特許第6804480号(P6804480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804480
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】乾燥あんの製法
(51)【国際特許分類】
   A23G 3/34 20060101AFI20201214BHJP
   A23L 11/00 20160101ALI20201214BHJP
【FI】
   A23G3/34 106
   A23L11/00 F
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-7391(P2018-7391)
(22)【出願日】2018年1月19日
(65)【公開番号】特開2019-122350(P2019-122350A)
(43)【公開日】2019年7月25日
【審査請求日】2019年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014904
【氏名又は名称】井村屋グループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏規
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−143252(JP,A)
【文献】 特開昭52−156953(JP,A)
【文献】 特開2014−226083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 3/00−3/56
A23L 11/00−11/30
FSTA/CAplus/WPIDS/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料小豆を水浸漬する工程と、前記水浸漬した原料小豆を蒸し器にて蒸す工程と、前記蒸し工程後に小豆を乾燥する工程と、前記乾燥工程後に小豆を所定粒度に粉砕する工程を含むことを特徴とする乾燥あんの製法。
【請求項2】
前記粉砕工程が気流粉砕機によってなされる請求項1に記載の乾燥あんの製法。
【請求項3】
前記乾燥あんの粒径が70〜100μで粉砕されている請求項1又は2に記載の乾燥あんの製法。
【請求項4】
前記粉砕工程後に篩別工程を有する請求項1ないし3のいずれか記載の乾燥あんの製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は乾燥あんの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥あんはさらしあん(晒し餡)とも呼ばれ、菓子のあん、汁粉や羊羹等をはじめとする広汎な食品の材料として古くから使用されている(特許文献1等参照)。旧来の乾燥あんは、原料小豆を軟らかく煮て潰し、これをこして皮を除いた後乾燥させて粉末にするのが伝統的な製法である。
【0003】
一般的な乾燥あんの製法を図2に説明する。原料小豆の水浸漬→蒸煮(豆炊き)→磨砕→篩別→晒し→脱水→乾燥というように、生あん(こしあん)の製造に多くの手間がかかる(特許文献2等参照)。のみならず生あんは水分が多く保存がむずかしく、腐敗しやすい。その上で、乾燥のための特別な装置を含む製造環境及びコストを必要とする。
【0004】
本発明者は、このような一般的な乾燥あんの製法を一挙に改善すべく鋭意研究、開発を重ねた結果、生あんを製造することなく、任意の粒径を有する乾燥あんを得ることができる全く新規な手法を見出したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−238616号公報
【特許文献2】特開平11−225697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、生あんを作ることなく、α化した原料小豆から直接所定粒度の乾燥あん粒子を製造するもので、従来の生あん(こしあん)の製造工程が省略できるので工程が簡略化でき経済的で、かつ生あんを製造しないので、生あんの腐敗や菌数増加の心配がなく、水分も少なくすることができ、長期保存が可能となるほか、原料小豆をまるごと使用することによる小豆の有効成分を多く含む乾燥あんの製法を提案するものである。また、本発明は必要に応じ任意の粒径を有する乾燥あんを得ることができる製法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、請求項1の発明は、原料小豆を水浸漬する工程と、前記水浸漬した原料小豆を蒸す工程と、前記蒸し工程後に小豆を乾燥する工程と、前記乾燥工程後に小豆を所定粒度に粉砕する工程を含むことを特徴とする乾燥あんの製法に係る。
【0008】
請求項2の発明は、前記粉砕工程が気流粉砕機によってなされる請求項1に記載の乾燥あんの製法に係る。
【0009】
請求項3の発明は、前記乾燥あんの粒径が70〜100μで粉砕されている請求項1又は2に記載の乾燥あんの製法に係る。
【0010】
請求項4の発明は、前記粉砕工程後に篩別工程を有する請求項1ないし3のいずれか記載の乾燥あんの製法に係る。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明に係る乾燥あんの製法によれば、原料小豆を水浸漬する工程と、前記水浸漬した原料小豆を蒸す工程と、前記蒸し工程後に小豆を乾燥する工程と、前記乾燥工程後に小豆を所定粒度に粉砕する工程を含むことを特徴とする乾燥あんの製法に係るものであるから、従来の生あんを作ることなく直接乾燥あんを製造することができるので、工程が簡略化でき経済的であり、かつ生あんを製造しないので、生あんの腐敗や菌数の増加の懸念がなく、水分を少なくすることができ、長期保存が可能となるほか、原料小豆をまるごと使用することによる小豆の有効成分を多く含む乾燥あん製品を提供することができ、しかも残渣物が無く環境に負荷を与えない。また、粉砕工程では所望の粒度に粉砕することが可能であるから、必要とする口当たり等の食感、その他の機能、品質に応じた乾燥あんを提供することができる。
【0012】
請求項2の発明に係る製法にあっては、請求項1において、前記粉砕工程が気流粉砕機によってなされるものであるから、粉砕の粒度調整が容易に可能であるとともに、気流による粉砕のため温度上昇が少なく、あん粒子の破壊も減少し品質の高い乾燥あんを得ることができる。
【0013】
請求項3の発明に係る製法にあっては、請求項1又は2において、前記乾燥あんの粒径が70〜100μで粉砕されているものであるから、いわゆる従来製法の生あん(こしあん)から製造される乾燥あん(さらしあん)と同等粒径で、同等の口当たり等の品質を得ることができる。
【0014】
また、請求項4の発明に係る製法にあっては、請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記粉砕工程後に篩別工程を有するものであるから、前記乾燥あんの粒径をより確実に調整することができ、より品質の高い乾燥あんを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の乾燥あんの製造工程の一例を表す概略図である。
図2】従来の伝統的な乾燥あんの製造工程を表す概略図である。
図3】本発明の乾燥工程で気流粉砕機により粉砕したときの乾燥あんの粒度分布図である。
図4】従来製法による乾燥あんの粒度分布図である。
図5】乾燥あんの粒径とあん粒子の状態及び食感との対比表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の乾燥あんの製法の実施例について説明すると、請求項1の発明として規定しかつ図1の概略図に表したように、この発明は、原料小豆を水浸漬する工程と、前記水浸漬した原料小豆を蒸し器にて蒸す工程と、前記蒸し工程後に小豆を乾燥する工程と、前記乾燥工程後に小豆を所定粒度に粉砕する工程を含むことを特徴とする。以下各工程について説明する。
【0017】
まず、原料小豆の水浸漬工程について説明すると、原料小豆は一般に流通している乾燥状態の小豆で、水浸漬工程は前記乾燥状態の原料小豆を水に浸漬するもので、次工程の蒸し工程のための原料小豆の前処理工程である。浸漬時間は季節、気温、小豆の品種、小豆の乾燥具合等により適宜加減される。ちなみに、実施例の乾燥状態の生小豆の水分含有率は約15%程度で、水浸漬工程で概ね2倍程度まで重量を膨潤させている。
【0018】
蒸し工程は、前記水浸漬した原料小豆を蒸す工程で、従来公知の蒸し器等の手段によって行われる。蒸し工程は、原料小豆を食品として軟らかくα化する工程で実施例では100℃で30分間行われる。この蒸し工程は、蒸気による加熱であるから、小豆の水分含有量は従来の湯中による加熱(蒸煮)と異なって大幅に増加されないので、小豆の形状は煮崩れることなく保形される。なお、通常、小豆は加水され蒸煮されるがその際に発生する煮汁にミネラルやポリフェノール等が豊富に含まれるのであるが、煮汁は廃棄されるのでそれらは失われることになるが、蒸し工程においてはそれらが残存しやすい。
【0019】
乾燥工程は前記蒸し処理された小豆を乾燥する工程で、例えば従来公知の乾燥機内の熱風で乾燥される。本発明では、蒸し工程を終えた原料小豆はそのまま乾燥機内に投入することができる。そして、次工程の粉砕のために水分含有率3〜15%程度まで乾燥される。なお、乾燥機は回転や搖動機能を有するものでもよい。
【0020】
粉砕工程は、前記乾燥工程によって乾燥された原料小豆を乾燥あんとしての所定粒度に粉砕する工程である。この粉砕工程としては、請求項2の発明として規定したように気流粉砕機によってなされることが好ましい。粉砕工程を気流粉砕機によって実施する場合には、図3に示したように、粉砕の粒度調整が容易かつ確実にできるとともに、気流による粉砕のため温度上昇が少なく、あん粒子の破壊が減少し品質の高い乾燥あんを得ることができる。
【0021】
気流粉砕とは、粉砕装置の粉砕室内に生じた気流の渦の中に原料となる小豆を投入し、この生小豆同士が互いに衝突して砕ける現象を利用して、順次微粉末まで粒径を細かくして粉化する粉砕方法である。気流粉砕機として、例えば、特開2007−275849号公報に開示のジェットミル、特開2011−206621号公報に開示の気流式粉砕機等の各種装置が挙げられる。
【0022】
図3は気流式粉砕機の粒度分布図であり、レーザー回折・散乱式 粒子径・粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製,MT3300)による測定結果である。平均粒径は、同測定装置を用いてレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径とした。
【0023】
気流式粉砕機の粒度分布図(図3)は単一のピークを有し、平均粒径(累積50%)は約80μmであった。気流式粉砕機を用いた粉砕は、粉砕により生じた小豆粉末の均一性、ばらつきの少なさ、粒子の細かさにおいて優れている。特に、一回の粉砕処理により比較的均質な小豆粉末を得ることができるため、気流式粉砕の利点は大きい。
【0024】
ここで、従来の生あん(こしあん)の製法と対比すると、図2に示したように、従来製法では蒸煮、いわゆる豆炊きと称し中身が柔らかくなり皮が破れる程度まで煮られる。従来製法では、蒸煮後に粉砕して豆の皮と中身(こしあん=生あん)に分別するためにすりつぶされない程度に粉砕される。そして、その後の篩別及び晒しを経て脱水したものが生あん(こしあん)となり、乾燥により乾燥あんとされるのであるが、その粒度を調整することは考えられていない。一般の乾燥あん(こしあん)の平均粒径(累積50%)は概ね90μ(80〜100μ)程度とされている。
【0025】
ところで、請求項3の発明として規定し、図4に示したように、前記乾燥あんの粒径を70〜100μの範囲で粉砕したものにあっては、上に述べた従来製法によって製造された生あん(こしあん)の乾燥あんと同等の粒度であるから、食感等において従来品と何ら遜色がないものを得ることができる。加えて、本発明においてこの粒度範囲のものは小豆の複粒構造が崩れることなく保持され、品質の高い乾燥あんとすることができる。
【0026】
また、請求項4の発明として規定したように、前記粉砕工程後に篩別工程を有するものであるから、前記乾燥あんの粒径をより確実に調整することができ、より品質の高い乾燥あんを得ることができる。篩別工程は公知の分級装置によって行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、乾燥あんの粒径を粉砕工程に任意に調整することが可能である。乾燥あんの粒径は製品の官能評価に大きな影響を与える。また、気流粉砕等によれば粒度分布を所定範囲にものに揃えることが可能である。さらに、粉砕工程によりデンプン粒の糊化や仕上がりの食感にも影響を与える。このように、本発明によれば、乾燥あんの官能評価、味の好みの評価、舌触りの評価、喉越しの評価、外観の評価等に応じて幅広い選択が可能となる。さらに本発明においては、小豆の皮を含めた全体利用が可能であるため、成分の有効活用も可能である。
【0028】
本発明は、上述したように、生あんを作ることなく直接乾燥あんを製造することができるので、工程が簡略化でき経済的であり、腐敗等の懸念がなく、長期保存が可能となるほか、原料小豆をまるごと使用することによる小豆の有効成分を多く含む乾燥あん製品を提供することができる。また、粉砕工程ではあらかじめ定めた所望の粒度に粉砕することが可能であるから、必要とする食感等に応じた幅広い感覚の乾燥あんを提供することができるなど、機能性等を高めた新たな小豆食品を作り出すことができる。
図1
図2
図3
図4
図5