特許第6804673号(P6804673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6804673
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】液晶高分子膜およびこれを含む積層板
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20201214BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C08J5/18
   B32B15/08 M
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-21487(P2020-21487)
(22)【出願日】2020年2月12日
【審査請求日】2020年3月16日
(31)【優先権主張番号】108147226
(32)【優先日】2019年12月23日
(33)【優先権主張国】TW
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595009383
【氏名又は名称】長春人造樹脂廠股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】杜安邦
(72)【発明者】
【氏名】呉佳鴻
(72)【発明者】
【氏名】陳建鈞
【審査官】 石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−092036(JP,A)
【文献】 特開2006−249159(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102574362(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02、5/12−5/22
B32B 1/00−43/00
H05K 3/10−3/26、3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する第1表面および第2表面を有し、
該第1表面における最大高さに対する十点平均粗さの比率は0.30から0.62であり、該第1表面の算術平均粗さは0.09マイクロメートル以下であることを特徴とする、
液晶高分子膜。
【請求項2】
該第1表面の算術平均粗さは0.02マイクロメートルから0.08マイクロメートルであることを特徴とする、請求項に記載の液晶高分子膜。
【請求項3】
該第1表面の十点平均粗さは2マイクロメートル以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液晶高分子膜。
【請求項4】
該第1表面の十点平均粗さは1.5マイクロメートル以下であることを特徴とする、請求項に記載の液晶高分子膜。
【請求項5】
該第1表面における最大高さに対する十点平均粗さの比率は0.36から0.61であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の液晶高分子膜。
【請求項6】
該第2表面における最大高さに対する十点平均粗さの比率は0.30から0.62であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の液晶高分子膜。
【請求項7】
該第2表面の算術平均粗さは0.09マイクロメートル以下であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の液晶高分子膜。
【請求項8】
第1金属箔および請求項1〜のいずれか1項に記載の液晶高分子膜を含み、
該第1金属箔は該液晶高分子膜の該第1表面上に設けられることを特徴とする、
積層板。
【請求項9】
該積層板は第2金属箔を有し、該第2金属箔は該液晶高分子膜の該第2表面上に設けられることを特徴とする、請求項に記載の積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層板に応用される高分子膜に関し、特に液晶高分子膜およびこれを含む積層板である。
【背景技術】
【0002】
移動通信技術の急速な発展に伴い、業界は4G通信技術のデータ伝送速度、応答時間、システム容量などの性能を最適化するため、第5世代移動通信システム(5th Generation Mobile Networks、略称5G)を積極的に開発している。
【0003】
5G通信技術は高周波帯域を利用して信号送信を行うため、信号の周波数が高いほど、伝達の信号損失(insertion loss)も大きい。高周波帯域で信号送信を達成する目的を果たすため、既存技術において、低誘電特性の液晶高分子膜(Liquid Crystal Polymer Film、略称LCP膜)を選択し、金属箔を組み合わせて積層板を製造すると、信号送信の誘電損失を低下させることができることは既に知られている。
【0004】
しかしながら、液晶高分子膜および金属箔の間の付着性が不足する問題が数多く存在し、後続の使用において、回路が脱落し、積層板が深刻に劣化する問題が容易に引き起こされる。したがって、既存技術に対して、液晶高分子膜および金属箔の間の引き剥がし強さを改善し、5G製品に適した積層板を開発することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願公開第109180979号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の点を踏まえて、本発明の目的は液晶高分子膜および金属箔の間の引き剥がし強さを高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は液晶高分子膜を提供する。これは相対する第1表面および第2表面を有し、該第1表面における最大高さ(maximum height、Ry)に対する十点平均粗さ(ten−point mean roughness、Rz)の比率(略称Rz/Ry)は0.30から0.62である。
【0008】
液晶高分子膜の1つの表面(第1表面)におけるRz/Ryの特性を制御することにより、液晶高分子膜を金属箔上に重ね合わせる付着性を高めることができ、液晶高分子膜および金属箔の間の引き剥がし強さを高める。これにより、積層板に後続の加工で回路が脱落するような問題が発生するのを防止する。
【0009】
本発明によると、液晶高分子膜の第2表面についても、そのRz/Ryが0.30から0.62でよい。これによって、本発明の液晶高分子膜は第1表面、第2表面またはその両者に関わらず、それぞれ少なくとも1枚の金属箔と重なり合い、良好な付着性を得ることができ、これにより液晶高分子膜および少なくとも1枚の金属箔の間の引き剥がし強さを高める。好ましくは、本発明の液晶高分子膜の第1表面および/または第2表面のRz/Ryは0.36から0.61でもよい。一実施態様において、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRz/Ryおよび第2表面のRz/Ryは同じまたは異なっていてよい。一実施態様において、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRz/Ryおよび第2表面のRz/Ryはいずれも前記範囲にある。
【0010】
本発明によると、液晶高分子膜の第1表面のRzは2マイクロメートル(μm)以下である。好ましくは、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRzは1.5μm以下であり、より好ましくは、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRzは0.3μm以上1.5μm以下でよく、さらに好ましくは、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRzは0.3μm以上1.4μm以下でよく、さらに好ましくは、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRzは0.3μm以上1.3μm以下でよく、さらに好ましくは、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRzは0.35μm以上1.2μm以下でよく、さらに好ましくは、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRzは0.39μm以上1.2μm以下でよい。一実施態様において、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRzおよび第2表面のRzは同じまたは異なっていてよい。一実施態様において、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRzおよび第2表面のRzはいずれも前記範囲にある。
【0011】
本発明によると、液晶高分子膜の第1表面のRyは2.2μm以下でよい。一実施態様において、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRyは2.0μm以下でよく、より好ましくは、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRyは0.5μm以上1.8μm以下でよく、さらに好ましくは、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRyは0.6μm以上1.6μm以下でよい。一実施態様において、本発明の液晶高分子における第1表面のRyおよび第2表面のRyは同じまたは異なっていてよい。一実施態様において、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRyおよび第2表面のRyはいずれも前記範囲にある。
【0012】
好ましくは、本発明の液晶高分子膜における第1表面の算術平均粗さ(arithmetic average roughness、Ra)は0.09μm以下でよい。これにより、前記液晶高分子膜は積層板に応用されて、その信号損失の低下に有利であり、ハイレベルの5G製品により適する。
【0013】
より好ましくは、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRaは0.02μm以上0.08μm以下でよく、さらに好ましくは、第1表面のRaは0.02μm以上0.07μm以下でよく、さらに好ましくは、第1表面のRaは0.02μm以上0.06μm以下でよい。液晶高分子膜の第1表面のRaを低下させる技術手段により、液晶高分子膜を含む積層板の信号損失をさらに低下させることができ、ハイレベルの5G製品により適する。一実施態様において、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRaおよび第2表面のRaは同じまたは異なっていてよい。一実施態様において、本発明の液晶高分子膜における第1表面のRaおよび第2表面のRaはいずれも前記範囲にある。
【0014】
本発明によると、前記液晶高分子膜は市販の液晶高分子樹脂を使用して製造することも、既知の原料を使用して調製することもでき、本発明で特に制限されない。
例を挙げると、芳香族または脂肪族ヒドロキシ化合物(例えば、ヒドロキノン(hydroquinone)、レゾルシノール(resorcin)、2,6−ナフタレンジオール(2,6−naphthalenediol)、エチレングリコール(ethanediol)、1,4−ブタンジオール(1,4−butanediol)、1,6−ヘキサンジオール(1,6−hexanediol))、芳香族または脂肪族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸(terephthalic acid)、イソフタル酸(isophthalic acid)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(2,6−naphthalenedicarboxylic acid)、2−クロロテレフタル酸(2−chloroterephthalic acid)、アジピン酸(adipic acid))、芳香族ヒドロキシカルボン酸(例えば、3−ヒドロキシ安息香酸(3−hydroxybenzoic acid)、4−ヒドロキシ安息香酸(4−hydroxybenzoic acid)、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸(6−hydroxy−2−naphthalene carboxylic acid)、4’−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸(4’−hydroxy−4−biphenylcarboxylic acid))、芳香族アミン化合物(例えば、p−フェニレンジアミン(p−phenylenediamine)、4,4’−ジアミノビフェニル(4,4’−diaminobiphenyl)、2,6−ナフタレンジアミン(naphthalene−2,6−diamine)、4−アミノフェノール(4−aminophenol)、4−アミノ−3−メチルフェノール(4−amino−3−methyl phenol)、4−アミノ安息香酸(4−aminobenzoic acid))を原料として使用し、液晶高分子樹脂を調製でき、さらにこの液晶高分子樹脂を利用して本発明の液晶高分子膜を製造する。
本発明の一実施態様において、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、4−ヒドロキシ安息香酸および無水酢酸(acetyl anhydride)を用いて、本発明の液晶高分子膜を調製する液晶高分子樹脂を得ることができる。一実施態様において、液晶高分子樹脂の融点は約250℃から360℃である。
【0015】
一実施態様において、当業者は様々な需要に応じて、本発明の液晶高分子膜を調製するとき、添加剤を添加できる。これは、例えば潤滑剤、抗酸化剤、電気絶縁剤または充填剤であるが、これに限定されない。例を挙げると、用いることができる添加剤はポリカーボナート、ポリアミド、ポリフェニレンスルファイドまたはポリエーテルエーテルケトンなどであるが、これに限定されない。
【0016】
本発明によると、前記液晶高分子膜の厚さは特に制限されない。例を挙げると、前記液晶高分子膜の厚さは10μmから500μmでよく、好ましくは、本発明の液晶高分子膜の厚さは10μmから300μmでよく、より好ましくは、本発明の液晶高分子膜の厚さは15μmから250μmでよく、さらに好ましくは、本発明の液晶高分子膜の厚さは20μmから200μmでよい。
【0017】
前記目的を達成するため、本発明は他に積層板を提供する。これは第1金属箔および前記液晶高分子膜を含み、該第1金属箔は該液晶高分子膜の第1表面上に設けられる。
【0018】
一実施態様において、本発明の積層板は第2金属箔をさらに含むことができ、該第2金属箔は該液晶高分子膜の第2表面上に設けられる。すなわち、本発明の液晶高分子膜は前記第1金属箔および第2金属箔の間に挟まれる。この実施態様において、液晶高分子膜の第1表面および第2表面のRz/Ry特性を同時に制御するとき、液晶高分子膜を第1、第2金属箔に重ね合わせる付着性を同時に高めることができ、液晶高分子膜および第1、第2金属箔の間の引き剥がし強さを高める。
【0019】
本発明によると、「重ね合わせる」は直接接触に限定されず、「間接接触」をさらに含む。例を挙げると、本発明の一実施態様において、前記積層板の第1金属箔および液晶高分子膜は直接接触の方式で相互に重ね合わせられる。すなわち、第1金属箔は該液晶高分子膜の第1表面上に設けられ、さらに該液晶高分子膜の第1表面と直接接触する。本発明の別の実施態様において、前記積層板の第1金属箔および液晶高分子膜は間接接触の方式で相互に重ね合わせられる。すなわち、第1金属箔は液晶高分子膜上に設けられ、さらに間接接触の方式で相互に重ね合わせられる。例を挙げると、様々な需要に応じて、第1金属箔および液晶高分子膜の間に連結層を設け、第1金属箔および液晶高分子膜の第1表面を、該連結層を介して相互に接触させることができる。前記連結層の材料は様々な需要に基づいて調整でき、これにより相応の機能を提供する。例を挙げると、前記連結層の材料は、ニッケル、コバルト、クロムまたはその合金を含むことができ、これにより耐熱性、耐化学性、または電気抵抗性の作用を提供する。同様に、前記積層板の第2金属箔および液晶高分子膜も直接接触または間接接触の方式で相互に重ね合わせることを選択できる。一実施態様において、液晶高分子膜および第1金属箔を重ね合わせる方式と、液晶高分子膜および第2金属箔を重ね合わせる方式とは、同じまたは異なっていてよい。
【0020】
本発明によると、前記第1金属箔および/または第2金属箔は銅箔、金箔、銀箔、ニッケル箔、アルミニウム箔またはステンレス箔などでよいが、これに限定されない。一実施態様において、前記第1金属箔および第2金属箔は異なる材質を用いる。好ましくは、第1金属箔および/または第2金属箔は銅箔でよく、銅箔および液晶高分子膜が重なり合って銅箔積層板(copper clad laminate、略称CCL)が形成される。このほか、前記第1金属箔および/または第2金属箔の調製方法は特に制限されず、本発明の目的を逸脱しなければよい。例を挙げると、圧延法または電解法を用いて調製できるが、これに限定されない。
【0021】
本発明によると、前記第1金属箔および/または第2金属箔の厚さは特に制限されず、当業者は様々な需要に応じて、相応の調整を行うことができる。例を挙げると、一実施態様において、第1金属箔および/または第2金属箔の厚さはそれぞれ独立して1μmから200μmでよく、好ましくは、前記第1金属箔および/または第2金属箔の厚さはそれぞれ独立して1μmから40μmでよく、より好ましくは、前記第1金属箔および/または第2金属箔の厚さはそれぞれ独立して1μmから20μmでよく、さらに好ましくは、前記第1金属箔および/または第2金属箔の厚さはそれぞれ独立して3μmから20μmでよい。
【0022】
本発明によると、当業者は様々な需要に応じて、本発明の第1金属箔および/または第2金属箔に表面処理を行うことができる。例を挙げると、粗化処理、酸塩基処理、加熱処理、脱脂処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、プライマー塗布処理などを用いることができるが、これに限定されない。
【0023】
本発明によると、前記第1金属箔および/または第2金属箔の粗さは特に制限されず、当業者は様々な需要に基づいて、相応の調整を行うことができる。一実施態様において、前記第1金属箔および/または第2金属箔のRzはそれぞれ独立して0.1μm以上2.0μm以下でよい。好ましくは、前記第1金属箔および/または第2金属箔のRzはそれぞれ独立して0.1μm以上1.5μm以下でよい。一実施態様において、第1金属箔および第2金属箔のRzは同じまたは異なっていてよい。一実施態様において、第1金属箔のRzおよび第2金属箔のRzはいずれも前記範囲にある。
【0024】
一実施態様において、当業者は様々な需要に応じて、第3金属箔を追加で設けることができ、前記第3金属箔は第1金属箔および/または第2金属箔と同じまたは異なっていてよい。一実施態様において、前記第3金属箔のRzは前記第1金属箔および/または第2金属箔のRzの範囲にあってよい。
【0025】
一実施態様において、前記積層板は複数の液晶高分子膜を含むことができる。本発明の主旨を逸脱しない前提で、当業者は様々な需要に応じて、複数の本発明の液晶高分子膜および複数の金属箔(例えば、前記第1金属箔、第2金属箔および/または第3金属箔)を重ね合わせ、複数の液晶高分子膜および複数の金属箔を重ね合わせた積層板を製造できる。
【0026】
本明細書において、前記「十点平均粗さ」、「最大高さ」および「算術平均粗さ」は、いずれもJIS B 0601:1994の方法、定義に基づく。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、数種の調製例を列挙して本発明の液晶高分子膜を製造する原料を説明し、他に数種の実施例を列挙して本発明の液晶高分子膜および積層板の実施方式を説明し、同時に数種の比較例を対照として提供する。
当業者は下記実施例および比較例の内容により、本発明が達成できる利点および効果を容易に理解できる。本明細書で列挙する実施例は本発明の実施方式を模範的に説明するために用いたに過ぎず、本発明の範囲を制限するのではないことを理解すべきであり、当業者はその通常の知識に基づき、本発明の主旨を逸脱せずに各種手直し、変更を行い、本発明の内容を実施または応用できる。
【0028】
≪液晶高分子樹脂≫
調製例1:液晶高分子樹脂
3リットルの圧力釜で、700グラムの6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、954グラムの4−ヒドロキシ安息香酸、1085グラムの無水酢酸および1.3グラムの亜リン酸ナトリウム(sodium phosphite)を、窒素ガス雰囲気、160℃、常圧の環境下で約2時間アセチル化反応させる。続いて、1時間当たり30℃の昇温速度で320℃まで昇温させ、さらにこの温度条件下で圧力を760トール(torr)から3torr以下までゆっくりと低下させ、温度を320℃から340℃まで昇温させる。その後、撹拌出力を上昇させ、昇圧、吐出、ストランド、ペレット化を行い、融点が約265℃、粘度(@300℃)が約60パスカル・秒(Pa・s)の液晶高分子樹脂が得られる。
【0029】
調製例2:液晶高分子樹脂
3リットルの圧力釜で、440グラムの6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、1145グラムの4−ヒドロキシ安息香酸、1085グラムの無水酢酸および1.3グラムの亜リン酸ナトリウムを、窒素ガス雰囲気、160℃、常圧の環境下で約2時間アセチル化反応させる。続いて、1時間当たり30℃の昇温速度で320℃まで昇温させ、さらにこの温度条件下で圧力を760torrから3torr以下までゆっくりと低下させ、温度を320℃から340℃まで昇温させる。その後、撹拌出力を上昇させ、昇圧、吐出、ストランド、ペレット化を行い、融点が約305℃、粘度(@300℃)が約40Pa・sの液晶高分子樹脂が得られる。
【0030】
調製例3:液晶高分子樹脂
3リットルの圧力釜で、540グラムの6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、1071グラムの4−ヒドロキシ安息香酸、1086グラムの無水酢酸、1.3グラムの亜リン酸ナトリウムおよび0.3グラムの1−メチルイミダゾール(1−methylimidazole)を、窒素ガス雰囲気、160℃、常圧の環境下で約2時間アセチル化反応させる。続いて、1時間当たり30℃の昇温速度で320℃まで昇温させ、さらにこの温度条件下で圧力を760torrから3torr以下までゆっくりと低下させ、温度を320℃から340℃まで昇温させる。その後、撹拌出力を上昇させ、昇圧、吐出、ストランド、ペレット化を行い、融点が約278℃、粘度(@300℃)が約45Pa・sの液晶高分子樹脂が得られる。
【0031】
≪液晶高分子膜≫
実施例1から13、比較例1から5:液晶高分子膜
前記調製例1から3で得られた液晶高分子樹脂を原料として用い、さらに基本的に下記の方法により、それぞれ実施例1から13および比較例1から5で得られる液晶高分子膜を調製する。
【0032】
まず、液晶高分子樹脂をロータ直径が27ミリメートルの押出機(装置の型番:ZSE27、Leistritzより購入)に投入し、300℃から320℃まで加熱する。さらに1時間当たり3.5キログラム(kg/hr)から10kg/hrのフィード速度で、液晶高分子樹脂を幅500ミリメートルのTダイから押し出す。続いて、Tダイから約1から50ミリメートル、温度約250℃から320℃、直径約35センチメートルから45センチメートルの2つのキャスティングドラム間に通し、約20から60キロニュートン(kN)の力で押し出す。続いて、冷却ドラムに送って常温まで冷却すると、厚さ50マイクロメートル(μm)の液晶高分子膜が得られる。
【0033】
実施例1から13および比較例1から5の液晶高分子膜を調製する工程の違いは、主に次の通りである。液晶高分子樹脂の種類、Tダイからキャスティングドラムのドラム面までの距離、フィード速度および押出機温度について、各実施例および比較例で設定した工程パラメータを、それぞれ下表1に列記する。
【0034】
表1:実施例1から13および比較例1から5の液晶高分子膜の調製における工程パラメータ。
【0035】
【表1】
【0036】
上記液晶高分子膜を調製する方法は、例を挙げて本発明の実施方式を説明したに過ぎず、当業者は積層体延伸法、インフレーション法などの既知の方法を用いて液晶高分子膜を調製することもできる。
【0037】
一実施態様において、液晶高分子樹脂をTダイから押し出した後、当業者は需要に応じて、液晶高分子樹脂および2枚の耐熱膜を共に2つのキャスティングドラム間に通すことができ、さらに3層の積層構造が形成される。室温下で耐熱膜および液晶高分子樹脂を剥離し、本発明の液晶高分子膜が得られる。前記耐熱膜は例えばポリテトラフルオロエチレン膜(poly(tetrafluoroethene)film、PTFE film)、ポリイミド膜(polyimide film、PI film)、ポリエーテルスルホン膜(poly(ether sulfone)film、PES film)を用いることができるが、これに限定されない。
【0038】
このほか、当業者は様々な需要に応じて、製造した液晶高分子膜に対し、研磨、紫外線照射、プラズマなどの後処理を行うことができるが、これに限定されない。プラズマ後処理について、様々な需要に応じて、窒素ガス、酸素ガスまたは空気雰囲気、減圧または常圧環境で1キロワットのプラズマにより後処理を行うこともできるが、これに限定されない。
【0039】
試験例1:液晶高分子膜の粗さ分析
本試験例は前記実施例1から13および比較例1から5で製造した液晶高分子膜を被験サンプルとし、レーザ顕微鏡(型番:LEXT OLS5000−SAF、Olympusより購入、対物レンズはMPLAPON−50xLEXT)を利用し、光源波長405ナノメートル、対物レンズ50倍、光学ズーム1.0倍の条件において、24±3℃の温度、63±3%の相対湿度下で、各被験サンプルの表面形態を観察して、そのイメージを取り込む。被験サンプルのRa、RyおよびRzはJIS B 0601:1994の方法に基づき、さらに分析の過程で、各被験サンプルの評価長さ(evaluation length)を4ミリメートルに設定し、カットオフ値(cutoff value、λc)を0.8ミリメートルに設定して、各被験サンプルの1つの表面のRa、RyおよびRzを算出する。その結果は下表2に示す通りである。
【0040】
実施例1Aから13A:積層板
前記実施例1から13および比較例1から5の液晶高分子膜を用いて、市販の銅箔と重ね合わせ、それぞれ実施例1Aから13Aおよび比較例1Aから5Aの積層板を製造する。前記市販の銅箔の型番および関連説明は、以下の通りである。
銅箔1:CF−T49A−HD2、福田金属箔粉工業株式会社より購入。Rzは約1.2μm。
銅箔2:CF−H9A−HD2、福田金属箔粉工業株式会社より購入。Rzは約1.0μm。
銅箔3:3EC−M2S−HTE−SP2、三井金属鉱業株式会社より購入。Rzは約1.1μm。
銅箔4:TQ−M7−VSP、三井金属鉱業株式会社より購入。Rzは約1.1μm。
【0041】
前記厚さ約50μmの液晶高分子膜および厚さ約12μmの2枚の市販銅箔を用いる。前記液晶高分子膜および2枚の市販銅箔をそれぞれ20cm×20cmの寸法に裁断した後、液晶高分子膜を2枚の市販銅箔の間に重ね合わせる。温度180℃、圧力5kg/cmで60秒間続けて圧接してから、温度300℃、圧力20kg/cmで25分間続けて圧接し、常温まで低下させると積層板が得られる。各積層板の液晶高分子膜および2枚の市販銅箔のサンプル番号は、下表2に示す通りである。
【0042】
ここで、積層板の圧接方式は特に制限されず、当業者は例えば線圧接または面圧接など既知の技術を用いて圧接工程を完了できる。本発明で適用できる圧接機は、例えば間欠ホットプレス、ロールツーロール式ロールプレス、ダブルベルトプレスなどであるが、これに限定されない。様々な需要に基づき、当業者は液晶高分子膜および銅箔の位置を合わせた後、直接加温、加圧工程を行って、面圧接の工程を完了することもできる。
【0043】
その他の実施態様において、当業者は様々な需要に応じて、例えばスパッタリング、電気メッキ、化学めっき、または蒸着などの方式を用いて、液晶高分子膜に金属箔(例えば:銅箔)または液晶高分子膜および金属箔の間の連結層(例えば:接着剤、ニッケル層、コバルト層、クロム層、またはその合金層)を形成することもできる。
【0044】
試験例2:積層板の引き剥がし強さの分析
本試験例はIPC−TM−650 No.:2.4.9の測定方法に基づき、前記実施例1Aから13Aおよび比較例1Aから5Aの積層板を、長さ約228.6ミリメートル、幅約3.2ミリメートルのエッチング試験片(etched specimen)に作製し、さらに各エッチング試験片を23±2℃の温度、50±5%の相対湿度下に24時間置き、安定させる。続いて、各エッチング試験片を両面テープで測定機(装置の型番:HT−9102、弘達儀器股▲分▼有限公司(Hung Ta Instrument Co.,Ltd.)より購入)の治具に貼り付け、50.8ミリメートル/分(mm/min)の引き剥がし速度で治具上のエッチング試験片を引き剥がし、さらに引き剥がし過程における引き剥がし張力を続けて記録する。ここで、引き剥がし張力は測定機の許容範囲の15%から85%に制御し、引き剥がし長さは少なくとも57.2ミリメートルを超えるべきであり、さらに最初に6.4ミリメートルを引き剥がす引き剥がし張力は無視して計算しない。その結果は下表2に示す通りである。
【0045】
表2:実施例1から13および比較例1から5における液晶高分子膜の粗さ分析の結果、ならびに実施例1Aから13Aおよび比較例1Aから5Aにおける積層板に用いる銅箔のサンプル番号およびその引き剥がし強さ。
【0046】
【表2】
【0047】
試験例:積層板の信号損失の分析
本試験例は前記実施例1Aから13Aおよび比較例1Aから5Aの積層板を、長さ約100ミリメートル、幅約140ミリメートル、抵抗約50オーム(Ω)のストリップライン試験片(strip line specimen)に作製し、マイクロ波ネットワークアナライザ(装置の型番:8722ES、アジレントテクノロジー(Agilent Technology)社より購入)、プローブ(型番:ACP40−250、Cascade Microtech社より購入)を使用し、各試験片の10GHz下における信号損失を測定する。
【0048】
下表3において、実施例1から7および比較例1から5の液晶高分子膜、ならびに市販の銅箔を圧接して形成される積層板を例とし、実施例1Aから7Aおよび比較例1Aから5Aの積層板の信号損失特性を評価する。その結果は下表3に示す通りである。
【0049】
表3:実施例1Aから7Aおよび比較例1Aから5Aの積層板における液晶高分子膜および銅箔の関連説明、ならびにその信号損失の分析結果。
【0050】
【表3】
【0051】
実験結果および考察
表2に示すように、実施例1から13の液晶高分子膜における1つの表面のRz/Ryはいずれも0.30から0.62に制御されるため、この種の液晶高分子膜および各種低粗度の市販銅箔を圧接して形成される積層板(実施例1Aから13A)は、いずれも高い引き剥がし強さを示すことができる。表3の結果のように、実施例1Aから7Aの積層板の測定結果を例とすると、液晶高分子膜の1つの表面のRz/Ryを0.30から0.62に制御すると、実施例1Aから7Aの積層板の信号損失も−3.1dB以下に制御できる。
【0052】
さらに表2に示す結果を検討し、銅箔1を含む積層板の実験結果を比較する。比較例1から4の液晶高分子膜と比較すると、実施例1から4の液晶高分子膜はいずれも比較的高い引き剥がし強さを示す。同様に、銅箔2を含む積層板の実験結果を比較する。比較例5の液晶高分子膜と比較すると、実施例5から7の液晶高分子膜はいずれも比較的高い引き剥がし強さを示す。明らかに、本発明の液晶高分子膜を用いて積層板を調製すると、引き剥がし強さを高める効果を確実に有するため、加工が有利であり、後続で回路が脱落するような問題が発生するのを効果的に防止できる。
【0053】
さらに、実施例1Aから7Aの積層板の測定結果から、液晶高分子膜の1つの表面のRz/Ryを0.30から0.62の範囲に制御し、Raも0.09μm以下に制御するとき、この種の液晶高分子膜を用いて銅箔と圧接すると、積層板(実施例1Aから3Aおよび5Aから7A)の引き剥がし強さを高める前提で、積層板の信号損失が−2.9dB以下に制御され、高い引き剥がし強さおよび低い信号損失を同時に示す積層板を提供できることがわかる。
【0054】
上記をまとめると、本発明は液晶高分子膜の少なくとも1つの表面のRz/Ryを0.30から0.62に制御することにより、液晶高分子膜および金属箔を重ね合わせた引き剥がし強さを実際に高めることができる。このほか、液晶高分子膜の少なくとも1つの表面のRz/RyおよびRaの特性を合わせて制御し、積層板の引き剥がし強さを高めることができるだけでなく、積層板の信号損失を低下させることができ、本発明の積層板はハイレベルの5G製品により適する。
【要約】
【課題】本発明は、液晶高分子膜およびこれを含む積層板に関する。
【解決手段】液晶高分子膜は相対する第1表面および第2表面を有し、該第1表面における最大高さ(Ry)に対する十点平均粗さ(Rz)の比率は0.30から0.62である。液晶高分子膜の少なくとも1つの表面のRz/Ryを制御することにより、液晶高分子膜および金属箔を重ね合わせた引き剥がし強さを高めることができ、さらにこれを含む積層板は依然として信号損失が低い利点を維持する。
【選択図】なし