特許第6804574号(P6804574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DOWAメタルテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6804574-複合めっき材およびその製造方法 図000004
  • 特許6804574-複合めっき材およびその製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804574
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】複合めっき材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20201214BHJP
   C25D 3/46 20060101ALI20201214BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20201214BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20201214BHJP
   H01H 11/04 20060101ALI20201214BHJP
   H01H 1/04 20060101ALI20201214BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C25D15/02 G
   C25D15/02 M
   C25D3/46
   C25D5/12
   C25D7/00 H
   H01H11/04 F
   H01H1/04 E
   H01R13/03 D
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-8239(P2019-8239)
(22)【出願日】2019年1月22日
(65)【公開番号】特開2020-117747(P2020-117747A)
(43)【公開日】2020年8月6日
【審査請求日】2020年6月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】伊東 剛史
(72)【発明者】
【氏名】園田 悠太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 有紀也
(72)【発明者】
【氏名】成枝 宏人
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−254876(JP,A)
【文献】 特開平08−041676(JP,A)
【文献】 特開2009−249648(JP,A)
【文献】 特開2018−199839(JP,A)
【文献】 特開2011−084443(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/104652(WO,A1)
【文献】 特開2014−164964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 15/02
C25D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化処理を行った炭素粒子を添加したスルホン酸系銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成することを特徴とする、複合めっき材の製造方法。
【請求項2】
前記酸化処理が湿式酸化処理であることを特徴とする、請求項1に記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項3】
前記湿式酸化処理が、炭素粒子を水中に懸濁させた後に酸化剤を添加する処理であることを特徴とする、請求項2に記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項4】
前記酸化剤が、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムおよび過塩素酸ナトリウムからなる群から選ばれる酸化剤であることを特徴とする、請求項3に記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項5】
前記炭素粒子が、平均粒径1〜15μmの鱗片状黒鉛であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項6】
前記素材が銅または銅合金からなることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項7】
前記複合材からなる皮膜を形成する前に、前記素材上にニッケルめっき皮膜を形成することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項8】
前記複合材からなる皮表面の炭素粒子が占める割合が40〜80面積%であり、複合材からなる皮膜の表面におけるAgの{220}面のX線回折ピークの積分強度I{220}に対する{200}面のX線回折ピークの積分強度I{200}の比(X線回折強度比I{200}/I{220})が10以下であることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の複合めっき材の製造方法
【請求項9】
前記複合材からなる皮膜の表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上であることを特徴とする、請求項8に記載の複合めっき材の製造方法
【請求項10】
前記複合材からなる皮膜の厚さが0.5〜20μmであることを特徴とする、請求項8または9に記載の複合めっき材の製造方法
【請求項11】
前記炭素粒子が、黒鉛またはカーボンブラックからなることを特徴とする、請求項乃至10のいずれかに記載の複合めっき材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合めっき材およびその製造方法に関し、特に、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品などの材料として使用される複合めっき材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品などの材料として、摺動過程における加熱による銅や銅合金などの導体素材の酸化を防止するために、導体素材に銀めっきを施した銀めっき材が使用されている。
【0003】
しかし、銀めっきは、軟質で摩耗し易く、一般に摩擦係数が高いため、摺動により剥離し易いという問題がある。この問題を解消するため、耐熱性、磨耗性、潤滑性などに優れた黒鉛やカーボンブラックなどの炭素粒子のうち、黒鉛粒子を銀マトリクス中に分散させた複合材の皮膜を電気めっきにより導体素材上に形成して耐摩耗性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、黒鉛粒子の分散に適した湿潤剤が添加されためっき浴を使用することにより、黒鉛粒子を含む銀めっき皮膜を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、ゾル−ゲル法によって炭素粒子を金属酸化物などでコーティングして、銀と炭素粒子の複合めっき液中における炭素粒子の分散性を高め、めっき皮膜中に複合化する炭素粒子の量を増大する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
しかし、特許文献1〜3の方法により製造された複合めっき材は、摩擦係数が比較的高く、接点や端子の高寿命化に対応することができないという問題があり、特許文献1〜3の方法により製造された複合めっき材よりも炭素粒子の含有量や表面の炭素粒子が占める割合を増大させて、さらに優れた耐摩耗性の複合めっき材を提供することが望まれている。
【0005】
このような複合めっき材を製造する方法として、酸化処理を行った炭素粒子を添加したシアン系銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する方法(例えば、特許文献4参照)、電解処理を行った炭素粒子を添加したシアン系銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成する方法(例えば、特許文献5参照)、酸化処理を行った後にシランカップリング処理を施した炭素粒子を硝酸銀と硝酸アンモニウムを含む銀めっき液に添加した複合めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含む複合材からなる皮膜を素材上に形成する方法(例えば、特許文献6参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−7445号公報(段落番号0005−0007)
【特許文献2】特表平5−505853号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特開平3−253598号公報(第2頁)
【特許文献4】特開2006−37225号公報(段落番号0009)
【特許文献5】特開2007−16261号公報(段落番号0009)
【特許文献6】特開2007−262528号公報(段落番号0008−0009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献4〜5の方法では、シアン浴を使用するため、シアン含有排水に対する排水処理が必要であり、排水処理設備のコストが大きい。また、特許文献6の方法では、硝酸銀と硝酸アンモニウムを含む銀めっき浴で電気めっきすることにより、Agがデンドライト状に析出するため、外観ムラが大きく、接触抵抗が安定しないおそれがあり、また、銀めっき浴の長期安定性に劣り、複合めっき材の量産に向いていない。
【0008】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、シアン系銀めっき液や硝酸銀を銀塩とする銀めっき液を使用しないで、外観ムラが少なく、接触抵抗が小さく且つ耐摩耗性に優れた複合めっき材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、酸化処理を行った炭素粒子を添加したスルホン酸系銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成すれば、シアン系銀めっき液や硝酸銀を銀塩とする銀めっき液を使用しないで、外観ムラが少なく、接触抵抗が小さく且つ耐摩耗性に優れた複合めっき材を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明による複合めっき材の製造方法は、酸化処理を行った炭素粒子を添加したスルホン酸系銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成することを特徴とする。
【0011】
この複合めっき材の製造方法において、酸化処理が湿式酸化処理であるのが好ましく、この湿式酸化処理は、炭素粒子を水中に懸濁させた後に酸化剤を添加する処理であるのが好ましい。この酸化剤は、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムおよび過塩素酸ナトリウムからなる群から選ばれる酸化剤であるのが好ましい。また、炭素粒子は、平均粒径1〜15μmの鱗片状黒鉛であるのが好ましい。また、素材は、銅または銅合金からなるのが好ましい。さらに、複合材からなる皮膜を形成する前に、素材上にニッケルめっき皮膜を形成してもよい。
【0012】
また、本発明による複合めっき材は、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜が素材上に形成され、複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合が40〜80面積%であり、複合めっき皮膜の表面におけるAgの{220}面のX線回折ピークの積分強度I{220}に対する{200}面のX線回折ピークの積分強度I{200}の比(X線回折強度比I{200}/I{220})が10以下であることを特徴とする。
【0013】
この複合めっき材において、複合めっき皮膜の表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上であるのが好ましい。また、複合めっき皮膜の厚さが0.5〜20μmであるのが好ましい。さらに、複合めっき皮膜と素材との間にニッケルめっき皮膜を形成してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シアン系銀めっき液や硝酸銀を銀塩とする銀めっき液を使用しないで、外観ムラが少なく、接触抵抗が小さく且つ耐摩耗性に優れた複合めっき材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で得られた複合めっき材の表面の反射電子組成(COMPO)像である。
図2】比較例1で得られた複合めっき材の表面のCOMPO像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による複合めっき材の製造方法の実施の形態では、酸化処理を行った炭素粒子(好ましくは平均粒径1〜15μmの鱗片状黒鉛)を添加したスルホン酸系銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を(好ましくは銅または銅合金からなる)素材上に形成する。炭素粒子を銀めっき液中に添加して懸濁させただけでは、めっき皮膜中に炭素粒子を取り込ませることができないが、この実施の形態のように、炭素粒子を銀めっき液中に投入する前に酸化処理を施すことにより、炭素粒子の分散性を向上させることができる。
【0017】
本発明による複合めっき材の製造方法の実施の形態では、炭素粒子を銀めっき液に添加する前に、酸化処理により炭素粒子の表面に吸着している親油性有機物を除去する。このような親油性有機物として、(ノナンやデカンなどの)アルカンや、(メチルヘプテンなどの)アルケンのような脂肪酸炭化水素や、(キシレンなどの)アルキルベンゼンのような芳香族炭化水素が含まれる。
【0018】
炭素粒子の酸化処理として、湿式酸化処理の他、Oガスなどによる乾式酸化処理を使用することができるが、量産性の観点から湿式酸化処理を使用するのが好ましく、湿式酸化処理によって表面積が大きい炭素粒子を均一に処理することができる。
【0019】
湿式酸化処理の方法としては、導電塩を含む水中に炭素粒子を懸濁させた後に陰極や陽極となる白金電極などを挿入して電気分解を行う方法や、炭素粒子を水中に懸濁させた後に適量の酸化剤を添加する方法などを使用することができるが、生産性を考慮すると後者の方法を使用するのが好ましい。酸化剤としては、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を使用することができる。炭素粒子に付着している親油性有機物は、添加された酸化剤により酸化されて水に溶けやすい形態になり、炭素粒子の表面から適宜除去されると考えられる。また、湿式酸化処理を行った後、ろ過を行い、さらに炭素粒子を水洗することにより、炭素粒子の表面から親油性有機物を除去する効果をさらに高めることができる。
【0020】
上記の酸化処理により炭素粒子の表面から脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素などの親油性有機物を除去することができ、300℃加熱ガスによる分析によれば、酸化処理後の炭素粒子を300℃で加熱して発生したガス中には、アルカンやアルケンなどの親油性脂肪族炭化水素や、アルキルベンゼンなどの親油性芳香族炭化水素が殆ど含まれてない。酸化処理後の炭素粒子中に脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素が若干含まれていても、炭素粒子を銀めっき液に分散させることができるが、炭素粒子中に分子量160以上の炭化水素が含まれず且つ炭素粒子中の分子量160未満の炭化水素の300℃加熱発生ガス強度(パージ・アンド・ガスクロマトグラフ質量分析強度)が5,000,000以下になるのが好ましい。炭素粒子中に分子量の大きな炭化水素が含まれると、炭素粒子の表面が強い親油性の炭化水素で被覆され、水溶液である銀めっき溶液中で炭素粒子が互い凝集し、めっき皮膜中に炭素粒子が複合化しなくなると考えられる。
【0021】
このような酸化処理により脂肪酸炭化水素と芳香族炭化水素を除去した炭素粒子を銀めっき液に懸濁させて電気めっきを行う際に、銀めっき液としてスルホン酸系銀めっき液を使用する。このスルホン酸銀として、メタンスルホン酸銀、アルカノールスルホン酸銀、フェノールスルホン酸銀などを使用することができる。また、スルホン酸系銀めっき液は、Agイオン源としてのスルホン酸銀と、錯化剤としてのスルホン酸を含み、光沢剤などの添加剤を含んでもよい。この銀めっき液中のAg濃度は、5〜150g/Lであるのが好ましく、10〜120g/Lであるのがさらに好ましく、20〜100g/Lであるのが最も好ましい。
【0022】
また、銀めっき液中の炭素粒子の量は、10〜100g/Lであるのが好ましく、20〜90g/Lであるのがさらに好ましい。銀めっき液中の炭素粒子の量が10g/L未満であると、複合めっき層中の炭素粒子の含有量を十分に多くすることができないおそれがあり、100g/Lより多くしても、複合めっき層中の炭素粒子の含有量を多くすることはできない。
【0023】
また、電気めっきの際の電流密度は、1〜20A/dmであるのが好ましく、2〜15A/dmであるのがさらに好ましい。Ag濃度や電流密度が低過ぎると、複合めっき皮膜の形成が遅くなって効率的でなく、Ag濃度や電流密度が高過ぎると、複合めっき皮膜の外観にムラが生じ易い。
【0024】
本発明による複合めっき材の製造方法の実施の形態では、酸化処理を行った炭素粒子を使用しているので、界面活性剤を添加しなくても銀めっき液中に炭素粒子が均一に分散した複合めっき液を得ることができるので、界面活性剤を添加する必要はない。また、スルホン酸系銀めっき液を使用すると、表面の炭素粒子が占める割合が多いめっき皮膜を得ることができる。めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合が多くなるのは、銀めっき液に界面活性剤を添加しないことにより、めっき後の水洗の際に、(洗剤が汚れを落とす働きと同様に)炭素粒子が表面から脱落または除去され難くなるためであると考えられる。
【0025】
このように炭素粒子を酸化処理した後に銀めっき液に添加することにより、銀めっき液中に炭素粒子を良好に分散させることができ、この銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子が分散した複合材からなる皮膜が素材上に形成され、表面の炭素粒子が占める割合が多く、耐摩耗性に優れた複合めっき材を製造することができる。
【0026】
また、本発明による複合めっき材の実施の形態は、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜が素材上に形成され、複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合が40〜80面積%(好ましくは50〜75面積%)であり、複合めっき皮膜の表面におけるAgの{220}面のX線回折ピークの積分強度I{220}に対する{200}面のX線回折ピークの積分強度I{200}の比(X線回折強度比I{200}/I{220})が10以下(好ましくは8以下)である。複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合が40面積%未満であると、複合めっき材の耐摩耗性が十分でなく、80面積%を超えると、複合めっき材の接触抵抗が高くなる。
【0027】
この複合めっき材において、複合めっき皮膜の表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上であるのが好ましく、0.4〜5.0μmであるのがさらに好ましく、0.5〜3.0μmであるのが最も好ましい。
【0028】
また、複合めっき皮膜の厚さは0.5〜20μmであるのが好ましく、3〜10μmであるのがさらに好ましく、3〜8μmであるのが最も好ましい。複合めっき皮膜の厚さが0.5μm未満であると、複合めっき材の耐摩耗性が十分でなく、20μmを超えると、銀の量が多くなり、複合めっき材の製造コストが高くなる。
【0029】
なお、本発明による複合めっき材の実施の形態は、厚さ0.2mmのCu−Ni−Sn−P合金からなる板材(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuである銅合金の板材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB109EH)に硬質Agめっき皮膜(株式会社サン工業製の(Sb3質量%含有する)硬質Agめっき皮膜(厚さ30μm、ビッカース硬さ180HV)を形成した硬質Agめっき材をインデント加工(内側R=1.0mm)して圧子として使用し、平板状の複合めっき材を評価試料として使用し、摺動摩耗試験機により、評価試料に圧子を一定の加重(2N)で押し当てながら、素材が露出するまで往復摺動動作(摺動距離10mm、摺動速度3mm/s)を継続して、複合めっき材の磨耗状態を確認する磨耗試験を行うことにより、耐摩耗性の評価を行ったときに、5,000回の往復摺動動作後に、素材が露出することがないのが好ましく、10,000回の往復摺動動作後に、素材が露出することがないのがさらに好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明による複合めっき材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0031】
[実施例1]
素材として厚さ0.2mmのCu−Ni−Sn−P合金からなる板材(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuである銅合金の板材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB109EH)を用意し、この素材をカソード、Ag電極板をアノードとして使用して、錯化剤としてスルホン酸を含むスルホン酸系Agストライクめっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE−ST)中において、電流密度3A/dmで10秒間電気めっき(Agストライクめっき)を行った。
【0032】
また、炭素粒子として平均粒径5.0μmの鱗片状(板状)の黒鉛粒子を用意した。なお、実施例および比較例において、炭素粒子の平均粒径は、炭素粒子0.5gを0.2重量%のヘキサメタリン酸ナトリウム溶液50gに分散させ、さらに超音波により分散させた後、レーザー光散乱粒度分布測定装置を用いて体積基準分布の粒径を測定し、累積分布で50%の粒径を平均粒径とすることにより求めた。
【0033】
次に、上記の黒鉛粒子80gを純水1350g中に投入して50℃まで加熱した後、酸化剤として過硫酸カリウム27gを純水600gに溶かした液を添加し、60分間撹拌して湿式酸化処理を行った。このように湿式酸化処理を行った炭素粒子を、吸引ろ過により分離し、水で洗浄した後、乾燥した。
【0034】
次に、錯化剤としてスルホン酸を含むAg濃度30g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE−PL(無光沢))中に、上記の酸化処理を行った炭素粒子を30g/Lになるように添加し、攪拌して分散させた。
【0035】
次に、上記のAgストライクめっきした素材をカソード、Ag電極板をアノードとして使用して、上記の酸化処理を行った炭素粒子を添加した銀めっき液中において、スターラにより500rpmで撹拌しながら、温度25℃、電流密度3A/dmで150秒間電気めっきを行い、銀めっき層中に炭素粒子を含有する複合めっき皮膜が素材上に形成された複合めっき材を作製した。この複合めっき材の複合めっき皮膜(の中央部分の直径1.0mmの範囲)の厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製のFT9450)で測定したところ、4.8μmであった。
【0036】
このようにして得られた複合めっき材から切り出した試験片の表面を観察することにより、複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合(面積率(面積%))を算出した。この複合めっき皮膜の表面の炭素粒子の面積率は、試験片の表面に電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)(日本電子株式会社製のJXA8100)により照射電流3×10−7A、加速電圧15kVで電子線を照射して反射電子検出器から得られた(倍率1000倍の)反射電子組成(COMPO)像(この実施例で得られたCOMPO像を図1に示す)を、画像解析アプリケーション(画像編集・加工ソフトGIMP2.10.6)を使用して、(全ピクセルのうち最も高い輝度を255、最も低い輝度を0とすると、輝度が127以下のピクセルが黒、輝度が127を超えるピクセルが白になるように)階調を二値化し、銀の部分(白い部分)と炭素粒子の部分(黒い部分)に分離して、画像全体のピクセル数Xに対する炭素粒子の部分のピクセル数Yの比Y/Xとして算出した。その結果、複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合(面積率)は、72面積%であった。また、複合めっき皮膜の表面は、ムラもなく、外観が良好であった。
【0037】
また、得られた複合めっき材について、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製のVKX−110)により倍率100倍で撮影した複合めっき皮膜の表面の画像を解析アプリケーション(株式会社キーエンス製のVK−HIXAバージョン3.8.0.0)によりJIS B0601(2001年)に基づいて(銅合金板材の圧延方向に垂直な方向における)表面粗さを表すパラメータである算術平均粗さRaを算出したところ、1.1μmであった。
【0038】
また、得られた複合めっき材について、X線回折装置(XRD)(株式会社リガク製のRINT2100)を使用し、Co管球を用いて、管電圧20kV、管電流20mAの条件で、2θ法により得られたX線回折パターンから、複合めっき皮膜の表面におけるAgの{200}面のX線回折ピークの積分強度I{200}と{220}面のX線回折ピークの積分強度I{220}を測定し、これらの測定値を用いて、X線回折強度比I{200}/I{220}を求めたところ、2.4であった。
【0039】
また、厚さ0.2mmのCu−Ni−Sn−P合金からなる板材(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuである銅合金の板材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB109EH)に硬質Agめっき皮膜(株式会社サン工業製の(Sb3質量%含有する)硬質Agめっき皮膜(厚さ30μm、ビッカース硬さ180HV)を形成した硬質Agめっき材をインデント加工(内側R=1.0mm)して圧子として使用し、平板状の複合めっき材を評価試料として使用し、摺動摩耗試験機(株式会社山崎精機研究所製)により、評価試料に圧子を一定の加重(2N)で押し当てながら、素材が露出するまで往復摺動動作(摺動距離10mm、摺動速度3mm/s)を継続して、複合めっき材の磨耗状態を確認する磨耗試験を行うことにより、耐摩耗性の評価を行った。その結果、10,000回の往復摺動動作後に、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製のVHX−1000)により複合めっき材の摺動痕の中心部を倍率200倍で観察したところ、(茶色の)素材が露出ていないことが確認され、また、複合めっき皮膜(の摺動痕中央部分の直径0.1mmの範囲)の厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製のFT9450)で測定したところ、4.1μmであり、耐摩耗性に優れていることがわかった。また、この摺動摩耗試験中に接触抵抗を測定したところ、接触抵抗の最大値は1.6mΩであった。
【0040】
[実施例2]
電流密度を1A/dm、電気めっき時間を450秒間とした以外は、実施例1と同様の方法により、複合めっき材を作製した。この複合めっき材の複合めっき皮膜の厚さを実施例1と同様の方法により測定したところ、4.9μmであった。
【0041】
このようにして得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合(面積率)を算出したところ、68面積%であった。また、複合めっき皮膜の表面は、ムラもなく、外観が良好であった。
【0042】
また、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRaを算出したところ、1.2μmであった。また、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、X線回折強度比I{200}/I{220}を求めたところ、6.1であった。さらに、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、摺動摩耗試験を行って耐摩耗性の評価を行ったところ、10,000回の往復摺動動作後に、素材が露出することはなく、複合めっき皮膜の厚さは3.7μmであり、耐摩耗性に優れていることがわかった。また、この摺動摩耗試験中に接触抵抗を測定したところ、接触抵抗の最大値は1.2mΩであった。
【0043】
[実施例3]
実施例1と同様の素材を用意し、この素材をカソード、Ni電極板をアノードとして使用して、80g/Lのスルファミン酸ニッケルと45g/Lのホウ酸からなるニッケルめっき浴中において、液温45℃、電流密度4A/dmで攪拌しながら30秒間電気めっき(Niめっき)を行って、素材上に厚さ0.2μmのNiめっき皮膜を形成した後、実施例1と同様の方法により、Agストライクめっきを行った。
【0044】
次に、スルホン酸系銀めっき液中のAg濃度を80g/Lとし、電流密度を7A/dm、電気めっき時間を75秒間とした以外は、実施例1と同様の方法により、複合めっき材を作製した。この複合めっき材の複合めっき皮膜の厚さを実施例1と同様の方法により測定したところ、5.2μmであった。
【0045】
このようにして得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合(面積率)を算出したところ、69面積%であった。また、複合めっき皮膜の表面は、ムラもなく、外観が良好であった。
【0046】
また、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRaを算出したところ、0.7μmであった。また、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、X線回折強度比I{200}/I{220}を求めたところ、4.4であった。さらに、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、摺動摩耗試験を行って耐摩耗性の評価を行ったところ、10,000回の往復摺動動作後に、素材が露出することはなく、複合めっき皮膜の厚さは3.3μmであり、耐摩耗性に優れていることがわかった。また、この摺動摩耗試験中に接触抵抗を測定したところ、接触抵抗の最大値は1.3mΩであった。
【0047】
[実施例4]
素材として厚さ0.3mmのタフピッチ銅(C1100R−1/2H)からなる板材を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、複合めっき材を作製した。この複合めっき材の複合めっき皮膜の厚さを実施例1と同様の方法により測定したところ、5.0μmであった。
【0048】
このようにして得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合(面積率)を算出したところ、67面積%であった。また、複合めっき皮膜の表面は、ムラもなく、外観が良好であった。
【0049】
また、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRaを算出したところ、0.9μmであった。また、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、X線回折強度比I{200}/I{220}を求めたところ、2.2であった。さらに、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、摺動摩耗試験を行って耐摩耗性の評価を行ったところ、10,000回の往復摺動動作後に、素材が露出することはなく、複合めっき皮膜の厚さは3.8μmであり、耐摩耗性に優れていることがわかった。また、この摺動摩耗試験中に接触抵抗を測定したところ、接触抵抗の最大値は1.4mΩであった。
【0050】
[実施例5]
実施例1と同様の素材を用意し、この素材をカソード、Ni電極板をアノードとして使用して、80g/Lのスルファミン酸ニッケルと45g/Lのホウ酸からなるニッケルめっき浴中において、液温45℃、電流密度4A/dmで攪拌しながら120秒間電気めっき(Niめっき)を行って、素材上に厚さ1.1μmのNiめっき皮膜を形成した後、実施例1と同様の方法により、Agストライクめっきを行い、その後、実施例1と同様の方法により、複合めっき材を作製した。この複合めっき材の複合めっき皮膜の厚さを実施例1と同様の方法により測定したところ、5.2μmであった。
【0051】
このようにして得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合(面積率)を算出したところ、71面積%であった。また、複合めっき皮膜の表面は、ムラもなく、外観が良好であった。
【0052】
また、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRaを算出したところ、1.0μmであった。また、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、X線回折強度比I{200}/I{220}を求めたところ、2.3であった。さらに、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、摺動摩耗試験を行って耐摩耗性の評価を行ったところ、10,000回の往復摺動動作後に、素材が露出することはなく、複合めっき皮膜の厚さは3.9μmであり、耐摩耗性に優れていることがわかった。また、この摺動摩耗試験中に接触抵抗を測定したところ、接触抵抗の最大値は1.5mΩであった。
【0053】
[比較例1]
実施例1と同様の素材を用意し、この素材をカソード、白金で被覆したチタン電極板をアノードとして使用して、3g/Lのシアン銀カリウムと100g/Lのシアン化カリウムを含む水溶液からなるシアン系Agストライクめっき液中において、液温25℃、電流密度3A/dmで10秒間電気めっき(Agストライクめっき)を行った。
【0054】
次に、実施例1の酸化処理を行った炭素粒子を、100g/Lのシアン銀カリウムと120g/Lのシアン化カリウムと光沢剤として4mg/Lのシアン化セレン酸カリウムとを含む水溶液からなるシアン系銀めっき液に添加して、複合めっき液として使用した以外は、実施例1と同様の方法により、複合めっき材を作製した。この複合めっき材の複合めっき皮膜の厚さを実施例1と同様の方法により測定したところ、4.9μmであった。
【0055】
このようにして得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合(面積率)を算出したところ、43面積%であった。また、複合めっき皮膜の表面は、ムラもなく、外観が良好であった。なお、この比較例で得られたCOMPO像を図2に示す
【0056】
また、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRaを算出したところ、0.7μmであった。また、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、X線回折強度比I{200}/I{220}を求めたところ、13.1であった。さらに、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、摺動摩耗試験を行って耐摩耗性の評価を行ったところ、10,000回の往復摺動動作後に、素材が露出し、複合めっき皮膜の厚さは0.3μmであり、耐摩耗性が悪いことがわかった。また、この摺動摩耗試験中に接触抵抗を測定したところ、接触抵抗の最大値は1.4mΩであった。
【0057】
[比較例2]
炭素粒子の酸化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により、複合めっき材を作製した。この複合めっき材の複合めっき皮膜の厚さを実施例1と同様の方法により測定したところ、5.1μmであった。
【0058】
このようにして得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合(面積率)を算出したところ、20面積%であった。また、複合めっき皮膜の表面は、ムラもなく、外観が良好であった。
【0059】
また、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRaを算出したところ、0.8μmであった。また、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、X線回折強度比I{200}/I{220}を求めたところ、3.1であった。さらに、得られた複合めっき材について、実施例1と同様の方法により、摺動摩耗試験を行って耐摩耗性の評価を行ったところ、10,000回の往復摺動動作で素材が露出し、複合めっき皮膜の厚さは0.2μmであり、耐摩耗性が悪いことがわかった。また、この摺動摩耗試験中に接触抵抗を測定したところ、接触抵抗の最大値は2.0mΩであった。
【0060】
これらの実施例および比較例の複合めっき材の製造条件および特性を表1〜表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
図1
図2