特許第6804664号(P6804664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804664
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】鋼管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/04 20060101AFI20201214BHJP
   E21B 17/042 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   F16L15/04 A
   E21B17/042
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-552799(P2019-552799)
(86)(22)【出願日】2018年11月6日
(86)【国際出願番号】JP2018041148
(87)【国際公開番号】WO2019093311
(87)【国際公開日】20190516
【審査請求日】2019年11月7日
(31)【優先権主張番号】特願2017-216690(P2017-216690)
(32)【優先日】2017年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】奥 洋介
(72)【発明者】
【氏名】杉野 正明
【審査官】 黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−526747(JP,A)
【文献】 特開2012−247028(JP,A)
【文献】 特開2017−72187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/00−15/08
E21B 17/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管用ねじ継手であって、
前記鋼管の一方の先端部に形成される管状のピンと、
前記ピンが挿入されて前記ピンと締結される管状のボックスとを備え、
前記ピンは、
前記ピンの外周に形成される雄ねじと、
前記ピンの先端部に形成され、前記ピン及び前記ボックスが締結されている状態で前記ボックスのうち対向する部分の内径よりも小さい外径を有するノーズと、
前記ノーズの先端に形成されるピンショルダ面と、
前記雄ねじと前記ノーズとの間において前記ピンの外周面に形成されるピンシール面とを含み、
前記ピンシール面は、前記ピンショルダ面に近い方に位置する第1曲率面と、前記ピンショルダ面から遠い方に位置する第2曲率面と、前記第1曲率面と前記第2曲率面との間に位置する第1テーパ面とを含み、
前記ボックスは、
前記雄ねじに対応し、前記ボックスの内周に形成される雌ねじと、
前記ピンショルダ面に対向し、前記ピン及び前記ボックスが締結されている状態で前記ピンショルダ面と接触するボックスショルダ面と、
前記ピンシール面に対向し、前記ピン及び前記ボックスが締結されている状態で前記ピンシール面と接触するボックスシール面とを含み、
前記ボックスシール面は、前記ボックスショルダ面に近い方に位置する第3曲率面と、前記ボックスショルダ面から遠い方に位置する第4曲率面と、前記第3曲率面と前記第4曲率面との間に位置する第2テーパ面とを含み、
前記ボックスシール面は、前記テーパ面上の管軸方向における中点に位置するシールポイントを有し、
管軸方向における前記ノーズの先端と前記シールポイントとの間のシールポイント距離は13mm〜25mmであり、
前記ピンショルダ面又は前記ボックスショルダ面と管軸に垂直な平面との間のショルダ角は2〜13度であり、かつ、
前記シールポイントにおける前記ピンの肉厚に対する前記ボックスの肉厚のシール肉厚比は1.7以上である、鋼管用ねじ継手。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼管用ねじ継手であって
記ショルダ角は2〜10度であり、かつ、
前記シール肉厚比は1.8〜3.0である、鋼管用ねじ継手
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼管用ねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、油井や天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう)の試掘又は生産、オイルサンドやシェールガス等の非在来型資源の開発、二酸化炭素の回収や貯留(CCS(Carbon dioxide Capture and Storage))、地熱発電、あるいは温泉等では、油井管と呼ばれる鋼管が用いられる。鋼管同士の連結には、ねじ継手が用いられる。
【0003】
この種の鋼管用ねじ継手の形式は、カップリング型とインテグラル型とに大別される。カップリング型の場合、連結対象の一対の管材のうち、一方の管材が鋼管であり、他方の管材がカップリングである。この場合、鋼管の両端部の外周に雄ねじが形成され、カップリングの両端部の内周に雌ねじが形成される。そして、鋼管の雄ねじがカップリングの雌ねじにねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。インテグラル型の場合、連結対象の一対の管材がともに鋼管であり、別個のカップリングを用いない。この場合、鋼管の一端部の外周に雄ねじが形成され、他端部の内周に雌ねじが形成される。そして、一方の鋼管の雄ねじが他方の鋼管の雌ねじにねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。
【0004】
一般に、雄ねじが形成された管端部の継手部分は、雌ねじに挿入される要素を含むことから、「ピン」と称される。一方、雌ねじが形成された管端部の継手部分は、雄ねじを受け入れる要素を含むことから、「ボックス」と称される。これらのピン及びボックスは、管材の端部であるため、いずれも管状である。
【0005】
油井は、掘削中に坑壁が崩れないように、油井管で坑壁を補強しながら掘り進むため、結果的に油井管が多重に配置された構造になる。近年、油井の高深度化及び超深海化がますます進展しているが、このような環境では、効率よく油井を開発するため、油井管の接続に、継手部の内径及び外径が鋼管の内径及び外径と同程度か又はわずかに大きいねじ継手が多用される。このようなねじ継手を用いることで、多重に配置される油井管同士の隙間を極力小さくすることができ、深くても井戸の径があまり大きくならず効率的に油井を開発できる。このような内径及び外径の制約の下で、ねじ継手には、内部からの流体圧力(以下、「内圧」ともいう。)及び外部からの流体圧力(以下、「外圧」ともいう。)に対し、優れた密封性能が要求される。さらに、例えば大深度の油井に用いられる場合等では油井管の熱膨張によって、ねじ継手に大きな引張荷重や圧縮荷重がかかる。このような環境においても、ねじ継手には優れた密封性能を備えることも要求される。
【0006】
密封性能を確保するためのねじ継手として、メタル−メタル接触によるシール(以下、「メタルシール」という。)を有するものが知られている。メタルシールとは、ピンのシール面の径がボックスのシール面の径よりも僅かに大きく(この径の差を「干渉量」と呼ぶ。)、ねじ継手を締結してシール面同士が嵌め合わされると、干渉量によりピンのシール面が縮径し、ボックスのシール面が拡径し、それぞれのシール面が元の径に戻ろうとする弾性回復力によってシール面に接触圧力が発生して全周密着し、密封性能を発揮する構造である。
【0007】
特表2006−526747号公報(特許文献1)は、ピン及びボックスから構成される鋼管用ねじ継手を開示する。ピンは、雄ねじと、シール面と、ショルダ面とを有する。これらに対応し、ボックスは、雌ねじと、シール面と、ショルダ面とを有する。ピンは、シール面とショルダ面との間に設けられるノーズ部を有する。ノーズ部は、ボックスの対応する部分と接触していない。ショルダ角は管軸に垂直な平面に対して4〜16度が良い、と記載されている。
【0008】
特開2013−29176号公報(特許文献2)は、ピン及びボックスから構成される鋼管用ねじ継手を開示する。ピンは、雄ねじ部と、雄ねじ部より管端側に延在するノーズ部と、ノーズ部の先端に設けられたショルダ部とを有する。ボックスは、雄ねじ部とねじ結合されてねじ部をなす雌ねじ部と、ピンのノーズ部外周面に相対するシール面と、ピンのショルダ部に当接するショルダ部とを有する。ピンのノーズ部外周面は外側に凸の曲面形状である。ボックスのシール面は単一のテーパ形状である。ピンのノーズ部外周面とボックスのシール面とがメタル−メタル接触し、その接触部がシール部をなす。
【0009】
特開2014−13052号公報(特許文献3)は、ピン部材及びボックス部材から構成される管のねじ継手を開示する。ピン部材は、雄ねじ部と、雄ねじ部より管端側に延在するノーズ部と、ノーズ部の先端に設けられたショルダ部とを有する。ボックス部材は、雄ねじ部とねじ結合される雌ねじ部と、ピン部材のノーズ部であるピンノーズの外周面に相対する内周面と、ピン部材のショルダ部に当接するショルダ部とを有する。ピンノーズの外周面は凸曲面である。ボックス部材の内周面は、ピン部材との結合時にピンノーズの凸曲面と干渉するテーパ面である。ショルダ部のショルダ角は0度以上である。ねじ結合によりピン部材とボックス部材とが結合されてピンノーズの凸曲面とボックス部材のテーパ面とがメタル−メタル接触し、その接触界面がシール部をなす。
【0010】
本明細書は、下記の文献を引用により援用する。
【特許文献1】特表2006−526747号公報
【特許文献2】特開2013−29176号公報
【特許文献3】特開2014−13052号公報
【開示の概要】
【0011】
本開示の目的は、内圧及び外圧に対する密封性能を向上させることができる鋼管用ねじ継手を提供することである。
【0012】
本発明者らは、ショルダ角以外に、内圧及び外圧に対する密封性能に影響を及ぼすファクタを鋭意検討していた。その結果、本発明者らは、ピンの先端からメタルシールまでの距離が密封性能に影響を及ぼすことを新たに知見した。この知見に加え、本発明者らは、従来検討されていなかったメタルシールにおけるピンとボックスの肉厚比が密封性能に影響を及ぼすことも新たに知見した。これらの新たな知見に基づき、本発明者らは以下のねじ継手を発明した。
【0013】
本開示に係る鋼管用ねじ継手は、鋼管の一方の先端部に形成される管状のピンと、ピンが挿入されてピンと締結される管状のボックスとを備える。ピンは、ピンの外周に形成される雄ねじと、ピンの先端部に形成され、ピン及びボックスが締結されている状態でボックスのうち対向する部分の内径よりも小さい外径を有するノーズと、ノーズの先端に形成されるピンショルダ面と、雄ねじとノーズとの間においてピンの外周面に形成されるピンシール面とを含む。ピンシール面は、ピンショルダ面に近い方に位置する第1曲率面と、ピンショルダ面から遠い方に位置する第2曲率面と、第1曲率面と第2曲率面との間に位置する第1テーパ面とを含む。ボックスは、雄ねじに対応し、ボックスの内周に形成される雌ねじと、ピンショルダ面に対向し、ピン及びボックスが締結されている状態でピンショルダ面と接触するボックスショルダ面と、ピンシール面に対向し、ピン及びボックスが締結されている状態でピンシール面と接触するボックスシール面とを含む。ボックスシール面は、ボックスショルダ面に近い方に位置する第3曲率面と、ボックスショルダ面から遠い方に位置する第4曲率面と、第3曲率面と第4曲率面との間に位置する第2テーパ面とを含む。ボックスシール面は、第2テーパ面上の管軸方向における中点に位置するシールポイントを有する。管軸方向におけるノーズの先端とシールポイントとの間のシールポイント距離は13mm以上である。ピンショルダ面又はボックスショルダ面と管軸に垂直な平面との間のショルダ角は2〜13度である。シールポイントにおけるピンの肉厚に対するボックスの肉厚のシール肉厚比は1.7以上である。ここで、シールポイント距離は13〜25mmでもよい。ショルダ角は2〜10度でもよい。シール肉厚比は1.8〜3.0でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施の形態に係るカップリング型の鋼管用ねじ継手の管軸方向に沿った縦断面図である。
図2図2は、図1と異なるインテグラル型の鋼管用ねじ継手の管軸方向に沿った縦断面図である。
図3図3は、図1中のII部を拡大した縦断面図である。
図4図4は、図3中のシール及びノーズ周辺を拡大した縦断面図である。
図5図5は、FEM解析で用いた荷重条件の経路を示すグラフである。
図6図6は、トルク性能の評価結果を示すグラフである。
図7図7は、複合荷重下での密封性能の評価結果を示すグラフである。
図8図8は、外圧に対する密封性能の評価結果を示すグラフである。
図9図9は、内圧に対する密封性能の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手を説明する。図中同一及び相当する構成には同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0016】
図1を参照して、本実施形態に係る鋼管用ねじ継手1は、管状のピン10と、管状のボックス20とを備える。ピン10は、鋼管2の一方の先端部に形成される。ボックス20は、ピン10が挿入されてピン10と締結される。以下、鋼管2の先端部以外の部分を特に「鋼管本体」という場合がある。
【0017】
図1に示されるねじ継手1はカップリング型であり、2つのピン10,10と、カップリング3とを備える。一方のピン10は、一方の鋼管2の先端部に形成される。他方のピン10は、他方の鋼管2の先端部に形成される。カップリング3は、2つのボックス20,20と、環状の突出部31とを含む。一方のボックス20は、カップリング3の一方端部に形成される。他方のボックス20は、カップリング3の他方端部に形成される。突出部31は、カップリング3の中央部に形成される。一方のボックス20は、一方のピン10が挿入されて一方のピン10と締結される。他方のボックス20は、一方のボックス20の反対側に形成され、他方のピン10が挿入されて他方のピン10と締結される。
【0018】
ただし、ねじ継手1はインテグラル型でもよい。図2に示されるように、インテグラル型のねじ継手1は、2本の鋼管2を互いに接続するためのものであり、ピン10と、ボックス20とを備える。インテグラル型のねじ継手1では、一方の鋼管2がピン10を備え、他方の鋼管2がボックス20を備える。
【0019】
図1及び図3を参照して、ピン10は、雄ねじ11と、ノーズ12と、ピンショルダ面13と、ピンシール面14とを含む。雄ねじ11は、ピン10の外周に形成される。ノーズ12は、ピン10の先端部に形成され、ピン10及びボックス20が締結されている状態でボックス20のうち対向する部分の内径よりも小さい外径を有する。そのため、ピン10のノーズ12の外周面と対向するボックス20の内周面との間には、図4に示されるように微小な隙間が形成されている。ピンショルダ面13は、ノーズ12の先端に形成される。ピンシール面14は、雄ねじ11とノーズ12との間においてピン10の外周面に形成される。
【0020】
ピンシール面14は、ピンショルダ面13に近い方に位置する曲率面141と、ピンショルダ面13から遠い方に位置する曲率面143と、曲率面141と曲率面143との間に位置するテーパ面142とを含む。すなわち、ピンシール面14は、曲率面141、テーパ面142、及び曲率面143からなる。曲率面141、テーパ面142、及び曲率面143は、管軸方向CLに沿って順に並ぶ。
【0021】
ボックス20は、雌ねじ21と、ボックスショルダ面23と、ボックスシール面24とを含む。雌ねじ21は、雄ねじ11に対応し、ボックス20の内周に形成される。ボックスショルダ面23は、ピンショルダ面13に対向し、ピン10及びボックス20が締結されている状態でピンショルダ面13と接触する。ボックスシール面24は、ピンシール面14に対向し、ピン10及びボックス20が締結されている状態でピンシール面14と接触する。
【0022】
ボックスシール面24は、ボックスショルダ面23に近い方に位置する曲率面241と、ボックスショルダ面23から遠い方に位置する曲率面243と、曲率面241と曲率面243との間に位置するテーパ面242とを含む。すなわち、ボックスシール面24は、曲率面241、テーパ面242、及び曲率面243からなる。曲率面241、テーパ面242、及び曲率面243は、管軸方向CLに沿って順に並ぶ。
【0023】
雄ねじ11及び雌ねじ21は、バットレスねじをベースに形状を変更した台形型のねじである。
【0024】
図3及び図4を参照して、ボックスシール面24は、シールポイントSPを有する。シールポイントSPは、ボックスシール面24のテーパ面242上の管軸方向CLにおけるボックスシール面24の中点に位置する。シールポイント距離LSPは13mm以上である。シールポイント距離LSPは、管軸方向CLにおけるノーズ12の先端とシールポイントSPとの間の距離である。ショルダ角αは2〜13度である。ショルダ角αは、ピンショルダ面13又はボックスショルダ面23と管軸CLに垂直な平面VPとの間の角度である。シール肉厚比T/Tは1.7以上である。シール肉厚比T/Tは、シールポイントSPにおけるピン10の肉厚(以下、「ピンシール肉厚」という。)Tに対するボックス20の肉厚(以下、「ボックスシール肉厚」という。)Tの比である。図3において、Wはボックス20の外径を示し、IDは管本体2の内径を示す。
【0025】
ここで、シールポイント距離LSPの下限値は、好ましくは14mm、さらに好ましくは15mmである。シールポイント距離LSPが長すぎて製造性が低下しないように、シールポイント距離LSPの上限値は、例えば25mmでもよいが、好ましくは24mm、さらに好ましくは23mmである。ショルダ角αの下限値は、好ましくは3度であり、さらに好ましくは4度である。ショルダ角αの上限値は、好ましくは10度であり、さらに好ましくは9度である。シール肉厚比T/Tの下限値は、好ましくは1.8であり、さらに好ましくは1.9である。複数の鋼管を多層にして井戸に挿入する際にカップリング3の外径が大きすぎて外側のピン10の内面と干渉しないように、シール肉厚比T/Tの上限値は、例えば3.0でもよいが、好ましくは2.9であり、さらに好ましくは2.8である。
【0026】
上記実施の形態では、シールポイント距離LSPは13mm以上であるため、ノーズ12の剛性が高くなり、ねじ継手1に圧縮荷重がかかっているときでも、ノーズ12が圧縮荷重を負担することでメタルシールのシール面のたわみを抑制し、接触面圧の低下を抑えることができる。加えて、シール肉厚比T/Tは1.7以上であるため、ボックス20の剛性が高くなり、ボックス20が特に内圧による押上げ抵抗が高くなることで、シール面の密着が維持され、メタルシールの接触面圧の低下を抑えることができる。その結果、内圧及び外圧に対する密封性能を向上させることができる。
【0027】
以上、実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限り種々の変更が可能である。
【実施例】
【0028】
本実施の効果を検証するため、有限要素法(FEM)によってトルク性能及び密封性能を評価した。評価対象をバットレスねじ継手とし、以下の鋼管を用いた。
サイズ:7インチ、26#(管本体外径:177.8mm、管本体内径:159.41mm)
材料:API規格の油井管材料L80(公称耐力YS=552MPa(80ksi))
【0029】
表1及び表2は、解析に供試した42通りの実験例の寸法及びその評価結果を示す。ここでは、管本体2の外径、管本体2の内径ID、ボックス20の外径W、ピンシール肉厚T、ボックスシール肉厚T、及びシール肉厚比T/Tを一定にし、シールポイント(SP)距離LSP及びショルダ角αを変化させた。表1は、シールポイント距離LSPでソートしたもので、トルク性能の評価結果として降伏トルクを示す。表2は、ショルダ角αでソートしたもので、密封性能の評価結果として最小シール接触力を示す。降伏トルク及び最小シール接触力の定義は後述する。なお、ピン10のショルダ角α及びボックスのショルダ角αは同一とした。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
表3は、代符5(表1及び表2中の代符33と同一)以外は上記と異なる8通りの実験例の寸法及びその密封性能の評価結果を示す。ここでは、管本体2の外径、管本体2の内径ID、ピンシール肉厚T、シールポイント距離LSP、及びショルダ角αを一定にし、ボックス20の外径W及びボックスシール肉厚Tを変化させることによりシール肉厚比T/Tを変化させた。また、外圧及び内圧に対する密封性能の評価結果として、外圧及び内圧がかかったときの最小シール接触力を示す。
【0033】
【表3】
【0034】
トルク性能については、締結トルク線図が降伏し始める値MTV(Maximum Torque Value)を「降伏トルク」と定義し、その値を用いて評価した。密封性能については、図5に示されるISO13679シリーズA試験を模擬した複合荷重条件で解析を行い、荷重ステップごとにおけるシール接触力の値を求め、その最小値を「最小シール接触力」と定義し、その値を用いて評価した。また、シール肉厚比T/Tの影響を評価する際には、単純外圧及び単純内圧における密封性能も考慮した。軸力を負荷せずに外圧のみ又は内圧のみを徐々に増加していき、その際の最小シール接触力を評価した。
【0035】
図6は、FEMで得た降伏トルクを示す。図6から、降伏トルクはシールポイント距離LSP及びショルダ角αに依存することが判明した。シールポイント距離LSPが長くなると、剛性が高くなるため、トルク性能が向上していると思われる。一方、ショルダ角αが5度で降伏トルクが最大になり、ショルダ角αが5度よりも大きくなると、降伏トルクは低下した。このようにトルク性能はショルダ角αに大きく影響されることから、ショルダ角αは2〜13度が好ましいことが判明した。
【0036】
図7は、複合荷重下における密封性能の評価結果を示す。最小シール接触力は図5における荷重ステップ(12)の単純外圧で発生した。図7から、シールポイント距離LSPが13mm以上あれば、ショルダ角αに関係なく、密封性能が向上することが判明した。これらの評価結果から、高い密封性能と高いトルク性能を両立するには、ショルダ角αが2〜13度で、かつ、シールポイント距離LSPが13mm以上であればよいことが判明した。
【0037】
加えて、表3に示されるように、ショルダ角αを5度に、シールポイント距離LSPを13mmに固定し、シール肉厚比T/Tを変化させた。シール肉厚比T/Tが密封性能に及ぼす影響を調査するため、図5に示される単純内圧及び単純外圧の荷重経路を用いて密封性能を評価した。図8は、単純外圧下、図9に単純内圧下における密封性能の評価結果を示す。いずれの場合もシール肉厚比T/Tが増加するにつれて密封性能が向上したが、特に図9から、内圧に対する密封性能はシール肉厚比T/Tが1.7未満では顕著に低く、1.7以上で飽和した。したがって、シール肉厚比T/Tは1.7以上であることが望ましいことが判明した。
【符号の説明】
【0038】
1:ねじ継手
2:鋼管(鋼管本体)
3:カップリング
10:ピン
11:雄ねじ
12:ノーズ
13:ピンショルダ面
14:ピンシール面
20:ボックス
21:雌ねじ
23:ボックスショルダ面
24:ボックスシール面
141,143,241,243:曲率面
142,242:テーパ面
SP:シールポイント
SP:シールポイント距離
α:ショルダ角
/T:シール肉厚比
CL:管軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9