特許第6804583号(P6804583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804583
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】エンジン失火検出装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20201214BHJP
   B60W 10/12 20120101ALI20201214BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20201214BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20201214BHJP
   F16H 48/20 20120101ALI20201214BHJP
【FI】
   F02D45/00 368Z
   F02D45/00 362
   F02D45/00 360A
   B60W10/12
   B60W10/06
   F02D29/02 K
   F16H48/20
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-72407(P2019-72407)
(22)【出願日】2019年4月5日
(65)【公開番号】特開2020-169628(P2020-169628A)
(43)【公開日】2020年10月15日
【審査請求日】2019年4月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】特許業務法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保月 貴司
(72)【発明者】
【氏名】和田 修一
(72)【発明者】
【氏名】幸田 武史
【審査官】 戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−287516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
B60W 10/06
B60W 10/12
F02D 29/02
F16H 48/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の車輪を繋いで固定するデフロック機能と左右の車輪を繋がず解放するアンロック機能を有し、デフロック状態とアンロック状態とを切り替えるデファレンシャル機構を備えた車両のエンジン失火検出装置であって、
エンジンの回転速度変化量を検出するエンジン回転速度変化量検出部と、
前記デファレンシャル機構のデフロック状態とアンロック状態を切り替えると共に、現在の状態がデフロック状態かアンロック状態か、またはデフロック状態とアンロック状態の切り替え中であるかを検出するデフロック検出機能部と、
前記デフロック検出機能部から検出信号を入力し、デフロック状態からアンロック状態への切り替え中、もしくはアンロック状態からデフロック状態への切り替え中であるかを判定するロック・アンロック切り替え判定部と、
ギヤポジションセンサより検出されるギヤポジションの状態より失火判定の実施有無を判定するための失火判定禁止時間を算出し、設定する失火判定禁止時間設定部と、
前記回転速度変化量に対する閾値を設定するエンジン回転速度変化量閾値設定部と、
前記回転速度変化量が前記閾値を超えた場合に前記エンジンの失火判定を行い、失火検出を行う失火検出部と、を備え、
前記失火判定禁止時間設定部は、失火判定禁止時間をギヤポジションが高ギヤになるに従って長くし、
前記失火検出部は、前記ロック・アンロック切り替え判定部が、デフロック状態からアンロック状態への切り替え中、もしくはアンロック状態からデフロック状態への切り替え中であると判定した時に、前記失火判定禁止時間が経過するまで前記失火判定の実施を禁止することを特徴とするエンジン失火検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、エンジンの失火を検出するエンジン失火検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関のエンジンは環境対策のため、未燃ガスの排出防止あるいは排気系統に設けられた触媒を保護することを目的として、エンジンの失火を検出することが求められている。ここで、エンジンの失火状態を検出する手段として、エンジン回転速度を検出し、この変化量に基づいて失火状態を検出する手段が、例えば特許文献1あるいは特許文献2に記載されているように公知の技術として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−287516号公報
【特許文献2】特開平5−332193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ロック状態とアンロック状態を切り替えるデフロック機能を有する車両においては、デフロック機能を得る装置がギヤの噛み合い式のドッグクラッチで構成されており、デフロックをアンロック状態からロック状態に切り替えた時、即ちギヤの噛み合い時、またはロック状態からアンロック状態を切り替えた時、即ちギヤの抜けた時においては、急激な負荷の変化によりエンジン回転速度に急激な変動が発生する場合がある。
そのため、失火状態ではないにも関わらず失火状態と誤検出する場合が発生していた。従来の失火検出手段は、例えば特許文献1に記載されているように、エンジン回転速度の変化量に基づいて失火を検出しているが、この検出手段は失火を検出するまでにある一定時間必要とし、このためエンジン回転速度に急激な変動が発生した場合には検出遅れまたは誤判定する課題がある。
【0005】
また、特許文献2に記載されているように、車体変動量検出手段により失火を検出する方法もあるが、この方法は専用のセンサが必要であり、また車体の変動を検出して判定するため、デフロックの切り替えを直接検出している訳ではなく、検出遅れまたは誤判定する課題がある。
【0006】
本願は、前記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、エンジンの失火状態を正確に検出することのできるエンジン失火検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に開示されるエンジン失火検出装置は、左右の車輪を繋いで固定するデフロック機能と左右の車輪を繋がず解放するアンロック機能を有し、デフロック状態とアンロック状態とを切り替えるデファレンシャル機構を備えた車両のエンジン失火検出装置であって、
エンジンの回転速度変化量を検出するエンジン回転速度変化量検出部と、前記デファレンシャル機構のデフロック状態とアンロック状態を切り替えると共に、現在の状態がデフロック状態かアンロック状態か、またはデフロック状態とアンロック状態の切り替え中であるかを検出するデフロック検出機能部と、前記デフロック検出機能部から検出信号を入力し、デフロック状態からアンロック状態への切り替え中、もしくはアンロック状態からデフロック状態への切り替え中であるかを判定するロック・アンロック切り替え判定部と、ギヤポジションセンサより検出されるギヤポジションの状態より失火判定の実施有無を判定するための失火判定禁止時間を算出し、設定する失火判定禁止時間設定部と、前記回転速度変化量に対する閾値を設定するエンジン回転速度変化量閾値設定部と、前記回転速度変化量が前記閾値を超えた場合に前記エンジンの失火判定を行い、失火検出を行う失火検出部と、を備え、
前記失火判定禁止時間設定部は、失火判定禁止時間をギヤポジションが高ギヤになるに従って長くし、
前記失火検出部は、前記ロック・アンロック切り替え判定部が、デフロック状態からアンロック状態への切り替え中、もしくはアンロック状態からデフロック状態への切り替え中であると判定した時に、前記失火判定禁止時間が経過するまで前記失火判定の実施を禁止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本願に開示されるエンジン失火検出装置によれば、デフロック切り替え時のエンジン回転速度の変化を失火と誤判定することなく、エンジンの失火状態を正確に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係るエンジン失火検出装置を説明するシステム構成図である。
図2】実施の形態1に係るエンジン失火検出装置の失火検出部での失火検出判定の一例を示す説明図である。
図3】実施の形態1に係るエンジン失火検出装置の動作手順を説明するフローチャートである。
図4】実施の形態1に係るエンジン失火検出装置の失火検出設定部での失火判定禁止時間算出の一例を示す説明図である。
図5】実施の形態1に係るエンジン失火検出装置のエンジン回転速度変化量閾値設定部において実行されるエンジン回転速度変化量閾値算出時のフローチャートである。
図6】実施の形態1に係るエンジン失火検出装置の失火判定禁止時間設定部において実行される失火判定禁止時間算出時のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願に係るエンジン失火検出装置の好適な実施の形態について図面を用いて説明する。
【0011】
図1は、実施の形態1に係るエンジン失火検出装置を説明するシステム構成図である。
図1において、失火検出装置10は、エンジン回転速度変化量検出部11と、ロック・アンロック切り替え判定部12と、失火検出設定部13と、失火検出部14とを備え、ECU(Electronic Control Unit)の内部に設けられている。また、失火検出設定部13は、失火判定禁止時間設定部15とエンジン回転速度変化量閾値設定部16を含んで構成されている。そして、エンジン回転速度変化量検出部11には、クランク角センサ17の検出信号が入力され、ロック・アンロック切り替え判定部12には、デフロック検出機能部18の検出信号が入力され、失火検出設定部13には、ギヤポジションセンサ19、水温センサ20、車速センサ21の検出信号が入力される。なお、ギヤポジションセンサ19、水温センサ20、および車速センサ21は何れか一つのみでもよい。
【0012】
ここで、クランク角センサ17はエンジンのクランク軸に取り付けられ、エンジンの所定角度ごとにクランク角信号を出力し、デフロック検出機能部18はデファレンシャル機構のロック状態とアンロック状態を切り替えると共に、現在の状態がロック状態かアンロック状態か、またはそれ以外の切り替え中であるかを検出する。また、ギヤポジションセンサ19はギヤ位置を検出し、水温センサ20はエンジンの冷却水温を検出し、車速センサ21は車両の走行速度を検出し、それぞれの検出信号が失火検出設定部13に入力される。
【0013】
図2は、失火検出部14での失火検出判定の一例を示す説明図である。エンジン回転速度変化量検出部11は、エンジン(図示せず)のクランク軸に取り付けられたクランク角センサ17からクランク角信号を入力すると共に、入力したクランク角信号に基づいてエンジンの回転速度を検出し、そのエンジン回転速度の変化量を算出する。エンジン回転速度の変化量(回転変動α)の算出方法については周知であり説明は省略する。
【0014】
失火検出部14は、エンジン回転速度変化量検出部11からエンジン回転速度変化量を入力し、そのエンジン回転速度変化量がエンジン回転速度変化量閾値設定部16において予め設定されたエンジン回転速度変化量閾値より大きいときは失火であると判定し、エンジン回転速度変化量閾値より小さいときは失火でないと判定し、失火検出を行う。なお、エンジン回転速度変化量閾値算出時の手順については後述する。
【0015】
図3は、失火検出装置10における一連の動作手順を示すフローチャートである。
まず、ステップS101でエンジン回転速度変化量検出部11が、クランク角センサ17で検出されるクランク角信号に基づいてエンジン回転速度を検出し、そのエンジン回転速度の変化量を算出する。
【0016】
ステップS102では、失火検出設定部13の失火判定禁止時間設定部15が、車両の状態より失火判定の実施有無を判定するために、失火判定禁止時間を算出する。失火判定禁止時間については、ギヤポジションセンサ19で検出されるギヤポジションにより、現在のギヤポジションが4速以上の時は例えば、3.0ms、1〜3速の時は例えば、2,0ms、0速の時は例えば、1.0msのように、失火判定禁止時間を切り替える。この切り替えるギヤポジションの条件、および失火判定禁止時間については、車両の種類あるいは使われ方によって設定値を切り替えても良い。また、失火判定禁止時間が長くなり過ぎないように上限値を決め、クリップを掛けておくことが望ましい。
【0017】
また、失火判定禁止時間については、ギヤポジションセンサ19で検出されるギヤポジションと同様に、水温センサ20で検出される水温、または車速センサ21で検出される車速の状態によって失火判定禁止時間を切り替えても良い。また、ギヤポジションセンサ19で検出されるギヤポジション、水温、車速の何れかまたは全てを組み合わせて失火判定禁止時間を設定しても良い。なお、失火判定禁止時間算出時の手順については後述する。
【0018】
ステップS103では、エンジン回転速度変化量閾値設定部16において、失火判定を行うためのエンジン回転速度変化量閾値を算出する。この閾値は一定の値でも良いし、運転条件によって切り替えても良い。また、エンジン回転速度、あるいはギヤポジション、水温、車速といった車両の状態を基に作成されたマップからの算出でも良く、あるいはそれらを組み合わせて算出しても良い。
【0019】
ステップS104では、ロック・アンロック切り替え判定部12がデフロック検出機能部18から検出信号を入力し、デフロック状態からアンロック状態への切り替え中、もしくはアンロック状態からデフロック状態への切り替え中であるかを判定する。デフロック状態からアンロック状態への切り替え中、もしくはアンロック状態からデフロック状態への切り替え中と判定したときはステップS105へ進み、最終失火判定禁止時間の演算を行う。また、デフロック切り替え中でない場合、即ちデフロック状態、またはアンロック状態と判定した場合はステップS106へ進み、最終失火判定禁止時間に0msをセットする。
【0020】
ステップS105では、失火判定禁止時間設定部15がステップS102で算出した失火判定禁止時間を最終失火判定禁止タイマへセットする。この最終失火判定禁止タイマは、カウントダウンタイマで構成され、セットされた時間から0までカウントダウンし、時間経過を計測するものである。
【0021】
ステップS107では、失火判定禁止時間が経過しているか判断を行う。時間経過の判断は、最終失火判定禁止タイマが0になっているか否かで判断する。最終失火判定禁止タイマが0のとき失火判定を禁止する時間が経過したと判断し、ステップS108へ進み失火判定を実施する。
【0022】
ステップS108では、エンジン回転速度変化量閾値設定部16がステップS103で算出したエンジン回転速度変化量閾値を最終エンジン回転速度変化量閾値としてセットする。
【0023】
ステップS109では、失火検出部14がステップS101より算出したエンジン回転速度変化量と、ステップS108でセットした最終エンジン回転速度変化量との比較を行い、エンジン回転速度変化量の方が大きい場合は失火と判定し、ステップS110へ進む。エンジン回転速度変化量が小さい場合は、失火ではないと判定し、ステップS111へ進む。
【0024】
図4は、失火判定禁止時間設定部15において実行される失火判定禁止時間設定時の動作を示す図である。
ロック・アンロック切り替え判定部12において、デフロック切り替え中と判定したとき、その時の状態より決定された失火判定禁止時間が設定され、上述の最終失火判定禁止タイマが0になるまで失火判定を禁止する。
【0025】
図5は、エンジン回転速度変化量閾値設定部16において実行されるエンジン回転速度変化量閾値算出時のフローチャートである。
図5に示すように、ステップS201において、現在のギヤポジションが0速か否か判定し、0速であればステップS202に進んでエンジン回転速度変化量閾値(ギヤポジション)を1として終了する。
ステップS201で現在のギヤポジションが0速でないと判定された場合は、ステップS203へ進み、現在のギヤポジションが第2閾値より大か否かを判定し、第2閾値より大であればステップS204へ進んでエンジン回転速度変化量閾値(ギヤポジション)を2として終了する。ステップS203において現在のギヤポジションが第2閾値より小であればステップS205に進んでエンジン回転速度変化量閾値(ギヤポジション)を3として終了する。
【0026】
以上のように、エンジン回転速度変化量閾値設定部16では、現在のギヤポジションと閾値を比較し、ギヤポジションより決定されるエンジン回転速度変化量閾値を決定する。
【0027】
図6は、失火判定禁止時間設定部15において実行される失火判定禁止時間算出時のフローチャートである。
図6に示すように、ステップS301において、現在のギヤポジションが第1閾値より大か否かを判定し、第1閾値より大と判定された場合はステップS302へ進んで失火検出禁止時間(ギヤポジション)を1として終了する。
ステップS301で現在のギヤポジションが第1閾値より小と判定された場合はステップS303へ進み、現在のギヤポジションが第2閾値より大か否かを判定し、第2閾値より大であればステップS304へ進んで失火検出禁止時間(ギヤポジション)を2として終了する。ステップS303において現在のギヤポジションが第2閾値より小であればステップS305に進んで失火検出禁止時間(ギヤポジション)を3として終了する。
以上のように、現在のギヤポジションと閾値を比較し、ギヤポジションより決定される失火検出禁止時間を決定する。
【0028】
以上のように実施の形態1係るエンジン失火検出装置によれば、デフロック切り替え時のエンジン回転速度の変化を失火と誤判定することなく、エンジンの失火状態を正確に検出できる。また、運転状態に応じて最適な失火判定禁止時間を設定することが可能となり、失火誤検出を防止することができる。
【0029】
本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0030】
10 失火検出装置、11 エンジン回転速度変化量検出部、12 ロック・アンロック切り替え判定部、13 失火検出設定部、14 失火検出部、15 失火判定禁止時間設定部、16 エンジン回転速度変化量閾値設定部、17 クランク角センサ、18 デフロック検出機能部、19 ギヤポジションセンサ、20 水温センサ、21 車速センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6