特許第6804598号(P6804598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6804598リチウム複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804598
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】リチウム複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20201214BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20201214BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20201214BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20201214BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20201214BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 C
   H01M4/36 A
   H01M4/1391
   H01M4/131
   C01G53/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2019-150471(P2019-150471)
(22)【出願日】2019年8月20日
(65)【公開番号】特開2020-29396(P2020-29396A)
(43)【公開日】2020年2月27日
【審査請求日】2019年8月20日
(31)【優先権主張番号】10-2018-0098186
(32)【優先日】2018年8月22日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0111347
(32)【優先日】2018年9月18日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0046060
(32)【優先日】2019年4月19日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0061433
(32)【優先日】2019年5月24日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】チェ ムン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ヘオ キョン チェ
(72)【発明者】
【氏名】ユ ヒュン チョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ スン ヒュン
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2018/0233739(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第03282506(EP,A1)
【文献】 特表2018−502421(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/163356(WO,A1)
【文献】 特表2018−532236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/505−525
H01M 4/131−436
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式1で表される1次粒子、および前記1次粒子が凝集して形成された2次粒子を含むリチウム複合酸化物と;
LiNi1−(b+c+d)CoM1M2 (式1)
(ここで、
M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、
M2は、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つを含み、
0.5≦a≦1.5、0.01≦b≦0.50、0.01≦c≦0.20、0.001≦d≦0.20である。)
前記リチウム複合酸化物を形成する前記1次粒子間の界面および前記2次粒子の表面のうち少なくとも一部に存在するリチウム合金酸化物と;
を含む、リチウム二次電池用正極活物質であって、
前記2次粒子の表面部に存在する前記1次粒子内に含まれたM2元素は、前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示し、
前記正極活物質の表面部におけるM2の含量(atomic%)は、同じ位置におけるNiの含量(atomic%)よりも大きい、
リチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記2次粒子の表面部に存在する前記1次粒子内Niは、前記2次粒子の中心部に向かって増加する濃度勾配を示す、
請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質
【請求項3】
前記1次粒子内に前記2次粒子の中心部に向かって配列されたリチウムイオンの移動経路が形成された、
請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質
【請求項4】
前記2次粒子は、M2元素の濃度が互いに異なる第1領域および第2領域を含み、
前記第1領域内に存在する前記1次粒子内に含まれたM2元素は、前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示す、
請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質
【請求項5】
前記1次粒子内に含まれたM2元素の濃度勾配は、前記1次粒子の中心部を基準として前記2次粒子の中心部側より前記2次粒子の表面部側で大きい、
請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質
【請求項6】
記リチウム合金酸化物は、前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示す、
請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記リチウム合金酸化物は、下記の式2で表される、
請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
LiM3 (式2)
(ここで、
M3は、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ca、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つを含み、
0<e≦6、0<f≦6、0<g≦10である。)
【請求項8】
前記リチウム合金酸化物は、
下記の式3で表される第1リチウム合金酸化物と;
下記の式4で表される第2リチウム合金酸化物と;
を含む、
請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
Li (式3)
(ここで、0<h≦6、0<i≦6、0<j≦10である。)
LiM4 (式4)
(ここで、
M4は、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ca、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つを含み、
0<k≦6、0<m≦6、0<n≦10である。)
【請求項9】
請求項に記載の正極活物質と;
導電材と;
バインダーと;
を含む正極スラリー組成物。
【請求項10】
請求項に記載の正極活物質を含む正極を使用するリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム複合酸化物、前記リチウム複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極活物質および前記正極活物質を含む正極を使用するリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池は、正極と負極に電気化学反応が可能な物質を使用することによって電力を貯蔵するものである。このような電池のうち代表的な例としては、正極および負極でリチウムイオンがインターカレーション/デインターカレーションされるときの化学電位(chemical potential)の差異によって電気エネルギーを貯蔵するリチウム二次電池がある。
【0003】
前記リチウム二次電池は、リチウムイオンの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な物質を正極と負極活物質として使用し、前記正極と負極との間に有機電解液またはポリマー電解液を充填させて製造する。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム複合酸化物が使用されており、その例として、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiMnOなどの複合酸化物が研究されている。
【0005】
前記正極活物質のうちLiCoOは、寿命特性および充放電効率に優れていて、最も多く使用されているが、原料として使用されるコバルトの資源的限界に起因して高価なので、価格競争力に限界があるという短所を有している。
【0006】
LiMnO、LiMnなどのリチウムマンガン酸化物は、熱的安全性に優れ、価格が安いという長所があるが、容量が小さく、高温特性が劣悪であるという問題点がある。また、LiNiO系正極活物質は、高い放電容量の電池特性を示しているが、Liと遷移金属間のカチオンミキシング(cation mixing)問題に起因して合成が難しく、それにより、レート(rate)特性に大きな問題点がある。
【0007】
また、このようなカチオンミキシングの深化程度に応じて多量のLi副産物が発生することになり、これらのLi副産物の大部分は、LiOHおよびLiCOの化合物からなるので、正極ペーストの製造時にゲル(gel)化する問題点と電極の製造後に充放電の進行によるガス発生の原因となる。残留のLiCOは、セルのスウェリング現象を増加させてサイクルを減少させると共に、バッテリーが膨らむ原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国公開特許第10−2015−0069334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来のリチウム二次電池用正極活物質用リチウム複合酸化物の問題点を解決するために、1次粒子内に含まれたドーピング金属元素が2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことによって構造的安定性が向上したリチウム複合酸化物を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、本願で定義されたリチウム複合酸化物とリチウム合金酸化物を同時に含むことによって、高温貯蔵安定性および寿命特性が向上した正極活物質を提供することにある。
【0011】
本発明の目的は、以上で言及した目的に制限されず、言及されていない本発明の他の目的および長所は、下記の説明により理解され得、本発明の実施例によりさらに明らかに理解されるだろう。また、本発明の目的および長所は、特許請求の範囲に示した手段およびその組合せにより実現され得ることを容易に知ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、下記の式1で表される1次粒子と、前記1次粒子が凝集して形成された2次粒子とを含むリチウム複合酸化物が提供され得る。
【0013】
LiNi1−(b+c+d)CoM1M2 (式1)
【0014】
ここで、
M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、
M2は、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つを含み、
0.5≦a≦1.5、0.01≦b≦0.50、0.01≦c≦0.20、0.001≦d≦0.20である。
【0015】
一実施例において、前記2次粒子の表面部に存在する前記1次粒子内に含まれたM2元素は、前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。
【0016】
また、本発明の他の態様によれば、本願に定義されたリチウム複合酸化物と、前記リチウム複合酸化物を形成する1次粒子間の界面および2次粒子の表面のうち少なくとも一部に存在するリチウム合金酸化物とを含む正極活物質が提供され得る。
【0017】
一実施例において、前記リチウム合金酸化物は、前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。これにより、リチウム合金酸化物により電気化学反応中に正極活物質の全体的な構造崩壊を防止することができる。
【0018】
また、本発明のさらに他の態様によれば、本願に定義された正極活物質と、導電材と、バインダーとを含む正極スラリー組成物が提供され得る。
【0019】
また、本発明のさらに他の態様によれば、本願に定義された正極活物質を含む正極を使用するリチウム二次電池が提供され得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明の多様な実施例によるリチウム複合酸化物は、これを構成する2次粒子内に含まれたM2元素が前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことによって、リチウム合金酸化物の構造的安定性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の多様な実施例による正極活物質は、前記リチウム複合酸化物を構成する1次粒子間の界面および前記1次粒子が凝集して形成された2次粒子の表面のうち少なくとも一部に存在するリチウム合金酸化物を含むことによって、構造的安定性を向上させることができ、これにより、本発明の多様な実施例による正極活物質を含む正極をリチウム二次電池の正極として使用する場合、高温貯蔵安定性および寿命特性をさらに向上させることができる。
【0022】
上述した効果と共に、本発明の具体的な効果は、以下に発明を実施するための具体的な事項を説明しつつ、一緒に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施例によって製造された正極活物質に対する透過電子顕微鏡(TEM)分析およびTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
図2】本発明の一実施例によって製造された正極活物質に対する透過電子顕微鏡(TEM)分析およびTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
図3】本発明の一実施例によって製造された正極活物質に対する透過電子顕微鏡(TEM)分析およびTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
図4】本発明の一実施例によって製造された正極活物質に対する透過電子顕微鏡(TEM)分析およびTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
図5】本発明の一実施例によって製造された正極活物質に対する透過電子顕微鏡(TEM)分析およびTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
図6】本発明の一実施例によって製造された正極活物質に対するTEM/EDSマッピンク結果によって測定された金属元素(Ni、Co、Al、W)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
図7】本発明の一実施例によって製造された正極活物質に対するHR−TEMイメージと各地点に対する回折パターン(FFT)を示すものである。
図8】本発明の一実施例によって製造された正極活物質のうちLi 3aサイトに挿入されたNi中の一部がWで置換された結晶構造を示す模式図である。
図9】本発明の他の実施例によって製造された正極活物質のうちドーピング金属に対するTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
図10】本発明の他の実施例によって製造された正極活物質のうちドーピング金属に対するTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
図11】本発明のさらに他の実施例によって製造された正極活物質に対するTEM/EDSマッピンク結果によって測定されたドーピング金属元素(Zr、Ti、W)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
図12】比較例によって製造された正極活物質に対する透過電子顕微鏡(TEM)分析およびTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
図13】比較例によって製造された正極活物質に対する透過電子顕微鏡(TEM)分析およびTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
図14】比較例によって製造された正極活物質に対する透過電子顕微鏡(TEM)分析およびTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
図15】比較例によって製造された正極活物質に対する透過電子顕微鏡(TEM)分析およびTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
図16】本発明の多様な実施例によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。
図17】本発明の多様な実施例によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。
図18】本発明の多様な実施例によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明をさらに容易に理解するために、便宜上、特定用語を本願に定義する。本願で別途定義しない限り、本発明に使用された科学用語および技術用語は、当該当技術分野における通常の知識を有する者により一般的に理解される意味を有する。また、文脈上、特に指定しない限り、単数形態の用語は、その複数形態も含むものであり、複数形態の用語は、その単数形態も含むものと理解されなければならない。
【0025】
以下、本発明によるリチウム複合酸化物と、前記リチウム複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極活物質および前記正極活物質を含む正極を使用するリチウム二次電池についてさらに詳細に説明することとする。
【0026】
リチウム複合酸化物
本発明の一態様によれば、下記の式1で表される1次粒子と、前記1次粒子が凝集して形成された2次粒子とを含むリチウム複合酸化物が提供され得る。
【0027】
LiNi1−(b+c+d)CoM1M2 (式1)
【0028】
ここで、M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、M2は、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つを含み、0.5≦a≦1.5、0.01≦b≦0.50、0.01≦c≦0.20、0.001≦d≦0.20である。
【0029】
一実施例において、前記1次粒子は、下記の式1−1で表される酸化物であるか、または下記の式1−1で表される酸化物を含むことができる。
【0030】
LiNi1−(b+c+d+d’)CoM1M2d’ (式1−1)
【0031】
ここで、M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、M2は、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、ZN、Nb、Ba、Ca、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つを含み、0.5≦a≦1.5、0.01≦b≦0.50、0.01≦c≦0.20、0≦d≦0.20、0.001≦d’≦0.20である。
【0032】
本願においてリチウム複合酸化物は、前記1次粒子と、複数個の前記1次粒子が互いに凝集(物理的に結合)された凝集体とを含む粒子として定義され得る。前記1次粒子は、棒形状、楕円形状および/または不定形の形状を有し得る。
【0033】
前記1次粒子は、隣り合った1次粒子と互いに接して1次粒子間の界面または結晶粒界(grain boundary)を形成することができる。また、前記1次粒子は、前記2次粒子の内部で隣り合った1次粒子から離隔して内部孔隙を形成することもできる。
【0034】
ここで、前記1次粒子の平均直径は、0.1μm以上6.0μm以下であってもよく、前記2次粒子の平均直径は、6.0μm以上20.0μm以下であってもよい。
【0035】
この際、前記1次粒子は、隣り合った1次粒子と互いに接して結晶粒界を形成せず、内部孔隙と接することによって、前記2次粒子の内部に存在する表面を形成することができる。一方、前記2次粒子の最表面に存在する前記1次粒子が外気に露出した面は、前記2次粒子の表面を形成することになる。
【0036】
また、前記2次粒子の表面部に存在する前記1次粒子内に含まれたM2元素および/またはWは、前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。すなわち、前記1次粒子内に形成されたM2元素および/またはWの濃度勾配の方向は、前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かう方向であってもよい。
【0037】
これにより、前記1次粒子内には、前記2次粒子の中心部に向かって配列されたリチウムイオンの移動経路(リチウムイオンの拡散経路)が形成され得(図7参照)、これを通じてリチウム複合酸化物、ひいては、正極活物質によるリチウムイオン導電性を向上させることが可能である。
【0038】
より具体的に、前記1次粒子内に含まれたM2元素および/またはWの濃度勾配は、前記1次粒子の中心部を基準として前記2次粒子の中心部側より前記2次の表面部側で大きいことがある。
【0039】
この場合、前記2次粒子は、M2元素の濃度が互いに異なる第1領域および第2領域を含むことができる。この際、前記第1領域および前記第2領域は、Wの濃度が互いに異なる領域として定義されることもできる。
【0040】
ここで、前記1次粒子内に含まれたM2元素および/またはWが前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示す領域は、第1領域であってもよい。すなわち、本願で定義されたM2元素および/またはWの濃度勾配は、単一の1次粒子を基準として現れる濃度勾配を意味するものである。
【0041】
例えば、前記リチウム複合酸化物を形成する前記2次粒子の最表面から前記2次粒子の中心までの距離をRというとき、前記2次粒子の最表面からの距離R’が0以上0.02R以下である領域を第1領域と定義すると、前記第1領域内に存在するM2元素および/またはWは、前記1次粒子内で前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。
【0042】
反面、前記第1領域内に存在するNiは、M2元素および/またはWと反対に、前記1次粒子内で前記2次粒子の中心部に向かって増加する濃度勾配を示すことができる。ここで、前記2次粒子の中心部は、前記2次粒子の真ん中を指すことができる。
【0043】
この際、前記2次粒子の前記第1領域に存在する前記1次粒子内に含まれたWの含量(atomic%)は、Niの含量(atomic%)より大きいことがある。また、前記1次粒子内にM2元素が含まれる場合、前記2次粒子の前記第1領域に存在する前記1次粒子内に含まれたM2元素およびWの含量(atomic%)の合計は、Niの含量(atomic%)より大きいことがある。
【0044】
図8を参照すると、上述したM2元素および/またはWとNiの相反した濃度勾配の様態は、前記第1領域内に存在する前記1次粒子内に含まれたM2元素および/またはWが前記リチウム複合酸化物の格子構造内原子占有サイトのうちLi 3aサイトおよび3bサイトから選ばれる少なくとも一つに挿入されたNiと置換されることによって現れることができる。
【0045】
この際、前記2次粒子の前記第1領域に存在する前記1次粒子は、X線回折パターンのリートベルト分析によるLi 3aサイトに挿入されたWの比率Woccは、Li 3aサイトに挿入されたNiの比率Nioccより大きいこともある。また、前記1次粒子内にM2元素が含まれる場合、前記2次粒子の前記第1領域に存在する前記1次粒子は、X線回折パターンのリートベルト分析によるLi 3aサイトに挿入されたWの比率WoccおよびM2元素の比率M2occは、Li 3aサイトに挿入されたNiの比率Nioccより大きいこともある。
【0046】
上述したように、前記2次粒子の前記第1領域に存在するM2元素および/またはWの含量(または含量の合計)は、単純にNiの含量より大きいものではなく、X線回折パターンのリートベルト分析によるLi 3aサイトに挿入された比率が大きいので、前記1次粒子、ひいては前記1次粒子が凝集して形成された前記2次粒子の構造的安定性を向上させ、これを通じて製造された正極活物質の電気的特性および信頼性を高めることができる。
【0047】
上述したM2元素および/またはWとNiの相反した濃度勾配の様態は、前記第1領域内に存在する前記1次粒子内に含まれたM2元素および/またはWが前記リチウム複合酸化物のうちLi 3aサイトおよび3bサイトのうち少なくとも一つに挿入されたNiと置換されることによって現れることができる。
【0048】
この際、前記第1領域内に存在する前記1次粒子内に含まれたM2元素および/またはWの濃度変化率は、50%以上、好ましくは60%以上であってもよいが、必ずこれらに制限されるものではない。
【0049】
また、前記第1領域を除いた残りの領域が第2領域と定義され得、前記2次粒子の最表面からの距離R’が0以上0.02R以下である領域を第1領域と定義すると、前記2次粒子の最表面からの距離R’が0.02Rより大きく1.0R以下である領域を第2領域と定義することができる。ここで、前記第2領域内に存在する前記1次粒子内に含まれたM2元素および/またはWは、前記1次粒子内で一定方向に濃度が増加または減少する形態の濃度勾配を有しなくてもよい。
【0050】
他の実施例において、前記第2領域内に存在する前記1次粒子内M2元素および/またはWの濃度変化率は、49%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは15%以下であってもよい。
【0051】
また、この場合、前記第1領域および前記第2領域に存在する前記1次粒子内に含まれたM1元素およびCoの濃度変化率は、49%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは15%以下であってもよい。
【0052】
上述したように、前記リチウム複合酸化物を構成する前記2次粒子がM2元素および/またはWの濃度が互いに異なる第1領域および第2領域に区切られ、M2元素および/またはWは、前記第1領域および前記第2領域内で異なる様態の濃度勾配を示すことによって、前記リチウム複合酸化物の構造的安定性を向上させることができる。
【0053】
リチウム二次電池用正極活物質
本発明の他の態様によれば、本願に定義されたリチウム複合酸化物と、前記リチウム複合酸化物を形成する1次粒子間の界面および2次粒子の表面のうち少なくとも一部に存在するリチウム合金酸化物とを含む正極活物質が提供され得る。ここで、前記リチウム複合酸化物は、先立って説明したことと同一なので、便宜上、具体的な説明を省略し、以下では、残りの前述しない構成のみについて説明することとする。
【0054】
前記リチウム合金酸化物は、前記リチウム複合酸化物を形成する前記1次粒子および/または前記2次粒子と物理的および/または化学的に結合された状態であってもよい。
【0055】
この際、前記リチウム合金酸化物は、前記リチウム複合酸化物を形成する前記1次粒子間の界面および前記2次粒子の表面を全体的にコートしたり、前記リチウム複合酸化物を形成する前記1次粒子間の界面および前記2次粒子の表面のうち少なくとも一部をコートすることができ、場合によって前記リチウム複合酸化物を形成する前記1次粒子間の界面および前記2次粒子の表面全体または少なくとも一部に粒子状に分布することができる。
【0056】
これにより、本実施例による正極活物質は、上述したリチウム合金酸化物を含むことによって、構造的な安定性が高まり得、このような正極活物質をリチウム二次電池に使用する場合、正極活物質の高温貯蔵安定性および寿命特性が向上することができる。また、前記リチウム合金酸化物は、前記正極活物質内リチウムイオンの移動経路(pathway)として作用することによって、リチウム二次電池の効率特性を向上させるのに影響を与えることができる。
【0057】
また、場合によって、前記リチウム合金酸化物は、前記リチウム複合酸化物を形成する前記1次粒子間の界面および前記2次粒子の表面のうち少なくとも一部だけでなく、前記2次粒子の内部に形成された内部孔隙にも存在することができる。
【0058】
ここで、前記リチウム合金酸化物は、下記の式2で表される。
【0059】
LiM3 (式2)
【0060】
ここで、M3は、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ca、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つを含み、0≦e≦6、0<f≦6、0<g≦10である。
【0061】
前記の式2で示されたように、前記リチウム合金酸化物は、リチウムとM3で表される金属元素が複合化した酸化物であって、前記リチウム合金酸化物は、例えば、Li(W)O、Li(Zr)O、Li(Ti)O、Li(B)O、WO、ZrO、TiOなどであってもよいが、上述した例は、理解を助けるために便宜上記載したものに過ぎず、本願で定義された前記リチウム合金酸化物は、上述した例に制限されない。したがって、後述する実施例では、便宜上、式1で表される代表的なリチウム合金酸化物のいくつかの例示に対する結果を記載することとする。
【0062】
他の実施例において、前記リチウム合金酸化物は、リチウムとM3で表される少なくとも2種の金属元素が複合化した酸化物であるか、またはリチウムとM3で表される少なくとも2種の金属元素が複合化した酸化物をさらに含むことができる。リチウムとM3で表される少なくとも2種の金属元素が複合化したリチウム合金酸化物は、例えば、Li(W/Ti)O、Li(W/Zr)O、Li(W/Ti/Zr)O、Li(W/Ti/B)Oなどであってもよいが、必ずこれらに制限されるものではない。
【0063】
また、この場合、リチウムタングステン酸化物内少なくとも1種の金属元素がドーピングされた格子構造を有し得る。すなわち、前記のリチウム合金酸化物は、リチウムタングステン酸化物(例えば、LiWO、Li、LiWO、LiWOまたはLi)が形成する格子構造内タングステンのうち一部がM3元素で置換された格子構造を有することになる。ここで、格子構造内タングステンを置換する金属元素としては、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ca、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つが使用され得る。
【0064】
一実施例において、前記リチウム合金酸化物は、前記リチウム複合酸化物を形成する前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。これにより、前記リチウム合金酸化物の濃度は、前記2次粒子の最表面から前記2次粒子の中心部に向かって減少することができる。
【0065】
上述したように、前記リチウム合金酸化物が前記リチウム複合酸化物を形成する前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことによって、前記正極活物質の表面に存在する残留リチウムを効果的に減少させて、未反応の残留リチウムによる副反応を未然に防止することができると共に、前記リチウム合金酸化物により前記正極活物質の表面内側領域での結晶性が低くなるのを防止することができる。また、リチウム合金酸化物により電気化学反応中に正極活物質の全体的な構造崩壊を防止することができる
【0066】
他の実施例において、前記リチウム合金酸化物は、下記の式3で表される第1リチウム合金酸化物と、下記の式4で表される第2リチウム合金酸化物とを含むことができる。
【0067】
Li (式3)
【0068】
ここで、0≦h≦6、0<i≦6、0<j≦10である。
【0069】
LiM4 (式4)
【0070】
(ここで、M4は、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ca、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つを含み、0≦k≦6、0<m≦6、0<n≦10である)
【0071】
この際、前記第1リチウム合金酸化物および前記第2リチウム合金酸化物は、前記リチウム複合酸化物を形成する前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。これにより、前記リチウム合金酸化物の濃度は、前記2次粒子の最表面から前記2次粒子の中心部に向かって減少することができる。
【0072】
この際、前記第2リチウム合金酸化物の濃度減少率は、前記第1リチウム合金酸化物の濃度減少率より大きいことが好ましく、前記第2リチウム合金酸化物の濃度減少率が前記第1リチウム合金酸化物の濃度減少率より大きいことによって、リチウム合金酸化物を含む正極活物質の構造的安定性が維持され得る。また、前記正極活物質内効率的なリチウムイオンの移動経路(pathway)を形成することによって、リチウム二次電池の効率特性を向上させるのに肯定的に作用することができる。
【0073】
これにより、本発明の多様な実施例による正極活物質を含む正極をリチウム二次電池の正極として使用する場合、高温貯蔵安定性および寿命特性をさらに向上させることができる。
【0074】
更なる実施例において、前記第2リチウム合金酸化物は、下記の式5で表されるリチウムジルコニウム酸化物と、下記の式6で表されるリチウムチタン酸化物とを含むことができる。
【0075】
LiZr (式5)
【0076】
ここで、0≦o≦6、0≦p≦6、0≦q≦10である。
【0077】
LiTi (式6)
【0078】
ここで、0≦r≦6、0<s≦6、0<t≦10である。
【0079】
前記の式5で表されるリチウムジルコニウム酸化物および前記の式6で表されるリチウムチタン酸化物は、前記の式3で表されるリチウムタングステン酸化物と共に前記正極活物質の構造的な安定性を高めるのに寄与することができ、前記正極活物質内効率的なリチウムイオンの移動経路(pathway)を形成することができる。
【0080】
この際、前記リチウムジルコニウム酸化物および前記リチウムチタン酸化物は、前記リチウムタングステン酸化物と同様に、前記リチウム複合酸化物を形成する前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。これにより、前記リチウムジルコニウム酸化物および前記リチウムチタン酸化物の濃度は、前記2次粒子の最表面から前記2次粒子の中心部に向かって減少することができる。
【0081】
この際、前記リチウムタングステン酸化物と共に前記リチウムジルコニウム酸化物および前記リチウムチタン酸化物を同時に含む正極活物質の構造的安定性および結晶性維持などのために、前記リチウムジルコニウム酸化物の濃度減少率は、前記リチウムチタン酸化物の濃度減少率より大きいことが好ましい。
【0082】
リチウム二次電池
本発明のさらに他の態様によれば、正極集電体と、前記正極集電体上に形成された正極活物質層とを含む正極が提供され得る。ここで、前記正極活物質層は、本発明の多様な実施例による正極活物質を含むことができる。したがって、正極活物質は、先立って説明したことと同一なので、便宜上、具体的な説明を省略し、以下では、残りの前述しない構成のみについて説明することとする。
【0083】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えばステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用され得る。また、前記正極集電体は、通常、3μm以上500μm以下の厚さを有し得、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して、正極活物質の接着力を高めることもできる。例えばフィルム、シート、ホイール、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態で使用され得る。
【0084】
前記正極活物質層は、前記正極活物質と共に、導電材および必要に応じて選択的にバインダーを含む正極スラリー組成物を前記正極集電体に塗布して製造され得る。
【0085】
この際、前記正極活物質は、正極活物質層の総重量に対して80wt%以上99wt%以下、より具体的には、85wt%以上98.5wt%以下の含量で含まれ得る。上記した含量範囲で含まれるとき、優れた容量特性を示すことができるが、必ずこれに制限されるものではない。
【0086】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こさず、電子導電性を有するものであれば、特別な制限なしに使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの導電性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。前記導電材は、正極活物質層の総重量に対して0.1wt%以上15wt%以下で含まれ得る。
【0087】
前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割をする。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF−co−HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化−EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して0.1wt%以上15wt%以下で含まれ得る。
【0088】
前記正極は、上記した正極活物質を利用することを除いて、通常の正極の製造方法により製造され得る。具体的に、上記した正極活物質および選択的に、バインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した正極スラリー組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することによって製造することができる。
【0089】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であってもよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して前記正極活物質、導電材およびバインダーを溶解または分散させ、以後、正極の製造のための塗布時に優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0090】
また、他の実施例において、前記正極は、前記正極スラリー組成物を別の支持体上にキャストした後、該支持体から剥離して得たフィルムを正極集電体上にラミネーションすることによって製造されることもできる。
【0091】
また、本発明のさらに他の態様によれば、上述した正極を含む電気化学素子が提供され得る。前記電気化学素子は、具体的に電池、キャパシタなどであってもよく、より具体的には、リチウム二次電池であってもよい。
【0092】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と前記負極との間に介在される分離膜および電解質とを含むことができる。ここで、前記正極は、上記で説明したことと同一なので、便宜上、具体的な説明を省略し、以下では、前述しない残りの構成のみについて具体的に説明する。
【0093】
前記リチウム二次電池は、前記正極と、前記負極および前記分離膜の電極組立体を収納する電池容器および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0094】
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含むことができる。
【0095】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく、高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム−カドミウム合金などが使用され得る。また、前記負極集電体は、通常、3μm以上500μm以下の厚さを有し得、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して負極活物質問の結合力を強化させることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイール、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態で使用され得る。
【0096】
前記負極活物質層は、負極活物質と共に選択的にバインダーおよび導電材を含む。
【0097】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用され得る。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金などリチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープおよび脱ドープし得る金属酸化物;またはSi−C複合体またはSn−C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのうちいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用され得る。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が使用されることもできる。また、炭素材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素などがすべて使用され得る。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)および硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球形状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso−carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0098】
前記負極活物質は、負極活物質層の全体重量を基準として80wt%以上99wt%以下で含まれ得る。
【0099】
前記バインダーは、導電材、活物質および集電体間の結合に助力する成分であって、通常、負極活物質層の全体重量を基準として0.1wt%以上10wt%以下で添加され得る。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化−EPDM、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの多様な共重合体などが挙げられる。
【0100】
前記導電材は、負極活物質の導電性をさらに向上させるための成分であって、負極活物質層の全体重量を基準として10wt%以下、好ましくは5wt%以下で添加され得る。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用され得る。
【0101】
一実施例において、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布し乾燥することによって製造されたり、または前記負極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、該支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネーションすることによって製造され得る。
【0102】
また、他の実施例において、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布し乾燥したり、または前記負極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、該支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネーションすることによって製造されることもできる。
【0103】
一方、前記リチウム二次電池において、分離膜は、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常、リチウム二次電池において分離膜として使用されるものであれば、特別な制限なしに使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗であり、かつ電解液含湿能力に優れていることが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えばエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用され得る。また、通常の多孔性不織布、例えば高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が使用されることもできる。また、耐熱性または機械的強度の確保のためにセラミック成分または高分子物質が含まれたコートされた分離膜が使用されることもでき、選択的に単層または多層構造で使用され得る。
【0104】
また、本発明において使用される電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0105】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0106】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動できる媒質の役割をすることができるものであれば、特別な制限なしに使用され得る。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ−ブチロラクトン(γ−butyrolactone)、ε−カプロラクトン(ε−caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R−CN(Rは、炭素数2以上20以下の直鎖状、分岐状または環状構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3−ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが使用され得る。これらの中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の線状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1〜約1:9の体積比で混合して使用することが、電解液の性能が優秀に現れることができる。
【0107】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供できる化合物であれば、特別な制限なしに使用され得る。具体的に前記リチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAl0、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが使用され得る。前記リチウム塩の濃度は、0.1M以上2.0M以下の範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれる場合、電解質が適切な伝導度および粘度を有するので、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0108】
前記電解質には、前記電解質構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的として例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n−グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N−置換オキサゾリジノン、N,N−置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2−メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれることもできる。この際、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1wt%以上5wt%以下で含まれ得る。
【0109】
上記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および寿命特性を安定的に示すので、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などに有用である。
【0110】
本発明によるリチウム二次電池の外形は、特別な制限がないが、カンを使用した円筒形、角形、パウチ(pouch)形またはコイン(coin)形などになり得る。また、リチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用され得ると共に、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく使用され得る。
【0111】
本発明のさらに他の態様によれば、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよび/またはこれを含む電池パックが提供され得る。
【0112】
前記電池モジュールまたは前記電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug−in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのうちいずれか一つ以上の中大型デバイス電源として用いられる。
【実施例】
【0113】
以下では、実施例を通じて本発明をより詳細に説明しようとする。ただし、これらの実施例は、ただ本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇がこれらの実施例により制限されるものと解されないと言える。
【0114】
(1)正極活物質の製造
(実施例1)
共沈法(co−precipitation method)により球形のNi0.92Co0.08(OH)水酸化物前駆体を合成した。90L級の反応器でNiSO・7HOおよびCoSO・7HOを92:8のモル比で混合した1.5Mの複合遷移金属硫酸水溶液に25wt%のNaOHと30wt%のNHOHを投入した。反応器内のpHは、11.5を維持させ、この際の反応器の温度は、60℃に維持し、不活性ガスであるNを反応器に投入して、製造された前駆体が酸化しないようにした。合成撹拌の完了後、フィルタープレス(F/P)装備を利用して洗浄および脱水を進めて、Ni0.92Co0.08(OH)水酸化物前駆体を収得した。
【0115】
水酸化物前駆体をLi含有原料物質であるLiOHおよびAl含有原料物質であるAlと共にミキサーを用いて混合し、焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、分当たり1℃で昇温して350℃で4時間維持した後、分当たり2℃で昇温して熱処理温度650℃で10時間維持した後、自然冷却した。得られた正極活物質をW含有原料物質(WO)と共にミキサーを用いて混合した。同じ焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、分当たり2℃で昇温して熱処理温度600℃で5時間維持した後、自然冷却した。次に、上記と同じ条件下で熱処理および冷却を1回さらに行った。実施例1で製造された正極活物質がLi1.05Ni0.9060Co0.0790Al0.01400.0010組成式を有すると確認された。
【0116】
(実施例2)
正極活物質がLi1.04Ni0.9020Co0.0790Al0.01400.0050の組成式を有するように、正極活物質をW含有原料物質(WO)と混合したことを除いて、実施例1と同じ方法で実施例2による正極活物質を製造した。
【0117】
(実施例3)
正極活物質がLi1.03Ni0.8970Co0.0790Al0.01400.010の組成式を有するように、正極活物質をW含有原料物質(WO)と混合したことを除いて、実施例1と同じ方法で実施例3による正極活物質を製造した。
【0118】
(実施例4)
正極活物質がLi1.04Ni0.9037Co0.0786Al0.01380.00290.001の組成式を有するように、正極活物質をW含有原料物質(WO)およびB含有原料物質(B)と混合したことを除いて、実施例1と同じ方法で実施例4による正極活物質を製造した。
【0119】
(実施例5)
正極活物質がLi1.06Ni0.9029Co0.0788Al0.01420.0031Nb0.001の組成式を有するように、B含有原料物質(B)の代わりにNb含有原料物質(Nb)を使用したことを除いて、実施例4と同じ方法で実施例5による正極活物質を製造した。
【0120】
(実施例6)
正極活物質がLi1.04Ni0.9034Co0.0787Al0.01380.003Ce0.0011の組成式を有するように、B含有原料物質(B)の代わりにCe含有原料物質(CeO)を使用したことを除いて、実施例4と同じ方法で実施例6による正極活物質を製造した。
【0121】
(実施例7)
正極活物質がLi1.03Ni0.9030Co0.0789Al0.01430.0028Ti0.001の組成式を有するように、B含有原料物質(B)の代わりにTi含有原料物質(TiO)を使用したことを除いて、実施例4と同じ方法で実施例7による正極活物質を製造した。
【0122】
(実施例8)
正極活物質がLi1.06Ni0.9032Co0.0787Al0.01410.003Zr0.001の組成式を有するように、B含有原料物質(B)の代わりにZr含有原料物質(ZrO)を使用したことを除いて、実施例4と同じ方法で実施例8による正極活物質を製造した。
【0123】
(実施例9)
正極活物質がLi1.06Ni0.9027Co0.0787Al0.01410.0031Ti0.0009Zr0.0005の組成式を有するように、B含有原料物質(B)の代わりにZr含有原料物質(ZrO)およびTi含有原料物質(TiO)を使用したことを除いて、実施例4と同じ方法で実施例9による正極活物質を製造した。
【0124】
(実施例10)
実施例1において正極活物質をW含有原料物質(WO)と混合した後、600℃で1回だけ熱処理したことを除いて、実施例1と同じ方法で実施例10による正極活物質を製造した。
【0125】
(比較例1)
Ni0.92Co0.08(OH)水酸化物前駆体をLi含有原料物質であるLiOHおよびAl含有原料物質であるAlと共にミキサーを用いて混合し、焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、分当たり1℃で昇温して熱処理温度650℃で10時間維持した後、自然冷却した。
得られた正極活物質をW含有原料物質(WO)と共にミキサーを用いて混合した。同じ焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、分当たり2℃で昇温して熱処理温度700℃で5時間維持した後、自然冷却した。次に、上記と同じ条件下で熱処理および冷却を1回さらに行って、比較例1による正極活物質を製造した。
【0126】
(比較例2)
比較例1において正極活物質とW含有原料物質(WO)を混合した後、700℃で1回だけ熱処理したことを除いて比較例2と同じ方法で比較例2による正極活物質を製造した。
【0127】
(比較例3)
Ni0.92Co0.08(OH)水酸化物前駆体をLi含有原料物質であるLiOHおよびAl含有原料物質であるAlと共にミキサーを用いて混合し、焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、分当たり1℃で昇温して熱処理温度650℃で10時間維持した後、自然冷却した。
得られた正極活物質をW含有原料物質(WO)およびTi含有原料物質(TiO)と共にミキサーを用いて混合した。同じ焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、分当たり2℃で昇温して熱処理温度700℃で5時間維持した後、自然冷却して比較例3による正極活物質を製造した。
【0128】
(比較例4)
Ni0.92Co0.08(OH)水酸化物前駆体をLi含有原料物質であるLiOHおよびAl含有原料物質であるAlと共にミキサーを用いて混合し、焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、分当たり1℃で昇温して熱処理温度650℃で10時間維持した後、自然冷却した。
【0129】
得られた正極活物質をW含有原料物質(WO)およびZr含有原料物質(ZrO)と共にミキサーを用いて混合した。同じ焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、分当たり2℃で昇温して熱処理温度700℃で5時間維持した後、自然冷却して比較例4による正極活物質を製造した。
【0130】
(2)正極活物質のTEM/EDS分析
図1図5は、実施例1によって製造された正極活物質を構成する1次粒子に対する透過電子顕微鏡(TEM)分析およびTEM/EDSマッピンク結果を示すものであり、図6は、TEM/EDSマッピンク結果によって測定された金属元素(Ni、Co、Al、W)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【0131】
図1は、実施例1で製造された正極活物質を構成する1次粒子の最表面から一部分を示しており、図2図5は、それぞれ、図1に示した1次粒子に存在するNi、Co、AlおよびWの分布を示している。
【0132】
図2図6を参照すると、実施例1で製造された正極活物質の表面部に位置する1次粒子内に含まれたWは、2次粒子の表面部(右側)から2次粒子の中心部(左側)に向かって減少する濃度勾配を示している反面、Niは、2次粒子の表面部から2次粒子の中心部に向かって増加する濃度勾配を示していることを確認することができる。一方、実施例1で製造された正極活物質のうちCoおよびAlは、NiおよびWとは異なって、2次粒子内で濃度変化の偏差が大きくないか、濃度勾配が現れないことを確認することができる。
【0133】
図7は、実施例8によって製造された正極活物質に対するHR−TEMイメージと各地点に対する回折パターン(FFT)を示すものである。図7において、A地点は、1次粒子の表面部、B地点は、1次粒子の中心部、C地点は、2次粒子内隣り合った1次粒子間の境界面(grain boundary)を示す。
【0134】
図7を参照すると、1次粒子の中心部を示すB地点でリチウムイオン拡散経路は、2次粒子の表面部に向かう方向に形成されたことを確認することができる。また、1次粒子の表面部を示すA地点および2次粒子内隣り合った1次粒子間の境界面を示すC地点でもリチウムイオン拡散経路は、いずれも、2次粒子の表面部に向かう方向に形成されたことを確認することができる。
【0135】
また、具体的な実験結果と共に後述するが、実施例1〜実施例9によって製造された正極活物質を構成する1次粒子は、図8に示されたように、Li 3aサイトに挿入されたNiのうち一部がWおよびW以外のドーピング金属で置換された結晶構造を有し得る。場合によって、正極活物質の表面部に位置する1次粒子のLi 3aサイトに挿入されたWおよびW以外のドーピング金属の比率の合計は、Niの比率より大きいことがある。
【0136】
図9は、実施例7によって製造された正極活物質を構成する1次粒子のうちドーピング金属であるTiに対するTEM/EDSマッピンク結果を示すものであり、図10は、実施例8によって製造された正極活物質を構成する1次粒子のうちドーピング金属であるZrに対するTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
【0137】
図9および図10を参照すると、正極活物質の表面部に位置する1次粒子内に含まれたTiおよびZrも、図5に示したWと同様に、2次粒子の表面部(左側)から2次粒子の中心部(右側)に向かって減少する濃度勾配を示すことを確認することができる。
【0138】
図11は、実施例9によって製造された正極活物質を構成する1次粒子に対するTEM/EDSマッピンク結果によって測定されたドーピング金属元素(Zr、Ti、W)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【0139】
図11を参照すると、実施例9で製造された正極活物質の表面部に位置する1次粒子内に含まれたZr、TiおよびWは、2次粒子の表面部から2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示しており、この際、TiおよびZrの場合、2次粒子の表面部で位置する1次粒子での濃度減少率がWより大きく、2次粒子の表面部で位置する1次粒子でのZrの濃度減少率は、Ti濃度減少率より大きいことを確認することができる。
【0140】
図11に示された結果は、リチウム複合酸化物を形成する前記1次粒子内W、TiおよびZrの濃度勾配方向と同じ方向に形成されるリチウム合金酸化物の濃度勾配による影響を受けることもできる。
【0141】
図12図13は、比較例1によって製造された正極活物質に対する透過電子顕微鏡(TEM)分析およびTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
【0142】
図12は、比較例1で製造された正極活物質を構成する1次粒子の最表面から一部分を示しており、図13は、図12に示した1次粒子に存在するWの分布を示している。
【0143】
図13を参照すると、本発明の多様な実施例による正極活物質とは異なって、1次粒子のうちWが2次粒子の表面部(右下端)から2次粒子の中心部(左上端)に向かって減少する濃度勾配を示していないことを確認することができる。
【0144】
図14は、比較例2によって製造された正極活物質の表面部に位置する1次粒子内に含まれたドーピング金属であるTiに対するTEM/EDSマッピンク結果を示すものであり、図15は、比較例3によって製造された正極活物質の表面部に位置する1次粒子内に含まれたドーピング金属であるZrに対するTEM/EDSマッピンク結果を示すものである。
【0145】
図14および図15を参照すると、TiおよびZrも、図11に示したWと同様に、2次粒子の表面部(右下端)から2次粒子の中心部(左上端)に向かって減少する濃度勾配を示さないことを確認することができる。
【0146】
また、追加的に、実施例および比較例によって製造された正極活物質の表面部(2次粒子の最表面から0.05μmまでの領域)に対するTEM/EDSマッピンク結果、測定されたNiおよびドーピング金属の平均含量を下記の表1に示した。
【0147】
【表1】
【0148】
前記表1の結果を参照すると、実施例によって製造された正極活物質の場合、正極活物質の表面部(2次粒子の最表面から0.05μmまでの領域)領域内に存在する1次粒子内に含まれたドーピング金属の平均含量の合計は、Niの平均含量より大きいことを確認することができる。
【0149】
反面、比較例によって製造された正極活物質の場合、正極活物質の表面部(2次粒子の最表面から0.05μmまでの領域)領域内に存在する1次粒子内に含まれたドーピング金属の平均含量の合計は、Niの平均含量より低いことを確認することができる。
【0150】
(3)正極活物質のXRD分析
X線回折パターンのリートベルト分析を通じて実施例および比較例によってそれぞれ製造された正極活物質のLi 3aサイトに挿入されたNi金属の占有率(または含量;occupancy)を測定した。測定結果は、下記の表2に示した。X線回折パターンのリートベルト分析は、実施例および比較例によってそれぞれ製造された正極活物質の表面部(2次粒子の最表面から0.05μmまでの領域)に対して行われた。
【0151】
【表2】
【0152】
前記表2の結果を参照すると、実施例によって製造された正極活物質の場合、正極活物質の表面部(2次粒子の最表面から0.05μmまでの領域)領域内に存在する1次粒子のLi 3aサイトに挿入されたNiの占有率は、比較例1〜比較例4によって製造された正極活物質の表面部(2次粒子の最表面から0.05μmまでの領域)領域内に存在する1次粒子のLi 3aサイトに挿入されたNiの占有率より低いことを確認することができる。
【0153】
すなわち、表2の結果を通じて実施例1と比較例1を比較すると、正極活物質に存在するW含量が同一または同様であるとしても、正極活物質のうちWが存在する領域が異なることを確認することができる。正極活物質の表面部に存在するWのうち一部は、Li 3aサイトに挿入されたNiと置換された状態で存在することができ、これは、Li 3aサイトに挿入されたNiの占有率が減少することを確認することができる。これは、図8に概略的に示したように、特に正極活物質の表面部に存在するWのうち一部がLi 3aサイトに挿入されたNiと置換されることによる結果であり得る。また、表2の結果を鑑みて、実施例による正極活物質が比較例による正極活物質よりLi 3aサイトおよび/または3bサイトに挿入されたW含量が大きいと予想することができる。
【0154】
また、追加的に、実施例7〜実施例9によって製造された正極活物質それぞれに対しX線回折(XRD)分析を行って、正極活物質のうちリチウム合金酸化物および合金酸化物が存在するか否かを確認した。XRD分析は、Cu Kαradiation(1.540598Å)を利用したBruker D8 Advance回折計(diffractometer)を利用して行った。
【0155】
図16図18は、実施例7〜実施例9によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。
【0156】
図16を参照すると、正極活物質のうちリチウム合金酸化物であるLiWOに相当する特性ピークが確認され、特に、(220)ピークは、シフト(shift)されなかったが、(111)および(200)ピークが特異的に低角(low angle)側にシフト(shift)されるのに伴い、LiWOが形成する格子構造内タングステンのうち一部がTiで置換された異種のリチウム合金酸化物が存在することを確認した。
【0157】
また、図17を参照すると、正極活物質のうちリチウム合金酸化物であるLiWOに相当する特性ピークが確認され、特に、(111)、(200)および(220)ピークが特異的に低角(low angle)側にシフト(shift)されるのに伴い、LiWOが形成する格子構造内タングステンのうち一部がZrで置換された異種のリチウム合金酸化物が存在することを確認した。
【0158】
図18を参照すると、NCA組成の正極活物質が形成されたことを確認することができ、これと同時に、正極活物質内LiWO、LiWO、LiTiO、LiTiOおよびLiZrOに該当するピークが存在することを確認した。
【0159】
(4)正極活物質の未反応リチウムの測定
実施例および比較例によってそれぞれ製造された正極活物質に対する未反応リチウムの測定は、pH滴定(pH titration)によりpH4になるまで使用された0.1MのHClの量で測定した。まず、実施例および比較例によってそれぞれ製造された正極活物質それぞれ5gをDIW 100mlに入れて15分間撹拌した後、フィルタリングし、フィルタリングされた溶液50mlを取った後、これに0.1MのHClを加えてpH変化によるHCl消耗量を測定して、Q1およびQ2を決定し、これを通じて未反応のLiOHおよびLiCOを計算した。
【0160】
M1=23.95(LiOH Molecular weight)
M2=73.89(LiCO Molecular weight)
SPL Size=(Sample weight×Solution Weight)/Water Weight
LiOH(wt%)=[(Q1−Q2)×C×M1×100]/(SPL Size×1000)
LiCO(wt%)=[2×Q2×C×M2/2×100]/(SPL Size×1000)
【0161】
前記計算式を通じて測定された未反応リチウムの測定結果は、下記の表3に示した。
【0162】
【表3】
【0163】
前記表3の結果を参考すると、実施例によって製造された正極活物質は、比較例によって製造された正極活物質に比べて残留リチウムの量が大きく減少したことを確認することができる。
【0164】
(5)リチウム二次電池の製造
実施例および比較例によってそれぞれ製造された正極活物質それぞれ94wt%、カーボンブラック(carbon black)3wt%、PVDFバインダー3wt%をN−メチル−2ピロリドン(NMP)30gに分散させて正極スラリーを製造した。前記正極スラリーを厚さ15μmの正極集電体であるアルミニウム(Al)薄膜に塗布および乾燥し、ロールプレス(roll press)を実施して正極を製造した。正極のローディングレベルは、10mg/cmであり、電極密度は、3.2g/cmであった。
【0165】
前記正極に対して金属リチウムを対極(counter electrode)とし、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)を2:4:4の体積比で混合した溶媒に1.15MのLiPFを添加して製造した。
【0166】
前記正極および負極の間に多孔質ポリエチレン(PE)フィルムからなるセパレーターを介在して電池組立体を形成し、前記電解液を注入してリチウム二次電池(コインセル)を製造した。
【0167】
(6)リチウム二次電池の容量特性の評価
前記で製造されたリチウム二次電池(コインセル)に対して25℃で0.15Cの定電流(CC)で4.25Vになるまで充電し、以後、4.25Vの定電圧(CV)で充電して、充電電流が0.05mAhになるまで1回目充電を行った。以後、20分間放置した後、0.1Cの定電流で3.0Vになるまで放電して、1サイクル目の放電容量を測定した。第1充放電時の充電容量、放電容量および充放電効率を下記の表4に示した。
【0168】
【表4】
【0169】
前記表4の結果を参考すると、実施例によって製造された正極活物質を使用したリチウム二次電池が、比較例によって製造された正極活物質を使用したリチウム二次電池に比べて充放電効率および容量特性の側面で改善されたことを確認することができる。
【0170】
(7)リチウム二次電池の安定性の評価
前記で製造されたリチウム二次電池(コインセル)に対して25℃で1Cの定電流(CC)で3.0V〜4.25Vの駆動電圧の範囲内で充/放電を100回実施した。これにより、常温での充放電100回実施後、初期容量に対する100サイクル目の放電容量の比率であるサイクル容量維持率(capacity retention)を測定した。
【0171】
また、リチウム二次電池の高温貯蔵特性を確認するために、25℃で充放電した電池をSOC100%を基準として充電して抵抗を測定した後、60℃で7日間貯蔵後、抵抗を測定して、抵抗の変化幅を確認した。
【0172】
前記測定結果は、下記の表5に示した。
【0173】
【表5】
【0174】
前記表5の結果を参考すると、実施例によって製造された正極活物質を使用したリチウム二次電池が、比較例によって製造された正極活物質を使用したリチウム二次電池に比べて容量維持率に優れていると共に、高温貯蔵前後の抵抗変化幅が小さいことを確認することができる。
【0175】
以上、本発明の実施例について説明したが、当該技術分野において通常の知識を有する者なら、特許請求範囲に記載された本発明の思想を逸脱しない範囲内で、構成要素の付加、変更、削除または追加などにより本発明を多様に修正および変更させることができ、これも、本発明の権利範囲内に含まれると言える。
図1
図2
図3
図4
図5
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