(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の空調システムでは、対流式空調の吹出口から吹き出される空気の気流の挙動については考慮されていないため、実際には吹出口から吹き出された空気がベッドゾーンにまで到達して、ベッドを利用する患者は暑すぎたり、寒すぎたり、不快に感じる虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ベッドを利用する患者及び作業する医療従事者の両方にとって、快適性を確保することができる病室の空調システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る病室の空調システムは、ベッドが配置されるベッド領域と、該ベッド領域に連設された作業領域とを有する病室の空調システムであって、前記ベッド領域の天井に設けられた放射パネルを有するベッド側空調と、前記作業領域の天井に設けられ、温度調整された空気を吹き出す吹出し口を有する作業側空調と、を備え、前記吹出し口は、該吹出し口から吹き出される前記空気を前記ベッドの上面に流れ込ませないように配置され
、平面視において、前記ベッドにおける前記吹出し口側の端部と前記吹出し口の前記ベッド側の端部とは最短で700mm離間し、且つ前記ベッドにおける前記吹出し口側の端部と前記吹出し口の幅方向及び該幅方向と直交する長さ方向の中心とは最短で1000mm離間するように設置され、平面視において前記ベッドの端面に沿う方向のみに前記空気を吹き出すように構成されていることを特徴とする。
【0008】
このように構成された病室の空調システムでは、ベッド領域に連設された作業領域の天井には、温度調整された空気を吹き出す吹出し口を有する作業側空調が設けられている。よって、作業領域で作業をする医療従事者は、作業側空調の吹出し口から吹き出される温度調整された空気により、快適な温熱環境で作業をすることができる。
一方、ベッドが配置されるベッド領域の天井には、放射パネルを有するベッド側空調が設けられている。また、作業側空調の吹出し口から吹き出される空気をベッドの上面に流れ込ませないように、吹出し口が配置されている。よって、ベッド領域でベッドを利用する患者は、作業側空調の吹出し口から吹き出される空気の影響を受けることなく、ベッド側空調の放射パネルにより、快適な温熱環境で療養し、治療を受けることができる。
【0010】
また、平面視において、ベッドにおける吹出し口側の端部と吹出し口のベッド側の端部とは最短で700mm離間し、且つベッドにおける吹出し口側の端部と吹出し口の幅方向及び幅方向と直交する長さ方向の中心とは最短で1000mm離間するように設置されているため、作業側空調の吹出し口から吹き出される空気がベッドの上面に流れ込まない。よって、ベッド領域でベッドを利用する患者は、作業側空調の吹出し口から吹き出される空気の影響を受けることなく、ベッド側空調の放射パネルにより、快適な温熱環境で療養し、治療を受けることができる。
【0011】
また、本発明に係る病室の空調システムは、前記吹出し口は、水平方向と30度〜45度をなす斜め下向き方
向に前記空気を吹き出すように構成されていてもよい。
【0012】
このように構成された病室の空調システムでは、水平方向と30度〜45度をなす斜め下向き方向、且つ平面視においてベッドの端面に沿う方向に空気を吹き出すように構成されているため、作業側空調の吹出し口から吹き出される空気がベッドの上面に流れ込まない。よって、ベッド領域でベッドを利用する患者は、作業側空調の吹出し口から吹き出される空気の影響を受けることなく、ベッド側空調の放射パネルにより、快適な温熱環境で療養し、治療を受けることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る病室の空調システムによれば、ベッドを利用する患者及び作業する医療従事者の両方にとって、快適性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る病室の空調システムについて、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る病室の空調システムの対象となる病室の模式的な立面図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る病室の空調システムが設けられる病室を上から見下ろした図である。なお、
図2において、天井に設けられる空調システムを二点鎖線で示している。
【0016】
空調システムが設けられる病室として、患者に人工透析治療を行う透析室を例に挙げて説明する。
図1及び
図2に示すように、透析室2は、床11、壁12A,12B,12C,12D及び天井13に囲まれた空間である。一方側の壁12Aに沿って、床11には患者Pが利用する複数のベッドBが間隔を有して配置されている。また、壁12Aと対向する壁12C側の床11は、医師や看護師等の医療従事者Qが通行したり作業を行ったりする通路Aとされている。
【0017】
つまり、透析室2は、複数のベッドBが配置されたベッド領域S1と、主に医療従事者Qが利用する作業領域S2とに領域が分かれている。ベッド領域S1と作業領域S2との間には、両領域を区画する壁等は設けられておらず連設されている。
【0018】
空調システム1は、ベッド領域S1に設けられるベッド側空調3と、作業領域S2に設けられる作業側空調4と、を備えている。
【0019】
ベッド側空調3は、天井13に放射パネル31が設けられた放射式空調である。放射式空調は、例えば放射パネル31に設けられ水等の熱媒体が流通する冷媒管32と、冷媒管32に接続された不図示の空調室外機と、を有している。空調室外機で熱交換された熱媒体である冷水又は温水が冷媒管32を流通する。冷水が流通する場合には、冷水により冷やされた放射パネル31が、ベッド領域S1の熱を奪いベッド領域S1を冷房する。一方、温水が流通する場合には、温水により温められた放射パネル31がベッド領域S1を暖房する。
【0020】
作業側空調4は、パッケージ空調やファンコイルユニットを採用することができる。パッケージ空調は、冷媒を用いて室外機にて吸放熱するものであり、ファンコイルユニット42は、不図示の冷凍機とボイラーから冷水又は温水を供給され、温度及び湿度を調整して、吹出し口41から送風するものである。
【0021】
吹出し口41は、作業領域S2の天井13に設けられ、温度調整された空気を吹き出す。吹出し口41は、吹出し口41から吹き出される空気をベッドBの上面BTに流れ込ませないように配置されている。
【0022】
図2に示すように、平面視において、ベッドBにおける吹出し口41側の端部BAと吹出し口41のベッドB側の端部41Aとの最短の離間距離Xは、700mmとされている。また、ベッドBの端部BAと吹出し口41の幅方向及び幅方向と直交する長さ方向の中心41Bとの最短の離間距離Yは、1000mmとされている。また、吹出し口41から吹き出される空気の方向(吹出し方向)Pは、平面視においてベッドBの端面BC(
図1参照)に沿う方向とされている。さらに、吹出し方向Pは、水平方向と30度〜45度をなす斜め下向き方向が好ましく、本実施形態では水平方向から斜め下向きに45度傾斜した方向とされている。
これにより、ベッドBの上面BTにおける風速が、約0.22m/s以下とされている。
なお、吹出し口41は、吹き出される空気が線状をなす線状吹出口タイプ等のものが好ましい。また、平面視における吹出し方向は、ベッドBの端面BCに沿う方向以外にも、ベッドB側に向かわないように、ベッドBから離間する方向であってもよい。
【0023】
このように構成された病室の空調システム1では、ベッドBが配置されたベッド領域S1と連設された作業領域S2の天井13には、温度調整された空気を吹き出す吹出し口41を有する作業側空調4が設けられている。よって、作業領域S2で作業をする医療従事者Qは、作業側空調4の吹出し口41から吹き出される温度調整された空気により、快適な温熱環境で作業をすることができる。
一方、ベッド領域S1の天井13には、放射パネル31を有するベッド側空調3が設けられている。平面視において、ベッドBの端部BAと吹出し口41の端部41Aとの最短の離間距離Xは700mmとされ、且つベッドBの端部BAと吹出し口41の中心41Bとの最短の離間距離Yは1000mmとされ、且つ吹出し方向Pは平面視においてベッドBの端面BCに沿う方向であって、水平方向から45度斜め下向きとされている。これにより、作業側空調4の吹出し口41から吹き出される空気がベッドBの上面BTに流れ込まない。よって、ベッド領域S1でベッドBを利用する患者Pは、作業側空調4の吹出し口41から吹き出される空気の影響を受けることなく、ベッド側空調3の放射パネル31により、快適な温熱環境で療養し、治療を受けることができる。
特に、透析室2では、患者PはベッドBで長時間同じ姿勢で人工透析治療を受けるため、代謝量が低い。一方、医師や看護師等の医療従事者Qは、医療行為を行うため代謝量が高い。このため、ベッド領域S1と作業領域S2で、温熱環境を分けて、作業領域S2側の空気が直接的に患者Pに当たらないようにすることは有効である。
【0024】
(実施例)
以下、上記に示す実施形態の実施例について説明する。
【0025】
図3は、本発明の一実施形態の実施例に係る病室の空調システム1が設けられる病室を上から見下ろして図である。
図4は、本発明の一実施形態の実施例に係る病室の空調システム1が設けられる病室の模式的な立面図である。
本実施例では、
図3及び
図4に示すような病室の空調システム1の解析モデルを作成し、温熱環境シミュレーションを行った。ベッド領域S1の天井13には放射パネル31を有した放射式空調が設けられている。作業領域S2の天井13には、吹出し口41を有したパッケージ空調機が設けられている。
【0026】
A1〜D4は、測定点を示し、温度及び気流を高さ方向の分布を測定する。測定点B2,B3,B4,D2,D3には、快適性を測るPMV計を設置する。PMVとは、人体の熱負荷と人間の温冷感とを結びつけた温熱環境評価指数(Predicted Mean Vote、予測温冷感申告)である。
【0029】
表1及び表2は、高さ500mm(ベッドB高さ)の位置における測定点A1〜D1での風速の測定結果を示している。表1は、吹出し口41が真下を向いている、つまり吹出し口41から吹き出させる空気の方向(吹出し方向)が真下を向いている場合の測定結果を示している。表2は、吹出し方向が測定点C4,B4,A4に向かって水平方向から45度傾斜している場合の測定結果を示している。
【0030】
表1及び表2より、測定点のうちC4において風速が最も速くなっていることが分かる。表1では最大風速は測定点C4における1.42m/sであるのに対して、表2では最大風速は測定点C4における0.53m/sである。つまり、吹出し方向を水平方向から45度傾けたことにより、最大風速が低下している。
【0031】
また、表1及び表2ともに、ベッドBが設置されている測定点B1,B2,B3,D1,D2,D3は、いずれも約0.2m/sの静穏な気流であることが分かる。
【0034】
表3及び表4は、高さ500mmの位置における測定点B2,B3,B4,D2,D3での快適性を示すPMVの測定結果を示している。表1は吹出し方向が真下を向いている場合の測定結果を示し、表2は吹出し方向が測定点C4,B4,A4に向かって水平方向から45度傾斜している場合の測定結果を示している。
【0035】
まず、患者の立場での快適性を示す。PMVの測定は、着衣量1.0clo、代謝量0.8metとして、その他の要素は実測値を用いた。
【0036】
表3及び表4より、ベッドB位置における測定点D2,D3では、測定値が表3の方が表4よりも10〜20%低くなっている(寒くなっている)ことが分かる。つまり、吹出し方向が水平方向から45度傾斜することにより、ベッドBではPMV測定値が10〜20%改善されている。
【0037】
また、吹出し方向が真下及び水平方向から45度傾斜しているいずれの場合も、測定点B4では、PMVが−0.5を下回っており、快適範囲の+0.5〜−0.5の範囲から逸脱していることが分かる。
【0038】
次に、作業領域S2を看護師の立場とし、ベッド領域S1を患者の立場とした際のPMV分布を表5及び表6に示す。
【0041】
看護師のPMVの算出は、患者よりも薄着で、活動量が多いという実状を考慮して、着衣量0.7clo、代謝量1.4metとした。
【0042】
表5及び表6より、吹出し方向が真下及び水平方向から45度傾斜しているいずれの場合も、快適範囲である+0.5〜−0.5の範囲に入っていることが分かり、本発明の有効性を確認することができた。また、吹出し方向が真下の場合よりも水平方向から45度傾斜している場合の方が、PMVが全体的に10〜20%改善されている。
【0043】
(解析例)
次に、吹出しの水平方向の影響を検討するため数値流体解析により吹出しとベッドBの離隔距離について解析を行った。解析は上記に示す実験で良い結果であった吹出し方向が水平方向から45度傾斜しているである場合について行った。数値流体解析は、吹出し方向、風量、温度を実験に合わせて定常になるまで計算を行った。また、室温、風速が実測値とほぼ等しくなることを確認した。
【0044】
図5は、本発明の一実施形態の解析例に係る病室の空調システム1が設けられる病室を上から見下ろし
た図である。
図5に示すように、PMVはベッドBの中心線にあたるy=1.72断面及びy=3.72断面の2箇所において、x=2.4線及びx=3.3線に沿って算出した。x=2.4線はベッドBの端から壁12A側に200mmの患者の足に相当する位置であり、x=3.3線は吹出し口41の端に相当する位置である。高さは、ベッドBの高さに相当する床面から500mmの位置である。その結果を表7に示す。
【0046】
表7に示すように、y=1.72断面及びy=3.72断面共に、x=2.4〜2.6では、PMVは0.4以下で、快適範囲内に属しており、本発明の有効性が確認された。
【0047】
なお、放射パネル31としては、コスト面から石膏ボード等の木質パネルを採用すると有利である。また、冷媒管としては、樹脂製や金属製の管を採用することができる。また、放射パネル31と冷媒管の裏側には厚さ25〜50mmの断熱材を張り付けた構成とした。
【0048】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0049】
例えば、上記に示す実施形態において、吹出し口41は、平面視において、ベッドBと700mm離間し且つ吹出し口41の中心がベッドBと1000mm離間するように設置されるとともに、水平方向から45度傾斜した向きに空気を吹き出すように構成されていたが本発明はこれに限られない。吹き出し方向を適宜設定し、吹出し口41が、平面視において、ベッドBと700mm離間し且つ平面視において吹出し口41の中心がベッドBと1000mm離間するように設置されていてもよい。あるいは、吹出し口41の位置を適宜設定し、吹出し口41は水平方向から45度傾斜した向きに空気を吹き出すように構成されていてもよい。
【0050】
上記に示す実施形態では、透析室2を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られず、通常の病室にも適用可能である。
【0051】
また、病室が、ベッド領域S1と作業領域S2との2領域に分かれている場合のみならず、作業領域S2を挟んで両側にベッド領域S1が設けられたプラン等であってもよい。あるいは、ベッド領域S1と作業領域S2とが交互に配置されたプランであってもよい。
【0052】
また、天井13には、ベッド領域S1と作業領域S2との境界部分に沿って、垂れ壁12が設けられていてもよい。垂れ壁12により、作業側空調4の吹出し口41から吹き出される空気がベッド領域S1に流れ込むことがさらに抑制される。