(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一様空気流を吹き出すプッシュ側である一様流吹き出しフードと、前記一様流吹き出しフードに対応するプル側である局所排気テーブルと、からなるプッシュプル換気型局所排気装置において、
前記一様流吹き出しフードから、温度調節処理を行っていない外気による一様空気流を吹き出し、
前記一様流吹き出しフードは筐体からなり、前記筐体内が、空気を拡散する空気拡散部と、前記空気拡散部で拡散された空気を整流する整流部とを有し、
前記空気拡散部が、
供給された空気が衝突し、空気を所定の風速分布とする抵抗板と、
前記抵抗板により所定の風速分布とされた空気を受ける多孔板と、からなり、
前記整流部が、
前記空気拡散部で拡散された空気を整流する第1ハニカム板と、前記第1ハニカム板で整流された気流を受け、一様空気流を吹き出す第2ハニカム板と、からなることを特徴とするプッシュプル換気型局所排気装置。
一様空気流を吹き出すプッシュ側である一様流吹き出しフードと、前記一様流吹き出しフードに対応するプル側である局所排気テーブルと、からなるプッシュプル換気型局所排気装置において、
前記一様流吹き出しフードから、一次処理した外気のみによる一様空気流を吹き出し、
前記一様流吹き出しフードは筐体からなり、前記筐体内が、空気を拡散する空気拡散部と、前記空気拡散部で拡散された空気を整流する整流部とを有し、
前記空気拡散部が、
供給された空気が衝突し、空気を所定の風速分布とする抵抗板と、
前記抵抗板により所定の風速分布とされた空気を受ける多孔板と、からなり、
前記整流部が、
前記空気拡散部で拡散された空気を整流する第1ハニカム板と、前記第1ハニカム板で整流された気流を受け、一様空気流を吹き出す第2ハニカム板と、からなることを特徴とするプッシュプル換気型局所排気装置。
一次処理した外気を吹き出す際には、一次処理した外気の温度が、室温に対して1℃より高くならないように設定することを特徴とする請求項2に記載のプッシュプル換気型局所排気装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の好ましい実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施形態に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の概略構成を模式的に示す図である。
【0018】
本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10は、研究施設や生産工場において、作業者がホルムアルデヒドなどの有機溶剤を取り扱う際の曝露を防止するため、局所的な換気を行うための装置であり、有機溶剤などを取り扱う箇所に対して空気を吹き付けるプッシュ側の構成と、当該箇所の空気を吸い込むプル側の構成とからなっている。
【0019】
本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10においては、前者の構成は、取り込まれた外気を一様空気流として吹き出す一様流吹き出しフード100であり、後者の構成は、作業者が作業を行う作業台(テーブル)を兼ねると共に、空気の吸い込みを行う局所排気テーブル200である。
【0020】
本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10においては、プッシュ(一様流吹き出しフード100)側の供給空気の温調を最小限にとどめることで省エネに寄与するプッシュプル換気型局所排気装置を構成した。より具体的には、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10は、外気をできるだけ空調せずに生外気のまま導入し、プッシュ気流を形成する換気装置である。
【0021】
一様流吹き出しフード100の吹き出し口135から、局所排気テーブル200の吸い込み口204までの距離は1.3m程度であり、風速は0.2〜0.3m/s程度あるため、プッシュ気流は10秒以内に吸い込み口より吸引され、周囲の室内温湿度への影響はほぼない。また、生外気を使用するにあたり、冬季などはプッシュ気流として冷気が導入されることで作業性に影響を及ぼす可能性が考えられる。こういった場合には、一次処理した外気を供給することで、生外気吹き出し時よりはエネルギーを消費するものの、従来方法と比較して省エネとなる。
【0022】
本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10における第1送風ファン103は、不図示の吸気口から外気を吸引し、第1ダクト105を介して一様流吹き出しフード100に対して外気を供給する。このとき、外気の温度調節処理を基本的に行わない。一様流吹き出しフード100においては、温度調節処理されていない外気の整流などが行われ、一様流吹き出しフード100の吹き出し口135から、鉛直下方に向けて、一様空気流が吹き出される。
【0023】
また、局所排気テーブル200の上面部には、吸い込み口204が設けられている。吸い込み口204は、第2送風ファン237と連結されており、第2送風ファン237が動作することにより、吸い込み口204から吸い込まれた空気は、第2ダクト235等を介して、不図示の排気口から室外へと排気される。
【0024】
一様流吹き出しフード100の吹き出し口135から、局所排気テーブル200の吸い込み口204までの空気の流れが10秒程度であるため、一様流吹き出しフード100から温度調節処理されていない外気が吹き出されるものの、室内温湿度への影響はほぼない。
【0025】
本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10においては、一様流吹き出しフード100から、生外気を一様な風速分布で吹き出し、換気区域内の有害物質を周囲に拡散しないように局所排気テーブル200で補足し、吸引して排気するものである。本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10は、有機溶剤中毒予防規則(以下「有機則」)を満たすものである。
【0026】
上記のように、本発明のプッシュプル換気型局所排気装置10によれば、主として温度調節処理を行っていない外気が排気されることとなり、エネルギー効率が向上し、省エネルギー化を図ることができる。
【0027】
なお、作業者への影響がある場合には、一様流吹き出しフード100から、例えば全熱交換器ユニットなどで一次処理のみを行った外気を供給することで、生外気吹き出し時よりはエネルギーを消費するものの、従来方法と比較して省エネとなる。
【0028】
次に、以上のように構成されるプッシュプル換気型局所排気装置10の一様流吹き出しフード100についてより詳細に説明する。
【0029】
図2は本発明の実施形態に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の一様流吹き出しフード100の概略断面図である。また、
図3は本発明の実施形態に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の一様流吹き出しフード100を下方からみた図である。筐体110、吹き出し口135の概要とその寸法が
図2及び
図3に示されている。また、吹き出し口135面側から見た外観が
図3に示すものである。
【0030】
本発明のプッシュプル換気型局所排気装置10の一様流吹き出しフード100は、空気拡散部120と整流部130とが収容される筐体110を有している。
【0031】
第1ダクト105を介して一様流吹き出しフード100の空気拡散部120に供給された外気は、抵抗板123に衝突し、パンチングメタルなどからなる多孔板125によって適切な速度分布に拡散され、整流部130へと導入される。
【0032】
整流部130の筐体110内部には、
図2中の点P、Q、Rを結ぶ∠PQRが90°となるように傾いた1枚目の第1ハニカム板131と、吹き出し方向に整流するための2枚目の第2ハニカム板132が設けられている。
【0033】
すなわち、一様流吹き出しフード100の整流部130においては、第1ハニカム板131の1辺と、第2ハニカム板132の1辺と、が重なるように配される。このように重なっている辺は、紙面におけるPを通り紙面に垂直な辺である。
【0034】
また、第1ハニカム板131と第2ハニカム板132の重なっていない方の各々の辺(紙面におけるQを通り紙面に垂直な辺、及び、紙面におけるRを通り紙面に垂直な辺)が含まれる仮想面と、第1ハニカム板131とが直交する。
【0035】
1枚目の第1ハニカム板131によって風向を変えた空気は2枚目の第2ハニカム板132を通過し、筐体110の一側面に有する吹き出し口135から一様流となって吹き出される。
【0036】
第1ハニカム板131や第2ハニカム板132などのハニカム板によって空気を整流するためにはハニカムセルサイズとハニカム板の厚さの関係に留意する必要があり、3mmのセルサイズではハニカム板の厚さを15mm以上とする、或いは、9mmのセルサイズではハニカム板の厚さを100mm以上とするなど、ハニカム板のセルサイズに合わせて、ハニカム板の厚さを一定以上確保することで整流効果を見込むことができる。
【0037】
なお、抵抗板123の役割は、筐体110へのダクトの接続方向の違いによる導入気流の風速分布の差異を解消することである。これにより、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10においては、筐体110へのダクトの接続の仕方が一様流の形成に影響を及ぼさない。また、多孔板125の役割は、抵抗板123によって所定の風速分布となった気流をある程度一様な気流に変え、後段のハニカム板へ送風することである。
【0038】
次に、プッシュプル換気型局所排気装置10の局所排気テーブル200についてより詳細に説明する。
図4は本発明の実施形態に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の局所排気テーブル200の平面図である。また、
図5は本発明の実施形態に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の局所排気テーブル200の正面図である。また、
図6は本発明の実施形態に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の局所排気テーブル200の側面図であり、局所排気テーブル200で作業者が作業を行っている様子を示している。本発明のプッシュプル換気型局所排気装置10の局所排気テーブル200の寸法の概略は、
図4及び
図5に示されている。
【0039】
本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の局所排気テーブル200の天面は、作業者が有機溶剤などの取り扱い作業を行う作業面202となっている。また、局所排気テーブル200は、作業面202を支持する脚部206を有しており、さらに脚部206の設置側端部にはキャスター208が設けられている。
【0040】
局所排気テーブル200の天面である作業面202には、吸い込み口204が設けられている。一様流吹き出しフード100の吹き出し口135の鉛直下方への投影が、局所排気テーブル200の吸い込み口204とちょうど重なるような位置関係となるように、一様流吹き出しフード100及び局所排気テーブル200が設置される。
【0041】
一様流吹き出しフード100の吹き出し口135(400×1000mm)から吹き出された一様下降流の空気は作業面202の同形状の吸い込み口204によって吸引される。
【0042】
本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の局所排気テーブル200においては、吸い込み口204に関しても、吹き出し口135同様、一様な風速分布となるよう、パンチングメタルなどからなる多孔板210を吸い込み口204に敷設するようにしている。
【0043】
局所排気テーブル200は、ダクト接続方向に対し徐々に深さが大きくなるような斜面形状の一側面を有するチャンバー215を有しており、このチャンバー215が第2ダクト235と接続されるようになっている。また、チャンバー215が上記のような形状を有するため、作業者は
図6に示すように着席時、脚を局所排気テーブル200の下へ収納できるようになっている。
【0044】
以上のように構成される本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の一様流吹き出しフード100と局所排気テーブル200について、それぞれ単体の性能を検討した。
【0045】
プッシュプル換気型局所排気装置10に使用したパンチングメタルは孔径4.5mm、センターピッチ8.0mm、開孔率28.7%、60°千鳥であり、ハニカム板は2枚ともセルサイズが3mm、厚さが40mmの硬質塩化ビニル製である。
【0046】
本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の一様流吹き出しフードについては、「工場換気」1982年出版(社団法人 空気調和・衛生工学会発行 林 太郎著)に記載されている「速度分布の一様性の精度を高めて±20%以内程度に抑えると、一様流が得られ、その断面も連続したものとなる」との記述をもとに性能検証を行った。
【0047】
また、性能評価において使用した一様流吹き出しフード100を構成する第1ハニカム板131、第2ハニカム板132は、ともにセルサイズ3mm、厚さ40mmのものを使用している。また、性能評価において使用した一様流吹き出しフード100の吹き出し口寸法は
図3に示すとおりである。一様流吹き出しフード100への送風量は432m
3/h程度であり、この送風量によって一様流吹き出しフード100からは0.3m/sec程度で一様流が吹き出される。
また、性能評価において使用した局所排気テーブル200の吸い込み口寸法は
図4に示すとおりである。局所排気テーブル200からの排気量は500m
3/h程度であり、この排気量によって局所排気テーブル200へは0.35m/sec程度で、一様流吹き出しフード100からの一様流空気とわずかな周囲の空気とが吸気され、その後排気口(不図示)から排気される。
【0048】
測定時の室内および一様流吹き出しフード100から供給される空気の温度は25℃程度である。
【0049】
図7及び
図8は一様流吹き出しフード100の性能評価に用いた測定点の位置を示す図である。
図7に示すように、全ての測定点は、一様流吹き出しフード100の吹き出し口135から20mm下方の箇所に設けている。また、
図8は一様流吹き出しフード100の吹き出し口135を下方からみた図であるが、吹き出し口135を3×9の矩形区画に分割し、それぞれの矩形区画の中央に測定点を配している。それぞれの測定点を区別するために、吹き出し口135の短辺側の区画をA〜Cと名付け、吹き出し口135の長辺側の区画を1〜9と名付けている。このように定義することで、性能評価においてはA1からC9までの計27の測定点が用いられている。
【0050】
なお、矩形区画におけるA〜Cを縦方向座標と称し、また、矩形区画における1〜9を横方向座標と称することとする。
【0051】
また、一様流吹き出しフード100に、第1ダクト105として、90°のエルボダクトを、
図7に示すように下方向から空気が吹き込むように接続し、第1送風ファン103で送風し、一様流吹き出しフード100で形成される吹き出し気流の風速を測定した。
【0052】
上記で説明した計27の測定点で、熱線風速計(クリモマスター風速計:(株)日本カノマックス製品、分解能0.01m/sec、測定精度±(指示値の3%+0.1m/sec))を使用して各測定点で1secずつ10回測定し、その平均を各測定点における風速とした。
【0053】
結果を
図9に示す。横軸は
図7に示す測定点の横座標1〜9、凡例は同縦座標A〜C、縦第一軸は先の林の記述をもとに以下の式(1)で定義される、各測定点での風速の誤差率α
n、縦第二軸は各測定点における平均風速V
nである。なお下式(1)で、V
Ave.は27点の風速V
nの平均を表す(下式(2)参照)。V
1〜V
27は、A1からC9までの計27個の各測定点における風速である。以下、本明細書においては、平均風速や誤差率について同様の定義を用いる。
【0055】
【数2】
上記のような一様流吹き出しフード100の性能評価により、ばらつきは−7.9〜+8.5%となり、吹き出し口135の直下では十分な精度で一様流(平均風速0.30m/sec)が形成できていることが確認できた。
【0056】
また、実用を想定して、第1ダクト105として用いたエルボダクトの接続の向きを、
図10、又は、
図11に示すように、それぞれ横方向からの吹き込み、又は、上方向からの吹き込みとなるように、接続し直し、それぞれの接続条件で再度同様の測定を行った。それらの場合の、一様流吹き出しフード100の性能評価結果を
図12、13に示す。
【0057】
一様流吹き出しフード100の吹き出し口135の直下の風速分布のばらつきは、
図10に示す接続の場合で、−8.3〜+10.7%、
図11に示す接続の場合で、−6.1〜+10.1%であった。
【0058】
これより、一様流吹き出しフード100に接続されるダクトの接続向きが変わることで、一様流吹き出しフード100に流入する空気の風速分布が変わっても、一様流吹き出しフード100は一様流を形成できていることが確認できた。すなわち、ダクトの接続向きが変わることでチャンバーへ導入される時点での風速分布が変わっても、後段の抵抗板、パンチングメタル、ハニカム板を通過することで、流入空気は整流され、吹き出し口135から一様流となって吹き出されることが確認できた。したがって、本発明に係る一様流吹き出しフード100は実設計におけるダクトワークに対して、高い汎用性を有するものである。この結果を受け、以降の検討では特に断りのない限り、一様流吹き出しフード100に対してダクトを下方向から接続している。
【0059】
次に、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の局所排気テーブル200の性能評価を行った。
図14及び
図15は局所排気テーブル200の性能評価に用いた測定点の位置を示す図である。
【0060】
局所排気テーブル200については、SUS製の実寸大模型を製作した。敷設したパンチングメタルは孔径2.3mm、センターピッチ4.0mm、開孔率30%、60°千鳥のものである。風量490m
3/h程度で局所排気テーブル200から第2送風ファン237によって排気し、
図14に示す測定点で吸い込み口204面直上20mmの平面の風速分布を、吹き出し口135と同様の方法で測定した。
【0061】
図15に示すように、全ての測定点は、局所排気テーブル200の吸い込み口204から20mm上方の箇所に設けている。また、
図14は局所排気テーブル200の吸い込み口204を上方からみた図であるが、一様流吹き出しフード100の吹き出し口135の場合と同様に、吸い込み口204を3×9の矩形区画に分割し、それぞれの矩形区画の中央に測定点を配している。それぞれの測定点を区別するために、吸い込み口204の短辺側の区画をA〜Cと名付け、吸い込み口204の長辺側の区画を1〜9と名付けている。このように定義することで、性能評価においてはA1からC9までの計27の測定点が用いられている。
【0062】
なお、以上のような矩形区画の定義については、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10全体の性能評価時にも用いられる。
【0063】
上記のような
図14及び15に示す測定点で、局所排気テーブル200の吸い込み口204の直上の風速分布を吹き出し口135の場合と同様に測定した。
【0064】
その結果の一例を
図16及び
図17に示す。
図17における縦軸、横軸の定義は先例と同様である。
【0065】
先述の風速の誤差率は−7.2〜+10.2%となり、測定点の位置によらず同程度の風速(平均0.34m/sec)を確認した。
図16及び
図17に示すように、測定点によらず同程度の風速となっており、本発明に係る局所排気テーブル200によれば、作業面202上部の一様流吹き出しフード100から下降してくる空気を一様に吸引することができるものと考えられる。
【0066】
また、排気風量を1120m
3/hまで増加させて同様の測定を行ったところ、
図18に示すとおり、吸い込み風速の誤差率に大きな変化はみられず、局所排気テーブル200による吸い込み風速の一様性は測定範囲で排気風量によらないことを確認した。
図18は局所排気テーブル200における排気風量と風速の誤差率との関係を示す図である。
【0067】
以上を踏まえ、実際に一様流吹き出しフード100と局所排気テーブル200の双方を稼働させた状態で、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10全体の風速の測定を行った。このときのセットアップを
図19に示す。
【0068】
測定点の矩形区画の位置は
図14などと同様である。本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10が有機溶剤取り扱い時の局所排気装置として認可されるためには、以下の有機則を満たす必要がある。
【0069】
『(有機則)
捕捉面を1辺が2m以下の6つ以上の等面積の四辺形に分け、換気区域内に作業対象物がない状態で四辺形の中央にて風速を測定する。測定された風速が以下の条件を満たすことをもって、プッシュプル型の局所排気装置として認められる。捕捉面とは、吸込みフードから最も離れた位置の有機溶剤の蒸気発散源を通り、かつ、気流の方向に垂直な平面を指す。
(1)平均風速が0.2m/sec以上であること。
(2)各測定点での風速が平均風速の±50%(0.5倍以上、1.5倍未満)となること。
【0070】
(すなわち式(1)で定義される風速の誤差率α
nが±50%以内となること。)
(3)換気区域と外部領域の境界におけるすべての気流が吸込方向に流れること。』
なお、プッシュプル換気型局所排気装置10の換気区域とは、一様流吹き出しフード100の吹き出し口135と局所排気テーブル200の吸い込み口204との間の空間として定義することができる。
【0071】
上記の有機則で定められる捕捉面として、
図19に示すように、局所排気テーブル200の作業面202から200mmの高さに位置する1000×400mmの平面を設定した。
【0072】
測定方法および吹き出し側、吸い込み側の風量は先述の通りである。測定点の平面的な位置は
図14と同様であり、捕捉面を約111×133mmの四辺形27個に分け、その中央の27点で測定している。ダクトの接続向きは下方向および横方向(水平方向)からの接続条件とした。
【0073】
また、ダクトの接続向きは
図7および
図10で示した条件とした。プッシュプル換気型局所排気装置10全体の性能評価結果を、
図7のダクト接続条件については
図20、
図21に、また、
図10のダクト接続条件については
図22、
図23に示す。
【0074】
各測定点における平均風速は、下方向からの吹き込みを行うダクト接続パターンで0.22m/secであり、横方向からの吹き込みを行うダクト接続パターンで0.25m/secであり、有機則の基準風速である0.2m/secを上回った。
【0075】
また、各測定点の風速の誤差率は測定点27か所で、下方向からの吹き込みを行うダクト接続パターンで−37.7〜+29.0%、横方向からの吹き込みを行うダクト接続パターンで−24.2〜+19.6%となり、有機則の基準(6点以上の測定点でばらつき±50%)を十分な余裕を持って満たしている。
【0076】
有機則の上記(3)について、プッシュプル換気型局所排気装置10における換気区域内の気流の状態を実際に確認するため、オイルミストのスモークで気流を可視化した。
図24は本発明の実施形態に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の可視化実験の様子を撮影した写真である。
図24(A)は一様流吹き出しフード100側にオイルミスト排気口を配した場合のものであり、
図24(B)は局所排気テーブル200側にオイルミスト排気口を配した場合のものであり、
図24(C)は換気区域の境界部で一様流吹き出しフード100と局所排気テーブル200の略中間にオイルミスト排気口を配した場合のものである。
【0077】
可視化実験において、一様流吹き出しフード100の吹き出し口135側、局所排気テーブル200の吸い込み口204側の風量は、先のプッシュプル換気型局所排気装置10の性能評価時におけるものと同様である。また、実験時には、実験室自体の換気は停止状態とした。
【0078】
まず吹き出し口135近傍でスモークを発生させたところ、大きく乱れることなく局所排気テーブル200の吸い込み口204へスモークが移動する様子が確認できた(
図24(A))。また、換気区域長手方向両端でスモークを発生させたところ、換気区域と外部の境界における気流は吸い込み口204方向に流れていることを視認した(
図24(C))。以上より、プッシュプル換気型局所排気装置10の性能評価の結果とあわせ、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10が有機則を十分に満足する性能を有していることが確認できた。
【0079】
以上、本発明のプッシュプル換気型局所排気装置10は、一様流吹き出しフード100から、温度調節処理を行っていない外気による一様空気流を吹き出すように構成されているので、このような本発明のプッシュプル換気型局所排気装置10によれば、主として温度調節処理を行っていない外気が排気されることとなり、エネルギー効率が向上し、省エネルギー化を図ることができる。
【0080】
また、本発明のプッシュプル換気型局所排気装置10は、一様流吹き出しフード100から、一次処理した外気のみによる一様空気流を吹き出すように構成されているので、このような本発明のプッシュプル換気型局所排気装置10によれば、主として一次処理した外気が排気されることとなり、エネルギー効率が向上し、省エネルギー化を図ることができる。
【0081】
次に、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の換気区域内における3次元超音波風速計による風速の測定結果について説明する。
【0082】
換気区域内の気流特性をより詳細に把握するため、3次元超音波風速計(WA−590:KAIJO)を用いての測定もあわせて行った。
図25は換気区域内における3次元超音波風速計による風速の測定に用いた計測点の定義を説明する図であり、
図25(A)は局所排気テーブル200の上面図であり、
図25(B)は一様流吹き出しフード100と局所排気テーブル200の側面図である。
【0083】
測定点は
図25に示すように格子点状にとり、換気区域のみならず周囲の気流の乱れも検討した。測定時の風量などの条件は全てプッシュプル換気型局所排気装置10の性能評価時におけるものと同様である。なお、測定の際、実験室自体の換気は停止状態とした。
【0084】
結果をY−Z断面図について
図26に、X−Z断面図について
図27に示す。矢印の向きが風向を、長さが風速を表し、円の半径が3次元の乱流の強さを表す。これより、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10によれば、換気区域内ではおおむね鉛直下向きの気流が形成され、乱れも小さく、意図した一様流が形成されることを確認した。
【0085】
また、換気区域外の気流は下降流を形成しておらず、風速も小さく安定しており、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10による気流は周囲の気流に大きな影響を及ぼさないことも確認できる(
図26(X=1、7)や
図27(Y=1、2、6)参照)。また、Y−Z断面、X−Z断面ともに、吹き出し口135近傍および中心部の気流ほど乱れが小さく安定していることも明らかとなった。
【0086】
次に、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10において、一様流吹き出しフード100から吹き出すプッシュ気流が高温時の場合の換気区域の気流挙動について検討を行った。
【0087】
本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10においては、生外気を使用することを前提としているが、冬季にはプッシュ気流として供給する外気温が低いことで作業者の作業性に悪影響を及ぼす恐れが考えられるため、プッシュ気流を適切な温度まで昇温する必要がある。
【0088】
一方で、夏季には外気が高温となり、生外気をプッシュ気流として供給した場合,その空気温度T
Sに対し、室温T
Iの方が低い状況が想定される。このような状況下では、プッシュ気流に温度差による浮力が働く。
【0089】
本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10は、上部の吹き出し口135から下部の吸い込み口204へプッシュ気流を吹き降ろすため、高温時には浮力によりその流れが阻害され、換気区域内で適切な風速分布とならない可能性が考えられる。そこで、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10について、吹き出し気流の温度T
Sおよび室温T
Iが、T
S>T
Iの条件で改めて性能評価を行った。簡単のため、評価方法はスモークによる可視化とした。
【0090】
浮力は対象空気と周囲の空気の温度差ΔT=T
S−T
Iによって決まるため、今回
の測定ではΔTに着目し、その影響を検証した。温度は、実験室温T
I、外気温T
O
、吹き出し気流温T
S(吹き出し口135面から20mm)、捕捉面気流温(吸い込み口204面から200mm)、吸い込み気流温(吸い込み面から20mm)の5点を測定した。本明細書では、特に実験室温T
I、外気温T
O、吹き出し気流温T
Sの値を以下の装置の性能評価に利用した。
【0091】
まず、予備的な検討として、これまでと同様、第1送風ファン103で室内空気をプッシュ側に送風し、各点の温度を確認した。この際、局所排気テーブル200でも吸い込みを行った。それぞれの風量は先の条件と同様である。その結果、第1送風ファン103を通過した室内空気の温度は上昇し、1℃程度高い状態でプッシュ側(一様流吹き出しフード100)から吹き出されていることを示す結果となった。したがって、これまでの結果は、全てΔT=1℃の条件でのプッシュプル換気型局所排気装
置10による気流特性であったことが明らかとなった。
【0092】
次に、第1送風ファン103の吸い込み口を外部に開放し、室内空気導入時とほぼ同程度の約428m
3/hで、外気を一様流吹き出しフード100へ送風した。吹き出し口135直下(
図28)および吸い込み口204直上(
図29)の風速の誤差率も改めて測定し、
図28、
図29に示すとおり先の検討と同程度であることを確認した。
【0093】
第1送風ファン103の吸い込みダクトを外気に開放し、生外気を導入し始めてからの時間と、ΔTの関係を
図30に示す。なお、実験当日は外気が27.9℃程度、
室温が21.9℃程度であり、約6.0℃の差がみられた。
図30から、吹き出し口135への外気の導入により、吹き出し温度がすぐに上昇し、室内温度との差ΔTは
導入10分後には3.8℃程度で定常状態となることが確認された。
【0094】
以上のように一様流吹き出しフード100に導入することで、ΔTを時間とともに
変化させ、その間の換気区域における気流の挙動をスモークによる可視化で観察した。その様子を
図31、
図32に示す。
図31に記載した時間は、
図30中の横軸と対応している。
【0095】
これよりまず、先の条件(1.0℃差)では
図24に示した可視化実験の結果と同様にスモークを吸い込めていることが改めて確認できた。1.5℃差から局所排気テーブル200の机上面200〜400mmあたりで風速が落ち始めるものの、スモークはすべて吸い込み口204へ流れる様子が観察された。
【0096】
2.0℃差では換気区域短手方向(紙面前後)へスモークが漏れ始め、スモークの半分程度が吸い込み口204へ、もう半分が換気区域外へ漏れる様子が観察された。2.5℃差では、スモークが吸い込み口204へほとんど流れなくなり、多くが外へ漏れる挙動を示した。このとき、スモークの最下到達位置は局所排気テーブル200の机上面から300mm程度であった。3.0℃差では、最下到達位置が局所排気テーブル200の机上面から500mm程度、3.5℃差では600〜700mm程度となり、スモークがまったく吸引されない結果となった。
【0097】
以上より、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10のΔT>1℃での使
用は適切でないと判断し、以降の検討ではこれまでと同様、室内空気をファンで送風することとした。すなわち、ΔT=1℃程度の結果である。また、以上の検討結果か
ら、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10では、一様流吹き出しフード100から一次処理した外気を吹き出す際には、一次処理した外気の温度が、室温に対して1℃よりは高くならないように設定する。
【0098】
次に、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10による有機溶剤の除去性能を評価した。以下の除去性能評価では、有機溶剤としてホルムアルデヒド(HCHO)を用いた。
【0099】
本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10のHCHO除去性能を検討するため、実際に換気区域内でHCHOガスを発生させ、作業域近傍のガス濃度を測定し、プッシュプル換気型局所排気装置10の稼働時と非稼働時で比較した。
【0100】
以下、プッシュプル換気型局所排気装置10のHCHO除去性能を評価するために行った実験の概要について説明する。
【0101】
実験概要および測定点を
図33、
図34に示す。
図33はHCHO除去性能を評価するために行った実験の概要と実験の際の測定点を示す図である。
図33(A)は局所排気テーブル200の上面図であり、
図33(B)は一様流吹き出しフード100と局所排気テーブル200の側面図である。また、
図34はHCHO除去性能を評価するために行った実験の際の測定点を示す斜視図である。点(1)乃至点(20)が測定点である。
【0102】
HCHOのガスを発生させるため、10%ホルマリン溶液300mlをガラスシャーレに入れて局所排気テーブル200の吸い込み口204中央に設置した。実験時の室温が16〜18℃と低かったことから、実際の使用環境を再現するためにはガスの発生を促す必要があった。そこで,ホルマリン溶液の入ったシャーレをホットプレート上に設置し25℃まで昇温しながら実験を行った。実験中、シャーレ内のホルマリン溶液の温度は25℃で一定であった。
【0103】
測定点は実際の作業を想定し、
図33、
図34中の作業域近傍の計20点とした。点(1)〜(10)は吸い込み口204の長手方向の中心線上、点(11)〜(19)は吸い込み口204の左端上に位置する。また換気区域外へのHCHOの拡散状況についても検討すべく、作業者の後方の点(10)、換気装置周囲の測定点(20)を設け、設定した。
【0104】
測定は、各点で空気中のHCHOをDNPH(2,4−ジニトロフェニルヒドラジン)により1.0L/minの流量で30分間捕集し、その後アセトニトリル溶液に溶出させ、高速液体クロマトグラフ(LC System:日本分光)で分析し濃度を算出した。
【0105】
比較のため、装置稼働時と非稼働時で測定した。給排気の風量については先の条件と同様である。このとき、実験室自体の換気は停止状態とした。また、測定時の室内温度は稼働時で17.6℃、非稼働時で16.9℃程度であった。
図35に、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の稼働時および非稼働時に各点で測定されたHCHO濃度、および本換気装置を稼働させたことによるHCHO除去率を示す。本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10非稼働時は、最大で点(8)が4.30ppm、平均値が0.843ppmと、高濃度のHCHOが測定された。呼吸域近傍の点(7)においても0.239ppmが測定され、特化則(特定化学物質障害予防規則)に設けられた管理濃度である0.1ppmを上回った。一方、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10稼働時では、最大で点(2)が0.0332ppm、平均値が0.0166ppmと、稼働時に比べ2オーダーほど濃度が低い結果となり、管理濃度0.1ppmを大きく下回った。
作業域周囲の測定点(10)、(20)においても、非稼働時には点(10)で0.225ppm、点(20)で0.162ppmが測定され、換気区域外にもHCHOの発散が確認された。一方で稼働時には、点(10)で0.0214ppm、点(20)で0.0151ppmとなり、1オーダー以上濃度が低いことを確認した。
また各測定点におけるHCHO除去率の平均は98%以上となり、高い除去性能が確認できた。なお、室温19.3℃の条件で実験室のホルムアルデヒド濃度のブランクを測定した結果、0.009ppmとなり、本装置を稼働しなければホルムアルデヒドは確かに換気区域外に漏れ、そして本装置を稼働させることでそれが適切に除去できていることをそれぞれ確認した。
【0106】
以上より、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10を稼働させることで、換気区域内で発生したHCHOを周囲に漏らすことなく、適切に吸引・排気できることを確認し、その有効性が示された。
【0107】
次に、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の省エネ性能の評価について説明する。
【0108】
本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10の省エネ性能を検証するため、囲い式フード(比較例1)、従来プッシュプル(比較例2)、本プッシュプル(本発明)の使用を想定し、室圧を±0に保つために必要な供給外気の空調に要する加熱量・冷却量を比較検討した。室内空調に必要な循環空気量・換気に必要な外気量・ファン動力等は計算対象外とした。
図36に比較検討した3方式のフロー図を示す。
【0109】
排気装置を設置した室内は、年間冷房とし23℃設定とした。外気は循環空調機により年間を通して18℃に制御することとした。また、本発明に係るプッシュプル換気型局所排気装置10はプッシュ側供給空気として生外気の使用を特長とするが、外気が15℃を下回る際には、作業性を考慮して外調機により15℃まで加熱して吹き出すこととした。また、先の検討から室温と吹き出し温度の差ΔTが1℃よりも大き
くなると期待する性能を発揮しないことから、より安全側で考え、外気温が室温23℃を超える場合には23℃まで冷却して吹き出す想定とした。
【0110】
また、各方式の給排気口の形状は同じとし、各方式における規則に則した風速設定とした。まず、本プッシュプル(本発明)における排気・供給風量については、先の実験条件と同じとし、一様流吹き出しフード100での吹き出し432m
3/h(面風速0.30m/sec)で外気を供給、局所排気テーブル200から490m
3/h(面風速0.34m/sec)を排気とした。したがって、差し引き58m
3/hの外気を18℃に空調して室内へ供給することとした。囲い式フード(比較例1)では、排気フードの面風速を有機則の制御風速である0.4m/secとしたため、給排気量は576m
3/hである。従来プッシュプル(比較例2)では、本発明と同性能として給排気風量を490m
3/hとした。
【0111】
比較対象とした排気装置1台を東京で1年間稼働した場合を想定し、稼働時間を1日10時間、1年240日使用、したがって年間2400時間と設定した。また、東京の年間気象データを用いて、1時間ごとに外気1m
3を所定の温度に空調するのに必要な熱量を算出し、年間の熱量原単位を作成した。この原単位に風量を乗ずると熱量が算出できる。
【0112】
図37および
図38に、設定条件、算出した加熱・冷却熱量および本発明による熱量削減効果を示す。この結果から、本プッシュプル(本発明)は、囲い式フード(比較例1)に比べ冷却で61%、加熱で43%、従来プッシュプル(比較例2)に比べ冷却で55%、加熱で33%、熱量削減効果が見込めることを確認した。
【0113】
以上、本発明のプッシュプル換気型局所排気装置10は、一様流吹き出しフードから、温度調節処理を行っていない外気による一様流空気を吹き出すように構成されているので、このような本発明のプッシュプル換気型局所排気装置10によれば、主として温度調節処理を行っていない外気が排気されることとなり、エネルギー効率が向上し、省エネルギー化を図ることができる。
【0114】
また、本発明のプッシュプル換気型局所排気装置10は、一様流吹き出しフードから、一次処理した外気のみによる一様空気流を吹き出すように構成されているので、このような本発明のプッシュプル換気型局所排気装置10によれば、主として一次処理した外気が排気されることとなり、エネルギー効率が向上し、省エネルギー化を図ることができる。