特許第6804441号(P6804441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6804441平面結晶性基板、特に半導体基板のレーザ加工方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804441
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】平面結晶性基板、特に半導体基板のレーザ加工方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20201214BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20201214BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20201214BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20201214BHJP
   B23K 26/062 20140101ALI20201214BHJP
【FI】
   H01L21/78 B
   B23K26/064 A
   B23K26/53
   B23K26/00 H
   B23K26/062
   H01L21/78 V
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-522729(P2017-522729)
(86)(22)【出願日】2015年7月7日
(65)【公表番号】特表2017-521877(P2017-521877A)
(43)【公表日】2017年8月3日
(86)【国際出願番号】EP2015065476
(87)【国際公開番号】WO2016008768
(87)【国際公開日】20160121
【審査請求日】2018年7月6日
(31)【優先権主張番号】102014213775.6
(32)【優先日】2014年7月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517015041
【氏名又は名称】イノラス ソリューションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベーメ リコ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーバー ダニエル
【審査官】 杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−288503(JP,A)
【文献】 特開2006−130691(JP,A)
【文献】 特開2006−051517(JP,A)
【文献】 特開2000−288766(JP,A)
【文献】 特開2006−319198(JP,A)
【文献】 特開2004−103628(JP,A)
【文献】 特開平11−333585(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/111385(WO,A1)
【文献】 特開2009−255113(JP,A)
【文献】 特開2009−172633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/00
B23K 26/062
B23K 26/064
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を複数のパーツに分割するための平面結晶性基板のレーザ加工方法であって、
前記基板を加工するためのレーザのレーザビームを照射し、
前記レーザのビーム路に配置された光学配置において、前記光学配置に照射された前記レーザビームにより、前記光学配置のビーム出力側において、ビーム方向及び該ビーム方向に直交する第1方向の両方向から見て拡がる一方、前記第1方向及び前記ビーム方向の両方と直交する第2方向には拡がらないレーザビーム焦点面を形成し、
前記基板の内部において、前記レーザビーム焦点面によって前記基板の材料の膨張表面部位に沿って誘導吸収処理が発生するように前記基板と前記レーザビーム焦点面とを相対配置し、よって前記基板の材料において前記膨張表面部位に沿って誘導亀裂形成が実現されるものであって、
前記光学配置により前記レーザビーム焦点面が形成され、
円錐形プリズム又はアキシコンを、規定長さ、即ち前記ビーム方向において規定の膨張量を有する前記レーザビーム焦点面を形成するための非球形自由表面を備えた、前記光学配置の第1光学素子として用い、さらに、
前記第2方向における前記レーザビームの膨張を遮り、該レーザビームを前記第1方向における所望の方向に向かわせるダイアフラムを、前記非球形自由表面を備えた前記第1光学素子の前記ビーム出力側から所定距離z1離間して配置する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
基板を複数のパーツに分割するための平面結晶性基板のレーザ加工方法であって、
前記基板を加工するためのレーザのレーザビームを照射し、
前記レーザのビーム路に配置された光学配置において、前記光学配置に照射された前記レーザビームにより、前記光学配置のビーム出力側において、ビーム方向及び該ビーム方向に直交する第1方向の両方向から見て拡がる一方、前記第1方向及び前記ビーム方向の両方と直交する第2方向には拡がらないレーザビーム焦点面を形成し、
前記基板の内部において、前記レーザビーム焦点面によって前記基板の材料の膨張表面部位に沿って誘導吸収処理が発生するように前記基板と前記レーザビーム焦点面とを相対配置し、よって前記基板の材料において前記膨張表面部位に沿って誘導亀裂形成が実現されるものであって、
前記光学配置により前記レーザビーム焦点面が形成され、
円錐形プリズム又はアキシコンを、規定長さ、即ち前記ビーム方向から見た規定膨張量を有する前記レーザビーム焦点面を形成するための非球形自由表面を備えた、前記光学配置の第1光学素子として用い、さらに、
前記レーザビームを前記第1方向にフォーカスする一方前記第2方向にはフォーカスさせない第2光学素子を、前記非球形自由表面を備えた前記第1光学素子の前記ビーム出力側から既定距離z2離間して配置する
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
基板を複数のパーツに分割するための平面結晶性基板のレーザ加工方法であって、
前記基板を加工するためのレーザのレーザビームを照射し、
前記レーザのビーム路に配置された光学配置において、前記光学配置に照射された前記レーザビームにより、前記光学配置のビーム出力側において、ビーム方向及び該ビーム方向に直交する第1方向の両方向から見て拡がる一方、前記第1方向及び前記ビーム方向の両方と直交する第2方向には拡がらないレーザビーム焦点面を形成し、
前記基板の内部において、前記レーザビーム焦点面によって前記基板の材料の膨張表面部位に沿って誘導吸収処理が発生するように前記基板と前記レーザビーム焦点面とを相対配置し、よって前記基板の材料において前記膨張表面部位に沿って誘導亀裂形成が実現されるものであって、
前記光学配置により前記レーザビーム焦点面が形成され、
前記第1方向から見て前記光学配置の光軸に対してそれぞれ反対側に位置する2つの半空間からビーム束を前記光軸に向けて平行に偏向させるダブルウェッジを、前記光学配置の第3光学素子として用い、さらに、
前記レーザビームを少なくとも前記第1方向にフォーカスさせる第4光学素子を、前記第3光学素子の前記ビーム出力側に配置する
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
前記平面結晶性基板が、
・半導体基板、
・絶縁基板
少なくとも1つの結晶性又は準結晶性構造の炭素系材料を含む基板、
及び
・少なくとも1つの結晶性又は準結晶性構造の炭素系材料からなる基板、
のいずれかである、あるいは
前記平面結晶性基板が、
・半導体基板、
・絶縁基板、
・少なくとも1つの結晶性又は準結晶性構造の炭素系材料を含む基板、
及び
・少なくとも1つの結晶性又は準結晶性構造の炭素系材料からなる基板、
のいずれかを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載された方法。
【請求項5】
前記第1方向における前記レーザビーム焦点面の膨張量(幅b)が、前記第2方向における前記レーザビーム焦点面の膨張量Dに比して少なくとも5倍大きい、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載された方法。
【請求項6】
ビーム方向で見て、前記材料、即ち前記基板内部の、前記誘導吸収処理による前記膨張表面部位が、前記基板の表面と裏面の少なくともいずれか一方まで延びるように、前記基板と前記レーザビーム焦点面とを相対配置する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載された方法。
【請求項7】
ビーム方向で見て、前記材料、即ち基板内部の、前記誘導吸収処理による前記膨張表面部位が、前記基板の表面と裏面の一方から、他方までは届かないものの、前記基板の内部に延びる、即ち前記基板の全層厚さd未満となるように、前記基板と前記レーザビーム焦点面とを相対配置する、
ことを特徴とする請求項6に記載された方法。
【請求項8】
前記基板の材料の除去及び溶解が発生することなく前記基板の構造内に前記亀裂形成が実現されるように前記誘導吸収処理を発生させることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載された方法。
【請求項9】
前記レーザとしてパルスレーザを用いる
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載された方法。
【請求項10】
前記レーザのパルス幅τは、前記基板の材料との相互作用時間内で該材料の熱拡散が無視できるほど小さく設定され、
又は、
前記レーザのパルス繰返周波数が10kHzから1,000kHzの間であり、
又は、
前記レーザが単パルスレーザとして若しくはバーストパルスレーザであり、
又は、
前記レーザ出力側で測定した平均レーザ出力が、5ワットから100ワットの間である、
ことを特徴とする請求項9に記載された方法。
【請求項11】
前記レーザビームが、前記基板の表面に対し、複数のパーツを得るために前記基板を分割するためのラインに沿って動かされ、よって、前記基板の内部において、前記誘導吸収処理による多数の膨張表面部位が該ラインに沿って生成される
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載された方法。
【請求項12】
前記基板内部における前記誘導吸収処理による前記多数の膨張表面部位の生成中及び/又は生成後において、隣接する前記誘導吸収処理による膨張表面部位間で、機械的な力が前記基板に加えられ、及び/又は熱応力が前記基板内に加えられ、具体的には前記基板が不均一に熱せされた後に再び冷やされることで、前記基板を前記複数のパーツに分割するための亀裂形成を実現することを特徴とする請求項11に記載された方法。
【請求項13】
基板を加工するためのレーザのレーザビームを用いて、前記基板を複数のパーツに分割するための平面結晶性基板のレーザ加工装置であって、
照射された前記レーザビームにより、出力側において、ビーム方向及び該ビーム方向に直交する第1方向の両方向から見て拡がる一方、前記第1方向及び前記ビーム方向の両方と直交する第2方向には拡がらないレーザビーム焦点表面が形成される、前記レーザのビーム路に配置された光学配置を有し、
前記基板の内部において、前記レーザビーム焦点面によって前記基板の材料の膨張表面部位に沿って誘導吸収処理が発生するように前記基板と前記レーザビーム焦点面とが相対配置可能又は相対配置され、よって前記基板の材料において前記膨張表面部位に沿って誘導亀裂形成が実現されるものであって、
前記ビーム方向と前記ビーム方向に直交する前記第1方向とにおいて膨張する一方、前記第2方向においては膨張しない前記レーザビーム焦点面を形成するための光学配置が、 前記光学配置が、規定長さ、即ちビーム方向において規定の膨張量を持つ前記レーザビーム焦点面を形成するための非球形自由表面を備えた第1光学素子としての円錐プリズム又はアキシコンと、
前記非球形自由表面を有する第1光学素子の出力側から所定距離z1の位置に、前記第2方向における前記レーザビームの膨張を遮る、即ち前記第1方向における所望の方向に向かわせるダイアフラムと、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項14】
基板を加工するためのレーザのレーザビームを用いて、前記基板を複数のパーツに分割するための平面結晶性基板のレーザ加工装置であって、
照射された前記レーザビームにより、出力側において、ビーム方向及び該ビーム方向に直交する第1方向の両方向から見て拡がる一方、前記第1方向及び前記ビーム方向の両方と直交する第2方向には拡がらないレーザビーム焦点表面が形成される、前記レーザのビーム路に配置された前記装置の光学配置を有し、
前記基板の内部において、前記レーザビーム焦点面によって前記基板の材料の膨張表面部位に沿って誘導吸収処理が発生するように前記基板と前記レーザビーム焦点面とが相対配置可能又は相対配置され、よって前記基板の材料において前記膨張表面部位に沿って誘導亀裂形成が実現されるものであって、
前記光学配置は、前記ビーム方向と前記ビーム方向に直交する前記第1方向とにおいて膨張する一方、前記第2方向においては膨張しない前記レーザビーム焦点面を形成するための光学配置であって、
規定長さ、即ちビーム方向において規定の膨張量を持つ前記レーザビーム焦点面を形成するための非球形自由表面を有する第1光学素子としての円錐プリズム又はアキシコンと、
前記非球形自由表面を有する第1光学素子の出力側から既定距離z2の位置に、前記レーザビームを前記第1方向にフォーカスする一方前記第2方向にはフォーカスしない第2光学素子と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項15】
基板を加工するためのレーザのレーザビームを用いて、前記基板を複数のパーツに分割するための平面結晶性基板のレーザ加工装置であって、
照射された前記レーザビームにより、出力側において、ビーム方向及び該ビーム方向に直交する第1方向の両方向から見て拡がる一方、前記第1方向及び前記ビーム方向の両方と直交する第2方向には拡がらないレーザビーム焦点表面が形成される、前記レーザのビーム路に配置された前記装置の光学配置を有し、
前記基板の内部において、前記レーザビーム焦点面によって前記基板の材料の膨張表面部位に沿って誘導吸収処理が発生するように前記基板と前記レーザビーム焦点面とが相対配置可能又は相対配置され、よって前記基板の材料において前記膨張表面部位に沿って誘導亀裂形成が実現されるものであって、
前記光学配置は、前記ビーム方向と前記ビーム方向に直交する前記第1方向とにおいて膨張する一方、前記第2方向においては膨張しない前記レーザビーム焦点面を形成するための光学配置であって、
前記第1方向から見て前記光学配置の光軸に対してそれぞれ反対側に位置する2つの半空間からビーム束を前記光軸に向けて平行に偏向させる第3光学素子としてのダブルウェッジと、さらに、
前記第3光学素子の前記ビーム出力側に設けられた、前記レーザビームを少なくとも前記第1方向にフォーカスする光学素子と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項16】
請求項13から15のいずれか1項に記載された装置の使用方法であって、
・半導体基板を分離し、
・絶縁基板を分離し
少なくとも1つの結晶性もしくは準結晶性構造の炭素系材料を含む基板を分離し、
又は
・少なくとも1つの結晶性もしくは準結晶性構造の炭素系材料からなる基板を分離する、
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、平面結晶性基板を複数のパーツに分割するためのレーザ加工方法、並びにその装置及びかかる方法や装置の用途に関する。より詳しくは、半導体ウェハ状の平面基板を複数のパーツに分割する(該ウェハを分離する)ことを目的とする。当該処理においては、通常、基板の材料を実質的に透過する周波数のパルスレーザが用いられる。
【背景技術】
【0002】
かかる材料をレーザにより分割する装置及び方法は従来から知られている。
【発明の概要】
【0003】
ドイツ特許出願公報第10 2011 000 768号では、材料、波長、又は電力により大部分が吸収されるレーザを用い、又は、第1インタラクション(電荷キャリア製造時の加熱;誘導吸収)後に材料に高い吸収性能を持たせ、そして該材料を切断する。しかし、かかる方法は、多くの材料において欠点がある。例えば、粒子構造に起因する除去時の不純物の混入や、熱による切断面の微細な亀裂の発生、切断面の溶けの発生、又は材料の厚さに対する切断間隙の不統一(深さにより幅が異なる。例えば、くさび状の切り欠け)、などである。また、材料の蒸気化又は液化が必要なため、高いレーザ平均出力が必要となる。
【0004】
米国特許公報(US6472295B1)は、材料のレーザ切削方法及び装置について示す。該方法は、レーザシステムからレーザパルスを生成し、該レーザパルスを材料に対して用いることにより、材料を切削する。レーザパルスは、略楕円状の点を生成し、約100ナノ秒未満の時間的パルスを持ち、材料の除去に必要なエネルギのおよそ2〜20倍のエネルギ密度を有する。
【0005】
米国特許出願公報(US2013/327389A1)は、光起電装置の層構造を備える方法を開示する。該層構造は、電極と光吸収材とを備え、例えば、電極に設けられた銅 - インジウム - ガリウムジセレニドといったカルコパイライト半導体材料の層と、透明電極とを備える。
【0006】
米国特許出願公報(US2013/119031A1)は、層材料に亀裂を生じさせることなく、基板上の材料層からの製造方法が開示されている。ここでは、パルスレーザが使われている。
【0007】
米国特許出願公報(US2002/050489A1)は、レーザビーム機械加工方法では、レーザビームを透過させることのできる液体が用いられている。即ち、レーザビームは、該流体によって目標表面までガイドされる。
【0008】
さらに、焦点が材料の内側となるように、ある波長において広く透過性を持つ材料に対しレーザを用いる方法もある。なお、照射対象となる材料の内部焦点において内部ダメージが発生する程度に、該レーザの強度が十分に強いものである必要がある。
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記方法の場合、特定の深さ又は表面でクラックの発生が誘発されるという欠点があり、材料の全体厚さを切断するには、追加で機械的及び/又は熱的に亀裂伝播を誘起する必要がある。しかし、亀裂は統一性なく伝播されるため、通常切断面は非常に粗く、しばしば再加工が必要となる。さらに、同一の処理を異なる深さに対して複数回繰り返さなければならず、これによって処理速度が数倍も遅れることとなる。
【0010】
上記技術から、本発明の目的は、高速な処理速度で、平面形状の結晶性基板(特に、半導体材料からなる基板)を、粒子形成を生じさせることなく、切断面を溶かすことなく、切断面における亀裂形成を最小にし、目立つ切断間隙(即ち、材料のロス)を生じさせることなく、かつ切断面を可能な限り直線にするように加工(特に、完全に分割させる)する方法(及び対応する装置)を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、独立請求項1から3に係る方法及び独立請求項15,16,17に係る装置により達成される。本方法又は装置の好適な実施例及び/又は展開例は、従属項により達成することができる。本発明に係る本質的な用途発明は請求項18に記載されている。
【0012】
先ず、本発明の前提(本発明に係る、基板が各パーツに分割するメカニズム)について説明する。
【0013】
本発明に係る分割方法は、レーザパルス毎に、本発明の目的に適したレーザレンズ系(以下、光学配置とも呼ぶ)により、(焦点と対比させて)レーザビーム焦点面を生成する。該焦点面はレーザと基板材料との間のインタラクション領域を定義する。焦点面が分割されるべき材料内にある場合は、当該材料との相互作用が生じるようにレーザパラメータが選択され、当該焦点面に沿って本発明に係る亀裂領域が生成される(即ち、該焦点面に亘って亀裂領域が設けられる)。なお、レーザパラメータとして重要なのは、該レーザの波長とパルス幅(パルス時間)である。
【0014】
本発明に係るレーザビームと材料との相互作用として、以下のような性質が表れることが好ましい:
1) 材料を実質的に透過するようなレーザの波長を選択する(具体的には、例えば、材料深さ1mmあたりの吸収率<<10%ランベルトーベール吸収係数γ<<1/cm)。
2) 相互作用時間内において、インタラクション領域からの実質的な熱の伝達(熱拡散)が生じないようなレーザパルス幅を選択する(具体的には、例えば、τ<<F/α。但し、F:レーザビーム焦点面の面積、τレーザパルス幅、α:材料の熱拡散定数)。
3) インタラクション領域、即ち焦点面において、材料の局所過熱、別言すれば、材料に印加される熱応力により亀裂形成を引き起こす誘導吸収処理(induced absorption)を実現するエネルギ強度のレーザパルスエネルギを選択する。
4) さらに、除去や溶解ではなく、固体構造における亀裂形成のみが影響を受けるようなパルス時間中の強度、パルスエネルギ、及びレーザビーム焦点面の膨張量又はサイズを選択する。かかる要件は、サブナノ秒オーダのパルスレーザ、具体的には、例えば10から100psのパルス幅を用いることで、半導体や透明結晶といった従来の材料において最も容易に満たすことができる。
【0015】
次に、所望の分割表面が得られる幾何学的生産方法(基板表面に沿ったレーザビームと基板の相対的動作)について説明する。
【0016】
本発明に係る材料との相互作用では、レーザパルス毎に、(レーザビームの入射方向及び基板表面と垂直方向から見て)焦点面に亘って材料中に亀裂領域が発生する。材料の完全分割にあっては、レーザパルス毎に、所望の分割線沿いに当該亀裂領域が密集するように連続して配置され、当該亀裂領域が連結して材料に対する所望の亀裂表面/輪郭が形成される。このため、レーザは所定周波数で繰り返し照射される。
【0017】
材料に所望の分割面を生成するためには、基板平面と平行(及び可能であれば垂直)に移動可能な光学配置により、固定された材料に対してパルスレーザビームを当てる、又は、当該所望の分割線を形成ように、移動手段を用いて、固定された光学配置に対して材料そのものを動かすことができる。
【0018】
そして、基板を複数のパーツに分割(分割又は分離)する最後のステップを実行する。
【0019】
生成した亀裂表面/輪郭に沿った材料の分離は、材料の内在応力又は外的な力、例えば機械的(引張)若しくは熱的(非均一過熱/冷却)応力の影響を受ける。本発明によれば、材料が除去されることがないため、通常、一時的には材料中に連続した空隙は生じず、互いに連鎖した状態で、ブリッジにより連結された、細かく破壊された領域(マイクロクラック)のみが存在する。続いて印加される外力により(基板と平行に作用する)横割れが成長して上記ブリッジが分割され、連鎖状態が解消されることにより、分割面に沿って材料が分割される。
【0020】
次いで、本発明に係る方法及び本発明に係る装置の本質的特徴について、特許請求の範囲の記載を参照しながら説明する。
【0021】
請求項1から3は本発明に係る方法の本質的特徴を規定し、請求項13,14,15は本発明に係る方法を実行するための装置本質的な構成素子を規定する。
【0022】
なお、請求項に規定される、前記光学配置により発生するレーザビーム焦点面は、上記及び以下において、レーザビームの焦点面とも呼ぶ。本発明にあっては、基板平面から見た亀裂形成(基板面に直交する方向において基板面に向けて延びる焦点面での誘導吸収処理)によって基板を複数のパーツに分割又は分離する。したがって、当該亀裂形成は、基板又は基板平面と直交する基板内部にまで影響を及ぼす。上述した如く、一般的には、基板表面の線に沿って相当数のレーザビーム焦点面位置を導く必要があり、これにより基板の各部分がそれぞれ分割されることなる。また、かかる目的を達成するためには、レーザビーム若しくは光学配置に対して基板を基板平面と平行に移動させる、又は固定された基板に対して該光学配置を光学平面と平行に移動させることができる。
【0023】
また、本方法又は装置の少なくとも1つの従属項に記載される特徴を効果的に追加することもできる。また、複数の従属項の特徴を組み合わせることもできる。
【0024】
数学的に、表面(即ち、レーザビーム焦点面)なる文言は、2次元で無限に拡がる構造を意味するものとして理解されている。なお、上記2次元(その近似値)におけるレーザビーム焦点面の拡がりは、半値全幅により定義することができる。本発明において、上記2つの次元の直交方向におけるレーザビーム焦点面の拡がりは、上記2つの次元に比して非常に小さく、好適には、少なくとも10倍、若しくは50倍、100倍、又は500倍小さくても良い。なお、「表面部位に沿って」なる文言は、「当該部分の全表面に亘って」と同じ意味をなす。また、上記誘導吸収処理とは、結晶構造体に微細構造欠陥を形成する処理をいう。該微細構造欠陥は強度を弱めた表面部位を意味し、当該部分に沿って基板が複数に分割される。したがって、(一般的な意味を脱することなく)基板材料の膨張を介し、レーザビーム焦点面領域における局所的エネルギ吸収によって非結晶化が生じるものと推測することができる。即ち、膨張によって生じた圧力により、誘導吸収処理により膨張した表面部位に局所的な亀裂が発生する。
【0025】
さらに有利な特徴が従属項により達成することができる。即ち、半導体基板は、特に4−6又は3−5半導体基板(好ましくは、GaAs基板)、又は基本半導体基板(好ましくは、Si基板)である。絶縁基板は、特に酸化物(好ましくは、Al2O3(サファイア)やSiO2(石英))、フッ化物(好ましくは、CaF2やMgF2)、塩化化合物(好ましくは、NaCl)、又は窒化物(好ましくは、Si3N4やBN)である。基板は、結晶質又は準結晶質の基本順序を有する少なくとも1つの炭素系材料を含む、又は、これからなる基板が、特にカーボンナノチューブを構成する。
【0026】
また、さらに有利な特徴が請求項に記載される。即ち、特定の空間方向におけるレーザビーム焦点面の拡がりは、当該レーザビームの最大強度の少なくとも半分の強度のレーザビームの拡がりにより定義することができる。レーザビーム焦点面の拡張(ここで長さlと呼ぶ)がレーザビーム焦点面の第2方向における膨張量Dよりも少なくとも10倍大きい。ビーム方向におけるレーザビーム焦点面の長さは、該レーザビーム焦点面の第2方向における膨張量Dよりも大きく、好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも50倍、さらに好ましくは少なくとも100倍、特に好ましくは少なくとも500倍である。レーザビーム焦点面の第1方向の幅は、該レーザビーム焦点面の第2方向における膨張量Dよりも大きく、好ましくは少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも50倍、さらに好ましくは少なくとも100倍である。
【0027】
また、請求項に係る方法にあっては、基板内部において誘導吸収処理により膨張した表面部位は基板表面から基板の規定深さまで(あるいは、それを超えて)拡がる。したがって、誘導吸収処理による膨張部分は、一方の表面から他方の表面までの全基板深さを覆うこととなる。また、基板の内部のみで(即ち、基板表面を含むことなく)誘導吸収処理により横方向に膨張した部分を生成することも可能である。
【0028】
さらなる有利な特徴が、請求項により達成される(後述する図3も参照のこと)。基板は、レーザ焦点面に対し、材料中(即ち、基板内部)の誘導吸収処理により膨張した表面部位が、ビーム方向から見て、対向して配置された基板表面の一方から他方まで(即ち、基板の層厚さd全体に亘って)延びるように相対配置される。材料中(即ち、基板内部)の誘導吸収処理により膨張した表面部位は、ビーム方向から見て、対向して配置された基板表面から、基板に向かって、層全体厚さdの80%〜90%を超えて、好ましくは85%〜95%を超えて、より好ましくは90%を超えて膨張する。ここで、誘導吸収処理により膨張した表面部位(即ち、基板平面に対して垂直方向の亀裂長さ等)は、基板内部の特定の深さから基板の背面側表面まで、又は基板の表側表面から基板内部の特定の深さまで延びる。そしていずれの場合も、平面基板の対向する2つの基板表面と垂直な層厚さdが測定される。
【0029】
請求項及び残り全ての請求項において、記載される範囲制限は、それぞれ上限及び下限値を示す。
【0030】
本発明にあっては、請求項により、有利に誘導吸収処理を発生させることができる。これは、上記したレーザパラメータ、具体的には、続く実施例及び従属項から12においても規定するように、本発明に係る装置を構成する素子の光学配置及び当該配置に係る幾何学的パラメータを調整することで達成できる。原則、請求項から12に記載されるパラメータの組合せはいずれも可能である。なお、τ<<F/αとは、τが1%未満、好適には、F/αの1%未満(Fはレーザビーム焦点面の平面的拡がり)であることを意味する。例えば、パルス幅τを10ps(又はそれ以下)、10から100psの間、又は100ps以上とする。Si基板の分離の場合、好適には、波長1.5から1.8μmのEr:YAGレーザが利用される。なお、通常、半導体基板に用いられるレーザの波長は、光子エネルギが該半導体のバンドギャップ未満となるように選択される。
【0031】
レーザビーム焦点面の長さlは、0.2mm〜10mmである。レーザビーム焦点面の幅bは0.02mm〜2.5mmである。基板の層厚さd(対向配置された基板表面の直交方向の測定値)は、2μm〜3000μmである。レーザビーム焦点面長さlと基板層厚さdの比率V1=l/dは、10〜0.5である。第2方向におけるレーザビーム焦点面の膨張量Dは1μm〜50μmである。
【0032】
具体的には以下が好ましい。レーザビーム焦点面の長さlが0.5mm〜2mm、及び/又は、レーザビーム焦点面の幅bが0.05mm〜0.2mm、及び/又は、レーザビーム焦点面の層厚さd(対向配置された基板表面の直交方向の測定値)が100μm〜500μm、及び/又は、レーザビーム焦点面長さlと基板層厚さdの比率V1=l/dが5〜2、及び/又は、第2方向におけるレーザビーム焦点面の膨張量Dが5μm〜25μmである。
【0033】
レーザのパルス幅τは、基板(1)の材料に対する相互作用時間内において、該材料内の熱拡散は無視できるほど小さいか、影響がなくなるように選択される。したがって、好ましくは、レーザビーム焦点面の表面膨張Fと基板の材料の熱拡散定数αとが、τ<<F/αに従って調整され、具体的には、τが10ns未満、好ましくは100ps未満となるように選択されることが望ましい。レーザのパルス繰返周波数は100kHzとすることができる。平均レーザ出力は、15ワット〜30ワットの間である。特に、可視波長帯において透明な結晶体を基板とするとき、レーザとして、波長λが1064nmのNd:YAGレーザ、又は波長λが1030nmのY:YAGレーザを用いることができる。あるいは、赤外波長帯で透明となる半導体基板の場合、レーザーとして波長λが1.5μm〜2.1μmのEr:YAGレーザを用いることができる。
【0034】
レーザの波長λは、基板の材料が当該波長において透明又は略透明になるように選択される。なお、略透明とは、基板材料中においてビーム方向に沿って生じるレーザビームの強度低下が、貫通深度1ミリメートル当たり10%以下であることを意味する。
【0035】
基板を最終的に複数のパーツに分割又は分離するためにさらに必要となり得る方法処理については、従属項11及び12に記載される。
【0036】
レーザビームは、基板を複数の部分に分ける第1方向と平行な線に沿い、基板表面に対して移動することができ、この線に沿って、基板の内部において、誘導吸収処理により膨張した表面部位が多量に生成される。好ましくは、誘導吸収処理により膨張した表面部位のうち、直接隣接しているもの(即ち、連続して生成されたもの)同士の平均間隔Aと、第1方向におけるレーザビーム焦点面の幅bとの割合V2=A/Bが、1.0〜1.3、好ましくは1.0〜1.1となる。
【0037】
記した如く、(レーザを含む)光学配置に対して基板を移動させるか、基板に対して(レーザを含む)光学配置を移動させる。ここで、間隔Aは、(ビーム方向zから見て、即ち基板に向けて)直接対向する位置にある2つの隣接した誘導吸収処理による表面部位の境界間の距離ではなく、2つの隣接した誘導吸収処理による表面部位におけるある境界とそれに対応する境界(例えば、所望の分割線に沿ったレーザ方向で見て、正面位置の境界)間の距離を意味する。これは、基板内部で発生した各誘導吸収処理が重なるのを避けつつ、可能な限り狭い間隔で、所望の分割線に沿って隣接する誘導吸収処理による表面部位を繋げることを目的とする(さもなければ、重なり合った領域において吸収強度が約2倍になり、結晶性構造の所望の分割線に沿った微細構造欠陥の差が大きくなり過ぎてしまうためである)。また、請求項1に記載する亀裂形成は(本発明において必須となる誘導亀裂形成に対して)、横割れ、即ち基板の平面に沿った方向(基板が分割されるべき線に対応する方向)における横割れの形成を意味する。
【0038】
レーザビーム焦点面を生成、配置する光学配置の種々の実施例について記載する請求項13〜15に係る発明の装置による有利な発展例を以下に示す(後述する実施例及び図4から7も参照のこと)。
【0039】
請求項13に記載する非球形自由表面を有する光学素子とダイアフラムとの間には、レーザビームをコリメートする光学素子が配置され、非球形自由表面を持つ光学素子から放射されるレーザ放射がダイアフラムに向けて平行に投射されるように当該光学素子を配向する。
【0040】
光学配置は、ダイアフラム又はレーザビームを第2方向でなく第1方向にフォーカスする光学素子のビーム出力側において、レーザビームを少なくとも第1方向にフォーカスする光学素子を備える。
【0041】
第1方向における所望の方向に配向されたダイアフラムは、第1方向に向けられたスリットダイアフラムであっても良い。レーザビームをコリメートする光学要素は、平凸コリメーションレンズとすることができる。非球形自由表面を有する光学素子の出力側に距離z2を空けて設けられ、レーザビームを第2方向ではなく第1方向にフォーカスする光学素子は、第2方向に向けられた円柱レンズでも良い。該光学配置内において、ダイアフラム又はレーザビームを第2方向でなく第1方向にフォーカスする光学素子の出力側に設けられた光学素子は、コリメーションレンズ、好ましくは、レーザビームを第1及び第2方向にフォーカスする平凸コリメーションレンズとすることができる。ダブルエッジの出力側に配置されてレーザビームを少なくとも第1方向にフォーカスする光学素子は、コリメーションレンズ、好ましくは、レーザビームを第1及び第2方向にフォーカスする平凸コリメーションレンズとすることができる。
【0042】
お、本発明に係る装置は、光学配置及びこれと相対的に配置される基板とを含む。
【0043】
また、ダイアフラムに代えて、絞りを用いる、又はダイアフラムによって絞りを形成しても良い。また、ダイアフラムに代えて(所定のエッジ強度の)回析素子を用いたり、ダイアフラムを(所定のエッジ強度の)回析素子として形成したりしても良い(通常のダイアフラムに加え、回析ビーム形成器を組み合わせてアキシコンによるラインフォーカスを形成しても良い)。
【0044】
請求項1において、2つのビーム束の偏向とは、全体として視たとき、2つのビーム束がそれぞれ平行に偏向されると共に、相互に向かい合うことを意味する。
【0045】
本発明に係る本質的な用途は請求項1によって達成される。即ち、半導体基板、具体的には、4−6又は3−5半導体基板(好ましくは、GaAs基板)、又は基本半導体基板(好ましくは、Si基板)である。絶縁基板は、特に酸化物(好ましくは、Al2O3(サファイア)やSiO2(石英))、フッ化物(好ましくは、CaF2やMgF2)、塩化化合物(好ましくは、NaCl)、又は窒化物(好ましくは、Si3N4やBN)からなる半導体基板の分離、あるいは、結晶質又は準結晶質の基本順序を有する少なくとも1つの炭素系材料を含む、又は、これからなる基板(具体的には、カーボンナノチューブ)の分離を達成できる。
【0046】
本発明は、先行技術における公知の方法や装置に比して、一連の優位性を有する。
【0047】
先ず、本発明による切断形成にあっては、粒子形成を生じさせず、切断面を溶かさず、切断面における亀裂形成を最小にし、目立つ切断間隙(即ち、基板材料のロス)を生じさせることなく、かつ切断面を直線にすることができる。
【0048】
本発明にあっては、非常に高いレーザ平均出力が必要となるが、比較的高い分割率を達成することができる。したがって、本発明によりレーザパルスごと(又はバーストパルスごと)にレーザビーム焦点面(拡がりを持たない非常に局所的な焦点ではない)が形成される。そのために、後述するレーザレンズ系が用いられる。また、焦点面によりレーザと基板との間のインタラクション領域が規定される。焦点面が、(深さ方向で視て)少なくとも部分的に分割される基板材料に入る場合、本発明に係る材料との相互作用によって全焦点面深さ及び全焦点面の平面に亘る亀裂領域を形成するようにレーザパラメータを選択しても良い。選択可能なレーザパラメータには、例えば、レーザ波長、レーザパルス幅、及びレーザパルスエネルギがある。
【0049】
機械的な亀裂及び破壊処理に関し、本発明に係る方法の有するさらに有利な点は、粒子形成が生じない(又は、少なくとも最小である)ことに加え、機械的な亀裂線に比して高いアスペクト比(レーザビーム焦点面の、第2方向の拡張に対する深さ方向への拡張の比)を得られることにある。機械的亀裂及び破壊処理中、広範囲にわたる制御不能な亀裂成長によって材料に破断線が形成されるが、本発明による分割は、基板の法線に対して非常に正確に調整可能な角度で行うことができる。また、本発明によれば、斜め方向の切断も容易に可能となる。
【0050】
さらに、厚い材料に対しても、加工速度の高速化が可能である。
【0051】
また、表面除去、表面上のばり形成、及び粒子形成が回避される(特に、基板の表面からその内部に向けて基板に対する焦点位置を調整することにより、本発明における膨張誘導吸収処理及び亀裂形成を確実に実行できる)。かかる場合、表面に対して第1の(所望の)ダメージが加えられると共に、基板深さへの誘導吸収処理により亀裂形成領域に沿った規定に応じてダメージが継続される。
【0052】
本発明にあっては、異なる材料、具体的には、サファイアウェハ、半導体ウェハ等も加工することができる。
【0053】
また、一方が透明でない、コーティング済み材料(例えばTCOコーティング)や印刷済み基板であっても、本発明に係る加工、分割を行うことができる。
【0054】
本発明にあっては、実際に切断間隙を生じることなく切断処理をすることが可能である。即ち、材料へのダメージは、通常1〜10μmの膨張範囲でのみ生じる。具体的には、材料や表面に関して切断ロスが生じない。切断間隙ロスがある場合は、ウェハの利用可能面積が減少するため、上記効果は半導体ウェハの切断において特に有利に働く。焦点面切断処理に関する本発明の方法により表面歩留りを増加させることができる。
【0055】
本発明に係る方法は、特に製造処理のインライン作業において利用することができる。特に有利なのは、ロール・ツー・ロールの製造処理時である。
【0056】
本発明にあっては、バーストパルスを発生するレーザのような、パルスレーザをそれぞれ利用できる。また、継続ライン作業において当該レーザを使用することも原則可能である。
【0057】
以下の明細書の記載は、例示である:
1. サファイアウェハを全体的に又は部分的に分割することによるサファイアLEDの分割。本発明に係る方法により、単一のステップで金属層が分割される。
2. テープを損傷させることなく半導体ウェハの分離が可能。そのために、焦点面は基板表面から(レーザとは逆側となる、基板の裏面側の)テープ膜部分までとし、焦点面の一部のみを基板材料の内側に配置する。例えば、材料の約10%は分割しない。上記の通り、焦点面は当該膜の前までとなるように配置されるため、当該膜はそのまま残る。その後、半導体ウェハの残りの10%に対しては、機械的な外力(例えばCO2レーザによる熱応力)により連続的に分割されても良い。
3. コーティング済み材料、例えば、ブラッグ反射器(DBR)や金属膜サファイアウェハの切断。活性金属や金属酸化物が既に塗布された加工済みシリコンウェハであっても、本発明によって切断することができる。
【0058】
以上を前提とし、いくつかの実施例を参照しながら本発明について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】本発明に係る、レーザビーム焦点面領域における誘導吸収処理に起因する、レーザ周波数にて透過の基板材料(シリコン基板)の加工処理が実行されるレーザビーム焦点面生成の原理を示す。
図2】本発明における、基板に対するレーザビーム焦点面の配置について示す。
図3】基板に対するレーザビーム焦点面の異なる配置による基板加工について示す。
図4】本発明において用いられる第1の光学配置を示す。
図5】本発明において用いられる第2の光学配置を示す。
図6】本発明において用いられる第3の光学配置を示す。
図7】本発明に係る、基板表面の機能領域1−1,1−2...間におけるチャネル1kに沿った基板の分割を示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図1及び2は、本発明に係る加工の基本手順を示す。レーザ3から射出されたレーザビーム2a(図示しない)は、光学配置6(ここでは、レーザビーム2aのビーム束を基板1に集中させる平凸コリメーションレンズ11を図1cに示す。後述する図4から6に示す実施例も参照のこと。)に照射される。
【0061】
図1aは、(基板平面上の平面視又は入射方向zに直交するx−y平面視において)後述する、本発明に係る光学配置の素子8,7,13による、本発明の光形成を行わなかった場合を示す。かかる場合、照射されたレーザビーム2aはビーム出力側から見て、ビーム方向(長さ方向l又は入射方向z)に沿って規定の膨張領域において拡がるレーザビームの焦線が生成される。これを符号2bで示す。レーザビーム焦線2b(基板のx−y平面における直径は、例えばビーム断面の最大強度の半値全幅によって定義することができる)は、ビーム方向zに直交する方向から見て、光強度の減少した領域で囲まれている又は該領域がレーザビーム焦線2bの中心から外側に放射状に拡がっている。なお、当該光強度の減少した領域を、以下ハロー領域と呼ぶ。該ハロー領域、即ちビーム方向zと直交する係方向の拡がりを符号aで示し、例えばレーザビーム2aの強度が、レーザビーム焦線2bの最大強度(又は該焦線の中心における強度)の100分の1(又は、例えば1000分の1)まで落ちた領域として定義できる。しかし、図7を参照しながら詳細に説明するように、ハロー領域の外縁部分においてもなお存在する中心強度により、分離される基板の機能表面領域において、意図せぬダメージや破損を生じることがある。したがって、本発明にあっては、上記したダメージや破損を防ぐことのできるビーム断面又はハロー形状を形成することを目的の1つとする。
【0062】
かかる目的を達成するための光形成は、図1b及び1cに示される、本発明に必須な素子8,7,13により実現できる(図4から6も参照のこと)。本発明にあっては、1次元の焦線2bではなく、表面領域に拡がるレーザビーム焦点面2fが生成される。該レーザビーム焦点面は、z方向及びz方向と直交する第1方向yから見て拡がるが、第1方向y及びビーム方向zの双方と直交する第2方向xから見た場合には拡がらない(x、y、z=デカルト座標系)。該レーザビーム2aのレーザビーム焦点面2fと加工される平面基板1とは、光学配置6後のビーム路において少なくとも部分的に重なるよう配置される。ここで、符号1aは光学配置6又はレーザ3に向けられた平面状基板の表面を示し、符号1bは基板1の裏面を指し、通常表面と離間し、かつ平行になるように設けられる。また、基板の厚さ(表面1a、1bと直交する長さ)を、符号dで示す(図2参照)。
【0063】
後述する本発明における光形成により、前記した、基板平面x−yの断面視において円形のハロー領域(図1a)が第2方向xに大幅に縮小される(関連して、その直交方向かつビーム方向zと直交する方向、即ち第1方向yに膨張する)。よって、ハロー領域中心で回転対象な焦線ではなく、平らにつぶれた焦点面が生成される。図1に示す、x方向へのハロー領域の膨張量をax、y方向へのハロー領域の膨張量をayと示す。有利なことに、axはayに比して10倍、好ましくは50倍、より好ましくは100倍小さい。
【0064】
図2aに示すように、基板1は、ビームの長軸方向と直交する方向で、かつ、ビーム方向zから見て、光学配置6により空間に形成される焦点面2fと直交する方向(即ち、紙面と直交する方向)であって、ビーム方向zからみて、焦点面2fが基板表面1aの正面から基板表面1bの正面まで、かつ該基板の内部となるように配置される。よって、(レーザビーム2を、長さl幅bで表される領域(即ち表面l・b)に集中させることによりレーザビーム焦点面2fにおけるレーザ強度が適したものになっていれば)空間方向z及びyの双方に膨張したレーザビーム焦点面2fは、焦点面2fと基板1とが重なり合う領域(即ち、基板材料の、焦点面2fによって覆われる部分)において、ビームの長軸方向z及び幅方向に膨張した表面部位2c形成する当該表面部位2cを介して誘導吸収処理が発生し、よって、基板材料に、上記部分2cに沿った亀裂形成が誘導される。かかる亀裂形成は局所的にのみ発生するのではなく、誘導吸収処理のされた張部分2cの全体に発生する。ここでは、当該部分2cの長さ(即ち、z方向においてレーザビーム焦点面2fと基板1とが重なる長さ)を符号Lと示す。また、当該部分2cの幅は、上記焦点面2fの幅bに対応する。誘導吸収処理による当該部分(又は基板1の材料において亀裂形成の対象となる領域)の、面膨張に直交する方向(即ち、x方向)における平均膨張量を符号Dで示す。なお、当該平均膨張量Dは、x方向におけるレーザビーム焦点面2fの平均膨張量と対応する。
【0065】
図2aに示す如く、レーザビーム2aの波長λを透過する基板材料は、本発明における誘導吸収処理によって焦点面2fの領域で加熱される。図2bは、加熱された材料が最終的に膨張し、これにより生じた応力によって微細な亀裂が形成される様子を示す。なお、該応力は表面1aにおいて最大となる。
【0066】
続いて、焦点面2fを形成する具体的な光学配置6について説明する。全ての配置は、上述した内容に基づくものであり、同一又は対応する機能を有する素子又は特徴に対しては同一の符号を付している。したがって、上記と異なる部分について説明する。
【0067】
最終的に分割される分割面は、本発明において、高い品質(耐破壊性、精度、粗さ、再加工の要否)を備えることから、光学配置(レーザレンズ系とも呼ぶ)を参照しながら後述するように、個々の(より正確には、レーザパルス毎に生成される)焦点面が基板表面の分割ライン5(図7参照)に沿って配置される。なお、粗さとは具体的に、焦点面のx方向における膨張量Dから求めることができる。また、レーザ3の波長λ(基板1の材料との交点)において、例えば約0.5μm〜2μmの小さな膨張量Dを達成するには、通常、レーザレンズ系6の開口数として特定の要求値を設定する必要がある。かかる要求値については、後述するレーザレンズ系6で明らかにする。
【0068】
図3は、後述する全ての光学配置6を示し、基板1に対する該光学配置6の適切な配置及び/又は傾きや光学配置6のパラメータを適宜選択することによりレーザビーム焦点面2fを種々配置できる。図3の一番上に示す例では、焦点面2fの長さlが、基板厚さdに比して長くなるよう調整されている(この例にあっては、dの2倍)。これにより、ビーム方向zから見て、基板が焦点面2fの中心に配置されると、基板厚さ3全面にわたって誘導吸収処理による膨張部2cが生成される。
【0069】
また、図3bの二番目に示す例にあっては、焦点面2fの長さlが基板dの延長分とほぼ同じ長さとされる。基板1は表面2fとの関係で位置決めされ、具体的には、基板正面の線、即ち基板外側から表面2fが開始されるため、誘導吸収対象部位2cの膨張部の長さL(ここでは、基板表面から特定の基板深さまで延びるが、裏面1bまではいかない。)が焦点面2fの長さlよりも短くなる。図3bの三番目の例では、ビーム方向zから見て、基板1が部分的に焦点面2fの開始位置よりも前に配置されており、焦点面の長さlは、l>L(L=基板1における誘導吸収対象部位2cの膨張量)となる。したがって、この例にあっては、焦点面が基板の内部から始まり、基板の裏面1bを超えて基板外側まで延びる。さらに、図3bの四番目の例は、焦点面長さlが基板厚さdよりも短い場合を示し、基板が焦点面の中心位置にくるように配置される。具体的には、焦点面は基板内部において表面1a付近から基板内部の裏面付近までの長さを有する(l=0.75d)。
【0070】
本発明によれば、少なくとも基板の表面1a,1bのいずれかが焦点面によって覆われるように焦点面の配置を決めることができる。これにより、誘導吸収部位2cを少なくとも一方の表面から開始させることができる。このようにすることで除去や表面上のバリの発生や粒子形成が避けられ、より理想的な切断を実現できるようになる。
【0071】
図4及び5に示す光学配置は以下の基本的考え方に基づくものである。第1に、焦点面2fを形成するため、レンズ系(素子9)は非球形自由表面を有し、該自由表面は規定長さlの焦点面を実現されるように形成される。そのため、光学配置6の光学素子9として非球面を使用することができる。図4及び5の例にあっては、いわゆる円錐型プリズム(アキシコンとも言う)を用いる。アキシコンは、特別な、円錐の地上レンズであって、光軸に沿った線上に点光源を形成する(又は、ビームを環状ビームに変換する)。かかるアキシコンの製造手法は公知であり、円錐角は、例えば10度とされる。アキシコン9は、コーン先端が入射方向(z方向)に向けられると共にビーム中心と一致している。該レンズ系の後には、第2方向xのレーザ照射2aによるビーム束の膨張を抑制するレンズ系(素子7又は8)が挿入され、x方向のビーム束が実現される。
【0072】
図4は本発明に係る装置の第1実施例を示す。図4では、レーザビーム焦点面2fがy−z平面に拡がって形成されている光学配置6を有する(光学配置6又は装置の光軸6z、入射方向をz方向)。符号2aで示すレーザビームによるレーザ3のビーム路(図示しない)には、まず非球形自由表面を有する光学素子が配置される。該非球形自由表面は、入射方向から見てz方向に拡がるレーザビーム焦線を形成するために形成されるものである。当該光学素子は、円錐角5°のアキシコン9であって、ビーム方向に直交する方向でレーザビーム2aと中心が一致するように配置される。即ち、アキシコン9の先端は入射方向に向けられる。ビーム方向において、アキシコン9から距離z1´だけ離間した場所には、コリメート光学素子(この例にあっては、平面がビーム方向zを向いた平凸コリメータレンズ12)が配置され、レーザ入射光がコリメート、即ち平行光となる。この例にあっては、アキシコン9から平凸コリメータレンズ12までの距離z1´は、アキシコン9により形成されたレーザビーム束が、レンズ12の外側領域に環状にぶつかるよう約300mmに設定される。このように、装置の光軸6zから半径方向に離間したレンズ12により、光軸6zと平行に延びる環状のビーム束2rが生成される。
【0073】
レンズ12の出力側には、z1>z1´(ここでは、z1=1.3×z1´)となる距離z1の位置に1次元ギャップダイアフラム8が設けられる。該ギャップダイアフラム8は、優先方向(スリット方向)が第1方向yを向くように設けられる。即ち、該ギャップダイアフラム(以下、代替スリットダイアフラム8とも呼ぶ)は、第2方向xから見て、二つのスリット縁の間を光軸6zが延びるように配置される。また、スリット幅は、レンズ12の外側に延びる該環状ビーム束2rの内径に合わせて設定される。即ち、光軸6zを通りx方向に延びる線に沿って見た図4aに示すように、当該環状ビーム束2rの成分が、入射されるレーザの波長を透過しないスリットダイアフラム8のスリット縁の部材によって遮られる。この1次元スリットダイアフラム8により、ビーム束2rの特定の光成分が、遮られることなく、スリットダイアフラム8の出力側に届く(図4b参照)。なお、図4bは、光軸6zを通りy方向に延びる線に沿って見た図である。
【0074】
ダイアフラム8の出力側には、距離を置いて、フォーカスレンズとしての平凸コリメータレンズ11が光軸6zと中心が一致するように配置される。該フォーカスレンズは、環状ビーム束2rのうちダイアフラム8によって遮られなかった光成分の全てを、平面基板1に向けてy方向及びx方向にフォーカスする。なお、該基板1はレンズ11の出力側に、光軸6z(即ちx−y平面)と垂直に配置される。(平面側が基板1方向を向く)レンズ11は、環状ビーム束2rのうちダイアフラム8によって遮られなかった光を、レンズ11から規定の距離で、二次元レーザビーム焦点面2f上に、(アキシコン9による)z方向における所定の膨張率で、かつ(ダイアフラム8による)y方向における所定の膨張率でフォーカスする(図1bに示す光形成を参照)。ここで、レンズ11における有効焦点幅は、(基板1が配置される)レーザビーム焦点面2fが例えばレンズ11から距離20mmの位置に生成されるよう、25mmとする。
【0075】
光軸6z上に配置される回転対象な素子9,12,11及びダイアフラム8を備えた光学配置6の光学特性(特に、素子9,12,8,11の幾何学的形状と、主ビーム軸6zに沿ったこれらの素子の相対位置)は、レーザビーム焦点面2fのz方向における膨張量lが基板のz方向厚さの2倍となるように設定される。基板が焦点面2fに対して中心に配置される場合(図3の1番上の例を参照)、誘導吸収処理による膨張表面部位2cの形成の影響は、全基板厚さに及ぶ。なお、z方向における焦点面2fの膨張量lは、アキシコン9上におけるビーム径により調整できる。また、焦点面2f全体の開口数は、レンズ12からアキシコン9までの距離z1´とアキシコン9の円錐角により調整できる。これにより、全レーザエネルギーを焦点面2f上に集中させることができる。
【0076】
なお、図4(及び後述する図5,6)に示す平凸レンズ11,12に代えて、メニスカスレンズやそれ以外の高度に補正された焦点レンズ(非球面マルチレンズ)を用いても良い。
【0077】
図5は、本発明に係る装置の別の実施例を示す。図5に示す例は、基本的には図4に示したものと変わらない。以下、相違点(光学配置6は、光軸6z周りに回転対称な光学素子9,11と、円柱レンズ7とを備える)について説明する。
【0078】
ビーム路2a上、アキシコン9の出力側には、図4のレンズ12に代えて平凸の焦点円柱レンズ7が、光軸6zに沿って距離z2の位置に設けられる。なお、アキシコンからレンズ7までの距離z2は、図4の距離z1´の場合と同様に設定される。円柱レンズ7の平面側は、xy平面上であって、アキシコン9から離間する方向に設けられる。優先方向、即ち、円柱レンズ7の円柱軸方向はx方向と平行であって、光軸6zと中心位置が一致するように円柱レンズ7が設けられる。距離z2とレンズ7の膨張は、アキシコン9により生成されて円柱レンズ7の入力側で環状に変形されるビーム束が、円柱レンズ7の外縁部分を通過するように設定される。したがって、素子9、7の形状及び位置は光軸6zを通りx方向に延びる線に沿って見た図において、レンズ7に入射される環状ビーム束の光成分が偏向しないように効果的に設定される(図5a参照)。一方、光軸6zを通りy方向に延びる線に沿って見た図において、レンズ7に入射される当該ビーム束の光成分は、円柱レンズ7によってコリメート(即ち、平行に)される(図5b参照)。
【0079】
図4の実施例同様、ビーム路上、円柱レンズ7後方から規定距離z2´には、焦点用平凸コリメータレンズ11が光軸6zと中心が一致するように配置される。したがって、距離z2´は、光軸6zを通りx方向に延びる線に沿って見た図において、光成分2xが偏向することなくレンズ11を通過する。一方、光軸6zを通りy方向に延びる線に沿って見た図において、光成分2yは、レンズ11によって完全に遮断、偏向され、該光成分は、レンズ11の出力側に配置された基板1上にフォーカスされる。
【0080】
また、回転対称のアキシコン9と円柱レンズ7との組み合わせと、後述する平凸コリメータレンズ11とにより、図1bの光形成が達成される。y方向及びz方向における光焦点面2fの膨張は、以下により調整することができる:
・焦点レンズ11に対するワーク片1の設置距離
・焦点レンズ11の焦点距離の変化
・アキシコン9への照射。
【0081】
膨張焦点面2fを生成するための本発明に係る装置のさらなる例を図6に示す。
【0082】
レーザ3(図示しない)のビーム路2aにおいて、まず優先方向(ここではx方向)に設けられた非回転対称の光学素子13が配置される。該素子は、出力側が平面素子であって、入力された光を偏向するものであって、中心が光軸6zと一致するように配置される。したがって、平面側が基板1を向く。平面側の反対に設けられた偏向側(レーザ3側)の面は、先の尖った屋根状のダブルウェッジとして構成され、その中心骨格部がx方向に沿って延びて光軸6zを通る。なお、簡略化のために、素子13を以下ダブルウェッジとも呼ぶ。
【0083】
図6aに示すように、光軸6zを通り方向に延びる線に沿って見た場合、ビーム束2aの光成分はダブルウェッジ13を通過するが、偏向されることはない。その直交方向、即ち光軸6zを通り方向に延びる線に沿って見た場合、光軸6zの両側に位置する当該ビーム束の一部は、それぞれ互いの方向に向けてダブルウェッジ構造によって偏向されて平行に進む。その全体図を図6bに示す。図示するように、ビーム束2aのうち、光軸6zを通るx−z平面の上側半分の空間y1に存在する光成分s1がダブルウェッジ13に照射され、平行光に偏向された後、反対側の空間y2(光軸6zを通るx−z平面の下側半分の空間)に向かうのに対し、ビーム束2aのうち、ウェッジ13の当該平面より下側部分に入射される光成分s2は、該空間y2外へ向けた平行光として偏向され、空間y1に向かう。
【0084】
ビーム方向においてウェッジ13から所定距離離れた位置(二つの光成分s1とs2の交点よりも後方)には、図5の実施例と同様、円柱レンズ7が配置される。x方向で見た場合、該円柱レンズによって光成分s1及びs2が偏向することはない。一方、y方向で見た場合、光成分s1及びs2は光軸6zに向けて偏向されて、コリメートされる(両光成分s1及びs2はレンズ7の出力側において軸6zと平行に延びる)。
【0085】
図4、5に示す実施例同様、)ビーム方向において、平凸コリメータレンズ11は円柱レンズ7の後方、具体的には、ダブルウェッジ13の出力側で規定距離z3離れた位置に配置される。該レンズは前述した実施例と同様に構成され、軸6z上に中心が配置される。距離z3は、レンズ7により平行に進む2つのビーム束s1とs2が、入射方向(z方向)において互いに離れるように逸れた後、y方向において、コリメータレンズ11の外縁部分に入射するような距離に設定される。したがって、レンズ11は、二つのビーム束s1とs2を、他の実施例において説明した如く、加工対象となる基板1が配置されたy−z平面で膨張したレーザビーム焦点面2f上にフォーカスする。また、素子11,7,13を備える光学配置6において、図1bに示した光形成を実現することができる。
【0086】
図7は、基板平面(x−y平面)視において、機能的構造1−1,1−2,1−3,1−4を備えた半導体基板1の本発明に係る加工処理を示す。象限として配置される機能的構造1−1・・・は、分離処理におけるレーザ照射の対象となってはならない(即ち、図1a、1bに示すレーザビームのハロー領域Hであって、符号ax、ayで示す領域は、分離処理時に上記した機能的領域を覆ってはならない)。したがって、レーザ照射は、各機能領域間に延びる溝状構造1kであって、機能が一切なく、レーザ照射が可能な構造部分に対してのみ実行される。
【0087】
図7に示すように、当該処理は図1bによって生成され、チャネル1kの幅に適合されたレーザビーム焦点面2f上で実行される。基板1上におけるレーザビーム2aの進行方向は、チャネルの長軸方向(ここでは、y方向に延びる、縦に延びるチャネル1k)と完全に平行となるように設定される。同時に、レーザビーム焦点面2fが基板平面(x−y平面)と直交方向であって進行方向と平行に形成される。よって、図4に示す例(例えば図4から7の実施例に示していないガルバノメータスキャナから当業者に公知な偏向レンズ系)にあっては、レーザビーム2aの進行は、ライン5(基板の分割されるべき線に沿った所望の分割線に対応したライン)に沿って実行され、誘導吸収処理による多数の膨張表面部位2c(2c−1,2c−2,・・・)が生成される。誘導吸収処理による各部位2c−1,・・・は、基板材料において分割ライン5に沿ったパルスレーザの単レーザパルスにより生成された欠陥領域を示す。
【0088】
個々の欠陥領域2c−1,・・・はチャネル1kの中心に生成され、レーザビーム焦点面2fがそれぞれ機能的構造1−1,・・・の縁と平行に生成されるため、光学パラメータを適宜選択することによって、確実に、焦点面2fを囲むハロー領域Hのx方向がy方向よりも実質的に小さい寸法を有するように設定することができる。したがって、ハロー領域Hのx方向への膨張量が、チャネル1kのチャネル幅よりも小さくなるように設計される。
【0089】
レーザパルスの繰返率は、レーザの進行速度と整合するように設定され、誘導吸収処理(連続レーザパルス)により隣接する膨張表面部位2cの平均距離Aは、進行方向又はy方向において、レーザビーム焦点面2fの幅bに比してわずかに(例えば、1.1倍だけ)大きくなる。したがって、集中して重ね合わせることなく、チャネル軸1k又は所望分割ライン5に沿って一列に並べられた多数の欠陥構造2cの生成が達成され、よってチャネル1kに沿った基板1の分割を効果的に実現できる。また、二つの隣接する欠陥構造2c間に残った、空隙として検出可能な基板残留物は、分割ライン5の両側に生成された基板破片を分離するために機械的な力及び/又は熱応力を加えることによって容易に除去できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7