおよび故障点Fの電圧VFにはダブルプライム(”)を付けて表す。そうすると、上記(1)〜(6)式は、
VA1”=X*ZA*IA1”+VF” …(1A)
VB1’=ZB*IB1’+VP …(2A)
VC1=ZC*IC1+VQ …(3A)
VD1’=ZD*ID1’+VQ …(4A)
VP=ZPQ*(IC1+ID1’)+VQ …(5A)
VP=(1−X)*ZA*(IB1’+IC1+ID1’)+VF …(6A)
と書き直される。このサンプリング同期補正によって異なる端子間の電流のベクトル加算を行うことが可能になる。
【0049】
まず、D端のデータをC端のデータと同時刻にサンプリングされた値に補正する方法について説明する。(3A)式と(4A)式とから、
VQ=VC1−ZC*IC1 …(7)
VQ=VD1’−ZD*ID1’ …(8)
が導かれる。
【0050】
(7)式のVQと(8)式のVQとは、C端のデータとD端のデータとが同期するようにサンプリング時刻を補正したことによって互いに等しくなっている。したがって、D端のデータ補正を行う前は、D端のデータはC端のデータに比べて時間差t1[単位:秒]だけサンプリング時刻に誤差があり、これによって(8)式のVQは(7)式のVQに比べて、時間差t1に対応する位相差φ1[単位:度]だけ誤差があることになる。これらの位相差φ1およびサンプリング時刻の時間差t1は、
φ1=Arg((VD1−ZD*ID1)/(VC1−ZC*IC1)) …(9)
t1=(φ1/360°)*(1サイクルの時間) …(10)
によって計算することができる。「Arg」は複素平面上での電気量(電圧、電流、インピーダンスなど)の偏角を意味する。
【0051】
以下、上記の時間差t1だけサンプリング時刻が補正されたD端の正相電圧VD1’をVD1(t1)と記載し、時間差t1だけサンプリング時刻が補正されたD端の正相電流ID1’をID1(t1)と記載する。すなわち、D端の正相電流ID1(t1)は、C端の正相電流IC1と同時刻にサンプリングされた値に換算されたものである。
【0052】
次に、B端のデータをC端のデータと同時刻にサンプリングされた値に補正する方法について説明する。上記の(2A)式を書き直すことによって、
VP=VB1’−ZB1*IB1’ …(11)
が得られる。上記(5A)式のVQに上記(3A)式のVQを代入することによって、
VP=ZPQ*(IC1+ID1’)+VC1−ZC1*IC1
=ZPQ*(IC1+ID1(t1))+VC1−ZC1*IC1 …(12)
が得られる。
【0053】
(11)式のVPと(12)式のVPとは、B端のデータとC端のデータとが同期するようにサンプリング時刻を補正したことによって互いに等しくなっている。したがって、データ補正を行う前は、B端のデータはC端のデータと比べて時間差t2[単位:秒]だけサンプリング時刻に誤差があり、これによって(11)式のVPは(12)式のVPに比べて、時間差t2に対応する位相差φ2[単位:度]だけ誤差があることになる。これらの位相差φ2およびサンプリング時刻の時間差t2は、
φ2=Arg((VB1−ZD*IB1)
/(ZPQ*(IC1+ID1(t1))+VC1−ZC1*IC1)) …(13)
t2=(φ2/360°)*(1サイクルの時間) …(14)
によって計算することができる。
【0054】
以下、上記の時間差t2だけサンプリング時刻が補正されたB端の正相電圧VB1’をVB1(t2)と記載し、時間差t2だけサンプリング時刻が補正されたB端の正相電流IB1’をIB1(t2)と記載する。そうすると、前述の(6A)式は、
VP=(1−X)*ZA*(IB1(t2)+IC1+ID1(t1))+VF …(15)
のように書き直される。また、(11)式は、
VP=VB1(t2)−ZB1*IB1(t2) …(16)
のように書き直される。
【0055】
次に、故障点Fの標定方法について説明する。まず、前述の(1A)式は、
VF”=VA1”−X*ZA*IA1” …(17)
のように書き直すことができる。(15)式は、
VF=VP−(1−X)*ZA*(IB1(t2)+IC1+ID1(t1)) …(18)
のように書き直すことできる。(18)式のVPに(16)式を代入することによって、
VF=VB1(t2)−ZB1*IB1(t2)
−(1−X)*ZA*(IB1(t2)+IC1+ID1(t1)) …(19)
が得られる。
【0056】
(17)式のVF”と(19)式のVFとには同時刻性はないが、それぞれの振幅は等しい。したがって、
(VA1−X*ZA*IA1)amp
=[(VB1(t2)−ZB1*IB1(t2)
−(1−X)*ZA*(IB1(t2)+IC1+ID1(t1))]amp …(20)
が成り立つ。記号「amp」は振幅を表す。(20)式において、未知数はXだけなのでXを算出することができる。算出したXにA点のP分岐点との間の実際の亘長を乗算することによって、A端から故障点Fまでの距離を計算することができる。
【0057】
なお、(20)式において、時系列にサンプリングされたデータを用いて振幅値を演算する方法は、公知の方法を用いることができる。たとえば、大浦好文監修、「保護リレーシステム工学」、初版、社団法人電気学会、2002年3月、p.111(非特許文献1)の表5.2に記載された各種の振幅値演算方法を適用することができる(これに限定されるものではない)。
【0058】
上記では、故障点FがA端とP分岐点との間にある場合の故障点の標定方法について説明した。故障点FがB端とP分岐点との間、またはC端とQ分岐点との間、またはD端とQ分岐点との間にある場合も同様の考え方で故障点を標定することできる。
【0059】
<3.故障点標定方法−故障点FがP分岐点とQ分岐点との間にある場合>
図9は、故障点FがP分岐点とQ分岐点との間にある場合の正相回路による簡易等価回路である。以下、この場合の故障点Fの標定方法について説明する。
【0060】
図9を参照して、
図8の場合と同様に、簡易等価回路における故障点Fの電圧をVFとし、P分岐点の電圧をVPとし、Q分岐点の電圧をVQとする。A端からP分岐点までの送電線インピーダンスをZAとし、B端からP分岐点までの送電線インピーダンスをZBとし、C端からQ分岐点までの送電線インピーダンスをZCとし、D端からQ分岐点までの送電線インピーダンスをZDとする。P分岐点とQ分岐点との間の送電線インピーダンスをZPQとする。
【0061】
さらに、P分岐点とQ分岐点との間の線路103_0の亘長を1としたとき、P分岐点から故障点Fまでの距離をXとし、Q分岐点から故障点Fまでの距離を1−Xとする。したがって、P分岐点から故障点Fまでの送電線インピーダンスはX*ZPQと表される。Q分岐点から故障点Fまでの送電線インピーダンスは(1−X)*ZPQと表される。
【0062】
この場合、各端子の正相電圧VA1,VB1,VC1,VD1と、P分岐点の電圧VPと、Q分岐点の電圧VQと、故障点Fの電圧VFとについて、
VA1=ZA*IA1+VP …(21)
VB1=ZB*IB1+VP …(22)
VC1=ZC*IC1+VQ …(23)
VD1=ZD*ID1+VQ …(24)
VP=X*ZPQ*(IA1+IB1)+VF …(25)
VQ=(1−X)*ZPQ*(IC1+ID1)+VF …(26)
が成立する。
【0063】
本実施の形態では、A端、B端、C端、D端についてサンプリング同期に誤差がある場合を想定している。以下では、A端のデータにB端のデータを同期させ、C端のデータにD端のデータを同期させる場合を考える。A端のデータに同期したB端のデータにプライム(’)を付けて表し、C端のデータに同期したD端のデータにダブルプライム(”)を付けて表す。A端とC端とは故障点Fを間に挟んでいるので、A端のデータとC端のデータとは互いに同期させない。(25)式のVFはA端に同期しているのでプライム(’)を付けて表し、(26)式のVFはC端に同期しているのでダブルプライム(”)を付けて表す。そうすると、上記(21)〜(26)式は、
VA1=ZA*IA1+VP …(21A)
VB1’=ZB*IB1’+VP …(22A)
VC1=ZC*IC1+VQ …(23A)
VD1”=ZD*ID1”+VQ …(24A)
VP=X*ZPQ*(IA1+IB1’)+VF’ …(25A)
VQ=(1−X)*ZPQ*(IC1+ID1”)+VF” …(26A)
と書き直される。
【0064】
まず、B端のデータをA端のデータと同時刻にサンプリングされた値に補正する方法について説明する。(21A)式と(22A)式とから、
VP=VA1−ZA*IA1 …(27)
VP=VB1’−ZB*IB1’ …(28)
が導かれる。
【0065】
(27)式のVPと(28)式のVPとは、A端のデータとB端のデータとが同期するようにサンプリング時刻を補正したことによって互いに等しくなっている。したがって、データ補正を行う前は、B端のデータはA端のデータに比べて時間差t3[単位:秒]だけサンプリング時刻に誤差があり、これによって(28)式のVPは(27)式のVPと比べて、時間差t3に対応する位相差φ3[単位:度]だけ誤差があることになる。これらの位相差φ3およびサンプリング時刻の時間差t3は、
φ3=Arg((VB1−ZB*IB1)/(VA1−ZA*IA1)) …(29)
t3=(φ3/360°)*(1サイクルの時間) …(30)
によって計算することができる。
【0066】
以下、上記の時間差t3だけサンプリング時刻が補正されたB端の正相電圧VB1’をVB1(t3)と記載し、時間差t3だけサンプリング時刻が補正されたB端の正相電流IB1’をIB1(t3)と記載する。
【0067】
次に、D端のデータをC端のデータと同時刻にサンプリングされた値に補正する方法について説明する。(23A)式と(24A)式とから、
VQ=VC1−ZC*IC1 …(31)
VQ=VD1”−ZD*ID1” …(32)
が導かれる。
【0068】
(31)式のVQと(32)式のVQとは、C端のデータとD端のデータとが同期するようにサンプリング時刻を補正したことによって互いに等しくなっている。したがって、データ補正する前は、D端のデータはC端のデータに比べて時間差t4[単位:秒]だけサンプリング時刻に誤差があり、これによって(32)式のVQは(31)式のVQと比べて、時間差t4に対応する位相差φ4[単位:度]だけ誤差があることになる。これらの位相差φ4およびサンプリング時刻の時間差t4は、
φ4=Arg((VD1−ZD*ID1)/(VC1−ZC*IC1)) …(33)
t4=(φ4/360°)*(1サイクルの時間) …(34)
によって計算することができる。
【0069】
以下、上記の時間差t4だけサンプリング時刻が補正されたD端の正相電圧VD1”をVD1(t4)と記載し、時間差t4だけサンプリング時刻が補正されたD端の正相電流ID1”をID1(t4)と記載する。
【0070】
次に、故障点Fの標定方法について説明する。前述の(25A)式および(26A)式は、
VF’=VP−X*ZPQ*(IA1+IB1(t3)) …(35)
VF”=VQ−(1−X)*ZPQ*(IC1+ID1(t4)) …(36)
と書き直される。(27)式のVPを(35)式に代入し、(31)式のVQを(36)式に代入することによって、
VF’=VA1−ZA*IA1−X*ZPQ*(IA1+IB1(t3)) …(37)
VF”=VC1−ZC*IC1
−(1−X)*ZPQ*(IC1+ID1(t4)) …(38)
が導かれる。
【0071】
(37)式のVF’と(38)式のVF”とには同時刻性はないが、それぞれの振幅は等しい。したがって、
[VA1−ZA*IA1−X*ZPQ*(IA1+IB1(t3))]amp
=[VC1−ZC*IC1
−(1−X)*ZPQ*(IC1+ID1(t4))]amp …(39)
が成り立つ。記号「amp」は振幅を表す。(39)式において、未知数はXだけなのでXを算出することができる。算出したXにP分岐点とQ分岐点の間の実際の亘長を乗算することによって、P分岐点から故障点Fまでの距離を計算することができる。
【0072】
<4.故障区間の判定方法>
各端子と分岐点との間またはP分岐点とQ分岐点との間のどの区間に故障点Fが存在するかを判別できれば、上記の手順に従って故障点Fを標定することができる。以下、故障区間の判定について説明する。
【0073】
故障区間の判定は、異なる端子のデータから求めた同じ分岐点電圧の振幅を比較することによって行われる。以下では、故障区間に応じて、分岐点電圧の振幅の大小関係がどのように変化するかを説明する。
【0074】
(a) 故障点FがA端子とP分岐点との間にある場合
前述の(1)式において、0≦X<1であるので、
VF=VA1−X*ZA*IA1>VA1−ZA*IA1 …(40)
が成り立つ。前述の(6)式から、VP>VFが成り立つので、(2)式と組み合わせることにより、
VF<VP=VB1−ZB*IB1 …(41)
が成り立つ。
【0075】
A端とB端とでは同期性がないので振幅値で考えると、(40)式と(41)式とから、
(VA1−ZA*IA1)amp<(VB1−ZB*IB1)amp …(42)
が成り立つ。
【0076】
また、C端とD端とでは同期性が無いので振幅値で考えると、前述の(3)式と(4)式とから、
(VC1−ZC*IC1)amp=(VD1−ZD*ID1)amp …(43)
が成り立つ。このように、故障点FがA端とP分岐点との間にある場合には、上記(42)式と(43)式とが共に成り立つ。
【0077】
(b) 故障点FがB端子とP分岐点との間にある場合
上記(a)の場合と同様に、
(VA1−ZA*IA1)amp>(VB1−ZB*IB1)amp …(44)
(VC1−ZC*IC1)amp=(VD1−ZD*ID1)amp …(45)
が共に成り立つ。
【0078】
(c) 故障点FがC端子とQ分岐点との間にある場合
上記(a)の場合と同様に、
(VA1−ZA*IA1)amp=(VB1−ZB*IB1)amp …(46)
(VC1−ZC*IC1)amp<(VD1−ZD*ID1)amp …(47)
が共に成り立つ。
【0079】
(d) 故障点FがD端子とQ分岐点との間にある場合
上記(a)の場合と同様に、
(VA1−ZA*IA1)amp=(VB1−ZB*IB1)amp …(48)
(VC1−ZC*IC1)amp>(VD1−ZD*ID1)amp …(49)
が共に成り立つ。
【0080】
(e) 故障点FがP分岐点とQ分岐点との間にある場合
上記(a)〜(d)より、A端のデータから求めたP分岐点電圧の振幅とB端のデータから求めたP分岐点電圧の振幅とが等しく、かつ、C端のデータから求めたQ分岐点電圧の振幅とD端のデータから求めたQ分岐点電圧の振幅とが等しい場合、故障点FはP分岐点とQ分岐点との間にあることになる。すなわち、
(VA1−ZA*IA1)amp=(VB1−ZB*IB1)amp …(50)
(VC1−ZC*IC1)amp=(VD1−ZD*ID1)amp …(51)
が共に成り立つ。
【0081】
上記(a)〜(e)において、等号の判定は、予め定める誤差εの範囲内で等しいか否かが判定される。以上の関係式に基づく故障区間の判定方法を以下に総括する。
【0082】
図10は、故障区間判定部の構成を示す機能ブロック図である。
図10を参照して、故障区間判定部124は、振幅比較部150〜155と、論理演算部156〜160とを含む。論理演算部156〜160は、判定結果161〜165をそれぞれ出力する。
【0083】
振幅比較部150は、A端のデータに基づくP分岐点電圧の振幅よりもB端のデータに基づくP分岐点電圧の振幅のほうが大きいという判定式が成立するか否か、すなわち、(42)式が成立するか否かを判定する。
【0084】
振幅比較部151は、B端のデータに基づくP分岐点電圧の振幅よりもA端のデータに基づくP分岐点電圧の振幅のほうが大きいという判定式が成立するか否か、すなわち、(44)式が成立するか否かを判定する。
【0085】
振幅比較部152は、C端のデータに基づくQ分岐点電圧の振幅よりもD端のデータに基づくQ分岐点電圧の振幅のほうが大きいという判定式が成立するか否か、すなわち、(47)式が成立するか否かを判定する。
【0086】
振幅比較部153は、D端のデータに基づくQ分岐点電圧の振幅よりもC端のデータに基づくQ分岐点電圧の振幅のほうが大きいという判定式が成立するか否か、すなわち、(49)式が成立するか否かを判定する。
【0087】
振幅比較部154は、A端のデータに基づくP分岐点電圧の振幅とB端のデータに基づくP分岐点電圧の振幅との差が誤差εの範囲内であるという判定式が成立するか否か、すなわち、前述の(46)、(48)、(50)の各等式が誤差εの範囲内で成立するか否かを判定する。
【0088】
振幅比較部155は、C端のデータに基づくQ分岐点電圧の振幅とD端のデータに基づくQ分岐点電圧の振幅との差が誤差εの範囲内であるという判定式が成立するか否か、すなわち、前述の(43)、(45)、(51)の各等式が誤差εの範囲内で成立するか否かを判定する。
【0089】
論理演算部156は、振幅比較部150および155の各判定式が成立し、振幅比較部154の判定式が成立しない場合、故障点FはA端とP分岐点との間に存在するという判定結果161を出力する。
【0090】
論理演算部157は、振幅比較部151および155の各判定式が成立し、振幅比較部154の判定式が成立しない場合、故障点FはB端とP分岐点との間に存在するという判定結果162を出力する。
【0091】
論理演算部158は、振幅比較部152および154の各判定式が成立し、振幅比較部155の判定式が成立しない場合、故障点FはC端とQ分岐点との間に存在するという判定結果163を出力する。
【0092】
論理演算部159は、振幅比較部153および154の各判定式が成立し、振幅比較部155の判定式が成立しない場合、故障点FはD端とQ分岐点との間に存在するという判定結果164を出力する。
【0093】
論理演算部160は、振幅比較部154および155の各判定式が成立する場合、故障点FはP分岐点とQ分岐点との間に存在するという判定結果165を出力する。
【0094】
なお、
図5の論理演算結果156〜160のいずれにおいても否定的な判定結果であった場合は、電流および電圧の少なくとも一方の誤差が何らかの原因で大きくなったために判定不能であることを示している。この場合は、故障点Fの標定は不能となる。
【0095】
<5.サンプリング時刻の時間差の補正方法>
上記の(9)、(10)、(13)、(14)、(29)、(30)、(33)、(34)式で説明したように、2本の線路が分岐点で合流する場合に電流のベクトル加算を行う際には、各々の線路を介して分岐点と直接接続された端子間でデータが同期するようにサンプリング時刻を補正する必要がある。この場合、現時点よりも前もしくは後のタイミングで取得されたデータを現時点のデータとして使用することによって容易にサンプリング時刻を補正することができる。
【0096】
たとえば、前述の(9)および(10)式において、C端のデータとD端のデータとを同期させる場合、D端のデータがC端のデータよりも位相φ1だけ進んでいるとすれば、位相φ1に対応する時間差t1だけ現時点よりも前のデータを現時点のD端のデータとして使用する。D端のデータがC端のデータよりも位相φ1だけ遅れているとすれば、位相φ1に対応する時間差t1だけ現時点よりも後のデータを現時点のD端のデータとして使用する。これによって、D端のデータをC端のデータに同期させることができる。
【0097】
このようなサンプリング時刻の補正の精度は、データのサンプリング周波数で決まる。
図2のA/D変換部211のサンプリング周波数では補正精度として不足している場合には、A/D変換後のデータを補間することによって、より高サンプリング周波数のデータに変換し、変換後の高サンプリングレートのデータを用いて上記のサンプリング時刻の補正を行うのが望ましい。
【0098】
たとえば、A/D変換部211のサンプリング周波数を4800Hzとする。このサンプリング周波数に対応する周期は208μ秒であるので、故障点標定を目的とした場合にはサンプリング時刻の補正精度としては十分でない。そこで、データ補間によって例えば10倍のサンプリング周波数(4800Hz×10)を有するデータに変換し、変換後のデータを用いて上記のサンプリング時刻の補正を行うことによって補正精度を20.8μ秒まで高めることができる。このようなデータ補間によってサンプリング時刻補正の精度を高める手法は、後述する実施の形態2および実施の形態3の場合にも適用できる。
【0099】
[故障点標定の具体的手順]
以下、これまでの説明を総括して、故障点標定の具体的手順について説明する。
【0100】
図11は、実施の形態1の故障点標定装置の機能ブロック図である。
図12は、実施の形態1の故障点標定手順を示すフローチャートである。
図13は、
図12のステップS104の手順をさらに詳しく示すフローチャートである。
【0101】
図11を参照して、故障点標定装置106は、機能的に見ると、電流・電圧データ入出力部120と、同期処理部121と、第1の記憶領域RAM1と、第2の記憶領域RAM2と、送電線故障検出部122と、座標変換部123と、故障区間判定部124と、故障点判定部125とを含む。
【0102】
電流・電圧データ入出力部120は、
図2の入力変換部201ならびに通信装置108に接続されたI/O部231のインターフェース回路232に対応する。第1の記憶領域RAM1および第2の記憶領域RAM2は、
図2の演算処理部221のRAM223に設けられた記憶領域である。同期処理部121、送電線故障検出部122、座標変換部123、故障区間判定部124、および故障点判定部125の各機能は、
図2の演算処理部221のCPU222によってプログラムが実行されることによって実現される。なお、
図2のCPU222に代えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)などによって構成した専用回路によっても、これらの機能を実現することができる。以下、
図11の故障点標定装置106の各構成要素の動作について、
図12および
図13のフローチャートに沿って説明する。
【0103】
図11および
図12を参照して、ステップS100において、電流・電圧データ入出力部120(具体的には、入力変換部201)は、CT104から自端の電流値の入力を受け、VT105から自端の電圧値の入力を受ける。
図2のA/D変換部211は、入力された電流値および電圧値を規定のサンプリング周波数(たとえば、4800Hz)でサンプリングし、サンプリングした電流値および電圧値をデジタル値にA/D変換する。
【0104】
次のステップS101において、電流・電圧データ入出力部120(具体的には、
図2の通信装置108に接続されたインターフェース回路232)は、A/D変換後の電流データおよび電圧データを、伝送路107および通信装置108_1,108_2を介して他の各端子の故障点標定装置106に送信する。また、ステップS102において、電流・電圧データ入出力部120(具体的には、
図2の通信装置108に接続されたインターフェース回路232)は、他の各端子の故障点標定装置106によってサンプリングされた他の各端子の電流データおよび電圧データを受信する。
【0105】
次のステップS103において、各故障点標定装置106の同期処理部121は、自端の電流データおよび電圧データに対して同期処理を行う。具体的に、各端子ごとに自端とその他のある端子とのサンプリング同期をとる場合、各故障点標定装置106は、自端とその端子とを結ぶ伝送路107の双方向(上り下り)の伝送時間が等しいと仮定して、自端とその端子のサンプリングの同期をとる。これによって、各端子でのデータのサンプリング時刻をほぼ同時刻にする。
【0106】
なお、この同期処理は、次にステップS104において、送電線故障検出部122が電流差動方式で保護リレー演算を行うために必要なものである。送電線故障検出部122が電流差動方式以外の保護リレー演算によって保護区間内の故障の有無を検出する場合には、ステップS103の同期処理は必要でない。
【0107】
次のステップS104において、送電線故障検出部122は、電流差動方式による保護リレー演算を行うことによって多端子送電線102の保護区間(本実施形態の場合、CT104_1〜104_4に囲まれた区間)における故障の有無を検出し、さらに電流データおよび電圧データの急変を検出する。
【0108】
図13は、
図12のステップS104の手順をさらに詳しく示すフローチャートである。
図14は、第2の記憶領域RAM2のデータ保存期間を説明するためのタイミング図である。
【0109】
図11、
図13および
図14を参照して、
図13のステップS200において、第1の記憶領域RAM1および第2の記憶領域RAM2には、同期処理後の自端および他の各端子の電流データおよび電圧データが入力される。
【0110】
次のステップS201において、第1の記憶領域RAM1および第2の記憶領域RAM2は、自端を含めた各端子の最新の電流データおよび電圧データを格納する。このとき、第1の記憶領域RAM1および第2の記憶領域RAM2の格納データは、電流・電圧データ入出力部120によって最新のデータが取得される度に、その最新のデータが最も古いデータに置換されることによって更新される。第1の記憶領域RAM1のデータ格納期間は、電流差動リレーなどの保護リレー演算に必要な期間である。第2の記憶領域RAM2のデータ格納期間は、故障点標定に必要な期間であり、
図14のT1期間である。
【0111】
次のステップS202において、送電線故障検出部122は、自端(または他の各端子)の電流データまたは電圧データが急変したか否かを検出する。この急変検出処理として、たとえば、現時点のデータと1サイクル前のデータとの差が閾値を超えているか、または、現時点のデータと半サイクル前のデータとの和が閾値を超えているかが検出される。このような処理は、一般に電流(または電圧)変化幅リレーと称され、電流差動リレーなどの保護リレー演算よりも早く異常を検出することができる。
【0112】
この結果、電流データまたは電圧データの急変が検出された場合には(ステップS202でYES)、次のステップS205において第2の記憶領域RAM2は、その急変検出時刻t2からT2期間(T2はT1よりも小さい)の経過後にデータの更新を停止する。これによって、電流データまたは電圧データの急変が検出された時刻t2前後のT1期間(
図14の時刻t1から時刻t4まで)のデータが、第2の記憶領域RAM2に保存される(
図12のステップS105)。第2の記憶領域RAM2に保存されたデータは、
図12のステップS106以降の故障点標定に用いられる。なお、故障点標定後に、第2の記憶領域RAM2に格納されるデータの更新が再開される。
【0113】
このステップS202と並行して、ステップS203において送電線故障検出部122は、電流差動方式などによる保護リレー演算を行い、これにより多端子送電線102の保護区間(本実施形態の場合、CT104_1〜104_4に囲まれた区間)における故障の有無を検出する。この結果、保護区間内で多端子送電線102の故障が検出された場合には(ステップS204でYES)、次のステップS106以降に処理が進み、故障点標定が実行される。
【0114】
一方、電流または電圧の急変が検出された時刻t2からT3期間が経過しても多端子送電線102の保護区間内での故障が検出されなかった場合には(ステップS204でNO)、ステップS105で第2の記憶領域RAM2に保存されたデータは無効とされ、第2の記憶領域RAM2に格納されるデータの更新が再開される。
【0115】
図14において、一般的な時間設定例として、T1期間は2から3サイクルに設定され、T2期間は1〜2サイクル程度に設定され、T3期間は3サイクル以上に設定される(これらの設定値に限定されるものではない)。
【0116】
再び
図11および
図12を参照して、次のステップS106において、座標変換部123は、第2の記憶領域RAM2に格納されたT1期間のデータのうち、故障期間に含まれ振幅値演算に必要な1サイクル程度のデータを取り出す。第2の記憶領域RAM2に格納されたデータには、遮断器開放後つまり、故障除去後のデータが含まれている可能性があり、そのデータは故障点標定に用いることができないからである。座標変換部123は、取り出したA端のa相電圧Va、b相電圧Vb、c相電圧Vcの時系列データを用いてA端の正相電圧VA1の時系列データを算出する。同様に、座標変換部123は、A端のa相電流Ia、b相電流Ib、c相電流Icの時系列データを用いてA端の正相電流IA1の時系列データを算出する。さらに、座標変換部123は、他のB端、C端、D端についても同様に、正相電圧VB1,VC1,VD1の時系列データおよび正相電流IB1,IC1,ID1の時系列データを算出する。
【0117】
以下、A端〜D端の正相電圧を総称してV1と記載し、A端〜D端の正相電流を総称してI1と記載する。正相電圧V1および正相電流I1は、次の(52)式および(53)式に従って計算される。
【0118】
V1=(Va+a*Vb+(a^2)*Vc)/3 …(52)
I1=(Ia+a*Ib+(a^2)*Ic)/3 …(53)
ここで、「^」は累乗を表す記号であり、aは120°の移相を表し、
a=(1−j√3)/2 …(54)
によって定義される。したがって、a^2は240°の移相を表す。
【0119】
図15は、120°および240°の移相演算方法について説明するための図である。
図15を参照して、120°および240°の移相演算にはサンプリングデータの電気角で例えば60°前のデータを使って計算することができる。
【0120】
具体的に、
図15において、現時点の電圧データをV(t)とし、現時点よりも電気角60°前の電圧データをV(t−60°)とする。そうすると、現時点の電圧データV(t)を120°移相した電圧データV∠120°および240°移相した電圧データV∠240°は、
V∠120°=−V(t−60°) …(55)
V∠240°=V(t−60°)−V(t) …(56)
で表される。
【0121】
したがって、(52)式のa*Vbおよび(a^2)*Vcは、
a*Vb=Vb∠120°=−Vb(t−60°) …(57)
(a^2)*Vc=Vc∠240°=Vc(t−60°)−Vc(t) …(58)
に従って、計算することができる。正相電流I1の場合も同様である。
【0122】
図12の次のステップS107において、故障区間判定部124は、各端子の故障時の正相電圧および正相電流の時系列データを用いて、各端子ごとに最も近い分岐点(すなわち、各端子と線路を介して直接接続された分岐点)の電圧振幅を計算する。
【0123】
次のステップS108において、故障区間判定部124は、各分岐点と線路を介して直接接続された複数の端子の正相電圧および正相電流を用いて計算した各分岐点の電圧振幅の複数の計算結果を比較することによって、多端子送電線102のどの区間に故障が発生しているかを判定する。
【0124】
具体的に、
図1の送電系統の場合には、故障区間判定部124は、
図10で説明した判定方法に従って、(1)A端とP分岐点との間、(2)B端とP分岐点との間、(3)C端とQ分岐点との間、(4)D端とQ分岐点との間、(5)P分岐点とQ分岐点との間のどの線路103に故障点Fが存在するかを判定する。故障区間判定部124は、上記のいずれにも当てはまらない場合には、判定不能と判断して処理を終了する。
【0125】
次のステップS109において、故障点判定部125は、故障区間判定部124によって判定された区間の線路上のどの位置に故障点Fが存在するかを判定する。
【0126】
たとえば、前述の(20)式で説明したように、第1端子(たとえば、A端)と第1分岐点(たとえば、P分岐点)との間の線路に故障点Fが存在する場合には、故障点判定部125は、故障点Fを介さずに第1分岐点(P分岐点)に到達可能な全端子(B端、C端、D端)の正相電圧および正相電流を用いて第1分岐点(P分岐点)の正相電圧および正相電流を算出する。そして、故障点判定部125は、第1端子(A端)の正相電圧および正相電流に基づく故障点Fの正相電圧の振幅と第1分岐点(P分岐点)の正相電圧および正相電流に基づく故障点Fの正相電圧の振幅とが等しいとして、故障点Fの位置(すなわち、(20)式の未知数X)を判定する。
【0127】
もしくは、前述の(39)式で説明したように、第1分岐点(たとえば、P分岐点)と第2分岐点(たとえば、Q分岐点)との間の線路に故障点Fが存在する場合には、故障点判定部125は、故障点Fを介さずに第1分岐点(P分岐点)に到達可能な全端子(A端、B端)の正相電圧および正相電流を用いて第1分岐点(P分岐点)の正相電圧および正相電流を算出する。故障点判定部125は、さらに、故障点Fを介さずに第2分岐点(Q分岐点)に到達可能な全端子(C端、D端)の正相電圧および正相電流を用いて第2分岐点(Q分岐点)の正相電圧および正相電流を算出する。そして、故障点判定部125は、第1分岐点(P分岐点)の正相電圧および正相電流に基づく故障点Fの正相電圧の振幅と第2分岐点(Q分岐点)の正相電圧および正相電流に基づく故障点Fの正相電圧の振幅とが等しいとして、故障点Fの位置(未知数X)を判定する。
【0128】
なお、各分岐点の正相電流を計算する場合には、各分岐点に接続された線路を流れる電流のベクトル加算が必要になる。そこで、たとえば、第1端子(たとえば、A端)と第1分岐点(たとえば、P分岐点)との間の線路に故障点Fが存在する場合において、第1分岐点(P分岐点)の正相電圧および正相電流を算出する際には、故障点判定部125は、故障点Fを介さずに第1分岐点(P分岐点)に到達可能な全端子(B端、C端、D端)のうちいずれか1つの端子(たとえば、C端)を選択し、選択した端子(C端)の正相電圧および正相電流に同期するように、故障点Fを介さずに第1分岐点(P分岐点)に到達可能な他の端子(B端、D端)の正相電圧および正相電流のサンプリング時刻を補正する。
【0129】
具体的に、第3分岐点(Q分岐点)に線路を介して直接接続された第3端子(C端)の正相電圧および正相電流と、第3分岐点(Q分岐点)に別の線路を介して直接接続された第4端子(D端)の正相電圧および正相電流とを同期させる場合について説明する。この場合、故障点判定部125は、第3端子(C端)の正相電圧および正相電流を用いて算出した第3分岐点(Q分岐点)の電圧と第4端子(D端)の正相電圧および正相電流を用いて算出した第3分岐点(Q分岐点)の電圧との位相差を算出し、算出した位相差に対応する時間差だけサンプリング時刻を補正する。
【0130】
[他の多端子送電線への適用例]
図16は、
図1と異なる他の多端子送電線の構成を模式的に示す図である。
図16の送電系統は、6端子の多端子送電線102と、各端子に設けられたCT104_1〜104_6と、各端子に設けられたVT105_1〜105_6と、各端子の遠方に設けられた背後電源101_1〜101_6と、各端子に設けられた不図示の故障点標定装置とを含む。
【0131】
図16の多端子送電線102には、P分岐点、Q分岐点、R分岐点の3つの分岐点がある。多端子送電線102は、A端とP分岐点との間の線路103_1と、B端とP分岐点との間の線路103_2と、C端とQ分岐点との間の線路103_3と、D端とQ分岐点との間の線路103_4と、E端とQ分岐点との間の線路103_5と、G端とR分岐点との間の線路103_6とを含む。さらに、多端子送電線102は、P分岐点とR分岐点との間の線路103_7と、R分岐点とQ分岐点との間の線路103_8とを含む。
【0132】
したがって、P分岐点は、A端と線路103_1を介して直接接続され、B端と線路103_2を介して直接接続され、R分岐点と線路103_7を介して直接接続されている。Q分岐点は、C端と線路103_3を介して直接接続され、D端と線路103_4を介して直接接続され、E端と線路103_5を介して直接接続され、R分岐点と線路103_8を介して直接接続されている。R分岐点は、G端と線路103_6を介して直接接続され、P分岐点と線路103_7を介して直接接続され、Q分岐点と線路103_8を介して直接接続されている。
【0133】
上記の構成の多端子送電線102において、故障区間を判定する場合、線路103_1,103_2のいずれかに故障点Fが存在するか否かは、A端の正相電圧および正相電流を用いて算出したP分岐点の電圧振幅VP
Aと、B端の正相電圧および正相電流を用いて算出したP分岐点の電圧振幅VP
Bとを比較することによって可能である。たとえば、VP
A<VP
Bの場合は、A端とP分岐点との間の線路103_1に故障点Fが存在し、VP
A>VP
Bの場合は、B端とP分岐点との間の線路103_2に故障点Fが存在する。誤差範囲内でVP
A=のVP
B場合には、これらの線路103_1,103_2には故障点Fは存在しない。
【0134】
同様に、線路103_3,103_4,103_5のいずれかに故障点Fが存在するか否かを判定する場合には、C端の正相電圧および正相電流を用いて算出したQ分岐点の電圧振幅VQ
Cと、D端の正相電圧および正相電流を用いて算出したQ分岐点の電圧振幅VQ
Dと、E端の正相電圧および正相電流を用いて算出したQ分岐点の電圧振幅VQ
Eとを比較することによって可能である。
【0135】
一方、上記のいずれの線路103_1〜103_5にも故障点Fが存在しない場合において、線路103_6,103_7,103_8のいずれに故障点Fが存在するかを判定する場合には、P分岐点の正相電圧および正相電流と、Q分岐点の正相電圧および正相電流とを計算することが必要になる。既に説明したように、P分岐点の正相電圧および正相電流を計算する場合には、たとえば、A端の正相電圧および正相電流にB端の正相電圧および正相電流を同期させる必要がある。Q分岐点の正相電圧および正相電流を計算する場合には、たとえば、C端の正相電圧および正相電流にD端およびE端の正相電圧および正相電流を同期させる必要がある。その後、P分岐点の正相電圧および正相電流を用いて計算したR分岐点の電圧振幅VR
Pと、Q分岐点の正相電圧および正相電流を用いて計算したR分岐点の電圧振幅VR
Qと、G端の正相電圧および正相電流を用いて計算したR分岐点の電圧振幅VR
Gとを比較することによって、線路103_6,103_7,103_8のいずれかに故障点Fが存在するか否かを判定することができる。
【0136】
上記の故障区間判定の結果、いずれかの区間に故障点があると判明した場合には、当該故障区間において故障点Fの位置を判定する方法は、既に説明した方法と同様であるので、説明を繰り返さない。
【0137】
[変形例]
図12のステップS101およびステップS102において、故障点標定装置106_1〜106_4は、3相電流および3相電圧を、伝送路107_1〜107_6を介して相互にやり取りするようにしている。これに代えて、各故障点標定装置106においてまず正相電流および正相電圧に座標変換し、相手端の故障点標定装置106に正相電圧および正相電流を送信するようにしてもよい。これによって、伝送路107_1〜107_6を介して伝送するデータ量を少なくすることができるとともに、第1の記憶領域RAM1および第2の記憶領域RAM2に格納するデータ量を少なくすることができる。
【0138】
図13のステップS202では、同期処理前の自端の電流データまたは電圧データをそのまま用いて電流または電圧が急変したか否かを判定するようにしてもよい。同期処理を行わないので、より早く電流または電圧の急変を検出できる。
【0139】
図12のステップS103の同期処理は、多端子送電線102の故障検出に電流差動方式を用いるために行っている。したがって、他の方式によって多端子送電線102の故障検出を行う場合には同じ故障状態のデータのやりとりができればよく、正確な同期処理は必要でないし、故障点標定自体にステップS103の同期処理は必要でない。
【0140】
図17は、故障点標定装置を備えた電力系統の他の構成例を示す図である。
図17の電力系統は、
図1の故障点標定装置106_1〜106_4に代えて電流差動方式の保護リレー装置110_1〜110_4が設けられる。故障点標定装置111は、各保護リレー装置110_1〜110_4から検出された電流データおよび電圧データを受信する。
【0141】
この場合、故障点標定装置111は、ハードウェア構成として、
図2の演算処理部221と、I/O部231のデジタル入力回路234およびデジタル出力回路235とを備える。
図12のステップS105までは各保護リレー装置110および通信装置108によって実行され、故障点標定装置111は、
図12のステップS106以降の各ステップを実行するように構成される。
【0142】
[効果]
上記のとおり、実施の形態1の故障点標定装置106において、故障区間判定部124は、多端子送電線102の各分岐点に線路を介して直接接続された複数の端子(または複数の分岐点)の正相電圧および正相電流を用いて、各分岐点の正相電圧の振幅を複数計算する。故障区間判定部124は、これらの複数の正相電圧の振幅を比較することによって故障区間を判定することができる。
【0143】
また、故障点判定部125は、判定された故障区間の一方の端子(または分岐点)の正相電圧および正相電流を用いて算出した故障点Fの正相電圧の振幅と、故障区間の他方の端子(または分岐点)の正相電圧および正相電流を用いて算出した故障点Fの正相電圧の振幅とが等しいとして、故障点の位置を判定する。
【0144】
上記の故障区間判定部124および故障点判定部125での計算において、分岐点に個別の線路を介して直接接続された複数の端子からの電流をベクトル合成する必要がある場合には、各端子の正相電流および正相電圧を用いて分岐点の正相電圧を複数計算する。そして、計算した複数の正相電圧の位相差に対応する時間差だけ各端子のサンプリング時刻を調整することによって、分岐点での電流を求めることができる。
【0145】
このように、実施の形態1の故障点標定装置106では、多端子送電線102が有する全端子でのサンプリング時刻を、GPS信号を用いて高精度に同期化する必要無しに、精度の良い故障区間の判定および故障点位置の標定が可能である。
【0146】
実施の形態2.
実施の形態1の故障点標定装置106では、対称座標を用いて多端子送電線102の各端子の3相電圧および3相電流を正相回路の正相電圧および正相電流に変換し、正相電圧および正相電流を用いて故障点標定を行っていた。実施の形態2の故障点標定装置106は、クラーク変換(α−β−0法)を用いて多端子送電線102の各端子の3相電圧および3相電流をα電圧およびα電流もしくはβ電圧またはβ電流に変換し、α電圧およびα電流もしくはβ電圧またはβ電流を用いて故障点標定を行う。以下に説明するように、クラーク変換を用いる場合には、故障相の判定が必要であり、さらに故障相に応じて変換式が異なる点に注意する必要がある。
【0147】
[故障点標定方法について]
以下、実施の形態2による故障点標定方法の原理について説明する。
【0148】
<1.簡易等価回路による表現>
図18は、
図3の故障点Fにおいて1線地絡故障が生じた場合のクラーク座標法による等価回路である。A端におけるα回路の電圧をVAαとし、α回路の電流をIAαとする。B端におけるα回路の電圧をVBαとし、α回路の電流をIBαとする。C端におけるα回路の電圧をVCαとし、α回路の電流をICαとする。D端におけるα回路の電圧をVDαとし、α回路の電流をIDαとする。
【0149】
また、A端の零相電流をIA0とし、B端の零相電流をIB0とし、C端の零相電流をIC0とし、D端の零相電流をID0とする。A端の背後電源101_1のα回路における出力電圧をEAα=Eaとし、β回路における出力電圧をEAβ=−jEaとする。B端の背後電源101_2のα回路における出力電圧をEBα=Ebとし、β回路における出力電圧をEBβ=−jEbとする。C端の背後電源101_3のα回路における出力電圧をECα=Ecとし、β回路における出力電圧をECβ=−jEcとする。D端の背後電源101_4のα回路における出力電圧をEDα=Edとし、β回路における出力電圧をEDβ=−jEdとする。
【0150】
図18に示すように、1線地絡故障の場合のクラーク座標法による等価回路は、故障点Fにおいてα回路と零相回路とが直列に接続された構成を有する。
【0151】
図19は、
図3の故障点Fにおいて2線地絡故障が生じた場合のクラーク座標による等価回路である。A端におけるβ回路の電圧をVAβとし、β回路の電流をIAβとする。B端におけるβ回路の電圧をVBβとし、β回路の電流をIBβとする。C端におけるβ回路の電圧をVCβとし、β回路の電流をICβとする。D端におけるβ回路の電圧をVDβとし、β回路の電流をIDβとする。
【0152】
図19に示すように、2線地絡故障の場合のクラーク座標法による等価回路は、故障点Fにおいてα回路と零相回路が並列に接続されるともに、故障点Fにおいてβ回路が短絡された構成を有する。
【0153】
図20は、
図3の故障点Fにおいて2線短絡故障が生じた場合のクラーク座標による等価回路である。
図20に示すように、2線短絡故障の場合のクラーク座標法による等価回路は、故障点Fにおいてβ回路が短絡された構成を有する。
【0154】
図21は、
図3の故障点Fにおいて3相故障が生じた場合のクラーク座標による等価回路である。
図21に示すように、3相故障の場合のクラーク座標による等価回路は、故障点Fにおいてα回路が短絡されるとともに、故障点Fにおいてβ回路が短絡された構成を有する。
【0155】
図22は、
図3の故障点Fにおいて故障が生じた場合のクラーク座標による簡易等価回路である。
図22(A)はα回路による簡易等価回路を示し、故障点FにインピーダンスZFαが付加された構成を示している。故障点Fの電圧をVFαとし、P分岐点の電圧をVPαとし、Q分岐点の電圧をVQαとする。
図22(A)の簡易等価回路は、1線地絡故障および3相故障の場合に適用できる。
【0156】
図22(B)はβ回路による簡易等価回路を示し、故障点FにインピーダンスZFβが付加された構成を示している。故障点Fの電圧をVFβとし、P分岐点の電圧をVPβとし、Q分岐点の電圧をVQβとする。
図22(B)の簡易等価回路は、2線地絡故障、2線短絡故障、3相故障の場合に適用できる。このように、クラーク変換の場合には、故障種類に応じて適用すべき簡易等価回路が異なる。
【0157】
<2.クラーク変換の変換式>
図23は、クラーク変換による変換式を表形式でまとめた図である。故障種類は、1線短絡故障、2線短絡故障、2線地絡故障、および3相故障の区別がある。
【0158】
図23を参照して、1線地絡故障の場合は、α回路による簡易等価回路が用いられる。ただし、クラーク変換式が故障相に応じて異なる点に注意する必要がある。
【0159】
2線地絡故障または2線短絡故障の場合には、β回路による簡易等価回路が用いられる。ただし、クラーク変換式が故障相に応じて異なる点に注意する必要がある。
【0160】
3相故障の場合には、
図23では、β回路でbc相故障の場合の変換式が示されている。ただし、この場合は、他の相の変換式を用いてもよいし、α回路の変換式を用いることもできる。
【0161】
図23に示す変換式に従って多端子送電線102の各端子の電圧および電流を座標変換が行われる。その後の故障点標定を行う手順については実施の形態1の場合とほぼ同様である。以下、
図24および
図25を参照して説明する。
【0162】
[故障点標定の具体的手順]
図24は、実施の形態2の故障点標定装置の機能ブロック図である。
図25は、実施の形態2の故障点標定手順を示すフローチャートである。
【0163】
図24に示す故障点標定装置106の構成は、
図11の故障点標定装置106の場合とほぼ同じである。ただし、
図24の座標変換部123Aは、多端子送電線102の各端子の電圧および電流の時系列データを、送電線故障検出部122から出力された故障相に応じて、α回路の電圧および電流の時系列データもしくはβ回路の電圧および電流の時系列データに変換する。なお、送電線故障検出部122が電流差動方式によって故障検出する場合には、故障相の特定は容易である。
【0164】
図24および
図25を参照して、
図25のステップS100からステップS104までは、
図12および
図13で説明した場合と同様であるので説明を繰り返さない。
【0165】
次のステップS105において、第2の記憶領域RAM2は、電流または電圧の急変検出時刻の前後の予め定める期間(すなわち、
図14のT1期間)における自端を含む各端子の電流および電圧時系列データを保存する。第2の記憶領域RAM2は、さらに、故障相の情報も保存する。
【0166】
次のステップS106Aにおいて、座標変換部123Aは、故障相の情報に基づいて、α回路およびβ回路のうちいずれを適用すべきかを決定するとともに、クラーク変換式を決定する。
【0167】
図26は、
図24の座標変換部123Aのより詳細な構成を示す機能ブロック図である。
図26には、送電線故障検出部122の構成も示されている。
【0168】
図26を参照して、送電線故障検出部122は、a相故障検出部130と、b相故障検出部131と、c相故障検出部132とを含む。a相故障検出部130は、電流差動方式によってa相送電線の保護区間における故障の有無を判定し、判定結果を座標変換部123Aに出力する。b相故障検出部131は、電流差動方式によってb相送電線の保護区間における故障の有無を判定し、判定結果を座標変換部123Aに出力する。c相故障検出部132は、電流差動方式によってc相送電線の保護区間における故障の有無を判定し、判定結果を座標変換部123Aに出力する。
【0169】
座標変換部123Aは、a相故障検出部130、b相故障検出部131、c相故障検出部132の各出力に基づいて故障相を特定する論理演算部133〜139と、電圧電流の座標変換を行う演算部140〜145とを含む。
【0170】
論理演算部133は、3相故障が生じているか否かを判定する。論理演算部134は、a相1線故障であるか否かを判定する。論理演算部135は、bc相の2線故障であるか否かを判定する。論理演算部136は、b相1線故障であるか否かを判定する。論理演算部137は、ca相の2線故障であるか否かを判定する。論理演算部138は、c相1線故障であるか否かを判定する。論理演算部139は、ab相の2線故障であるか否かを判定する。
【0171】
演算部140〜145は、論理演算部133〜139の演算結果にそれぞれ基づいて、
図25の表で示した変換式に従って多端子送電線102の各端子の電圧および電流の座標変換を行う。すなわち、1線故障の場合は、検出された故障相に対応する演算部は、故障相に応じた変換式を用いて、A端のα電圧VAαおよびα電流IAαとB端のα電圧VBαおよびα電流IBαとを算出する。2線故障の場合は、検出された故障相に対応する演算部は、故障相に応じた変換式を用いて、A端のβ電圧VAβおよびβ電流IAβとB端のβ電圧VBβおよびβ電流IBβとを算出する。3線故障の場合は、演算部133は、たとえば、β回路のbc相故障の場合と同じ式を用いて、A端のβ電圧VAβおよびβ電流IAβとB端のβ電圧VBβおよびβ電流IBβとを算出する(
図25のステップS106A)。
【0172】
図25の次のステップS107Aにおいて、故障区間判定部124は、ステップS106Aで計算した各端子のα電圧およびα電流(またはβ電圧およびβ電流)を用いて、各端子ごとに最も近い分岐点(すなわち、各端子と線路を介して直接接続された分岐点)の電圧振幅を計算する。
【0173】
次のステップS108において、故障区間判定部124は、各分岐点と線路を介して直接接続された複数の端子のα電圧およびα電流(またはβ電圧およびβ電流)を用いて計算した各分岐点の電圧振幅の複数の計算結果を比較することによって、多端子送電線102のどの区間に故障が発生しているかを判定する。具体的には、実施の形態1における正相電圧および正相電流をそれぞれα電圧およびα電流(またはβ電圧およびβ電流)に置き替えることによって、実施の形態1の場合と同様の方法で故障区間の判定が可能である。
【0174】
次のステップS109において、故障点判定部125は、故障区間判定部124によって判定された区間の線路上のどの位置に故障点Fが存在するかを判定する。具体的には、実施の形態1における正相電圧および正相電流を、それぞれα電圧およびα電流(またはβ電圧およびβ電流)に置き替えることによって、実施の形態1の場合と同様の方法で故障点の位置の判定が可能である。
【0175】
[効果]
このようにクラーク座標法を利用する場合には、対称座標法と異なり、120°および240°の移相演算が不要である。このため、演算に必要なデータの検出期間(
図14のT1期間)を短くできる。必要なデータ期間が短ければ、故障発生直後の電流、電圧の過渡的な変化が収まってから演算することも可能であるので、高精度の故障点標定を行うことができる。
【0176】
さらに、対称座標法を用いる実施の形態1の場合には、系統周波数が定格周波数からずれた場合に、電気角60°前のデータを用いて移相演算を行うと移相演算に誤差が生じる。これに対して、クラーク変換では現時刻の最新データしか使用しないので、変数変換による誤差を考慮する必要がないというメリットがある。
【0177】
実施の形態3.
実施の形態1,2では、多端子送電線102に故障が発生してから、演算に必要となる端子間でデータが同期するようにサンプリング時刻を補正していた。具体的に、ある分岐点に個別の線路を介して複数の端子が直接接続されている場合に、これらの端子間でデータ同期を行う場合には、各端子の電圧および電流を用いて分岐点の電圧を複数計算し、計算した複数の分岐点電圧の位相差からサンプリング時刻のずれを求めていた。
【0178】
実施の形態3では、多端子送電線102に故障が発生していない通常状態において、実施の形態1,2の場合と同様に、算出した複数の分岐点電圧の位相差に基づいて多端子送電線102に含まれる複数の端子間でサンプリング時刻の同期補正を行う。このような同期補正は、一定周期で実施される。
【0179】
故障が発生していない通常状態においてサンプリング時刻の同期補正を行っているので、実施の形態1,2のように多端子送電線102での故障発生後に、サンプリング時刻の同期補正を行う必要がない。このため、故障点標定のための演算が簡単になる。さらに、送電線故障検出部122において電流差動方式で保護リレー演算を行っている場合には、保護リレー演算の精度が向上するので、送電線保護の信頼性が増すという効果がある。
【0180】
以下、実施の形態1の場合の装置構成に基づいて説明するが、実施の形態3におけるサンプリング時刻の同期補正は、実施の形態2の場合にも同様に適用可能である。
【0181】
[サンプリング時刻の同期補正の原理について]
図27は、
図1の送電系統の正相回路による簡易等価回路である。
図27の簡易等価回路は、
図8の簡易等価回路に対応するが、多端子送電線102に故障が発生していない通常状態のものであるので、故障点FのインピーダンスZFは設けられていない。
図8の場合と同様に、P分岐点の電圧をVPとし、Q分岐点の電圧をVQとする。A端からP分岐点までの送電線インピーダンスをZAとし、B端からP分岐点までの送電線インピーダンスをZBとし、C端からQ分岐点までの送電線インピーダンスをZCとし、D端からQ分岐点までの送電線インピーダンスをZDとする。P分岐点とQ分岐点との間の送電線インピーダンスをZPQとする。
【0182】
そうすると、
図27の各端子の正相電圧VA1,VB1,VC1,VD1と、P分岐点の電圧VPと、Q分岐点の電圧VQとについて、
VA1=ZA*IA1+VP …(59)
VB1=ZB*IB1+VP …(60)
VC1=ZC*IC1+VQ …(61)
VD1=ZD*ID1+VQ …(62)
VP=ZPQ*(IC1+ID1)+VQ …(63)
が成立する。
【0183】
本実施の形態では、A端、B端、C端、D端についてサンプリング同期に誤差がある場合を想定している。以下では、A端のデータにB端のデータを同期させ、C端のデータにD端のデータを同期させ、さらに、C端およびD端のデータをA端のデータに同期させる場合を考える。C端のデータに同期させた後のD端のデータにプライム(’)を付け、A端のデータに同期させた後のB端、C端およびD端のデータにダブルプライム(”)を付けて表すと、上記の(60)〜(63)式は、
VB1”=ZB*IB1”+VP …(60A)
VC1”=ZC*IC1”+VQ …(61A)
VD1’=ZD*ID1’+VQ …(62A)
(VD1’)”=ZD*(ID1’)”+VQ …(62B)
VP=ZPQ*(IC1+ID1’)+VQ …(63A)
VP=ZPQ*(IC1”+(ID1’)”)+VQ …(63B)
と書き直される。上記の(62A)式はD端のデータをC端のデータに同期させた後の表式であり、(62B)式はこれらのデータをさらにA端のデータに同期させた後の表式である。同様に、上記の(63A)式はD端のデータをC端のデータに同期させた後の表式であり、(63B)式はこれらのデータをさらにA端のデータに同期させた後の表式である。(ID1’)”は、D端の正相電流ID1をC端に同期させ、さらにA端に同期させたことを表す。(VD1’)”についても同様である。
【0184】
まず、(59)式および(60A)式から、
VP=VA1−ZA*IA1 …(64)
VP=VB1”−ZB*IB1” …(65)
が導かれる。
【0185】
(64)式のVPと(65)式のVPとは、A端のデータとB端のデータとが同期するようにサンプリング時刻を補正したことによって互いに等しくなっている。したがって、データ補正を行う前は、B端のデータはA端のデータに比べて時間差tp[単位:秒]だけサンプリング時刻に誤差があり、これによって(64)式のVPは(65)式のVPと比べて、時間差tpに対応する位相差φp[単位:度]だけ誤差があることになる。これらの位相差φpおよびサンプリング時刻の時間差tpは、
φp=Arg((VB1−ZB*IB1)/(VA1−ZA*IA1)) …(66)
tp=(φp/360°)*(1サイクルの時間) …(67)
によって計算することができる。
【0186】
次に、(61)式および(62A)式から、
VQ=VC1−ZC*IC1 …(68)
VQ=VD1’−ZD*ID1’ …(69)
が導かれる。
【0187】
(68)式のVQと(69)式のVQとは、C端のデータとD端のデータとが同期するようにサンプリング時刻を補正したことによって互いに等しくなっている。したがって、データ補正を行う前は、D端のデータはC端のデータに比べて時間差tq[単位:秒]だけサンプリング時刻に誤差があり、これによって(68)式のVQは(69)式のVQと比べて、時間差tqに対応する位相差φq[単位:度]だけ誤差があることになる。これらの位相差φqおよびサンプリング時刻の時間差tqは、
φq=Arg((VD1−ZD*ID1)/(VC1−ZC*IC1)) …(70)
tq=(φq/360°)*(1サイクルの時間) …(71)
によって計算することができる。
【0188】
次に、(61A)式から、
VQ=VC1”−ZC*IC1” …(72)
が成立する。
【0189】
(63B)式のVQに(72)式を代入することによって、
VP=ZPQ*(IC1”+(ID1’)”)+VC1”−ZC*IC1” …(73)
が導かれる。また、(59)式から、
VP=VA1−ZA*IA1 …(74)
が導かられる。
【0190】
(73)式のVPと(74)式のVPとは、A端のデータとC端のデータとが同期するようにサンプリング時刻を補正したことによって互いに等しくなっている。したがって、データ補正を行う前は、C端のデータはA端のデータに比べて時間差tr[単位:秒]だけサンプリング時刻に誤差があり、これによって(73)式のVPは(74)式のVPと比べて、時間差trに対応する位相差φr[単位:度]だけ誤差があることになる。これらの位相差φrおよびサンプリング時刻の時間差trは、
φr=Arg[(ZPQ*(IC1+ID1’)+VC1−ZC*IC1)
/(VA1−ZA*IA1)] …(75)
tr=(φr/360°)*(1サイクルの時間) …(76)
によって計算することができる。
【0191】
以上により、B端のデータはtpだけサンプリング時刻を補正し、C端のデータはtrだけサンプリング時刻を補正し、D端のデータはtq+trだけサンプリング時刻を補正することによって、A端のデータにB端、C端、D端のデータを同期させることができる。
【0192】
多端子送電線102に故障が生じていない通常状態で、上記のようなサンプリング時刻の補正を行うことによって、各端子のサンプリング時刻の同期誤差を零に近づけることができる。多端子送電線102に故障が発生した際の故障点標定演算では、系統故障の発生前にすでに各端子間の同期が採られているので、実施の形態1,2で説明したサンプリング時刻の補正を実施する必要がない。また、サンプリング時刻の同期精度が向上することによって、電流差動方式の保護リレー演算の精度が向上するので、送電線保護の信頼性が増すという効果がある。
【0193】
なお、サンプリング時刻の同期誤差は、一般的には演算処理を実行する回路のクロックを規定する水晶発振器の精度に依存すると考えられる。したがって、上記のサンプリング時刻の同期補正の周期は、水晶発振器の誤差と比較して問題にならない周期で実行する(例えば数秒周期)。
【0194】
上記の実施の形態3では、多端子送電線102が4端子の場合について説明したが、2端子、3端子、または4端子を超える多端子送電線の場合でも同様の手法で、各端子のサンプリング時刻の同期補正が可能になる。2端子送電線の場合には分岐点がないが、一方の端子を分岐点と見なすことによって上記と同様の処理によって各端子のサンプリング時刻の同期補正が可能である。
【0195】
[故障点標定の具体的手順]
以下、これまでの説明を総括して、故障点標定の具体的手順について説明する。
【0196】
図28は、実施の形態3の故障点標定装置の機能ブロック図である。
図28の故障点標定装置106において、座標変換部123は、各端子の3相電圧および3相電流の時系列データを、第1の記憶領域RAM1および第2の記憶領域RAM2に格納する前に正相電圧および正相電流の時系列データに変換する。第1の記憶領域RAM1および第2の記憶領域RAM2は、変換後の正相電圧および正相電流の時系列データを格納する。さらに、
図28の故障点標定装置106は、上記で説明したサンプリング時刻の同期補正を行うサンプリング時刻補正部126を備える。
図28のその他の構成は、
図11の場合と同様であるので説明を繰り返さない。
【0197】
図29は、
図28のサンプリング時刻補正部126の動作を示すフローチャートである。
図29の各ステップは、
図12のステップS103の同期処理を実行した後に、このステップS103の同期処理に代えて実行される。また、
図12のフローチャートにおいてステップS106の正相回路への座標変換は、
図29のステップS301として実行されるので必要でない。
【0198】
図29を参照して、ステップS301において、座標変換部123は、自端および全ての他端の正相電圧および正相電流を算出する。
【0199】
次のステップS302において、サンプリング時刻補正部126は、A端の正相電圧および正相電流からP分岐点の正相電圧VP
Aを算出する。次のステップS303において、サンプリング時刻補正部126は、B端の正相電圧および正相電流からP分岐点の正相電圧VP
Bを算出する。次のステップS304において、サンプリング時刻補正部126は、正相電圧VP
AとVP
Bの位相差φpから時間差tpを算出する。
【0200】
次のステップS305において、サンプリング時刻補正部126は、C端の正相電圧および正相電流からQ分岐点の正相電圧VQ
Cを算出する。次のステップS306において、サンプリング時刻補正部126は、D端の正相電圧および正相電流からQ分岐点の正相電圧VQ
Dを算出する。次のステップS307において、サンプリング時刻補正部126は、正相電圧VQ
CとVQ
Dの位相差φqから時間差tqを算出する。
【0201】
次のステップS308において、サンプリング時刻補正部126は、C端の正相電圧および正相電流と、時間差tqによって補正した補正後のD端の正相電流とからP分岐点の正相電圧VP
Cを算出する。次のステップS309において、サンプリング時刻補正部126は、正相電圧VP
AとVP
Cの位相差φrから時間差trを算出する。
【0202】
次のステップS310において、サンプリング時刻補正部126は、B端の正相電圧および正相電流を時間差tpによって補正する。次のステップS311において、サンプリング時刻補正部126は、C端の正相電圧および正相電流を時間差trによって補正する。次のステップS312において、サンプリング時刻補正部126は、D端の正相電圧および正相電流を時間差tq+trによって補正する。以上によって、各端子のサンプリング時刻の同期が完了する。
【0203】
なお、送電線に故障がある場合は、当然のことながら、上記の手順に従った各端子のサンプリング補正は成立しない。したがって、送電線保護リレーが送電線故障を検出すると、サンプリング時刻補正部126は、上記の手順に従うサンプリング補正制御を停止するように構成される。
【0204】
[変形例]
上記の実施の形態1〜3の説明では、主として、4端子送電線に適用する場合について記述した。しかしながら、上記の実施の形態1〜3の故障点標定装置は、4端子送電線に限定されるものではなく、3端子送電線および5端子以上の多端子送電線についても同様に適用できる。
【0205】
実施の形態1〜3の故障点標定装置は、電流差動リレーのように多端子送電線の各端子の電流および電圧に基づいて送電線保護を行う送電線保護リレー装置に内蔵することができる。
【0206】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。