【実施例1】
【0018】
(軸受装置の全体構成)
まず、
図1〜3を用いて本発明の実施例1に係る軸受装置1の全体構成を説明する。
図1〜3に示すように、シリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成された軸受ハウジング4には、両側面間を貫通する円形孔である軸受孔(保持孔)5が形成されており、側面における軸受孔5の周縁には円環状凹部である受座6、6が形成されている。軸受孔5には、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する半割軸受7、7が円筒状に組み合わされて嵌合される。受座6、6には、クランク軸のスラストカラー12を介して軸線方向力f(
図3参照)を受ける半割スラスト軸受8、8が円環状に組み合わされて嵌合される。
【0019】
図2に示すように、主軸受を構成する半割軸受7のうち、シリンダブロック2側(上側)の半割軸受7の内周面には潤滑油溝71が形成され、また潤滑油溝71内には外周面に貫通する貫通孔72が形成されている(
図7及び8参照)。なお、潤滑油溝は、上下両方の半割軸受に形成することもできる。
【0020】
また半割軸受7には、半割軸受7同士の当接面に隣接して、周方向両端部にクラッシュリリーフ73、73が形成されている(
図2参照)。クラッシュリリーフ73は、半割軸受7の周方向端面に隣接する領域の壁厚が、周方向端面に向かって徐々に薄くなるように形成された壁厚減少領域である。クラッシュリリーフ73は、一対の半割軸受7、7を組み付けたときの突合せ面の位置ずれや変形を吸収することを企画して形成される。
【0021】
(半割スラスト軸受の構成)
次に、
図2〜5を用いて実施例1の半割スラスト軸受8の構成について説明する。本実施例の半割スラスト軸受8は、Fe合金製の裏金層84に薄い軸受合金層85を接着したバイメタルを用いて、半円環形状の平板に形成される。なお、裏金層84のFe合金として、鋼やステンレス鋼等を用いることができる。また軸受合金層85として、Cu軸受合金やAl軸受合金等を用いることができる。軸受合金層85は、Fe合金製の裏金層84に対し硬さが低く(軟らかく)、したがって外力を受けた場合に弾性変形量が多い。
半割スラスト軸受8は、周方向中央領域に軸受合金層85から構成される摺動面81(軸受面)と、周方向両端面83、83に隣接する領域にスラストリリーフ82、82とを有し、スラストリリーフ82は、平坦なスラストリリーフ表面(平面)82sを有している。摺動面81には、潤滑油の保油性を高めるために、両側のスラストリリーフ82、82の間に2つの油溝81a、81aが形成されている。
【0022】
なお、
図12に示すように、軸受合金層85の摺動面81上にオーバーレイ層87を形成することもできる。オーバーレイ層87として、Sn、Sn合金、Bi、Bi合金、Pb、Pb合金等の金属や合金、あるいは樹脂摺動材料を用いることができる。樹脂摺動材料は、樹脂バインダと固体潤滑剤とから形成される。樹脂バインダとしては公知の樹脂を用いることができるが、耐熱性の高いポリアミドイミド、ポリイミド及びポリベンゾイミダゾールの一種以上を用いることが好ましい。また、ポリアミドイミド、ポリイミド及びポリベンゾイミダゾールの一種以上からなる耐熱性の高い樹脂と、ポリアミド、エポキシ及びポリエーテルサルフォンの一種以上からなる樹脂1〜25体積%とを混合した樹脂組成物や、ポリマーアロイ化した樹脂組成物を樹脂バインダとして使用してもよい。固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素等を用いることができる。樹脂摺動材料に対する固体潤滑剤の添加割合は、好適には、20〜80体積%である。また、樹脂摺動材料の耐摩耗性を高めるために、セラミックスや金属間化合物等の硬質粒子を樹脂摺動材料に対して0.1〜10体積%含有させてもよい。
【0023】
またオーバーレイ層87は、クランク軸の軸線方向負荷を受ける軸受合金層85の摺動面81となる表面のみでなく、スラストリリーフ表面82s、油溝81aの表面、半割スラスト軸受8の外径面、内径面、背面、周方向端面等にも付与されてもよい。オーバーレイ層87の厚さは0.5〜20μmであり、望ましくは1〜10μmである。
なお、本明細書において、摺動面81、スラストリリーフ表面82s、背面84b、周方向端面83は、オーバーレイ層87を付与しなかった場合の表面として定義される。
【0024】
スラストリリーフ82は、周方向両端面に隣接する摺動面81側の領域に、半割スラスト軸受8の壁厚が端面に向かって徐々に薄くなるように形成される壁厚減少領域であり、半割スラスト軸受8の周方向端面83の径方向全長に亘って延びている。スラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8を分割型の軸受ハウジング4内に組み付けた際の位置ずれ等に起因する、一対の半割スラスト軸受8、8の周方向端面83、83同士の位置ずれを緩和するために形成される。
【0025】
図4に示すように、本実施例のスラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8の径方向内側端部と径方向外側端部の間で一定のスラストリリーフ長さL1を有している。
乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30〜100mm程度)に使用する場合、半割スラスト軸受8の周方向端面83からのスラストリリーフ長さL1は、3〜25mmになされる。
【0026】
ここで、スラストリリーフ長さL1とは、半割スラスト軸受8の周方向両端面83を通る平面(スラスト軸受分割平面HP)から垂直方向に測った長さとして定義される。特に、径方向内側端部におけるスラストリリーフ長さL1は、半割スラスト軸受8の周方向端面83から、スラストリリーフ表面82sが摺動面81の内周縁と交わる点までの垂直方向の長さとして定義される。
【0027】
また半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82は、周方向端面83において、半割スラスト軸受8の径方向内側端部と径方向外側端部との間で一定の軸線方向深さRD1を有するように形成される。
スラストリリーフ82の軸線方向の深さRD1は、0.1〜1mmになされることができる。
【0028】
ここで、軸線方向深さとは、半割スラスト軸受8の摺動面81を含む平面からスラストリリーフ表面82sまでの軸線方向距離を意味する。換言すれば、軸線方向深さは、摺動面81をスラストリリーフ82上まで延長した仮想摺動面からスラストリリーフ表面82sまで垂直に測った距離である。したがって軸線方向深さRD1は、特に、半割スラスト軸受8の周方向端面83におけるスラストリリーフ表面82sから摺動面81までの深さとして定義される。
【0029】
図5及び6に示すように、裏金層84は2つの表面、すなわち軸受合金層85が接着された第1の表面84aと、半割スラスト軸受8の背面を構成する第2の表面84bとを画成している。またこれら第1の表面84aと第2の表面84bの間に延びる裏金層84の周方向端面は、第2表面84bに隣接し且つ半割スラスト軸受8の周方向端面83の一部を構成するように延びる露出端面84eと、この露出端面84eから第1の表面84まで延びる遷移面84tとを有する。
【0030】
軸受合金層85は、裏金層84の遷移面84tを覆うように第1の表面84a側から第2の表面84b側に向かって軸線方向に延びる延長部86を有し、この延長部86は、半割スラスト軸受8の周方向端面83の一部を構成する延長端面86eを有する。延長端面86eは、延長端面86e及び露出端面84eが同一平面(周方向端面86)内に延びるように、露出端面84eに段差なしに隣接して形成される。
なお、実施例1では、周方向端面83は全体として軸線方向に垂直な同一平面内に延びているが、周方向端面83は、例えば露出端面84eの遷移面84tに隣接する側が延長端面86eとともに平坦に(面一に)形成され、露出端面84eの第2表面84bに隣接する側がその平坦面よりも窪んでいるように延びていてもよい。
【0031】
また実際の製造の観点から、スラストリリーフ表面82sの形状は、摺動面81に垂直な周方向断面で、僅かに湾曲した曲線であってもよく、同様にスラストリリーフ82における裏金層84の第1の表面84aの形状は、摺動面81に垂直な周方向断面で、僅かに湾曲した曲線であってもよい。
【0032】
より詳細には、軸受合金層85の延長部86は、半割スラスト軸受の摺動面81に垂直であり且つ半割スラスト軸受8の周方向端面83に垂直な断面において、周方向端面83と、スラストリリーフ82における裏金層84の第1の表面84aを延長した仮想線との交点P1、第1の表面84aと遷移面84tとの交点P2、及び遷移面84tと露出平面84eとの交点P3によって囲まれる部分として定義される。
そして、交点P1からP3までの距離である延長部86の軸線方向長さA1は0.2〜1.5mmであることが好ましく、特に周方向端面における裏金層84の厚さの10〜40%であることが好ましい。
また交点P1からP2までの距離である第1の表面84aに沿った延長部86の厚さA2は好ましくは0.2〜1mmであり、延長部86の厚さは交点P3側に向かって次第に小さくなっている。
なお、延長部86は、半割スラスト軸受8の周方向端面83の径方向全長に亘って延びている。
【0033】
実施例1において、遷移面84tは平坦な表面として形成されているが、延長部86側に凸形状の曲面、すなわち延長部86と反対側に曲率中心を有する曲率半径の曲面として形成されてもよい。あるいは遷移面84tは、全体として延長部86側に凸形状となるように、複数の平面から、又は不連続な表面から形成されていてもよい。
またスラストリリーフ表面82sと周方向端面83の間のコーナーをR形状としてもよい。
【0034】
(実施例1による作用)
上述したようにクランク軸からの軸線方向力fが半割スラスト軸受8の摺動面81に入力するのとほぼ同時に、一方の半割スラスト軸受8の周方向端面83と他方の半割スラスト軸受8の周方向端面83とが衝突し、それにより、それら半割スラスト軸受8の周方向端面83付近に衝撃的な負荷が加わる。なお、本実施例の構成とは異なり、
図1に示すシリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成された軸受ハウジング4のうちシリンダブロック2の側面にだけ軸受孔5の周縁の円環状凹部である受座6が形成され、したがって軸受ハウジング4の一方の側面にただ1つの半割スラスト軸受が配置される場合には、半割スラスト軸受8の周方向端面83は、軸受キャップ3の端面(分割面)と衝突し、それにより半割スラスト軸受8の周方向端面83付近に衝撃的な負荷が加わる。
本実施例では、周方向端面83のスラストリリーフ82に隣接する側に軸受合金層85の延長部86が形成されているため、この部分が衝撃負荷を受けて弾性変形し、それにより周方向端面83において、軸受合金層85に隣接する裏金層84の領域に加わる負荷が緩和される。さらに、周方向端面83の背面側(スラストリリーフ82から離間した側)では延長部86と比較して弾性変形が起き難い裏金層84の露出表面84eが露出するので、衝撃負荷は、主に裏金層83の、スラストリリーフ82から離間した領域に加わることになる。このため、スラストリリーフ表面82sやスラストリリーフ82に隣接する摺動面の領域における軸受合金層84には衝撃負荷が伝播し難く、したがってこれらの領域の軸受合金層84に疲労が生じ難くなる。
【0035】
なお、本実施例とは異なり、半割スラスト軸受8の周方向端面83の全体(全面)に亘って延長部分を形成した場合、従来の半割スラスト軸受と同じく、衝撃負荷は、スラストリリーフにおける裏金層に、その厚さ方向の位置に関係なく均等に伝播するため、スラストリリーフ表面やスラストリリーフに隣接する摺動面の領域における裏金層にも衝撃負荷が伝播して、そこに隣接する軸受合金層に疲労が生じやすい。
また延長部86の軸線方向長さA1が大きすぎる場合も、周方向端面83において衝撃負荷を主に支える裏金層の表面(露出表面84e)の割合が小さくなるので、延長部86の表面(延長端面86e)にも大きな衝撃負荷が加わる。このように延長部86の表面に大きな衝撃負荷が加わると、延長部86の軸受合金に疲労が生じやすい。
さらに、延長部86の軸線方向長さA1や厚さA2が小さすぎると、衝撃負荷を緩和するための軸受合金層の弾性変形が小さく、衝撃負荷の緩和が不十分となる。このためスラストリリーフ表面やスラストリリーフに隣接する摺動面の領域における裏金層に大きい衝撃負荷が伝播し、軸受合金層に疲労が生じやすい。
【0036】
(軸受合金層及び裏金層の寸法)
図5は、半割スラスト軸受8の周方向端部83近傍を、内側(
図4のYI矢視方向)から見た側面の断面図である。
乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30〜100mm程度)に使用する場合、摺動面81が形成される領域において、半割スラスト軸受8の厚さTは1.5〜3.5mmであり、裏金層84の厚さTBは1.1〜3.2mmであり、軸受合金層85の厚さTAは0.1mm〜0.7mmである。摺動面81が形成される領域において、裏金層84の厚さTBおよび軸受合金層85の厚さTAは、一定とすることが好ましい。
また
図5に示すように、半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8の壁厚が周方向端面83に向かって徐々に薄くなるように形成されている。
図6に示すように、スラストリリーフ82が形成された領域における裏金層84の厚さは、周方向中央側から周方向端面に向かって小さくなっており、周方向端面83での軸線方向の厚さA3、すなわち第1の表面84aを周方向端面82まで延長した仮想線と周方向端面83との交点P1から第2の表面84bまでの軸線方向距離A3は0.6〜2.7mmである。
同様に、スラストリリーフ82が形成された領域における軸受合金層85の軸線方向の厚さは、周方向中央側から周方向端面に向かって小さくなっており、周方向端面83での軸線方向の厚さA4、すなわち裏金層84の第1の表面84aを周方向端面83まで延長した仮想線と周方向端面83との交点P1からスラストリリーフ表面82sまでの軸線方向距離A4は0.05〜0.6mmである。
【0037】
(半割スラスト軸受の製造)
本実施例の半割スラスト軸受8は、裏金層84と軸受合金層85とからなる平面形状の複層摺動材料の軸受合金層の表面側に、スラストリリーフ82となる凹部をプレス成型したのち、一対の雄型と雌型、及びプレス機によりこの凹部が周方向両端部に位置するように摺動材料を半円環形状に切断することによって作成される。ここで、一般的に一対の雄型と雌型の切断部の間の隙間は、切断によるバリを小さくするために狭くなされてきた。しかし、本実施例では、半円環形状の内周面や外周面の切断部では、隙間は従来と同じく狭くなされるが、周方向端部では隙間は従来よりも広くなされる。これにより、プレス成型時、周方向端面付近の裏金層84上の軸受合金層85が、裏金層84の側面(周方向端面)を覆うように隙間内を塑性流動しながら切断され、それにより半割スラスト軸受8の周方向端面83に軸受合金層85の延長部86が形成される。
なお、特許文献1の段落0017に記載されるように、複層摺動材料を半円環形状(半割スラスト軸受の形状)に打ち抜いた後に、プレス機によりスラストリリーフを形成した場合、スラストリリーフを形成した部分の複層摺動材料の軸受合金層および裏金層は、主として打ち抜かれた部材の周方向端面が向く方向へ、周方向端面であった位置からからはみ出るように、換言すれば、打ち抜かれた部材の元の周方向端面から周方向長さが増加するように塑性流動することに留意すべきである。また、軸受合金と裏金では変形抵抗が異なるため、特に軸受合金の塑性変形量が大きいため、周方向端面が平坦でなくなる。このため、スラストリリーフを形成した部材は、塑性流動して元の周方向端面位置からはみ出た軸受合金および裏金を切削加工により除去し、平坦な周方向端面を形成する必要がある。それゆえ従来の半割スラスト軸受では、特許文献1の
図3等に示されるように、周方向端面の裏金層の表面に軸受合金層からなる延長部は形成されない。
【0038】
また本実施例では、半割軸受7と半割スラスト軸受8が分離しているタイプの軸受装置1について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、半割軸受7と半割スラスト軸受8が一体化したタイプの軸受装置1にも適用できる。
【0039】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は本発明に含まれる。