特許第6804704号(P6804704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6804704データ処理移行装置および不具合原因の特定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6804704
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】データ処理移行装置および不具合原因の特定方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20201214BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20201214BHJP
【FI】
   G05B19/418 Z
   G06Q50/04
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-543128(P2020-543128)
(86)(22)【出願日】2020年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2020008977
【審査請求日】2020年8月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】林 英松
(72)【発明者】
【氏名】那須 督
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 紀之
(72)【発明者】
【氏名】柏木 僚
【審査官】 中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−286880(JP,A)
【文献】 特開2013−201299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B19/418,23/00−23/02,
G06Q50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産設備の動作状況、稼働状況および不具合状況に関するデータを収集する1以上の収集処理、収集したデータである収集データを加工する1以上の加工処理、および加工したデータである加工データを診断する1以上の診断処理を含む一連のデータ処理の流れを示すデータ処理フロー中の前記加工処理ごとおよび前記診断処理ごとに設けられ、前記加工処理ごとまたは前記診断処理ごとに定義された処理内容にしたがってデータ処理を行うデータ処理部と、
前記データ処理フロー中の前記収集処理で前記収集データを収集するデータ収集部と、
前記データ処理フロー中のいずれか1つの前記収集処理、前記加工処理または前記診断処理に対応する移設後または複製後の生産設備における前記データ処理部から出力されまたは前記データ収集部で収集されるデータである動作ログと、移設前または複製元の生産設備における前記データ処理部から出力されまたは前記データ収集部で収集される比較基準となるデータである基準ログと、を比較および解析し、前記移設前または前記複製元の前記生産設備の前記基準ログに対して前記移設後または前記複製後の前記生産設備における異常の原因箇所を特定するデータ処理実行制御部と、
を備えることを特徴とするデータ処理移行装置。
【請求項2】
前記データ処理実行制御部は、
前記移設前または前記複製元の生産設備における前記基準ログと、前記移設後または前記複製後の生産設備における前記動作ログと、を保存するデータ処理実行状況蓄積部と、
前記データ処理実行状況蓄積部に保存された前記データ処理フロー中の1つの前記収集処理、前記加工処理または前記診断処理に対応する移設前後または複製前後の生産設備の前記基準ログと前記動作ログとを比較および解析し、前記移設前または前記複製元の生産設備のログに対して前記移設後または前記複製後の生産設備のログの差異に原因となる前記収集データ、前記加工データまたは前記診断処理で得られるデータを特定するデータ処理実行状況解析部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のデータ処理移行装置。
【請求項3】
前記データ処理実行状況解析部での解析結果を表示する表示部をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のデータ処理移行装置。
【請求項4】
前記データ処理実行状況解析部は、前記データ処理フローのうち予め定められた前記加工処理または前記診断処理の前記動作ログを最初に解析することを特徴とする請求項2または3に記載のデータ処理移行装置。
【請求項5】
前記データ処理フロー中の前記加工処理および前記診断処理のそれぞれに定義された前記処理内容にしたがって、前記データを前記データ処理部、前記データ処理実行状況蓄積部または前記データ処理実行状況解析部に配信するデータ配信部をさらに備えることを特徴とする請求項2から4のいずれか1つに記載のデータ処理移行装置。
【請求項6】
前記データ配信部は、前記データ処理実行状況蓄積部および前記データ処理実行状況解析部の両方に、前記データ処理フロー中の前記加工処理または前記診断処理でデータ処理されたデータを配信することを特徴とする請求項5に記載のデータ処理移行装置。
【請求項7】
移設前後または複製前後の生産設備の動作状況、稼働状況および不具合状況に関するデータを収集し、移設後または複製後の生産設備の動作が移設前または複製元の生産設備の動作と異なる場合に、前記移設後または前記複製後の生産設備の動作を補正するデータ処理移行装置における不具合原因の特定方法であって、
データ処理部が、生産設備の動作状況、稼働状況および不具合状況に関するデータを収集する1以上の収集処理、収集したデータである収集データを加工する1以上の加工処理、および加工したデータである加工データを診断する1以上の診断処理を含む一連のデータ処理の流れを示すデータ処理フロー中の前記加工処理ごとおよび前記診断処理ごとに設けられ、前記加工処理ごとまたは前記診断処理ごとに定義された処理内容にしたがってデータ処理を行うデータ処理工程と、
データ収集部が、前記データ処理フロー中の前記収集処理で前記収集データを収集するデータ収集工程と、
データ処理実行制御部が、前記データ処理フロー中のいずれか1つの前記収集処理、前記加工処理または前記診断処理に対応する移設後または複製後の生産設備における前記データ処理部から出力されまたは前記データ収集部で収集されるデータである動作ログと、移設前または複製元の生産設備における前記データ処理部から出力されまたは前記データ収集部で収集される比較基準となるデータである基準ログと、を比較および解析し、前記移設前または前記複製元の前記生産設備の前記基準ログに対して前記移設後または前記複製後の前記生産設備における異常の原因箇所を特定するデータ処理実行制御工程と、
を含むことを特徴とする不具合原因の特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生産設備の移設または複製を支援するデータ処理移行装置および不具合原因の特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生産現場では、設備または生産ラインを別の現場に移設をし、あるいは既設の設備または生産ラインを複製し、別の現場に新設していた。しかし、移設時の移動に伴う設備またはラインを構成する機器の狂いあるいは複製される設備またはラインを構成する機器の個体差などによって、同じ設備またはラインを再現しているにもかかわらず、再現した設備またはラインによる生産品の品質が低下したり、あるいは再現した設備またはラインの生産性が悪化したり、といった差異を生じる場合がある。
【0003】
また、近年では、データ解析の重要性が高まっている。一般的に、データ解析は、データを収集し、収集したデータである収集データを加工し、加工した収集データである加工後データを診断する、という一連の流れであるデータ処理フローに沿って行われる。収集データの加工には、一例では、診断データを抽出する処理等が含まれる。特許文献1には、プログラマブルコントローラの各接点のIO(Input Output)データの時系列遷移を示すデータに基づき、異常の原因箇所を特定するための情報を求める異常復旧支援装置が開示されている。この異常復旧支援装置では、比較捕捉部が、サンプリングユニットで収集された各接点のデータである収集データと、正常時に収集した比較基準となる正常モデルと、を接点毎に時系列で比較し、異なる部分を異常の原因箇所として検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−115426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術による異常の原因箇所の特定は、データ解析における加工後データの診断に対応するものである。つまり、特許文献1に記載の技術では、加工後データで診断を行い、異常の原因箇所を検出しているが、異常の原因が、データ解析の流れであるデータ処理フローにおけるデータの収集段階のものであるのか、収集データの加工段階のものであるのか、について特定されていない。異常の原因箇所がデータの収集段階のものであるのか、あるいは収集データの加工段階のものであるのかについても特定することができれば、移設前または複製元の生産設備に対する移設時または複製時の生産設備の差異が発生した場合に、生産設備を構成する機器の調整方針を立案することが容易となる。そのため、異常の原因箇所がデータ処理フローの中のどの処理工程であるかを特定することができる技術が望まれていた。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、生産設備の移設または複製を行う際に、移設後または複製後の生産設備における異常の原因を、生産設備から収集したデータを処理するデータ処理フローにしたがって特定し、移設後または複製後の生産設備の調整方針の立案を従来に比して容易化することができるデータ処理移行装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示のデータ処理移行装置は、データ処理部と、データ収集部と、データ処理実行制御部と、を備える。データ処理部は、生産設備の動作状況、稼働状況および不具合状況に関するデータを収集する1以上の収集処理、収集したデータである収集データを加工する1以上の加工処理、および加工したデータである加工データを診断する1以上の診断処理を含む一連のデータ処理の流れを示すデータ処理フロー中の加工処理ごとおよび診断処理ごとに設けられ、加工処理ごとまたは診断処理ごとに定義された処理内容にしたがってデータ処理を行う。データ収集部は、データ処理フロー中の収集処理で収集データを収集する。データ処理実行制御部は、データ処理フロー中のいずれか1つの収集処理、加工処理または診断処理に対応する動作ログと、基準ログと、を比較および解析し、移設前または複製元の生産設備の基準ログに対して移設後または複製後の生産設備における異常の原因箇所を特定する。動作ログは、移設後または複製後の生産設備におけるデータ処理部から出力されまたはデータ収集部で収集されるデータである。基準ログは、移設前または複製元の生産設備におけるデータ処理部から出力されまたはデータ収集部で収集される比較基準となるデータである。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかるデータ処理移行装置は、生産設備の移設または複製を行う際に、移設後または複製後の生産設備における異常の原因を、生産設備から収集したデータを処理するデータ処理フローにしたがって特定し、移設後または複製後の生産設備の調整方針の立案を従来に比して容易化することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態によるデータ移行処理装置の構成の一例を模式的に示すブロック図
図2】データ処理フローの一例を模式的に示す図
図3】実施の形態によるデータ処理フローにおけるログの蓄積の一例を示す図
図4】実施の形態によるデータ解析の一例を示す図
図5】実施の形態によるデータ処理移行装置での不具合原因の特定方法の手順の一例を示すフローチャート
図6】実施の形態によるデータ処理移行装置を実現するハードウェア構成の一例を模式的に示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の実施の形態にかかるデータ処理移行装置および不具合原因の特定方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
実施の形態によるデータ処理移行装置は、生産現場における生産設備の動作状況、稼働状況および不具合状況を示すデータを収集し、収集したデータについて予め定められた処理内容のデータ処理を行った結果に基づいて、生産設備を構成する機器にデータをフィードバックするという一連の処理を実現する装置である。また、実施の形態によるデータ処理移行装置は、生産設備の動作状況、稼働状況および不具合状況に関するデータを収集する1以上の収集処理、収集したデータである収集データを加工する1以上の加工処理、および加工したデータである加工データを診断する1以上の診断処理を含む一連のデータ処理の流れを示すデータ処理フロー中の収集処理にしたがってデータの収集を行い、加工処理ごとおよび診断処理ごとに定義された処理内容にしたがってデータ処理を行う。そして、データ処理移行装置は、データ処理フロー中のいずれかの工程について、移設後または複製後の生産設備におけるデータである動作ログと、移設前または複製元の生産設備におけるデータである基準ログと、を比較および解析し、生産設備における異常の原因箇所を特定する。生産現場における生産設備は、1つの機器によって構成されてもよいし、複数の機器によって構成されてもよい。複数の機器によって構成される生産設備は、生産ラインとも呼ばれる。
【0012】
特に、実施の形態によるデータ処理移行装置は、生産設備を移設または複製する場合に使用される。移設後または複製後の生産設備に異常がある場合に、後述するデータ処理フローにしたがって、移設前または複製元の生産設備のデータと、移設後または複製後の生産設備のデータと、を比較して、異常の原因を特定する。具体的には、実施の形態によるデータ処理移行装置は、データ処理フローを構成する各工程で出力されるデータについて、移設前または複製元の生産設備について蓄積したログと、移設後または複製後の生産設備について蓄積したログと、を比較することで、両者の差異の原因を特定する。また、実施の形態によるデータ処理移行装置は、移設後の生産設備を構成する機器の狂い、あるいは複製後の生産設備を構成する機器の個体差に起因する複製元の生産設備を構成する機器との差異を補正する。
【0013】
すなわち、生産設備の移設または複製時において、データ処理移行装置が設置され、データ処理移行装置が、データ処理フローに基づいて生産設備のデータを処理すると共に、データ処理フローの各工程でのデータ処理の結果をログとして保存するものである。同じ構成を有する生産設備に、同じ処理フローの設定がなされたデータ処理フローに基づいてデータ処理がなされることになる。そのため、移設後の生産設備を構成する機器の狂い、あるいは複製後の生産設備を構成する機器の個体差による差異が生じる場合には、その狂いまたは差異はデータ処理フロー中の各工程で得られるログにも現れることとなる。このログの差を解析することで狂いまたは差異の原因となっているデータ、すなわち収集データ、加工データまたは診断データを特定できるようになる。一例では、収集データが狂いまたは差異の原因である場合には、収集データによって、どの機器のどの部分が原因で差異が生じているかを把握することが可能となる。また、複数の機器から収集した収集データには問題がないものの、複数の機器を組み合わせて設備を構成した場合であって、設備間の連携が上手く行かずに、設備としての不具合が生じている場合には、その影響が加工データに反映されることになるので、データ処理フロー中のどの加工処理が原因で差異が生じているかを把握することが可能となる。以下に、このようなデータ処理移行装置の構成について説明する。
【0014】
図1は、実施の形態によるデータ移行処理装置の構成の一例を模式的に示すブロック図である。データ処理移行装置1は、データ処理部2−1,2−2,・・・と、データ収集部3−1,3−2,・・・と、データ処理実行制御部4と、エンジニアリングツール5と、を備える。
【0015】
ここで、データ処理フローについて説明する。図2は、データ処理フローの一例を模式的に示す図である。図2に示されるように、データ処理フローDF1,DF2は、データを「収集」する処理が実行される工程P11,P21と、収集したデータを「加工」する処理が実行される工程P12,P13,P22と、加工したデータを「診断」する処理が実行される工程P14,P23と、データの診断結果に対して「アクション」する処理が実行される工程P15,P24と、を含む一連のデータ処理の流れを示すものである。また各処理の工程は、複数あってもよい。図2に示す例では、データ処理フローDF1,DF2が存在し、データ処理フローDF1では、2つの「加工」処理の工程P12,P13が直列に並んで存在する。また、データ処理フローDF1の「加工」処理の工程P12,P13とデータ処理フローDF2の「加工」処理の工程P22とが並列に並んで存在する。なお、図2の例では、1つのデータ処理フローDF1中に、「加工」処理の工程P12,P13が複数存在する場合を示したが、「収集」処理の工程P11、「診断」処理の工程P14、および「アクション」処理の工程P15が複数存在してもよい。
【0016】
図1に戻り、データ処理部2−1,2−2,・・・は、データ処理フローDF1,DF2の「収集」処理の工程P11,P21を除く各工程における各種データ処理を行う。データ処理部2−1,2−2,・・・は、図2の「加工」処理の工程P12,P13,P22、「診断」処理の工程P14,P23、および「アクション」処理の工程P15,P24での処理に対応する。すなわち、データ処理部2−1,2−2,・・・は、データ処理フローを構成する工程のうち、「収集」処理の工程P11,P21を除くすべての工程のそれぞれについて設けられる。データ処理部2−1,2−2,・・・は、「収集」処理の工程P11,P21で収集されたデータ、または「加工」処理の工程P12,P13,P22で加工されたデータに対して、予め定義された処理内容にしたがって、データ処理を行う。なお、以下では、データ処理部2−1,2−2,・・・は、それぞれを区別する必要がない場合には、単にデータ処理部2と称される。
【0017】
データ収集部3−1,3−2,・・・は、生産設備の動作状況、稼働状況および不具合状況に関するデータを収集する。データ収集部3−1,3−2,・・・は、図2の「収集」処理の工程P11,P21での処理に対応して設けられる。なお、以下では、データ収集部3−1,3−2,・・・は、それぞれを区別する必要がない場合には、単にデータ収集部3と称される。
【0018】
データ処理実行制御部4は、データ処理フローDF1,DF2に従ってデータ収集部3とデータ処理部2との間におけるデータの配信の実行を制御する。また、データ処理実行制御部4は、移設後または複製後の生産設備におけるデータ処理の実行状況を解析し、移設前または複製元の生産設備との差異を検出する。
【0019】
エンジニアリングツール5は、ユーザによるデータ処理フローの設定を受け付ける入力部と、実行状況のモニタリングを行う表示部と、を有する。実行状況のモニタリングには、データ処理の実行状況の解析結果を表示することも含まれる。
【0020】
データ処理実行制御部4は、データ配信部41と、データ処理実行設定蓄積部42と、データ処理実行状況蓄積部43と、データ処理実行状況解析部44と、を有する。
【0021】
データ配信部41は、データ収集部3とデータ処理部2との間でデータを配信する。一例では、データ配信部41は、データ処理フローDF1,DF2の処理の一つの工程に対応するデータ処理部2−i(iは自然数)で使用されるデータを、データ収集部3からあるいは別のデータ処理部2−j(jは、iとは異なる自然数)から取得し、データ処理部2−iに配信する。また、データ配信部41は、データ収集部3で収集されたデータおよびデータ処理部2でのデータ処理の結果であるデータをログとしてデータ処理実行状況蓄積部43に保存する。データ配信部41は、移設後または複製後の生産設備におけるデータを、データ処理実行状況蓄積部43およびデータ処理実行状況解析部44の両方に配信してもよい。
【0022】
データ処理実行設定蓄積部42は、データ処理フローの設定であるデータフロー設定情報を保存する。データフロー設定情報は、データ処理フローにしたがった複数のデータ収集部3とデータ処理部2との接続関係、接続タイミングを含む情報である。接続タイミングは、データ処理フローDF1,DF2の処理のある処理工程において、接続関係にある他の処理工程からデータが渡されるタイミングを示す情報である。一例では、接続タイミングは、図2の「加工」処理の工程P12が「収集」処理の工程P11からデータを渡されるタイミングを示す。データフロー設定情報は、エンジニアリングツール5を介して、ユーザによって新たに作成されたり、更新されたりする。
【0023】
データ処理実行状況蓄積部43は、データ収集部3で収集したデータと、データ処理部2から出力されたデータと、を、データ処理フローにおける対応する処理工程と関連付けてログとして蓄積する。データ処理実行状況蓄積部43は、移設前または複製元の生産設備におけるデータ処理フローの各処理工程で取得されたログと、移設後または複製後の生産設備におけるデータ処理フローの各処理工程で取得されたログと、を有する。移設前または複製元の生産設備で取得されたログは、比較基準となるログであり、移設前または複製元の生産設備で予め取得される。移設後または複製後の生産設備で取得されたログは、動作中のデータ処理フローの各処理工程で取得されたログであり、解析対象となるログである。
【0024】
図3は、実施の形態によるデータ処理フローにおけるログの蓄積の一例を示す図である。図3に示されるデータ処理フローDF1の場合には、「収集」処理の工程P11で、データ収集部3で収集した生産設備からのデータがログLD11としてデータ処理実行状況蓄積部43に蓄積される。また、「加工」処理の工程P12では、対応するデータ処理部2で加工されたデータがログLD12としてデータ処理実行状況蓄積部43に蓄積される。「加工」処理の工程P13では、対応するデータ処理部2で加工されたデータがログLD13としてデータ処理実行状況蓄積部43に蓄積される。「診断」処理の工程P14で、対応するデータ処理部2で診断されたデータがログLD14としてデータ処理実行状況蓄積部43に蓄積される。
【0025】
データ処理実行状況解析部44は、動作中のデータ処理フローDF1,DF2の各処理工程で取得されたログを、比較基準となる移設前または複製元の生産設備で取得されたログと比較し、その差を解析することで、移設後または複製後の生産設備の不具合原因を特定する。以下では、移設後または複製後の生産設備についてデータ処理フローの各処理工程で取得されたログは、動作ログと称されることがある。動作ログは、移設前または複製元の生産設備を構成する機器を動作させるデータを移設後または複製後の生産設備を構成する機器に移行させるデータ移行処理において、移設後または複製後の生産設備が、移設前または複製元の生産設備と同等の動作状況、稼働状況で動作しているか、あるいは移設後または複製後の生産設備に不具合状況が発生していないかを検出するためのデータである。また、移設前または複製元の生産設備で取得されたログは、基準ログと称されることがある。基準ログは、データ移行処理において、移設後または複製後の生産設備を構成する機器から取得した動作ログに対して、移設前または複製元の生産設備の基準となる動作状況、稼働状況を提供するデータ、あるいは移設後または複製後の生産設備が不具合状況であると判断するための基準を提供するデータである。
【0026】
一例では、データ処理実行状況解析部44は、動作ログを、基準ログと比較し、両者に差異があるかを判定する。ここで、動作ログが基準ログと完全一致する場合には差異がなく、完全一致しない場合には差異があるとしてもよい。また、動作ログが誤差を含めて基準ログと一致する場合には差異がなく、誤差を含めて一致しない場合には差異があるとしてもよい。これらのいずれであるかは、判定するデータの種類によって定めることができる。また、動作ログおよび基準ログは時系列データであるので、予め定められた時点を基準にして動作ログおよび基準ログは比較される。一例として、「収集」処理の場合には、予め定められた処理が予め定められた周期で繰り返し実行されるので、その周期の始まりを基準とすることができる。また、一例として、「加工」処理では、加工したデータの出力を開始した時点を基準とすることができ、「診断」処理では、診断したデータの出力を開始した時点を基準とすることができる。また、比較にあたっては、上記予め定められた時点から予め定められた期間ごとに基準ログに対する動作ログの差を比較してもよい。予め定められた期間は、データの種類によって任意に変えることができる。両者に差異がない場合には、データ処理実行状況解析部44は、比較を行ったデータ処理フローDF1,DF2中の処理の工程について、不具合原因はないと判定する。一方、両者に差異がある場合には、データ処理実行状況解析部44は、基準ログおよびデータフロー設定情報を参照して、動作ログを解析し、不具合の原因となる箇所を特定する。一例では、「収集」処理の工程P11に対応するデータ収集部3で収集されたログLD11に差異が見つかった場合に、差異の原因となる収集データを推定することができる。
【0027】
図4は、実施の形態によるデータ解析の一例を示す図である。あるデータ処理フローDF1について、移設前または複製前の生産設備で取得された基準ログLD11r,LD12r,LD13r,LD14rが、データ処理実行状況蓄積部43に保存されている。また、移設後または複製後の生産設備で取得された動作ログLD11,LD12,LD13,LD14も、データ処理実行状況蓄積部43に保存される。データ処理実行状況解析部44は、移設前後または複製前後のデータ処理フローDF1において、対応する処理の工程で取得されたログ同士を比較する。なお、データ処理実行状況解析部44は、対応するデータ処理部2のログ同士を比較する場合、同じデータ処理フローDF1に基づいて比較する。
【0028】
一例では、データ処理実行状況解析部44は、移設前または複製元の生産設備の「収集」処理の工程P11aで取得されたログLD11rと移設後または複製後の生産設備の「収集」処理の工程P11bで取得されたログLD11とを比較する。データ処理実行状況解析部44は、移設前または複製元の生産設備の「加工」処理の工程P12aで取得されたログLD12rと移設後または複製後の生産設備の「加工」処理の工程P12bで取得されたログLD12とを比較する。データ処理実行状況解析部44は、移設前または複製元の生産設備の「加工」処理の工程P13aで取得されたログLD13rと移設後または複製後の生産設備の「加工」処理の工程P13bで取得されたログLD13とを比較する。データ処理実行状況解析部44は、移設前または複製元の生産設備の「診断」処理の工程P14aで取得されたログLD14rと移設後または複製後の生産設備の「診断」処理の工程P14bで取得されたログLD14とを比較する。
【0029】
データ処理フローDF1は、生産現場のデータの活用目的に応じて設定されるものである。一例では、生産現場の生産状況の監視、生産性を向上させるための分析を行うデータ処理フローDF1が考えられる。データ処理フローDF1は、これに限らず、工場内の生産設備であるラインを新規構築するにあたって、デジタルツイン等のシミュレーションを実施するためのデータ処理フローであってもよく、また、生産設備の不具合原因を解析するためのデータ処理フローであってもよい。つまり、データ処理フローDF1は、生産設備において、データを処理するためのデータ処理であればよい。
【0030】
データ処理実行状況解析部44を含むデータ処理実行制御部4は、上述のように、複数のデータ処理フローDF1,DF2のデータフロー設定情報を有し、移設前後または複製前後のデータ処理フローDF1,DF2の各処理工程のログを比較するように構成されている。これによって、データ処理実行制御部4は、複数のログを用いて不具合の原因分析をすることができ、データ処理フローDF1,DF2の数に正比例して原因特定の精度を向上させることが可能となる。また、移設後または複製後の生産設備の不具合原因を究明する場合に、定常時に実施するデータ処理フローDF1,DF2のログを利用することが可能となるため、不具合原因を早期に特定することができるとともに、不具合原因を特定するためだけのログの取得が不要になる。
【0031】
図5は、実施の形態によるデータ処理移行装置での不具合原因の特定方法の手順の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、移設前または複製元の生産設備で、データ処理フローの各処理工程における基準ログが、データ処理移行装置1のデータ処理実行状況蓄積部43に保存されているものとする。
【0032】
まず、生産設備が移設または複製されると、ユーザは、エンジニアリングツール5を用いて、移設前または複製元のデータ処理フローと同じデータフロー設定情報を設定する。一例では、エンジニアリングツール5は、データフロー設定情報の設定画面を表示し、ユーザによる設定画面への入力を受け付ける。エンジニアリングツール5は、移設前または複製元のデータ処理フローと同じデータフロー設定情報をデータ処理実行設定蓄積部42に保存する(ステップS11)。複数のデータフロー設定情報が、データ処理実行設定蓄積部42に保存される。
【0033】
次いで、ユーザによる操作等によって、データ処理フローの開始が指示されると、データ処理実行状況解析部44は、データ処理実行設定蓄積部42から指示されたデータ処理フローに対応するデータフロー設定情報を読み出し(ステップS12)、解析に用いる処理の工程に対応する動作ログを決定する(ステップS13)。データ処理実行状況解析部44は、データ処理実行状況蓄積部43に蓄積されたデータのうち、差異を特定するのに有効な箇所の動作ログを、解析に用いる処理の工程に対応する動作ログとして選別する。一例では、解析を行っていくうちに、データ処理フローのうちある処理の工程の動作ログが差異を特定するのに有効であることが分かる場合に、このような経験則に基づいて動作ログが選別される。また、データ処理フロー中の各処理の内容から、動作ログを選別することもできる。
【0034】
次いで、データ配信部41は、決定された動作ログをデータ処理部2またはデータ収集部3から収集し、データ処理実行状況蓄積部43に保存する(ステップS14)。その後、データ処理実行状況解析部44は、決定された動作ログに対応する移設前または複製元の生産設備から収集した基準ログを、データ処理実行状況蓄積部43から読み出す(ステップS15)。このとき、データ処理実行状況解析部44は、ステップS13で決定された動作ログを取得するデータ処理フロー中の処理の工程と同じ処理の工程に対応付けられた基準ログを読み出す。なお、ステップS14では、データ配信部41は、データ処理実行状況蓄積部43に動作ログを配信しているが、データ処理実行状況蓄積部43とデータ処理実行状況解析部44との両方に動作ログを配信してもよい。この場合、ステップS15で、データ処理実行状況解析部44は、動作ログをデータ処理実行状況蓄積部43から読み出さなくてよい。
【0035】
次いで、データ処理実行状況解析部44は、移設前後または複製前後のログを比較する(ステップS16)。データ処理実行状況解析部44は、比較の結果、移設後または複製後の動作ログに差異があるかを判定する(ステップS17)。移設後または複製後の動作ログに差異がある場合(ステップS17でYesの場合)には、データ処理実行状況解析部44は、移設前後または複製前後のログを解析し、解析結果を用いて差異の原因となっている箇所、すなわち差異の原因となっている収集データを特定する(ステップS18)。一例では、データ処理実行状況解析部44は、データフロー設定情報に設定されている複数のデータ収集部3およびデータ処理部2の接続関係、並びに接続タイミングを用いて、差異の原因となっている収集データを特定することができる。
【0036】
その後、データ処理実行状況解析部44は、差異の原因となっている箇所を特定できたかを判定する(ステップS19)。差異の原因となっている箇所を特定できない場合(ステップS19でNoの場合)には、データ処理実行状況解析部44は、データ処理フロー中で解析可能な他のログが存在するかを確認する(ステップS20)。データ処理フロー中で解析可能な他のログが存在する場合(ステップS20でYesの場合)には、ステップS13に処理が戻る。処理が戻ったステップS13では、データ処理実行状況解析部44は、解析に用いる他のログを決定する。
【0037】
データ処理フロー中で解析可能な他のログが存在しない場合(ステップS20でNoの場合)には、ステップS12に処理が戻る。処理が戻ったステップS12では、データ処理実行状況解析部44は、他のデータ処理フローに対応するデータフロー設定情報を読み出す。
【0038】
ステップS17で移設後または複製後の動作ログに差異がない場合(ステップS17でNoの場合)、あるいはステップS19で差異の原因となっている箇所を特定できた場合(ステップS19でYesの場合)には、処理が終了する。ユーザは、特定できた差異の原因を用いて、移設後の生産設備に生じる狂いまたは複製後の生産設備の個体差が解消されるように、移設後または複製後の生産設備を調整する。
【0039】
ここで、実施の形態によるデータ処理移行装置1のハードウェア構成について説明する。図6は、実施の形態によるデータ処理移行装置を実現するハードウェア構成の一例を模式的に示すブロック図である。
【0040】
データ処理移行装置1は、入力部101、プロセッサ102、メモリ103、および出力部104を備える。入力部101、プロセッサ102、メモリ103、および出力部104は、バスライン105を介して接続される。プロセッサ102の例は、CPU(Central Processing Unit)またはシステムLSI(Large Scale Integration)である。メモリ103の例は、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶装置であるHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)である。
【0041】
データ処理移行装置1は、プロセッサ102が、メモリ103に記憶されている、データ処理移行装置1の動作を実行するための、コンピュータで実行可能な不具合原因特定プログラムを読み出して実行することにより実現される。データ処理移行装置1の動作を実行するためのプログラムである不具合原因特定プログラムは、データ処理移行装置1における不具合原因特定方法の手順をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0042】
データ処理移行装置1で実行される不具合原因特定プログラムは、データ処理部2、データ収集部3、データ配信部41およびデータ処理実行状況解析部44を含むモジュール構成となっており、これらが主記憶装置上にロードされ、これらが主記憶装置上に生成される。
【0043】
メモリ103は、プロセッサ102が各種処理を実行する際の一時メモリに使用される。メモリ103は、一例では、データ処理実行設定蓄積部42およびデータ処理実行状況蓄積部43として使用される。
【0044】
入力部101は、一例では、キーボード、マウス、ボタンなどの入力装置である。入力部101は、ユーザがデータ処理フローの設定を行う際の入力インタフェースを提供する。出力部104は、データ処理フローの設定画面をユーザに対して表示したり、データ処理実行状況解析部44での解析結果をユーザに対して表示したりする。出力部104は、一例では、表示装置である。なお、入力部101と出力部104とは、両者を一体化させたタッチパネルとして構成されてもよい。
【0045】
不具合原因特定プログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルで、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されてコンピュータプログラムプロダクトとして提供されてもよい。また、不具合原因特定プログラムは、インターネットなどのネットワーク経由でデータ処理移行装置1に提供されてもよい。
【0046】
なお、データ処理移行装置1の機能について、一部を専用回路などの専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。
【0047】
実施の形態では、移設前後または複製前後の生産設備で同じデータ処理フローDF1,DF2を実行し、データ処理フローDF1,DF2中の各処理の工程でログを取得する。移設前後または複製前後のデータ処理フローDF1,DF2中の各処理の工程におけるログを比較し、解析することで、差異の原因となっている箇所、すなわち差異の原因となっている収集データを特定する。これによって、生産設備の移設時または複製時に発生する移設前または複製元の生産設備との間に生じる差異の原因の特定および生産設備を構成する機器の調整方針の立案を従来に比して容易化することができるという効果を有する。
【0048】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 データ処理移行装置、2,2−1,2−2 データ処理部、3,3−1,3−2 データ収集部、4 データ処理実行制御部、5 エンジニアリングツール、41 データ配信部、42 データ処理実行設定蓄積部、43 データ処理実行状況蓄積部、44 データ処理実行状況解析部。
【要約】
データ処理移行装置は、データ処理部と、データ収集部と、データ処理実行制御部と、を備える。データ処理部は、収集処理、加工処理および診断処理を含む一連のデータ処理の流れを示すデータ処理フロー中の加工処理ごとおよび診断処理ごとに設けられ、加工処理ごとまたは診断処理ごとに定義された処理内容にしたがってデータ処理を行う。データ収集部は、データ処理フロー中の収集処理で収集データを収集する。データ処理実行制御部は、データ処理フロー中のいずれかの工程について、動作ログと、基準ログと、を比較および解析し、移設後または複製後の生産設備における異常の原因箇所を特定する。動作ログは、移設後または複製後の生産設備におけるデータ処理部から出力されまたはデータ収集部で収集されるデータである。基準ログは、移設前または複製元の生産設備におけるデータ処理部から出力されまたはデータ収集部で収集される比較基準となるデータである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6