(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された部分スペーサにおける樹脂成形支持体2の本体部21には、長手方向(シリンダボアの配列方向)の両端と中央に、高さ方向に延びる縦リブ22,24が設けられている。この縦リブ22,24によって、樹脂成形支持体2を冷却水流路14内に装着後、シリンダボア径方向の動きを規制することができると記載されている(同特許文献段落「0026」参照)。しかし、この縦リブ22,24は、冷却水流路14のシリンダボアとは反対側の壁面(外側内壁面)18に整合していない。したがって、特許文献1は、当該部分スペーサが前記外側内壁面18から受ける反力の均一化を図ることは意図していないと考えられる。
【0006】
一方、特許文献2は、部分スペーサを冷却水流路の外側内壁面に整合させて、外側内壁面から受ける反力の均一化を図ることを意図するものではない。また、特許文献3には、前記のように構成される保温構造体(部分スペーサ)1aのシリンダボアとは反対側面に、連結部3a及び対壁接触部4aからなる固定部材2aが設けられた例が記載されている。この対壁接触部4aは、冷却水流路14の外側内壁面18に当接するように構成されているが、保温構造体1aの冷却水流路14内への挿入時に、冷却水流路14の内壁面17,18に干渉することが考えられる。さらに、特許文献4には、前記のように部分スペーサが、前記のように構成される凹部と開口とを有することにより、冷却水流路に冷却水が流通されると、冷却水流路の外側内壁面に押し当てられることが記載されている(同特許文献段落「0011」参照)。しかし、この押し当て状態は、流通する冷却水の流れ(流量や流速等)によって変化すると考えられ、当該部分スペーサの冷却水流路の外側内壁面に対する当接状態が不安定である。したがって、当該部分スペーサが外側内壁面から受ける反力が均一となり難いと考えられる。
【0007】
本発明は、前記に鑑みなされたもので、冷却水流路内への配置時の干渉が少なく、且つ、冷却水流路に配置後に冷却水流路の外側内壁面に整合して、外側内壁面からの反力の均一化を図ることができる新規なスペーサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るスペーサは、
複数のシリンダボアを有する内燃機関の冷却水流路内に配置されて冷却水の流通量を調整するスペーサであって、前記冷却水流路内に部分的に配置されるように形成されたスペーサ本体と、前記スペーサ本体の前記シリンダボア側の側面に取付けられ、所定の外的要因が付加されたことを契機として前記冷却水流路の幅方向に膨大化する付勢手段と、を備え、前記スペーサ本体の前記シリンダボアとは反対側の側面には、前記付勢手段が前記幅方向に膨大化することによって前記冷却水流路の外側内壁面に押し付けられて当該外側内壁面に整合可能な整合面が設けられて
おり、前記スペーサ本体は、前記複数のシリンダボアのそれぞれに対応する複数の円弧部と、隣接するシリンダボア間に対応するとともに隣接する前記円弧部同士を接続する接続部とを含み、前記円弧部及び前記接続部のそれぞれにおける前記シリンダボアとは反対側の側面が、前記整合面とされていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るスペーサによれば、当該スペーサを冷却水流路に配置する際、付勢手段は膨大化する前の状態であるため、冷却水流路の内壁面に干渉する可能性は低い。そして、当該スペーサを冷却水流路内に配置後、付勢手段に外的要因が付加されて付勢手段が冷却水流路の幅方向に膨大化することによって、スペーサ本体の整合面が冷却水流路の外側内壁面に押し付けられるようになる。これにより、冷却水の流れを安定して制御する機能が発揮される。このとき、スペーサ本体の整合面が冷却水流路の外側内壁面に整合するため、スペーサ本体に作用する反力が均一化され、ひいてはスペーサ本体が変形することも抑制される。
また、スペーサ本体の円弧部及び接続部のそれぞれの整合面が冷却水流路の外側内壁面に押し付けられる。したがって、シリンダボア間に対応する箇所でも、スペーサ本体のシリンダボア側とは反対側の側面が冷却水流路の外側内壁面に整合するため、スペーサ本体に作用する反力の均一化がより効果的に図られる。
【0010】
本発明に係るスペーサにおいて
、前記スペーサ本体における前記シリンダボアの配列方向の全長が、前記シリンダボアの配列方向に沿った片側部の略全てに対応可能な長さとされ、前記スペーサ本体における前記配列方向の両端部は、当該スペーサが前記冷却水流路内に配置される時に、前記冷却水流路の外側内壁面に干渉しない形状とされているものとしてもよい。
これによれば、前記スペーサ本体が、複数のシリンダボアの配列方向に沿った片側部の略全てに対応可能な長さとされているので、当該スペーサを冷却水流路内に配置する際の位置によっては、スペーサ本体の端部が冷却水流路の外側内壁面に干渉するおそれがある。しかし、前記スペーサ本体の両端部は、冷却水流路の外側内壁面に干渉しない形状とされているため、当該スペーサは冷却水流路内に支障なくスムースに配置される。
【0011】
本発明に係るスペーサにおいて、前記スペーサ本体の前記両端部は、当該スペーサが前記冷却水流路内に配置された状態において、前記複数のシリンダボアの各中心を結ぶ仮想線に交差し、且つ、前記冷却水流路の外側内壁面から前記シリンダボア側に離間する形状とされているものとしてもよい。
これによれば、前記スペーサ本体は、冷却水流路内に部分的に配置される形状であるが、スペーサ本体は、その両端部が前記複数のシリンダボアの各中心を結ぶ仮想線に交差するよう延びているから、冷却水の流れを制御する機能をより発揮させることができるようになる。しかも、スペーサ本体の両端部が、前記仮想線に交差するも、冷却水流路の外側内壁面から前記シリンダボア側に離間するから、冷却水流路内への配置時に、スペーサ本体の両端部が冷却水流路の外側内壁面に干渉する恐れがない。
【0012】
本発明に係るスペーサにおいて、前記スペーサ本体の前記両端部は、当該スペーサが前記冷却水流路内に配置され且つ前記整合面が前記冷却水流路の外側内壁面に整合した状態において、前記複数のシリンダボアの各中心を結ぶ仮想線に交差することなく当該仮想線から離間し、当該離間距離が前記スペーサ本体における前記シリンダボア側の側面と前記冷却水流路の内側内壁面との距離以上となる形状とされているものとしてもよい。
これによれば、当該スペーサを冷却水流路内に配置する際には、スペーサ本体は冷却水流路の外側内壁面から離れた状態となるため、その分、スペーサ本体の両端部はシリンダボアの中心を結ぶ仮想線側にずれる。しかし、整合面が冷却水流路の外側内壁面に整合した状態においては、スペーサ本体の両端部が前記仮想線に交差せずに離間し、この離間距離がスペーサ本体におけるシリンダボア側の側面と冷却水流路の内側内壁面との距離以上となる。したがって、当該スペーサの冷却水流路内への配置時に、スペーサ本体の端部が冷却水流路の外側内壁面に干渉する可能性をより低減することができる。
【0015】
本発明に係るスペーサにおいて、前記スペーサ本体は、前記冷却水流路の開口部側に位置する辺部に当該開口部側に延びる突片を備え、前記突片は、前記整合面よりも前記シリンダボア側の側面寄りに設けられているものとしてもよい。
これによれば、スペーサ本体が、冷却水流路の外側内壁面に押し付けられた状態でも、突片と冷却水流路の外側内壁面との間に隙間が存在する。したがって、例えば、当該スペーサを冷却水流路から取り出す際に、治具により突片を挟んで冷却水流路から引き抜くことができる。つまり、スペーサを冷却水流路内に配置して使用後、メンテナンス等のためにスペーサを脱着する場合に、その作業性が低下することを抑制できる。
【0016】
本発明に係るスペーサにおいて、前記付勢手段は、圧縮された状態に維持され、水分と接触することによって圧縮前の状態に復元可能なセルロース系スポンジからなるものとしてもよい。
これによれば、冷却水流路内を流通する冷却水を前記所定の外的要因として、付勢手段としての圧縮された状態のセルロース系スポンジに作用し、セルロース系スポンジが圧縮前の状態に復元して、冷却水流路の幅方向へ膨大化する。セルロース系スポンジの幅方向への膨大化に伴い、スペーサ本体の整合面が冷却水流路の外側内壁面に押し付けられて整合する。復元したセルロース系スポンジは、冷却水流路内を流通する冷却水の流れに対向するように位置付けられるから、冷却水の流れを規制する規制手段として機能し、当該スペーサの水流れ制御の性能をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るスペーサによれば、冷却水流路内への配置時の干渉が少なく、且つ、冷却水流路に配置後に冷却水流路の外側内壁面に整合して、外側内壁面からの反力の均一化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態について、
図1〜
図7を参照して説明する。
図1〜
図4は、本発明に係るスペーサの第一の実施形態を示し、
図1は、同実施形態のスペーサを、内燃機関10におけるシリンダブロック1のウォータジャケット3内に挿入した状態を示している。
図1に示すシリンダブロック1は、3気筒の自動車用エンジン(内燃機関)10を構成するものであり、3個のシリンダボア(気筒)2…が隣接状態で直列に連なるように設けられている。1a…は、シリンダヘッド4をヘッドガスケット4aを介して(
図3(b)参照)シリンダブロック1に合体締結させるためのボルト(不図示)用挿通孔である。3個のシリンダボア2…の周囲には、オープンデッキタイプの溝形状のウォータジャケット(冷却水流路)3が一連に形成されている。シリンダブロック1の適所には、このウォータジャケット3に通じる冷却水(不凍液も含む)導入口と冷却水排出口とが設けられている(図示省略)。前記冷却水排出口は、不図示のラジエータに配管接続され、ラジエータのアウトレット側は、ウォータポンプ(不図示)を介して前記冷却水導入口に配管接続される。これによって、ウォータジャケット3とラジエータとの間で冷却水が循環するように構成される。なお、シリンダヘッド4にもウォータジャケット(不図示)が設けられる場合は、シリンダブロック1のウォータジャケット3と、シリンダヘッド4のウォータジャケットとが連通するよう構成される。この場合は、シリンダブロック1には、前記冷却水排出口がなくても良く、シリンダヘッド4に冷却水排出口が設けられ、これにラジエータに通じる配管が接続される。
【0020】
ウォータジャケット3は、シリンダボア2を取り囲むよう形成された円弧形状部3a…と、隣接するシリンダボア2,2間部分に互いに接近して対をなすよう形成されたくびれ形状部3b…とを有している。くびれ形状部3b…の溝幅は、ウォータジャケット3の他の円弧形状部3aの溝幅より大とされている。そして、ウォータジャケット3の両内壁面は、前記円弧形状部3a…及びくびれ形状部3bに対応するよう、シリンダボア2側の内壁面(内側内壁面)3cと、シリンダボア2とは反対側の内壁面(外側内壁面)3dとにより構成される。本実施形態のスペーサ5は、
図1及び
図2に示すように、ウォータジャケット3内に、その開口部30から挿入されてウォータジャケット3内に部分的に配置されるよう形成された(図例は、半筒状の形状)スペーサ本体6と、このスペーサ本体6のシリンダボア側の側面(内側面)60に取付けられた付勢手段7とを備えている。スペーサ本体6は、剛性を有する硬質合成樹脂の成型体からなり、シリンダボア2…のそれぞれに対応する複数の円弧部6aと、隣接するシリンダボア2,2間に対応するとともに隣接する円弧部6a,6a同士を接続する接続部6b、6bとを含む。スペーサ本体6の円弧部6aはウォータジャケット3の円弧形状部3aに対応し、スペーサ本体6の接続部6bはウォータジャケット3のくびれ形状部3bに対応する。そして、スペーサ本体6の円弧部6a…及び接続部6b…のそれぞれにおけるシリンダボア2とは反対側の側面(外側面)61には、ウォータジャケット3の外側内壁面3dに整合可能な整合面61aが設けられている。付勢手段7は、スペーサ本体6の各円弧部6a…における内側面60に、スペーサ本体6の成型時にインサート成型によって一体に取付けられている。付勢手段7の取付けは、インサート成型に限らず、接着剤等や適宜治具による固着によってもなされる。
【0021】
付勢手段7は、所定の外的要因が付加されたことを契機としてウォータジャケット3の幅方向(溝幅方向)aに膨大化する特性を有するものである。本実施形態の付勢手段7は、冷却水w(
図2及び
図3(b)参照)と接触することによって圧縮された状態から復元可能なセルロース系スポンジによって構成されている。セルロース系スポンジとは、パルプ由来のセルロースと、補強繊維として加えられた天然繊維(例えば、綿等)とからなる天然素材である。セルロースは、親水基(OH)を有しており、化学的に水分になじみ易い性質を有する。また、セルロース系スポンジは、多孔質の素材であり、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から水分に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有する。この場合、前記所定の外的要因は冷却水wであり、付勢手段7に冷却水wが接することにより、付勢手段7に外的要因が付加されたことになり、付勢手段7はウォータジャケット3の幅方向aに膨大化する。このようにセルロース系スポンジからなる付勢手段7は、圧縮方向が前記幅方向aに沿うようにスペーサ本体6に取付けられる。
【0022】
前記付勢手段7を構成する素材としては、前記セルロース系スポンジ以外に、水膨潤性シートや、水可溶性のバインダー或いは所定温度以上の温度で溶解するバインダーによって圧縮状態に維持された発泡体シート等が用いられる。これらの場合、前記所定の外的要因は、ウォータジャケット3内を流通する冷却水w、或いは、エンジンの作動によって加熱されて所定の温度以上に至った冷却水wであり、冷却水wに接することにより、各シートが膨潤し或いは圧縮前の状態に復元する。さらに、前記付勢手段7を構成するものとしては、スペーサ本体6の内側面60に取り付けられた圧縮スプリングとこれに支持された板状体からなるもの等も採用可能である。この場合、圧縮スプリングが、圧縮された状態でウォータジャケット3内に挿入された後に圧縮状態が解除(人力等による外的要因の付加)され伸長することで、付勢手段7が膨大化するよう構成される。また、付勢手段7を構成するものとしては、圧縮スプリングの代わりに、板バネを用いてもより。この場合でも、板バネが圧縮された状態でウォータジャケット3内に挿入された後に圧縮状態が解除され、付勢手段7が膨大化するよう構成される。
【0023】
本実施形態においては、スペーサ本体6は、シリンダボア2…の配列方向bの全長が、シリンダボア2…の配列方向bに沿った片側部の略全てに対応可能な長さとされている。ここに、シリンダボア2…の片側部とは、
図1及び
図2において、シリンダボア2…の各中心20…を結ぶ仮想線Lより左側に位置するシリンダボア2…の部分を指す。さらに、本実施形態におけるスペーサ本体6の前記全長は、スペーサ本体6における前記配列方向bの両端部62,62が、ウォータジャケット3内に配置された状態(
図1に示す状態)において、前記仮想線Lに交差する長さとされている。なお、スペーサ本体6の全長がシリンダボア2…の配列方向bに沿った片側の全てに対応可能な長さとは、スペーサ本体6における前記配列方向bの両端部62,62が前記仮想線Lに交差するようなスペーサ本体6の長手方向の長さに限らない。例えば、スペーサ本体6の両端部62,62が仮想線Lに交差していなくてもよい。スペーサ本体6の両端部62,62が、シリンダボア2…の配列方向bにおいて、ウォータジャケット3の内側内壁面3cよりもウォータジャケット3の外側外壁面3d側に位置していればよい。言い換えれば、スペーサ本体6の両端部62,62は、仮想線Lに直交するとともにウォータジャケット3の内側内壁面3cに接する仮想線Mよりも、シリンダボア2…の配列方向bにおいて、ウォータジャケット3の外側内壁面3d側に位置していればよい。そして、本実施形態におけるスペーサ5のスペーサ本体6は、当該スペーサ5がウォータジャケット3内に配置される時に、スペーサ本体6の両端部62,62がウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉しない形状とされている。具体的には、当該スペーサ5がウォータジャケット3内に配置された状態において、スペーサ本体6の両端部62,62がウォータジャケット3の外側内壁面3dからシリンダボア2側に離間する形状とされている。このようなスペーサ本体6の両端部62,62がウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉しない形状の原理については後記する。
【0024】
前記のように構成されたスペーサ5は、
図1及び
図3(a)に示すように、シリンダブロック1におけるウォータジャケット3の開口部30から挿入されてウォータジャケット3内に配置される。この場合、付勢手段7が膨大化前の状態、即ち、本実施形態では、セルロース系スポンジが圧縮状態に維持された状態である。したがって、スペーサ本体6及び付勢手段7がウォータジャケット3の両内壁3c,3dに干渉することが少なく、スペーサ5を、ウォータジャケット3内にスムースに挿入及び配置を行うことができる。このようにスペーサ5がウォータジャケット3内に配置された後、シリンダブロック1上に、シリンダヘッド4がヘッドガスケット4aを介して締結一体とされる。ヘッドガスケット4aは、ウォータジャケット3の開口部30を閉塞するようにシリンダブロック1とシリンダヘッド4との間に介在される。
【0025】
その後、ウォータジャケット3内に冷却水wが供給されると、付勢手段7を構成するセルロース系スポンジに冷却水wが接触し、セルロース系スポンジが圧縮前の状態に復元してウォータジャケット3の幅方向aに膨大化する。セルロース系スポンジの復元により、付勢手段7の表面(シリンダボア側の面)7aが、ウォータジャケット3の内側内壁面3cに当接する。この当接後のセルロース系スポンジの引き続く復元に伴う反力によって、
図2及び
図3(b)に示すように、スペーサ本体6の外側面61が、ウォータジャケット3の外側内壁面3dに押し付けられる。この押し付けによって、整合面61aがウォータジャケット3の外側内壁面3dの形状に沿うように整合する。これにより、ウォータジャケット3内の冷却水wの流れを安定して制御する機能が発揮される。このとき、スペーサ本体6の整合面61aがウォータジャケット3の外側内壁面3dに整合するため、スペーサ本体6に作用する反力が均一化され、ひいてはスペーサ本体6が変形することも抑制される。なお、スペーサ5をウォータジャケット3内に配置する際、スペーサ5は、
図1に示すスペーサ5とウォータジャケット3との所定の配置関係に対して、シリンダボア2…の配列方向bにずれて配置されることがある。この場合でも、本実施形態では、セルロース系スポンジが復元すると、スペーサ本体6の外側面61が外側内壁面3dに押し付けられる過程で、スペーサ5は、ウォータジャケット3の内側内壁面3cから受ける反力とウォータジャケット3の外側内壁面3dから受ける反力との釣り合いを保とうとする。そして、スペーサ5は
図2に示すような所定の配置関係となるよう移動する。したがって、スペーサ本体6の外側面61に整合面61aが設けられていることにより、スペーサ5がスペーサ5とウォータジャケット3との所定の配置関係からずれていても、付勢手段7の膨大化後にはスペーサ5が所定の位置関係に移動する。そのため、スペーサ5は所望の機能を発揮する。また、復元したセルロース系スポンジからなる付勢手段7は、ウォータジャケット3を流通する冷却水wの流れに対向するように位置付けられるから、冷却水wの流れを規制する規制手段として機能し、当該スペーサ5の水流れ制御の性能をより向上させることができる。
【0026】
また、本実施形態のスペーサ5は、スペーサ本体6の両端部62,62が、ウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉しない形状とされているので、前記ウォータジャケット3内への挿入及び配置がスムースになされる。そのため、スペーサ本体6の全長が、シリンダボア2…の配列方向bに沿った片側部の略全てに対応可能な長さとされているにも拘わらず、スペーサ5をウォータジャケット3内にスムースに挿入することができる。特に、本実施形態では、ウォータジャケット3内に配置された状態において、スペーサ本体6の両端部62,62が、複数のシリンダボア2…の各中心20…を結ぶ仮想線Lに交差するが、ウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉しない構成とされている。
【0027】
本実施形態における、スペーサ5をウォータジャケット3内に挿入及び配置する際の、スペーサ本体6の両端部62,62がウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉しない構成の原理を、
図4を参照して詳細に説明する。
図4は、スペーサ5をウォータジャケット3内に挿入及び配置し、付勢手段7の表面7a(図示省略)が内側内壁面3cに接した状態で、スペーサ本体6の端部62の外側先端角部62aが、ウォータジャケット3の外側内壁面3dに接した臨界状態を示している。
図4において、Rはウォータジャケット3における外側内壁面3dの円弧形状部の曲率半径を、Yはスペーサ本体6の端部62の仮想線Lから仮想線Lに直交する方向の突出長さを、Xは仮想線Lに沿った方向において、ウォータジャケット3の外側内壁面3dと仮想線Lとの交点を起点として外側先端角部62aまでの離間長さを、それぞれ示している。また、xは、外側先端角部62aから仮想線Lに対する垂線が直交する位置とシリンダボア中心20との距離を示している。
【0028】
上記のような長さ・距離寸法関係においては、三平方の定理により
【数1】
となる式が導き出せる。したがって、X=R−x であるから
【数2】
となるように設定すれば、スペーサ5をウォータジャケット3内に挿入及び配置する際、スペーサ本体6の両端部62,62がウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉しない構成が確立される。即ち、スペーサ5をウォータジャケット3内に配置する際に、付勢手段7の内面7aがウォータジャケット3の内側内壁面3cに接触するような状態となっても、スペーサ本体6の両端部62,62がウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉することがない。因みに、
【数3】
の場合、前記干渉が生じ易くなる。
【0029】
図5(a)(b)及び
図6は、前記実施形態の変形例を示す。
図5(a)に示すスペーサ5では、スペーサ本体6が、その上辺部(開口部側の辺部)63にウォータジャケット3の開口部30側に延びる突片64を備えている。この突片64は、スペーサ本体6の厚みより薄く、且つ、スペーサ本体6の内側面(シリンダボア側の側面)60寄りに設けられている。さらに、
図6に示すように、突片64は、スペーサ本体6における前記配列方向bの両端側の円弧部6aのそれぞれに各1個設けられている。突片64は、付勢手段7が設けられる位置に対応するスペーサ本体6の上辺部63に設けられている。また、突片64の周方向長さは、付勢手段7の周方向長さより小さくされている。
図5(a)(b)において、付勢手段7の2点鎖線部は、セルロース系スポンジが復元(膨大化)する前の圧縮された状態を示している。
【0030】
図5(a)に示す例のスペーサ5も、前記例と同様にウォータジャケット3内に配置される。そして、ウォータジャケット3内に配置された後に冷却水wが供給されると前記のように付勢手段7が膨大化し、スペーサ本体6の整合面61aがウォータジャケット3の外側内壁面3dに押し付けられる。整合面61aが外側内壁面3dに押し付けられた状態では、突片64と外側内壁面3dとの間に隙間cが存在する。したがって、例えば、当該スペーサ5をウォータジャケット3から取り出す際に、治具により突片64を挟んでウォータジャケット3から引き抜くことができる。つまり、スペーサ5をウォータジャケット3内に配置して使用後、メンテナンス等のためにスペーサ5を脱着する場合に、その作業性が低下することを抑制できる。特に、整合面61aが外側内壁面3dに押し付けられた状態では、整合面61aと外側内壁面3dとの間に隙間が生じず、前記のような治具を用いることができないので、前記突片64の存在は極めて有用である。
その他の構成は、第一の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付して、その説明を割愛する。
【0031】
図5(b)に示すスペーサ5では、
図5(a)に示す例と同様に、スペーサ本体6の上辺部63に突片64を備えるともに、スペーサ本体6の外側面61における付勢手段7の上部及び下部に対応する位置に、スペーサ本体6の周方向全長に亘る鍔状のリブ65,66が外向きに形成されている。このリブ65,66の外側面65a,66aは、前記と同様に付勢手段7が膨大化した時にウォータジャケット3の外側内壁面3dに押し付けられて整合する整合面とされる。この整合面(外側面)65a,66aがウォータジャケット3の外側内壁面3dに整合することによる効果は前記例と同様に発揮される。加えて、リブ65,66が形成されていることにより、スペーサ本体6が補強されて形状が安定化される。さらに、リブ65,66がスペーサ本体6の外側面61における付勢手段7の上部及び下部に対応する位置に設けられていることにより、付勢手段7の膨大化に伴う反力によるスペーサ本体6の変形が防止される。また、前記整合状態で、ウォータジャケット3の外側内壁面3dとスペーサ本体6の外側面61との間に隙間c1が存在し、この隙間c1により冷却水wの流路が形成される。したがって、この隙間c1の幅(リブ65,66の外向き突出幅)を適宜設定することにより、スペーサ5を要求される仕様に応じた冷却機能を有するものとすることができる。
なお、
図5(b)に示す例のリブ65,66は、スペーサ本体6の周方向全周に亘る鍔状に形成されているが、これに限らない。例えばスペーサ本体6の周方向において、リブ65,66を部分的に設けてもよい。また、
図5(a)(b)の例では、突片64は円弧部6aに対応する箇所に設けられているが、変更しても良い。例えば、突片64を、接続部6b,6bに対応する箇所に設けても良い。その他の構成は、第一の実施形態及び
図5(a)に示す例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付して、その説明を割愛する。
【0032】
図7は、本発明に係るスペーサの第二の実施形態を示す。本実施形態のスペーサ5の場合も、第一の実施形態と同様に、スペーサ本体6における両端部62,62は、当該スペーサ5がウォータジャケット3内に配置される時に、ウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉しない形状とされている。本実施形態においては、スペーサ本体6の両端部62,62は、当該スペーサ5がウォータジャケット3内に配置され且つ整合面61aがウォータジャケット3の外側内壁面3dに整合した状態において、仮想線Lに交差することなく当該仮想線Lから離間する。そして、当該両端部62,62の仮想線Lからの離間距離dがスペーサ本体6における内側面(シリンダボア側の側面)60とウォータジャケット3の内側内壁面3cとの距離e以上となる形状とされている。なお、距離eとは、スペーサ本体6の両端部62,62を結ぶ直線に対して直交する方向に沿ったスペーサ本体6の内側面60とウォータジャケット3の内側内壁面3cとの距離である。本実施形態における距離eは、仮想線Lに直交する線に沿った距離のことである。このような距離d,eの寸法関係により、当該スペーサ5がウォータジャケット3内に配置される時に、スペーサ本体6の両端部62,62がウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉しない形状が構成される。
【0033】
本実施形態のスペーサ5をウォータジャケット3内に配置する際には、スペーサ本体6はウォータジャケット3の外側内壁面3dから離れた状態となるため、その分、スペーサ本体6の両端部62,62は仮想線L側にずれる。しかし、整合面61aがウォータジャケット3の外側内壁面3dに整合した状態においては、スペーサ本体6の両端部62,62が仮想線Lに交差せずに離間し、この離間距離dがスペーサ本体6の内側面60とウォータジャケット3の内側内壁面3cとの距離e以上となる。したがって、当該スペーサ5のウォータジャケット3内への配置時に、スペーサ本体6の端部62がウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉する可能性をより低減することができる。因みに、前記距離dが距離eより小さい場合、ウォータジャケット3内への配置時に、スペーサ本体6の端部62が仮想線Lに交差して、仮想線Lより他方側(
図7では、仮想線Lより右側)に突出する場合が生じる。このように、スペーサ本体6の端部62が仮想線Lより右側に突出すると、スペーサ本体6の端部62が、ウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉して、当該スペーサ5のウォータジャケット3内に対する配置操作の円滑性が損なわれ易くなる。
なお、本実施形態においても、
図5(a)(b)に示す変形例を適用することはもとより可能である。その他の構成は、第一の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0034】
図8は、本発明に係るスペーサの第三の実施形態を示す。本実施形態のスペーサ5においては、スペーサ本体6は、シリンダボア2…の配列方向bにおける一端側に存在するシリンダボア2を取り囲む形状とされている。図例では、スペーサ本体6は、前記例のような接続部6bを有さず、仮想線Lを中心線として左右対称な略半円形の円弧部6aからなる。そして、スペーサ本体6の外側面61には、ウォータジャケット3の深さ方向に沿った3本の縦リブ67…が周方向に等間隔且つ仮想線Lを中心線として左右対称に設けられている。さらに、左右両側の縦リブ67,67は、スペーサ本体6の両端部62,62より仮想線L側に寄った位置に設けられている。即ち、両端部62,62には縦リブ67が存在せず、これにより、スペーサ本体6の周方向の両端部62,62は、当該スペーサ5がウォータジャケット3内に配置される時に、ウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉しない形状を構成する。3本の縦リブ67…の外側面67a…は、前記と同様に付勢手段7が膨大化した時にウォータジャケット3の外側内壁面3dに押し付けられて整合する整合面とされる。付勢手段7は、前記例と同様にセルロース系スポンジからなり、スペーサ本体6の内側面60に、前記3本の縦リブ67…が設けられる周方向の範囲をカバーし得るように取付けられている。
【0035】
このように構成されるスペーサ5は、前記例と同様に、付勢手段7が膨大化する前の状態(セルロース系スポンジが圧縮された状態)で、ウォータジャケット3内に開口部30から挿入されて配置される。この時、付勢手段7は膨大化する前の状態であるため、スペーサ5がウォータジャケット3の内壁面3c,3dに干渉する可能性は低い。また、スペーサ本体6が、一つのシリンダボア2を取り囲むように形成されているから、当該スペーサ5をウォータジャケット3内に配置する際の位置によっては、スペーサ本体6の周方向の両端部62,62がウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉するおそれがある。しかし、スペーサ本体6の外側面61には、ウォータジャケット3の深さ方向に沿った縦リブ67…が設けられているから、スペーサ本体6における両端部62,62の近傍の外側面61とウォータジャケット3の外側内壁面3dとの間に隙間が確保される。これにより、スペーサ本体6の両端部62,62がウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉しない形状が構成され、当該スペーサ5はウォータジャケット3内に支障なくスムースに配置される。
【0036】
そして、スペーサ5がウォータジャケット3内に配置された後、冷却水wが供給されると、付勢手段7がウォータジャケット3の幅方向aに膨大化する。この付勢手段7の膨大化によって、縦リブ67…の外側面67a…がウォータジャケット3の外側内壁面3dに押し付けられるようになる。これにより、冷却水wの流れを安定して制御する機能が発揮される。このとき、整合面としての縦リブ67…の外側面67a…がウォータジャケット3の外側内壁面3dに整合するため、スペーサ本体6に作用する反力が均一化されてスペーサ本体6が変形することも抑制される。
なお、本実施形態におけるスペーサ本体6の両端部62,62がウォータジャケット3の外側内壁面3dに干渉しない形状としては、例示したものに限定されず他の形状のものも採用可能である。また、本実施形態における縦リブ67…は、シリンダボア2を取り囲む形状に形成された
図8に示すスペーサ本体6以外に適用してもよい。例えば、縦リブ…67は、
図1及び
図2に示すような、シリンダボア2…の配列方向bの全長がシリンダボア2…の配列方向bに沿った片側部の全てに対応可能な長さに形成されたスペーサ本体6に設けてもよい。さらに、本実施形態においても、
図5(a)(b)に示す変形例を適用することはもとより可能である。
その他の構成は、第一の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0037】
なお、本発明における整合面とは、
図1から
図5(a)に示すようにスペーサ本体6の外側面61の全体がウォータジャケット3の外側内壁面3dに当接するものに限らない。スペーサ本体6が押付けられたときに、スペーサ本体6に作用する反力が均一化されるものであれば、
図5(b)や
図8に示す例のように、スペーサ本体6の外側面61の一部がウォータジャケット3の外側内壁面3dに当接するものでもよい。また、スペーサ本体6の外側面61が除肉され、その除肉部分がウォータジャケット3の外側内壁面3dに非当接となるよう構成されたものでもよい。また、本発明の付勢手段は、ウォータジャケット3の幅方向以外の方向にも膨大化するものであってもよい。
【0038】
また、セルロース系スポンジとして、種々の種類のものが挙げられるが、特に限定されない。例えば、気泡の大きさが非常に小さい微粒品、気泡の大きさが小程度の小粒品、気泡の大きさが中程度の中粒品のいずれを用いてもよい。具体的には、気泡の大きさ(径)が0.1〜5mm程度のセルロース系スポンジを用いてもよい。これらの気泡の大きさはセルロース系スポンジの作製過程で使用される結晶ぼう硝の粒度によって決定される。また、セルロース系スポンジは、セルロースと補強繊維とからなるものに限らず、セルロース単独で構成されるものであってもよい。また、セルロース系スポンジとは、セルロース自体からなるスポンジの他、圧縮状態を保持できる程度にセルロースの水酸基を残したセルロース誘導体、例えば、セルロースエ−テル類、セルロースエステル類等からなるスポンジ、或いは、これらの混合物からなるスポンジのいずれかから選ばれるものであってもよい。
【0039】
さらに、シリンダボア2…の片側部とは、シリンダボア2…の各中心20…を結ぶ仮想線Lを基準として、シリンダボア2…のどちらか一方の側のことであり、
図1及び
図2に示す例において、右側に位置するシリンダボア2…の部分も該当する。また、スペーサ本体6が合成樹脂の成型体からなる例について述べたが、金属など、付勢手段7を構成する素材より剛性を有するものであれば、他の材料からなるものであってもよい。また、スペーサ本体6に対する付勢手段7を固着させる位置(周方向の位置、ウォータジャケット3の深さ方向位置)や付勢手段7の数(周方向の数、ウォータジャケット3の深さ方向の数)は、ウォータジャケット3内におけるスペーサ5の安定性、或いは、ウォータジャケット3内を流通する冷却水wの冷却機能等、求められる仕様に応じて適宜変更してもよい。また、ウォータジャケット3内に本発明のスペーサを複数配置してもよく、配置するスペーサの数は、ウォータジャケット3内のスペースや求められる仕様に応じて適宜変更してもよい。さらにまた、本発明のスペーサが適用される内燃機関として、3気筒の内燃機関を例示したが、これに限らず他の気筒数のエンジンにも適用可能である。